(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134742
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】基板処理装置及び基板処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 651J
H01L21/304 651G
H01L21/304 647A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045089
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003764
【氏名又は名称】弁理士法人OMNI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 正幸
【テーマコード(参考)】
5F157
【Fターム(参考)】
5F157AA09
5F157AB03
5F157AB13
5F157AB34
5F157AB94
5F157AC03
5F157AC15
5F157BB04
5F157BB66
5F157BC12
5F157BF46
5F157BF48
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5F157BF54
5F157BF55
5F157BF56
5F157BF59
5F157BF60
5F157CD47
5F157CE07
5F157CE83
5F157CF02
5F157CF42
5F157CF44
5F157DA21
5F157DB32
5F157DB33
(57)【要約】
【課題】基板表面に付着した液体をバッチ処理により除去する際、処理液の温度に応じて固化膜の膜厚を制御することにより、パターンの倒壊の発生を低減することが可能な基板処理装置及び基板処理方法を提供する。
【解決手段】基板処理装置1は、昇華性物質と溶媒を含む処理液を貯留する処理槽11と、基板W群を一括して保持した状態で処理槽11に対し昇降させる保持部20と、保持部20を処理槽11に対し昇降させることで処理液中に浸漬させ又は取り出しを行う昇降機構23と、処理槽11に貯留された処理液の温度を測定する処理液温度測定部40と、昇降機構23を制御する制御部31とを備え、昇降機構23は処理液から基板W群を一括して引き上げながら溶媒を蒸発させることにより昇華性物質を析出させて固化膜を形成させ、制御部31は処理液の温度に応じて目標膜厚の固化膜が形成されるように基板Wの引き上げ速度を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面を処理する基板処理装置であって、
昇華性物質及び溶媒を含む処理液を貯留する処理槽と、
起立姿勢の複数の前記基板を一括して保持する保持部と、
前記保持部を前記処理槽に対し昇降させることで前記保持部を前記処理液中に浸漬させ、又は前記処理液中から取り出しを行う昇降機構と、
前記処理槽に貯留された前記処理液の温度を測定する処理液温度測定部と、
前記昇降機構を制御する制御部と、
を備え、
前記浸漬及び取り出しは、
前記処理液中に浸漬された複数の前記基板を一括して引き上げながら前記溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記基板の表面に前記昇華性物質を含む固化膜を形成させるためのものであり、
前記制御部は、
前記基板の表面に形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚に応じて、成膜条件に基づく引き上げ速度で複数の前記基板を引き上げるように、前記昇降機構を制御するものであり、
前記成膜条件は、前記処理液温度測定部により測定された前記処理液の温度に応じて、目標の膜厚の固化膜が形成されるように、前記基板の引き上げ速度を規定するものである、
基板処理装置。
【請求項2】
前記成膜条件を記憶する記憶部をさらに備え、
前記記憶部は、
前記成膜条件として、前記処理液の温度と、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚及び前記引き上げ速度であって、それぞれ前記処理液の温度に対応付けられたものとを記憶しており、
前記制御部は、
形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚と、前記処理液温度測定部により測定された前記処理液の温度の値とに基づき、前記記憶部から呼び出した前記成膜条件を参照して、前記基板の引き上げ速度を決定する、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
基板の表面を処理する基板処理方法であって、
昇華性物質及び溶媒を含む処理液中に、複数の前記基板を一括して浸漬させた後、複数の前記基板を起立姿勢で一括して引き上げながら前記溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記基板の表面に前記昇華性物質を含む固化膜を形成する工程を含み、
前記固化膜の形成は、
前記基板の表面に形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚に応じて、成膜条件に基づく引き上げ速度で、複数の前記基板を引き上げるように制御して行い、
前記成膜条件は、測定された前記処理液の温度に応じて、目標の膜厚の固化膜が形成されるように、前記基板の引き上げ速度を規定するものである、
基板処理方法。
【請求項4】
前記成膜条件は、前記処理液の温度と、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚及び前記引き上げ速度であって、それぞれ前記処理液の温度に対応付けられたものとを含み、
