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特開2024-134806唾液を用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断補助方法
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  • 特開-唾液を用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断補助方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134806
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】唾液を用いた閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断補助方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045186
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】鮎瀬 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌弘
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB07
2G045DA35
(57)【要約】
【課題】閉塞性睡眠時無呼吸症候群及び/又はその重症度の簡易な診断に利用できる技術を提供する。
【解決手段】対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の、SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、
前記代謝パスウェイは、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められるものである、方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の、SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、
前記代謝パスウェイは、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められるものである、方法。
【請求項2】
前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記代謝パスウェイがヒスチジン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及び/又はヒスチジンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記代謝パスウェイがグルタミンとグルタミン酸の代謝又は窒素代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がグルタミン及び/又はグルタミン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記代謝パスウェイがアルギニン生合成であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、グルタミン酸、アスパラギン酸、オルニチン、グルタミン、及び/又はN-アセチルグルタミン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記代謝パスウェイがペントースリン酸経路であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がリボース5-リン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記代謝パスウェイがビオチン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がリジンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記代謝パスウェイがリジン分解であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、リジン、γ-ブティロベタイン、及び/又はα-アミノアジピン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記代謝パスウェイがアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アスパラギン酸、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、クエン酸、及び/又はコハク酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記代謝パスウェイがプリン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、リボース5-リン酸、グルタミン、アデノシン、及び/又はアデニンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記代謝パスウェイがピリミジン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、グルタミン、シチジン、及び/又はβ-アラニンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記代謝パスウェイがシステインとメチオニンの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、及び/又は2-アミノ酪酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
前記代謝パスウェイがグリオキシル酸とジカルボン酸の代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、クエン酸、セリン、グリシン、グルタミン酸、及び/又はグルタミンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記代謝パスウェイがスフィンゴ脂質代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がセリンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
前記代謝パスウェイがベータアラニン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、β-アラニン、アスパラギン酸、スペルミジン、ヒスチジン、及び/又は1,3-ジアミノプロパンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項16】
前記代謝パスウェイがポルフィリンとクロロフィルの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がグリシン及び/又はグルタミン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項17】
前記代謝パスウェイがグリシン、セリン、スレオニンの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、セリン、ベタイン、グリシン、サルコシン、及び/又はスレオニンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項18】
前記代謝パスウェイがニコチン酸とニコチンアミドの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がアスパラギン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項19】
前記代謝パスウェイが一次胆汁酸生合成であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がグリシンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項20】
前記代謝パスウェイがグルタチオン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、グリシン、グルタミン酸、5-オキソプロリン、オルニチン、プトレシン、スペルミジン、及び/又はカダベリンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項21】
前記代謝パスウェイがアミノアシル-tRNA生合成であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ヒスチジン、フェニルアラニン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、セリン、メチオニン、バリン、アラニン、リジン、イソロイシン、ロイシン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及び/又はプロリンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項22】
対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の、SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法。
【請求項23】
対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法。
【請求項24】
SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするための唾液バイオマーカーであって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、唾液バイオマーカー。
