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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134758
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】シールドコネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/6473 20110101AFI20240927BHJP
   H01R 13/42 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01R13/6473
H01R13/42 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045107
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和明
(72)【発明者】
【氏名】康 麗萍
【テーマコード(参考)】
5E021
5E087
【Fターム(参考)】
5E021FA03
5E021FA14
5E021FB11
5E021FC23
5E021LA09
5E087EE08
5E087FF04
5E087FF13
5E087GG16
5E087RR25
(57)【要約】
【課題】内導体を誘電体に挿入する際の挿入抵抗の低減と、インピーダンスの整合性低下の抑制とを両立させる。
【解決手段】シールドコネクタAは、軸線方向を前後方向に向けた本体部21の外周面から、弾性変位可能な係止バネ24を突出させた形状の内導体20と、後方から挿入された内導体20を抜止め状態で収容する誘電体30と、を備え、誘電体30は、本体部21を収容する収容室31と、係止バネ24を係止させることによって内導体20を抜止めする係止部36と、収容室31の内周面のうち周方向において係止バネ24と対向する領域のみを凹ませた逃がし溝37とを有している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向を前後方向に向けた本体部の外周面から、弾性変位可能な係止バネを突出させた形状の内導体と、
後方から挿入された前記内導体を抜止め状態で収容する誘電体と、を備え、
前記誘電体は、
前記本体部を収容する収容室と、
前記係止バネを係止させることによって前記内導体を抜止めする係止部と、
前記収容室の内周面のうち周方向において前記係止バネと対向する領域のみを凹ませた逃がし溝とを有しているシールドコネクタ。
【請求項2】
前記係止バネが、前記本体部の外周面から斜め後方へ片持ち状に延出した形状をなしており、
前記逃がし溝の内面は、周方向に対向する一対の内側面を含み、
前記誘電体を後方から見た背面視において、前記一対の内側面は、周方向の対向間隔が前記収容室の中心から径方向に遠ざかるほど狭くなるように傾斜している請求項1に記載のシールドコネクタ。
【請求項3】
前記逃がし溝の径方向の深さ寸法は、前記係止バネが前記逃がし溝の内面と非接触となるように設定されている請求項1又は請求項2に記載のシールドコネクタ。
【請求項4】
前記内導体は、前記本体部の外周面から突出するスタビライザを有し、
前記誘電体には、前記本体部を前記収容室に挿入する過程でスタビライザを嵌合させる位置決め溝が形成されている請求項1又は請求項2に記載のシールドコネクタ。
【請求項5】
前記位置決め溝には、前記係止バネが前記係止部に対して係止可能な状態において、前記誘電体に対する前記スタビライザの前方への相対移動を阻止する前止まり部が形成されている請求項4に記載のシールドコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シールドコネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同軸ケーブルの芯線に固着した内導体端子と、内導体端子を包囲する誘電体と、誘電体を包囲する外導体端子とを備えた同軸コネクタが開示されている。誘電体の中心孔に挿入された内導体端子は、内導体端子の係止片を誘電体の係止孔に係止させることによって抜止め状態に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-124136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内導体端子を誘電体の中心孔に挿入する過程では、係止片が弾性変形した状態で中心孔の内周面に摺接するため、挿入抵抗が大きくなる。この対策としては、中心孔のうち内導体端子の挿入口から係止孔の近傍位置に至る領域の内径を拡大することが考えられる。このようにすれば、内導体端子の挿入過程において係止片が中心孔に摺接して摺動抵抗が生じるのは、挿入過程のうちの終期だけとなるので、挿入時の作業性が良好になる。しかし、中心孔の内径を拡大すると、中心孔内の空気層の容積が大きくなるため、特性インピーダンスが局所的に大きくなり、インピーダンスの整合性が低下する。
【0005】
