(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134918
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ミシンフット、及びそれを備えたミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 29/06 20060101AFI20240927BHJP
D05B 29/12 20060101ALI20240927BHJP
A41H 37/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
D05B29/06
D05B29/12
A41H37/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045367
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 典浩
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA22
3B150BA05
3B150BB04
3B150CC04
3B150CE23
3B150EA01
3B150EA13
3B150EA14
3B150JA17
(57)【要約】
【課題】生地の切替部など、生地が厚い部分でスライダーの摺動が重くなるのを抑制することができるミシンフット、及びそれを備えたミシンを提供する。
【解決手段】スライドファスナー(91)を生地(95)に縫製するためのミシンに実装される、ミシンフット(10)は、ミシンの押さえ棒(A)に取り付けられるシャンク(11)と、シャンクに対して上下方向且つ、左右方向に移動可能に取り付けられ、ミシンの縫製方向にファスナーエレメント列(93)を案内するガイド溝(21a、21b)を有するエレメントガイド(20)と、縫製中のエレメントガイドのシャンクに対する高さに対応してエレメントガイドの左右位置を変更するガイド位置変更機構(30)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドファスナー(91)を生地(95)に縫製するためのミシンに実装される、ミシンフット(10)であって、
前記ミシンの押さえ棒(A)に取り付けられるシャンク(11)と、
前記シャンク(11)に対して上下方向且つ、左右方向に移動可能に取り付けられ、前記ミシンの縫製方向にファスナーエレメント列(93)を案内するガイド溝(21a、21b)を有するエレメントガイド(20)と、
縫製中の前記エレメントガイド(20)の前記シャンク(11)に対する高さに対応して前記エレメントガイド(20)の左右位置を変更するガイド位置変更機構(30)と、
を備える、ミシンフット(10)。
【請求項2】
前記ガイド位置変更機構(30)は、前記エレメントガイド(20)が前記シャンク(11)に対して所定の高さ範囲までは上下方向のみ移動し、前記エレメントガイド(20)が前記シャンク(11)に対して所定の高さ範囲を越えて上方に移動したとき、前記エレメントガイド(20)の高さに応じて前記エレメントガイド(20)を左右方向一方側に移動させるカム機構(60)を有する、請求項1に記載のミシンフット(10)。
【請求項3】
前記カム機構(60)は、
前記シャンク(11)と前記エレメントガイド(20)のいずれか一方の側に取り付けられ、カム溝(66)を有するカムブロック(65)と、
前記シャンク(11)と前記エレメントガイド(20)のいずれか他方の側に取り付けられ、前記カム溝(66)内を移動するカムピン(71)を保持するピン保持ブロック(70)と、
を有する、請求項2に記載のミシンフット(10)。
【請求項4】
前記カムブロック(65)における前記カム溝(66)は、上下方向に沿った第1溝部(66a)と、前記第1溝部(66a)の上端部から左右方向一方側に傾斜または湾曲する第2溝部(66b)と、を有する、請求項3に記載のミシンフット(10)。
【請求項5】
前記カムブロック(65)が前記シャンク(11)の側に取り付けられ、前記ピン保持ブロック(70)は、前記エレメントガイド(20)の側に取り付けられる、請求項3に記載のミシンフット(10)。
【請求項6】
前記ガイド位置変更機構(30)は、
一端部が前記ピン保持ブロック(70)に固定されて前記左右方向に延び、前記エレメントガイド(20)を軸支且つ位置決め固定する固定軸(32)と、
前記固定軸(32)回りに揺動不能で、前記固定軸(32)に対して左右方向に相対移動可能となるように、前記固定軸(32)に軸支され、且つ、前記シャンク(11)に挿通されて上下方向に延びる支持軸(52)が固定されるガイド保持部(35)と、