前記固化膜の形成は、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚と、測定された前記処理液の温度の値とに基づき、前記成膜条件を参照して、前記基板の引き上げ速度を決定する、請求項3に記載の基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、3次元NAND構造等の積層体が形成された複数の基板に対し、バッチ処理により一括して昇華乾燥を行うことが可能な基板処理装置及び基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程では、ウェットエッチングや表面洗浄の過程に於いて、基板表面に処理液が供給され、その後、基板表面を乾燥させる処理が行われる。しかし、例えば基板表面にアスペクト比が大きいパターンが形成されている場合、処理液の乾燥の際、処理液のラプラス圧によりパターンに力が働き、パターンの倒壊が引き起こされる懸念がある。近年は、微細化や新材料を用いた次世代デバイスの開発に伴い、基板表面に形成されたパターンの倒壊を抑制する技術が求められている。ここで、処理液を固化させて固化膜を形成し、さらに固化膜を昇華させて除去する昇華乾燥の技術は、処理液由来のラプラス圧がパターンに作用するのを防止又は低減することができる。そのため、当該技術は、パターンの倒壊の抑制が可能な技術として有望視されている。
【0003】
基板処理に於ける昇華乾燥の技術は、基板を1枚ずつ処理する枚葉式に於いて確立されつつある(例えば、下記特許文献1)。しかし、複数の基板を一括して処理するバッチ式に於いては、十分な昇華乾燥技術が確立されていない。例えば、3次元NAND型フラッシュメモリ等の3次元NAND構造に於いては、バッチ式でのリン酸処理が必要になるが、昇華乾燥の技術を用いない場合には、パターンの倒壊が懸念される。そのため、バッチ式での昇華乾燥技術の確立が求められている。しかし、バッチ式で基板表面の昇華乾燥を行う場合、基板表面に形成される固化膜の膜厚がパターンの構造等に応じて適切でないと、固化膜を昇華させる際にパターンに不均一に応力が加わる結果、パターンの倒壊を引き起こすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基板の表面に付着した液体をバッチ処理により除去するに際して、処理液の温度に応じて固化膜の膜厚を制御することにより、パターンの倒壊の発生を低減又は防止することが可能な基板処理装置及び基板処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る基板処理装置は、前記の課題を解決するために、基板の表面を処理する基板処理装置であって、昇華性物質及び溶媒を含む処理液を貯留する処理槽と、起立姿勢の複数の前記基板を一括して保持する保持部と、前記保持部を前記処理槽に対し昇降させることで前記保持部を前記処理液中に浸漬させ、又は前記処理液中から取り出しを行う昇降機構と、前記処理槽に貯留された前記処理液の温度を測定する処理液温度測定部と、前記昇降機構を制御する制御部と、を備え、前記浸漬及び取り出しは、前記処理液中に浸漬された複数の前記基板を一括して引き上げながら前記溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記基板の表面に前記昇華性物質を含む固化膜を形成させるためのものであり、前記制御部は、前記基板の表面に形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚に応じて、成膜条件に基づく引き上げ速度で複数の前記基板を引き上げるように、前記昇降機構を制御するものであり、前記成膜条件は、前記処理液温度測定部により測定された前記処理液の温度に応じて、目標の膜厚の固化膜が形成されるように、前記基板の引き上げ速度を規定するものであることを特徴とする。
【0007】
前記構成によれば、処理槽には昇華性物質と溶媒とを含む処理液が貯留され、保持部には複数の基板が起立姿勢で保持されており、昇降機構は複数の基板を保持した保持部を処理槽に対し昇降可能となっている。そのため前記構成では、昇華性物質と溶媒とを含む処理液に複数の基板を一括して浸漬させた後、起立姿勢で複数の基板を一括して処理液から引き上げることで、この引き上げの際に、溶媒を蒸発させて昇華性物質を析出させながら各基板の表面に固化膜を形成させることができる。ここで、本願発明者は、処理槽に貯留される処理液の温度に応じて基板の引き上げ速度を調整することにより、基板表面に形成させる固化膜の膜厚制御が可能になることを見出した。すなわち、処理液の温度が高いほど、処理液に浸漬される基板の温度も高くなる結果、処理液から基板を引き上げる際、処理液が基板表面に接するメニスカス部分の温度を高くすることができる。他方、処理液の液面部分は外気と接触しているため温度が低くなっている。そのため、メニスカス部分での表面張力が液面の表面張力よりも小さくなり、基板表面の処理液が処理槽側の処理液に引き込まれる様に流れる、いわゆるマランゴニ流が発生する。このマランゴニ流の発生は、基板表面の処理液の液切れの程度に作用する。従って前記構成では、処理液温度測定部により測定された処理液の温度に応じて、昇降機構による基板の引き上げ速度を制御することにより、高精度で目標の膜厚を有する固化膜を形成することができる。
【0008】
