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特開2024-134784診断システム、診断方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134784
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】診断システム、診断方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20240927BHJP
   G06F 11/22 20060101ALI20240927BHJP
   G06N 5/04 20230101ALI20240927BHJP
【FI】
G06Q10/20
G06F11/22 675C
G06N5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045145
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 裕
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 忠信
(72)【発明者】
【氏名】西納 修一
【テーマコード(参考)】
5B048
5L049
【Fターム(参考)】
5B048DD11
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】より高精度に不具合要因を特定可能であり、他業界の不具合ナレッジをも共有可能な診断モデルの構築を実現することができる。
【解決手段】 1以上のプロセッサと、1以上のメモリリソースと、を有する診断システムであって、前記メモリリソースは、電子・電動システムの不具合を診断する不具合診断プログラムを格納し、前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:前記電子・電動システムの不具合状態を示す不具合関連情報の取得に基づき診断対象の電子・電動システムの業界および不具合種類を特定し、特定した第1の業界に対応するパラメータ情報を設定した所定の数理アルゴリズムにより出力された、前記不具合種類に対応する不具合要因間の関係性の強さを示す因果係数を、不具合要因の発生確率として算出し、前記発生確率に基づいて前記不具合要因を特定する診断を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のプロセッサと、1以上のメモリリソースと、を有する診断システムであって、
前記メモリリソースは、電子・電動システムの不具合を診断する不具合診断プログラムを格納し、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
前記電子・電動システムの不具合状態を示す不具合関連情報の取得に基づき診断対象の電子・電動システムの業界および不具合種類を特定し、
特定した第1の業界に対応するパラメータ情報を設定した所定の数理アルゴリズムにより出力された、前記不具合種類に対応する不具合要因間の関係性の強さを示す因果係数を、不具合要因の発生確率として算出し、
前記発生確率に基づいて前記不具合要因を特定する診断を行う
ことを特徴とする診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の診断システムであって、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
特定した前記第1の業界に対応する前記パラメータ情報がない場合、前記第1の業界とは異なる第2の業界のパラメータ情報を設定した前記数理アルゴリズムにより出力された前記因果係数を、所定の観点による業界ごとの規格値を業界横断の相対値として正規化した正規化変換係数であって、前記第1の業界および前記第2の業界に対応する当該正規化変換係数の比率で正規化することで、前記不具合要因の発生確率を算出する
ことを特徴とする診断システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の診断システムであって、
前記メモリリソースは、前記数理アルゴリズムの機械学習を行う学習プログラムをさらに格納し、
前記プロセッサは、前記学習プログラムを実行することで:
特定した前記不具合要因に対する措置および不具合解消の有無に関する情報に基づき、前記数理アルゴリズムの機械学習を実行することで前記パラメータ情報を更新し、
診断を行った前記業界に対応するパラメータ情報として前記メモリリソースに格納する
ことを特徴とする診断システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の診断システムであって、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
特定した前記不具合種類に対応する不具合要因間の相関関係と同一又は類似の相関関係を示す不具合相関情報であって、前記第1の業界とは異なる業界に対応する前記不具合相関情報を特定し、当該不具合相関情報を用いて不具合要因を特定する診断を行う
ことを特徴とする診断システム。
【請求項5】
請求項2に記載の診断システムであって、
前記正規化変換係数は、前記電子・電動システムの機能安全レベルに関する業界標準の規格値を業界横断の相対値として正規化することで求めた値である
ことを特徴とする診断システム。
【請求項6】
請求項2に記載の診断システムであって、
前記正規化変換係数は、前記電子・電動システムの製造メーカにおける安全・信頼性設計に関する設計方式を業界横断の相対値として正規化することで求めた値である
ことを特徴とする診断システム。
【請求項7】
請求項2に記載の診断システムであって、
前記正規化変換係数は、前記電子・電動システムに使用されている部品の故障率予測モデルの計算式と、運用環境を示す情報と、に基づき算出した値である
ことを特徴とする診断システム。
【請求項8】
請求項2に記載の診断システムであって、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
前記電子・電動システムのシステム構成要素に変更があった場合、変更箇所に対応する正規化変換係数βを用いて前記不具合要因の発生確率を算出する
ことを特徴とする診断システム。
【請求項9】
請求項2に記載の診断システムであって、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
診断対象である前記第1の業界の前記電子・電動システムのシステム構成と、前記第2の業界の前記電子・電動システムのシステム構成と、の類似度を判定し、
前記類似度の高い前記第2の業界における前記電子・電動システムに対応する前記パラメータ情報を設定した前記数理アルゴリズムにより出力された前記因果係数と、前記第1の業界に対応する前記正規化変換係数と、を用いて、前記不具合要因の発生確率を算出する
ことを特徴とする診断システム。
【請求項10】
請求項2に記載の診断システムであって、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
前記電子・電動システムによるサービスに応じて異なる部品の故障率に基づき正規化された正規化変換係数を用いて、前記不具合要因の発生確率を算出する
ことを特徴とする診断システム。
【請求項11】
1以上のプロセッサと、1以上のメモリリソースと、を有する診断システムが行う診断方法であって、
