(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134729
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】粒子線照射システム及び粒子線照射方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240927BHJP
H05H 13/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61N5/10 H
H05H13/04 M
H05H13/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045073
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 美菜
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓也
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085AA13
2G085BA14
2G085CA30
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG03
4C082AG12
(57)【要約】
【課題】複数照射室での同時照射を可能とし、かつ、加速器故障時のスループット低下を最小限に抑えることができなかった。
【解決手段】本発明の一態様の粒子線照射システム100は、2つ以上の独立に運転可能な荷電粒子ビーム発生装置1と、この荷電粒子ビーム発生装置1で発生した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系2と、このビーム輸送系2により荷電粒子ビームが輸送される2つ以上のビーム照射装置3と、を備え、いずれか1つのビーム照射装置3には複数の荷電粒子ビーム発生装置1から、ビーム輸送が可能に構成されており、複数の荷電粒子ビーム発生装置1の各々から対応する異なるビーム照射装置3の各々へ同時に荷電粒子ビームを輸送する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の独立に運転可能な荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置で発生した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、
前記ビーム輸送系により前記荷電粒子ビームが輸送される2つ以上のビーム照射装置と、を備え、
いずれか1つの前記ビーム照射装置には複数の前記荷電粒子ビーム発生装置から、ビーム輸送が可能に構成されており、複数の前記荷電粒子ビーム発生装置の各々から対応する異なる前記ビーム照射装置の各々へ同時に前記荷電粒子ビームを輸送する
粒子線照射システム。
【請求項2】
第一の荷電粒子ビーム発生装置から第一のビーム照射装置への第一の荷電粒子ビームの進行方向と、第二の荷電粒子ビーム発生装置から第二のビーム照射装置への第二の荷電粒子ビームの進行方向とが、前記ビーム輸送系において偏向電磁石が配置された箇所の真空配管内で交差する箇所がある
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
異なるイオン源の前記荷電粒子ビーム発生装置を持つ
請求項1又は2に記載の粒子線照射システム。
【請求項4】
2つ以上の独立に運転可能な荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置で発生した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、前記ビーム輸送系により前記荷電粒子ビームが輸送される2つ以上のビーム照射装置と、を備えた粒子線照射システムによる粒子線照射方法であって、
いずれか1つの前記ビーム照射装置には複数の前記荷電粒子ビーム発生装置からビーム輸送が可能に構成されており、複数の前記荷電粒子ビーム発生装置の各々から対応する異なる前記ビーム照射装置の各々へ同時に前記荷電粒子ビームを輸送する
粒子線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システム及び粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療では、計画通りの位置に粒子線ビームを照射するため、照射前に患者の位置決めを行う。位置決め完了後は、ビーム照射が完了するまでの間、患者は同じ体勢のまま動くことができない。また、1つの加速器から複数の照射室(ビーム照射装置)に同時に粒子線ビームを輸送することができない。そのため、使用する加速器が、位置決め完了時点で他の照射室に粒子線ビームを輸送中である場合、その照射室へのビーム照射が完了するまで待ち時間が発生し、効率が下がる上、患者にも負担がかかる。