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  • 特開-管内面防食管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134816
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】管内面防食管
(51)【国際特許分類】
   F16L 9/02 20060101AFI20240927BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16L9/02
B32B1/08 Z
B32B15/04 Z
B32B15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045201
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】東 祐樹
【テーマコード(参考)】
3H111
4F100
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA02
3H111CB05
3H111CB06
3H111CB07
3H111CB14
3H111CB22
3H111CB23
3H111DA08
3H111DB05
4F100AB08A
4F100AE01B
4F100AG00D
4F100AG00H
4F100AK25C
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AR00E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100DA11A
4F100DE02D
4F100DE02H
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100EH46E
4F100EJ65C
4F100JB02
(57)【要約】
【課題】下水道に用いる鋳鉄管について、粉体塗装よりも施工しやすくかつ粉体塗膜と同程度の耐久性、耐酸性を確保する。
【解決手段】鋳鉄管1の内面側に、管内面表面から順に、モルタルライニング層21と、ビニルエステル樹脂により形成されたプライマ層22と、鱗片状ガラスを含有するビニルエステル樹脂塗料により形成された塗膜層23とを備える内面防食鋳鉄管とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管の内面側に、管内面表面から順に、モルタルライニング層と、ビニルエステル樹脂により形成されたプライマ層と、鱗片状ガラスを含有するビニルエステル樹脂塗料により形成された塗膜層とを備える内面防食鋳鉄管。
【請求項2】
前記塗膜層の表面側にさらに上塗り層を有する、請求項1に記載の内面防食鋳鉄管。
【請求項3】
鋳鉄管を回転させながら管内面にセメントモルタルを供給し、管内面にモルタルライニング層を形成するステップ、
前記モルタルライニング層の硬化後に、前記モルタルライニング層の表層側に存在するレイタンス層を研磨除去するステップ、
前記モルタルライニング層の表層に、ビニルエステル樹脂プライマを塗工してプライマ層を形成するステップ、
前記プライマ層の表面に、鱗片状ガラスを含有するビニルエステル樹脂塗料を塗工して塗膜層を形成するステップ、
を行う、内面防食鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記塗膜層の上に前記鱗片状ガラスを含有しないビニルエステル樹脂塗料を塗工して上塗り層を形成するステップを行う、請求項3に記載の内面防食鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳鉄管の防食に関する。
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鉄管は樹脂管よりも高い強度を有し、幹線水道管を含めた上下水道管に広く使われているが、鋳鉄製である以上鋳造したそのままの状態では腐食するので、外面及び内面ともに、継手部分も含めて十分に防食処理を行った上で使用する。
【0003】
このような需要からモルタルライニングなどを鋳鉄管の内面に施すことが行われている。しかし下水道は自然流下方式が多く採用されており、管内は満水にならずに液相、気相が存在することが多い。液相中は嫌気性環境であり嫌気性バクテリアにより硫化水素が生成され、気相中に拡散する。気相中は好気性環境であり好気性バクテリアにより硫化水素から硫酸が生成されるため、下水管内は酸性環境となる。ここで、モルタルライニングは耐酸性が十分ではないため、下水環境ではそのままでは適用しにくいという問題がある。これに対して、特許文献1には、管内面のセメントモルタル層の表面に、無溶剤型エポキシ樹脂塗料による塗膜を形成させた内面防食鋳鉄管が提案されている。これにより、モルタルが管内の酸性環境と直接接触しなくなり、モルタル自体が酸に溶けて溶出することを防止できる。
【0004】
また、特許文献2には、鋼管の内面にガラスフレーク塗料を塗布して管を保護する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-109215号公報