前記メモリリソースは、電子・電動システムの不具合を診断する不具合診断プログラムを格納し、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
前記電子・電動システムの不具合状態を示す不具合関連情報の取得に基づき診断対象の電子・電動システムの業界および不具合種類を特定するステップと、
特定した第1の業界に対応するパラメータ情報を設定した所定の数理アルゴリズムにより出力された、前記不具合種類に対応する不具合要因間の関係性の強さを示す因果係数を、不具合要因の発生確率として算出するステップと、
前記発生確率に基づいて前記不具合要因を特定する診断ステップと、を行う
ことを特徴とする診断方法。
【請求項12】
請求項11に記載の診断方法であって、
前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:
特定した前記第1の業界に対応する前記パラメータ情報がない場合、前記第1の業界とは異なる第2の業界のパラメータ情報を設定した前記数理アルゴリズムにより出力された前記因果係数を、所定の観点による業界ごとの規格値を業界横断の相対値として正規化した正規化変換係数であって、前記第1の業界および前記第2の業界に対応する当該正規化変換係数の比率で正規化することで、前記不具合要因の発生確率を算出するステップを行う
ことを特徴とする診断方法。
【請求項13】
1以上のプロセッサと、1以上のメモリリソースと、を有する診断システムの前記プロセッサが前記メモリリソースから読み込んで実行するプログラムであって、
前記メモリリソースは、電子・電動システムの不具合を診断する不具合診断プログラムを格納し、
前記プロセッサが実行する前記不具合診断プログラムは:
前記電子・電動システムの不具合状態を示す不具合関連情報の取得に基づき診断対象の電子・電動システムの業界および不具合種類を特定し、
特定した第1の業界に対応するパラメータ情報を設定した所定の数理アルゴリズムにより出力された、前記不具合種類に対応する不具合要因間の関係性の強さを示す因果係数を、不具合要因の発生確率として算出し、
前記発生確率に基づいて前記不具合要因を特定する診断を行う
ことを特徴とするプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムであって、
前記プロセッサが実行する前記不具合診断プログラムは:
特定した前記第1の業界に対応する前記パラメータ情報がない場合、前記第1の業界とは異なる第2の業界のパラメータ情報を設定した前記数理アルゴリズムにより出力された前記因果係数を、所定の観点による業界ごとの規格値を業界横断の相対値として正規化した正規化変換係数であって、前記第1の業界および前記第2の業界に対応する当該正規化変換係数の比率で正規化することで、前記不具合要因の発生確率を算出する
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システム、診断方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転に対するニーズの高まりに伴い、情報機器向けの半導体や通信規格が車載機器に採用されるケースが増加している。また、このような傾向がAI(Artificial Intelligence)の産業分野やミッションクリティカル分野に波及することで、様々な産業分野を横断した共通の半導体や通信規格の採用比率が増加すると予測される。
【0003】
また、こういったトレンドを踏まえ、電子・電動システムの機能安全規格IEEE P2851では、機能安全設計・検証プロセスにおけるデータ・検証プロセスを、業界横断的に共通プロセス化することが推進されている。
【0004】
一方で、電子・電動化されたサービスシステムの高信頼・安全運用を目的とする診断技術は、現状、業界ごとに構築されている。具体的には、各ベンダは、業界標準の安全基準、信頼性基準に則って設計・開発された診断システムを、業界の標準データ・標準プロセスに基づきカスタマイズすることで運用している。
【0005】
なお、類似するシステム構成や同じ部品を活用したシステムであっても、業界が異なる場合、安全基準・信頼性基準には相互に違いがある。そのため、診断モデルの生成にあたり、別業界のナレッジを共有することが難しく、機械学習ベースの診断モデルを一から構築する必要が生じる。
【0006】
そのため、複数の業界に跨って各業界のナレッジを共有した効率的な診断モデルの構築が課題となる。
【0007】
なお、特許文献1には、複雑な環境内でのエラー状態を診断するシステムが開示されている。具体的には、特許文献1には、「検出された故障の確率の高い原因の診断を生成するためのシステムであり、有利には、ユーザインターフェースが設けられており、Bayesianネットワークが使用され、その際、確率が自動的に生成され、確率表を構成するためにマニュアル過程が使用されている。システムにより、複数の仮説及び/又は診断がオペレータに同時に提供される」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-356696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のシステムでは、ベイジアンネットワークを活用して複雑系で生じる故障原因の診断を行っている。しかしながら、同文献のシステムでは、別業界の不具合ナレッジを共有した効率的な診断モデルの生成については考慮されていない。そのため、特許文献1の技術では、複数の業界に跨って各業界のナレッジを共有した効率的な診断モデルの構築という課題を解決することは難しい。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、業界横断的に不具合ナレッジを共有することで効率的な診断モデルの構築を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、上記課題の少なくとも一部を解決する手段を複数含んでいるが、その例を挙げるならば、以下のとおりである。上記の課題を解決する本発明の一態様に係る診断システムは、1以上のプロセッサと、1以上のメモリリソースと、を有する診断システムであって、前記メモリリソースは、電子・電動システムの不具合を診断する不具合診断プログラムを格納し、前記プロセッサは、前記不具合診断プログラムを実行することで:前記電子・電動システムの不具合状態を示す不具合関連情報の取得に基づき診断対象の電子・電動システムの業界および不具合種類を特定し、特定した第1の業界に対応するパラメータ情報を設定した所定の数理アルゴリズムにより出力された、前記不具合種類に対応する不具合要因間の関係性の強さを示す因果係数を、不具合要因の発生確率として算出し、前記発生確率に基づいて前記不具合要因を特定する診断を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より高精度に不具合要因を特定可能であり、他業界の不具合ナレッジをも共有可能な診断モデルの構築を実現することができる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】診断システムの概略構成の一例を示した図である。
図2】不具合相関情報の一例を示した図である。
図3】数理アルゴリズム(ニューラルネットワーク)の一例を示した図である。
図4】パラメータ要素の一例を示した図である。
図5】正規化変換係数の一例を示した図である。
