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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134843
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】炭化ケイ素繊維状物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240927BHJP
   C01B 32/97 20170101ALI20240927BHJP
   C30B 23/06 20060101ALI20240927BHJP
   D01F 9/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C01B32/97
C30B23/06
D01F9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045247
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中桐 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 順信
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G077AA04
4G077AB09
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA19
4G077DB02
4G077EA02
4G077SA02
4G077SA07
4G146MA14
4G146MB04
4G146NA04
4G146NA11
4G146NA30
4G146NB07
4G146NB14
4G146NB18
4G146QA01
4L037CS29
4L037FA02
4L037PC05
4L037PC11
(57)【要約】
【課題】 生成効率が高く、高アスペクト比の炭化ケイ素繊維状物質を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 未炭化の籾殻を、表面に炭化ケイ素を含み密閉された容器内で加熱することを特徴とする炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。
【選択図】 図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未炭化の籾殻を、表面に炭化ケイ素を含み密閉された容器内で加熱することを特徴とする、炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。
【請求項2】
前記籾殻の表面に、遷移金属を含む物質を付着させ、前記籾殻を加熱する請求項1に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。
【請求項3】
前記籾殻を、密閉された前記容器内で、不活性雰囲気下、1500~1700℃の温度で加熱する請求項1又は2に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。
【請求項4】
得られる炭化ケイ素繊維状物質の平均長さが1mm以上である、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。
【請求項5】
前記容器は、炭素基材の表面に炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層が形成されてなる、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。
【請求項6】
加熱後に、炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣を含む混合物を、油/水混合液中で撹拌し、水層に炭化ケイ素繊維状物質を分離して回収する、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素繊維状物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品周辺部材として、高アスペクト比の炭化ケイ素材料が求められている。
【0003】
炭化ケイ素ウィスカを製造する方法として、例えば、特許文献1に、粉末状の酸化ケイ素原料と炭素原料とを混合し、水素ガスを流通させながら加熱する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、炭化ケイ素ウィスカを製造する方法として、炭化させた籾殻を黒鉛容器に充填して加熱する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-295299号公報
【特許文献2】特開平7-138100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、炭化ケイ素ウィスカの生成効率が低く、さらなる生成効率の向上が望まれていた。また、特許文献2に記載の方法で得られる炭化ケイ素ウィスカの長さは約20~30μmであるところ、より高アスペクト比の炭化ケイ素ウィスカを製造する方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、生成効率が高く、高アスペクト比の炭化ケイ素繊維状物質を得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法は、未炭化の籾殻を、表面に炭化ケイ素を含み密閉された容器内で加熱することを特徴とする。
