(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134682
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240927BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240927BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240927BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240927BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550C
C09G1/02
H01L21/304 622X
H01L21/304 622D
H01L21/304 622B
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045005
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度に対する窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高くすることができる研磨用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 ケイ素原子を有する第1の化合物および前記第1の化合物とは異なるケイ素原子を有する第2の化合物によって表面が修飾されてなる、表面修飾砥粒と、水性キャリアと、を含み、前記第1の化合物が、硫黄原子を有し、前記第2の化合物が、炭素原子および水素原子を有し、窒素原子を有さない、研磨対象物を研磨するための、研磨用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子を有する第1の化合物および前記第1の化合物とは異なるケイ素原子を有する第2の化合物によって表面が修飾されてなる、表面修飾砥粒と、
水性キャリアと、
を含み、
前記第1の化合物が、硫黄原子を有し、
前記第2の化合物が、炭素原子および水素原子を有し、窒素原子を有さない、研磨対象物を研磨するための、研磨用組成物。
【請求項2】
前記表面修飾砥粒の平均二次粒子径が、40nm以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記第1の化合物が、酸素原子を有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記第1の化合物が、オキソ酸基を有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記第1の化合物が、スルホン酸基を有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記第2の化合物が、(Si)R1R2R3R4で示され、ここで、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルコキシ基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
R1、R2、R3およびR4における炭素数の総数が、10以下である、請求項6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記表面が修飾される砥粒100質量部に対する前記第2の化合物の量が10質量部未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記研磨対象物が、ケイ素原子-酸素原子結合を有する第1の研磨対象物と、窒素原子-ケイ素原子結合を有する第2の研磨対象物とを有する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記第1の研磨対象物が、オルトケイ酸テトラエチル由来の酸化ケイ素である、請求項9に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
前記第2の研磨対象物が、窒化ケイ素である、請求項9に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が、10以上であるように設計されている、請求項9に記載の研磨用組成物。
【請求項13】
pHが、7.0未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項14】
(Si)R1R2R3R4で示され、ここで、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルコキシ基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基である化合物を含む、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度の抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨対象物を研磨するための研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいては、化学反応性に乏しい窒化ケイ素を高速度で研磨することの要求が存在している。窒化ケイ素を研磨するために従来使用されている研磨用組成物の多くは、砥粒及び酸を含有している。例えば、特許文献1には、リン酸又はリン酸誘導体を含有する研磨用組成物の開示がある。特許文献2には、コロイダルシリカと、スルホン酸基又はホスホン酸基を有する有機酸とを含有するpHが2.5~5の研磨用組成物の開示がある。しかしながら、これら従来の研磨用組成物は、窒化ケイ素の研磨速度に関するユーザーの要求を十分に満足するものではなかった。
【0003】
かかる課題を解決するために、特許文献3では、窒化ケイ素をより高速度で研磨することが可能な研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-124932号公報
【特許文献2】特開2010-41037号公報
【特許文献3】特開2012-040671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は新たな研磨用組成物を開発する過程で、酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度に対する窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高くする課題が存在することが分かった。
【0006】
しかしながら、特許文献3に開示される研磨用組成物ではこのような課題を解決できないことも分かった。
【0007】
