(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134733
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、反射型マスク、および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240927BHJP
G03F 1/26 20120101ALI20240927BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240927BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/26
C23C14/06 R
C23C14/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045077
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 仁
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
【テーマコード(参考)】
2H195
4K029
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BB03
2H195CA07
2H195CA12
2H195CA15
2H195CA16
2H195CA17
2H195CA22
2H195CA23
4K029AA09
4K029BA02
4K029BA07
4K029BA16
4K029BB02
4K029BC07
4K029BD09
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC16
(57)【要約】
【課題】高い位相シフト効果と大きな露光マージンの両立を図ることで高精度な微細パターン転写を行うことが可能な反射型マスクの作製が可能な反射型マスクブランクを提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された薄膜と、を有し、前記薄膜は、第1層および第2層を含み、EUV光に対する前記第1層の反射率は、2.5%より高く、前記EUV光に対する前記第2層の反射率は、前記第1層の反射率よりも高いことを特徴とする反射型マスクブランクである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された多層反射膜と、
前記多層反射膜上に形成された薄膜と、を有し、
前記薄膜は、第1層および第2層を含み、
EUV光に対する前記第1層の反射率は、2.5%より高く、
前記EUV光に対する前記第2層の反射率は、前記第1層の反射率よりも高い
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光と、前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は、30度以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
EUV光を照射した前記多層反射膜から反射した光を基準反射光としたとき、
前記基準反射光と、前記EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光との間の位相差は150度以上であり、
前記基準反射光と、前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は150度以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記薄膜は、最も前記基板に近い側に設けられた最下層を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記第1層または前記第2層は、ルテニウム、タンタル、およびクロムのうち少なくとも1つを含む材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記第1層は、前記第2層上に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記薄膜上にエッチングマスク膜を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記エッチングマスク膜は、2つ以上の層を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
請求項7に記載の反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造方法であって、
前記第1層および前記第2層のうち、より前記基板の近くに形成されている一方を下層とし、他方を上層としたとき
前記エッチングマスク膜をエッチングし、エッチングマスクパターンを形成する工程と、
前記エッチングマスクパターンをマスクにして、前記上層をエッチングし、第1上層パターンを形成する工程と、
前記第1上層パターンをマスクにして、前記下層をエッチングし、下層パターンを形成する工程と、
前記第1上層パターンをエッチングし、第2上層パターンを形成することにより転写パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項10】
前記薄膜は、前記下層の下に設けられた最下層を有し、
前記第2上層パターンを形成する工程において、あるいは前記第2上層パターンを形成する工程の後において、前記下層がエッチングされた領域の前記最下層を除去する
ことを特徴とする請求項9に記載の反射型マスクの製造方法。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に形成された多層反射膜と、
前記多層反射膜上に設けられ、かつ転写パターンが形成された薄膜と、を有し、
前記薄膜は、第1層および第2層を含み、
EUV光に対する前記第1層の反射率は、2.5%より高く、
前記EUV光に対する前記第2層の反射率は、前記第1層の反射率よりも高い
ことを特徴とする反射型マスク。
【請求項12】
EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光と、前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は、30度以下である
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項13】
EUV光を照射した前記多層反射膜から反射した光を基準反射光としたとき、
前記基準反射光と前記EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光との間の位相差は、150度以上であり、
前記基準反射光と前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は、150度以上である
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項14】
前記薄膜は、最も前記基板に近い側に設けられた最下層を有する
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項15】
前記第1層または前記第2層は、ルテニウム、タンタル、クロムのうち少なくとも1つを含む材料からなる
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項16】
前記第1層は、前記第2層上に形成されている
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項17】
前記第1層および前記第2層は、平面視で、それぞれ少なくとも部分的に露出している
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項18】
前記第2層の少なくとも一部が前記第1層に覆われてなる積層領域を有し、
平面視で、前記積層領域の外周において、前記第2層が露出している
ことを特徴とする請求項11に記載の反射型マスク。
【請求項19】
前記請求項1から8のいずれか一項に記載の反射型マスクブランクを用いて製造され、転写パターンを有する反射型マスク、請求項9または10に記載の製造方法によって製造された反射型マスク、または請求項11から18のいずれか一項に記載の反射型マスクを用いて、半導体基板上に前記転写パターンを転写する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、反射型マスク、および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、配線などのパターンを微細にし、パターン寸法やパターン位置の精度を高めるほど電気的特性および性能が上がり、また、集積度向上やチップサイズを低減できる。そのため、波長が13.5nm近傍の極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)を用いたEUVリソグラフィーが開発され、このEUVリソグラフィーに対して、より高精度な微細寸法パターンの転写性能が求められている。
【0003】
EUVリソグラフィーでは、EUV光に対して透明な材料が少ないことから反射型マスクが用いられる。また、このような反射型マスクにおいても、位相シフト効果を有する位相シフト型の反射型マスクとすることで、転写パターンにおけるコントラストの向上と、これによる解像度の向上が期待できる。よって、微細寸法パターンを高精度に転写するには、下記特許文献1,2に記載されているように、位相シフト型の反射型マスクとすることが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010―080659号公報