前記の構成に於いては、前記成膜条件を記憶する記憶部をさらに備え、前記記憶部は、前記成膜条件として、前記処理液の温度と、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚及び前記引き上げ速度であって、それぞれ前記処理液の温度に対応付けられたものとを記憶しており、前記制御部は、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚と、前記処理液温度測定部により測定された前記処理液の温度の値とに基づき、前記記憶部から呼び出した前記成膜条件を参照して、前記基板の引き上げ速度を決定することが好ましい。
【0009】
また本発明に係る基板処理方法は、前記の課題を解決するために、基板の表面を処理する基板処理方法であって、昇華性物質及び溶媒を含む処理液中に、複数の前記基板を一括して浸漬させた後、複数の前記基板を起立姿勢で一括して引き上げながら前記溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記基板の表面に前記昇華性物質を含む固化膜を形成する工程を含み、前記固化膜の形成は、前記基板の表面に形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚に応じて、成膜条件に基づく引き上げ速度で、複数の前記基板を引き上げるように制御して行い、前記成膜条件は、測定された前記処理液の温度に応じて、目標の膜厚の固化膜が形成されるように、前記基板の引き上げ速度を規定するものであることを特徴とする。
【0010】
前記構成によれば、昇華性物質と溶媒とを含む処理液に複数の基板を一括して浸漬させた後、起立姿勢で複数の基板を一括して処理液から引き上げる際に、溶媒を蒸発させて昇華性物質を析出させながら各基板の表面に固化膜の形成を行う。ここで、本願発明者は、処理液の温度に応じて基板の引き上げ速度を調整することにより、基板表面に形成させる固化膜の膜厚制御が可能になることを見出した。すなわち、処理液の温度が高いほど、処理液に浸漬される基板の温度も高くなる結果、処理液から基板を引き上げる際、処理液が基板表面に接するメニスカス部分の温度を高くすることができる。他方、処理液の液面部分は外気と接触しているため温度が低くなっている。そのため、メニスカス部分での表面張力が液面の表面張力よりも小さくなり、基板表面の処理液が液面側に引き込まれる様に流れる、いわゆるマランゴニ流が発生する。このマランゴニ流の発生は、基板表面の処理液の液切れの程度に作用する。従って前記構成では、処理液の温度に応じて基板の引き上げ速度を制御することにより、高精度で目標の膜厚を有する固化膜を形成することができる。
【0011】
前記の構成に於いて、前記成膜条件は、前記処理液の温度と、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚及び前記引き上げ速度であって、それぞれ前記処理液の温度に対応付けられたものとを含み、前記固化膜の形成は、形成しようとする前記固化膜の目標の膜厚と、測定された前記処理液の温度の値とに基づき、前記成膜条件を参照して、前記基板の引き上げ速度を決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固化膜の形成は、昇華性物質と溶媒とを含む処理液に複数の基板を一括して浸漬させた後、起立姿勢で複数の基板を一括して処理液から引き上げ、この引き上げの際に、溶媒を蒸発させて昇華性物質を析出させながら行う。さらに、基板の引き上げは、固化膜の成膜条件に基づき、処理液の温度に応じて、基板の引き上げ速度を制御して行う。ここで、成膜条件は、処理液の温度に応じて目標の膜厚の固化膜が形成されるように、基板の引き上げ速度を規定するものである。これにより、本発明では、処理液の温度に応じて、適切な膜厚の固化膜を形成させることができるので、パターンの倒壊の発生を防止又は低減することができる。さらに、本発明では、バッチ処理により複数の基板に対して一括して固化膜を形成することができるため、従来の基板処理と比較してスループットの向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)は本発明の実施形態に係る基板処理装置に於いて、複数の基板が処理液中に浸漬される前、又は処理液から引き上げた後の状態を表す説明図であり、
図1(b)は複数の基板が処理液中に浸漬された状態を表す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る基板処理装置に於いて、固化膜形成部の処理槽の概略を表す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る基板処理装置に於いて、処理液供給部の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る基板処理装置に於いて、保持部及び昇降機構の概略構成を表す側面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る基板処理装置に於いて、制御ユニットの概略構成を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る基板処理方法に於いて、処理液から引き上げられた基板の表面に固化膜が形成される様子を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(基板処理装置)
本発明の実施形態に係る基板処理装置について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0015】
本実施形態に係る基板処理装置は、例えば、各種の基板の処理に用いることができる。ここで「基板」とは、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板をいう。本実施形態の基板処理装置は、例えば、表面に3次元NAND構造等の3次元構造が形成された基板等の処理に好適である。
【0016】
