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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013486
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】シート保持体および成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20240125BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
B29C43/34
B29K101:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115603
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】595014516
【氏名又は名称】株式会社アーク
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 豊
(72)【発明者】
【氏名】新井 俊信
【テーマコード(参考)】
4F204
【Fターム(参考)】
4F204AC03
4F204AD16
4F204AJ08
4F204AM32
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF36
4F204FJ14
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ40
(57)【要約】
【課題】シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、しわを生じにくくするシート保持体を提供すること。
【解決手段】対向する2つの型の型締めにより成形されるシート状樹脂を保持するシート保持体であって、前記シート状樹脂を、前記2つの型の間で保持する保持部材と、前記保持されたシート状樹脂に張力を付与する張力付与部材と、を有し、前記保持部材は、型締め時の前記シート状樹脂の変形に応じて移動して、前記張力を付与されたシート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、シート保持体。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの型の型締めにより成形されるシート状樹脂を保持するシート保持体であって、
前記シート状樹脂を、前記2つの型の間で保持する保持部材と、
前記保持されたシート状樹脂に張力を付与する張力付与部材と、を有し、
前記保持部材は、型締め時の前記シート状樹脂の変形に応じて移動して、前記張力を付与されたシート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、
シート保持体。
【請求項2】
前記張力付与部材は、前記保持部材を前記シート状樹脂の端部方向に付勢して、前記送り込まれるシート状樹脂に前記張力を付与する、請求項1に記載のシート保持体。
【請求項3】
前記保持部材は、前記シート状樹脂の端部を着脱可能に把持する、請求項1または2に記載のシート保持体。
【請求項4】
前記保持部材は、棒状部材の周囲を回動して、前記シート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、請求項1または2に記載のシート保持体。
【請求項5】
前記保持部材は、前記シート状樹脂の内側方向にスライドして、前記シート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、請求項1または2に記載のシート保持体。
【請求項6】
対向する2つの型と、
前記2つの型の間で樹脂を保持する請求項1または2に記載のシート保持体と、
を有する成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート保持体および成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状樹脂を金型により加熱および加圧して変形させ、三次元形状に成形する方法が公知である。
【0003】
上記成形方法によるシート状樹脂の成形時に、シート状樹脂を保持して位置固定する技術が、知られている。たとえば、特許文献1には、上型のスライドブロックを下型の支持ピンに挿入し、成形するシート状樹脂をこれらで挟んで保持することで、シート状樹脂を金型中央に安定的に保持し、かつ成型時の樹脂の流れによる成形体の変形を抑制できる、と記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、クランプフレームまたは真空によりシート状樹脂を固定することで、滑りや移動を防いで、所望の位置決め状態を維持することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-259821号公報
