(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134642
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】シールリング溝の補修方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/18 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16J15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044939
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】520446986
【氏名又は名称】楠精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 重幸
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA02
3J043BA08
3J043CA01
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA02
3J043DA09
(57)【要約】
【課題】腐食により浸食されたOリング溝などのシールリング溝を、周囲を変形させることなく確実に補修することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明のシールリング溝の補修方法は、溝底面14が腐食されたシールリング溝12からシールリング13を取出す工程と、端部を斜めに切り欠いた形状の薄肉のシム板20をシールリング溝12の溝底面14に挿入する工程と、シム板20が挿入されたシールリング溝12に、シールリング13を嵌めこむ工程とからなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝底面が腐食されたシールリング溝からシールリングを取出す工程と、
端部を斜めに切り欠いた形状の薄肉のシム板をシールリング溝の内部に挿入して溝底面を覆う工程と、
シム板が挿入されたシールリング溝に、シールリングを嵌めこむ工程とからなることを特徴とするシールリング溝の補修方法。
【請求項2】
前記薄肉のシム板が、板厚が0.05~0.20mmのステンレス板からなることを特徴とする請求項1に記載のシールリング溝の補修方法。
【請求項3】
前記薄肉のシム板の端部の切欠き部の角度が、シム板の長手方向に対して30~60度であることを特徴とする請求項1または2に記載のシールリング溝の補修方法。
【請求項4】
シム板をシールリング溝の内部に挿入した後に、シム板の端部の切欠き部の間にコーキング剤を充填することを特徴とする請求項1または2に記載のシールリング溝の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食により浸食されシール性が低下したシールリング溝を補修する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Oリングに代表されるシールリングは、気体や液体などの流体をシールする目的で多くの機器に組み込まれている。シール部にはシールリングの太さよりも浅いシールリング溝が形成され、その内部に嵌め込んだシールリングを相手部材により押し潰し、シールリングの反発力によりシール効果を生じさせている。
【0003】
図1にその模式図を示す。
図1において10は円筒であり、11はその内部を摺動する断面円形の軸である。円筒10の内周面にはシールリング溝12が形成され、その内部にOリングであるシールリング13が嵌め込まれている。シールリング13は軸11により押し潰され、その反発力によって軸11の外周面に密着し、円筒10の内部の流体をシールしている。
【0004】
このようなシールリング13は長期間の使用によりゴムの弾性が低下した場合には、新しいシールリング13と交換すればよい。しかし例えば油圧シリンダのシールのためにシールリング13を使用していると、作動油中に含まれる添加物などによってシールリング溝12の内部が腐食して浸食され、
図2に模式的に示すように溝底面14にくぼみ15が生ずることがある。
【0005】
シールリング溝12の溝底面14にくぼみ15が生ずるとシールリング13は正規の位置よりも溝底面14側に入り込んでしまい、その分だけ反発力が低下するためシール性が損なわれ、油漏れに至ることがある。
【0006】
そこでシールリング溝12にこのようなくぼみ15が生じた場合には、肉盛り溶接によりくぼみ15を埋め、溝底面14を補修することが考えられる。しかしその際に加えられる熱によってシールリング溝12の周縁部が変形してしまうおそれがあるため、この補修方法は採用し難い面がある。
【0007】
なお特許文献1には、隙間腐食の検知器をポンプなどの構造物に組み込み、隙間腐食の早期発見を可能とすることが開示されている。しかしこれは隙間腐食の検知であって、補修方法ではない。またその他の特許文献を検索しても、Oリング溝などの補修に関する特許文献を発見することはできなかった。
【0008】
上記したように、従来はシールリング溝の有効的な補修方法は知られておらず、シールリング溝12が侵食された場合には、シールリング溝12が形成された部材自体(
図2の場合には円筒10)を交換しているのが実情である。このためには多くのコストを要することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】再公表特許公報WO2016/158146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、腐食により浸食されたシールリング溝を、周囲を変形させることなく確実にかつ安価に補修することができるシールリング溝の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するためになされた本発明のシールリング溝の補修方法は、溝底面が腐食されたシールリング溝からシールリングリングを取出す工程と、端部を斜めに切り欠いた形状の薄肉のシム板をシールリング溝の内部に挿入して溝底面を覆う工程と、シム板が挿入されたシールリング溝に、シールリングを嵌めこむ工程とからなることを特徴とすることを特徴とするものである。
