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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134677
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20240927BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20240927BHJP
   B60C 11/01 20060101ALI20240927BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20240927BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20240927BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 B
B60C11/13 C
B60C11/01 A
B60C13/00 D
B60C11/03 100B
B60C11/03 B
B60C5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044994
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 ひかる
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC11
3D131BC13
3D131BC19
3D131BC34
3D131BC44
3D131BC51
3D131CB06
3D131EB05U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB27V
3D131EB31X
3D131EB31Y
3D131EB39V
3D131EB39X
3D131EB39Y
3D131EB42V
3D131EB44V
3D131EB46V
3D131EB48X
3D131EB48Y
3D131EB72Y
3D131EB81X
3D131EB81Y
3D131EB87V
3D131EB88X
3D131EB88Y
3D131EB95X
3D131EB95Y
3D131EC12X
3D131EC15X
3D131GA03
3D131LA28
(57)【要約】
【課題】ショルダー陸のヒールアンドトウ摩耗を抑制しつつ、ショルダー主溝に接続されたラグ溝でのポンピング音を低減できるタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤは、トレッド面にてタイヤ周方向に延びる複数の主溝と、その主溝により区画された複数の陸20とを備える。複数の主溝は、それらのうちタイヤ軸方向最外側に位置するショルダー主溝を含み、複数の陸20は、そのショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に隣接して形成されたショルダー陸24を含む。ショルダー陸24は、ショルダー主溝からタイヤ軸方向外側に延びたラグ溝33と、そのラグ溝33の壁面33wからショルダー陸24の内部を通って接地端TEに至るサイプ45とを含む。サイプ45は、ラグ溝33との接続部位に、サイプ45の深さが小さくなるようにサイプ底45Bから隆起した底上げ部分81を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面にてタイヤ周方向に延びる複数の主溝と、前記主溝により区画された複数の陸とを備え、
複数の前記主溝は、それらのうちタイヤ軸方向最外側に位置するショルダー主溝を含み、
複数の前記陸は、前記ショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に隣接して形成されたショルダー陸を含み、
前記ショルダー陸は、前記ショルダー主溝からタイヤ軸方向外側に延びたラグ溝と、前記ラグ溝の壁面から前記ショルダー陸の内部を通って接地端に至るサイプとを含み、
前記サイプは、前記ラグ溝との接続部位に、前記サイプの深さが小さくなるようにサイプ底から隆起した底上げ部分を有するタイヤ。
【請求項2】
前記サイプは、タイヤ周方向に前記ラグ溝から遠ざかる向きに凸となるように湾曲している請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ラグ溝はタイヤ周方向一方側に凸となるように湾曲し、前記サイプはタイヤ周方向他方側に凸となるように湾曲している請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記サイプの前記底上げ部分での深さが前記サイプの最大深さの40%以上である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記サイプが開口する前記ラグ溝の壁面に棚が設けられている請求項1に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記サイプは、前記接地端を横断して延び、前記接地端よりもタイヤ軸方向外側に形成されたディンプルに連接されている請求項1~5いずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ディンプルは前記サイプよりも幅広に形成されている請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記サイプの長さ方向における前記ディンプルの先端が丸みを帯びた形状を有する請求項6に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トレッドのショルダー陸にラグ溝が形成されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に記載されているように、自動車用タイヤでは、ショルダー主溝と隣接したショルダー陸にラグ溝を形成したトレッドパターンが度々採用される。ショルダー主溝にラグ溝が接続されていると、走行時にショルダー主溝での気柱管共鳴音は低減されるが、ラグ溝内に発生した圧縮空気によるポンピング音を低減することが肝要となり、圧縮空気を逃がすための別の溝をラグ溝に接続した場合には、それに起因したショルダー陸の偏摩耗、特にヒールアンドトウ摩耗の発生が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-144653号公報