前記シャンク(11)と前記ガイド保持部(35)との間に配置され、前記シャンク(11)に対して前記ガイド保持部(35)を下方に付勢する付勢部材(50)と、
を備える、請求項3に記載のミシンフット(10)。
【請求項7】
前記ガイド保持部(35)は、前記ガイド保持部(35)と前記ピン保持ブロック(70)との対向面間で、前記ガイド保持部(35)と前記ピン保持ブロック(70)との左右方向の相対移動を許容するように取り付けられた第1の案内軸(41)によって、左右方向に案内されるとともに、前記固定軸(32)回りの揺動を不能としている、請求項6に記載のミシンフット(10)。
【請求項8】
前記ガイド保持部(35)は、前記ガイド保持部(35)の前記シャンク(11)に対する上下方向の移動を許容するように前記シャンク(11)に取り付けられた第2の案内軸(45)によって案内される、請求項7に記載のミシンフット(10)。
【請求項9】
前記シャンク(11)の側に設けられ、前記シャンク(11)の側に設けられた前記カムブロック(65)又は前記ピン保持ブロック(70)の前記シャンク(11)に対する高さを調整し、前記エレメントガイド(20)が前記シャンク(11)に対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを設定するタイミング調整部(80)をさらに備える、請求項3に記載のミシンフット(10)。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のミシンフットを備えるミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナーを生地に縫製するためのミシンに実装される、ミシンフット、及びそれを備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ミシンの構成部品の一つとして、ミシン台の上に載せた縫製物である生地と隠しスライドファスナーを上から押さえるミシンフットが用いられていることが記載されている。特許文献1には、押え金本体に対して取り付けられる押え金が、被縫製物送り方向と略直交する方向に移動して、ファスナーの咬合子を、被縫製物の厚みに略応じて、針落ち位置に対して所定間隔に近接及び離間した位置に縫い付けガイドするミシン用押え金が記載されている。
【0003】
また、特許文献2では、固定部材の取付用穴に遊嵌させた固定軸を回転させて、固定軸を摩擦係止させることで、固定部材に対して、押え部材が上下方向へ揺動可能に、かつ左右方向へ移動可能に連結され、縫製時生地の厚みが変動しても押え部材の上下方向の揺動で、無理な力が加わるのを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-33514号公報
【特許文献2】実公昭56-45577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スライドファスナーが縫い付けられる生地は、厚みが他の部分よりも厚くなる、切替部を有する場合がある。切替部においては、特に隠しスライドファスナーにおいて、生地の厚みの分スライダーが通る隙間が制限されるため、生地とスライダーとの接触面積が大きくなり、摺動抵抗が大きくなる。そのため、スライダーを摺動させるために他の部分よりも大きな力が必要となる。すなわち、スライダーの摺動は、切替部にて重くなる。特許文献1及び2に記載のミシンフットでは、縫製前にエレメントを縫製する左右位置を調整することはできるが、縫製中に調整することはできない。このため、上述の課題を解決することはできなかった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生地の切替部など、生地が厚い部分でスライダーの摺動が重くなるのを抑制することができるミシンフット、及びそれを備えたミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) スライドファスナーを生地に縫製するためのミシンに実装される、ミシンフットであって、
前記ミシンの押さえ棒に取り付けられるシャンクと、
前記シャンクに対して上下方向且つ、左右方向に移動可能に取り付けられ、前記ミシンの縫製方向にファスナーエレメント列を案内するガイド溝を有するエレメントガイドと、
縫製中の前記エレメントガイドの前記シャンクに対する高さに対応して前記エレメントガイドの左右位置を変更するガイド位置変更機構と、
を備える、ミシンフット。
(2) 前記ガイド位置変更機構は、前記エレメントガイドが前記シャンクに対して所定の高さ範囲までは上下方向のみ移動し、前記エレメントガイドが前記シャンクに対して所定の高さ範囲を越えて上方に移動したとき、前記エレメントガイドの高さに応じて前記エレメントガイドを左右方向一方側に移動させるカム機構を有する、(1)に記載のミシンフット。
