(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013485
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】業務プロセス探索装置、業務プロセス探索方法及び業務プロセス探索プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0633 20230101AFI20240125BHJP
【FI】
G06Q10/06 324
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115602
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000233055
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】曾我 遼
(72)【発明者】
【氏名】福井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 正啓
(72)【発明者】
【氏名】石田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 正彦
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA07
(57)【要約】
【課題】AIに推論誤りが生じた場合のリスクを評価した上で、AIを用いる業務プロセスを構築する。
【解決手段】リスク評価部20は、業務プロセス候補のとりうる結論に至る経路ごとに、当該経路に生じる影響のうち負の影響評価値に基づき算出される不利益スコアと当該経路の発生確率とに基づき、リスクスコアを算出し、業務プロセス候補がとり得る複数の経路について算出されたリスクスコアの総和を業務プロセス候補のリスクスコアとして算出し、表示部12は、複数の業務プロセス候補の工程フローとリスク評価部により算出された業務プロセス候補のリスクスコアとをユーザに表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリと、前記メモリにロードされたプログラムを実行することにより機能部として機能するプロセッサとを備える業務プロセス探索装置であって、
前記機能部として、入力部と、リスク評価部と、表示部とを有し、
前記入力部は、ユーザからの複数の業務プロセス候補のデータの入力を受けてデータ記憶部に記憶し、前記業務プロセス候補のデータには、人工知能による推論を行う工程を含む工程フローと、前記業務プロセス候補の最終工程の内容である業務プロセスの結論が関係者に与える影響及び影響評価値が登録された影響評価表と、前記工程フローに含まれる分岐の遷移確率が登録された遷移確率表を含み、
前記リスク評価部は、前記業務プロセス候補のとりうる結論に至る経路ごとに、当該経路に生じる前記影響のうち負の前記影響評価値に基づき算出される不利益スコアと当該経路の発生確率とに基づき、リスクスコアを算出し、前記業務プロセス候補がとり得る複数の経路について算出されたリスクスコアの総和を前記業務プロセス候補のリスクスコアとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記リスク評価部により算出された前記業務プロセス候補のリスクスコアとをユーザに表示する業務プロセス探索装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補の工程フローと人工知能による推論を行う工程を含まない業務プロセスの工程フローとを比較して変化の有無を判定した変化一覧表を含み、
前記リスク評価部は、誤った結論に至る第1の経路の前記不利益スコアを、前記第1の経路に生じる前記影響のうち負の前記影響評価値と、前記第1の経路と同じ工程フローにより正しい結論に至る第2の経路に生じる前記影響のうち正の前記影響評価値との和として算出する業務プロセス探索装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補の工程フローにおける人工知能による推論の誤りの検出容易性を判定した容易性評価一覧表を含み、