そこで、酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度に対する窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高くすることができる研磨用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ケイ素原子を有する第1の化合物および前記第1の化合物とは異なるケイ素原子を有する第2の化合物によって表面が修飾されてなる、表面修飾砥粒と、水性キャリアと、を含み、前記第1の化合物が、硫黄原子を有し、前記第2の化合物が、炭素原子および水素原子を有し、窒素原子を有さない、研磨対象物を研磨するための、研磨用組成物である。
【発明の効果】
【0009】
酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度に対する窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高くすることができる研磨用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。「X~Y」が複数記載されている場合、例えば、「X1~Y1、あるいは、X2~Y2」と記載されている場合、各数値を上限とする開示、各数値を下限とする開示、および、それらの上限・下限の組み合わせは全て開示されている(つまり、補正の適法な根拠となる)。具体的には、X1以上との補正、Y2以下との補正、X1以下との補正、Y2以上との補正、X1~X2との補正、X1~Y2との補正等は全て適法とみなされなければならない。また、本開示の特徴または態様は、マーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者は、本開示が、それによって、マーカッシュ群の任意の個々の構成要素または構成要素の部分群の観点から記載されていることを認識するであろう。研磨用組成物を構成する成分は、特に断りがない限り2種以上が組み合わされて研磨用組成物に含まれてもよく、その使用量、添加量等の説明は、2種以上組み合わされる場合、その合計量を意味し得る。
【0011】
<研磨用組成物>
本発明の一態様は、ケイ素原子を有する第1の化合物および前記第1の化合物とは異なるケイ素原子を有する第2の化合物によって表面が修飾されてなる、表面修飾砥粒と、水性キャリアと、を含み、前記第1の化合物が、硫黄原子を有し、前記第2の化合物が、炭素原子および水素原子を有し、窒素原子を有さない、研磨対象物を研磨するための、研磨用組成物である。かかる態様によって、酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度に対する窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高くすることができる。
【0012】
[表面修飾砥粒]
本発明の一態様の研磨用組成物は、ケイ素原子を有する第1の化合物(本明細書において単に「第1の化合物」とも称する)および前記第1の化合物とは異なるケイ素原子を有する第2の化合物(本明細書において単に「第2の化合物」とも称する)によって表面が修飾されてなる、表面修飾砥粒を含む。
【0013】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒は、第1の化合物および第2の化合物によって砥粒(例えば、シリカ粒子)の表面が修飾されてなることによりなる。かかる実施形態の表面修飾砥粒は、砥粒(例えば、シリカ粒子)の分散液を準備するステップと、当該砥粒(例えば、シリカ粒子)の表面を第1の化合物および第2の化合物によって修飾するステップとを有することで準備することができる。以下、表面修飾される対象がシリカ粒子であることを例に挙げ、表面修飾砥粒の準備のいくつかの実施形態を説明する。
【0014】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の分散液は、例えば、ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカである。本発明の一実施形態において、シリカ粒子の分散液は、例えば、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより得ることができる。本発明の一実施形態において、当該分散液は水分散液である。
【0015】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の平均一次粒子径の下限は、5nm以上、7nm以上、9nm以上、あるいは、11nm以上である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子の平均一次粒子径の上限は、35nm未満、30nm以下、28nm以下、26nm以下、24nm以下、22nm以下、20nm以下、18nm以下、16nm以下、あるいは、14nm以下である。シリカ粒子の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の平均二次粒子径の下限は、15nm以上、18nm以上、21nm以上、24nm以上、27nm以上、30nm以上、あるいは、32nm以上である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子の平均二次粒子径の上限は、70nm未満、60nm以下、55nm以下、50nm以下、45nm以下、あるいは、40nm以下である。シリカ粒子の平均二次粒子径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の値は、特に制限されず、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2.0以上、2.2以上、2.4以上、あるいは、2.6以上である。シリカ粒子の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の値は、特に制限されず、4.6以下、4.4以下、4.2以下、4.0以下、3.8以下、3.6以下、3.4以下、3.2以下、あるいは、3.0以下である。
【0018】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の分散液中の濃度は、5質量%以上、7質量%以上、9質量%以上、11質量%以上、13質量%以上、15質量%以上、17質量%以上、あるいは、19質量%以上である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子の分散液中の濃度は、40質量%以下、38質量%以下、36質量%以下、34質量%以下、32質量%以下、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、24質量%以下、あるいは、22質量%以下である。