(3) 前記カム機構は、
前記シャンクと前記エレメントガイドのいずれか一方の側に取り付けられ、カム溝を有するカムブロックと、
前記シャンクと前記エレメントガイドのいずれか他方の側に取り付けられ、前記カム溝内を移動するカムピンを保持するピン保持ブロックと、
を有する、(2)に記載のミシンフット。
(4) 前記カムブロックにおける前記カム溝は、上下方向に沿った第1溝部と、前記第1溝部の上端部から左右方向一方側に傾斜または湾曲する第2溝部と、を有する、(3)に記載のミシンフット。
(5) 前記カムブロックが前記シャンクの側に取り付けられ、前記ピン保持ブロックは、前記エレメントガイドの側に取り付けられる、(3)に記載のミシンフット。
(6) 前記ガイド位置変更機構は、
一端部が前記ピン保持ブロックに固定されて前記左右方向に延び、前記エレメントガイドを軸支且つ位置決め固定する固定軸と、
前記固定軸回りに揺動不能で、前記固定軸に対して左右方向に相対移動可能となるように、前記固定軸に軸支され、且つ、前記シャンクに挿通されて上下方向に延びる支持軸が固定されるガイド保持部と、
前記シャンクと前記ガイド保持部との間に配置され、前記シャンクに対して前記ガイド保持部を下方に付勢する付勢部材と、
を備える、(3)に記載のミシンフット。
(7) 前記ガイド保持部は、前記ガイド保持部と前記ピン保持ブロックとの対向面間で、前記ガイド保持部と前記ピン保持ブロックとの左右方向の相対移動を許容するように取り付けられた第1の案内軸によって、左右方向に案内されるとともに、前記固定軸回りの揺動を不能としている、(6)に記載のミシンフット。
(8) 前記ガイド保持部は、前記ガイド保持部の前記シャンクに対する上下方向の移動を許容するように前記シャンクに取り付けられた第2の案内軸によって案内される、(7)に記載のミシンフット。
(9) 前記シャンクの側に設けられ、前記シャンクの側に設けられた前記カムブロック又は前記ピン保持ブロックの前記シャンクに対する高さを調整し、前記エレメントガイドが前記シャンクに対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを設定するタイミング調整部をさらに備える、(3)に記載のミシンフット。
(10) (1)~(9)のいずれかに記載のミシンフットを備えるミシン。
【発明の効果】
【0008】
本発明のミシンフット、及びそれを備えたミシンによれば、スライドファスナーを生地に縫製している途中で、生地厚に応じて生地に対するスライドファスナーの縫製位置を左右方向に変更可能とし、生地の切替部など、生地が厚い部分でスライダーの摺動が重くなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るミシンフットを示す斜視図である。
【
図3】ガイド保持部及びピン保持ブロックの内部を透過して示す、
図2のミシンフットの要部正面図である。
【
図4】ガイド保持部及びピン保持ブロックの内部を示す、
図5のIV-IV線に沿った断面図である。
【
図6】ガイド保持部の内部を透過して示す、
図5のミシンフットの左側面図である。
【
図8】ピン保持ブロックの内部を透過して示す、
図7のミシンフットの右側面図である。
【
図10】切替部以外におけるファスナーエレメント列をガイドしている際の、カム溝とカムピンの位置関係を示す、ミシンフットの要部正面図である。
【
図11】切替部におけるファスナーエレメント列をガイドしている際の、カム溝とカムピンの位置関係の一例を示す、ミシンフットの要部正面図である。
【
図12】スライドファスナーと生地とが縫い合わされた縫製物を示す断面図である。
【
図13】スライドファスナーが縫製された生地を生地側から見た縫製物を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係るミシンフット、及びそれを備えたミシンについて、図面に基づいて詳細に説明する。
まず、
図12を参照して、本発明のミシンフットを備えたミシンにより縫製された物の一例、すなわち縫製物の一例について示す。この縫製物9は、スライドファスナー91と、生地95とが縫製糸94で縫い合わされた物である。スライドファスナー91は、例えば隠しスライドファスナーである。
【0011】
スライドファスナー91は、長手方向と幅方向とを有する長尺状の一対のファスナーテープ92,92と、各ファスナーテープ92の一方主面における幅方向の一方の端部において、長手方向に沿って縫着されたファスナーエレメント列93と、一対のファスナーエレメント列93,93に沿って摺動するスライダー(図示略)とを備えている。ファスナーエレメント列93はコイルエレメントからなる。そして、各ファスナーテープ92は、おのおのファスナーエレメント列93が設けられた幅方向の一方の端部を、ファスナーテープ92の他方主面が向かい合うように折り返して重ね合わされている。スライドファスナー91は、一対のファスナーテープ92,92が折り返して接触する面(突き合わせ面)を有し、