【特許文献2】特開2018-144656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、ショルダー陸のヒールアンドトウ摩耗を抑制しつつ、ショルダー主溝に接続されたラグ溝でのポンピング音を低減できるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のタイヤは、トレッド面にてタイヤ周方向に延びる複数の主溝と、前記主溝により区画された複数の陸とを備え、複数の前記主溝は、それらのうちタイヤ軸方向最外側に位置するショルダー主溝を含み、複数の前記陸は、前記ショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に隣接して形成されたショルダー陸を含み、前記ショルダー陸は、前記ショルダー主溝からタイヤ軸方向外側に延びたラグ溝と、前記ラグ溝の壁面から前記ショルダー陸の内部を通って接地端に至るサイプとを含み、前記サイプは、前記ラグ溝との接続部位に、前記サイプの深さが小さくなるようにサイプ底から隆起した底上げ部分を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態のタイヤを概略的に示すタイヤ子午線断面図
図2】トレッドパターンを示す展開図
図3】(A)サイプの周辺を示す拡大図、及び、(B)サイプの幅中心線を通るS-S矢視断面図
図4】トレッドパターンを示す展開図
図5】トレッド面の要部を示す拡大図
図6】トレッド面の要部を示す斜視図
図7】サイプの幅中央線に沿った断面図
図8図5のX-X矢視断面図
図9】トレッド面の要部を示す拡大図
図10】トレッドパターンの変形例を示す展開図
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0008】
[タイヤ]
図1に示す本実施形態のタイヤTは、一対のビード1と、そのビード1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール2と、そのサイドウォール2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド3とを備えた自動車用空気入りラジアルタイヤである。ビード1には、環状のビードコア1aが埋設されている。ビードコア1aは、鋼線などの収束体をゴムで被覆して形成されている。ビードコア1aのタイヤ径方向外側には、ビードフィラー1bが配置されている。ビードフィラー1bは、ビードコア1aからタイヤ径方向外側に延びた断面三角形状のゴムにより形成されている。
【0009】
ここで、タイヤ径方向は、タイヤTの直径に沿った方向であり、図1の上下方向に相当する。図1において上側がタイヤ径方向外側となり、下側がタイヤ径方向内側となる。タイヤ軸方向は、タイヤTの回転軸と平行な方向であり、図1の左右方向に相当する。タイヤ赤道TCに近付く側がタイヤ軸方向内側となり、タイヤ赤道TCから離れる側がタイヤ軸方向外側となる。タイヤ赤道TCは、タイヤTのタイヤ軸方向中央に位置し、トレッド平面視においてタイヤ回転軸に直交する仮想線である。タイヤ周方向は、タイヤTの回転軸周りの方向である。
【0010】
タイヤTは、一対のビード1の間に跨ってトロイド状に延在したカーカス4を備える。カーカス4は、ビードコア1a及びビードフィラー1bを挟み込むようにしてタイヤ軸方向の内側から外側に巻き上げられている。カーカス4は、カーカスコードをゴム被覆して形成されたカーカスプライにより形成されている。カーカスコードは、タイヤ周方向に対して交差する方向(例えば、タイヤ周方向に対して75~90度の角度となる方向)に引き揃えられている。カーカスコードの材料には、スチールなどの金属や、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維が好ましく用いられる。
【0011】
タイヤTは、カーカス4のタイヤ径方向外側に積層されたベルト5を備える。ベルト5は、互いに積層された複数(本実施形態では2枚)のベルトプライ5a,5bにより形成されている。ベルトプライ5a,5bは、それぞれベルトコードをゴム被覆して形成されている。ベルトコードは、タイヤ周方向に対して傾斜する方向(例えば、タイヤ周方向に対して20~30度の角度となる方向)に引き揃えられている。ベルトコードの材料には、スチールなどの金属が好ましく用いられる。ベルトプライ5a,5bは、それらの間でベルトコードが互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0012】
タイヤTは、ベルト5のタイヤ径方向外側に積層されたベルト補強材6を備える。ベルト補強材6は、ベルト補強コードをゴム被覆して形成されたベルト補強プライにより形成されている。ベルト補強コードは、タイヤ周方向に対して実質的に平行に引き揃えられている。ベルト補強プライは、例えば、ゴム被覆された1本又は複数本のベルト補強コードをタイヤ周方向に沿ってスパイラル状に巻回することにより形成される。ベルト補強コードの材料には、上述した有機繊維が好ましく用いられる。本実施形態では、ベルト補強材6がベルト5を全面的に覆っているが、ベルト5の両端のみを覆う構造でもよい。
【0013】
タイヤTは、タイヤTの内面に設けられたインナーライナー7を備える。インナーライナー7は、ブチルゴムなどの空気遮蔽性に優れたゴムにより形成されている。インナーライナー7は、タイヤTの内圧を保持する機能を有する。
【0014】
[トレッドパターン]
トレッド3の外周面であるトレッド面3fには、図2に示すトレッドパターンが形成されている。タイヤTは、トレッド面3fにてタイヤ周方向(図2の上下方向に相当)に延びる複数の主溝10と、主溝10により区画された複数の陸20とを備える。主溝10には、図示しないウェアインジケータが設けられている。主溝10は、4mm以上の最大溝幅、及び、5mm以上の最大溝深さを有する。溝幅は、延在方向(長さ方向)と直交する方向における、陸20の表面と溝壁との交点同士の距離として測定される。後述するラグ溝30の溝幅やサイプ40の幅についても同様である。主溝10はストレート溝であるが、これに限られず、ジグザグ溝であってもよい。
【0015】