【特許文献2】特開2004―207593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、位相シフト型の反射型マスクを用いた露光においては、良好な位相シフト効果を得るための反射率が、パターンの種類に応じて異なることがある。転写されるパターンの種類(形状)やピッチ等によって、高い反射率が好ましい場合と、低い反射率が好ましい場合とがある。しかしながら、高い反射率を有する部分では、高い位相シフト効果を得ることができるが、露光マージンが小さくなる。このため、被転写体(半導体)基板上のレジストが感光すべきでない領域で感光するリスクが生じる。これに対し、低い反射率では、露光マージンが大きくなる一方、位相シフト効果が小さくなってしまう。
【0006】
このため、従来の位相シフトマスクを用いて、相対的に高い反射率が好ましいパターンの領域と、相対的に低い反射率が好ましいパターンの領域とを、被転写体基板上に形成するには、2つ以上の位相シフトマスクを用意する必要があった。またこのように、相対的に高い反射率を有する領域と、相対的に低い反射率を有する領域とを、どのように設定するかは、転写対象の半導体デバイスに応じて異なる。このため、マスクブランクは、転写対象に形成されるパターンの種類に対応して所望の反射率を有する領域を設定することのできる設計自由度の高いものであることが好ましい。
【0007】
そこで本発明は、高い位相シフト効果と大きな露光マージンの両立を図ることで高精度な微細パターン転写を行うことが可能な反射型マスクを提供すること、およびこの反射型マスクの作製が可能な反射型マスクブランクを提供すること、さらには1つのマスクで高い位相シフト効果と大きな露光マージンを同時に得ることができる反射型マスクの製造方法を提供すること、およびこの反射型マスクを用いることにより高性能でかつ高集積化を図ることが可能な半導体体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)
基板と、
前記基板上に形成された多層反射膜と、
前記多層反射膜上に形成された薄膜と、を有し、
前記薄膜は、第1層および第2層を含み、
EUV光に対する前記第1層の反射率は、2.5%より高く、
前記EUV光に対する前記第2層の反射率は、前記第1層の反射率よりも高い
ことを特徴とする反射型マスクブランク。
【0010】
(構成2)
EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光と、前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は、30度以下である
ことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0011】
(構成3)
EUV光を照射した前記多層反射膜から反射した光を基準反射光としたとき、
前記基準反射光と、前記EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光との間の位相差は150度以上であり、
前記基準反射光と、前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は150度以上である
ことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0012】
(構成4)
前記薄膜は、最も前記基板に近い側に設けられた最下層を有する
ことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0013】
(構成5)
前記第1層または前記第2層は、ルテニウム、タンタル、およびクロムのうち少なくとも1つを含む材料からなる
ことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0014】
(構成6)
前記第1層は、前記第2層上に形成されている
ことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0015】
(構成7)
前記薄膜上にエッチングマスク膜を有する
ことを特徴とする構成1に記載の反射型マスクブランク。
【0016】
(構成8)
前記エッチングマスク膜は、2つ以上の層を含む
ことを特徴とする構成7に記載の反射型マスクブランク。
【0017】
(構成9)
構成7に記載の反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造方法であって、
前記第1層および前記第2層のうち、より前記基板近くに形成されている一方を下層とし、他方を上層としたとき
前記エッチングマスク膜をエッチングし、エッチングマスクパターンを形成する工程と、
前記エッチングマスクパターンをマスクにして、前記上層をエッチングし、第1上層パターンを形成する工程と、
前記第1上層パターンをマスクにして、前記下層をエッチングし、下層パターンを形成する工程と、
前記第1上層パターンをエッチングし、第2上層パターンを形成することにより転写パターンを形成する工程と、
を有することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【0018】
(構成10)
前記薄膜は、前記下層の下に設けられた最下層を有し、
前記第2上層パターンを形成する工程において、あるいは前記第2上層パターンを形成する工程の後において、前記下層がエッチングされた領域の前記最下層を除去する
ことを特徴とする構成9に記載の反射型マスクの製造方法。
【0019】
(構成11)
基板と、
前記基板上に形成された多層反射膜と、
前記多層反射膜上に設けられ、かつ転写パターンが形成された薄膜と、を有し、
前記薄膜は、第1層および第2層を含み、
EUV光に対する前記第1層の反射率は、2.5%より高く、
前記EUV光に対する前記第2層の反射率は、前記第1層の反射率よりも高い
ことを特徴とする反射型マスク。
【0020】
(構成12)
EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光と、前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は、30度以下である
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0021】
(構成13)
EUV光を照射した前記多層反射膜から反射した光を基準反射光としたとき、
前記基準反射光と前記EUV光を照射した前記第1層から反射した第1の反射光との間の位相差は、150度以上であり、
前記基準反射光と前記EUV光を照射した前記第2層から反射した第2の反射光との間の位相差は、150度以上である
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0022】
(構成14)
前記薄膜は、最も前記基板に近い側に設けられた最下層を有する
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0023】
(構成15)
前記第1層または前記第2層は、ルテニウム、タンタル、クロムのうち少なくとも1つを含む材料からなる
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0024】
(構成16)
前記第1層は、前記第2層上に形成されている
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0025】
(構成17)
前記第1層および前記第2層は、平面視で、それぞれ少なくとも部分的に露出している
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0026】
(構成18)
前記第2層の少なくとも一部が前記第1層に覆われてなる積層領域を有し、
平面視で、前記積層領域の外周において、前記第2層が露出している
ことを特徴とする構成11に記載の反射型マスク。
【0027】
(構成19)
前記構成1から8のいずれか一項に記載の反射型マスクブランクを用いて製造され、転写パターンを有する反射型マスク、構成9または10に記載の製造方法によって製造された反射型マスク、または構成11から18のいずれか一項に記載の反射型マスクを用いて、半導体基板上に前記転写パターンを転写する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、高い位相シフト効果と大きな露光マージンの両立が図ることで高精度な微細パターン転写を行うことが可能な反射型マスクを提供すること、およびこの反射型マスクの作製が可能な反射型マスクブランクを提供すること、さらには1つのマスクで高い位相シフト効果と大きな露光マージンを同時に得ることができる反射型マスクの製造方法を提供すること、およびこの反射マスクを用いることにより高性能でかつ高集積化を図ることが可能な半導体体装置の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型マスクの構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る反射型マスクの構成を示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る反射型マスクの他の構成を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反射型マスクの製造方法の一例を示す断面工程図である。
【
