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特開2024-134720光学デバイス、分光装置および分光方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134720
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光学デバイス、分光装置および分光方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/45 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01J3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045063
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020CA12
2G020CB05
2G020CB23
2G020CC22
2G020CC47
2G020CC55
2G020CD04
2G020CD16
2G020CD35
2G020CD37
(57)【要約】
【課題】移動ミラーの位置を精度よく計測することができ、かつ、小型化および低消費電力化が図られている光学デバイス、波数軸または波長軸の正確度が高いスペクトルパターンを生成することができる分光方法、ならびに、波数軸または波長軸の正確度が高いスペクトルパターンを生成することができ、かつ、小型化および低消費電力化が図られている分光装置を提供すること。
【解決手段】分析光学系および測長光学系を備え、分析光学系は、分析光を反射させることにより、分析光に第1変調信号を付加する移動ミラーと、所定の波長の光を吸収するガスが封入され、分析光を入射させることにより、分析光に光吸収信号を付加するガスセルと、試料由来信号、第1変調信号および光吸収信号を含む分析光を受光する第1受光素子と、を備え、測長光学系は、第2光源と、レーザー光を用いて移動ミラーの位置に対応する変位信号を取得する測長部と、を備える光学デバイス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析光学系および測長光学系を備える光学デバイスであって、
前記分析光学系は、
第1光源から射出される分析光を反射させることにより、前記分析光に第1変調信号を付加する移動ミラーと、
所定の波長の光を吸収するガスが封入され、前記分析光を入射させることにより、前記分析光に光吸収信号を付加するガスセルと、
前記分析光と試料との作用により生成された試料由来信号、前記第1変調信号、および、前記光吸収信号、を含む前記分析光を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子と、
を備え、
前記測長光学系は、
レーザー光を射出する第2光源と、
前記レーザー光を用いて前記移動ミラーの位置に対応する変位信号を取得する測長部と、
を備えることを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
前記分析光学系は、前記第1光源を備える請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記分析光学系は、前記ガスセルに前記分析光が入射し、前記試料には入射しない状態と、前記試料に前記分析光が入射し、前記ガスセルには入射しない状態と、を切り替える入射切替部を備える請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記入射切替部は、前記ガスセルを前記分析光の光路上に挿入した状態と、前記試料を前記分析光の光路上に挿入した状態と、を切り替える挿抜機構を有する請求項3に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記入射切替部は、前記ガスセルに入射する前記分析光を遮蔽する状態と、遮蔽しない状態と、を切り替える遮光部を有する請求項3に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記分析光学系は、入射する前記分析光に対して、射出される前記分析光の波長を変換する波長変換素子を備え、
前記分析光学系は、前記波長変換素子から射出される前記分析光を前記ガスセルに入射させるように構成されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記測長部は、前記レーザー光に第2変調信号を付加する光変調器を備える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記第2光源は、半導体レーザー素子である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学デバイスと、
前記変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号を生成する移動ミラー位置演算部と、
前記第1受光信号および前記移動ミラー位置信号に基づいて、前記移動ミラーの各位置における前記第1受光信号の強度を表す波形を生成する光強度演算部と、
前記波形にフーリエ変換を行い、前記光吸収信号によるピークを含むスペクトルパターンを生成するフーリエ変換部と、
前記ピークの位置に基づいて、前記移動ミラー位置信号を補正する補正値を算出する移動ミラー位置補正部と、
を備えることを特徴とする分光装置。
【請求項10】
試料の分光分析を行う分光方法であって、
請求項1に記載の光学デバイスが取得した前記変位信号により、前記移動ミラーの位置を測定するステップと、
前記ガスセルおよび前記試料を前記分析光の光路上に配置し、前記移動ミラーの位置を変化させながら、前記ガスセルおよび前記試料に前記分析光を入射させ、前記ガスセルおよび前記試料から射出された前記分析光を前記第1受光素子に受光させ、前記第1受光信号を出力させるステップと、
前記第1受光信号および前記移動ミラーの位置の測定値に基づいて、前記移動ミラーの各位置における前記第1受光信号の強度を示す波形を生成するステップと、
前記波形にフーリエ変換を行い、前記光吸収信号によるピークおよび前記試料に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成するステップと、
前記ピークの波長と、前記ガスセルの基本波長と、の差に基づいて、前記移動ミラーの位置の測定値を補正する補正値を算出するステップと、
前記補正値に基づいて、前記スペクトルパターンを補正するステップと、
を有することを特徴とする分光方法。
【請求項11】
試料の分光分析を行う分光方法であって、
請求項1に記載の光学デバイスのうち、前記分析光の光路上に前記ガスセルを配置するステップと、
前記光学デバイスが取得した前記変位信号により、前記移動ミラーの位置を測定するステップと、
前記移動ミラーの位置を変化させながら、前記ガスセルに前記分析光を入射させ、前記ガスセルから射出された前記分析光を前記第1受光素子に受光させ、前記ガスセルに由来する前記第1受光信号を出力させるステップと、
前記ガスセルに由来する前記第1受光信号および前記移動ミラーの位置の測定値に基づいて、前記移動ミラーの各位置における、前記ガスセルに由来する前記第1受光信号の強度を示す波形を生成するステップと、
前記ガスセルに由来する前記波形にフーリエ変換を行い、前記光吸収信号によるピークを含むスペクトルパターンを生成するステップと、
前記ピークの波長と、前記ガスセルの基本波長と、の差に基づいて、前記移動ミラーの位置の測定値を補正する補正値を算出するステップと、
前記試料を前記分析光の光路上に配置するステップと、
前記光学デバイスが取得した前記変位信号により、前記移動ミラーの位置を測定するステップと、
前記移動ミラーの位置を変化させながら、前記試料に前記分析光を入射させ、前記試料から射出された前記分析光を前記第1受光素子に受光させ、前記試料に由来する前記第1受光信号を出力させるステップと、
前記試料に由来する前記第1受光信号、前記移動ミラーの位置の測定値、および、前記補正値に基づいて、前記移動ミラーの各位置における、前記試料に由来する前記第1受光信号の強度を示す波形を生成するステップと、
前記試料に由来する前記波形にフーリエ変換を行い、前記試料に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成するステップと、
を有することを特徴とする分光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学デバイス、分光装置および分光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料が放射または吸収する光のスペクトル情報を取得し、それに基づいて試料中の成分等を分析する分光分析に用いられる光学モジュールが開示されている。この光学モジュールは、ミラーユニットと、ビームスプリッターユニットと、光入射部と、第1光検出器と、第2光源と、第2光検出器と、を備えている。ミラーユニットは、所定方向に移動する可動ミラーと、位置が固定された固定ミラーと、を含んでいる。このような光学モジュールでは、ビームスプリッターユニット、可動ミラーおよび固定ミラーによって、測定光およびレーザー光がそれぞれ入射される干渉光学系が構成される。
【0003】
第1光源から測定対象を介して入射した測定光は、光入射部を経て、ビームスプリッターユニットにおいて分割される。分割された測定光の一部は、可動ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。分割された測定光の残部は、固定ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。ビームスプリッターユニットに戻った測定光の一部および残部は、干渉光として第1光検出器によって検出される。
【0004】
一方、第2光源から射出されたレーザー光は、ビームスプリッターユニットにおいて分割される。分割されたレーザー光の一部は、可動ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。分割されたレーザー光の残部は、固定ミラーで反射されてビームスプリッターユニットに戻る。ビームスプリッターユニットに戻ったレーザー光の一部および残部は、干渉光として第2光検出器によって検出される。
【0005】
このような光学モジュールでは、レーザー光の干渉光の検出結果に基づいて、可動ミラーの位置を計測する。そして、可動ミラーの位置の計測結果および測定光の干渉光の検出結果に基づいて、測定対象についての分光分析が可能になる。具体的には、可動ミラーの各位置における測定光の強度を求めることにより、インターフェログラムと呼ばれる波形が得られる。このインターフェログラムをフーリエ変換することにより、測定対象についてのスペクトル情報を求めることができる。したがって、特許文献1に記載の光学モジュールは、FTIR(フーリエ変換型赤外分光分析器)に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/009404号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フーリエ変換型分光分析器では、可動ミラー(移動ミラー)の位置の計測精度がスペクトルパターンの波数軸(波長軸)の正確度に直結する。特許文献1に記載の光学モジュールの場合、レーザー光を射出する第2光源の波長安定性が十分に高いことが求められる。特許文献1に記載の第2光源は、VCSEL等の半導体レーザーを有するが、半導体レーザーは一般に波長安定性が低い。このため、特許文献1に記載の光学モジュールをフーリエ変換型分光分析器に適用した場合、得られるスペクトルパターンの波数軸(波長軸)の正確度において改善の余地がある。
【0008】
一方、半導体レーザーにおいて波長安定化を図る場合、光源恒温システム等の付帯設備を設ける方法もある。しかしながら、これらの付帯設備は、光学モジュールの大型化や消費電力の増大を招く。
【0009】
そこで、移動ミラーの位置を精度よく計測することができ、かつ、小型化および低消費電力化が図られている光学デバイスの実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の適用例に係る光学デバイスは、
分析光学系および測長光学系を備える光学デバイスであって、
前記分析光学系は、
第1光源から射出される分析光を反射させることにより、前記分析光に第1変調信号を付加する移動ミラーと、
所定の波長の光を吸収するガスが封入され、前記分析光を入射させることにより、前記分析光に光吸収信号を付加するガスセルと、
前記分析光と試料との作用により生成された試料由来信号、前記第1変調信号、および、前記光吸収信号、を含む前記分析光を受光し、第1受光信号を出力する第1受光素子と、
を備え、
前記測長光学系は、
レーザー光を射出する第2光源と、
前記レーザー光を用いて前記移動ミラーの位置に対応する変位信号を取得する測長部と、
を備える。
【0011】
本発明の適用例に係る分光装置は、
本発明の適用例に係る光学デバイスと、
前記変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号を生成する移動ミラー位置演算部と、
前記第1受光信号および前記移動ミラー位置信号に基づいて、前記移動ミラーの各位置における前記第1受光信号の強度を表す波形を生成する光強度演算部と、
前記波形にフーリエ変換を行い、前記光吸収信号によるピークを含むスペクトルパターンを生成するフーリエ変換部と、
前記ピークの位置に基づいて、前記移動ミラー位置信号を補正する補正値を算出する移動ミラー位置補正部と、
を備える。
【0012】
本発明の適用例に係る分光方法は、
試料の分光分析を行う分光方法であって、
本発明の適用例に係る光学デバイスが取得した前記変位信号により、前記移動ミラーの位置を測定するステップと、
前記ガスセルおよび前記試料を前記分析光の光路上に配置し、前記移動ミラーの位置を変化させながら、前記ガスセルおよび前記試料に前記分析光を入射させ、前記ガスセルおよび前記試料から射出された前記分析光を前記第1受光素子に受光させ、前記第1受光信号を出力させるステップと、
前記第1受光信号および前記移動ミラーの位置の測定値に基づいて、前記移動ミラーの各位置における前記第1受光信号の強度を示す波形を生成するステップと、
前記波形にフーリエ変換を行い、前記光吸収信号によるピークおよび前記試料に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成するステップと、
前記ピークの波長と、前記ガスセルの基本波長と、の差に基づいて、前記移動ミラーの位置の測定値を補正する補正値を算出するステップと、
前記補正値に基づいて、前記スペクトルパターンを補正するステップと、
を有する。
【0013】
本発明の適用例に係る分光方法は、
試料の分光分析を行う分光方法であって、
本発明の適用例に係る光学デバイスのうち、前記分析光の光路上に前記ガスセルを配置するステップと、
前記光学デバイスが取得した前記変位信号により、前記移動ミラーの位置を測定するステップと、
前記移動ミラーの位置を変化させながら、前記ガスセルに前記分析光を入射させ、前記ガスセルから射出された前記分析光を前記第1受光素子に受光させ、前記ガスセルに由来する前記第1受光信号を出力させるステップと、
前記ガスセルに由来する前記第1受光信号および前記移動ミラーの位置の測定値に基づいて、前記移動ミラーの各位置における、前記ガスセルに由来する前記第1受光信号の強度を示す波形を生成するステップと、
前記ガスセルに由来する前記波形にフーリエ変換を行い、前記光吸収信号によるピークを含むスペクトルパターンを生成するステップと、
前記ピークの波長と、前記ガスセルの基本波長と、の差に基づいて、前記移動ミラーの位置の測定値を補正する補正値を算出するステップと、
前記試料を前記分析光の光路上に配置するステップと、
前記光学デバイスが取得した前記変位信号により、前記移動ミラーの位置を測定するステップと、
前記移動ミラーの位置を変化させながら、前記試料に前記分析光を入射させ、前記試料から射出された前記分析光を前記第1受光素子に受光させ、前記試料に由来する前記第1受光信号を出力させるステップと、
前記試料に由来する前記第1受光信号、前記移動ミラーの位置の測定値、および、前記補正値に基づいて、前記移動ミラーの各位置における、前記試料に由来する前記第1受光信号の強度を示す波形を生成するステップと、
前記試料に由来する前記波形にフーリエ変換を行い、前記試料に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成するステップと、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
図2図1の分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
図3図1に示す光学デバイスで取得される第1受光信号F(t)および第2受光信号S2の一例を示す図である。
図4】インターフェログラムF(x)の一例を示す図である。
図5図3に示す第2受光信号S2の部分拡大図である。
図6】試料に分光分析を行って得られるスペクトルパターンSP0の一例である。
図7】セシウム原子の基底状態の超微細構造を示すエネルギー準位図である。
図8図7に示すCs(D1線)の吸収スペクトルAS1である。
図9図2に示す分光装置で得られるスペクトルパターンSP1の一例である。
図10】第1実施形態に係る分光方法を説明するためのフローチャートである。
図11】第1実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
図12図11に示す分光装置で得られるスペクトルパターンSP2の一例である。
