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  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図1
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図2
  • 特開-表面疵の深さ推定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134794
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】表面疵の深さ推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/84 20060101AFI20240927BHJP
   G01N 21/91 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N27/84
G01N21/91 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045158
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】山腰 浩平
(72)【発明者】
【氏名】湯藤 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】網干 甚吾
【テーマコード(参考)】
2G051
2G053
【Fターム(参考)】
2G051AA07
2G051AB02
2G051BA05
2G051GB02
2G051GD10
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053BB11
2G053CA11
2G053CA20
2G053CB21
2G053CB29
2G053DB07
2G053DC17
2G053DC20
(57)【要約】
【課題】磁粉探傷において金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することが可能な表面疵の深さ推定方法を提供する。
【解決手段】磁粉探傷で得られる金属材Mの表面模様画像を学習済みの畳み込みニューラルネットワーク21に入力して当該表面模様画像中の疵画像の疵種を判別させ、疵種が判別された上記疵画像の、画像サイズと画像輝度を、回帰分析部22の回帰式の、それぞれ説明変数(x1,x2)とするとともに上記疵種をダミー変数(D1~D5)とし、表面疵の深さを前記回帰式の目的変数(y)として、当該疵種の上記表面疵の深さを推定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉探傷で得られる金属材の表面模様画像を学習済みの畳み込みニューラルネットワークに入力して当該表面模様画像中の疵画像の疵種を判別させ、疵種が判別された前記疵画像の、画像サイズと画像輝度を、回帰式の、それぞれ所定の係数が乗ぜられた説明変数とするとともに前記疵種を所定の係数が乗ぜられたダミー変数とし、表面疵の深さを前記回帰式の目的変数として、当該疵種の前記表面疵の深さを推定することを特徴とする表面疵の深さ推定方法。
【請求項2】
前記金属材は鋼片であり、ブラックライトとカメラを内蔵した探傷器が前記鋼片の検査表面に対向してこれに沿って移動し、前記ブラックライトで照射された前記検査表面の蛍光磁粉で描かれた前記表面模様画像を前記カメラで撮像する請求項1に記載の表面疵の深さ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面疵の深さ推定方法に関し、特に磁粉探傷で得られる金属材の表面模様画像から当該金属材の表面疵の深さを推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁化された金属材の表面に蛍光磁粉を散布して、当該蛍光磁粉で描かれる表面模様画像より疵部位を判別し、疵部位の縦横比から疵種を判定している。そして、上記疵部位の平均幅に平均輝度を乗じた深さ指標値を得て、当該指標値に、疵種に応じて予め得られた係数を乗じて疵深さを算出し推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-210969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来の疵深さ推定方法では疵種を疵部位の縦横比から判定しているが、実際には作業者は小さな波打ち模様や磁粉の局所的な濃淡変化等をも考慮に入れて疵深さを官能的に推定しており、疵部位の縦横比のみから疵種を一義的に定めることは困難であって、このため、疵深さの正確な推定も困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題を解決するもので、磁粉探傷において金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することが可能な表面疵の深さ推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、磁粉探傷で得られる金属材(M)の表面模様画像を学習済みの畳み込みニューラルネットワーク(21)に入力して当該表面模様画像中の疵画像の疵種を判別させ、疵種が判別された前記疵画像の、画像サイズと画像輝度を、回帰式の、それぞれ所定の係数(b,c)が乗ぜられた説明変数(x1,x2)とするとともに前記疵種を所定の係数(d1~d5)が乗ぜられたダミー変数(D1~D5)とし、表面疵の深さを前記回帰式の目的変数(y)として、当該疵種の表面疵の深さを推定することを特徴とする。