図6】実施例および比較例の薄膜の組成および薄膜の物性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書における反射率(絶対反射率および相対反射率)は、薄膜40(第1層41および第2層42)あるいは多層反射膜20(保護膜30含む、以下同様)に対するEUV光の入射角が、反射型マスク1a、1a’あるいは反射型マスクブランク1から製造された反射型マスク1a、1a’を用いてパターン転写する際の露光で用いられるEUV光の照射対象に対する入射角と同じである場合の値を意味する。パターン転写する際のEUV光源の光は、照明光学系を介して、反射型マスク1a、1a’の主表面に垂直な面に対して、例えば6度から8度傾けた角度で反射型マスク1a、1a’に照射される。薄膜40あるいは多層反射膜20に対するEUV光の入射角は、特に限定されないが、例えば6度とすることができる。
【0031】
≪反射型マスクブランクおよび反射型マスク≫
図1は、本発明の実施形態に係る反射型マスクブランク1の構成を示す断面図である。この図に示す反射型マスクブランク1は、極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet、以下、EUV光と記す)を露光光とするEUVリソグラフィー用の反射型マスクの原版である。EUV光とは、波長13.5nmの光を含む光(電磁波)であり、波長13nmから14nmの光、より具体的には、波長13.5nmの光とすることができる。本明細書において、光とは可視光だけでなく電磁波も含む。また
図2は、本発明の実施形態に係る反射型マスク1aの構成を示す断面図であって、
図1に示した反射型マスクブランク1を加工して製造されたものである。この反射型マスク1aは、EUVリソグラフィー用のものであって、位相シフト型のマスクである。
【0032】
図1に示す反射型マスクブランク1は、基板10と、基板10の一方の主表面(第1主表面)上に基板10側から順に積層された、多層反射膜20、保護膜30、および薄膜40を有している。薄膜40は、加工によって転写パターンが形成される膜である。また反射型マスクブランク1は、薄膜40上に、必要に応じてエッチングマスク膜50を設けた構成であってもよい。反射型マスクブランク1は、必要に応じて、エッチングマスク膜50上に形成されたレジスト膜を含んでもよい。このエッチングマスク膜50およびレジスト膜は、反射型マスク1aの製造過程において除去される。
【0033】
また
図2に示す反射型マスク1aは、
図1に示す反射型マスクブランク1における薄膜40を転写パターン40aとしてパターニングしたものである。以下、反射型マスクブランク1および反射型マスク1aを構成する各部の詳細を、
図1および
図2に基づいて説明する。
【0034】
<基板10>
基板10は、反射型マスク1aを用いたEUV光[H1]による露光(EUV露光)時に、発熱による転写パターン40aの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有する素材が好ましく用いられる。このような素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。なお、転写パターン40aとは、上述したように薄膜40の加工によって形成されたパターンである。
【0035】
また基板10において、薄膜40が設けられていない裏面は、露光装置に反射型マスク1aをセットするときに静電チャックされる面であり、ここでの図示を省略した導電膜が設けられている。裏面とは、薄膜40が設けられている第1主表面に対向する他方の主表面を指す。
【0036】
基板10の転写パターン40aが形成される第1主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板10の第1主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、基板10の裏面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、反射型マスクブランク1における裏面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。なお、本明細書において、平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。この値は、基板10の表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板10の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板10の表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0037】
また、基板10の表面平滑度も高いことが好ましい。転写パターンである転写パターン40aが形成される第1主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0038】
更に、基板10は、その上に形成される膜(多層反射膜20など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0039】
<多層反射膜20>
多層反射膜20は、基板10の第1主表面上に形成され、露光光であるEUV光[H1]を高い反射率で反射する。この多層反射膜20は、この反射型マスクブランク1を用いて形成される反射型マスク1aにおいて、EUV光[H1]を反射する機能を有するものであり、屈折率の異なる物質を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。多層反射膜20は、後述する表面層の上に、さらに保護膜30を含むことができる。この場合、多層反射膜20の反射光とは、保護膜30を介して多層反射膜20に入射した光が、保護膜30を介して反射した光を指す。すなわち、反射型マスクブランク1あるいは反射型マスク1aが保護膜30を含む場合、基板10上の多層反射膜20上に保護膜30が形成された状態における保護膜30の表面からの反射光を、多層反射膜20の反射光として測定する。
【0040】
一般的には、高屈折率材料である軽元素またはその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素またはその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に30から60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜20として用いられる。
【0041】
多層反射膜20を形成するために、基板10上に高屈折率層と低屈折率層をこの順に複数周期積層してもよい。この場合、1つの(高屈折率層/低屈折率層)の積層構造が、1周期となる。多層反射膜20を形成するために、基板10上に低屈折率層と高屈折率層をこの順に複数周期積層してもよい。この場合、1つの(低屈折率層/高屈折率層)の積層構造が、1周期となる。
【0042】
なお、多層反射膜20の最上層、すなわち多層反射膜20の基板10と反対側の表面層は、高屈折率層であることが好ましい。基板10上に高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。しかし、低屈折率層が多層反射膜20の表面である場合、低屈折率層が容易に酸化されることで多層反射膜20の表面の反射率が減少してしまう可能性がある。このため、その低屈折率層の上に高屈折率層を形成することが好ましい。一方、基板10上に低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。その場合は、最上層の高屈折率層が、多層反射膜20の表面となる。
【0043】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)のうちの少なくとも1つを含むSi化合物を用いることができる。多層反射膜20用の高屈折率層として、Siを含む層を用いることにより、EUV光[H1]の反射率に優れたEUVリソグラフィー用の反射型マスク1aが得られる。また、本実施形態において基板10としてはガラス基板が好ましく用いられるが、Siはガラス基板との密着性においても優れているため、高屈折率層を構成する材料として好ましい。
【0044】
また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、および白金(Pt)から選ばれる金属単体、またはこれらの合金が用いられる。例えば波長13nmから14nmのEUV光[H1]に対する多層反射膜20としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に30から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。
【0045】
その他に、EUV光[H1]の領域で使用される多層反射膜20として、例えば、Ru/Si周期多層膜、Mo/ベリリウム(Be)周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/ニオブ(Nb)周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などを用いることができる。露光波長を考慮して、多層反射膜20の材料を選択することができる。
【0046】
このような多層反射膜20の反射率は、例えば65%以上であることが好ましい。多層反射膜20の反射率の上限は、例えば73%であることが好ましい。なお、多層反射膜20に含まれる層の厚みおよび周期は、ブラッグの法則を満たすように選択することができる。本明細書において、多層反射膜20の反射率とは、基板10上に多層反射膜20が形成された状態での多層反射膜20の表面からの反射率を意味する。多層反射膜20が保護膜30を含む場合、多層反射膜20の反射率とは、基板10上の多層反射膜20上に保護膜30が形成された状態での保護膜30からの反射率を意味する。
【0047】