前記リスク評価部は、前記業務プロセス候補のとりうる結論に至る経路の発生確率を、前記容易性評価一覧表の判定によって補正した補正発生確率に基づき、経路ごとのリスクスコアを算出する業務プロセス探索装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記機能部として、コスト評価部を有し、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補の結論を確認する確認比率を定めた確認比率一覧表を含み、前記確認比率は、前記業務プロセス候補の工程フローのリスクスコアに応じて定められ、
前記コスト評価部は、前記業務プロセス候補の工程フローごとに、当該工程フローのリスクスコアに相当する確認比率に基づき確認コストを算出し、前記業務プロセス候補の工程フローについて算出された確認コストの総和を前記業務プロセス候補の確認コストとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記コスト評価部により算出された前記業務プロセス候補の確認コストとをユーザに表示する業務プロセス探索装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記確認比率一覧表には、業務プロセスの結論の正誤を確認する正誤確認についての確認比率とAI倫理の観点から偏った判断がなされていないか確認する性能偏り確認についての確認比率とが定められている業務プロセス探索装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記機能部として、コスト評価部を有し、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補に含まれる工程ごとの実行コストを示す実行コスト一覧表を含み、
前記コスト評価部は、前記業務プロセス候補の工程フローごとに、当該工程フローの発生確率と前記実行コスト一覧表から算出される当該工程フローの総実行コストとに基づき実行コストを算出し、前記業務プロセス候補の工程フローについて算出された実行コストの総和を前記業務プロセス候補の実行コストとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記コスト評価部により算出された前記業務プロセス候補の実行コストとをユーザに表示する業務プロセス探索装置。
【請求項7】
メモリと、前記メモリにロードされたプログラムを実行することにより機能部として機能するプロセッサとを備える業務プロセス探索装置を用いた業務プロセス探索方法であって、
前記機能部として、入力部と、リスク評価部と、表示部とを有し、
前記入力部は、ユーザからの複数の業務プロセス候補のデータの入力を受けてデータ記憶部に記憶し、前記業務プロセス候補のデータには、人工知能による推論を行う工程を含む工程フローと、前記業務プロセス候補の最終工程の内容である業務プロセスの結論が関係者に与える影響及び影響評価値が登録された影響評価表と、前記工程フローに含まれる分岐の遷移確率が登録された遷移確率表を含み、
前記リスク評価部は、前記業務プロセス候補のとりうる結論に至る経路ごとに、当該経路に生じる前記影響のうち負の前記影響評価値に基づき算出される不利益スコアと当該経路の発生確率とに基づき、リスクスコアを算出し、前記業務プロセス候補がとり得る複数の経路について算出されたリスクスコアの総和を前記業務プロセス候補のリスクスコアとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記リスク評価部により算出された前記業務プロセス候補のリスクスコアとをユーザに表示する業務プロセス探索方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記機能部として、コスト評価部を有し、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補の結論を確認する確認比率を定めた確認比率一覧表を含み、前記確認比率は、前記業務プロセス候補の工程フローのリスクスコアに応じて定められ、
前記コスト評価部は、前記業務プロセス候補の工程フローごとに、当該工程フローのリスクスコアに相当する確認比率に基づき確認コストを算出し、前記業務プロセス候補の工程フローについて算出された確認コストの総和を前記業務プロセス候補の確認コストとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記コスト評価部により算出された前記業務プロセス候補の確認コストとをユーザに表示する業務プロセス探索方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記確認比率一覧表には、業務プロセスの結論の正誤を確認する正誤確認についての確認比率とAI倫理の観点から偏った判断がなされていないか確認する性能偏り確認についての確認比率とが定められている業務プロセス探索方法。
