(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134876
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】メンテナンス液及びメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240927BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20240927BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20240927BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240927BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B41J2/165 401
C11D7/32
C11D7/26
B41M5/00 120
C11D7/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045305
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】飯田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一平
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慶吾
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H003
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EA16
2C056JB15
2H186AB08
2H186AB56
2H186AB57
2H186AB61
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB48
2H186FB54
4H003DA05
4H003DB03
4H003DC02
4H003EB04
4H003EB05
4H003EB13
4H003EB14
4H003EB20
4H003EB28
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA16
4H003FA19
(57)【要約】
【課題】洗浄性、耐擦性、目詰まり性に優れるメンテナンス液等を提供することを目的とする。
【解決手段】インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、前記インク組成物は、色材を含有する水系のインク組成物であり、前記メンテナンス液は、有機アミンと、前記有機アミン以外の有機溶剤と、を含有し、前記有機溶剤が、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aを含有し、前記ポリオール類Aの含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、20.0質量%超であり、前記有機アミンの含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、0.3質量%以上であり、前記有機溶剤の総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、30.0質量%未満であり、前記有機溶剤が、標準沸点が250℃超のポリオール類Bを、前記メンテナンス液の総量に対して、1.0質量%を超えて含有しない、メンテナンス液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、
前記インク組成物は、色材を含有する水系のインク組成物であり、
前記メンテナンス液は、有機アミンと、前記有機アミン以外の有機溶剤と、を含有し、
前記有機溶剤が、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aを含有し、
前記ポリオール類Aの含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、20.0質量%超であり、
前記有機アミンの含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、0.3質量%以上であり、
前記有機溶剤の総含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、30.0質量%未満であり、
前記有機溶剤が、標準沸点が250℃超のポリオール類Bを、前記メンテナンス液の総量に対して、1.0質量%を超えて含有しない、
メンテナンス液。
【請求項2】
前記有機アミンの含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、0.3~5.0質量%である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項3】
前記ポリオール類Aの含有量が、前記メンテナンス液の総量に対して、20.0質量%超28.0質量%以下である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項4】
前記インク組成物が、有機溶剤として、標準沸点が250℃超のポリオール類Bを、前記インク組成物の総量に対して、1質量%を超えて含有しない、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項5】
前記メンテナンス液の表面張力が、30mN/m以下であり、
前記メンテナンス液が、消泡剤を、前記メンテナンス液の総量に対して、0.3質量%を超えて含有しない、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項6】
前記インク組成物の表面張力が、30mN/m以下であり、
前記インク組成物が、消泡剤を、前記インク組成物の総量に対して、0.4質量%を超えて含有しない、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項7】
前記有機アミンが、アルカノールアミンを含有する、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項8】
前記インク組成物が、有機アミン以外の含窒素溶剤を3.0質量%以上含有する、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項9】
前記インクジェット記録装置はインクジェットヘッドを有し、
前記インクジェットヘッドから吐出してメンテナンスに用いる、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項10】
水系のメンテナンス液を用いて、インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスを行うメンテナンス工程を有し、
前記インク組成物は、色材を含有する水系のインク組成物であり、
前記メンテナンス液は、請求項1~9の何れか一項に記載のメンテナンス液である、
メンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス液及びメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、インクジェット記録装置のメンテナンスに用いるメンテナンス液について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、少なくとも水、一般式(I)で表わされる化合物、2-ピロリドン、保湿剤を含有することを特徴とするインクジェット記録用メンテナンス液が開示されている。
【化1】
(式中、R