上述した主溝10、後述するラグ溝30やサイプ40などの寸法は、正規リムに装着したタイヤTに正規内圧を充填した無負荷状態にて測定される。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば“Measuring Rim”である。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤ、ライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。乗用車用タイヤの場合は通常180kPaとするが、Extra Load、又は、Reinforcedと記載されたタイヤの場合は220kPaとする。
【0016】
本実施形態では、トレッド面3fに3つの主溝10が設けられており、その3つの主溝10によって4つの陸20が区画されている。3つの主溝10は、それらのうちタイヤ軸方向最外側に位置する一対のショルダー主溝11,13と、その一対のショルダー主溝11,13の間に位置するセンター主溝12とを含む。センター主溝12は、タイヤ赤道TC上に設けられている。4つの陸20は、ショルダー主溝11,13のタイヤ軸方向外側に隣接して形成された一対のショルダー陸21,24と、ショルダー主溝11,13のタイヤ軸方向内側に隣接して形成された一対のクオーター陸22,23とを含む。
【0017】
ショルダー陸21,24は、それぞれ接地端TEを含んでいる。接地端TEは、正規リムに装着したタイヤTに正規内圧を充填して平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面のタイヤ軸方向の最外位置である。正規荷重とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば“最大負荷能力”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。タイヤが乗用車用の場合には、前記荷重の88%に相当する荷重である。タイヤがレーシングカート用の場合、正規荷重は392Nである。
【0018】
複数の陸20の各々には、ラグ溝30(ラグ溝31~33)と、切り込み状のサイプ40(サイプ41~45)が形成されており、これらはタイヤ周方向と交差する方向に延びている。ラグ溝30は、1.5mmを超える溝幅を有し、好ましくは1.8mm以上の最大溝幅を有する。ラグ溝30は、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは4.4mm以上の最大溝深さを有する。ラグ溝30の最大溝深さは、主溝10の最大溝深さと同等かそれ以下である。サイプ40は、1.5mm以下の最大幅を有する。サイプ40は、好ましくは2.0mm以上、より好ましくは3.0mm以上の最大深さを有する。サイプ40の最大深さは、ラグ溝30の最大深さと同等かそれ以下である。
【0019】
本実施形態では、タイヤ赤道TCに関して非対称なトレッドパターンが形成されている。タイヤTは、車両に対する装着方向が指定された装着方向指定型タイヤである。内側領域INは、タイヤ赤道TCを基準として車両装着時に車両内側(イン側)となる領域であり、外側領域OUTは、タイヤ赤道TCを基準として車両装着時に車両外側(アウト側)となる領域である。ショルダー陸21、ショルダー主溝11及びクオーター陸22は、それぞれ内側領域INに設けられている。クオーター陸23、ショルダー主溝13及びショルダー陸24は、それぞれ外側領域OUTに設けられている。
【0020】
タイヤTの外表面には、車両に対する装着方向を指定する表示が設けられている。装着方向の指定は、例えば、車両装着時に車両内側に配置されるサイドウォール2の外表面に車両内側となる旨の表示(例えば、「INSIDE」)を設けることにより、及び/又は、車両装着時に車両外側に配置されるサイドウォール2の外表面に車両外側となる旨の表示(例えば、「OUTSIDE」)を設けることにより行われる。尚、タイヤTは、装着方向指定型タイヤに限られず、したがってタイヤ赤道TCに関して対称なトレッドパターンが形成されていてもよい。
【0021】
[外側領域のショルダー陸]
上述のように、複数の主溝10は、それらのうちタイヤ軸方向最外側に位置するショルダー主溝13を含み、複数の陸20は、そのショルダー主溝13のタイヤ軸方向外側に隣接して形成されたショルダー陸24を含む。ショルダー陸24は、ショルダー主溝13からタイヤ軸方向外側に延びたラグ溝33と、そのラグ溝33の壁面からショルダー陸24の内部を通って接地端TEに至るサイプ45とを含む。ラグ溝33及びサイプ45は、それぞれ接地端TEを横断している。本実施形態において、ラグ溝33には、ショルダー主溝13以外の溝は接続されておらず、サイプ45以外のサイプは接続されていない。
【0022】
このタイヤTでは、走行時にショルダー主溝13での気柱管共鳴音が低減される。しかも、ラグ溝33に接続されたサイプ45が圧縮空気の逃げ道になり得るため、ラグ溝33内に発生した圧縮空気によるポンピング音を低減できる。一方で、ラグ溝33にサイプ45が接続されていることにより、それらの接続部位、特にはラグ溝33とサイプ45とがなす鋭角部分24s(図3参照)の剛性が相対的に低くなるため、それに起因したショルダー陸24の偏摩耗、特にヒールアンドトウ摩耗の発生が懸念される。
【0023】
図3(A)は、サイプ45の周辺を示す拡大図であり、図3(B)は、そのサイプ45の幅中心線CLを通るS-S矢視断面図である。説明の便宜上、タイヤ軸方向の内側と外側、並びに、タイヤ周方向の一方側と他方側を表す矢印AD1,AD2,CD1,CD2を示している。サイプ45は、ラグ溝33との接続部位に、サイプ45の深さが小さくなるようにサイプ底45Bから隆起した底上げ部分81を有する。これにより、底上げ部分81で鋭角部分24sを補強して、ショルダー陸24のヒールアンドトウ摩耗を抑制することができる。ショルダー陸24には、このようなラグ溝33とサイプ45とがタイヤ周方向に沿って交互に配置されている。
【0024】
サイプ45は、ラグ溝33との接続部位からタイヤ軸方向外側AD2へ向かって、ラグ溝33から次第に遠ざかるようにして延在している。本実施形態において、サイプ45は、タイヤ周方向にラグ溝33から遠ざかる向き(タイヤ周方向他方側CD2)に凸となるように湾曲している。これにより、ラグ溝33とサイプ45とがなす鋭角部分24sの角度が僅かでも大きくなるため、ヒールアンドトウ摩耗を抑制するうえで都合がよい。また、この例では、ラグ溝33がタイヤ周方向一方側CD1に凸となるように湾曲し、サイプ45がタイヤ周方向他方側CD2に凸となるように湾曲しており、上記の観点からヒールアンドトウ摩耗を抑制するうえで更に都合がよい。
