(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134811
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】付加製造条件の決定装置、付加製造条件の決定方法、及び付加製造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/14 20210101AFI20240927BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20240927BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20240927BHJP
B22F 12/00 20210101ALI20240927BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240927BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240927BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
B22F10/14
B22F10/85
B22F10/38
B22F12/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045194
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川中 啓嗣
(72)【発明者】
【氏名】木村 友則
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇
(72)【発明者】
【氏名】保田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】朴 勝煥
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA14
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA13
4K018BA17
4K018CA44
(57)【要約】
【課題】所望の形状及び密度を有する構造物を製造可能な付加製造条件の決定装置を提供する。
【解決手段】決定装置100は、結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から、所望の形状及び密度を有する前記第1構造物を製造するための前記積層及び前記樹脂硬化の際の第1製造条件を決定する第1条件決定部101と、前記付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から、製造された所望の前記第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する前記第2構造物を製造するための、前記脱脂及び前記焼結の際の第2製造条件を決定する第2条件決定部103と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から、所望の形状及び密度を有する前記第1構造物を製造するための前記積層及び前記樹脂硬化の際の第1製造条件を決定する第1条件決定部と、
前記付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から、製造された所望の前記第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する前記第2構造物を製造するための、前記脱脂及び前記焼結の際の第2製造条件を決定する第2条件決定部と、を備える
ことを特徴とする付加製造条件の決定装置。
【請求項2】
前記第1条件決定部は、所望の形状との寸法差及び密度差が何れも所定範囲内になっている前記第1構造物の製造時の製造条件を、前記第1製造条件として決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項3】
前記第1構造物は、体積が異なるが形状が同じ複数の単位構造物を含み、
前記第1条件決定部は、更に、前記単位構造物でのそれぞれの密度差が何れも所定範囲内に存在するときの製造条件を、前記第1製造条件として決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項4】
前記第1製造条件、前記第1構造物の形状、及び前記第1構造物の密度を特徴量とする機械学習を行う第1学習部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項5】
前記第1構造物及び前記第2構造物は、何れもブロック形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項6】
前記第1構造物は、ピン状部を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項7】
前記第2条件決定部は、所望の形状との寸法差及び密度差が何れも所定範囲内になっている前記第2構造物の製造時の製造条件を、前記第2製造条件として決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項8】
前記第2構造物は、体積が異なるが形状が同じ複数の単位構造物を含み、
前記第2条件決定部は、更に、前記単位構造物でのそれぞれの密度差が何れも所定範囲内に存在する製造条件を、前記第2製造条件として決定する
ことを特徴とする請求項7に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項9】
前記第2製造条件、前記第2構造物の形状、及び前記第2構造物の密度を特徴量とする機械学習を行う第2学習部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項10】
前記第2学習部は、前記第1構造物の熱物性と、前記第2構造物の形状及び密度とを用いた熱変形解析モデルに対し、所望の形状及び密度を適用することで決定された製造条件を前記第2製造条件として使用して、前記機械学習を行う
ことを特徴とする請求項9に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項11】
