(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134623
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】液体カートリッジ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B41J2/175 119
B41J2/175 153
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044905
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】大木 聡
(72)【発明者】
【氏名】林 雅洋
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EA22
2C056FA04
2C056KC02
2C056KC04
2C056KC05
2C056KC09
2C056KC10
2C056KC16
(57)【要約】
【課題】バルブの外側に溜まった液体が流出し難い液体カートリッジを提供する。
【解決手段】インクカートリッジ30は、貯留室46を有する本体31と、本体31から延びる筒部33と、筒部33の内面72と液密に接触しており、貫通孔60を有するシール部材76と、貫通孔60を開閉するバルブ77と、貫通孔85を有するキャップ79と、を備える。シール部材76とキャップ79との間に空間88がある。キャップ79は、外部と空間88とを連通する開口87を有している。開口87は、貫通孔85の軸線よりも下方に位置する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重力方向と交差する挿抜方向に沿って装着部へ着脱される液体カートリッジであって、
貯留室を有する本体と、
上記本体から延びており、内部空間が上記貯留室と連通する筒部と、
上記筒部の内部空間に位置して上記筒部の内面と液密に接触しており、上記筒部が延びる延出方向に沿った第1貫通孔を有するシール部材と、
上記筒部において上記シール部材よりも液体が流出する向きの上記貯留室側に位置しており、上記第1貫通孔を開閉するバルブと、
上記筒部において上記シール部材よりも延出端側に位置しており、上記延出方向に沿った第2貫通孔を有するキャップと、を備えており、
上記シール部材と上記キャップとの間に、上記筒部の内面、上記シール部材、および上記キャップにより区画される空間があり、
上記キャップは、外部と上記空間とを連通する開口を有しており、
上記液体カートリッジが上記装着部に装着される装着姿勢において、上記開口は、上記第2貫通孔の軸線よりも下方に位置する液体カートリッジ。
【請求項2】
上記空間は、上記装着姿勢の縦断面において、上記貯留室へ向かって先細りとなる狭小空間を有する請求項1に記載の液体カートリッジ。
【請求項3】
上記シール部材は、上記狭小空間よりも上記貯留室側において上記筒部の内面と液密に接触する請求項2に記載の液体カートリッジ。
【請求項4】
上記開口は、上記第2貫通孔の周りに複数が位置する請求項1から3のいずれかに記載の液体カートリッジ。
【請求項5】
上記キャップは、上記筒部に嵌入されている請求項1から3のいずれかに記載の液体カートリッジ。
【請求項6】
上記キャップは、上記筒部の内面において固定されている請求項5に記載の液体カートリッジ。
【請求項7】
上記キャップは、周縁から上記第2貫通孔へ向かうにつれて上記貯留室側へ凹む外面を有する請求項1から3のいずれかに記載の液体カートリッジ。
【請求項8】
上記開口は、上記第2貫通孔と不連続である請求項1から3のいずれかに記載の液体カートリッジ。
【請求項9】
上記筒部は円筒であり、
上記第2貫通孔は円孔であり、
上記筒部の軸線と、上記第2貫通孔の軸線とが一致する請求項1から3のいずれかに記載の液体カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着部へ装着される液体カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
装着部に対して装着及び脱抜可能なインクカートリッジが知られている。インクジェット記録装置では、例えば、装着部が備える中空のニードルが、インクカートリッジのインク供給口に挿入される。これにより、インクカートリッジ内のインクが、インク供給口及びニードルを介して消費部へ供給される。また、インク供給口の周囲にはゴムなどで構成されたシール部材が配置されている。シール部によって、インク供給口とニードルとの間の隙間が封止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクカートリッジが装着部へ着脱されることにより、バルブの外側のシール部材などにインクが溜まることがある。溜まったインクは、重力などによってインクカートリッジから滴下するおそれがある。