【0025】
底上げ部分81は、サイプ底45Bから実質的に一定の隆起高さで延びる平坦部分81tを有する。サイプ45の底上げ部分81での深さD45aは、ラグ溝33の深さよりも小さい。ラグ溝33内に発生した圧縮空気の逃げ道としてサイプ45を機能させる観点から、深さD45aは2.0mm以上であることが好ましい。サイプ45の長さ方向に沿って深さD45aが変化する場合は、その最小値が2.0mm以上であることが好ましい。ラグ溝33内の圧縮空気を円滑にサイプ45へ逃がすうえで、深さD45aはサイプ45の最大深さD45mの40%以上であることが好ましい。サイプの最大深さD45mは、例えば4.0mm以上に設定される。
【0026】
底上げ部分81による補強効果を適度に奏する観点から、底上げ部分81の長さL81はサイプ45の全体長さL45の15%以上であることが好ましい。また、サイプ45の容積を確保してポンピング音の低減効果を適度に奏する観点から、長さL81は全体長さL45の30%以下であることが好ましい。サイプ45の全体長さL45は、相対的にタイヤ軸方向内側AD1に位置する一端から、相対的にタイヤ軸方向外側AD2に位置する他端までの直線距離として求められる。サイプ45の他端には、後述するディンプル70が連接されている。
【0027】
底上げ部分81のタイヤ軸方向外側AD2には、サイプ45の深さが最大となる最大深さ部分82が設けられている。底上げ部分81と最大深さ部分82との間には、タイヤ軸方向外側AD2に向かってサイプ底45Bからの隆起高さを漸減させた斜面部分84が設けられている。斜面部分84は、平坦部分81tと最大深さ部分82でのサイプ底45Bとを滑らかに接続する斜面84fを有する。最大深さ部分82のタイヤ軸方向外側AD2には、中央補強部分85を挟んで、サイプ45の深さが最大となる最大深さ部分83が設けられている。
【0028】
中央補強部分85は、サイプ45の深さが小さくなるようにサイプ底45Bから隆起し、サイプ45の長さ方向中央部を補強する。中央補強部分85は、サイプ底45Bから実質的に一定の隆起高さで延びる平坦部分85tと、その両側に位置する一対の側面85sとを有する。平坦部分85tの長さL85は、例えば全体長さL45の8~15%に設定される。側面85sは、タイヤ径方向内側に向けて凸となる円弧状に形成されている。サイプ45の中央補強部分85での深さD45bは深さD45aよりも大きく、サイプ45の容積を確保してポンピング音を低減するうえで都合がよい。深さD45bは、例えば最大深さD45mの60%以上である。
【0029】
サイプ45の他端は、後述するディンプル70の深さに対応した深さD45cを有する。最大深さ部分83とディンプル70との間には、タイヤ軸方向外側AD2に向かってサイプ底45Bからの隆起高さを漸増させた斜面部分86が設けられている。斜面部分86は、最大深さ部分83でのサイプ底45Bとディンプル70の底とを滑らかに接続する斜面86fを有する。このため、サイプ45とディンプル70との間の段差が減少し、クラックの発生を防止するうえで都合がよい。
【0030】
この例では、底上げ部分81がサイプ45の一端のみに設けられており、他端には設けられていないため、接地端TE側への排水がしやすくなり、排水性能の向上に寄与できる。但し、これに限られるものではなく、サイプ45の一端に加えて他端にも底上げ部分81を設けても構わない。かかる構成によれば、サイプ45と接地端TEとがなす鋭角部分を補強できるため、ヒールアンドトウ摩耗の抑制効果が得られる。
【0031】
サイプ45は、接地端TEを横断して延び、接地圧TEよりもタイヤ軸方向外側AD2に形成されたディンプル70に連接されている。かかる構成によれば、サイプ45を通じて空気を逃がしやすくなり、ポンピング音の低減効果を向上できる。また、隣り合うラグ溝33間の領域の柔軟性が増すため、ショルダー陸24における接地性を向上できる。ディンプル70付近のクラックの発生を防止する観点から、本実施形態のようにディンプル70は接地端TEと交差しない位置に形成されていることが好ましい。ディンプル70の深さは、例えば0.5~1.0mmである。後述するサイプ41にも同様のディンプル70が連接されている。
【0032】
ディンプル70はサイプ45よりも幅広に形成されている。即ち、ディンプル70の幅W70(最大幅)はサイプ45の幅W45よりも大きい。このようにディンプル70が幅広に形成されていることは、ポンピング音を低減するうえで有益である。この例では、サイプ45の長さ方向におけるディンプル70の先端70eが丸みを帯びた形状を有しており、ディンプル70で空気を流れやすくしてポンピング音を低減するうえで都合がよい。ディンプル70は、タイヤ軸方向における両端部で相対的に幅狭となり、中央部で相対的に幅広となる三日月形状に形成されているが、これに限られない。例えば、ディンプル70を円形状またはサイプ45の長さ方向に長い楕円形状に形成してもよい。
【0033】
本実施形態では、サイプ45が開口するラグ溝33の壁面33wに棚33sが設けられている。棚33sは、ラグ溝33の壁面33wとショルダー陸24の表面とがなす溝縁に形成されている。かかる構成によれば、タイヤ新品時の接地性を向上することができる。棚33sの幅は、例えば0.3~1.0mmである。棚33sの深さは、例えば0.5~1.5mmである。
【0034】
本実施形態では、上記のようなラグ溝33とサイプ45との組合せが外側領域OUTのショルダー陸24に設けられている例を示したが、これに限られず、内側領域INのショルダー陸に設けられていたり、両方のショルダー陸に設けられていたりしてもよい。
【0035】
[一対のショルダー陸]
既述の通り、複数の陸20は、タイヤ軸方向の一方側の接地端TEを含む第1のショルダー陸としてのショルダー陸21と、タイヤ軸方向の他方側の接地端TEを含む第2のショルダー陸としてのショルダー陸24とを含む。ショルダー陸21は、タイヤ周方向に凸となるように湾曲した第1のサイプとしてのサイプ41を含む。ショルダー陸24は、タイヤ周方向にサイプ41と同じ向きに凸となるように湾曲した第2のサイプとしてのサイプ45を含む。サイプ41及びサイプ45は、それぞれ図2において下向きに凸となるように湾曲している。サイプ41の幅中央を通る円弧の中心は、そのサイプ41のタイヤ周方向一方側(図2の上側)に位置しており、サイプ45もこれと同様である。
【0036】