図12における上側から見て、ファスナーエレメント列93がファスナーテープ92に隠れるように設けられている。スライダーは、隠しスライドフファスナーを開く際に、一方のファスナーテープ92と他方のファスナーテープ92とが折り返して接触する面(突き合わせ面)を割り開いて摺動する。本実施形態のミシンフットは、このようなスライドファスナー91の長手方向に沿って、各ファスナーテープ92と生地95を縫製糸94によって縫製する際に用いることができる。
【0012】
本実施形態のミシンフット10は、
図1~
図9に示すように、ミシン(図示せず)の押さえ棒Aに取り付けられるシャンク11と、シャンク11に対して上下方向且つ、左右方向に移動可能に取り付けられ、ミシンの縫製方向にファスナーエレメント列93を案内するガイド溝21aを有するエレメントガイド20と、縫製中のエレメントガイド20のシャンク11に対する高さに対応してエレメントガイド20の左右位置を変更するガイド位置変更機構30と、を備える。
【0013】
以後の方向性を説明するに際して、縫製物9またはスライドファスナー91の送り方向を前方向と言い、前方向に平行な方向を、長手方向あるいは前後方向と言う。また、上下方向とは、ミシンの針(図示せず)が往復動する方向であり、上側とは、
図2の上側であり、下側とは、
図2の下側である。さらに、前後方向と上下方向とに直交する方向とは、幅方向あるいは左右方向とも言い、左側とは
図2の左側であり、右側とは
図2の右側である。また、
図12において、スライドファスナー91の幅方向とは、
図12の左右方向である。なお、
図1において、一点鎖線で示された領域Bは、上下に往復動するミシンの針が設けられる。
【0014】
シャンク11は、
図5にも示すように、上下方向に延長するミシンの押さえ棒Aを挿入する挿入穴12を上面の前後方向中央部に備えている。挿入穴12は、シャンク11の右側部分(左端部分を除く部分)において、底面12aまで下方に向けて延び、かつ、上方、右方及び後方に開放して形成され、また、シャンク11の左端部分において、上向きに開口してU字状に形成されている。言い換えれば、シャンク11は、前後方向に対向して配置される前部13及び後部14と、前部13及び後部14の互いの左端部を接続するとともに、前部13から延びて底面12aを形成する中間部15と、を備える。前部13は前後方向において中間部15の一方側に連なっており、後部14は前後方向において中間部15の一方側に対向する他方側に連なっている。また、前部13、中間部15、及び後部14は、各々の上端が面一になるように連なっており、各々の下端の上端からの距離は、後部14、中間部15、前部13の順に長く形成されている。なお、前部13、後部14、及び中間部15の下端は、いずれもエレメントガイド20のガイド溝21aより上下方向に対して上側の位置になるように設けられている。
【0015】
図1及び
図2に示すように、エレメントガイド20には、上述したように、スライドファスナー91のファスナーエレメント列93を案内するガイド溝21aが前後方向に亘って形成されている。ガイド溝21aは、下向きに開口するコの字状の溝であって、上下方向に対して角度をもって形成される。ガイド溝21aは、上方に向かうにつれて左方に傾いて形成される。ガイド溝21aの角度は、例えば45°以上90°未満である。エレメントガイド20には、ミシンの針が往復動する領域Bの下方に、上下方向に貫通する針通し穴22が左右方向に長い長円状に形成されている。また、針通り穴22よりも前方に位置するエレメントガイド20の上面には、取付部23が設けられている。
【0016】
なお、本実施形態のエレメントガイド20には、上方に向かうにつれて左方に傾いて形成されるガイド溝21aだけでなく、上方に向かうにつれて右方に傾いて形成される他のガイド溝21bも形成されているが、他のガイド溝21bは形成されていなくてもよい。なお、本実施形態のガイド位置変更機構30の構成、即ち、後述するカム溝66の形状は、左側のガイド溝21aを使用するためのものである。他のガイド溝21bを使用する場合には、異なる形状のカム溝を有するガイド位置変更機構30が適用される。
【0017】
さらに、エレメントガイド20の後端部には、左右のガイド溝21a,21bの間で、後方に延びる突起部24が設けられている。突起部24は、ファスナーエレメント列93が縫着されている部分と該ファスナーエレメント列93が縫着されていない他の部分との境界付近を押圧して、ファスナーエレメント列93を起こすようにファスナーテープ92を屈曲させ、左のガイド溝21aに入りやすくしている。
【0018】