多層反射膜20は、公知の方法によって形成できる。多層反射膜20は、例えば、イオンビームスパッタ法により形成できる。
【0048】
例えば、多層反射膜20がMo/Si多層膜である場合、イオンビームスパッタ法により、Siターゲットを用いて、厚さ4nm程度のSi膜を基板10の上に形成する。次に、Moターゲットを用いて、厚さ3nm程度のMo膜を形成する。このような操作を繰り返すことによって、Mo/Si膜が30~60周期積層した多層反射膜20を形成することができる。このとき、多層反射膜20の基板10と反対側の表面層は、Siを含む層(Si膜)とすることが好ましい。1周期のMo/Si膜の厚みは、7nmとなる。
【0049】
<保護膜30>
保護膜30は、この反射型マスクブランク1を加工してEUVリソグラフィー用の反射型マスク1aを製造する際に、エッチングおよび洗浄から多層反射膜20の表面層および表面層よりも下の層を保護するために設けられた膜である。この保護膜30は、多層反射膜20の表面層の上に、該表面層に接して、または他の膜を介して設けられる。また、保護膜30は、反射型マスク1aにおいて、電子線(EB)を用いて転写パターン40aの黒欠陥を修正する際に、多層反射膜20を保護する役割も兼ね備えることができる。
【0050】
ここで、
図1および
図2では、保護膜30が1層の場合を示しているが、保護膜30を2層以上の積層構造とすることもできる。保護膜30は、薄膜40をパターニングする際に使用するエッチャント、および洗浄液に対して耐性を有する材料で形成される。多層反射膜20の上に保護膜30が形成されていることにより、多層反射膜20および保護膜30を有する基板10を用いて反射型マスク1aを製造する際の、多層反射膜20の表面へのダメージを抑制することができる。そのため、多層反射膜20のEUV光[H1]に対する反射率特性が良好となる。以下では、保護膜30が、1層の場合を例に説明する。
【0051】
本実施形態の反射型マスクブランク1では、保護膜30の材料として、保護膜30の上に形成される薄膜40をパターニングするためのドライエッチングに用いられるエッチングガスに対して、耐性のある材料を選択することができる。保護膜30の厚みは、保護膜30が多層反射膜20の表面層以下の層を保護する機能を果たすことができる限り、特に制限されないが、保護膜30の厚みは、1nm以上20nm以下であることが好ましい。EUV光の反射率の観点から、保護膜30の厚みは、好ましくは、1.0nm~8.0nm、より好ましくは、1.5nm~6.0nmである。
【0052】
薄膜40が複数層を積層した構成である場合、薄膜40の最下層をパターニングするためのエッチングガスに対して耐性のある材料が、保護膜30の材料として用いられる。保護膜30が複数層を積層した構成である場合、薄膜40の最下層をパターニングするためのエッチングガスに対して耐性のある材料が、保護膜30の最上層の材料として用いられる。
【0053】
保護膜30の材料は、保護膜30に対する薄膜40の最下層のエッチング選択比(薄膜40の最下層のエッチング速度/保護膜30のエッチング速度)が1.5以上、好ましくは3以上となる材料であることが好ましい。
【0054】
例えば、薄膜40の最下層が、ルテニウム(Ru)と、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)およびコバルト(Co)のうち少なくとも1以上の元素とを含む金属を含む材料(所定のRu系材料)や、ルテニウム(Ru)と、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびレニウム(Re)のうち少なくとも1以上の元素とを含む金属を含む材料(所定のRu系材料)からなる薄膜である場合には、塩素系ガスおよび酸素ガスの混合ガス、または酸素ガスを用いたドライエッチングガスにより、薄膜40の最下層をエッチングすることができる。このエッチングガスに対して、耐性を有する保護膜30の材料として、ケイ素(Si)単体、ケイ素(Si)と酸素(O)および/または窒素(N)を含む材料などのケイ素系材料を選択することができる。したがって、保護膜30の表面に接する薄膜40の最下層が、所定のRu系材料からなる薄膜の場合には、保護膜30は、上記ケイ素系材料からなることが好ましい。上記ケイ素系材料は、塩素系ガスおよび酸素ガスの混合ガス、または酸素ガスを用いたドライエッチングガスに対して耐性を有し、ケイ素系材料の酸素の含有量が多いほど、耐性は大きい。そのため、保護膜30の材料は、酸化ケイ素(SiOx、1≦x≦2)であることがより好ましく、xが大きい方が更に好ましく、SiO2であることが特に好ましい。
【0055】
また、保護膜30の表面に接する薄膜40の最下層が、タンタル(Ta)を含む材料からなる薄膜である場合には、酸素ガスを含まないハロゲン系ガスを用いたドライエッチングにより、薄膜40の最下層をエッチングすることができる。このエッチングガスに対して耐性を有する保護膜30の材料として、ルテニウム(Ru)を主成分として含む材料を使用することができる。物質Aを主成分として含むとは、物質Aを50原子%以上含むことを意味する。
【0056】
また、保護膜30の表面に接する薄膜40の最下層が、クロム(Cr)を含む材料からなる薄膜である場合には、酸素ガスを含まない塩素系ガス、または酸素ガスと塩素系ガスとの混合ガスのドライエッチングガスを用いたドライエッチングにより、薄膜40の最下層をエッチングすることができる。このエッチングガスに対して耐性を有する保護膜30の材料として、ルテニウム(Ru)を主成分として含む材料を使用することができる。
【0057】
薄膜40の最下層が、タンタル(Ta)またはクロム(Cr)を含む材料の場合に用いることのできる保護膜30の材料は、上述のように、ルテニウムを主成分として含む材料であることができる。ルテニウムを主成分として含む材料の例として、具体的には、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ロジウム(Rh)およびレニウム(Re)から選択される少なくとも1種の金属を含有するRu合金、Ru金属、および、Ru合金に窒素を含む材料を挙げることができる。
【0058】
Ru合金のRu含有比率は、50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、更に好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合は、多層反射膜20を構成する元素(ケイ素)の、保護膜30への拡散を抑制することができる。また、EUV光の反射率を十分確保しつつ、マスクの洗浄耐性を向上させることができる。さらに、保護膜30は、薄膜40をエッチング加工する時に、エッチングストッパーとして機能する。また、保護膜30は、多層反射膜20の経時変化を防止することができる。
【0059】
保護膜30の材料として、Ruを含む化合物、例えば、RuNb、RuN、およびRuTiから選択される少なくとも1種を含む材料を用いることができる。また、保護膜30の材料として、YとOを含む化合物、例えば、Y2O3を含む材料を用いることができる。また、保護膜30の材料として、Crを含む化合物、例えば、CrNを含む材料を用いることができる。
【0060】
保護膜30の材料は、上記材料に加えて、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
【0061】
保護膜30の形成方法としては、公知の膜形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。具体例としては、各種スパッタリング法、例えば、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、およびイオンビームスパッタリング法のほか、原子層堆積法(atomic layer deposition:ALD)法などが挙げられる。
【0062】
<薄膜40および転写パターン40a>
薄膜40は、EUV光[H1]に対する位相シフト膜として用いられる膜であって、この反射型マスクブランク1を用いて構成される反射型マスク1aにおける転写パターン40a形成用の膜となる。転写パターン40aは、この薄膜40をパターニングしてなる。
【0063】
本実施形態において、この薄膜40は、少なくとも第1層41および第2層42を含む。第1層41および第2層42は、それぞれが、EUV光[H1]に対する位相シフト膜として機能する。このような第1層41および第2層42は、EUV光[H1]を吸収しつつ、パターン転写に悪影響がないレベルで一部のEUV光[H1]を反射する。なお、薄膜40は、第1層41および第2層42以外の膜を含んでいてもよく、例えば第1層41および第2層42よりも基板10に近い側に設けられた最下層43を有していてもよく、さらにここでの図示を省略した他の層を含んでいてもよい。以下、第1層41および第2層42の構成を説明する。
【0064】
[EUV光[H1]に対する反射率(薄膜40および転写パターン40a)]
第1層41および第2層42は、ともにEUV光[H1]に対する位相シフト膜として機能する膜であることができる。
【0065】
そして、EUV光[H1]に対する第1層41からの絶対反射率[R1]および第2層42からの絶対反射率[R2]は、2.5%よりも高く、より好ましくは3.0%以上である。また、EUV光に対する第1層41からの絶対反射率[R1]および第2層42からの絶対反射率[R2]は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。これにより、第1層41および第2層42のそれぞれが、位相シフト膜として機能し得る。
【0066】
ただし、第1層41および第2層42は、EUV光[H1]に対する絶対反射率が異なる。EUV光[H1]に対する絶対反射率については、第1層41からの絶対反射率[R1]に対し、第2層42からのEUV光[H1]の絶対反射率[R2]の方が高く、絶対反射率[R2]>絶対反射率[R1]である。