【0009】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法では、未炭化の籾殻を、表面に炭化ケイ素を含み密閉された容器内で加熱する。
未炭化の籾殻には、酸化ケイ素、セルロース等の有機分、及び、微量元素としてFe、Ni、Co等の遷移金属が含まれる。そのため、未炭化の籾殻を加熱することで、籾殻に含まれる有機分が熱分解して生じる炭化水素と、籾殻に含まれる酸化ケイ素が加熱されて発生する酸化ケイ素ガスとが反応して炭化ケイ素繊維状物質が形成される。このとき、籾殻に微量元素として含まれるFe、Ni、Co等の遷移金属が炭化ケイ素繊維状物質の形成にあたって触媒として機能する。
さらに、容器の表面が炭化ケイ素を含んでなると、未炭化の籾殻から発生する酸化ケイ素ガスが、容器と反応することも抑制される。そのため、未炭化の籾殻から発生する酸化ケイ素ガスが効率よく炭化ケイ素繊維状物質の生成に用いられる。
以上のことから、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法においては、未炭化の籾殻を原料として、従来よりも高い反応効率で炭化ケイ素繊維状物質を製造することができる。また、得られる炭化ケイ素繊維状物質の長さも従来より長くすることができる。
【0010】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、上記籾殻の表面に、遷移金属を含む物質を付着させ、上記籾殻を加熱することが好ましい。
籾殻に含まれる微量元素は炭化ケイ素繊維状物質の生成において触媒として機能するが、自然由来であるため、元素の種類や含有量が安定しないことがある。
これに対して、遷移金属を含む物質を籾殻の表面に付着させることによって、籾殻に含まれる触媒量を安定化することができるため、上述した籾殻由来の微量元素の影響を受けることなく、炭化ケイ素繊維状物質の生成反応を安定化することができる。
【0011】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、上記籾殻を、密閉された上記容器内で、不活性雰囲気下、1500~1700℃の温度で加熱することが好ましい。
不活性雰囲気下、1500~1700℃の温度で加熱を行うと、高い効率で炭化ケイ素繊維状物質を得ることができる。
【0012】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、上記容器は、炭素基材の表面に炭化ケイ素を含む炭化ケイ素層が形成されてなることが好ましい。
容器が、炭素基材の表面に炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層が形成されてなると、炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層によって、容器を構成する炭素と籾殻から発生する酸化ケイ素ガスとが反応することを抑制することができ、効率よく炭化ケイ素繊維状物質の生成に用いられる。
【0013】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、加熱後に、炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣を含む混合物を、油/水混合液中で撹拌し、水層に炭化ケイ素繊維状物質を分離して回収することが好ましい。
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法によれば、加熱後に、籾殻の表面に微細な炭化ケイ素繊維状物質が形成される。
このままでは、籾殻と炭化ケイ素繊維状物質の分離が困難であるが、炭化ケイ素繊維状物質は親水性であるのに対して、籾殻の残渣は親油性である。
そのため、炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣を含む混合物を水/油混合液中で撹拌すると、炭化ケイ素繊維状物質は水層に、籾殻の残渣は油層にそれぞれ分散し、水層を分離することで炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣とを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において用いられる容器及び該容器内に配置される未炭化の籾殻の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1に示す容器を加熱した際に生じる反応を模式的に示した図である。
図3図3は、加熱により炭化ケイ素繊維状物質が生じる様子を模式的に示す図である。
図4図4は、実施例1で得られた炭化ケイ素繊維状物質の外観写真である。
図5図5は、図4に示す炭化ケイ素繊維状物質の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0016】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法は、未炭化の籾殻を、表面に炭化ケイ素を含み密閉された容器内で加熱することを特徴とする。
