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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013484
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】成形装置および成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/12 20060101AFI20240125BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20240125BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B29C33/12
B29C43/36
B29C43/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115599
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】595014516
【氏名又は名称】株式会社アーク
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 俊信
(72)【発明者】
【氏名】小島 豊
【テーマコード(参考)】
4F202
4F204
【Fターム(参考)】
4F202AC03
4F202AG01
4F202AR07
4F202CA09
4F202CB01
4F202CK25
4F202CK43
4F202CQ01
4F202CQ05
4F204AC03
4F204AG01
4F204AR07
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
(57)【要約】
【課題】シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、しわを生じにくくする成形装置を提供すること。
【解決手段】型締め時に成形体の形状を有するキャビティを形成する、対向する2つの型と、成形されるシート状樹脂を前記2つの型の間で保持する保持部と、前記保持部に保持された前記シート状樹脂を、前記2つの型の型締め前に、成形される形状に応じて変形させて先抑えする先抑え部と、を有する成形装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締め時に成形体の形状を有するキャビティを形成する、対向する2つの型と、
成形されるシート状樹脂を前記2つの型の間で保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記シート状樹脂を、前記2つの型の型締め前に、成形される形状に応じて変形させて先抑えする先抑え部と、
を有する成形装置。
【請求項2】
前記保持部は、張力を付与しながら前記シート状樹脂を保持し、
前記先抑え部は、前記張力を付与されたシート状樹脂を変形させる、
請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記先抑え部は、成形される成形体よりも外側で前記シート状樹脂に接触することにより、前記シート状樹脂を変形させる、
請求項1または2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記先抑え部は、前記シート状樹脂の表裏両面に接触して、前記シート状樹脂を変形させる、
請求項1または2に記載の成形装置。
【請求項5】
前記先抑え部は、前記成形装置に着脱可能である、請求項1または2に記載の成形装置。
【請求項6】
前記保持部は、前記成形装置に着脱可能である、請求項1または2に記載の成形装置。
【請求項7】
シート状樹脂を保持する工程と、
前記保持されたシート状樹脂を、成形される形状に応じて変形させる工程と、
前記変形されたシート状樹脂を、対向する2つの型の型締めにより成形する工程と、
を有する、成形体の製造方法。
【請求項8】
前記保持する工程において、張力を付与しながら前記シート状樹脂を保持し、
前記変形させる工程において、前記張力を付与されたシート状樹脂を変形させる、
請求項7に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形装置および成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状樹脂を金型により加熱および加圧して変形させ、三次元形状に成形する方法が公知である。
【0003】
上記成形方法により製造される成形品の形状精度を高める成形装置として、特許文献1および特許文献2には、下金型に対して昇降可能に設けられた複数のピンまたはロッドを有する成形装置が記載されている。特許文献1および特許文献2では、上記ピンまたはロッドの上に繊維強化樹脂シートを置くことで、繊維強化樹脂シートが型締め前に金型面に接触しないようにしている。これにより、予め加熱軟化させた繊維強化樹脂シートが金型面に接触して冷却されて樹脂の流動性が失われることによる、成形性の低下やフローマークの形成などを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-043639号公報