図6】診断システムの機能構成の一例を示した図である。
図7】各処理の一例を示したフロー図である。
図8】診断モデル生成処理の詳細を示したフロー図である。
図9】診断処理の詳細を示したフロー図である。
図10】不具合要因と発生確率との関係を示した図である。
図11】不具合要因と発生確率との関係を示した図である。
図12】診断結果の一例を示した図である。
図13】第二実施形態に係る正規化変換係数の一例を示した図である。
図14】第五実施形態に係る類似度の判定結果の一例を示した図である。
図15】第六実施形態に係る類似する電子・電動システムの各サービスにおける使用環境の一例を示した図である。
図16】サービス形態1の概要図である。
図17】サービス形態2の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態に係る診断システム100の概略構成の一例を示した図である。診断システム(以下、「本システム」という場合がある)100は、電子・電動システムで生じた不具合を診断する装置である。
【0017】
具体的には、診断システム100は、診断モデルを用いて、移動体(例えば、EV:Electric Vehicleを含む自動車等)やロボット(例えば、産業ロボットやサービスロボット)などに搭載されている各種の電子・電動システム(例えば、自動車における認識システム/車輪駆動システム/コネクテッドシステム等、ロボットにおける認識システム/アーム駆動システム/コネクテッドシステム等)で発生した不具合を診断し、特定した不具合要因を診断結果として出力する。
【0018】
より具体的には、診断システム100は、以下の要素から構成される診断モデルを用いて電子・電動システムで生じた不具合を診断する。
*「診断対象の不具合カテゴリに対応する業界のパラメータ情報が存在する場合」
**不具合相関情報:各々の電子・電動システムの専門領域における不具合の相関関係を示す情報。例えば、FTA:Fault Tree Analysis、FMEA:Failure Mode and Effects Analysisなど。
**数理アルゴリズム:ニューラルネットワークなどの数理アルゴリズム。不具合相関情報におけるノード間の関係性の強さを示す因果係数αを出力する情報モデル。
**パラメータ情報:数理アルゴリズムに設定されるパラメータ値。
【0019】
*「診断対象の不具合カテゴリに対応する業界のパラメータ情報が存在しない場合」
**不具合相関情報
**数理アルゴリズム
**パラメータ情報
**正規化変換係数β:業界ごとの安全・信頼性基準の規格値を業界横断的な相対値として正規化した係数。
【0020】
また、診断システム100は、診断結果に対してユーザがとった措置や不具合解消の有無に応じて、因果係数αの算出に用いる数理アルゴリズムを実行するためのパラメータ情報を更新する。
【0021】
また、診断システム100は、診断対象の電子・電動システムに対応する業界のパラメータ情報が存在しない場合、他の業界のパラメータ情報を用いて数理アルゴリズムが出力した因果係数αを、当該他の業界の正規化変換係数βと、診断対象の電子・電動システムに対応する業界の正規化変換係数βと、の比率に基づき正規化し、正規化後の因果係数αを用いて不具合要因を特定する。
【0022】
このような本システムによれば、より高精度に不具合要因を特定可能であり、他業界の不具合ナレッジをも共有可能な診断モデルの構築を実現することができる。
【0023】
なお、診断対象となる電子・電動システムは、移動体やロボットに限定されるものではなく、様々な種類の電子・電動システムが対象となるが、本実施形態では、移動体である自動車の電子・電動システムで生じた不具合の診断を例に説明する。
【0024】
<診断システム100の構成>
図1に示すように、診断システム(プロセッサシステム)100は、例えば通信ケーブルや所定の通信ネットワーク(例えば、インターネット、LAN(Local Area Network)あるいはWAN(Wide Area Network)など)Nにより外部装置10と相互通信可能に接続されている。
【0025】
<<外部装置10>>
外部装置10は、診断システム100へ各種の情報を送信する装置である。この場合、外部装置10には、不具合関連情報を診断システム100に送信する車両システムや本システム100で実行される処理に用いられる種々の有用情報を提供する事業者の計算機が含まれる。
【0026】
また、外部装置10は、診断システム100が出力した診断結果を表示する装置である。この場合、外部装置10には、例えば自動車メーカなどの製品製造・保守事業者、インフラ管理事業者など、本システム100が提供する診断サービスを受ける事業者の計算機が含まれる。
【0027】
<<診断システム100の詳細>>
診断システム100は、メモリリソース30に格納されたプログラム210や各種の情報をプロセッサ20が読み込むことにより、様々な処理を実行する。具体的には、診断システム100は、不具合関連情報を用いて電子・電動システムにおける不具合カテゴリを特定する処理(以下、「不具合カテゴリ特定処理」という場合がある)を実行する。
【0028】
また、診断システム100は、特定した不具合カテゴリに基づき診断モデルを生成する処理(以下、「診断モデル生成処理」という場合がある)を実行する。
【0029】
また、診断システム100は、診断モデルに基づき不具合要因を診断する診断処理を実行する。
【0030】
また、診断システム100は、診断結果に対してユーザがとった措置や不具合解消の有無に基づき、数理アルゴリズムの機械学習(以下、「学習処理」という場合がある)を行う。
【0031】
なお、これらの各処理の詳細については後述する。
【0032】
なお、診断システム100は、例えば、サーバ計算機やクラウドサーバあるいはパーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォンであり、少なくともこれらの計算機を1つ以上含むシステムである。
【0033】
具体的には、診断システム100は、プロセッサ20と、メモリリソース30と、NI(Network Interface Device)40と、UI(User Interface Device)50と、を有している。
【0034】
プロセッサ20は、メモリリソース30に格納されているプログラム210を読み込んで、当該プログラム210に対応する処理を実行する演算装置である。なお、プロセッサ20は、マイクロプロセッサ、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいはその他の演算できる半導体デバイス等が一例として挙げられる。
【0035】
メモリリソース30は、各種情報を記憶する記憶装置である。具体的には、メモリリソース30は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの不揮発性あるいは揮発性の記憶媒体である。なお、メモリリソース30は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスクあるいはSSD(Solid State Drive)などの書き換え可能な記憶媒体や、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカードおよびハードディスクであっても良い。
【0036】