【0005】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バルブの外側に溜まった液体が流出し難い液体カートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、重力方向と交差する挿抜方向に沿って装着部へ着脱される液体カートリッジに関する。当該液体カートリッジは、貯留室を有する本体と、上記本体から延びており、内部空間が上記貯留室と連通する筒部と、上記筒部の内部空間に位置して上記筒部の内面と液密に接触しており、上記筒部が延びる延出方向に沿った第1貫通孔を有するシール部材と、上記筒部において上記シール部材よりも液体が流出する向きの上記貯留室側に位置しており、上記第1貫通孔を開閉するバルブと、上記筒部において上記シール部材よりも延出端側に位置しており、上記延出方向に沿った第2貫通孔を有するキャップと、を備える。上記シール部材と上記キャップとの間に、上記筒部の内面、上記シール部材、および上記キャップにより区画される空間がある。上記キャップは、外部と上記空間とを連通する開口を有している。上記液体カートリッジが上記装着部に装着される装着姿勢において、上記開口は、上記第2貫通孔の軸線よりも下方に位置する。
【0007】
液体カートリッジが装着部へ着脱されることにより、第1貫通孔を閉塞するバルブよりも外側において、シール部材の第1貫通孔やキャップの第2貫通孔などに液体が溜まることがある。第1貫通孔や第2貫通孔などに溜まった液体が外部へ向かって流れると、キャップの開口を通じて空間へ液体が流入する。これにより、第1貫通孔や第2貫通孔などに溜まった液体が液体カートリッジの外部へ流出することが抑制される。
【0008】
(2) 上記空間は、上記装着姿勢の縦断面において、上記貯留室へ向かって先細りとなる狭小空間を有してもよい。
【0009】
上記狭小空間において毛管力が生じて液体が保持される。これにより、キャップの開口を通じて空間に流入した液体が、開口から外部へ流出し難い。
【0010】
(3) 上記シール部材は、上記狭小空間よりも上記貯留室側において上記筒部の内面と液密に接触してもよい。
【0011】
(4) 上記開口は、上記第2貫通孔の周りに複数が位置してもよい。
【0012】
複数の開口を通じて空間へ液体が流入する。複数の開口のいずれかが第2貫通孔の軸線よりも下方に位置しやすいので、筒部へのキャップの組付けが容易である。
【0013】
(5) 上記キャップは、上記筒部に嵌入されてもよい。
【0014】
筒部の外面が外部へ露出されるので、筒部の外面が装着部のニードルなどとの位置合わせに利用できる。
【0015】
(6) 上記キャップは、上記筒部の内面において固定されていてもよい。
【0016】
液体カートリッジが小型化される。その結果、装着部を有する装置も小型化される。
【0017】
(7) 上記キャップは、周縁から上記第2貫通孔へ向かうにつれて上記貯留室側へ凹む外面を有してもよい。
【0018】
液体カートリッジが装着部へ装着される過程において、装着部のニードルなどの先端が外面によって第2貫通孔へ案内される。
【0019】
(8) 上記開口は、上記第2貫通孔と不連続であってもよい。
【0020】
開口によるキャップの強度の低下が抑制される。
【0021】
(9) 上記筒部は円筒であり、上記第2貫通孔は円孔であり、上記筒部の軸線と、上記第2貫通孔の軸線とが一致してもよい。
【0022】
第2貫通孔の軸線が筒部によって位置決めされるので、第2貫通孔の位置精度がよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、バルブの外側に溜まった液体が液体カートリッジから流出し難い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、プリンタ10の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、インクカートリッジ30の外観斜視図である。
【
図3】
図3は、インクカートリッジ30の縦断面図である。
【
図5】
図5(A)は、シール部材76を後方から視た斜視図であり、
図5(B)は、シール部材76を前方から視た斜視図である。