1は炭素数1~10のアルキル基、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のエーテル結合を有しても良い炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のメンテナンス液では、インクジェット記録装置の洗浄性、耐目詰まり性、及び記録物の耐擦性が優れるという点で、十分でないということがわかってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、上記インク組成物は、色材を含有する水系のインク組成物であり、上記メンテナンス液は、有機アミンと、上記有機アミン以外の有機溶剤と、を含有し、上記有機溶剤が、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aを含有し、上記ポリオール類Aの含有量が、上記メンテナンス液の総量に対して、20.0質量%超であり、上記有機アミンの含有量が、上記メンテナンス液の総量に対して、0.3質量%以上であり、上記有機溶剤の総含有量が、上記メンテナンス液の総量に対して、30.0質量%未満であり、上記有機溶剤が、標準沸点が250℃超のポリオール類Bを、上記メンテナンス液の総量に対して、1.0質量%を超えて含有しない、メンテナンス液である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本実施形態で使用する記録装置の概略図である。
【
図5】本実施形態で使用する記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0008】
1.メンテナンス液
本実施形態に係るメンテナンス液(以下、「メンテナンス液」ともいう。)は、インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液であって、上記インク組成物は、色材を含有する水系のインク組成物であり、上記メンテナンス液は、有機アミンと、上記有機アミン以外の有機溶剤と、を含有し、上記有機溶剤が、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aを含有し、上記ポリオール類Aの含有量が、上記メンテナンス液の総量に対して、20.0質量%超であり、上記有機アミンの含有量が、上記メンテナンス液の総量に対して、0.3質量%以上であり、上記有機溶剤の総含有量が、上記メンテナンス液の総量に対して、30.0質量%未満であり、前記有機溶剤が、標準沸点が250℃超のポリオール類Bを、上記メンテナンス液の総量に対して、1.0質量%を超えて含有しない。
【0009】
レジンインクなどの水系のインク組成物は一般的に樹脂を含み、インク組成物に含まれる樹脂はインクジェット記録装置内に固着し得る。そこで、インクジェット記録装置内に残留したインク組成物を洗浄等してメンテナンスするために、水系のメンテナンス液が用いられる。特に、有機溶剤を含有する水系のメンテナンス液が用いられる。
【0010】
メンテナンス液中で、有機溶剤の含有量が多いと、メンテナンス液の粘度が高くなり、置換性が悪くなる。そのため、インクジェット記録装置内をメンテナンス液で洗浄したり、インクジェット記録装置内のインク組成物をメンテナンス液で置換したりする際に、多量のメンテナンス液が必要になる。また、メンテナンスする際、インクジェット記録装置内のインク組成物を吸引排出して空にしてからメンテナンス液に置換すると、インクジェット記録装置内に気泡が混入してしまうため、インクジェット記録装置内を空にすることなく、インク組成物からメンテナンス液に直接置換することが望まれる。メンテナンス後に印刷のために、メンテナンス液からインク組成物に置換するときも同様である。上述のように直接置換する場合に、メンテナンス液の粘度が高く置換性が悪いと、特に多量のメンテナンス液が必要となる。メンテナンス液からインク組成物に置換する時には、特に多量のインク組成物が必要となる。
また、インクジェット記録装置のメンテナンス後に印刷する際に、インクジェット記録装置内にメンテナンス液が残留していると、メンテナンス液に含まれる有機溶剤がインク組成物に混入し、記録物の耐擦性の低下を引き起こす場合がある。加えて、メンテナンス液の有機溶剤の含有量が多いと、環境に悪影響を与える懸念がある。以上の問題の解決のために、メンテナンス液中の有機溶剤の含有量を減らすことが望まれている。
【0011】
一方で、メンテナンス液中の有機溶剤の組成によっては、メンテナンス液が蒸発しやすくなってしまう。このようなメンテナンス液をメンテナンスに用いた場合、インクジェット記録装置内に、若干のインク組成物とメンテナンス液との混合物が残留していた場合に、メンテナンス液が蒸発しやすく、蒸発後に、インク組成物の固形分が乾燥固化してしまい、新たなメンテナンス液やインク組成物を流しても、インクジェット記録装置内から除去することが難しく、これによりインクジェット記録装置内の目詰まり性が劣るという問題があった。
例えば、インク組成物が、樹脂を含有する場合に、メンテナンス液に含まれる有機溶剤が、インク組成物に含まれる樹脂を溶解していた場合に、有機溶剤が蒸発してしまい、蒸発後には上記樹脂が固化する。このように固化した樹脂に対して、新たなメンテナンス液やインク組成物を流しても、固化した樹脂が、インクジェット記録装置内から除去し難い。
また、メンテナンス液中の有機溶剤の組成によっては、インクジェットヘッド内にメンテナンス液が残留しインクと混合した場合に、記録物の耐擦性を低下させてしまう問題があった。
さらには、メンテナンス液中の有機溶剤の組成によっては、インクジェット記録装置内をメンテナンス液で充填して長期間保管した際に、メンテナンス液が蒸発し、インクジェット記録装置内が空になってしまう場合がある。また、メンテナンス液の、耐凍結性、インクジェット吐出性、初期吐出性、消泡剤分離性が劣る場合もある。
【0012】
そこで、本実施形態においては、有機アミンと、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aと、をそれぞれ所定量で併用するメンテナンス液を用いることにより、洗浄性、耐擦性、及び耐目詰まり性が向上した。耐目詰まり性を単に目詰まり性ともいう。
【0013】
有機アミンは保湿性が高く、少量の含有でメンテナンス液の蒸発を防ぐことができる。また、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aも比較的、保湿性が優れるが、インクジェットヘッド内に残留しても、記録物の耐擦性を低下させない。そのため、本実施形態のメンテナンス液は、有機溶剤の総含有量を抑えつつ、蒸発しにくいものとなり、結果として、このメンテナンス液を用いることにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上すると考えられる。但し、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する要因はこれに限定されない。
【0014】
本実施形態のメンテナンス液の表面張力は、好ましくは、30mN/m以下であり、15~30mN/mであり、17~29mN/mであり、20~28mN/mである。さらには22~26mN/mが好ましい。
表面張力が、上記範囲内であることにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。
【0015】
メンテナンス液の表面張力は、表面張力計により測定でき、より具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0016】
以下、本実施形態のメンテナンス液の各成分についてそれぞれ詳説する。
【0017】
1.1.有機アミン
本実施形態のメンテナンス液は、有機アミンを含有する。有機アミンは、保湿性が高いため、メンテナンス液が有機アミンを所定量含有することにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。
【0018】
また、メンテナンス液を、インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いるとき、メンテナンス液をインクジェットヘッドから吐出してメンテナンスに用いる場合がある。このようにすると、インクジェットヘッド、ノズル、インクジェットヘッドキャップ、フラッシングボックス、インク組成物を供給する流路等のインクジェット記録装置内にメンテナンス液を付着させたいときに、手作業ではなくプリンタ自身により行うことができ好ましい。また、ノズルの検査をする場合に、インク組成物ではなくメンテナンス液を用いて行うことができ好ましい。
【0019】
ここで、メンテナンス液をインクジェットヘッドから吐出するために、メンテナンス液が適度な粘度を有する必要がある。しかしながら、有機溶剤の含有量を減らすと粘度も低下するため、インクジェットヘッドから吐出する際に、サテライトの発生や飛行曲がりの発生等の吐出不良が生じる、という問題がある。
