(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134920
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに組電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/293 20210101AFI20240927BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M50/293
H01M10/658
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045369
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】井戸 貴彦
【テーマコード(参考)】
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
5H031EE03
5H031EE04
5H031KK02
5H040AA36
5H040LL04
5H040LL06
5H040NN00
(57)【要約】
【課題】弾性シートによる電池セルへの押圧力の偏りを低減し、電池の寿命の低下を抑制することができる熱伝達抑制シートを提供する。
【解決手段】熱伝達抑制シート10は、無機粒子を含む断熱材11と、断熱材11に積層された弾性シート12と、断熱材11及び弾性シート12を被覆する樹脂フィルム13と、を有する。断熱材11は、厚さ方向に直交する一対の断熱材主面11aを有し、弾性シート12は、厚さ方向に直交する一対の弾性シート主面12aと、一対の弾性シート主面12aを連結する複数の弾性シート端面12bと、を有する。また、断熱材主面11aと、弾性シート主面12aとが対向するように、断熱材11と弾性シート12とが積層されている。さらに、複数の弾性シート端面12bのうち少なくとも1つの端面は、樹脂フィルム13に押圧されることにより断熱材11から離隔するにしたがって内方に傾斜している。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を含む断熱材と、
前記断熱材に積層された弾性シートと、
前記断熱材及び前記弾性シートを被覆する樹脂フィルムと、を有する熱伝達抑制シートであって、
前記断熱材は、厚さ方向に直交する一対の断熱材主面を有し、
前記弾性シートは、厚さ方向に直交する一対の弾性シート主面と、前記一対の弾性シート主面を連結する複数の弾性シート端面と、を有し、
少なくとも一方の前記断熱材主面と、前記一方の弾性シート主面とが対向するように、前記断熱材と前記弾性シートとが積層されており、
前記複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面は、前記樹脂フィルムに押圧されることにより前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜していることを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記弾性シート主面における中央部の面圧が、前記中央部よりも前記樹脂フィルムに押圧された少なくとも1つの端面側の端部領域における面圧よりも低いことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記複数の弾性シート端面は、対向する一対の第1端面と、前記第1端面とは異なる方向に延びる、対向する一対の第2端面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面のうち、一方が前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜しており、他方が前記弾性シートの厚さ方向に略平行であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記複数の弾性シート端面は、対向する一対の第1端面と、前記第1端面とは異なる方向に延びる、対向する一対の第2端面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面は、いずれも前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜しており、前記弾性シートの厚さ方向に対する前記第1端面の傾斜角度と、前記弾性シートの厚さ方向に対する前記第2端面の傾斜角度とが、互いに異なることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記複数の弾性シート端面は、対向する一対の第1端面と、前記第1端面とは異なる方向に延びる、対向する一対の第2端面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面の少なくとも一方における対向する端面は、前記弾性シートの厚さ方向に対する傾斜角度が互いに異なることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記樹脂フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート及び塩化ビニルから選択された少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記樹脂フィルムは、前記断熱材及び前記弾性シートを内包していることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記弾性シートは、ゴム及び熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも1種の材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記断熱材は、さらに、無機繊維、有機繊維及び有機粒子から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを製造する熱伝達抑制シートの製造方法であって、
少なくとも一方の前記断熱材主面と、前記一方の弾性シート主面とが対向するように、前記断熱材と前記弾性シートとを積層して積層体を得る積層工程と、
前記積層体の表面を前記樹脂フィルムで被覆し、前記樹脂フィルムが、前記複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面を押圧するように、前記樹脂フィルムを加熱により収縮させる収縮工程と、を有し、
前記収縮工程において、前記複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面を、前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜させることを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【請求項11】