前記第2構造物は、オーバーハング形状を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の付加製造条件の決定装置。
【請求項12】
結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から、所望の形状及び密度を有する前記第1構造物を製造するための前記積層及び前記樹脂硬化の際の第1製造条件を決定する第1条件決定ステップと、
前記付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から、製造された所望の前記第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する前記第2構造物を製造するための、前記脱脂及び前記焼結の際の第2製造条件を決定する第2条件決定ステップと、
を含むことを特徴とする付加製造条件の決定方法。
【請求項13】
結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から、所望の形状及び密度を有する前記第1構造物を製造するための前記積層及び前記樹脂硬化の際の第1製造条件を決定する第1条件決定ステップと、
前記付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から、製造された所望の前記第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する前記第2構造物を製造するための、前記脱脂及び前記焼結の際の第2製造条件を決定する第2条件決定ステップと、
前記第1条件決定ステップで決定された第1製造条件、及び、前記第2条件決定ステップで決定された第2製造条件を用いて付加製造物を製造する
ことを特徴とする付加製造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加製造条件の決定装置、付加製造条件の決定方法、及び付加製造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造(積層造形)には、例えば、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)方式、指向性エネルギ堆積(Directed Energy Deposition)方式等があることが知られている。粉末床溶融結合方式では、平らに敷き詰められた粉末材料(例えば金属粉末)に対して、光ビーム(レーザビーム、電子ビーム等)を照射することで付加製造が行われる。粉末床溶融結合方式には、SLM(Selective Laser Melting)、EBM(Electron Beam Melting)等が含まれる。指向性エネルギ堆積方式では、光ビームの照射と粉末材料の吐出とを行うヘッドの位置を制御することで付加製造が行われる。指向性エネルギ堆積方式には、LMD(Laser Metal Deposition)、DMP(Direct Metal Deposition)等が含まれる。
【0003】
また、その他の方法として、結合剤噴射(Binder Jetting)方式がある。上記粉末床溶融結合方式及び指向性エネルギ堆積方式では、ビームを熱源として粉末材料を直接溶融凝固させることによって、付加製造物(積層造形物)が形成される。一方で、結合剤噴射方式では、粉末材料(例えば金属粉末)に、造形形状に応じて結合剤であるバインダが塗布され、これにより粉末材料同士が結合する。次いで、バインダを除去(脱脂熱処理)後に焼結熱処理することで、3次元形状の部品が製造される。
【0004】
結合剤噴射方式に似た方式の製造方法として、金属粉末射出成型(MIM:Metal Injection Molding)が挙げられる。MIMでは、金属粉末とバインダ(結合材、可塑材、潤滑材)とを加圧混錬することで、ペレット(コンパウンド)が製造される。次いで、ペレットを射出成型機に入れて温度をかけて可塑化し、金型のキャビティ内にMIM材料が射出成型される。成形体はグリーンパーツといわれ、溶媒の脱脂及び過熱脱脂した成型体はブラウンパーツといわれる。ブラウンパーツを焼結することで、シルバーパーツといわれる焼結品が得られる。
【0005】
付加製造には、材料、製造装置等の条件に応じて適切な付加製造のための製造条件(レシピ)を設定することが好ましい。製造条件の決定に関する技術として、特許文献1の請求項1には「機械学習装置であって、三次元造形物の目標形状を表す形状データと、製造中における前記三次元造形物の変形を抑制するために前記三次元造形物に追加される追加部分の目標形状を表す追加形状データとを含む第1データと、前記三次元造形物の変形に関する第2データとを取得するデータ取得部と、複数の前記第1データと複数の前記第2データとを含む学習データセットを記憶する記憶部と、前記学習データセットを用いた機械学習を実行することによって、前記第1データと前記第2データとの関係を学習する学習部と、を備える機械学習装置。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、最終的に得られる三次元造形物の製造誤差の予測により、三次元構造物に追加される追加部分の目標形状が修正される(段落0051)。従って、特許文献1に記載の技術では、最終的に得られる三次元構造物の製造工程における構造物(例えば中間構造物)の形状及び密度は考慮されていない。
本開示が解決しようとする課題は、所望の形状及び密度を有する構造物を製造可能な付加製造条件の決定装置、付加製造条件の決定方法、及び付加製造物の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の付加製造条件の決定装置は、結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から、所望の形状及び密度を有する前記第1構造物を製造するための前記積層及び前記樹脂硬化の際の第1製造条件を決定する第1条件決定部と、前記付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から、製造された所望の前記第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する前記第2構造物を製造するための、前記脱脂及び前記焼結の際の第2製造条件を決定する第2条件決定部と、を備える。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、所望の形状及び密度を有する構造物を製造可能な付加製造条件の決定装置、付加製造条件の決定方法、及び付加製造物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の付加製造条件の決定装置のブロック図である。