ガイド位置変更機構30は、エレメントガイド20をシャンク11に対して機械的に連結するとともに、上述したように、縫製中のエレメントガイド20のシャンク11に対する高さに対応してエレメントガイド20の左右位置を変更する。
【0019】
ガイド位置変更機構30は、エレメントガイド20を支持する支持機構31と、支持機構31を介してエレメントガイド20を下方に向けて付勢する付勢部材50と、シャンク11と支持機構31との間に配置されるカム機構60と、カム機構60の作動タイミングを調整するタイミング調整部80と、を備える。
【0020】
図2~
図7にも示すように、支持機構31は、固定軸32、ガイド保持部35、第1の案内軸41、及び第2の案内軸45を有する。
図2~
図4を参照して、固定軸32は、エレメントガイド20の取付部23に形成された左右方向に貫通する貫通穴23aに挿通され、止めネジ33によってエレメントガイド20に位置決め固定される。また、固定軸32は、カム機構60の後述するピン保持ブロック70に形成された穴70aに挿通され、止めネジ72によってピン保持ブロック70にも位置決め固定される。さらに、固定軸32は、ガイド保持部35に形成された左右一対の軸支持部37,38の支持穴37a,38aに取り付けられたベアリング34a,34b内を挿通し、ガイド保持部35に対して左右方向に相対移動できるように設けられる。
【0021】
ガイド保持部35は、固定軸32に固定されたエレメントガイド20の取付部23が左右方向に相対移動できるように、取付部23の左右方向幅よりも幅広な凹部36を下方に形成している。また、ガイド保持部35は、この凹部36の左右方向両側に、ベアリング34a,34bを支持する支持穴37a,38aが設けられた一対の軸支持部37,38を有する。さらに、ガイド保持部35は、一対の軸支持部37,38の下面から前方に延在して、左右方向に架け渡された板状部39を有し、この板状部39には、第2の案内軸45が挿通されるベアリング40を支持する支持穴(図示せず)が上下方向に貫通して形成されている。
【0022】
図3及び
図4に示すように、第1の案内軸41は、ガイド保持部35に左右方向に沿って形成された穴35aに挿通されて、止めネジ42によって位置決め固定されている。第1の案内軸41は、固定軸32より上方で、且つ、固定軸32と平行に左右方向に延在する。また、第1の案内軸41は、一端部(右端部)がピン保持ブロック70に形成された穴70bに設けられたベアリング43内を挿通する。この第1の案内軸41によって、ガイド保持部35は、固定軸32回りに揺動不能、かつ、ピン保持ブロック70に対して左右方向に相対移動可能となる。
【0023】
図6に示すように、第2の案内軸45は、シャンク11の中間部15の下面に形成された穴11aに挿通されて、止めネジ46によって位置決め固定され、上述したガイド保持部35の板状部39のベアリング40に移動可能に挿通される。これにより、ガイド保持部35及びエレメントガイド20は、第2の案内軸46を介して、シャンク11に対して上下方向に案内される。
【0024】
また、付勢部材50は、コイルばねであり、ガイド保持部35の上面上を上下方向に延びる支持軸52回りに配置される。支持軸52は、ガイド保持部35に形成された穴35bに挿通されて、止めネジ51によって位置決め固定されおり、支持軸52の上部は、シャンク11の後部14に形成された貫通穴14aに上下方向に移動可能に挿通される。付勢部材50は、シャンク11の後部14の下面と、ガイド保持部35の上面との間で伸縮自在に配置されている。
【0025】
カム機構60は、
図1~
図3に示すように、シャンク11に固定されたベース部材61と、ベース部材61に上下方向に移動可能に取り付けられ、カム溝66を有するカムブロック65と、カム溝66内を移動するカムピン71を保持するピン保持ブロック70と、カムブロック65に固定された略L字状のブロックカバー75と、を備える。
【0026】
具体的に、ベース部材61は、シャンク11の前部13の右側面に固定されており、ベース部材61の左右方向中間部には、上下方向に延びる上面視T字形のスリット62が形成されている。また、ベース部材61の右側上部には、後方に突出して、後述するタイミング調整ノブ81から下方に延びる調整軸82が貫通する台部63が設けられている。
【0027】
カムブロック65は、
図9にも示すように、略直方体状に形成されるブロック本体67と、ブロック本体67から前方に突出して、ベース部材61のスリット62に嵌合して案内される上面視T字形の突出部68と、を有する。カム溝66は、上下方向に沿った第1溝部66aと、前記第1溝部66aの上端部から左右方向一方側に傾斜または湾曲(本実施形態では、傾斜)する第2溝部66bと、を有する。カム溝66は、カムブロック65のブロック本体67を前後方向に貫通するように貫通孔として形成されていてもよい。第2溝部66bの傾斜角度は、例えば45°以上90°未満であり、より好ましくは45°以上60°である。また、カムブロック65の上面には、調整軸82の雄ねじと螺合する雌ねじ部67aが開口している。