【特許文献2】特開2017-196863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載のように、シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際の、成形性を高める方法が種々検討されている。ところで、シート状樹脂を三次元形状に変形させようとすると、成形体にしわが生じてしまうことがあった。特に、シート状樹脂が配列された長繊維を含むものであるとき、しわの形成が顕著であった。そして、本発明者らの知見によると、特許文献1および特許文献2に記載の方法では、しわの形成を十分には抑制できなかった。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、しわを生じにくくする、成形装置および成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する成形装置は、以下の[1]~[6]に関する。
[1]型締め時に成形体の形状を有するキャビティを形成する、対向する2つの型と、
成形されるシート状樹脂を前記2つの型の間で保持する保持部と、
前記保持部に保持された前記シート状樹脂を、前記2つの型の型締め前に、成形される形状に応じて変形させて先抑えする先抑え部と、
を有する成形装置。
[2]前記保持部は、張力を付与しながら前記シート状樹脂を保持し、
前記先抑え部は、前記張力を付与されたシート状樹脂を変形させる、
[1]に記載の成形装置。
[3]前記先抑え部は、成形される成形体よりも外側で前記シート状樹脂に接触することにより、前記シート状樹脂を変形させる、
[1]または[2]に記載の成形装置。
[4]前記先抑え部は、前記シート状樹脂の表裏両面に接触して、前記シート状樹脂を変形させる、
[1]~「3]のいずれかに記載の成形装置。
[5]前記先抑え部は、前記成形装置に着脱可能である、[1]~「3]のいずれかに記載の成形装置。
[6]前記保持部は、前記成形装置に着脱可能である、[1]~「3]のいずれかに記載の成形装置。
【0008】
また、上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する成形体の製造方法は、以下の[7]および[8]に関する。
[7]シート状樹脂を保持する工程と、
前記保持されたシート状樹脂を、成形される形状に応じて変形させる工程と、
前記変形されたシート状樹脂を、対向する2つの型の型締めにより成形する工程と、
を有する、成形体の製造方法。
[8]前記保持する工程において、張力を付与しながら前記シート状樹脂を保持し、
前記変形させる工程において、前記張力を付与されたシート状樹脂を変形させる、
[7]に記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、しわを生じにくくする、成形装置および成形方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の各実施形態で成形しようとする成形体の形状を示す模式的な斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態において成形体を作製するために使用する金型の、一部の構成を示す模式的な斜視図である。
図3図3は、第1の実施形態における金型を用いた成形体の製造方法のフロー図である。
図4図4A図4C、第1の実施形態において、成形体を成形する様子を示す、金型をY方向にみた側面図である。
図5図5は、従来の製造方法により製造された成形体にしわが生じる様子を示す、成形体の模式的な斜視図である。
図6図6Aおよび図6Bは、従来の製造方法において先抑え部を設けずにシート状樹脂を成形する様子を示す、金型をY方向にみた側面図である。
図7図7A図7Cは、第2の実施形態において、成形体を成形する様子を示す、金型をY方向にみた側面図である。
図8図8は、変形例の金型を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、複数の実施形態を用いて、本発明の実施形態に関する成形装置、および当該成形装置を用いた成形方法について、より詳細に説明する。
【0012】
1.第1の実施形態
1-1.成形体
図1は、本発明の各実施形態で成形しようとする成形体の形状を示す模式的な斜視図である。図1に示す成形体100は、平面視が略長方形である天板部110と、天板部110を挟んだ両側に上記長方形の長辺に沿って設けられた一対のフランジ部120と、天板部110とそれぞれのフランジ部120とを略垂直に接続する壁部130と、を有する、いわゆるハット型の成形体である。成形体100は、天板部110の高さ(フランジ部120から天板部110までの距離)が、上記長方形の長辺方向の一方の端部ではより低くなっており、他方の端部ではより高くなっている。
