(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134778
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】地盤材料の粒度分布測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/0227 20240101AFI20240927BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N15/02 C
G01N33/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045136
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】新井 智之
(72)【発明者】
【氏名】北島 明
(72)【発明者】
【氏名】小島 秋
(72)【発明者】
【氏名】仲沢 武志
(72)【発明者】
【氏名】福島 伸二
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝識
(57)【要約】
【課題】地盤材料の粒度分布の測定を、簡便に行うことのできる方法を提供する。
【解決手段】地盤材料の粒度分布測定方法は、地盤材料から抽出された土粒子を、高さ情報を取得可能な撮像装置によって撮影し、撮像装置で撮影された深度画像から深度差データを作成し、深度差データを用いて複数の粒子を特定し、複数の粒子の粒度分布を求め、複数の粒子の粒度分布から地盤材料の粒度分布を推定する。複数の粒子の特定は、深度差データをXY座標に展開し、各座標に高さデータを割り当てる第1のステップと、XY座標に展開された高さデータの中から最大高さを有する座標を特定する第2のステップと、特定された座標を中心として最大高さに対応する長さを直径とする円弧を生成し、円弧をXY座標の中に投影して1つの粒子の範囲を画定する第3のステップと、深度差データの中から第3のステップで画定された範囲のデータを除く第4のステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤材料から抽出され試料台に撒き出された複数の土粒子を、高さ情報を取得可能な撮像装置によって撮影し、
前記撮像装置で撮影された深度画像から深度差データを作成し、
前記深度差データを用いて複数の粒子を特定し、
前記複数の粒子の粒度分布を求め、
前記複数の粒子の粒度分布から前記地盤材料の粒度分布を推定することを含み、
前記複数の粒子の特定は、
前記深度差データをXY座標に展開し、各座標に高さデータを割り当てる第1のステップと、
前記XY座標に展開された高さデータの中から最大高さを有する座標を特定する第2のステップと、
前記特定された座標を中心として前記最大高さに対応する長さを直径とする円弧を生成し、前記円弧を前記XY座標の中に投影して1つの粒子の範囲を画定する第3のステップと、
前記深度差データの中から前記第3のステップで画定された範囲のデータを除く第4のステップと、を含み、
前記第2のステップ乃至前記第4のステップを繰り返す
ことを特徴とする地盤材料の粒度分布測定方法。
【請求項2】
地盤材料から抽出され試料台に撒き出された複数の土粒子を、高さ情報を取得可能な撮像装置によって撮影し、
前記撮像装置で撮影された深度画像から深度差データを作成し、
前記深度差データを用いて複数の粒子を特定し、
前記複数の粒子の粒度分布を求め、
前記複数の粒子の粒度分布から前記地盤材料の粒度分布を推定することを含み、
前記複数の粒子の特定は、
前記深度差データをXY座標に展開し、各座標に高さデータを割り当てる第1のステップと、
前記深度差データの中から最大高さを有する第1の座標を特定する第2のステップと、
前記第1の座標を中心とし、前記最大高さに対応する長さを直径とする球状体を1つの粒子と仮定する第3のステップと、
前記球状体の複数点の高さを、前記深度差データの測定点の間隔に対応付けて計算する第4のステップと、
前記第4のステップで算出された前記複数点の高さと同じ高さを有するデータを前記深度差データから取り除く第5のステップと、
前記第5のステップの後に前記深度差データを更新する第6のステップと、を含み、
前記第2のステップ乃至前記第6のステップを繰り返す、
ことを特徴とする地盤材料の粒度分布測定方法。
【請求項3】
前記地盤材料の中から所定の粒径以上の粗粒分を抽出する、請求項1又は2に記載の地盤材料の粒度分布測定方法。
【請求項4】
前記複数の粒子の粒度分布から、Talbot曲線により前記地盤材料の粒度分布を推定する、請求項1又は2に記載の地盤材料の粒度分布測定方法。