【0028】
図8に示すように、ピン保持ブロック70は、前後方向に貫通する穴70c(
図2参照)に挿通され、止めネジ76によって位置決め固定されるカムピン71を有し、カムピン71の周囲にベアリング77が取り付けられる。さらに、
図3及び
図4に示すように、ピン保持ブロック70には、前述した固定軸32及び第1の案内軸41が挿通される、左右方向に貫通する穴70a,70bが形成され、第1の案内軸41が挿通される穴70bには、ベアリング43が配置されている。また、ピン保持ブロック70の穴70aに挿通される固定軸32は、止めネジ72によってピン保持ブロック70に位置決め固定される。
【0029】
本実施形態のミシンフット10の動作について以下に詳述する。
図10は切替部C以外(
図13におけるX地点)におけるファスナーエレメント列93をガイドしている際の、カム溝66とカムピン71の位置関係を示す、ミシンフット10の要部正面図である。
図10では、例えば一枚の生地95とファスナーテープ92とを縫製する。
図11は切替部C(
図13におけるY地点)におけるファスナーエレメント列93をガイドしている際の、カム溝66とカムピン71の位置関係を示す、ミシンフット10の要部正面図である。
図11では、複数枚(例えば3枚)の生地95,95,95とファスナーテープ92とを縫製する。
図10に示すように、切替部C以外においては、付勢部材50の付勢力によって、エレメントガイド20の左右方向の位置が初期位置となるよう維持される。なお、エレメントガイド20の左右方向の初期位置は、エレメントガイド20が移動可能な左右方向の右端にある状態を指す。
【0030】
図10に示すように、ミシン台Mに配置された、ファスナーテープ92と生地95との合計の厚みによって、エレメントガイド20が付勢部材50の付勢力に抗して上方に移動する際、エレメントガイド20の移動に伴ってピン保持ブロック70が上方に移動する。その際、エレメントガイド20がシャンク11に対して所定の高さ範囲まで、即ち、カムピン71及びベアリング77がカム溝66の第1溝部66a内に位置する間は、エレメントガイド20は、ピン保持ブロック70、固定軸32及びガイド保持部35によって上方のみ移動し、エレメントガイド20の左右方向の位置は初期位置である。
一方、エレメントガイド20が所定の高さ範囲を越えて上方にさらに移動すると、
図11に示すように、カムピン71及びベアリング77は、カム溝66の第2溝部66b内に沿って斜め上方に移動し、ピン保持ブロック70がカムブロック65に対して上方及び左側に移動し、固定軸32を介してエレメントガイド20も上方及び左側に移動する。すなわち、エレメントガイド20の左右方向の位置は初期位置よりも左方向に位置する。
【0031】
なお、カムピン71の径はカム溝66の径よりも小さく設けられており、カムピン71はカム溝66に遊嵌している。カムピン71は、カム溝66の斜面に沿って反時計回りに移動する。すなわち、
図10において、カムピン71が上方に移動する際はカム溝66の右端の面に当接して移動し、カムピン71が下方に移動する際はカム溝66の左端の面に当接して移動する。また、
図11において、カムピン71が上方に移動する際はカム溝66の右上の斜面に当接して移動し、カムピン71が下方に移動する際はカム溝66の左下の斜面に当接して移動する。
【0032】
図1に戻って、ブロックカバー75は、カムブロック65の右側面に固定されて、ピン保持ブロック70の後面と当接するように屈曲している。これにより、ピン保持ブロック70が上下方向または左右方向に移動する際に前後方向に変位するのを規制する。
【0033】
タイミング調整部80は、前述したタイミング調整ノブ81を回転させることで、カムブロック65がシャンク11に固定されたベース部材61によって案内されながら、調整軸82によってカムブロック65が上下動する。これにより、タイミング調整部80は、カムブロック65のシャンク11及びベース部材61に対する高さを調整し、エレメントガイド20がシャンク11に対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを設定する。
【0034】
なお、ベース部材61の右側面には、タイミング調整ノブ81によってベース部材61に対して高さ調整した後のカムブロック65をベース部材61に固定するための固定ねじ84が設けられている。
また、ベース部材61の後面には、カムブロック65の高さ位置を確認するための目盛りが表示された高さ表示部85が取り付けられている。
