(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134852
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】液状調味料用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240927BHJP
A23L 27/24 20160101ALI20240927BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240927BHJP
A23L 29/30 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L27/24
A23L5/00 J
A23L29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045260
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 暁久
(72)【発明者】
【氏名】有田 頌彬
(72)【発明者】
【氏名】池田 咲子
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LE03
4B035LG04
4B035LG06
4B035LG14
4B035LG19
4B035LG50
4B035LK01
4B035LP42
4B041LC01
4B041LD10
4B041LK07
4B041LK12
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4B041LK42
4B041LK45
4B041LP15
4B047LB07
4B047LB09
4B047LE01
4B047LF10
4B047LG09
4B047LG15
4B047LG25
4B047LG56
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、旨味を付与せずに、先味または中味に厚みが付与された液状調味料を提供することである。
【解決手段】グルコース、フルクトース、酵母エキスを含む培地でマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養することにより得られる培養液は、マンニトールが高含有され、かつ、特有で良好な味質を有する。この培養液を液状調味料に添加することで、液状調味料の先味または中味に厚みを付与することができ、味質の改善された液状調味料を得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンニトールを5~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する液状調味料用組成物。
【請求項2】
マンニトールを5~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する液状調味料用乳酸菌発酵組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物を液状調味料に添加することを特徴とする液状調味料の味質の改善方法。
【請求項4】
液状調味料1重量部に対して、請求項1または2に記載の組成物を0.01~1重量部添加することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状調味料の味質改善に用いることのできる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、食品の呈味を改善するためにドレッシングやポン酢、たれ、つゆ等の様々な調味料が使用されている。なかでも近年の健康志向の高まりから低カロリーの液状調味料であるノンオイルタイプの液状調味料が好まれている。しかしながら、これらノンオイルタイプの液状調味料は、先味または中味の厚み(こく味)が足らないという問題があった。
【0003】
液状調味料の味質を改善する方法として、植物蛋白加水分解物、動物蛋白加水分解物、酵母エキス及び醤油へマンニトールを添加する方法(特許文献1)や所定の油脂含量以下の液状調味料に糖アルコールを添加する方法(特許文献2)が知られている。また、減塩調味料に用いられる塩化カリウムによる異味抑制のため、マンニトールを用いる方法が報告されている(特許文献3、4)。このほか、マンニトールを含む発酵調味料を用いて酸味を向上する方法が報告されている(特許文献5)。
しかしながら、いずれの特許文献においても、旨味を付与することなく、先味および中味の厚みを付与することについての報告はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01-243961号公報
【特許文献2】特開2016-059343号公報
【特許文献3】WO2013/047201号パンフレット
【特許文献4】特開2021-013377号公報
【特許文献5】特開2020-025492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、先味または中味に厚みが付与され、味質が改善された液状調味料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意検討した結果、グルコース、フルクトース、酵母エキス含む培地でマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養する事により、培養液中にマンニトールが高含有され、かつ、特有で良好な味質を有する組成物が、液状調味料の先味または中味に厚みを付与し、味質を改善することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、以下の第一~第四に関する。