【
図2】評価に使用するグリーンパーツの形状を示す斜視図である。
【
図3】評価に使用するシルバーパーツの形状を示す斜視図である。
【
図4】本開示の付加製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の付加製造条件の決定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】本開示の付加製造条件の決定方法の前段を示すフローチャートである。
【
図7】本開示の付加製造条件の決定方法の後段を示すフローチャートである。
【
図8A】本開示の付加製造装置を側方から視た模式図である。
【
図8B】本開示の付加製造装置を上方から視た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。また、同じ実施形態で、必ずしも全ての構成を備える必要はない。
【0012】
図1は、本開示の付加製造条件の決定装置100のブロック図である。
図1には、更に、付加製造装置200、入力装置300及び出力装置400も図示される。
【0013】
結合剤噴射方式による付加製造は、大別して4つの工程を含む。即ち、積層(粉敷、バインダ塗布及び乾燥)、樹脂硬化、脱脂、及び焼結の各工程が含まれる。積層及び樹脂硬化により、中間構造物であるグリーンパーツが製造される。中間構造物への脱脂及び焼結により、最終構造物であるシルバーパーツが製造される。
【0014】
これらの各工程の適正化には、各工程での産物(得られた構造物)の出来栄えを評価することが好ましい。しかし、産物の状態、工程の都合等の事情により産物の評価自体が難しい場合もある。そこで、本開示の例では、樹脂硬化後かつ脱脂前の造形物であるグリーンパーツ(中間構造物)の寸法、質量、密度等が測定される。更に、焼結工程後の造形物であるシルバーパーツ(最終構造物)の寸法、重量、密度等も測定される。
【0015】
例えばグリーンパーツの脱脂により、グリーンパーツの密度は約55%~65%低下し、結合が緩くなる。なお、密度100%は、付加製造に使用する粉末材料(例えば金属う粉末)を密に充填した状態と定義する。また、シルバーパーツの最終密度は、脱脂後のグリーンパーツよりは向上し、約95%~99%である。このように、付加製造時には、例えば粉末冶金の結合プロセスで大きな収縮変形が発生する。このため、例えばグリーンパーツの焼結により生じる、収縮率、異方性、及び密度変化が、シルバーパーツの最終形状の精度に影響を及ぼす。従って、本開示のように、シルバーパーツの製造過程で製造されるグリーンパーツの形状及び密度についても評価することが好ましい。
【0016】
決定装置100は、結合剤噴射方式による付加製造を行う付加製造装置200において、付加製造時の製造条件を決定するものである。製造条件は、積層及び樹脂硬化の際の第1製造条件と、脱脂及び焼結の際の第2製造条件とを含む。製造条件には、多数のパラメータ(後記する制御因子)が含まれる。また、パラメータは、使用する金属材料、付加製造装置200の仕様、目的とする最終構造物(シルバーパーツ)の形状及び密度によっても変わり得る。このため、製造の都度、適切なパラメータを検討し、製造条件を都度決定することは容易ではない。そこで、決定装置100を用いることで、適切な製造条件を探索でき、製造条件を決定できる。
【0017】
決定装置100は、第1条件決定部101と、第1学習部102と、第2条件決定部103と、第2学習部104とを備える。
【0018】
第1条件決定部101は、結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から、第1製造条件を決定する。第1製造条件は、上記のように、所望の形状及び密度を有する第1構造物を製造するための積層及び樹脂硬化の際の製造条件である。第1構造物は、後記する第2構造物の製造過程で得られる構造物(中間構造物)である。第1条件決定部101を備えることで、所望の形状及び密度を有する第1構造物の製造条件を決定できる。
【0019】
第1条件決定部101は、所望の形状との寸法差及び密度差が何れも所定範囲内になっている第1構造物の製造時の製造条件を、第1製造条件として決定する。実際に製造された第1構造物の形状及び密度と、所望の形状及び密度とを比較し、これらの差が予め定められた所定範囲内であれば、製造された第1構造物が所望の第1構造物に近いと判断できる。ここでいう差は、形状であれば対応する辺同士の寸法差、密度であれば密度差である。従って、第1条件決定部101は、このような第1構造物を製造できたときの製造条件を、所望の形状及び密度を有する第1構造物を製造するときの第1製造条件として決定できる。
【0020】
ここでいう所定範囲は、積層及び樹脂硬化によって想定される許容可能な寸法差及び密度差である。所定範囲の具体的な数値は、例えば実験によって決定できる。
【0021】
図2は、評価に使用するグリーンパーツ30の形状を示す斜視図である。グリーンパーツ30は、例えば初期設定された第1製造条件でグリーンパーツ30を第1構造物として製造し、この製造時の条件、グリーンパーツ30の形状及び密度等を使用して、上記第1条件決定部101が第1製造条件を決定する。従って、
図2に示すグリーンパーツ30は、第1製造条件の決定のために製造される構造物である。
【0022】
グリーンパーツ30(第1構造物)は、体積が異なるが形状が同じ複数の単位構造物31,32,33を含む。従って、単位構造物31,32,33は相似の関係を有する。単位構造物31,32,33は、それぞれ大中小の3種類のブロック形状を有する。ブロック形状は、直線により構成される辺を有する。ブロック形状であることで、各辺の長さを測定し易くなり、寸法差を算出し易くできる。単位構造物31,32,33は、図示の例では何れも立方体である。立方体を使用することで、xyz軸方向の各方向の寸法を測定でき、積層等に起因する各方向の収縮を評価できる。また、体積の違いによる温度分布、温度分布に起因する熱応力及び処理ムラの影響等により影響を評価できる。ただし、立方体に限られない。
【0023】