本開示のシールドコネクタは、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、内導体を誘電体に挿入する際の挿入抵抗の低減と、インピーダンスの整合性低下の抑制とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のシールドコネクタは、
軸線方向を前後方向に向けた本体部の外周面から、弾性変位可能な係止バネを突出させた形状の内導体と、
後方から挿入された前記内導体を抜止め状態で収容する誘電体と、を備え、
前記誘電体は、
前記本体部を収容する収容室と、
前記係止バネを係止させることによって前記内導体を抜止めする係止部と、
前記収容室の内周面のうち周方向において前記係止バネと対向する領域のみを凹ませた逃がし溝とを有している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、内導体を誘電体に挿入する際の挿入抵抗の低減と、インピーダンスの整合性低下の抑制とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1のシールドコネクタの斜視図である。
図2図2は、図1に示すシールドコネクタの分解斜視図である。
図3図3は、図2に示す内導体の拡大斜視図である。
図4図4は、図1に示すシールドコネクタの部分拡大平断面図である。
図5図5は、実施例1のシールドコネクタにおいて、内導体を誘電体に挿入する過程において係止バネが逃がし溝に進入している状態をあらわす部分拡大平断面図である。
図6図6は、図1に示すシールドコネクタの部分拡大側断面図である。
図7図7は、実施例1のシールドコネクタにおいて、誘電体から内導体を抜き取った状態をあらわす部分拡大側断面図である。
図8図8は、図7のX-X線断面図である。
図9図9は、実施例1のシールドコネクタにおいて、誘電体に内導体を挿入する過程をあらわすX-X線相当断面図である。
図10】実施例2のシールドコネクタの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。下記の複数の実施形態を、矛盾を生じない範囲で任意に組み合わせたものも、発明を実施するための形態に含まれる。
【0010】
本開示のシールドコネクタは、
(1)軸線方向を前後方向に向けた本体部の外周面から、弾性変位可能な係止バネを突出させた形状の内導体と、後方から挿入された前記内導体を抜止め状態で収容する誘電体と、を備え、前記誘電体は、前記本体部を収容する収容室と、前記係止バネを係止させることによって前記内導体を抜止めする係止部と、前記収容室の内周面のうち周方向において前記係止バネと対向する領域のみを凹ませた逃がし溝とを有している。本開示の構成によれば、内導体を誘電体に挿入する際には、係止バネが逃がし溝を通過することによって、係止バネと誘電体との間の摺動抵抗が低減され、又は摺動抵抗の発生が回避されるので、内導体を挿入する際の挿入抵抗を低減することができる。係止バネを通過させる逃がし溝は、周方向において係止バネと対向する領域のみを凹ませた形状なので、全周に亘って内径を拡大するものに比べると、インピーダンスの不整合を抑制することができる。
【0011】
(2)前記係止バネが、前記本体部の外周面から斜め後方へ片持ち状に延出した形状をなしており、前記逃がし溝の内面は、周方向に対向する一対の内側面を含み、前記誘電体を後方から見た背面視において、前記一対の内側面は、周方向の対向間隔が前記収容室の中心から径方向に遠ざかるほど狭くなるように傾斜していることが好ましい。この構成によれば、誘電体に対する内導体の周方向への位置ずれは、係止バネが逃がし溝の内側面に摺接することによって矯正される。一対の内側面は、その周方向の対向間隔が収容室の中心から遠ざかるほど狭くなるように傾斜しているので、内側面同士が平行をなしている形態に比べると、逃がし溝内の空気層の容積が小さく抑えられる。これにより、逃がし溝を形成したことに起因する特性インピーダンスの増大を、抑制することができる。
【0012】
(3)(1)又は(2)において、前記逃がし溝の径方向の深さ寸法は、前記係止バネが前記逃がし溝の内面と非接触となるように設定されていることが好ましい。この構成によれば、本体部を収容室に挿入する過程で、係止バネが弾性変形しないので、挿入抵抗を低減することができる。
【0013】
(4)(1)~(3)において、前記内導体は、前記本体部の外周面から突出するスタビライザを有し、前記誘電体には、前記本体部を前記収容室に挿入する過程でスタビライザを嵌合させる位置決め溝が形成されていることが好ましい。この構成によれば、内導体を誘電体から後方へ抜き取る際に、係止バネを逃がし溝へ誘導することができる。
【0014】
(5)(4)において、前記位置決め溝には、前記係止バネが前記係止部に対して係止可能な状態において、前記誘電体に対する前記スタビライザの前方への相対移動を阻止する前止まり部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、係止バネとスタビライザとの係止作用によって、内導体を誘電体に対して前後方向に位置決めすることができる。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