【請求項5】
前記撮像装置として、深度カメラ、ステレオカメラ、レーザ変位センサ、から選ばれた一つが用いられる、請求項1又は2に記載の地盤材料の粒度分布測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、画像処理によって地盤材料の粒度分布を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤材料の粒度分布を測定する方法として、ふるい分析、沈降分析が知られている。これらの分析方法は、日本工業規格において詳細に規定されている(JIS A 1204 土の粒度試験方法)。このような従来の分析方法に対し、コンピュータを用いた画像処理によって土粒分布を推定する方式が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-036533号公報
【特許文献2】特開2021-117625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ふるい分析は、試料となる土を乾燥させる必要があり、分析を始める前の準備に多大な時間が必要となっている。また、ふるい分析は、データを取得するまでに多くの作業が必要となり、1回の分析で1日を費やしてしまうことがある。
【0005】
一方、特許文献1、2に開示されるように、通常のデジタルカメラで撮影した画像を解析する方法では、光の反射や影の影響を受けて撮影された画像から正確に粒度分布を評価できないことが問題となる。また、通常のデジタルカメラで撮影された画像では、試料である土の色と、その背景(土を散布した場合には下地の色)との兼ね合いにより、正確な粒度分布を測定できないことが問題となる。さらに、特許文献1、2に開示されるような画像を解析する方法では、粒子同士が接触している場合に個々の粒子を区別することができず、大きな一つの粒子として認識してしまい、正確な粒度分布を測定できないことが問題となる。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、地盤材料の粒度分布の測定を、簡便に行うことのできる方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る地盤材料の粒度分布測定方法は、地盤材料から抽出され試料台に撒き出された複数の土粒子を、高さ情報を取得可能な撮像装置によって撮影し、撮像装置で撮影された深度画像から深度差データを作成し、深度差データを用いて複数の粒子を特定し、複数の粒子の粒度分布を求め、複数の粒子の粒度分布から地盤材料の粒度分布を推定することを含む。複数の粒子の特定は、深度差データをXY座標に展開し、各座標に高さデータを割り当てる第1のステップと、XY座標に展開された高さデータの中から最大高さを有する座標を特定する第2のステップと、特定された座標を中心として最大高さに対応する長さを直径とする円弧を生成し、円弧をXY座標の中に投影して1つの粒子の範囲を画定する第3のステップと、深度差データの中から第3のステップで画定された範囲のデータを除く第4のステップと、を含み、第2のステップ乃至第4のステップを繰り返すことにより行われる。
【0008】
本発明の一実施形態に係る地盤材料の粒度分布測定方法は、地盤材料から抽出され試料台に撒き出された複数の土粒子を、高さ情報を取得可能な撮像装置によって撮影し、撮像装置で撮影された深度画像から深度差データを作成し、深度差データを用いて複数の粒子を特定し、複数の粒子の粒度分布を求め、複数の粒子の粒度分布から地盤材料の粒度分布を推定することを含む。複数の粒子の特定は、深度差データをXY座標に展開し、各座標に高さデータを割り当てる第1のステップと、深度差データの中から最大高さを有する第1の座標を特定する第2のステップと、第1の座標を中心とし、最大高さに対応する長さを直径とする球状体を1つの粒子と仮定する第3のステップと、球状体の複数点の高さを、深度差データの測定点の間隔に対応付けて計算する第4のステップと、第4のステップで算出された複数点の高さと同じ高さを有するデータを深度差データから取り除く第5のステップと、第5のステップの後に深度差データを更新する第6のステップと、を含み、第2のステップ乃至第6のステップを繰り返すことで行われる。
【0009】
本発明の一実施形態において、地盤材料の中から所定の粒径以上の粗粒分を抽出して行われてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態において、複数の粒子の粒度分布からTalbot曲線により地盤材料の粒度分布を推定することができる。
