(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134626
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B61F 9/00 20060101AFI20240927BHJP
B61F 5/10 20060101ALI20240927BHJP
B61D 37/00 20060101ALI20240927BHJP
B61F 5/24 20060101ALI20240927BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B61F9/00
B61F5/10 C
B61D37/00 G
B61F5/24 Z
F16F15/023 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044911
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 智彦
(72)【発明者】
【氏名】根来 尚志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AB11
3J048BE02
3J048DA01
3J048EA36
(57)【要約】
【課題】車体が外的要因によって固定されているのを検知することのできる、鉄道車両の異常検知装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両(10)の異常検知装置(50)は、高さ調整装置(30a,30b)と、制御装置(40)と、を備える。高さ調整装置(30a,30b)は、空気ばね(22a,22b)に対応して配置される。高さ調整装置(30a,30b)は、回転軸と、回転角度センサと、を含む。回転角度センサは、回転軸の回転角を検出する。制御装置(40)は、回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばね(22a,22b)の高さを算出する処理を実行する。鉄道車両(10)の停止中、空気ばね(22a,22b)の高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、制御装置(40)は、車体(11)が外的要因によって固定されていると判断する処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車と、車体と、前記台車と前記車体との間に配置された空気ばねと、を備える鉄道車両の異常検知装置であって、
前記空気ばねに対応して配置された高さ調整装置であって、回転軸と、前記回転軸の一端に前記台車と前記車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、前記回転軸の半径方向に延びるレバーと、前記回転軸の他端に取り付けられ、前記回転軸の回転角を検出する回転角度センサと、を含む、前記高さ調整装置と、
表示部を含む制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記回転角度センサで検出した前記回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した前記回転軸の回転角の情報から前記空気ばねの高さを算出する処理を実行し、
前記鉄道車両の停止中、前記空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、前記制御装置は、前記車体が外的要因によって固定されていると判断する処理を実行する、異常検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検知装置であって、
前記制御装置は、前記空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された状態から低下した場合、前記空気ばねが最小高さを有するパンク状態であると判断する、異常検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の異常検知装置であって、
前記制御装置は、前記空気ばねがパンク状態であると判断した場合、前記空気ばねが所定の高さになるまでの間、前記表示部に前記空気ばねがパンク状態であることを表示する、異常検知装置。
【請求項4】
台車と、車体と、前記台車と前記車体との間に配置された空気ばねと、前記空気ばねに対応して配置された高さ調整装置と、表示部を含む制御装置と、を備えた鉄道車両の異常検知方法であって、
算出工程と、第1検知工程とを備え、
前記高さ調整装置は、回転軸と、前記回転軸の一端に前記台車と前記車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、前記回転軸の半径方向に延びるレバーと、前記回転軸の他端に取り付けられ、前記回転軸の回転角を検出する回転角度センサと、を含み、
前記算出工程では、前記制御装置が前記回転角度センサで検出した前記回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した前記回転軸の回転角の情報から前記空気ばねの高さを算出し、