【請求項10】
請求項7において、
前記機能部として、コスト評価部を有し、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補に含まれる工程ごとの実行コストを示す実行コスト一覧表を含み、
前記コスト評価部は、前記業務プロセス候補の工程フローごとに、当該工程フローの発生確率と前記実行コスト一覧表から算出される当該工程フローの総実行コストとに基づき実行コストを算出し、前記業務プロセス候補の工程フローについて算出された実行コストの総和を前記業務プロセス候補の実行コストとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記コスト評価部により算出された前記業務プロセス候補の実行コストとをユーザに表示する業務プロセス探索方法。
【請求項11】
メモリと、プロセッサとを備える情報処理装置によって実行される業務プロセス探索プログラムであって、
前記業務プロセス探索プログラムは、前記メモリにロードされて、前記プロセッサによって実行されることにより、入力部、リスク評価部、及び表示部として機能し、
前記入力部は、ユーザからの複数の業務プロセス候補のデータの入力を受けてデータ記憶部に記憶し、前記業務プロセス候補のデータには、人工知能による推論を行う工程を含む工程フローと、前記業務プロセス候補の最終工程の内容である業務プロセスの結論が関係者に与える影響及び影響評価値が登録された影響評価表と、前記工程フローに含まれる分岐の遷移確率が登録された遷移確率表を含み、
前記リスク評価部は、前記業務プロセス候補のとりうる結論に至る経路ごとに、当該経路に生じる前記影響のうち負の前記影響評価値に基づき算出される不利益スコアと当該経路の発生確率とに基づき、リスクスコアを算出し、前記業務プロセス候補がとり得る複数の経路について算出されたリスクスコアの総和を前記業務プロセス候補のリスクスコアとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記リスク評価部により算出された前記業務プロセス候補のリスクスコアとをユーザに表示する業務プロセス探索プログラム。
【請求項12】
請求項11において、
前記業務プロセス探索プログラムは、前記メモリにロードされて、前記プロセッサによって実行されることにより、コスト評価部として機能し、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補の結論を確認する確認比率を定めた確認比率一覧表を含み、前記確認比率は、前記業務プロセス候補の工程フローのリスクスコアに応じて定められ、
前記コスト評価部は、前記業務プロセス候補の工程フローごとに、当該工程フローのリスクスコアに相当する確認比率に基づき確認コストを算出し、前記業務プロセス候補の工程フローについて算出された確認コストの総和を前記業務プロセス候補の確認コストとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記コスト評価部により算出された前記業務プロセス候補の確認コストとをユーザに表示する業務プロセス探索プログラム。
【請求項13】
請求項12において、
前記確認比率一覧表には、業務プロセスの結論の正誤を確認する正誤確認についての確認比率とAI倫理の観点から偏った判断がなされていないか確認する性能偏り確認についての確認比率とが定められている業務プロセス探索プログラム。
【請求項14】
請求項11において、
前記業務プロセス探索プログラムは、前記メモリにロードされて、前記プロセッサによって実行されることにより、コスト評価部として機能し、
前記業務プロセス候補のデータには、前記業務プロセス候補に含まれる工程ごとの実行コストを示す実行コスト一覧表を含み、
前記コスト評価部は、前記業務プロセス候補の工程フローごとに、当該工程フローの発生確率と前記実行コスト一覧表から算出される当該工程フローの総実行コストとに基づき実行コストを算出し、前記業務プロセス候補の工程フローについて算出された実行コストの総和を前記業務プロセス候補の実行コストとして算出し、