【0035】
これにより、
図13に示す、一対のファスナーエレメント列93,93のコイルエレメント同士が噛合した、縫製物9の上面図において、切替部Cにおける縫製糸94の位置は、切替部C以外の部分と比べて、対向する生地95同士の突き合わせ面96から離れる。切替部Cでは、切替部C以外の部分よりも突き合わせ面96からの距離が長い位置を縫製しているので、縫製糸94の張力により切替部Cにおける突き合わせ面96が切替部C以外の突き合わせ面96よりもやや縫製糸94側に位置する。つまり、切替部Cにおける突き合せ面96の位置を縫製糸94側に位置させることで、縫製物9の生地とスライダーとの接触面積を低減し、摺動抵抗を少なくすることができる。したがって、図示しないスライダーが切替部Cを通過する際に、生地の切替部など、生地が厚い部分でスライダーの摺動が重くなるのを抑制し、また、スライダーの摺動を繰り返すことでスライドファスナー91や生地95が破損するのを防止することができる。
【0036】
また、タイミング調整部80は、カムブロック65のシャンク11に対する高さを調整し、エレメントガイド20がシャンク11に対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを設定することができるので、ファスナーテープ92や生地95の厚みに応じて、エレメントガイド20がシャンク11に対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを予め簡単に設定することができる。
【0037】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0038】
例えば、本実施形態では、カムブロック65がシャンク11の側に取り付けられている一方、前記ピン保持ブロック70は、エレメントガイド20の側に設けられているが、本発明はこれに限らない。
即ち、本発明は、カムブロック65は、シャンク11とエレメントガイド20のいずれか一方の側に取り付けられればよく、ピン保持ブロック70は、シャンク11とエレメントガイド20のいずれか他方の側に取り付けられればよい。
また、カムブロック65又はピン保持ブロック70がシャンク11の側に取り付けられるとは、本実施形態のように、シャンク11に固定されたベース部材61に取付けられてもよいし、ベース部材61がシャンク11と一体に形成されている場合には、シャンク11に直接取り付けられてもよい。
さらに、カムブロック65又はピン保持ブロック70がエレメントガイド20の側に取り付けられているとは、本実施形態のように、エレメントガイド20に固定された固定軸32に取り付けられてもよいし、エレメントガイド20と一体に作動する他の構成であってもよい。
【0039】
また、本実施形態では、エレメントガイド20の上面の左右方向中央に一箇所の取付部23が設けられており、ガイド保持部35の一対の軸支持部37,38が凹部36によって取付部23と左右方向隙間を持って配置される。そして、固定軸32が取付部23に固定して取り付けられ、ベアリング34a,34bを介して一対の軸支持部37,38に左右方向に移動可能に挿通されている。
しかしながら、本発明はこれに限らず、例えば、ガイド保持部35の下面の一箇所の軸支持部を設け、エレメントガイド20の上面の左右方向両側に一対の取付部が凹部によって軸支持部と左右方向隙間を持って配置されてもよい。そして、固定軸32が一対の取り付け部に固定して取り付けられ、ベアリングを介して軸支持部に左右方向に移動可能に挿通されてもよい。
【0040】
さらに、本実施形態では、縫製中の前記エレメントガイドの前記シャンクに対する高さに対応して前記エレメントガイドの左右位置を変更するガイド位置変更機構として、カム機構が用いられているが、本発明のガイド位置変更機構は、歯車機構やリンク機構を用いて構成されてもよい。
【0041】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) スライドファスナーを生地に縫製するためのミシンに実装される、ミシンフットであって、
前記ミシンの押さえ棒に取り付けられるシャンクと、
前記シャンクに対して上下方向且つ、左右方向に移動可能に取り付けられ、前記ミシンの縫製方向にファスナーエレメント列を案内するガイド溝を有するエレメントガイドと、
縫製中の前記エレメントガイドの前記シャンクに対する高さに対応して前記エレメントガイドの左右位置を変更するガイド位置変更機構と、
を備える、ミシンフット。
この構成によれば、生地の切替部など、生地が厚い部分でスライダーの摺動が重くなるのを抑制することができる。
【0042】