【0019】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の表面の第1の化合物による修飾は、シリカ粒子の分散液に、第1の化合物および/またはその前駆体(本明細書において単に「シラン化合物1」とも称する)を添加するステップを有することにより行われる。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記第1の化合物が、酸素原子を有する。本発明の一実施形態において、前記第1の化合物が、オキソ酸基を有する。前記第1の化合物が、酸素原子、あるいは、スルホン酸基を有することによって、酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を抑制し、窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高く維持する効果が顕著となる。
【0021】
本発明の一実施形態において、シラン化合物1は、何からの処理を経ることで第1の化合物に変換されるものであれば特に制限はない。本発明の一実施形態において、シラン化合物1は、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有するシラン化合物であり、当該第1の化合物は、当該官能基をスルホン酸基に変換させることによりなる。
【0022】
本発明の一実施形態において、シラン化合物1として、1)加水分解によりスルホン酸基に変換できるスルホン酸エステル基を有する化合物、あるいは、2)酸化によりスルホン酸基に変換できるメルカプト基および/またはスルフィド基を有する化合物が挙げられる。本発明の一実施形態において、メルカプト基および/またはスルフィド基を有する化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0023】
本発明の一実施形態において、第1の化合物は、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランおよびビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドの少なくとも1種において、メルカプト基および/またはスルフィド基がスルホン酸基に変換されたものである。
【0024】
本発明の一実施形態において、シラン化合物1は、溶液の形態でありうる。溶液の形態にするために溶媒を使用してもよく、当該溶媒としては、有機溶媒(親水性溶媒)が例示される。当該有機溶媒(親水性溶媒)としては、例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールの少なくとも1種の有機溶媒が例示される。有機溶媒としては、蒸気圧が小さいとの観点から、メタノールまたはエタノールが好ましく、さらに取扱いが容易との観点から、エタノールがより好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、シラン化合物1が溶液の形態等である場合、シラン化合物1の濃度は、例えば、0.01~100質量%である。なお、100質量%とは、シラン化合物1を有機溶媒(親水性溶媒)に溶解するのではなく、そのままの原液であってもよいという意味である。
【0026】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の表面を修飾するにあたり、第1の化合物あるいはシラン化合物1の使用量としては、それぞれ独立して、シリカ粒子100質量部に対して、0.5質量部以上、0.7質量部以上、0.9質量部以上、1.1質量部以上、1.3質量部以上、1.5質量部以上、1.7質量部以上、1.9質量部以上、2.1質量部以上、あるいは、2.3質量部以上である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子の表面を修飾するにあたり、第1の化合物あるいはシラン化合物1の使用量としては、それぞれ独立して、10.0質量部以下、8.0質量部以下、6.0質量部以下、4.0質量部以下、3.0質量部以下、2.8質量部以下、あるいは、2.6質量部以下である。
【0027】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第1の化合物および/またはシラン化合物1とを反応させる際の温度としては、20~100℃、30~95℃、40~90℃、50~85℃、60~80℃、あるいは、65~75℃である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第1の化合物および/またはシラン化合物1とを反応させる際の温度としては、常温(約20℃)から上記溶媒の沸点までの範囲である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第1の化合物および/またはシラン化合物1とを反応させる際の時間としては、10分以上、30分以上、1時間以上、4時間以上、8時間以上、12時間以上、あるいは、15時間以上である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第1の化合物および/またはシラン化合物1とを反応させる際の時間としては、25時間以下、あるいは、20時間以下である。本発明の一実施形態において、加水分解を終了させるという観点から、温度は50℃以上であり、時間は15時間以上であることがよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第1の化合物および/またはシラン化合物1とを反応の際、攪拌を行ってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態において、シラン化合物1として、メルカプト基および/またはスルフィド基である官能基を有する化合物を使用した場合、それに酸化処理を施すことで、官能基を酸化することができる。これにより、当該官能基はスルホン酸基へと変換される。
【0030】
酸化剤としては、例えば、硝酸、過酸化水素、酸素、オゾン、有機過酸(過カルボン酸)、臭素、次亜塩素酸塩、過マンガン酸カリウム、およびクロム酸の少なくとも1種が挙げられる。これらの酸化剤の中でも過酸化水素および有機過酸(過酢酸、過安息香酸類)が比較的取り扱いが容易で酸化収率も良好である点で好ましい。
【0031】
本発明の一実施形態において、酸化剤の使用量(有効濃度換算)は、シリカ粒子100質量部に対して、5質量部以上、7質量部以上、9質量部以上、あるいは、11質量部以上である。本発明の一実施形態において、酸化剤の使用量(有効濃度換算)は、シリカ粒子100質量部に対して、20質量部以下、18質量部以下、16質量部以下、あるいは、14質量部以下である。
【0032】
本発明の一実施形態において、酸化処理の温度としては、50~85℃、60~80℃、あるいは、62~70℃である。本発明の一実施形態において、酸化処理の時間は、8時間以上、12時間以上、あるいは、15時間以上である。本発明の一実施形態において、酸化処理の時間は、25時間以下、あるいは、20時間以下である。