本実施形態の基板処理装置は、洗浄処理後の乾燥処理に用いられるバッチ式の基板処理装置である。本実施形態の基板処理装置1は、具体的には、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、固化膜形成部10と、保持部(リフタ)20と、昇降機構23と、処理液温度測定部40と、基板処理装置1の各部を制御する制御ユニット30とを少なくとも備える。
図1(a)は本実施形態に係る基板処理装置1に於いて、複数の基板Wが処理液中に浸漬される前、又は処理液から引き上げた後の状態を表す説明図であり、
図1(b)は複数の基板Wが処理液中に浸漬された状態を表す説明図である。
【0017】
固化膜形成部10は、複数の基板W(以下、「基板W群」という場合がある。)の表面に一括して、昇華性物質を含む固化膜を形成するバッチ処理部である。固化膜の形成は、処理液中に浸漬された基板W群を処理液から取り出す際、処理液の溶媒を乾燥させながら行う(詳細については、後述する。)。固化膜形成部10は、処理液を貯留することが可能な処理槽11と、処理液供給部15とを備える。また、固化膜形成部10は、処理槽11内に貯留される処理液の温度調整を行うための処理液温度調整部16を備えていてもよい。
【0018】
処理槽11は、
図2に示すように、処理液を処理槽11内に供給する注入管12と、処理液を貯留する内槽13と、内槽13の上部開口の周縁部に設けられた外槽14とを備える。注入管12は、処理槽11の底部に設けられており、処理液の内槽13へのアップフロー供給を可能にしている。内槽13は、内部に処理液を貯留することにより、保持部20に保持される基板W群を処理液中に浸漬可能にしている。また、外槽14は、内槽13からオーバーフローした処理液の回収を可能にしている。尚、
図2は、本実施形態の基板処理装置1に於いて、固化膜形成部10の処理槽11の概略を表す断面図である。
【0019】
処理液は、昇華性物質と溶媒とを少なくとも含む。昇華性物質は、処理液に於いて溶媒に溶解していることが好ましい。処理液は、基板Wの表面に存在する液体を除去するための乾燥処理に於いて、当該乾燥処理を補助する機能を果たす。尚、本明細書に於いて「昇華性」とは、単体、化合物若しくは混合物が液体を経ずに固体から気体、又は気体から固体へと相転移する特性を有することを意味し、「昇華性物質」とはそのような昇華性を有する物質を意味する。
【0020】
昇華性物質としては、t-ブタノール、樟脳、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノンオキシム、ピナコリンオキシム、4-tert-ブチルフェノール等が挙げられる。また、溶媒としては、昇華性物質が溶解性を示すものであれば特に限定されないが、20℃での蒸気圧が500Pa以上、90kPa以下(好ましくは2000Pa以上、65kPa以下、より好ましくは4000Pa以上、30kPa以下)のものが好ましい。溶媒としては、より具体的には、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、アセトン、ベンゼン、t-ブタノール、トルエン、エタノール、メタノール等が挙げられる。これらの溶媒のうち、本実施形態に於いては、IPA等の蒸気圧が高い溶媒が好ましい。
【0021】
処理液中の昇華性物質の濃度は、適宜必要に応じて設定することができる。昇華性物質の濃度は、通常は、処理液の全質量に対し、0.2質量%以上、40質量%以下であり、好ましくは0.4質量%以上、11.4質量%以下、より好ましくは0.6質量%以上、4質量%以下である。
【0022】
処理槽11内での処理液の温度(すなわち、処理液温度測定部40により測定された温度)に関し、その下限値は、常温、又は処理液中で昇華性物質が析出を始める析出温度よりも高いことが好ましい。また、その上限値は、処理液又は処理液に含まれる溶媒の沸点よりも低い温度であることが好ましい。これにより、処理液の濃度が変化するのを抑制することができる。尚、処理槽11内での処理液の温度は、例えば処理液がIPAの場合、24℃以上、82℃以下であることがより好ましく、50℃以上、75℃以下であることがさらに好ましい。
【0023】
処理液供給部15は、処理槽11に処理液を供給することができる。処理液供給部15は、具体的には、
図3に示すように、処理液貯留部151と、温度調整部152と、加圧部153と、配管154と、バルブ155とを少なくとも備える。
図3は、処理液供給部15の概略構成を示すブロック図である。
【0024】
処理液貯留部151は、処理液を貯留することができる。処理液貯留部151には、内部に貯留する処理液を撹拌するための撹拌部を備えてもよい。撹拌部としては特に限定されず、例えばプロペラ状の攪拌翼を備えたものや循環用ポンプなど、公知のものを用いることができる。撹拌部を設ける場合、撹拌部は制御ユニット30と電気的に接続される。これにより、撹拌部は、制御ユニット30に於ける制御部31の動作指令に基づき、処理液貯留部151内の処理液を撹拌することができる。処理液を撹拌することで、昇華性物質の濃度及び処理液の温度を均一にすることができる。
【0025】
温度調整部152は、処理液貯留部151内の処理液を加熱して温度調整を行う。処理液の温度調整を行うことにより、例えば、処理液貯留部151内で昇華性物質が析出し処理液の濃度が変化するのを防止することができる。また、処理液の温度調整の上限としては、処理液又は処理液に含まれる溶媒の沸点よりも低い温度であることが好ましい。温度調整部152は制御ユニット30と電気的に接続されており、制御ユニット30に於ける制御部31の動作指令に基づき、処理液の温度調整を行う。温度調整部152としては、具体的には、例えば、抵抗加熱ヒータや、ペルチェ素子、温度調整した水を通した配管等、公知の温度調整機構を用いることができる。尚、処理液として蒸気圧が高い溶媒を含むものを用いる場合には、処理液を加熱しなくても、固化膜の形成の際に溶媒を容易に蒸発することができる。そのような処理液を用いる場合には、温度調整部152を省略してもよい。