前記第1検知工程では、前記鉄道車両の停止中、前記空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、前記制御装置が、前記車体が外的要因によって固定されていると判断する、異常検知方法。
【請求項5】
請求項4に記載の異常検知方法であって、
前記第1検知工程後、前記空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された状態から低下した場合、前記制御装置が、前記空気ばねが最小高さを有するパンク状態であると判断する第2検知工程をさらに備える、異常検知方法。
【請求項6】
請求項5に記載の異常検知方法であって、
前記第2検知工程において、前記制御装置は、前記空気ばねがパンク状態であると判断した場合、前記空気ばねが所定の高さになるまでの間、前記表示部に前記空気ばねがパンク状態であることを表示する、異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の異常検知装置に関する。また、本開示は、鉄道車両の異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車上に支持された車体とを備える。通常、鉄道車両の台車には、車体を支持するとともに車体の振動を緩和するため、左右にそれぞれ空気ばねが設けられている。空気ばねは、車体と台車の間に配置されている。空気ばねの高さは、高さ調整装置により、一定となるように制御されている。
【0003】
高さ調整装置は、左右の空気ばねに対応して、台車の左右にそれぞれ配置される。高さ調整装置は、高さ調整弁を備える。高さ調整弁は、空気ばねの上下方向の変位に応じて、空気ばねに圧縮空気を供給し、あるいは空気ばね内の圧縮空気を排出させる。具体的には、空気ばねが中立位置よりも下降した場合、高さ調整弁は空気ばねに圧縮空気を供給し、空気ばねの高さを中立位置に戻そうとする。また、空気ばねが中立位置よりも上昇した場合、高さ調整弁は、空気ばね内の圧縮空気を排出し、空気ばねの高さを中立位置に戻そうとする。このように、高さ調整弁によって空気ばねの高さが一定になるように制御され、鉄道車両は安全に走行することができる。
【0004】
高さ調整弁が故障すると、空気ばね内の圧縮空気の給排気が正常に行われず、空気ばねがパンク状態になる場合がある。パンク状態とは、空気ばね内の圧縮空気が排気されて空気ばねが空になり、空気ばねが最小高さを有する状態である。空気ばねがパンク状態な場合、鉄道車両の走行が不安定になる。
【0005】
空気ばねのパンクを検知する方法として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1では、車体に上下振動加速度センサが搭載される。走行中、この上下振動加速度センサによって上下振動加速度のピーク周波数を監視することにより、空気ばねのパンクが検知できる、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した通り、空気ばねの高さは、高さ調整弁によって一定になるように制御される。しかしながら、鉄道車両の停止中、何らかの外的要因によって車体が固定され、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持される場合がある。この場合、車体が固定されているにもかかわらず、高さ調整弁は空気ばねの高さを中立位置に戻そうとする。そのため、空気ばねが空になるまで空気ばね内の圧縮空気が排出され続ける。その後、外的要因が取り除かれると、空気ばねは空になっているため、車体が降下し、空気ばねは中立位置を越えてパンク状態となる。
【0008】
特許文献1に記載の検知方法では、空気ばねのパンクは検知できるものの、空気ばねがパンク状態となった要因を突き止めることはできない。また、鉄道車両の停止中に外的要因によって車体が固定された場合、外的要因が取り除かれるまではパンク状態にならない。そのため、空気ばねのパンクのみを検知できたとしても、外的要因によって車体が固定されていることには気付かない場合がある。この場合、空気ばねが空になった状態で鉄道車両の走行を開始してしまう恐れがある。したがって、鉄道車両において、車体が外的要因によって固定されているのを検知することが求められる。
【0009】
本開示の目的は、車体が外的要因によって固定されているのを検知することのできる、鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る鉄道車両の異常検知装置は、高さ調整装置と、表示部を含む制御装置と、を備える。鉄道車両は、台車と、車体と、台車と車体との間に配置された空気ばねと、を備える。高さ調整装置は、空気ばねに対応して配置される。高さ調整装置は、回転軸と、レバーと、回転角度センサと、を含む。レバーは、回転軸の一端に台車と車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、回転軸の半径方向に延びる。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。制御装置は、回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばねの高さを算出する処理を実行する。鉄道車両の停止中、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、制御装置は、車体が外的要因によって固定されていると判断する処理を実行する。
