(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134691
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】流量センサ
(51)【国際特許分類】
G01F 1/696 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01F1/696 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045019
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】片瀬 泰幸
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035EA09
(57)【要約】
【課題】ブリッジ回路の抵抗調整機能を自動化できる流量センサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明における流量センサは、感温素子としての流量検知用抵抗素子をブリッジ回路に含み、マイコンにて、前記ブリッジ回路からの流量信号を用いて流量を算出する流量センサであって、前記ブリッジ回路は、抵抗値が異なる複数の固定抵抗と、前記固定抵抗の接続を切り換えるスイッチ回路と、を有し、接続される前記固定抵抗が切り換えられて、抵抗値が変動する可変抵抗素子を含み、前記マイコンにて、前記可変抵抗素子の抵抗値を自動調整可能とした、ことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温素子としての流量検知用抵抗素子をブリッジ回路に含み、マイコンにて、前記ブリッジ回路からの流量信号を用いて流量を算出する流量センサであって、
前記ブリッジ回路は、抵抗値が異なる複数の固定抵抗と、前記固定抵抗の接続を切り換えるスイッチ回路と、を有し、接続される前記固定抵抗が切り換えられて、抵抗値が変動する可変抵抗素子を含み、
前記マイコンにて、前記可変抵抗素子の抵抗値を自動調整可能とした、
ことを特徴とする流量センサ。
【請求項2】
前記マイコンは、前記可変抵抗素子の抵抗値を調整して、前記ブリッジ回路のバランスを調整する機能を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の流量センサ。
【請求項3】
前記マイコンは、前記流量信号が異常値を検出したときに、前記可変抵抗素子の抵抗値を調整して、前記ブリッジ回路のバランスを崩す機能を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の流量センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、風速を計測可能な流量センサに関する。
【背景技術】
【0002】
加熱した流量検知用抵抗素子を流体に曝し、その際の放熱作用に基づいて流体の流量を検出する熱式の流量センサが知られている(特許文献1参照)。流量センサは、熱線式風速計などに適用でき、応答性に優れ、高精度での風速測定が可能とされる。
【0003】
流量センサは、流量検知用抵抗素子の他に温度補償用抵抗素子を備えており、流量検知用抵抗素子と温度補償用抵抗素子が、ブリッジ回路に組み込まれている。流量検知用抵抗素子が流体を受けると、流量検知用抵抗素子から奪われる熱量が増加して回路に流れる電流が変化し、これにより、流体の流量を検出することができる。
【0004】
また、特許文献2には、ブリッジ回路に、温度設定抵抗を配置し、オンオフの切換えにより、ブリッジ回路のバランスを調整している(特許文献2の
図11参照)。しかしながら、特許文献2に示す構成では、ブリッジ回路のバランスを、きめ細かく調整することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-148130号公報
【特許文献2】特開平8-193862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来では、ブリッジ回路に、例えば、市販品の可変抵抗器を接続して、抵抗値を、手動にて可変調整し、ブリッジ回路のバランスを調整していた。したがって、抵抗調整に手間がかかり、その結果、製品コストが高くなる不具合が生じた。
【0007】
また、感温素子が異常発熱して、素子温度が急激に高まることで、使用者が火傷等を負う危険性があり、場合によっては、発煙や発火の危険があったが、従来では、感温素子の異常発熱を抑制する保護機能は設けられていなかった。
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、ブリッジ回路の抵抗調整機能を自動化できる流量センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における流量センサは、感温素子としての流量検知用抵抗素子をブリッジ回路に含み、マイコンにて、前記ブリッジ回路からの流量信号を用いて流量を算出する流量センサであって、前記ブリッジ回路は、抵抗値が異なる複数の固定抵抗と、前記固定抵抗の接続を切り換えるスイッチ回路と、を有し、接続される前記固定抵抗が切り換えられて、抵抗値が変動する可変抵抗素子を含み、前記マイコンにて、前記可変抵抗素子の抵抗値を自動調整可能とした、ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、前記マイコンは、前記可変抵抗素子の抵抗値を調整して、前記ブリッジ回路のバランスを調整する機能を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明では、前記マイコンは、前記流量信号が異常値を検出したときに、前記可変抵抗素子の抵抗値を調整して、前記ブリッジ回路のバランスを崩す機能を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の流量センサにおいては、ブリッジ回路の抵抗調整機能を自動化でき、生産工数を削減でき、製品コストの低減を図ることができる。また、異常発熱時に、保護機能を作動できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態における流量センサの回路図である。