【0011】
本発明の一実施形態において、撮像装置として、深度カメラ、ステレオカメラ、レーザ変位センサ、から選ばれた一つが用いられてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、地盤材料の粒度分布を求めるときに、サンプリングされた試料の粗粒成分を、二次元情報のみでなく高さ(奥行き)情報を含む三次元情報を用い、土粒子の形状を球状体に近似してデータ処理を行うことで、試料の粒度分布を簡易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法を説明するフローチャートを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法における、深度差画像の生成を説明する図である。
【
図3】本発明の一実施形態によって得られる深度差データをXY座標に展開した一例であり、X軸方向及びY軸方向に配列された升目の中に高さが表された状態を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法により得られる通貨質量百分率と粒径の関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法を説明するフローチャートを示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態によって得られる深度差データから得られる最大高さデータの位置を中点とする球状体を平面視し、その球状体の各測定点に対応する高さを示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係る粒度分布測定システムの機能的な構成を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る粒度分布測定システムのハードウェア的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面などを参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有しない。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態は、深度カメラで撮影され取得された試料の高さ情報に基づいて地盤材料の粒度分布を推定する方法を示す。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法を説明するフローチャートを示す。本実施形態に係る粒度分布測定方法は、地盤材料から試料のサンプリング、サンプリングされた試料のふるい分け、ふるい分けされた試料の撮影、撮影により得られた画像データのデータ処理、粒径の算出、粒度分布の推定の順に進められる。以下、その詳細を説明する。
【0017】
地盤材料には、石分、礫分、砂分、細粒分が含まれている。このような地盤材料から所定の量をサンプリングして試料を準備する(S200)。地盤材料にはさまざまな粒径の土粒子が含まれている。JISA0207:2018(地盤工学用語)では、地盤材料に含まれる土粒子の粒径の範囲によって、石分(粒径75mm以上の土粒子)、れき(礫)分(粒径2mm以上75mm未満の土粒子)、砂分(粒径が0.075mm以上2mm未満の土粒子)、シルト分(径が0.005mm以上0.075mm未満の土粒子)に分類されており、また、粒径0.075mm以上75mm未満の土粒子を粗粒分、粒径0.075mm未満の土粒子を細粒分と呼んでいる。
【0018】
本実施形態では撮像装置で地盤材料を撮影して、その画像データから粒度分布を求めるため、細粒分と呼ばれるような微細な土粒子は画像解析に適さないので測定対象としていない。そのため、地盤材料からサンプリングされた試料をふるいにかけて分別する(S202)。例えば、ふるいにより、試料を粒径10mm以上の成分と10mm未満の成分に分別する。なお、分別する粒径の大きさは適宜設定することができ、例えば、0.1mm~20mmの範囲で設定することができる。例えば、大粒径成分が多い場合には、試料を粒径26.5mm以上の成分と26.5mm未満の成分に分別してもよく、大粒径成分が少ない場合には、試料を粒径9.5mm以上の成分と9.5mm未満の成分に分別してもよい。
【0019】
以下の説明では、便宜上、分別された試料のうち、粒径の大きい成分を「粗粒成分」、粒径の小さい成分を「細粒成分」と呼ぶこととする。
【0020】
ふるい分けされた試料のうち粗粒成分が選択される(S204)。また、後のデータ処理のため、粗粒成分の重量測定及び細粒分の重量測定が行われる(S206、S208)。重量測定は、試料に水分が含まれない乾燥状態で行われることが好ましい。