【請求項25】
前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、オルニチン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、リジン、γ-ブティロベタイン、α-アミノアジピン酸、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アラニン、クエン酸、コハク酸、アデノシン、アデニン、シチジン、β-アラニン、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、2-アミノ酪酸、グリシン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、ベタイン、サルコシン、スレオニン、5-オキソプロリン、プトレシン、カダベリン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、チロシン、及びプロリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、請求項24に記載の唾液バイオマーカー。
【請求項26】
SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーであって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、唾液バイオマーカー。
【請求項27】
スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカー。
【請求項28】
SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするためのキットであって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、キット。
【請求項29】
前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、オルニチン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、リジン、γ-ブティロベタイン、α-アミノアジピン酸、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アラニン、クエン酸、コハク酸、アデノシン、アデニン、シチジン、β-アラニン、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、2-アミノ酪酸、グリシン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、ベタイン、サルコシン、スレオニン、5-オキソプロリン、プトレシン、カダベリン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、チロシン、及びプロリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキットであって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、キット。
【請求項31】
スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定を補助する方法、並びにその診断及び/又は判定をするための唾液バイオマーカー及びキットに関する。
また、本発明は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法、並びにその診断及び/又は判定をするための唾液バイオマーカー及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea: OSA)は、睡眠中に繰り返し起こる上気道の閉塞が特徴で、低酸素血症と睡眠障害が基本的な病態生理である。
OSAの重症度診断は、入院下での睡眠ポリグラフ検査(PSG)によって睡眠障害の同定と重症度評価を行うことにより可能である。しかしながら、その検査費用は高額であり、また、装置や設備コスト、人件費がかかり、実施可能な施設も限られている。そのため、いびきなどの極めて初期の症状に対して、家庭で測定できる簡易PSG機器あるいは腕時計型の機器の応用など、より簡便なビッグデータを活用したスクリーニング方法が開発されてきている。
【0003】
しかしながら、簡易PSG機器は、入院下でのPSG検査と同様に、終夜(22:00~5:00まで約7時間)の長時間を検査測定に要し、軽症患者の場合はセンサーの感度が悪く評価が臨床症状を反映しないという欠点がある。また、重症度の診断の根拠となる無呼吸・低呼吸指数(AHI)の測定精度が低いという欠点もある。さらに軽症患者の場合は特に、センサー装着に関する違和感の問題があり通常と異なる眠りになる可能性がある。
また、腕時計型の機器では、睡眠周期の評価はできるものの、無呼吸と低呼吸の評価が難しい。
このように、現状の簡易機器では、入院下でのPSG検査に比べて診断精度に欠け、より客観的に重症度を評価できる簡易診断方法が必要とされている。
【0004】
睡眠時無呼吸症候群の診断に利用可能な方法として、抗PTX3モノクローナル抗体を用いて血中および病変部のPTX3濃度を測定する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この方法では抗PTX3モノクローナル抗体の使用を前提としており、血液サンプルを取得する必要もあることから、安価で簡易な診断方法とは言えない。
睡眠不足または睡眠障害の検出に利用可能な方法として、トランスサイレチン遺伝子のヌクレオチド配列又はその相補配列にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドを用いて、被験試料におけるトランスサイレチン遺伝子の発現量を測定する方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、被験試料から調製されたmRNA又はそのmRNAから転写された相補的DNA(cDNA)を鋳型として用いる必要があり、核酸試料の調製が煩雑である。
【0005】
OSAと唾液中のバイオマーカーとの関連を評価した研究としては、唾液中のミエロペルオキシダーゼがOSA患者における口腔咽頭の炎症性マーカーとして有用であり得ると報告する文献(非特許文献1)や、唾液中のコルチゾールとOSAとの関連性を示唆する文献(非特許文献2)が挙げられる。しかしながら、ミエロペルオキシダーゼのようなタンパク質の特異的な検出には、通常、抗体が使用され、低分子化合物の検出と比較して安価で簡便に特異的な検出を行うことは難しく、コルチゾールのようなホルモンは唾液中の濃度が低く検出は容易でないため、いずれもOSAの簡易な診断方法としての利用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-14521号公報
【特許文献2】特開2007-75071号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Otolaryngology - Head & Neck Surgery, 2012, 41(3):215-221
【非特許文献2】Pediatric Pulmonology, 2014, 49(11):1145-1152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景に鑑み、閉塞性睡眠時無呼吸症候群及び/又はその重症度の簡易な診断に利用できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、唾液中の特定のイオン性代謝物の量と、閉塞性睡眠時無呼吸症候群及びその重症度との間に一定の関連性があることを見出した。
従って、本発明は、例えば、下記〔1〕~〔31〕に関するものである。
〔1〕対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の、SMPDB (The Small Molecule Pathway Database) において登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、
前記代謝パスウェイは、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められるものである、方法。
〔2〕前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記代謝パスウェイがヒスチジン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及び/又はヒスチジンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記代謝パスウェイがグルタミンとグルタミン酸の代謝又は窒素代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がグルタミン及び/又はグルタミン酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔5〕前記代謝パスウェイがアルギニン生合成であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、グルタミン酸、アスパラギン酸、オルニチン、グルタミン、及び/又はN-アセチルグルタミン酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔6〕前記代謝パスウェイがペントースリン酸経路であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がリボース5-リン酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔7〕前記代謝パスウェイがビオチン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がリジンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔8〕前記代謝パスウェイがリジン分解であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、リジン、γ-ブティロベタイン、及び/又はα-アミノアジピン酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔9〕前記代謝パスウェイがアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アスパラギン酸、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、クエン酸、及び/又はコハク酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔10〕前記代謝パスウェイがプリン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、リボース5-リン酸、グルタミン、アデノシン、及び/又はアデニンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔11〕前記代謝パスウェイがピリミジン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、グルタミン、シチジン、及び/又はβ-アラニンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔12〕前記代謝パスウェイがシステインとメチオニンの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、及び/又は2-アミノ酪酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔13〕前記代謝パスウェイがグリオキシル酸とジカルボン酸の代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、クエン酸、セリン、グリシン、グルタミン酸、及び/又はグルタミンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔14〕前記代謝パスウェイがスフィンゴ脂質代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がセリンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔15〕前記代謝パスウェイがベータアラニン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、β-アラニン、アスパラギン酸、スペルミジン、ヒスチジン、及び/又は1,3-ジアミノプロパンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔16〕前記代謝パスウェイがポルフィリンとクロロフィルの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がグリシン及び/又はグルタミン酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔17〕前記代謝パスウェイがグリシン、セリン、スレオニンの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、セリン、ベタイン、グリシン、サルコシン、及び/又はスレオニンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔18〕前記代謝パスウェイがニコチン酸とニコチンアミドの代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がアスパラギン酸を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔19〕前記代謝パスウェイが一次胆汁酸生合成であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物がグリシンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔20〕前記代謝パスウェイがグルタチオン代謝であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、グリシン、グルタミン酸、5-オキソプロリン、オルニチン、プトレシン、スペルミジン、及び/又はカダベリンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔21〕前記代謝パスウェイがアミノアシル-tRNA生合成であり、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ヒスチジン、フェニルアラニン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、セリン、メチオニン、バリン、アラニン、リジン、イソロイシン、ロイシン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及び/又はプロリンを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔22〕対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法。
〔23〕対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、
前記対象から得られた唾液中の少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法。
〔24〕SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするための唾液バイオマーカーであって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、唾液バイオマーカー。
〔25〕前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、オルニチン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、リジン、γ-ブティロベタイン、α-アミノアジピン酸、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アラニン、クエン酸、コハク酸、アデノシン、アデニン、シチジン、β-アラニン、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、2-アミノ酪酸、グリシン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、ベタイン、サルコシン、スレオニン、5-オキソプロリン、プトレシン、カダベリン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、チロシン、及びプロリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、前記〔24〕に記載の唾液バイオマーカー。
〔26〕SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーであって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、唾液バイオマーカー。
〔27〕スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカー。
〔28〕SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするためのキットであって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、キット。
〔29〕前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、オルニチン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、リジン、γ-ブティロベタイン、α-アミノアジピン酸、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アラニン、クエン酸、コハク酸、アデノシン、アデニン、シチジン、β-アラニン、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、2-アミノ酪酸、グリシン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、ベタイン、サルコシン、スレオニン、5-オキソプロリン、プトレシン、カダベリン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、チロシン、及びプロリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、前記〔28〕に記載のキット。
〔30〕SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキットであって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、キット。
〔31〕スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、唾液サンプルを用いることから、対象からの被験試料の採取が極めて容易である。また、被測定物質の測定も容易であり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群及び/又はその重症度の簡易な診断のために本発明を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】CE-TOFMSを用いて定量した唾液中のイオン性代謝物についての、AHI重症度の分類によるヒートマップである。