図13】第1実施形態の第2変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
図14図13に示す分光装置で得られるスペクトルパターンSP3の一例である。
図15】第2実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
図16】第2実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
図17】第3実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
図18】第3実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
図19】第3実施形態の第1変形例に係る分光方法を説明するためのフローチャートである。
図20】第4実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
図21】第4実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
図22】第5実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
図23図22の分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
図24図22に示す光学デバイスで取得される第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)の一例を示す図である。
図25】分析光として波長400nmの光(可視光)を用いた場合の、移動ミラーの位置の計測誤差とスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度)および分光波長の誤差(分光波長精度)との関係を示すグラフである。
図26】分析光として波長200nmの光(紫外線)を用いた場合の、移動ミラーの位置の計測誤差とスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度)および分光波長の誤差(分光波長精度)との関係を示すグラフである。
図27】移動ミラーの位置の計測間隔とスペクトルパターンにおける最大計測波数および最小計測波長との関係を示すグラフである。
図28】第5実施形態の第1変形例に係る分光装置を示す概略構成図である。
図29】第6実施形態に係る分光装置を示す概略構成図である。
図30図29の分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
図31図29に示す振動素子の構成例を示す斜視図である。
図32図29に示す振動素子の他の構成例を示す斜視図である。
図33】第6実施形態の第1変形例に係る分光装置が備える分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
図34】第6実施形態の第2変形例に係る分光装置が備える分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
図35図34に示す模式図のうち、補正処理部について詳細に示す図である。
図36】光変調器からの出力信号を取得する回路の一例を示す図である。
図37】第6実施形態の第3変形例に係る分光装置が備える分析光学系、測長光学系、信号生成部および演算装置の各主要部を示す模式図である。
図38図37に示す模式図のうち、信号生成部について詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光学デバイス、分光装置および分光方法を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
1.第1実施形態
まず、第1実施形態に係る光学デバイス、分光装置および分光方法について説明する。
図1は、第1実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0017】
1.1.分光装置
図1に示す分光装置100では、入射された分析光L1を被検体である試料9に照射させ、試料9から放射された分析光L1をマイケルソン型干渉光学系に通し、得られた干渉光の強度変化を検出し、後述する演算を行うことにより、インターフェログラムを取得する。取得したインターフェログラムをフーリエ変換することにより、試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成する。分析光L1の波長を選択することにより、図1に示す分光装置100は、例えば試料9に対するFT-IR(フーリエ型赤外分光分析)、FT-NIR(フーリエ型近赤外分光分析)、FT-VIS(フーリエ型可視分光分析)、FT-UV(フーリエ型紫外分光分析)、FT-THz(フーリエ型テラヘルツ分光分析)等に適用可能である。
【0018】
分光装置100は、光学デバイス1と、信号生成部8と、演算装置7と、を備える。
このうち、光学デバイス1は、図1に示すように、分析光学系3および測長光学系4を備える。
【0019】
分析光学系3は、分析光L1を試料9に照射するとともに、分析光L1から試料9に由来する試料由来信号を取り出せるように、分析光L1の光路長を変化させながら、分析光L1の分割および混合を行い、干渉を生じさせる。測長光学系4では、レーザー光である測長光L2を用いて、分析光L1の光路長の変化を測定する。
【0020】
信号生成部8は、演算装置7に向けて基準信号Ssを出力する機能を有する。演算装置7は、分析光学系3から出力された干渉光の強度を表す信号および測長光学系4から出力された光路長の変化を表す信号に基づいて、光路長に対する干渉光の強度を表す波形、すなわち前述したインターフェログラムを求める機能を有する。また、演算装置7は、インターフェログラムにフーリエ変換を行い、スペクトルパターンを取得する機能を有する。
【0021】
1.2.光学デバイス
次に、第1実施形態に係る光学デバイス1について説明する。
光学デバイス1は、前述したように、分析光学系3、および、測長光学系4を備える。
【0022】
1.2.1.分析光学系
分析光学系3は、第1光源51、ビームスプリッター54、ガスセル6、集光レンズ55および減光フィルター56を備える。なお、分析光学系3では、これらの光学要素の一部が省略されていてもよいし、これら以外の光学要素を備えていてもよいし、これらの光学要素が同等の機能を有する他の光学要素で置換されていてもよい。
【0023】
第1光源51は、例えば白色光、すなわち幅広い波長の光が集まった光を分析光L1として射出する光源である。分析光L1の波長域、つまり第1光源51の種類は、試料9に対して行う分光分析の目的に応じて適宜選択される。赤外分光分析を行う場合には、第1光源51としては、例えば、ハロゲンランプ、赤外ランプ、タングステンランプ等が挙げられる。可視光分光分析を行う場合には、第1光源51としては、例えば、ハロゲンランプ等が挙げられる。紫外分光分析を行う場合には、第1光源51としては、例えば、重水素ランプ、UV-LED(紫外線発光ダイオード)等が挙げられる。
【0024】
なお、分析光L1の波長として100nm以上760nm未満を選択することにより、紫外分光分析または可視光分光分析を行い得る分光装置100を実現することができる。また、分析光L1の波長として760nm以上20μm以下を選択することにより、赤外分光分析または近赤外分光分析を行い得る分光装置100を実現することができる。さらに、分析光L1の波長として30μm以上3mm以下を選択することにより、テラヘルツ波分光分析を行い得る分光装置100を実現することができる。
【0025】
なお、第1光源51は、光学デバイス1に含まれず、外部に設けられていてもよい。この場合、外部に設けられた第1光源51から射出された分析光L1が、光学デバイス1に導入されるようになっていればよい。一方、本実施形態のように、光学デバイス1が第1光源51を備えることにより、第1光源51とビームスプリッター54とのアライメント精度を特に高めることができ、アライメント不良に伴う分析光L1の損失を最小限に抑えることができる。
【0026】
分析光L1は、ビームスプリッター54を透過し、ガスセル6に入射される。ガスセル6を透過した分析光L1は、集光レンズ55で集光されて、試料9に照射される。
【0027】
ビームスプリッター54には、例えば、無偏光ビームスプリッターが用いられるが、偏光ビームスプリッターが用いられてもよい。この場合、必要な波長板を適宜追加すればよい。なお、第1光源51から射出された分析光L1のうち、一部は、ビームスプリッター54で反射するが、本実施形態では、この反射した分析光L1は、用いられることなく放置される。
【0028】
集光レンズ55は、分析光L1を集光させ、試料9に照射される分析光L1のスポットサイズを小さくする。これにより、局所分析が可能になる。
【0029】
ガスセル6には、所定の波長の光を吸収するガスが封入されている。ガスセル6に分析光L1が入射されると、分析光L1に光吸収信号が付加される。光吸収信号は、ガスによる特定波長の光吸収である。ガスセル6については、後に詳述する。
【0030】
試料9から射出された分析光L1は、試料9との作用により生成された試料由来信号を含んでいる。試料由来信号とは、例えば、分析光L1が試料9に作用したときの、試料9による特定波長の光吸収等が挙げられる。この分析光L1は、集光レンズ55およびガスセル6を経て、ビームスプリッター54で反射され、減光フィルター56を通過する。減光フィルター56は、所定波長の光を選択的に減衰させる。これにより、試料由来信号のS/N比(信号対雑音比)を高めることができ、分光分析をより精度よく行うことができる。減光フィルター56としては、例えば、光学濃度(OD値)が6.0以上のノッチフィルター等が挙げられる。
【0031】
また、分析光学系3は、マイケルソン型干渉光学系を構成する、ビームスプリッター32、移動ミラー33、固定ミラー34、集光レンズ35および第1受光素子36を備える。なお、分析光学系3では、これらの光学要素の一部が省略されていてもよいし、これら以外の光学要素を備えていてもよいし、これらの光学要素が同等の機能を有する他の光学要素で置換されていてもよい。
【0032】
ビームスプリッター32は、分析光L1を2つの分析光L1a、L1bに分割する無偏光ビームスプリッターである。具体的には、ビームスプリッター32は、分析光L1の一部を分析光L1aとして移動ミラー33に向けて反射させ、分析光L1の他部を分析光L1bとして固定ミラー34に向けて透過させることにより、分析光L1を2つに分割する機能を有する。
【0033】
ビームスプリッター32の種類としては、例えば、図1に示すプリズム型素子(キューブ型素子)の他、プレート型素子、積層型素子等が挙げられる。プレート型のビームスプリッター32を用いた場合には、分析光L1aと分析光L1bとで波長分散が生じるので、必要に応じて、ビームスプリッター32と固定ミラー34との間に、波長分散補償板を配置するようにしてもよい。波長分散補償板は、硝材の光路長差による波長分散を補償する光学要素である。本実施形態では、ビームスプリッター32としてプリズム型素子が用いられているので、この波長分散補償板は不要である。プリズム型素子は、プリズム同士の間に光学薄膜が挟まれた形態の素子である。また、積層型素子は、2枚の透明平板の間に光学薄膜が挟まれた形態の素子である。積層型素子でも、プリズム型素子と同様、波長分散補償板を不要にできる。また、プリズム型素子や積層型素子では、光学薄膜が露出しないので、ビームスプリッター32の長期信頼性を高めることができる。
【0034】
また、ビームスプリッター32は、移動ミラー33で反射された分析光L1aを第1受光素子36に向けて透過させ、固定ミラー34で反射された分析光L1bを第1受光素子36に向けて反射させる。したがって、ビームスプリッター32は、分割された分析光L1a、L1bを混合する機能を有する。
【0035】
移動ミラー33は、ビームスプリッター32に対して分析光L1aの入射方向に移動し、かつ、分析光L1aを反射させる鏡である。移動ミラー33で反射した分析光L1aは、移動ミラー33の位置に応じて位相が変化する。これにより、移動ミラー33は、分析光L1aに第1変調信号を付加する。第1変調信号は、移動ミラー33の位置に応じて分析光L1aに付加される位相の変化である。
【0036】
移動ミラー33を移動させる図示しない移動機構としては、特に限定されないが、例えば、1軸リニアステージ、ピエゾ駆動装置、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いたマイクロアクチュエーター等が挙げられる。このうち、1軸リニアステージは、例えば、ボイスコイルモーター(VCM)またはボールねじ駆動部とリニアガイド機構とを備えることで、移動ミラー33の移動において良好な並進性を実現することができる。
【0037】
固定ミラー34は、ビームスプリッター32に対して位置が固定され、分析光L1bを反射させる鏡である。固定ミラー34で反射した分析光L1bは、ビームスプリッター32で分析光L1aと混合され、干渉光として第1受光素子36で受光される。分析光学系3では、移動ミラー33の位置に応じて、分析光L1aの光路と、分析光L1bの光路と、の間に光路差が生じる。このため、干渉光の強度は、移動ミラー33の位置に応じて変化する。
【0038】
移動ミラー33および固定ミラー34は、それぞれ平板ミラーであってもよいし、コーナーキューブミラーであってもよい。各ミラーの反射面には、Al、Au、Agのような金属を用いたメタルコート、誘電体多層膜等が成膜されていてもよい。また、移動ミラー33について、「分析光の入射方向に移動」は、分析光の入射方向の成分を含む方向に移動することを含む。したがって、移動ミラー33は、入射方向に対して斜めに傾いた方向(非平行な方向)に移動してもよい。その場合、演算装置7は、移動ミラー33が分析光の入射方向に対して斜めに傾いた影響を除去する機能を有していればよい。さらに、固定ミラー34も移動するように構成されていてもよい。その場合、演算装置7は、固定ミラー34が移動した影響を除去する機能を有していればよい。
【0039】
集光レンズ35は、干渉光、すなわち混合された分析光L1a、L1bを第1受光素子36に集光させる。
【0040】
第1受光素子36は、干渉光を受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第1受光信号F(t)として出力する。この第1受光信号F(t)は、分析光L1と試料9との相互作用により生成された試料由来信号と、前述した第1変調信号と、前述した光吸収信号と、を含む。
【0041】
第1受光素子36としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ等が挙げられる。このうち、フォトダイオードとしては、例えば、InGaAs系フォトダイオード、Si系フォトダイオード、アバランシェ型フォトダイオード等が挙げられる。
【0042】
1.2.2.測長光学系
測長光学系4は、マイケルソン型干渉光学系であり、第2光源41と、測長部40と、を備える。測長部40は、第2光分割素子42、光帰還部43、および、第2受光素子45を備える。なお、測長光学系4では、これらの光学要素の一部が省略されていてもよいし、これら以外の光学要素を備えていてもよいし、これらの光学要素が同等の機能を有する他の光学要素で置換されていてもよい。
【0043】
第2光源41は、スペクトル線幅の狭い光を射出する光源が好ましく用いられる。第2光源41としては、例えば、He-Neレーザー、Arレーザーのようなガスレーザー、DFB-LD(Distributed FeedBack - Laser Diode:分布帰還型レーザーダイオード)、FBG-LD(Fiber Bragg Grating - Laser Diode:ファイバーブラッググレーティング付きレーザーダイオード)、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザーダイオード)、FP-LD(Fabry-Perot Laser Diode:ファブリーペロー型半導体レーザーダイオード)のような半導体レーザー素子、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)のような結晶レーザー等が挙げられる。
【0044】
第2光源41は、特に半導体レーザー素子であるのが好ましい。これにより、光学デバイス1および分光装置100の小型化および軽量化を図ることができる。
【0045】
第2光分割素子42は、ビームスプリッター422、1/2波長板46、1/4波長板47、1/4波長板48、および、検光子49を備える。
【0046】
ビームスプリッター422は、P偏光を透過させ、S偏光を反射させる偏光ビームスプリッターである。1/2波長板46は、その光学軸が、測長光L2の偏光軸に対して回転した状態で配置されている。これにより、測長光L2は、1/2波長板46を通過することにより、P偏光とS偏光とを含む直線偏光になり、ビームスプリッター422でP偏光とS偏光の2つに分割される。
【0047】
S偏光である測長光L2aは、1/4波長板48で円偏光に変換され、光帰還部43に入射する。光帰還部43は、測長光L2aを反射させることにより、ビームスプリッター422に帰還させる。このとき、測長光L2aは、1/4波長板48でP偏光に変換される。
【0048】
一方、P偏光である測長光L2bは、1/4波長板47で円偏光に変換され、移動ミラー33に入射する。移動ミラー33は、測長光L2bを反射させる。これにより、測長光L2bは、移動ミラー33の位置に応じて位相が変化する。これにより、移動ミラー33は、測長光L2bに変位信号を付加する。移動ミラー33で反射した測長光L2bは、ビームスプリッター422に戻る。このとき、測長光L2bは、1/4波長板47でS偏光に変換される。