【0033】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の表面の第2の化合物による修飾は、シリカ粒子の分散液に、第2の化合物および/またはその前駆体(本明細書において「シラン化合物2」とも称する)を添加するステップを有することにより行われる。シラン化合物2は何からの処理を経ることで第2の化合物に変換されるものであれば特に制限はない。
【0034】
本発明の一実施形態において、前記第2の化合物が、(Si)R1R2R3R4で示され、ここで、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アルキル基またはアルケニル基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、アルコキシ基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、アルキル基またはアルケニル基である。本発明の一実施形態において、上記R1、R2、R3およびR4の2つまたは3つはアルコキシ基である。
【0035】
本発明の一実施形態において、上記アルコキシ基における炭素数は、1~6、1~5、1~4、1~3、あるいは、1または2である。本発明の一実施形態において、上記アルキル基における炭素数は、1~6、1~5、1~4、1~3、あるいは、1または2である。本発明の一実施形態において、上記アルケニル基における炭素数は、2~6、2~5、2~4、あるいは、2または3である。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記第2の化合物が、(Si)R1R2R3R4で示され、ここで、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルコキシ基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基である。
【0037】
本発明の一実施形態において、上記R1、R2、R3およびR4における炭素数の総数が、10以下、9以下、8以下、7以下、あるいは、6以下である。かかる実施形態であることによって表面修飾砥粒の分子サイズを小さくすることができそれにより表面修飾砥粒の凝集を抑制し窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を向上させることができる。本発明の一実施形態において、上記R1、R2、R3およびR4における炭素数の総数が、4以上である。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記第2の化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ペンチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘプチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、2-エチルヘキシルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ペンチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘプチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、2-エチルヘキシルトリメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、および、n-ドデシルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0039】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子の表面を修飾するにあたり、第2の化合物あるいはシラン化合物2の使用量としては、それぞれ独立して、シリカ粒子100質量部に対して、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.25質量部超、0.3質量部以上、0.35質量部以上、0.4質量部以上、0.5質量部以上、0.8質量部以上、1.0質量部以上、3.0質量部以上、5.0質量部以上、7.0質量部以上、あるいは、9.0質量部以上である。本発明の一実施形態において、第2の化合物あるいはシラン化合物2の使用量としては、それぞれ独立して、シリカ粒子100質量部に対して、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、12質量部以下、10質量部以下、10質量部未満、9.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、4.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、1.5質量部以下、1.2質量部以下、1.0質量部未満、0.9質量部以下、0.8質量部以下、0.7質量部以下、0.6質量部以下、0.4質量部以下、あるいは、0.3質量部以下である。
【0040】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第2の化合物および/またはシラン化合物2とを反応させる際の温度としては、20~100℃、30~95℃、40~90℃、50~85℃、55~80℃、あるいは、58~70℃である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第2の化合物および/またはシラン化合物2とを反応させる際の温度としては、常温(約20℃)から上記溶媒の沸点までの範囲である。
【0041】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第2の化合物および/またはシラン化合物2とを反応させる際の時間としては、1分以上、3分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、あるいは、50分以上である。本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第2の化合物および/またはシラン化合物2とを反応させる際の時間としては、10時間以下、8時間以下、6時間以下、4時間以下、あるいは、2時間以下である。本発明の一実施形態において、加水分解を終了させるという観点から、温度は50℃以上であり、時間は30分以上であることがよい。
【0042】
本発明の一実施形態において、シリカ粒子と、第2の化合物および/またはシラン化合物2とを反応の際、攪拌を行ってもよい。