【
図2】従来例における流量センサ装置の回路図である。
【
図3】本実施の形態のブリッジ回路に接続される可変抵抗素子の概要図である。
【
図4】ブリッジ抵抗の調整値のばらつきを示す実験例である。
【
図5】風速と、信号レベルとの関係を示す実験例である。
【
図6】風速と、測定精度のばらつきを示す実験例である。
【
図7】可変抵抗素子の抵抗調整により、ブリッジ回路への印加電流を制限した保護機能を説明するための実験例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
図1を用いて、本実施の形態の流量センサ1の回路図を説明する。
図1に示すように、流量センサ1は、ブリッジ回路2と、マイコン3とを有して構成される。
【0015】
ブリッジ回路2は、感温素子としての流量検知用抵抗素子Rwと、感温素子としての温度補償用抵抗素子Rtと、ブリッジ抵抗の抵抗調整用としての可変抵抗素子R1と、固定抵抗器R2とを有して構成される。可変抵抗素子R1の構成は、後述する。
【0016】
図1に示すように、流量検知用抵抗素子Rwと固定抵抗器R2とで第1の直列回路10を構成し、温度補償用抵抗素子Rtと可変抵抗素子R1とで第2の直列回路11を構成している。そして、第1の直列回路10と第2の直列回路11とが、並列に接続されてブリッジ回路2を構成している。
【0017】
図1に示すように、第1の直列回路10の出力部10aと、第2の直列回路11の出力部11aとが、夫々、差動増幅器(アンプ)AMPに接続されている。ブリッジ回路2には、差動増幅器AMPを含めたフィードバック回路12が接続されている。フィードバック回路12には、トランジスタ(図示せず)等が含まれる。
【0018】
固定抵抗器R2及び可変抵抗素子R1は、流量検知用抵抗素子Rw、及び温度補償用抵抗素子Rtよりも抵抗温度係数(TCR)が小さい。流量検知用抵抗素子Rwは、例えば、所定の周囲温度よりも所定値だけ高くなるように制御された加熱状態で、所定の抵抗値Rs1を有し、また、温度補償用抵抗素子Rtは、例えば、前記の周囲温度にて、所定の抵抗値Rs2を有するように制御されている。なお、抵抗値Rs1は、抵抗値Rs2よりも小さい。流量検知用抵抗素子Rwと第1の直列回路10を構成する固定抵抗器R2は、例えば、流量検知用抵抗素子Rwの抵抗値Rs1と同様の抵抗値を有する。また、温度補償用抵抗素子Rtと第2の直列回路11を構成する可変抵抗素子R1は、例えば、温度補償用抵抗素子Rtの抵抗値Rs2と同様の抵抗値を有するように抵抗調整がされている。
【0019】
流量検知用抵抗素子Rwは、周囲温度よりも高い温度となるように調整されており、風を受けると、発熱抵抗である流量検知用抵抗素子Rwから奪われる熱量が増加し、流量検知用抵抗素子Rwの温度を一定に保つように、第1の直列回路10に流れる電流が増加する。このため、流量検知用抵抗素子Rwが接続された第1の直列回路10の出力部10aの電位が変動する。これにより、差動増幅器AMPにより差動出力が得られる。そして、フィードバック回路12では、差動出力に基づいて、流量検知用抵抗素子Rwに駆動電圧を印加する。そして、流量検知用抵抗素子Rwの加熱に要する電流の変化に基づくアナログ流速信号が、マイコン3に入力されると、AD変換されたデジタル流速信号に基づいて、流速が算出される。
【0020】
なお、温度補償用抵抗素子Rtは、流体そのものの温度を検知し、流体の温度変化の影響を補償する。このように、温度補償用抵抗素子Rtを備えることで、流体の温度変化が流量検知に影響するのを低減でき、流量検知を精度よく行うことができる。
一方、
図2は、従来例における流量センサの回路図である。
図1と同じ部分は同じ符号を付した。
【0021】
図2の従来例では、ブリッジ回路に接続される可変抵抗器R3を、手動で、抵抗調整していた。すなわち、環境変化などにより、ブリッジ抵抗のばらつきが生じたとき、例えば、可変抵抗器R3のボリュームを動かして、ブリッジ回路のバランスが整うように抵抗調整がなされていた。ブリッジ回路のバランスは、例えば、風速が0(m/s)の状態で、ブリッジ回路から得られる流速信号が所定範囲内となるように、可変抵抗器R3を抵抗調整して行うことができる。
【0022】
しかしながら、従来では、手動での抵抗調整のために、作業工程数が増えてしまい、製品コストが高くなった。
【0023】
これに対し、本実施の形態では、手動で抵抗調整する従来の可変抵抗器R3に代えて、マイコン3にて、抵抗値を自動調整可能な可変抵抗素子R1をブリッジ回路2に組み込んだ。
【0024】
図3は、可変抵抗素子R1の構造を示す。
図3に示す四角の記号は、固定抵抗を示す。
