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特開2024-134855コンクリート製品を製造するためのシステムと方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134855
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】コンクリート製品を製造するためのシステムと方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 40/02 20060101AFI20240927BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20240927BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B40/02
C04B28/04
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045271
(22)【出願日】2023-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.学会予稿集における公開 発行者 公益社団法人 日本コンクリート工学会 刊行物名 コンクリート工学年次論文集、第44巻、第1号、第436-441頁、2022年 掲載日 令和4年7月13日 2.学会における発表 学会名 コンクリート工学年次大会 開催日 令和4年7月13日 3.刊行物における公開 発行者 株式会社フジタ 技術センター 刊行物名 フジタ技術研究報告 第58号、第13-18頁 掲載日 令和4年12月7日 4.ウェブサイトにおける公開 掲載年月日 令和4年12月2日 掲載アドレス https://www.fujita.co.jp/tech_center/img/up/2022/2022_03g.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】サンジェイ パリーク
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G112PE05
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】コンクリートに効率よく二酸化炭素を固定することで高い強度を有するコンクリート製品を効率良く製造するためのシステムと方法を提供すること。
【解決手段】システムは、チャンバ、真空ポンプ、および二酸化炭素供給源を備え、さらに第1のセンサと第2のセンサの少なくとも一方を備える。チャンバは、コンクリートを収容するように構成される。真空ポンプと二酸化炭素供給源は、チャンバに接続される。第1のセンサと第2のセンサは、それぞれチャンバ内の温度と湿度を測定するように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを収容するチャンバ、
前記チャンバに接続される真空ポンプ、
前記チャンバに接続される二酸化炭素供給源、ならびに
前記チャンバ内の温度を測定する第1のセンサおよび前記チャンバ内の湿度を測定する第2のセンサの少なくとも一方を備える、コンクリート製品を製造するためのシステム。
【請求項2】
前記コンクリートの質量を測定する第3のセンサを前記チャンバ内にさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記チャンバ内に配置され、前記第1のセンサと前記第2のセンサの少なくとも一方に電力を供給するためのバッテリをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記チャンバ内に配置され、前記第3のセンサに電力を供給するためのバッテリをさらに備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1のセンサと前記第2のセンサの両方を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
コンクリートを収容するチャンバ内を減圧すること、
前記チャンバ内が減圧された状態において、前記チャンバ内の温度と湿度の少なくとも一方をモニタすること、
前記減圧を停止し、前記チャンバ内に二酸化炭素含有ガスを供給すること、ならびに