【0043】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の準備にあたり、第1の化合物および/またはシラン化合物1、第2の化合物および/またはシラン化合物2、ならびに、任意の酸化剤の混合順番は、特に制限されない。例えば、シリカ粒子をシラン化合物1で処理して酸化剤による処理を行った後、第2の化合物および/またはシラン化合物2による処理を行う。また、シラン化合物1、酸化剤、第2の化合物を同時に混合してもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、第1の化合物あるいはシラン化合物1の使用量(質量部)に対する第2の化合物あるいはシラン化合物2の使用量(質量部)は、0.01以上、0.03以上、0.08以上、0.1以上、0.15以上、0.18以上、0.20以上、0.22以上、0.24以上、0.26以上、0.28以上、0.30以上、0.32以上、0.34以上、0.36以上、0.38以上、0.40以上、0.50以上、1.0以上、2.0以上、3.0以上、あるいは、3.5以上である。第2の化合物あるいはシラン化合物2の使用量(質量部)の使用量を増加させると、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度の抑制効果が高くなる。本発明の一実施形態において、第1の化合物あるいはシラン化合物1の使用量(質量部)に対する第2の化合物あるいはシラン化合物2の使用量(質量部)は、10以下、8.0以下、6.0以下、5.0以下、4.0以下、4.0未満、3.0以下、2.0以下、1.0以下、0.80以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下、0.28以下、0.20以下、0.18以下、あるいは、0.15以下である。第2の化合物あるいはシラン化合物2の使用量(質量部)の使用量を減少させると、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度の抑制効果が低くなる。
【0045】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の分散液が水以外の溶媒を含んでいる場合には、必要に応じて、溶媒を除去する溶媒除去工程を含んでもよい。例えば、反応溶媒を主とする分散媒を水で置換したり、エバポレーターを用いて溶媒を除去したりすることができる。
【0046】
以上のようにして、表面修飾砥粒を準備することができる。
【0047】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の研磨用組成物中の濃度は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、2.0質量%以上、2.5質量%以上、3.0質量%以上、3.5質量%以上、4.0質量%以上、あるいは、4.5質量%以上である。本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の研磨用組成物中の濃度は、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、あるいは、5.5質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意味する。
【0048】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上、7nm以上、9nm以上、あるいは、11nm以上である。本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の平均一次粒子径の上限は、35nm未満、30nm以下、28nm以下、26nm以下、24nm以下、22nm以下、20nm以下、18nm以下、16nm以下、あるいは、14nm以下である。35nm以上であると本発明の所期の効果を奏さない場合がある。表面修飾砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0049】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の平均二次粒子径の下限は、15nm以上、18nm以上、21nm以上、24nm以上、27nm以上、30nm以上、あるいは、32nm以上である。本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の平均二次粒子径の上限は、70nm未満、60nm以下、55nm以下、50nm以下、45nm以下、あるいは、40nm以下である。表面修飾砥粒の平均二次粒子径が40nm超であるとケイ素原子-酸素原子結合を有する第1の研磨対象物の研磨速度が高くなり、それにより、前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が著しく低くなる虞がある。表面修飾砥粒の平均二次粒子径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0050】
本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の値は、特に制限されず、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2.0以上、2.2以上、2.4以上、あるいは、2.6以上である。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。表面修飾砥粒の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の値は、特に制限されず、4.6以下、4.4以下、4.2以下、4.0以下、3.8以下、3.6以下、3.4以下、3.2以下、あるいは、3.0以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。
【0051】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、表面修飾砥粒以外の砥粒を含みうる。当該表面修飾砥粒以外の砥粒は、無機粒子および有機粒子の少なくとも一方でありうる。本発明の一実施形態において、無機粒子としては、表面が未修飾あるいは第1の化合物および第2の化合物以外で表面が修飾されてなるシリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子、セリア粒子、チタニア粒子、および、炭化ケイ素粒子の少なくとも1種である。本発明の一実施形態において、有機粒子は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子でありうる。本発明の一実施形態において、研磨用組成物に含まれる砥粒のうち、本発明の一態様の表面修飾砥粒の割合が、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.8質量%以上、あるいは、100質量%である。
【0052】
[水性キャリア]
