(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134791
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】圧粉成形体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240927BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240927BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240927BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240927BHJP
C22C 19/03 20060101ALN20240927BHJP
C22C 45/02 20060101ALN20240927BHJP
C22C 45/04 20060101ALN20240927BHJP
B22F 1/08 20220101ALN20240927BHJP
【FI】
H01F1/26
B22F3/00 B
B22F9/08 A
B22F9/08 M
C22C38/00 303S
C22C19/03 E
C22C45/02 A
C22C45/04 B
B22F1/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045154
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA03
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB06
4K017BB16
4K017CA07
4K017DA02
4K017DA05
4K017FA14
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB07
4K018BC30
4K018CA02
4K018CA11
4K018KA44
4K018KA61
5E041AA04
5E041AA07
5E041BC05
5E041BD12
5E041CA02
5E041HB14
5E041NN05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】欠けやクラックが発生することを防止できる圧粉成形体を提供する。
【解決手段】圧粉成形体は、軟磁性粉末と、軟磁性粉末の周囲を被覆する絶縁被膜層と、で構成され、絶縁被膜層は、シリコーン樹脂及びシランカップリング剤を含み、シリコーン樹脂は、メチルフェニル系の樹脂である。シランカップリング剤は、グリシドキシ基を有する。シランカップリング剤がグリシドキシ基を有することにより、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることを防止することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の周囲を被覆する絶縁被膜層と、
を備え、
前記絶縁被膜層は、シリコーン樹脂及びシランカップリング剤を含み、
前記シリコーン樹脂は、メチルフェニル系の樹脂であり、
前記シランカップリング剤は、グリシドキシ基を有すること、
を特徴とする圧粉成形体。
【請求項2】
前記シランカップリング剤の添加量は、前記軟磁性粉末に対して0.3wt%以上であること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体。
【請求項3】
前記軟磁性粉末は、ガスアトマイズ粉末であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉成形体。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の添加量の上限は、前記軟磁性粉末に対して1.5wt%以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトル等のコイル部品は、OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源をはじめ、種々の用途で使用されている。例えば、リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。リアクトルは、主としてコアとコイルを備える。コイルは、コアに巻回されている。コイルに電力が供給されると、磁束を発生させる。コアは環形状となっている。コアは、コイルが発生させた磁束が流れる磁路となる。
【0003】