第一に、マンニトールを5~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する液状調味料用組成物である。
第二に、マンニトールを5~70重量%、乳酸を1.5~20重量%、酢酸を1~10重量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含有する液状調味料用乳酸菌発酵組成物である。
第三に、第一または第二に記載の組成物を液状調味料に添加することを特徴とする液状調味料の味質の改善方法である。
第四に、液状調味料1重量部に対して、第一または第二に記載の組成物を0.01~1重量部添加することを特徴とする第三に記載の方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、乳酸菌発酵組成物を液状調味料に添加することで、旨味を付与することなく、液状調味料の先味または中味に厚みを付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物は、マンニトールを5~70質量%、乳酸を1.5~20質量%、酢酸を1~10質量%、グルタミン酸ナトリウムを1~10重量%含むものである。この組成であれば、製造方法は、特に制限はないが、発酵により製造する場合は、培地にフルクトースと酵母エキスを用い、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを有する乳酸菌を培養し、その培養上清を濃縮する事により得る事ができる。また、粉末化が必要な場合は、適宜賦形剤を使用する事によって乾燥化が可能である。
【0010】
本発明に含有するマンニトール含量は、適宜調整して良く、通常は、マンニトールを5~70%重量%とする。さらに好ましいマンニトール含量は、20重量%~40重量である。特に好ましくは、25重量%~30重量%である。本発明のマンニトールは、後段のマンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌により、培地に使用したフルクトースから得られるマンニトールである。そのため、本発明のマンニトール含量は、上記の含量になるよう乳酸菌発酵を行う。マンニトール含量は、デキストリン等の賦形剤で調整することもできる。
【0011】
本発明に含有する乳酸は、適宜調整して良く、通常は、1.5~20質量%、好ましくは、4~15質量%とする。酢酸については、酢酸を1~10質量%、好ましくは、4~8質量%とする。
【0012】
本発明に含有するグルタミン酸ナトリウムは、適宜調整して良く、通常は、1~10重量%、好ましくは、3~7重量%とする。
【0013】
本発明の組成物を得る方法については、それぞれの成分が前段までの含量になれば、その方法に制限はない。食品に使用できる各成分を調合しても良いが、乳酸菌を発酵させることで得られるものが特に好ましく採用することができる。
【0014】
以下に乳酸菌を発酵させて製造する方法について説明する。
本発明の組成物製造に用いられる乳酸菌としては、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現し、食品製造に使用できる乳酸菌であれば、特に制限はない。例えば、ラクトバチルス属、ロイコノストック属など、マンニトール-2-デヒドロゲナーゼを発現する乳酸菌を使用する事ができる。
【0015】
本発明の乳酸菌発酵に用いる培地には、酵母エキスを添加する。使用する酵母エキスは、グルタミン酸を5%以上含有するものを用いる。好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上のグルタミン酸を含有する酵母エキスを用いる。培地に添加する当該酵母エキスの含量は、乳酸菌発酵に通常用いる酵母エキスと同様の添加量でよく、任意に調整できる。このような酵母エキスは、トルラ酵母、ビール酵母、パン酵母などを原料に製造される。特にトルラ酵母は、酵母臭が少ないため、本発明では、好適である。また、市販のものを用いても良い。市販の酵母エキスとしては、興人ライフサイエンス社製の「アジトップ」、アサヒグループ食品社製「ハイパーミースト」、富士食品工業の「ハイマックスGL」などがある。特に、トルラ酵母から製造される「アジトップ」が、本発明では、適している。
なお、本発明でのグルタミン酸含量は、乾燥粉末状の酵母エキス中の遊離グルタミン酸をいい、常法に従いアミノ酸分析計L8800(HITACHI製)により測定した。
このような、酵母エキスを培地に用いることで、本発明の乳酸発酵組成物中に、グルタミン酸ナトリウムを含む組成物を得ることができる。本発明の乳酸発酵組成物中のグルタミン酸ナトリウム含量は、培地への酵母エキス添加量により異なるが、本願実施例のような添加量であれば、2重量%以上の含量とすることができる。
【0016】
前段の乳酸菌を発酵させて培地組成として前段の酵母エキス以外に、フルクトースを用いる。また、フルクトースとグルコースを併用することもできる。また、これらを含有する液糖類を用いても良い。
【0017】
本発明の組成物を発酵製造するには、さらに、塩化マグネシウムを添加する。にがりを添加しても良い。その他、乳酸菌発酵に必要な、窒素源、炭素源、ビタミン類など、通常の乳酸菌発酵の際に、培地に添加される成分を添加してもよい。
【0018】
前述の培地組成物を乳酸菌発酵に一般的に用いる手法で混合する。例えば、100-150g/Lのフルクトース、10-50g/Lの酵母エキスを混合し加熱殺菌する。乳酸菌発酵に必要なミネラルを添加する場合には、0.05-5ml/Lのにがりをさらに混合しても良い。冷却後、乳酸菌を培養する。培地成分として、10-60g/Lのグルコースを併用する事もできる。
【0019】
