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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134774
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電力供給システム及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/34 20060101AFI20240927BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H02J7/34 H
G05B11/36 505A
G05B11/36 M
G05B11/36 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045128
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久夫
【テーマコード(参考)】
5G503
5H004
【Fターム(参考)】
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA11
5G503DA06
5G503EA05
5G503EA08
5G503GD03
5G503GD06
5H004GA16
5H004GA36
5H004GB13
5H004HA14
5H004HB14
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
5H004KC22
5H004KC23
5H004KC25
5H004KC27
5H004KC28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より良好な電力供給システム及び移動体を提供する。
【解決手段】電力供給システムにおいて、制御装置の情報処理装部54は、必要電力と、発電電力と、蓄電装置の現在SOCとに基づいて、所定時間後のSOCである予測SOCを予測する予測部60と、目標となるSOCである目標SOCと予測SOCとの偏差を縮小するための補正電力を決定する補正電力決定部62と、必要電力に応じた発電電力である目標発電電力を補正電力で補正することにより、補正後目標発電電力を決定する目標発電電力補正部66と、補正後目標発電電力に基づいて発電装置を制御し得る制御部56と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンによって駆動される発電機とを備える発電装置と、
前記発電装置から供給される電力によって動作し得る負荷装置と、
前記発電装置から供給される電力によって充電され得るとともに、前記負荷装置に電力を供給し得る蓄電装置と、
前記負荷装置を動作させるために必要な必要電力と、前記発電装置によって生成される電力である発電電力と、前記蓄電装置の現在のSOCである現在SOCとに基づいて、所定時間後の前記SOCである予測SOCを予測する予測部と、
目標となる前記SOCである目標SOCと前記予測SOCとの偏差を縮小するための補正電力を決定する補正電力決定部と、
前記必要電力に応じた発電電力である目標発電電力を前記補正電力で補正することにより、補正後目標発電電力を決定する目標発電電力補正部と、
前記補正後目標発電電力に基づいて前記発電装置を制御し得る制御部と、
を備える、電力供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力供給システムにおいて、
前記必要電力と前記現在SOCとに基づいて前記目標発電電力を決定する目標発電電力決定部を備える、電力供給システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電力供給システムにおいて、
前記蓄電装置の劣化状態に応じた調整パラメータを決定するパラメータ決定部を備え、
前記予測部は、前記調整パラメータを使用することによって、前記蓄電装置の前記劣化状態に応じた前記予測SOCを予測し、
