(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134704
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電解用電極および電解用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/093 20210101AFI20240927BHJP
C25B 1/34 20060101ALI20240927BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/053 20210101ALI20240927BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B1/34
C25B9/00 C
C25B11/053
C25B11/081
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045039
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】寺田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】羽多野 聡
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 達彦
(72)【発明者】
【氏名】曽田 剛一
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA21
4K011AA34
4K011DA03
4K021AA03
4K021AB01
4K021BA03
4K021DA13
4K021DB18
(57)【要約】
【課題】電気分解時の電圧が低い電解用電極を提供する。
【解決手段】本発明の電解用電極は、導電性基材と、前記導電性基材を被覆する第一被覆層と、前記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える。前記第一被覆層は第一触媒を含む。前記第二被覆層はルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを含む第二触媒を含む。前記第二触媒中の前記ルテニウム元素と前記金属元素(A)とのモル比は、前記第二触媒のX線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔がピーク値の99.6~100%となる値である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、前記導電性基材を被覆する第一被覆層と、前記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える電解用電極であり、
前記第一被覆層は第一触媒を含み、
前記第二被覆層はルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを含む第二触媒を含み、前記第二触媒中の前記ルテニウム元素と前記金属元素(A)とのモル比は、前記第二触媒のX線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔がピーク値の99.6~100%となる値である、電解用電極。
【請求項2】
前記金属元素(A)はチタン元素および/またはスズ元素である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記モル比[ルテニウム元素/金属元素(A)]は50/50超90/10以下である請求項1に記載の電解用電極。
【請求項4】
食塩水の電解用である請求項1~3のいずれか1項に記載の電解用電極。
【請求項5】
陽極である請求項4に記載の電解用電極。
【請求項6】
導電性基材と、前記導電性基材を被覆する第一被覆層と、前記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える電解用電極の製造方法であり、
前記第一被覆層は第一触媒を含み、
ルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを混合してX線回折を行う工程、
X線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔を混合モル比ごとにプロットする工程、
前記結晶面間隔のピーク値の99.6~100%となる値のモル比を選択する工程、
前記選択されたモル比でルテニウム元素と前記金属元素(A)とを混合して第二被覆層用触媒を作製する工程、および
前記第一被覆層表面に前記第二被覆層用触媒を被覆して第二被覆層を形成する工程を備える、電解用電極の製造方法。
【請求項7】
