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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134656
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】染色プラスチックレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20240927BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240927BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20240927BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20240927BHJP
   B29C 39/02 20060101ALI20240927BHJP
   D06P 5/28 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
G02C7/10
G02B1/11
G02B1/14
B29C39/02
D06P5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044964
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】322010534
【氏名又は名称】東海光学ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栄二
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
4F204
4H157
【Fターム(参考)】
2H006BE00
2H006BE05
2K009AA02
2K009AA15
4F204AA36
4F204AA44
4F204AC05
4F204AG19
4F204AH74
4F204EA03
4F204EB01
4F204EK17
4F204EK18
4F204EW02
4F204EW24
4H157BA12
4H157DA02
4H157GA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】レンズの表面や裏面の一部に着色を施した染色プラスチックレンズの製造方法する際に模様形成や着色の手作業を廃し装飾的に優れた染色プラスチックレンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】レンズの表面及び裏面の少なくとも一方に凹部9を形成し、凹部9が形成されている面に対して凹部9を含んで昇華染色で染色した着色面を形成し、着色面を凹部9の底面に達しないように研磨して凹部9のみに着色された模様部分が残るようにした。製造されるレンズにはレンズ面とは不連続の窪んだ模様となる凹部が形成され、なおかつ凹部内は着色されて現れこととなるため、装飾性に優れた染色プラスチックレンズを提供することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの表面及び裏面の少なくとも一方に凹部を形成し、前記凹部が形成されている面に対して前記凹部を含んで染色された着色面を形成し、前記着色面を前記凹部の底面に達しないように研磨して前記凹部のみに着色された模様部分が残るようにした染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記レンズの表面及び裏面の両面をそれぞれ異なる色で染色して着色面を形成し、前記凹部が形成されている少なくとも一方の着色面を前記凹部の底面に達しないように研磨して前記凹部のみに着色された模様部分が残るようにした請求項1に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記着色面の染色は前記凹部が形成されているレンズの表面及び裏面の全域に行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記凹部以外の部分の前記着色面の研磨は、研磨前と研磨後のレンズのカーブ形状が同じになるように行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
レンズの表面及び裏面のいずれか一方に凹部を形成し、前記凹部が形成されている面に対して前記凹部を含んで染色された第1の着色面を形成するとともに、前記凹部が形成されていない面を染色して第2の着色面を形成し、前記第1の着色面を前記凹部の底面に達しないように研磨して前記凹部のみに着色された模様部分が残るようにした染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記第2の着色面の染色は前記凹部が形成されているレンズの表面及び裏面の全域に行われることを特徴とする請求項5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項7】