図2】ウロカニン酸を指標とした場合のROC曲線を示すグラフである。Mann-Whitney 検定を用いて示された健常者とOSA患者の2群間の有意差 P=0.00024。AUC = 0.82280。
図3】グルタミン酸を指標とした場合のROC曲線を示すグラフである。Mann-Whitney 検定を用いて示された健常者とOSA患者の2群間の有意差 P=0.0056。AUC = 0.74313。
図4】アスパラギン酸を指標とした場合のROC曲線を示すグラフである。Mann-Whitney 検定を用いて示された健常者とOSA患者の2群間の有意差 P=0.0082。AUC = 0.73214。
図5】ヒスチジンを指標とした場合のROC曲線を示すグラフである。Mann-Whitney 検定を用いて示された健常者とOSA患者の2群間の有意差 P=0.015。AUC = 0.71291。
図6】閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で有意差が認められた代謝パスウェイに関する、エンリッチメント解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施態様は、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断、及び/又は対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクの判定、を補助する方法に関する。
このような本発明の方法は、対象から得られた唾液中の、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含む。ここで、前記代謝パスウェイは、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められるものである。
本明細書において、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者とは、AHI(無呼吸・低呼吸指数)による診断・治療基準に基づく。即ち、本明細書では、AHIが5以上であると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と定義され、AHIが5未満であると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者と定義される。AHIとは、無呼吸・低呼吸の総回数を記録時間(推定の睡眠時間)で割って、1時間当たりに換算した指標である。
また、AHIは重症度の分類にも使用される。AHIが、5以上15未満である場合には軽症と分類され、15以上30未満である場合には中等症と分類され、30以上である場合には重症と分類される。
【0013】
SMPDBとは、カナダのアルバータ大学が運用する、ヒトの小分子代謝パスウェイのデータベースである The Small Molecule Pathway Database の略称であり(https://www.smpdb.ca/)、当業者に公知のものである。
エンリッチメント解析は、トランスクリプトーム解析において大量に観測できる遺伝子の発現量を、各遺伝子が所属するオントロジーの単位で変動の大きさを評価する方法であり、当業者に公知の解析手法である(Goeman JJ, van de Geer SA, de Kort F, van Houwelingen HC. A global test for groups of genes: testing association with a clinical outcome, Bioinformatics, 2004, 20, 93-99、Subramanian A, Tamayo P, Mootha VK, Mukherjee S, Ebert BL, Gillette MA, Paulovich A, Pomeroy SL, Golub TR, Lander ES, et al. Gene set enrichment analysis: a knowledge-based approach for interpreting genome-wide expression profiles, Proc. Natl Acad. Sci. USA, 2005, 102, 15545-15550、及び Xia J, Mandal R, Sinelnikov IV, Broadhurst D, Wishart DS. MetaboAnalyst 2.0--a comprehensive server for metabolomic data analysis. Nucleic Acids Res. 2012, 40, W127-W133)。
【0014】
本発明の一実施態様において、唾液中のイオン性代謝物の量の測定は、当業者に公知の技術を用いて適宜行うことができる。例えば、唾液中のイオン性代謝物の量の測定には質量分析装置を使用することができるが、これに限定されるものではない。
質量分析装置としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、又はキャピラリー電気泳動(CE)等の分離装置と接続させたものを使用できるが、CEと接続させた質量分析装置が好ましく、CEと接続させた飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)が特に好ましい。
質量分析装置を用いる以外のイオン性代謝物の量の測定手法としては、イオン性代謝物を測定するための試薬、例えば、酵素、蛍光プローブ、イムノクロマトを用いる方法が挙げられる。
【0015】
本発明の一実施態様において、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属するものであって、当該代謝パスウェイは、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められるものである。具体的には、当該代謝パスウェイは、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者と比較して該患者で変化量が大きいものである。
従って、対象から得られた唾液中の、所定の代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が増大していれば、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者であるとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが高いとの判定若しくはその補助を行い得る。
一方、対象から得られた唾液中の、所定の代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が変わらない又は少ない場合には、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でないとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが低いとの判定若しくはその補助を行い得る。
このように、本発明の方法は、測定したイオン性代謝物の量を、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較する工程を含み得る。
【0016】
エンリッチメント解析は、前述のとおり、当業者に公知の解析手法であり、当業者が適宜実施し得るものである。エンリッチメント解析は、種々の市販のソフトやウェブツールにおいて実装されている機能を用いて行うことができる。
エンリッチメント解析としては、観測した遺伝子の発現量の定量値をもって評価するQuantitative Enrichment Analysis (QEA)を用いてもよいし、Over Representation AnalysisやSingle Sample Profilingを用いてもよい。
例えば、観測した遺伝子の発現量について個々の代謝物が所属する代謝パスウェイ単位での変動の大きさを評価する手法がMetaboAnalyst(https://www.metaboanalyst.ca/)に実装されており、これによりエンリッチメント解析を行うことができる(Lu, Y., Pang, Z., and Xia, J. (2023) Comprehensive investigation of pathway enrichment methods for functional interpretation of LC-MS global metabolomics data Briefings In Bioinformatics 24(1), bbac553、及び Pang, Z., Chong, J., Zhou, G., Morais D., Chang, L., Barrette, M., Gauthier, C., Jacques, PE., Li, S., and Xia, J. (2021) MetaboAnalyst 5.0: narrowing the gap between raw spectra and functional insights Nucl. Acids Res. 2021, 49(W1), W388-W396)。
【0017】
本発明の方法において、唾液中のイオン性代謝物の量を測定するに当たり、被験者から唾液を採取した後、そのまま使用してもよいし、使用する機器や試薬、定量方法に応じて、適宜、前処理したものを使用してもよい。定量方法としては、絶対検量線法や内部標準法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、唾液中のイオン性代謝物の量の測定は、試料中のイオン性代謝物の濃度を測定することと実質的に同じである。
本発明の方法において、唾液中の量を測定するイオン性代謝物の種類は少なくとも1種であり、例えば、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、又は少なくとも8種であってもよい。唾液中の量を測定するイオン性代謝物の種類が多ければ、診断又は判定精度は増すものと考えられる。