前記目標発電電力決定部は、前記調整パラメータを使用することによって、前記蓄電装置の前記劣化状態に応じた前記目標発電電力を決定する、電力供給システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電力供給システムを備える移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給システム及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する電動化技術に関する研究開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、ハイブリッド電気推進システムを搭載する航空機(ヘリコプタ)が示される。航空機のプロペラは、ガスタービンエンジンの出力軸及び回転電機のロータに結合される。通常、ガスタービンエンジンがプロペラ及び回転電機を駆動し、回転電機は発電する。つまり、ガスタービンエンジン及び回転電機は、発電装置として機能する。なお、回転電機は、必要に応じてモータとして機能し、ガスタービンエンジンの出力軸に力を付加することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-77361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より良好な電力供給システム及び移動体が待望されている。
【0006】
本発明は上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電力供給システムは、エンジンと、前記エンジンによって駆動される発電機とを備える発電装置と、前記発電装置から供給される電力によって動作し得る負荷装置と、前記発電装置から供給される電力によって充電され得るとともに、前記負荷装置に電力を供給し得る蓄電装置と、前記負荷装置を動作させるために必要な必要電力と、前記発電装置によって生成される電力である発電電力と、前記蓄電装置の現在のSOCである現在SOCとに基づいて、所定時間後の前記SOCである予測SOCを予測する予測部と、目標となる前記SOCである目標SOCと前記予測SOCとの偏差を縮小するための補正電力を決定する補正電力決定部と、前記必要電力に応じた発電電力である目標発電電力を前記補正電力で補正することにより、補正後目標発電電力を決定する目標発電電力補正部と、前記補正後目標発電電力に基づいて前記発電装置を制御し得る制御部と、を備える。
【0008】
本発明の移動体は、上記の電力供給システムを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な電力供給システム及び移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、移動体の概略図である。
図2図2は、電力供給システムの概略図である。
図3図3は、演算部が行う発電電力制御処理のフローチャートである。
図4図4は、情報処理部の構成を示すブロック線図である。
図5図5は、パラメータ決定部の構成を示すブロック線図である。
図6図6は、補正電力決定部の構成を示すブロック線図である。
図7図7は、目標発電電力決定部の構成を示すブロック線図である。
図8図8Aは、必要電力のタイムチャートである。図8Bは、発電電力のタイムチャートである。図8Cは、蓄電装置のSOCのタイムチャートである。図8Dは、補正電力決定部によって決定される補正電力のタイムチャートである。
図9図9Aは、必要電力のタイムチャートである。図9Bは、発電電力のタイムチャートである。図9Cは、蓄電装置のSOCのタイムチャートである。図9Dは、補正電力決定部によって決定される補正電力のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
例えば、発電装置及び蓄電装置を搭載する航空機は、通常は発電装置が負荷装置に電力を供給する。一方、蓄電装置は、航空機で必要とされる電力(必要電力)が発電装置で生成される電力(発電電力)を上回った場合に、負荷装置に電力を供給する。必要電力が発電電力を上回る状態が長く続くと、蓄電装置の残量が減少する。蓄電装置の残量が減少した場合、電力不足が生じる虞がある。以下で説明する実施形態は、蓄電装置の残量の減少を少なくすることができる。
【0012】
[移動体10]
図1は、移動体10の概略図である。電力供給システム22は、移動体10に搭載され得る。移動体10は、例えば、電動垂直離着陸機(eVTOL機)である。移動体10は、8つのVTOLロータ12を備える。VTOLロータ12は、機体14に対して上方向の推力を発生する。移動体10は、8つの電動モータ16を備える。1つの電動モータ16が、1つのVTOLロータ12を駆動する。移動体10は、2つのクルーズロータ18を有する。クルーズロータ18は、機体14に対して前方向の推力を発生する。移動体10は、4つの電動モータ20を備える。2つの電動モータ20が、1つのクルーズロータ18を駆動する。
【0013】