前記表示部は、複数の前記業務プロセス候補の工程フローと前記コスト評価部により算出された前記業務プロセス候補の実行コストとをユーザに表示する業務プロセス探索プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務プロセス探索装置、業務プロセス探索方法及び業務プロセス探索プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、業務プロセス評価方法を開示する。業務プロセスのパフォーマンスをモニタし、パフォーマンスの低下がみられるときには、その原因が外的要因及び内的要因のいずれに起因するかを識別し、内的要因に起因したパフォーマンスの低下を改善対象として抽出するものである。
【0003】
近年、業務プロセスにAI(人工知能)を導入する動きがある。AIを業務プロセスに導入することで、業務プロセスのパフォーマンスを格段に向上させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AIの業務プロセスへの導入は、業務プロセスのパフォーマンスを改善させる一方で、業務プロセスの内容によっては、AIによる推論結果が組織、あるいは人に対して心理的、経済的、身体的な不利益を引き起こすおそれがある。AIをタスク割り当て業務に適用する場合を例にとる。例えば、候補者が提出したPR動画に基づいてAIが候補者のスキルを判断し、適切なスキルを有すると判断した候補者をタスクにアサインする業務プロセスの導入を検討するものとする。このとき、AIによる候補者スキルの推論結果に誤りがあると、スキルレベルが不十分な候補者をアサインしてしまったり、スキルレベルが十分な候補者がアサインされなかったり、という結果につながる。これでは、AIを導入したタスク割り当て業務のパフォーマンスが上がったとしても、タスク割り当て業務本来の目的が達成されているとはいいがたい。
【0006】
したがって、AIを業務プロセスに導入するにあたっては、特許文献1に示されるようなパフォーマンスを指標として良否を判断するだけでなく、AIに推論誤りが生じた場合のリスクを評価した上で、AIを用いる業務プロセスを構築する必要がある。さらに、業務プロセスの内容によっては、AI倫理の観点からのリスク評価も重要である。例えば、上記の例であれば、AIがスキルレベルを正しく判断しているとしても、推論結果に人種あるいは性別に偏りが生じているようであれば、推論が適切ではない。AIによる推論を業務プロセスに取り込んだとしても、その影響を受ける人や組織に、業務プロセスの本来目的に照らして納得性のある形で業務プロセスが構築されていることが説明可能とされていることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様である業務プロセス探索装置は、メモリと、メモリにロードされたプログラムを実行することにより機能部として機能するプロセッサとを備える業務プロセス探索装置であって、機能部として、入力部と、リスク評価部と、表示部とを有し、
入力部は、ユーザからの複数の業務プロセス候補のデータの入力を受けてデータ記憶部に記憶し、業務プロセス候補のデータには、人工知能による推論を行う工程を含む工程フローと、業務プロセス候補の最終工程の内容である業務プロセスの結論が関係者に与える影響及び影響評価値が登録された影響評価表と、工程フローに含まれる分岐の遷移確率が登録された遷移確率表を含み、
リスク評価部は、業務プロセス候補のとりうる結論に至る経路ごとに、当該経路に生じる影響のうち負の影響評価値に基づき算出される不利益スコアと当該経路の発生確率とに基づき、リスクスコアを算出し、業務プロセス候補がとり得る複数の経路について算出されたリスクスコアの総和を業務プロセス候補のリスクスコアとして算出し、
表示部は、複数の業務プロセス候補の工程フローとリスク評価部により算出された業務プロセス候補のリスクスコアとをユーザに表示する。
【発明の効果】
【0008】
AIに推論誤りが生じた場合のリスクを評価した上で、AIを用いる業務プロセスを構築することが可能になる。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の業務プロセス探索装置の機能ブロック図である。
【
図6】リスクスコア算出方法を説明するための図である。
【
図7】リスクスコア算出過程を説明するための図である。
【
図12】実施例2の業務プロセス探索装置の機能ブロック図である。
【
図15】確認コストの算出過程を説明するための図である。
【
図18】実行コストの算出過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例0011】