【0018】
本発明の一実施態様では、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められる、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイは、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される。
一例として、このような所定の代謝パスウェイはヒスチジン代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及び/又はヒスチジンを含む。
【0019】
前述のとおり、対象から得られた唾液中の、所定の代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が増大していれば、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者であるとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが高いとの判定若しくはその補助を行い得る。そのため、対象から得られた唾液中の、ヒスチジン代謝に所属する少なくとも1種のイオン性代謝物(例えば、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及び/又はヒスチジン)の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が増大していれば、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者であるとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが高いとの判定若しくはその補助を行い得る。
一方、対象から得られた唾液中の、所定の代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が変わらない又は少ない場合には、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でないとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが低いとの判定若しくはその補助を行い得る。そのため、対象から得られた唾液中の、ヒスチジン代謝に所属する少なくとも1種のイオン性代謝物(例えば、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、及び/又はヒスチジン)の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が変わらない又は少ない場合には、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でないとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが低いとの判定若しくはその補助を行い得る。
このような診断手法及び判定手法は、本明細書に記載の別の態様各々に関しても同様に適用される。
【0020】
また、別の態様では、所定の代謝パスウェイはグルタミンとグルタミン酸の代謝又は窒素代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、グルタミン及び/又はグルタミン酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはアルギニン生合成であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、オルニチン、グルタミン、及び/又はN-アセチルグルタミン酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはペントースリン酸経路であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、リボース5-リン酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはビオチン代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、リジンを含む。
【0021】
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはリジン分解であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、リジン、γ-ブティロベタイン、及び/又はα-アミノアジピン酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アスパラギン酸、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、クエン酸、及び/又はコハク酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはプリン代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、リボース5-リン酸、グルタミン、アデノシン、及び/又はアデニンを含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはピリミジン代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、グルタミン、シチジン、及び/又はβ-アラニンを含む。
【0022】
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはシステインとメチオニンの代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、及び/又は2-アミノ酪酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはグリオキシル酸とジカルボン酸の代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、クエン酸、セリン、グリシン、グルタミン酸、及び/又はグルタミンを含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはスフィンゴ脂質代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、セリンを含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはベータアラニン代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、β-アラニン、アスパラギン酸、スペルミジン、ヒスチジン、及び/又は1,3-ジアミノプロパンを含む。
【0023】
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはポルフィリンとクロロフィルの代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、グリシン及び/又はグルタミン酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはグリシン、セリン、スレオニンの代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、セリン、ベタイン、グリシン、サルコシン、及び/又はスレオニンを含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはニコチン酸とニコチンアミドの代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、アスパラギン酸を含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイは一次胆汁酸生合成であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、グリシンを含む。
【0024】
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはグルタチオン代謝であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、グリシン、グルタミン酸、5-オキソプロリン、オルニチン、プトレシン、スペルミジン、及び/又はカダベリンを含む。
他の別の態様では、所定の代謝パスウェイはアミノアシル-tRNA生合成であり、この場合、測定されるべき唾液中のイオン性代謝物は、例えば、ヒスチジン、フェニルアラニン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、セリン、メチオニン、バリン、アラニン、リジン、イソロイシン、ロイシン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及び/又はプロリンを含む。
【0025】
本発明の別の態様は、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、前記対象から得られた唾液中の、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法に関する。ここで、重症度とは、前述のAHIに基づく軽症、中等症、及び重症の分類のことを意味する。このような重症度の分類は、本明細書に記載の別の態様各々に関しても同様に適用される。