【0013】
なお、説明の便宜のため、本明細書において、天板部110が有する上記長方形形状の一方から他方へと向かう方向をX方向、X方向に直交し両側のフランジ部120を結ぶ方向をY方向、X方向およびY方向の双方と直行する成形体100の高さ方向をZ方向とする。
【0014】
そして、成形体100は、X方向に連続して配置された、天板部110およびフランジ部120の傾きが異なる第1領域142、第2領域144および第3領域146を有する。第1領域142、第2領域144および第3領域146は、天板部110の傾きがこの順に大きくなる(X方向に沿って、天板部110が成形体100に対してより外側を向くように傾きが変化する)形状となっている。そのため、第1領域142と第2領域144との境界部143、および第2領域144と第3領域146との境界部145は、いずれも成形体100の内側に凸となっている。なお、第1領域142、第2領域144および第3領域146は、フランジ部120の傾きが、対応する天板部110の傾きとは一致していない。そのため、壁部130の高さ(Z方向への高さ)は一定ではなく、特に第2領域144において、壁部130の高さは第1領域142から第3領域146に向かう方向に漸増している。
【0015】
成形体100は、対向する2つの型(下型および上型)の型締め時に成形体100の形状を有するキャビティを形成する金型により作製することができる。具体的には、上記下型および上型でシート状樹脂を挟み込み、加熱および加圧することで、当該シート状樹脂を変形させて、成形体100の形状に成形することができる。
【0016】
1-2.金型
図2は、本実施形態において成形体100を作製するために使用する金型200の、一部の構成を示す模式的な斜視図である。金型200は、シート状樹脂を加熱および加圧して成形するための下型210および上型220、およびシート状樹脂を成形前に変形させるための、先抑え部としての先抑えプレート244を有する。
【0017】
下型210は、ダイセット型212に複数のガイドピン212a、複数のディスタンスブロック212b、および成形体100と同一の三次元形状を有するダイ214が配置された構成である。
【0018】
ガイドピン212aは、成形時に、上型220の対応する位置に配置されたガイドピンブッシュに挿入され、下型210と上型220とを位置あわせする。ディスタンスブロック212bは、成形時に上型220に当接して、下型210と上型220との高さ合わせをする。ダイ214は、作製しようとする成形体の形状に応じた形状を有しており、ダイセット型212の略中央部に着脱可能に、ダイセット型212の底面からZ方向上方に突出して配置される。本実施形態では、上述した天板部110、フランジ部120および壁部130を有し、かつ天板部110およびフランジ部120の傾きが異なる第1領域142、第2領域144および第3領域146を有する形状のダイ214が、ダイセット型212に配置されている。
【0019】
上型220は、下型210のZ方向上方に配置された、下型210に向かう方向(Z方向)に移動可能な対向型である。上型220の下型210側の面には、ダイ214に対応する形状の窪み(図2には不図示)が形成されている。また、上型220の下型210側の面の、ガイドピン212aと対応する位置には、ガイドピンブッシュ(不図示)が形成されており、型締め時にはガイドピンブッシュが対応するガイドピン212aを受け入れることで、下型210と上型220とが位置あわせされる。
【0020】
シート保持枠230は、Y方向両端の抑え部232によりシート状樹脂300の両端を保持することにより、シート状樹脂300に張力を付与しながらシート状樹脂300を保持する。シート保持枠230は、X方向およびY方向のいずれもダイ214よりも大きい形状を有する、枠形状の部材である。シート保持枠230は金型200に着脱可能である。そして、成形を開始する前の時点(以下、単に「初期状態」ともいう。)では、不図示の保持治具によりダイ214のZ方向上方の、シート状樹脂300がダイ214とは非接触となる高さに配置されている。ただし、シート保持枠230は、型締め時には上型220によりダイセット型212側に押し込まれてZ方向下方に移動し、シート状樹脂300をダイ214に当接させる。
【0021】
先抑えプレート244は、上型220のY方向両側に着脱可能に配置された、一対の板状部材である。先抑えプレート244は、板状部の下端部(Z方向下端の縁部)が上型220の下端よりも下側(下型210側)に突出して、板状部の下端部の位置が上型220のシート状樹脂300と接触する下面よりも低い位置となるように、上型220に取り付けられる。先抑えプレート244は、板状部の下端部の、Z方向への高さ(上型220の下型210側面からの突き出し高さ)がX方向に沿って変化する形状を有する。そして、先抑えプレート244は、板状部の下端部のX方向に沿っての高さの変化が、ダイ214のX方向に沿っての高さの変化と略同様である。言い換えると、先抑えプレート244は、板状部の下端部の形状が、ダイ214のXZ方向断面における上面の形状と略同じ形状である。