【0026】
加圧部153は、処理液貯留部151内を加圧することにより、処理液貯留部151内に貯留されている処理液を処理槽11に圧送する。加圧部153としては、例えば、気体を貯留するガスタンクと、気体を加圧するポンプと、気体を処理液貯留部151に供給するための配管とを備えたものが挙げられる。ガスタンクは配管を介して処理液貯留部151と管路接続されている。また配管にはポンプが介挿されている。ポンプは制御ユニット30と電気的に接続されており、制御ユニット30に於ける制御部31の動作指令によりガスタンクに貯留されている気体を、配管を介して処理液貯留部151に供給することができる。これにより、処理液貯留部151内の圧力を調整することができ、処理槽11への処理液の圧送を可能にしている。尚、気体としては、窒素ガスなど、処理液に対し活性を示さない不活性ガスを用いるのが好ましい。また、気体による圧力を用いて処理液貯留部151内の処理液を圧送するため、処理液貯留部151は高気密となるように構成されていることが好ましい。
【0027】
配管154は、その一方端に於いて処理液貯留部151と管路接続されている。また、他方端に於いて処理槽11の注入管12と管路接続されている。
【0028】
バルブ155は、配管154の経路途中に設けられている。またバルブ155は、制御ユニット30と電気的に接続されており、通常は閉栓されている。バルブ155の開閉は、制御ユニット30に於ける制御部31によって制御される。例えば、制御部31の動作指令により、加圧部153のポンプが処理液貯留部151に気体を供給し、かつバルブ155が開栓されると、加圧されている処理液貯留部151内の処理液が圧送され、配管154を介して、処理槽11の注入管12に供給される。
【0029】
保持部(リフタ)20は、
図4に示すように、平板状の背板部21と、複数本(3本)の保持棒22とを備える。保持部20は、複数の基板Wを起立姿勢で下方側から当接して支持するように構成された部材である。
図4は、本実施形態の基板処理装置1に於いて、保持部20及び昇降機構23の概略構成を表す側面図である。背板部21は立設しており、その下端部では保持棒22が背板部21に対し直角となるように一方向にそれぞれ延在している。保持棒22には、その延在方向に複数の溝部24が配列して設けられている。また、複数の溝部24は、相互に離隔して等間隔に配列している。さらに、各溝部24は、保持棒22の延在方向に直角となる方向に延在しており、複数の基板Wを起立姿勢で嵌合可能となっている。これにより、保持棒22は、基板W群を起立させた姿勢で下方側から当接して支持し、基板W群を一括して保持することが可能となっている。尚、保持棒22の本数は複数であれば、特に限定されない。また、保持棒22に設けられる溝部24の数についても特に限定されず、保持させたい基板Wの数に応じて適宜設定すればよい。また、本明細書に於いて「起立姿勢」とは、基板Wの表面(主面、パターン形成面)が水平面に対し略鉛直方向に沿った状態の姿勢を意味し、垂直姿勢の場合も含む。
【0030】
昇降機構23は、
図4に示すように、連結部材25と、昇降支柱26と、ボールネジ27と、昇降ベース28と、モータ29とを備える。連結部材25は、背板部21の上端部背面から背板部21に対し直角となる方向(矢印Yで示す方向と平行な方向)に延出されている。昇降支柱26は、その上端側に於いて、連結部材25の下面に取り付けられている。また、昇降支柱26は、その下端部側に於いて、昇降ベース28に取り付けられている。ボールネジ27は、モータ29の回転軸に連結されている。昇降ベース28には、ボールネジ27が貫通した状態で螺合されている。モータ29は、制御ユニット30と電気的に接続されている。
【0031】
昇降機構23は、制御ユニット30に於ける制御部31からの動作指令に応じて、保持部20を、
図1(a)、
図1(b)及び
図4に示すX方向に上昇又は下降させることができる。より具体的には、モータ29が制御ユニット30から上昇の動作指令を受けて駆動すると、ボールネジ27が回転し、昇降ベース28と共に昇降支柱26が上昇する。これに伴い、背板部21も、昇降支柱26に連結した連結部材25を介して上昇する。また、モータ29が、制御ユニット30から下降の動作指令を受けて逆方向に駆動すると、ボールネジ27が逆回転し、昇降ベース28と共に昇降支柱26が下降する。これに伴い、背板部21も、昇降支柱26に連結した連結部材25を介して下降する。このように、基板W群が保持棒22に下方から支持された状態で背板部21を昇降させることにより、基板W群を一括して保持した状態の保持部20を、処理槽11内部に移動させ、又は取り出すことができる。昇降機構23は、より具体的には、保持部20を
図1(a)に示す待避位置と、
図1(b)に示す処理位置との間で昇降させる。
図1(a)では、基板W群を保持した保持部20は、処理液中に浸漬しないように、処理槽11の上方の待避位置にある。また、
図1(b)では、基板W群を保持した保持部20は、処理槽11の内槽13内に貯留された処理液中に基板W群が浸漬されるように、処理槽11内の処理位置にある。尚、本明細書に於いて「待避位置」とは、処理槽11の上方であって、少なくとも保持部20が処理液の液面に接触しない位置を意味する。また、本明細書に於いて「処理位置」とは、処理槽11の内槽13内であって、基板W群が処理液中に完全に浸漬される位置を意味する。
【0032】