【0067】
なお、本明細書において、第1層41の絶対反射率(反射率)[R1]は、第1層41が第2層42を介さずに多層反射膜20(および最下層)上に設けられている場合は、基板10上に形成された多層反射膜20(および最下層)上に第1層41が形成された状態での第1層41の表面からの絶対反射率を意味する。第1層41が第2層42を介して多層反射膜20上に設けられている場合、第1層41の絶対反射率(反射率)[R1]は、基板10上の多層反射膜20(および最下層)上に形成された第2層42上に第1層41が形成された状態での第1層41の表面からの絶対反射率を意味する。後述する相対反射率も同様である。
【0068】
また、第2層42の絶対反射率(反射率)[R2]は、第2層42が第1層41を介さずに多層反射膜20(および最下層)上に設けられている場合は、基板10上に形成された多層反射膜20(および最下層)上に第2層42が形成された状態での第2層42の表面からの絶対反射率を意味し、第2層42が第1層41を介して多層反射膜20(および最下層)上に設けられている場合は、基板10上の多層反射膜20(および最下層)上に形成された第1層41上に第2層42が形成された状態での第2層42の表面からの絶対反射率を意味する。後述する相対反射率も同様である。
【0069】
絶対反射率とは、光(電磁波)の照射対象への入射強度に対する該照射対象からの反射強度を意味する。すなわち、膜または層の絶対反射率は、(対象の膜または層表面からの反射光の光量)/(対象の膜または層表面への入射光の光量)で算出される値である。絶対反射率の単位を%とする場合には、さらに100を乗じる。なお、本明細書において単に反射率という場合には、特筆のない限り絶対反射率を意味する。
【0070】
さらに、EUV光[H1]に対する多層反射膜20からの反射率を基準とした場合、EUV光に対する第1層41からの相対反射率は、3%より大きいことが好ましく、4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましく、8%以上であることがさらにより好ましい。これにより高い位相シフト効果を得ることができる。また、EUV光に対する第1層41からの相対反射率は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。これは、第2層42に対しても同様である。これにより、パターン転写時の不要なレジスト膜の感光を抑制あるいは低減することができる。なお、相対反射率は、(対象の膜または層表面の絶対反射率)/(多層反射膜20からの絶対反射率)で計算することができる。相対反射率の単位が%の場合は、さらに100を乗じる。
【0071】
以上のような各反射率を有する第1層41と第2層42とは、基板10の一方の主表面の上方において積層された膜であるが、これらの積層順は限定されることはない。例えば、第1層41の上に、第2層42が積層されている場合であっても、微細パターンを形成する場合の効果を得ることができる。ただし、EUV光[H1]に対する反射率が相対的に高い第2層42の上に、EUV光[H1]に対する反射率が相対的に低い第1層41が積層されていることにより、以降に説明するように微細パターンを形成する場合の効果をより高くすることができる。
【0072】
[反射光の位相差(薄膜40および転写パターン40a)]
第1層41においてEUV光[H1]を反射させた第1の反射光[Rf1]と、第2層42においてEUV光[H1]を反射させた第2の反射光[Rf2]との間の位相差は、30度以下であることが好ましく、20度以下であることがより好ましい。このようにすることで、より良好な位相シフト効果を得ることができる。
【0073】
また、EUV光[H1]を照射した多層反射膜20から反射した反射光を基準反射光[Rf0]としたとき、基準反射光[Rf0]と、第1の反射光[Rf1]および第2の反射光[Rf2]との位相差は150度以上である。ここで、保護膜30が多層反射膜20の表面層上に設けられている場合は、保護膜30を介してEUV光[H1]を照射した多層反射膜20に入射して反射した反射光を基準反射光[Rf0]とする。また基準反射光[Rf0]に対する第1の反射光[Rf1]の位相差は、好ましくは180度以上、より好ましくは200度以上、さらに好ましくは210度以上である。またその位相差は、好ましくは300度以下、より好ましくは280度以下、さらに好ましくは250度以下、さらにより好ましくは240度以下である。基準反射光[Rf0]に対する第2の反射光[Rf2]の位相差も同様である。このような位相差とすることにより、この反射型マスク1aを用いた露光において、高い位相シフト効果を得ることができる。ここで、基準反射光[Rf0]に対する第1の反射光[Rf1]の位相差と基準反射光[Rf0]に対する第2の反射光[Rf2]の位相差との差は、好ましくは30度以内であり、より好ましくは20度以内である。
【0074】
[材質(薄膜40および転写パターン40a)]
薄膜40は、第1層41および第2層42のEUV光[H1]に対する反射率および位相差が上述した構成であれば、材質が限定されることはない。このような薄膜40を構成する材料としては、例えばルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ハフニウム(Hf)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)から選ばれる1種以上を含む材料が挙げられる。また、これらに加えて、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
【0075】
以上のような薄膜40を構成する材料の具体的な一例としては、HfAl材料、AlSi材料、RuN材料、RuCr材料、RuPt材料、RuTa材料、TaNb材料、IrTa材料、Cr材料、およびこれらの材料に加えて酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含有する材料などが挙げられる。例えば、これらの材料から選択した1つを第1層41とし、他の1つを第2層42とすることができる。
【0076】
また第1層41および第2層42のうちの少なくとも一方は、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、およびクロム(Cr)のうち少なくとも1つを含む材料からなることが好ましい。Ruは、EUV光に対する屈折率nや消衰係数kが小さいため、良好な位相シフト効果と比較的高い反射率を有する膜を薄い膜厚で形成することができる。したがって、シャドーイング効果を低減することもできる。また、TaおよびCrは、EUV光の吸収係数が大きいため、比較的低い反射率を有する位相シフト膜を形成できる。したがって、パターン転写時に不要なレジスト膜の感光を低減または抑制することができる。また、消衰係数kが大きいと、位相シフト膜の膜厚を薄くすることができ、シャドーイング効果を低減することもできる。さらに、TaおよびCrは、塩素系ガスおよび/またはフッ素系ガスに対して高いエッチングレートを有し、容易にドライエッチングすることが可能である。このため、TaおよびCrは、加工性に優れた位相シフト膜を形成することができる。さらにTaにBやSi、Ge等を加えることにより、アモルファス状の材料が容易に得られ、薄膜の平滑性を向上させることができる。また、TaにNやOを加えれば、薄膜の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果も得られる。
【0077】
また、第1層41または第2層のいずれか一方は、Alを含む材料からなることが好ましい。Alを含む材料としては、例えば、HfAl材料およびAlSi材料が挙げられる。例えば、HfAl材料が第1層41または第2層のいずれかに用いられる場合、HfAl材料におけるHfおよびAlの合計含有量(原子%)に対するHfの含有量(原子%)の比率であるHf/[Hf+Al]は、0.40以上であることが好ましい。これにより、HfAl材料の薬液洗浄に対する耐性を向上することができる。また、Hf/[Hf+Al]は0.86以下であることが好ましい。
【0078】
また、AlSi材料が第1層41または第2層のいずれかに用いられる場合は、薬液洗浄に対する耐性の観点から、AlSi材料におけるAlおよびSiの合計含有量(原子%)に対するSiの含有量(原子%)の比率であるSi/[Al+Si]が、0.20以上であることが好ましい。これにより、AlSi材料の薬液洗浄に対する耐性を向上することができる。また、Si/[Al+Si]は0.80以下であることが好ましい。
【0079】
HfAl材料およびAlSi材料は、いずれも酸素(O)を含むことが好ましい。HfAl材料およびAlSi材料の酸素含有量は、いずれも60原子%以上とすることが好ましい。これにより、HfAl材料またはAlSi材料からなる薄膜の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。また、HfAl材料およびAlSi材料の酸素含有量は、70原子%以下であることが好ましく、66原子%以下であることがより好ましい。
【0080】
また、薄膜40の第1層41および第2層42は、互いにエッチング選択性を有することが好ましい。つまり、第1層41は、第2層42をエッチングするためのエッチャントに対して、耐性を有することが好ましく、第2層42は、第1層41をエッチングするためのエッチャントに対して、耐性を有することが好ましい。
【0081】