図1に実施例1の業務プロセス探索装置10の機能ブロック図を示す。また、
図2に業務プロセス探索装置10のハードウェア構成を示す。業務プロセス探索装置10は、
図2に示すようなプロセッサ(CPU)1、メモリ2、ストレージ装置3、入力装置4、出力装置5、通信装置6、バス7を主要な構成として含む情報処理装置により実現される。プロセッサ1は、メモリ2にロードされたプログラムに従って処理を実行することによって、所定の機能を提供する機能部として機能する。ストレージ装置3は、機能部で使用するデータやプログラムを格納する。ストレージ装置3には、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)のような不揮発性記憶媒体が用いられる。入力装置4は、キーボード、ポインティングデバイスなどであり、出力装置5はディスプレイなどである。通信装置6は、ネットワークを介して他の情報処理装置や端末と通信を可能にする。これらはバス7により互いに通信可能に接続されている。
【0012】
なお、業務プロセス探索装置10は1台の情報処理装置で実現する必要はなく、複数台の情報処理装置で実現してもよい。また、業務プロセス探索装置10の一部、あるいはすべての機能をクラウド上のアプリケーションとして実現してもよい。
【0013】
業務プロセス探索装置10は、情報処理装置が業務プロセス探索プログラムを実行することで実現される装置であって、入力部11、表示部12、リスク評価部20の機能部を有する。AIをタスク割り当て業務に適用する業務プロセス構築を例として、業務プロセス探索装置10について説明する。
【0014】
入力部11は、構築する業務プロセスについてユーザからの情報入力を受け、データ記憶部30に記憶する機能部である。入力される業務プロセス情報には、構築する業務プロセスについてユーザが検討した業務プロセス候補の内容、すなわち業務プロセス候補の工程フローを示す業務プロセス候補データ31、業務プロセス候補を評価するための情報である影響評価表32、遷移確率表33を含む。これらの詳細については後述する。これらのデータ入力は、入力装置4から行ってもよいし、ネットワークを介して接続されたユーザ端末から通信装置6を介して行ってもよい。また、データ31~33はストレージ装置3に記憶されてもよいし、ネットワークを介して業務プロセス探索装置10が接続可能なデータサーバに記憶させ、ストレージ装置3にはデータサーバにアクセスするためのアドレスを記憶するようにしてもよい。
【0015】
リスク評価部20は、業務プロセス候補ごとにリスクスコアを算出する機能部である。リスク評価部20は、サブ機能部として不利益レベル算出部21、尤度算出部22、リスクスコア算出部23を備える。これらの詳細については後述する。
【0016】
表示部12は、業務プロセス候補を、リスク評価部20が算出したリスクスコアとともにユーザに提示する機能部である。ユーザはリスクスコアに基づき、いずれの業務プロセス候補を選択する。これにより、AIの推論誤りによって生じるリスクを踏まえた上での業務プロセスの選択が可能になる。ユーザへの提示は、出力装置5から行ってもよいし、通信装置6からネットワークを介して接続されたユーザ端末に対して行ってもよい。
【0017】
図3に、業務プロセス候補データ31としてユーザが入力する業務プロセス候補を示す。業務プロセス候補データ31は、データの形式は問わず、業務プロセス候補の含む工程と当該業務プロセス候補においてとり得る経路が特定できるようになっていればよい。ここでは、ユーザは5つの業務プロセス候補(#1~#5)を入力したものとする。
【0018】
第1の業務プロセス候補31-1の業務プロセスの内容を説明する。最初に、候補者に対してAI使用への同意をとる(S01)。候補者が同意しない場合には、AIによる評価は行わない。AI使用に同意した候補者は応募システムにログインし(S02)、募集されているタスクについて自らが十分なスキルを有することをアピールするPR動画を撮影する(S03)。その後、上長(評価責任者)によるPR動画の評価を行い(S04a)、スキル十分と判断すれば当該候補者にタスクを割り当てる(S05)。一方、上長がスキル不足と判断する場合にはAIによるPR動画の評価を行い(S04b)、AIがスキル十分と判断すれば当該候補者にタスクを割り当て(S05)、上長とAIがともにスキル不十分と判断すれば、スキルを向上されるための教育を実施する(S06)。
【0019】