そこで、これまでに複数の照射室で同時にビーム照射を行う方法が発明されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、シンクロトロンからなる後段加速器でイオンビームを加速し、複数の照射室に高エネルギーのイオンビームを供給して治療を行う加速器システムが開示されている。この加速器システムでは、1つの後段加速器と複数の治療室(照射系)が輸送系を介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているように、複数の照射室で同時にビーム照射を可能とする方法は既に発明されている。しかし、複数の加速器が独立に運転できない、照射室ごとに粒子線ビームが輸送される加速器が決められている等の理由により、1つの加速器が故障した場合に合わせて1つ以上の照射室が使用できなくなる。つまり、加速器が故障した場合に使用できなくなる照射室が必ず存在する構成であるため、加速器故障時のスループットが大きく低下する。
【0006】
上記の状況から、複数照射室での同時照射を可能とし、かつ、加速器故障時のスループット低下を最小限に抑える手法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の粒子線照射システムは、2つ以上の独立に運転可能な荷電粒子ビーム発生装置と、この荷電粒子ビーム発生装置で発生した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、このビーム輸送系により荷電粒子ビームが輸送される2つ以上のビーム照射装置と、を備える。そして、この粒子線照射システムは、いずれか1つのビーム照射装置には複数の荷電粒子ビーム発生装置から、ビーム輸送が可能に構成されており、複数の荷電粒子ビーム発生装置の各々から対応する異なるビーム照射装置の各々へ同時に荷電粒子ビームを輸送する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の少なくとも一態様によれば、複数のビーム照射装置による同時照射を可能とし、かつ、荷電粒子ビーム発生装置故障時のスループット低下を最小限に抑えることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粒子線照射システムの概略を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る粒子線照射システムの最小構成の例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る粒子線照射システムの他の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る全体制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称する)の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において、同一の構成要素又は実質的に同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0011】
<第1の実施形態>
[粒子線照射システムの概略]
まず、本発明の一実施形態に係る粒子線照射システムの大まかな構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る粒子線照射システムの概略を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る粒子線照射システム100は、荷電粒子ビーム発生装置1、ビーム輸送系2、及びビーム照射装置3を備えている。一般的に粒子線照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置、ビーム輸送系、及びビーム照射装置を備えている。
【0012】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず)、前段加速器11、及び円形加速器(シンクロトロン)12を有し、荷電粒子ビーム32を発生する。本実施形態では、円形加速器12としてシンクロトロンを例に説明するが、サイクロトロン等の他の加速器であってもよい。前段加速器11の上流側にイオン源が接続され、前段加速器11の下流側に円形加速器12が接続される。後述する
図2及び
図3に示すように、本実施形態における粒子線照射システム100は、荷電粒子ビーム発生装置1を複数台備える。
【0013】
ビーム輸送系2は、荷電粒子ビーム発生装置1の下流側に接続されており、荷電粒子ビーム発生装置1とビーム照射装置3とを、真空配管5を用いて接続する。真空配管5には、複数の偏向電磁石6が設けられている。荷電粒子ビーム発生装置1が発生させた荷電粒子ビーム32は、ビーム輸送系2を通って、偏向電磁石6によって各照射室のビーム照射装置3へ誘導される。
【0014】
偏向電磁石6は、一対の電磁石が真空配管5を挟んで対向するように配置されている。偏向電磁石6に与える電気エネルギーに応じて一対の電磁石間に磁場が発生し、この電磁石間を通過する荷電粒子ビームの進行方向が変化する。偏向電磁石6が配置された部分の真空配管5は、荷電粒子ビームが直進する場合と垂直方向に曲がる場合のいずれにも対応可能な構造に形成されている。そして、偏向電磁石6に与える磁場の強さを制御することで、荷電粒子ビームを直進させたり垂直方向に曲げたりすることができる。