NI40は、外部装置10との間で情報通信を行う通信装置である。NI40は、例えばLANやインターネットなど所定の通信ネットワークNを介して外部装置10との間で情報通信を行う。なお、以下で特に言及しない場合、診断システム100と外部装置10との情報通信は、NI40を介して実行されているものとする。
【0037】
UI50は、ユーザ(オペレータ)の指示を診断システム100に入力する入力装置、および、診断システム100で生成した情報等を出力する出力装置である。入力装置には、例えばキーボード、タッチパネル、マウスなどのポインティングデバイスや、マイクロフォンのような音声入力装置などがある。
【0038】
また、出力装置には、例えばディスプレイ、プリンタ、音声合成装置などがある。なお、以下で特に言及しない場合は、診断システム100に対するユーザの操作(例えば、情報の入力、出力および処理の実行指示など)は、UI50を介して実行されているものとする。
【0039】
また、本システム100の各構成、機能、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、本システム100は、各機能の一部または全部を、ソフトウェアにより実現することもできるし、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現することもできる。また、本システム100は、固定的な回路を有するハードウェアを用いても良いし、少なくとも一部の回路を変更可能なハードウェアを用いてもよい。
【0040】
また、診断システム100は、各プログラムにより実現される機能や処理の一部または全部をユーザ(オペレータ)が実施することで、システムを実現することもできる。なお、診断システムは、当該プロセッサシステムの代わりにシステム外部のスマートフォンやタブレット等のプロセッサシステム(外部プロセッサシステムと呼ぶ)に、ユーザへの出力処理や、ユーザからの入力処理の一部を任せる場合がある。このような場合、診断システム(又はそのプロセッサ20、プログラム)は、各処理やプログラムの他の部分を実行するために、以下を行っても良い。
【0041】
UI50を用いたユーザへの出力の代わりとして、NI40を介して外部プロセッサシステムに、ユーザへの出力に必要なデータの送信をする。当該データの例としては、出力するデータそのもの、出力データを別のプロセッサシステムで生成するためのデータが考えられるが、外部プロセッサシステムでユーザ出力を行う処理が記述されたプログラムやWebデータであっても良い。
【0042】
また、診断システム100は、UI50を用いたユーザからの入力又は操作受信の代わりとして、NI40を介して外部プロセッサシステムから、ユーザ入力又は操作を示すデータを受信する。別な視点では、ユーザへのデータ出力の意味は、診断システム100自身が行うことも含む以外に、当該システム100以外の別の存在に当該データ出力をさせる(使役)ことを含めても良い。また、ユーザからの入力又は操作受信の意味は、診断システム100のユーザへの直接出力や受信をする以外に、診断システム100が間接的に当該受信をすることを含めても良い。
【0043】
また、以下で説明するメモリリソース30内のデータベースや各種の情報は、データを格納できる領域であれば、ファイル等やデータベース以外のデータ構造であっても良い。また、1つのプログラムが複数のプログラムの役割を兼ねても良い。また、その逆であっても良い。すなわち、1以上のプログラムが図示する各プログラムの処理を行っても良い。
【0044】
なお、診断システムで実行されるプログラムは、当該システム100が読み込み可能な不揮発ストレージ媒体に格納されても良い。なお、当該不揮発ストレージ媒体に格納されたプログラムは、直接、診断システム100が読み込んでも良いが、プログラム配信用のプロセッサシステムが当該媒体からプログラムを読み込み、その後、プログラム配信用のプロセッサシステムから診断システム100に当該プログラムを送信(配信)しても良い。なお、当該不揮発ストレージ媒体の例は、メモリリソース30として説明した不揮発メモリが例として考えられるが、それ以外の光ディスク媒体でも良い。
【0045】
<<不具合関連情報DB110>>
不具合関連情報DB110は、不具合関連情報を格納するデータベースである。なお、不具合関連情報は、不具合の影響による電子・電動システムの稼働状態(不具合状態)などを示す情報である。具体的には、不具合関連情報には、移動体における電子・電動システムの内部データ(以下、「システム内部データ」という場合がある)、プローブデータ、ユーザ情報、環境情報、インフラ情報および製品・サービス情報が含まれている。
【0046】
システム内部データは、例えばECU(Electronic Control Unit)から出力されるエラーログなどの情報である。また、プローブデータは、例えば走行時の位置情報やドライブレコーダで撮像された映像情報などである。また、ユーザ情報は、例えば不具合に関するユーザの訴え(コメント)を記録した問診情報などである。また、環境情報は、例えば走行中の天候や路面状況などを示す情報である。また、インフラ情報は、例えばコネクテッドサービス利用時のサーバログなどの情報である。また、製品・サービス情報は、例えば製品の設計文書やサービスマニュアルなどの情報である。
【0047】
なお、診断システム100は、情報の種類に応じた事業者(例えば、自動車メーカ、インフラ管理事業者、環境情報を提供する事業者など)や移動体のユーザが有する計算機(例えば、外部装置10)から不具合関連情報を取得し、不具合関連情報DB110に格納する。
【0048】
<<不具合相関情報DB120>>
不具合相関情報DB120は、不具合相関情報を格納するデータベースである。なお、不具合相関情報は、いわゆる知識グラフやFTA情報あるいはFMEA情報である。具体的には、不具合相関情報は、不具合に関する知識項目に対応するノードと、その関係性を表すリンクと、から構成されている。
【0049】
図2は、不具合相関情報の一例を示した図である。図示する不具合相関情報は、緊急ブレーキの誤動作(TOP事象)に関する知識グラフを一例として示している。具体的には、図示する例では、カメラシステムの故障や制御ECUの故障といった不具合に関する知識項目(ノード)が含まれており、リンク(パス)により関連するノード同士が接続されている。なお、パスの始点が不具合要因、パスの終点が不具合の結果に対応しており、パスは、ある不具合(結果)がどのような要因で発生し得るか、という関係性を表している。
【0050】
このような不具合相関情報は、各業界の電子・電動システムにおける不具合のTOP事象ごとに存在する。なお、図2は、自動車業界の電子・電動システムにおいて、緊急ブレーキの誤作動というTOP事象に対応する不具合相関情報を例示している。すなわち、不具合相関情報DB120には、自動車業界などの各業界の電子・電動システムにおける様々なTOP事象に対応した複数の不具合関連情報が格納されている。また、TOP事象は、不具合カテゴリが示す不具合の種類(不具合の内容)に対応している。
【0051】
このような不具合相関情報は、事前に外部装置10から取得され、不具合相関情報DB120に格納されていれば良い。
【0052】
<<数理アルゴリズム130>>
数理アルゴリズム130は、所定の数理モデルに実行させるアルゴリズムであって、本実施形態ではニューラルネットワークを用いた場合を例に説明する。なお、数理アルゴリズム130は、ニューラルネットワークに限定されるものではなく、例えばXGBoost(eXtreme Gradient Boosting/勾配ブースティング回帰木)など、他の回帰モデルであっても良い。