前記二酸化炭素含有ガスを供給したのち、前記コンクリートの質量、前記温度、および前記湿度の少なくとも一つをモニタすることを含む、コンクリート製品の製造方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素含有ガスは、前記チャンバ内の圧力が0.10MPa以上2.0MPa以下となるように供給される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記減圧は、前記温度または前記湿度が定常状態に達した時に停止される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記質量、前記温度、および前記湿度の少なくとも一つが定常状態に達した時に前記二酸化炭素含有ガスの供給が停止される、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、コンクリート製品を製造するためのシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの強度を増大させる方法として、二酸化炭素とコンクリートの反応(炭酸化)が知られている。この方法では、例えば、レディーミクストコンクリートを硬化させて得られるコンクリートが養生槽内に配置され、大気よりも高い濃度の二酸化炭素を含むガスが養生槽に導入される(例えば、特許文献1参照)。これにより、コンクリートに二酸化炭素が炭酸カルシウムなどとして固定化されるとともに、コンクリートの強度を増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-149456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、コンクリートに効率よく二酸化炭素を固定することで高い強度を有するコンクリート製品を効率良く製造するためのシステムと方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、コンクリート製品を製造するためのシステムである。このシステムは、チャンバ、真空ポンプ、および二酸化炭素供給源を備え、さらに第1のセンサと第2のセンサの少なくとも一方を備える。チャンバは、コンクリートを収容するように構成される。真空ポンプと二酸化炭素供給源は、チャンバに接続される。第1のセンサと第2のセンサは、それぞれチャンバ内の温度と湿度を測定するように構成される。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、コンクリート製品の製造方法である。この製造方法は、コンクリートを収容するチャンバ内を減圧すること、チャンバ内が減圧された状態においてチャンバ内の温度と湿度の少なくとも一方をモニタすること、減圧を停止し、チャンバ内に二酸化炭素含有ガスを供給すること、ならびに、二酸化炭素含有ガスを供給したのち、コンクリートの質量、チャンバ内の温度、およびチャンバ内の湿度の少なくとも一つをモニタすることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品を製造するためのシステムの模式図。
図2】本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品を製造するための方法の一例を示すフローチャート。
図3】実施例で作製した一次コンクリートの模式的斜視図。
図4A】実施例における一次コンクリートの質量変化を示すグラフ。
図4B】実施例におけるチャンバ内の温度と湿度の変化を示すグラフ。
図5A】実施例における一次コンクリートの質量変化を示すグラフ。
図5B】実施例の一次コンクリートの炭酸化における質量増大率に対して脱気時間と炭酸化時間が及ぼす影響を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0010】
本明細書では、コンクリート、モルタル、およびポーラスコンクリートとは、いずれも原料の一つであるセメントが水と反応して生成する水和物が硬化し、流動性を示さない硬化物を指す。コンクリートは直径(または最大長)が0mmを超え5mm以下の細骨材および直径が5mmを超える(例えば、5mmよりも大きく20mm以下、または10mm以上20mm以下)粗骨材を含むのに対し、モルタルは細骨材を含むものの、粗骨材を含まないまたは粗骨材の量が細骨材の量に対して10質量%以下または5質量%以下の硬化物を指す。ポーラスコンクリートは、モルタルとは対照的に、砂利などの比較的大きな粗骨材を含むものの、細骨材を含まないまたは細骨材の量が粗骨材の量に対して10質量%以下または5質量%以下の硬化物を指す。このため、コンクリートやモルタルと比較し、ポーラスコンクリートは内部に空隙が多い。一方、セメントと水を含む混合物が完全に硬化せずに流動性を有する状態をレディーミクストコンクリート(生コンクリートとも呼ばれる)と呼ぶ。レディーミクストコンクリートが硬化すると、粗骨材や細骨材の量に応じてコンクリート、モルタル、またはポーラスコンクリートを与える。レディーミクストコンクリートは、セメント、水、および骨材の他、AE剤(気泡分散剤)流動化剤、増粘剤、急結剤などの添加剤を含んでもよい。
【0011】