複数の電池セルと、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに該熱伝達抑制シートを有する組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられており、充放電時や繰り返しの使用により膨張することがある。したがって、電池セルと電池セルとの間には、電池セルの膨張を吸収できるような仕切り部材が配置されることが好ましい。
【0004】
例えば、特許文献1には、断熱シートと、断熱シートの表面に積層してなる弾性層を備えるセパレータであって、弾性層は、電池セルのケース表面に部分的に密着して、前記電池セルの膨張で変形する弾性突出部を有するセパレータが開示されている。また、電池セルとセパレータの間には、電池セルに押圧されて弾性突出部が押圧方向と直行する外周方向に移動するための変形スペースが形成されている。
【0005】
上記特許文献1によると、セパレータが膨張する電池セルに押圧されると、弾性突出部が変形スペースに押し出されて薄くなる。このとき、弾性突出部は、変形スペースに移動して薄くなるので、電池セルの膨張を無理なく吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のセパレータによると、電池セルとセパレータとを組み込む際に、電池セルに対して部分的に弾性層による圧力が印加される。また、電池セルが、充放電時や繰り返しの使用により膨張した場合に、電池セルの主面側に印加される弾性層等による反発力が場所によって大きく異なる場合がある。このように、電池セルの組み込みの際に、弾性層により加圧されたり、電池セルが膨張及び収縮を繰り返す度に、反発力が大きい領域と小さい領域とが発生すると、電池の寿命が低下することが懸念される。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、弾性シートを有する熱伝達抑制シートにおいて、弾性シートによる電池セルへの押圧力の偏りを低減し、電池の寿命の低下を抑制することができる熱伝達抑制シート及びその製造方法、並びに該熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 無機粒子を含む断熱材と、
前記断熱材に積層された弾性シートと、
前記断熱材及び前記弾性シートを被覆する樹脂フィルムと、を有する熱伝達抑制シートであって、
前記断熱材は、厚さ方向に直交する一対の断熱材主面を有し、
前記弾性シートは、厚さ方向に直交する一対の弾性シート主面と、前記一対の弾性シート主面を連結する複数の弾性シート端面と、を有し、
少なくとも一方の前記断熱材主面と、前記一方の弾性シート主面とが対向するように、前記断熱材と前記弾性シートとが積層されており、
前記複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面は、前記樹脂フィルムに押圧されることにより前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜していることを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【0011】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[9]に関する。
【0012】
[2] 前記弾性シート主面における中央部の面圧が、前記中央部よりも前記樹脂フィルムに押圧された少なくとも1つの端面側の端部領域における面圧よりも低いことを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0013】
[3] 前記複数の弾性シート端面は、対向する一対の第1端面と、前記第1端面とは異なる方向に延びる、対向する一対の第2端面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面のうち、一方が前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜しており、他方が前記弾性シートの厚さ方向に略平行であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0014】
[4] 前記複数の弾性シート端面は、対向する一対の第1端面と、前記第1端面とは異なる方向に延びる、対向する一対の第2端面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面は、いずれも前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜しており、前記弾性シートの厚さ方向に対する前記第1端面の傾斜角度と、前記弾性シートの厚さ方向に対する前記第2端面の傾斜角度とが、互いに異なることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0015】
[5] 前記複数の弾性シート端面は、対向する一対の第1端面と、前記第1端面とは異なる方向に延びる、対向する一対の第2端面と、を有し、
前記第1端面及び前記第2端面の少なくとも一方における対向する端面は、前記弾性シートの厚さ方向に対する傾斜角度が互いに異なることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
【0016】
[6] 前記樹脂フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート及び塩化ビニルから選択された少なくとも1種の樹脂を含むことを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0017】
[7] 前記樹脂フィルムは、前記断熱材及び前記弾性シートを内包していることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0018】
[8] 前記弾性シートは、ゴム及び熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも1種の材料を含むことを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0019】
[9] 前記断熱材は、さらに、無機繊維、有機繊維及び有機粒子から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする、[1]~[8]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シート。
【0020】
また、本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートの製造方法に係る下記[10]の構成により達成される。
【0021】
[10] [1]~[9]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを製造する熱伝達抑制シートの製造方法であって、
少なくとも一方の前記断熱材主面と、前記一方の弾性シート主面とが対向するように、前記断熱材と前記弾性シートとを積層して積層体を得る積層工程と、