【0053】
数理アルゴリズム130は、不具合相関情報におけるノード間の関係性の強さを示す因果係数αを算出する。
【0054】
図3は、ニューラルネットワークの一例を示した図である。図示するように、ニューラルネットワークは、不具合関連情報(システム内部データ等)に相当する入力層と、所定数の中間層(図示する例では、第1層~第3層までの3層)と、不具合要因の候補を示す出力層と、から構成されている。なお、このようなニューラルネットワークのモデル構成については、後述のパラメータ情報によって定義されている。
【0055】
数理アルゴリズム130は、不具合関連情報および不具合相関情報を入力として、不具合相関情報における上位ノードと下位ノードとの関係性の強さを示す因果係数αを出力する。
【0056】
なお、図3は、図2に例示した不具合相関情報において、カメラシステムの故障という上位ノードと、センサの故障、認識AIのHW(Hardware)の故障、通信LSIの故障および通信ケーブルの故障という各下位ノードとの関係性の強さα、α、αおよびαが出力された状態を示している。
【0057】
<<パラメータ情報DB140>>
パラメータ情報DB140は、数理アルゴリズム130のパラメータを格納するデータベースである。具体的には、パラメータは、業界、不具合カテゴリ、モデル構成、重み係数、バイアスおよび活性化関数といった所定のパラメータ要素を有している。
【0058】
図4は、パラメータ要素の一例を示した図である。ここで、業界は、不具合の診断対象の電子・電動システムが属する業界である。不具合種類は、不具合相関情報におけるTOP事象に相当する情報(例えば、図2で例示した「緊急ブレーキの誤動作」)である。
【0059】
モデル構成は、数理アルゴリズム130の構成を示す情報である。なお、ニューラルネットワークの場合、モデル構成としては、入力層、中間層および出力層の数が定義されている。
【0060】
重み係数は、入力層、中間層および出力層の各層間におけるノード(ニューロン)の繋がりの重みを示す係数である。バイアスは、各ノード(ニューロン)の繋がりのバイアス(流れ易さ)を示す情報である。活性化関数は、数理アルゴリズム130で採用されている非線形変換の関数の種類を示す情報である。活性化関数には、例えば、ReLU(Rectified Linear Unit)や、Step関数などがある。
【0061】
このようなパラメータ情報は、診断対象の電子・電動システムの業界ごとに存在し、パラメータ情報DB140に格納されている。
【0062】
<<正規化変換係数DB150>>
正規化変換係数DB150は、正規化変換係数βを格納するデータベースである。なお、正規化変換係数は、業界ごとに定義されている安全・信頼性の基準に基づき決定される規格値を業界横断的な相対値として正規化した係数である。
【0063】
図5は、正規化変換係数βの一例を示した図である。図示するように、正規化変換係数βは、例えば、自動車業界における通信IFの規格値であるASIL-Dや、産業ロボット業界におけるカメラの規格値であるSIL-2などを、業界横断の相対値として正規化した値(図示するβ1-1の0.001、図示するβ3-2の0.01など)である。
【0064】
このように、正規化変換係数βは、診断対象の電子・電動システムの業界ごとに存在し、正規化変換係数DB150に格納されている。
【0065】
なお、不具合関連情報、不具合相関情報、数理アルゴリズム、パラメータ情報および正規化変換係数の各々は、以下で説明する各処理の実行時に外部装置10から直接取得されて各処理に用いられても良い。
【0066】
<<不具合履歴関連情報DB160>>
不具合履歴関連情報DB160は、不具合履歴関連情報を格納するデータベースである。なお、不具合履歴関連情報には、例えば、外部装置10から取得した不具合関連情報、不具合の診断結果、および、診断結果に対してユーザがとった措置や不具合解消の有無に関する情報が含まれる。
【0067】
<<不具合診断プログラム211>>
不具合診断プログラム211は、電子・電動システムの不具合を診断するプログラムである。具体的には、不具合診断プログラム211は、不具合関連情報に基づき不具合が生じた電子・電動システムの業界および不具合カテゴリを特定する。また、不具合診断プログラム211は、特定した業界および不具合カテゴリに対応する不具合相関情報、数理アルゴリズム130、パラメータ情報および正規化変換係数を用いて不具合要因を特定するための診断を実行する。なお、これらの処理(不具合カテゴリ特定処理、診断モデル生成処理および診断処理)の詳細については後述する。
【0068】
<<学習プログラム212>>
学習プログラム212は、診断結果に対するユーザの対応や不具合解消の有無に応じて数理アルゴリズム130の機械学習を行うプログラムである。なお、学習処理の詳細については後述する。
【0069】
以上、診断システム100の詳細について説明した。
【0070】
<診断システム100の機能構成>
図6は、診断システム100の機能構成の一例を示した図である。図示する機能部は、プロセッサ20がメモリリソース30に格納されている各プログラムを読み込むことで実現される機能を理解容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。そのため、各機能の分類の仕方や機能部の名称によって、本発明が制限されることはない。
【0071】
不具合診断部300は、プロセッサ20が不具合診断プログラム211を読み込むことで実現される機能を理解容易にするために分類した機能部である。また、不具合診断部300は、処理内容に応じて、さらに不具合カテゴリ特定部302および診断部301に分類される。
【0072】
また、学習部310は、プロセッサ20が学習プログラム212を読み込むことで実現される機能を理解容易にするために分類した機能部である。また、学習部310は、処理内容に応じて、さらに情報登録部311および再学習部312に分類される。
【0073】
なお、各機能部の一部は、計算機に実装されるハードウェア(ASICといった集積回路など)により構築されてもよい。また、各機能部の処理が1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
【0074】
<処理の説明>
図7は、不具合カテゴリ特定処理、診断モデル生成処理、診断処理および学習処理の一例を示したフロー図である。以下では、これらの処理の詳細を順に説明する。
【0075】
なお、各処理の主体は、メモリリソース30に格納されているプログラムを読み込んだプロセッサ20であるが、各処理の特徴を理解容易にするため、以下では各プログラムにより実現される機能部を処理の主体として説明する。
【0076】
不具合カテゴリ特定処理は、例えば、ユーザ(オペレータ)による処理の実行指示を受け付けると開始される。
【0077】
処理が開始されると、不具合カテゴリ特定部302は、不具合関連情報を不具合関連情報DB110から取得する(ステップS010)。なお、取得対象の不具合関連情報は、ユーザによって指定されても良く、あるいは不具合関連情報DB110への格納順(例えば、古い順)に取得されても良い。
【0078】
次に、不具合カテゴリ特定部302は、不具合関連情報を解析することで、電子・電動システムの対象分野(業界)と、不具合の種類(不具合の内容)と、を示す不具合カテゴリを特定する(ステップS011)。不具合カテゴリ特定部302は、例えば、システム内部データやプローブデータに記録されている情報の解析に基づき、不具合カテゴリを特定する。