【0017】
図1を参照して、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法の一例を説明する。
図1は、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において用いられる容器及び該容器内に配置される未炭化の籾殻の一例を模式的に示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、容器本体50aと蓋部50bからなる容器50内に、未炭化の籾殻10が配置されている。
【0019】
容器50の表面のうち、内側となる部分、すなわち、容器本体50aの内壁面、及び、蓋部50bの容器本体50a側の面には、それぞれ、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素層51a、51bが形成されている。
容器50は、表面に酸化ケイ素を含む容器である。
【0020】
容器本体50aの上面(開口部)は蓋部50bにより塞がれており、未炭化の籾殻10は、容器50内に密閉されている。
【0021】
なお、本明細書において、密閉とは、容器の内部と外部とで、気体の自由な移動が妨げられている状態を指しており、容器の内部と外部との気体の移動が厳密に遮断されることを意図するものではない。
例えば、図1に示す容器50において、容器本体50aと蓋部50bは、ただ接触しているだけなので、容器本体50aと蓋部50bの接触部分の隙間を通じて、容器50の内部と外部とで気体の移動は起こる。
すなわち、密閉された容器を減圧環境下に置くと、容器内部の雰囲気も減圧環境下となる。
減圧環境からアルゴン雰囲気に切り替えると、密閉された容器内部の雰囲気もアルゴン雰囲気となる。
ただし、容器本体50aの上部が蓋部50bで覆われているため、容器外で雰囲気ガスが一方向に流通していたとしても、当該雰囲気ガスの流れは容器内に影響しない。さらに、容器内部で発生したガスも外部に容易には漏出しない。
【0022】
未炭化の籾殻10は、容器50内に密閉した状態で加熱される。
加熱によって生じる反応について、図2及び図3を用いて説明する。
【0023】
図2は、図1に示す容器を加熱した際に生じる反応を模式的に示した図である。図3は、加熱により炭化ケイ素繊維状物質が生じる様子を模式的に示す図である。
【0024】
未炭化の籾殻10には、酸化ケイ素、セルロース等の有機分、及び、微量元素としてFe、Ni、Co等の遷移金属が含まれる。
そのため、図2に示すように、容器50を加熱することにより、未炭化の籾殻10から、酸化ケイ素ガス[SiO(g)]及び炭化水素ガス[CH(g)/C(g)]が発生する。
また、このとき、籾殻に微量元素として含まれるFe、Ni、Co等の遷移金属が炭化ケイ素繊維状物質の形成にあたって触媒として機能する。
【0025】
容器50は密閉されているため、発生した酸化ケイ素ガス及び炭化水素ガスは容器内に留まる。そして、籾殻に微量元素として含まれるFe、Ni、Co等の遷移金属が触媒として機能して、酸化ケイ素ガス及び炭化水素ガスが反応し、図3に示すように、炭化ケイ素繊維状物質60が形成される。
加熱により酸化ケイ素ガス及び炭化水素ガスを発生させた未炭化の籾殻10は、炭化が進行して、炭化した籾殻10’となる。
【0026】
なお、容器50の表面(容器本体50aの内壁面、及び、蓋部50bの下面)には炭化ケイ素を含む炭化ケイ素層51a、51bが形成されているため、容器50内で発生した酸化ケイ素ガスが容器50と反応することも抑制される。
【0027】
以上より、容器50内では、炭化ケイ素繊維状物質を形成するために必要な、酸化ケイ素ガス、炭化水素ガス及び触媒がすべて揃っているため、外部から材料等を供給することなく容器を密閉して加熱するだけで、繊維長の長い炭化ケイ素材料を得ることができる。
【0028】
なお、未炭化の籾殻の有機分が分解することで生じる炭化水素ガスについて、上記ではメタン(CH)及びアセチレン(C)を例に説明しているが、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法においては、炭化水素ガスは上記のガスに限定されない。例えば、炭化水素ガスは、エタン(C)やエチレン(C)であってもよい。
【0029】
容器内に密閉した未炭化の籾殻を加熱する温度は特に限定されないが、1500~1700℃であることが好ましい。
【0030】
加熱時の雰囲気は、不活性雰囲気であることが好ましい。
不活性雰囲気は、非酸化性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0031】
籾殻は、密閉された容器内で、不活性雰囲気下、1500~1700℃の温度で加熱されることが好ましい。
不活性雰囲気下、1500~1700℃の温度で加熱を行うと、高い効率で炭化ケイ素繊維状物質を得ることができる。
【0032】
籾殻の加熱方法は特に限定されないが、容器の外側から電熱線等で加熱してもよいし、容器自身を加熱してもよい。
容器自身を加熱する方法としては、例えば、抵抗加熱や誘導加熱が挙げられる。
【0033】