図4に示すように、このタイヤTでは、少なくとも接地端TEのタイヤ軸方向内側の領域SAにおいて、サイプ41と交差するタイヤ軸方向に平行な仮想ラインVLがサイプ45と交差することがないよう、サイプ41とサイプ45とがタイヤ周方向に位置ずれしている。図4には、2本の仮想ラインVLを示している。そのうち一方は、サイプ41の開口端41aを通っており、もう一方はサイプ41と接地端TEとの交点を通っている。領域SA内でサイプ41と交差する仮想ラインVLであれば、何処に設定してもサイプ45と交差することはない。別の言い方をすると、領域SA内のサイプ41及びサイプ45はタイヤ軸方向視において互いにオーバーラップしない。
【0037】
本実施形態では、ショルダー陸21に含まれるサイプ41とショルダー陸24に含まれるサイプ45とが、タイヤ周方向の同じ向きに凸となるように湾曲しているものの、それらは上記のようにタイヤ周方向に位置ずれしている。これにより、サイプ41,45に起因したパターンノイズを抑制することができる。また、本実施形態では、後述するように外側領域OUTのショルダー陸24に含まれるラグ溝33が湾曲しており、サイプ45はタイヤ周方向にラグ溝33とは逆向きに凸となるように湾曲している。このため、同じ向きに湾曲している場合に比べてピッチノイズの周波数が分散しやすく、転舵時のピッチノイズが抑えられる。
【0038】
サイプ41の曲率半径SR1は、サイプ45の曲率半径SR2とは異なることが好ましい。これにより、一方のサイプ(本実施形態ではサイプ41)では曲がり具合が相対的に小さく直線形状に近付き、他方のサイプ(本実施形態ではサイプ45)では曲がり具合が相対的に大きくなる。タイヤ周方向の位置ずれに加えて、このように曲率を異ならせることにより、サイプ41,45に起因したパターンノイズを効果的に抑制できる。曲率半径SR1と曲率半径SR2との差は、例えば60mm以上である。曲率半径SR1,SR2は、それぞれ領域SA内においてサイプ41,45の幅中央を通る円弧の曲率半径として求められる。
【0039】
本実施形態では、車両装着時に車両内側に位置するサイプ41の曲率半径SR1よりも、車両装着時に車両外側に位置するサイプ45の曲率半径SR2が小さい(SR1>SR2)。これにより、外側領域OUTに設けられたサイプ45では、そのタイヤ軸方向外側の部分においてタイヤ周方向に対する角度が大きくなるため、偏摩耗を抑制できる。
【0040】
ショルダー陸21はラグ溝31とサイプ41とを含み、それらがタイヤ周方向に沿って交互に配置されている。ラグ溝31は、ショルダー主溝11から離隔しており、主溝10には連通していない。ラグ溝31は、陸内で閉塞する閉塞端31aからタイヤ軸方向外側に延びて接地端TEを横断している。ラグ溝31は、タイヤ周方向に凸となるように湾曲している。サイプ41は、タイヤ周方向にラグ溝31と同じ向きに凸となるように湾曲している。サイプ41は、ショルダー主溝11に開口する開口端41aからタイヤ軸方向外側に延びて接地端TEを横断している。ショルダー陸21には、サイプ41以外のサイプ40は形成されていない。
【0041】
ショルダー陸21の偏摩耗を抑制する観点から、ショルダー陸21の幅中央位置(最大幅の中央位置)におけるラグ溝31とサイプ41との間隔G21(図9参照)は実質的に一定であることが好ましい。具体的には、間隔G21の最小値が最大値の85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ショルダー陸21の幅中央位置は、ショルダー陸21の表面とショルダー主溝11の溝壁とがなす溝縁から接地端TEまでのタイヤ軸方向距離の半分となる位置として求められる。
【0042】
ショルダー陸24はラグ溝33とサイプ45とを含み、それらがタイヤ周方向に沿って交互に配置されている。ラグ溝33は、ショルダー主溝11に開口する開口端33aからタイヤ軸方向外側に延びて接地端TEを横断している。ラグ溝33は、タイヤ周方向に凸となるように湾曲している。サイプ45は、タイヤ周方向にラグ溝33とは逆向きに凸となるように湾曲している。サイプ45は、ショルダー主溝13から離隔しており、ラグ溝33に接続されている。サイプ41及びサイプ45の幅は、例えば0.5~1.2mmである。一例において、サイプ41及びサイプ45の幅は1.0mm以下であるが、好ましくは0.8mm以下であり、より具体的には0.6mmである。
【0043】
本実施形態において、車両装着時に車両内側に位置するサイプ41は主溝10(即ち、ショルダー主溝11)に接続され、車両装着時に車両外側に位置するサイプ45は主溝10から離隔している。これにより、内側領域INのショルダー陸21では、サイプ41がショルダー主溝11から水を取り込むことによっても除水作用を発揮し得るため、排水性能が高められる。ラグ溝31は主溝10に連通していないため、かかるサイプ41の構造は一層有益である。また、外側領域OUTのショルダー陸24では、サイプ45による陸剛性の低下が抑えられるため、旋回時の操縦安定性能を確保するうえで都合がよい。
【0044】
本実施形態では、サイプ41とディンプル70とがなす第1の連接体71と交差するタイヤ軸方向に平行な仮想ラインVL´が、サイプ45とディンプル70とがなす第2の連接体72と交差することがないよう、第1の連接体71と第2の連接体72とがタイヤ周方向に位置ずれしている。これにより、サイプ41,45に起因したパターンノイズを更に効果的に抑制できる。第1の連接体71と交差する仮想ラインVL´であれば、何処に設定しても第2の連接体72と交差することはない。別の言い方をすると、第1の連接体71及び第2の連接体72はタイヤ軸方向視において互いにオーバーラップしない。
【0045】
[外側領域のクオーター陸]
図5,6に示すように、クオーター陸23は、サイプ44と、そのサイプ44よりも浅く形成された浅溝50とを含む。サイプ44は、主溝10(具体的にはショルダー主溝13)に開口する開口端44aと、陸内で閉塞する閉塞端44bとを有する。即ち、サイプ44は、ショルダー主溝13に開口したセミクローズド構造を有する。浅溝50は、トレッド平面視においてサイプ44を包囲するように延在しつつ、開口端44aが開口する主溝10に接続されている。このようなサイプ44とそれを包囲する浅溝50とが、タイヤ周方向に繰り返し形成されている。浅溝50は、クオーター陸23を区画する一対の主溝12,13のうち主溝13のみに接続され、主溝12には接続されていない。浅溝50はラグ溝30やサイプ40にも接続されていない。
【0046】