【0079】
不具合カテゴリを特定すると、不具合カテゴリ特定部302は、ステップS020に処理を移行する。
【0080】
ステップS020では、診断部301は、診断モデル生成処理を実行する。具体的には、診断部301は、不具合カテゴリに対応する不具合相関情報、数理アルゴリズム130、パラメータ情報等をセット(組)にした診断モデルを生成する。
【0081】
図8は、診断モデル生成処理の詳細を示したフロー図である。図示するように、診断部301は、不具合カテゴリに対応する業界(この場合、第1の業界)のパラメータ情報があるか否かを判定する(ステップS021)。具体的には、診断部301は、パラメータ情報DB140を検索し、第1の業界に対応するパラメータ情報の有無を判定する。
【0082】
そして、対応するパラメータ情報があると判定した場合(ステップS021でYes)、診断部301は、処理をステップS022に移行する。一方で、対応するパラメータ情報がないと判定した場合(ステップS021でNo)、診断部301は、処理をステップS024に移行する。
【0083】
ステップS022では、診断部301は、不具合カテゴリに対応する不具合相関情報と、第1の業界のパラメータ情報と、数理アルゴリズム130と、を各々、対応するデータベースから取得する。
【0084】
そして、診断部301は、取得した情報をセット(組)にした診断モデルを生成する(ステップS023)。すなわち、診断対象の不具合カテゴリに対応する業界(第1の業界)のパラメータ情報が存在する場合、診断モデルは、当該業界のパラメータ情報と、不具合カテゴリ(特に、不具合の種類(内容))に対応する不具合相関情報と、数理アルゴリズム130と、を1組とした情報により構成される。
【0085】
なお、ステップS024では、診断部301は、不具合カテゴリに対応する不具合相関情報と、他の業界(第1の業界とは異なる第2の業界)の既存のパラメータ情報と、数理アルゴリズム130と、第1の業界および第2の業界の正規化変換係数と、を取得する。そして、診断部301は、取得した情報をセット(組)にした診断モデルを生成する(ステップS023)。
【0086】
すなわち、診断対象の不具合カテゴリに対応する業界(第1の業界)のパラメータ情報が存在しない場合、診断モデルは、当該業界とは異なる業界(第2の業界)の既存のパラメータ情報と、不具合カテゴリに対応する不具合相関情報と、数理アルゴリズム130と、第1の業界および第2の業界に対応する正規化変換係数と、を1組とした情報により構成される。
【0087】
次に、診断部301は、取得したパラメータ情報に基づき数理アルゴリズム130を設定する(ステップS024)。また、診断部301は、数理アルゴリズム130の設定を行うと、処理をステップS030に移行する。
【0088】
ステップS030では、診断部301は、診断モデルを用いた診断処理を実行する。具体的には、診断部301は、診断モデルを用いて、不具合要因ごとの発生確率を算出する。
【0089】
図9は、診断処理の詳細を示したフロー図である。図示するように、診断部301は、数理アルゴリズム130が不具合カテゴリに対応する業界(第1の業界)のパラメータ情報により設定されているか否かを判定する(ステップS0301)。
【0090】
そして、第1の業界のパラメータ情報に基づき設定されていると判定した場合(ステップS0301でYes)、診断部301は、処理をステップS0302に移行する。一方で、第1の業界のパラメータ情報に基づき設定されていないと判定した場合(ステップS0301でNo)、診断部301は、処理をステップS0304に移行する。
【0091】
ステップS0302では、診断部301は、第1の業界のパラメータ情報に基づき設定された数理アルゴリズム130に対し、不具合関連情報および不具合相関情報を入力として、不具合要因間の因果係数αの出力を得る。具体的には、診断部301は、図3に示した数理アルゴリズム130(ニューラルネットワーク)に不具合関連情報と、不具合カテゴリに対応する不具合相関情報を入力し、不具合要因間の因果係数α~αの出力を得る。
【0092】
また、診断部301は、因果係数α~αに基づき、各不具合要因の発生確率を算出する(ステップS0303)
【0093】
図10は、不具合要因と発生確率との関係を示した図である。なお、診断部301は、各々の不具合要因の発生確率γ~γを因果係数α~αに基づき算出する。本例では、不具合カテゴリに対応するパラメータ情報に基づき数理アルゴリズム130が設定されているため、発生確率γ=αの関係が成立する。したがって、診断部301は、数理アルゴリズム130により出力されたα~αを各々、上位ノードから分岐した不具合要因の発生確率とする。
【0094】
なお、ステップS0304では、診断部301は、第2の業界のパラメータ情報に基づき設定された数理アルゴリズム130に対し、不具合関連情報および不具合相関情報を入力として、不具合要因間の因果係数αの出力を得る。
【0095】
この場合、診断部301は、第1の業界の正規化変換係数と、第2の業界の正規化変換係数との比率に基づき、因果係数αを正規化(乗算)して、各不具合要因の発生確率γを算出する。
【0096】
図11は、不具合要因と発生確率との関係を示した図である。診断部301は、第1の業界における正規化変換係数と第2の業界における正規化変換係数との比率を因果係数αに乗算することで、各々の不具合要因の発生確率γ~γを算出する。具体的には、診断部301は、β=第1の業界の正規化変換係数/第2の業界の正規化変換係数を、対応するαに乗算した値を不具合要因の発生確率γとして算出する。
【0097】
診断対象の不具合カテゴリに対応する業界(第1の業界)のパラメータ情報が存在する場合(ステップS0303)は、当該パラメータ情報に基づき設定された数理アルゴリズム130から出力された因果係数α~αを不具合の発生確率γとすることができる。一方で、ステップS0304の場合、第1の業界とは異なる第2の業界のパラメータ情報に基づき数理アルゴリズム130が設定されている。そのため、診断部301は、第1の業界に対応する正規化変換係数と、第2の業界に対応する正規化変換係数との比率を因果係数αに掛け合わせることで、機能別安全レベルに対する各々の業界における規格基準の違いを吸収させて、不具合要因の発生確率を算出している。
【0098】
なお、診断部301は、ステップS0303またはステップS0305の処理を行うと、処理をステップS031に移行する。
【0099】
ステップS031では、診断部301は、発生確率の高い不具合要因を診断結果として出力する。具体的には、診断部301は、発生確率の高い順に所定数(例えば、3つ)の不具合要因を特定する。また、診断部301は、特定した不具合要因と、それらの発生確率と、を対応付けた診断結果の表示情報を生成する。また、診断部301は、生成した表示情報を外部装置10に送信する。
【0100】
なお、診断結果の表示情報は、例えば、診断システム100が有する表示装置に出力されても良い。
【0101】
図12は、診断結果の一例を示した図である。図示するように、診断結果には、特定された所定数の不具合要因と、各々の発生確率と、が対応付けられている。
【0102】
なお、ユーザは、診断結果に対して行った措置や不具合解消の有無を外部装置10の入力装置を介して入力することで、対応状況に関する入力情報を診断システム100に送信(フィードバック)する。
【0103】