移動体10は、電力供給システム22を搭載する。各々の電動モータ16、20は、電力供給システム22からの電力が供給される負荷装置28(図2)である。負荷装置28は、電動モータ16、20に限定されない。移動体10には、複数の負荷装置28が備えられ得る。説明の簡略化のため、複数の負荷装置28のうちの1つの負荷装置28が、図2には示されている。
【0014】
移動体10は、電力に関する情報を管理するコントローラ21を備える。コントローラ21は、移動体10の一部又は全ての負荷装置28を動作させるために必要な電力を算出し、電力供給システム22に動作要求を出力する。電力供給システム22(制御装置30)は、動作要求に基づいて移動体10で必要とされている電力を決定する。この電力を必要電力と称する。必要電力は、負荷装置28を動作させるために必要な電力である。
【0015】
移動体10は、航空機に限らず、船舶、自動車、列車等であってもよい。また、電力供給システム22は、移動体10の他に、施設、工場等で使用されてもよい。
【0016】
[電力供給システム22]
図2は、電力供給システム22の概略図である。電力供給システム22は、発電装置24、蓄電装置26、負荷装置28及び制御装置30を備える。負荷装置28は、発電装置24から供給される電力によって動作し得るように、発電装置24に電気的に接続される。蓄電装置26は、発電装置24から供給される電力によって充電され得るとともに、負荷装置28に電力を供給し得るように、発電装置24及び負荷装置28に電気的に接続される。
【0017】
発電装置24は、ガスタービンエンジン32(エンジン)、燃料噴射装置34、発電機36及びパワーコントロールユニット38を有する。ガスタービンエンジン32は、発電機36を駆動する。燃料噴射装置34は、不図示のインジェクタを備える。インジェクタの制御によって、ガスタービンエンジン32の回転数を変化させることができる。発電機36は、ガスタービンエンジン32によって駆動されて、三相交流電力を発生する。パワーコントロールユニット38は、三相交流電力を直流電力に変換する。パワーコントロールユニット38は、AC/DCコンバータ40を有する。AC/DCコンバータ40は、不図示のスイッチング素子を備える。AC/DCコンバータ40に備えられたスイッチング素子が制御されることによって、発電装置24から蓄電装置26に供給される電力と、発電装置24から負荷装置28に供給される電力とが制御され得る。
【0018】
蓄電装置26は、例えばリチウムイオンバッテリを有する。蓄電装置26は、リチウムイオンバッテリ以外の二次電池を有してもよい。蓄電装置26は、大容量コンデンサを有してもよい。
【0019】
負荷装置28は、不図示のインバータ及び電動モータ16、20(図1)を有する。インバータは、入力された直流電力を三相交流電力に変換する。電動モータ16、20は、インバータから供給される三相交流電力により駆動される。負荷装置28は、不図示のDC/DCコンバータ及び低電圧駆動装置を有してもよい。DC/DCコンバータは、当該DC/DCコンバータに入力された直流電力の電圧を低下させる。低電圧駆動装置は、DC/DCコンバータから供給される直流電力により駆動される。
【0020】
電力供給システム22は、電圧センサ42、電流センサ44、電圧センサ46及び電流センサ48を備える。電圧センサ42は、発電装置24の端子間電圧を検出する。電流センサ44は、発電装置24から出力される電流を検出する。電圧センサ46は、蓄電装置26の端子間電圧を検出する。電流センサ48は、蓄電装置26から出力される電流を検出する。
【0021】
電力供給システム22は、制御装置30を備える。制御装置30は、電圧を示す信号を電圧センサ42、46から取得する。制御装置30は、電流を示す信号を電流センサ44、48から取得する。制御装置30は、発電装置24の燃料噴射装置34に備えられるインジェクタを制御する。制御装置30は、発電装置24のAC/DCコンバータ40に備えられるスイッチング素子を制御する。
【0022】
制御装置30は、演算部50及び記憶部52を有する。演算部50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサである。演算部50は、記憶部52に記憶されているプログラムを実行することにより、各装置を制御する。演算部50の少なくとも一部が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって実現されてもよい。演算部50の少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって実現されてもよい。
【0023】