【0015】
後述する
図2及び
図3に示すように、本実施形態における粒子線照射システム100では、ビーム照射装置3を複数台設けることができる。複数のビーム照射装置3を設ける場合には、ビーム輸送系2に複数設けられた偏向電磁石6のうち、適した位置にある偏向電磁石6を制御することで、荷電粒子ビーム7がビーム照射装置3へ誘導される。
【0016】
ビーム照射装置3は、ビーム輸送系2により輸送されてきた荷電粒子ビーム7を、治療室4で待機する患者42の患部に照射するための装置である。本実施形態のビーム照射装置3は、
図1に示すように、患者42を載せる治療台41、照射ノズル(ノズル装置)31、及び回転ガントリ30を備える。なお、回転ガントリ30を有さない固定照射型(二次元平面型)のビーム照射装置であってもよい。
【0017】
[粒子線照射システムの最小構成]
次に、本実施形態に係る粒子線照射システムの最小構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、粒子線照射システム100の最小構成の例を示す図である。粒子線照射システムの最小構成は、
図2に示すように、2つの荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2と、2つのビーム照射装置3-1,3-2を有する。ビーム照射装置3-1,3-2は、別々の治療室4(
図1)に設置される。
【0018】
荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2及びビーム照射装置3-1,3-2はそれぞれ、
図1に示した荷電粒子ビーム発生装置1及びビーム照射装置3と同じ構造である。荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2は独立に運転可能であり、荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2のいずれかが故障しても、もう一方の荷電粒子ビーム発生装置は動作できるものとする。すなわち、2つの荷電粒子ビーム発生装置は物理的に分かれた構成であり、それらの制御は互いに依存しないように行われる。また、2つの荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2が扱うイオン源の種類は問わず、同じ核種でも、異なる核種でもよい。
【0019】
本実施形態では、ビーム照射装置3-1,3-2のいずれか1つのビーム照射装置には、荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2からビーム輸送が可能な構成となっている。ただし、一つのビーム照射装置には、同時に複数の荷電粒子ビーム発生装置からビーム輸送しない。
【0020】
また、
図2に示す粒子線照射システム100は、ビーム輸送系2に、偏向電磁石61-1,61-2、偏向電磁石62-1が設けられている。偏向電磁石61-1~61-2,62-1はそれぞれ、
図1の偏向電磁石6と同じ構造である。
【0021】
この粒子線照射システム100では、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の偏向電磁石61-1,62-1を経由して、ビーム照射装置3-1に輸送可能である。また、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の偏向電磁石61-1,61-2を経由して、ビーム照射装置3-2に輸送可能である。さらに、荷電粒子ビーム発生装置1-2で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の偏向電磁石62-1を経由して、ビーム照射装置3-1に輸送可能である。
【0022】
粒子線照射システム100は、荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2、及び偏向電磁石61-1~61-2、62-1に制御信号を出力して、各荷電粒子ビーム発生装置及び各偏向電磁石の動作を制御する全体制御装置21を備える。
【0023】
全体制御装置21には、エネルギーと磁場の関係を記憶した記憶部22が接続されている。磁場の強さで荷電粒子の加速度が決まる。一般的に、同じ電荷量の荷電粒子の場合、磁場が強いほど荷電粒子が磁場から受けるエネルギーは大きく、荷電粒子の運動エネルギー(加速度)が大きくなる。
【0024】
また、全体制御装置21は、偏向電磁石用に設けられた図示しない制御装置に対して指令を出力する。偏向電磁石用の制御装置は、偏向電磁石ごとに設けてもよいし、複数の偏向電磁石からなるグループ単位(例えば、荷電粒子ビームの輸送経路を考慮して決定されたグループ)で一つの制御装置を設けてもよい。偏向電磁石用の制御装置は、全体制御装置21からの指令を受けて、対応する偏向電磁石に電気エネルギーを供給することで磁場を発生させてビーム輸送の切替えを行う。