前記金属元素(A)はチタン元素および/またはスズ元素である請求項6に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項8】
前記電解用電極は食塩水の電解用である請求項6または7に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項9】
前記電解用電極は陽極である請求項8に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項4に記載の電解用電極を用いて食塩水を電解して塩素ガスを生成する、塩素ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解用電極および電解用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜法食塩電解プロセスにおいては、消費電力量削減のため、低い電解電圧を長期間にわたって維持できる技術が求められている。電解電圧の内訳を詳細に解析すると、理論的に必要な電圧以外に、イオン交換膜の抵抗や電解槽の構造抵抗に起因する電圧、陽極および陰極の過電圧、陽極および陰極の間の距離に起因する電圧等が挙げられる。また、長期間にわたって電解を継続すると、塩水中の不純物や種々の原因に基づく電圧上昇等も起こることがある。上述した電解電圧のなかでも、陽極の過電圧を下げるために様々な検討が行われている。例えば、特許文献1には、ルテニウム等の白金族酸化物の被覆をチタン基材上に設けた不溶性陽極の発明が開示されている。この陽極は、DSA(Dimension Stable Anode:寸法安定性陽極)と呼ばれている。また、特許文献2~6にも電解用電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭46-021884号公報
【特許文献2】国際公開第2012/081635号
【特許文献3】国際公開第2011/078353号
【特許文献4】特開2012-112033号公報
【特許文献5】特開2012-172199号公報
【特許文献6】特開2009-142733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、電気分解時の電圧が低い電解用電極を提供することにある。また、本発明の他の目的は、電気分解時の電圧が低い電解用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、導電性基材と、上記導電性基材を被覆する第一被覆層と、上記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える電解用電極であり、
上記第一被覆層は第一触媒を含み、
上記第二被覆層はルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを含む第二触媒を含み、上記第二触媒中の上記ルテニウム元素と上記金属元素(A)とのモル比は、上記第二触媒のX線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔がピーク値の99.6~100%となる値である、電解用電極を提供する。
【0006】
上記金属元素(A)はチタン元素および/またはスズ元素であることが好ましい。
【0007】
上記モル比[ルテニウム元素/金属元素(A)]は50/50超90/10以下であることが好ましい。
【0008】
上記電解用電極は食塩水の電解用であることが好ましい。
【0009】
上記電解用電極は陽極であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、導電性基材と、上記導電性基材を被覆する第一被覆層と、上記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える電解用電極の製造方法であり、
上記第一被覆層は第一触媒を含み、
ルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを混合してX線回折を行う工程、
X線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔を混合モル比ごとにプロットする工程、
上記結晶面間隔のピーク値の99.6~100%となる値のモル比を選択する工程、
上記選択されたモル比でルテニウム元素と上記金属元素(A)とを混合して第二被覆層用触媒を作製する工程、および
上記第一被覆層表面に上記第二被覆層用触媒を被覆して第二被覆層を形成する工程を備える、電解用電極の製造方法を提供する。
【0011】
上記金属元素(A)はチタン元素および/またはスズ元素であることが好ましい。
【0012】
上記電解用電極は食塩水の電解用であることが好ましい。
【0013】