【0021】
写真撮影のため、試料(粗粒成分)は平面上に撒き出される(S210)。試料(粗粒成分)を撒き出す範囲、状態に限定はないが、測定精度を高めるためには土粒子が重ならずに分散されていることが好ましい。なお、本実施形態の粒度分布測定方法によれば、後述されるように、ある程度土粒子が重なっていても、2つの粒子を区別して粒径を評価することができる。
【0022】
撮像装置によって平面上に撒かれた試料(粗粒成分)の撮影が行われる(S212)。土粒子の形状を正確に撮影するため、撮影は試料(粗粒成分)が撒かれた平面の上方から行われる。撮影によって、試料(粗粒成分)の二次元画像(二次元カラー画像)及び三次元画像が取得される。撮像装置として深度カメラ(デプスカメラ)が用いられる。深度カメラを用いることで、土粒子の高さ(平面からの高さ)に関する情報を得ることができる。また、二次元画像の取得には撮像装置として通常のデジタルカメラが用いられてもよいし、深度カメラに二次元画像を撮影する機能を有する場合には、その機能が併用されてもよい。
【0023】
通常のデジタルカメラで撮影される画像は二次元画像であり、高さ(奥行き)に関する情報は含まれていない。二次元画像から立体的な形状を認識するためには、被写体の色の違いやグラデーションから判断する必要がある。コンピュータで二次元画像から立体的形状を認識するには人工知能(機械学習)を導入するなど、高度で煩雑な作業が必要となる。一方、深度カメラを用いると、粒子の平面的な形状のみでなく、その高さ情報を数値データとして取得することができる。本実施形態では、深度カメラを用いることで、試料(粗粒成分)の各粒子の粒径に関する情報のみでなく、高さ情報を取得して、粒度分布の評価を行っている。
【0024】
なお、本ステップでは、以降で説明するように、試料(粗粒成分)が撒かれる前のブランク撮影と、試料(粗粒成分)が撒かれた後の実撮影との少なくとも2回の撮影が行われる。
【0025】
撮像装置で取得された三次元画像データ、二次元画像データは、記憶装置(ソリッドステートドライブ(SSD)、ハードディスクドライブ(HDD)などのストレージデバイス)に格納される。
【0026】
記憶装置に格納された三次元画像データを読み出して深度差データの生成が行われる(S214)。深度差データとは、例えばある1つの土粒子に着目した場合、その土粒子の高さと試料台の高さの差分をとったデータであり、当該土粒子の高さそのものを示すデータである。深度差データは、次に説明する深度差画像から取得することができる。
【0027】
図2(a)(b)は、深度差画像の生成を説明する図である。
図2(a)は、深度カメラで撮影された深度画像であり、試料台に試料を撒き出さない状態で撮影された深度画像Aと、試料台に試料を撒き出した状態で撮影された深度画像Bとを示す。
図2(b)に示す深度差画像は、
図2(a)に示すブランク撮影された深度画像Aと試料(粗粒成分)を撮影した深度画像Bとを比較することにより生成される。深度画像A及び深度画像Bには、それぞれ高さ情報(別言すれば、カメラから被写体までの距離に関する情報)が含まれている。したがって、深度画像Aと深度画像Bとの差をとれば、土粒子の高さ情報を得ることができ、このデータを二次元にマッピングすれば深度差画像を生成することができる。深度画像Aと深度画像Bとの差をとることにより、試料(粗粒成分)が撒かれた平面の傾き、うねりなどの誤差を誘引する要素を排除することができる。深度差画像は、高さごとに色分けをすることで、土粒子の位置と高さを表現することができる。
【0028】
具体的に、
図2(a)に示される深度画像Bを参照すると、試料(粗粒成分)を構成する複数の土粒子の他に、背景として平面の高さが色分けされて示されている。深度画像Aにおいても、同様に平面の高さが色分けされて同様のパターンが示されている。深度画像A、Bから、下地である平面の右上の高さと左下の高さが異なっていることが判る。このような深度画像A、Bから深度差画像(=深度画像B-深度画像A)を生成することで、下地の影響を排除して試料(粗粒成分)の各粒子の高さを得ることができる。
図2(a)は赤色に近いほどカメラに近く、青色に近いほどカメラから離れている配色としている。つまり、赤色に近いほど高さが高い。なお、配色の凡例は例えば
図2(a)に示すように設定されている。
【0029】
上記のようにして得られた深度差画像から深度差データを生成する。深度差データは、例えば、高さデータが測定された位置(測定点)がXY座標で表され、測定点の座標に高さの値が対応付けられた構造を有する。したがって、深度差データはXYZ座標系で表すこともできる。