前記積層体の表面を前記樹脂フィルムで被覆し、前記樹脂フィルムが、前記複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面を押圧するように、前記樹脂フィルムを加熱により収縮させる収縮工程と、を有し、
前記収縮工程において、前記複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面を、前記断熱材から離隔するにしたがって内方に傾斜させることを特徴とする、熱伝達抑制シートの製造方法。
【0022】
また、本発明の上記目的は、組電池に係る下記[11]の構成により達成される。
【0023】
[11] 複数の電池セルと、[1]~[9]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱伝達抑制シートは、無機粒子を含む断熱材を有するため、優れた断熱性を得ることができる。また、弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面が内方に傾斜しており、この端面の近傍では面圧が高くなっているため、隣接して配置される部品の変形しやすい領域に強い力が印加されることを抑制することがでる。さらに、隣接して配置される部品の膨張時に、弾性シートにおける面圧が低い領域で、部品の膨張を吸収することができるため、部品に対して不均一な押圧力が印加されることを防止することができる。その結果、部品の寿命が低下することを防止することができる。
【0025】
本発明の熱伝達抑制シートの製造方法は、樹脂フィルムが少なくとも1つの弾性シートの端面を押圧するように、樹脂フィルムを加熱により収縮させる収縮工程を有するため、容易な製造工程により端面を傾斜させることができ、弾性シート表面の面圧を調整することができる。
【0026】
本発明の組電池は、上記の熱伝達抑制シートを有するため、ある場所で発生した熱の他の場所への伝達を抑制することができるとともに、熱伝達抑制シートと電池セルとの組付け時や通常の充放電において、電池セルに不均一な押圧力が印加されることを防止でき、電池の性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートを主面側から見た上面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る熱伝達抑制シートを適用した組電池を模式的に示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートを主面側から見た上面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3実施形態に係る熱伝達抑制シートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、電池セル間に熱伝達抑制シートを組み込む際や、電池セルの膨張により熱伝達抑制シートが押圧された場合に、弾性シートによる反発力が、電池セルの場所によって偏ることを低減できる方法について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、弾性シートの端面を樹脂フィルムで押圧し、その端面を内方に傾斜させることによって、上記課題を解決できることを見出した。
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0030】
[熱伝達抑制シート]
<第1実施形態>
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る熱伝達抑制シートを主面側から見た上面図であり、
図1Bは、
図1AのI-I線における断面図であり、
図1Cは、
図1AのII-II線における断面図である。
【0031】
図1A~
図1Cに示すように、第1実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、無機粒子を含む断熱材11と、弾性シート12と、樹脂フィルム13とを有する。断熱材11は、その厚さ方向に直交する一対の断熱材主面11aを有する。また、弾性シート12は、厚さ方向に直交する弾性シート主面12aと、この一対の弾性シート主面12aを連結する複数の弾性シート端面と、を有する。弾性シート端面は、対向する一対の第1端面12bと、この第1端面12bとは異なる方向に延びる第2端面12cとを有する。そして、一方の断熱材主面11aと、一方の弾性シート主面12aとが対向するように、断熱材11と弾性シート12とが積層されて、積層体14が構成されている。また、この積層体14の表面は、樹脂フィルム13によって被覆されている。すなわち、積層体14は樹脂フィルム13に内包されている。
【0032】
なお、
図1Bに示すように、一対の第1端面12bは、樹脂フィルム13により押圧されることにより、断熱材11から離隔するにしたがって内方に傾斜した形状となっている。一方、第2端面12cは、弾性シート12の厚さ方向に略平行となっている。
【0033】
また、第1実施形態においては、一対の第1端面12bが樹脂フィルム13に押圧されて傾斜しているため、弾性シート主面12aにおける第1端面12bの近傍の密度が高くなっている。このため、弾性シート主面12aにおける中央部12dの面圧が、この中央部12dよりも第1端面12b側の端部領域12eにおける面圧よりも低くなる。
【0034】
ここで、弾性シート主面12aにおける面圧は、一般的に使用されている面圧測定装置により測定することができる。弾性シート主面12aにおける中央部12dとは、完全に中央である必要はないが、例えば、対向する一対の第1端面12bの2等分線と、対向する一対の第2端面12cの2等分線とが交差する領域を中央部12dとすることができる。また、弾性シート主面12aにおける第1端面12b側の端部領域12eとは、第1端面12bの近傍であればよい。例えば、できるだけ第1端面12bに接近した位置を端部領域12eと設定すると、第1端面12bの傾斜角度にかかわらず、端部領域12eの面圧は、中央部12dの面圧よりも高い値となる。
【0035】
図2は、第1実施形態に係る熱伝達抑制シート10を適用した組電池を模式的に示す断面図である。熱伝達抑制シート10は、
図2に示すように、例えば複数の電池セル20の間に配置される。
【0036】
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、無機粒子を含む断熱材11を含んでいるため、高い断熱性を得ることができる。したがって、例えば複数の電池セル20の間に熱伝達抑制シート10が配置された組電池において、ある電池セル20の温度が上昇した場合に、隣接する電池セル20への熱の伝達を抑制することができる。
【0037】
また、上述のとおり、熱伝達抑制シート10において、弾性シート主面12aの端部領域12eは、樹脂フィルム13の押圧によって密度が高くなっており、高い反発力を有している。一方、電池セル20は箱状であり、中央部よりも端部領域20eの方が変形しにくいという特徴を有する。このため、本実施形態においては、熱伝達抑制シート10と電池セル20との組付け時において、電池セル20側の端部領域20eと、樹脂フィルム13側の端部領域12eとが互いに対向する。すなわち、電池セル20における変形しにくい領域と、樹脂フィルム13における高い反発力を有する硬い領域とが、互いに対向する位置に配置される。したがって、電池セル20の変形しやすい領域に強い力が印加されることを抑制することができ、電池セル20の寿命が低下することを防止することができる。