グリーンパーツ30は、更に、単位構造物34も含む。単位構造物34は、支持部341と、支持部341から立設するピン状部342とを含む。従って、グリーンパーツ30は、ピン状部342を含む。グリーンパーツ30は、上記のように、粉末材料の積層及び樹脂硬化により製造される。従って、ピン状部342のように細長い形状を有すると、粉末材料を積層し難い。また、積層できたとしても脆く崩れ易いため、損傷し易い。そこで、このような現象を生じさせる第1製造条件を決定して排除するため、ピン状部342が含まれる。
【0024】
ピン状部342(柱状部)の形状は限定されないが、例えば、粉末材料を敷く方向(積層方向の垂直な方向)への長さ(幅)が例えば1mm以上2mm以下の柱状にできる。柱は、円柱、楕円柱でもよく、角柱でもよい。
【0025】
図1に戻って、第1条件決定部101は、更に、単位構造物31,32,33(
図2)でのそれぞれの密度差が何れも所定範囲内に存在するときの製造条件を、第1製造条件として決定する。例えば単位構造物31,32,33のそれぞれを積層し樹脂硬化させた場合、何れの単位構造物31,32,33も、粉末材料が密に存在している構造を100%としたときの密度よりも低下する。ただし、低下の度合いは、上記のように形状は同じであるが体積が異なるため、単位構造物31,32,33毎に異なり得る。そこで、単位構造物31,32,33でのそれぞれの密度差が何れも所定範囲内に存在する製造条件を第1製造条件として決めることで、体積によらず、密度変化が同程度になる第1製造条件を決定できる。これにより、第1構造物及び第2構造物の体積によらず、密度変化を抑制できる。
【0026】
ここでいう所定範囲は、積層及び樹脂硬化によって想定される許容可能な密度差である。所定範囲の具体的な数値は、例えば実験によって決定できる。また、単位構造物31,32,33のそれぞれの密度差について、密度差同士は上記理由のように同程度であることが好ましい。
【0027】
第1学習部102は、第1製造条件、中間構造物の形状、及び中間構造物の密度を特徴量とする機械学習を行う。第1学習部102を備えることで、積層及び樹脂硬化と紐づく第1構造物の評価結果を学習条件のデータベースとして構築できる。ここでいう形状とは、例えば、第1構造物を形成する辺の寸法である。機械学習は、例えば、第1製造条件を目的変数、第1構造物の形状及び密度を説明変数とする教師あり学習を実行できる。ただし、教師あり学習に限定されず、教師なし学習、強化学習のいずれでもよい。機械学習のアルゴリズムは、例えば、ベイズ最適化、カーネルリッジ回帰分析等を使用できる。
【0028】
第2条件決定部103は、付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から、第2製造条件を決定する。第2製造条件は、製造された所望の第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する第2構造物を製造するための、脱脂及び焼結の際の製造条件である。第2条件決定部103により、所望の形状及び密度を有する第1構造物から所望の形状及び密度を有する第2構造物(最終構造物、最終産物)を製造するための製造条件を決定できる。
【0029】
第2条件決定部103は、上記第1条件決定部101と同様に、所望の形状との寸法差及び密度差が何れも所定範囲内になっている第2構造物の製造時の製造条件を、第2製造条件として決定する。実際に製造された第2構造物の形状及び密度と、所望の形状及び密度とを比較し、これらの差が予め定められた所定範囲内であれば、製造された第2構造物の形状及び密度が所望の第2構造物に近いと判断できる。ここでいう差は、形状であれば対応する辺同士の寸法差、密度であれば密度差である。従って、第2条件決定部103は、このような第2構造物を製造できたときの製造条件を、所望の形状及び密度を有する第2構造物を製造するときの第2製造条件として決定できる。
【0030】
ここでいう所定範囲は、脱脂及び焼結によって想定される許容可能な寸法差及び密度差である。所定範囲の具体的な数値は、例えば実験によって決定できる。
【0031】
図3は、評価に使用するシルバーパーツ40の形状を示す斜視図である。シルバーパーツ40は、例えば初期設定された第2製造条件でシルバーパーツ40を第2構造物として製造し、この製造時の条件、シルバーパーツ40の形状及び密度等を使用して、上記第2条件決定部103が第2製造条件を決定する。従って、
図3に示すシルバーパーツ40は、第2製造条件の決定のために製造される構造物である。
【0032】
シルバーパーツ40(第2構造物)は、体積が異なるが形状が同じ複数の単位構造物41,42,43を含む。従って、単位構造物41,42,43は相似の関係を有する。単位構造物41,42,43は、それぞれ大中小の3種類のブロック形状を有する。従って、上記のグリーンパーツ30及びシルバーパーツ40はブロック形状を有する。ブロック形状は、直線により構成される辺を有する。ブロック形状であることで、各辺の長さを測定し易くなり、寸法差を算出し易くできる。単位構造物41,42,43は、図示の例では何れも立方体である。立方体を使用することで、xyz軸方向の各方向の寸法を測定でき、積層等に起因する各方向の収縮を評価できる。また、体積の違いによる温度分布、温度分布に起因する熱応力及び処理ムラの影響等により影響を評価できる。ただし、立方体に限られない。
【0033】
シルバーパーツ40は、更に、単位構造物44を含む。単位構造物44は、オーバーハング形状を有する本体部441と、本体部441の下方(積層方向)を支持するサポート442とを含む。従って、シルバーパーツ40は、オーバーハング形状を有する。オーバーハング形状とは、積層方向において、下方に何も存在しない形状である。オーバーハング形状は、脱脂によって結合が弱くなり、焼結温度への昇温過程において形状に起因する自重変形が生じ易くなる。この結果、形状が大きく変化する場合がある。そこで、単位構造物44を使用することで、そのような変化による影響を評価できる。
【0034】
オーバーハングの自重変形は、昇温速度等の調整で多少抑制できる可能性はある。しかし、本開示の例では、自重変形が発生するもとしてサポート442を付与することを前提として検討することが好ましい。従って、試作品として使用される単位構造物44においても、サポート442が使用される。
【0035】
図1に戻って、第2条件決定部103は、更に、単位構造物41,42,43(