【0025】
図2の例では、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、偏向電磁石61-1で進行方向が垂直方向に変化し、偏向電磁石62-1を介してビーム照射装置3-1へ輸送される。また、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、偏向電磁石61-1と偏向電磁石61-2を介してビーム照射装置3-2へ輸送される。また、荷電粒子ビーム発生装置1-2で発生した荷電粒子ビームは、偏向電磁石62-1で進行方向が垂直方向に変化し、ビーム照射装置3-1へ輸送される。
【0026】
さらに、粒子線照射システム100は、ビーム照射装置3-1,3-2の動作を制御する図示しない制御装置を備えている。この制御装置は、技師の指令を受けて又は予め設定された条件に基づいてビーム照射装置3-1,3-2の動作を制御することで、荷電粒子ビームを各治療室4の治療台41の上にいる患者42の目的の位置に照射する。
【0027】
このように、本実施形態では、第一の荷電粒子ビーム発生装置から第一のビーム照射装置へ第一の荷電粒子ビームを輸送し、これと並行して、共有のビーム輸送系を用いて、第二の荷電粒子ビーム発生装置から第二のビーム照射装置へ第二の荷電粒子ビームを輸送することが可能に構成されている。
【0028】
上記構成の本実施形態では、荷電粒子ビーム発生装置ごとに荷電粒子ビームの輸送経路を分離することにより、複数のビーム照射装置(治療室)で並行して荷電粒子ビームを照射することができる。
【0029】
[粒子線照射システムの他の構成]
荷電粒子ビーム発生装置の台数、ビーム照射装置の台数、配置などは、施設ごとに変わる。ここでは、代表例として2つの荷電粒子ビーム発生装置と、3つのビーム照射装置を有する粒子線照射システムについて、
図3を参照して説明する。
【0030】
図3は、本実施形態に係る粒子線照射システムの他の構成例を示す図である。
図3に示す粒子線照射システム100Aは、代表例として2つの荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2と、3つのビーム照射装置3-1,3-2,3-3を有する。ビーム照射装置3-1~3-3は、別々の治療室4(
図1)に設置される。
【0031】
荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2及びビーム照射装置3-1,3-2,3-3はそれぞれ、
図1に示した荷電粒子ビーム発生装置1及びビーム照射装置3と同じ構造である。
図2と同様に、荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2は独立に運転可能であり、荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2のいずれかが故障しても、もう一方の荷電粒子ビーム発生装置は動作できるものとする。また、2つの荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2が扱うイオン源の種類は問わず、同じ核種でもよいし異なる核種でもよい。
【0032】
また、
図3に示す粒子線照射システム100Aは、ビーム輸送系2に、偏向電磁石61-1,61-2,61-3、偏向電磁石62-1,62-1が設けられている。偏向電磁石61-1~61-3,62-1~62-2はそれぞれ、
図1の偏向電磁石6と同じ構造である。以下では、これらの偏向電磁石を区別する必要がない場合には、偏向電磁石61と記載する。
【0033】
粒子線照射システム100Aは、ビーム照射装置3-1,3-2,3-3のいずれか1つのビーム照射装置には、複数の荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2からビーム輸送が可能な構成となっている。
図3の例では、荷電粒子ビーム発生装置1-1からビーム照射装置3-1,3-2,3-3へ、荷電粒子ビーム発生装置1-2からビーム照射装置3-1,3-2へ荷電粒子ビームを輸送することが可能である。ただし、一つのビーム照射装置には、同時に複数の荷電粒子ビーム発生装置からビーム輸送しない。
【0034】
例えば、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の真空配管51-1、偏向電磁石61-1、真空配管53-1、偏向電磁石62-1、及び真空配管53-2を経由して、ビーム照射装置3-1に輸送可能である。また、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の真空配管51-1、偏向電磁石61-1、真空配管51-2、偏向電磁石61-2、真空配管54-1、偏向電磁石62-2、及び真空配管54-2を経由して、ビーム照射装置3-2に輸送可能である。さらに、荷電粒子ビーム発生装置1-1で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の真空配管51-1、偏向電磁石61-1、真空配管51-2、偏向電磁石61-2、真空配管51-3、偏向電磁石61-3、及び真空配管55を経由して、ビーム照射装置3-3に輸送可能である。