【0007】
一例として、前記金属材は鋼片(M)であり、ブラックライト(11)とカメラ(12)を内蔵した探傷器(1)が前記鋼片(M)の検査表面(M1)に対向してこれに沿って移動し、前記ブラックライト(11)で照射された前記検査表面(M1)の蛍光磁粉で描かれた前記表面模様画像を前記カメラ(12)で撮像する。
【0008】
本発明によれば、学習済みの畳み込みニューラルネットワークによって表面疵の疵種を確実に判別して、判別された当該疵種をダミー変数とするとともに疵画像の画像サイズと画像輝度を説明変数とした回帰式によって、疵深さを正確に推定することができる。
【0009】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の表面疵の深さ推定方法によれば、磁粉探傷において金属材の表面疵の疵種に応じた疵深さを正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明方法を実施する磁気探傷装置の概略構成を示す図である。
図2】表面模様画像の一例を示す図である。
図3】疵深さについて、作業者観測値と回帰分析推定値を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0013】
図1には本発明方法を使用する磁気探傷装置の概略構成を示す。探傷対象となる金属材たる角型鋼片Mが支持台S上に置かれており、その検査表面M1は、図示を省略する公知の磁化器によって磁化された後、蛍光磁粉液が散布されて磁粉模様が生じている。鋼片Mの上方には平行にその長手方向に沿ってレールRが設置されて、当該レールRに沿ってガイドローラR1により移動可能に探傷器1が設けられている。探傷器1内には鋼片Mの検査表面M1に向けてブラックライト11とカメラ12が設けられており、ブラックライト11から紫外線を照射されて蛍光を発した磁粉の表面模様がカメラ12で撮像される。そして、探傷器1が鋼片Mに沿って移動するのに伴って、鋼片Mの検査表面M1の表面模様画像が逐次処理装置2へ送られる。ここで図2(1)、(2)には疵画像D1,D2を含む表面模様画像の一例を示し、図2(3)には疑似画像SDを含む表面模様画像の一例を示す。
【0014】
図1において、処理装置2はコンピュータを内設しており、学習済みのCNN(畳込みニューラルネットワーク)部21と、切片や係数の値が定まった回帰式を備える回帰分析部22が構成されている。CNN21では、カメラ12から送られてきた表面模様画像中の疵画像から疵種が判別される。本実施形態ではCNN21は、ワレ疵やヘゲ疵等の5種の疵種(疵A,疵S,疵H,疵M,疵Y)を判別する。表1にCNN21の仕様の一例を示す。訓練画像は233枚、評価用画像は71枚である。表2には上記CNN21による判別結果を示し、175個の表面疵の疵画像を識別して各疵種(疵A~Y)に判別した結果は検出率98%であった。疑似模様を表面疵と判別する過検出の割合は0%であり、十分に信頼できるものであった。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
回帰分析部22の回帰式は、数1に示すように、疵深さyを目的変数、表面模様画像中の疵画像サイズ(面積あるいは直径)x1および疵画像輝度(平均あるいは最大)x2をそれぞれ説明変数、D1,D2,D3,D4,D5をそれぞれ疵A~Yのダミー変数(当該疵であった場合に値「1」となり、他の場合は値「0」)とするものである。
【0018】
【数1】
【0019】
回帰分析部では予め疵種が判明している表面疵について、その深さy、疵画像サイズx1および疵画像輝度x2を測定し、必要数の測定値から最小二乗法等によって、数1に示す回帰式中の、切片a、係数b,c,d1,d2,d3,d4,d5の値を得ておく。これら切片aおよび各係数b,c,d1~d5の一例を表3に示す。
【0020】
【表3】
【0021】
鋼片Mの表面疵の深さを推定する場合には、表面模様画像を入力したCNN部21によって疵画像の疵種が判別され、並行して上記表面模様画像より疵画像サイズと疵画像輝度が測定されて、CNN部21で判別された疵種D1~D5と、測定された画像サイズx1および画像輝度x2より回帰分析部22で数1に示す上記回帰式によって疵深さyの値が推定される。
【0022】
ちなみに、切片aおよび係数b,d1~d5を表3で示した値に設定した回帰式で疵深さyを推定した場合の推定値と、作業者による観測値の関係は図3に示すようなものとなった。この場合の自由度修正済み決定係数を計算すると0.821であり、作業者と同程度の十分な精度で疵深さを推定できている。
【符号の説明】
【0023】
1…探傷器、11…ブラックライト、12…カメラ、2…処理装置、21…畳込みニューラルネットワーク部、21…回帰分析部、M…鋼片、M1…検査表面。
図1
図2
図3