上記特定されているスペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチンから選択されるイオン性代謝物は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と当該患者でない者との間で、Mann-Whitney 検定を用いて2群間で有意差(P<0.05)のあったものであり、かつAHIとSpearman's rank correlationで相関値を計算したところP<0.05となったものである。従って、これらのイオン性代謝物の唾液中の量を測定することにより、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断若しくはその補助や、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクの判定若しくはその補助だけでなく、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定若しくはその補助をすることが可能である。
【0026】
例えば、対象から得られた唾液中のスペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が増大していれば、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者であるとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが高いとの判定若しくはその補助を行い得るだけでなく、コントロールと比較した量の増大が大きいほど該対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いとの判定若しくはその補助を行い得る。
現状の簡易機器による簡易診断方法では、重症度を満足に評価できるとは言い難く、このように閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度を判定できる点は、特に優れた利点である。
【0027】
本発明の別の態様は、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、前記対象から得られた唾液中の少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法に関する。
上記特定されているスペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン酸から選択されるイオン性代謝物は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と当該患者でない者との間で、Mann-Whitney 検定を用いて2群間で有意差(P<0.05)のあったものであり、かつAHIとSpearman's rank correlationで相関値を計算したところP<0.05となったものである。従って、これらのイオン性代謝物の唾液中の量を測定することにより、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断若しくはその補助や、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクの判定若しくはその補助だけでなく、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定若しくはその補助をすることが可能である。
【0028】
例えば、対象から得られた唾液中のスペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定し、コントロール(閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でない者における唾液中の当該イオン性代謝物の量)と比較して、当該測定したイオン性代謝物の量が増大していれば、該対象は閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者であるとの診断若しくはその補助、又は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症可能性についてのリスクが高いとの判定若しくはその補助を行い得るだけでなく、コントロールと比較した量の増大が大きいほど該対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度が高いとの判定若しくはその補助を行い得る。
現状の簡易機器による簡易診断方法では、重症度を満足に評価できるとは言い難く、このように閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度を判定できる点は、特に優れた利点である。
【0029】
本発明の別の態様は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするための唾液バイオマーカーであって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、唾液バイオマーカーに関する。
或いは、本発明の別の態様は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするための唾液バイオマーカーとしての使用であって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、使用に関する。
これらの態様において、少なくとも1種のイオン性代謝物は、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、オルニチン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、リジン、γ-ブティロベタイン、α-アミノアジピン酸、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アラニン、クエン酸、コハク酸、アデノシン、アデニン、シチジン、β-アラニン、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、2-アミノ酪酸、グリシン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、ベタイン、サルコシン、スレオニン、5-オキソプロリン、プトレシン、カダベリン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、チロシン、及びプロリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択され得る。
【0030】
本発明の別の態様は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーであって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、唾液バイオマーカーに関する。
或いは、本発明の別の態様は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物の、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーとしての使用であって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、使用に関する。
【0031】
本発明の別の態様は、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーに関する。
或いは、本発明の別の態様は、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物の、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーとしての使用に関する。
【0032】
本発明の別の態様は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクの判定をするためのキットであって、前記代謝パスウェイが、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成から選択される、キットに関する。
この態様において、少なくとも1種のイオン性代謝物は、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、オルニチン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、リジン、γ-ブティロベタイン、α-アミノアジピン酸、N-アセチル-L-アスパラギン酸、アラニン、クエン酸、コハク酸、アデノシン、アデニン、シチジン、β-アラニン、セリン、メチオニン、O-ホスホセリン、2-アミノ酪酸、グリシン、スペルミジン、1,3-ジアミノプロパン、ベタイン、サルコシン、スレオニン、5-オキソプロリン、プトレシン、カダベリン、フェニルアラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン、チロシン、及びプロリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される。
イオン性代謝物を測定するための試薬としては、例えば、酵素、蛍光プローブ、イムノクロマト等が挙げられる。このような試薬の例示は、本明細書に記載の別の態様各々に関しても同様に適用される。
【0033】
本発明の別の態様は、SMPDBにおいて登録されている代謝パスウェイに所属する少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキットであって、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、及びアグマチン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、キットに関する。
【0034】