例えば、第1層41および第2層42の何れか一方が、ルテニウム(Ru)と、クロム(Cr)、酸素(O)、および窒素(N)のうち少なくとも1以上の元素とを含む材料を用いて構成されている層であれば、塩素系ガスおよび酸素ガスの混合ガス、または酸素ガスを用いたドライエッチングガスにより、この層をエッチングすることができる。この場合、この混合ガスまたは酸素ガスに対して耐性を有する材料を用いて、第1層41および第2層42の何れか他方を構成する。このような耐性を有する材料としては、HfAl材料、AlSi材料、およびこれらに酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含む材料が例示される。
【0082】
またこの場合、第1層41および第2層42の何れか他方の層は、酸素ガスを含まないハロゲン系ガス(塩素系ガス、フッ素系ガス等)を用いたドライエッチングガスにより、エッチングすることができる。この場合、第1層41および第2層42の何れか一方の層は、このハロゲン系ガスに対して耐性を有する。
【0083】
また、薄膜40の第1層41および第2層42は、互いにエッチング選択性を有していなくてもよい。この場合、薄膜40は、第1層41と第2層42との間に、エッチングストッパー層を有する構成であることが好ましい。
【0084】
エッチングストッパー層の材料は、第1層41および第2層42に対してエッチング選択性を有していればよい。このようなエッチングストッパー層の材質は、特に限定されることはなく、先に薄膜40を構成する材料として例示した元素を含む材料の中からエッチング選択性を考慮した材料を選択して用いることができる。
【0085】
<エッチングマスク膜50>
エッチングマスク膜50は、必要に応じて、薄膜40上に設けることができる。エッチングマスク膜50は、単層であっても複数の膜を積層してなる積層膜でもよい。エッチングマスク膜50が積層膜である場合、各層は、上下に設けられた他の層のそれぞれに対してエッチング選択性を有することが好ましい。
【0086】
エッチングマスク膜50の材料は、薄膜40の最も上に設けられた層(例えば図面上においては第1層41)に対してエッチング選択性を有するものであればよい。このようなエッチングマスク膜の材質は、特に限定されることはなく、例えば、Cr、Ta、Siから選ばれる1種以上を含む材料、これらの材料にO、N、C、Bから選ばれる1種以上をさらに含む材料が挙げられる。特に、Crを含む材料(Cr系材料)は、レジスト膜との密着性が高く、好ましい。Taを含む材料(Ta系材料)も同様に好ましい。
【0087】
エッチングマスク膜50が2つ以上の層を含む積層膜である場合、好ましくは3層、より好ましくは4層の積層構成であることとする。エッチングマスク膜50が積層膜である場合、Crを含む材料からなる層と、Taを含む材料からなる層とを組み合わせることが好ましい。また、エッチングマスク膜50が積層膜である場合は、最も薄膜40の近くに形成される層を、エッチングレートの高い材料(CrOCNなど)とすることで、よりパターンの精度を向上させることができる。
【0088】
例えば、エッチングマスク膜50が3層の場合は、エッチングマスク膜50は、薄膜40上に形成されたCr系材料のエッチングマスク下層、エッチングマスク下層上のTa系材料からなるエッチングマスク中間層、およびエッチングマスク中間層上のCr系材料からなるエッチングマスク上層を含むことができる。
【0089】
また、例えば、エッチングマスク膜50が4層の場合は、エッチングマスク膜50は、薄膜40上に形成されたCr系材料の最下層(エッチングマスク下層)、エッチングマスク下層上のTa系材料からなるエッチングマスク中間層、エッチングマスク中間層上のCr系材料からなるエッチングマスク上層、およびエッチングマスク上層上のTa系材料からエッチングマスク最上層を含むことができる。
【0090】
このようにエッチングマスク膜50が3層または4層の場合、エッチングマスク下層をエッチングレートが高い材料(CrOCNなど)によって構成し、かつ膜厚の小さいものとする。そして、エッチングマスク上層をエッチングレートが低い材料(例えばCrOCなど)によって構成し、かつエッチングマスク下層よりも膜厚の大きなものとすることが好ましい。これにより、エッチングマスク下層をエッチングする際に、エッチングマスク上層を残存させることができ、その後の第1層41および第2層42のエッチングにおいて必要となるエッチングマスク膜の膜厚を十分なものとすることが可能である。
【0091】
<反射型マスク1aの構造>
反射型マスク1aは、薄膜40をパターニングしてなる転写パターン40aを有する。また反射型マスク1aは、転写パターン40aが形成されたパターン領域とともに、転写パターン40aが形成されていない非パターン領域を有してもよい。非パターン領域は、転写パターン40aが形成されたパターン領域の周辺領域として設けられている。このような非パターン領域は、例えば、ここでの図示を省略した絶対反射率2.5%以下の膜(バイナリ膜)によって被覆された領域とすることができる。このバイナリ膜は、エッチングマスク膜50と薄膜40との間に別に設けてもよい。また、エッチングマスク膜50が、絶対反射率2.5%以下のものであれば、エッチングマスク膜50をバイナリ膜として用いてもよい。
【0092】
<反射型マスク1aにおける転写パターン40aの構成>
図3は、本発明の実施形態に係る反射型マスク1aの構成を示す平面図である。
図2および
図3に示す反射型マスク1aは、薄膜40をパターニングしてなる島状の転写パターン40aを有する。この転写パターン40aは、基板10上に順に、最下層43、第2層42、および第1層41が積層された薄膜40をパターニングして形成されたものである。このような転写パターン40aは、第1層41をパターニングして得られた第1層パターン(第2上層パターン)41aと、第2層42をパターニングして得られた第2層パターン(下層パターン)42aと、最下層43をパターニングして得られた最下層パターン43aとで構成されている。
図2および
図3においては、第2層パターン42a(第2層42)上に第1層パターン41a(第1層41)が形成されている構成を例示しているが、第1層パターン41a上に第2層パターン42aが設けられていてもよい。この場合、第1層パターンが下層パターンとなり、第2層パターンが第2上層パターンとなる。以下も同様である。
【0093】
またこの転写パターン40aは、第2上層パターン41aの全周にわたって、下に配置されている下層パターン42aの外周縁部の表面が、平面視で、露出した状態となっている。このため、転写パターン40aの平面視的な形状は、第2上層パターン41aの全周が下層パターン42aで囲まれた状態となっている。また転写パターン40aの断面形状は、第2上層パターン41aの一段低い位置に、下層パターン42aが突出した階段形状となっている。なお、転写パターン40aの平面視において、第2上層パターン41aからの下層パターン42aの露出幅は、10nm~40nmとすることができる。また、この反射型マスク1aに対する露光光としてのEUV光[H1]の入射方向によって、該露出幅を位置に応じて異なる値としてもよい。
【0094】
これにより、反射型マスク1aは、第1層41および第2層42が、平面視で、それぞれ少なくとも部分的に露出しており、第2層42の少なくとも一部が第1層41で覆われた積層領域を有し、積層領域の外周において、第2層42が露出した構成となっている。なお、最下層パターン43aは、下層パターン42aと同じ平面形状を有することが好ましい。また、第1層41と第2層42との間に他の層が設けられている場合、該他の層はその上に位置する第2上層パターン41aと同じ平面形状を有することが好ましい。
【0095】
このような構成の反射型マスク1aでは、平面視で、島状の転写パターン40aの外周縁、すなわち転写パターン40aの輪郭を構成する部分に、EUV光[H1]に対する反射率が高い下層パターン42aを露出させた構成である。これにより、多層反射膜20からの反射光[Rf0]に対する位相シフト効果の高いパターン露光が可能である。しかも、島状の転写パターン40aの中央部に、EUV光[H1]に対する反射率が低い第2上層パターン41aを露出させた構成である。これにより、転写パターン40a全体における反射光量が抑えられ、露光マージンを確保したパターン露光が可能である。この結果、位相シフト型の反射型マスク1aにおける位相シフト効果を妨げることなく、露光マージンが大きく解像度の高いパターン露光を行うことが可能となる。
【0096】
なお、転写パターン40aがラインアンドスペースパターンである場合、平面視で、ラインパターンの長手方向に沿って、第2上層パターン41aの側周縁から下層パターン42aの外周縁を露出させた構成とすればよい。また、転写パターン40aは、ホールパターンであってもよい。この場合、平面視において、多層反射膜20(保護膜30含む)が露出してなるホール領域を囲むように下層パターン42aを形成し、下層パターン42aのホール領域に接する周縁部の表面を所定幅で露出させつつ、下層パターン42aを覆うように、第2上層パターン41aを形成すればよい。
【0097】
また
図1に示した反射型マスクブランク1は、上述した第2層42の上部に第1層41を積層させた構成の薄膜40を有する構成であることができる。これにより、薄膜40の段階的なパターニングにより、
図2および
図3に示した反射型マスク1a、すなわち反射率が相対的に高い第2層42で輪郭が構成され、反射率が相対的に低い第1層41で中央部が構成された転写パターン40aを有する反射型マスク1aを得ることができる。
【0098】
<反射型マスク1a’の他の例>
図4は、本発明の実施形態に係る反射型マスク1a’の他の構成を示す断面図である。
図4に示す反射型マスク1a’は、
図1に示した反射型マスクブランク1の薄膜40をパターニングしてなる第1転写パターン40a’および第2転写パターン40a”を有する。
【0099】