籾殻の加熱時間は、得たい炭化ケイ素繊維状物質の量に応じて適宜調整することができ、例えば、1~5時間が挙げられる。
【0034】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、得られる炭化ケイ素繊維状物質の平均繊維長が1mm以上であることが好ましい。
【0035】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、得られる炭化ケイ素繊維状物質の平均繊維径が0.5~10μmであることが好ましい。
【0036】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法において、得られる炭化ケイ素繊維状物質のアスペクト比は1000~50000であることが好ましい。
【0037】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法においては、加熱後に、炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣を含む混合物を、油/水混合液中で撹拌し、水層に炭化ケイ素繊維状物質を分離して回収することが好ましい。
【0038】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法によれば、加熱後に、籾殻の表面に微細な炭化ケイ素繊維状物質が形成される。
このままでは、籾殻と炭化ケイ素繊維状物質の分離が困難であるが、炭化ケイ素繊維状物質は親水性であるのに対して、籾殻の残渣は親油性である。
そのため、炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣を含む混合物を油/水混合液中で撹拌すると、炭化ケイ素繊維状物質は水層に、籾殻の残渣は油層にそれぞれ分散し、水層を分離することで炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣とを分離することができる。
【0039】
水/油混合液としては、例えば、水と、油(ヘキサン、酢酸エチル等)を2:1(体積比)で混合した混合液を用いることができる。
分離の際には、酸の添加や加熱を行ってもよい。また、水層に分離回収した炭化珪素繊維状物質を別の油/水混合液中で撹拌し、水層に分離して回収することを繰り返し行ってもよい。
【0040】
以下、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法に用いる籾殻及び容器について説明する。
【0041】
[籾殻]
籾殻は、未炭化の状態で用いられる。
炭化した状態の籾殻には有機分が含まれていないので、上述した炭化水素ガスを発生させることができない。
【0042】
未炭化の籾殻は、例えば、収穫された稲を脱穀及び脱桴して得られる。
籾殻の産地及び品種は特に限定されない。
【0043】
未炭化の籾殻には、酸化ケイ素、セルロース等の有機分、及び、微量元素としてFe、Ni、Co等の遷移金属が含まれる。
従って、上述したように、密閉された容器内で加熱されることで、酸化ケイ素ガス及び炭化水素ガスを発生し、これらのガスが遷移金属の作用により反応して、炭化ケイ素繊維状物質となる。
【0044】
なお、未炭化の籾殻とは、不活性雰囲気で1200℃まで加熱した際の重量減少率が20重量%以上の籾殻を指す。
【0045】
未炭化の籾殻は、粉砕された状態であってもよく、未粉砕の状態であってもよい。
また、未炭化の籾殻は加圧成形されていてもよい。
【0046】
[容器]
容器は、表面に炭化ケイ素を含む容器である。
容器は、炭素基材からなる容器であることが好ましい。
【0047】
容器の形状及び大きさは、内部に収容する未炭化の籾殻の量及び配置により適宜設定することができる。
【0048】
容器は複数の部品で構成されていてもよい。
例えば、容器は、未炭化の籾殻を収容する容器本体と、容器本体の上部を覆う蓋部を備えていてもよい。
【0049】
容器の表面には、炭化ケイ素が含まれている。
容器は、炭素基材の表面に炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層が形成されてなることが好ましい。
容器が、炭素基材の表面に炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層が形成されてなると、炭化ケイ素層によって、容器を構成する炭素と籾殻から発生する酸化ケイ素ガスとが反応することを抑制することができ、効率よく炭化ケイ素繊維状物質の生成に用いられる。
【0050】
炭化ケイ素層の厚さは特に限定されないが、500~1500μmであることが好ましい。
【0051】
容器の表面に炭化ケイ素層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、有機シランガスを用いて化学気相蒸着を行う方法や、炭化ケイ素粒子と二酸化ケイ素粒子を含むシート状物を、炭化ケイ素層を形成したい部分に接触させて加熱する方法が挙げられる。
【0052】
容器の表面とは、未炭化の籾殻を収容する空間に隣接する面である。
すなわち、容器の内側に未炭化の籾殻を収容する場合、容器の内側表面には炭化ケイ素が含まれている必要があるが、容器の外側表面には、炭化ケイ素が含まれていなくてもよい。
【0053】