処理液温度調整部16は、処理槽11の内槽13に貯留される処理液の温度を調整することができる。処理液温度調整部16は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、制御ユニット30と電気的に接続されており、制御ユニット30に於ける制御部31からの動作指令に応じて、処理槽11に貯留されている処理液の温度を調整する。処理液温度調整部16としては特に限定されず、例えば、ペルチェ素子、温度調整した水を通した配管等、公知の温度調整機構を用いることができる。
【0033】
処理液温度測定部(温度計)40は、内槽13の内部に貯留されている処理液の温度を測定する(
図1(a)、
図1(b)及び
図2参照)。
【0034】
処理液温度測定部40としては、例えば熱電対などにより構成されるものが挙げられる。また、処理液温度測定部40は制御ユニット30と電気的に接続されており、処理液の温度に関する測定データを当該制御ユニット30に送信することができる。
【0035】
処理液温度測定部40の内槽13内での配置位置は特に限定されないが、保持部20の昇降を妨げない位置が好ましい。また、処理液温度測定部40による処理液の温度の測定位置は、内槽13に貯留される処理液の温度分布が生じる場合を考慮して、当該処理液の液面近傍であることが好ましい。これにより、基板表面に接触し、かつ、マランゴニ流が発生し得る処理液のメニスカス部分の温度に近い温度を把握することができる。
【0036】
尚、処理液温度測定部40は、内槽13内の複数の異なる位置で処理液の温度を測定するようにしてもよい。又は、内槽13内の複数の異なる位置に、処理液温度測定部40をそれぞれ配置して測定するようにしてもよい。内槽13内の複数の異なる位置で処理液の温度を測定することにより、内槽13内に貯留されている処理液の温度の均一性を確認し評価することができる。測定温度は複数の異なる位置で測定した温度の平均値で表してもよい。この場合、平均値は相加平均や加重平均等で算出することができる。
【0037】
制御ユニット30は、基板処理装置1の各部と電気的に接続しており、各部の動作を制御する。制御ユニット30は、例えば、
図5に示すように、制御部31と、記憶部32と、入力部33とを少なくとも有する。
図5は、本実施形態の基板処理装置1に於ける制御ユニット30の概略構成を示す説明図である。
【0038】
制御部31としては特に限定されず、例えば、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を用いることができる。また、記憶部32は、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM及び制御用ソフトウェアやデータ等を記憶しておく磁気ディスクを備える。磁気ディスクには、基板Wに応じた基板処理条件が予め格納されている。また、磁気ディスクには、処理液に応じた成膜条件(詳細については、後述する。)も格納されている。制御部31は、記憶部32から基板処理プログラムを読み出し、その内容に従って制御部31が基板処理装置1の各部を制御する。入力部33としては、例えば、キーボードやマウス等が挙げられる。入力部33からの入力されたデータは、制御部31に受け付けられ、必要に応じて記憶部32に格納され得る。
【0039】
制御部31は、記憶部32から読み出した基板処理条件に基づき、処理液供給部15の加圧部153に於けるポンプに対し処理液貯留部151内の圧力を調整させる。この圧力調整により、処理液貯留部151から処理槽11に圧送される処理液の供給量を制御することができる。また制御部31は、基板処理条件に基づき、処理液供給部15に於けるバルブ155に対し開閉の動作をさせる。これにより、制御部31は、処理液の供給のタイミングについても制御することができる。さらに、処理液貯留部151内に撹拌部を設ける場合には、制御部31は、基板処理条件に基づき、撹拌部の制御も行う。
【0040】
また制御部31は、記憶部32から読み出した基板処理条件に基づき、温度調整部152に対し、処理液貯留部151内の温度を調整させる。この温度調整により、処理液貯留部151から処理槽11に圧送される処理液の液温を制御することができる。
【0041】
また制御部31は、記憶部32から読み出した成膜条件に基づき、処理液温度調整部16に対し、処理槽11に貯留されている処理液の温度を調整させることができる。より具体的には、制御部31は、成膜条件に於いて設定されている処理液の温度(以下、「設定温度」という場合がある。)と、処理液温度測定部40により測定された処理槽11内の処理液の温度(以下、「測定温度」という場合がある。)とを対比し、例えば、処理液の測定温度が設定温度に達していない場合には、処理液温度調整部16に動作指令を行い、処理槽11内の処理液を加熱させる。
【0042】
さらに制御部31は、記憶部32から読み出した成膜条件と、処理液温度測定部40による処理液の測定温度とに基づき、昇降機構23の昇降動作を制御することにより、保持部20を昇降させる。また、制御部31は、昇降機構23の昇降動作を制御することにより、成膜条件に基づいて保持部20が上昇する際の速度を制御する。これにより、保持部20に一括して保持されている基板W群の引き上げ速度が制御される。
【0043】
ここで、記憶部32が記憶する成膜条件とは、処理液温度測定部40で測定した処理槽11内の処理液の温度に応じて、目標とする膜厚(以下、「目標膜厚」という場合がある。)の固化膜が形成されるように、基板W群の引き上げ速度を規定するものである。成膜条件は、より詳細には、処理槽11に貯留されている処理液の温度と、形成しようとする固化膜の目標膜厚及び基板Wの引き上げ速度であって、それぞれ当該処理液の温度に対応付けられたものとを含む。
【0044】
本実施形態に於いて、このような成膜条件を用いるのは、以下のような理由による。すなわち、