【特許文献2】特開2018-518403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載のように、シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、シート状樹脂を固定して位置決めする方法が知られている。
【0007】
ところで、シート状樹脂を三次元形状に変形させようとすると、成形体にしわが生じてしまうことがあった。特に、シート状樹脂が配列された長繊維を含むものであるとき、しわの形成が顕著であった。そして、本発明者らの知見によると、特許文献1および特許文献2に記載の方法では、しわの形成を十分には抑制できなかった。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明は、シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、しわを生じにくくする、シート保持体および成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の一態様に関するシート保持体は、以下の[1]~[5]に関する。
[1]対向する2つの型の型締めにより成形されるシート状樹脂を保持するシート保持体であって、
前記シート状樹脂を、前記2つの型の間で保持する保持部材と、
前記保持されたシート状樹脂に張力を付与する張力付与部材と、を有し、
前記保持部材は、型締め時の前記シート状樹脂の変形に応じて移動して、前記張力を付与されたシート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、
シート保持体。
[2] 前記張力付与部材は、前記保持部材を前記シート状樹脂の端部方向に付勢して、前記送り込まれるシート状樹脂に前記張力を付与する、[1]に記載のシート保持体。
[3]前記保持部材は、前記シート状樹脂の端部を着脱可能に把持する、[1]または[2]に記載のシート保持体。
[4]前記保持部材は、棒状部材の周囲を回動して、前記シート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、[1]~「3]のいずれかに記載のシート保持体。
[5]前記保持部材は、シート状樹脂の内側方向にスライドして、前記シート状樹脂を前記2つの型の間に送り込む、[1]~「3]のいずれかに記載のシート保持体。
【0010】
また、上記の課題を解決するための本発明の一態様に関する成形装置は、以下の[6]に関する。
[6]対向する2つの型と、
前記2つの型の間で樹脂を保持する[1]~「5]のいずれかに記載のシート保持体と、
を有する成形装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シート状樹脂を金型により加熱および加圧して三次元形状の成形体を作製する際に、しわを生じにくくする、シート保持体および成形装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の各実施形態で成形しようとする成形体の形状を示す模式的な斜視図である。
図2図2は、第1の実施形態において成形体を作製するために使用する金型の、一部の構成を示す模式的な斜視図である。
図3図3は、第1の実施形態において使用するシート保持体の構成を示す模式図である。
図4図4は、第1の実施形態における金型を用いた成形体の製造方法のフロー図である。
図5図5は、シート状樹脂の端部を対向する把持板に挿通する様子を示す模式図である。
図6図6は、把持板によりシート状樹脂の端部を挟み込み、シート状樹脂を把持する様子を示す模式図である。
図7図7は、回動ハンドルを回動させて、把持部がシート状樹脂を回動軸に巻回して保持する様子を示す模式図である。
図8図8Aは、シート保持体をガイドレールに嵌め込んで予備加熱する様子を示す模式図であり、図8Bは、予備加熱後のシート保持体をガイドレールに沿って移動させて取り出し可能とする様子を示す模式図である。
図9図9は、成形体を成形するときに、シート状樹脂がダイに接触する様子を示す模式図である。
図10図10は、シート状樹脂がダイの形状に変化していき、このときシート状樹脂が両端から内側へと向かう方向に引張られていく様子を示す模式図である。
図11図11は、下型および上型により、シート状樹脂を加熱および加圧して変形させる様子を示す模式図である。
図12図12は、第2の実施形態において使用するシート保持体の構成を示す模式図である。
図13図13は、第2の実施形態において使用するシート保持体の、把持部の部分構成を示す模式図である。
図14図14は、第2の実施形態において、把持部がシート状樹脂を把持する様子を示す模式図である。