本発明の別の態様は、スペルミジン、プトレシン、カダベリン、プロリン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、プロピオン酸、N-アセチルプトレシン、2-ヒドロキシグルタル酸、ウロカニン酸、2-アミノ酪酸、アデニン、トリプトファン、シチジン、N-アセチルグルタミン酸、リボース5-リン酸、アグマチン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N1-アセチルスペルミン、N8-アセチルスペルミジン、5-アミノバレリック酸、N-アセチルノイラミン酸、ヘキサン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、アラニル-アラニン、及びピペコリン、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキットに関する。
【0035】
本発明の更なる別の態様は、対象における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定を補助する方法であって、前記対象から得られた唾液中の少なくとも1種のイオン性代謝物の量を測定することを含み、前記少なくとも1種のイオン性代謝物が、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、コリンリン酸、尿酸、O-アセチルカルニチン、クレアチニン、フェニルアラニン、クレアチン、グアニン、カルニチン、ベタイン、N1-アセチルスペルミジン、アラニン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N-アセチル-L-アスパラギン酸、ロイシン、バリン、アラニル-アラニン、2-アミノ酪酸、チロシン、3-メチルヒスチジン、プロリン、1,3-ジアミノプロパン、グリシル-グリシン、グルタミン、グルタミン酸、サルコシン、シチジン、グリシン、ジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸、アデノシン、コリン、ヒポキサンチン、アデニン、リジン、O-ホスホセリン、グルコサミン、グルタミル-グルタミン酸、4-メチル-2-オキソペンタン酸、リブロース5-リン酸、グリセロリン酸、セリン、ウロカニン酸、トリプトファン、リボース5-リン酸、アグマチン、カダベリン、ギャバ、スペルミジン、オルニチン、5-オキソプロリン、5-アミノバレリック酸、リンゴ酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、プトレシン、ヘキサン酸、β-アラニン、3-フェニルプロピオン酸、N1,N12-ジアセチルスペルミン、スペルミン、プロピオン酸、N1-アセチルスペルミン、N-アセチルグルタミン酸、ピルビン酸、ヒスチジン、ホモバニリン酸、3-アミノイソ酪酸、酪酸、イソプロパノールアミン、スレオニン、コハク酸、6-ホスホ-D-グルコン酸、イソロイシン、2-ヒドロキシグルタル酸、α-アミノアジピン酸、メチオニン、ピペコリン酸、γ-ブティロベタイン、N-アセチルプトレシン、システイン酸、N-アセチルノイラミン酸、2-イソプロピルリンゴ酸、ヒドロキシプロリン、グアノシン、シトルリン、ホスホエノールピルビン酸、アルギニン、ヒスタミン、クエン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される、方法に関する。
【0036】
本発明の更なる別の態様は、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、コリンリン酸、尿酸、O-アセチルカルニチン、クレアチニン、フェニルアラニン、クレアチン、グアニン、カルニチン、ベタイン、N1-アセチルスペルミジン、アラニン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N-アセチル-L-アスパラギン酸、ロイシン、バリン、アラニル-アラニン、2-アミノ酪酸、チロシン、3-メチルヒスチジン、プロリン、1,3-ジアミノプロパン、グリシル-グリシン、グルタミン、グルタミン酸、サルコシン、シチジン、グリシン、ジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸、アデノシン、コリン、ヒポキサンチン、アデニン、リジン、O-ホスホセリン、グルコサミン、グルタミル-グルタミン酸、4-メチル-2-オキソペンタン酸、リブロース5-リン酸、グリセロリン酸、セリン、ウロカニン酸、トリプトファン、リボース5-リン酸、アグマチン、カダベリン、ギャバ、スペルミジン、オルニチン、5-オキソプロリン、5-アミノバレリック酸、リンゴ酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、プトレシン、ヘキサン酸、β-アラニン、3-フェニルプロピオン酸、N1,N12-ジアセチルスペルミン、スペルミン、プロピオン酸、N1-アセチルスペルミン、N-アセチルグルタミン酸、ピルビン酸、ヒスチジン、ホモバニリン酸、3-アミノイソ酪酸、酪酸、イソプロパノールアミン、スレオニン、コハク酸、6-ホスホ-D-グルコン酸、イソロイシン、2-ヒドロキシグルタル酸、α-アミノアジピン酸、メチオニン、ピペコリン酸、γ-ブティロベタイン、N-アセチルプトレシン、システイン酸、N-アセチルノイラミン酸、2-イソプロピルリンゴ酸、ヒドロキシプロリン、グアノシン、シトルリン、ホスホエノールピルビン酸、アルギニン、ヒスタミン、クエン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーに関する。
【0037】
本発明の更なる別の態様は、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、コリンリン酸、尿酸、O-アセチルカルニチン、クレアチニン、フェニルアラニン、クレアチン、グアニン、カルニチン、ベタイン、N1-アセチルスペルミジン、アラニン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N-アセチル-L-アスパラギン酸、ロイシン、バリン、アラニル-アラニン、2-アミノ酪酸、チロシン、3-メチルヒスチジン、プロリン、1,3-ジアミノプロパン、グリシル-グリシン、グルタミン、グルタミン酸、サルコシン、シチジン、グリシン、ジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸、アデノシン、コリン、ヒポキサンチン、アデニン、リジン、O-ホスホセリン、グルコサミン、グルタミル-グルタミン酸、4-メチル-2-オキソペンタン酸、リブロース5-リン酸、グリセロリン酸、セリン、ウロカニン酸、トリプトファン、リボース5-リン酸、アグマチン、カダベリン、ギャバ、スペルミジン、オルニチン、5-オキソプロリン、5-アミノバレリック酸、リンゴ酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、プトレシン、ヘキサン酸、β-アラニン、3-フェニルプロピオン酸、N1,N12-ジアセチルスペルミン、スペルミン、プロピオン酸、N1-アセチルスペルミン、N-アセチルグルタミン酸、ピルビン酸、ヒスチジン、ホモバニリン酸、3-アミノイソ酪酸、酪酸、イソプロパノールアミン、スレオニン、コハク酸、6-ホスホ-D-グルコン酸、イソロイシン、2-ヒドロキシグルタル酸、α-アミノアジピン酸、メチオニン、ピペコリン酸、γ-ブティロベタイン、N-アセチルプトレシン、システイン酸、N-アセチルノイラミン酸、2-イソプロピルリンゴ酸、ヒドロキシプロリン、グアノシン、シトルリン、ホスホエノールピルビン酸、アルギニン、ヒスタミン、クエン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物の、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするための唾液バイオマーカーとしての使用に関する。
【0038】
本発明の更なる別の態様は、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、コリンリン酸、尿酸、O-アセチルカルニチン、クレアチニン、フェニルアラニン、クレアチン、グアニン、カルニチン、ベタイン、N1-アセチルスペルミジン、アラニン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、N-アセチル-L-アスパラギン酸、ロイシン、バリン、アラニル-アラニン、2-アミノ酪酸、チロシン、3-メチルヒスチジン、プロリン、1,3-ジアミノプロパン、グリシル-グリシン、グルタミン、グルタミン酸、サルコシン、シチジン、グリシン、ジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸、アデノシン、コリン、ヒポキサンチン、アデニン、リジン、O-ホスホセリン、グルコサミン、グルタミル-グルタミン酸、4-メチル-2-オキソペンタン酸、リブロース5-リン酸、グリセロリン酸、セリン、ウロカニン酸、トリプトファン、リボース5-リン酸、アグマチン、カダベリン、ギャバ、スペルミジン、オルニチン、5-オキソプロリン、5-アミノバレリック酸、リンゴ酸、2-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート、プトレシン、ヘキサン酸、β-アラニン、3-フェニルプロピオン酸、N1,N12-ジアセチルスペルミン、スペルミン、プロピオン酸、N1-アセチルスペルミン、N-アセチルグルタミン酸、ピルビン酸、ヒスチジン、ホモバニリン酸、3-アミノイソ酪酸、酪酸、イソプロパノールアミン、スレオニン、コハク酸、6-ホスホ-D-グルコン酸、イソロイシン、2-ヒドロキシグルタル酸、α-アミノアジピン酸、メチオニン、ピペコリン酸、γ-ブティロベタイン、N-アセチルプトレシン、システイン酸、N-アセチルノイラミン酸、2-イソプロピルリンゴ酸、ヒドロキシプロリン、グアノシン、シトルリン、ホスホエノールピルビン酸、アルギニン、ヒスタミン、クエン酸、並びにそれらのいずれかの組合せから選択される少なくとも1種のイオン性代謝物を測定するための試薬を含む、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断及び/又はその発症可能性についてのリスクもしくは重症度の判定をするためのキットに関する。
【実施例0039】