(2) 前記ガイド位置変更機構は、前記エレメントガイドが前記シャンクに対して所定の高さ範囲までは上下方向のみ移動し、前記エレメントガイドが前記シャンクに対して所定の高さ範囲を越えて上方に移動したとき、前記エレメントガイドの高さに応じて前記エレメントガイドを左右方向一方側に移動させるカム機構を有する、(1)に記載のミシンフット。
この構成によれば、縫製中のエレメントガイドのシャンクに対する高さに対応してエレメントガイドの左右位置を変更するガイド位置変更機構を、カム機構によって構成することができる。
【0043】
(3) 前記カム機構は、
前記シャンクと前記エレメントガイドのいずれか一方の側に取り付けられ、カム溝を有するカムブロックと、
前記シャンクと前記エレメントガイドのいずれか他方の側に取り付けられ、前記カム溝内を移動するカムピンを保持するピン保持ブロックと、
を有する、(2)に記載のミシンフット。
この構成によれば、カム機構を、カム溝を有するカムブロックと、カムピンを保持するピン保持ブロックとによって、コンパクトに構成することができる。
【0044】
(4) 前記カムブロックにおける前記カム溝は、上下方向に沿った第1溝部と、前記第1溝部の上端部から左右方向一方側に傾斜または湾曲する第2溝部と、を有する、(3)に記載のミシンフット。
この構成によれば、エレメントガイドに上記作動を与えるためのカム溝を、第1溝部と第2溝部とによって、簡易に構成することができる。
【0045】
(5) 前記カムブロックが前記シャンクの側に取り付けられ、前記ピン保持ブロックは、前記エレメントガイドの側に取り付けられる、(3)に記載のミシンフット(10)。
この構成によれば、ミシンフットをコンパクトに構成することができる。
【0046】
(6) 前記ガイド位置変更機構は、
一端部が前記ピン保持ブロックに固定されて前記左右方向に延び、前記エレメントガイドを軸支且つ位置決め固定する固定軸と、
前記固定軸回りに揺動不能で、前記固定軸に対して左右方向に相対移動可能となるように、前記固定軸に軸支され、且つ、前記シャンクに挿通されて上下方向に延びる支持軸が固定されるガイド保持部と、
前記シャンクと前記ガイド保持部との間に配置され、前記シャンクに対して前記ガイド保持部を下方に付勢する付勢部材と、
を備える、(3)に記載のミシンフット。
この構成によれば、ガイド保持部を介して、固定軸及びエレメントガイドの左右方向の相対移動と、付勢部材によるエレメントガイドへの付勢とを両立させることができる。
【0047】
(7) 前記ガイド保持部は、前記ガイド保持部と前記ピン保持ブロックとの対向面間で、前記ガイド保持部と前記ピン保持ブロックとの左右方向の相対移動を許容するように取り付けられた第1の案内軸によって、左右方向に案内されるとともに、前記固定軸回りの揺動を不能としている、(6)に記載のミシンフット。
この構成によれば、ガイド保持部とピン保持ブロックとの左右方向の相対移動を安定して案内することができ、また、ガイド保持部の固定軸回りの揺動を防止することができる。
【0048】
(8) 前記ガイド保持部は、前記ガイド保持部の前記シャンクに対する上下方向の移動を許容するように前記シャンクに取り付けられた第2の案内軸によって案内される、(7)に記載のミシンフット。
この構成によれば、エレメントガイド及びガイド保持部の上下方向の移動を安定して案内することができる。
【0049】
(9) 前記シャンクの側に設けられ、前記シャンクの側に設けられた前記カムブロック又は前記ピン保持ブロックの前記シャンクに対する高さを調整し、前記エレメントガイドが前記シャンクに対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを設定するタイミング調整部をさらに備える、(3)に記載のミシンフット。
この構成によれば、ファスナーテープや生地の厚みに応じて、エレメントガイドがシャンクに対して左右方向一方側に移動する開始タイミングを予め簡単に設定することができる。
【0050】
(10) (1)~(9)のいずれかに記載のミシンフットを備えるミシン。
この構成によれば、生地の切替部など、生地が厚い部分でスライダーの摺動が重くなるのを抑制することができるミシンフットを備えたミシンを提供できる。
【符号の説明】
【0051】
10 ミシンフット
11 シャンク
12 挿入穴
20 エレメントガイド
21a、21b ガイド溝
30 ガイド位置変更機構
31 支持機構
32 固定軸
35 ガイド保持部
41 第1の案内軸
45 第2の案内軸
50 付勢部材
52 支持軸
60 カム機構
65 カムブロック
66 カム溝
66a 第1溝部
66b 第2溝部
70 ピン保持ブロック
71 カムピン
80 タイミング調整部
9 縫製物
91 スライドファスナー
92 ファスナーテープ
93 ファスナーエレメント列
94 縫製糸
95 生地
A 押さえ棒
B ミシンの針がエレメントガイドに対して左右に移動できる可動範囲
C 切替部
M ミシン台