図15図15は、シート状樹脂がダイの形状に変化していき、このときシート状樹脂が両端から内側へと向かう方向に引張られていく様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、複数の実施形態を用いて、本発明の実施形態に関する成形装置、および当該成形装置を用いた成形方法について、より詳細に説明する。
【0014】
1.第1の実施形態
1-1.成形体
図1は、本発明の各実施形態で成形しようとする成形体の形状を示す模式的な斜視図である。図1に示す成形体100は、平面視が略長方形である天板部110と、天板部110を挟んだ両側に上記長方形の長辺に沿って設けられた一対のフランジ部120と、天板部110とそれぞれのフランジ部120とを略垂直に接続する壁部130と、を有する、いわゆるハット型の成形体である。成形体100は、天板部110の高さ(フランジ部120から天板部110までの距離)が、上記長方形の長辺方向の一方の端部ではより低くなっており、他方の端部ではより高くなっている。
【0015】
なお、説明の便宜のため、本明細書において、天板部110が有する上記長方形形状の一方から他方へと向かう方向をX方向、X方向に直交し両側のフランジ部120を結ぶ方向をY方向、X方向およびY方向の双方と直行する成形体100の高さ方向をZ方向とする。
【0016】
そして、成形体100は、X方向に連続して配置された、天板部110およびフランジ部120の傾きが異なる第1領域142、第2領域144および第3領域146を有する。第1領域142、第2領域144および第3領域146は、天板部110の傾きがこの順に大きくなる(X方向に沿って、天板部110が成形体100に対してより外側を向くように傾きが変化する)形状となっている。そのため、第1領域142と第2領域144との境界部143、および第2領域144と第3領域146との境界部145は、いずれも成形体100の内側に凸となっている。なお、第1領域142、第2領域144および第3領域146は、フランジ部120の傾きが、対応する天板部110の傾きとは一致していない。そのため、壁部130の高さ(Z方向への高さ)は一定ではなく、特に第2領域144において、壁部130の高さは第1領域142から第3領域146に向かう方向に漸増している。
【0017】
成形体100は、対向する2つの型(下型および上型)の型締め時に成形体100の形状を有するキャビティを形成する金型により作製することができる。具体的には、上記下型および上型でシート状樹脂を挟み込み、加熱および加圧することで、当該シート状樹脂を変形させて、成形体100の形状に成形することができる。
【0018】
1-2.金型
図2は、本実施形態において成形体100を作製するために使用する金型200の、一部の構成を示す模式的な斜視図である。金型200は、シート状樹脂を加熱および加圧して成形するための下型210および上型220(図2は上型220を省略している。)、成形されるシート状樹脂を保持するシート保持体230を有する。
【0019】
下型210は、ダイセット型212に複数のガイドピン212a、複数のディスタンスブロック212b、および成形体100と同一の三次元形状を有するダイ214が配置された構成である。
【0020】
ガイドピン212aは、成形時に、上型220の対応する位置に配置されたガイドピンブッシュに挿入され、下型と上型220とを位置あわせする。ディスタンスブロック212bは、成形時に上型220に当接して、下型210と上型220との高さ合わせをする。ダイ214は、作製しようとする成形体の形状に応じた形状を有しており、ダイセット型212の略中央部に着脱可能に、ダイセット型212の底面からZ方向上方に突出して配置される。本実施形態では、上述した天板部110、フランジ部120および壁部130を有し、かつ天板部110およびフランジ部120の傾きが異なる第1領域142、第2領域144および第3領域146を有する形状のダイ214が、ダイセット型212に配置されている。
【0021】
上型220(図2には不図示)は、下型210のZ方向上方に配置された、下型210に向かう方向(Z方向)に移動可能な対向型である。上型220の下型210側の面には、ダイ214に対応する形状の窪みが形成されている。また、上型220の下型210側の面の、ガイドピン212aと対応する位置には、ガイドピンブッシュ(不図示)が形成されており、型締め時にはガイドピンブッシュが対応するガイドピン212aを受け入れることで、下型210と上型220とが位置あわせされる。
【0022】
シート保持体230は、Y方向両端の把持部232によりシート状樹脂300の両端を保持することにより、シート状樹脂300に張力を付与しながらシート状樹脂300を保持する。シート保持体230は、X方向およびY方向のいずれもダイ214よりも大きい形状を有する、枠形状の部材である。シート保持体230は金型200に着脱可能である。そして、成形を開始する前の時点(以下、単に「初期状態」ともいう。)では、不図示の保持治具によりダイ214のZ方向上方に配置されている。
【0023】
1-3.シート保持体
図3は、本実施形態で使用するシート保持体230の構成を示す模式図である。