本明細書において、コンクリート製品とは、炭酸化されたコンクリート、モルタル、またはポーラスコンクリートを含み、かつ、質量が測定可能な動産を指す。コンクリート製品は、鉄筋を含んでもよい。コンクリート製品の形状や大きさには制約はなく、用途に応じて適宜決定される。コンクリート製品の一例はコンクリートブロックである。コンクリートブロックはレディーミクストコンクリートを硬化させることによって製造されるため、無焼成レンガの一種と言える。コンクリート製品は、例えば道路や法面に敷設されるコンクリートブロックでもよく、壁や塀に利用されるコンクリートレンガでもよい。あるいは、縁石、各種設備のスライドブロック、アンカーブロック、セーフティーブロック、パーキングブロック、消波ブロックなどに利用されるコンクリートブロックでもよい。
【0012】
以下、本発明の実施形態の一つに係る、コンクリート製品の製造するためのシステムと方法を説明する。
【0013】
1.コンクリート製品を製造するためのシステム
図1に、本発明の実施形態の一つに係るコンクリート製品を製造するためのシステム100の模式図を示す。図1に示すように、システム100は、耐圧容器110aと耐圧蓋110bを含むチャンバ110、真空ポンプ130、および二酸化炭素供給源140を備える。システム100はさらに、チャンバ110内の温度および湿度をそれぞれ測定・モニタするための第1のセンサ120と第2のセンサ122の少なくとも一方をチャンバ110内に備える。システム100はさらに、後述するコンクリート(一次コンクリート)150の質量を測定・モニタするための第3のセンサ124や、第1のセンサ120、第2のセンサ122、および第3のセンサ124の少なくとも一つに電力を供給するためのバッテリ126などをチャンバ110内に備えることができる。
【0014】
(1)チャンバ
チャンバ110は、内部に一次コンクリート150を収容可能なように構成される。したがって、チャンバ110の形状や大きさは、一次コンクリート150の形状や大きさを考慮して適宜設計すればよい。耐圧容器110aと耐圧蓋110bは、例えばアルミニウムや鉄、チタンなどの金属またはその合金などを含み、チャンバ110内が減圧または加圧された時に変形しないような強度を有するように構成される。例えば、耐圧容器110aと耐圧蓋110bは、チャンバ110内の圧力が1.0×10-5MPa以上5.0MPa以下の状態においても変形しないように構成される。耐圧容器110aと耐圧蓋110bは、互いに分離可能でもよく、あるいはヒンジなどで連結されていてもよい。耐圧容器110aと耐圧蓋110bは、ボルト(例えば蝶ボルト)114とナット116などの任意の固定手段によって互いに固定することができ、これにより、内部の気密性を維持することができる。耐圧蓋110bには開放バルブ112が設けられ、開放バルブ112を操作することで、チャンバ110内を気密状態に維持する、あるいはチャンバ110内の圧力を外部圧力まで戻すことができる。
【0015】
チャンバ110には、任意の構成として内部の圧力を測定するためのゲージ118を備えてもよい。ゲージ118は、耐圧蓋110bまたは耐圧容器110aに設けられる。
【0016】
(2)真空ポンプ
真空ポンプ130は、チャンバ110に接続され、チャンバ110内を減圧するように構成される。真空ポンプは、耐圧ホース132とバルブ134を介し、耐圧蓋110bまたは耐圧容器110aに接続すればよい。真空ポンプ130の構造や形式に制限はなく、例えばロータリーオイルポンプ(回転翼型オイルポンプ、カム型オイルポンプ、揺動ピストン型オイルポンプなど)やドライポンプ(ルーツ型ドライポンプ、クロー型ドライポンプ、スクリュー型ドライポンプ、スクロール型ドライポンプなど)などを用いることができる。真空ポンプ130の能力も、チャンバ110の大きさを考慮して適宜選択すればよい。
【0017】
(3)二酸化炭素供給源
二酸化炭素供給源140は、大気中の二酸化炭素濃度(約420ppm)よりも高い濃度で二酸化炭素を含むガス(二酸化炭素含有ガス)をチャンバ110内に供給するために用いられる。二酸化炭素含有ガスの二酸化炭素濃度は、0.1体積%以上100体積%以下、1体積%以上100体積%以下、または5体積%以上50体積%以下でもよい。チャンバ110内には、大気圧以上または大気圧よりも高い圧力で二酸化炭素含有ガスが供給される。具体的には、チャンバ110内の圧力が1気圧(0.10)MPa以上2.0MPa以下または0.5MPa以上1.5MPa以下となるように二酸化炭素含有ガスが供給される。このため、例えば二酸化炭素供給源140が高圧の二酸化炭素を含むボンベまたはタンクの場合、レギュレータ142を用いて圧力調整された二酸化炭素含有ガスをバルブ144介してチャンバ110に供給すればよい。
【0018】
システム100の付近に二酸化炭素を大量に排出する施設(化学プラント、ゴミ焼却施設、火力発電所、その他各種工場など)が既設されている場合、これらの施設を二酸化炭素供給源140として利用してもよい。この場合、これらの施設で排出されるガス、または排出ガスに対して脱塵、脱硫、脱硝などを行うことで得られる精製された二酸化炭素を加圧して利用することができる。これにより、二酸化炭素供給源140を運搬するためのコストが削減され、運搬に伴う二酸化炭素の排出が防止される。
(4)センサ