第2~第4の業務プロセス候補は第1の業務プロセス候補と同じ工程を有しているが、上長による評価(S04a)とAIによる評価(S04b)の順序やスキル判断後の工程が異なっている。また、第5の業務プロセス候補では上長による評価(S04a)を含まない。第5の業務プロセス候補はもちろん、同じ工程からなる第1~第4の業務プロセス候補においても、AIに推論誤りが生じた場合のリスクは異なっている。そこで、業務プロセス探索装置10は、それぞれの業務プロセス候補におけるリスクをリスクスコアにより可視化して提示する。
【0020】
影響評価表32、遷移確率表33は業務プロセス候補におけるリスクを評価するための基礎情報である。
【0021】
影響評価表32は、業務プロセスの結論が関係者に与える影響を点数化した一覧表である。
図4に
図3の業務プロセス候補に適用される影響評価表の例を示す。ここで、業務プロセスの結論とは業務プロセスの最終工程の内容を指すものとする。
図3の例で言えば、最終工程となりうる工程は、AI使用の同意(S01)、タスク割り当て(S05)、教育(S06)である。さらに、最終工程となりうる工程は、正誤のある工程とない工程とに区分される。本実施例のリスク評価においては、最終工程が正誤のある工程である場合には、正誤に分けて区分してリスク評価を行うものとする。一般に、業務プロセスにおいて結論が正しい場合の利益、不利益と結論が誤っている場合の利益、不利益とは非対称であるためである。ここでは、AI使用の同意(拒絶)が正誤のない工程であり、タスク割り当てと教育とが正誤のある工程である。具体的にタスク割り当て工程、教育工程が正しいとは、それぞれスキル十分な候補者にタスクが割り当てられ、スキル不足の候補者にスキル教育を施すことをいう。これに対して、タスク割り当て工程、教育工程が誤っているとは、それぞれスキル不足の候補者にタスクが割り当てられ、スキル十分の候補者にスキル教育を施すことをいう。
【0022】
業務プロセスの結論が関係者に与える影響の内容や評価値は、業務プロセスの結論(正誤がある場合には、正誤を含めた結論をいう)が、関係者に対してどのような影響を与えるかについて、ユーザが考察して決定する。
【0023】
影響ID41は、ユーザが抽出した業務プロセスの結論が関係者に与える影響を一意に特定するIDである。最終工程42及び正誤判定結果43の組み合わせにより、業務プロセスの結論が示される。この例においては、業務プロセスの結論は、タスク割り当て(正/誤)、教育(正/誤)、AI使用への同意の5通りである。影響対象者44は、影響を受ける対象者であり、業務プロセスの内容に応じて決定される。この例では候補者または上長である。影響項目45及び影響種類46に影響対象者が受ける影響の内容が示され、影響評価値47にその影響を点数化した評価値が示される。影響評価値47には正負があり、影響対象者にとってよい影響である場合には値が正となり、影響対象者にとって悪い影響である場合には値が負となる。
【0024】
遷移確率表33は、業務プロセスにおいて工程の出力に応じて経路が分岐する場合における遷移確率を示す一覧表である。
図5に
図3の業務プロセス候補に適用される遷移確率表の例を示す。
図3の例で言えば、その出力によって分岐が生じる工程は、AI使用への同意(S01)、上長による評価(S04a)、AIによる評価(S04b)である。さらに、工程の出力は、正誤のある出力とない出力とに区分される。本実施例のリスク評価においては、工程の出力に正誤のある場合には、正誤に分けて区分してリスク評価を行うものとする。ここでは、AI使用への同意/拒絶が正誤のない出力であり、上長による評価(タスク十分/タスク不足)とAIによる評価(タスク十分/タスク不足)とが正誤のある出力である。具体的に上長による評価、AIによる評価の出力が正しいとは、それぞれスキル十分な候補者をスキル十分と評価し、スキル不足の候補者をスキル不足と評価することをいう。これに対して、上長による評価、AIによる評価の出力が誤っているとは、それぞれスキル十分な候補者をスキル不足と評価し、スキル不足の候補者をスキル十分と評価することをいう。
【0025】
分岐(正誤がある場合には、正誤を含めた分岐をいう)の遷移確率は、ユーザによって決定される。遷移確率ID51は、業務プロセスに起こり得る分岐を一意に特定するIDである。工程52、出力53及び正誤判定結果54の組み合わせに対してそれぞれ遷移確率を設定する。この例では、AI使用への同意(Yes/No)、上長による評価「スキル十分」(正/誤)、上長による評価「スキル不足」(正/誤)、AIによる評価「スキル十分」(正/誤)、AIによる評価「スキル不足」(正/誤)の10通りである。確率55は各分岐の遷移確率を示し、遷移確率は工程ごとに100%となるように値が設定されている。