図3)でのそれぞれの密度差が何れも所定範囲内に存在するときの製造条件を、第2製造条件として決定する。例えば単位構造物41,42,43のそれぞれを積層し脱脂させた場合、何れの単位構造物41,42,43も、粉末材料が密に存在している構造を100%としたときの密度よりも低下する。ただし、低下の度合いは、上記のように形状は同じであるが体積が異なるため、単位構造物41,42,43毎に異なり得る。そこで、単位構造物41,42,43でのそれぞれの密度差が何れも所定範囲内に存在する製造条件を第2製造条件として決めることで、体積によらず、密度変化が同程度になる第2製造条件を決定できる。これにより、第1構造物及び第2構造物の体積によらず、密度変化を抑制できる。
【0036】
第2学習部104は、第2製造条件、第2構造物の形状、及び第2構造物の密度を特徴量とする機械学習を行う。第2学習部104を備えることで、脱脂及び焼結と紐づく第2構造物の評価結果を学習条件のデータベースとして構築できる。ここでいう形状とは、例えば、第2構造物を形成する辺の寸法である。機械学習は、例えば、第2製造条件を目的変数、最終構造物の形状及び密度を説明変数とする教師あり学習を実行できる。ただし、教師あり学習に限定されず、教師なし学習、強化学習のいずれでもよい。機械学習のアルゴリズムは、例えば、ベイズ最適化、カーネルリッジ回帰分析等を使用できる。
【0037】
第2学習部104は、第1構造物の熱物性と、第2構造物の形状及び密度とを用いた熱変形解析モデルに対し、所望の形状及び密度を適用することで決定された製造条件を第2製造条件として使用して、機械学習を行う。これにより、実際に脱脂及び焼結を行わなくても、熱変形解析モデルと第1構造物の熱物性(例えば線膨張係数等)とを用いて、第2構造物の形状及び密度を算出できる。そして、算出した第2構造物の形状及び密度を用いて機械学習できるため、機械学習における学習機会を増やすことができる。
【0038】
特に焼結は時間のかかるプロセスである。このため、実験的な手法によって全ての条件を評価すると、収束に時間を要する場合がある。そこで、初期学習によって得られた焼結条件に紐づく、第1構造物の熱物性と、第2構造物の形状及び密度を用いて熱変形解析を行いフィッティングさせることで、第2製造条件を解析し、学習機会を増やすことができる。
【0039】
付加製造装置200は、上記のように、結合剤噴射方式による付加製造を行うものである。付加製造装置200の具体的内容は、
図8A以降を参照しながら後記する。付加製造装置200は、例えば、決定装置100で決定された第1製造条件及び第2製造条件に基づいて、付加製造を行う。
【0040】
付加製造により得られた第1構造物及び第2構造物の形状及び密度に関する情報、中間構造物の熱物性値に関する情報等は、例えば使用者により、入力装置300を介して決定装置100に入力される。入力装置300は、例えば、キーボード、マウス等である。決定装置100で決定された第1製造条件及び第2製造条件は、適宜、出力装置400に出力される。出力装置400は、例えば、モニター、ディスプレイ、プリンタ等である。
【0041】
決定された第1製造条件及び第2製造条件は、例えば粉末材料の特性、使用する付加製造装置200の特性(機能、仕様等)、所望の第2構造物である最終構造物の形状及び密度に対応する製造条件である。従って、決定された第1製造条件及び第2製造条件で、条件決定時に想定した付加製造装置200を使用して付加製造を行うことで、所望の形状及び密度を有する構造物を製造できる。
【0042】
図4は、本開示の付加製造方法を示すフローチャートである。本開示の付加製造方法は、第1条件決定ステップS101と、第2条件決定ステップS102と、付加製造ステップS103とを含む。
【0043】
第1条件決定ステップS101は、結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から第1製造条件を決定するステップである。第1製造条件は、上記のように、所望の形状及び密度を有する第1構造物を製造するための積層及び樹脂硬化の際の製造条件である。第1条件決定ステップS101は、第1条件決定部101(
図1)によって実行できる。第2条件決定ステップS102は、付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から第2製造条件を決定するステップである。第2製造条件は、上記のように、製造された所望の第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する第2構造物を製造するための、脱脂及び焼結の際の製造条件である。第2条件決定ステップS102は、第2条件決定部103(
図1)によって実行できる。適宜、第1学習部102による第1学習ステップ、及び、第2学習部104による第2学習ステップが行われてもよい。
【0044】
付加製造ステップS103は、第1条件決定ステップS101で決定された第1製造条件、及び、第2条件決定ステップS102で決定された第2製造条件を用いて構造物を製造するステップである。ここでいう構造物は、第1製造条件及び第2製造条件の決定時に使用した条件を有するものであることが好ましい。また、付加製造に使用する付加製造装置200(
図1)も、第1製造条件及び第2製造条件の決定時に使用した条件を有するものであることが好ましい。本開示の製造方法によれば、所望の形状及び密度を有する付加製造物(積層造形物、造形物、構造物)を製造できる。
【0045】
製造条件の決定と、付加製造とは、同じ場所で行ってもよく、異なる場所で行ってもよい。後者の場合、例えば、製造条件の決定を地点Aで行い、決定した第1製造条件及び第2製造条件を用いて、付加製造を地点Bで行うことができる。この場合、地点Aでの製造条件の決定は、地点Bで使用する付加製造装置200の仕様、特性等を予め入手したうえで、行うことが好ましい。このようにすることで、例えば遠隔の地点Bに設置された付加製造装置200の仕様、特性等に合致した第1製造条件及び第2製造条件を、地点Aに存在する使用者が決定し、地点Bに存在する製造者に提供できる。
【0046】
図5は、本開示の付加製造条件の決定装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。決定装置100は、例えばCPU(Central Processing Unit)1001、RAM(Random Access Memory)1002、ROM(Read Only Memory)1003等を備えて構成される。決定装置100は、ROM1003に格納されている所定の制御プログラム(例えば付加製造条件の決定方法)がRAM1002に展開され、CPU1001によって実行されることにより具現化される。