【0049】
なお、図1に示す測長光学系4は、前述した分析光学系3において分析光L1aが入射する移動ミラー33の面とは異なる面に、測長光L2bが入射するように構成されているが、測長光L2bは、分析光L1aが入射する面と同じ面に入射するようになっていてもよい。
【0050】
また、ビームスプリッター422は、光帰還部43から帰還した測長光L2aを第2受光素子45に向けて透過させ、移動ミラー33で反射された測長光L2bを第2受光素子45に向けて反射させる。したがって、ビームスプリッター422は、分割された測長光L2a、L2bを混合する機能を有する。混合された測長光L2a、L2bは、検光子49を透過し、第2受光素子45に入射する。
【0051】
なお、ビームスプリッター422には、偏光ビームスプリッターに代えて無偏光ビームスプリッターを用いるようにしてもよい。この場合、波長板等が不要となるため、部品点数の削減による光学デバイス1の小型化を図ることができる。
【0052】
光帰還部43は、光反射器442を備え、ビームスプリッター422で反射されて入射された光を反射させ、ビームスプリッター422に帰還させる。光反射器442は、例えばミラーで構成される。これにより、光帰還部43の構成を簡素化でき、光学デバイス1の小型化に寄与できる。
【0053】
第2受光素子45は、混合された測長光L2a、L2bを干渉光として受光し、その強度を取得する。そして、強度の時間変化を示す信号を第2受光信号S2として出力する。この第2受光信号S2は、移動ミラー33の変位信号を含む信号である。変位信号は、移動ミラー33の位置に応じて測長光L2bに付加される位相の変化である。以上のようにして、測長部40は、移動ミラー33の位置を示す変位信号を取得する。
【0054】
第2受光素子45としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ等が挙げられる。
【0055】
以上、分析光学系3および測長光学系4について説明したが、これらが備える各光学要素のうち、光を入射させる必要がある光学要素については、反射防止処理が施されているのが好ましい。これにより、第1受光信号F(t)および第2受光信号S2のS/N比を高めることができる。
【0056】
1.3.信号生成部
図2は、図1の分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0057】
図2に示す信号生成部8は、周期信号を生成し、基準信号Ssとして出力する。信号生成部8としては、例えば、ファンクションジェネレーター、シグナルジェネレーター、数値制御型信号発生器等が挙げられる。後述する演算装置7では、基準信号Ssおよび前述した変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。
【0058】
1.4.演算装置
図2に示す演算装置7は、移動ミラー位置演算部72、光強度演算部74、フーリエ変換部76および移動ミラー位置補正部78を有する。これらの機能部が発揮する機能は、例えば、プロセッサー、メモリー、外部インターフェース、入力部、表示部等を備えるハードウェアによって実現される。具体的には、メモリーに格納されているプログラムをプロセッサーが読み出し、実行することによって実現される。なお、これらの構成要素は、外部バスによって互いに通信可能になっている。
【0059】
プロセッサーとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等が挙げられる。なお、これらのプロセッサーがソフトウェアを実行する方式に代えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が上述した機能を実現する方式を採用するようにしてもよい。
【0060】
メモリーとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等が挙げられる。
【0061】
外部インターフェースとしては、例えば、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート、イーサネット(登録商標)ポート等が挙げられる。
【0062】
入力部としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タッチパッド等の各種入力装置が挙げられる。表示部としては、例えば、液晶ディスプレイパネル、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイパネル等が挙げられる。なお、入力部および表示部は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0063】
1.4.1.移動ミラー位置演算部
移動ミラー位置演算部72は、信号生成部8から出力された基準信号Ssに基づいて、移動ミラー33の変位信号を含む第2受光信号S2から、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。移動ミラー33が移動すると、それに伴って測長光学系4における干渉光の強度が変化する。この場合、第2受光信号S2は、例えば、干渉条件に応じて振幅が周期的に変化する信号となる。第2受光信号S2の振幅の変化から、移動ミラー33の変位を算出することができ、移動ミラー位置信号X(t)が求められる。
【0064】
1.4.2.光強度演算部
光強度演算部74は、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、移動ミラー33の位置に対する干渉光の強度を表す波形(インターフェログラムF(x))を生成する。
【0065】
第1受光信号F(t)は、前述したように、試料由来信号、第1変調信号および光吸収信号を含んでいる。光強度演算部74では、移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、第1受光信号F(t)の強度を抽出する。そして、光強度演算部74は、移動ミラー位置信号X(t)から求められる移動ミラー33の位置と第1受光信号F(t)の強度とにより、インターフェログラムF(x)を生成する。なお、インターフェログラムF(x)は、分析光学系3における移動ミラー33での反射光と固定ミラー34での反射光との光路差と、第1受光素子36で受光される干渉光の強度(第1受光信号F(t)の強度)と、の関数で表される。
【0066】
図3は、図1に示す光学デバイス1で取得される第1受光信号F(t)および第2受光信号S2の一例を示す図である。図3の横軸は、時刻であり、縦軸は、第1受光素子36に入射する干渉光の強度または第2受光素子45に入射する干渉光の強度である。
【0067】
図4は、インターフェログラムF(x)の一例を示す図である。図4の横軸は、分析光学系3の光路差であり、縦軸は、干渉光の強度である。なお、分析光学系3の光路差とは、ビームスプリッター32と移動ミラー33との光路長およびビームスプリッター32と固定ミラー34との光路長の差であり、図4では、光路差ゼロを横軸の原点としている。
【0068】
図5は、図3に示す第2受光信号S2の部分拡大図である。図5に示す第2受光信号S2は、所定の周期で振動する信号であり、振幅が最大になる点が特徴点FPとなる。光強度演算部74は、この特徴点FPの時刻で、図3に示す第1受光信号F(t)の強度を抽出することにより、移動ミラー33の位置と第1受光信号F(t)の強度とを関係づけることができる。これにより、インターフェログラムF(x)のデジタルデータを取得することができる。
【0069】
1.4.3.フーリエ変換部
フーリエ変換部76は、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行う。これにより、試料9に固有のスペクトルパターンを取得する。
【0070】
図6は、試料9に分光分析を行って得られるスペクトルパターンSP0の一例である。スペクトルパターンSP0は、試料9の反射スペクトルの例である。
【0071】
図6に示すスペクトルパターンSP0には、分析光L1が試料9に作用して生成された試料由来信号が吸収ピークX9として反映されている。上記のような光学デバイス1を備える分光装置100によれば、スペクトルパターンSP0に基づいて、試料9の特性、例えば材料、構造、成分量等を分析することができる。
【0072】
1.4.4.移動ミラー位置補正部
移動ミラー位置補正部78は、後述する方法により、移動ミラーの位置の測定値を補正する補正値を算出する。これにより、移動ミラー位置信号X(t)に含まれる移動ミラー33の変位を真値に近づけることができる。その結果、最終的に得られるスペクトルパターンの波数軸(波長軸)の正確度を高めることができる。
【0073】
1.5.ガスセル
次に、分析光学系3に含まれるガスセル6について説明する。
【0074】
ガスセル6には、所定の波長の光を吸収するガスが封入されている。封入されるガスとしては、ガス状のセシウム、ルビジウムのようなアルカリ金属、ガス状のヨウ素のようなハロゲン、クリプトンのような希ガスの他、シアン化水素、アセチレン等が挙げられる。これらの原子または分子は、所定の波長の光を吸収したり、放出したりする。ガスセル6には、図示しない温度調整機構が設けられていてもよい。これにより、ガスセル6をより小型化してもガスの蒸気圧を十分に高められる。その結果、ガスセル6の小型化を図ることができる。
【0075】
ガスセル6に封入されるガス(原子または分子)と、そのガスに照射される光の波長の組み合わせ例を下記表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、ガスセル6に封入されるガスを選択することで、吸収させる波長を変更することができる。なお、ガスの選択にあたっては、吸収する波長が、第1光源51の発光スペクトルと重なるガスが選択される。
【0078】
ビームスプリッター54から射出され、ガスセル6に分析光L1が入射すると、ガスセル6に封入されているガスに分析光L1が照射される。これにより、ガスを構成する原子や分子は、分析光L1のエネルギーに応じて、基底状態からエネルギーがより高い状態(励起状態)に遷移する。
【0079】
図7は、セシウム原子の基底状態の超微細構造を示すエネルギー準位図である。
セシウム原子は、図7に示すように、基底準位として6S1/2で表されるエネルギー準位と、励起準位として6P1/2で表されるエネルギー準位と、を有することが知られている。また、6S1/2および6P1/2の各エネルギー準位は、複数のエネルギー準位に分裂した超微細構造を有している。具体的には、6S1/2は、F=3およびF=4で表される2つの基底準位を持っている。また、6P1/2は、F’=3およびF’=4で表される2つの励起準位を持っている。
【0080】
基底準位にあるセシウム原子は、例えば図7に示すCs(D1線)を吸収することで、励起準位に遷移する。
【0081】
例えば、F=4の基底準位にあるセシウム原子は、図7に矢印(1)で示す準位間のエネルギーを吸収することにより、F’=3の励起準位に遷移する。また、図7に矢印(2)で示す準位間のエネルギーを吸収することにより、F’=4の励起準位に遷移する。
【0082】
また、F=3の基底準位あるセシウム原子は、図7に矢印(3)で示す準位間のエネルギーを吸収することにより、F’=3の励起準位に遷移する。また、図7に矢印(4)で示す準位間のエネルギーを吸収することにより、F’=4の励起準位に遷移する。
図7の各矢印(1)~(4)の遷移に対応する共鳴波長を、下記表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
図8は、図7に示すCs(D1線)の吸収スペクトルAS1である。図8に示す吸収スペクトルAS1には、4本の吸収ピークP1~P4が認められる。この吸収ピークP1~P4の周波数は、図7に矢印(1)~(4)で表された4つの遷移周波数に対応している。
【0085】
例えばセシウム原子が封入されているガスセル6に分析光L1が入射されると、図2に示す演算装置7のフーリエ変換部76から出力されるスペクトルパターンは、図6に示すスペクトルパターンSP0に、図8に示す吸収スペクトルAS1が重畳したものとなる。
【0086】
図9は、図2に示す分光装置100で得られるスペクトルパターンSP1の一例である。
【0087】
図9に示すスペクトルパターンSP1には、試料9に由来する吸収ピークX9と、セシウム原子による吸収ピークXCsD1、XCsD2と、が含まれている。吸収ピークX9は、前述した試料由来信号に相当する。吸収ピークXCsD1は、前述したCs(D1線)の吸収によるピークである。なお、図9に示す吸収ピークXCsD1は、表2に示す4つの微細なピークが分解されずに1つのピークとして見えている状態を示している。また、吸収ピークXCsD2は、表1に示すCs(D2線)の吸収によるピークであり、これも複数の微細なピークが分解されずに1つのピークとして見えている状態を示している。吸収ピークXCsD1、XCsD2は、前述した光吸収信号に相当する。
【0088】
スペクトルパターンSP1に含まれる吸収ピークXCsD1、XCsD2の波長は、前述した準位間のエネルギーに対応しているため、精度および安定性が極めて高い。また、温度変化による変動はpmオーダー未満である。したがって、吸収ピークXCsD1、XCsD2の波長は、その「真値(基本波長)」が既知である。そうすると、分析結果であるスペクトルパターンSP1に含まれる吸収ピークXCsD1、XCsD2の波長の実測値と真値(基本波長)との間に「波長のずれΔλ」があった場合、その波長のずれΔλは、分光装置100が有する様々な誤差が原因であると考えられる。
【0089】
ここで、前述した測長光学系4による移動ミラー33の移動距離の測定値に測定誤差があった場合、その測定誤差が及ぼす影響について考える。例えば、移動ミラー33の移動距離の真値L[mm]を測定したとき、誤差σを含む測定値L(1+σ)[mm]が得られたと仮定する。この場合、誤差σは、スペクトルパターンSP1上において、波長の真値λからのずれを生じさせる。このずれは、誤差σを用いてσλと表すことができる。したがって、スペクトルパターンSP1上での波長のずれΔλは、移動ミラー33の移動距離によらず、移動ミラー33の変位量の測定誤差に起因しているといえる。そうすると、スペクトルパターンSP1上での波長のずれΔλに基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を補正することができる。具体的には、移動ミラー33の補正前の算出移動距離をL’とし、補正後の算出移動距離をL0とするとき、補正後の算出移動距離L0は、L0=L’/(1+σ)と表すことができる。この関係式に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を補正することにより、測定誤差が相殺されるため、真値に近い測定結果が反映された、補正後の移動ミラー位置信号X(t)を得ることができる。その結果、波数軸(波長軸)の正確度が高いスペクトルパターンSP1を得ることができる。なお、この例では、誤差σが、補正後の移動ミラー位置信号X(t)を得るための補正値となる。
【0090】
一例として、図9に吸収ピークXCsD1の波長の実測値が892.000nmであった場合を考える。吸収ピークXCsD1の波長の真値は894.593nmであるから、波長のずれΔλは、Δλ=894.593-892.000=2.593[nm]となる。そうすると、Δλ=σλであるから、σ=2.593/894.593=0.002899となる。このようにして算出したσを、L0=L’/(1+σ)に代入することで、補正後の算出移動距離L0を算出することができる。
【0091】
なお、上記の補正に用いる吸収ピークは、吸収ピークXCsD1ではなく、吸収ピークXCsD2であってもよいし、これらに含まれる微細なピークのうちの1つであってもよい。また、複数の吸収ピークからそれぞれ誤差σを算出した後、それらの平均値またはその他の演算に基づいて補正を行うようにしてもよい。
【0092】
演算装置7が有する移動ミラー位置補正部78は、吸収ピークXCsD1の波長の実測値(光吸収信号によるピークの波長の実測値)と、吸収ピークXCsD1の波長の真値(ガスセル6の基本波長)と、の差に基づいて、移動ミラー33の位置の測定値を補正する補正値を算出し、この補正に基づいて移動ミラー位置信号X(t)を補正する機能を有していればよい。
【0093】
また、本実施形態では、ガスセル6が、ビームスプリッター54と試料9との間に配置されている。このため、試料9に分析光L1が照射されるときには、常時、ガスセル6にも分析光L1が照射されることになる。したがって、本実施形態では、試料9に由来する吸収ピークX9とともに、吸収ピークXCsD1を取得することができる。その結果、スペクトルパターンSP1の取得と同時に波数軸(波長軸)を補正することができるので、補正をリアルタイムに行うことができ、特に精度の高い分光分析が可能になる。
【0094】
なお、本実施形態は、ガスセル6を透過した分析光L1が試料9で反射され、再びガスセル6を透過するように構成されている。このため、本実施形態で得られるスペクトルパターンSP1は反射スペクトルになる。また、分析光L1は、ガスセル6で2回分の吸収を受けることから、その分、吸収ピークXCsD1の強度は大きくなる。これにより、吸収ピークXCsD1のS/N比(信号対雑音比)を大きくできるため、補正値の精度を高めることができ、特に精度の高い分光分析が可能になる。
【0095】
また、ガスセル6に封入されている原子や分子の準位間のエネルギーは、極めて精度および安定性が高いため、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、上記の効果が得られる。このため、第2光源41に、半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がない。これにより、光学デバイス1の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