【
図6】
図6(A)は、キャップ79を前方から視た斜視図であり、
図6(B)は、キャップ79を後方から視た斜視図である。
【
図7】
図7は、インクニードル102が筒部33の内部空間に進入した状態の縦断面図である。
【
図8】
図8は、インクが外部へ流出した状態を示す筒部33の縦断面図である。
【
図9】
図9は、筒部33の外側にキャップ91が嵌め込まれたインクカートリッジ30を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明が具体化された一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0026】
以下では、インクカートリッジ30は、カートリッジ装着部110に対して水平方向(重力方向に対し直交する方向)に挿入及び脱抜される。したがって、前後方向8及び左右方向9は水平方向である前提として説明がなされるが、必ずしも前後方向8は水平方向でなくてもよい。また、前後方向8に直交する重力方向が上下方向7と定義される。上下方向7及び前後方向8と直交する方向が左右方向9と定義される。なお、インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110に装着されて使用される状態とは、インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110の装着位置まで挿入された状態である。装着位置は、カートリッジ装着部110に設けられたインクニードル102がインクカートリッジ30に設けられたインク供給部34に挿入されて互いに連結される位置である。また、以下では、インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110に装着されて使用される状態の、当該インクカートリッジ30の姿勢を装着姿勢と称する。
【0027】
また、以下の説明では、前方は、前後方向8においてインクカートリッジ30がカートリッジ装着部110に対して挿入される向きをいい、後方は、前後方向8においてインクカートリッジ30がカートリッジ装着部110に対して脱抜される向きをいう。したがって、前後方向8が挿抜方向の一例である。「前方を向く」とは、前方の成分を含む方向を向くことを含み、「後方を向く」とは、後方の成分を含む方向を向くことを含む。また、「下方を向く」とは、下方の成分を含む方向を向くことを含み、「上方を向く」とは、上方の成分を含む方向を向くことを含む。例えば、「前面が前方を向く」とは、前面が前方を向いていてもよいし、前面が前方に対して傾斜した方向を向いていてもよい。
【0028】
[プリンタ10の概要]
図1に示されるように、プリンタ10は、インクジェット記録方式に基づいて、用紙に対してインク滴を吐出することにより画像を記録する画像形成装置であり、例えばインクジェットプリンタである。プリンタ10は、カートリッジ装着部110を備える。カートリッジ装着部110には、インクカートリッジ30(液体カートリッジの一例)が装着される。カートリッジ装着部110には、その一面に開口112が形成されている。インクカートリッジ30は、開口112を通じてカートリッジ装着部110に前方へ挿入され、或いは開口112を通じてカートリッジ装着部110から後方へ抜き出される。なお、
図1においては、カートリッジ装着部110へのインクカートリッジ30の装着が完了した状態が示されている。つまり、
図1において、インクカートリッジ30は装着状態である。この状態にあるインクカートリッジ30の姿勢が、装着姿勢である。
【0029】
インクカートリッジ30は、液体を貯留しており、例えばプリンタ10で使用可能なインク(液体の一例)を貯留する。カートリッジ装着部110へのインクカートリッジ30の装着が完了した状態において、インクカートリッジ30と記録ヘッド21とは、インクチューブ20を介して接続されている。記録ヘッド21は、インクカートリッジ30から供給されたインクを複数のノズル29から吐出する。具体的には、記録ヘッド21が備えるヘッド制御基板が、複数のノズル29に対応して設けられた複数のピエゾ素子に選択的に駆動電圧を印加する。これにより、ノズル29から選択的にインクが吐出される。つまり、記録ヘッド21は、カートリッジ装着部110に装着されたインクカートリッジ30に貯留されたインクを消費する。
【0030】