温度をモニタする第1のセンサ120としては、例えば熱電対、サーミスタ、またはバイメタルを利用した温度計や、赤外線センサなどを用いることができる。湿度をモニタする第2のセンサ122は、電気抵抗式または静電容量式の湿度計から選択すればよい。一次コンクリート150の質量をモニタする第3のセンサ124は質量センサ(秤)であり、光電子式、電磁式、ロードセル式(電気抵抗線式)、あるいは音叉式の質量センサから選択すればよい。各センサは、駆動のためのバッテリを内蔵してもよく、あるいはバッテリ126から電力の供給を受けてもよい。図示しないが、各センサは、チャンバ110外に設けられる制御装置と無線または有線で接続され、測定したデータを制御装置に送信するように構成される。
【0019】
(5)バッテリ
バッテリ126は、上述したセンサの少なくとも一つに電力を供給するように構成される二次バッテリである。例えば、バッテリ126は、鉛電池、ニッケル・カドミウム電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ナトリウムイオン電池などから選択することができる。
【0020】
2.コンクリート製品の製造方法
システム100を用いるコンクリート製品の製造方法の一例を示すフローチャートを図2に示す。コンクリート製品は、まず、セメントを原料として用いてレディーミクストコンクリートを調製し、コンクリート製品の形状を決める型枠に投入・硬化する。セメントの種類に制約はなく、例えば普通ポルトランドセメント、酸化鉄を含む白色ポルトランドセメント、アルミナを含むアルミナセメント、鋼材の製造工程で副生する高炉スラグが添加された高炉セメント、石炭の燃焼時に副生するフライアッシュ(石炭灰)が添加されたフライアッシュセメント、焼却灰や汚泥などの廃棄物を含むエコセメントなどを用いることができる。レディーミクストコンクリートの調製時には、骨材を混合してもよい。骨材としては、砂、砂利、軽石などを用いてもよく、あるいは、廃棄されたコンクリートを破砕して得られる再生砕石を用いてもよい。セメントと骨材の質量比も、得られるコンクリート製品に求められる特性を考慮して適宜設定すればよく、例えば、セメントに対して3倍以上10倍以下の質量の骨材を使用すればよい。水セメント比にも制約はないが、10%から100%の範囲から選択すればよい。また、レディーミクストコンクリートの投入前に、型枠内に鉄筋を配置してもよい。鉄筋の量や配置などは、コンクリート製品の形状、用途、要求される強度などを考慮して決定すればよい。これにより、一次コンクリート150が得られる。一次コンクリート150は、完全に硬化させてもよく、流動性を有する状態でもよい。
【0021】
その後、一次コンクリート150をチャンバ110内に配置する。この時、型枠に入った状態で一次コンクリート150を配置してもよく、あるいは型枠が取り除かれた一次コンクリートを配位置してもよい。センサとして一次コンクリート150の質量をモニタする第3のセンサ124を用いる場合、第3のセンサ124が一次コンクリート150の質量を測定可能なように一次コンクリート150を配置する。この後、耐圧蓋110bを閉じ、開放バルブ112を閉じ、チャンバ110を密閉する。
【0022】
この後、一次コンクリート150の脱気を行う。具体的には、真空ポンプ130を用いてチャンバ110内を減圧する。減圧は、チャンバ110内の圧力が、例えば1.0×10-5MPa以上1.0×10-2MPa以下または1.0×10-4MPa以上1.0×10-3MPa以下の圧力となるように行えばよい。これにより、チャンバ110内のガスとともに、一次コンクリート150の表面に吸着した水やガス、あるいは一次コンクリート150の細孔内に存在する水やガスを取り除くことができる。
【0023】
減圧時間は、後述する一次コンクリート150の炭酸化を促進し、かつ、阻害しないように行うことが好ましい。このため、上述した第1のセンサ120と第2のセンサ122の少なくとも一方を用いて減圧時間を調整する。上述したように、脱気によって一次コンクリート150から水やガスが脱離するため、脱気の開始とともにチャンバ110の湿度が徐々に低下する。また、水の気化熱により、チャンバ110の温度も徐々に低下する。脱気が進行するに伴い、水やガスの脱離速度は徐々に低下するため、湿度と温度は定常状態になる。本コンクリート製品の製造方法では、この特徴を利用する。すなわち、チャンバ110内の温度と湿度の少なくとも一方をモニタし、温度および/または湿度が定常状態に達するまで脱気する。ここで、定常状態とは、温度または湿度の変化率が0となる、あるいは極めて小さくなる状態であり、例えば、変化率が1時間あたり0.0%以上5.0%以下、0.5%以上3.0%以下、または1%以上2.0%以下となった状態である。このように脱気を行うことで、実施例で示すように、一次コンクリート150の含水率が最適化され、その結果、速やかな炭酸化を行うことができる。
【0024】