【0096】
なお、ガスセル6の配置は、分析光L1が入射し得る位置であれば、上記の配置に限定されない。
【0097】
1.6.分光方法
次に、第1実施形態に係る分光方法について説明する。
図10は、第1実施形態に係る分光方法を説明するためのフローチャートである。
【0098】
図10に示す分光方法は、ミラー位置測定ステップS102と、分析光照射ステップS104と、波形生成ステップS106と、フーリエ変換ステップS108と、補正値算出ステップS110と、スペクトル情報補正ステップS112と、を有する。
【0099】
ミラー位置測定ステップS102では、光学デバイス1の測長部40に測長光L2(レーザー光)を入射させ、移動ミラー33の位置の測定を開始する。これにより、移動ミラー33の位置に対応する変位信号の取得を開始する。
【0100】
分析光照射ステップS104では、ガスセル6および試料9を分析光L1の光路上に配置し、移動ミラー33の位置を変化させながら、ガスセル6および試料9に分析光を入射させる。そして、ガスセル6および試料9から射出された分析光L1を第1受光素子36で受光し、第1受光信号F(t)を出力させる。なお、ガスセル6に対する分析光L1の入射、および、試料9に対する分析光L1の入射は、同時に行ってもよいし、互いに異なる時間に行ってもよい。図2に示す光学デバイス1を用いる場合、互いに同時に行うことができる。
【0101】
波形生成ステップS106では、移動ミラー33の位置に対応する変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。そして、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)(移動ミラー33の位置)に基づいて、ガスセル6および試料9の双方に由来するインターフェログラムF(x)(移動ミラー33の各位置における第1受光信号F(t)の強度を示す波形)を生成する。
【0102】
フーリエ変換ステップS108では、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、吸収ピークX9(試料由来信号によるピーク)および吸収ピークXCsD1(光吸収信号によるピーク)を含むスペクトルパターンを生成する。
【0103】
補正値算出ステップS110では、吸収ピークXCsD1の波長と、ガスセル6の基本波長と、の差に基づいて、移動ミラー33の位置の測定値を補正する補正値を算出する。つまり、吸収ピークXCsD1の位置に基づいて、補正値を算出する。
【0104】
スペクトル情報補正ステップS112では、補正値に基づいて、スペクトルパターンを補正する。
【0105】
以上のような分光方法によれば、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、補正により、精度の高い吸収ピークX9を含むスペクトルパターンを取得することができる。また、第2光源41に、半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がない。これにより、光学デバイス1の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
【0106】
2.第1実施形態の第1変形例
次に、第1実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0107】
図11は、第1実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図11に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
【0108】
図11に示す分析光学系3は、ビームスプリッター54に代えて、ミラー571を備える。ミラー571は、第1光源51から射出された分析光L1の光路を変更する。また、ガスセル6および試料9は、第1光源51とミラー571との間に配置されている。これにより、第1光源51から射出された分析光L1は、ガスセル6および試料9を透過して、ミラー571に入射することになる。このため、第1変形例で得られるスペクトルパターンは透過スペクトルとなる。以上のような第1変形例においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、ミラー571は、必要に応じて設けられればよく、第1光源51や試料9の配置等によっては、省略されていてもよい。
【0109】
図12は、図11に示す分光装置100で得られるスペクトルパターンSP2の一例である。スペクトルパターンSP2は、試料9の透過スペクトルの例である。
【0110】
図12に示すスペクトルパターンSP2にも、試料9に由来する吸収ピークX9と、セシウム原子による吸収ピークXCsD1、XCsD2と、が含まれている。
以上のような第1変形例においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0111】
3.第1実施形態の第2変形例
次に、第1実施形態の第2変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0112】
図13は、第1実施形態の第2変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図13に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
【0113】
図13に示す分析光学系3は、試料9を介して集光レンズ55の反対側に設けられたミラー572を備える。ミラー572は、試料9を透過した分析光L1を反射させ、再び試料9に入射させる。このため、第2変形例で得られるスペクトルパターンは、透過スペクトルとなる。
【0114】
図14は、図13に示す分光装置100で得られるスペクトルパターンSP3の一例である。
【0115】
図14に示すスペクトルパターンSP3にも、試料9に由来する吸収ピークX9と、セシウム原子による吸収ピークXCsD1、XCsD2と、が含まれている。
【0116】
図13に示す分析光学系3では、ビームスプリッター54から射出された分析光L1が、ガスセル6および試料9を往復して、ビームスプリッター54に戻ることになる。このため、図14に示す吸収ピークX9および吸収ピークXCsD1、XCsD2は、図12に示すスペクトルパターンSP2に比べて強度が大きくなる。これにより、吸収ピークXCsD1、XCsD2のS/N比を大きくできる。
以上のような第2変形例においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0117】
4.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図15は、第2実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0118】
図15に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
【0119】
図15に示す分析光学系3は、ミラー573を備える。図15に示す分析光学系3では、第1光源51から射出された分析光L1がビームスプリッター54で反射される方向に、ガスセル6およびミラー573が配置されている。ビームスプリッター54から射出された分析光L1は、ガスセル6を透過してミラー573で反射される。ミラー573で反射された分析光L1は、再びガスセル6を透過してビームスプリッター54に戻る。したがって、ビームスプリッター54では、試料9で反射された分析光L1とガスセル6を経由した分析光L1とが混合され、減光フィルター56に向かって射出される。
【0120】
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
また、前述した第1実施形態では、ビームスプリッター54で分析光L1の一部が損失となっていたところ、第2実施形態では、その損失分を利用することができる。このため、分析光学系3における光利用効率を高めることができる。その結果、分析光L1の強度低下を抑制することができ、S/N比を高めることができる。
【0121】
さらに、第2実施形態では、分析光L1がガスセル6を往復するため、往復しない場合に比べてガスセル6による吸収ピークの強度を大きくできる。
【0122】
5.第2実施形態の第1変形例
次に、第2実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0123】
図16は、第2実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図16に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図15に示す分光装置100と同様である。
【0124】
図16に示す分析光学系3は、試料9を介して集光レンズ55の反対側に設けられたミラー572を備える。ミラー572は、試料9を透過した分析光L1を反射させ、再び試料9に入射させる。このため、第1変形例で得られるスペクトルパターンは、透過スペクトルとなる。
【0125】
以上のような第1変形例においても、第2実施形態と同様の効果が得られる。
また、第1変形例では、分析光L1が試料9を往復するため、往復しない場合に比べて試料9による吸収ピークの強度を大きくできる。
【0126】
6.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
図17は、第3実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
【0127】
図17に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
【0128】
図17に示す分析光学系3は、入射切替部61を備える。図17に示す入射切替部61は、可動ミラー62を有する。可動ミラー62は、ビームスプリッター54と集光レンズ55との間の光路上に挿入され、光路を変更する挿入状態と、この光路から取り出された非挿入状態と、をとり得るように姿勢が変化する。
【0129】
可動ミラー62が挿入状態にあるとき、可動ミラー62は、ビームスプリッター54から射出された分析光L1を反射し、光路を変更する。光路が変更された分析光L1は、ガスセル6を透過し、ミラー573で反射される。ミラー573で反射された分析光L1は、再びガスセル6を透過した後、可動ミラー62で反射され、ビームスプリッター54に戻る。したがって、この場合、試料9には分析光L1が入射しないので、スペクトルパターンには、ガスセル6による吸収ピークのみが含まれる。
【0130】
可動ミラー62が非挿入状態にあるとき、ビームスプリッター54から射出された分析光L1は、試料9に入射する。この場合、ガスセル6には分析光L1が入射しないので、スペクトルパターンには、試料9による吸収ピークのみが含まれる。
【0131】
以上のように動作する入射切替部61を設けることにより、必要なタイミングで、ガスセル6を用いた波数軸(波長軸)の補正を行うことができる。一方、試料9に対する分光分析時には、ガスセル6に分析光L1が照射されることに伴うわずかな損失等を避けることができる。
以上のような第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0132】
7.第3実施形態の第1変形例
次に、第3実施形態の第1変形例に係る光学デバイス、分光装置および分光方法について説明する。
【0133】
図18は、第3実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図18に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図11に示す分光装置100と同様である。
【0134】
図18に示す分析光学系3は、入射切替部61を備える。図18に示す入射切替部61は、挿抜機構63を有する。挿抜機構63は、ガスセル6を分析光L1の光路上に挿入したガスセル挿入状態と、試料9を分析光L1の光路上に挿入した試料挿入状態と、を切り替える。つまり、挿抜機構63は、ガスセル6および試料9を光路上に挿抜する。
【0135】
以上のように動作する入射切替部61を設けることにより、必要なタイミングで、ガスセル6を用いた波数軸(波長軸)の補正を行うことができる。一方、試料9に対する分光分析時には、ガスセル6に分析光L1が照射されることに伴うわずかな損失等を避けることができる。
【0136】
以上のような第1変形例においても、第3実施形態と同様の効果が得られる。
なお、挿抜機構63は、省略されていてもよい。この場合、作業者が手動で、ガスセル6と試料9の入れ替え操作を行えばよい。このような操作を含む、第3実施形態の第1変形例に係る分光方法は、以下の通りである。
【0137】
図19は、第3実施形態の第1変形例に係る分光方法を説明するためのフローチャートである。
【0138】
前述した図10に示す分光方法では、ガスセル6および試料9の双方に対し、同時に分析光L1を照射している。これに対し、図19に示す分光方法では、ガスセル6に対する分析光L1の照射と、試料9に対する分析光L1の照射と、を互いに排他的に行っている。以下、図10に示す分光方法との相違点のみ、説明する。したがって、図10に示す分光方法と同様の事項については、その説明を省略する。
【0139】
図19に示す分光方法は、ガスセル配置ステップS101と、ミラー位置測定ステップS102と、分析光照射ステップS104と、波形生成ステップS106と、フーリエ変換ステップS108と、補正値算出ステップS110と、試料配置ステップS114と、ミラー位置測定ステップS116と、分析光照射ステップS118と、波形生成ステップS120と、フーリエ変換ステップS122と、を有する。
【0140】
ガスセル配置ステップS101では、例えば作業者が手動で、または、前述した入射切替部61を操作して、分析光L1の光路上にガスセル6を配置する。
【0141】
ミラー位置測定ステップS102では、光学デバイス1の測長部40に測長光L2(レーザー光)を入射させ、移動ミラー33の位置の測定を開始する。これにより、移動ミラー33の位置に対応する変位信号の取得を開始する。
【0142】
分析光照射ステップS104では、移動ミラー33の位置を変化させながら、ガスセル6に分析光L1を入射させる。そして、ガスセル6から射出された分析光L1を第1受光素子36で受光し、第1受光信号F(t)を出力させる。
【0143】
波形生成ステップS106では、移動ミラー33の位置に対応する変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。そして、ガスセル6に由来する第1受光信号F(t)およびガスセル6を配置したときの移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、ガスセル6に由来するインターフェログラムF(x)を生成する。
フーリエ変換ステップS108では、ガスセル6に由来するインターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、吸収ピークXCsD1(光吸収信号によるピーク)を含むスペクトルパターンを生成する。
【0144】
補正値算出ステップS110では、吸収ピークXCsD1(光吸収信号)の波長と、ガスセル6の基本波長と、の差に基づいて、移動ミラー33の位置の測定値を補正する補正値を算出する。
【0145】
試料配置ステップS114では、例えば作業者が手動で、または、前述した入射切替部61を操作して、分析光L1の光路上に試料9を配置する。
【0146】
ミラー位置測定ステップS116では、光学デバイス1の測長部40に測長光L2(レーザー光)を入射させ、移動ミラー33の位置の測定を開始する。これにより、移動ミラー33の位置に対応する変位信号の取得を開始する。
【0147】
分析光照射ステップS118では、移動ミラー33の位置を変化させながら、試料9に分析光L1を入射させる。そして、試料9から射出された分析光L1を第1受光素子36で受光し、第1受光信号F(t)を出力させる。
【0148】
波形生成ステップS120では、移動ミラー33の位置に対応する変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。そして、試料9に由来する第1受光信号F(t)、試料9を配置したときの移動ミラー位置信号X(t)、および、算出しておいた補正値に基づいて、試料9に由来するインターフェログラムF(x)を生成する。
【0149】
フーリエ変換ステップS122では、試料9に由来するインターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、吸収ピークX9(試料由来信号)を含むスペクトルパターンを取得する。
【0150】
以上のような分光方法によれば、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、補正により、精度の高い吸収ピークX9を含むスペクトルパターンを取得することができる。また、第2光源41に、半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がない。これにより、光学デバイス1の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
また、必要なタイミングで、波数軸(波長軸)の補正に必要な補正値を取得することができる。一方、試料9に対する分光分析時には、ガスセル6に分析光L1が照射されることに伴うわずかな損失等を避けることができる。