上記電解用電極は陽極であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記電解用電極を用いて食塩水を電解して塩素ガスを生成する、塩素ガスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電解用電極を用いることにより、低い電圧で電気分解を行うことができる。また、本発明の電解用電極の製造方法によれば、低い電圧で電気分解を行うことができる電解用電極を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の電解用電極の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】実施例1におけるルテニウム元素およびチタン元素のモル比とミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例2におけるルテニウム元素およびスズ元素のモル比とミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例におけるリニアスイープボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[電解用電極]
本発明の電解用電極は、導電性基材と、上記導電性基材を被覆する第一被覆層と、上記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える。
図1は、本発明の電解用電極の一実施形態を示す断面図である。
図1に示す電解用電極1は、導電性基材2と、導電性基材2を被覆する層(第一被覆層)3と、第一被覆層3を被覆する層(第二被覆層)4とを備える。
【0018】
第一被覆層3は円柱状である導電性基材2の外周全面を被覆しており、導電性基材2に接触している。第二被覆層4は第一被覆層3の外周全面を被覆しており、第一被覆層3に接触している。電解用電極1は導電性基材2、第一被覆層3、および第二被覆層4から構成されるが、これら以外のその他の層を備えていてもよい。
【0019】
(導電性基材)
上記導電性基材は導電性を有する材料により構成されていれば特に限定されない。本発明の電解用電極を食塩水の電解に使用する場合、本発明の電解用電極は飽和に近い高濃度の食塩水中で、塩素ガス発生雰囲気で用いられるため、上記導電性基材の材質は、耐食性を有するバルブ金属が好ましい。バルブ金属としては、例えば、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムなどが挙げられ、経済性の観点および第一被覆層との親和性に優れる観点からチタンが好ましい。
【0020】
上記導電性基材の形状は、特に限定されず、目的によって適切な形状を選択することができ、例えば、エキスパンド形状、多孔板、金網などが好ましい。また、上記導電性基材の厚さは0.1~2mmであることが好ましい。
【0021】
上記導電性基材と上記第一被覆層とは接触していることが好ましい。上記導電性金属表面(特に、第一被覆層との接触表面)は、第一被覆層との密着性に優れる観点から、表面積の増大化処理がされていることが好ましい。上記表面積の増大化処理の方法としては、例えば、カットワイヤ、スチールグリッド、アルミナグリッド等を用いるブラスト処理や、硫酸や塩酸を用いる酸処理などが挙げられる。上記増大化処理は複数の処理を組み合わせて行ってもよい。中でも、ブラスト処理および酸処理を組み合わせて行うことが好ましい。ブラスト処理により導電性基材の表面に凹凸を形成させ、その後酸処理することが好ましい。
【0022】
(第一被覆層)
第一被覆層は、電解反応の少なくとも1つの反応を促進するための触媒(第一触媒)を含む。第一触媒が含み得る金属元素としては、ルテニウム、チタン、イリジウム、タンタル、ニオブ、スズ、コバルト、マンガン、モリブデン、ランタン、ジルコニウム、白金などが挙げられる。第一触媒は、上記金属元素を金属単体として含んでいてもよく、金属酸化物等の金属化合物として含んでいてもよい。第一触媒は上記金属元素を一種のみ含んでいてもよく、二種以上を含んでいてもよい。上記金属元素は、ルテニウムを含むことが好ましく、チタン、イリジウム、および白金からなる群より選択される一種以上をさらに含むことがより好ましい。
【0023】
第一被覆層の厚さは、0.1~7μmであることが好ましく、より好ましくは0.5~3μmである。第一被覆層の厚さが0.1μm以上であると、初期電解性能を高く維持しやすい。上記厚さが5μm以下であると経済的に優れる。
【0024】
(第二被覆層)