前記凹部以外の部分の前記第1の着色面の研磨は、研磨前と研磨後のレンズのカーブ形状が同じになるように行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項8】
前記着色面への染色は昇華染色で実行されることを特徴とする請求項1又は5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項9】
前記着色面への染色は染色液への浸漬で実行されることを特徴とする請求項1又は5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項10】
前記レンズの前記凹部を前記凹部に対応する凸部を有するモールドによって成形することを特徴とする請求項1又は5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項11】
前記レンズの前記凹部をレーザー加工によって形成することを特徴とする請求項1又は5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項12】
前記レンズの前記凹部の深さは20μm以上であることを特徴とする請求項1又は5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項13】
請求項1又は5に記載の染色プラスチックレンズの製造方法によって製造された染色プラスチックレンズ。
【請求項14】
レンズの表面及び裏面の少なくとも一方にはハードコート膜が成膜されていることを特徴とする請求項13に記載の染色プラスチックレンズ。
【請求項15】
前記ハードコート膜の上には反射防止膜が成膜されていることを特徴とする請求項14に記載の染色プラスチックレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの表面や裏面の一部が着色された模様を有する染色プラスチックレンズの製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からレンズの表面や裏面の一部に着色を施した染色プラスチックレンズが提供されている。
例えば、特許文献1ではドリル等の工具を用いてレンズ面に貫通穴や貫通しない止まり穴を形成し、その穴に筆やペイントマーカー等によって着色するというものである。
また、特許文献2ではレンズ面をマスキングして染色を行い、染色されている部分とマスキングした染色されていない部分とを設けるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-146051号公報
【特許文献2】特開2012-177910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では着色工程が手作業であるため、レンズ作製に手間と時間がかかりすぎ、なおかつ品質も安定しにくくなってしまう。また、特許文献2においてはレンズ面にマスキングをすると考えられるが、それでは染色部と非染色部とは連続した同じカーブ面に形成されるにすぎず、単なる色の違いによる模様であるためどうしても模様の質感に欠けるものであった。そのため、手作業を廃し、装飾的に優れた染色プラスチックレンズが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、手段1では、レンズの表面及び裏面の少なくとも一方に凹部を形成し、前記凹部が形成されている面に対して前記凹部を含んで染色された着色面を形成し、前記着色面を前記凹部の底面に達しないように研磨して前記凹部のみに着色された模様部分が残るようにした。
このような方法で製造することで、レンズ面の模様となる凹部は、凹部が形成されているレンズ面とは不連続の窪んだ模様として、なおかつ着色されることとなるため、装飾性に優れた染色プラスチックレンズを提供することができる。凹部の底面だけでなく凹部内周壁面も着色されるため単なるマスキングとは異なり輪郭が強調された立体感のある模様となる。
【0006】
「凹部」は模様を形成するレンズ面よりもわずかに窪んだ部分である。凹部の底面は周囲のカーブ面と同じカーブでもよく、平面でもよく、粗面加工してもよい。配置される位置は眼鏡レンズとして使用される光学中心を含んだ中央領域から外れた縁寄りがよく、特に耳寄りがよい。
「凹部を含んで着色した着色面を形成」とは、凹部が形成されたレンズの表面及び/又は裏面の全域を着色しても、例えば凹部を含むレンズの一部のみを染色してもよい意である。例えば、マスキングと併用するようにしてもよい。
「研磨」は凹部以外のレンズ面の着色面分を削除する目的で実行される。例えば凹部がレンズ度数の設定されているレンズ面に形成されている場合ではレンズ度数の変化には影響のない程度で研磨することがよい。
これら文言の定義は以下の手段でも同様である。
【0007】