リアクトルのコアとして、圧粉磁心が使用されることがある。圧粉磁心は、圧粉成形体を熱処理することで作製される。圧粉成形体は、例えば、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより成形される。この加圧成形では、一般的に10~20ton/cm2と高い圧力をかけて行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高い圧力で行う加圧成形では、軟磁性粉末間の結着力が弱いと、圧粉成形体に欠けやクラックが生じる。場合によっては、圧粉成形体の脚部が取れてしまうなど、所望の形状の圧粉成形体に成形できない虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、欠けやクラックが発生することを防止できる圧粉成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の周囲を被覆する絶縁被膜層と、を備え、前記絶縁被膜層は、シリコーン樹脂及びシランカップリング剤を含み、前記シリコーン樹脂は、メチルフェニル系の樹脂であり、前記シランカップリング剤は、グリシドキシ基を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、欠けやクラックが発生することを防止できる圧粉成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】シランカップリング剤を0.5wt%添加した実施例2、7、11及び比較例2のラトラ値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の圧粉成形体の構成について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0011】
リアクトル等のコイル部品は、磁性体を含むコアを備える。コアとしては、圧粉磁心が用いられている。圧粉磁心は、軟磁性粉末を押し固めた圧粉成形体を作製し、圧粉成形体を焼鈍という熱処理することで作製される。
【0012】
本実施形態の圧粉成形体は、軟磁性粉末、絶縁被膜層を備える。絶縁被膜層は、軟磁性粉末の表面を被覆する。絶縁被膜層は、シランカップリング剤及びシリコーン樹脂を含み構成される。
【0013】
軟磁性粉末は鉄を主成分とする。軟磁性粉末としては、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。また、軟磁性粉末として、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末を使用してもよい。軟磁性粉末の粒子径(メジアン径D50)は、1μm以上200μm以下であることが望ましい。
【0014】
Fe-Si-Al合金粉末は、例えば、Feに対して、7wt%から11wt%程度のSiと、4wt%から8wt%程度のAlとを含有させている。Fe-Si-Al合金粉末には、例えば、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよい。さらに、Fe-Si-Al合金粉末にはCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0015】
Si含有鉄合金には、Co、Al、Cr又はMnが含まれていてもよい。パーマロイ(Fe-Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe-80Ni、Fe-36Ni、Fe-78Ni、Fe-47Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいてもよい。Fe-Si合金粉末は、例えば、Fe-3.5%Si合金粉末、Fe-6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であってもよい。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。
【0016】
軟磁性粉末は、粉砕法により作製されたものでも、アトマイズ法により作製されたものでも良い。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。
【0017】
もっとも、粉砕法によって作製された粉砕粉末は非円形なので、軟磁性粉末同士が結着しやすく圧粉成形体に欠けやクラックは生じにくい。一方、アトマイズ法、特にガスアトマイズ法によって作製されたガスアトマイズ粉末は円形なので、結着性が弱く圧粉成形体は脆くなりやすい。そのため、軟磁性粉末は、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることを防止できるという本発明の効果が顕著に現れるガスアトマイズ粉末の方が好ましい。
【0018】
軟磁性粉末の円形度は、平均粒子径(メジアン径D50)の粉末において、0.8以上であることが好ましい。円形度が0.8以上の場合、軟磁性粉末同士の結着性が弱く、圧粉成形体は脆くなりやすい。そのため、軟磁性粉末の円形度が0.8以上の場合に、本発明の効果が顕著に現れる。また、軟磁性粉末のビッカース硬度は400HV以上が好ましい。ビッカース硬度は400HV以上の硬い軟磁性粉末は、軟磁性粉末同士の結着力が弱く、圧粉成形体は脆くなりやすいので、本発明の効果が顕著に現れる。
【0019】
軟磁性粉末の表面には、絶縁被膜層が形成されている。絶縁被膜層は、シランカップリング剤及びシリコーン樹脂を含む。絶縁被覆層の被覆の態様としては、軟磁性粉末の1つ1つの粒子の表面を被覆する場合、いくつかの粒子が結合した結合粒子の表面を被覆する場合が含まれる。また、粒子の全表面又は表面の一部を被覆する場合が含まれる。即ち、絶縁被膜層は、軟磁性粉末の表面を完全に覆っている必要はなく、軟磁性粉末の表面の一部に付着している場合も含まれる。
【0020】