第二被覆層は、電解反応の少なくとも1つの反応を促進するための触媒(第二触媒)を含む。第一触媒と第二触媒とは組成が異なる。上記第一被覆層と上記第二被覆層とは接触していることが好ましい。第二触媒は、ルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素とを少なくとも含む。本明細書において、上記酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素を「金属元素(A)」と称する場合がある。金属元素(A)としては、例えば、チタン元素、スズ元素、バナジウム元素、マンガン元素、セシウム元素、ゲルマニウム元素、銀元素、銅元素、鉛元素、イリジウム元素などが挙げられる。中でも、金属元素(A)は、チタン元素および/またはスズ元素が好ましい。金属元素(A)は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0025】
金属元素(A)がとり得るルチル構造の酸化物としては、例えば、VO2等の酸化バナジウム、β-MnO2等の酸化マンガン、CsO2等の酸化セシウム、GeO2等の酸化ゲルマニウム、AgO2等の酸化銀、CuO2等の酸化銅、PbO2等の酸化鉛、IrO2等の酸化イリジウムなどが挙げられる。
【0026】
第二触媒は、ルテニウム元素および金属元素(A)以外のその他の金属元素を含んでいてもよい。上記その他の金属元素としては、白金などが挙げられる。上記その他の金属元素は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0027】
第二触媒は、上記ルテニウム元素、金属元素(A)、および上記その他の金属元素を、金属単体として含んでいてもよく、金属酸化物等の金属化合物として含んでいてもよい。中でも、金属酸化物として含むことが好ましい。
【0028】
上記第二触媒中の上記ルテニウム元素と上記金属元素(A)とのモル比は、第二触媒のX線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔がピーク値の99.6~100%となる値である。結果として、Sherrer式およびHalder-Wagner法から計算した結晶子サイズとセル電圧とは相関が見出せなかったのに対し、ミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔とセル電圧には相関が見られ、上記結晶面間隔がピーク値の99.6%以上である場合に、セル電圧が顕著に低減し、且つ酸素等の副生物の生成量が少ない。
【0029】
上記結晶面間隔は、ピーク値の99.6%以上であり、好ましくは99.7%以上、より好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上である。中でも、金属元素(A)がチタン元素である場合、好ましくは99.7%以上、より好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上である。金属元素(A)がスズ元素である場合、好ましくは99.9%以上である。
【0030】
上記第二触媒中の上記ルテニウム元素と上記金属元素(A)とのモル比[ルテニウム元素/金属元素(A)]は、例えば20/80~90/10である。一実施形態として、上記モル比は、50/50超(例えば50/50超90/10以下)が好ましく、より好ましくは55/45~80/20であり、金属元素(A)がチタン元素である場合に特に好ましい。また、他の一実施形態として、上記モル比は、35/65以上(例えば35/65~90/10)が好ましく、より好ましくは35/65~80/10、さらに好ましくは36/64~65/35であり、金属元素(A)がスズ元素である場合に特に好ましい。
【0031】
上記第二触媒中のルテニウム元素および金属元素(A)(特に、チタン元素および/またはスズ元素)の合計の割合は、上記第二触媒中の全金属元素の総量(100モル%)に対して、80モル%以上が好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上であり、98モル%以上、99モル%以上、99.5モル%以上であってもよい。
【0032】
第二触媒中のイリジウム元素の割合は、上記第二触媒中の全金属元素の総量(100モル%)に対して、5モル%以下が好ましく、より好ましくは1モル%以下、さらに好ましくは0.1モル%以下、特に好ましくは0.01モル%以下である。上記割合が少ないと、酸素等の副生物の生成量がより少ない。
【0033】
第二被覆層の厚さは、0.1~1.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.3~0.5μmである。第二被覆層の厚さが0.1μm以上であると、初期電解性能を高く維持しやすい。上記厚さが0.5μm以下であると経済的に優れる。
【0034】
第一被覆層中の第一触媒の金属元素総量100モル部に対する第二被覆層中の第二触媒の金属元素総量は、5~100モル部であることが好ましく、より好ましくは10~65モル部である。
【0035】