演算部50は、情報処理部54及び制御部56として機能する。情報処理部54は、発電装置24で生成される電力の目標値を設定する。制御部56は、設定された電力の目標値に基づいて発電装置24を制御する。
【0024】
記憶部52は、コンピュータ可読記憶媒体である、不図示の揮発性メモリ及び不図示の不揮発性メモリにより構成される。揮発性メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)等である。不揮発性メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等である。データ等が、例えば、揮発性メモリに記憶される。プログラム、テーブル、マップ等が、例えば、不揮発性メモリに記憶される。記憶部52の少なくとも一部が、上述したプロセッサ、集積回路等に備えられていてもよい。
【0025】
[発電電力制御処理]
ガスタービンエンジン32は、機械の構造上、指令に対する応答が遅い。また、ガスタービンエンジン32は、通常は高効率で運転される。ガスタービンエンジン32の回転を急速に増加させたい場合であっても、通常は効率が優先される。従って、ガスタービンエンジン32は、指令に対して高いレスポンスで駆動できない。また、各種センサには、応答遅れが発生する。こうした理由から、移動体10の必要電力が発電装置24の発電電力を上回る時点から、移動体10の必要電力を発電装置24が出力できるようになるまでにはタイムラグが発生する。その間、蓄電装置26から負荷装置28に電力が供給される。電力供給システム22で行われる発電電力制御処理は、蓄電装置26からの電力供給を低減するための処理である。
【0026】
図3は、演算部50が行う発電電力制御処理のフローチャートである。図4は、情報処理部54の構成を示すブロック線図である。図4で示すように、情報処理部54は、複数の処理部(パラメータ決定部58、予測部60、補正電力決定部62、目標発電電力決定部64及び目標発電電力補正部66)を備える。図4で示す各々の処理部は、図3で示すステップS2~ステップS6のいずれかの処理を実行する。
【0027】
ステップS1において、情報処理部54は、発電電力制御処理を実行するための各情報を取得する。情報処理部54は、コントローラ21から取得する動作要求に基づいて必要電力を取得する。情報処理部54は、電圧センサ42、46及び電流センサ44、48の各々から検出結果を示す情報(電圧値及び電流値)を取得する。情報処理部54は、電圧値及び電流値以外にSOC(State Of Charge)を算出するために必要な情報(温度等)を不図示のセンサから取得する。情報処理部54は、電圧センサ46によって検出される電圧値と、電流センサ48によって検出される電流値と、温度等の情報とに基づいて、蓄電装置26の現在のSOCを算出する。このSOCを、現在SOCと称する。情報処理部54は、電圧センサ42によって検出される電圧値と、電流センサ44によって検出される電流値とに基づいて、発電装置24によって現在生成されている発電電力を算出する。
【0028】
ステップS2において、情報処理部54は、蓄電装置26の劣化状態に応じた調整パラメータを決定する。調整パラメータとは、情報処理部54の演算結果(補正後目標発電電力)に蓄電装置26の劣化状態(SOH(State Of Health))を反映させるためのパラメータである。ステップS2の処理は、図4で示すパラメータ決定部58によって行われる。パラメータ決定部58については、図5を用いて説明する。
【0029】
図5は、パラメータ決定部58の構成を示すブロック線図である。パラメータ決定部58は、図5で示す各処理部(重み決定部68、SOC推定部70、誤差演算部72、誤差修正部74及びスライディングモード制御部78)を備える。
【0030】
重み決定部68は、電圧センサ46によって検出される電圧値(BAT電圧)と、電流センサ48によって検出される電流値(BAT電流)と、重み関数68aとに基づいて、重みを決定する。重み関数68aは、BAT電流と、BAT電圧と、蓄電装置26の劣化度合に対応する重みとを対応付ける関数である。重み関数68aは、実験結果、シミュレーション結果等に基づいて、蓄電装置26の劣化モデルに基づいて作成可能である。また、重み関数68aは、アレニウスの式を用いた劣化モデルに基づいて作成可能である。重み関数68aは、予め記憶部52に記憶される。
【0031】