【0030】
次に、深度差データを用いて深度差カメラで撮影された各土粒子の粒径を評価する。各土粒子の粒径の評価は、深度差データの中から最大高さの座標を特定し(S218)、最大高さを直径とし、その座標位置を中心とする円弧を描き(S220)、円弧の範囲を一つの粒子とみなしてその粒径(最大高さ=直径)を記録し(S222)、深度差データから当該円弧の範囲内にあるデータを除去する(S224)、といった順番に行われる。
【0031】
図3は、深度差データをXY座標に展開した一例であり、X軸方向及びY軸方向に配列された升目(測定点に対応)の中に高さを表す数値が示されている。升目の中の数値が大きいほど高いことを示す。なお、数値は説明のために模式的に示されたものである。試料台の上に撒き出された土粒子を深度カメラで撮影すると、深度差データは、土粒子ごとに所定の高さデータが取得され、土粒子が無い領域では高さデータが得られないこととなる。したがって、
図3に模式的に示すように、土粒子の分布に従って高さデータが取得され、土粒子が存在しない領域ではブランクとなる。
【0032】
深度差データに基づいた土粒子の特定は高さ情報に基づいて行われる。具体的には、深度差データの中から最大高さを示すデータを抽出する。
図3を参照して説明すると、座標X
11-Y
9(X
11、Y
9は説明のために用いる便宜的な表記である。)で高さ10が示されており、この点が深度差データの中で最大高さを示すデータとなっている。したがって、最初に座標X
11-Y
9の座標を、最大高さを示す座標と特定する(S218)。
【0033】
座標X11-Y9の高さは、土粒子を球体と仮定したときに直径に相当するので、この座標を中心に高さ10に相当する直径の円弧S1を描く(S220)。そして、円弧S1を1つの粒子とみなし、その直径(高さ)を粒径として記憶装置に記録する(S222)。この円弧S1内の深度差データは1つの粒子に含まれるデータであるので、深度差データの中から除き、深度差データを更新する(S224)。そして、このようなデータ処理を深度差データの中に測定されたデータが無くなるまで繰り返し行う(S226)。
【0034】
例えば、次には、更新された深度差データの中から最大高さを示す座標X3-Y10が特定される。座標X3-Y10の高さは5であるので、この高さに相当する長さを直径とする円弧を描き1つの粒子と特定する。
【0035】
座標X11-Y3と座標X13-Y3のように、近接した座標で最大高さを示す座標が特定される場合もある。このような場合でも、それぞれの座標を中心に円弧S4、S5を描き土粒子の特定を行う。
【0036】
また、座標X9-Y6のように、土粒子が小さい場合(粒径が深度差カメラの分解能に近い場合)、一点しか高さデータが取得されない場合もある。このような場合でも、その座標を中心に円弧S3を描き1つの粒子として特定する。
【0037】
上記のような、深度差データの中の最大高さの抽出と、その高さに相当する長さを直径とする円弧を1つの土粒子とみなすデータ処理を、深度差データの中に残余データが無くなるまで繰り返すことで、測定された試料(粗粒成分)を球体に近似して各土粒子の粒径(直径)を得ることができる。そして、得られた粒径データを用いて試料(粗粒成分)の粒度分布を求める(S232)。
【0038】
図4は、粒度分布を通過質量百分率Pと粒径Dの関係で示すグラフである。グラフに示す粒度曲線Aが、試料(粗粒成分)を画像解析して得られた粒度分布である。なお、通過質量百分率Pとは、各粒径D以下の土粒子の全体に対する質量百分率、すなわち、その粒径D以下の土粒子の総質量の土粒子全体の総質量に占める割合を百分率で示した値である。
【0039】
次に、粒度曲線Aの特性を基にして全試料(粗粒成分及び細粒成分)の粒度分布の推定を行い(S234)、細粒成分を考慮に入れた粒度分布を取得する(S236)。
【0040】
まず、
図4に示す粒度曲線Aに対し、ステップS204、S206で測定した粗粒成分及び細粒成分のそれぞれの質量に対する質量比を考慮して変換した部分的な粒度曲線Bを求める。そして、全試料(粗粒成分及び細粒成分)の粒度分布の推定は、式(1)に示すTalbot式を用いて行う。
P=(D/Dmax)
n×100 (%) (1)
ここで、Dmaxは最大粒径であり、nは粒径分布の良不良を示す指数である。式(1)を変形すると、P={100/(Dmax)
n}×D
n=Pr×D
nとなり、nは粒度曲線Bを累乗式により近似すれば得ることができ、Dmaxは累乗式の係数Pr=100/(Dmax)
nより、
Dmax=(100/Pr)
1/n (2)
として算出することができる。
【0041】
