(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134841
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】焼成用治具及び焼成用治具の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20240927BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240927BHJP
C04B 35/52 20060101ALI20240927BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B41/87 V
C04B35/52
F27D3/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045245
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】東原 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 順信
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055HA02
4K055HA11
4K055HA23
4K055HA25
4K055HA27
(57)【要約】
【課題】 酸化ケイ素ガスとの反応が起こりにくい焼成用治具を提供する。
【解決手段】 炭素基材と、上記炭素基材の表面に形成された、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層と、を備え、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具であって、上記炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであり、上記炭素基材は、炭素及び珪素を含み、上記炭化ケイ素層に接触する珪化部と、上記炭化ケイ素層に接触しない基材部と、を有することを特徴とする焼成用治具。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材と、前記炭素基材の表面に形成された、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層と、を備え、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具であって、
前記炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであり、
前記炭素基材は、炭素及び珪素を含み、前記炭化ケイ素層に接触する珪化部と、前記炭化ケイ素層に接触しない基材部と、を有することを特徴とする焼成用治具。
【請求項2】
前記炭化ケイ素層の気孔率が45%以下である、請求項1に記載の焼成用治具。
【請求項3】
前記被焼成体が、炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体である、請求項1又は2に記載の焼成用治具。
【請求項4】
炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成する珪化部形成工程と、
前記珪化部の表面に、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成することにより、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層を形成する炭化ケイ素層形成工程と、を有することを特徴とする焼成用治具の製造方法。
【請求項5】
前記加圧成形における圧力が1MPa以上である、請求項4に記載の焼成用治具の製造方法。
【請求項6】
前記珪化部形成工程では、前記炭素製基材の表面に炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物を配置して加熱することにより、前記シート状物から発生するガスと前記炭素製基材を反応させて、前記炭素製基材の表面を珪化して前記珪化部を形成する、請求項4又は5に記載の焼成用治具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用治具及び焼成用治具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素等の高耐熱性材料を焼成する際には、焼成用治具にも同等又はそれ以上の耐熱性が求められる。
【0003】
炭素は炭化ケイ素と同等の耐熱性を有するものの、炭化ケイ素を焼成する際に発生する酸化ケイ素ガスが炭素と反応してしまうという問題があった。
【0004】
特許文献1には、高温中で黒鉛基材の表面を有機シランガスに暴露することで、黒鉛とSiOとの反応を抑制する炭化ケイ素コート層を黒鉛基材の表面に形成することが開示されている。炭化ケイ素コート層は、その厚さが厚いほどSiOガスの透過性が低くなるため、黒鉛とSiOとの反応を抑制する効果が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、黒鉛とSiOとの反応を抑制するのに充分な厚さの炭化ケイ素コート層を形成するためには、長時間にわたって黒鉛基材を有機シランガスに暴露させる必要があり、製造効率の向上が求められていた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、酸化ケイ素ガスとの反応が起こりにくい焼成用治具を提供することを目的とする。