次に、診断システム100の情報登録部311は、診断結果とユーザからのフィードバックとを対応付けて、不具合履歴関連情報DB160に登録する(ステップS040)。
【0104】
次に、再学習部312は、対応状況等の入力情報に基づき、数理アルゴリズム130の機械学習を実行する(ステップS040)。また、再学習部312は、機械学習に基づき、数理アルゴリズム130のパラメータ情報を更新する(ステップS041)。具体的には、再学習部312は、機械学習に基づき、例えば重み係数やバイアスといったパラメータ情報のパラメータ値を更新する。
【0105】
なお、不具合カテゴリに対応する業界のパラメータ情報が存在し、当該パラメータ情報を用いて診断を行った場合、再学習部312は、数理アルゴリズム130に設定した当該パラメータ情報の更新情報をパラメータ情報DB140に格納する(既存のパラメータ情報の上書き保存)。一方で、不具合カテゴリに対応する業界のパラメータ情報が存在しない場合、すなわち他の業界のパラメータ情報を用いて不具合の診断を行った場合、再学習部312は、更新したパラメータ情報を診断対象の不具合カテゴリに対応する業界のパラメータ情報として新規にパラメータ情報DB140に格納する。
【0106】
以上、診断システム100で実行される各処理の詳細について説明した。
【0107】
このように、診断システムによれば、より高精度に不具合要因を特定可能であり、他業界の不具合ナレッジをも共有可能な診断モデルの構築を実現することができる。
【0108】
特に、本システムは、業界ごとに存在するパラメータ情報により設定された数理アルゴリズムを用いて不具合要因間の因果係数を算出できるため、より高精度に不具合要因を特定することができる。
【0109】
また、本システムでは、診断対象の不具合カテゴリに対応する業界のパラメータ情報がない場合でも、正規化変換係数βの比率に基づき正規化したαを用いて、機能別安全レベルに対する各々の業界における規格基準の違いを吸収した不具合要因の発生確率を算出することができる。そのため、本システムによれば、新規の業界の不具合診断においても、他の業界の不具合ナレッジを活用して効率的に診断モデルを構築することができる。
【0110】
なお、診断モデルの構成に含まれる不具合相関情報は、診断対象の電子・電動システムに対応する業界の不具合相関情報に限られない。例えば、診断対象の電子・電動システムに対応する業界(例えば、第1の業界)であって、不具合の種類(内容)に対応するTOP事象の不具合相関情報が存在しない場合、診断部301は、同一又は類似する他の業界(例えば、第2の業界)の不具合相関情報を診断モデルに含めても良い。
【0111】
なお、異なる業界の不具合相関情報が同一または類似であるどうかは、例えば、不具合相関情報に含まれるTOP事象、不具合要因(ノード)の内容あるいはノード間の分岐に基づき特定されれば良い。なお、同一又は類似する不具合相関情報かどうかは、予め紐付けられて管理されていれば良い。
【0112】
これにより、診断システム100は、診断対象の電子・電動システムに対応する業界の不具合相関情報が登録されていない場合でも、異なる業界の同一又は類似する不具合相関情報を含む診断モデルにより、不具合要因の発生確率を算出することができる。その結果、診断システム100は、幅広い業界に対応する不具合診断を実施することができる。
【0113】
<第二実施形態>
次に、本システム100の第二実施形態について説明する。前述の第一実施形態では、電子・電動システムの各業界における機能別安全レベルの規格値を業界横断的な相対値として正規化したβを用いた。これに対し、本実施形態では、電子・電動システムの製造メーカの安全・信頼性設計情報を活用し、設計方式を業界横断的な相対値として正規化したβを用いる。
【0114】
なお、本実施形態および以下の実施形態における診断システム100の構成および各処理は、第一実施形態と同様のため、詳細な説明を省略する。
【0115】
図13は、正規化変換係数βの一例を示した図である。図示するように、本実施形態における正規化変換係数βは、例えば、電子・電動システムの製造メーカAにおける通信IFの設計方式(シールド付きツイストペアケーブル)や、製造メーカBにおけるカメラの設計方式(Z社カメラ)などを、業界横断の相対値として正規化した値(図示するβ1-1の0.01、図示するβ2-2の0.0001など)である。
【0116】
診断システムは、このような正規化変換係数βを用いることで、製造メーカの信頼性設計情報に基づいて不具合要因比率を診断モデルに反映させることができる。その結果、製造メーカの違いによる誤差要因を低減し、不具合診断の高精度化を実現することができる。
【0117】
<第三実施形態>
第三実施形態に係る診断システム100は、例えばFIDESやIEC/TR62380などで規定される故障率予測モデルの計算式と、不具合関連情報の運用環境情報(ユーザ情報、環境情報、インフラ情報および製品・サービス情報)と、に基づき計算した値を正規化変換係数βとして用いる。
【0118】
通常、電子・電動システムで使用されている部品には、使用状況によって変化する故障率を計算する式が定まっている。診断部301は、故障率予測モデル(定式)と、使用環境や稼働時間などが含まれている不具合関連情報と、に基づき、診断の都度、正規化変換係数βを算出し、不具合要因の発生確率の計算に用いる。
【0119】
診断システムは、このような正規化変換係数βを用いることで、電子・電動システムを構成する各部品の使用状態に応じた故障確率を診断モデルに反映させることができる。その結果、不具合診断の高精度化を実現することができる。
【0120】
<第四実施形態>
第四実施形態に係る診断システム100は、OTA(Over The Air)/HW(Hardware)のアップデートにより電子・電動システムのシステム構成要素に更新(変更)があった場合、更新箇所に対応する正規化変換係数βを変更する。
【0121】
例えば、OTA/HWアップデードにより、電子・電動システムの使用部品である通信LSI1および通信ケーブル1が、通信LSI2および通信ケーブル2に変更になった場合、診断部301は、変更後の部品に対応する故障率を正規化した正規化変換係数βを用いて不具合要因の発生確率を算出する。
【0122】
診断システムは、このような電子・電動システムの構成要素の更新に応じて、適宜、変更後の部品に対応する正規化変換係数βを用いるようにする。これにより、診断システムは、電子・電動システムの部品構成などに変更があっても、不具合診断の高精度化を実現することができる。
【0123】
<第五実施形態>
第五実施形態に係る診断システム100は、診断モデルが生成されていない電子・電動システムや、診断実績数(機械学習数)の少ない電子・電動システムの不具合診断を行う場合、異なる業界における類似度の高い電子・電動システムであって、既に診断実績数を重ねている電子・電動システムの診断モデルを用いる。
【0124】
図14は、電子・電動システムにおける類似度の判定結果の一例を示した図である。図示するように、電子・電動システム同士の類似度は、システム構成コンポーネント、接続トポロジおよびシステム機能といった所定の観点に基づき判定される。図示する例では、認識システム1が診断対象システムに最も類似するシステム構成を有していると判定されている。この場合、診断部301は、認識システム1の診断モデルを用いて不具合診断を行う。ただし、診断モデルに含まれる正規化変換βについては、診断部301は、診断対象の電子・電動システムの業界に対応する正規化変換βを用いて診断を行う。