【0026】
以上のデータを用いて、リスク評価部20では、各業務プロセス候補について、リスクスコアを算出する。
図7に
図3に示した業務プロセス候補(一部)についてのリスクスコア算出過程を示す。リスクスコアは業務プロセス候補に含まれる経路ごとに算出する。ここで、経路とは、最初の工程(ここではAI使用への同意)から結論に至る経路をいうものとする。上述のように、業務プロセスの結論に正誤がある場合には、正しい結論である場合と誤った結論である場合を別の結論として扱うため、最終工程が正誤を含む場合には、正しい結論に至る経路と誤った結論に至る経路は、経路の工程フローが同一であるにもかかわらず、異なる経路として扱う。
【0027】
経路ID61は経路を一意に特定するIDである。分かりやすさのため「X-Y」形式のIDとし、Xは工程フローが同じ経路を示し、結論の違いをYで示している。例えば、経路ID1-1と経路ID1-2とは工程フロー63は同一であるが、最終工程64と正誤判定結果65の組み合わせとして示される業務プロセス候補の結論が異なる。業務プロセス候補IDは、ここでは
図3に示す第1~第5の業務プロセス候補のいずれに当たるかを示している。
【0028】
以下、リスク評価部20の処理をサブ機能部ごとに、
図7を参照しながら説明する。
【0029】
不利益レベル算出部21は、経路ごとの利益スコアA
p68、不利益スコアD
p69及び不利益レベルDL
pを算出する。利益スコアA
pと不利益スコアD
pの算出は
図4に示した影響評価表32に基づき算出する。利益スコアA
pは経路の結論についての値が正である影響評価値の総和、不利益スコアD
pは経路の結論についての値が負である影響評価値の絶対値の総和として算出される。例えば、経路3-1の場合、最終工程「教育」、正誤判定結果「正」である場合の影響評価表(影響ID6-9)を参照し、利益スコアA
pは3、不利益スコアD
pは1と算出される。同様に、経路3-2の場合、最終工程「教育」、正誤判定結果「誤」である場合の影響評価表(影響ID10)を参照し、利益スコアA
pは0、不利益スコアD
pは3と算出される。他の経路についても同様である。
【0030】
算出した利益スコアAp、不利益スコアDpから不利益レベルDLpを算出する。ここでは、不利益スコアDpから不利益レベルDLpを算出する場合の例を(数1)として示す。
【0031】
【0032】
(数1)は、不利益スコアDpの大きさを3段階に区分するための数式の例である。レベル分けの数によって、数式は異なるものとなる。不利益スコアDpの最大値(max(Dp))は、業務プロセス候補ごとに求められる。第1の業務プロセス候補における不利益スコアDpの最大値は5であるから、経路3-1における不利益レベルDLpは1、経路3-2における不利益レベルDLpは2と算出される。
【0033】
尤度算出部22は、経路ごとの発生確率P
p66と尤度L
p67を算出する。経路の発生確率P
pの算出は、
図5に示した遷移確率表33に基づき算出する。各経路について、工程フロー63に沿って、分岐がある度にその遷移確率を掛け合わせていけばよい。
【0034】
算出した発生確率Ppから尤度Lpを算出する。算出式の一例を(数2)として示す。
【0035】
【0036】
(数2)は、発生確率Ppの大きさを3段階に区分するための数式の例である。レベル分けの数によって、数式は異なるものとなる。
【0037】
リスクスコア算出部23は、経路ごとのリスクスコアRpと業務プロセス候補ごとのリスクスコアRを算出する。経路ごとのリスクスコアRpは、経路ごとの不利益レベルDLp及び尤度Lpに基づき算出する。算出式の一例を(数3)として示す。
【0038】
【0039】
(数3)は
図6に示すリスクスコア算出方法を算出式として表記したものである。すなわち、経路ごとの不利益レベルDL
pと尤度L
pとの和が3以下のときは、経路ごとのリスクスコアR
pを0、経路ごとの不利益レベルDL
pと尤度L
pとの和が3より大きく4以下のときは、経路ごとのリスクスコアR
pを1、経路ごとの不利益レベルDL
pと尤度L
pとの和が4より大きく6以下のときは、経路ごとのリスクスコアR
pを10とするものである。区分する範囲や区分ごとのリスクスコアR
pの値はユーザが任意に設定できる。
【0040】
図7の算出例では(数3)に基づき、経路ごとのリスクスコアR
pを算出しているが、たとえば、(数4)のような算出式によって経路ごとのリスクスコアR