本発明での培養条件は、乳酸菌発酵で一般的に採用される温度、pHで可能である。使用する菌種によりことなるが、一般的には、20℃~40℃であり、好ましくは、25~30℃で培養する。さらに、半嫌気的条件下が好ましい。培養時は有機酸産生に伴う培養液のpH低下が生じるため、培養時のpHを乳酸菌の生育に好ましいpHに保つよう、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどで調整する。例えば、水酸化ナトリウムを適宜添加し、例えば、pH5.0~6.0になるよう培地pHを調整する。
【0020】
本発明の乳酸菌発酵組成物は、培養上清を回収する事により得る事ができる。具体的には、培養終了後、必要に応じて培地に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いて適宜pH調整を行う。加熱処理を行った後に、遠心分離やフィルター濾過により、菌体を除去し、培養上清を回収することで、本発明品を得ることができる。回収した培養上清はそのままでも良いが、濃縮乾燥させる事も可能である。乾燥方法は、特に限定なく採用でき、スプレードライ法、ドラムドライ法、凍結乾燥法など、公知の乾燥方法を採用できる。
【0021】
本発明の組成物は、このようにして製造できるが、各成分の含量は、澱粉類、デキストリンなどの賦形剤を添加して適宜調整することもできる。
【0022】
本発明における液状調味料とは、ドレッシング、ポン酢、たれ、つゆ等、飲食品に用いられる液状の調味料を指すものである。液状調味料は一般に入手可能なものを用いることができ、ドレッシングが好ましく、ノンオイルタイプのドレッシングがさらに好ましい。液状調味料は、本発明の効果を阻害しなければ、飲食品に通常使用される香料、色素、酸味料等を含んでいてもよい。
【0023】
本発明における液状調味料の味質とは、喫食時に感じられる先味、中味および後味を指すものである。液状調味料の味質はパネルによる官能評価によって判断することができる。
【0024】
本発明の液状調味料の味質改善は、旨味を付与することなく先味または中味に厚みを付与すること、ならびに後味のキレを良くすることを指すものであり、前述までの乳酸菌発酵組成物を液状調味料に添加することで、本発明の効果を発揮することができる。すなわち、液状調味料に前述までの乳酸菌発酵組成物を添加することで、液状調味料の先味または中味に厚みを付与し、後味のキレを良くすることができ、液状調味料を使用した飲食品の風味を引き立てることができる。
【0025】
本発明の組成物を液状調味料に添加する量は、液状調味料100重量部に対して0.01~1重量部が好ましく、0.02~0.06重量部がより好ましい。
【0026】
本発明の組成物を液状調味料に添加する方法は、任意であり、本願発明の組成物が飲食品にむらなく混合できればよく、他の素材を添加する際に添加するなど特に制限はない。
本発明の液状調味料の味質改善方法は、前段までの液状調味料に本願の組成物を添加することである。添加量、添加方法は前段の記載のとおりである。
【実施例0027】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(組成物の製造)
グルコース60g/L、フルクトース150g/L、「アジトップ(三菱商事ライフサイエンス社)」50g/L、混合殺菌し培地を作製した。乳酸菌(ロイコノストック シュードメセンテロイデス(ATC12291))はMRS液体培地にて37℃で1日の前培養を実施した。2L容量のジャーファーメンターに前記培地1Lと前培養した乳酸菌10mLを入れ、30℃で培養した。エアレーションは実施せず、撹拌回転数70rpmの半嫌気的条件とした。培養中は水酸化ナトリウムで培養液がpH5.3になるようにコントロールし、96時間培養した。培養終了後に水酸化ナトリウムでpH6.0に調整し、90℃で10分の加熱実施を行った後に8,000rpmで10分の遠心分離を実施し、菌体を分離して培養上清を回収した。回収した上清をエバポレーターにて濃縮し、Brix70%の組成物を取得し、実施例1のサンプルとした。当該サンプル中のマンニトール含量は50重量%であった。マンニトールの分析にはHPLCを用い、測定条件は、検出器:RI、移動相:超純水、カラム:SUGAR SP0810、カラム温度:80℃、流速:0.7mL/minとした。得られたサンプルにデキストリンを添加し、マンニトール含量が25重量%となるよう調整し、なおデキストリン添加後のグルタミン酸ナトリウム含量は、2.7重量%であった。以下の試験を行った。
【0029】
(液状調味料の調製)
表1に記載の組成に従い、ノンオイルの液状調味料Aを調製した。液状調味料Aを対照例1の試料とした。
また、液状調味料A100gに前記乳酸発酵調味料0.03gを添加することで実施例1の試料を調製した。このほか、液状調味料A100gに核酸高含有タイプの酵母エキス「アロマイルド」(三菱商事ライフサイエンス社)を0.05g添加することで比較例1の試料を調製した。さらに、液状調味料A100gにグルタミン酸ナトリウム高含有タイプの酵母エキス「アジトップ」(三菱商事ライフサイエンス社)を0.05g添加することで比較例2の試料を調製した。
なお、酵母エキス「アロマイルド」は、乳酸を1.38重量%、酢酸を1.54重量%、グルタミン酸ナトリウムを6.67重量%含む酵母エキスであった。また、酵母エキス「アジトップ」は、乳酸を0.62重量%、酢酸を0.34重量%、グルタミン酸ナトリウムを25.3重量%含む酵母エキスであった。いずれの酵母エキスもマンニトールは定量限界未満であった。
【0030】
【0031】
(評価方法)
対照例1、実施例1、比較例1または比較例2の液状調味料の味質について官能評価を実施した。
【0032】
(結果)
結果を表2に示した。実施例1は比較例1および2と比較してうま味を付与しないことが明らかとなった。また、先味から中味にかけての厚みが増し、後味のキレが良くなることが明らかとなった。
【0033】
【0034】
以上の結果から、本発明により液状調味料の味質を改善できることが明らかとなった。