【0020】
有機アミンは適度な粘度を有するため、メンテナンス液が有機アミンを含有することにより、メンテナンス液中の有機溶剤の含有量を減らした場合でも、メンテナンス液の粘度をインクジェットヘッドから吐出するのに適切な範囲とし、インクジェット吐出性を向上させることができ好ましい。
【0021】
また、有機溶剤の含有量を減らすと、メンテナンス液が蒸発しやすくなる。ノズルにおいてメンテナンス液が蒸発すると、気泡がノズル内に発生し、結果として、メンテナンス液をインクジェットヘッドから吐出する際に吐出不良が生じる、という問題がある。
【0022】
有機アミンは保湿性が高く、少量の含有でメンテナンス液の蒸発を防ぐことができるため、メンテナンス液が有機アミンを含有することにより、メンテナンス液中の有機溶剤の含有量を減らした場合でも、ノズルにおいてメンテナンス液が乾燥することを防ぎ、インクジェット吐出性を向上させることができ好ましい。
【0023】
有機アミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンなどを用いることができる。2級アミンまたは3級アミンが好ましく、3級アミンがより好ましい。有機アミンとしては、アミンの窒素原子に結合した炭化水素基が脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基などであるアミン類などが挙げられる。
有機アミンの窒素原子に結合した脂肪族炭化水素基としては、置換されていても良いアルキル基などが挙げられる。アルキル基は、炭素数1~5が好ましく、1~3がより好ましい。
有機アミンの分子中の炭素数は、2~15が好ましく、4~10がより好ましく、6~9がさらに好ましい。有機アミンがアルカノールアミンの場合、分子中の水酸基の数は1~3が好ましい。
脂肪族炭化水素基が、水酸基で置換されたアルキル基であるアルカノールアミンが好ましい。脂肪族炭化水素基が、水酸基で置換されていないアルキル基であるアルキルアミンも挙げられる。また、有機アミンの窒素原子が複素環を構成している複素環式アミンなども挙げられる。
【0024】
有機アミンとしては、特に制限されないが、例えば、プロパノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジエチルプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-tert-ブチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N-tert-ブチルジエタノールアミン、2-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、5-アミノ-1-ペンタノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール等のアルカノールアミン(アミノアルコール)があげられる。
また、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-(3-アミノプロピル)モルホリン、N-メチルピぺリジン、1,4-ジメチルピペラジン、1-ピペラジンエタノール等の複素環式アミンがあげられる。
また、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノイソプロピルミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、モノエチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミンが挙げられる。
【0025】
有機アミンの標準沸点は、好ましくは80℃以上であり、さらに好ましくは120℃以上であり、より好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは250℃以上であり、よりさらに好ましくは300℃以上である。また、有機アミンの標準沸点は、好ましくは350℃以下であり、より好ましくは340℃以下である。さらに好ましくは330℃以下である。有機アミンの標準沸点が上記範囲である場合、目詰まり性、得られる記録物の耐擦性などがより優れ好ましい。
【0026】
有機アミンの水混合粘度は、好ましくは3.0mPa・s以上であり、より好ましくは3.2mPa・s以上6.0mPa・s以下であり、さらに好ましくは4.0mPa・s以上5.5mPa・s以下である。さらには、3.5mPa・s以上が好ましく、3.6mPa・s以上がより好ましい。
有機アミンの水混合粘度が上記範囲以上であることにより、インクジェット吐出性がより優れる。また、得られる記録物の耐擦性や画質がより向上する傾向にある。また、有機アミンの水混合粘度が上記範囲以下であることにより、洗浄性などがより優れ好ましい。
「水混合粘度」とは、粘度を測定する対象となる化合物30質量%と、水70質量%とを混合して得られる水混合液(すなわち30質量%水溶液)の20℃における粘度である。当該粘度は、例えば、回転式粘度計を用いて測定することができる。限るものではないが、例えば、レオメーター(MCR 302、アントンパール社製)などを用いることができる。測定は20℃で行う。 例えば、JIS Z8809に準拠して測定することができる。
【0027】
この中でも、アルカノールアミンが、耐擦性、インクジェット吐出性、目詰まり性などがより優れ好ましい。また、臭気や安全性の観点でも好ましい。トリイソプロパノールアミンがより好ましい。有機アミンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。メンテナンス液が有機アミンを含有することにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性、インクジェット吐出性が向上する傾向にある。
【0028】
有機アミンの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、0.3質量%以上であり、好ましくは、0.3~10.0質量%であり、0.3~7.5質量%であり、0.3~5.0質量%であり、0.4~4.0質量%であり、0.5~3.0質量%であり、0.6~2.8質量%であり、0.7~2.5質量%であり、0.8~2.0質量%である。有機アミンの含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性、インクジェット吐出性が向上する傾向にある。
【0029】
1.2.有機アミン以外の有機溶剤
本実施形態のメンテナンス液は、有機アミン以外の有機溶剤を含有する。有機アミン以外の有機溶剤は、特に限定されないが、例えば、標準沸点が250℃以下のポリオール類A、標準沸点が250℃超のポリオール類B、有機アミン以外の含窒素溶剤、その他の有機溶剤が挙げられる。有機アミン以外の有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
有機アミン以外の有機溶剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、30質量%未満であり、好ましくは、20質量%超30質量%未満であり、21.5~29.0質量%であり、23.0~28.0質量%である。有機アミン以外の有機溶剤の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。
【0031】
1.2.1.ポリオール類
1.2.1.1.標準沸点が250℃以下のポリオール類A
本実施形態のメンテナンス液は、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aを含有する。ポリオール類Aは、保湿性が高いため、メンテナンス液がポリオール類Aを所定量含有することにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。ポリオール類Aの標準沸点は、150~250℃が好ましく、170~210℃がより好ましく、180~100がさらに好ましい。
【0032】
また、ポリオール類Aを含有することにより、メンテナンス液の耐凍結性が向上する傾向にある。耐凍結性が向上することにより、冬季であっても、インクジェットヘッドを含むインクジェット記録装置内にメンテナンス液を、凍結していない状態で充填することが可能となり、結果として、インクジェットヘッド等を損傷することなくインクジェット記録装置を保管できるため好ましい。