【特許文献2】特開昭58-109215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無溶剤型エポキシ樹脂塗料は粘度が高いため塗料自体を加熱・加圧しながら塗装しなければならず、施工が煩雑という問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載のモルタルライニング上に塗膜を形成させた内面防食鋳鉄管では、環境によっては無溶剤型エポキシ樹脂塗料による塗膜を酸性物質が透過してしまい、モルタルライニングが劣化してしまうおそれがあった。さらに、一般的に鋳鉄管内面に用いられているエポキシ樹脂粉体塗装は、塗料硬化のために管全体を加熱する必要があるため、特に大口径の管には施工しにくいという問題があった。
【0008】
そこでこの発明は、粉体塗装よりも施工しやすくかつ粉体塗膜と同程度の耐久性を確保できる、耐酸性に優れた下水対応の管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、鋳鉄管の内面側に、管内面表面から順に、モルタルライニング層と、ビニルエステル樹脂により形成されたプライマ層と、鱗片状ガラスを含有するビニルエステル樹脂塗料により形成された塗膜層とを備える内面防食鋳鉄管により、上記の課題を解決したのである。
【0010】
すなわち、ビニルエステル樹脂塗料に鱗片状ガラスを含有させた塗膜層は、鱗片状ガラスが塗膜層内で何重にも積層された防護層となる。これにより、粉体塗装による粉体塗膜層のように、管全体を加熱する必要なく塗工でき、なおかつ鱗片状ガラスにより高い耐酸性を発揮する内面防食鋳鉄管とすることができる。
【0011】
この発明にかかる内面防食鋳鉄管は、前記塗膜層の表面側にさらに上塗り層を有する実施形態を採用できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる内面防食鋳鉄管では、管全体を加熱しなくても塗工して塗膜層を形成できるビニルエステル樹脂塗料に、鱗片状ガラスを含めることで、塗膜層内に何重にも重なった鱗片状ガラスの防護層を形成でき、酸性を示す下水のような過酷な環境でも、モルタルライニング層まで酸性物質が浸透してモルタルライニング層が劣化することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)この発明にかかる内面防食鋳鉄管の実施形態の概要を示す断面図、(b)この発明にかかる内面防食鋳鉄管の第一の実施形態を示す直管部分の断面拡大図、(c)この発明にかかる内面防食鋳鉄管の第二の実施形態を示す直管部分の断面拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態について具体的に説明する。
この発明は、図1(a)に示すような直管型の鋳鉄管1における、挿し口11と受口12との間に形成された直部13の内面に、防食層20を設けた内面防食鋳鉄管である。この発明にかかる第一の実施形態における防食層20は、図1(b)の拡大断面図に示すように、鋳鉄管1の内面から順にモルタルライニング層21とプライマ層22と塗膜層23とを有する。また、この発明にかかる第二の実施形態における防食層20は、図1(c)の拡大断面図に示すように、塗膜層23の上にさらに上塗り層24を有する。以降は第一の実施形態を主な例として説明する。
【0015】
この発明で用いる鋳鉄管1としては、遠心鋳造による鋳鉄管を好適に用いることができる。鋳鉄管の種類としては特に限定されるものではなく、一般的なダクタイル鉄管などを用いることができる。
【0016】
モルタルライニング層21は、鋳鉄管1の内面に遠心力を掛けながらセメントモルタルを供給し、硬化させたものである。セメントモルタルは砂などの骨材とセメントとを混合した一般的なものである。セメントモルタルを硬化させて生じるモルタルライニング層21には、表面にセメントモルタルに含まれていた不純物が集まったレイタンス層が含まれるので、プライマ層22を塗工する前にこのレイタンス層を除去しておくと好ましい。また、レイタンス層を除去した後のモルタルライニング層21の厚みは4~15mmであることが好ましい。4mm未満であると鋳造後の直部13の内面に形成された凹凸によりモルタルライニング層21の表面が平滑にならず、15mmよりも厚いと管内面における通水断面積が必要以上に減少するためである。
【0017】
プライマ層22は、ビニルエステル樹脂プライマをモルタルライニング層21の表層に塗工して形成した樹脂による層である。ビニルエステル樹脂をプライマとして介在させることで、粉体塗装のように高熱環境で用いなくても接着性を発揮できる。プライマ層22の厚みは、50μm以上100μm以下であることが好ましい。50μm未満であると塗膜層23との接着安定効果が不十分になり、100μmよりも厚くても接着安定効果が増加しないためである。また、図示しないがモルタルライニング層21を形成させずに鋳鉄管1の内面に直接プライマ層22を塗工することもできる。ただしこの場合はモルタルライニング層21による平滑性の確保などができないため、研磨やブラスト等による処理が必要となる。
【0018】
塗膜層23は、鱗片状ガラスを含有するビニルエステル樹脂塗料を、プライマ層22の上に塗工して形成させたものである。内部では鱗片状ガラスが何重にも重なって硬化されるため、ビニルエステル樹脂のみの層に比べて、複数層が重なったガラスによる防護効果が加わって高い耐酸性を発揮するので、この発明にかかる内面防食鋳鉄管は酸性となる下水環境であっても、モルタルライニング層にまで酸性物質が浸透することを防ぎ、モルタルライニングの劣化を抑えた高い耐久性を発揮できる。塗膜層23の厚みは、300μm以上900μm以下であることが好ましい。300μm未満であると含有する鱗片状ガラスの量が不十分になり、モルタルライニング層21への保護効果が不十分となりやすく、900μmより厚いと管内面における通水断面積が減少してしまうからである。
【0019】