【0047】
図6は、本開示の付加製造条件の決定方法の前段を示すフローチャートである。本開示の付加製造条件の決定方法は、ステップS1~S9を含む。
図6は、主に、グリーンパーツの出来栄えを評価するための、積層及び樹脂硬化の両工程を探索する方法の一例を示す。グリーンパーツの出来栄えは、
図6を参照しながら以下で説明する「第1制御因子」によって制御できる。従って、積層及び樹脂硬化の際の第1製造条件は、適切に設定された第1制御因子である。
図6に示すフローは、第1条件決定部101及び第1学習部102(何れも
図1)によって実行できる。
【0048】
積層時の第1制御因子として、粉末材料の材質、粒径、粒度分布、バインダ材料がある。ただし、これらは、エンドユーザにより使用される材料であるため、これらの第1制御因子は固定因子とすることが好ましい。他にも、第1制御因子としては、一層毎の積層厚さ、粉末材料の供給量(後記振動機構11の出力、時間等)、粉敷速度(後記粉敷機構4の移動速度)、整地設定(ローラ回転数等)、バインダ塗布量(後記塗布機構5からのインクジェット出力、インクジェット間隔等)、乾燥(後記ヒータ13の出力、時間等)等がある。中でも、グリーンパーツの出来栄えは、これらの第1制御因子により特に影響される。第1制御因子としては、他にも、粉末材料の供給速度等が含まれてもよい。
【0049】
樹脂硬化時の第1制御因子としては、熱処理の温度ステップ(何段階で昇温させるか)、昇温速度、処理温度、保持時間等がある。
【0050】
積層及び樹脂硬化の両工程の適正化のため、先ず、積層工程において、第1制御因子を振って割り付け、初期第1制御因子群(初期設定された積層レシピ群)が設定される(ステップS1)。初期第1制御因子群は、予め定められた第1制御因子について初期条件の群である。初期第1制御因子群には、上記積層時の第1制御因子のそれぞれを変えることで、合計で例えば10~20の製造条件(パラメータセット)が含まれる。
【0051】
次いで、初期第1制御因子群を用いて、積層及び乾燥が行われる(ステップS2,S3)。更に、樹脂硬化工程において、第1制御因子を振って割り付ける、初期第1制御因子群(初期設定された硬化レシピ群)が設定される(ステップS4)。ここで設定される初期第1制御因子群にも、上記樹脂硬化時の第1制御因子のそれぞれを変えることで、合計で例えば10~20の製造条件(パラメータセット)が含まれる。各初期第1制御因子群を用いて樹脂硬化することで、グリーンパーツが制御される(ステップS5)。
【0052】
積層及び樹脂硬化時の第1制御因子の総数(レシピ数)は、積層レシピ数と硬化レシピ数とを乗じた数であり、評価数が膨大になる可能性がある。ここで、樹脂硬化工程では、樹脂の材質によって処理温度がおよそ決定される。そこで、最初に昇温速度及びステップ数を固定し、大体の処理温度及び処理時間を決めることが好ましい。なお、積層レシピ群の設定は、実験計画法を用いたり、条件決定時に使用する金属材料にいた材料を使用する他の材料レシピをベースに振り幅を決めて設定しても良い。
【0053】
グリーンパーツの出来栄えを評価するため、上記のように、一つのレシピで複数のグリーンパーツを製造して評価するのが好ましい。使用する複数のグリーンパーツは、例えば上記
図2を参照して説明したグリーンパーツ30である。
【0054】
初期設定された積層レシピ群及び硬化レシピ群を用いて製造したグリーンパーツについて、形状、質量及び密度が測定される(ステップS6)。密度は、実測に代えて計算で求めてもよい。製造したグリーンパーツにおいて、上記
図2を参照して説明したように、目標の形状に近い製造条件が抽出され、更に、これらのレシピのうち、密度が高く、体積の違い(上記
図2における大中小)で密度差が小さい製造条件が第1製造条件として決定される。
【0055】
グリーンパーツの計測評価で目標を達成したものがあれば、第1製造条件を決定したとして、積層及び樹脂硬化の両工程を完了できる(ステップS7のYES)。しかし、達成できていない場合、及び、更に改善の見込みがないか確認する場合(ステップS7のNO)、初期の積層レシピ及び硬化レシピと、これらを使用して得られたグリーンパーツの形状及び密度についての評価結果とを、学習条件のデータベースに格納し、上記のように機械学習できる(ステップS8)。これにより、適切な組み合わせを導出できる。
【0056】
ステップS7の機械学習を行った後、機械学習によって、積層レシピ及び硬化レシピが新たに提案される(ステップS9)。新たに提案された積層レシピ及び硬化レシピに従い、ステップS1以降が再度行われる。
【0057】
以上のステップS1~S9は、結合剤噴射方式による付加製造時に行われる積層及び樹脂硬化により製造された第1構造物の形状及び密度から第1製造条件を決定する第1条件決定ステップである。第1製造条件は、上記のように、所望の形状及び密度を有する第1構造物を製造するための積層及び樹脂硬化の際の製造条件である。
【0058】
図7は、本開示の付加製造条件の決定方法の後段を示すフローチャートである。本開示の付加製造条件の決定方法は、ステップS11~S19を含む。
図7に示すフローは、上記
図6に示すフローに続いて実行される。
図7は、主に、シルバーパーツの出来栄えを評価するための、脱脂及び焼結の両工程を探索する方法の一例を示す。シルバーパーツの出来栄えは、
図7を参照しながら以下で説明する「第2制御因子」によって制御できる。従って、脱脂及び焼結の際の第2製造条件は、適切に設定された第2制御因子である。
図7に示すフローは、第2条件決定部103及び第2学習部104(何れも
図1)によって実行できる。
【0059】
脱脂時の第2制御因子としては、処理雰囲気、昇温速度、処理温度、処理時間(保持時間)等がある。焼結時の第2制御因子としては、処理雰囲気、温度ステップ、昇温速度、焼結温度、保持時間等がある。
【0060】
脱脂及び焼結の両工程の適正化のため、まず、上記
図6を参照して決定した第1製造条件を用いてグリーンパーツが作製され、作製されたグリーンパーツについて熱質量示差熱同時測定(TG/DTA)が行われる(ステップS11)。熱質量示差熱同時測定のデータ解析により、バインダ消失による質量変化が生じる温度域がわかるため、脱脂の処理温度(脱脂レシピの一例)を決定できる。脱脂中、質量変化が生じる温度域の保持により、温度が高すぎることに起因するグリーンパーツの破損、及び、音素が低すぎることに起因するバインダ除去の不十分さを抑制できる。これにより、バインダを十分に除去でき、ブラウンパーツを作製できる。