【0022】
1-3.成形体の製造方法
図3は、金型200を用いた成形体100の製造方法のフロー図である。図3に示すように、成形体100は、シート状樹脂300を保持する工程(工程S110)と、上記保持されたシート状樹脂300を、成形される形状に応じて変形させる工程(工程S120)と、上記変形されたシート状樹脂300を、下型210および上型220により成形する工程(工程S130)と、を有する方法により、製造することができる。
【0023】
図4A図4Cは、本実施形態において、成形体100を成形する様子を示す、金型200をY方向にみた側面図である。
【0024】
1-3-1.シート状樹脂の保持:工程S110)
図4Aは、上型220を移動させる前の初期状態における金型200の様子を示す側面図である。なお、図4A図2に示す状態に対応する。本工程では、図2および図4Aに示すように、予備加熱したシート状樹脂300を保持するシート保持枠230(図4には不図示)を、ダイ214のZ方向上方に配置する。
【0025】
なお、シート状樹脂300の材料は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などの熱可塑性樹脂を広く使用することができる。
【0026】
また、シート状樹脂300は繊維強化樹脂であってもよい。シート状樹脂300が繊維強化樹脂であるときの強化繊維の種類は特に限定されず、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、および金属繊維など広く使用することができる。これらのうち、炭素繊維が好ましい。これらの強化繊維は、短繊維であってもよいし、長繊維であってもよい。本発明者らの知見によると、同じ方向に配向された複数の強化繊維を含むシート状樹脂を三次元形状に成形するときには、賦形の際に強化繊維がヨレてしわが生じやすい。これに対し、本実施形態では、上記強化繊維のヨレによるしわも抑制することができる。上記同じ方向に配向された複数の強化繊維は、一方向のみに配向されていてもよいし、シート状樹脂300に含まれる複数の層ごとに異なる方向に配向されていてもよいし、異なる方向に配向された強化繊維が同じ層の中で編み込まれていてもよい。
【0027】
また、シート状樹脂300は、これら以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
シート状樹脂300の予備加熱は、上記樹脂が十分に軟化する程度に、樹脂種に応じた温度で行えばよい。また、予備加熱したシート状樹脂300をシート保持枠230に設置してもよいし、シート保持枠230に保持させた後にシート状樹脂300を予備加熱してもよいが、作業を容易にする観点からは、シート保持枠230に保持させた後にシート状樹脂300を予備加熱することが好ましい。なお、シート状樹脂300の成形が可能である限りにおいて、予備加熱を行わなくてもよい。
【0029】
本実施形態において、上記予備加熱されたシート状樹脂300は、シート保持枠230両端の抑え部232により両端を保持され、張力を付与されながら保持されている。このときの張力は、シート状樹脂300がたわまず、ダイセット型212に対して平行な平面状となり、かつ型締め時の温度および圧力でシートに破れ等の破損が生じない程度であればよい。
【0030】
1-3-2.シート状樹脂の変形:工程S120
本工程では、上型220を下型210に向けてZ方向下方に移動させる(図4B)。このとき、上型220に取り付けられた先抑えプレート244も、上型220とともにZ方向下方に移動する。
【0031】
上型220に取り付けられた先抑えプレート244は、上型220とともにZ方向下方に移動する。そして、シート保持枠230と同じ高さに移動すると、先抑えプレート244は、シート状樹脂300に当接して、シート状樹脂300のX方向への高さを変化させる。このとき、シート状樹脂300は、不図示のシート保持枠230により張力を付与されたまま、その全体の形状が先抑えプレート244の板状部の下端部の形状に変化する。
【0032】
図4Bは、本工程において上型220を下型210側に移動させて、先抑えプレート244をシート状樹脂300に当接させた様子を示す側面図である。なお、先抑えプレート244の板状部の下端部の形状は、ダイ214のXZ方向断面における上面の形状と同じ形状と略同様であり、かつダイ214の形状は、成形体100の三次元形状と同一である。そのため、図4Bに示す変形時に、シート状樹脂300は、X方向への高さの変化が成形体100の天板部110と同様の変化になるように、変形させられる。
【0033】
1-3-3.シート状樹脂の成形:工程S130