この発明の第二の実施形態で有する上塗り層24は、塗膜層23の上にさらにビニルエステル樹脂を塗工して形成した樹脂による層である。この上塗り層24に用いるビニルエステル樹脂には鱗片状ガラスを含めない。上塗り層24が存在すると塗膜層23に対する保護ができ、耐久性が向上する。上塗り層24を形成させる場合、上塗り層24の厚みは100μm以上300μm以下であることが好ましい。100μm未満であると鱗片状ガラスを含有する塗膜層23表面の凹凸隠蔽効果が十分に発揮されず、300μmより厚くても鱗片状ガラスを有さないビニルエステル樹脂塗料による層は酸の浸透がしやすく、モルタルライニング層21への保護効果が特に向上するわけではないため無駄になってしまう。
【0020】
上記のプライマ層22、塗膜層23、及び上塗り層24を形成する塗工の方法としては、例えばローラ塗装や刷毛もしくはスプレー塗装等の方法により形成することができる。
【0021】
モルタルライニング層21を施さない受口12内面部や挿し口11外面部は酸性環境に曝されるため、これらの部位にプライマ層22、塗膜層23を備える実施形態とすることで、これらの部位を保護することもできる。また、そのようなモルタルライニング層21の無い部位に重ねられた塗膜層23の表面にも、上塗り層24を備える実施形態とすることもできる。
【実施例0022】
以下、この発明にかかる内面防食鋳鉄管を実際に製造した実施例をあげてこの発明を具体的に示す。
【0023】
(実施例1~3)
鋳鉄管として(株)栗本鐵工所製、呼び径150のダクタイル鉄管を回転させながら内面にモルタルライニングを施してモルタルライニング層21を形成させた。硬化後に表面のレイタンス層となる部分を研磨除去した。
【0024】
レイタンス層を除去したモルタルライニング層21の内面に、ビニルエステル樹脂プライマであるタフバリア#200プライマRC(日本特殊塗料(株)製)を、80μmの膜厚となるようにローラにて塗装して、プライマ層を形成させた。
【0025】
プライマ層となるビニルエステル樹脂プライマが硬化した後、鱗片状ガラスを含有するタフバリア#200フレーク(日本特殊塗料(株)製)を、300μmの厚みとなるようにローラにて塗装して塗膜層を形成した(実施例1)。また、実施例2では同様のローラ塗装を2回行って600μmの厚みとなる塗膜層を形成し、実施例3では同様のローラ塗装を3回行って900μmの厚みとなる塗膜層を形成した。
【0026】
実施例1~3において、塗膜層が硬化した後、鱗片状ガラスを含有しないビニルエステル樹脂塗料であるタフバリア#200上塗り(日本特殊塗料(株)製)を、150μmの厚みとなるようにローラにて塗装して上塗り層を形成して、モルタルライニング層、プライマ層、塗膜層、上塗り層の四層で保護された内面防食鋳鉄管を得た。
【0027】
(比較例1:従来の粉体塗装)
実施例1に用いたものと同じ鋳鉄管を用い、鋳鉄管内面に下地処理を行い清浄な面とした管を作製した。この研磨した鋳鉄管を270℃に加熱した後、エポキシ樹脂粉体塗料であるV-PET#1600クリモトグレーFH(大日本塗料(株)製)を300μmの膜厚となるように塗工し、その後放冷し、硬化させて、エポキシ樹脂粉体塗料による粉体塗膜層で保護した内面防食鋳鉄管を得た。
【0028】
実施例1~3及び比較例1の、塗装を終えた内面防食鋳鉄管を、150mm×90mmの大きさに切断し、切断面は保護するための塗装を行った。これらの試験片について、以下の試験を行った。なお、各試験方法は、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」(地方共同法人日本下水道事業団編:以下「マニュアル」と略記する)に記載された方法に準拠した。
【0029】
<耐硫酸浸漬試験>
作製した試験片について、10質量%硫酸水溶液に60日間浸漬させた後、塗膜の外観を観察した。評価は以下の通り行った。マニュアル中、防食被覆工法は塗布型ライニング工法であり、腐食環境はI類(年間平均硫化水素ガス濃度が50ppm以上で、コンクリート腐食が極度に見られる環境)で、要求性能はD種に相当する。
〇:60日後に、塗膜に割れ、軟化、溶出のいずれも観測されず。
×:60日後に、塗膜に割れ、軟化、溶出のいずれか異常あり。
【0030】
<硫黄浸透度試験>
作製した試験片について、10質量%硫酸水溶液に120日間浸漬させた後、塗膜の断面についてEPMA((株)島津製作所製、EPMA1720)にて硫黄の元素分析を行い、塗膜表面からの硫黄の侵入深さを調査した。評価は以下の通り行った。同じく、マニュアル中、防食被覆工法は塗布型ライニング工法であり、腐食環境はI類(年間平均硫化水素ガス濃度が50ppm以上で、コンクリート腐食が極度に見られる環境)で、要求性能はD種に相当する。
〇:120日後に、表面からの硫黄侵入深さが膜厚に対して5%以下、かつ100μm 以下。
×:120日後に、表面からの硫黄侵入深さが膜厚に対して5%より大きく、もしくは100μmより大きい。
【0031】
<耐有機酸浸漬試験>
作製した試験片について、5質量%酢酸水溶液に60日間浸漬させた後、塗膜の外観を観察した。評価は以下の通り行った。
〇:60日後に、塗膜に割れ、軟化、溶出のいずれも観測されず。
×:60日後に、塗膜に割れ、軟化、溶出のいずれか異常あり。
【0032】
これらの試験結果を表1に示す。いずれの実施例も、従来の高温が必要な粉体塗装による比較例と同等の良好な試験結果を示した。
【0033】
【表1】
【符号の説明】
【0034】
1,1a 鋳鉄管
11 挿し口
12 受口
13 直部
20 防食層
21 モルタルライニング層
22 プライマ層
23 塗膜層
24 上塗り層
図1