【0038】
また、上記のように組み付けられた組電池100において、充放電等により電池セル20が膨張する場合に、電池セル20は、端部領域20eよりも中央部20dの方が変形しやすいため、電池セル20の膨張は中央部20dの方が大きい。一方、本実施形態においては、弾性シート主面12aにおける中央部12dの面圧は、端部領域12eにおける面圧よりも低くなっている。したがって、電池セル20の膨張を、樹脂フィルム13における反発力が低い領域、すなわち中央部12dで吸収することができるため、電池セル20に不均一な押圧力が印加されることを防止することができる。その結果、電池セルの寿命が低下することを防止することができる。
【0039】
上記第1実施形態においては、第2端面12cは傾斜しておらず、弾性シート12の厚さ方向に略平行となっているが、第2端面12cも第1端面12bと同様に、樹脂フィルム13に押圧されて内方に傾斜していてもよい。図示は省略するが、第1端面12b及び第2端面12cがいずれも傾斜している場合に、弾性シート12の厚さ方向に対する第1端面12bの傾斜角度は、第2端面12cの傾斜角度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。電池の設計によっては、膨張する場所が中央に限定されない場合がある。このような場合には、第1端面12b及び第2端面12cの傾斜角度を調整し、樹脂フィルム13による弾性シート12への押圧力を変化させることで、弾性シート12の所望の領域における面圧を低くすることができる。そして、電池セルが変形しやすい領域と、弾性シート12の面圧が低くなる領域とが相対するように、弾性シート12の第1端面12b及び第2端面12cの傾斜角度を自由に設計すればよい。
【0040】
また、上記第1実施形態においては、断熱材11と弾性シート12とを略同一のサイズとしたが、本発明において、断熱材11と弾性シート12のサイズは同一である必要はない。例えば、弾性シート12を断熱材11よりも小さく成形すると、弾性シート12の材料コストを低減することができる。このような例について、第2実施形態として以下に説明する。
【0041】
<第2実施形態>
図3Aは、本発明の第2実施形態に係る熱伝達抑制シートを主面側から見た上面図であり、
図3Bは、
図3AのIII-III線における断面図であり、
図3Cは、
図3AのIV-IV線における断面図である。
図3A~
図3Cに示す第2実施形態において、第1実施形態と同一の部分は同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0042】
図3A~
図3Cに示すように、熱伝達抑制シート22において、弾性シート12の第2端面12cの長さは、断熱材11の一辺と略同一の長さとなるように形成されている。ただし、弾性シート12の第1端面12bの長さは、断熱材11の他辺の長さよりも短くなるように成形されている。すなわち、断熱材11の長手方向に平行な方向に延びる第2端面12cは、断熱材11の端面と同一の位置となっている。そして、第2端面12cは、樹脂フィルム13に押圧されて、断熱材11から離隔するにしたがって内方に傾斜している。一方、断熱材11の長手方向に直交する方向に延びる一対の第1端面12bは、いずれも断熱材11の端面よりも中央寄りに位置しており、傾斜しておらず、弾性シート12の厚さ方向に略平行となっている。
【0043】
このように構成された第2実施形態に係る熱伝達抑制シート22においても、傾斜した第2端面12cの近傍では、弾性シート主面12aの面圧が高くなっている。したがって、
図2に示す組電池100における電池セル20と熱伝達抑制シート10との組付け時に、電池セル20の変形しやすい領域に強い力が印加されることを抑制することがでる。また、電池セル20の膨張時には、面圧が低い弾性シート12の中央部で膨張分を吸収することができるため、電池セル20に不均一な押圧力が印加されることを防止することができる。その結果、電池セル20の寿命が低下することを防止することができる。
【0044】
<第3実施形態>
図4は、本発明の第3実施形態に係る熱伝達抑制シートを示す断面図である。なお、第3実施形態については、上面図を省略している。第3実施形態に係る熱伝達抑制シート23においては、例えば、対向する一対の第1端面12bのうち、一方の第1端面12b
1の傾斜角度θ
1と、他方の第1端面12b
2の傾斜角度θ
2とが互いに異なる。
【0045】
このように、対向する一対の弾性シート端面においても、傾斜角度を互いに異ならせることにより、所望の領域における面圧を変化させることができるため、電池セル20の設計に合わせて、面圧が高い領域を調整することができる。
【0046】
以上、種々の形状を有する熱伝達抑制シートを説明したが、本発明においては、複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面が、樹脂フィルム13に押圧されることによって断熱材11から離隔するにしたがって内方に傾斜したものであればよい。また、本発明において、熱伝達抑制シートは、断熱材11及び弾性シート12の他に、これらと同様な機能を有する層や、異なる機能を有する層を含んでいてもよい。他の層の位置も、断熱材11と弾性シート12との間であっても、断熱材11側の外面上であっても、弾性シート12側の外面上であってもよい。
【0047】
また、本発明において、断熱材11及び弾性シート12は、矩形である必要はない。必要に応じて角部を切断した多角形等の形状であっても、弾性シート12の少なくとも1つの端面が、樹脂フィルム13により押圧されて傾斜していればよい。さらに、樹脂フィルム13は、弾性シート端面を押圧できるように配置されていればよいため、積層体14の全面を被覆している必要はない。
【0048】
次に、上記第1~第3実施形態に係る熱伝達抑制シートを構成する材料について、詳細に説明する。
【0049】
〔弾性シート〕
弾性シートとしては、公知のものを使用することができ、電池セル20の変形に対して柔軟に変形する弾性を有するゴムや熱可塑性エラストマーにより形成されたシートを用いることができる。
【0050】
ゴムは合成ゴム及び天然ゴムのいずれでもよく、合成ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、エビクロルヒドリンゴム及び発泡シリコーンなどを挙げることができる。
【0051】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系の各熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。また、エラストマーは、多孔性及び非多孔性のいずれでもよい。なお、多孔性の場合、気泡構造は独立気泡型及び連通気泡型のいずれでもよい。
【0052】
(弾性シートのサイズ)