【0151】
8.第4実施形態
次に、第4実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0152】
図20は、第4実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図20に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
【0153】
図20に示す分析光学系3は、入射切替部61、集光レンズ574および波長変換素子575を備える。図20に示す入射切替部61は、可動ミラー62を有する。図20に示す可動ミラー62は、ビームスプリッター54と集光レンズ55との間の光路上に挿入され、光路を変更する挿入状態と、この光路から取り出された非挿入状態と、をとり得るように位置が変化する。
【0154】
可動ミラー62が挿入状態にあるとき、可動ミラー62は、ビームスプリッター54から射出された分析光L1を反射し、光路を変更する。光路が変更された分析光L1は、ガスセル6および集光レンズ574を透過し、波長変換素子575で反射される。波長変換素子575で反射された分析光L1は、再び集光レンズ574およびガスセル6を透過した後、可動ミラー62で反射され、ビームスプリッター54に戻る。したがって、この場合、試料9には分析光L1が入射しないので、スペクトルパターンには、ガスセル6による吸収ピークのみが含まれる。また、波長変換素子575は、入射する分析光L1に対して、射出される分析光L1の波長を変換する。
【0155】
波長変換素子575としては、例えば、蛍光体が挙げられる。蛍光体は、例えば、波長405nmの光で励起され、450~650nmの波長を持つ蛍光を発する。このため、波長変換素子575にレーザー光のような狭帯域の光が入射された場合でも、広帯域な光、すなわち白色光を射出する。したがって、波長変換素子575を用いることで、第1光源51としてレーザー光源を用いた場合でも、ガスセル6による吸収ピークを含むスペクトルパターンの取得が可能になる。この場合、ガスセル6が吸収する波長に合わせて、蛍光体の種類を選択すればよい。つまり、射出される白色光の波長範囲とガスセル6が吸収する波長とが重なっていればよい。蛍光体の構成材料としては、例えば、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系材料、TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系材料、サイアロン系材料、BOS(バリウム・オルソシリケート)系材料等が挙げられる。
【0156】
可動ミラー62が非挿入状態にあるとき、ビームスプリッター54から射出された分析光L1は、試料9に入射する。この場合、ガスセル6には分析光L1が入射しないので、スペクトルパターンには、試料9に由来する信号のみが含まれる。
【0157】
以上のような第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
また、第4実施形態では、第1光源51としてレーザー光源を用いることができる。このため、試料9には、レーザー光である分析光L1が照射される。したがって、第4実施形態に係る分光装置100は、例えば試料9に対するフーリエ型ラマン分光分析、フーリエ型蛍光分光分析のようなレーザー励起分光分析に適用可能である。
【0158】
9.第4実施形態の第1変形例
次に、第4実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0159】
図21は、第4実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図21に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図20に示す分光装置100と同様である。
【0160】
図21に示す分析光学系3は、入射切替部61を備える。図21に示す入射切替部61は、遮光部64を有する。遮光部64は、ガスセル6に入射する分析光L1を遮蔽する遮蔽状態と、遮蔽しない非遮蔽状態と、をとり得るように位置が変化する。
【0161】
また、図21に示す分析光学系3では、第1光源51から射出された分析光L1がビームスプリッター54で反射される方向に、ガスセル6、集光レンズ574および波長変換素子575が配置されている。
【0162】
遮光部64が非遮蔽状態にあるとき、ビームスプリッター54で反射された分析光L1は、ガスセル6および集光レンズ574を透過し、波長変換素子575で反射される。波長変換素子575で反射された分析光L1は、再び集光レンズ574およびガスセル6を透過した後、ビームスプリッター54に戻る。一方、ビームスプリッター54を透過し、射出された分析光L1は、集光レンズ55を介して試料9に入射する。試料9で反射された分析光L1は、再び集光レンズ55を透過した後、ビームスプリッター54に戻る。したがって、この場合、スペクトルパターンには、ガスセル6による吸収ピークおよび試料9に由来する信号の双方が含まれることになる。
【0163】
遮光部64が遮蔽状態にあるとき、ビームスプリッター54で反射された分析光L1は、遮光部64で遮蔽される。したがって、この場合、スペクトルパターンには、試料9に由来する信号のみが含まれることになる。
以上のような第1変形例においても、第4実施形態と同様の効果が得られる。
【0164】
また、必要なタイミングで、波数軸(波長軸)の補正に必要な補正値を取得することができ、かつ、その場合、試料9に対する分光分析と同時に行うことができる。このため、波数軸の補正をリアルタイムに行うことができる。一方、試料9に対する分光分析時には、遮蔽状態を選択することで、ガスセル6に分析光L1が照射されることに伴う影響等を避けることができる。
【0165】
10.第5実施形態
次に、第5実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0166】
図22は、第5実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。図23は、図22の分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0167】
以下、第5実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0168】
図22に示す分光装置100は、測長光学系4が備える光帰還部43および第2光分割素子42の構成が異なること以外、図1に示す分光装置100と同様である。
図22に示す第2光分割素子42は、第1実施形態の構成に加え、ビームスプリッター424および1/4波長板482を備える。つまり、図22に示す第2光分割素子42は、2つのビームスプリッター422、424を備える。ビームスプリッター422で分割された測長光L2aは、光帰還部43を経て、ビームスプリッター424に帰還し、ビームスプリッター424で反射され、第2受光素子45に入射する。また、ビームスプリッター422で分割された測長光L2bは、移動ミラー33で反射した後、再びビームスプリッター422を経て、ビームスプリッター424を透過し、第2受光素子45に入射する。
【0169】
図22に示す光帰還部43は、ミラー451、452および光変調器444を備えている。ミラー451、452は、ビームスプリッター422とビームスプリッター424とを結ぶ光路を形成する。この光路上に光変調器444が設けられている。
【0170】
図22に示す光変調器444は、音響光学変調器445(Acousto-Optics Modulator:AOM)を有する。音響光学変調器445は、光弾性効果により媒体中に周期的な屈折率変化を生じさせ、透過光の周波数をシフトさせる。なお、音響光学変調器445は、電気光学変調器(Electro-Optic Modulator:EOM)に代替可能である。光変調器444は、測長光L2aに対して第2変調信号を重畳させる。第2変調信号は、測長光L2aが音響光学変調器445を透過することに伴って生じる周波数の変化である。
【0171】
図22に示す信号生成部8は、駆動信号Sdを生成する機能を有する。音響光学変調器445は、駆動信号Sdにより駆動される。駆動信号Sdを適宜設定することにより、音響光学変調器445における第2変調信号の重畳を制御することができる。
【0172】
図23に示す移動ミラー位置演算部72は、光ヘテロダイン干渉法により、移動ミラー33の位置を特定し、その結果に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。具体的には、測長光学系4が光変調器444を備えることにより、測長光L2aに第2変調信号を付加することができる。そうすると、測長光L2a、L2bを干渉させたとき、得られた干渉光から移動ミラー33の位置に対応する位相情報をより高い精度で取得することができる。そして、演算装置7において位相情報から移動ミラー33の位置が高精度に求められる。光ヘテロダイン干渉法によれば、位相情報を取り出すとき、外乱の影響、特にノイズとなる周波数の迷光の影響を受けにくく、高いロバスト性が与えられる。
【0173】
図23に示す移動ミラー位置演算部72は、前処理部722、復調処理部724、および、移動ミラー位置信号出力部726を有する。前処理部722および復調処理部724には、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている前処理部および復調部が適用できる。
【0174】
前処理部722は、基準信号Ssに基づいて第2受光信号S2に前処理を行う。復調処理部724は、前処理部722から出力された前処理済み信号から、基準信号Ssに基づいて移動ミラー33の位置に応じた変位信号を復調する。
【0175】
移動ミラー位置信号出力部726は、復調処理部724が復調した移動ミラー33の変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成し、出力する。この方法で求めた移動ミラー位置信号X(t)は、測長光L2の波長よりも十分に狭い間隔で移動ミラー33の変位を捉えている。例えば、測長光L2の波長が数100nmである場合、変位信号が示す移動ミラー33の位置分解能としては10nm未満が達成可能になる。これに対し、第1実施形態では、測長光L2の波長の1/4が位置分解能の限界である。このため、光強度演算部74では、第1実施形態に比べてより細かな間隔で、インターフェログラムF(x)のデジタルデータを生成することができる。
【0176】
図24は、図22に示す光学デバイス1で取得される第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)の一例を示す図である。図24の横軸は、時刻であり、縦軸は、第1受光素子36に入射する干渉光の強度または移動ミラー33の位置である。
【0177】
図24に示す移動ミラー位置信号X(t)は、移動ミラー33の位置の変化を、連続的に検出可能な信号になっており、高い位置分解能を実現できている。このため、それに基づいてインターフェログラムF(x)を生成することで、よりデータ点数の多いインターフェログラムF(x)が得られる。データ点数の多さは、インターフェログラムF(x)のサンプリング間隔が短く、精度が高いことを意味する。したがって、このようにして得られたインターフェログラムF(x)を用いることで、最終的に、高い分解能のスペクトルパターンを取得することができる。
【0178】
また、サンプリング間隔を短くできることで、より波長の短い(より波数の大きい)分析光L1を用いても、十分なデータ点数を持つインターフェログラムF(x)を得ることができる。これにより、より広い波長範囲(広い波数範囲)のスペクトルパターン、すなわち、より広帯域のスペクトルパターンを取得することができる。
【0179】
また、測長光学系4におけるビームスプリッター422と光変調器444との物理的距離と、ビームスプリッター422と移動ミラー33との物理的距離と、の差をゼロに近づけることにより、移動ミラー位置信号X(t)の精度をより高めることができる。
【0180】
測長光学系4で移動ミラー33の位置を計測するとき、計測誤差Δdは、下記式(I)で表される。
【0181】
【数1】
【0182】
上記式(I)において、物理的距離の差WDをゼロに近づけることにより、計測誤差Δdにおいてノイズ成分となり得る右辺第2項および第3項を小さくすることができる。これにより、計測誤差Δdが小さくなるため、移動ミラー位置信号X(t)の精度をより高めることができる。
【0183】
具体的には、測長光学系4におけるビームスプリッター422と光変調器444との光路長をLrefとし、ビームスプリッター422と移動ミラー33との光路長をLsとするとき、|Ls-Lref|≦100mmであることが好ましい。これにより、上記式(I)の物理的距離の差WDを十分に小さくすることができ、1nmオーダーまたはそれ以下の計測誤差Δdを達成することができる。
【0184】
一方、移動ミラー33が往復移動するときの移動距離(振幅)をLmとしたとき、この移動距離Lmを踏まえると、|Ls-Lref|≦Lm/2であるのが好ましい。これにより、移動ミラー33の移動距離Lmを考慮しながら、計測誤差Δdを特に小さくすることができる。
【0185】
また、前述した|Ls-Lref|≦100mmを踏まえると、移動ミラー33の移動距離Lmの最大値は、200mmと考えることもできる。したがって、移動ミラー33の移動距離Lmは、200mm以下であることが好ましい。これにより、移動ミラー33の計測誤差Δdを特に小さくすることができる。
【0186】
図25は、分析光L1として波長400nmの光(可視光)を用いた場合の、移動ミラー33の位置の計測誤差δLとスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度δν)および分光波長の誤差(分光波長精度δλ)との関係を示すグラフである。図26は、分析光L1として波長200nmの光(紫外線)を用いた場合の、移動ミラー33の位置の計測誤差δLとスペクトルパターンにおける分光波数の誤差(分光波数精度δν)および分光波長の誤差(分光波長精度δλ)との関係を示すグラフである。なお、図25および図26に示す例では、移動ミラー33の移動距離を1mmとし、その計測誤差をδLとしている。
【0187】
一般的には、移動ミラー33の移動距離を長くすることで波数分解能Δνを高めることができる。例えば、移動距離が1mmであるとき、従来の方法でインターフェログラムをサンプリングして得られたスペクトルパターンから計算される波数分解能Δνは、5cm-1となる。
【0188】
図25および図26に示す例では、移動ミラー33の移動距離を1mmとしたときの、計測誤差δLと分光波数精度δνまたは分光波長精度δλとの関係を示している。図25では、例えば計測誤差δLが100nmであるとき、分光波数精度δνは約2.5cm-1となり、分光波長精度δλは約0.04nmとなることを示している。また、図26では、例えば計測誤差δLが100nmであるとき、分光波数精度δνは約5.0cm-1となり、分光波長精度δλは約0.02nmとなることを示している。100nmという計測誤差δLは、本実施形態に係る光学デバイス1を用いることで、容易に達成できる。そうすると、図25および図26の結果から、分析光L1としてより短波長の光を用いても、前述した波数分解能Δνやそこから計算される波長分解能に比べて、少なくとも同等程度の分光波数精度δνおよび分光波長精度δλが得られることがわかる。よって、本実施形態に係る光学デバイス1を用いて計測誤差δLを小さくすることにより、分析光L1の波長によらず、換言すれば、様々な波長の分析光L1を用いても、分光波数精度δνおよび分光波長精度δλを維持または向上させることができる。
【0189】
図27は、移動ミラー33の位置の計測間隔Δxとスペクトルパターンにおける最大計測波数および最小計測波長との関係を示すグラフである。図27に示すように、計測間隔Δxが小さいほど、最大計測波数は大きく、最小計測波長が短くなる。したがって、計測間隔Δxを小さくすることにより、より広い波数範囲(波長範囲)のスペクトルパターンを取得することができるようになる。なお、安定した計測間隔Δxを実現するためには、計測誤差Δdが計測間隔Δxの1/10以下であることが好ましい。そうすると、前述した1nmオーダーの計測誤差Δdは、図27に照らすと、計測間隔Δx=10nmを実現可能な計測精度であるといえる。
以上のような第5実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0190】
11.第5実施形態の第1変形例
次に、第5実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0191】
図28は、第5実施形態の第1変形例に係る分光装置100を示す概略構成図である。
図28に示す分光装置100は、光学デバイス1の分析光学系3の構成が異なること以外、図22に示す分光装置100と同様である。
【0192】
図28に示す光帰還部43は、光変調器444を介して1/4波長板48の反対側に設けられた光反射器442を備える。光反射器442は、光変調器444を透過した測長光L2aを反射させ、再び光変調器444に入射させる。このため、図28に示す光変調器444では、測長光L2aに対して第2変調信号を2回重畳させることができる。これにより、第5実施形態に比べて光変調器444による周波数変化量を2倍にすることができる。その結果、移動ミラー33をより高速に移動させても、移動ミラー33の位置の測定が可能になる。
以上のような第1変形例においても、第5実施形態と同様の効果が得られる。
【0193】
12.第6実施形態