【0061】
脱脂の処理時間(脱脂レシピの一例)は、例えば、熱質量変化の記録をもとに、所定アルゴリズムで算定したバインダ除去時間を参考に設定できる。所定アルゴリズムは、例えば、処理温度及び昇温時の温度(脱脂レシピの一例)の変化率と関連付けた所定の式を使用できる。
【0062】
また、作製したグリーンパーツについて、線膨張係数等の熱物性値が測定される(ステップS12)。ここでいう熱物性値は、脱脂及び焼結に起因する加熱によって、焼結後のシルバーパーツの形状又は密度の少なくとも一方に影響を与える物性値である。
【0063】
次いで、作製したグリーンパーツについて、脱脂が行われる(ステップS13)。
【0064】
脱脂後、焼結の適正化のため、初期第2制御因子群(初期設定された焼結レシピ群)が設定される(ステップS14)。初期第2制御因子群は、予め定められた第2制御因子について初期条件の群である。初期第2制御因子群には、焼結時の第2制御因子のそれぞれを変えることで、例えば10~20の製造条件(パラメータセット)が含まれる。初期第2制御因子を第2製造条件として、焼結が行われる(ステップS15)。焼結により得られた各シルバーパーツに対して、形状、質量及び密度が測定される(ステップS16)。密度は、実測に代えて計算で求めてもよい。
【0065】
シルバーパーツの出来栄えを評価するため、上記のように、一つのレシピで複数のシルバーパーツを製造して評価するのが好ましい。使用する複数のシルバーパーツは、例えば上記
図3を参照して説明したシルバーパーツ40である。
【0066】
初期設定された脱脂レシピ群及び焼結レシピ群を用いて製造したシルバーパーツについて、形状、質量及び密度が測定される(ステップS16)。密度は、実測に代えて計算で求めてもよい。製造したシルバーパーツにおいて、上記
図3を参照して説明したように、目標の形状に近い製造条件が抽出され、更に、これらのレシピのうち、密度が高く、体積の違い(上記
図3における大中小)で密度差が小さい製造条件が第2製造条件として決定される。
【0067】
シルバーパーツの計測評価で目標を達成したものがあれば、第2製造条件を決定したとして、脱脂及び焼結の両工程を完了できる(ステップS17のYES)。しかし、達成できていない場合、及び、更に改善の見込みがないか確認する場合(ステップS17のNO)、初期の脱脂レシピ及び焼結レシピと、これらを使用して得られたシルバーパーツの形状及び密度についての評価結果とを、学習条件のデータベースに格納し、上記のように機械学習する(ステップS18)。これにより、適切な組み合わせを導出できる。なお、ステップS18の機械学習に使用されるデータは、上記のように、熱変形解析によって取得されたデータでもよい。
【0068】
ステップS18の機械学習を行った後、機械学習によって、脱脂レシピ及び焼結レシピが新たに提案される(ステップS19)。新たに提案された脱脂レシピ及び焼結レシピに従い、ステップS12以降が再度行われる。
【0069】
以上のステップS11~S19は、付加製造時に行われる脱脂及び焼結により製造された第2構造物の形状及び密度から第2製造条件を決定する第2条件決定ステップである。第2製造条件は、上記のように、製造された所望の第1構造物を用いて所望の形状及び密度を有する第2構造物を製造するための、脱脂及び焼結の際の製造条件である。
【0070】
以上の決定装置100及び決定方法によれば、決定した第1製造条件及び第2製造条件で付加製造を行うことで、所望の形状及び密度を有する構造物(最終構造物)を製造できる。特に、結合剤噴射方式の付加製造では、製造工程が複数あり、上記第1制御因子、上記第2制御因子等の制御因子が多種存在する。このため、好適な制御因子を決定することは容易ではない。好適な製造条件を求めるためには、数多くの造形物を製造して評価が行われる。このため、各工程での製造条件であるレシピの構築には、膨大なコストと時間とがかかる。
【0071】
これに対して、上記の粉末床溶融結合では、機械学習を用いて制御因子及び造形結果を突き合わせて、回帰分析を行い最適化する手法がある。しかし、この手法を結合剤噴射方式に適用しても、結合剤噴射方式では、付加製造条件の一連のプロセスを通したレシピを評価するために、処理時間がかかる。このため、やはり評価時間がかかるとともに、評価数が多くなり、前段プロセスの結果が悪い場合等、適正条件探索まで分析が収束しない。従って、本開示の決定装置100及び決定方法によれば、第1製造条件及び第2製造条件に分けて製造条件を決めるため、決定までの時間及び工数を削減でき、効率的に決定できる。即ち、結合剤粉末方式における付加製造条件の探索を、複数に分割して行うことで、最適化までの効率を向上できる。
【0072】
図8Aは、本開示の付加製造装置200を側方から視た模式図である。
図8Bは、本開示の付加製造装置200を上方から視た模式図である。付加製造装置200は、層状に敷いた粉末材料(粉末床3)にバインダを塗布して乾燥させることで、金属粉末を結合させる。バインダは、例えば樹脂を含む溶液である。バインダは、樹脂及び有機溶剤の他、更に、界面活性剤、粘度調整剤等の添加物を含んでもよい。粉末材料は、例えば、熱間工具鋼、銅、チタン合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼等の金属材料の粉末、ポリアミド等の樹脂材料の粉末、セラミックスの粉末等である。付加製造装置200は、粉末床3の形成とバインダ塗布と乾燥とこの順で繰り返すことで、造形層2内にバインダで結合された金属粉末の3次元構造を形成する。
【0073】
金属粉末は湿度の影響によって流動性が変化する。このため、後記する粉末供給機構10、整地機構12、粉敷機構4、造形層2等の、粉末材料が接触する部分の加熱により水分を除去し、湿度制御することができる。
【0074】
造形層2の周囲には、回収部20として機能する空間が形成される。余剰の粉末は、粉敷機構4による粉敷動作に伴って回収部20に落下する。回収部20に回収された粉末は、篩で再分級することで、造形に再利用される。
【0075】