SOC推定部70は、蓄電装置26の現在SOCを推定する。SOC推定部70は、必要電力を示す情報である必要電力情報と、発電電力を示す情報である発電電力情報とに基づいて、現在SOCを推定する。SOC推定部70は、必要電力と発電電力との差分を所定の演算周期毎に算出する。各演算周期における必要電力と発電電力との差は、各演算周期における蓄電装置26の入出力電力に相当する。SOC推定部70は、全ての差分を合算することにより、蓄電装置26の入出力電力の合計値を算出する。更に、SOC推定部70は、算出された合算値を劣化していない蓄電装置26の容量値(満充電容量)から減算することにより得られる減算値を、劣化していない蓄電装置26の容量値で除算する。以上の計算により、SOC推定部70は、蓄電装置26のSOCの推定値を算出する。このSOCを、推定SOCと称する。なお、過去の必要電力及び発電電力は、記憶部52に記憶されている。蓄電装置26の容量値も、記憶部52に記憶されている。
【0032】
誤差演算部72は、ステップS1において算出された現在SOCと、SOC推定部70によって推定された推定SOCとの誤差値を算出する。例えば、誤差演算部72は、現在SOCから推定SOCを減算することによって誤差値を算出する。
【0033】
誤差修正部74は、誤差演算部72によって算出された誤差値を、重み決定部68によって決定された重みを用いて修正する。例えば、誤差修正部74は、誤差値に重みを乗算することによって、修正誤差値を算出する。
【0034】
スライディングモード制御部78は、修正誤差値を入力値としてスライディングモード制御を行い、調整パラメータを算出する。調整パラメータの値は、0より大きく1より小さい。調整パラメータは、図4で示す予測部60及び目標発電電力決定部64で使用される。その結果、情報処理部54が最終的に決定する目標の発電電力(補正後目標発電電力)に、蓄電装置26の劣化状態が反映される。なお、調整パラメータは、スライディングモード制御以外の他の制御によって算出されてもよい。
【0035】
パラメータ決定部58の各処理部が以上の処理を行うと、ステップS2の処理は終了する。
【0036】
図3に戻り、発電電力制御処理の説明を続ける。ステップS2が終了すると、情報処理部54は、ステップS3の処理とステップS5の処理とを並行して実行する。
【0037】
ステップS3において、情報処理部54は、予測SOCを予測する。予測SOCとは、仮に、発電装置24の現在の運転状態と、負荷装置28の現在の入出力状態とが継続された場合に、次の演算周期で算出される蓄電装置26のSOCである。ステップS3の処理は、図4で示す予測部60によって行われる。予測部60は、下記(1)式によって予測SOCを算出する。
【0038】
【数1】
【0039】
SOCpre(k):予測SOC
SOCact(k):今回の演算周期での現在SOC
SOCact(k-1):1回前の演算周期での現在SOC
φin(k-i):i回前の演算周期での蓄電装置26の入出力電力(必要電力-発電電力)
α1:SOCact(k)の係数
α2:SOCact(k-1)の係数
βi:φin(k-i)の係数
【0040】
α1、α2、βi(i=1、2、…n-1、n)は、予測部60の設計段階で決められている。α1、α2、βiは、予め記憶部52に記憶される。但し、α1、α2、βiは、ステップS2においてパラメータ決定部58によって決定された調整パラメータに基づいて補正されてもよい。つまり、予測部60は、調整パラメータに基づいて各係数を補正するとともに、上記(1)式を用いて予測SOC(SOCpre(k))を算出してもよい。この場合、予測部60は、α1に調整パラメータを乗算することにより得られるα1´を使用する。予測部60は、α2に調整パラメータを乗算することにより得られるα2´を使用する。予測部60は、βiに調整パラメータを乗算することにより得られるβi´を使用する。
【0041】
ステップS4において、情報処理部54は、補正電力を決定する。補正電力とは、目標となるSOCである目標SOCと予測SOCとの偏差を縮小するための電力である。目標SOCは、通常は一定値である。目標SOCは、予め記憶部52に記憶される。ステップS4の処理は、図4で示す補正電力決定部62によって行われる。補正電力決定部62については、図6を用いて説明する。
【0042】
図6は、補正電力決定部62の構成を示すブロック線図である。補正電力決定部62は、図6で示す各処理部(偏差演算部80及びPID制御部82)を備える。
【0043】
偏差演算部80は、ステップS3において予測部60によって予測された予測SOCと、所定の目標SOCとの偏差を算出する。例えば、偏差演算部80は、予測SOCから目標SOCを減算することによって偏差を算出する。
【0044】