本発明の一態様の研磨用組成物は、水性キャリアを含む。水性キャリアとしては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、水性キャリアとしては水が好ましい。すなわち、本発明の一実施形態によると、水性キャリアは水を含む。本発明のより好ましい形態によると、水性キャリアは実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の水性キャリアが含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の水性キャリアとからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の水性キャリアとからなる。最も好ましくは、水性キャリアは水である。なお、ケイ素原子を有する第1の化合物および前記第1の化合物とは異なるケイ素原子を有する第2の化合物の残留が不可避的に含まれる場合もある。
【0053】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、水性キャリアとしては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、または蒸留水が好ましく使用される。
【0054】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の一実施形態において、研磨用組成物のpHは、7.0未満、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、4.0未満、3.8以下、3.5以下、3.2以下、3.0以下、2.8以下、2.6以下、2.4以下、あるいは、2.2以下である。本発明の一実施形態において、研磨用組成物のpHは、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、2.2以上、2.4以上、2.6以上、2.8以上、3.0以上、あるいは、3.5以上である。研磨用組成物のpHは、実施例に記載の方法で測定することができる。研磨用組成物のpHが7.0以上となると、ケイ素原子-酸素原子結合を有する第1の研磨対象物の研磨速度が早くなり、窒素原子-ケイ素原子結合を有する第2の研磨対象物の研磨速度が遅くなり、それにより、前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が著しく低くなる虞がある。
【0055】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、pH調整剤を含む。pH調整剤は、酸および塩基の少なくとも一方でありうる。本発明の一実施形態において、酸は、無機酸および有機酸の少なくとも一方でありうる。本発明の一実施形態において、無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。本発明の一実施形態において、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。
【0056】
pH調整剤の種類や、使用量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0057】
[ゼータ(ζ)電位]
本発明の一実施形態において、研磨用組成物中に含まれる表面修飾砥粒は、負のゼータ電位を有しうる。ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。表面修飾砥粒のゼータ電位は、-10mV以下、-15mV以下、-20mV以下、-25mV以下、-30mV以下、-35mV以下、あるいは、-39mV以下である。シリカ粒子のゼータ電位は、-80mV以上、-70mV以上、-60mV以上、-50mV以上、-40mV以上、-39mV以上、-34mV以上、あるいは、-30mV以上である。砥粒がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨対象物の研磨速度をより向上させることができる。ゼータ(ζ)電位は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0058】
[電気伝導度]
本発明の一実施形態において、研磨用組成物の電気伝導度は、0.5mS/cm以上、1.0mS/cm以上、1.0mS/cm以上、2.0mS/cm以上、3.0mS/cm以上、4.0mS/cm以上、5.0mS/cm以上、6.0mS/cm以上、あるいは、7.0mS/cm以上である。本発明の一実施形態において、研磨用組成物の電気伝導度は、11.0mS/cm以下、10.5mS/cm以下、10.0mS/cm以下、9.5mS/cm以下、9.0mS/cm以下、8.0mS/cm以下、7.0mS/cm以下、6.0mS/cm以下、5.0mS/cm以下、あるいは、4.0mS/cm以下である。研磨用組成物の電気伝導度(EC)がこのような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度を高く維持でき、また、砥粒同士の反発を適切に調整し、安定性を確保することができる。電気伝導度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0059】
[その他の成分]
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において、研磨対象物は、第1の化合物および第2の化合物によって表面が修飾されてなる表面修飾砥粒と、水性キャリアと、pH調整剤と、錯化剤、防腐剤および防カビ剤からなる群より選択される少なくとも一種とから実質的に構成される。本明細書において、「組成物が、Z1、Z2、Z3、…Zp(pは2以上の整数である)から実質的に構成される」とは、Z1、Z2、Z3、…Zpの合計含有量が、組成物に対して、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意図する。
【0061】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の一態様の研磨用組成物は、水などの希釈液を使って、例えば10倍~20倍に希釈することによって調製されてもよい。
【0062】
[研磨対象物]
本発明の一態様の研磨用組成物は、研磨対象物を研磨するために用いられる。
【0063】
本発明の一実施形態において、研磨対象物は、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物(便宜的に、第1の研磨対象物)および窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物(便宜的に、第2の研磨対象物)の少なくとも一方を有する。
【0064】
本発明の一実施形態において、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物は、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)、RTO(Rapid Thermal Oxidation)等が挙げられる。本発明の一実施形態において、窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物は、窒化ケイ素膜、SiCN(炭窒化ケイ素)等が挙げられる。