弾性シート12の厚さは特に限定されないが、弾性シート12についての効果を効果的に得るために、1mm以上10mm以下とすることが好ましい。また、上述のとおり、弾性シート12の厚さ方向に直交する主面12aの大きさは、断熱材11の主面11aの大きさと略同一であることが好ましいが、特に限定されない。ただし、弾性シート12が断熱材11よりも著しく小さいと、電池セルに印加される圧力が不均一になり、本発明による効果を得ることができなくなる可能性がある。したがって、弾性シート12の主面12aの大きさは、電池セルにおける弾性シート11に対向する面よりも大きいことも好ましい。
【0053】
〔樹脂フィルム〕
樹脂フィルムを構成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、ナイロン、アクリル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニルスルフィド、ポリカーボネート及びアラミドから選択された少なくとも1種の樹脂を含むフィルムを選択することができる。
【0054】
なお、断熱材11及び弾性シート12を含む積層体14の表面を樹脂フィルム13で被覆する場合に、シュリンク包装を利用することが好ましい。したがって、シュリンク包装に好適な材料の樹脂フィルムを使用することがより好ましい。このような材料としては、ポリエチレン、ポリプロプレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニルが挙げられる。
【0055】
(樹脂フィルムの特性)
本実施形態において、樹脂フィルム13は、弾性シート12の弾性シート端面のうち、少なくとも1つの端面に密着し、端面を押圧して傾斜させる効果を有する。したがって、樹脂フィルムは、適切な引張強度及び適切な引張伸びを有することが好ましい。
【0056】
(樹脂フィルムの厚さ)
樹脂フィルム13の厚さが1mmを超えると、樹脂フィルム13を弾性シート11の形状に追従させることが困難となり、ひびや割れが発生するおそれがある。したがって、樹脂フィルム13の厚さは、1mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましく、0.05mm以下であることがさらに好ましい。
一方、樹脂フィルム13の厚さの下限は特に限定されないが、所望の引張強度を得るために、0.005mm以上であることが好ましく、0.01mm以上であることがより好ましい。
【0057】
<樹脂フィルムに含まれる他の材料>
また、樹脂フィルム13は、電池セル20に接するため、難燃性を有することが好ましく、具体的には、無機物又は難燃材を含むことが好ましい。樹脂フィルム13を構成する材料として、無機物としては、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、バーミキュライト、ゼオライト、合成シリカ、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、アルミナが挙げられ、難燃材としては、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、ホウ系難燃剤、シリコーン系難燃剤及び、窒素含有化合物が挙げられる。
【0058】
〔断熱材〕
本実施形態に係る熱伝達抑制シートに用いられる断熱材11としては、断熱効果を有するものであれば、特に限定されない。断熱効果を表す指標として、熱伝導率を挙げることができるが、本実施形態においては、断熱材11の熱伝導率は1(W/m・K)未満であることが好ましく、0.5(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.2(W/m・K)未満であることがより好ましい。さらに、断熱材11の熱伝導率は0.1(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.05(W/m・K)未満であることがより好ましく、0.02(W/m・K)未満であることが特に好ましい。
なお、断熱材の熱伝導率は、JIS R 2251に記載の「耐火物の熱伝導率の試験方法」に準拠して、測定することができる。
【0059】
(断熱材のサイズ)
断熱材11と弾性シート12とを積層する場合に、これらの厚さに直交する断熱材主面11aのサイズと弾性シート主面12aのサイズとは略同一であっても、互いに異なっていてもよい。ただし、上述のとおり、弾性シート12が断熱材11よりも著しく小さい場合に、電池セル20に不均一に圧力が印加されることがあり、本発明の効果を損ねる。したがって、本発明による効果を損ねない範囲で、弾性シート主面11aのサイズを設計することが好ましい。
【0060】
断熱材11は無機粒子を含み、その他の成分として、例えば、無機繊維、有機繊維及び有機粒子から選択された少なくとも1種を含有するものを用いることができる。それぞれの具体例を下記に示す。
【0061】
<無機粒子>
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の種類としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0062】
無機粒子の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0063】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、一方の無機粒子として、ナノ粒子を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0064】
<第1の無機粒子>
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、第1の無機粒子として酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。すなわち、無機粒子として使用することができる上記酸化物粒子のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上の酸化物粒子を使用してもよい。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0065】
(酸化物粒子の平均一次粒子径:0.001μm以上50μm以下)
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。
一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0066】
なお、本発明において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0067】
(ナノ粒子)
本発明において、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用すると、さらに細かい空隙部が分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