プリンタ10は、給送トレイ15と、給送ローラ23と、搬送ローラ対25と、プラテン26と、排出ローラ対27と、排出トレイ16と、を備えている。給送ローラ23は、給送トレイ15上の用紙を搬送路24へ向けて給送する。搬送路24へ給送された用紙は、搬送ローラ対25に到達する。搬送ローラ対25は、搬送ローラ対25に到達した用紙をプラテン26上へ搬送する。記録ヘッド21は、プラテン26上を通過する用紙に対してインクを選択的に吐出する。これにより、用紙に画像が記録される。プラテン26を通過した用紙は、排出ローラ対27に到達する。排出ローラ対27は、排出ローラ対27に到達した用紙を、搬送路24の最下流側に位置する排出トレイ16に排出する。
【0031】
[カートリッジ装着部110]
図1に示されるように、カートリッジ装着部110は、カートリッジケース101と、インクニードル102と、を備えている。カートリッジ装着部110には、インクカートリッジ30が収容可能である。
【0032】
図1に示されるように、カートリッジケース101は、カートリッジ装着部110の筐体を形成する箱形状である。開口112は、ユーザがプリンタ10を使用するときに対面する面であるプリンタ10のユーザインタフェース面に露出し得る。
【0033】
インクニードル102は、中空の管状となっており、カートリッジケース101の終面103の下部に位置している。インクニードル102は、カートリッジケース101の終面103において、カートリッジ装着部110に装着されたインクカートリッジ30の貫通孔60に対応する位置にある。インクニードル102は、カートリッジケース101の終面103から前後方向8に沿って突出しており、その先端が後方へ向けて開口している。
【0034】
図7に示されるように、インクニードル102の内部空間には、バルブ104と、コイルバネ105と、シール部材106と、が位置する。シール部材106は、インクニードル102の先端の開口107付近に位置する。シール部材106は、概ね円筒形状であり、例えば、ゴムやエラストマのような弾性材料から形成されている。シール部材106の中心には、貫通孔108が位置する。
【0035】
バルブ104は、その先端がシール部材106の貫通孔108に挿通されている。バルブ104は、封止部109を有する。封止部109は、概ね円盤形状である。封止部109がシール部材106に当接することにより、貫通孔108が封止される。コイルバネ105は、バルブ104を貫通孔108を封止する向きへ付勢している。コイルバネ105に付勢されたバルブ104の先端は、インクニードル102の先端よりも突出する。この状態において、封止部109がシール部材106に当接する。
図7に示されるように、バルブ104に内バルブ51が当接することにより、バルブ104がコイルバネ105の付勢力に抗して移動して、封止部109がシール部材106から離間する。これにより、シール部材106の貫通孔108をインクが流通可能となる。
【0036】
[インクカートリッジ30]
インクカートリッジ30は液体であるインクが貯留される容器である。
図2に示されるように、インクカートリッジ30は、本体31と、カバー32と、筒部33と、を有する。
【0037】
図2に示されるように、本体31は、左右方向9の寸法が、上下方向7の寸法および前後方向8の寸法よりも小さい薄平な立方体形状である。
【0038】
カバー32は、本体31より小さな立方体形状であり、後方へ向く開口を有する箱形状である。カバー32は、本体31の前壁40において、筒部33よりも上側の部分を概ね覆うように本体31に取り付けられている。
【0039】
本体31は、前壁40と、前後方向8において前壁40と対をなす後壁41と、前壁40と後壁41とを繋ぐ左壁42と、左右方向9において左壁42と対をなす右壁43と、前壁40と後壁41とを繋ぐ上壁44と、を有する。本体31の下方には、前壁40よりも前方へ突出する筒部33が位置する。
【0040】
前壁40の外面は前方を向いている。後壁41の外面は後方を向いている。左壁42の外面は左方を向いている。右壁43の外面は右方を向いている。上壁44の外面は上方を向いている。
【0041】
図3に示されるように、前壁40、後壁41、左壁42、右壁43、および上壁445は、本体31の内部空間の貯留室46を区画する。貯留室46は、前壁40と後壁41との間に位置する。前壁40、後壁41、左壁42、右壁43、および上壁44は、貯留室46に貯留されたインクの液面を外部から視認できる程度の透光性を有する。本体31は、例えば合成樹脂の成型品である。
【0042】
上壁44には、貯留室46の上端付近と外部とを繋ぐ大気開放路49が形成されている。大気開放路49を通じて外部と貯留室46との間で空気が流通可能である。大気開放路49によって、貯留室46の気体層が外部の大気圧となる。大気開放路49の上壁44の外面における開口は上方を向いている。なお、大気開放路49は、バルブや半透膜などによって塞がれていてもよい。