【0024】
シート保持体230は、シート状樹脂300の端部を把持する、保持部材としての把持部232と、把持部232に把持されたシート状樹脂300に張力を付与する、張力付与部材としてのバネ部材234と、把持部232に把持されたシート状樹脂300を取り囲む枠体236と、を有する。
【0025】
成形体の製造方法に関する図5図7に示すように、把持部232は、対向する面がいずれも平面状であり、いずれもシート状樹脂300の幅よりも大きい長さを有する、上下一対の把持板232aおよび把持板232bを有する。把持板232aおよび把持板232bは、保持ねじ232cにより上下方向(Z方向)への距離を変更可能である。また、把持板232aおよび把持板232bは、回動ハンドル232dに接続されている。そして、把持板232aおよび把持板232bは、回動ハンドル232dを回動させたときに、棒状部材である回動軸232eの周囲を一体的に回動可能に構成されている。
【0026】
またバネ部材234は、一方の端部が回動ハンドル232dに固定され、他方の端部が枠体236に固定された、引張コイルバネである。
【0027】
1-4.成形体の製造方法
図4は、金型200およびシート保持体230を用いた成形体100の製造方法のフロー図である。図4に示すように、成形体100は、シート状樹脂300をシート保持体230により保持する工程(工程S110)と、上記保持されたシート状樹脂300を予備加熱する工程(工程S120)と、上記予備加熱されたシート状樹脂300を、下型210および上型220により成形する工程(工程S130)と、を有する方法により、製造することができる。
【0028】
1-4-1.シート状樹脂の保持:工程S110
図5図7は、本実施形態においてシート保持体230がシート状樹脂300を保持する様子を示す模式図である。
【0029】
なお、シート状樹脂300の材料は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などの熱可塑性樹脂を広く使用することができる。
【0030】
また、シート状樹脂300は繊維強化樹脂であってもよい。シート状樹脂300が繊維強化樹脂であるときの強化繊維の種類は特に限定されず、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、および金属繊維など広く使用することができる。これらのうち、炭素繊維が好ましい。これらの強化繊維は、短繊維であってもよいし、長繊維であってもよい。本発明者らの知見によると、同じ方向に配向された複数の強化繊維を含むシート状樹脂を三次元形状に成形するときには、賦形の際に強化繊維がヨレてしわが生じやすい。これに対し、本実施形態では、上記強化繊維のヨレによるしわも抑制することができる。上記同じ方向に配向された複数の強化繊維は、一方向のみに配向されていてもよいし、シート状樹脂300に含まれる複数の層ごとに異なる方向に配向されていてもよいし、異なる方向に配向された強化繊維が同じ層の中で編み込まれていてもよい。
【0031】
また、シート状樹脂300は、これら以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
本工程では、図5に示すように、シート状樹脂300の端部を、対向する把持板232aと把持板232bとの間に挿通する。そして、図6に示すように保持ねじ232cをねじ締めして把持板の間隔を閉じることで、把持板232aおよび把持板232bによりシート状樹脂300の端部を挟み込み、シート状樹脂300を把持することができる。
【0033】
この状態で、回動ハンドル232dを外側(シート状樹脂300の端部側、図中Y方向の反対方向)に180°回動させる。このとき、シート状樹脂300を把持した把持板232aおよび把持板232bも、回動軸232eの周囲を外側に回動する。図7は、回動ハンドル232dを回動させた状態を示す模式図である。図7に示すように、保持部材としての把持部232は、シート状樹脂300を回動軸232eに巻回して保持する。
【0034】
このとき、バネ部材234は、回動ハンドル232dの回動により引き延ばされる。そして、回動ハンドル232dが180°回動した図7の状態では、引き延ばされたバネ部材234は、元の形状に戻ろうとする弾性力により、回動ハンドル232dに接続された把持板232aおよび把持板232bを、内側(シート状樹脂300の端部側、図中Y方向)に付勢する。そして、回動軸232eに巻回されたシート状樹脂300は、バネ部材234により端部方向に引き延ばすように付勢され、張力を付与される。このときの張力は、シート状樹脂300がたわまず平面状となる程度であればよい。
【0035】
なお、本実施形態では、シート状樹脂300の他方の端部も、他方の把持部232により回動軸232eに巻回して保持され、他方のバネ部材234により端部方向に付勢されて張力を付与される。
【0036】
1-4-2.シート状樹脂の予備加熱:工程S120