本発明の電解用電極は、リニアスウィープボルタンメトリー(LSV)により測定される1.0V vs.Ag/AgClでの電流密度値が、0.80mA/cm2以上であることが好ましく、より好ましくは0.90mA/cm2以上、さらに好ましくは0.95mA/cm2以上である。上記電流密度値が0.80mA/cm2以上であると、電気分解時の電圧をより低くすることができる。上記LSVは、三電極セルを使用し、対照電極として白金メッシュを、参照電極としてAg/AgClを、電解液として200g/L NaClを使用し、掃引速度を10mV/sの条件で測定され、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
【0036】
本発明の電解用電極は、陽極であることが好ましい。また、上記電解用電極は塩化アルカリ水溶液の電解用であることが好ましく、食塩水の電解用であることが特に好ましい。本発明の電解用電極は、このような電極として使用した場合、特に、電気分解時の電圧が低い。
【0037】
本発明の電解用電極は、後述の本発明の電解用電極の製造方法により製造することができるが、このような方法には限定されず、公知乃至慣用の方法で製造することもできる。
【0038】
[電解用電極の製造方法]
本発明の電解用電極の製造方法により、本発明の電解用電極を製造することができる。本発明の電解用電極の製造方法は、上記導電性基材と、上記導電性基材を被覆する上記第一被覆層と、上記第一被覆層を被覆する上記第二被覆層とを備える電解用電極の製造方法である。上記製造方法は、ルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(金属元素(A))とを混合してX線回折を行う工程(X線回折工程)、X線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔を混合モル比ごとにプロットする工程(結晶面間隔プロット工程)、上記結晶面間隔のピーク値の99.6~100%となる値のモル比を選択する工程(モル比選択工程)、上記選択されたモル比でルテニウム元素と金属元素(A)とを混合して第二被覆層用触媒を作製する工程(触媒作製工程)、および上記第一被覆層表面に上記第二被覆層用触媒を被覆して第二被覆層を形成する工程(第二被覆層形成工程)を少なくとも備える。
【0039】
(第一被覆層形成工程)
上記製造方法は、導電性基材の表面に上記第一被覆層を形成する工程(第一被覆層形成工程)を備えていてもよい。上記第一被覆層を形成する方法は、公知乃至慣用の方法を採用することができ、例えば、導電性基材の表面上に第一触媒を形成する金属単体または金属化合物の塗布液を塗布して形成した塗膜を、酸素含有雰囲気下で焼成して第一被覆層を形成することができる。塗布液を酸素含有雰囲気下で焼成することで、塗布液中の成分を熱分解させ、触媒層である第一被覆層を形成することができる。上記熱分解により、前駆体となる金属化合物等を酸素含有雰囲気下で焼成して、金属酸化物または金属単体とガス状物質とに分解される。酸化性雰囲気下の焼成により、金属酸化物を形成しやすい。
【0040】
上記金属化合物としては、特に限定されないが、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、金属アルコキシド等の金属塩が挙げられる。上記塗布液に使用する溶媒としては、上記金属単体や上記金属化合物の種類に応じて選択でき、水、ブタノール等のアルコール類などを用いることができる。上記塗布液中の金属濃度は、特に限定されないが、第一被覆層の厚さを適切に制御する観点から、10~150g/Lが好ましい。
【0041】
導電性基材の表面に上記塗布液を塗布する方法としては、導電性基材を上記塗布液に浸漬するディップ法、導電性基材表面に上記塗布液を刷毛で塗る方法、上記塗布液を含浸させたスポンジ状のロールに導電性基材を通過させるロール法、導電性基材と上記塗布液とを反対荷電に帯電させてスプレー噴霧を行う静電塗布法などが挙げられる。中でも、工業的な生産性により優れる観点から、ロール法、静電塗布法が好ましい。
【0042】
上記塗膜を乾燥させることが好ましい。これにより、塗膜をより強固に導電性基材の表面に形成することができる。乾燥条件は、上記塗布液の組成や溶媒の種類によって適宜選択することができ、例えば10~90℃の温度で、1~20分間行うことが好ましい。
【0043】
上記塗膜を酸素含有雰囲気下で焼成する際の焼成温度は、上記塗布液の組成や溶媒の種類によって適宜選択することができるが、300~650℃が好ましい。焼成時間は長い方が好ましいが、電極の生産性の観点から、1回当たりの熱分解時間は5~60分間が好ましい。なお、必要に応じて、上記塗布液の塗布・乾燥・焼成のサイクルを繰り返し、第一被覆層の厚さをより厚くすることができる。さらに、第一被覆層を形成した後に、必要に応じて長時間焼成を行い、第一被覆層の安定化を向上させることもできる。
