(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134877
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】流体接触面構造体
(51)【国際特許分類】
B63B 1/34 20060101AFI20240927BHJP
F16L 9/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B63B1/34
F16L9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045307
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】守 裕也
(72)【発明者】
【氏名】森田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】平田 大冬
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111AA04
3H111BA35
3H111CB21
3H111CB29
3H111DA26
3H111EA20
(57)【要約】
【課題】滑り面と非滑り面とを組み合わせた構造で、摩擦抵抗の低減効果が高い流体接触面構造体を提供する
【解決手段】流体に対して所定の摩擦抵抗を有する非滑り面21と、非滑り面21よりも摩擦抵抗が低い滑り面11~18とを配置した流体接触面構造体である。ここで、滑り面11~18は、所定幅でsin波形状の蛇行部分を一定間隔で連続して配置し、蛇行部分以外を非滑り面21とした。これにより、流体接触面構造体の全体としての摩擦抵抗を効果的に低減させることができ、船舶や流体搬送パイプなどに適用して好適な流体接触面構造体を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体に対して所定の摩擦抵抗を有する非滑り面と、前記非滑り面よりも摩擦抵抗が低い滑り面とを配置した流体接触面構造体であり、
前記滑り面は、所定幅でsin波形状の蛇行部分を一定間隔で連続して配置し、
前記蛇行部分以外を前記非滑り面とした
流体接触面構造体。
【請求項2】
一定間隔に配置された前記蛇行部分で構成される滑り面は、隣接した前記蛇行部分と逆方向に蛇行し、
それぞれの前記蛇行部分は、隣接した前記蛇行部分と近接した箇所でつながるようにした
請求項1に記載の流体接触面構造体。
【請求項3】
さらに、隣接した2つの前記蛇行部分がつながった箇所で、前記滑り面が前記所定幅を維持する
請求項2に記載の流体接触面構造体。
【請求項4】
前記滑り面は、超撥水面として機能するコーティング、又は超撥水面として機能する表面構造を有する
請求項1に記載の流体接触面構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば船舶や流体搬送パイプなどに適用して好適な流体接触面構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の底面や流体搬送パイプなどの流体と接触する面は、流体と接触する際に摩擦抵抗があり、その摩擦抵抗を低減する手法が従来から提案されている。例えば、特許文献1に記載されるように、接触面に撥水材料を配置した、いわゆる超撥水面とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超撥水面は、該当する部材の表面に撥水性の高い物質をコーティングする手法や、エッチングなどで表面を直接加工する手法がある。いずれの手法でも、超撥水面を形成するのには手間と費用がかかる。このため、流体と接触する面の一部を超撥水面とすることが考えられている。この場合、超撥水面(滑り面)の配置状態によって、流体接触面全体としての摩擦抵抗の低減効果が異なるが、従来、滑り面と非滑り面との最適な配置状態に関しては解析されていなかった。すなわち、滑り面である超撥水面と非滑り面とをどのように組み合わせれば、摩擦抵抗の低減効果が高くなるかは知られていなかった。
【0005】
本発明の目的は、滑り面と非滑り面とを組み合わせた構造で、摩擦抵抗の低減効果が高い流体接触面構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流体接触面構造体は、流体に対して所定の摩擦抵抗を有する非滑り面と、非滑り面よりも摩擦抵抗が低い滑り面とを配置した流体接触面構造体である。