【0035】
荷電粒子ビーム発生装置1-2で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の真空配管52-1、偏向電磁石62-1、及び真空配管53-2を経由して、ビーム照射装置3-1に輸送可能である。また、荷電粒子ビーム発生装置1-2で発生した荷電粒子ビームは、ビーム輸送系2の真空配管52-1、偏向電磁石62-1、真空配管52-2、偏向電磁石62-2、及び真空配管54-2を経由して、ビーム照射装置3-2に輸送可能である。なお、真空配管52-2と真空配管55を接続してもよい。
【0036】
以上のとおり、本実施形態に係る粒子線照射システムは、2つ以上の独立に運転可能な荷電粒子ビーム発生装置と、この荷電粒子ビーム発生装置で発生した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、ビーム輸送系により荷電粒子ビームが輸送される2つ以上のビーム照射装置と、を備える。そして、この粒子線照射システムは、いずれか1つのビーム照射装置には複数の荷電粒子ビーム発生装置からビーム輸送が可能に構成されており、複数の荷電粒子ビーム発生装置の各々から、対応する異なるビーム照射装置の各々へ同時に荷電粒子ビームを輸送する。
【0037】
上記構成の本実施形態によれば、ビーム照射装置(治療室)へビーム輸送できる荷電粒子ビーム発生装置を限定せず、複数の荷電粒子ビーム発生装置を独立に運転可能とすることで、複数のビーム照射装置による同時照射を可能とし、時間あたりの治療人数を増やすことがきる。さらに、本実施形態は、荷電粒子ビーム発生装置故障時のスループット低下を最小限に抑えることができる。
【0038】
また、上述した粒子線照射システム100Aでは、第一の荷電粒子ビームの進行方向と、第二の荷電粒子ビームの進行方向とが、共有のビーム輸送系において偏向電磁石が配置された箇所の真空配管内で交差する箇所(例えば、偏向電磁石62-1)が存在する場合がある。
【0039】
ここで、2つの荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2から輸送される荷電粒子ビームが交差する可能性のある部分において、交差する荷電粒子ビームが通過するビーム輸送系はそれぞれ独立しているかどうかは問わない。例えば、荷電粒子ビーム発生装置1-1からビーム照射装置3-1へ、荷電粒子ビーム発生装置1-2からビーム照射装置3-2へそれぞれ荷電粒子ビームが輸送される場合、偏向電磁石62-1の箇所で荷電粒子ビームが交差することになるが、使用する真空配管53-1と真空配管52-1は独立していても共通でもよい。つまり、真空配管53-1と真空配管52-1は互いに独立していても連結してもどちらでもよい。
【0040】
また、荷電粒子ビーム発生装置1-2からビーム照射装置3-1にビームを輸送する場合に使用する真空配管52-1と真空配管53-2も、独立していても共通でもよい。
【0041】
また、共通のビーム輸送系を使用する場合であっても、荷電粒子ビーム発生装置1-1からビーム照射装置3-1へビーム輸送している最中に、荷電粒子ビーム発生装置1-2からビーム照射装置3-2へのビーム輸送を並行して行うことが可能である。荷電粒子ビーム発生装置1-1,1-2から輸送された荷電粒子ビームが偏向電磁石61(例えば、偏向電磁石62-1)において同時に通過する状況で、偏向電磁石61で磁場をかけて荷電粒子ビームを垂直方向に曲げる必要があるケースはない。このため、2つの荷電粒子ビームが交差する偏向電磁石61において、2つの荷電粒子ビームのそれぞれがまっすぐ通過する。また、交差する荷電粒子ビーム同士が衝突する確率(ある場所での粒子の存在確率)も無視できるほど低い。2つの荷電粒子ビームが交差する最も望ましい状態は、直交(垂直に交わる)の状態である。
【0042】
このようにして、複数のビーム照射装置に対し2つの荷電粒子ビーム発生装置から荷電粒子ビームを同時輸送することを可能とする。
【0043】
また、例えば、荷電粒子ビーム発生装置1-2が故障した場合、
図3の構成では、ビーム照射装置3-1,3-2は荷電粒子ビーム発生装置1-1を使用すれば継続してビーム照射装置として使用できる。このため、荷電粒子ビーム発生装置1-2の故障時のスループット低下を最小限に抑えることができる。
【0044】
[全体制御装置のハードウェア構成]
次に、
図1及び
図2に示した粒子線照射システム100を構成する全体制御装置21の制御系の構成(ハードウェア構成)について、
図4を参照して説明する。
【0045】
図4は、全体制御装置21のハードウェア構成例を示す図である。
図4に示す計算機70は、いわゆるコンピュータとして用いられるハードウェアである。
【0046】
計算機200は、バスにそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit)71、ROM(Read Only Memory)72、RAM(Random Access Memory)73、不揮発性ストレージ74及び通信インターフェース75を備える。