【0012】
なお、前記薄肉のシム板が、板厚が0.05~0.20mmのステンレス板からなることが好ましく、また前記薄肉のシム板の端部の切欠き部の角度が、シム板の長手方向に対して30~60度であることが好ましい。また、シム板をシールリング溝の内部に挿入した後に、シム板の端部の切欠き部間にコーキング剤を充填することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシールリング溝の補修方法によれば、腐食により浸食されたシールリング溝を、周囲を変形させることなく確実にかつ安価に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】シールリングを用いたシール構造の模式図である。
【
図2】シールリング溝の溝底面にくぼみが生じた状態の模式図である。
【
図4】くぼみが生じたシールリング溝にシム板を挿入した模式図である。
【
図5】シム板が挿入されたシールリング溝に、シールリングを嵌めた状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。この実施形態ではシールリングはOリングであり、シールリング溝はOリング溝である。以下の説明は
図1、
図2と同様の模式図に基づいて行うが、これに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0016】
図2に示すように溝底面14にくぼみが生じてシールリング13によるシール性が低下した場合には、先ずシールリング溝12からシールリング13を取出し、溝底面14を露出させる。もし溝底面14に異物が付着している場合には、浸食の原因となるおそれがあるから、これを洗浄して除去する。
【0017】
次に
図3に示すシム板20を準備する。シム板20はシールリング溝12の内部に挿入されるものである。シム板20は薄肉の金属板の一部を斜めに切り欠いた形状のものである。シム板20はシールリング溝12の内部でシールリング13を支えることができる剛性を持つ必要があるため、その板厚を極端に薄くすることはできない。逆にその板厚を厚くし過ぎるとシールリング13がシールリング溝12の内部から強く押し出されることとなる。このためシム板20の板厚はシールリング溝12のサイズに応じて適宜選択する必要があり、多くの場合には0.05~0.20mmとすることが好ましい。
【0018】
シム板20の材質は弾性のある金属であることが好ましく、腐食しにくいステンレス製とすることが好ましい。しかし必ずしもステンレスである必要はなく、使用場所によっては鋼板やアルミニウム板を用いることもできる。シム板20は
図3に示すように予め円環状に成形しておくことができる。
【0019】
シム板20の板幅は、シールリング溝12の内部に収まるようにしておく必要がある。しかしシム板20の板幅が狭すぎるとシールリング溝12の幅方向の片側にずれてシールリング13を正しく支持できなくなる。このためシム板20の板幅は、シールリング溝12の溝幅の70~95%程度としておくことが好ましい。なお、シム板20の長手方向のサイズは溝底面14の長さに応じて決定しておくことはいうまでもない。
【0020】
シム板20はシールリング溝12の溝底面14を覆うために溝底面14に密着させるものであるから、弾性を持たせることが好ましい。そのためにシム板20はその両側の端部が斜めに切り欠かれ、端部間にスリット状の切欠き部21が形成されている。切欠き部21の幅はシールリング溝12のサイズに応じて決定すればよい。但し切欠き部21の幅は狭くし過ぎるとシールリング溝12への挿入作業が行いにくくなり、広くし過ぎると切欠き部21を通じて流体が流れ易くなってシール性を低下させるおそれがある。
【0021】
端部の切欠き部21の角度は、シム板20の長手方向に対して30~60度とすることが好ましく、この実施形態では45度としてある。このように切欠き部21を斜めにしたのは、シム板20の長手方向に対して直角(90度)とすると、切欠き部21を通じて流体が流れ易くなってシール性を低下させるおそれがあるためである。なお、この角度が30度よりも小さくなるとシム板20をシールリング溝12へ挿入する作業が行いにくくなる。
【0022】
上記した構造のシム板20を
図4のようにシールリング溝12の内部に挿入すると、溝底面14のくぼみ15はシム板20により覆われる。その後、シム板20が挿入されたシールリング溝12に、
図5のようにシールリング13を嵌めこむ。シム板20の板厚分だけシールリング溝12からのシールリング13の突出量が増加するが、ゴム製のシールリング13は弾性を持つので、シム板20の板厚を0.05~0.20mm程度としておけば、支障なく完全なシール性を確保することができる。
図6に補修が完了した状態を示す。
【0023】
上記した実施形態では、シム板20の端部間の切欠き部21を開放されたままとしたが、シム板20をシールリング溝12の内部に挿入した後に、切欠き部21にコーキング剤を充填することにより、更に完全なシール性を得ることができる。この方法を採用すれば、固定部材間をシールするためのシールリング溝12の補修だけではなく、油圧シリンダとピストンロッドのような摺動部材間をシールするためのシールリング溝12の補修にも、本発明を適用することができる。
【0024】
以上に説明したように、本発明のシールリング溝の補修方法はシールリング溝12にシム板20を嵌めこむだけであり、溶接による肉盛りを行う場合のような加熱工程がない。このためシールリング溝12の周囲に熱歪を発生させることがない、しかも本発明は安価なシム板20を用いるだけであるから、補修コストの低減を図ることができる利点がある。上記の実施形態ではシールリング溝12はOリング溝であるが、溝底面14が平坦面であれば、その他のシールリング溝にも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
10 円筒
11 軸
12 シールリング溝
13 シールリング
14 溝底面
15 くぼみ
20 シム板
21 切欠き部