シランカップリング剤は、グリシドキシ基を有する。シランカップリング剤として、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。シランカップリング剤がグリシドキシ基を有することにより、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることを防止することができる。
【0021】
特に、シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが好ましい。3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを用いることで、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることを防止することに加えて、磁気特性も良好になる。
【0022】
シランカップリング剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.3wt%以上が好ましい。シランカップリング剤の添加量を0.3wt%以上にすると、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることを防止する効果が顕著に現れる。
【0023】
なお、シランカップリング剤の添加量の上限は、軟磁性粉末に対して1.5wt%にする方が好ましい。シランカップリング剤の添加量を1.5wt%を超えると、鉄損が悪化するからである。
【0024】
シリコーン樹脂は、メチルフェニル系の樹脂から成る。これに限定されるものではないが、メチルフェニル系のシリコーン樹脂とグリシドキシ基を有するシランカップリング剤を組み合わせることにより、加熱乾燥後においても絶縁被膜層内に有機物が残存しやすくラトラ値が良好になると推測する。メチルフェニル系のシリコーン樹脂としては、メチルフェニル系のシリコーンレジンやシリコーンオリゴマー等を用いることができる。メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁被膜層を形成することができる。また、メチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いた場合、厚く硬い絶縁被膜層を形成することができる。
【0025】
シリコーン樹脂の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.3wt%以上2.0wt%以下であることが好ましい。添加量が0.3wt%より少ないと絶縁被膜層として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.0wt%より多いと圧粉成形体の密度低下を招く。
【0026】
シランカップリング剤及びシリコーン樹脂を軟磁性粉末に添加・混合した後、加熱乾燥させることで、軟磁性粉末の表面に絶縁被膜層が形成される。加熱乾燥条件としては、これに限定されるものではないが、25℃以上350℃以下の温度で2時間程度である。
【0027】
なお、絶縁被膜層は、シランカップリング剤及びシリコーン樹脂が混合した混合層であってもよいし、シランカップリング剤の層とシリコーン樹脂の層が積層されていてもよい。例えば、絶縁被膜層がシランカップリング剤の層、シリコーン樹脂の層の順に積層されている場合、まず、軟磁性粉末にシランカップリング剤を添加・混合し、加熱乾燥を行う。その後、シランカップリング剤の層が形成された軟磁性粉末にシリコーン樹脂を添加・混合し、加熱乾燥させ、シランカップリング剤の層の表面にシリコーン樹脂の層を形成させる。
【0028】
絶縁被膜層が形成された軟磁性粉末に潤滑剤を添加してもよい。潤滑剤としては、これに限定するものではないが、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、エチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤を混合することにより、軟磁性粉末同士の滑りをよくすることができるので、圧粉成形体の密度を高くすることができる。さらに、加圧成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と軟磁性粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。
【0029】
潤滑剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.2wt%~0.8wt%程度であることが好ましい。この範囲にすることで、軟磁性粉末間の滑りをより向上させることができる。なお、潤滑剤は、絶縁被膜層が形成される前後の2回に分けて添加してもよい。即ち、シランカップリング剤及びシリコーン樹脂を添加する前段階で、軟磁性粉末に潤滑剤を添加し、その後、絶縁被膜層が形成された軟磁性粉末に潤滑剤を添加してもよい。
【0030】
潤滑剤を添加した後、軟磁性粉末を金型に注入し、加圧成形を行う。この加圧成形を行うことで、圧粉成形体は作製される。加圧成形では、軟磁性粉末に10~20ton/cm2程度の圧力を加えて圧粉成形体を作製する。加圧力は平均で12~15ton/cm2程度がより好ましい。
【0031】
その後、加圧成形によって作製させた圧粉成形体に対して、窒素ガス中、窒素と水素の混合ガス等の非酸化性雰囲気中又は大気中にて、600℃以上且つ軟磁性粉末に被覆した絶縁被膜層が破壊される温度(例えば、900℃とする)よりも低い温度で、熱処理を行う。この熱処理を経ることで圧粉磁心が作製される