【0033】
ポリオール類Aは、ポリオール類の中でも準沸点が250℃以下のポリオール類である。ポリオール類は、分子内に水酸基を2個以上有する化合物である。分子間の水酸基数は2~6が好ましく、2~3がより好ましい。特に制限されないが、例えば、アルカンポリオールや、アルカンポリオールの分子間OH縮合物(ポリアルカンポリオール)が挙げられる。特にアルカンジオールやアルカンジオールの分子間OH縮合物(ポリアルカンジオール)が好ましい。
【0034】
アルカンジオールやその分子間OH縮合物は、例えば、炭素数2以上のアルカンジオールや、該アルカンジオールの分子間OH縮合物が挙げられる。アルカンジオールや、該アルカンジオールの分子間OH縮合物における、アルカンジオールの炭素数は、好ましくは2~8であり、より好ましくは2~5であり、さらに好ましくは2~3である。アルカンジオールがアルカンジオールの分子間OH縮合物である場合の縮合数は、2以上であり、2~5が好ましく、2~3がより好ましい。
【0035】
ポリオール類は、例えば、プロピレングリコール、へキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、トリエチレングリコール、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。これらのうち標準沸点が250℃以下のものがポリオール類Aである。
【0036】
ポリオール類Aとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオールが挙げられる。ポリオール類Aは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。メンテナンス液がポリオール類Aを含有することにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性、耐凍結性が向上する傾向にある。
【0037】
ポリオール類Aの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、20質量%超であり、好ましくは、20.0質量%超30.0質量%未満であり、20.0質量%超28.0質量%以下であり、21.0~27.5質量%であり、22.0~27.0質量%であり、23.0~27.0質量%である。さらには22.0~25.0質量%である。ポリオール類Aの含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性、耐凍結性などがより向上する傾向にある。
【0038】
1.2.1.2.標準沸点が250℃超のポリオール類B
上記ポリオール類のうち、標準沸点が250℃超のポリオール類Bをメンテナンス液に用いると、ポリオール類Bは保湿性が高く、有機溶剤の含有量を減らしてもメンテナンス液の保湿性を維持することができるが、インクジェットヘッド内にメンテナンス液が残留し、その後記録物を作製する際に、インク組成物にポリオール類Bが混入し、記録物の乾燥性を低下させ、結果として、耐擦性を低下させる傾向にある。
【0039】
したがって、耐擦性を向上させる観点から、ポリオール類Bの含有量は、メンテナンス液の総量に対して、0.0~1.0質量%であり、好ましくは、0.0~0.8質量%であり、0.0~0.5質量%であり、0.0~0.2質量%であり、0.0~0.1質量%である。または、ポリオール類Bを含有しないことが好ましい。
【0040】
ポリオール類Bとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、2,4-トルエンジオール、3,4-トルエンジオール、ビフェニル-2,2’-ジオールが挙げられる。
【0041】
1.2.2.有機アミン以外の含窒素溶剤
本実施形態のメンテナンス液は、有機アミン以外の含窒素溶剤を含有してもよい。有機アミン以外の含窒素溶剤としては、特に限定されないが、例えばアミドが好ましい。また、例えば、ピロリドン系、イミダゾリジノン系、アミドエーテル系、ピリジン系、ピラジン系、ピリドン系が挙げられる。アミドとしては環状アミド、非環状アミドがあげられる。より好ましくは、環状アミドであり、特にピロリドン系であり、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンが挙げられる。含窒素溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。メンテナンス液が有機アミン以外の含窒素溶剤を含有することにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。
【0042】
有機アミン以外の含窒素溶剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、1.0質量%以上であり、2.0質量%以上であり、3.0質量%以上である。また、好ましくは、1.0~10.0質量%であり、2.0~9.0質量%であり、3.0~8.0質量%であり、3.0~7.0質量%である。有機アミン以外の含窒素溶剤の含有量が、上記範囲内であることにより、洗浄性、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。
【0043】
1.2.3.その他の有機溶剤
本実施形態のメンテナンス液は、上記以外の、その他の有機溶剤を含有してもよい。その他の有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、モノオール類、グリコールエーテル類、含硫黄溶剤が挙げられる。その他の有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
1.3.界面活性剤
本実施形態のメンテナンス液は、界面活性剤をさらに含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(日信化学工業株式会社製)、サーフィノール61(エボニック・インダストリー社製)が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(信越化学株式会社製)が挙げられる。シリコーン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
界面活性剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは、0.1~5.0質量%であり、0.1~2.5質量%であり、0.1~1.0質量%であり、0.2~0.8質量%であり、0.3~0.5質量%である。
【0049】
1.4.消泡剤
本実施形態のメンテナンス液は、消泡剤を含有してもよい。メンテナンス液が消泡剤を含有することにより、メンテナンス液中で気泡が発生することを抑制するため、メンテナンス液をインクジェット記録装置に充填した後、最初の吐出をする際に、吐出がされないノズルの割合が減少し、初期吐出性に優れる傾向にある。
【0050】
一方で、メンテナンス液中の有機溶剤の含有量を減らすと、メンテナンス液が消泡剤を含有する場合、消泡剤が分離してしまうという問題がある。
【0051】
そこで、メンテナンス液がポリオール類Aを含有することにより、メンテナンス液中の有機溶剤の含有量を減らした場合でも、消泡剤がメンテナンス液から分離することを防ぎ、消泡剤分離性が向上する傾向にある。
【0052】
消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、及びアセチレングリコール系消泡剤が挙げられる。消泡剤の市販品としては、BYK-011、BYK-012、BYK-017、BYK-018、BYK-019、BYK-020、BYK-021、BYK-022、BYK-023、BYK-024、BYK-025、BYK-028、BYK-038、BYK-044、BYK-080A、BYK-094、BYK-1610、BYK-1615、BYK-1650、BYK-1730、BYK-1770(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、サーフィノールDF37、DF110D、DF58、DF75、DF220、MD-20、エンバイロジェムAD01(エボニック・インダストリー社製)が挙げられる。消泡剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。メンテナンス液が消泡剤を含有することにより、初期吐出性に優れる傾向にある。