PID制御部82は、PID(Proportional Integral Differential)制御を行う。PID制御部82は、目標SOCと予測SOCとの偏差を縮小するための補正電力を決定する。なお、補正電力は、PID制御以外の他の制御(例えばスライディングモード制御)によって決定されてもよい。
【0045】
補正電力決定部62の各処理部が以上の処理を行うと、ステップS4の処理は終了する。
【0046】
図3に戻り、発電電力制御処理の説明を続ける。情報処理部54は、ステップS3の処理及びステップS4の処理と並行して、ステップS5の処理を実行する。
【0047】
ステップS5において、情報処理部54は、目標発電電力を決定する。目標発電電力とは、必要電力と現在SOCとに基づいて決定される発電装置24の発電電力である。なお、目標発電電力は、予測SOC(SOCの変動量)を加味しない電力である。ステップS5の処理は、図4で示す目標発電電力決定部64によって行われる。目標発電電力決定部64については、図7を用いて説明する。
【0048】
図7は、目標発電電力決定部64の構成を示すブロック線図である。目標発電電力決定部64は、図7で示す各処理部(目標充電電力演算部84、目標充電電力補正部86及び決定部88)を備える。
【0049】
目標充電電力演算部84は、ステップS1において算出された現在SOCと、充電電力マップ84aとに基づいて、目標充電電力を決定する。充電電力マップ84aは、現在SOCと目標充電電力とを対応付けたマップである。充電電力マップ84aは、予め記憶部52に記憶される。
【0050】
目標充電電力補正部86は、目標充電電力演算部84によって算出された目標充電電力を蓄電装置26の劣化状態に応じて補正する。例えば、目標充電電力補正部86は、目標充電電力に調整パラメータを乗算することによって目標充電電力を補正する。これにより、目標充電電力補正部86は、補正後充電電力を算出する。
【0051】
決定部88は、ステップS1において取得された必要電力と、目標充電電力補正部86によって算出された補正後充電電力とに基づいて、目標発電電力を決定する。例えば、決定部88は、必要電力に補正後充電電力を加算することによって目標発電電力を算出する。
【0052】
目標発電電力決定部64の各処理部が以上の処理を行うと、ステップS5の処理は終了する。
【0053】
図3に戻り、発電電力制御処理の説明を続ける。情報処理部54は、ステップS4の処理及びステップS5の処理が終了すると、ステップS6の処理を実行する。
【0054】
ステップS6において、情報処理部54は、目標発電電力を補正電力で補正して補正後目標発電電力を決定する。ステップS6の処理は、図4で示す目標発電電力補正部66によって行われる。
【0055】
目標発電電力補正部66は、ステップS5において目標発電電力決定部64によって決定された目標発電電力に、ステップS4において補正電力決定部62によって決定された補正電力を加算する。これにより、目標発電電力補正部66は、補正後目標発電電力を決定する。
【0056】
以上のように、情報処理部54は、ステップS1~ステップS6の処理を実行することによって、最終的に補正後目標発電電力を決定する。
【0057】
ステップS7において、制御部56は、補正後目標発電電力にて発電装置24を制御する。例えば、制御部56は、燃料噴射装置34を制御することによって、ガスタービンエンジン32の回転数を変更させる。また、制御部56は、発電機36のトルクを制御することによって、発電機36による発電電力を制御する。例えば、制御部56は、AC/DCコンバータ40のスイッチング素子を制御する。
【0058】
[本実施形態の作用効果]
演算部50は、所定時間後の蓄電装置26のSOCを予測し、予測結果に基づいて目標とする発電電力を補正する。この制御を予測制御と称する。予測制御を実行する場合と予測制御を実行しない場合とを図8A図8Dを用いて比較することにより、本実施形態の効果を説明する。
【0059】
図8Aは、必要電力のタイムチャートである。図8Bは、発電電力のタイムチャートである。図8Cは、蓄電装置26のSOCのタイムチャートである。図8Dは、補正電力決定部62によって決定される補正電力のタイムチャートである。図8B図8Cにおいて、予測制御を実行しない場合のタイムチャートは実線で示され、予測制御を実行する場合のタイムチャートは破線で示される。
【0060】
図8Aで示すように、時点T1で必要電力が電力Aから電力Bに増加する。一方、図8Bで示すように、時点T1で発電電力は電力Aである。このように、時点T1で、必要電力と発電電力とに電力差B-Aが発生する。
【0061】