次に、第6実施形態に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0194】
図29は、第6実施形態に係る分光装置100を示す概略構成図である。図30は、図29の分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0195】
以下、第6実施形態について説明するが、以下の説明では、第5実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0196】
図29に示す測長光学系4は、音響光学変調器445に代えて振動素子446を有するとともに、信号生成部8の構成が異なること以外、図28に示す測長光学系4と同様である。
【0197】
図29に示す光変調器444は、振動素子446を有する。振動素子446は、駆動信号Sdにより振動する。振動素子446としては、例えば、水晶振動子、シリコン振動子、セラミック振動子、ピエゾ素子等が挙げられる。このうち、振動素子446は、水晶振動子、シリコン振動子またはセラミック振動子であるのが好ましい。これらの振動子は、その他の振動子、例えばピエゾ素子等とは異なり、機械共振現象を利用した振動子であるため、Q値が高く、固有振動数の安定化を容易に図ることができる。
【0198】
また、振動素子446を有する光変調器444は、AOMやEOMを有する光変調器に比べて、体積や重量を大きく削減することができる。このため、光学デバイス1の小型化、軽量化および低消費電力化を図ることができる。
【0199】
なお、光変調器444としては、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている光変調器が挙げられる。この公報には、振動素子として水晶AT振動子が挙げられている。また、振動素子446には、SCカット水晶振動子、音叉型水晶振動子、水晶表面弾性波素子等が用いられてもよい。
【0200】
シリコン振動子は、単結晶シリコン基板からMEMS技術を用いて製造される単結晶シリコン片と、圧電膜と、を備える振動子である。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小電気機械システムのことである。単結晶シリコン片の形状としては、例えば、2脚音叉型、3脚音叉型等の片持ち梁形状、両持ち梁形状等が挙げられる。シリコン振動子の発振周波数は、例えば1kHzから数100MHz程度である。
【0201】
セラミック振動子は、圧電セラミックスを焼き固めて製造される圧電セラミック片と、電極と、を備える振動子である。圧電セラミックスとしては、例えば、チタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BTO)等が挙げられる。セラミック振動子の発振周波数は、例えば数100kHzから数10MHz程度である。
【0202】
図29および図30に示す信号生成部8は、発振回路81を備えている。発振回路81は、振動素子446が信号源として動作し、精度の高い周期信号を生成する。図29および図30に示す信号生成部8では、発振回路81で生成された周期信号を、駆動信号Sdおよび基準信号Ssとして出力する。これにより、駆動信号Sdおよび基準信号Ssは、外乱を受けた場合、互いに同じ影響を受けることになる。そうすると、駆動信号Sdにより駆動された光変調器444を介して付加される第2変調信号、および、基準信号Ssも、互いに同じ影響を受ける。このため、第2変調信号を含む第2受光信号S2および基準信号Ssが、演算装置7における演算に供されたとき、演算の過程で、双方が含む外乱の影響を互いに相殺または低減させることができる。その結果、演算装置7では、外乱を受けても、移動ミラー33の位置を精度よく求めることができる。また、分光装置100の小型化、軽量化、低消費電力化を図ることができる。
【0203】
発振回路81としては、例えば、特開2022-38156号公報に開示されている発振回路が挙げられる。
【0204】
図31は、図29に示す振動素子446の構成例を示す斜視図である。
図31に示す振動素子446は、板形状の振動片431と、振動片431に設けられた回折格子434と、を備えている。
【0205】
振動片431は、電位を加えることにより、面に沿う方向に歪むように振動するモードを繰り返す材料で構成されている。図31に示す振動片431は、MHz帯の高周波領域で、振動方向436に沿って厚みすべり振動する水晶AT振動子である。また、振動片431の表面には、回折格子434が設けられている。回折格子434は、振動方向436と交差する成分を持つ溝432、すなわち、振動方向436と交差する方向に延在する直線状の複数の溝432を有している。
【0206】
振動片431は、互いに表裏の関係を有する表面4311および裏面4312を有している。表面4311には、回折格子434が配置されている。また、表面4311には、振動片431に電位を加えるためのパッド433が設けられている。一方、裏面4312にも、振動片431に電位を加えるためのパッド435が設けられている。
【0207】
振動片431の大きさは、例えば、長辺が0.50mm以上10.0mm以下程度とされる。また、振動片431の厚さは、例えば、0.10mm以上2.0mm以下程度とされる。一例として、振動片431の形状は、1辺が1.6mmの正方形とされ、その厚さは0.35mmとされる。
【0208】
回折格子434の大きさは、例えば、長辺が0.20mm以上3.0mm以下程度とされる。また、回折格子434の厚さは、例えば、0.003mm以上0.50mm以下程度とされる。
【0209】
本実施形態では、振動片431が厚みすべり振動するが、この振動は、図31に振動方向436として示すように、面内振動であることから、振動片431単体の表面に対して垂直に光を入射しても、光変調はできない。そこで、振動素子446では、振動片431に回折格子434を設けることにより、光変調を可能にしている。
【0210】
図31に示す回折格子434は、一例としてブレーズド回折格子である。ブレーズド回折格子とは、回折格子の断面形状が階段状になっているものをいう。なお、回折格子434の形状は、これに限定されない。
【0211】
図32は、図29に示す振動素子446の他の構成例を示す斜視図である。なお、図32では、互いに直交する3つの軸として、A軸、B軸およびC軸を設定し、矢印で示している。矢印の先端側を「プラス」とし、矢印の基端側を「マイナス」とする。また、例えば、A軸のプラス側およびマイナス側の両方向を「A軸方向」という。B軸方向およびC軸方向もそれぞれ同様である。
【0212】
図32に示す振動素子446は、音叉型水晶振動子である。図32に示す振動素子446は、基部401と、第1振動腕402および第2振動腕403とを有する振動基板を有する。このような音叉型水晶振動子は、製造技術が確立されているため、容易に入手可能であり、かつ、発振も安定している。このため、音叉型水晶振動子は、振動素子446として好適である。また、振動素子446は、振動基板に設けられた、電極404、405および光反射面406を有する。
【0213】
基部401は、A軸に沿って延在する部位である。第1振動腕402は、基部401のA軸マイナス側の端部からB軸プラス側に向かって延びる部位である。第2振動腕403は、基部401のA軸プラス側の端部からB軸プラス側に向かって延びる部位である。
【0214】
電極404は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と平行な側面に設けられている導電膜である。なお、図32には図示していないが、電極404は、互いに対向する側面にそれぞれ設けられ、互いに極性が異なるように電圧が印加されることで、第1振動腕402を駆動する。
【0215】
電極405は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と交差する側面に設けられている導電膜である。なお、図32には図示していないが、電極405も、互いに対向する側面にそれぞれ設けられ、互いに極性が異なるように電圧が印加されることで、第2振動腕403を駆動する。
【0216】
光反射面406は、第1振動腕402および第2振動腕403のうち、A-B面と交差する側面に設定され、測長光L2aを反射する機能を有する。側面とは、第1振動腕402および第2振動腕403の延在方向に沿って広がる面のことを指す。図32に示す光反射面406は、第1振動腕402の側面のうち、特に、電極405の表面に設定されている。第1振動腕402に設けられた電極405は、光反射面406としての機能も有している。なお、電極405とは別に、図示しない光反射膜を設けるようにしてもよい。
【0217】
音叉型水晶振動子には、水晶基板から切り出された水晶片を用いる。音叉型水晶振動子の製造に用いられる水晶基板としては、例えば、水晶Zカット平板等が挙げられる。図32には、A軸と平行なX軸、B軸と平行なY’軸、C軸と平行なZ’軸を設定している。水晶Zカット平板は、例えば、X軸が電気軸、Y’軸が機械軸、Z’軸が光軸となるように、水晶の単結晶から切り出された基板である。具体的には、X軸、Y’軸およびZ’軸からなる直交座標系において、X軸まわりに、X軸およびY’軸からなるX-Y’平面を反時計方向に約1°から5°傾けた主面を持つ基板が、水晶の単結晶から切り出され、水晶基板として好ましく用いられる。そして、このような水晶基板をエッチングすることにより、図32に示す振動素子446に用いられる水晶片が得られる。エッチングは、ウェットエッチングであっても、ドライエッチングであってもよい。
【0218】
一方、光反射面406を、電極404の表面に設定してもよい。この場合、音叉型水晶振動子が面外振動するように、例えば、面外振動するスプリアスを励振するように、各電極に印加する信号を調整すればよい。
【0219】
13.第6実施形態の第1変形例
次に、第6実施形態の第1変形例に係る光学デバイスおよび分光装置について説明する。
【0220】
図33は、第6実施形態の第1変形例に係る分光装置100が備える分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0221】
図33に示す分光装置100は、信号生成部8の構成が異なること以外、図30に示す分光装置100と同様である。
【0222】
図33に示す信号生成部8は、ファンクションジェネレーター82を備える。ファンクションジェネレーター82は、高精度な波形、すなわち高安定で低ジッターの信号を出力する信号発生器である。したがって、図33に示す信号生成部8は、より高精度の駆動信号Sdおよび基準信号Ssを出力することができ、最終的に、演算装置7において移動ミラー33の位置をより精度よく求めることができる。なお、ファンクションジェネレーター82は、シグナルジェネレーターであってもよい。
以上のような第1変形例においても、第6実施形態と同様の効果が得られる。
【0223】
14.第6実施形態の第2変形例
次に、第6実施形態の第2変形例に係る分光装置について説明する。
【0224】
図34は、第6実施形態の第2変形例に係る分光装置100が備える分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。
【0225】
図34に示す分光装置100は、信号生成部8および演算装置7の構成が異なること以外、図30に示す分光装置100と同様である。
【0226】
図34に示す信号生成部8は、電圧制御発振器83、増幅器84および補正処理部85を備える。また、図34に示す移動ミラー位置演算部72は、直交信号発生部723をさらに備える。
【0227】
14.1.信号生成部
まず、図34に示す信号生成部8について説明する。
【0228】
14.1.1.信号生成部の構成
電圧制御発振器83は、VCO(Voltage Controlled Oscillator)であり、入力される電圧信号に基づいて、出力される周期信号の周波数を制御する機能を有する。これにより、電圧制御発振器83は、目的とする周波数の基準信号Ssを生成し、増幅器84および演算装置7に向けて出力する。なお、電圧制御発振器83は、出力される周期信号の周波数を調整可能な発振器であれば、VCOに限定されない。
【0229】
増幅器84は、入力される制御信号に基づいて、出力される周期信号の振幅を制御する機能を有する。これにより、増幅器84は、入力される基準信号Ssを増幅し、目的とする振幅の駆動信号Sdを生成し、光変調器444に向けて出力する。
【0230】
補正処理部85には、図34に示すように、電圧制御発振器83から出力された基準信号Ss、および、光変調器444の駆動に対応して出力される出力信号Smが入力される。また、補正処理部85は、電圧制御発振器83に向けて周波数制御信号Sf1(補正信号)を出力する。さらに、補正処理部85は、増幅器84に向けて増幅率制御信号Sam(補正信号)を出力する。
【0231】
補正処理部85は、例えばFPGA等に実装され、光変調器444の近傍に配置されることが好ましい。これにより、光変調器444と補正処理部85との物理的距離を短くすることができ、例えば電磁ノイズの影響による出力信号SmのS/N比の低下を抑制することができる。
【0232】
図35は、図34に示す模式図のうち、補正処理部85について詳細に示す図である。
光変調器444からの出力信号Smは、図35に示すオフセット除去部851に入力される。オフセット除去部851は、DC(直流)成分を除去し、AC(交流)成分を取り出す機能を有する。オフセット除去部851を経た出力信号Smは、補正処理部85に入力される。
【0233】
電圧制御発振器83からの基準信号Ssは、図35に示すオフセット除去部852に入力される。オフセット除去部852は、DC(直流)成分を除去し、AC(交流)成分を取り出す機能を有する。オフセット除去部852を経た基準信号Ssは、補正処理部85および直交信号発生部723に入力される。
【0234】
図35に示す補正処理部85は、絶対値演算器853と、乗算器854と、乗算器855と、ローパスフィルター856と、ローパスフィルター857と、振幅ゲイン設定部858と、周波数設定部859と、を備えている。
【0235】
絶対値演算器853は、オフセット除去部851を通過した出力信号Smの絶対値を算出する。
【0236】
乗算器854、855は、2つの入力信号の積に比例した信号を出力する回路である。このうち、乗算器854では、2つの入力信号がいずれも出力信号Smである。このため、乗算器854は、出力信号Smの2乗に比例した信号を出力する。一方、乗算器855では、2つの入力信号が、出力信号Smおよび基準信号Ssである。このため、乗算器855は、出力信号Smと基準信号Ssの積に比例した信号を出力する。
【0237】
乗算器854、855は、例えば、ギルバートセルのような素子を用いてもよいし、入力される2つの信号をオペアンプ等で対数変換した後、加減算を行い、その後、逆対数変換を行う回路であってもよい。
【0238】
ローパスフィルター856、857は、入力信号について高域の周波数帯の信号をカットするフィルターである。ローパスフィルター856、857の透過周波数帯域は、駆動信号Sdの周波数の2倍以上を除去できる帯域であればよく、駆動信号Sdの周波数以上を除去できる帯域であるのが好ましい。
【0239】
乗算器854から出力され、ローパスフィルター856を通過した信号は、後述するように、出力信号Smの振幅に対応した値を持つ信号となる。振幅ゲイン設定部858は、この信号に基づいて、駆動信号Sdに設定されるべき振幅(目標振幅)を求める機能を有する。そして、振幅ゲイン設定部858は、駆動信号Sdの振幅が目標振幅になるように、信号生成部8の増幅器84に設定すべきゲイン(増幅率)の制御を行う。制御ロジックとしては、例えば、PI制御やPID制御のようなフィードバック制御が挙げられる。振幅ゲイン設定部858は、設定すべきゲインに対応する増幅率制御信号Samを増幅器84に向けて出力する。
【0240】
増幅器84では、増幅率制御信号Samに基づいて、駆動信号Sdの振幅を増幅する。これにより、駆動信号Sdの振幅が補正される。
【0241】
乗算器855から出力され、ローパスフィルター857を経て周波数設定部859に入力される信号は、後述するように、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差に対応した値を持つ信号となる。ここで、出力信号Smの位相は、駆動信号Sdの位相に対応している。また、駆動信号Sdの位相は、基準信号Ssの位相に対応している。そこで、周波数設定部859は、基準信号Ssに設定されるべき周波数(目標周波数)を求める機能を有する。そして、周波数設定部859は、基準信号Ssの周波数が目標周波数になるように、信号生成部8の電圧制御発振器83に設定すべき電圧の制御を行う。制御ロジックとしては、例えば、PI制御やPID制御のようなフィードバック制御が挙げられる。周波数設定部859は、設定すべき周波数に対応する周波数制御信号Sf1を電圧制御発振器83に向けて出力する。
【0242】
電圧制御発振器83では、周波数制御信号Sf1に対応する周波数の基準信号Ssを発生させる。これにより、基準信号Ssの周波数が補正される。また、これにより、駆動信号Sdの周波数も補正される。
【0243】
14.1.2.光変調器からの出力信号の取得
図36は、光変調器444からの出力信号Smを取得する回路の一例を示す図である。
【0244】
出力信号Smは、光変調器444が備える振動素子446に流れる電流を検出して得られる信号であってもよく、振動素子446に印加される電圧を検出して得られる信号であってもよい。例えば、振動素子446に流れる電流を検出して得られる信号を出力信号Smとする場合、図36に示すように、振動素子446に流れる電流値を、電流シャントモニター439を用いて検出する。図36に示す電流シャントモニター439は、シャント抵抗4391およびオペアンプ4392を備え、振動素子446に流れる電流値を電圧値に変換して検出する。これにより、電圧信号である出力信号Smが得られる。得られた出力信号Smは、デジタル信号に変換され、補正処理部85に向けて出力される。