【0011】
本開示に係る異常検知方法は、台車と、車体と、台車と車体との間に配置された空気ばねと、空気ばねに対応して配置された高さ調整装置と、表示部を含む制御装置と、を備えた鉄道車両の異常検知方法である。異常検知方法は、算出工程と、第1検知工程とを備える。高さ調整装置は、回転軸と、レバーと、回転角度センサと、を含む。レバーは、回転軸の一端に台車と車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、回転軸の半径方向に延びる。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。算出工程では、制御装置が回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばねの高さを算出する。第1検知工程では、鉄道車両の停止中、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、制御装置が、車体が外的要因によって固定されていると判断する。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る鉄道車両の異常検知装置及び異常検知方法によれば、車体が外的要因によって固定されているのを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、鉄道車両の全体構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る鉄道車両の異常検知方法を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、鉄道車両の空気ばねの高さの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態に係る鉄道車両の異常検知装置は、高さ調整装置と、表示部を含む制御装置と、を備える。鉄道車両は、台車と、車体と、台車と車体との間に配置された空気ばねと、を備える。高さ調整装置は、空気ばねに対応して配置される。高さ調整装置は、回転軸と、レバーと、回転角度センサと、を含む。レバーは、回転軸の一端に台車と車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、回転軸の半径方向に延びる。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。制御装置は、回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばねの高さを算出する処理を実行する。鉄道車両の停止中、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、制御装置は、車体が外的要因によって固定されていると判断する処理を実行する(第1の構成)。
【0015】
第1の構成に係る異常検知装置では、制御装置は、回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばねの高さを算出する。制御装置は、鉄道車両の停止中、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合に鉄道車両の車体が外的要因によって固定されていると判断する。この場合、制御装置により、空気ばねの高さの情報から、車体が外的要因によって固定されているのを検知することができる。
【0016】
上記異常検知装置において、好ましくは、制御装置は、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された状態から低下した場合、空気ばねが最小高さを有するパンク状態であると判断する(第2の構成)。第2の構成の異常検知装置では、制御装置により、空気ばねの高さの情報から、空気ばねのパンクを検知することができる。
【0017】
上記異常検知装置において、より好ましくは、制御装置は、空気ばねがパンク状態であると判断した場合、空気ばねが所定の高さになるまでの間、表示部に空気ばねがパンク状態であることを表示する(第3の構成)。この場合、表示部の表示を見た乗務員は、鉄道車両の走行を停止させることができる。これにより、空気ばねがパンクした状態で鉄道車両が走行するのを防止することができる。
【0018】
実施形態に係る異常検知方法は、台車と、車体と、台車と車体との間に配置された空気ばねと、空気ばねに対応して配置された高さ調整装置と、表示部を含む制御装置と、を備えた鉄道車両の異常検知方法である。異常検知方法は、算出工程と、第1検知工程と、を備える。高さ調整装置は、回転軸と、レバーと、回転角度センサと、を含む。レバーは、回転軸の一端に台車と車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、回転軸の半径方向に延びる。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。算出工程では、制御装置が回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばねの高さを算出する。第1検知工程では、鉄道車両の停止中、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、制御装置が、車体が外的要因によって固定されていると判断する(第4の構成)。