先ず、予測制御を実行しない場合の動作説明をする。発電装置24は、ガスタービンエンジン32を最適な効率で運転しつつ発電を行う。その結果、発電電力は、時点T3で必要電力と同じ電力Bに達する。必要電力と発電電力とに電力差が生じている間(時点T1~時点T3)、蓄電装置26が負荷装置28に差分の電力を供給する。このため、蓄電装置26のSOCは時点T1から減少を開始し、時点T3で蓄電装置26のSOCの減少は停止する。
【0062】
時点T3で、必要電力と発電電力とが等しくなるため、蓄電装置26の入出力電力は実質的にゼロになる。このため、蓄電装置26は、時点T3でのSOCを維持する。このように、蓄電装置26は、SOCが低下した状態を維持する。例えば、蓄電装置26のSOCが低下したままの状態で、更に大きな必要電力が発生した場合、蓄電装置26は必要電力を補うことができない虞がある。
【0063】
次に、予測制御を実行する場合の動作を説明する。演算部50は、電力差B-Aが所定差以上になったことを検出した時点で、図3で示す発電電力制御処理を開始する。ここでは、時点T1で、演算部50は、発電電力制御処理を開始する。演算部50の情報処理部54は、時点T1で、所定時間後の蓄電装置26のSOCが減少することを予測する。このため、図8Dで示すように、情報処理部54(補正電力決定部62)は、予測SOCに応じた補正電力(>0)を設定する。これにより、図8Bで示すように、演算部50の制御部56は、発電電力を、予測制御を実行しない場合よりも大きく増加させる。すると、蓄電装置26から蓄電装置26に供給される電力は減少する。従って、図8Cで示すように、蓄電装置26の減少率は、予測制御を実行しない場合と比較して小さくなる。
【0064】
本実施形態の場合、発電電力は、時点T3より早い時点T2で必要電力と同じ電力Bに達する。この時点T2で、蓄電装置26のSOCの減少は停止する。本実施形態の演算部50は、所定時間後の蓄電装置26のSOCを目標SOC(図8Cにおけるa[%])に近づける制御を実行する。このため、情報処理部54(補正電力決定部62)は、時点T2以降も、予測SOCに応じた補正電力(>0)を設定する。すると、発電電力は、必要電力を上回り、余剰電力が発生する。余剰電力は、蓄電装置26に供給され、蓄電装置26は充電される。従って、蓄電装置26のSOCは時点T2から増加を開始する。
【0065】
時点T3で、情報処理部54(予測部60)が予測する予測SOCと、目標SOCとの偏差が小さくなる。つまり、蓄電装置26のSOCが目標SOCに近づく。図8Dで示すように、情報処理部54(補正電力決定部62)は、予測SOCに応じた補正電力(<0)を設定する。これにより、図8Bで示すように、演算部50の制御部56は、発電電力を減少させる。発電電力は、時点T4で必要電力と同じ電力Bに達する。この時点T4で、蓄電装置26のSOCは、目標SOC(a[%])に達する。
【0066】
このように、本実施形態は、所定時間後の蓄電装置26のSOC(予測SOC)を予測し、予測したSOCを目標のSOC(目標SOC)に近づけるように、予め発電装置24を制御する。これにより、必要電力と発電電力とに差が生じた場合に、発電装置24の発電電力を迅速に増加させることができる。このため、蓄電装置26から負荷装置28に供給する電力を少なくすることができる。つまり、本実施形態によれば、蓄電装置26の入出力電力量を少なくすることができる。結果として、本実施形態によれば、良好な電力供給システム22及び移動体10を提供することができる。
【0067】
なお、本実施形態の目標SOC(a[%])は、満充電時のSOC(b[%])よりも低く設定されている。これは、予期せぬ充電に備えるためである。満充電状態の蓄電装置26は、発電電力が必要電力を上回った場合に、余剰電力を吸収できない。本実施形態では、このような余剰電力を吸収できるように、満充電よりも低い目標SOCを設定している。
【0068】
時点T5で必要電力が電力Bから電力Aに減少する。予測制御を実行しない場合は、図8Cで示すように、SOCが低い状態の蓄電装置26を満充電にする必要がある。蓄電装置26を満充電にするためには、時点T5~時点T7の時間が必要である。これに対して、予測制御を実行する本実施形態の場合は、図8Cで示すように、SOCが既に満充電に近い状態である。蓄電装置26を満充電にするためには、時点T5~時点T6の時間が必要である。この時間は、時点T5~時点T7よりも短い。このように、本実施形態によれば、必要電力が減少した場合に、発電装置24の回転数を迅速に減少させることができる。
【0069】
次に、蓄電装置26が劣化していない場合の制御と、蓄電装置26が劣化している場合の制御とを、図9A図9Dを用いて比較する。