温度または湿度が定常状態に達した後、バルブ134を閉じ、二酸化炭素供給源140から二酸化炭素含有ガスをチャンバ110内に供給する。この時、チャンバ110内の圧力が大気圧以上または大気圧よりも高くなるように二酸化炭素含有ガスが供給される。具体的には、チャンバ110内の圧力が1気圧(0.10)MPa以上2.0MPa以下または0.5MPa以上1.5MPa以下で維持されるように二酸化炭素含有ガスが供給される。これにより、一次コンクリート150が高濃度の二酸化炭素と接触し、炭酸化が速やかに進行する。
【0025】
コンクリートが二酸化炭素と反応すると、主にセメント水和物に含まれる水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムを与える。例えばセメントとして普通ポルトランドセメントを用いる場合、得られる一次コンクリートの炭酸化には、以下の式で表される反応が含まれることが知られている。ここで、HはHO、CHはCa(OH)、CはCaO、SはSiO,AFtは3CaO・[xAl・(1-x)Fe]・3CaSO・32HO、AFmは3CaO・[xAl・(1-x)Fe]・CaSO・12HOである。mとnは水和反応の条件に依存する定数であり、例えばmとnはそれぞれ1.75、4.0である。xは0.5または1である。
【化1】
【0026】
このため、炭酸化によって一次コンクリート150の質量が増大するとともに水が生成する。また、これらの反応は発熱反応である。このため、炭酸化の進行に伴って一次コンクリート150の質量が増大するだけでなく、チャンバ110内の温度と湿度も増大する。したがって、チャンバ110内に設けられる第1のセンサ120、第2のセンサ122、および第3のセンサ124から得られるデータを利用することで、炭酸化の進行状況をモニタすることができる。
【0027】
炭酸化時間、すなわち、二酸化炭素含有ガスと一次コンクリート150の接触時間は、一次コンクリート150の質量、およびチャンバ110内の温度と湿度という特性の少なくとも一つが所定値に達するまでの時間とすればよい。例えば、所定値として、全てのコンクリートが炭酸化した時の特性値を採用することができる。炭酸化のメカニズムは上記反応式から理解されるので、炭酸カルシウムの総生成量や水の総生成量、総発熱量を計算することができる。よって、全てのコンクリートが炭酸化した時の一次コンクリート150の質量のみならず、チャンバ110の体積に基づいてチャンバ110内の温度や湿度も計算可能である。この時の特性値を所定値と採用することで、一時コンクリートに含まれるコンクリートの全てを炭酸化することが可能である。
【0028】
あるいは、所定値として、一部のコンクリートが炭酸化した時の特性値を採用してもよい。例えば、一次コンクリートに鉄筋が含まれる場合、炭酸化によってコンクリートは中性化するため、炭酸化は鉄筋の腐食の原因となる。炭酸化は一次コンクリートの表面から均一に進行するため、一次コンクリートの一部、すなわち、かぶり部分と呼ばれる一次コンクリートの表面から鉄筋までのみを炭酸化することが好ましい。かぶり部分の体積は一次コンクリートの構造から計算できるので、かぶり部分の炭酸化が完了した時点における質量変化量、発熱量、水生成量、およびこれらから導出される一次コンクリート150の質量やチャンバ110内の温度や湿度も上記反応式から計算可能である。したがって、上記特性をモニタすることで、かぶり部分のみの炭酸化が可能である。
【0029】
センサで取得される特性値が所定値に達するまで二酸化炭素含有ガスの導入が行われる。一方、特性値が所定値に達すると、バルブ144を閉じ、開放バルブ112を開放し、チャンバ110内の圧力を外部圧力(大気圧)へ戻す。これにより、コンクリート製品が得られる。
【0030】
上述したように、本製造方法では、チャンバ110内に設けられる温度と湿度をそれぞれモニタする第1のセンサ120と第2のセンサ122の少なくとも一方を用いることで、一次コンクリート150の脱気をモニタする。その結果、実施例で示すように、脱気を管理して最適な脱気時間を得ることができるだけでなく、高効率な炭酸化が可能となる。また、炭酸化の程度を測定するためには一次コンクリート150の破壊が要求されるが、第1のセンサ120、第2のセンサ122、および第3のセンサ124の少なくとも一つを用いることで、一次コンクリート150の破壊を伴うことなく炭酸化の進行状況を速やかに把握することができる。これらの特徴は、二酸化炭素含有ガスの効率的な使用を可能にするだけでなく、高強度の、または強度が制御されたコンクリート製品を低コストで製造することに寄与する。さらに、二酸化炭素は炭酸カルシウムとしてコンクリート製品に固定されるため、本システム100とこれを用いる本製造方法は、大気中の二酸化炭素を固定するための有力なツールとして利用することも可能である。
【実施例0031】
1.一次コンクリートの作製