また本発明は、酸化ケイ素ガスとの反応が起こりにくい焼成用治具を、有機シランガスを使用することなく短時間で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の焼成用治具は、炭素基材と、上記炭素基材の表面に形成された、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層と、を備え、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具であって、上記炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであり、上記炭素基材は、炭素及び珪素を含み、上記炭化ケイ素層に接触する珪化部と、上記炭化ケイ素層に接触しない基材部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の焼成用治具は、炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであるため、酸化ケイ素ガスを透過しにくい。そのため、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成を行った場合であっても、酸化ケイ素ガスと炭素基材の反応を抑制することができる。
また、炭素基材が、炭素及び珪素を含み、炭化ケイ素層に接触する珪化部を有することで、炭化ケイ素層の剥離が防止される。
【0010】
本発明の焼成用治具において、上記炭化ケイ素層の気孔率が45%以下であることが好ましい。
炭化ケイ素層の気孔率が45%以下であると、酸化ケイ素ガスが炭化ケイ素層を透過しにくくなるため、炭素基材と酸化ケイ素ガスとの反応を抑制する効果が特に良好となる。
【0011】
本発明の焼成用治具は、上記被焼成体が、炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体であることが好ましい。
本発明の焼成用治具は、炭素基材と酸化ケイ素ガスとの反応を抑制できるため、酸化ケイ素ガスを発生させる被焼成体、すなわち、炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具として適している。
【0012】
本発明の焼成用治具の製造方法は、炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成する珪化部形成工程と、上記珪化部の表面に、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成することにより、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層を形成する炭化ケイ素層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の焼成用治具の製造方法は、珪化部の表面で加圧成形した炭化ケイ素粒子を含む材料を焼成して炭化ケイ素層を形成するため、有機シランガスを反応させる場合と比較して、短時間で充分な厚みを有する炭化ケイ素層を形成することができる。
通常、炭素製基材(基材部)の表面で直接炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層を形成しても、炭化ケイ素層と炭素製基材との密着性が低く、炭化ケイ素層が容易に剥離してしまっていた。
これに対して、本発明の焼成用治具の製造方法では、炭素製基材の表面をまず珪化して珪化部を形成し、珪化部の表面で、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成して炭化ケイ素層を形成している。
そのため、炭素製基材から容易に剥離することがない炭化ケイ素層を、短時間で形成することができる。
【0014】
本発明の焼成用治具の製造方法において、上記加圧成形における圧力が1MPa以上であることが好ましい。
加圧成形における圧力が1MPa以上であると、炭素基材の珪化部と炭化ケイ素粒子を含む材料との密着性が高くなる。また、形成される炭化ケイ素層の緻密性が高くなり、酸化ケイ素ガスの透過性をさらに抑制することができる。
【0015】
本発明の焼成用治具の製造方法において、上記珪化部形成工程では、炭素製基材の表面に炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物を配置して加熱することにより、上記シート状物から発生するガスと炭素製基材を反応させて、上記炭素製基材の表面を珪化して上記珪化部を形成することが好ましい。
炭素製基材の表面に、炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物を配置して加熱することで、該シート状物から発生したガスにより炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成することができる。
炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物は、炭素製基材とは別に予め準備しておくことが可能であるから、上記工程を用いることで、短時間で炭素製基材の表面に珪化部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の焼成用治具の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、炭素製基材の表面にシート状物を配置して加熱する工程の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、シート状物から発生したガスと炭素製基材を反応させて炭素製基材の表面を珪化する工程の一例を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、珪化部形成工程で得られる炭素基材の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、珪化部の表面で炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形する工程の一例を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す炭化ケイ素粒子を含む材料の加圧成形体及び炭素基材を加熱する工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0018】
[焼成用治具]
本発明の焼成用治具は、炭素基材と、上記炭素基材の表面に形成された、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層と、を備え、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具であって、上記炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであり、上記炭素基材は、炭素及び珪素を含み、上記炭化ケイ素層に接触する珪化部と、上記炭化ケイ素層に接触しない基材部と、を有することを特徴とする。
【0019】
図1は、本発明の焼成用治具の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、焼成用治具1は、炭素基材10と炭素基材10の表面に形成された炭化ケイ素層30を備える。
【0020】
炭素基材10は、珪化部11と基材部12を有する。
珪化部11は、炭素基材10のうち、炭素及び珪素を含み、炭化ケイ素層30に接触する部分である。
【0021】
基材部12は、炭素基材10のうち、炭化ケイ素層30に接触しない部分である。
基材部12は主に炭素で構成されており、珪素を含まないことが好ましく、炭素のみからなることがより好ましい。
【0022】
珪化部11は炭素及び珪素を含むため、主に炭素で構成される基材部12と比較して、炭化ケイ素に対する密着性が高い。そのため、珪化部11によって炭素基材10と炭化ケイ素層30の密着性が良好となり、炭化ケイ素層30の剥離が防止される。
【0023】
炭化ケイ素層30の厚さ(
図1中、両矢印tで示される長さ)は、0.6~1.5mmである。
炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであると、酸化ケイ素(SiO)ガスを透過しにくい。そのため、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成を行った場合であっても、酸化ケイ素ガスと炭素基材との反応を抑制することができる。
【0024】
以下、本発明の焼成用治具の各構成を説明する。
【0025】
(炭素基材)
炭素基材は、炭素材料からなる。
【0026】
炭素基材の形状は特に限定されないが、被焼成体を焼成する際に適切な形状であればよく、例えば、板状、棒状、筒状等の形状が挙げられる。
【0027】
炭素基材は、珪化部と、基材部とを有する。
【0028】
(珪化部)
珪化部は、炭素基材のうち、炭化ケイ素層に接触する部分である。
珪化部は、炭素及び珪素を含む。
【0029】
珪化部は、炭素製基材の表面を珪化して得られる。
ただし、炭素製基材の表面は一様に珪化されるとは限らない。そのため、珪化部の一部に珪化されていない部分(珪素を含まない部分)があってもよい。
【0030】
珪化部の厚さは特に限定されないが、0.1~1.5mmであることが好ましい。
珪化部の厚さが上記範囲であると、炭素基材と炭化ケイ素層との密着性を向上させる効果を充分に発揮することができる。
【0031】
珪化部の厚さは焼成用治具を厚さ方向に沿って切断した切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。具体的には、上記切断面において無作為に抽出した10箇所における珪化部の厚さの平均値を、当該焼成用治具の珪化部の厚さとする。
【0032】
珪化部に含まれる珪素の割合は、40~80重量%であることが好ましい。
珪化部に含まれる珪素の割合は、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)を行うことで求めることができる。
このとき、珪化部の厚さ方向の全ての領域が測定範囲に含まれるように測定範囲を設定する。
【0033】