【0043】
図2および
図3に示されるように、筒部33は、本体31の下方に位置する。筒部33は、前後方向8(延出方向の一例)に沿った軸線の円筒形状である。筒部33の左右方向9に沿った寸法、すなわち外径は、本体31の左右方向9に沿った寸法よりも若干大きい。筒部33の前端部分は、本体31の前壁40から前向きへ延出している。筒部33の内部空間は、インク流路47である。インク流路47は、貯留室46と隔壁45により区画されている。隔壁45の後端付近に連通孔48が形成されている。インク流路47は連通孔48を通じて貯留室46と連通している。貯留室46に貯留されているインクは連通孔48を通じてインク流路47へ流出する。筒部33は、本体31と一体に成型されてもよい。となお、
図3においては、筒部33の先端近傍の詳細な内部構造が省略されている。
【0044】
図4に示されるように、筒部33の内部空間には、シール部材76と、バルブ77と、コイルバネ78と、キャップ79と、が位置する。
【0045】
筒部33の内部空間には、バネ座となる壁70が筒部33の径方向へ拡がっている。壁70には、前後方向8に沿った貫通孔71が位置する。貫通孔71にはインクが流通する。筒部33の前端(延出端の一例)は外部に開口している。
【0046】
筒部33の内部空間の前端付近と壁70付近とは内径が異なっている。筒部33の前端付近の内面72における内径は、筒部33の壁70付近の内面73における内径よりも大きい。内面72と内面73との間には段差面74が位置する。段差面74は、前方を向いている。
【0047】
シール部材76は、筒部33の前端付近の内部空間に位置する。シール部材76は、中央に貫通孔60(第1貫通孔の一例)が形成された円盤形状の部材である。シール部材76は、例えば、ゴムやエラストマのような弾性材料から形成されている。
【0048】
図5に示されるように、シール部材76の外周面61には、径方向外向きへ突出する2つの凸条62が前後方向8に離れて位置する。各凸条62は、周方向へ連続している。
図4に示されるように、各凸条62が筒部33の内面72に圧接することにより、凸条62において液密なシールが形成される。
【0049】
図5に示されるように、シール部材76の後面63には、後方へ突出する円筒部64が位置する。円筒部64の外径は、外周面61の外径よりも小さい。円筒部64の後端は肉厚が薄くなるように先細りの形状である。後面63は、筒部33の段差面74に当接する。これにより、シール部材76が後向きに対して位置決めされる。
【0050】
図5に示されるように、シール部材76の内面65には、径方向内向きへ拡がる内壁66が位置する。内壁66は、概ね円盤形状である。内壁66の中心に円孔である貫通孔60が位置する。貫通孔60の軸線は、シール部材76の軸線と合致する。貫通孔60の内径は、インクニードル102の外径より若干小さい。
【0051】
図5に示されるように、シール部材76の前面67の法線は、前向きかつ径方向外向きである。つまり、前面67は、前方へ向かうにつれて径方向内側へ向かっており、概ね前方を向く面である。
【0052】
図4に示されるように、筒部33の内部空間であって内面73の内側には、バルブ77が位置する。バルブ77は、シール部材76よりも後方に位置する。筒部33の内部空間においてインクが前向きへ流出するので、バルブ77は、シール部材76よりもインクが流出する向きの貯留室46側に位置する。
【0053】
バルブ77は、内外の二重バルブであり、内バルブ51と、外バルブ52と、コイルバネ53とを有する。内バルブ51と外バルブ52とは入れ子構造であり、内バルブ51は、外バルブ52に案内されて前後方向8へ移動可能である。内バルブ51は、外バルブ52の内部空間に位置するコイルバネ53によって、外バルブ52に対して相対的に前向きへ付勢されている。内バルブ51の前端は、シール部材76の内壁66に当接して貫通孔60を閉塞する。外バルブ52は、筒部33の内面73に当接しつつ前後方向8へ移動可能である。外バルブ52は、シール部材76の円筒部64の後端に当接して液密にシールを形成する。
【0054】
筒部33の内部空間であって、バルブ77の後方にはコイルバネ78が位置する。コイルバネ78の後端は、壁70に当接している。コイルバネ78の前端は外バルブ52に当接している。コイルバネ78のバネ定数は、コイルバネ53のバネ定数よりも大きい。コイルバネ78は、外バルブ52を前向きに付勢する。
【0055】