その後、上型220を下型210に向けてさらにZ方向下方に移動させる(図4C)。このとき、シート保持枠230も、上型220に押されてZ方向下方に移動する。また、シート保持枠230に保持されたシート状樹脂300も、先抑えプレートに当接して上記変形させられた形状のまま、Z方向下方に移動する。そして、ダイ214が、上記変形した形状のシート状樹脂300の下面(裏面)に当接し、ダイ214に対応する形状の窪みが形成されている上型220の下型210側の面が、シート状樹脂の上面(表面)に当接する。このとき、上型220はディスタンスブロック212bに当接し、かつ、下型210のガイドピン212aがそれぞれ対応する上型220のガイドピンブッシュに挿入されて、下型210と上型220とは所定の高さで位置合わせされている。
【0034】
この状態で、下型210および上型220により、ダイ214に当接したシート状樹脂300を加熱および加圧してダイ214の形状に変形させる。このときの加熱および加圧の温度は、シート状樹脂がダイ214および下型210側の面の形状により十分に変形する程度であればよい。
【0035】
図4Cは、本工程において上型220を下型210側に移動させて、下型210および上型220によりシート状樹脂300を加熱および加圧する様子を示す側面図である。
【0036】
ところで、成形体100のような三次元形状を有する成形体を、従来の金型を用いて作製しようとすると、図5に示すように成形体にしわが形成されることがあった。図5に示すように、上記しわは、天板部110のうちの、第2領域144と第3領域146との境界部145のような、成形体100の内側に凸となっている部位(図5に示す領域A)に形成されやすかった。また、図5に示すように、上記しわは、壁部130のうちの、第2領域144のような高さが徐変する部位(図5に示す領域B)に形成されやすかった。
【0037】
本発明者らの知見によると、領域Aに形成されるしわは、三次元形状の内側に凸となっている部分において、シート状樹脂300とダイ214とが当接するタイミングが部位ごとに異なることにより生じると考えられる。
【0038】
図6Aおよび図6Bは、先抑え部(本実施形態における先抑えプレート244)を設けずにシート状樹脂を成形する様子を示す、金型200をY方向にみた側面図である。なお、図6Aおよび図6Bでは、理解の用意のため、シート保持枠230を省略している。図6Aに示すように平面状であるシート状樹脂300を、ダイ214および下型210により成形する。このとき、図6Bに示すように、型締め時に折れ曲がったシート状樹脂300は、ダイ214のうち外側に凸となる部分および平面状である部分に先に接触し、内側に凸となっている部位にはその後に接触することになる。そして、シート状樹脂300の一部がダイ214に接触したときに、シート状樹脂300のうちまだダイ214に接触していない部位(図6Bに示す領域A’)にしわが生じたり、折れまがったりすることもある。これにより、成形された成形体100にもしわが生じてしまうと考えられる。あるいは、シート状樹脂300が先にダイ214に接触した部位から、シート状樹脂300がまだダイ214に接触していない部位(図6Bに示す領域A’)へと樹脂が流動する。この結果、領域A’には過剰量の樹脂が入り込み、余分な樹脂によるしわが形成されると考えられる。
【0039】
これに対し、本実施形態では、図4Bに示すように先抑え部によってシート状樹脂を予めダイ214の形状に変形させている。これにより、図4Cに示すように、シート状樹脂300の全体をダイ214に略同じタイミングで接触させて、上記成形体100の内側に凸となっている領域Aへのしわの形成を抑制することができる。
【0040】
また、本発明者らの知見によると、領域Bに形成されるしわは、シート状樹脂300が繊維強化樹脂であるとき、特には同じ方向に配向された複数の強化繊維を含む繊維強化樹脂であるときに生じやすい。このしわは、壁部130の高さ(成形時の絞り深さ)が徐変する形状を成形するときに、壁部130をのうち高さが低い部位において、強化繊維の間隔がより大きく狭められるようにシート状樹脂300が変形された結果、強化繊維がヨレたり、巻き込まれたり折り畳まれたりすることにより形成されると考えられる。
【0041】
これに対し、本実施形態では、図4Bに示すように先抑え部によってシート状樹脂を予めダイ214の形状に変形させている。これにより、図4Cに示す成形時(型締め後)に強化繊維が移動する距離を短くし、上記強化繊維のヨレや折り畳みを生じにくくして、壁部130のうちの高さが徐変する領域Bへのしわの形成を抑制することができる。
【0042】
所定時間の加熱および加圧を行った後、シート状樹脂300を冷却して樹脂を固化させる。その後、上型220を下型210から離れる方向(Z方向上方)に移動させて、成形された成形体100を取り出すことができる。
【0043】