ここで、滑り面は、所定幅でsin波形状の蛇行部分を一定間隔で連続して配置し、蛇行部分以外を非滑り面としたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、滑り面と非滑り面とを組み合わせた構造で、摩擦抵抗を効果的に低減させることができる。したがって、船舶や流体搬送パイプなどに適用して好適な流体接触面構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態例による流体接触面構造体の構成を示す平面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態例による流体接触面構造体と、比較例の流体接触面構造体を示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態例による流体接触面構造体のsin波形状の設計手法の例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施の形態例による流体接触面構造体の乱流の計算手法を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施の形態例による乱流速度の例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施の形態例による摩擦抵抗の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)の流体接触面構造体を、添付図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本例の流体接触面構造体1の構造を示す平面図である。
流体接触面構造体1は、滑り面(超撥水面など)で構成された蛇行部分11~18と、その蛇行部分11~18の間の非滑り面21とを有する。本例の場合には、蛇行部分11~18は、流体接触面構造体1から微小に凹ませた溝としてあり、以下の説明では、蛇行部分11~18を溝11~18と称する。
【0011】
溝11~18の表面(底面)を超撥水面などの滑り面とするための方法としては、撥水性の高い物質をコーティングする手法や、エッチングなどで表面を直接加工する手法などがある。非滑り面21としては、例えば、流体接触面構造体1を構成する素材をそのまま使用する。これにより、非滑り面21が持つ摩擦抵抗よりも、溝11~18が持つ摩擦抵抗の方が小さくなる。
なお、蛇行部分である溝(蛇行部分)11~18を溝状に構成する点は一例であり、溝11~18を非滑り面21と同一面に配置した滑り面としてもよい。
【0012】
滑り面である各溝11~18は、それぞれの溝11,12,13,・・・が一定の幅であると共に、一定の間隔で配置されている。また、各溝11~18は、sin波形状(正弦波形状)に形成されている。ここで、各溝11~18の隣接した各蛇行部分は、逆方向に蛇行して接触した状態と離れた状態を繰り返している。例えば、溝11と溝12とは、接触箇所11a,12aで接触する。また、溝12と溝13とは、接触箇所12b,13bで接触している。そして、これらの滑り面である溝11,12,13,・・・の間に、非滑り面21が配置されている。
【0013】
なお、
図1の流体接触面構造体1の水平方向(横方向)の0、π、2π、3π、4πは、各溝11~18のsin波形状の位置を示し、4πで1周期のsin波形状であることを示す。したがって、流体接触面構造体1を水平方向に延長する場合には、
図1に示す0から4πまでの区間の構成が連続することになる。
また、
図1は平面図として示されているが、流体搬送パイプの場合には、例えば
図1の垂直方向(縦方向)の0と2πの位置が接続された、曲面になる。
【0014】
図2は、本例の流体接触面構造体1と、比較例の流体接触面構造体の例をそれぞれ平面図として示す。
図2のAは、1つの比較例として、滑り面を構成する直線状の溝101,102,103,104,・・・を、一定間隔で平行に配置した例である。溝101,102,103,104,・・・以外の箇所、つまり各溝の間の箇所は、非滑り面である。
各溝101,102,103,104,・・・の幅をd、2本の溝101,102の間隔をlとする。溝の幅dと2本の溝の間隔lは、
図2のB,C,Dの例も同じである。