本開示を具体化した実施例1のシールドコネクタAを、図1図9を参照して説明する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。本実施例1において、前後の方向については、図1~7におけるF方向を前方と定義する。左右の方向については、図1~5,8,9におけるR方向を右方と定義する。上下の方向については、図1~3,6~9におけるH方向を上方と定義する。
【0016】
本実施例1のシールドコネクタAは、図1に示すように、シールド電線10の前端部に接続されたシールド機能を有する通信用のコネクタである。シールド電線10は、図2に示すように、1本の芯線11を絶縁被覆12で包囲し、絶縁被覆12をシールド部材である編組線13で包囲し、編組線13をシース14で包囲した周知の導電路である。
【0017】
シールドコネクタAは、芯線11に固着された内導体20と、内導体20を収容する誘電体30と、誘電体30を包囲する外導体50とを備えて構成されており、全体として前後方向に細長い形状をなす。外導体50は、前側筒状部材51と後側筒状部材52を同軸状に且つ前後に連なるように固着して構成されている。外導体50の後端部は、編組線13の前端部に接続されている。
【0018】
内導体20は、金属板材に曲げ加工などを施すことによって、前後方向に細長い形状に成形された単一部品である。図3に示すように、内導体20は、筒状の本体部21と、本体部21から前方へ延出した半割状の接続部22と、本体部21の後端から後方へ延出した圧着部23とを有する。圧着部23は、芯線11の前端部に固着されている。
【0019】
本体部21には、周方向に間隔を空けた一対の係止バネ24が形成されている。係止バネ24は、本体部21の外周面から径方向外側へ、且つ斜め後方へ片持ち状に延出した形状をなす。係止バネ24は、係止バネ24の前端部を支点として径方向へ弾性変形することが可能である。本体部21の外周面には、径方向外方へ突出したスタビライザ25が形成されている。スタビライザ25は、係止バネ24の後端24R(延出端)よりも後方に配置されている。周方向におけるスタビライザ25の位置は、一対の係止バネ24に対して90°離隔した位置である。
【0020】
誘電体30は、全体として前後方向に細長い形状をなす。図4~7に示すように、誘電体30の内部には、誘電体30を前後方向に貫通する細長い収容室31が形成されている。収容室31内には、誘電体30の後方から内導体20が挿入されるようになっている。図8,9に示すように、収容室31は、収容室31の前端側領域を構成する円形断面の前側空間32と、収容室31の後端側領域を構成する後側空間33とから構成されている。前側空間32の前後長は、後側空間33の前後長よりも長い。誘電体30を後方から視た背面視において、後側空間33は、方形をなす。後側空間33の高さ寸法及び幅寸法は、前側空間32の内径よりも大きい。
【0021】
前側空間32の内径は、本体部21が円滑に前側空間32に挿入し得る寸法、具体的には、本体部21の外径よりも僅かに大きい寸法である。図4,5に示すように、誘電体30には、周方向に間隔を空けた一対の係止空間35が形成されている。係止空間35は、前側空間32の内周面から誘電体30の外周面まで貫通した空間である。係止空間35の内壁面のうち後側の面は、内導体20を抜止めするための係止部36として機能する。係止部36には、係止バネ24の後端24R部が前方から係止することが可能となっている。
【0022】
図4,5,8に示すように、誘電体30には、周方向に間隔を空けた一対の逃がし溝37が形成されている。前後方向において、一対の逃がし溝37は、一対の係止空間35よりも後方に位置している。周方向において、一対の逃がし溝37は、一対の係止空間35と同じ位置に配置されている。逃がし溝37は、前後方向(誘電体30に対する内導体20の挿入方向と平行な方向)に細長く延びている。逃がし溝37の後端は、後側空間33の前面壁に開口している。図8,9に示すように、逃がし溝37の背面視形状は、台形である。具体的には、逃がし溝37の内面のうち周方向に対向する一対の内側面38の対向間隔は、収容室31の中心(軸心)側から径方向外方に向かって次第に狭まっている。
【0023】
逃がし溝37の内面のうち収容室31の中心側を向いた面を、溝底面39と定義する。逃がし溝37の周方向の幅寸法は、溝底面39において最小である。溝底面39における周方向の幅寸法は、係止バネ24の径方向の幅寸法よりも僅かに大きい寸法である。逃がし溝37の深さ寸法は、係止バネ24の径方向の突出寸法よりも大きい寸法に設定されている。即ち、前側空間32の内周面から溝底面39までの径方向の寸法は、本体部21の外周面から係止バネ24の延出端(後端24R)までの径方向の寸法よりも大きく設定されている。
【0024】