次に、シート保持体230により保持されたシート状樹脂300を予備加熱する(図8Aおよび図8B)。
【0037】
シート状樹脂300の予備加熱は、上記樹脂が十分に軟化する程度に、樹脂種に応じた温度で行えばよい。なお、シート状樹脂300の成形が可能である限りにおいて、本工程による予備加熱を行わなくてもよい。
【0038】
図8Aは、本工程において、シート保持体230を予備加熱炉に配置されたガイドレール810に嵌め込んで予備加熱する様子を示す模式図である。図8Bは、予備加熱後のシート保持体230をガイドレール810に沿って移動させて取り出し可能とする様子を示す模式図である。本実施形態では、シート状樹脂300を保持するシート保持体230を、ガイドレール810に沿って移動させて予備加熱炉の内部に導入し、シート状樹脂300を予備加熱する(図8A)。そして、予備加熱後のシート状樹脂300を保持するシート保持体230を、ガイドレール810に沿って移動させて、予備加熱炉の外部に取り出す(図8B)。このようにして、予備加熱されたシート状樹脂300をより安全に予備加熱炉から取り出すことができる。また、張力を付与したままシート状樹脂300を予備加熱できるので、予備加熱により軟化したシート状樹脂300の変形による成形体100へのしわの発生をより効率的に抑制することができる。
【0039】
1-4-3.シート状樹脂の成形:工程S130
図2図9図11は、本実施形態において、成形体100を成形する様子を示す、模式的な斜視図である。
【0040】
初期状態において、図2に示すように、予備加熱したシート状樹脂300を保持するシート保持体230を、ダイ214のZ方向上方に配置する。
【0041】
その後、上型220を下型210に向けてZ方向下方に移動させる、このとき、シート保持体230も、張力を付与したシート状樹脂300を保持したまま、上型220に押されてZ方向下方に移動する。やがて、図9に示すように、シート状樹脂300の下面(裏面)にダイ214が当接し、図10に示すように、シート状樹脂300がダイ214の形状に変化していく。
【0042】
このとき、図10に示すように、上記三次元形状への変化に伴い、シート状樹脂300は、両端から内側へと向かう方向に引張られていく。この引張により、回動軸232eに巻回して保持されているシート状樹脂300は、回動軸232eへの巻回を解除する方向に巻き戻されていく。このとき、シート状樹脂300の端部を把持する把持板232aおよび把持板232bも、回動軸232eの周囲を、シート状樹脂を保持するときとは逆方向に回動する。また、回動ハンドル232dも、把持板232aおよび把持板232bと一体的に回動する。
【0043】
上記シート状樹脂300の変形に伴う回動の開始直後は、回動ハンドル232dの回動によりバネ部材234は引き伸ばされていく。このとき、シート状樹脂300の変形に伴い回動ハンドル232dが回動する方向と、引き伸ばされたバネ部材234が元の形状に戻ろうとする方向とは、互いに逆向きの方向である。そのため、回動ハンドル232d、把持板232aおよび把持板232bには、回動開始前の保持状態に戻る方向への応力が、バネ部材234から付与される。バネ部材234は、上記応力により、シート状樹脂300を端部方向に引き延ばすように付勢して、シート状樹脂300に張力を付与する。そのため、シート状樹脂300は、張力を付与されたまま巻き戻されていき、下型210と上型220との間に送り込まれていく。
【0044】
把持板232aおよび把持板232bがさらに回動されていき、シート状樹脂300が十分に巻き戻されると、回動ハンドル232dが回動する方向と、引き伸ばされたバネ部材234が元の形状に戻ろうとする方向とが、一致するようになる。このとき、三次元形状への変化に伴う内側への引張と、バネ部材234が元の形状に戻ろうとする引張と、の作用により、より多量のシート状樹脂が、下型210と上型220との間に送り込まれていく。
【0045】
本発明者らの知見によると、成形体100に形成されるしわは、シート状樹脂300を三次元形状に変形するときに、特に垂直方向に変形する部位でシート状樹脂300がしわが生じたり、折れまがったりすることにより生じると考えられる。また、シート状樹脂300が垂直方向に変形する部位では、樹脂が局所的に不足し、当該部位で樹脂が大きく流動することがあり、これによっても成形体100にしわが生じると考えられる。また、シート状樹脂300が繊維強化樹脂であるとき、特には同じ方向に配向された複数の強化繊維を含む繊維強化樹脂であるときには、上記樹脂の大きな流動により強化繊維がヨレたり、折り畳まれたりすることにより、しわが形成されやすくなると考えられる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、シート状樹脂300が変形するとき、変形に応じた量のシート状樹脂300を下型210と上型220との間に送り込む。上記シート状樹脂300の送り込みにより、シート状樹脂300にしわが生じたり、局所的に不足した樹脂が大きく流動したりすることによる、しわの形成が抑制されると考えられる。