図4に示されるように、筒部33の内部空間であって、シール部材76よりも筒部33の前端側にキャップ79が位置する。キャップ79は概ね円盤形状である。キャップ79は、筒部33の前端に嵌入されている。
図6に示されるように、キャップ79は、径方向外側に位置する外周部80と、径方向内側に位置する内周部81と、外周部80と内周部81とを繋ぐ接続部82と、を有する。
【0056】
外周部80は、概ね平板の円盤形状である。外周部80の外径は、筒部33の外径と同等である。
図4に示されるように、キャップ79が筒部33の先端に嵌入された状態において、外周部80は、筒部33の外周面75より外向きへ突出しない。
【0057】
図6に示されるように、外周部80の後面83には、後向きへ突出する円筒部84が位置する。円筒部84の外径は、外周部80の外径よりも小さい。円筒部84の外径は、筒部33の内面72の内径と同等である。
図4に示されるように、キャップ79が筒部33の先端に嵌入された状態において、後面83は、筒部33の先端に当接している。円筒部84は、筒部33の内面72と当接している。円筒部84が筒部33の内面に接着剤により接着されることにより、キャップ79が筒部33に固定されている。
【0058】
図6に示されるように、内周部81は、概ね円筒形状である。内周部81は、外周部80よりも後方に位置する。内周部81の外径は、外周部80の内径よりも小さい。内周部81の中心には、前後方向8に沿った円孔である貫通孔85(第2貫通孔の一例)が位置する。貫通孔85の軸線は、外周部80の軸線と合致する。貫通孔85の内径は、シール部材76の貫通孔60の内径よりも大きい。貫通孔85の内径は、インクニードル102の外径よりも大きい。
図4に示されるように、キャップ79が筒部33の先端に嵌入された状態において、貫通孔85の軸線は、筒部33の軸線と合致する。内周部81は、シール部材76の内側に嵌まり込んで、内壁66と当接する。
【0059】
図6に示されるように、内周部81の後端部分には、周方向に等間隔に並ぶ切り欠き86が位置する。各切り欠き86は同形状であって、内周部81の後端から前方へ延びている。本実施形態では、8個の切り欠き86が位置する。なお、
図6において、一部の切り欠き86の参照符号が省略されている。
【0060】
接続部82は、外周部80の内側部と内周部81の前端部とを繋ぐ漏斗形状の壁である。接続部82は、外周部80の内側部から後方かつ径方向内向きへ延びて内周部81の前端部と接続している。接続部82の前面86(外面の一例)は、外周部80から内周部81の貫通孔85へ向けて、すなわち後向きへ凹んでいる。接続部82は、貫通孔85よりも内向きへ突出していない。
【0061】
接続部82の後端部分には、周方向に等間隔に並ぶ開口87が位置する。各開口87は同形状であって、接続部82の後端から前方へ延びている。本実施形態では、8個の開口87が、貫通孔85周りに位置する。各開口87の後端は、内周部81により区画されている。各開口87は、貫通孔85とは連続していない。各開口87のうちの一部は、装着姿勢において、貫通孔85の軸線よりも下方に位置する。
図4に示されるように、キャップ79が筒部33の先端に嵌入された状態において、各開口87は、筒部33の外部と内部空間とを連通する。なお、
図6において、一部の開口87の参照符号が省略されている。
【0062】
図4に示されるように、筒部33の内部空間において、キャップ79の円筒部84とシール部材76とは前後方向8に離間している。シール部材76の前面67の前側部分は、キャップ79の接続部82に当接している。キャップ79の円筒部84および接続部82と、シール部材76の前面67と、筒部33の内面72と、は、空間88を区画する。シール部材76の凸条62は、空間88よりも後方、つまり空間88よりもインクが流出する向きの貯留室46側に位置する。
【0063】
空間88は、筒部33の内面72に沿って周方向に連続する。空間88は、各開口87を通じて、筒部33の外部と連通している。
図4に示される縦断面において、空間88は、後方へ向かって、つまりインクが流出する向きの貯留室46側に向かって先細りとなる狭小空間89を有する。狭小空間89は、筒部33の内面72とシール部材76の前面67とによって区画されている。
【0064】
[インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110へ装着される動作]
以下、インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110に装着される過程が説明される。