図6~9に示すように、誘電体30には、1つの位置決め溝40が形成されている。位置決め溝40は、後側空間33の内周面を凹ませた形状をなし、前後方向に延びている。位置決め溝40は、逃がし溝37の後方に位置する。位置決め溝40の前端は、後側空間33の前端に位置している。背面視において、一対の係止バネ24が一対の逃がし溝37と同じ位置にあるときに、スタビライザ25が位置決め溝40と同じ位置に配置される。位置決め溝40の前端部には、スタビライザ25を後方から係止させることが可能な前止まり部41が形成されている。
【0025】
次に、本実施例1の作用及び効果を説明する。内導体20は、誘電体30の後方から収容室31内に挿入される。挿入過程では、スタビライザ25を位置決め溝40に嵌合し、一対の係止バネ24を一対の逃がし溝37に進入させる。図5,9に示すように、径方向において、逃がし溝37の深さは係止バネ24の突出寸法よりも大きいので、係止バネ24は、逃がし溝37内を通過する間、弾性変形しない。
【0026】
係止バネ24が逃がし溝37に進入する時点で、内導体20の向きが誘電体30に対して周方向に少しずれている場合は、係止バネ24が逃がし溝37の内側面38の後端縁に当接することによって、位置ずれが矯正される。詳細には、係止バネ24は、本体部21の外周面から斜め後方へ片持ち状に延出した形状をなしている。そして、一対の内側面38は、その周方向の対向間隔が収容室31の中心から遠ざかるほど狭くなるように傾斜している。これにより、内導体20を収容室31に挿入するのに伴い、係止バネ24が内側面38に対して収容室31の中心側から径方向外方へ摺接していくことによって、内導体20の位置ずれが矯正されていく。
【0027】
内導体20の挿入過程の終期では、係止バネ24は、前側空間32の内周面のうち逃がし溝37の前端に当たることによって弾性変形する。弾性変形した係止バネ24は、前側空間32の内周面のうち逃がし溝37の前端と係止部36との間の領域に摺接するため、係止バネ24と前側空間32の内周面との間で摺動抵抗が発生する。したがって、内導体20の挿入過程における終期のみにおいて、一時的に挿入抵抗が生じる。
【0028】
内導体20が正規の組付け位置まで挿入されると、係止バネ24が径方向外方へ弾性復帰する。これにより、図4に示すように、係止バネ24の後端24R(延出端)が、係止空間35に進入し、係止部36に対して前方から係止可能な状態で対向するように位置する。同じく、内導体20が正規の組付け位置に到達すると、スタビライザ25が前止まり部41に対して後方から係止可能な状態で対向するように位置する。以上により、誘電体30に対する内導体20の組付けが完了する。
【0029】
内導体20を誘電体30から抜き取る際には、誘電体30の外面側から係止空間35内に差し込んだ治具(図示省略)によって、係止バネ24を径方向内側へ弾性変形させる。この状態のままで、シールド電線10を摘んで内導体20を後方へ引っ張ると、係止バネ24の後端24Rが係止部36から外れ、内導体20が後方への移動を開始する。ここで、スタビライザ25が位置決め溝40に嵌合されているので、内導体20が誘電体30に対して周方向へ相対変位することはない。したがって、係止バネ24を逃がし溝37内へ確実に進入させることができる。内導体20の抜き取りを続ける間、係止バネ24は逃がし溝37内を移動し続けるので、係止バネ24と誘電体30との間で摺動抵抗が生じることはない。
【0030】
本実施例1のシールドコネクタAは、内導体20と、誘電体30とを備えている。内導体20は、軸線方向を前後方向に向けた本体部21の外周面から、弾性変位可能な係止バネ24を突出させた形状である。誘電体30は、後方から挿入された内導体20を抜止め状態で収容する部材である。誘電体30には、本体部21を収容する収容室31と、係止部36と、逃がし溝37とが形成されている。係止部36は、係止バネ24を係止させることによって内導体20を抜止めする部位である。逃がし溝37は、収容室31の内周面のうち、周方向において係止バネ24と対向する領域のみを凹ませた形状である。即ち、逃がし溝37は、収容室31の内周面における係止バネ34と径方向に対向する領域を凹ませた形状である。また、逃がし溝37は、内導体20を誘電体30に挿入する過程で、係止バネ24が通過する領域のみを凹ませた形状である。
【0031】
この構成によれば、内導体20を誘電体30に挿入する際には、係止バネ24が逃がし溝37を通過する。逃がし溝37の径方向の深さ寸法は、係止バネ24が逃がし溝37の内面(溝底面39)と非接触となるように設定されている。本体部21を収容室31に挿入する過程では、係止バネ24が弾性変形しないので、挿入抵抗の発生を回避できる。これにより、内導体20を誘電体30に挿入する際の挿入抵抗を低減することができる。
【0032】
係止バネ24を通過させる逃がし溝37は、収容室31(前側空間32)の内周面のうち、周方向において係止バネ24と対向する領域のみを凹ませた形状である。したがって、収容室31の内周面を全周に亘って内径を拡大するものに比べると、収容室31内の容積、即ち空気層の容積が最小に抑えられている。したがって、本実施例1のシールドコネクタAによれば、空気層の容積が大きく確保されていることに起因するインピーダンスの不整合を、抑制することができる。