【0053】
消泡剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.0~1.0質量%であり、0.0~0.5質量%であり、0.0~0.4質量%であり、0.0~0.3質量%である。さらに0.0~0.1質量%が好ましく、0.0~0.05質量%がより好ましい。
【0054】
1.5.水
本実施形態のメンテナンス液に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水、純水が挙げられる。
【0055】
メンテナンス液は水系のメンテナンス液である。水系とは、組成物に含む溶媒成分として、少なくとも水を主要な成分とするものである。水の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは50質量%以上である。さらには、好ましくは60.0質量%以上80.0質量%未満であり、65.0~78.0質量%であり、70.0~75.0質量%である。
【0056】
1.6.その他の成分
本実施形態のメンテナンス液は、上記の各成分の他に、従来のメンテナンス液に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、上記以外の水溶性低分子有機化合物、水溶性低分子有機化合物以外の有機化合物が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
2.インク組成物
本実施形態のインク組成物(以下、「インク組成物」ともいう。)は、色材を含有する水系のインク組成物である。インク組成物の表面張力は、好ましくは、30mN/m以下であり、15~30mN/mであり、17~29mN/mであり、20~28mN/mである。
【0058】
インク組成物の表面張力は、表面張力計により測定でき、より具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0059】
以下、本実施形態のインク組成物の各成分についてそれぞれ詳説する。
【0060】
2.1.色材
色材としては、特に制限されないが、例えば、分散染料や顔料が挙げられる。色材は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
分散染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースブルー、C.I.ディスパースバイオレット、C.I.ディスパースブラックなど公知のものを用いることができる。分散染料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンが挙げられる。無機顔料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料が挙げられる。有機顔料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
色材の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.5~20.0質量%であり、0.7~15.0質量%であり、1.0~10.0質量%である。
【0065】
2.2.樹脂
本実施形態のインク組成物は、樹脂を含有してもよい。樹脂としては、インク組成物中で溶解しているもの、又は、樹脂粒子、エマルションなどの形態で分散しているものが挙げられる。このような樹脂を用いることにより、記録物の耐擦性に優れる傾向にある。
【0066】
このような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、パラフィン樹脂、フッ素樹脂、及び水溶性樹脂、並びにこれらの樹脂を構成する単量体を組み合わせた共重合体が挙げられる。また、樹脂としては、これらの樹脂を含むポリマーラテックスを用いることができる。
【0067】
例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂の微粒子を含むポリマーラテックスが挙げられる。なお、樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
アクリル樹脂は、アクリルモノマーを少なくとも重合させて得たポリマーであり、アクリルモノマーと他のモノマーの共重合ポリマーも含む。アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸などがあげられる。他のモノマーとしては、ビニルモノマーなどがあげられ、例えばスチレンなどがあげられる。アクリル樹脂としてスチレンアクリル樹脂があげられる。
ウレタン系樹脂は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン重合により得られた樹脂である。
樹脂の中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、が好ましく、アクリル樹脂、ウレタン樹脂がより好ましい。
【0069】
樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.5~20.0質量%であり、1.0~15.0質量%であり、2.0~12.5質量%であり、3.0~10.0質量%である。樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、記録物の耐擦性に優れる傾向にある。
【0070】
2.3.有機アミン
本実施形態のインク組成物は、有機アミンを含有してもよい。メンテナンス液と同様、有機アミンを用いることで、インク組成物中の有機溶剤の含有量を抑えつつ、耐擦性、目詰まり性、インクジェット吐出性が向上する傾向にある。
【0071】
有機アミンとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で挙げたものを用いることができる。また、有機アミンの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、0.3~10.0質量%であり、0.3~7.5質量%であり、0.3~5.0質量%であり、0.4~4.0質量%であり、0.5~3.0質量%であり、0.6~2.8質量%であり、0.7~2.5質量%であり、0.8~2.0質量%である。
【0072】
2.4.有機アミン以外の有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、有機アミン以外の有機溶剤を含有してもよい。有機アミン以外の有機溶剤は、特に限定されないが、例えば、標準沸点が250℃以下のポリオール類A、標準沸点が250℃超のポリオール類B、有機アミン以外の含窒素溶剤、その他の有機溶剤が挙げられる。有機アミン以外の有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
有機アミン以外の有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、10.0~45.0質量%であり、12.5~40.0質量%であり、15.0~37.5質量%であり、16.0~35.0質量%である。有機アミン以外の有機溶剤の含有量が、上記範囲内であることにより、耐擦性、目詰まり性が向上する傾向にある。
【0074】
2.4.1.ポリオール類
2.4.1.1.標準沸点が250℃以下のポリオール類A
本実施形態のインク組成物は、標準沸点が250℃以下のポリオール類Aを含有してもよい。メンテナンス液と同様、ポリオール類Aを用いることで、インク組成物中の有機溶剤の含有量を抑えつつ、耐擦性、目詰まり性、耐凍結性が向上する傾向にある。
【0075】
ポリオール類Aとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で挙げたものを用いることができる。また、ポリオール類Aの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、10.0~40.0質量%であり、12.5~38.0質量%であり、15.0~36.0質量%である。
【0076】
2.4.1.2.標準沸点が250℃超のポリオール類B
標準沸点が250℃超のポリオール類Bをインク組成物に用いると、記録物の乾燥性が低下し、結果として、耐擦性を低下させる傾向にある。
【0077】