【0044】
(X線回折工程)
上記X線回折工程では、ルテニウム元素と金属元素(A)とを混合してX線回折を行う。上記X線回折工程では、ルテニウム元素および金属元素(A)の混合比が異なる複数の混合物についてX線回折分析を行う。X線回折を行う混合物の種類は、結晶面間隔のピークを得るために、三種以上であり、好ましくは四種以上であり、ピーク値が得られない場合は得られるまで行う。上記混合物におけるルテニウム元素および金属元素(A)の混合比(モル比)[ルテニウム元素:金属元素(A)]は、1:9~9:1の範囲から、合計が10である整数比となる混合比を選択することが好ましく、3:7、4:6、および6:4を含むことがより好ましい。X線回折を行う前に上記混合物を焼成してもよい。焼成温度は例えば300~600℃である。
【0045】
混合するルテニウム元素および金属元素(A)は、これらの金属単体であってもよいし、酸化物等の金属化合物であってもよい。金属単体および金属化合物は、粉体として混合することが好ましい。
【0046】
(結晶面間隔プロット工程)
上記結晶面間隔プロット工程では、X線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔を混合モル比ごとにプロットする。すなわち、まずX線解析によって、x軸をルテニウム元素または金属元素(A)の割合(モル%)とし、y軸をミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔とするグラフを作成する。
【0047】
(モル比選択工程)
上記モル比選択工程では、上記結晶面間隔プロット工程で作成したグラフから結晶面間隔のピーク値を認定し、上記結晶面間隔のピーク値の99.6~100%となる値の、ルテニウム元素および金属元素(A)のモル比を選択する。上記混合比を1:9~9:1の範囲から合計が10である整数比となる混合比を選択した場合は、これらの混合比からピーク値を選択してもよい。上記ピーク値に対する割合は、好ましくは上述のとおりである。
【0048】
(触媒作製工程)
上記触媒作製工程では、上記モル比選択工程にて選択されたモル比でルテニウム元素と金属元素(A)とを混合して第二被覆層用触媒を作製する。上記ルテニウム元素および金属元素(A)は、それぞれ、金属単体を使用してもよいし金属化合物を使用してもよい。ルテニウム化合物および金属元素(A)の化合物としては上述の第二被覆層に含まれ得る金属化合物として例示および説明されたものが挙げられる。混合後、焼成等の処理を行ってもよい。
【0049】
(第二被覆層形成工程)
上記第二被覆層形成工程では、上記第一被覆層表面に上記第二被覆層用触媒を被覆して第二被覆層を形成する。上記第二被覆層を形成する方法は、公知乃至慣用の方法を採用することができ、例えば、第一被覆層の表面上に第二被覆層用触媒を含む塗布液を塗布して形成した塗膜を、酸素含有雰囲気下で焼成して上記第二触媒を作製し、第二被覆層を形成することができる。塗布液を酸素含有雰囲気下で焼成することで、塗布液中の成分を熱分解させ、触媒層である第二被覆層を形成することができる。上記熱分解により、前駆体となる金属化合物等を酸素含有雰囲気下で焼成して、金属酸化物または金属単体とガス状物質とに分解される。酸化性雰囲気下の焼成により、金属酸化物を形成しやすい。
【0050】
上記塗布液に使用する溶媒としては、上記金属単体や上記金属化合物の種類に応じて選択でき、水、ブタノール等のアルコール類などを用いることができる。上記塗布液中の金属濃度は、特に限定されないが、第二被覆層の厚さを適切に制御する観点から、10~150g/Lが好ましい。
【0051】
上記第一被覆層の表面に上記塗布液を塗布する方法としては、第一被覆層が形成された導電性基材を上記塗布液に浸漬するディップ法、第一被覆層表面に上記塗布液を刷毛で塗る方法、上記塗布液を含浸させたスポンジ状のロールに第一被覆層が形成された導電性基材を通過させるロール法、導電性基材の第一被覆層表面と上記塗布液とを反対荷電に帯電させてスプレー噴霧を行う静電塗布法などが挙げられる。中でも、工業的な生産性により優れる観点から、ロール法、静電塗布法が好ましい。
【0052】
上記塗膜を乾燥させることが好ましい。これにより、塗膜をより強固に第一被覆層の表面に形成することができる。乾燥条件は、上記塗布液の組成や溶媒の種類によって適宜選択することができ、例えば10~200℃の温度で、1~20分間行うことが好ましい。
【0053】
上記塗膜を酸素含有雰囲気下で焼成する際の焼成温度は、上記塗布液の組成や溶媒の種類によって適宜選択することができるが、300~650℃が好ましく、より好ましくは350~500℃である。焼成時間は長い方が好ましいが、電極の生産性の観点から、1回当たりの熱分解時間は5~60分間が好ましい。なお、第二被覆層の焼成温度は第一被覆層の焼成温度より低温であることが好ましい。第二被覆層の焼成温度を低くすることにより、電解初期からより低い過電圧を達成することができる。