【0065】
図4に示されるように、カートリッジ装着部110に装着される前のインクカートリッジ30において、内バルブ51は、貫通孔60を閉じている。これにより、筒部33の内部空間であるインク流路47からインクカートリッジ30の外部へのインクの流通は遮断されている。なお、大気連通口96を閉じられていても開けられていてもよい。
【0066】
インクカートリッジ30は、本体31の前壁40が前方を向いており、且つ上壁44が上方を向いた姿勢で、カートリッジ装着部110のカートリッジケース101へ挿入される。これにより、インクニードル102が貫通孔60へ進入する。インクカートリッジ30の筒部33の外周面75が露出されているので、カートリッジケース101の内部空間の底面が、筒部33の外周面75に沿った形状にされることにより、筒部33の外周面75がインクカートリッジ30の下端位置を規制しつつ前後方向8に移動可能に案内するガイドとして機能する。
【0067】
図7に示されるように、インクニードル102は、キャップ79の貫通孔85に進入する。このとき、仮に、インクニードル102と貫通孔85との軸線とがずれていると、インクニードル102の先端がキャップ79の接続部82の前面86に当接することがある。接続部82の前面86は、貫通孔85へ向かって凹んでいるので、インクニードル102の先端は、接続部82の前面86に案内されて貫通孔85へ向かう。
【0068】
キャップ79の貫通孔85に進入したインクニードル102は、インクカートリッジ30がカートリッジケース101に挿入されるに伴って、シール部材76の貫通孔60へ進入する。インクニードル102は、シール部材76の内壁66を弾性変形しつつ、その外周面が貫通孔60を画定する内壁66の内面に液密に接触する。
【0069】
インクニードル102の先端は、シール部材76の貫通孔60に到達するとき、バルブ104の先端が内バルブ51に当接する。コイルバネ105の付勢力は、コイルバネ53の付勢力よりも大きい。したがって、さらにインクカートリッジ30がカートリッジケース101へ挿入されることにより、バルブ104が内バルブ51をコイルバネ53の付勢力に抗して後方へ移動させてシール部材76から離間させる。これにより、インクニードル102の先端が貫通孔60を通過する。
【0070】
コイルバネ105の付勢力は、コイルバネ78の付勢力よりも小さい。したがって、さらにインクカートリッジ30がカートリッジケース101へ挿入されると、バルブ104がコイルバネ105の付勢力に抗して移動して、封止部109がシール部材106から離れる。これにより、インクニードル102の先端が内バルブ51に当接する。
【0071】
さらにインクカートリッジ30がカートリッジケース101へ挿入されると、インクニードル102が、コイルバネ78の付勢力に抗して内バルブ51および外バルブ52を後方へ移動させてシール部材76から離間させる。これにより、貯留室46に貯留されているインクが、インク流路47およびインクニードル102の内部空間へ流通することが可能となる。
【0072】
なお、大気連通口96は、インクカートリッジ30がカートリッジケース101に装着されるまでに開放されていればよい。大気連通口96は、ユーザによる操作によって開放されてもよいし、ロッドなどが進入することにより開放されてもよい。また、詳細は図示されていないが、カートリッジケース101に挿入されたインクカートリッジ30は、コイルバネ53,78の付勢力に抗して装着位置に維持されるように、カートリッジケース101に対して後向きの移動がロックされてもよい。
【0073】
インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110から脱抜される過程は、前述された挿入される過程の逆である。インクニードル102が、シール部材76の貫通孔60から引き抜かれると、コイルバネ78に付勢されている外バルブ52がシール部材76と当接する。また、コイルバネ53に付勢されている内バルブ51が、シール部材76の貫通孔60を塞ぐ。これにより、インク流路47から貫通孔60を通じてインクが流出しない。
【0074】
しかしながら、内バルブ51によってシール部材76の貫通孔60が塞がれても、貫通孔60にインクが溜まって残ることがあり得る。また、インクニードル102の外周面に付着したインクが、引き抜かれたインクニードル102と共に移動してキャップ79の貫通孔85に溜まることもある。また、インクニードル102の先端であってシール部材106より外側に残ったインクが、インクニードル102の先端からキャップ79へ滴下することも生じ得る。