珪化部は、炭素基材の一方主面だけに記載されていてもよいし、他方の主面だけに形成されていてもよいし、一方主面及び他方主面の両方に形成されていてもよい。
【0034】
珪化部が、炭素基材の一方主面及び他方主面の両方に形成されている場合、両方の珪化部の表面に、それぞれ炭化ケイ素層が形成されていてもよい。
【0035】
(基材部)
基材部は、炭素基材のうち、炭化ケイ素層に接触しない部分である。
基材部は、炭素基材のうち、珪化部以外の部分であり、炭素基材の大部分を占める。
【0036】
基材部を構成する炭素材料としては、黒鉛、アモルファスカーボン等が挙げられる。
【0037】
基材部は、珪素を含まないことが好ましく、炭素のみからなることがより好ましい。
【0038】
(炭化ケイ素層)
炭化ケイ素層は、炭素基材の表面に形成された炭化ケイ素粒子を含む層である。
炭化ケイ素層の厚さは、0.6~1.5mmである。
【0039】
炭化ケイ素層の気孔率は45%以下であることが好ましい。
炭化ケイ素層の気孔率が45%以下であると、酸化ケイ素ガスが炭化ケイ素層を透過しにくくなるため、炭素基材と酸化ケイ素ガスとの反応を抑制する効果が特に良好となる。
【0040】
(被焼成体)
被焼成体は、炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体であることが好ましい。
【0041】
炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体としては、例えば、炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含む成形用組成物を押出成形してなるハニカム成形体等が挙げられる。
【0042】
本発明の焼成用治具は、炭素基材と酸化ケイ素ガスとの反応を抑制することができるため、酸化ケイ素ガスを発生させる被焼成体、例えば、炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具として適している。
【0043】
[焼成用治具の製造方法]
本発明の焼成用治具の製造方法は、炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成する珪化部形成工程と、上記珪化部の表面に、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成することにより、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層を形成する炭化ケイ素層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0044】
[珪化部形成工程]
珪化部形成工程では、炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成する。
炭素製基材とは、上述した炭素基材における基材部だけを有し、珪化部を有しない状態の材料である。
炭素製基材のうち、表面の珪化された部分が珪化部となり、珪化されていない部分が基材部となる。従って、炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成することで、基材部及び珪化部を有する炭素基材が得られる。
【0045】
炭素製基材の表面を珪化する具体的な方法は特に限定されないが、例えば、炭素製基材の表面に炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物を配置して加熱することにより、シート状物から発生するガスと炭素製基材を反応させて、炭素製基材の表面を珪化する方法が挙げられる。
【0046】
炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物は、加熱により酸化ケイ素ガスを含むガスを発生させる。
シート状物から発生した酸化ケイ素ガスの一部は、シート状物と炭素製基材の接触面近傍に滞留するため、炭素製基材の表面のうちシート状物と接する表面を効率的に珪化することができる。
【0047】
珪化部形成工程の一例を、
図2、
図3、
図4を用いて説明する。
図2は、炭素製基材の表面にシート状物を配置して加熱する工程の一例を模式的に示す図である。
図3は、シート状物から発生したガスと炭素製基材を反応させて炭素製基材の表面を珪化する工程の一例を模式的に示す図である。
図4は、珪化部形成工程で得られる炭素基材の一例を模式的に示す断面図である。
【0048】
図2に示すように、炭素製基材120の表面に、炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物110を配置した状態で加熱する。加熱により、シート状物110に含まれる炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子が反応して、酸化ケイ素ガス(
図2中、矢印Gで示す)が発生する。
【0049】
シート状物110から発生した酸化ケイ素ガスGの一部は、炭素製基材120の表面のうちシート状物110側の表面120aから炭素製基材120の深さ方向に浸透しながら、炭素製基材120を珪化する。
すなわち、シート状物110から発生する酸化ケイ素ガスGと炭素製基材120とが反応して、
図3に示すように、珪化部11が形成される。なお、炭素製基材120のうち、珪化しなかった部分が基材部12である。
【0050】