また、手段2では、前記レンズの表面及び裏面の両面をそれぞれ異なる色で染色して着色面を形成し、前記凹部が形成されている少なくとも一方の着色面を前記凹部の底面に達しないように研磨して前記凹部のみに着色された模様部分が残るようにした。
このような方法で製造することで、レンズ面の模様となる凹部は、凹部が形成されているレンズ面とは不連続の窪んだ模様として、なおかつ着色され、その凹部への着色がレンズの表面及び/又は裏面の着色した色と混色して現れるため、装飾性に優れた染色プラスチックレンズを提供することができる。
また、手段3では、前記着色面の染色は前記凹部が形成されているレンズの表面及び裏面の全域に行うようにした。
レンズ面全域に行うことで、レンズを加工して玉型にする際に着色されている領域を選択してフレーム加工する必要がなく、どのようなフレームにも対応させることができる。
また、手段4では、前記凹部以外の部分の前記着色面の研磨は、研磨前と研磨後のレンズのカーブ形状が同じになるように行うようにした。
これによって、例えば凹部を形成した側のレンズ面にレンズ度数を設定した場合にそのレンズ度数が変わってしまうことがなくなる。
また、手段5では、レンズの表面及び裏面のいずれか一方に凹部を形成し、前記凹部が形成されている面に対して前記凹部を含んで染色された第1の着色面を形成するとともに、前記凹部が形成されていない面を染色して第2の着色面を形成し、前記第1の着色面を前記凹部の底面に達しないように研磨して前記凹部のみに着色された模様部分が残るようにした。
このような方法で製造することで、凹部のないレンズ面は着色がそのまま残るのでサングラスのようなカラーレンズを製造することができる。そして、レンズ面の模様となる凹部は、凹部が形成されているレンズ面とは不連続の窪んだ模様として、なおかつ着色され、その凹部への着色がレンズの表面及び/又は裏面の着色した色と混色して現れるため、装飾性に優れた染色プラスチックレンズを提供することができる。
また、手段6では、前記第2の着色面の染色は前記凹部が形成されているレンズの表面及び裏面の全域に行われるようにした。
レンズ面全域に行うことで、レンズを加工して玉型にする際に着色されている領域を選択してフレーム加工する必要がなく、どのようなフレームにも対応させることができる。
また、手段7では、前記凹部以外の部分の前記第1の着色面の研磨は、研磨前と研磨後のレンズのカーブ形状が同じになるように行うようにした。
これによって、凹部を形成した第1の着色面にレンズ度数を設定した場合にそのレンズ度数が変わってしまうことがなくなる。
【0008】
また、手段8では、前記着色面への染色は昇華染色で実行されるようにした。
昇華染色であればマスクをしなくても、レンズの表面もしくは裏面のみを染色できるためよい。
昇華染色は、ガラスや紙などの基板に昇華性染料含有インクを塗布し、塗布面とプラスチックレンズの被染色面(裏面及び表面のいずれか一方)を離間してプラスチックレンズの下方に対向して配置させ、基板を加熱することにより昇華性染料を昇華させてプラスチックレンズの被染色面に染色する染色方法である。
昇華染色に用いる染料(昇華性染料)は、加熱により昇華する性質を有すれば特に制限はない。公知の市販の昇華性染料を用いることができる。また、プラスチックレンズに均一に染色させるために、染料の添加剤として界面活性剤、保湿剤、有機溶媒、粘度調整剤、pH調整剤、バインダーなどを含有させることがよい。
また、手段9では、前記着色面への染色は染色液への浸漬で実行されるようにした。
の方法であれば簡単な設備で容易にかつ時間をかけずに着色することができるためよい。また、レンズを浸漬させればレンズの裏面及び表面とも同時に着色できるため、片面ずつ着色する昇華染色よりも作業効率がよい。また、レンズ保持具を用いてレンズの裏面及び表面のいずれか一方のみを浸漬させることもできる。浸漬染料液の温度及び浸漬時間はプラスチックレンズの素材や所望する染色濃度等に応じて適宜選択可能である。
【0009】
また、手段10では、前記レンズの前記凹部を前記凹部に対応する凸部を有するモールドによって成形するようにした。
モールドによってレンズを成形するのであれば、一品製作にならず同じ形状の凹部を備えたレンズを繰り返し製造することができる。モールドによる成形は一般に成形されるレンズ形状の表面と裏面を成形するための対向配置される2つのモールド(第1のモールドと第2のモールド)を対向状態に保持し、内部にレンズ用のプラスチックを充填して硬化させた後、モールドを離型させてプラスチックレンズを得るようにする。このようにしてキャストフィニッシュレンズ(いわゆる丸レンズ、玉型加工前のレンズ)又はセミフィニッシュレンズ(凹面側を加工して度付きレンズとするための丸レレンズの前駆体となる厚レンズ)を得ることができる。
モールドの素材としてはガラスや合金等が一般的である。レンズ成形用の成形材料としては、一般的にはモノマーと称する熱硬化性プラスチックを使用することがよい。熱硬化性プラスチックとしては例えばアリル系、ウレタン系、チオウレタン系,エピスルフィド系のプラスチックが挙げられる。また、ポリカーボネートのような熱可塑性プラスチックを使用することもよい。 熱硬化性プラスチックを硬化させるために熱、光又はマイクロ波のエネルギーを受動させて重合硬化させる。熱可塑性プラスチックでは熱で溶融させたプラスチックを注入することとなる。