第1転写パターン40a’の平面視において、下層パターン42aは、第2上層パターン41aに覆われており、露出していない。すなわち、第1転写パターン40a’は、第2上層パターン41aと、下層パターン42aと、最下層パターン43aとが、略同一の平面形状で積層された構成であることができる。一方、第2転写パターン40a”は、下層パターン42aと最下層パターン43aとが、略同一形状で積層された構成である。この第2転写パターン40a”は、第1層41を含んでおらず、平面視において、表面に第2層42のみが露出している。
【0100】
これにより、反射型マスク1a’は、第1層41および第2層42が、平面視で、それぞれ少なくとも部分的に露出した構成のものとなっている。
【0101】
このような構成の反射型マスク1a’では、EUV光[H1]に対する反射率が高い下層パターン42aを露出させた第2転写パターン40a”により、多層反射膜20(保護膜30を含む)からの反射光[Rf0]に対する位相シフト効果の高いパターン露光を可能とする。このような第2転写パターン40a”は、第2転写パターン40a”の寸法が非常に微細であり、十分な位相シフト効果を得るためには比較的高い反射率(例えば6%超)を有することが好ましい場合に特に有効である。またEUV光[H1]に対する反射率の低い第2上層パターン41aを露出させた第1転写パターン40a’により、第1転写パターン40a’からの反射光量を抑え、露光マージンを確保しつつ位相シフト効果を利用したパターン露光を可能とする。このような第1転写パターン40a’は、第1転写パターン40a’の寸法が、例えば比較的低い反射率(例えば6%程度)で十分な位相シフト効果を得ることができる程度の大きさである場合に特に有効である。この結果、1つの反射型マスク1aにより、パターンの寸法に合わせて、高い位相シフト効果と大きな露光マージンを同時に得ることが可能となる。そして、転写されるパターンの種類(形状)やピッチ等によって、高い反射率が好ましい領域と、低い反射率が好ましい領域とが存在している場合であっても、1つの反射型マスク1aのみを用いた露光によるパターン形成が可能となる。
【0102】
また
図1に示した反射型マスクブランク1は、上述した第1層41と第2層42とを含む薄膜40を有する構成であることにより、
図4に示した反射型マスク1a’を作製することが可能である。また、この反射型マスクブランク1を用いることにより、位相シフトマスクを製造する際のプロセス(マスク製造プロセス)を複雑化させることなく、十分なマージンで高精度の微細なパターン転写を行うことのできる反射型マスク1a’を製造することができる。
【0103】
なお、
図4に示す構成の反射型マスク1a’は、
図1を用いて説明した反射型マスクブランク1を用いて形成されたものであるが、これと同等の反射型マスクは、第1層41と第2層42の積層順が逆の構成のものを用いても形成可能である。
【0104】
≪反射型マスクの製造方法≫
図5は、本発明の反射型マスクの製造方法の一例を示す製造工程図であって、
図1に示した反射型マスクブランク1を用いて
図2および
図3に示した反射型マスク1aを製造する手順を示す図である。以下、
図5に基づいて反射型マスクの製造方法を説明する。
【0105】
先ず、
図5(1)に示すように、反射型マスクブランク1を用意する。この反射型マスクブランク1は、
図1を用いて説明した反射型マスクブランク1であり、第1層41と第2層42とを含む薄膜40を有する。この薄膜40は、第1層41と第2層42のうち、より基板10の近くに形成されている一方を下層とし、他方を上層とした積層膜である。ここでは一例として、第2層42を下層とし、第1層41を上層としている。
【0106】
また、反射型マスクブランク1は、薄膜40上にエッチングマスク膜50が形成されたものであることができる。ただし、反射型マスクブランク1がエッチングマスク膜50を有していないものであれば、必要に応じて薄膜40上にエッチングマスク膜50を成膜する。その後、エッチングマスク膜50上に、例えばスピン塗布によってレジスト膜101を成膜する。なお、反射型マスクブランク1は、レジスト膜101を備えている場合もあり、この場合にはレジスト膜101の成膜手順は不要である。
【0107】
次に、
図5(2)に示すように、レジスト膜101に対してリソグラフィー処理を施すことにより、レジスト膜101をパターニングしてなるレジストパターン101aを形成する。このリソグラフィー処理においては、例えば電子線描画による露光と、現像処理、およびリンス処理を実施する。
【0108】
その後、レジストパターン101aをマスクとしてエッチングマスク膜50をエッチングし、エッチングマスクパターン50aを形成する。エッチングマスク膜50をエッチングする際のガスは、エッチングマスク膜50の材料に応じて適宜選択すればよい。例えば、エッチングマスク膜50がCr系材料からなるときは、塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)をエッチングガスとして用いることができる。また、例えば、エッチングマスク膜50がTa系材料としてTaO材料からなるときは、フッ素系ガスを用いて、エッチングマスク膜50をエッチングすることができる。図示はしていないが、エッチングマスク膜50が互いに異なる材料からなる複数の層を含む積層膜であるときは、各層の材料に応じてエッチングガスを変えて、エッチングマスク膜50をエッチングすればよい。
【0109】
次に、
図5(3)に示すように、エッチングマスクパターン50a(およびレジストパターン101a)をマスクとして、薄膜40の第1層41をエッチングして第1上層パターン41aaを形成する。
【0110】
この際、第1層41のエッチングガスは、第1層41の材料に応じて、適宜選択することができる。例えば、第1層41がHfAl材料またはAlSi材料からなる場合は塩素ガス(Cl2)と三塩化ホウ素(BCl3)の混合ガスをエッチングガスとして用いることができる。またこのエッチングにおいては、レジストパターン101aも除去される。HfAl材料およびAlSi材料は、さらに酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
【0111】
その後、
図5(4)に示すように、エッチングマスクパターン50aおよび第1上層パターン41aaをマスクにして、薄膜40の第2層42をエッチングして下層パターン42aを形成する。この下層パターン42aは、薄膜40の下層としての第2層42をパターニングしてなる。
【0112】
この際、第2層42のエッチングガスは、第2層42の材料に応じて、適宜選択することができる。例えば、第2層42が、RuN材料、RuCr材料からなる場合には、塩素ガス(Cl2)と酸素ガス(O2)の混合ガスをエッチングガスとして用いることができる。第2層42が、RuPt材料またはRuTa材料からなる場合は、例えばフッ素系ガスをエッチングガスとして用いることができる。RuCr材料、RuN材料、RuPt材料、およびRuTa材料は、さらに酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、およびホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上をさらに含有してもよい。
【0113】
次いで、
図5(5)に示すように、第1上層パターン41aaが形成された基板10の上方に、レジスト膜102を塗布成膜する。
【0114】
その後、
図5(6)に示すように、レジスト膜102に対してリソグラフィー処理を施すことにより、レジスト膜102をパターニングしてなるレジストパターン102aを形成する。ここでは、下層パターン42aよりも平面視的に一回り小さい形状のレジストパターン102aを形成する。このリソグラフィー処理においては、例えば電子線描画による露光と、現像処理、およびリンス処理を実施する。なお、このリソグラフィー処理においては、最下層43の材料に応じて、図示したように最下層43上にレジスト膜102を残してもよいし、最下層43上のレジスト膜102が除去されるように、電子線描画を実施してもよい。
【0115】
その後、レジストパターン102aをマスクとして、第1上層パターン41aaをさらにエッチングし、下層パターン42aよりも一回り小さい平面形状の第2上層パターン41aを形成する。この第2上層パターン41aは、下層パターン42aよりも一回り小さい平面形状を有する。
【0116】
この第1上層パターン41aaのエッチングにおいては、
図5(3)の工程と同様のエッチングガスを用いることができる。またこのエッチングにおいては、レジストパターン102aも膜減りする。
【0117】
引き続き、
図5(7)に示すように、基板10の上方に残されたレジストパターン102a(およびレジスト膜102)を除去する。その後、下層パターン42aをマスクとして最下層43をエッチングすることにより、下層パターン42aと同じ平面形状となるように最下層43をパターニングし、最下層パターン43aを形成する。この際、最下層43の材料に応じて、エッチングガスを適宜選択することができる。例えば、最下層43が、TaONを用いて構成されている場合であれば、フッ素系ガスをエッチングガスとして用いることができる。
【0118】
以上により、
図2および
図3を用いて説明した転写パターン40aを有する反射型マスク1aが得られる。
【0119】
なお、
図4を用いて説明した反射型マスク1a’も、
図5(1)から(5)に示した手順と同じ手順で、途中まで形成される。
図5(5)より後の工程では、第2転写パターン40a”に対応する領域の第1上層パターン41aaが露出するように、レジストパターン102aを形成する。そして、露出した第1上層パターン41aaをエッチングした後、レジストパターン102a除去し、下層パターン42aをマスクにして最下層43をエッチングすることによって、第1転写パターン40a’および第2転写パターン40a”を形成することができる。ただし、この反射型マスク1a’は、第1層41と第2層42の積層順が逆であってもよい。このため、