以下において、本発明について実施例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
<1.対象と方法>
(1)対象患者
対象患者は13歳~65歳のOSA(OSAの疑いを含む)で、検査および治療のため大学病院を含む多施設の無呼吸外来を受診された患者の中で、研究同意書を得られた100名の患者を目標とした。対照群は、調査票で無呼吸の自覚症状のない健常者40名を目標とし、ボランティアを募集した。除外基準として、唾液の組成に影響を与える可能性のある、喫煙者、又は抗コリン薬、去痰薬若しくはヒスタミンH1拮抗薬の内服者を設定した。
【0041】
(2)プロトコール
OSAの検査目的での入院時に、入院下でのPSG検査(COMPUMEDICS社 スリープウォッチャーEシリーズ、又は日本光電社 PSG1100)が終了した朝に唾液採取を行った。起床後、唾液採取1時間前は、水以外飲まない状態で、口をゆすいだり、飲水する前に安静状態で採取を行った。歯磨きは、唾液採取の1時間以上前に、歯磨き粉なしで行った。唾液は意図的に出さず、安静時の自然唾液を採取した(エッペンチューブ300μl)。採取した唾液サンプルは、午前中に冷凍庫に保管し2時間後に研究室へ持ち込んで冷凍保存した。メタボローム解析を行うため、300μlの唾液サンプルを慶応義塾大学先端生命科学研究所へ宅配便の「冷凍」で郵送した。
無呼吸のない健常者(対照群)に関しては、簡易PSG検査を行い(日本光電社 QP-021W)、OSAでないことが確認できた者について、長崎大学病院で唾液採取を行った。唾液採取の方法、並びに採取した唾液サンプルの保存方法及び郵送方法は、OSA患者の場合と同じであった。
採取しメタボローム解析を行うことができた唾液サンプル数は、OSA患者が52、健常者が14であった。
【0042】
<2.唾液サンプルのメタボローム解析>
(1)唾液サンプルの前処理及び測定
限外濾過フィルター(分画分子量5,000 Da)にとり4℃、9,100gで遠心分離した唾液サンプル45 μLと、内部標準物質のMethionine sulfone、CSA(D-Camphol-10-sulfonic acid)、MES、Trimesate、3-Aminopyrrolidine各2 mMを含む水溶液5 μLを混合してサンプルとし、下記CE-TOFMS測定条件で測定を行った。
【0043】
測定条件
陰イオン性代謝物質測定モード
Device: Agilent CE-TOFMS
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
陽イオン性代謝物質測定モード
Device: Agilent CE-TOFMS
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
(2)イオン性代謝物の定量
代謝物質標準液(STD)は以下のように濃度調整し、各測定条件の最初に対応するSTDを測定した後、サンプルを測定した。
代謝物の濃度: 20 μM
内部標準物質(IS)濃度: 200 μM
また、唾液中の濃度は内部標準検量法に従い、懸濁液中のIS濃度を200 μMとして下式(1)を用いて算出した。
【0048】
【数1】
【0049】
定量したイオン性代謝物の濃度を用いて、以下とおりAHI重症度の分類によるヒートマップを作成した。
まず、イオン性代謝物ごとに全検体での平均値を計算し、この計算した平均値で個々のサンプル中の代謝物の濃度を割り、個々のサンプル中の代謝物の濃度について当該平均値に対する相対値を求めた。
次に、個々のサンプル中の代謝物の濃度について求められた相対値から、郡ごと(健常者・軽度・中等度・重度)に平均値を計算した。代謝物ごとに、平均値と同じであれば白色、平均値より相対的に高い場合は赤色、平均値より相対的に低い場合は青色を付け、ヒートマップを作成した(図1)。代謝物の順番は、Pearson Correlationのクラスタリング方法で並べた。郡ごと計算した平均値を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
(3)データ解析
唾液中のイオン性代謝物の絶対定量値を用いて、健常者とOSA患者の間で、Mann-Whitney 検定を用いて2群間で有意差(P<0.05)のある物質を検索した。また、個々の物質の2群間の識別能力は、受信者動作特性(ROC)曲線を描き、感度と特異度の関係を示すとともに、ROC曲線以下の面積(AUC値)で精度を示した。一例として、ウロカニン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、又はヒスチジンを指標とした場合のROC曲線を図2~5に示す。
また、AHIとSpearman’s rank correlationで相関値を計算しP<0.05となるものを検索した。
これらの結果を表6に示す。
【0052】
【表6】


【0053】
更にエンリッチメント解析を行い、表6に記載のイオン性代謝物がどの代謝パスウェイに所属するかを分類した。エンリッチメント解析そのものは、トランスクリプトーム解析において大量に観測できる遺伝子の発現量を、各遺伝子が所属するオントロジーの単位で変動の大きさを評価する方法であり、その中でも発現量の定量値をもって評価するQuantitative rnrichment analysis (QEA)を用いた(Goeman JJ, van de Geer SA, de Kort F, van Houwelingen HC. A global test for groups of genes: testing association with a clinical outcome, Bioinformatics, 2004, 20, 93-99、Subramanian A, Tamayo P, Mootha VK, Mukherjee S, Ebert BL, Gillette MA, Paulovich A, Pomeroy SL, Golub TR, Lander ES, et al. Gene set enrichment analysis: a knowledge-based approach for interpreting genome-wide expression profiles, Proc. Natl Acad. Sci. USA, 2005, 102, 15545-15550、及び Xia J, Mandal R, Sinelnikov IV, Broadhurst D, Wishart DS. MetaboAnalyst 2.0--a comprehensive server for metabolomic data analysis. Nucleic Acids Res. 2012, 40, W127-W133)。これを個々の代謝物が所属する代謝パスウェイ単位での変動の大きさを評価する手法が、MetaboAnalyst(https://www.metaboanalyst.ca/)に実装されており、本機能を用いて解析した(Lu, Y., Pang, Z., and Xia, J. Comprehensive investigation of pathway enrichment methods for functional interpretation of LC-MS global metabolomics data Briefings In Bioinformatics, 2023, 24, bbac553、及び Pang, Z., Chong, J., Zhou, G., Morais D., Chang, L., Barrette, M., Gauthier, C., Jacques, PE., Li, S., and Xia, J. MetaboAnalyst 5.0: narrowing the gap between raw spectra and functional insights Nucl. Acids Res. 2021, 49, W388-W396)。代謝物の定量データは絶対定量値をそのまま用いて、SMPDBに登録されている代謝パスウェイを利用した。
健常者とOSA患者との間で有意差が認められた代謝パスウェイに関する、エンリッチメント解析の結果を図6に示す。また、表7には、各代謝パスウェイに関しp値と該当するイオン性代謝物を示す。
【0054】
【表7】
【0055】
図6及び表7に示されるとおり、ヒスチジン代謝、グルタミンとグルタミン酸の代謝、窒素代謝、アルギニン生合成、ペントースリン酸経路、ビオチン代謝、リジン分解、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の代謝、プリン代謝、ピリミジン代謝、システインとメチオニンの代謝、グリオキシル酸とジカルボン酸の代謝、スフィンゴ脂質代謝、ベータアラニン代謝、ポルフィリンとクロロフィルの代謝、グリシン、セリン、スレオニンの代謝、ニコチン酸とニコチンアミドの代謝、一次胆汁酸生合成、グルタチオン代謝、及びアミノアシル-tRNA生合成の代謝パスウェイにおいて、健常者とOSA患者との間で有意差が認められた。
一方、グリセロ脂質代謝及びグリセロリン脂質代謝の代謝パスウェイでは、エンリッチメント解析によれば健常者とOSA患者との間で有意差が認めらなかった。但し、グリセロ脂質代謝及びグリセロリン脂質代謝の代謝パスウェイに所属するグリセロリン酸を単体で評価した場合には、表6に示されるとおり、健常者とOSA患者の間で、Mann-Whitney 検定を用いて2群間で有意差が認められている。
【0056】
エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められる代謝パスウェイは、図6で示されるもの以外にも、単に検出するイオン性代謝物の種類を増やすことで、本明細書に記載の方法に従い適宜見出すことが可能である。そのため、エンリッチメント解析において閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者と該患者でない者との間で差が認められる代謝パスウェイは、図6に示される代謝パスウェイに限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6