【0047】
また、本実施形態では、下型210と上型220との間に送り込まれるシート状樹脂300は、送り込み初期にはバネ部材234により端部方向に引き延ばすように付勢される。これにより、送り込まれるシート状樹脂300がたわむことによる、しわの形成も、生じにくい。一方で、本実施形態では、変形が進んだ後には、より多量のシート状樹脂を下型210と上型220との間に送り込み、シート状樹脂300を十分に三次元形状へと変形させることができる。
【0048】
本実施形態では、これらの作用により、しわの形成を抑制しながら、成形前のシート状樹脂300を三次元形状に変形させることができる。
【0049】
このようにしてシート状樹脂300を変形させつつ、上型220がZ方向下方にさらに移動すると、上型220がディスタンスブロック212bをに当接する。このとき、下型210のガイドピン212aがそれぞれ対応する上型220のガイドピンブッシュに挿入され、下型210と上型220とは位置合わせされる。そして、ダイ214に対応する形状の窪みが形成されている上型220の下型210側の面が、シート状樹脂の上面(表面)に当接する(図11)。この状態で、下型210および上型220により、ダイ214に当接したシート状樹脂300を加熱および加圧してダイ214の形状に変形させる。このときの加熱および加圧の温度は、シート状樹脂がダイ214および下型210側の面の形状により十分に変形する程度であればよい。
【0050】
所定時間の加熱および加圧を行った後、シート状樹脂300を冷却して樹脂を固化させる。その後、上型220を下型210から離れる方向(Z方向上方)に移動させて、成形された成形体100を取り出すことができる。
【0051】
このように、本実施形態では、成形する前の変形量に応じた量のシート状樹脂300を、張力を付与しながら下型210と上型220との間(キャビティ)に送り込むことにより、成形体100へのしわの発生を抑制することができる。
【0052】
2.第2の実施形態
図12は、本発明の別の実施形態に関するシート保持体の構成を示す模式図である。
【0053】
シート保持体430は、シート状樹脂300の端部を把持する、保持部材としての把持部432と、把持部432に把持されたシート状樹脂300に張力を付与する、張力付与部材としてのバネ部材434と、把持部432をスライド可能に保持するスライド台座436と、を有する。スライド台座436は、ダイセット型212に固定されている。
【0054】
図13は、把持部432の部分構成を示す模式図である。図13に示すように、把持部432は、いずれもシート状樹脂300の幅よりも大きい長さを有する、平板状の把持板432aと、中空筒状のパイプ432bと、を有する。把持板432aおよびパイプ432bは、保持ねじ432cにより上下方向(Z方向)への距離を変更可能である。
【0055】
また、図12に示すように、パイプ432bは、スライドブロック432dに両端を保持されており、スライドブロック432dは、スライド台座436上をスライド可能に、スライド台座436にはめ込まれている。なお、スライドブロック432dのパイプ432bを保持する部位には、ワンウェイクラッチが配置されており、保持されたパイプ432bを、シート状樹脂を巻回する方向(図12および図13では、Z方向下方)に回動し、回動された状態で保持可能である。
【0056】
バネ部材434は、一方の端部がスライドブロック432dに固定され、他方の端部がスライド台座436に固定された、引張コイルバネである。バネ部材434は、スライドブロック432dに対して、シート状樹脂300よりも外側となる位置に、シート状樹脂の送り込み方向(図中Y方向)と平行に配置されている。
【0057】
図14は、本実施形態において、把持部432がシート状樹脂300を把持する様子(工程S110)を示す模式図である。図14に示すように、シート状樹脂300の端部を、対向する把持板432aとパイプ432bとの間に挿通する。保持ねじ432cをねじ締めして把持板432aとパイプ432bとの間隔を閉じることで、把持板432aおよびパイプ432bによりシート状樹脂300の端部を挟み込み、シート状樹脂300を把持することができる。
【0058】
この状態で、スライドブロック432dに保持されているパイプ432bを、シート状樹脂300を巻回する方向に90°回動させる。そして、ワンウェイクラッチにより、この回動した状態が維持される。上記回動により、シート状樹脂300は端部方向に引き延ばすように付勢され、張力を付与される。このときの張力は、シート状樹脂300がたわまず平面状となる程度であればよい。なお、このとき、バネ部材434はわずかに引き伸ばされてスライドブロック432dに固定されており、元の形状に戻ろうとする弾性力により、スライドブロック432dを外側に付勢している。シート状樹脂300は、上記バネ部材434によるスライドブロック432dの付勢によっても、端部方向に引き延ばすように付勢され、張力を付与されている。