したがって、耐擦性を向上させる観点から、ポリオール類Bの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、0.0~1.0質量%であり、好ましくは、0.0~0.8質量%であり、0.0~0.5質量%であり、0.0~0.2質量%であり、0.0~0.1質量%である。または、ポリオール類Bを含有しないことが好ましい。ポリオール類Bとしては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で記載したものが挙げられる。
【0078】
ポリオール類Bを多く含有するインク組成物を用いると、本実施形態のメンテナンス液を用いても、記録物の耐擦性が低下する。例えば、本実施形態のメンテナンス液と、ポリオール類Bをインク組成物の総量に対して5質量%含有するインク組成物と、を用いて、後述の実施例に記載の方法で対擦性を評価すると、C評価に該当する結果が得られる。
【0079】
一方で、本実施形態のメンテナンス液と、ポリオール類Bをインク組成物の総量に対して5質量%含有するインク組成物と、を用いて、後述の実施例に記載の方法で目詰まり性、洗浄性を評価すると、それぞれのA評価に該当する結果が得られる。
【0080】
2.4.2.有機アミン以外の含窒素溶剤
本実施形態のインク組成物は、有機アミン以外の含窒素溶剤を含有してもよい。有機アミン以外の含窒素溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で挙げたものを用いることができる。また、有機アミン以外の含窒素溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、1.0質量%以上であり、2.0質量%以上であり、3.0質量%以上である。また、好ましくは、1.0~10.0質量%であり、2.0~9.0質量%であり、3.0~8.0質量%であり、3.0~7.0質量%である。
【0081】
2.4.3.その他の有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、上記以外の、その他の有機溶剤を含有してもよい。その他の有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で挙げたものを用いることができる。
【0082】
2.5.界面活性剤
本実施形態のインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で挙げたものを用いることができる。界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、0.1~5.0質量%であり、0.1~2.5質量%であり、0.1~1.0質量%であり、0.2~0.8質量%であり、0.3~0.5質量%である。
【0083】
2.6.消泡剤
本実施形態のインク組成物は、消泡剤を含有してもよい。メンテナンス液と同様、消泡剤を用いることで、初期吐出性に優れる傾向にある。
【0084】
一方で、インク組成物中の有機溶剤の含有量を減らすと、インク組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤が分離してしまうという問題がある。
【0085】
そこで、インク組成物がポリオール類Aを含有することにより、インク組成物中の有機溶剤の含有量を減らした場合でも、消泡剤がインク組成物から分離することを防ぎ、消泡剤分離性が向上する傾向にある。
【0086】
消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、メンテナンス液で挙げたものを用いることができる。消泡剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、特に限定されないが、例えば、0.0~1.0質量%であり、0.0~0.5質量%であり、0.0~0.4質量%であり、0.0~0.3質量%である。
【0087】
2.7.水
本実施形態のインク組成物に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水、純水が挙げられる。
【0088】
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは45.0質量%以上である。さらには45.0~98.0質量%であり、45.0~80.0質量%であり、47.5~77.5質量%であり、50.0~75.0質量%である。
【0089】
2.8.その他の成分
本実施形態のインク組成物は、上記の各成分の他に、従来のインク組成物に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、上記以外の水溶性低分子有機化合物、水溶性低分子有機化合物以外の有機化合物が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
3.記録媒体
本実施形態のインク組成物の記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、非吸収性記録媒体が挙げられる。
【0091】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)、布帛が挙げられる。
【0092】
低吸収性記録媒体は、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙が挙げられる。
【0093】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体が挙げられる。
低吸収性記録媒体、非吸収性記録媒体の場合、耐擦性や耐水性に優れる記録物の記録を可能とすることが特に重要となるが、記録物の耐擦性などが優れる点で、本実施形態のインクが特に有用である。
【0094】
4.インクジェット記録方法
本実施形態のインク組成物を用いるインクジェット記録方法は、本実施形態のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を含み、また、必要に応じて、記録媒体を搬送する搬送工程等のその他の工程を含んでいてもよい。
【0095】
4.1.インク付着工程
インク付着工程では、本実施形態のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインク組成物をノズルから吐出させる。
【0096】
インク付着工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0097】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0098】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0099】
4.2.搬送工程
本実施形態のインク組成物を用いるインクジェット記録方法は搬送工程を含んでいてもよい。搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインク組成物が記録媒体に付着し、記録物が形成される。インク付着工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0100】
5.メンテナンス方法
本実施形態のメンテナンス方法は、メンテナンス工程を有し、再充填工程を有してもよく、必要に応じてその他の工程を有してもよい。
【0101】
5.1.メンテナンス工程
本実施形態のメンテナンス工程では、上記メンテナンス液を用いて、インク組成物を吐出するインクジェット記録装置のメンテナンスを行う。ここで、メンテナンスとは、特に限定されないが、例えば、インクジェットヘッド、ノズル、インクジェットヘッドキャップ、フラッシングボックス、インク組成物を供給する流路等のインクジェット記録装置内に付着したインク組成物をメンテナンス液で洗浄すること、インクジェットヘッド内をメンテナンス液で充填すること、等があげられる。
なおインクジェットヘッドにメンテナンス液を充填させて、インクジェット記録装置の輸送、送品、休止、検査などを行うために、インクジェットヘッド内をメンテナンス液で充填することも、メンテナンスとしてあげられる。
インクジェットヘッド内にメンテナンス液を充填するメンテナンス工程を有する場合、記録装置における目詰まり性が向上する傾向にある。
【0102】