このように、本実施形態では、成形する前のシート状樹脂300を成形体100の形状に応じて変形させることにより、成形体100へのしわの発生を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、シート保持枠230によりシート状樹脂300に張力を付与しながらシート状樹脂300を変形させるため、変形したシート状樹脂300がたわむことによる成形体100へのしわの発生も抑制することができる。
【0045】
2.第2の実施形態
図7A図7Cは、本発明の別の実施形態において、成形体100を成形する様子を示す、金型700をY方向にみた側面図である。なお、図7A図7Cでは、理解の用意のため、シート保持枠230を省略している。
【0046】
本実施形態では、先抑え部として、上型220に取り付けられてシート状樹脂300のZ方向上側に配置された先抑えプレート244(以下、シート状樹脂300のZ方向上側に配置された先抑えプレートを「第1の先抑えプレート」ともいう。)に加えて、先抑え枠742に取り付けられてシート状樹脂300のZ方向下側に配置された先抑えプレート744((以下、シート状樹脂300のZ方向下側に配置された先抑えプレートを「第2の先抑えプレート」ともいう。))を用いて、シート状樹脂300を表裏両面から変形させる点において、第1の実施形態と相違する。その他の、金型の構成および成形体の製造方法の各工程は第1の実施形態と共通する。共通する構成については、同一の符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0047】
本実施形態では、図7Aに示すように、初期状態において、シート状樹脂300のZ方向下側(シート状樹脂300とダイ214との間)に、先抑え枠742および先抑えプレート744を配置する。
【0048】
先抑え枠742は、X方向およびY方向のいずれにもダイ214より大きく、枠内にダイ214を収容可能な形状を有する、枠形状の部材である。初期状態において、先抑え枠742は、シリンダ216に保持されて、ダイ214のZ方向上方に、ダイ214とは非接触に配置されている。ただし、先抑え枠742は、型締め時にはシリンダ216によりダイ214に移動されてZ方向下方に移動して、X方向両側においてダイ214と当接する。なお、先抑え枠742は、シリンダ216への着脱により、下型210に着脱可能である。
【0049】
先抑えプレート744は、先抑え枠742の、Y方向両側の枠体に沿って着脱可能に配置された、一対の板状部材である。先抑えプレート744は、Z方向への高さがX方向に沿って変化する形状を有する。そして、先抑えプレート744は、Y方向に見た形状が、ダイ214のXZ方向断面と略同じ形状であり、X方向に沿っての高さの変化が、ダイ214のX方向に沿っての高さの変化と略同様である。言い換えると、先抑えプレート744は、Z方向上方の縁部の形状が、ダイ214のXZ方向断面における上面の形状と同じ形状である。そして、先抑えプレート744は、Z方向上方の縁部の位置が、先抑え枠742のY方向両側の枠体よりも高い位置となるように、配置される。また、先抑えプレート744は、先抑え枠742がZ方向下方に移動してダイ214に当接したときに、Z方向上方の縁部の高さが各位置においてダイ214の上面の高さと同じ高さになる位置に、配置される。
【0050】
図7Aは、上型220を移動させる前の初期状態(シート状樹脂300を保持する工程(工程S110))における金型700の様子を示す側面図である。図7Aに示すように、金型700は、上型220に着脱可能に配置された先抑えプレート244(第1の先抑えプレート)と、を先抑え枠742に着脱可能に配置された先抑えプレート744(第2の先抑えプレート)と、を有する。
【0051】
図7Bは、上型220を下型210側に移動させて、シート保持枠230を先抑え枠742と同じ高さまで移動させた様子を示す側面図である。図7Bに示すように、本実施形態では、第1の先抑えプレート244がシート状樹脂300の上型220側(表側)に、第2の先抑えプレート744がシート状樹脂300のダイ214側(裏側)に、それぞれ接触する。そして、第1の先抑えプレート244によってシート状樹脂300の表側から、第2の先抑えプレート744によってシート状樹脂300の表側から、それぞれシート状樹脂300を変形させている。なお、先抑えプレート244および先抑えプレート744は、図7Bに示すように同時にシート状樹脂300に接触してもよいし、いずれか一方が先にシート状樹脂300に接触してもよい。
【0052】