【0059】
このようにしてシート状樹脂300を保持したシート保持体は、予備加熱炉に配置されたガイドレールに嵌め込んで予備加熱することが可能である(工程S120)。ガイドレールを用いた予備加熱については、第1の実施形態と共通するので、重複する説明を省略する。
【0060】
その後、第1の実施形態と同様に、予備加熱したシート状樹脂300を保持するシート保持体430を、ダイプレート212cのZ方向上方に配置する。そして、上型220を下型210に向けてZ方向下方に移動させる、このとき、シート保持体430も、張力を付与したシート状樹脂300を保持したまま、上型220に押されてZ方向下方に移動する。やがて、シート状樹脂300の下面(裏面)にダイ214が当接し、図15に示すように、シート状樹脂300がダイ214の形状に変化していく。
【0061】
図15に示すように、上記三次元形状への変化に伴い、シート状樹脂300は、両端から内側へと向かう方向に引張られていく。この引張により、シート状樹脂300の端部を把持する把持部432(把持板432aおよびパイプ432b)も内側に引張られ、パイプ432bを保持するスライドブロック432dごと、スライド台座436上を内側方向に移動していく。
【0062】
上記スライドブロック432dの移動により、バネ部材434は引き伸ばされていく。そして、スライドブロック432d、把持板432aおよびパイプ432bには、回動開始前の保持状態に戻る方向(外側)への応力が、バネ部材434から付与される。バネ部材434は、上記応力により、シート状樹脂300を端部方向に引き延ばすように付勢して、シート状樹脂300に張力を付与する。そのため、シート状樹脂300は、張力を付与されたまま巻き戻されていき、下型210と上型220との間に送り込まれていく。
【0063】
このように、本実施形態でも、シート状樹脂300が変形するとき、変形に応じた量のシート状樹脂300を下型210と上型220との間に送り込む。上記シート状樹脂300の送り込みにより、局所的に不足した樹脂が大きく流動することによるしわの形成が抑制されると考えられる。
【0064】
また、本実施形態でも、下型210と上型220との間に送り込まれるシート状樹脂300は、バネ部材434により端部方向に引き延ばすように付勢される。これにより、送り込まれるシート状樹脂300がたわむことによる、しわの形成も、生じにくい。
【0065】
本実施形態でも、しわの形成を抑制しながら、成形前のシート状樹脂300を三次元形状に変形させることができる。
【0066】
3.その他の実施形態
なお、上述の各実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な各実施形態も可能であることは言うまでもない。
【0067】
たとえば、上述の各実施形態では、送り込まれるシート状樹脂に対してバネ部材により張力を付与していたが、張力を付与する手段はバネ部材に限定されることはなく、たとえば電力や、その他の弾性力等によりシート状樹脂の端部方向に保持部材を移動させる機構により、シート状樹脂に張力を付与してもよい。
【0068】
また、上述の各実施形態では、シート状樹脂の端部を保持部材により保持していたが、保持する位置はシート状樹脂の端部に限られず、成形を阻害しない限り、いかなる位置であってもよい。また、上述の各実施形態では、保持部材はシート状樹脂の幅方向全域に接触して保持していたが、幅方向の一部のみ接触する保持部材によりシート状樹脂を保持してもよい。
【0069】
また、上述の各実施形態では、対向する上型と下型とを鉛直方向に型締めする構成について説明したが、型締めの方向は特に限定されず、たとえば水平方向等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、シート状樹脂から三次元形状の成形体を成形するときにしわを生じにくくすることができる。本発明は、より複雑な形状の三次元成形体を精度よく成形可能とし、シート状樹脂から成形した成形体の利用の可能性をさらに広げると期待される。
【符号の説明】
【0071】
100 成形体
110 天板部
120 フランジ部
130 壁部
142 第1領域
143 境界部
144 第2領域
145 境界部
146 第3領域
200 金型
210 下型
212 ダイセット型
212a ガイドピン
212b ディスタンスブロック
212c ダイプレート
214 ダイ
220 上型
230 シート保持体
232 把持部
232a、232b 把持板
232c 保持ねじ
232d 回動ハンドル
232e 回動軸
234 バネ部材
236 枠体
430 シート保持体
432 把持部
432a 把持板
432b パイプ
432c 保持ねじ
432d スライドブロック
434 バネ部材
436 スライド台座
300 シート状樹脂
810 ガイドレール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15