pを算出することもできる。
【0041】
【0042】
業務プロセス候補ごとのリスクスコアRは、業務プロセス候補について算出した経路ごとのリスクスコアR
pの総和として算出される。例えば、第1の業務プロセス候補のリスクスコアRは、
図7の経路1-1~4のリスクスコアR
pの和であるから3となる。
【0043】
リスク評価部20は、以上の処理により、各業務プロセス候補についてのリスクスコアRを算出する。
【0044】
図8は、表示部12が表示する業務プロセス候補評価画面80の例である。業務プロセス候補表示欄81に
図3に示した業務プロセス候補が表示され、評価結果一覧82にリスク評価部20によって算出された各業務プロセス候補のリスクスコアRが表示される。例えば、リスクスコアRで高評価である業務プロセス候補については、強調表示83を行うことが望ましい。この例では第2の業務プロセス候補と第4の業務プロセス候補が高評価(低リスク)であった。
【0045】
以下に、リスク評価部20におけるリスク評価方法の変形例を示す。
【0046】
(変形例1)
AIが導入されることによって評価プロセスが変更されることにより、AI導入前の業務プロセスで得られていた利益が、AI導入後に得られなくなる場合、関係者には利益が得られないことが不利益であると感じられると考えられる。変形例1はAIの導入により得られなくなった利益を不利益スコアに反映させるものである。
図3の例に基づき変形例1について説明する。
【0047】
図9は、AI導入前の業務プロセスである。
図3と同じ工程については同じ符号を付している。
図10に工程フローごとのAI導入に伴う変化の有無を示す変化一覧表34を示す。変化一覧表34は、ユーザによって入力される業務プロセス情報の一つであり、データ記憶部30に記憶される。工程フローID91は、工程フロー93を一意に特定するIDであり、AI導入前変化有無94には、工程フローごとにAI導入前の業務プロセスと比較した変化の有無が示されている。例えば、工程フローID2では、上長による評価(S04a)がスキル不足であっても、タスク割り当て(S05)に至っている点で、AI導入に伴う変化が存在している。本変形例では、この場合、工程フローID2に対応する経路ID2-2(正誤判定結果:誤)の不利益スコアD
p’は、本来の経路ID2-2の不利益スコアD
pと経路ID2-1(正誤判定結果:正)の利益スコアA
pの和(D
p+A
p)とする。すなわち、
図7の例では、経路ID2-1の不利益スコアD
p’は0、経路ID2-2の不利益スコアD
p’は7となる。不利益レベルDL
pは、実施例1における(数1)の不利益スコアD
pを変形例1の不利益スコアD
p’に置き換えた(数5)により算出することができる。
【0048】
【0049】
(変形例2)
変形例2はAIの推論結果の誤りの検出し易さを経路ごとの尤度L
pに反映させるものである。
図3の例に基づき変形例2について説明する。
【0050】
AIの推論結果の誤りの検出は、上長による評価を含まない業務プロセス候補においては困難である。また、上長による評価を含む業務プロセス候補であっても、人による評価とAIによる評価の順序によっては困難になる。具体的には、上長による評価、AIによる評価の順になっている場合には、評価が同じ場合にAIの推論結果の誤りの検出が困難である。逆に、AIによる評価、上長による評価の順になっている場合には、評価が異なる場合にAIの推論結果の誤りの検出が困難である。以上の考え方により、工程フローごとにAI誤り検出容易性を評価した容易性評価一覧表35を
図11に示す。容易性評価一覧表35は、ユーザによって入力される業務プロセス情報の一つであり、データ記憶部30に記憶される。工程フローID101は、工程フロー103を一意に特定するIDであり、AI誤り検出容易性104には、工程フローごとに上述した基準により評価したAIの推論結果の誤り検出容易性が示されている。
【0051】
変形例2においては、経路ごとの尤度LpはAIの推論結果の誤り検出容易性を反映させた算出式により算出する。算出式の一例を(数6)に示す。
【0052】
【0053】
ここで、eは容易性スコアであり、容易性スコアにより経路の発生確率を補正する。具体的には、AIの推論結果の誤りの検出が容易である場合は、e=0.5、AIの推論結果の誤りの検出が困難である場合は、e=1として、尤度Lpを算出する。
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。