【0019】
第4の構成の異常検知方法では、制御装置は、回転角度センサで検出した回転軸の回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸の回転角の情報から空気ばねの高さを算出する。制御装置は、鉄道車両の停止中、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合に鉄道車両の車体が外的要因によって固定されていると判断する。この場合、制御装置により、空気ばねの高さの情報から、車体が外的要因によって固定されているのを検知することができる。
【0020】
上記異常検知方法は、好ましくは、第2検知工程をさらに備える。第2検知工程では、第1検知工程後、空気ばねの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された状態から低下した場合、制御装置が、空気ばねが最小高さを有するパンク状態であると判断する(第5の構成)。第5の構成の異常検知方法では、制御装置により、空気ばねの高さの情報から、空気ばねのパンクを検知することができる。
【0021】
上記異常検知方法は、より好ましくは、第2検知工程において、制御装置は、空気ばねがパンク状態であると判断した場合、空気ばねが所定の高さになるまでの間、表示部に空気ばねがパンク状態であることを表示する(第6の構成)。この場合、表示部の表示を見た乗務員は、鉄道車両の走行を停止させる。これにより、空気ばねがパンクした状態で鉄道車両が走行するのを防止することができる。
【0022】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、重複する説明を繰り返さない。
【0023】
[異常検知装置及び異常検知方法]
図1は、鉄道車両10の全体構成を示す模式図である。
図1には、鉄道車両10を進行方向に沿って見たときの様子が示される。本明細書において、鉄道車両10の進行方向を前後方向と称し、鉄道車両10の幅方向を左右方向と称し、鉄道車両10の高さ方向を上下方向と称する場合がある。
【0024】
図1を参照して、鉄道車両10は、車体11と、台車20とを備える。台車20は、車体11の前側と後側にそれぞれ配置され、車体11を支持する。本実施形態の例では、台車20はボルスタレス台車であるが、ボルスタ付き台車であってもよい。
【0025】
台車20は、台車枠21と、台車枠21の左右に配置される空気ばね22a,22bと、輪軸23とを含む。空気ばね22a,22bは、車体11と台車枠21との間に配置されて車体11を支持し、車体11の振動を緩和する。車体11が傾斜していないとき、空気ばね22a,22bの高さは、中立位置となっている。輪軸23は、台車枠21の前側と後側にそれぞれ配置される。輪軸23は、左右に一対の車輪231と、左右方向に延びる車軸232とを有する。左右の車輪231は、それぞれ車軸232の両端部に固定される。輪軸23の左右にそれぞれ軸箱25が配置されている。車軸232は、軸箱25内に設けられた軸受(図示略)によって回転可能に支持される。
【0026】
台車枠21は、左右に一対の側梁211と、横梁212とを含む。左右の側梁211は、それぞれ前後方向に延びる。横梁212は、左右方向に延び、左右の側梁211それぞれに接合される。左右の側梁211は、それぞれ、軸ばね24を介して軸箱25により支持されている。つまり、台車枠21は、前後の輪軸23によって支持されている。
【0027】
鉄道車両10は、異常検知装置50をさらに備える。異常検知装置50は、高さ調整装置30a,30bと、制御装置40と、を含む。
【0028】
高さ調整装置30a,30bは、空気ばね22a,22bに対応して台車20の左右にそれぞれ配置される。空気ばね22a,22bの高さは、高さ調整装置30a,30bによって一定になるように制御される。高さ調整装置30a,30bの各々は、高さ調整弁31a,31bと、測定装置32a,32bと、を備える。高さ調整弁31a,31bとして、LV(レベリングバルブ)を用いることができる。
【0029】
図2は、
図1の部分拡大図である。
図2には、高さ調整装置30aのみを拡大した図が示される。以下、
図2を参照して高さ調整装置30aの構成について説明するが、高さ調整装置30bは、左右方向において高さ調整装置30aと実質的に対称な形状を有する。以後、本明細書において空気ばね22a,22bや高さ調整装置30a,30bについて説明するとき、空気ばね22aや高さ調整装置30aを代表として説明する場合がある。
【0030】
高さ調整弁31aは、車体11に固定される。高さ調整弁31aには、貫通孔311aが形成されている。本実施形態の例では、貫通孔311aは前後方向に延びる。
【0031】
図1及び