セメント(C)として普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、密度3.16g/cm)を、細骨材(S1、S2)としてそれぞれ密度2.64g/cmの砕砂(白河市産)、2.59g/cmの砕砂(須賀川市産)を、粗骨材(G)として2.73g/cmの砕石(いわき市産)を、添加剤(AD)としてAE減水剤(日本シーカ株式会社製)を用いた。これらと水(W)を表1に示す組成と条件で混合し、レディーミクストコンクリートを調製した。その後、100mm×100mm×400mmの容量を有する型枠に直径9mm長さ400mmのステンレス製のコア材を設置し、レディーミクストコンクリートを型枠に打設した。24時間経過後、脱型し、コア材を取り除くことで、図3に模式的に示す一次コンクリートを作製した。
【0032】
【表1】
【0033】
2.一次コンクリートの脱気と炭酸化
チャンバ内の温度と湿度をモニタするためのセンサとして、温度湿度センサ(TandD社製、型番TR-72nW)をチャンバ内に設置した。一次コンクリートの質量をモニタするセンサとしてのデジタルスケール(A&D社製、型番EW-12Ki)、およびデジタルスケールに電源を供給するバッテリ(Jackery社製、型番1500)をステンレス製のチャンバ(容量約70L)に設置し、デジタルスケール上に一次コンクリートを配置した。その後、チャンバを密閉し、真空ポンプを用いて脱気を行なった。脱気時のチャンバ内の圧力は0.035~0.075MPa(35×10~75×10Pa)であり、質量変化、温度変化、および湿度変化をモニタした。所定時間脱気したのち、濃度100%の二酸化炭素をボンベから供給した。チャンバ内における二酸化炭素の圧力は、0.5MPaまたは1.0MPaであった。
【0034】
3.結果と考察
3時間の脱気を行い、その後6時間炭酸化を行なった時の一次コンクリートの質量変化を図4Aに、チャンバ内の温度と湿度の変化を図4Bに示す。図4Aに示すように、脱気の間、質量変化はほとんど観測されない。これは、脱気によって脱離する成分の質量は一次コンクリートの質量と比較すると極めて小さいためである。一方脱気が始まると、チャンバ内の湿度は急激に低下し、その後、変化率は低下する。同様に、温度も脱気開始とともに低下し、その後、変化率は徐々に低下する。これらの結果は、チャンバ内の湿度および温度の少なくとも一方をモニタすることで、脱気の進行程度を把握できることを示唆している。
【0035】
6時間の脱気を行い、その後、二酸化炭素の圧力を0.5MPaまたは1.0MPaとして6時間炭酸化を行なった時の一次コンクリートの質量変化を図5Aに示す。この図から理解されるように、いずれの場合でも二酸化炭素の導入後、一次コンクリートの質量は速やかに増大する。このことは、炭酸化が急速に進行していることを意味する。また、二酸化炭素の圧力が高いほど炭酸化速度が大きいことが理解される。さらに、炭酸化が開始すると、チャンバ内の温度と湿度も増大することが図4B図4Bから確認される。これは、既に説明したように、炭酸化は発熱反応であり、その際に水が生成するためである。以上の結果は、一次コンクリートの質量、チャンバ内の温度、およびチャンバ内の湿度の少なくとも一つをモニタすることで、炭酸化の程度を把握可能であることを示している。
【0036】
図5Bは、脱気時間、二酸化炭素の圧力、および炭酸化時間を変化させた場合の一次コンクリートの質量変化量を示すグラフである。脱気時間は、0時間、3時間、6時間、または24時間に変化させ、二酸化炭素含有ガスの圧力は0.5MPaまたは1.0MPaとし、炭酸化は3時間、6時間、または9時間に設定した。この図から理解されるように、脱気を行わない場合(脱気時間0時間)、質量変化率は小さい。これに対し、脱気時間が3時間、6時間と長くなるに従って炭酸化による質量増加率が増大する。この結果は、脱気がその後の炭酸化に極めて有効であることを示している。しかしながら、脱気時間が24時間では、質量変化は比較的小さく、6時間脱気した場合よりも低くなることが確認された。理由は不明であるが、この結果から、必要以上に長時間の脱気は炭酸化に悪影響を及ぼすことが示唆される。図4Bに示すように、チャンバの温度変化と湿度変化は脱気開始から3時間から6時間程度で定常状態に達することから、効率の高い炭酸化を実現するためには、チャンバ内の温度または湿度が定常状態に到達した時に脱気を停止し、二酸化炭素含有ガスを供給することが好ましいと言える。
【0037】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0038】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0039】
100:システム、110:チャンバ、110a:耐圧容器、110b:耐圧蓋、112:開放バルブ、114:ボルト、116:ナット、118:ゲージ、120:第1のセンサ、122:第2のセンサ、124:第3のセンサ、126:バッテリ、130:真空ポンプ、132:耐圧ホース、134:バルブ、140:二酸化炭素供給源、142:レギュレータ、144:バルブ、150:一次コンクリート
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B