【0075】
キャップ79の貫通孔85から外部へ流出したインク90や、キャップ79へ滴下したインク90は、例えば、
図8に示されるように、貫通孔85より下方の接続部82の前面86に付着する。そして、
図8において矢印で示されるように、インク90は、前面86から開口87を通じて空間88へ移動する。さらに狭小空間89へ移動したインク90は、狭小空間89において毛管力が生じてインク90が保持される。
【0076】
[実施形態の作用効果]
インクカートリッジ30がカートリッジ装着部110へ着脱されることにより、貫通孔60,85などに溜まったインク90がキャップ79の外部へ流出しても、キャップ79の開口87を通じて空間88へインク90が移動する。これにより、インク90がインクカートリッジ30の外部へ流出することが抑制される。
【0077】
また、狭小空間89において毛管力が生じてインク90が保持されるので、キャップ79の開口87を通じて空間88に流入したインク90が、開口87から外部へ流出し難い。
【0078】
また、複数の開口87が貫通孔85の周りに位置するので、複数の開口87を通じて空間88へインク90が流入する。また、複数の開口87のいずれかが貫通孔85の軸線よりも下方に位置しやすいので、筒部33へのキャップ79の組付けにおいてキャップ79の姿勢などを考慮する必要がなく、組付けが容易である。
【0079】
また、キャップ79が筒部33に嵌入されているので、筒部33の外周面75が外部へ露出される。その結果、筒部33の外周面75がインクニードル102と貫通孔60,85などとの位置合わせに利用できる。
【0080】
また、キャップ79は、筒部33の内面72に接着されている。例えば、
図9に示されるように、キャップ79と同様のキャップ91が筒部33の外周面75の外側に嵌め込まれる構成であれば、キャップ91が筒部33の外周面75よりも外向きに突出する。しかし、キャップ79は、筒部33の外周面75より外向きに突出しないので、インクカートリッジ30が小型化され、ひいては、カートリッジ装着部110を有するプリンタ10も小型化される。
【0081】
また、キャップ79の接続部82の前面86は、周縁から貫通孔85へ向かうにつれて後方へ凹んでいるので、インクカートリッジ30カートリッジ装着部110へ装着される過程において、インクニードル102の先端が前面86によって貫通孔85へ案内される。
【0082】
また、開口87は、貫通孔85と不連続なので、キャップ79に開口87が形成されることによるキャップ79の強度の低下が抑制される。
【0083】
また、貫通孔85の軸線が筒部33によって位置決めされるので、貫通孔85の位置精度がよい。
【0084】
[変形例]
前述された実施形態では、空間88が狭小空間89を有していたが、空間88は狭小空間89を有していなくてもよい。また、空間88は、周方向に連続していなくてもよい。
【0085】
また、キャップ79は、複数の開口87を有していたが、開口87は1つであってもよい。その場合、1つの開口87は、貫通孔85の軸線より下方に位置することが好ましい。また、キャップ79が複数の開口87を有する場合であっても、開口87の配置は周方向において均等である必要はない。
【0086】
また、キャップ79が筒部33の内面72に固定される態様は接着剤による接着に限定されない。例えば、溶着や係合などによって、キャップ79が筒部33の内面72に固定されてもよい。
【0087】
また、キャップ79が、筒部33の前端や外周面75において固定されてもよい。また、キャップ79の接続部82の前面86は後方へ凹んでいなくてもよい。また、開口87と貫通孔85とが連続した空間として形成されてもよい。
【0088】
また、バルブ77は、内バルブ51と外バルブ52との入れ子構造であったが、これに限らない。バルブ77は、一体の1個のバルブであってもよい。
【0089】
上記実施形態では、インクが液体の一例として説明されているが、例えば、インクに代えて、印刷時にインクに先立って用紙などに吐出される前処理液が液体カートリッジに貯留されていてもよい。また、記録ヘッド21を洗浄するための水が液体カートリッジに貯留されていてもよい。
【符号の説明】
【0090】
30・・・インクカートリッジ(液体カートリッジ)
31・・・本体
33・・・筒部
46・・・貯留室
60・・・貫通孔(第1貫通孔)
76・・・シール部材
77・・・バルブ
79・・・キャップ
85・・・貫通孔(第2貫通孔)
86・・・前面(外面)
87・・・開口
88・・・空間
89・・・狭小空間
110・・・カートリッジ装着部(装着部)