モールドへの凸部の形成は、例えばエッチング処理によって実行することがよい。手法としては科学反応を利用するウェットエッチングとガスまたはプラズマを使用するドライエッチングがあり、どちらも使用可能である。ウェットエッチングを例にとって説明すれば、まずモールドの凸部を形成するレンズ面に対して模様となる凸部が描かれるようにエッチング処理されないレジストを塗布し、レジストを塗布した部分以外を溶剤との化学反応で分解(腐食)させて除去するようにする。これによってレンズ面凸部が形成されることとなる。ウェットエッチング用の溶剤としては、例えばフッ酸、硝酸、フッ酸と硝酸との混酸、熱リン酸等を用いることがよい。レジストとしては公知の市販されているレジスト剤を使用できる。例えばゴム系樹脂を主原料にしたレジスト剤を使用することがよい。
【0010】
また、手段11では、前記レンズの前記凹部をレーザー加工によって形成するようにした。
モールドを使用せずプラスチックレンズにエキシマレーザーやUVレーザーのような微細な加工が可能な加工機を使用してレンズ面に模様となる凹部を直接形成する場合である。モールドを使用する場合よりもデザインの自由度が高く複雑な模様を形成することも可能である。
また、手段12では、前記レンズの前記凹部の深さは20μm以上であるようにした。
研磨においてプラスチックレンズに染色した着色面分がなくなる程度の厚みは一般に20μm程度となるため、凹部の深さを20μm以上とすることで研磨工程で凹部が消失することが防止できる。
また、このように染色したレンズにはハードコート膜(層)を設けることがよい。ハードコート膜は例えばコート用のハードコート液に浸漬あるいは塗布等し、その後公知の方法にて溶媒を蒸発させて形成させることが一般的である。ハードコート膜は、特にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子から構成されることが好ましい。そのためのハードコート液は水又はアルコール系の溶媒にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子ゾルを分散(混合)させて調整される。
また、このように染色したレンズハードコート膜の上には反射防止膜を設けることがよい。反射防止膜は公知の蒸着法やイオンスパッタリング法等により形成することがよい。反射防止層は、光学理論に基づいた多層構造膜が採用される。膜材料としては、SiO、SiO2、Al23、Y23、Yb23、CeO2、ZrO2、Ta25、TiO2、など一般的な無機酸化物を使用することができる。反射防止膜は特性の異なるこれらを材料とした薄膜を周知の手段(例えば蒸着)により定石に従って順に低屈折率層と高屈折率層を蒸着して形成される。最上層には低屈折率層が配置されることがよい。
上述の各手段に示した発明は、任意に組み合わせることができる。例えば、手段1に示した発明の全てまたは一部の構成に手段2以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加える構成としてもよい。特に、手段1に示した発明に、手段2以降の少なくとも1つの発明の少なくとも一部の構成を加えた発明とするとよい。また、手段1から手段13に示した発明から任意の構成を抽出し、抽出された構成を組み合わせてもよい。本願の出願人は、これらの構成を含む発明について権利を取得する意思を有する。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、製造されるレンズにはレンズ面とは不連続の窪んだ模様となる凹部が形成され、なおかつ凹部内は着色されて現れこととなるため、装飾性に優れた染色プラスチックレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は第1のモールドと第2のモールドを並べて配置した状態の断面図、(b)は第1のモールドと第2のモールドを用いた母型の断面図、(c)は(b)の母型で成形されたプラスチックレンズの断面図。
図2】第1のモールドと第2のモールドを間隔を空けて粘着テープで保持して母型を構築する途中状態の斜視図。
図3】実施の形態1において昇華染色で裏面に着色面を形成したプラスチックレンズの断面図。
図4】裏面を研磨した図3のプラスチックレンズの断面図。
図5】公知の研磨機構の要部を説明する模式図。
図6】実施の形態2において(a)は昇華染色で表裏両面に着色面を形成したプラスチックレンズの断面図、(b)は(a)のプラスチックレンズの裏面を研磨した状態の断面図。
図7】実施の形態3において第1のモールドと第2のモールドを用いた母型からプラスチックレンズが成形されることを説明する説明図。