図4のグラフに示す粒度曲線Cは、このような計算により得られたTalbot曲線を示す。Talbot曲線を、粗粒成分の粒度分布として得られた粒度曲線Bにフィティングさせることにより、細粒成分を含む全体の粒度分布を推定することができる。
【0042】
本実施形態で示すように、地盤材料の粒度分布を求めるときに、サンプリングされた試料の粗粒成分を、二次元情報のみでなく高さ(奥行き)情報を含む三次元情報から土粒子の形状を球体に近似してデータ処理を行うことで、試料の粒度分布を推定することができる。本実施形態では、深度差データの最大値を1つの土粒子の直径として扱い、最大高さを中心に円弧を描くことで土粒子の特定が容易となり計算負荷を低減することができる。それにより、地盤材料の評価に要する時間が短縮され、生産性の向上を図ることができる。
【0043】
[第2実施形態]
本実施形態は、第1実施形態とは異なる手法で地盤材料の粒度分布を推定する方法を示す。本実施形態では、深度差画像から求められた高さデータに基づいて、土粒子が全て同じ形状(例えば、球体)を有するものと仮定して粒子径を予測する手法を採用している。
【0044】
図5は、本発明の一実施形態に係る粒度分布測定方法を説明するフローチャートを示す。試料のサンプリング(S200)から深度差データから最大高さの座標を特定(S218)までの各段階は、第1実施形態と同様に行われる。
【0045】
最大高さを示す座標が特定されたら、その最大高さに相当する長さを直径とする球体を仮定する(S219)。そして、仮定された球体の複数点の高さを計算する(S221)。複数点の間隔は、深度差データの測定点の間隔であり、すなわち深度カメラの測定点の間隔と同じとする。例えば、深度カメラで高さデータを取得するときの測定点の間隔が0.1mmである場合、ここで計算する球体の複数点の間隔も同じとする。
【0046】
図6は、ステップS221で計算される複数点の座標を示す。ステップS219で中心点C0が特定され、中心点C0の高さZが2rであった場合(Z=2r)、半径rの球体を平面視したときの各点の高さを計算する。例えば、深度カメラでの実際の測定間隔が半径rの半分の長さであった場合、半径rの球体を平面視したときに、その中に、中心Z=2rの点を除き12点の測定点が含まれることとなる。そして、測定点に相当する各点の高さは、
図6に示されるように球体の半径rに基づいて求めることができる。
【0047】
このようにして仮定された球体を平面視したときの各点(全13点)の高さが計算により求められたら、深度差データの中から計算値と同じ高さを有するデータを検索する(S223)。この検索では、深度差データの中の高さデータにのみ着目し、XY座標位置は無視される。別言すれば、仮定された球体の中心座標から半径以上離れた点のデータであっても計算値と一致するデータであればそのデータを対応データとする。
【0048】
ここで、計算された高さと、深度差データの中の高さデータとの同一性の判断は、完全同一を条件としてもよいし、所定の範囲を含むように規定されていてもよい。例えば、計算された高さに対して、±20%の範囲を許容範囲として深度差データの中から該当するデータを検索するようにしてもよい。
【0049】
そして、検索の結果、深度差データの中から対応データの収集が成功したか否かの判断をする(S225)。例えば、上記の例のように、深度差データの中から計算された12点の高さデータの全てに対応するデータを収集できたときは成功と判断する。また、深度差データの中から計算された12点の高さデータに対し、80%以上の個数で対応データが収集できたとき成功と判断するようにしてもよい。また、数理計画法の知見を用いて計算された値と、実際の深度差データの整合性の最適化を行ってもよい。
【0050】
データの収集が成功したと判断された場合には、深度差データから集められたデータのセットを深度差データから取り除き(S227)、深度差データを更新する(S229)。すなわち、特定された中心点の座標と、計算された12点に対応する値を有するデータの全13点のデータセットを作成し、深度差データから13点分のデータを取り除き、深度差データを更新する。そして、深度差データの残り数をカウントし、残存データが規定値以上残っていればステップS218に戻って同様のデータ処理を繰り返す。一方、深度差データの残存データ数が規定値以下である場合には、粗粒成分の粒度分布の算出(S232)に進む。
【0051】
また、ステップS225で、対応データの収集に失敗したときは、ステップS230に進み残存データ数の判定を行う。
【0052】
粗粒成分の粒度分布の算出(S232)から粗粒成分を考慮に入れた粒度分布の取得(S232)までは第1実施形態と同様である。