【0047】
CPU71は、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM72から読み出してRAM73に展開して実行する。もしくは、CPU71は、プログラムコードをROM72から直接読み出してそのまま実行する場合もある。なお、計算機70は、CPU71の代わりに、MPU(Micro-Processing Unit)等の処理装置を備えてもよい。
【0048】
RAM73には、CPU71による演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。なお、RAM73が不揮発性の媒体によって構成される場合には、RAM73に一時的通信経路情報等の各種情報が格納されてもよい。
【0049】
全体制御装置21におけるビーム輸送切替え機能は、本機能を実現するためのプログラムを、CPU71がROM72から読みだして実行することにより実現される。例えば、全体制御装置21は、技師から荷電粒子ビーム発生装置とビーム照射装置の切替え指令を受けると、該指令の内容に基づいてビーム輸送切替えを実行する。
【0050】
不揮発性ストレージ74としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。この不揮発性ストレージ74には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、計算機70を機能させるためのプログラム等が記録される。
【0051】
プログラムは、コンピュータが読取り可能なプログラムコードの形態で格納され、CPU71は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。つまり、ROM72又は不揮発性ストレージ74は、コンピュータによって実行されるプログラムを格納した、コンピュータ読取可能な非一過性の記録媒体の一例として用いられる。
【0052】
図2では、全体制御装置21と記憶部22を別々に記載したが、記憶部22の機能が、不揮発性ストレージ74によって実現されてもよい。
【0053】
通信インターフェース75は、他の装置との間で行われる通信の制御を行う通信デバイス等により構成される。他の装置は、例えば、技師の指令を受け付けるユーザインターフェース、偏向電磁石用の制御装置、荷電粒子ビーム発生装置などである。
【0054】
通信インターフェース75が通信制御を行うネットワークには、例えば、RS-485のようなマルチドロップ形態のシリアル通信や、イーサネット(登録商標)のような複数のトポロジを提供する通信路がある。複数のトポロジを提供する通信路には、有線の通信路であるLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、無線の通信路であるRAN(Radio Area Network)等がある。また、例えば、通信インターフェース75が通信制御を行うネットワークには、Wi-Fi(登録商標)のような無線や、無線通信インフラにおける無線等がある。
【0055】
偏向電磁石用の制御装置とビーム照射装置用の制御装置においても、
図4の例と同様のハードウェア構成を備えることができる。この場合、偏向電磁石用の制御装置において、CPU71がビームの進行方向を変更する機能を実現するためのコンピュータープログラムを実行することで、当該機能が実現される。また、ビーム照射用の制御装置において、CPU71がビーム照射機能(ビーム照射位置制御等)を実現するためのコンピュータープログラムを実行することで、当該機能が実現される。
【0056】
さらに、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにその構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、上述した実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0057】
また、上述した実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成要素が相互に接続されていると考えてもよい。
【0058】
また、本明細書においては、「直交」及び「垂直」などの用語を使用したが、各々の用語は、厳密な「直交」及び「垂直」のみを意味する用語ではなく、厳格な意味での「直交」及び「垂直」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある「略直交」及び「略垂直」の意味をも含むものである。
【符号の説明】
【0059】
1…荷電粒子ビーム発生装置、1-1~1-2…荷電粒子ビーム発生装置、2…ビーム輸送系、3…ビーム照射装置、3-1~3-3…ビーム照射装置、6…偏向電磁石、5…真空配管、21…全体制御装置、22…記憶部、32…荷電粒子ビーム、51-1~51-3,52-1~52-2,53-1~53-2,54-1~54-2,55…真空配管、61-1~61-3,62-1~62-2…偏向電磁石