【0015】
図2のBは、別の比較例を示す。
図2のBに示す例では、滑り面を構成するsin波形状の溝201,202,203,204,・・・を、一定間隔で配置し、溝201,202,203,204,・・・以外の箇所、つまり各溝の間の箇所を、非滑り面としている。
それぞれの溝201,202,203,204,・・・は、隣接した溝(滑り面)とは接触しないようになっており、最も接近した箇所でも若干の隙間を設けるようにしている。したがって、非滑り面も長手方向に幅が変化しながら連続して配置されている。
【0016】
図2のCは、本例の流体接触面構造体の変形例を示す。
図2のCに示す例は、滑り面を構成するsin波形状に蛇行した溝301,302,303,304,・・・を、一定間隔で配置し、溝301,302,303,304,・・・以外の箇所、つまり各溝の間の箇所を、非滑り面としている。
蛇行した各溝301,302,303,304,・・・は、隣接した溝(滑り面)と接触した箇所でも、それぞれの溝の幅dを維持した状態で接触している。また、非滑り面は、それぞれの溝が隣接した溝と接触した箇所で途切れた状態になっている。
なお、sin波形状の各溝301,302,303,304,・・・の中心線のシフト量(蛇行量)を2Aとする。
【0017】
図2のDは、本例の流体接触面構造体1、つまり
図1に示す流体接触面構造体1と同じ構造を示す。
図2のDに示す流体接触面構造体1は、滑り面を構成するsin波形状に蛇行した溝11,12,13,14,・・・を、一定間隔で配置し、溝11,12,13,14,・・・以外の箇所、つまり各溝の間の箇所を、非滑り面(
図2に示す非滑り面21)としている。
それぞれの溝11,12,13,14,・・・は、隣接した溝(滑り面)と幅dが重なる状態で接触している。つまり、2本の溝が重なった箇所では、1本分の溝の幅dになっている。この例でも、sin波形状の各溝11,12,13,14,・・・の中心線のシフト量(蛇行量)を2Aとする。
【0018】
図3は、本例の流体接触面構造体1のsin波形状の各溝11,12,13,14,・・・の最小単位の設計手法を示す。
図2のB,C,Dに示す溝は、全て同じ手法で制作できる。
まず、
図3のAに示すように、滑り面加工を施す箇所に、z=l/4およびz=3l/4の基準線を引く。zは溝の長手方向xと直交する方向であり、lは
図2で説明した2本の溝の配置間隔である。
【0019】
次に、
図3のBに示すように、
図3のAで設定した基準線を軸として、Acos{(2π/λ)x}のcos波状の補助線を設定する。
さらに、
図3のCに示すように、
図3のBに示すcos波状の補助線をz方向(
図3の上下方向:溝の長手方向xと直交する方向)に+d/2に平行移動して1本の線を引くと共に、-d/2に平行移動してもう1本の線を引く。この
図3のCに示す2本の線の間を、各溝11,12,13,14,・・・にする。
これにより、滑り面を構成するsin波形状の溝が形成される。
【0020】
ここで、
図2のA,B,C,Dに示す4種類の流体接触面構造体で、1つの溝の形状は、以下の数式により決定される。
【0021】
[数1]
Ct(x)=l/4+Acos{(2π/λ)・x}+d/2
【0022】
[数2]
Cb(x)=l/4+Acos{(2π/λ)・x}-d/2
【0023】
dは微小溝の幅、lは最小単位の幅、Aは振幅、λは波長であり、Cb(x)<z<Ct(x)を満たす範囲が溝になる。溝の最小単位の幅はl=1.571になり、4つの溝に関する振幅は、表1に示す値に固定される。
ここで、全壁面に対する溝の面積割合Sおよび振幅A、波長λが抵抗低減率に及ぼす影響を考える。
面積割合Sは、微小溝の幅dおよび最小単位の幅lによって決定されるため、これらの3つのパラメータの関係を表2に示す。
【0024】
【0025】
【0026】
溝の面積割合Sについて説明すると、例えば、全壁面に対する溝の面積割合Sが50%ということは、流体接触面構造体の半分が滑り面であり、残りの半分が非滑り面であることを示す。ここで、後述するように、滑り面の面積割合Sが大きいほど、摩擦抵抗が低減する。
【0027】
図4は、本例の流体接触面構造体10の乱流の計算手法の概要を示す図である。
図4に示すように、滑り面である溝11,12,13,14,・・・と非滑り面21とが配置された流体接触面構造体10(平面)の上に、L
1(z方向),L
2/2(y方向),L
3(x方向)の立方体を想定する。なお、