【0070】
図9Aは、必要電力のタイムチャートである。図9Bは、発電電力のタイムチャートである。図9Cは、蓄電装置26のSOCのタイムチャートである。図9Dは、補正電力決定部62によって決定される補正電力のタイムチャートである。図9B図9Dで示される「劣化なし」のタイムチャート(破線)は、図8B図8Dで示される予測制御を実行する場合のタイムチャート(破線)と同じである。
【0071】
劣化した蓄電装置26は、劣化していない蓄電装置26と比較してSOCの上限が低い。つまり、劣化した蓄電装置26は、劣化していない蓄電装置26と比較して、充電可能な容量が少なく、過充電が発生しやすい。図9Dで示すように、蓄電装置26が劣化している場合、情報処理部54(補正電力決定部62)は、補正電力を、蓄電装置26が劣化していない場合の補正電力よりも小さくする(時点T1~時点T3)。更に、図9Cで示すように、蓄電装置26が劣化している場合、目標SOC(a´[%])は、蓄電装置26が劣化していない場合の目標SOC(a[%])よりも低く設定される。このように、情報処理部54は、劣化した蓄電装置26に対しては、充電速度を遅くしている。
【0072】
なお、本実施形態では、調整パラメータを使用することによって、蓄電装置26の劣化状態に応じた発電電力制御処理を行うことができる。しかし、蓄電装置26が劣化しているか否かにかかわらず、目標SOCが劣化を見越した値に設定されているのであれば、調整パラメータを使用しなくてもよい。つまり、演算部50は、パラメータ決定部58による処理を行わなくてもよい。
【0073】
[付記]
上述した開示に関し、更に以下の付記を開示する。
【0074】
(付記1)
電力供給システム(22)は、エンジン(32)と、前記エンジンによって駆動される発電機(36)とを備える発電装置(24)と、前記発電装置から供給される電力によって動作し得る負荷装置(28)と、前記発電装置から供給される電力によって充電され得るとともに、前記負荷装置に電力を供給し得る蓄電装置(26)と、前記負荷装置を動作させるために必要な必要電力と、前記発電装置によって生成される電力である発電電力と、前記蓄電装置の現在のSOCである現在SOCとに基づいて、所定時間後の前記SOCである予測SOCを予測する予測部(60)と、目標となる前記SOCである目標SOCと前記予測SOCとの偏差を縮小するための補正電力を決定する補正電力決定部(62)と、前記必要電力に応じた発電電力である目標発電電力を前記補正電力で補正することにより、補正後目標発電電力を決定する目標発電電力補正部(66)と、前記補正後目標発電電力に基づいて前記発電装置を制御し得る制御部(56)と、を備える。
【0075】
上記構成では、所定時間後の蓄電装置のSOC(予測SOC)を予測し、予測したSOCを目標のSOC(目標SOC)に近づけるように、予め発電装置を制御する。これにより、必要電力と発電電力とに差が生じた場合に、発電装置の発電電力を迅速に増加させることができる。このため、蓄電装置から負荷装置に供給する電力を少なくすることができる。つまり、上記構成によれば、蓄電装置の入出力電力量を少なくすることができる。結果として、上記構成によれば、良好な電力供給システムを提供することができる。
【0076】
(付記2)
付記1に記載の電力供給システムにおいて、前記必要電力と前記現在SOCとに基づいて前記目標発電電力を決定する目標発電電力決定部(64)を備えてもよい。
【0077】
(付記3)
付記2に記載の電力供給システムにおいて、前記蓄電装置の劣化状態に応じた調整パラメータを決定するパラメータ決定部(58)を備え、前記予測部は、前記調整パラメータを使用することによって、前記蓄電装置の前記劣化状態に応じた前記予測SOCを予測し、前記目標発電電力決定部は、前記調整パラメータを使用することによって、前記蓄電装置の前記劣化状態に応じた前記目標発電電力を決定してもよい。
【0078】
(付記4)
移動体(10)は、付記1~3のいずれか1つに記載の電力供給システムを備える。
【0079】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0080】
10…移動体 22…電力供給システム
24…発電装置 26…蓄電装置
28…負荷装置
32…ガスタービンエンジン(エンジン) 36…発電機
56…制御部 58…パラメータ決定部
60…予測部 62…補正電力決定部
64…目標発電電力決定部 66…目標発電電力補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9