図6に示すように、例えば、蒸気圧が高い溶媒を含む処理液37中に基板Wを浸漬させた後、当該基板Wを引き上げると、基板Wの表面では引き上げと同時に処理液37に含まれる溶媒が蒸発する。そのため、基板Wの表面には、溶媒の蒸発により昇華性物質38等の溶質が析出する結果、昇華性物質38を含む固化膜36が形成される。
図6は、処理液37から引き上げられた基板Wの表面に固化膜36が形成される様子を模式的に表す説明図である。
【0045】
ここで、固化膜36の膜厚と基板Wの引き上げ速度との間には、以下の式(1)で表される関係が存在する。
【0046】
【数1】
(式中、Aは定数、ηは処理液37の粘度(Pa・s)、dは処理液37の密度(kg/m
3)、vは基板Wの引き上げ速度(m/s)を表す。尚、定数Aは処理液の種類に応じて設定されるものである。)
【0047】
前記式(1)によれば、固化膜36の膜厚は、基板Wの引き上げ速度を速くすることにより厚くすることができる。また、引き上げ速度を遅くすることにより、固化膜36の膜厚を薄くすることができる。他方、処理液37の粘度や密度等の物性値を一定とした場合、処理槽11に貯留される処理液37の温度が変化すると、基板W表面に形成させる固化膜36の膜厚も異なることを見出した。例えば、処理液37の温度を高くすると、当該処理液37中に浸漬させる基板Wが加熱されて高温状態となる。このような状態で基板Wを処理液37から引き上げると、処理液37が基板W表面に接するメニスカス部分でも、基板Wと同様、高温状態になる。他方、処理液37の液面部分の温度は、外気との接触により内部の温度と比べ低くなっている。これにより、処理液37のメニスカス部分では液面部分よりも表面張力が相対的に小さくなり、表面張力の不均一が生じる。一般に、液体表面の表面張力が不均一である場合には、表面張力の低い所から高い所に液体が流動するマランゴニ流が発生する。本発明に於いてもメニスカス部分と液面部分との間での表面張力の不均一により、処理液37のメニスカス部分が処理槽11側に流れようとする。その結果、基板W表面での処理液37の液切れ性が良好となる。このようにメニスカス部分でのマランゴニ流の発生は、基板W表面の処理液37の液切れの程度に作用する。そのため本実施形態では、目標膜厚の固化膜の形成のために、固化膜の成膜条件として、処理槽11中の処理液37の温度に応じた、基板W群の引き上げ速度の制御を行う。
【0048】
尚、本明細書に於いて「引き上げ速度」とは、基板Wの表面が処理液の液面から離脱する速度を意味する。従って、処理液の液面の高さ位置が低下せず一定の場合、引き上げ速度とは処理液の液面に対する基板Wの上昇速度を意味する。また、処理液の液面の高さ位置が低下する場合、引き上げ速度は、処理液の液面に対する基板Wの上昇速度と、処理液の液面の低下速度との総和で表される。
【0049】
(基板処理方法)
次に、本実施形態の基板処理装置1を用いた基板処理方法について、図面を参照しながら以下に説明する。
本実施形態の基板処理方法は、固化膜の形成工程を少なくとも含む。
【0050】
先ず、複数の基板Wを、
図1(a)に示す待避位置で保持部20に保持させる。このとき、複数の基板Wは水平面に対し起立姿勢となるように保持される。
【0051】
次に、制御部31は、入力部33から固化膜の成膜指示を受け取ると、記憶部32から成膜条件を読み出す。また制御部31は、処理液温度測定部40により測定された処理液の測定温度に関する出力を、当該処理液温度測定部40から受け取る。さらに、制御部31は、処理液温度測定部40により測定された処理液37の測定温度と、記憶部32から読み出された成膜条件に於ける処理液の設定温度とを対比し、処理液37の測定温度が設定温度よりも低い場合には、処理液温度調整部16に対し動作指令を行い、処理槽11に貯留される処理液37を加熱させる。処理液温度調整部16による温度調整は、処理液37の温度の測定値が成膜条件に於ける処理液の温度に達するまで行われる。尚、当初から処理液の測定温度が成膜条件の設定温度と同じである場合には、制御部31による処理液温度調整部16に対する動作指令は省略することができる。
【0052】
処理液温度測定部40による測定温度が成膜条件の設定温度と同じである場合、制御部31は、この成膜条件に基づき昇降機構23を動作させ、保持部20を、
図1(b)に示す処理位置、すなわち処理槽11の内槽13の内部に下降させる。これにより、保持部20に保持されている起立姿勢の基板W群を、処理液中に一括して浸漬させる。基板W群を処理液中に浸漬させる際の基板W群の下降速度は特に限定されないが、定速であることが好ましい。また、基板W群を処理液中に浸漬させる浸漬時間は、例えば、基板W群が加温されて、当該基板W群の温度が処理液の温度と同等となるまで行われるのが好ましい。
【0053】
浸漬後、制御部31は、成膜条件及び処理液温度測定部40により測定された測定温度に基づき、昇降機構23を動作させ、保持部20を、
図1(a)に示す待避位置、すなわち処理槽11の内槽13の上方に上昇させる。これにより、起立姿勢の基板W群を処理液中から一括して引き上げる。
【0054】
基板W群の引き上げ方向(保持部20の上昇方向)は特に限定されないが、処理液の液面(水平面)に対し垂直方向であることが好ましい。
【0055】
基板W群が処理液から引き上げられると、固化膜はその引き上げの際に基板W群の表面に形成される。すなわち、例えば、処理液に含まれる溶媒として、蒸気圧が高いものを用いた場合、
図6に示すように、基板Wを処理液37から引き上げると、基板Wの表面では、それと同時に処理液37に含まれる溶媒が蒸発する。そのため、基板Wの表面には、溶媒の蒸発により昇華性物質38等の溶質が析出する結果、昇華性物質38を含む固化膜36が形成される。また、蒸気圧が高くない溶媒を用いる場合でも、処理液温度調整部16が、制御ユニット30の動作指令に応じて、処理槽11に貯留される処理液37を加熱し高温状態にすることで、基板Wの引き上げと同時に溶媒を蒸発させて昇華性物質38を析出させ、固化膜36を形成させることができる。