【0125】
なお、類似度の判定処理については、例えば診断部301が行い、最も類似するシステム構成の電子・電動システムの診断モデルを用いて不具合診断を実行する。
【0126】
このように、類似する電子・電動システムの診断モデルを用いることで、診断システムは、診断モデルが生成されていない電子・電動システムや診断実績数の少ない電子・電動システムの診断を行う場合でも、高精度化を実現することができる。
【0127】
<第六実施形態>
第六実施形態に係る診断システム100は、類似する電子・電動システムにおいて、各々の電子・電動システムのサービスに伴う使用環境に応じた正規化変換係数βを用いて、不具合要因の発生確率を算出する。
【0128】
図15は、類似する電子・電動システムの各サービスにおける使用環境の一例を示した図である。図示するように、物流EV(Electric Vehicle)フリート、自動運転TAXIおよび自動運転バスは、類似する電子・電動システムを活用したサービスである。一方で、これらのサービスにおける電子・電動システムの環境、連続稼働時間および保守頻度は相互に異なっている。そのため、電子・電動システムは、類似するシステム構成であっても、故障しやすい部品がサービスに伴う使用環境に応じて異なる。
【0129】
このような特性を考慮して、診断システム100は、各々のサービスごとに各部品の故障率に応じて正規化された正規化変換係数βを正規化変換係数DBに格納しておく。そして、診断部301は、不具合関連情報に基づき診断対象の電子・電動システムにおけるサービス環境を特定し、環境に応じた正規化変換係数βを用いて不具合診断を行う。
【0130】
これにより、診断システムは、不具合診断の高精度化を実現することができる。
【0131】
<サービス形態1>
図16は、サービス形態1の概要図である。サービス形態1は、新規の業界に関しての不具合診断サービスの立ち上げを例としている。具体的には、新規にサービスロボット向けの不具合診断サービスを構築する場合を例としている。
【0132】
なお、診断システム100は、自動車向けや産業ロボット向けの不具合診断サービスを既に構築し、実際の不具合履歴に基づく数理アルゴリズム130の学習も進んでいる状態を前提とする。また、安全・信頼性基準として、サービスロボットの業界標準の規格値があることを前提としている。
【0133】
まず、診断システム100は、サービスロボット業界で定義されている安全・信頼性基準に基づき決定された規格値を業界横断的な相対値として正規化することで算出されたサービスロボット業界に対応する正規化変換係数βを、正規化変換係数DB150に登録する。
【0134】
なお、新規業界向けの不具合診断サービスの立ち上げ期には、当該業界(サービスロボット)向けのパラメータ情報は存在しない。そのため、診断システム100は、サービスロボットが有する電子・電動システム(図示する例では、アーム駆動システムやコネクテッドシステム)と類似する別の業界の電子・電動システムの因果係数αを活用する。
【0135】
具体的には、診断システム100は、サービスロボットの認識システムには、自動車業界における既存の因果係数αを援用する。また、サービスロボットのアーム駆動システムには、産業ロボット業界における既存の因果係数αを援用する。
【0136】
このように、診断システム100は、新規業界の不具合診断サービスを立ち上げる際には、類似する電子・電動システムであって、既に学習が進んでいる電子・電動システムの因果係数αを援用して不具合診断サービスを開始する。
【0137】
また、診断システム100は、運用を通じてサービスロボットとしての機械学習を進めることで、サービスロボットにおける実態に合わせたパラメータ情報を生成および更新することができる。その結果、診断システム100は、新規業界向けにも精度の高い不具合診断サービスを構築および運用することができる。
【0138】
なお、このようなサービス形態1は、例えば、前述の第5実施形態に係る診断システム100を適用、活用することで実現することができる。
【0139】
<サービス形態2>
図17は、サービス形態2の概要図である。サービス形態2は、新規にサービスロボット向けの不具合診断サービスを構築する場合を例としている点でサービス形態1と共通する。一方で、本サービス形態2では、サービスロボット業界の業界標準となる安全・信頼性基準の規格値がない場合を想定している。
【0140】
この場合、診断システム100は、数理アルゴリズム130の学習が進んでいる自動車業界や産業ロボット業界の類似する電子・電動システムの因果係数αと、これらの業界の類似する電子・電動システムの正規化変換係数βの両方を援用する。
【0141】
具体的には、診断システム100は、サービスロボットの認識システムには、自動車業界における既存の因果係数αおよび正規化変換係数βを援用する。また、サービスロボットのアーム駆動システムには、産業ロボット業界における既存の因果係数αおよび正規化変換係数βを援用する。
【0142】
このように、診断システム100は、新規業界の不具合診断サービスを立ち上げる際には、類似する電子・電動システムであって、既に学習が進んでいる電子・電動システムの因果係数αと、その業界に対応する正規化変換係数βを援用して不具合診断サービスを開始する。また、診断システム100は、運用を通じてサービスロボットとしての機械学習を進めることで、サービスロボットにおける実態に合わせたパラメータ情報を生成および更新する。
【0143】
これにより、診断システム100は、新規業界向けにも精度の高い不具合診断サービスを構築および運用することができる。
【0144】
なお、サービスロボット業界の業界標準となる安全・信頼性基準の規格値が制定された場合には、診断システム100は、当該規格値と、他の業界の規格値との相対値を正規化した業界横断の正規化変換係数をサービスロボット業界に対応する正規化変換係数として用いれば良い。
【0145】
なお、このような診断システム100に係る計算機は、少なくとも、メモリリソース30内のプログラムを、他の計算機でも実行可能なように、当該他の計算機に対して配信するプログラム配信サーバとして機能しても良い。
【0146】
また、本発明は、上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、同一の技術的思想の範囲内において様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【0147】
また、上記説明では、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0148】
100・・・診断システム、20・・・プロセッサ、30・・・メモリリソース、40・・・NI(ネットワークインターフェースデバイス)、50・・・UI(ユーザインターフェースデバイス)、110・・・不具合関連情報DB、120・・・不具合相関情報DB、130・・・数理アルゴリズム、140・・・パラメータ情報DB、150・・・正規化変換係数DB、160・・・不具合履歴関連情報DB、210・・・プログラム、211・・・不具合診断プログラム、212・・・学習プログラム、300・・・不具合診断部、301・・・診断部、302・・・不具合カテゴリ特定部、310・・・学習部、311・・・情報登録部、312・・・再学習部、10・・・外部装置、N・・・ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17