サイプ44は、主溝13から水を取り込むことによって除水作用を発揮し得るが、上記の如き浅溝50を設けることにより、そのサイプ44に沿って流れる周囲の水を更に取り込んで除水作用を高めることができ、延いては排水性能や湿潤路面での操縦安定性能を向上できる。また、浅溝50を設けることによりサイプ44のエッジ周辺の柔軟性が増し、路面にフィットしやすくなる(接地性が向上する)ため、湿潤路面での操縦安定性能を確保するうえで都合がよく、湿潤路面での制動性能の向上に寄与し得る。但し、サイプ44のエッジ周辺が動き過ぎると、却って接地性が悪化する恐れがあるため、浅溝50はサイプ44よりも浅く形成されている。
【0047】
図7に示すように、本実施形態ではサイプ44の深さが延在方向において変化している。サイプ44は、開口端44aから閉塞端44bに向けて相対的に大きい深さD44aで延びた基幹部と、閉塞端44bから開口端44aに向けて相対的に小さい深さD44bで延びた先端部と、それらを繋ぐように深さを次第に変化させた中間部とを有する。一例において、深さD44aは6.5mm、深さD44bは3mmである。本実施形態において、浅溝50の溝深さD50(図8参照)は、サイプ44の最小深さD44bよりも小さく設定されているが、サイプ44の最大深さD44aよりも小さく設定されていればよい。
【0048】
図8は、図5のX-X矢視断面図である。サイプ44による除水作用を高める観点から、サイプ44は1.0mm以上の幅W44を有することが好ましい。サイプ44は、浅溝50で包囲されていない他のサイプ40、例えば同じクオーター陸23に形成されたサイプ43よりも幅広に形成されていることが好ましい。一例において、サイプ43の幅が0.6mmであるのに対して、サイプ44の幅W44は1.5mmである。サイプ44は、深さ方向に沿って形状が変化しない二次元サイプとして形成されているが、これに限られず、深さ方向に沿って形状が変化する部分を含んだ三次元サイプとしてもよい。
【0049】
本実施形態では、浅溝50が一定の溝深さD50で延びている。浅溝50による改善効果を確保するうえで、溝深さD50は0.8mm以上が好ましい。接地性の悪化を抑える観点から、溝深さD50は1.5mm以下が好ましい。浅溝50の溝幅W50は、例えば0.5~1.0mmである。溝幅W50はサイプ44の幅W44よりも小さいが、これに限られない。陸20の表面と浅溝50の溝壁とがなす溝縁50Eの輪郭は円弧で形成されており、これによってエッジ圧を下げることができる。この円弧の曲率半径Rは、例えば0.3mm以上である。一例において、溝深さD50は1.0mm、溝幅W50は0.8mm、曲率半径Rは0.3mmである。
【0050】
浅溝50による改善効果を確保するうえで、サイプ44の幅方向におけるサイプ44と浅溝50との間隔G1は、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1.0mm以下である。また、接地性の悪化を抑える観点から、間隔G1は0.8mm以上が好ましい。一例において、間隔G1は1.0mmである。本実施形態では、サイプ44とショルダー主溝13とがなす鋭角部分を除いて、間隔G1は実質的に一定である。鋭角部分では、後述する棚23s(または面取り)に干渉しないよう、浅溝50がサイプ44から遠ざかっている。サイプ44の幅中央線に沿って測定される、サイプ44の延長方向における閉塞端44bと浅溝50との間隔G2(図5参照)は、例えば5.0~10.0mmである。
【0051】
上記の如きサイプ44とそれを包囲する浅溝50は、少なくとも1つの陸20に含まれていればよい。既述の通り、本実施形態では、それらがクオーター陸23に含まれている例を示す。タイヤ軸方向外側に向けて開口するサイプ44及び浅溝50がクオーター陸23に含まれているので、ショルダー主溝13における排水性能を向上できる。但し、これに限られず、このようなサイプ44及び浅溝50は、センター主溝12に接続されていてもよい。また、サイプ44及び浅溝50は、ショルダー陸21,24や後述するセンター陸25に含まれていてもよい。
【0052】
本実施形態では、サイプ44及び浅溝50を含む陸20(即ち、クオーター陸23)が、タイヤ周方向に連続して延びるリブとして設けられている。本実施形態において、クオーター陸23はラグ溝30を含んでいない。クオーター陸23がリブであることにより、サイプ44及び浅溝50を含みながらも陸剛性の低下が抑えられるため、操縦安定性能を確保するうえで都合がよい。但し、これに限られず、このようなサイプ44及び浅溝50を含む陸は、複数のブロックがタイヤ周方向に配列されたブロック列であってもよい。
【0053】
本実施形態では、サイプ44及び浅溝50が外側領域OUTに設けられている例を示す。ラグ溝30ではなくサイプ44及び浅溝50によって排水性能の向上を図ることにより、外側領域OUTにおける陸剛性の低下が抑えられるため、操縦安定性能を確保するうえで都合がよい。また、サイプ44及び浅溝50が主溝10に開口することにより、タイヤ周方向に沿った接地長が長くなって接地圧が下がるため、外側領域OUTの接地性を確保しやすくなる。但し、これに限られず、このようなサイプ44及び浅溝50が内側領域INに設けられていてもよい。
【0054】
図5,6のように、浅溝50は、サイプ44からタイヤ周方向一方側に離隔した第1溝部51と、サイプ44からタイヤ周方向他方側に離隔した第2溝部52と、閉塞端44bからサイプ44の延長方向に離隔した第3溝部53とを有する。第1溝部51及び第2溝部52は、それぞれ主溝13に開口している。主溝13の溝壁と陸20の表面とがなす溝縁には棚13sが形成されているため、主溝13からサイプ44及び浅溝50へ水を取り込みやすい。棚13sの幅は、例えば0.3~1.0mmである。棚13sの深さは、例えば0.5~1.5mmである。棚13sの深さは、浅溝50の溝深さD50と同じかそれ以上であることが好ましい。
【0055】
浅溝50は、第1溝部51と第3溝部53との間、及び、第2溝部52と第3溝部53との間に設けられた隔壁54を有する。浅溝50は、タイヤTの加硫成形に用いる金型のタイヤ成形面に設けられた突条によって形成され、その突条は、隔壁54に対応する位置で分断された形状を有する。突条を含むタイヤ成形面は、アルミニウム材を鋳造して作製されることが一般的である。突条を分断してその長さを短くしていることにより、鋳造時の収縮に伴う突条の波打ちが抑制され、延いては浅溝50を適切に形成できる。また、突条の分断箇所は、タイヤTを加硫成形する際にエアが通行可能なバイパスとして機能するので、加硫成形不良を低減するのに役立つ。