図3に示すように、複数のスイッチSW0~SW6(スイッチ回路)が設けられ、電源とスイッチSW0~SW6との間に複数の固定抵抗R5~R11が並列に接続されており、スイッチSW0~SW6をオンすることによって接続される。スイッチは、例えばFETを用いてゲートをマイコンのCMOS出力でオンオフすることで実現する。各固定抵抗R5~R11は抵抗値がそれぞれ異なっている。例えば、図示右側の固定抵抗R5から左側の固定抵抗R11にかけて抵抗値が小さくなっている。このため、例えば、図示右側のスイッチSW0から図示左側のスイッチSW6にかけて一つずつオンに切り換えると、抵抗値は大から小に可変する。また、スイッチを複数接続すれば、合成抵抗を得ることができ、きめ細かい抵抗調整を可能とする。
【0025】
本実施の形態では、スイッチSW0~SW6のオンオフを、マイコン3にて自動制御する。
【0026】
図1に示すように、マイコン3は、アナログ流速信号をAD変換したデジタル流速信号を用いて、ブリッジ抵抗の調整値を算出する。この抵抗値算出のタイミングを限定するものではないが、キャリブレーション機能にて実行できる。キャリブレーションは、例えば、電源入力時や、決まった時間、或いは、使用者のキャリブレーション駆動入力時に応じて適宜実行できる。
【0027】
そして、算出されたブリッジ抵抗の調整値に基づいて、可変抵抗素子R1の調整値を算出し、可変抵抗素子R1の抵抗調整を自動で行うことができる。
【0028】
例えば、キャリブレーションの際に、流速が0(m/s)のときの流速信号を検知して、その流速信号が所定範囲からずれている場合には、所定範囲内に収めるように、マイコン3にて、可変抵抗素子R1の抵抗調整を自動的に行う。これにより、環境温度が変化した場合などでも、ブリッジ回路のバランスを精度よく保つことができる。また、出力信号レベルの変更を自動化できる。このように、本実施の形態では、手動での抵抗調整でなく自動で行えるため、作業工数を減らすことができ、製品コストの低減を図ることができる。
【0029】
また、
図1に示すように、本実施の形態では、マイコン3にて、異常値を検知したときに、保護機能を実行できる。
【0030】
例えば、AD変換後の流速信号が閾値を超えた場合、異常値と判断し、上記したようなブリッジ回路のバランスを整える通常の機能ではなく、可変抵抗素子R1の抵抗調整により、ブリッジ回路のバランスを崩して、ブリッジ回路2の動作を停止する。
図1に示すブリッジ回路から得られるアナログ流速信号は、素子に流れる電流量に比例するため、ブリッジ回路のバランスを崩して該アナログ流速信号が極端に小さくなるように、可変抵抗素子R1を抵抗調整して、ブリッジ回路への電流供給を抑制する。このように、ブリッジ回路への電流供給を制限することで、確実に発熱を抑える保護機能を自動的に作動できる。
【0031】
図4から
図7は、本実施例の流量センサを2000個作製して、抵抗調整した結果を示す実験例である。
【0032】
図4は、ブリッジ回路の調整値のばらつきを示している。調整値は、
図4の縦軸に示す34を中心にしてばらつきが見られた。このように、個体により最適な調整値は異なることを確認できた。
【0033】
図5は、流速と信号レベルとの関係を示す。縦軸の信号レベルは、ブリッジ回路からのアナログ流速信号をデジタル信号に変換した値である。
図5に示すように、流速が0(m/s)のとき、信号レベルは、220~260程度の範囲に収まることがわかった。これは、意図した範囲内であり、抵抗調整機能が正しく動作していることがわかった。
【0034】
図6は、流速と測定精度のばらつきとの関係を示している。縦軸は、流量センサのデジタル流速信号と校正設備の基準流速信号との誤差のばらつきを示している。
図6に示すように、流速が3(m/s)以上では、測定精度のばらつきを7%以内に収めることができ、抵抗調整機能が正しく動作した結果、優れた検知精度が得られた。
【0035】
図7は、保護機能が正しく動作することを示す実験結果である。
図7に示すように、通常動作時では、ブリッジ回路からのアナログ流速信号AD変換値を、風速が0(m/s)のとき、240前後で調整したが、可変抵抗素子の抵抗値を変更して、ブリッジ回路の抵抗バランスを崩すことで、アナログ流速信号のAD変換値を20程度にまで大幅に低下でき、ブリッジ回路の動作を止めることができた。このように、信号レベルを、可変抵抗素子のスイッチの切換により大幅に下げることで、ブリッジ回路への電流供給を抑えて、ブリッジ回路の動作が止められることを確認できた。
【0036】
本実施の形態では、ブリッジ回路から得られる流速信号に対する閾値を設定し、マイコンで、閾値を超える該流速信号を検知したときは、異常値であると判断して、可変抵抗素子の抵抗値を自動調整し、ブリッジ回路のバランスを崩して、ブリッジ回路への印加電流を制限することで、感温素子の発熱を抑える保護機能を発揮させることができる。
【0037】
なお上記では、流量センサ1は、風を検知するものとして説明したが、検知する流体としては、風以外にガスや、液体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明では、ブリッジ回路の抵抗調整機能を自動化でき、生産工数を削減でき、製品コストの低減を図ることができる。また、異常発熱時に、自動的に作動する保護機能を実現できる。本発明の流量センサは、例えば、風を検知するデバイスであり、屋内屋外を問わず、適用できる。流量センサは、例えば、空調設備や、イルミネーション、実験・分析用などで用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 :流量センサ
2 :ブリッジ回路
3 :マイコン
10 :第1の直列回路
10a、11a :出力部
11 :第2の直列回路
12 :フィードバック回路
AMP :差動増幅器
R1 :可変抵抗素子
R5~R11 :固定抵抗
Rt :温度補償用抵抗素子
Rw :流量検知用抵抗素子
SW0~SW6 :スイッチ