シート状物110が完全に反応するまで加熱してもよいが、所望の厚さの珪化部11が形成された段階で加熱を止めてもよい。
図3には、加熱によりシート状物110の一部又は全部が反応した、反応したシート状物110’が珪化部11の上に残った状態を示している。
【0051】
シート状物110及び反応したシート状物110’は、炭素製基材120上に固定されているわけではないため、珪化部11を形成した後は容易に除去することができる。
シート状物110又は反応したシート状物110’を炭素製基材120上から除去することにより、
図4に示す炭素基材10が得られる。
【0052】
加熱雰囲気は、不活性雰囲気が好ましい。
不活性雰囲気とは、非酸化性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0053】
加熱温度は、2000~2300℃であることが好ましい。
【0054】
加熱時間は、3~6時間であることが好ましい。
【0055】
シート状物は、炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を、1:1~1:3の割合(モル比)で含んでいることが好ましい。
【0056】
シート状物に含まれる炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、5~20μmであることが好ましい。
シート状物に含まれる二酸化ケイ素粒子の平均粒子径は、100~200μmであることが好ましい。
【0057】
シート状物は、炭化ケイ素粒子及び二酸化ケイ素粒子の他に、有機バインダ等を含有していてもよい。
【0058】
シート状物の厚さは特に限定されないが、1~10mmであることが好ましい。
【0059】
[炭化ケイ素層形成工程]
炭化ケイ素層形成工程では、珪化部の表面に、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成する。
【0060】
炭化ケイ素層形成工程では、珪化部の表面で、加圧成形した炭化ケイ素粒子を含む材料を焼成して炭化ケイ素層を形成するため、有機シランガスを反応させる場合と比較して、短時間で充分な厚みを有する炭化ケイ素層を形成することができる。
【0061】
通常、炭素製基材(基材部)の表面に直接、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層を形成しても、炭化ケイ素層と炭素製基材との密着性が低いために、炭化ケイ素層が容易に剥離してしまっていた。
これに対して、本発明の焼成用治具の製造方法では、珪化部形成工程によって、まず炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成し、珪化部の表面で、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成して炭化ケイ素層を形成する。そのため、炭素基材から容易に剥離することがない炭化ケイ素層を、短時間で形成することができる。
【0062】
炭化ケイ素層形成工程の一例を、
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、珪化部の表面で炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形する工程の一例を模式的に示す図である。
図6は、
図5に示す炭化ケイ素粒子を含む材料の加圧成形体及び炭素基材を加熱する工程を模式的に示す図である。
【0063】
図5に示すように、珪化部11の表面で、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形して、炭化ケイ素粒子を含む材料の加圧成形体300を形成する。
【0064】
炭化ケイ素粒子を含む材料は、炭化ケイ素粒子のほかに、有機バインダ、潤滑剤等を含んでいてもよい。
【0065】
炭化ケイ素粒子を含む材料を珪化部の表面で加圧成形する方法は特に限定されないが、例えば、炭化ケイ素粒子を含む混合物を珪化部の表面に配置し、必要に応じて乾燥させて炭化ケイ素粒子を含む原料層を形成した後、該原料層を炭素基材ごと加圧する方法が挙げられる。
なお、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形した後、当該加圧成形体を、必要に応じて、乾燥、脱脂してもよい。
【0066】
加圧成形における圧力は、1MPa以上であることが好ましい。
加圧成形における圧力が1MPa以上であると、炭素基材の珪化部と炭化ケイ素粒子を含む材料との密着性が高くなる。また、形成される炭化ケイ素層の緻密性が高くなり、酸化ケイ素ガスの透過性をさらに抑制することができる。
【0067】
図5に示した状態の炭素基材10及び加圧成形体300を加熱することにより、加圧成形体300の焼結が進行して炭化ケイ素層30となり、
図6に示す焼成用治具1が得られる。
【0068】
炭化ケイ素層形成工程における加熱雰囲気は、不活性雰囲気が好ましい。
【0069】
炭化ケイ素層形成工程における加熱温度は、2000~2300℃であることが好ましい。
【0070】
炭化ケイ素層形成工程における加熱時間は、3~6時間であることが好ましい。
【0071】
なお、有機シランガスを反応させる方法を用いて、炭素製基材の表面に厚さ0.6~1.5mmの炭化ケイ素層を形成する場合、36時間程度の時間を要する。