図7Cは、この状態で上型220を下型210側にさらに移動させ、下型210および上型220によりシート状樹脂300を加熱および加圧する様子を示す側面図である。第1の先抑えプレート244をシート状樹脂300の表側に当接させたまま、上型220がシート保持枠230(不図示)をダイ214の方向に押し下げる。同時に、第2の先抑えプレート744をシート状樹脂300の裏側に当接させたまま、シリンダ216が先抑え枠742をダイ214の方向に引き下げる。これらの、上型220によるシート保持枠230の移動と、シリンダ216による先抑え枠742の移動とは、同期して同じ速度に調整されており、シート保持枠230と先抑え枠742とはダイ214に向けて一体的に移動する。そのため、シート保持枠230に保持されたシート状樹脂300は、表側に第1の先抑えプレート244が当接し、裏側に第2の先抑えプレート744が当接して、ダイ214の形状に変形されたままダイ214に向けて移動され、そのままダイ214に当接する。言い換えると、シート状樹脂300は、表裏それぞれに先抑えプレートが接触したまま、ダイ214に移動する。そして、ダイ214に対応する形状の窪みが形成されている上型220の下型210側の面が、シート状樹脂300の上面(表面)に当接する。
【0053】
この状態で、下型210および上型220により、ダイ214に当接したシート状樹脂300を加熱および加圧してダイ214の形状に変形させる。
【0054】
所定時間の加熱および加圧を行った後、シート状樹脂300を冷却して樹脂を固化させる。その後、上型220を下型210から離れる方向に移動させて、成形された成形体100を取り出すことができる。
【0055】
本実施形態では、第1の先抑えプレート244および第2の先抑えプレート744がシート状樹脂300の表裏両面に接触し、シート状樹脂300を両側から抑えつつ変形させる。これにより、シート状樹脂300の意図せぬ変形を抑制し、しわをより発生させにくくすることができる。
【0056】
3.その他の実施形態
なお、上述の各実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な各実施形態も可能であることは言うまでもない。
【0057】
たとえば、図8に示すように、先抑えプレート244は、上型220の下型210側面からの突き出し高さを変更するための高さ変更プレート244a、244b、244c、244d、および244eを有してもよい。これらの高さ変更プレートにより、シート状樹脂300の変形量を微調整することで、しわがより生じにくい形状に成形前のシート状樹脂300を変形させることができる。なお、図8では上型220に取り付けられた先抑えプレート244(第1の先抑えプレート)に5つの高さ変更プレートを取り付けた例を示すが、先抑え枠742に配置された先抑えプレート744(第2の先抑えプレート)に高さ変更プレートを取り付け可能としてもよい。また、先抑えプレートの高さを変更する手段はこれら高さ変更プレートには限られず、ねじ等により先抑えプレートの高さを変更可能としてもよい。
【0058】
また、第1の実施形態ではシート状樹脂300に表側のみから先抑えプレート744を接触させてシート状樹脂300を変形させていたが、シート状樹脂300に裏側のみから先抑えプレート744を接触させてシート状樹脂300を変形させてもよい。
【0059】
また、上述の実施形態では、シート保持枠によりシート状樹脂を保持していたが、ロール状のシート状樹脂を保持する保持部から、シート状樹脂を順次繰り出して成形する際にも、上述の先抑え部によりシート状樹脂を予め変形させてもよい。
【0060】
また、第2の実施形態ではシリンダにより先抑え枠(第2の先抑えプレート)を移動させていたが、ゴムやバネなどの弾性体を、先抑え枠とダイセット型との間に配置して、上型からの押圧によってシート保持体と先抑え枠とを一体的に移動させてもよい。
【0061】
また、上述の各実施形態では、ダイ214に対するY方向両側から先抑えプレートを接触させてシート状樹脂300を変形させていたが、X方向両側から先抑えプレートを接触させてもよいし、X方向両側およびY方向両側などの複数の方向から先抑えプレートを接触させてもよい。
【0062】
また、シート状樹脂300の変形方法は先抑えプレートを用いる方法に限られず、他の接触または非接触の方法で成形前のシート状樹脂300を変形させてもよい。
【0063】
また、上述の各実施形態では、対向する上型と下型とを鉛直方向に型締めする構成について説明したが、型締めの方向は特に限定されず、たとえば水平方向等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、シート状樹脂から三次元形状の成形体を成形するときにしわを生じにくくすることができる。本発明は、より複雑な形状の三次元成形体を精度よく成形可能とし、シート状樹脂から成形した成形体の利用の可能性をさらに広げると期待される。
【符号の説明】
【0065】
100 成形体
110 天板部
120 フランジ部
130 壁部
142 第1領域
143 境界部
144 第2領域
145 境界部
146 第3領域
200 金型
210 下型
212 ダイセット型
212a ガイドピン
212b ディスタンスブロック
214 ダイ
216 シリンダ
220 上型
230 シート保持枠
232 抑え部
244 先抑えプレート
300 シート状樹脂
700 金型
742 先抑え枠
744 先抑えプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8