【0053】
なお、本実施形態では、土粒子を球体であると仮定して、1つの粒子の粒径を求めるようにしているが、これは真球体に限定されず、回転楕円体のような球状体であってもよい。また、仮定する粒子の形状は、幾何学的な立体形状を有するものであってもよい。さらに、仮定する粒子の形状は、球状体と回転楕円体との組み合わせといった、複数の形状を組み合わせてもよい。
【0054】
本実施形態では、試料に含まれる土粒子の粒径が異なるものの、概略一定の形状を有すると仮定して、深度差カメラで撮影された土粒子の粒径を求めるようにしている。このように土粒子の粒径を予測することによっても、試料の粒度分布を推定することができる。本実施形態に係る粒度分布の測定方法によれば、個々の土粒子の粒径を、画像データから直接的に測定しないので、地盤材料の評価に要する時間が短縮され、生産性の向上を図ることができる。
【0055】
[第3実施形態]
本実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態に示す粒度分布測定方法を実行することのできる粒度分布測定システムの一例を示す。
【0056】
図7は、本実施形態に係る粒度分布測定システム100の機能的な構成を示す。粒度分布測定システム100は、
図1及び
図5に示す粒度分布測定方法をハードウェア資源及びソフトウェア資源により実行する機能を有し、撮像部102及びデータ処理部104で構成されている。撮像部102は、試料(粗粒成分)の二次元画像、三次元画像を撮影する機能を有する。データ処理部104は撮像部102で撮影された画像データに基づいて試料(粗粒成分)の粒径を求め、さらに粒度分布を推測する機能を有する。
【0057】
撮像部102は、試料(粗粒成分)を撮影し三次元画像データを取得する機能を有する。三次元画像データは、被写体の高さ(奥行き)の情報を含むデータである。また、撮像部102は、三次元画像データに加え二次元画像データを生成する機能を有していてもよい。また、撮像部102は、三次元画像データ、二次元画像データをデータ処理部104に出力する機能を有する。
【0058】
データ処理部104は、深度差データ生成部106、最大点特定部108、粒径評価部110、データ更新部112、粒度分布計算部114、粒度分布推定部116、データ出力部118により構成される。データ処理部104には、さらに、付随する機能として、入力インターフェース124、出力インターフェース126、記憶部122が含まれてもよい。
【0059】
深度差データ生成部106は、ブランク撮影と実撮影された三次元画像データから、高さ情報の差分を計算して、試料(粗粒成分)の各土粒子の高さ情報を含む深度差画像を生成する機能を有する。最大点特定部108は、深度差データを検索し最大となる高さデータ(XY座標上の位置、高さの値)を特定する機能を有する。粒径評価部110は、第1実施形態に係る測定方法に従えば、最大点特定部108で特定された最大高さを有する座標を中心として、円弧を描き粒径を特定する機能を有し、第2実施形態に係る測定方法に従えば、最大点特定部108で特定された最大高さを有する座標を中心とした球状体を仮定し、仮定された球状体の複数点の高さを深度カメラの測定点の間隔に基づいて計算し、計算された各点の高さに対応するデータを深度差データの中から検索する機能を有する。
【0060】
データ更新部112は、深度差データを更新する機能を有する。データ更新部112は、第1実施形態に係る測定方法に従えば、描かれた円弧の内側に含まれるデータを特定し、深度差データから取り除く機能を有し、第2実施形態に係る測定方法に従えば、粒径評価部110で計算値と対応付けられた測定データを、深度差データから取り除き更新する機能を有する。
【0061】
粒度分布計算部114は、粒径評価部110で得られた各土粒子の粒径に基づいて、粒度分布を算出する機能を有する。粒度分布推定部116は、粒度分布計算部114で算出された試料(粗粒成分)の粒度分布から、評価対象である地盤材料の粒度分布を推定する機能を有する。例えば、粒度分布推定部116は、
図1のステップS228で説明したように、試料(粗粒成分)の粒度分布を通過質量百分率Pと粒径Dの関係を示す粒度曲線A(
図4参照)を計算する機能を有する。また、粒度分布推定部116は、粗粒成分及び細粒成分のそれぞれの質量に対する質量比が考慮された粒度曲線B(
図4参照)を計算する機能、Talbot式から全粒子の粒度分布を示す粒度曲線Cを計算する機能を有する。
【0062】