【0056】
浅溝50は、隔壁54を有することにより、トレッド平面視において屈曲する溝部を有していない。第1溝部51、第2溝部52及び第3溝部53は、それぞれトレッド平面視において屈曲しておらず、単純な直線状または曲線状に形成されている。このため、浅溝50内のエアの滞留を抑制して、気柱管共鳴音の低減に寄与することができる。隔壁54の厚みT54は、例えば0.5~1.0mmである。一例において、厚みT54は0.8mmである。隔壁54は、第3溝部53の延在方向に延びているが、これに限られず、例えば第1溝部51や第2溝部52の延在方向に延びていてもよい。浅溝50は隔壁54を有しない構造でもよい。
【0057】
本実施形態において、サイプ44は、閉塞端44bから開口端44aに向かってタイヤ周方向に対する角度を漸増させながら湾曲して延びている。かかる構成によれば、主溝13に対してサイプ44を適度な角度で接続しつつ、タイヤTの転動時にサイプ44のエッジが一斉に接地することを防いでパターンノイズを低減できる。サイプ44は、トレッド平面視において曲率半径が異なる複数の円弧を連ねた形状を有する。閉塞端44bを含むサイプ44の先端部は相対的に曲率半径の小さい円弧で構成され、開口端44aを含むサイプ44の基幹部は相対的に曲率半径の大きい円弧で構成されている。但し、これに限られず、サイプ44は単一の円弧で構成されていてもよい。
【0058】
第1溝部51及び第2溝部52は、それぞれサイプ44に沿って湾曲している。サイプ44の湾曲の外周側に位置する第1溝部51は、サイプ44の閉塞端44bを越えてタイヤ周方向に延びており、第3溝部53はタイヤ軸方向に対して傾斜して延びている。サイプ44は、湾曲した形状に限られず、例えば直線的に延びた形状であってもよい。第1溝部51及び第2溝部52は、トレッド平面視においてサイプ44に倣った形状を有することが好ましいが、これに限られない。但し、サイプ44に対して浅溝50が付かず離れずの位置関係となるよう、上述した間隔G1が0.8~1.5mmの範囲内であることが望ましい。
【0059】
本実施形態では、サイプ44とショルダー主溝13とがなす鋭角部分に棚23sが設けられている。これにより、剛性の低い鋭角部分が優先的に摩耗する形態のヒールアンドトウ摩耗を抑制できる。棚23sの深さは、例えば1.5~3.0mmである。棚23sの深さは、棚13sの深さ以上に設定される。棚23sは、トレッド平面視で三角形状に形成されている。鋭角部分には、棚23sの代わりに、図示しない面取りが設けられていてもよい。面取りは、例えば、鋭角部分の先端に向かって深さを漸増させた傾斜面やテーパ面によって形成される。
【0060】
クオーター陸23では、タイヤ周方向に沿ってサイプ43とサイプ44とが千鳥状に配置されており、それらがタイヤ周方向視においてオーバーラップしている。サイプ43は、センター主溝12に開口したセミクローズド構造を有する。サイプ43は、タイヤ軸方向に対して傾斜して延在している。サイプ43は、サイプ44の基幹部や第3溝部53と同じ向きに傾斜している。また、クオーター陸23には、ディンプル60が設けられている。ディンプル60は、サイプ43と浅溝50(の第1溝部51)との間に配置されている。ディンプル60が設けられていることにより、クオーター陸23内の剛性差を軽減して剛性バランスを良化できる。
【0061】
ディンプル60の深さは、サイプ44の先端部の深さ(前述した深さD44b)と同等であることが好ましく、より具体的には、それらのうち相対的に大きい深さに対する相対的に小さい深さの比率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。かかる構成によれば、サイプ44の先端部とディンプル60とが略同じ時期に摩耗で消滅するため、見かけの偏摩耗状態が目立たなくなる。ディンプル60は、トレッド平面視において、サイプ44の延長方向に沿って先細りとなる形状を有する。これによりディンプル60の溝容積を減らし、ディンプル60に起因したパターンノイズを抑制できる。
【0062】
[内側領域のクオーター陸]
図9に示すように、クオーター陸22とクオーター陸23とは1本のセンター主溝12を挟んでタイヤ軸方向に隣接している。クオーター陸22は、ラグ溝32とサイプ42とを含む。ラグ溝32は、ショルダー主溝11に開口したセミクローズド構造を有する。即ち、ラグ溝32は、ショルダー主溝11に開口する開口端32aと、陸内で閉塞する閉塞端32bとを有する。サイプ42は、センター主溝12に開口したセミクローズド構造を有する。即ち、サイプ42は、センター主溝12に開口する開口端42aと、陸内で閉塞する閉塞端42bとを有する。ラグ溝32とサイプ42とはタイヤ周方向に千鳥状に配置されており、これらはタイヤ周方向視においてオーバーラップしている。
【0063】
クオーター陸22では、ラグ溝32とサイプ42とがタイヤ周方向に千鳥状に配置されているので、陸剛性(リブ剛性)の均一化を図って偏摩耗の抑制に寄与し得る。陸剛性の均一化の観点から、クオーター陸22の幅中央位置(最大幅の中央位置)におけるラグ溝32とサイプ42との間隔G22は実質的に一定であることが好ましい。具体的には、間隔G22の最小値が最大値の90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。ショルダー主溝11に開口したラグ溝32がクオーター陸22に形成されていることは、ラグ溝31と連通しないショルダー主溝11での排水性能を確保するのに役立つ。
【0064】
ラグ溝32は、閉塞端32bに向かって先細りに形成されている。このため、陸剛性の急激な変化を抑えながら、クオーター陸22のタイヤ赤道TC側部分の陸剛性を確保しやすい。ショルダー陸21に含まれるラグ溝31においても同様である。ラグ溝32は、ショルダー主溝11のみに接続されており、他のラグ溝30やサイプ40には接続されていない。サイプ42は、センター主溝12のみに接続されており、他のラグ溝30やサイプ40には接続されていない。クオーター陸22には、ラグ溝32とサイプ42のみが形成されている。
【0065】
ラグ溝32は、タイヤ周方向に凸となるように湾曲している。ラグ溝32は、図9において下向きに凸となるように湾曲している。ラグ溝32の溝幅中央を通る円弧の中心は、そのラグ溝32のタイヤ周方向一方側(図9の上側)に位置している。また、サイプ42は、タイヤ周方向にラグ溝32と同じ向きに凸となるように湾曲している。かかる構成によれば、ラグ溝32とサイプ42との間隔のタイヤ軸方向における急激な変化を抑えることで、クオーター陸22の陸剛性の均一化を図ることができる。