さらに、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって熱伝達抑制シートが圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、熱伝達抑制シートの伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙部ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0068】
なお、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm3)程度であるため、例えば、熱伝達抑制シートの両側に配置された電池セルが熱膨張し、熱伝達抑制シートに対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等が挙げられるが、本実施形態に特に好適であるシリカナノ粒子について、以下に説明する。
【0069】
一般的に、湿式シリカは粒子が凝集しているのに対し、乾式シリカは粒子を分散させることができる。90℃以下の温度範囲において、熱の伝導は伝導伝熱が支配的であるため、粒子を分散させることができる乾式シリカの方が、湿式シリカと比較して、優れた断熱性能を得ることができる。
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、材料を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する製造方法を用いることが好ましい。したがって、無機粒子としては、熱伝導率が低い乾式シリカ、シリカエアロゲル等を使用することが好ましい。
【0070】
(ナノ粒子の平均一次粒子径:1nm以上100nm以下)
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、熱伝達抑制シート内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙部と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、熱伝達抑制シートの断熱性を維持することができる。
なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0071】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)、水酸化鉄(Fe(OH)2)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)2)、水酸化ガリウム(Ga(OH)3)等が挙げられる。
【0072】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al2O3)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)3→Al2O3+3H2O
【0073】
なお、上述のとおり、熱伝達抑制シート10は、例えば、電池セル間に介在されることが好適であるが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、断熱材に含まれる無機粒子としては、熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0074】
(無機水和物粒子の平均二次粒子径:0.01μm以上200μm以下)
また、第1の無機粒子として、無機水和物粒子を使用した場合に、その平均粒子径が大きすぎると、断熱材の中心付近にある第1の無機粒子(無機水和物)が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、断熱材の中心付近の第1の無機粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0075】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0076】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0077】
(無機バルーン)
本発明に用いる断熱材は、第1の無機粒子として無機バルーンを含んでいてもよい。
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱又は伝導伝熱を抑制することができ、断熱材の断熱性をより一層向上させることができる。
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、及びガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0078】
(無機バルーンの含有量:断熱材全質量に対して60質量%以下)
無機バルーンの含有量としては、断熱材全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0079】
(無機バルーンの平均粒子径:1μm以上100μm以下)
無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0080】
<第2の無機粒子>
熱伝達抑制シート10に2種の無機粒子が含有されている場合に、第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0081】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、熱伝達抑制シートに圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、例えばナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、熱伝達抑制シートに含有させることが好ましい。
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることがでる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0082】
第1の無機粒子として、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を使用し、第2の無機粒子として、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用する場合に、90℃以下の温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0083】
一方、90℃を超える温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0084】
(第2の無機粒子の平均一次粒子径)
金属酸化物からなる第2の無機粒子を熱伝達抑制シートに含有させる場合に、第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高温度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0085】
(無機粒子の含有量)
本実施形態において、断熱材中の無機粒子の合計の含有量が適切に制御されていると、断熱材の断熱性を十分に確保することができる。