本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法においては、籾殻の表面に、遷移金属を含む物質を付着させ、籾殻を加熱することが好ましい。
籾殻に含まれる微量元素は炭化ケイ素繊維状物質の生成において触媒として機能するが、自然由来であるため、遷移元素の種類や含有量が安定しないことがある。
これに対して、遷移金属を含む物質を籾殻の表面に付着させることによって、籾殻に含まれる触媒量を安定化することができるため、上述した籾殻由来の微量元素の影響を受けることなく、炭化ケイ素繊維状物質の生成反応を安定化することができる。
【0054】
[遷移金属を含む物質]
遷移金属としては、鉄、ニッケル、コバルト等が挙げられる。
【0055】
遷移金属を含む物質としては、上記遷移金属の酸化物を用いることが好ましく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
遷移金属を含む物質としては、酸化鉄及び酸化ニッケルがより好ましく、酸化鉄がさらに好ましい。
酸化鉄としては、FeO、Fe、Fe等が挙げられるが、Feが好ましい。
【0057】
遷移金属を含む物質は粉末状であることが好ましい。
【0058】
遷移金属を含む物質として、炭化させた籾殻を用いてもよい。
【0059】
遷移金属を含む物質は、未炭化の籾殻の重量に対して0.01~1重量%の割合で添加することが好ましい。
【0060】
本明細書には以下の発明が記載されている。
【0061】
本開示(1)は、未炭化の籾殻を、表面に炭化ケイ素を含み密閉された容器内で加熱することを特徴とする、炭化ケイ素繊維状物質の製造方法である。
【0062】
本開示(2)は、前記籾殻の表面に、遷移金属を含む物質を付着させ、前記籾殻を加熱する本開示(1)に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法である。
【0063】
本開示(3)は、前記籾殻を、密閉された前記容器内で、不活性雰囲気下、1500~1700℃の温度で加熱する本開示(1)又は(2)に記載の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法である。
【0064】
本開示(4)は、得られる炭化ケイ素繊維状物質の平均長さが1mm以上である、本開示(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せの炭化ケイ素繊維状物質の製造方法である。
【0065】
本開示(5)は、前記容器は、炭素基材の表面に炭化ケイ素粒子を含む炭化ケイ素層が形成されてなる、本開示(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せの炭化ケイ素繊維状物質の製造方法である。
【0066】
本開示(6)は、加熱後に、炭化ケイ素繊維状物質と籾殻の残渣を含む混合物を、油/水混合液中で撹拌し、水層に炭化ケイ素繊維状物質を分離して回収する、本開示(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せの炭化ケイ素繊維状物質の製造方法である。
【0067】
[実施例]
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
内径寸法が縦170mm×横170mm×高さ43mmで厚みが10mmの黒鉛製るつぼを準備し、内側表面に有機シランガスを用いて化学気相蒸着により炭化ケイ素を含む炭化ケイ素層(厚さ600μm)を形成し、容器本体とした。
また、縦190mm×横190mm×高さ(厚さ)10mmの黒鉛製平板の一方の表面に化学気相蒸着により炭化ケイ素を含む炭化ケイ素層(厚さ600μm)を形成し、容器の蓋部とした。
【0069】
未炭化の籾殻100gを酸化鉄(Fe)300mgと混合して、未炭化の籾殻の表面に酸化鉄(Fe)を付着させたものを容器本体に収容し、炭化ケイ素層が形成された面を開口部側に向けた蓋部により容器の開口部を覆い、容器内を密閉した。
【0070】
容器を密閉した状態で焼成炉に入れ、炉内を減圧した後アルゴンガスで置換し、炉内及び容器内をアルゴン雰囲気とした後、炉内にアルゴンガスを15L/minの速度で流通させながら、昇温速度300℃/時間、最高温度1550℃で4.5時間加熱した。
加熱終了後の籾殻の表面を観察したところ、繊維状の炭化ケイ素が生成していることを確認した。結果を図4に示す。
【0071】
図4は、実施例1で得られた炭化ケイ素繊維状物質の外観写真である。
図4に示すように、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法を用いることで、綿状の炭化ケイ素繊維状物質60を得たことを確認した。
【0072】
図5は、図4に示す炭化ケイ素繊維状物質の部分拡大図である。
図5より、得られた炭化ケイ素繊維状物質60は、繊維径が約1μmであり、繊維長が約10mmの長繊維であり、アスペクト比が約10000であることを確認した。
【0073】
以上より、本発明の炭化ケイ素繊維状物質の製造方法は、生成効率が高く、高アスペクト比の炭化ケイ素繊維状物質を得ることのできる方法であることを確認した。
【符号の説明】
【0074】
10 未炭化の籾殻
10’ 炭化した籾殻
50 容器
50a 容器本体
50b 蓋部
51a、51b 炭化ケイ素層
60 炭化ケイ素繊維状物質
図1
図2
図3
図4
図5