【0066】
サイプ42は、主溝10(具体的にはセンター主溝12)を介してサイプ43と滑らかに連続している。かかる構成によれば、サイプ42とサイプ43とがタイヤ周方向に適度に位置ずれするため、パターンノイズを抑制するうえで都合がよい。尚、主溝10を介して2本のサイプ40(またはラグ溝30)が滑らかに連続しているとは、一方をその長さ方向に延長した仮想線と、他方をその長さ方向に延長した仮想線とが、主溝10内において重複するか、あるいはタイヤ周方向における離間距離が10.0mm以下となるように近接する態様を指す。図9の例では、サイプ42,43の幅中央を通る仮想線L42,L43が主溝10内で近接している。
【0067】
ラグ溝32は、主溝10(具体的にはショルダー主溝11)を介してラグ溝31と滑らかに連続している。かかる構成によれば、ラグ溝31とラグ溝32とがタイヤ周方向に適度に位置ずれするため、パターンノイズを抑制するうえで都合がよい。図9の例では、ラグ溝31,32の溝幅中央を通る仮想線L31,L32が主溝10内で重複している。サイプ42は、主溝10(具体的にはショルダー主溝11)を介してサイプ41と滑らかに連続している。かかる構成によれば、サイプ41とサイプ42とがタイヤ周方向に適度に位置ずれするため、パターンノイズを抑制するうえで都合がよい。図9の例では、サイプ41,42の幅中央を通る仮想線L41,L42が主溝10内で重複している。
【0068】
[トレッドパターンの変形例]
前述の実施形態では、トレッド面3fに3つの主溝10が設けられた例を示したが、これに限られず、主溝10の本数は2つ、4つ又は5つ以上でもよい。図10は、トレッド面3fに4つの主溝が設けられ、それにより5つの陸20が区画された例である。4つの主溝10は、一対のショルダー主溝11,13と、それらの間に位置する一対のセンター主溝12,14とを含む。5つの陸20は、一対のショルダー陸21,24と、一対のクオーター陸22,23と、一対のセンター主溝12,14の間に形成されたセンター陸25とを含む。センター陸25は、タイヤ赤道TC上に設けられている。センター陸25には、タイヤ周方向に沿ってラグ溝34とラグ溝35とが千鳥状に配置されている。
【0069】
本実施形態のタイヤTは、ショルダー陸24を上記の如く構成したこと以外は、通常の空気入りタイヤと同等であり、従来公知の材料、形状、構造などが何れも採用できる。ショルダー陸24以外の陸(即ち、ショルダー陸21、クオーター陸22,23及びセンター陸25)の構造は特に制約されず、種々の構造を採用可能である。
【0070】
[1]
上記の通り、本実施形態のタイヤTは、トレッド面3fにてタイヤ周方向に延びる複数の主溝10と、その主溝10により区画された複数の陸20とを備える。複数の主溝10は、それらのうちタイヤ軸方向最外側に位置するショルダー主溝13を含み、複数の陸20は、ショルダー主溝13のタイヤ軸方向外側に隣接して形成されたショルダー陸24を含む。ショルダー陸24は、ショルダー主溝13からタイヤ軸方向外側に延びたラグ溝33と、そのラグ溝33の壁面33wからショルダー陸24の内部を通って接地端TEに至るサイプ45とを含む。サイプ45は、ラグ溝33との接続部位に、サイプ45の深さが小さくなるようにサイプ底45Bから隆起した底上げ部分81を有する。これにより、ショルダー陸24のヒールアンドトウ摩耗を抑制しつつ、ショルダー主溝13に接続されたラグ溝33でのポンピング音を低減できる。
【0071】
[2]
上記[1]のタイヤTにおいて、サイプ45は、タイヤ周方向にラグ溝33から遠ざかる向きに凸となるように湾曲していることが好ましい。かかる構成は、ショルダー陸24のヒールアンドトウ摩耗を抑制するうえで都合がよい。
【0072】
[3]
上記[2]のタイヤTにおいて、ラグ溝33はタイヤ周方向一方側に凸となるように湾曲し、サイプ45はタイヤ周方向他方側に凸となるように湾曲していることが好ましい。かかる構成は、ショルダー陸24のヒールアンドトウ摩耗を抑制するうえで都合がよい。
【0073】
[4]
上記[1]~[3]いずれか1つのタイヤTにおいて、サイプ45の底上げ部分81での深さD45aがサイプ45の最大深さD45mの40%以上であることが好ましい。かかる構成は、ラグ溝33内の圧縮空気をサイプ45へ円滑に逃がすうえで都合がよい。
【0074】
[5]
上記[1]~[4]いずれか1つのタイヤTにおいて、サイプ45が開口するラグ溝33の壁面33wに棚33sが設けられていることが好ましい。かかる構成によれば、タイヤ新品時の接地性を向上できる。
【0075】
[6]
上記[1]~[5]いずれか1つのタイヤTにおいて、サイプ45は、接地端TEを横断して延び、接地端TEよりもタイヤ軸方向外側に形成されたディンプル70に連接されていることが好ましい。かかる構成によれば、サイプ45を通じて空気をより逃がしやすくなり、ポンピング音の低減効果が高められる。
【0076】
[7]
上記[6]のタイヤTにおいて、ディンプル70はサイプ45よりも幅広に形成されていることが好ましい。かかる構成は、ポンピング音を低減するうえで有益である。
【0077】
[8]
上記[6]または[7]のタイヤTにおいて、サイプ45の長さ方向におけるディンプル70の先端70eが丸みを帯びた形状を有することが好ましい。かかる構成は、空気を流れやすくしてポンピング音を低減するうえで都合がよい。
【0078】
本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0079】
本開示のタイヤは、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものではない。本開示のタイヤは、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した実施形態で採用されている各構成を、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
3f トレッド面
10 主溝
13 ショルダー主溝
20 陸
24 ショルダー陸
33 ラグ溝
33s 棚
33w 壁面
45 サイプ
45B サイプ底
70 ディンプル
81 底上げ部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10