【0245】
なお、振動素子446に流れる電流を検出する方法としては、上記の方法以外に、ホール素子を用いる方法、電流路にコイルを巻いて起電力を検出する方法等が挙げられる。
【0246】
14.1.3.補正処理
次に、補正処理部85における補正処理について説明する。補正処理とは、補正処理部85から出力される補正信号に基づいて、電圧制御発振器83および増幅器84の設定値を変更し、駆動信号Sdおよび基準信号Ssを補正することをいう。
【0247】
光変調器444からの出力信号Smが例えば電圧信号である場合、オフセット除去部851を通過する前の出力信号Smは、下記式(II)で表される。
【0248】
【数2】
【0249】
上記式(II)において、VQOMは、出力信号Smの電圧値である。また、Aは、出力信号Smの振幅に対応する係数であり、αm1は、出力信号Smの基準信号Ssに対する位相差であり、-π/2<αm1<π/2を満たす。さらに、OQOMは、出力信号SmのDC成分である。
【0250】
そうすると、オフセット除去部851を通過した後の出力信号Smは、下記式(II-1)で表される。
【0251】
【数3】
【0252】
一方、オフセット除去部852を通過する前の基準信号Ssは、下記式(III)で表される。
【0253】
【数4】
【0254】
上記式(III)において、VOSCは、基準信号Ssの電圧値である。また、vOSCは、基準信号Ssの振幅に対応する係数であり、OOSCは、基準信号SsのDC成分である。
【0255】
そうすると、オフセット除去部852を通過した後の基準信号Ssは、下記式(III-1)で表される。
【0256】
【数5】
【0257】
オフセット除去部851を通過した出力信号Smは、2つに分割される。そして、一方の出力信号Smは、絶対値演算器853を経た後、乗算器854で2乗された結果、下記式(II-2)で表される。
【0258】
【数6】
【0259】
その後、ローパスフィルター856を通過することにより、上記式(II-2)の右辺第1項のみが取り出される。これにより、ローパスフィルター856を通過した後の出力信号Smは、下記式(II-3)で表される。
【0260】
【数7】
【0261】
上記式(II-3)で表されるように、振幅ゲイン設定部858に入力される入力信号VQOM は、時間変化がない信号となる。そこで、振幅ゲイン設定部858では、上記式(II-3)で表される出力信号Smについて、目標とする係数Aを上記式(II-3)に代入した値を制御目標値としてフィードバック制御を行う。そして、制御目標値に対応する増幅率制御信号Samを信号生成部8の増幅器84に向けて出力する。これにより、増幅器84における振幅のゲインを変化させ、駆動信号Sdの振幅を目標とする振幅に補正することができる。
【0262】
2つに分割された他方の出力信号Smには、乗算器855で基準信号Ssが乗算される。これにより、乗算器855から出力される信号は、下記式(IV)で表される。
【0263】
【数8】
【0264】
その後、ローパスフィルター857を通過することにより、上記式(IV)の右辺第1項のみが取り出される。これにより、ローパスフィルター857を通過した後の出力信号Smは、下記式(IV-2)で表される。
【0265】
【数9】
【0266】
上記式(IV-2)で表されるように、周波数設定部859に入力される入力信号VQOM・VOSCは、右辺に係数Am、係数vOSCおよび位相差αm1を含む信号である。このうち、係数vOSCは、既知である。一方、係数Aは、0<Aを満たし、上記のように目標とする係数Aに収束するように制御される。このため、入力信号VQOM・VOSCも、時間変化がない信号となる。そこで、周波数設定部859では、例えば、目標とする位相差αm1を上記式(IV-2)に代入した値を制御目標値としてフィードバック制御を行う。そして、制御目標値に対応する周波数制御信号Sf1を信号生成部8の電圧制御発振器83に向けて出力する。これにより、電圧制御発振器83から出力される基準信号Ssの周波数を変化させ、基準信号Ssの周波数を目標とする周波数に補正することができる。また、駆動信号Sdの周波数も目標とする周波数に補正することができる。
【0267】
なお、目標とする位相差αm1は、例えば、機械的共振周波数で振動する振動素子446において、駆動信号Sdと出力信号Smとの位相差の関係に基づいて決定できる。具体的には、このような振動素子446では、入力される駆動信号Sdに対し、出力信号Smの位相が約90[deg]遅れることが知られている。また、出力信号Smが補正処理部85に入力されるまでの過程では、位相遅延δ[deg]が発生する場合がある。これらを考慮すると、目標とする位相差αm1は、例えば90+δ[deg]とできる。位相遅延δは、実験やシミュレーションにより求めることができる。
【0268】
なお、温度変化等が生じると、機械的共振周波数が変化するとともに、振動素子446に入力された電力を振動に変換する効率が変化する場合がある。この変換効率が変化すると、振動素子446の振動の振幅が変化することになる。そこで、補正処理では、まず、基準信号Ssの周波数および駆動信号Sdの周波数の補正を優先して行う。その後、必要に応じて、駆動信号Sdの振幅を補正する。このような順序で補正処理を実行することにより、前述した周波数と振幅をそれぞれ目的とする値に効率よく制御することができる。
【0269】
また、上述した周波数設定部859での制御を踏まえると、振幅ゲイン設定部858に入力される信号の制御を、周波数設定部859に入力される信号の制御よりも早く収束させることが望ましい。これにより、周波数設定部859における目標制御値の不安定化が抑制されるため、補正処理が不安定になるのを抑制することができる。
【0270】
なお、振幅ゲイン設定部858および周波数設定部859は、それぞれ、例えばPID制御のようなフィードバック制御動作を行うようにオペアンプ等を組み合わせて構築される。この場合、振幅ゲイン設定部858に入力される信号の制御を、周波数設定部859に入力される信号の制御よりも早く収束させるためには、振幅ゲイン設定部858の動作における制御ループの開ループ伝達関数の交差周波数を、周波数設定部859の動作における制御ループの開ループ伝達関数の交差周波数よりも高く設定しておけばよい。
【0271】
以上のような補正処理を行うことにより、次のような効果が得られる。
振動素子446の機械的共振周波数が、周囲の温度変化、重力変化、振動、ノイズ等、外乱の影響を受けて変化した場合、振動素子446の振動の周波数や振幅が変化し、第2変調信号のS/N比が低下する。これにより、移動ミラー33の変位信号の復調精度が低下するおそれがある。
【0272】
これに対し、上記のような補正処理を行うことにより、温度変化等の外乱が加わった場合でも、振動素子446の振動の周波数および振幅をそれぞれ一定に維持することができる。つまり、温度変化等の外乱が加わった場合でも、振動素子446の振動の周波数や振幅が変化しないように補正することができる。これにより、第2変調信号のS/N比の低下を抑制することができる。その結果、温度変化等の外乱が加わった場合でも、演算装置7における前処理や復調処理の精度を高めることができ、移動ミラー33の位置の計測誤差Δdを抑制することができる。
【0273】
また、発振回路による駆動とは異なり、温度変化等の外乱が加わって機械的共振周波数が変化した場合でも、駆動信号Sdの周波数を追従させることができるので、振動素子446の機械的共振周波数の近傍で振動素子446を駆動し続けることができる。これにより、振動素子446の駆動効率が高まるため、光学デバイス1の低消費電力化を図ることができる。
【0274】
14.2.演算装置
次に、図34に示す演算装置7について説明する。
【0275】
図34に示す演算装置7は、移動ミラー位置演算部72、光強度演算部74、フーリエ変換部76および移動ミラー位置補正部78を有する。さらに、移動ミラー位置演算部72は、前処理部722、直交信号発生部723、復調処理部724、および、移動ミラー位置信号出力部726を有する。
【0276】
直交信号発生部723は、信号生成部8から出力された基準信号Ssおよび前処理部722から出力された信号に基づいて、互いに直交する波形である余弦波信号および正弦波信号を生成する機能を有する。なお、以下の説明では、余弦波信号および正弦波信号を併せて直交信号ともいう。また、生成した直交信号は、復調処理部724において復調処理に用いられる。さらに、余弦波信号は、前処理部722にフィードバックされ、前処理部722から出力される信号の位相を調整する。これにより、位相のずれに伴う復調処理の精度低下が抑制され、移動ミラー33の位置の計測誤差Δdを抑制することができる。
【0277】
なお、直交信号発生部723は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。その場合、基準信号Ssおよびその位相をπ/2だけシフトさせた信号を、直交信号として用いればよい。
【0278】
15.第6実施形態の第3変形例
次に、第6実施形態の第3変形例に係る分光装置について説明する。
【0279】
図37は、第6実施形態の第3変形例に係る分光装置が備える分析光学系3、測長光学系4、信号生成部8および演算装置7の各主要部を示す模式図である。図38は、図37に示す模式図のうち、信号生成部8について詳細に示す図である。
【0280】
図37に示す分光装置100は、信号生成部8の構成が異なること以外、図30に示す分光装置100と同様である。
【0281】
図37に示す信号生成部8は、数値制御発振器86、増幅器84および補正処理部85を備える。このうち、補正処理部85は、図38に示すように、乗算器871、872と、ローパスフィルター873と、ローパスフィルター874と、振幅位相演算部875と、周波数設定部876と、振幅ゲイン設定部877と、を備える。
【0282】
15.1.信号生成部
図38に示す信号生成部8について説明する。
【0283】
数値制御発振器86は、正弦波や余弦波の1周期分の数値を収容したROMテーブルから、規則的なクロック間隔で加算されるアドレスのデータを読み出すことにより、正弦波や余弦波等の周期信号を発生させる。これにより、数値制御発振器86は、目的とする周波数の基準信号Ssを高精度に生成し、DAC89に向けて出力する。DAC89は、デジタル-アナログ変換器であり、入力されたデジタルの基準信号Ssに基づいて、アナログの基準信号Ssを生成する。
【0284】
図38に示す数値制御発振器86は、累積加算器861と、絶対値演算器865と、ローパスフィルター866と、位相量設定部867と、加算器862と、第1周期信号発生器863と、第2周期信号発生器864と、を備える。
【0285】
累積加算器861は、補正処理部85の周波数設定部876から出力された周波数制御信号Sf2を累積加算する。周波数制御信号Sf2は、後述するが、基準信号Ssに設定されるべき周波数に対応する、単位時間ステップあたりの位相進み量である。累積加算器861では、この位相進み量を累積して加算し、累積加算値を算出する。得られた累積加算値を第1周期信号発生器863に向けて出力する。
【0286】
第1周期信号発生器863は、正弦波および余弦波の1周期分の数値を収容したROM(Read Only Memory)を含む。第1周期信号発生器863では、累積加算値に該当するアドレスの数値が読み出される。これにより、周波数制御信号Sf2に応じた周波数の正弦波信号および余弦波信号を発生させることができる。余弦波信号は、基準信号SsとしてDAC89および補正処理部85の乗算器871に向けてそれぞれ出力される。正弦波信号は、基準信号Ss’として補正処理部85の乗算器872に向けて出力される。
【0287】
絶対値演算器865は、前処理部722から出力された前処理済み信号S(t)の絶対値を算出する。算出結果は、ローパスフィルター866を介して位相量設定部867に入力される。
【0288】
位相量設定部867では、前述したように、加算器862で累積加算値に加算すべき位相量aを設定する。加算器862では、累積加算値と位相量aとの和を算出する。得られた累積加算値と位相量aとの和を第2周期信号発生器864に向けて出力する。
【0289】
第2周期信号発生器864は、正弦波および余弦波の1周期分の数値を収容したROM(Read Only Memory)から、累積加算値と位相量aとの和に該当するアドレスの数値を読み出す。これにより、周波数制御信号Sf2に応じた周波数で、位相量aの位相オフセットが加わった正弦波信号sin(θ(t))および余弦波信号cos(θ(t))を発生させることができる。余弦波信号cos(θ(t))は、前処理部722および後述する復調処理部724に向けて出力され、正弦波信号sin(θ(t))は、復調処理部724に向けて出力される。
【0290】
以上、数値制御発振器86の構成例について説明したが、数値制御発振器86の構成は、上記に限定されない。
【0291】
15.2.補正処理部
補正処理部85には、図37に示すように、光変調器444の駆動に対応して出力される出力信号Smが入力される。補正処理部85では、直交検波により、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差、および、出力信号Smの振幅を取得する。
【0292】
また、補正処理部85は、数値制御発振器86に向けて周波数制御信号Sf2(補正信号)を出力する機能、および、増幅器84に向けて増幅率制御信号Sam(補正信号)を出力する機能を有する。
【0293】
光変調器444からの出力信号Smは、デジタル信号に変換された後、図38に示すように、2つに分割される。そして、一方の出力信号Smは、乗算器871で基準信号Ssと乗算される。乗算器871から出力された信号は、ローパスフィルター873を通過することにより、信号Iとして振幅位相演算部875に入力される。他方の出力信号Smは、乗算器872で基準信号Ss’と乗算される。乗算器872から出力された信号は、ローパスフィルター874を通過することにより、信号Qとして振幅位相演算部875に入力される。
【0294】
ローパスフィルター873およびローパスフィルター874の透過周波数帯域は、駆動信号Sdの周波数以上を除去できる帯域であるのが好ましい。
【0295】
振幅位相演算部875は、atan(Q/I)の演算を行い、出力信号Smの位相を算出する。振幅位相演算部875は、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差を周波数設定部876に向けて出力する。また、振幅位相演算部875は、(I+Q1/2の演算を行い、出力信号Smの振幅を算出する。振幅位相演算部875は、算出した振幅を振幅ゲイン設定部877に向けて出力する。振幅位相演算部875には、例えば、復調回路であるCORDIC(COordinate Rotation DIgital Computer)が用いられるが、これに限定されない。
【0296】
周波数設定部876は、基準信号Ssの目標周波数を求める機能を有する。そして、周波数設定部876は、基準信号Ssの周波数が目標周波数になるように、周波数制御信号Sf2の制御を行い、数値制御発振器86に向けて周波数制御信号Sf2を出力する。
【0297】
数値制御発振器86では、周波数制御信号Sf2に基づいて、基準信号Ssを発生させる。これにより、基準信号Ssの周波数が補正される。
【0298】
振幅ゲイン設定部877は、駆動信号Sdの目標振幅を求める機能を有する。そして、振幅ゲイン設定部877は、駆動信号Sdの振幅が目標振幅になるように、増幅率制御信号Samの制御を行い、増幅器84に向けて増幅率制御信号Samを出力する。
【0299】
増幅器84では、増幅率制御信号Samに基づいて、駆動信号Sdの振幅を増幅する。これにより、駆動信号Sdの振幅が補正される。
【0300】
以上のような補正処理を行うことにより、次のような効果が得られる。
温度変化等の外乱が加わった場合でも、振動素子446の機械的共振周波数や振動振幅の変化に駆動信号Sdの周波数や振幅を追従させることができる。これにより、振動素子446の振動の周波数および振幅を一定に維持することができる。その結果、第2変調信号のS/N比の低下を抑制することができる。その結果、外乱が加わった場合でも、移動ミラー33の位置の計測誤差Δdを抑制することができる。
【0301】
また、発振回路による駆動とは異なり、振動素子446の機械的共振周波数の近傍で振動素子446を駆動することができるので、光学デバイス1の低消費電力化を図ることができる。
【0302】
また、補正処理部85では、直交検波により、出力信号Smと基準信号Ssとの位相差、および、出力信号Smの振幅を取得する。直交検波によれば、位相差および振幅を瞬時に取得することができる。このため、補正処理をリアルタイムに行うことができる。
【0303】
また、数値制御発振器86では、ROMテーブルから読み出した数値に基づいて周期信号を発生させることができる。このため、数値制御発振器86では、ノイズ等の影響を受けることなく、高精度の基準信号Ss、Ss’、ならびに、高精度の余弦波信号cos(θ(t))および正弦波信号sin(θ(t))を出力することができる。これにより、演算装置7における前処理や復調処理の精度を特に高めることができる。
【0304】
16.前記実施形態が奏する効果
前記実施形態に係る光学デバイスは、分析光学系3および測長光学系4を備える。
【0305】
分析光学系3は、移動ミラー33と、ガスセル6と、第1受光素子36と、を備える。移動ミラー33は、第1光源51から射出される分析光L1を反射させることにより、分析光L1に第1変調信号を付加する。ガスセル6は、所定の波長の光を吸収するガスが封入され、分析光L1を入射させることにより、分析光L1に光吸収信号を付加する。第1受光素子36は、分析光L1と試料9との作用により生成された試料由来信号、第1変調信号、および、光吸収信号、を含む分析光L1を受光し、第1受光信号F(t)を出力する。