メンテナンス工程においては、特に限定されないが、例えば、上記メンテナンス液をインクジェットヘッドから吐出して、インクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置のメンテナンスに用いてもよい。こうすることで、インクジェットヘッド、ノズル、インクジェットヘッドキャップ、フラッシングボックス、インク組成物を供給する流路等のインクジェット記録装置内に上記メンテナンス液を付着させたいときに、手作業ではなくプリンタ自身により行うことができ好ましい。また、ノズルの目詰まり検査をする場合に、インク組成物ではなく上記メンテナンス液を用いて行うことも好ましい。
このような場合においても、本実施形態のメンテナンス液は、インクジェットヘッドからの吐出性が優れ好ましい。
【0103】
また、上記メンテナンス液は有機アミンを所定量含有するため、有機溶剤の含有量が抑えられつつ、インクジェットヘッドから吐出するのに適切な範囲内の粘度を有する。そのため、上記メンテナンス液をインクジェットヘッドから吐出してメンテナンスに用いることができる。
【0104】
本実施形態のメンテナンス工程では、インクジェット記録装置内に、上記メンテナンス液を充填してもよい。これにより、インクジェット記録装置を長期間使わない場合や輸送する場合において、インクジェット記録装置内に、インク組成物に起因する付着物が残存することを防ぐことができる。また、インクジェット記録装置内が乾燥し、インクジェットヘッド等が劣化することを防ぐことができる。また、インクジェットヘッドを検査する際に、吐出する液体として上記メンテナンス液を用いてもよい。
【0105】
5.2.再充填工程
本実施形態の再充填工程では、上記メンテナンス工程後に、上記インクジェットヘッド及び上記流路に、上記インク組成物を再充填する。再充填工程を有することにより、ノズル抜け等に起因する画質の低下を招くことなく、迅速に記録物を形成することができる。
【0106】
6.記録装置
インクジェット記録装置の一例として、
図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。
図1に示すように、シリアルプリンタ70は、搬送部720と、記録部730とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T2へ搬送する。
【0107】
また、記録部は、搬送部から送られた記録媒体Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド731を搭載するキャリッジ734と、キャリッジを記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構735を備える。
【0108】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッドとして記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パスで記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジにヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体F上にインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0109】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。ライン方式のプリンタは、記録媒体の記録幅以上の長さを有するインクジェットヘッドであるラインヘッドを用いて、記録媒体に、1回の走査で記録を行うプリンタである。
【0110】
図5は、インクジェット記録装置のインクジェットヘッド及び記録媒体搬送路の周囲の一例を模式的に示す概略側方図である。
図1のインクジェット記録装置であれば、主走査方向の側から見た側方図に相当する。インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2により、記録媒体Mに記録を行う。記録媒体Mは、記録媒体Mを下方から支持する記録媒体搬送路に沿って、副走査方向SSに搬送される。
インクジェットヘッド2は、
図5の奥-手前方向である主走査方向に移動を行うシリアル方式のプリンタとしても良いし、インクジェットヘッドが
図5の奥-手前方向である記録媒体幅方向に伸びたラインヘッドであるライン方式のプリンタであってもよい。
図5の例では、インクジェット記録装置は、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、加熱ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、送風ファン8と、を備える。
【0111】
<一次乾燥機構>
インクジェット記録装置1は、インクジェットヘッド2からインクを吐出して記録媒体に付着させる際に記録媒体Mを乾燥する一次乾燥機構を備えることができる。一次乾燥機構は、伝導式、送風式、放射式などを用いることができる。伝導式は記録媒体に接触する部材から熱を記録媒体に伝導する。例えばプラテンヒーター4、プレヒーター7などがあげられる。送風式は常温風又は温風を記録媒体に送りインク等を乾燥させる。例えば送風ファン8があげられる。放射式は熱を発生する放射線を記録媒体に放射して記録媒体を加熱する。例えばIRヒーター3があげられる。または図示しないがプラテンヒーター4よりもSS方向のすぐ下流側にプラテンヒーターと同様のヒーターが設けられていてもよい。これら一次乾燥機構は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一次乾燥機構として、加熱による乾燥が好ましい。
インク付着工程において、一次乾燥機構により行う乾燥を一次乾燥工程という。記録方法が一次乾燥工程を備える場合、記録媒体に付着したインクを早期に乾燥させ画質が優れ好ましい。一方、インクジェットヘッドやその周囲の記録装置が、一次乾燥機構から熱を受け、インクが乾燥固化しやすい。このような場合でも、本実施形態のメンテナンス液を用いることで、優れたメンテナンスが行え好ましい。一次乾燥工程を受ける記録媒体の表面温度は、20~50℃が好ましく、30~45℃がより好ましく、35~40℃がさらに好ましい。該温度は、インク付着時の記録媒体の表面温度としてもよい。
【0112】
<二次後乾燥機構>
インク付着工程の後に、二次乾燥機構により記録媒体を加熱して、インクをさらに乾燥させ、定着させる二次乾燥工程を備えてもよい。後乾燥工程ともいう。
二次乾燥機構に用いる加熱ヒーター5は、記録媒体Mに付着されたインクを乾燥及び固化させるものである。加熱ヒーター5が、画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、インク中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、インク中に含まれる樹脂によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着又は接着して造膜性が優れたものとなり、優れた高画質な画像が短時間で得られる。二次乾燥工程において、耐擦性により優れる点で、本実施形態のメンテナンス液を用いることが好ましい。
二次乾燥工程を受ける記録媒体の表面温度は、50~100℃が好ましく、60~90℃がより好ましく、70~80℃がさらに好ましい。
インクジェット記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。記録媒体Mに記録されたインクを乾燥後、冷却ファン6により記録媒体M上のインクを冷却することにより、記録媒体M上に密着性よくインク塗膜を形成することができる。
【実施例0113】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。また、特段記載のない限り、室温(25℃)、105Paで行われた。
【0114】
1.メンテナンス液の調製
図2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合撹拌し、実施例及び比較例のメンテナンス液を得た。なお、図中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。表面張力は、白金プレートによるプレート法で測定した。
【0115】
図2に示す材料は以下のとおりである。
<界面活性剤>
・BYK-348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)