【0032】
(実施例)
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1~13及び比較例1~2の圧粉成形体を作製した。実施例1~13及び比較例1~2の圧粉成形体は、添加したシランカップリング剤の種類及びその添加量が異なるのみである。
【0033】
まず、実施例1の圧粉成形体を作製した。軟磁性粉末としては、ガスアトマイズ法によって作製されたFe-Si-Al合金粉末を使用した。Fe-Si-Al合金粉末の粒径や円形度は、下記表1に示すとおりである
【0034】
【0035】
まず、Fe-Si-Al合金粉末に対して、潤滑剤を添加した。潤滑剤としては、ステアリン酸(D50=100μm、融点57℃)を用いた。ステアリン酸をFe-Si-Al合金粉末に対して、0.3wt%添加して、混合した。
【0036】
ステアリン酸を添加・混合した後、シランカップリング剤を添加・混合した。その後、シリコーン樹脂を添加・混合した。シランカップリング剤としては、下記表2に示す「B 3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン」(製品名:KBE-402)を用いた。3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランは、Fe-Si-Al合金粉末に対して、0.3wt%添加した
【0037】
【0038】
シリコーン樹脂としては、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた。シリコーンレジンは、Fe-Si-Al合金粉末に対して、1.2wt%添加した。シリコーンレジンを添加・混合した後、加熱乾燥を行った。乾燥温度は130℃であり、乾燥時間は2時間である。これにより、Fe-Si-Al合金粉末の周囲に絶縁被膜層が形成された。
【0039】
加熱乾燥後、凝集を解砕する目的で目開き850μmの篩にFe-Si-Al合金粉末を通した。その後、再度潤滑剤を添加して混合した。この際の潤滑剤は、ステアリン酸アルミニウム(D50=21μm、融点110℃)を用いた。ステアリン酸アルミニウムは、Fe-Si-Al合金粉末に対して、0.2wt%添加した。
【0040】
潤滑剤を添加・混合した後、潤滑剤が付着したFe-Si-Al合金粉末を金型に充填し、プレス成形を行い、外径11.3mm、高さ10.0mm(高さの寸法公差±0.1mm)の円柱状の圧粉成形体を作製した。プレス成形の圧力は、12.0ton/cm2で行った。この実施例1の圧粉成形体を5体作製した。
【0041】
実施例2~5は、シランカップリング剤の添加量が実施例1と異なるのみであり、シランカップリング剤の種類を含め、その他については、実施例1と同一材料、同一製法及び同一条件である。シランカップリング剤の添加量は、実施例2が0.5wt%、実施例3が0.7wt%、実施例4が1.0wt%、実施例5が1.5wt%である。
【0042】
実施例6は、シランカップリング剤の種類のみが実施例1と異なるだけであり、シランカップリング剤の添加量を含め、その他については、実施例1と同一材料、同一製法及び同一条件である。実施例6のシランカップリング剤は、上記表2に示す「C 3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン」(製品名:KBM-402)を用いた。
【0043】
実施例7~9は、シランカップリング剤の添加量が実施例6と異なるのみであり、シランカップリング剤の種類を含め、その他については、実施例6と同一材料、同一製法及び同一条件である。シランカップリング剤の添加量は、実施例7が0.5wt%、実施例8が1.0wt%、実施例9が1.5wt%である。
【0044】
実施例10は、シランカップリング剤の種類のみが実施例1と異なるだけであり、シランカップリング剤の添加量を含め、その他については、実施例1と同一材料、同一製法及び同一条件である。実施例10のシランカップリング剤は、上記表2に示す「D 3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」(製品名:KBM-403)を用いた。
【0045】
実施例11~13は、シランカップリング剤の添加量が実施例10と異なるのみであり、シランカップリング剤の種類を含め、その他については、実施例10と同一材料、同一製法及び同一条件である。シランカップリング剤の添加量は、実施例11が0.5wt%、実施例12が1.0wt%、実施例13が1.5wt%である。
【0046】
次に、比較例1及び2の圧粉成形体の作製について説明する。比較例1は、シランカップリング剤を添加していない点のみが実施例1と異なる。即ち、比較例1の絶縁被膜層はシリコーンレジンのみを含有しており、シランカップリング剤は含まれていない。比較例1において、その他については、実施例1と同一材料、同一製法及び同一条件である。
【0047】
比較例2は、シランカップリング剤の種類及び添加量のみが実施例1と異なるだけであり、その他については、実施例1と同一材料、同一製法及び同一条件である。比較例2のシランカップリング剤は、上記表2に示す「A テトラエトキシシラン」(製品名:TES28)を用いた。シランカップリング剤の添加量は、0.5wt%である。
【0048】