図4では、溝11,12,13,14は配置方向を概略的に示したものであり、実際の各溝の構成は
図1などで説明した通りである。
【0028】
図5は、この
図4に示す立方体内に、θ=0°の方向、つまり溝11,12,13,14,・・・の長手方向(z方向)に流体を流したときの、流体速度Ubの時間(t)の変化を示す。
図5に示す各特性について以下説明する。
図5に示す[No-slip]の特性は、比較例として示した、構造体の表面が全て非滑り面の場合の特性である。
図5に示すように、[No-slip]の特性の場合には、ほとんど流体速度に対する変化がない。
【0029】
図5に示す[Straight]の特性は、
図2のAに示す直線状の溝(滑り面)101,102,・・・を一定間隔で配置した例の特性である。この[Straight]の特性の場合には、滑り面の効果により、流体速度がある程度高くなっている。
【0030】
図5に示す[Sinwave1]の特性は、
図2のCに示すsin波形状の溝(滑り面)301,302,・・・を、幅dを変化させずに接続させて配置した例の特性である。この[Sinwave1]の特性の場合には、[Straight]の特性よりも流体速度が高くなっている。
図5に示す[Sinwave2]の特性は、
図2のDに示すsin波形状の溝(滑り面)11,12,・・・を、幅dを接続箇所で変化させながら配置した例、つまり
図1に示す流体接触面構造体1の構成の場合の特性である。この[Sinwave2]の特性の場合には、[Sinwave1]の特性よりもさらに流体速度が速くなっている。
【0031】
なお、
図5には示されていないが、
図2のBに示すsin波形状の溝(滑り面)201,202,・・・を、間隔を開けて一定間隔で配置した例の場合、[Straight]の特性よりは摩擦抵抗が低減する。したがって、摩擦抵抗を少しでも高くしたい場合には、
図2のBに示すように、sin波形状の溝を一定間隔で間隔を開けて配置することも考えられる。但し、摩擦抵抗の低減効果は、
図2のCに示す形状や
図2のDに示す形状のようなsin波形状の溝を接続した状態で配置した方が、より摩擦抵抗の低減効果が高く、好ましい。
【0032】
図6は、
図2のAに示す構成の特性[Straight]、
図2のCに示す構成の特性[Sinwave1]、及び
図2のDに示す構成の特性[Sinwave2]のそれぞれで、滑り面と非滑り面との面積割合Sを変化させた場合における摩擦抵抗に相当する流体の流れやすさを示す値Rdの変化を示したものである。
図6の横軸の値Raが、滑り面の面積割合Sに相当する。
図6に示すRa=0.1が面積割合S=10%であり、Ra=0.5が面積割合S=50%である。また、
図6の縦軸の値Rdは、摩擦抵抗に関係する値であり、数値が高いほど、摩擦抵抗が低いことを示す。
【0033】
この
図6に示すように、3つの特性[Straight],[Sinwave1],[Sinwave2]のいずれも、摩擦抵抗は滑り面の面積割合Sが高くなるほど低くなっている。
図6によれば、摩擦抵抗の低減効果は、[Sinwave2]が最も高くなり、[Sinwave1]は[Sinwave2]は若干低くなっている。
【0034】
以上説明したように、本例の流体接触面構造体によると、滑り面として、sin波形状の蛇行部分を設けたことで、滑り面と非滑り面とを組み合わせた構造で、摩擦抵抗を効果的に低減させることができる。
また、
図2のCや
図2のDに示すように、sin波形状の蛇行部分を隣接した蛇行部分と接続することで、より摩擦抵抗を減らす効果が高くなる。特に、
図1や
図2のDに示すように、隣接した蛇行部分と幅を変えながら接続する構成としたことで、最も摩擦抵抗を減らす効果が高くなる。
本例の流体接触面構造体は、船舶や流体搬送パイプなど流体と接触する面の構造体として、様々なものに適用が可能である。
【0035】
なお、滑り面として、表面から凹ませた溝としたのは一例であり、非滑り面と同一面、あるいは非滑り面から突出した面として、滑り面を構成してもよい。また、滑り面として超撥水面とするのも一例であり、流体に対する摩擦抵抗が非滑り面よりも低い面であれば、その他の表面構造としてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…流体接触面構造体
11~18…溝(蛇行部分:滑り面)
21…非滑り面
101~104、201~204、301~304…溝(滑り面)