【0054】
なお、必要に応じて、上記塗布液の塗布・乾燥・焼成のサイクルを繰り返し、第二被覆層の厚さをより厚くすることができる。さらに、第二被覆層を形成した後に、必要に応じて長時間焼成を行い、第二被覆層の安定化を向上させることもできる。
【0055】
本発明の電解用電極を用いて電気分解を行うと、低い電圧で電気分解を行うことができる。また、本発明の電解用電極の製造方法によれば、低い電圧で電気分解時を行うことができる電解用電極を容易に製造することができる。このため、本発明の電解用電極は種々の電解に用いることができる。特に、塩素ガス発生用陽極として用いることが好ましく、食塩電解用陽極(具体的にはイオン交換膜法の食塩電解用陽極)として用いることがより好ましい。本発明の電解用電極を食塩電解用陽極として用いることにより、食塩水を電解して水酸化ナトリウムや塩素ガスを生成することができる。
【0056】
[電解槽]
本発明の電解用電極を使用して電解槽を提供することができる。上記電解槽は、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に配置された陽イオン交換膜と、を少なくとも備える。上記陽極として本発明の電解用電極を用いることが好ましい。上記電解槽は、種々の電解に使用でき、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
【0057】
上記電解は、特に限定されず、公知乃至慣用の条件で行うことができる。例えば、陽極室には2.5~5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室には水または希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給する。そして、電解温度が50~120℃、電流密度が5~100A/dm2の条件で電解を行うことができる。
【0058】
上記電解槽の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。電解槽を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリおよび塩素に耐性があるチタンなどが好ましい。陰極室の材料としては、水酸化アルカリおよび水素に耐性があるニッケルなどが好ましい。電極の配置は、陽イオン交換膜と陽極との間に適当な間隔を設けて配置してもよいが、陽極と陽イオン交換膜が接触して配置されていても問題なく使用できる。また、陰極は一般的には陽イオン交換膜と適当な間隔を設けて配置されているが、この間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)であっても問題なく使用できる。
【0059】
陰極としては、公知のものを採用でき、例えば、ニッケル基材上に、ニッケル、酸化ニッケル、ニッケルとスズの合金、活性炭と酸化物、酸化ルテニウム、白金等をコーティングした陰極などが挙げられる。
【実施例0060】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0061】
実施例1
(X線回折測定)
酸化ルテニウムおよび酸化チタンの粉末を、モル比[ルテニウム元素:チタン元素]がそれぞれ30:70、40:60、60:40、および70:30となるように混合し、450℃で20分間焼成して、4種の触媒混合物を作製した。そして、各触媒混合物についてX線回折測定を行ってXRDスペクトルを得、解析ソフトを用いてBraggs式により、ミラー指数(101)面の結晶面間隔を算出した。そして、x軸をルテニウム元素の割合(モル%)、y軸を上記結晶面間隔(Å)のグラフにプロットした。得られたグラフを
図2に示す。X線回折測定および解析ソフトの条件は下記の通りである。
図2に示す通り、上記モル比が60:40の触媒混合物が結晶面間隔のピークを示した。また、表1に各触媒混合物の結晶面間隔およびピーク値に対する割合を示した。
[X線回折]
装置:株式会社リガク製 試料水平型多目的X線回折装置「UltimaIV」
測定条件
X線源:CuKα線
管電流:40KV
管電圧:40mA
スキャンスピード:3°/min.
[解析ソフト]
定性分析 :PDXL
データベース:ICDD
【0062】
【0063】
実施例2
(X線回折測定)
酸化ルテニウムおよび酸化スズの粉末を、モル比[ルテニウム元素:スズ元素]がそれぞれ30:70、40:60、および60:40となるように混合し、450℃で10分間焼成して、3種の触媒混合物を作製した。そして、各触媒混合物についてX線回折測定を行ってXRDスペクトルを得、解析ソフトを用いてBraggs式により、ミラー指数(101)面の結晶面間隔を算出した。そして、x軸をルテニウム元素の割合(モル%)、y軸を上記結晶面間隔(Å)のグラフにプロットした。得られたグラフを