図8】実施の形態3において(a)は昇華染色で表裏両面に着色面を形成したプラスチックレンズの断面図、(b)は(a)のプラスチックレンズの表裏両面を研磨した状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、染色プラスチックレンズの製造方法の具体的な実施の形態について図面に従って説明をする。
(実施の形態1)
実施の形態1はプラスチックレンズの裏面のみに模様となる凹部を形成する例である。
1.モールドによるレンズの成形工程
図1(a)(b)及び図2に示すように、マイナス度数となる眼鏡用のプラスチックレンズ1は第1のモールド2Aと第2のモールド2Bとを組み合わせた母型3によって成形される。図示しない間隔保持装置によって第1のモールド2と第2のモールド3を所定の間隔で保持させた状態で粘着テープ4をそれらの外周に巻回させて固定し、プラスチックレンズ1の形状に対応するキャビティ5が内部に形成された母型3が構成されることとなる。尚、ここでは保持部材として粘着テープ4を使用したが、例えばガスケットを使用することも可能である。
第1のモールド2Aのキャビティ5内側に向いて配置される第1の成形面6には凸部7が形成されている。凸部7は公知のエッチング処理によって形成される。第1の成形面6のカーブは成形されるプラスチックレンズ1のレンズ度数に対応するカーブとなるように構成されている。第2のモールド2Bのキャビティ5内側に向いて配置される第2の成形面8のカーブは成形されるプラスチックレンズ1のベースカーブに対応するカーブとなるように構成されている。尚、図1では誇張して凸部7の突起量が表現されているが、実際には凸部7の突出量は10~30μm程度となる。
図1(b)に示すように、キャビティ5内部に図示しない注入器の針を粘着テープ4に刺してモノマーのようなプラスチック材料Mを充填し、定法に従ってプラスチック材料Mを硬化させ、母型3から離型させて図1(c)のようにプラスチックレンズ1を得る。プラスチックレンズ1の裏面には凸部7によって成形された凹部9が形成されることとなる。
【0014】
2.染色工程
1.の工程で得られたプラスチックレンズ1を昇華染色法で染料をその裏面側に公知の昇華染色法で染色する。昇華染色は染料を染み込ませた紙や染料を塗布した基板の上方にプラスチックレンズ1を載置し、真空雰囲気中でプラスチックレンズ1の下面側に転写させる。そして、その後プラスチックレンズ1を加熱して染料を定着させる。
【0015】
3.研磨工程
2.の工程で得られた裏面が染色され着色面17が形成されたプラスチックレンズ1の着色面17を研磨して除去する工程である。
プラスチックレンズ1は例えば図5に示すような、公知の研磨機構によって研磨される。被研磨側となるプラスチックレンズ1はレンズ固定治具20によってレンズ裏面が下方に向くように取り付けられレンズ固定治具20とともに上下動する。一方、研磨側は研磨パッド21を備えた研磨治具22を揺動装置23の上部に備えている。揺動装置23は回転軸24が回転することで研磨治具22を首振り旋回させながら均等にレンズ裏面を所定の圧力で図示しない研磨剤を用いて研磨する。このときの研磨量は凹部9が消失しない程度であり、10~30μm程度で適宜調整される。
このようにして図4に示すように凹部9のみに着色面17が残ることとなり、プラスチックレンズ1の一部に模様が形成されることとなる。
【0016】
上記のように構成することで実施の形態1では次のような効果が奏される。
(1)プラスチックレンズ1の一部に輪郭が強調された立体感のある模様が形成され、従来のマスキングして模様を設ける場合と異なり、装飾性に優れた染色されたプラスチックレンズ1を提供することができる。
(2)ベースとなるプラスチックレンズ1は第1のモールド2Aと第2のモールド2Bとを組み合わせた母型3によって成形することができるため、同じ模様のプラスチックレンズ1を容易に多数製造することができる。
(3)複数の凹部9を有するプラスチックレンズ1をまとめて昇華染色法で染色できるため、均質に染色されたプラスチックレンズ1を得ることができる。
【0017】
(実施の形態2)
実施の形態2は実施の形態1のバリエーションである。
実施の形態2では実施の形態1の「1.モールドによるレンズの成形工程」については同じであり、図1(c)の凹部9を得るものとする。実施の形態2では「2.染色工程」における蒸着を実行して一旦表裏いずれか片方の面に着色面17を形成した後、反転させてレンズホルダー13にセットして再び蒸着をする。この際に蒸着源として裏面とは異なる色の染料を用いるようにする。
これによって、図6(a)に示すように、プラスチックレンズ1は表面と裏面の両面にそれぞれ色の異なる着色面17を有することとなる。その後、実施の形態1の「3.研磨工程」を実行して裏面のみを研磨することで、図6(b)に示すように表面全域と裏面の凹部9のみに着色面17が形成されることとなる。
このような構成することで、実施の形態2では実施の形態1の効果に加えて、表面の色のカラーレンズを得ることができ、その際に裏面の凹部9が模様となってカラーレンズの色と混色されて現れることとなる。これによって、カラーレンズにおける装飾性が大きく向上する。
【0018】
(実施の形態3)