【0065】
本発明の一実施形態において、前記第1の研磨対象物が、オルトケイ酸テトラエチル由来の酸化ケイ素である。本発明の一実施形態において、前記第2の研磨対象物が、窒化ケイ素である。
【0066】
本発明の一実施形態において、研磨対象物は、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物および窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物以外の研磨対象物を含みうる。本発明の一実施形態において、そのような研磨対象物は、多結晶シリコン(ポリシリコン)、金属、SiGe等でありうる。かかる金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0067】
[研磨用組成物の研磨速度比]
本発明の一実施形態において、研磨対象物は、前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が、10以上、13以上、16以上、20以上、22以上、28以上、30以上、35以上、あるいは、40以上であるように設計されている。本発明の一実施形態において、研磨対象物は、前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、あるいは、18以下であるように設計されている。
【0068】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の一実施形態において、研磨用組成物の製造方法は、表面修飾砥粒と、水性キャリアと、任意にpH調整剤と、任意にその他の成分とを混合することを有する。本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒が分散液の形態として準備され、それが水性キャリアを含む場合、別途の水性キャリアを含有しなくてもよい。本発明の一実施形態において、表面修飾砥粒が分散液の形態として準備され、それが水性キャリアを含む場合、別途の水性キャリアを含有してもよい。水性キャリアの量を調整することで各成分の濃度やpHを調整してもよい。
【0069】
研磨用組成物を構成する各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0070】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
本発明の一態様の研磨用組成物は、ケイ素原子-酸素原子結合を有する第1の研磨対象物と、窒素原子-ケイ素原子結合を有する第2の研磨対象物とを有する研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明の一態様では、ケイ素原子-酸素原子結合を有する第1の研磨対象物と、窒素原子-ケイ素原子結合を有する第2の研磨対象物とを有する研磨対象物を、本発明の一態様の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。本発明の一態様では、ケイ素原子-酸素原子結合を有する第1の研磨対象物と、窒素原子-ケイ素原子結合を有する第2の研磨対象物とを有する研磨対象物とを含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0071】
本発明の一実施形態において、研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0072】
本発明の一実施形態において、研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0073】
本発明の一実施形態において、研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpm以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0074】
[研磨速度、選択比]
本発明の一実施形態において、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度は、120Å/min以下、110Å/min以下、100Å/min以下、90Å/min以下、80Å/min以下、70Å/min以下、60Å/min以下、50Å/min以下、40Å/min以下、あるいは、30Å/min以下である。本発明の一実施形態において、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度は、10Å/min以上、20Å/min以上、30Å/min以上、40Å/min以上、50Å/min以上、60Å/min以上、70Å/min以上、80Å/min以上、あるいは、90Å/min以上である。
【0075】
本発明の一実施形態において、窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度は、700Å/min以上、800Å/min以上、900Å/min以上、1000Å/min以上、1050Å/min以上、1100Å/min以上、1130Å/min以上、あるいは、1150Å/min以上である。本発明の一実施形態において、窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度は、1500Å/min以下、1400Å/min以下、1300Å/min以下、1200Å/min以下、1100Å/min以下、1000Å/min以下、あるいは、900Å/min以下である。
【0076】
本発明の一実施形態において、前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が、10以上、13以上、16以上、20以上、22以上、28以上、30以上、35以上、あるいは、40以上である。本発明の一実施形態において、前記第1の研磨対象物の研磨速度(Å/min)に対する前記第2の研磨対象物の研磨速度(Å/min)の比が、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下、あるいは、18以下である。当該選択比が上記範囲を外れる場合、最終的に得られる研磨済研磨対象物の表面状態が劣る場合がある。
【0077】
[研磨速度の抑制剤]
前記第2の化合物は、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を抑制する作用効果を有する。よって、本発明の一態様は、(Si)R1R2R3R4で示され、ここで、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルコキシ基であり、R1、R2、R3およびR4の少なくとも1つは、炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基である化合物を含む、ケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度の抑制剤である。