図2を参照して、高さ調整弁31aは、空気ばね22aに圧縮空気を供給し、あるいは空気ばね22a内の圧縮空気を排出させるための流路を有する。高さ調整弁31aは、空気ばね22aの上下方向の変位に応じて、空気ばね22aに圧縮空気を供給し、あるいは空気ばね22a内の圧縮空気を排出させる。具体的には、空気ばね22aが中立位置よりも下降した場合、高さ調整弁31aは空気ばね22aに圧縮空気を供給し、空気ばね22aの高さを中立位置に戻そうとする。また、空気ばね22aが中立位置よりも上昇した場合、高さ調整弁31aは、空気ばね22a内の圧縮空気を排出し、空気ばね22aの高さを中立位置に戻そうとする。
【0032】
測定装置32aは、高さ調整弁31aと台車20とを接続する。測定装置32aは、レバー321aと、回転軸322aと、回転角度センサ323aと、連結棒324aと、を含む。回転軸322aは貫通孔311aに挿通される。レバー321aは、回転軸322aの一端(
図2の紙面手前側)に固定される。レバー321aは、回転軸322aとともに回動可能に構成される。レバー321aは、回転軸322aの半径方向に延びる。回転角度センサ323aは、回転軸322aの他端(
図2の紙面奥側)に取り付けられる。回転角度センサ323aは、典型的にはレゾルバである。連結棒324aは、上下方向に延び、レバー321aのうち回転軸322aとは反対側の端部と台車枠21とを接続する。
【0033】
回転軸322a及びレバー321aは、車体11と台車20との上下方向の相対変位に応じて回転する。回転角度センサ323aは、回転軸322aの回転角を検出する。
【0034】
制御装置40は、高さ調整装置30a,30bの各々に接続される。制御装置40は、例えば後述する各処理を実行するプログラムがインストールされたコンピュータを含む。具体的には、制御装置40は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、インターフェースと、ハードディスクと、表示部とを含む。これらの構成はバスにより互いに通信可能に接続されている。ハードディスクには、プログラムが格納されている。プログラムがメモリにロードされ、CPUで実行させることにより、制御装置40による制御が実現する。インターフェースは、例えば表示部に接続されている。表示部には、CPUがプログラムを実行した結果が表示される。制御装置40は、例えば、図示しない車両情報管理装置に接続されている。制御装置40は、車両情報管理装置から鉄道車両10の走行速度の情報を入手する。これにより、制御装置40は、鉄道車両10が停止中であるか、又は走行中であるかを把握することができる。
【0035】
本実施形態に係る異常検知装置50、及び異常検知装置50を用いた異常検知方法では、鉄道車両10の停止中、車体11が外的要因によって固定されていることを検知する。車体11が外的要因によって固定された状態とは、鉄道車両10の外部に配置された物や鉄道車両10にはたらく外力によって車体11が上下方向において変位し、台車20に対して車体11が一定の位置に維持された状態を意味する。外的要因は、特に限定されるものはないが、例えば雪である。以下、車体11が雪によって固定されている例について詳しく説明する。
【0036】
図3は、鉄道車両10の模式図である。
図3には、左右方向のうち高さ調整装置30aが配置された側から鉄道車両10を見た図が模式的に示される。
図3に示される鉄道車両10は、
図3の紙面左方向から右方向に向かって走行した後、停止した状態である。例えば、鉄道車両10が終点の駅に到着するとき、鉄道車両10の進行方向前方の除雪が十分でない場合がある。この場合、鉄道車両10の車体11は、地面に積もった雪60に乗り上げた状態で停止する。要するに、車体11は台車20に対して上昇し、雪60によって固定される。
【0037】
車体11に固定された空気ばね22a及び高さ調整装置30aは、車体11とともに上昇する。空気ばね22aの高さは、中立位置よりも高い位置で一定に維持される。高さ調整装置30aの上昇に伴い、回転軸322a(
図2)が回転する。高さ調整弁31a(
図2)は、車体11が雪60によって固定されているにもかかわらず、空気ばね22a内の圧縮空気を排出し、空気ばね22aの高さを中立位置に戻そうとする。そのため、空気ばね22aが空になるまで空気ばね22a内の圧縮空気が排出され続ける。
【0038】
その後、空気ばね22aが空になっていることに気づかずに鉄道車両10が
図3の右方向から左方向に向かって走行を開始しようとすると、車体11は雪60による固定から解放される。すると、空気ばね22aは空になっているため、車体11が降下し、空気ばね22aは中立位置を越えてパンク状態となる。空気ばね22aがパンク状態な場合、鉄道車両10の走行が不安定になる。本実施形態に係る異常検知装置50及び異常検知方法では、このような事態を防止するため、鉄道車両10の停止中に車体11が外的要因によって固定されていることや空気ばね22aがパンク状態になっていることを検知する。
【0039】
以下、主に
図4を参照して、異常検知装置50による処理を詳細に説明する。
図4は、本実施形態に係る鉄道車両10の異常検知方法を示すフロー図である。