図5(1)で用意する反射型マスクブランクは、第1層41を下層とし、第2層42を上層とした構成の薄膜40を有するものであってもよい。
【実施例0120】
次に、本発明を適用した実施例と、その比較例を説明する。
図6は、実施例の薄膜の組成および薄膜の物性を示す図である。以下、先の
図1および
図6を参照しつつ各実施例および比較例を説明する。
【0121】
実施例1~実施例3、および比較例においては、
図1に示す層構造の反射型マスクブランク1の各層を、
図6に示す材料で形成した。各実施例および比較例においては、一例として、第1層41を上層とし、第2層42を下層としたが、本発明はこれに限定されない。薄膜40を構成する第1層41および第2層42は、材料および材料の組成比および膜厚により、EUV光[H1]に対する反射率と、保護膜3を介した多層反射膜20からの基準反射光[Rf0]に対する第1の反射光[Rf1]および第2の反射光[Rf2]の位相差を以下のように調整した。
【0122】
実施例1
SiO2-TiO2系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.35mm)を準備した。この基板の端面を面取り加工、及び研削加工し、更に酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理した。これらの処理を終えた基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、研磨液にコロイダルシリカ砥粒を含むアルカリ水溶液を用い、所定の研磨条件で精密研磨を行った。精密研磨終了後、基板に対し洗浄処理を行った。得られたガラス基板の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rq)で、0.10nm以下であった。得られた基板の主表面の平坦度は、測定領域132mm×132mmにおいて、30nm以下であった。
【0123】
上記の基板の裏面に、以下の条件で、CrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
(条件):Crターゲット、Ar+N2ガス雰囲気、膜組成(Cr:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm
【0124】
基板の裏面導電膜が形成された側と反対側の主表面上に、Mo膜/Si膜を周期的に積層することで多層反射膜を形成した。具体的には、イオンビームスパッタリングにより、MoターゲットとSiターゲットを使用し、Arガス雰囲気で、基板上にMo膜及びSi膜を交互に積層した。Mo膜の厚みは、2.8nmである。Si膜の厚みは、4.2nmである。1周期のMo/Si膜の厚みは、7.0nmである。このようなMo/Si膜を、40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜を形成した。
【0125】
多層反射膜の上に、Ruを含む保護膜を形成した。具体的には、Ruターゲットを使用し、Arガス雰囲気にて、DCスパッタリングにより、多層反射膜の上に、Ru膜からなる保護膜を形成した。保護膜の厚みは、3.5nmであった。
【0126】
次に、DCスパッタリングにより、保護膜の上に、最下層としてTaON膜を形成した。TaON膜は、Taターゲットを用いて、Arガス、酸素ガスおよび窒素ガス雰囲気で成膜した。
【0127】
DCスパッタリングにより、TaON膜からなる最下層上に、RuCrON膜からなる第2層(下層)を形成した。RuCrON膜は、RuCrターゲットを用いて、Arガス、酸素ガスおよび窒素雰囲気で成膜した。
【0128】
RFスパッタリングにより、RuCrON膜からなる第2層の上に、第1層(上層)としてHfAlO膜を形成した。HfAlO膜は、Al2O3ターゲットとHfO2ターゲットを用いて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で成膜した。以上により、実施例1の反射型マスクブランクを得た。
【0129】
実施例2
実施例2は、RuCrON膜からなる第2層(下層)の膜厚および第1層(上層)が実施例1のものとは異なる。
【0130】
実施例1と同様に、基板に裏面導電膜、多層反射膜、保護膜およびRuCrON膜を成膜した。ただし、RuCrON膜の膜厚は実施例1のものから変えた。
【0131】
RFスパッタリングにより、RuCrON膜からなる下層の上に、第1層(上層)としてAlSiO膜を形成した。AlSiO膜は、Al2O3ターゲットとSiO2ターゲットを用いて、アルゴン(Ar)ガス雰囲気で成膜した。以上により、実施例2の反射型マスクブランクを得た。
【0132】
実施例3
実施例3では、RuCrON膜からなる第2層(下層)の組成比および膜厚と第1層(上層)の膜厚を実施例1のものから変えた。
【0133】
実施例1と同様に、基板に裏面導電膜、多層反射膜、保護膜を成膜した。さらに、実施例1におけるRuCrON膜成膜時のスパッタリングガスの流量比を調整し、下層として実施例3のRuCrON膜を成膜した。このRuCrON膜の膜厚も、実施例1のものから変えた。
【0134】
実施例1と同様に、RuCrON膜からなる下層の上に、第1層(上層)としてHfAlO膜を形成した。ただし、このHfAlO膜の膜厚は実施例1のものから変えた。以上により、実施例3の反射型マスクブランクを得た。
【0135】
比較例
比較例は、薄膜が実施例1とは異なる。保護膜の上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、TaTiN膜からなる第2層(下層)を形成した。TaTiN膜は、TaTiターゲットを用いて、ArガスとN2ガスの雰囲気にて成膜した。
【0136】
TaTiN膜からなる下層の上に、Ruを含む材料によって、第1層(上層)を形成した。具体的には、Ruターゲットを使用し、Arガス雰囲気にて、DCスパッタリングでRu膜を成膜した。以上により、比較例の反射型マスクブランク1を得た。
【0137】
実施例1~実施例3および比較例の反射型マスクブランク1を用い、
図2および
図3を用いて説明した島状の転写パターン40aを有する反射型マスク1aを、
図5を用いて説明した手順で作製した。HfAlO膜およびAlSiO膜は、BCl
3ガスおよびCl
2ガスを用いて、エッチングした。Ru膜およびRuCrON膜は、は、Cl
2ガスおよびO
2ガスを用いてエッチングした。TaTiN膜は、Cl
2ガスを用いてエッチングした。TaON膜は、フッ素ガスを用いてエッチングした。転写パターン40aは、下層パターン42aの平面形状において1辺が200nm×200nmの矩形形状とした。転写パターン40aの平面視において、下層パターン42aの露出している幅は、20nmとした。
【0138】
実施例1~実施例3の反射型マスクブランク1において、薄膜40を構成する第1層41のEUV光[H1]に対する絶対反射率[R1]が、2.5%より高かった。また薄膜40を構成する第2層42のEUV光[H1]に対する絶対反射率[R2]が、第1層41の絶対反射率[R1]よりも高かった。
【0139】
また、EUV光[H1]を照射した多層反射膜20(保護膜30含む)からの基準反射光[Rf0]に対して、第1層41からの第1反射光[Rf1]の位相差、および第2層42からの第2反射光[Rf2]の位相差は、150度以上であった。また第1層41と第2層42からの各反射光の位相差は、30度以下であった。
【0140】
これに対し、比較例の反射型マスクブランク1は、薄膜40を構成する第1層41は、EUV光[H1]に対する絶対反射率[R1]が、1.7%であって、2.5%より低く、本発明の実施形態の範囲から外れていた。
【0141】
また、比較例の反射型マスクブランク1においては、第1層41からの第1反射光[Rf1]と第2層42からの第2反射光[Rf2]との位相差は、37度であり、本発明の実施形態の好ましい範囲から外れていた。
【0142】
また、作製した各反射型マスク1aを用いたEUV露光のシミュレーションを行った。その結果、実施例1~実施例3の各反射型マスク1aを用いたEUV露光においては、高いコントラストを有する転写光学像が得られることが確認できた。また、第1層41および第2層42が積層した領域においては、相対的に絶対反射率が低くなっていた。このため、実施例1~3にかかる反射型マスク1aを用いてパターン転写を行った場合に、被転写体(半導体)基板上のレジストが感光すべきでない領域で感光するリスクを十分に低減できることがわかった。すなわち、実施例1~3にかかる反射型マスク1aでは、高い位相シフト効果と大きな露光マージンを両立できることがわかった。これにより、半導体装置の製造に対し、本発明の反射型マスク1aを用いたEUV露光を適用することにより、微細な回路パターンを高精度に形成することが可能であり、半導体装置の高機能化および高集積化を図ることが可能であることがわかった。
【0143】
一方、比較例の反射型マスク1aでは、第1層41および第2層42が積層した領域における絶対反射率が1.7%と低く、位相シフト効果を十分に得られなかった。このため、比較例の反射型マスク1aを用いたEUV露光においては、得られる転写光学像のコントラストが不十分であった。これにより、半導体装置の製造に対し、本発明の範囲外の反射型マスク1aを用いたEUV露光を適用しても、微細な回路パターンを高精度に形成することが困難であることがわかった。また、比較例では、第1層41からの第1反射光[Rf1]と第2層42からの第2反射光[Rf2]との位相差が実施例に比べて大きかった。このため、第1反射光[Rf1]と第2反射光[Rf2]との干渉により、転写パターン40aのエッジ近傍において、反射光量(強度)が低下し、位相シフト効果が十分に得られなかったことも要因であると考えられた。