実施の形態3は実施の形態1及び実施の形態2のバリエーションである。
実施の形態1の「1.モールドによるレンズの成形工程」に準じ、実施の形態3のプラスチックレンズ25は第1のモールド27Aと第2のモールド27Bとを組み合わせた母型28によって成形される。図7に示すように、実施の形態3の母型28も第1のモールド27Aと第2のモールド27Bの外周に粘着テープ4を巻回させて固定され、内部にキャビティ29が形成される。
第1のモールド27Aのキャビティ29内側に向いて配置される第1の成形面30には複数の(2つの)第1の凸部31が形成されている。第1の成形面30のカーブは成形されるプラスチックレンズ25のレンズ度数に対応するカーブで構成されている。第2のモールド27Bのキャビティ29内側に向いて配置される第2の成形面33には第2の凸部34が形成されている。第2の成形面33のカーブは成形されるプラスチックレンズ25のベースカーブに対応するカーブとなるように構成されている。
このような母型28を用いて実施の形態1と同様に成形することで、図7に示すように成形されたプラスチックレンズ25が得られ、その裏面と表面にはそれぞれ第1の凹部35と第2の凹部36が形成される。
次いで、図8(a)に示すように、実施の形態2と同様に染色工程でプラスチックレンズ25の表面と裏面の両面にそれぞれ色の異なる着色面37を形成させる。そして、実施の形態1の「3.研磨工程」に準じてプラスチックレンズ25の表面と裏面の両面を研磨する。尚、表面を研磨する場合には研磨パッドの形状が凸面用となる。このようにプラスチックレンズ25の両面を研磨することで、図8(b)のように第1の凹部35と第2の凹部36のみに着色面37が残ることとなる。模様となる第1の凹部35と第2の凹部36は一方の第2の凹部36が第1の凹部35と重なるように配置されている。
このような構成することで、実施の形態3では実施の形態1の効果に加えて裏面と表面に色の異なる第1の凹部35と第2の凹部36が模様として現れ、かつ第1の凹部35と第2の凹部36の前後に重複する部分では、2色の色が混色されて現れることとなり、装飾的効果が増す。
【0019】
(実施の形態4)
実施の形態4は実施の形態1のバリエーションである。実施の形態1と同様にプラスチックレンズ1の裏面のみに模様となる凹部9を形成する例である。実施の形態4では実施の形態1の「1.モールドによるレンズの成形工程」において第1の成形面6に凸部7が形成されていない第1のモールド2Aを使用して、母型3を構成して凹部9が成形されない公知の通常の「丸レンズ」と称される通常のプラスチックレンズを成形する。
そして、レーザー加工機によって通常のプラスチックレンズに対して凹部9を形成して図1(c)のプラスチックレンズ1を得るようにする。「2.染色工程」、「3.研磨工程」については上記実施の形態1と同じである。実施の形態2でも実施の形態1の効果の(1)と(3)と同等の効果が奏される。
【0020】
上記実施の形態は本発明の原理及びその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態1~4では、すべて真空蒸着による昇華染色でプラスチックレンズ1(25)を染色して着色面17(37)を形成する例を挙げたが、昇華染色ではなく染色液を用意して、その溶液中に凹部9、第1の凹部35、第2の凹部36が形成されたプラスチックレンズ1(25)を浸漬させて染色させてもよく、その後に実施の形態1の「3.研磨工程」に準じて加工するようにしてもよい。
・実施の形態4のレーザー加工機による凹部の形成手法を実施の形態2のプラスチックレンズ1や実施の形態3のプラスチックレンズ25の第1の凹部35と第2の凹部36を形成することに適用するようにしてもよい。
・上記では加工対象とするプラスチックレンズとしてマイナスレンズを例に挙げたが、プラスレンズであってもよい。また、レンズの前駆体としてのセミフィニッシュレンズに適用してもよい。
・上記では眼鏡用のプラスチックレンズに適用したが、眼鏡用以外の例えばルーペに使用するようにしてもよい。
・凹部9、第1の凹部35、第2の凹部36が形成する模様には特に限定はない。
・上記実施の形態1~4のレンズ面にハードコート膜を設けてもよく、ハードコート膜の上に反射防止膜を設けてもよい。
【0021】
本願発明は上記の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素、又は発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材とてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1、25…プラスチックレンズ、9…凹部、17、37…着色面、35…凹部としての第1の凹部、36…凹部としての第2の凹部。
図1
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図5
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図8