付加製造装置200は、造形層2と、粉敷機構4と、バインダを塗布する塗布機構5と、バインダを塗布機構5に供給する供給機構6と、チャンバ7と、造形層2を昇降させる昇降機構8と、を備える。付加製造装置200は、更に、付加製造装置200の動作及び制御を監視する監視装置9を備える。監視装置9は、例えば、上記
図7に示した決定装置100のハードウェア構成と同じハードウェア構成を採用できる。チャンバ7は、監視装置9及び供給機構6を除いた付加製造装置200の各機構を収容する。ただし、チャンバ7は、監視装置9及び供給機構6を収容してもよい。
【0076】
造形領域21は、造形層2と底板22とにより構成される。底板22は昇降機構8に固定され、昇降機構8の動作に応じて底板22の上下方向位置が変化する。
【0077】
粉敷機構4は、何れも
図9A等を参照しながら後記するが、粉末供給機構10と、振動機構11と、整地機構12と、ヒータ13と、粉敷機構4を移動させる駆動機構(不図示)とを備える。ヒータ13は備えられなくてもよい。
【0078】
塗布機構5は、後記バインダヘッド51と、バインダヘッド51を移動させる駆動機構(不図示)とを備える。バインダは、供給機構6から配管(不図示)を通してバインダヘッド51に供給され、供給されたバインダはバインダヘッド51から吐出される。
【0079】
図9A、
図9B、
図9C及び
図9Dは、何れも、粉敷動作の一例を示す模式図である。粉敷は、
図9A、
図9B,
図9C、及び
図9Dに示す動作の順で行われる。粉敷動作は、上記積層工程の一部であり、粉敷動作は、上記第1製造条件に含まれる条件で行われることが好ましい。
【0080】
初めに粉敷機構4の概略を説明する。粉敷機構4は、粉末供給機構10を振動機構11で振動させることで、造形層2に粉末を落下させる。更に、粉敷機構4の移動により、整地機構12を介して粉末が造形層2内に敷かれ、粉末床3が形成される。なお、粉末供給機構10は、何れも図示はしないが、粉敷機構4から独立してチャンバ7(
図8A)の内底に凹状に設けられ、上部が開放されて上端に開口部を有したものでも良い。この場合、粉末供給機構10は、粉末材料を載置して供給するための上下に移動可能なステージを有することが好ましい。このステージは、粉末供給機構10の底壁を構成するとともに、適宜の昇降機構(不図示)によって、所定のピッチで昇降可能に設けられる。
【0081】
次に、粉敷機構4を用いた粉敷動作を説明する。粉敷動作は、例えば
図9A~
図9Dにおいて太実線矢印で示すように、造形層2上に粉敷機構4を移動させることから開始される。
図9Aに示すように、造形層2上で粉敷機構4は、振動機構11の振動によって粉末供給機構10を振動させることで、供給する粉末材料を落下させる。
図9Bに示すように、粉敷機構4は移動しながら粉末材料を落下させることで、造形層2上に粉末が敷かれる。
図9Cに示すように、粉敷機構4の移動によって、敷かれた粉末に整地機構12が作用して、整地することで粉末床3が形成される。整地機構12は、粉末床3の高さレベルを調整するブレード、ローラ等である。ローラの場合、ローラを自転させながら粉敷機構4の移動によって粉末床3を押し固めながら形成できる。
図9Dに示すように、余剰の粉末材料は、造形層2から落下する。
【0082】
図10A及び
図10Bは、何れも、塗布動作の一例を示す模式図である。塗布動作は、上記積層工程の一部であり、塗布動作は、上記第1製造条件に含まれる条件で行われることが好ましい。
図10Aに示すように、バインダの塗布は、造形層2上に形成された粉末床3に、造形品(グリーンパーツ)の一層分に相当する二次元平面形状に合わせて実行される。塗布は、
図10A及び
図10Bにおいて太実線矢印で示すように移動する塗布機構5から、インクジェットによって連続的に実行される。
【0083】
図11は、乾燥動作の一例を示す図である。乾燥動作は、上記積層工程の一部であり、乾燥動作は、上記第1製造条件に含まれる条件で行われることが好ましい。塗布されたバインダの乾燥は、太実線矢印で示す方向に移動している例えばヒータ13を加熱し、粉末床3上を通過させることによって実行できる。また、乾燥は造形層2、又は造形層2の底面をヒータ13で加熱し続けることで、バインダ塗布と同時に乾燥してもよい。
【0084】
上記
図9A~
図11に示す動作を繰り返すことで、造形層2(
図8A)に、造形物の三次元形状が形成される。そして、造形層2ごと恒温槽(不図示)にて、約100℃~300℃程度の温度範囲で、数時間から数十時間保持することで、バインダが硬化する。これにより、造形層2の粉末中からグリーンパーツを取り出すことができる。
【0085】
取り出されたグリーンパーツは、恒温槽又は熱処理炉(何れも不図示)にて約400℃~600℃程度の温度範囲で数時間から数十時間保持されることで、脱脂が行われる。これにより、バインダが除去され、ブラウンパーツが得られる。脱脂は、上記第2製造条件に含まれる条件で行われることが好ましい。ブラウンパーツではバインダの除去により粉末材料同士の結合が弱くなっているため、形状が崩れ易く、取り扱いに注意を要する。
【0086】
ブラウンパーツは、真空炉又は真空雰囲気の熱処理炉(何れも不図示)にて融点以下からおよそ融点の8割程度の温度範囲で、数時間から数十時間保持されることで、焼結が行われる。焼結により、ブラウンパーツの粉末同士が金属結合することで、焼結体であるシルバーパーツが得られる。焼結は、上記第2製造条件に含まれる条件で行われることが好ましい。なお、脱脂と焼結とを同一炉内で一括処理してもよい。
【0087】
ブラウンパーツは、焼結処理で高温に曝されることで自重によって変形し得る。そこで、上記オーバーハング形状を有する部分には、上記のように、サポートといわれる支柱等を同時に製造することで、焼結時の変形を抑制できる。サポートは、焼結時には造形物との間に僅かのギャップを設けて設置し、界面には離型剤を塗布して、変形接触して焼結時に結合しないようにすることが好ましい。
【符号の説明】
【0088】
100 決定装置
101 第1条件決定部
102 第1学習部
103 第2条件決定部
104 第2学習部
200 付加製造装置
30 グリーンパーツ
300 入力装置
31 単位構造物
32 単位構造物
33 単位構造物
34 単位構造物
341 支持部
342 ピン状部
40 シルバーパーツ
400 出力装置
41 単位構造物
42 単位構造物
43 単位構造物
44 単位構造物
441 本体部
442 サポート
S101 第1条件決定ステップ
S102 第2条件決定ステップ
S103 付加製造ステップ