無機粒子の合計の含有量は、断熱材の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子の合計の含有量が多くなりすぎると、有機繊維の含有量が相対的に減少するため、骨格の補強効果及び無機粒子の保持効果を十分に得るためには、無機粒子の合計の含有量は、断熱材の全質量に対して95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0086】
なお、断熱材中の無機粒子の含有量は、例えば、断熱材を800℃で加熱し、有機分を分解後、残部の質量を測定することにより、算出することができる。
【0087】
<無機繊維>
無機繊維として、単一の無機繊維を使用してもよいし、2種以上の無機繊維を組み合わせて使用してもよい。無機繊維としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミック繊維、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカ繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール等のガラス系繊維、及びこれらの繊維以外の鉱物系繊維であるロックウール、バサルトファイバ、ウォラストナイト、ムライト繊維等が挙げられる。
これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0088】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面又は多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0089】
(無機繊維の平均繊維長)
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、断熱材の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの、無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより断熱性の低下を招くおそれがある。
【0090】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は15μmであり、より好ましい上限は10μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であることが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が15μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、熱伝達抑制シートの成形性及び強度が悪化するおそれがある。
【0091】
(無機繊維の含有量)
本実施形態において、断熱材が無機繊維を含む場合に、無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0092】
また、無機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。このような含有量にすることにより、無機繊維による保形性や押圧力耐性、抗風圧性や、無機粒子の保持能力がバランスよく発現される。また、無機繊維の含有量を適切に制御することにより、有機繊維及び無機繊維が互いに絡み合って3次元ネットワークを形成するため、無機粒子、及び後述する他の配合材料を保持する効果をより一層向上させることができる。
【0093】
<有機繊維>
有機繊維は、断熱材に柔軟性を与える効果を有するとともに、有機繊維が骨格を形成することにより、断熱材の強度を高める効果を有する。また、有機繊維の表面に無機粒子及び他の有機繊維が溶着されていると、シートの強度を向上させる効果及び形状を保持する効果をより一層向上させることができる。また、断熱材に適切な含有量で有機繊維が含まれていると、断熱材の内部に複数の空隙部が形成され、断熱材が加熱された際に、空気や水分を、空隙部を介して外部に放出することができる。
【0094】
断熱材における有機繊維の材料として、セルロースファイバ等の単成分の有機繊維を使用することもできるが、芯鞘構造のバインダ繊維を使用することが好ましい。芯鞘構造のバインダ繊維は、繊維の長手方向に延びる芯部と、芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有するものである。この場合に、芯部は第1の有機材料からなり、鞘部は第2の有機材料からなり、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも高いものとする。
【0095】
(第1の有機材料)
本実施形態において、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部を構成する第1の有機材料は、芯部の外周面に存在する鞘部、すなわち第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0096】
(第2の有機材料)
第2の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、特に限定されない。第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
なお、第2の有機材料の融点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、第2の有機材料の融点は、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。
【0097】
(有機繊維の含有量)
断熱材における有機繊維の含有量が適切に制御されていると、骨格の補強効果を十分に得ることができる。
有機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、有機繊維の含有量が多くなりすぎると、無機粒子の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、有機繊維の含有量は、断熱材の全質量に対して25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0098】
(有機繊維の繊維長)
有機繊維の繊維長については特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。
一方、有機繊維を骨格として機能させ、熱伝達抑制シートの圧縮強度を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0099】
<有機粒子>
有機粒子としては、中空ポリスチレン粒子等を使用することができる。
【0100】
<他の配合材料>
(ホットメルトパウダー)