データ出力部120は、粒度分布計算部114で計算された各土粒子の粒径、粒度分布推定部116で計算された粒度曲線A、B、Cをグラフに表し可視化して出力デバイス128へ出力する機能を有する。出力デバイス128は可視化されたデータを、画面表示又は紙媒体へ印刷して表示する機能を有する。記憶部122は、撮像部102で撮影された各土粒子の高さ(奥行き)情報を含む三次元画像データ、通常の二次元画像データ、深度差データ生成部106で生成された深度差データ、粒径評価部110で近似された各土粒子の粒径、粒度分布計算部114で計算された各土粒子の粒径に関するデータ、粒度分布推定部116で推定された粒度分布に関するデータを格納(記憶)する機能を有する。また、記憶部122には、粒度分布を算出するために必要なオープンソースライブラリが記憶されていてもよい。
【0063】
図8は、本発明の一実施形態に係る粒度分布測定システム100のハードウェア的な構成を示す。粒度分布測定システム100は、撮像装置130とコンピュータ132とから構成される。撮像装置130とコンピュータ132とはデータ通信が可能なように無線又は有線で接続される。
【0064】
撮像装置130は、試料(粗粒成分)の画像を撮影し、デジタル形式で画像データを生成する機器であり、具体的に深度カメラ、ステレオカメラが用いられる。深度カメラは、タイム・オブ・フライト(Time of Flight)式、ストラクチャード式など各種方式が適用可能である。深度カメラ及びステレオカメラは、高さ(奥行き)情報を含む三次元画像を直接取得できるので便利である。深度カメラには二次元画像を撮影する機能を有する場合もあるが、撮像装置130には二次元画像を撮影するためのデジタルカメラが付加されていてもよい。また、画像を直接取得することができないが、撮像装置130としてレーザ変センサが用いられてもよい。レーザ変位センサを用いることで、試料(粗粒成分)の高さを含む形状を取得することができる。
【0065】
撮像装置130は、試料(粗粒成分)200の形状を正確に撮影するために、試料(粗粒成分)200が撒かれる平面に対して所定の高さから正対するように配置されていることが好ましい。また、粒度分布測定システム100には、撮像装置130を支持するフレーム、外光を遮蔽する遮蔽板などが含まれてもよい。
【0066】
コンピュータ132は、演算処理を含む汎用的な処理を行うCPU1321、画像処理を行うGPU13221、データ及び各種プログラムを記憶するメモリ1323、通信ネットワーク回線に接続する通信回路1324、入力デバイスとしてのキーボード1325(さらに、マウス、タッチパッドなどが含まれてもよい)、出力デバイスとしてのディスプレイ1326(さらにプリンタなどが含まれてもよい)などを含む。
【0067】
図7に示すデータ処理部104の各機能(深度差データ生成部106、最大点特定部108、粒径評価部110、データ更新部112、粒度分布計算部114、粒度分布推定部116、データ出力部118)は、CPU1321、GPU1322、及びメモリ1323などのハードウェア資源と、メモリ1323に記憶された粒度分布測定プログラム、オープンソースのライブラリなどのソフトウェア資源により実現され、当該各機能により
図1又は
図5に示す処理に従って粒度分布の測定が実行される。
【0068】
試料(粗粒成分)200が撒かれる平面に限定はないが、試料台150が用意されてもよい。試料台150の形状に限定はないが平坦な表面を有することが好ましい。試料台150の平坦性は高いことが好ましく、測定する試料の粒径より小さい凹凸であれば許容される。また、試料台150の表面は低反射性であることが好ましい。低反射性であれば、外光の映り込みを防止することができる。
【0069】
本実施形態で示すように、粒度分布測定システム100に三次元画像を取得可能な撮像装置130を用いて、土粒子の高さ(奥行き)情報を取得することができ、当該高さ(奥行き)情報を用いることで、土粒子をより的確に近似して粒径を求めることができる。その結果、地盤材料の粒度分布についても精度を高めることができる。それにより、地盤材料の評価に要する時間が短縮され、生産性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
100:粒度分布測定システム、102:撮像部、104:データ処理部、106:深度差データ生成部、108:最大点特定部、110:粒径評価部、112:データ更新部、114:粒度分布計算部、116:粒度分布推定部、118:データ出力部、122:記憶部、124:入力インターフェース、126:出力インターフェース、128:出力デバイス、130:撮像装置、132:コンピュータ、1321:CPU、1322:GPU、1323:メモリ、1324:通信回路、1325:キーボード、1326:ディスプレイ、150:試料台、200:試料