【0056】
形成しようとする固化膜の目標膜厚は、基板Wの表面に形成されているパターンの形状やパターンの高さ等に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0057】
ここで、基板W群の引き上げ速度は、例えば、次のようにして、制御ユニット30により決定される。すなわち、処理液温度測定部40に於いて処理液37の温度が測定され、入力部33に於いて形成しようとする固化膜の目標膜厚が入力されると、制御部31は記憶部32から成膜条件を読み出す。読み出された成膜条件は、処理液37の温度、固化膜の目標膜厚及び基板Wの引き上げ速度の関係を対応付けたものである。さらに、制御部31は、入力された固化膜の目標膜厚及び測定された処理液37の温度の値に基づき、読み出した成膜条件を参照して、基板W群の引き上げ速度を決定する。続いて、制御部31は、決定した引き上げ速度に基づき昇降機構23に動作指令を行い、保持部20による基板W群の引き上げを実行する。
【0058】
基板W群の引き上げ速度は、引き上げの開始から終了までの間、一定であってもよく、あるいは基板W群の引き上げ距離等に応じて変化させてもよい。引き上げ速度を一定にする場合、処理液37の物性(例えば、密度や粘度等)に経時的変化がないのであれば、固化膜36の膜厚の均一性も高精度で制御することができる。その結果、固化膜36を形成する際や、固化膜36を昇華させる際に、基板Wのパターンに応力が不均一に加わるのを低減し、パターンの倒壊の発生を一層低減することができる。
【0059】
基板W群の引き上げの際、処理液37の液面は静止状態であることが好ましい。これにより、基板Wを処理液37中から引き上げる間、基板Wの表面との相互作用により形成される、処理液37の液面のメニスカスが一定になるので、膜厚の均一性に一層優れた固化膜36を形成することができる。
【0060】
また、基板W群の処理液37からの引き上げは、基板W群を起立姿勢にして行う。このような方法であると、析出する昇華性物質38を面内で結晶成長させることにより固化膜36の形成が可能になる。すなわち、析出した昇華性物質38が3次元で結晶成長するのを防止できるため、結晶粒界の発生に起因した膜欠陥の発生を防止し、パターンの倒壊の発生を低減又は防止することができる。さらに、処理液37から引き上げる間の基板W群の起立姿勢は、一定であることが好ましい。これにより、膜厚の均一性を一層向上させた固化膜36の形成が可能になる。また、処理液37からの引き上げと同時に基板Wの表面に固化膜36を形成する方法であると、固化膜36の形成に起因して生じる応力が、基板W表面のパターンに加えられる時間を極力短くすることができる。その結果、パターンの倒壊の発生を一層低減又は防止することができる。さらに、本実施形態の固化膜36の形成は、基板W群を一括して処理液37中に浸漬させるので、それぞれの基板Wの表面に残存する液体状の有機化合物を、基板W群に対して一括して処理液37に置換させることができる。特に、3次元NAND構造等の3次元構造が形成された基板に於いては、基板の表面に対し垂直な方向に形成されるトレンチと、このトレンチから水平方向に広がるO-N(酸化膜-窒化膜)構造に於いて、有機化合物の置換に著しい時間を要する。このため、複数の基板Wを枚葉処理により一枚ずつ処理する場合には、長時間を要することとなる。しかし、本実施形態の基板処理方法であると、複数の基板Wを一括して処理液37中に浸漬させるため、そのような3次元構造が形成された複数の基板Wに対しても一括して処理液37に置換することができる。このため、複数の基板Wを枚葉処理により一枚ずつ処理する場合と比較して、極めて短時間で処理を行うことができる。さらに、枚葉式により処理液を処理液37に置換させる場合と比較して、処理液37の使用量も低減することができる。
【0061】
基板W群が処理液37から一括して引き上げられ、保持部20が待避位置に戻ると、固化膜の形成工程は終了する。
【0062】
以上のとおり、本実施形態の基板処理方法では、複数の基板Wを一括して処理液37中に浸漬させた後、一括して処理液37中から引き上げながら、固化膜36を形成することができる。そのため、基板を1枚ずつ処理する枚葉式により基板表面に固化膜を形成する場合と比較して、基板処理のスループットの向上が図れる。
【0063】
また、処理槽11内に貯留されている処理液37の温度に応じて、基板W群の引き上げ速度を調整しながら目標膜厚の固化膜36を形成するので、膜厚を高精度で制御することができる。さらに、形成される固化膜36の膜厚の均一性も向上させることができるため、例えば、固化膜36を形成する際や、固化膜36を昇華により除去する際、パターンに対し不均一な応力が加わるのを防止し、パターンの倒壊の発生を防止又は低減することができる。
【0064】
また、基板Wの表面が処理液37の液面から離脱すると同時に溶媒が蒸発し、昇華性物質が析出して固化膜36が形成されるものであるため、従来の様に、処理液の塗布後、溶媒を蒸発させるための乾燥工程を行う必要もない。
【符号の説明】
【0065】
1…基板処理装置、10…固化膜形成部、11…処理槽、12…注入管、13…内槽、14…外槽、15…処理液供給部、16…処理液温度調整部(温度計)、20…保持部(リフタ)、21…背板部、22…保持棒、23…昇降機構、24…溝部、25…連結部材、26…昇降支柱、27…ボールネジ、28…昇降ベース、29…モータ、30…制御ユニット、31…制御部、32…記憶部、33…入力部、36…固化膜、37…処理液、38…昇華性物質、40…処理液温度測定部、151…処理液貯留部、152…温度調整部、153…加圧部、154…配管、155…バルブ