従って、本発明の焼成用治具の製造方法では、炭素製基材から容易に剥離することがない炭化ケイ素層を、短時間で形成することができる。
【0072】
本明細書には以下の発明が記載されている。
【0073】
本開示(1)は、炭素基材と、前記炭素基材の表面に形成された、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層と、を備え、酸化ケイ素ガスが発生する被焼成体の焼成に用いられる焼成用治具であって、
前記炭化ケイ素層の厚さが0.6~1.5mmであり、
前記炭素基材は、炭素及び珪素を含み、前記炭化ケイ素層に接触する珪化部と、前記炭化ケイ素層に接触しない基材部と、を有することを特徴とする焼成用治具である。
【0074】
本開示(2)は、前記炭化ケイ素層の気孔率が45%以下である、本開示(1)に記載の焼成用治具である。
【0075】
本開示(3)は、前記被焼成体が、炭化ケイ素及び二酸化ケイ素を含む被焼成体である、本開示(1)又は(2)に記載の焼成用治具である。
【0076】
本開示(4)は、炭素製基材の表面を珪化して珪化部を形成する珪化部形成工程と、
前記珪化部の表面に、炭化ケイ素粒子を含む材料を加圧成形し、焼成することにより、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層を形成する炭化ケイ素層形成工程と、を有することを特徴とする焼成用治具の製造方法である。
【0077】
本開示(5)は、前記加圧成形における圧力が1MPa以上である、本開示(4)に記載の焼成用治具の製造方法である。
【0078】
本開示(6)は、前記珪化部形成工程では、前記炭素製基材の表面に炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物を配置して加熱することにより、前記シート状物から発生するガスと前記炭素製基材を反応させて、前記炭素製基材の表面を珪化して前記珪化部を形成する、本開示(4)又は(5)に記載の焼成用治具の製造方法である。
【0079】
[実施例]
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
(珪化部形成工程)
炭化ケイ素粒子(平均粒子径10μm)25重量部、二酸化ケイ素粒子(平均粒子径150μm)75重量部、有機バインダ(ポリビニルアルコール)5重量部及び水60重量部を混合し、平板上に塗布し、105℃で1時間乾燥させることで、厚さ5mmのシート状物を作製した。
【0081】
作製したシート状物を、縦100mm×横100mm×厚さ10mmの黒鉛製の平板(炭素製基材)の一方の表面及び他方の表面にそれぞれ重ね、不活性雰囲気下で、2200℃で4.5時間加熱し、炭素製基材の一方の表面及び他方の表面をそれぞれ珪化して珪化部を形成し、炭素基材を得た。形成された珪化部の厚さは、それぞれ0.6mmであった。
【0082】
(炭化ケイ素層形成工程)
炭化ケイ素粒子(平均粒子径24μm)79重量部、有機バインダ(メチルセルロース)4重量部、潤滑剤4重量部、水13重量部を混合して炭化ケイ素層用原料混合物を得た。
得られた炭化ケイ素層用原料混合物を平板状に成型した後、炭素基材の表面(珪化部が形成された表面)に配置し、圧力8MPaで加圧成形して加圧成形体を得た。炭化ケイ素層用原料混合物の加圧成形体の厚さは、1mmであった。
その後、乾燥、脱脂し、非酸化性雰囲気下で、2200℃で4.5時間加熱して焼成し、炭素基材の表面に炭化ケイ素層が形成された実施例1に係る焼成用治具を得た。
得られた炭化ケイ素層の厚みは、それぞれ1mmであり、炭化ケイ素層の気孔率はいずれも38.0%であった。
【0083】
【0084】
(比較例1)
珪化部形成工程を行わず、炭素製基材の表面に直接、炭化ケイ素層形成工程を行ったほかは、実施例1と同様の手順で、比較例1に係る焼成用治具を作製した。
【0085】
[炭化ケイ素層の剥がれの確認]
実施例1及び比較例1に係る焼成用治具の表面を目視で観察し、炭化ケイ素層の剥がれの有無を確認した。結果を表1に示す。
【0086】
表1の結果より、本発明の焼成用治具は、充分な厚みの炭化ケイ素層が容易に剥離することなく形成されており、酸化ケイ素ガスとの反応が起こりにくいことがわかる。
【0087】
[ガス透過量の測定]
実施例1及び比較例1に係る焼成用治具に対して、一方の表面に0.1MPaの圧力で窒素ガスを供給し、他方の表面に透過したガス流量を測定した。結果を表1に示す。
なお、参考例1として、実施例1で用いた縦100mm×横100mm×厚さ10mmの黒鉛製の平板(すなわち、珪化部を形成していない炭素製基材)についてもガス透過量を測定したところ、ガス透過量は、比較例1に係る焼成用治具と同様の105mL/minであった。
【0088】
このことから、本発明の焼成用治具は、ガス透過性が低く、酸化ケイ素ガスとの反応が起こりにくいといえる。
また、炭化ケイ素層の剥がれが生じた比較例1に係る焼成用治具のガス透過量は、炭化ケイ素層を形成していない参考例1に係る焼成用治具と同等であることを確認した。
【符号の説明】
【0089】
1 焼成用治具
10 炭素基材
11 珪化部
12 基材部
30 炭化ケイ素層
110 シート状物
110’ 反応したシート状物
120 炭素製基材
120a 炭素製基材のシート状物側の表面
300 炭化ケイ素粒子を含む材料の加圧成形体