図3に示す。X線回折測定および解析ソフトの条件は実施例1と同様である。
図3に示す通り、上記モル比が40:60の触媒混合物が結晶面間隔のピークを示した。また、表2に各触媒混合物の結晶面間隔およびピーク値に対する割合を示した。
【0064】
【0065】
実施例3
(電解用電極の作製)
実施例1および2で作製した触媒混合物を、濃度7.0質量%となるようにブタノールに溶解させ、触媒溶液を作製した。導電性基材であるバルブ金属(チタン)(厚さ:1~3mm)表面に形成された第一被覆層(材質:Pt-IrO2-RuO2-TiO2、厚さ:5~10μm)の表面に、上記触媒溶液を塗布し、120℃で乾燥して塗膜を形成し、400℃または450℃で焼成して第二被覆層(厚さ0.5μm)を形成し、電解用電極を作製した。
【0066】
<評価>
実施例3で得られた電解用電極について以下の評価を行った。
【0067】
(1)セル電圧の測定
イオン交換を組み込んだ2室法食塩電解セルを用い、実施例3で作製した電解用電極を陽極、貴金属触媒がコーティングされたNiメッシュを陰極とし、イオン交換膜として商品名「N2030WX」(ケマーズ社製)、電解液として200g/L NaClを用いて、温度:80℃、電流密度:4kA/m2の条件で電気分解を行い、その際のセル電圧を測定した。結果を表3に示す。セル電圧は、陽・陰極に溶接したリード線をテスタで計測することにより計測した。
【0068】
【0069】
表1~3に示すように、結晶面間隔のピークが高い混合比の混合触媒を用いた電極はセル電圧が低い結果となった。
【0070】
(2)LSV(リニアスイープボルタンメトリー)
三電極セルを使用し、対照電極として白金メッシュを使用し、参照電極としてAg/AgClを使用した。実施例3で得られた電解用電極を作用電極とした。電解液には、200g/L NaClを用いた。掃引速度を10mV/sとした。
図4にリニアスイープボルタモグラムを示し、表4に1.0V vs.Ag/AgClでの電流密度値を示す。
【0071】
【0072】
表4および
図4に示すように、結晶面間隔のピークが高い混合比の混合触媒を用いた電極は電流値が高く、低い電圧で電気分解が可能であることが示唆された。
【0073】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]導電性基材と、前記導電性基材を被覆する第一被覆層と、前記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える電解用電極であり、
前記第一被覆層は第一触媒を含み、
前記第二被覆層はルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを含む第二触媒を含み、前記第二触媒中の前記ルテニウム元素と前記金属元素(A)とのモル比は、前記第二触媒のX線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔がピーク値の99.6~100%となる値である、電解用電極。
[付記2]前記金属元素(A)はチタン元素および/またはスズ元素である付記1に記載の電解用電極。
[付記3]前記モル比[ルテニウム元素/金属元素(A)]は50/50超90/10以下である付記1または2に記載の電解用電極。
[付記4]食塩水の電解用である付記1~3のいずれか1つに記載の電解用電極。
[付記5]陽極である付記1~4のいずれか1つ記載の電解用電極。
[付記6]導電性基材と、前記導電性基材を被覆する第一被覆層と、前記第一被覆層を被覆する第二被覆層とを備える電解用電極の製造方法であり、
前記第一被覆層は第一触媒を含み、
ルテニウム元素と、酸化物を形成した際にルチル構造をとり得る金属元素(A)とを混合してX線回折を行う工程、
X線回折により得られるスペクトルにおけるミラー指数(101)面のBraggs式により算出される結晶面間隔を混合モル比ごとにプロットする工程、
前記結晶面間隔のピーク値の99.6~100%となる値のモル比を選択する工程、
前記選択されたモル比でルテニウム元素と前記金属元素(A)とを混合して第二被覆層用触媒を作製する工程、および
前記第一被覆層表面に前記第二被覆層用触媒を被覆して第二被覆層を形成する工程を備える、電解用電極の製造方法。
[付記7]前記金属元素(A)はチタン元素および/またはスズ元素である付記6に記載の電解用電極の製造方法。
[付記8]前記電解用電極は食塩水の電解用である付記6または7に記載の電解用電極の製造方法。
[付記9]前記電解用電極は陽極である付記6~8のいずれか1つに記載の電解用電極の製造方法。
[付記10]付記1~5のいずれか1つに記載の電解用電極を用いて食塩水を電解して塩素ガスを生成する、塩素ガスの製造方法。