以上のとおり作製された実施例1~13及び比較例1~2の圧粉成形体のラトラ値を測定した。ラトラ値の測定には、ラトラー試験機(株式会社インテスコ社製)を使用した。ラトラ値は、日本粉末冶金工業会(JPMA)規格の金属圧粉体のラトラ値測定方法(JPMA P11 1992)に基づいて行った。
【0049】
まず、ラトラー試験機に投入する前に実施例1~13及び比較例1~2の圧粉成形体5体の総重量をそれぞれ測定した。その後、14meshのステンレス鋼製金網が張られた円筒形の籠の中に5体の圧粉成形体を投入し、回転速度87rpmで100回転させた。最後に、ラトラー試験機から取り出した5体の圧粉成形体の総重量を測定した。そして、回転前に測定した総重量から回転後に測定した総重量を引いて、重量減少率を求めることでラトラ値を算出した。即ち、ラトラ値は、下記の計算式(1)から算出した。
S=((A-B)/A)×100・・・(1)
S:ラトラ値(%)
A:試験前の5体の圧粉成形体の総重量(g)
B:試験後の5体の圧粉成形体の総重量(g)
【0050】
算出結果を下記表3に示す。また、シランカップリング剤を0.5wt%添加した実施例2、7、11及び比較例2のラトラ値を示すグラフを
図1に示す
【0051】
【0052】
表3に示すように、グリシドキシ基を持つシランカップリング剤を添加した実施例1~13において、もっとも高いラトラ値でも29.2%と30%より低い値になり、比較例1及び2よりも低い値となっている。そのため、シランカップリング剤としては、グリシドキシ基を持つものを用いることで、ラトラ値が低下し、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることを防止できることが確認された。
【0053】
また、グリシドキシ基を持つシランカップリング剤を0.3wt%添加した実施例1、6及び10は、シランカップリング剤を添加していない比較例1と比べて、ラトラ値が低下している。そのため、グリシドキシ基を持つシランカップリング剤を0.3wt%以上添加することで、ラトラ値が低下する効果が現れることが確認された。
【0054】
特に、グリシドキシ基を持つシランカップリング剤を0.5wt%添加した実施例2、7、11とグリシドキシ基を持たないシランカップリング剤を添加した比較例2を比べると、実施例2、7及び11のラトラ値は、表3や
図1に示すように、比較例2の1/2以下になっている。このことからグリシドキシ基を持つシランカップリング剤を絶縁被膜層として構成することで、ラトラ値が低下することが確認された。
【0055】
さらに、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン又は3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを1.0wt%以上添加した実施例4、5、8及び9は、ラトラ値が15%よりも低くなり、極めて良好な数値になっている。そのため、シランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン又は3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを1.0wt%以上添加することで、圧粉成形体に欠けやクラックが生じることをより効果的に防止できることが確認された。
【0056】
なお、ラトラ値は、成形体の欠け性に関する指標なので、強度とは相関関係にない。つまり、強度が上がればラトラ値も低下するとは直ちにいえるものではない。
【0057】
次に、実施例14及び比較例3の圧粉成形体を更に作製した。実施例14は、Fe-Si-Al合金粉末を粉砕法で作製した粉砕粉末である点が実施例2と異なるのみであり、シランカップリング剤の種類及び添加量も含めて、その他については、実施例2と同一材料、同一製法及び同一条件である。
【0058】
比較例3は、Fe-Si-Al合金粉末を粉砕法で作製した粉砕粉末である点が比較例2と異なるのみであり、シランカップリング剤の種類及び添加量も含めて、その他については、比較例2と同一材料、同一製法及び同一条件である。
【0059】
実施例14及び比較例3の圧粉成形体も5体ずつ作製し、ラトラ値を算出した。ラトラ値の算出は、上記と同様の装置及び測定条件である。算出結果を下記表4に示す
【0060】
【0061】
表4に示すように、Fe-Si-Al合金粉末が粉砕粉末である場合においても、グリシドキシ基を持つシランカップリング剤を添加した実施例14の方が比較例3よりもラトラ値が低くなっていることが確認された。即ち、軟磁性粉末の種類は、ガスアトマイズ粉末に限られず、粉砕粉末であってもラトラ値低下の効果が生じることが確認された。
【0062】
もっとも、比較例3を見ると、ラトラ値は3.9%であり、もともと低い値となっており、実施例14のラトラ値が飛躍的に低下していると言い難い。一方、ガスアトマイズ粉末である比較例2のラトラ値は、58.0%と高い値となっている。そして、実施例2のラトラ値は29.0%であり、比較例2の半分と飛躍的に低下している。そのため、ガスアトマイズ粉末である軟磁性粉末に対して、グリシドキシ基を持つシランカップリング剤を添加すると、より顕著にラトラ値低下の効果が現れることが確認された。
【0063】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。