【0033】
係止バネ24は、本体部21の外周面から斜め後方へ片持ち状に延出した形状をなす。逃がし溝37の内面は、周方向に対向する一対の内側面38を含む。誘電体30を後方から見た背面視において、一対の内側面38は、周方向の対向間隔が収容室31の中心から径方向に遠ざかるほど狭くなるように傾斜している。誘電体30に対する内導体20の周方向への位置ずれは、係止バネ24が逃がし溝37の内側面38に摺接することによって矯正される。一対の内側面38は、その周方向の対向間隔が収容室31の中心から径方向外方へ遠ざかるほど狭くなるように傾斜しているので、内側面38同士が平行をなしている形態に比べると、逃がし溝37内の容積(空気層の容積)が小さく抑えられる。これにより、逃がし溝37を形成したことに起因する特性インピーダンスの増大を、抑制することができる。
【0034】
内導体20は、本体部21の外周面から突出するスタビライザ25を有している。誘電体30には、本体部21を収容室31に挿入する過程でスタビライザ25を嵌合させる位置決め溝40が形成されている。この構成によれば、内導体20を誘電体30から後方へ抜き取る際に、係止バネ24を逃がし溝37へ確実に誘導することができる。
【0035】
誘電体30の位置決め溝40には、係止バネ24が係止部36に対して係止可能な状態(内導体20が誘電体30内に正規挿入された状態)において、誘電体30に対するスタビライザ25の前方への相対移動を阻止する前止まり部41が形成されている。この構成によれば、係止バネ24とスタビライザ25との係止作用によって、内導体20を誘電体30に対して前後方向に位置決めすることができる。
【0036】
[実施例2]
本開示を具体化した実施例2を、図10を参照して説明する。本実施例2のシールドコネクタBは、誘電体60の逃がし溝61の形状を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0037】
本実施例2の逃がし溝61の前端部61Fにおいては、逃がし溝61の径方向の深さが前方に向かって次第に浅くなる形状をなす。即ち、収容室31の軸線を含むように誘電体60を切断した断面において、溝底面62の前端部62Fは、係止バネ24と同じ向きで、且つ弾性変形していない状態の係止バネ24と同じ角度で傾斜している。この構成によれば、逃がし溝61の前端部61Fにおける空気層の容積が、実施例1よりも小さくなるので、特性インピーダンスの整合性が向上する。
【0038】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記の実施形態も含まれる。
実施例1,2において、逃がし溝の一対の内側面同士が平行をなしていてもよい。
実施例1,2において、逃がし溝の径方向の深さ寸法は、係止バネが逃がし溝の内面と接触するように設定してもよい。
実施例1,2において、内導体はスタビライザを有していなくてもよい。
実施例1,2において、誘電体は前止まり部を有しない形態であってもよい。
実施例1,2において、本体部を収容室に挿入する過程で、係止バネが逃がし溝に進入するよりも前にスタビライザを位置決め溝に嵌合させてもよい。このようにすれば、本体部を収容室に挿入する過程で、スタビライザが位置決め溝に嵌合することによって、係止バネを逃がし溝と対応する位置に位置決めすることができる。
実施例2において、逃がし溝の溝底面を、逃がし溝の前端から後端に至る全長に亘って、一定角度で傾斜した面としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
A…シールドコネクタ
B…シールドコネクタ
10…シールド電線
11…芯線
12…絶縁被覆
13…編組線
14…シース
20…内導体
21…本体部
22…接続部
23…圧着部
24…係止バネ
24R:係止バネの後端
25…スタビライザ
30…誘電体
31…収容室
32…前側空間
33…後側空間
35…係止空間
36…係止部
37…逃がし溝
38…内側面
39…溝底面
40…位置決め溝
41…前止まり部
50…外導体
51…前側筒状部材
52…後側筒状部材
60…誘電体
61…逃がし溝
61F:逃がし溝の前端部
62…溝底面
62F:溝底面の前端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-01-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
逃がし溝37の内面のうち収容室31の中心側を向いた面を、溝底面39と定義する。逃がし溝37の周方向の幅寸法は、溝底面39において最小である。溝底面39における周方向の幅寸法は、係止バネ24の周方向の幅寸法よりも僅かに大きい寸法である。逃がし溝37の深さ寸法は、係止バネ24の径方向の突出寸法よりも大きい寸法に設定されている。即ち、前側空間32の内周面から溝底面39までの径方向の寸法は、本体部21の外周面から係止バネ24の延出端(後端24R)までの径方向の寸法よりも大きく設定されている。