【0306】
測長光学系4は、第2光源41と、測長部40と、を備える。第2光源41は、レーザー光である測長光L2を射出する。測長部40は、測長光L2を用いて移動ミラー33の位置に対応する変位信号を取得する。
【0307】
このような構成によれば、変位信号を用いて移動ミラー33の位置を測定するとき、ガスセル6に封入されている原子や分子の準位間のエネルギーの精度および安定性が極めて高いことを利用し、ガスセル6に由来する光吸収信号に基づいて、その測定値を補正するための補正値を算出することができる。つまり、移動ミラー33の位置を精度よく計測するための補正値を算出することができる。このため、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、最終的に、スペクトルパターンの波数軸(波長軸)の正確度を高めることができ、試料9について特に精度の高い分光分析が可能な分光装置100を実現可能な光学デバイス1が得られる。
【0308】
また、上記の効果を得るにあたって、第2光源41に半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がない。これにより、光学デバイス1の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
【0309】
また、分析光学系3は、第1光源51を備えていてもよい。
このような構成によれば、第1光源51のアライメント精度を特に高めることができ、アライメント不良に伴う分析光L1の損失を最小限に抑えることができる。
【0310】
また、分析光学系3は、ガスセル6に分析光L1が入射し、試料9には入射しない状態と、試料9に分析光L1が入射し、ガスセル6には入射しない状態と、を切り替える入射切替部61を備えていてもよい。
【0311】
このような構成によれば、必要なタイミングで、ガスセル6を用いた波数軸(波長軸)の補正を行うことができる。一方、試料9に対する分光分析時には、ガスセル6に分析光L1が照射されることに伴うわずかな損失等を避けることができる。
【0312】
また、入射切替部61は、ガスセル6を分析光L1の光路上に挿入した状態と、試料9を分析光L1の光路上に挿入した状態と、を切り替える挿抜機構63を有していてもよい。
【0313】
このような構成によれば、必要なタイミングで、ガスセル6を用いた波数軸(波長軸)の補正を行うことができる。一方、試料9に対する分光分析時には、ガスセル6に分析光L1が照射されることに伴うわずかな損失等を避けることができる。
【0314】
また、入射切替部61は、ガスセル6に入射する分析光L1を遮蔽する状態と、遮蔽しない状態と、を切り替える遮光部64を有していてもよい。
【0315】
このような構成によれば、必要なタイミングで、ガスセル6を用いた波数軸(波長軸)の補正を行うことができる。
【0316】
また、分析光学系3は、波長変換素子575を備えていてもよい。波長変換素子575は、入射する分析光L1に対して、射出される分析光L1の波長を変換する。さらに、この場合、分析光学系3は、波長変換素子575から射出される分析光L1をガスセル6に入射させるように構成されている。
【0317】
このような構成によれば、波長変換素子575にレーザー光のような狭帯域の光が入射された場合でも、広帯域な光、すなわち白色光を射出することができる。このため、第1光源51としてレーザー光源を用いた場合でも、ガスセル6による吸収ピークを含むスペクトルパターンの取得が可能になる。
【0318】
また、測長部40は、光変調器444を備えていてもよい。光変調器444は、レーザー光である測長光L2に第2変調信号を付加する。
このような構成によれば、光ヘテロダイン干渉法により、移動ミラー33の位置に対応する位相情報をより高い精度で取得することができる。そして、位相情報から移動ミラー33の位置が高精度に求められる。その結果、より細かな間隔でインターフェログラムF(x)を生成することができ、最終的に、高い分解能のスペクトルパターンを取得可能な分光装置100を実現することができる。
【0319】
また、第2光源41は、半導体レーザー素子であってもよい。
このような構成によれば、光学デバイス1および分光装置100の小型化および軽量化を図ることができる。
【0320】
前記実施形態に係る分光装置100は、前記実施形態に係る光学デバイス1と、移動ミラー位置演算部72と、光強度演算部74と、フーリエ変換部76と、移動ミラー位置補正部78と、を備える。移動ミラー位置演算部72は、光学デバイス1が取得した変位信号に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を生成する。光強度演算部74は、第1受光信号F(t)および移動ミラー位置信号X(t)に基づいて、インターフェログラムF(x)(移動ミラー33の各位置における第1受光信号F(t)の強度を表す波形)を生成する。フーリエ変換部76は、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、光吸収信号によるピークを含むスペクトルパターンを生成する。移動ミラー位置補正部78は、光吸収信号によるピークの位置に基づいて、移動ミラー位置信号X(t)を補正する補正値を算出する。
【0321】
このような構成によれば、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、波数軸(波長軸)の正確度が高いスペクトルパターンを生成することができる。これにより、試料9について精度の高い分光分析が可能な分光装置100が得られる。
【0322】
また、第2光源41に半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がないので、分光装置100の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
【0323】
前記実施形態に係る分光方法は、試料9の分光分析を行う方法であって、ミラー位置測定ステップS102と、分析光照射ステップS104と、波形生成ステップS106と、フーリエ変換ステップS108と、補正値算出ステップS110と、スペクトル情報補正ステップS112と、を有する。
【0324】
ミラー位置測定ステップS102では、光学デバイス1が取得した変位信号により、移動ミラー33の位置を測定する。分析光照射ステップS104では、ガスセル6および試料9を分析光L1の光路上に配置し、移動ミラー33の位置を変化させながら、ガスセル6および試料9に分析光L1を入射させ、ガスセル6および試料9から射出された分析光L1を第1受光素子36に受光させ、第1受光信号F(t)を出力させる。波形生成ステップS106では、第1受光信号F(t)および移動ミラー33の位置の測定値に基づいて、インターフェログラムF(x)(移動ミラー33の各位置における第1受光信号F(t)の強度を示す波形)を生成する。フーリエ変換ステップS108では、インターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、光吸収信号によるピークおよび試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成する。補正値算出ステップS110では、光吸収信号によるピークの波長と、ガスセル6の基本波長と、の差に基づいて、移動ミラー33の位置の測定値を補正する補正値を算出する。スペクトル情報補正ステップS112では、補正値に基づいて、スペクトルパターンを補正する。
【0325】
このような構成によれば、測長部40を用いて移動ミラー33の位置を測定するとき、ガスセル6に封入されている原子や分子の準位間のエネルギーの精度および安定性が極めて高いことを利用し、ガスセル6に由来する光吸収信号に基づいて、その測定値を補正するための補正値を算出することができる。つまり、移動ミラー33の位置を精度よく計測するための補正値を算出することができる。この補正値を用いることで、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、スペクトルパターンの波数軸(波長軸)の正確度を高めることができ、試料9について特に精度の高い分光分析を行うことができる。
【0326】
また、上記の効果を得るにあたって、第2光源41に半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がない。これにより、光学デバイス1の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
【0327】
さらに、光吸収信号によるピークおよび試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンを生成することにより、分光分析と同時に補正を行うことができるので、特に精度の高い分光分析が可能になる。
【0328】
前記実施形態に係る分光方法は、試料9の分光分析を行う方法であって、ガスセル配置ステップS101と、ミラー位置測定ステップS102と、分析光照射ステップS104と、波形生成ステップS106と、フーリエ変換ステップS108と、補正値算出ステップS110と、試料配置ステップS114と、ミラー位置測定ステップS116と、分析光照射ステップS118と、波形生成ステップS120と、フーリエ変換ステップS122と、を有する。
【0329】
ガスセル配置ステップS101では、前記実施形態に係る光学デバイス1のうち、分析光L1の光路上にガスセル6を配置する。
【0330】
ミラー位置測定ステップS102では、光学デバイス1が取得した変位信号により、移動ミラー33の位置を測定する。
【0331】
分析光照射ステップS104では、移動ミラー33の位置を変化させながら、ガスセル6に分析光L1を入射させ、ガスセル6から射出された分析光L1を第1受光素子36に受光させ、ガスセル6に由来する第1受光信号F(t)を出力させる。
【0332】
波形生成ステップS106では、ガスセル6に由来する第1受光信号F(t)および移動ミラー33の位置の測定値に基づいて、ガスセル6に由来するインターフェログラムF(x)(移動ミラー33の各位置における、ガスセル6に由来する第1受光信号F(t)の強度を示す波形)を生成する。
【0333】
フーリエ変換ステップS108では、ガスセル6に由来するインターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、光吸収信号によるピークを含むスペクトルパターンを生成する。
【0334】
補正値算出ステップS110では、光吸収信号によるピークの波長と、ガスセル6の基本波長と、の差に基づいて、移動ミラー33の位置の測定値を補正する補正値を算出する。
試料配置ステップS114では、試料9を分析光L1の光路上に配置する。
【0335】
ミラー位置測定ステップS116では、光学デバイス1が取得した変位信号により、移動ミラー33の位置を測定する。
【0336】
分析光照射ステップS118では、移動ミラー33の位置を変化させながら、試料9に分析光L1を入射させ、試料9から射出された分析光L1を第1受光素子36に受光させ、試料9に由来する第1受光信号F(t)を出力させる。
【0337】
波形生成ステップS120では、試料9に由来する第1受光信号F(t)、移動ミラー33の位置の測定値、および、補正値に基づいて、試料9に由来するインターフェログラムF(x)(移動ミラー33の各位置における、試料9に由来する第1受光信号F(t)の強度を示す波形)を生成する。
【0338】
フーリエ変換ステップS122では、試料9に由来するインターフェログラムF(x)にフーリエ変換を行い、試料9に由来する情報を含むスペクトルパターンを取得する。
【0339】
このような構成によれば、測長部40を用いて移動ミラー33の位置を測定するとき、ガスセル6に封入されている原子や分子の準位間のエネルギーの精度および安定性が極めて高いことを利用し、ガスセル6に由来する光吸収信号に基づいて、その測定値を補正するための補正値を算出することができる。つまり、移動ミラー33の位置を精度よく計測するための補正値を算出することができる。この補正値を用いることで、第2光源41から射出される測長光L2の波長安定性が低い場合でも、スペクトルパターンの波数軸(波長軸)の正確度を高めることができ、試料9について特に精度の高い分光分析を行うことができる。
【0340】
また、上記の効果を得るにあたって、第2光源41に半導体レーザー素子のような小型で安価な素子を採用しても、光源恒温システム等の付帯設備を設ける必要がない。これにより、光学デバイス1の小型化、軽量化、低消費電力化および低コスト化を図ることができる。
【0341】
以上、本発明の光学デバイス、分光装置および分光方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明の光学デバイスおよび分光装置は、前記実施形態に限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換されていてもよいし、他の任意の構成物が付加されていてもよい。なお、本明細書における「実施形態」には、その変形例も含む。
【0342】
また、本発明の光学デバイスおよび分光装置は、前記実施形態のうち、2つ以上を組み合わせたものであってもよい。さらに、本発明の分光装置が備える各機能部は、複数の要素に分割されていてもよく、複数の機能部が1つに統合されていてもよい。
【0343】
また、本発明の分光方法は、前記実施形態に対し、任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【0344】
また、前記実施形態では、マイケルソン型干渉光学系が用いられているが、他の方式の干渉光学系が用いられていてもよい。
【0345】
さらに、試料の配置は、図示した配置に限定されない。試料由来信号は、試料に分析光を作用させることによって生成されるので、試料から射出する分析光が第1受光素子に入射する位置であれば、任意の位置に試料を配置すればよい。
【符号の説明】
【0346】
1…光学デバイス、3…分析光学系、4…測長光学系、6…ガスセル、7…演算装置、8…信号生成部、9…試料、32…ビームスプリッター、33…移動ミラー、34…固定ミラー、35…集光レンズ、36…第1受光素子、40…測長部、41…第2光源、42…第2光分割素子、43…光帰還部、45…第2受光素子、46…1/2波長板、47…1/4波長板、48…1/4波長板、49…検光子、51…第1光源、54…ビームスプリッター、55…集光レンズ、56…減光フィルター、61…入射切替部、62…可動ミラー、63…挿抜機構、64…遮光部、72…移動ミラー位置演算部、74…光強度演算部、76…フーリエ変換部、78…移動ミラー位置補正部、81…発振回路、82…ファンクションジェネレーター、83…電圧制御発振器、84…増幅器、85…補正処理部、86…数値制御発振器、89…DAC、100…分光装置、401…基部、402…第1振動腕、403…第2振動腕、404…電極、405…電極、406…光反射面、422…ビームスプリッター、424…ビームスプリッター、431…振動片、432…溝、433…パッド、434…回折格子、435…パッド、436…振動方向、439…電流シャントモニター、442…光反射器、444…光変調器、445…音響光学変調器、446…振動素子、451…ミラー、452…ミラー、482…1/4波長板、571…ミラー、572…ミラー、573…ミラー、574…集光レンズ、575…波長変換素子、722…前処理部、723…直交信号発生部、724…復調処理部、726…移動ミラー位置信号出力部、851…オフセット除去部、852…オフセット除去部、853…絶対値演算器、854…乗算器、855…乗算器、856…ローパスフィルター、857…ローパスフィルター、858…振幅ゲイン設定部、859…周波数設定部、861…累積加算器、862…加算器、863…第1周期信号発生器、864…第2周期信号発生器、865…絶対値演算器、866…ローパスフィルター、867…位相量設定部、871…乗算器、872…乗算器、873…ローパスフィルター、874…ローパスフィルター、875…振幅位相演算部、876…周波数設定部、877…振幅ゲイン設定部、4311…表面、4312…裏面、4391…シャント抵抗、4392…オペアンプ、AS1…吸収スペクトル、F(x)…インターフェログラム、F(t)…第1受光信号、FP…特徴点、I…信号、L1…分析光、L1a…分析光、L1b…分析光、L2…測長光、L2a…測長光、L2b…測長光、P1…吸収ピーク、P2…吸収ピーク、P3…吸収ピーク、P4…吸収ピーク、Q…信号、S(t)…前処理済み信号、S101…ガスセル配置ステップ、S102…ミラー位置測定ステップ、S104…分析光照射ステップ、S106…波形生成ステップ、S108…フーリエ変換ステップ、S110…補正値算出ステップ、S112…スペクトル情報補正ステップ、S114…試料配置ステップ、S116…ミラー位置測定ステップ、S118…分析光照射ステップ、S120…波形生成ステップ、S122…フーリエ変換ステップ、S2…第2受光信号、SP0…スペクトルパターン、SP1…スペクトルパターン、SP2…スペクトルパターン、SP3…スペクトルパターン、Sam…増幅率制御信号、Sd…駆動信号、Sf1…周波数制御信号、Sf2…周波数制御信号、Sm…出力信号、Ss…基準信号、Ss’…基準信号、X(t)…移動ミラー位置信号、X9…吸収ピーク、XCsD1…吸収ピーク、XCsD2…吸収ピーク、cos(θm(t))…余弦波信号、sin(θm(t))…正弦波信号
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