<消泡剤>
・サーフィノールDF110D(エボニック・インダストリー社製)
<有機アミン>
・トリイソプロパノールアミン(標準沸点301℃、水混合粘度4.8mPa・s)
・トリエタノールアミン(標準沸点335℃、水混合粘度3.5mPa・s)
・ジエタノールアミン(標準沸点268℃、水混合粘度3.8mPa・s)
<ポリオール類>
・プロピレングリコール(標準沸点188℃)
・1,2-ヘキサンジオール(標準沸点224℃)
・グリセリン(標準沸点290℃)
【0116】
2.インク組成物の調製
図3の記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合撹拌し、実施例及び比較例のインク組成物を得た。なお、図中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。顔料など固形分のものはその固形分の質量%である。なお、顔料は、事前に表中に記載しない顔料分散剤(水溶性のアクリル系樹脂)を、顔料:顔料分散剤=4:1の質量比で水に混合し攪拌して顔料分散液を調製し、これをインク調製に用いた。
【0117】
図3に示す材料は以下のとおりである。
<色材>
・PB15:3(フタロシアニン系顔料、ピグメント・ブルー 15:3)
<アクリル樹脂>
・モビニール6820(ジャパンコーティングレジン株式会社製、樹脂粒子)
<界面活性剤>
・BYK-348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)
<消泡剤>
・サーフィノールDF110D(エボニック・インダストリー社製)
【0118】
3.評価
3.1.耐凍結性
5ccの容器に実施例及び比較例のメンテナンス液、並びに実施例及び比較例のインク組成物を入れたあと蓋をして冷凍庫に保管し、凍結の有無を確認し、評価した。
[評価基準]
A:-10℃で凍結しない。
B:-10℃で凍結するが、-5°で凍結しない。
C:-5℃で凍結する。
【0119】
3.2.消泡剤分離性
実施例及び比較例のメンテナンス液、並びに実施例及び比較例のインク組成物20gを30mLスクリュー管に入れ、60℃恒温槽及び70℃恒温槽で21日間放置した後、取り出して、自然冷却で室温(25℃)まで冷却した後、消泡剤の分離の有無を目視で確認し、評価した。
[評価基準]
A:70℃で21日間放置しても分離しない。
B:70℃で21日間放置すると分離するが、60℃で21日間放置すると分離しない。
C:70℃で21日間放置すると分離し、60℃で21日間放置すると分離する。
【0120】
3.3.初期吐出性
セイコーエプソン社製SC-R5050改造機を用意し、360個のノズルを有するインクジェットヘッド及びインクジェットヘッドへの供給経路が空の状態から、実施例及び比較例のメンテナンス液、並びに実施例及び比較例のインク組成物を、上記供給経路から上記インクジェットヘッドに充填した。その後、インクジェットヘッドのノズルからインクジェットヘッドあたり10ccのメンテナンス液を排出し、その状態でノズルの検査を行い評価した。なお、充填時に気泡が発生すると、上記メンテナンス液及び上記インク組成物が吐出されない、不吐出ノズルが現れる。
[評価基準]
A:不吐出ノズルの数がノズル全体の1%以下である。
B:不吐出ノズルの数がノズル全体の1%超である。
【0121】
3.4.インクジェット吐出性
セイコーエプソン社製SC-R5050改造機を用意し、ヘッドにメンテナンス液又はインク組成物を充填し、ヘッド吸引クリーニングを十分行い、全ノズルが吐出する状態とした。この状態で、ノズルからの、実施例及び比較例のメンテナンス液、並びに実施例及び比較例のインク組成物の吐出状態を超高速カメラで観察し、評価した。なお、上記メンテナンス液及び上記インク組成物が、安定した吐出がし難いものである場合、サテライトが発生したり、飛行曲がりが発生したりして、きれいに吐出することができない。例えば、水の含有量が多すぎる等の理由で粘度が低い場合や、表面張力が比較的高い場合である。
[評価基準]
A:サテライトがなく、飛行曲がりもない。
B:サテライトがあるが、飛行曲がりはない。
C:サテライトがあり、飛行曲がりもある。
【0122】
3.5.目詰まり性
セイコーエプソン社製SC-R5050改造機を用意し、インクジェットヘッドに実施例及び比較例のインク組成物が充填されている状態から、吸引クリーニングを行いインクジェットヘッド内の上記インク組成物を排出し、空にした。次に実施例及び比較例のメンテナンス液をインクジェットヘッドに充填し、その後、吸引クリーニングを行い、インクジェットヘッド内の上記メンテナンス液を排出し、空にした。この状態で60℃で1日間放置した。次に、インクジェットヘッドに上記インク組成物を充填し、インクジェットヘッドから上記インク組成物を50cc吐出し、ノズルの検査を行い評価した。インク組成物及びメンテナンス液を排出してもインクジェットヘッド内に、若干のインク組成物及びメンテナンス液が残留しており、残留物の放置後の乾燥固化による目詰まりの影響を確認した。
[評価基準]
A:不吐出ノズルがない。
B:不吐出ノズルの数がノズル全体の2%以下である。
C:不吐出ノズルの数がノズル全体の2%超である。
【0123】
3.6.耐擦性
セイコーエプソン社製SC-R5050改造機を用意し、インクジェットヘッドに実施例及び比較例のメンテナンス液が充填されている状態から吸引クリーニングを行い、インクジェットヘッド内の上記メンテナンス液を排出し、空にした後、実施例及び比較例のインク組成物を供給した。この状態で、記録媒体PET 50A(リンテック株式会社製)にテストパターン(インク組成物付着量:7mg/inch2)を印刷し、二次乾燥機構(加熱ヒーター)で、記録媒体の表面温度が60℃で5分間の二次乾燥を行い、記録部を有する記録物を形成した。
この記録物に対して、水で濡らした平織布を使用して、学振式耐擦試験機(荷重500g)で50回擦った際の、記録部の剥がれ具合を目視で評価した。
[評価基準]
A:剥がれがなく、布への転写もないか、ほぼない。
B:記録部の10%以下の剥がれがある。
C:記録部の10%超の剥がれがある。
【0124】
3.7.洗浄性
セイコーエプソン社製SC-R5050改造機を用意し、インクジェットヘッド及びインクジェットヘッドへの供給経路に実施例及び比較例のインク組成物が充填されている状態で、上記供給経路の上流側から、実施例及び比較例のメンテナンス液を上記インクジェットヘッドに向けて供給し、吸引クリーニングを行った。そして、上記インクジェットヘッドから排出された液体が、上記インク組成物から、徐々に上記メンテナンス液に置換されていくことを確認した。この置換度合いを、排出された液体の吸光度を測定することで確認し、洗浄性を評価した。具体的には、排出された液体の600nmでの吸光度が、上記インク組成物の600nmでの吸光度の10%まで減少するまでに供給した、上記メンテナンス液の体積で洗浄性を評価した。
[評価基準]
A:500mL以下のメンテナンス液を必要とする。
B:500mL超700mL以下のメンテナンス液を必要とする。
C:700mL超のメンテナンス液を必要とする。
【0125】
4.評価結果
図2~4の評価結果から、実施例1~16は何れも、有機アミン以外の有機溶剤の総含有量が多い比較例1~2、ポリオール類Aの含有量が少ない比較例3、4及び6、有機アミンの含有量が少ない比較例4~5、ポリオール類Bの含有量が多い比較例7と比較して、目詰まり性、耐擦性、洗浄性が何れも優れることがわかった。さらには、耐凍結性、消泡剤分離性、初期吐出性、インクジェット吐出性も良好であった。
一方、比較例1~7は、目詰まり性、耐擦性、洗浄性の何れかが劣っていた。
なお、
図4には記載しなかったが、実施例1においてインクをFに替えて同様に評価を行ったところ、目詰まり性及び洗浄性がAであったが、耐擦性がCであった。これはインク組成によると推測する。
70…シリアルプリンタ、720…搬送部、730…記録部、731…インクジェットヘッド、734…キャリッジ、735…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T2…副走査方向、1…インクジェット記録装置、2…インクジェットヘッド、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…加熱ヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…送風ファン、M…記録媒体、SS…副走査方向