図4を参照して、本実施形態の異常検知方法は、算出工程(#5)と、第1検知工程(#10)と、第2検知工程(#15)と、を備える。異常検知装置50は、算出工程(#5)と、第1検知工程(#10)と、第2検知工程(#15)とを実行するように構成される。
【0040】
図1~
図4を参照して、算出工程(#5)では、制御装置40は、高さ調整装置30aから、対応する空気ばね22aの高さを算出するのに必要な情報を取得する。具体的には、制御装置40は、高さ調整装置30aの回転角度センサ323aで検出した回転軸322aの回転角の情報を取得する。それとともに、制御装置40は、取得した回転軸322aの回転角の情報から空気ばね22aの高さを算出する。
【0041】
第1検知工程(#10)では、鉄道車両10の停止中、空気ばね22aの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合、制御装置40は、鉄道車両10の車体11が外的要因によって固定されていると判断する。車体11が外的要因によって固定されていると判断した場合、制御装置40は、例えばインターフェースに接続された表示部にその結果を表示し、乗務員に警告を行う。すると、車体11が外的要因によって固定されていることを知った乗務員は、鉄道車両10の外部を調査し、鉄道車両10を走行させる前に外的要因を取り除くことができる。外的要因が雪である場合、乗務員が雪かきを行うことによって車体11は雪による固定から解放される。
【0042】
第2検知工程(#15)では、第1検知工程(#10)後、制御装置40は、空気ばね22aの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された状態から低下した場合、空気ばね22aが最小高さを有するパンク状態であると判断する。上述した通り、車体11が外的要因によって固定された後、その外的要因が取り除かれると、車体11が降下し、空気ばね22aは中立位置を越えてパンク状態となる。第2検知工程(#15)によれば、制御装置40により、空気ばね22aの高さの情報から、空気ばね22aのパンクを検知することができる。空気ばね22aがパンク状態になった場合、高さ調整弁31aによって圧縮空気が空気ばね22aに徐々に供給され、空気ばね22aの高さは中立位置に戻される。
【0043】
第2検知工程(#15)において、制御装置40は、好ましくは、空気ばね22aがパンク状態であると判断した場合、空気ばね22aが所定の高さになるまでの間、インターフェースに接続された表示部に空気ばね22aがパンク状態であることを表示する。乗務員は、表示部の表示を見て、空気ばね22aがパンク状態であることを把握することができる。空気ばね22aがパンク状態の間、乗務員は、鉄道車両10の走行を停止させる。これにより、空気ばね22aがパンクした状態で鉄道車両10が走行するのを防止することができる。
【0044】
[効果]
本実施形態に係る異常検知装置50及び異常検知方法では、制御装置40は、回転角度センサ323aで検出した回転軸322aの回転角の情報を取得するとともに、取得した回転軸322aの回転角の情報から空気ばね22aの高さを算出する。制御装置40は、鉄道車両10の停止中、空気ばね22aの高さが中立位置よりも高い位置で一定に維持された場合に鉄道車両10の車体11が外的要因によって固定されていると判断する。この場合、制御装置40により、空気ばね22aの高さの情報から、車体11が外的要因によって固定されているのを検知することができる。
【実施例0045】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。本実施例では、実際に鉄道車両が雪に乗り上げ、鉄道車両の車体が外的要因(雪)によって固定されていたときの、空気ばねの高さの変動について調査した。そして、この空気ばね高さの情報に対して本開示に係る異常検知方法を適用し、車体が外的要因によって固定されていると判断できるかどうかを検証した。
【0046】
図5は、鉄道車両の空気ばねの高さの推移を示すグラフである。
図5では、鉄道車両が雪に乗り上げていたときの、中立位置を基準とした空気ばねの高さの変動が模式的に示される。
図5において、横軸は時間[sec]を示す。
図5を参照して、測定開始から212~384秒の間、空気ばねの高さは20mmで一定である。これは、実際の鉄道車両が雪に乗り上げ、車両の高さが雪によって固定されていることを意味する。本開示に係る異常検知方法では、空気ばねの高さが中立位置よりも高く一定に維持された時点で鉄道車両の車体が外的要因によって固定されていると判断することができる。そのため、本開示に係る異常検知方法によれば、外的要因による鉄道車両の異常を早期に発見することができる。
【0047】
また、
図5を参照して、空気ばねの高さは一定に維持された後、急激に低下し、-40mm程度の最も低い値となっている。これは、実際の鉄道車両が乗り上げていた雪が取り除かれ、空気ばねがパンク状態となったことを意味する。本開示に係る異常検知方法では、空気ばねの高さが中立位置よりも高く一定に維持された状態から低下した時点で空気ばねがパンク状態であると判断することができる。
【0048】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。