【0078】
R1、R2、R3およびR4についての説明は、上記の説明が適用されうる。
【実施例0079】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、下記において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0080】
<研磨用組成物の製造>
[実施例1]
(表面修飾砥粒の準備)
第1ステップ:ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカの水分散液(コロイダルシリカの濃度:20質量%、平均一次粒子径:12nm、平均二次粒子径:34nm)1kgを準備した。
【0081】
第2ステップ:それに、シラン化合物1としての3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン5.0gをエタノール20gと混合された形態で加えて、70℃で18時間加熱・攪拌した。
【0082】
第3ステップ:それに、31質量%過酸化水素溶液を80g加えて、70℃で18時間加熱・攪拌した。これにより、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランにおけるメルカプト基をスルホン酸基に変化させた。
【0083】
第4ステップ:それに、第2の化合物としてエチルトリメトキシシラン0.5gを加えて、70℃で1時間加熱・攪拌した。
【0084】
第5ステップ:それから、エバポレーターを用いてエタノールを除去して、表面修飾砥粒の水分散液を製造した。
【0085】
なお、表面修飾砥粒の粒子径(平均一次粒子径、平均二次粒子径)は、原料のコロイダルシリカの粒子径(平均一次粒子径、平均二次粒子径)と特に変化はない。
【0086】
(研磨用組成物の製造)
表面修飾砥粒(アニオン変性コロイダルシリカ)の水分散液に、pH調整剤としてマレイン酸を添加してpHが2となるようにし、かつ、水を添加して表面修飾砥粒の濃度が5質量%となるようにすることで研磨用組成物を製造した。
【0087】
[実施例2~6、比較例5]
コロイダルシリカ、シラン化合物1、第2の化合物およびpHについて、表1に示されるように変更した以外は、実施例1と同様にして、各研磨用組成物を製造した。
【0088】
[比較例1]
第4ステップを行わなかった以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を製造した。
【0089】
[比較例2]
第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを行わなかった以外は、実施例1と同様にして研磨用組成物を製造した。
【0090】
[比較例3]
第2ステップおよび第3ステップを行わなかった以外は、実施例2と同様にして研磨用組成物を製造した。
【0091】
[比較例4]
シラン化合物1について、表1に示されるように変更し、第3ステップを行わなかった以外は、実施例2と同様にして研磨用組成物を製造した。
【0092】
<測定方法>
[平均一次粒子径]
平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II
2300”を用いて測定されたBET法によるシリカ粒子の比表面積(BET値)と、シリカ粒子の真密度とから、6000/[真密度(g/cm3)×BET値(m2/g)]の式により算出した。
【0093】
[平均二次粒子径]
平均二次粒子径は、動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151(日機装株式会社製)により、体積平均粒子径(体積基準の算術平均径;Mv)として測定した。
【0094】
[表面修飾砥粒のゼータ電位]
研磨用組成物中の表面修飾砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出した。
【0095】
[研磨用組成物のpH]
研磨用組成物のpHは、ガラス電極式水素イオン濃度指示計(株式会社堀場製作所製 型番:F-23)を使用して測定した。具体的には、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、および炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより求めた。
【0096】
[研磨用組成物の電気伝導度]
研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71 LAQUA(登録商標))により測定した。
【0097】
[研磨速度]
研磨対象物として、
・200mmウェーハ(SiO2(酸化ケイ素膜)、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成された膜、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製、製品名:P-TEOS 10KA Blanket)、
・200mmウェーハ(Si3N4(窒化ケイ素膜)、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製、製品名:LP-SiN 3.5KA Blanket)、
を準備した。上記で得られた研磨用組成物を用いて、各ウェーハを以下の研磨条件で研磨し、研磨速度を測定した。また、窒化ケイ素の研磨速度に対する酸化ケイ素の研磨速度の比(選択比、Si3N4/SiO2)を算出した。
【0098】
(研磨条件)
研磨機:200mmウェーハ用CMP片面研磨機
研磨パッド:ポリウレタン製パッド(IC1010、ニッタ・デュポン株式会社製)
圧力:4.0psi
プラテン(定盤)回転数:123rpm
ヘッド(キャリア)回転数:117rpm
研磨用組成物の流量:200ml/min
研磨時間:1分間。
【0099】
研磨対象物の研磨速度(研磨レート)は、下記の式により算出した。
【0100】
【0101】
研磨前後の研磨対象物の膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA)株式会社製 型番:A-SET)によって求めて、その差を研磨時間で除することにより評価した。
【0102】
【0103】
上記の表に示されるように、実施例の研磨用組成物によれば、酸化ケイ素等のケイ素原子-酸素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度に対する窒化ケイ素等の窒素原子-ケイ素原子結合を有する研磨対象物の研磨速度を高くすることができている。特に実施例2の構成は酸化ケイ素の研磨速度を抑制し、窒化ケイ素等の研磨速度を高く維持する効果が特に顕著となっている。
【0104】
一方、比較例1~3は、第1の化合物および第2の化合物の少なくとも一方を含まず、所期の効果を奏していない。また、比較例4、5は、2種の化合物を含むが、比較例4は第2の化合物を含まず、比較例5は第1の化合物を含まず、所期の効果を奏していない。