熱伝達抑制シートには、上記バインダ繊維、無機粒子の他に、混合物中にホットメルトパウダーを含有させてもよい。ホットメルトパウダーは、例えば上記第1の有機材料及び第2の有機材料とは異なる第3の有機材料を含有し、加熱により溶融する性質を有する粉体である。混合物中にホットメルトパウダーを含有させ、加熱することにより、ホットメルトパウダーは溶融し、その後冷却すると、周囲の無機粒子を含んだ状態で硬化する。したがって、断熱材の無機粒子の脱落をより一層抑制することができる。
【0101】
ホットメルトパウダーとしては、種々の融点を有するものが挙げられるが、使用するバインダ繊維の芯部及び鞘部の融点を考慮して、適切な融点を有するホットメルトパウダーを選択すればよい。有機繊維として芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、ホットメルトパウダーを構成する成分である第3の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、芯部を残して、鞘部及びホットメルトパウダーを溶融させるための加熱温度を設定することができる。例えば、ホットメルトパウダーの融点が、鞘部の融点以下であると、製造時の加熱温度は、芯部の融点と鞘部の融点との間で設定すればよいため、より一層容易に加熱温度を設定することができる。
【0102】
一方、ホットメルトパウダーの融点が、芯部の融点と鞘部の融点との間となるように、使用するホットメルトパウダーの種類を選択することもできる。このような融点を有するホットメルトパウダーを使用すると、鞘部及びホットメルトパウダーがともに溶融した後、冷却されて硬化する際に、先に有機繊維(芯部)とその周囲の溶融した鞘部、及び無機粒子の隙間に存在するホットメルトパウダーが硬化する。その結果、有機繊維の位置を固定することができ、その後、溶融していた鞘部が有機繊維に溶着することにより、立体的な骨格が形成されやすくなる。したがって、シート全体の強度をより一層向上させることができる。
【0103】
ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点が、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも十分に低いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第3の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0104】
なお、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。ホットメルトパウダーを構成する成分としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が挙げられる。
【0105】
(ホットメルトパウダーの含有量)
無機粒子の脱落を抑制するために、断熱材の材料中にホットメルトパウダーを含有させる場合に、その含有量は微量でも粉落ち抑制の効果を得ることができる。したがって、ホットメルトパウダーの含有量は、断熱材の材料全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
一方、ホットメルトパウダーの含有量を増加させると、無機粒子等の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、ホットメルトパウダーの含有量は、断熱材の材料全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0106】
断熱材の材料としてホットメルトパウダーを含む場合に、加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する第2の有機材料の融点、及びホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点のいずれか高い方よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。このような加熱温度に設定することにより、強固な骨格を形成することができ、シートの強度をより一層向上させることができるとともに、無機粒子の脱落を防止することができる。
【0107】
なお、断熱材は、さらに、必要に応じて、他の結合材、着色剤等を含有させることができる。これらはいずれも断熱材の補強や成形性の向上等を目的とする上で有用であり、断熱材の全質量に対して合計量で、10質量%以下とすることが好ましい。
【0108】
次に、本実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法について、
図1A~
図1Cを参照して説明する。
【0109】
[熱伝達抑制シートの製造方法]
上記第1実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0110】
<積層工程>
まず、無機粒子やその他の材料を、湿式法又は乾式法により成形し、シート状に加工された断熱材11を得る。次に、少なくとも一方の断熱材主面11aと、予め準備していた弾性シート12の、一方の弾性シート主面12aとが対向するように、断熱材11と弾性シート12とを積層して、積層体14を得る。
【0111】
<収縮工程>
その後、積層体14を平面状樹脂フィルムの上に載置した後、例えば平面状樹脂フィルムを折り曲げて、積層体14の上面にも平面状樹脂フィルムを被せる。その後、積層体14の下面における平面状樹脂フィルムと、上面における平面状樹脂フィルムとを、積層体14の周囲で加圧しつつ加熱し、融着させる。これにより、積層体14の表面は樹脂フィルムで被覆される。その後、積層体14の周囲における樹脂フィルムを加熱により収縮させて、樹脂フィルムが、複数の弾性シート端面のうち少なくとも1つの端面を押圧するように、樹脂フィルムを加熱により収縮させ、積層体14の外表面に樹脂フィルム13を密着させる。この収縮工程により、上記押圧された端面は、断熱材11の表面から離隔するにしたがって内方に傾斜した形状となる。
【0112】
なお、
図3A~
図3Cに示すように、熱伝達抑制シートは、複数の弾性シート端面のうち、第1端面12bが弾性シートの厚さ方向に略平行であり、第2端面12cが断熱材11から離隔するにしたがって内方に傾斜した形状を有するものでもよい。また、図示は省略しているが、熱伝達抑制シートは、第1端面12b及び第2端面12cが傾斜しているが、第1端面12bと第2端面12cとは傾斜角度が異なるものでもよい。このような熱伝達抑制シートは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0113】
上記熱伝達抑制シート10の製造方法と同様に、積層体14を平面状樹脂フィルムの上に載置した後、積層体14の上面にも平面状樹脂フィルムを被せる。次に、積層体14の下面における平面状樹脂フィルムと、上面における平面状樹脂フィルムとを、積層体14の周囲で加圧しつつ加熱し、融着させる。このとき、積層体14又は弾性シート12から離れた位置で平面状樹脂フィルムを融着すると、その後、加熱によって樹脂フィルムを収縮させても、弾性シート端面に印加される押圧力は小さくなり、端面の傾斜角度は小さくなる。一方、積層体14又は弾性シート12に接近した位置で平面状樹脂フィルムを融着すると、その後、加熱によって樹脂フィルムを収縮させた場合に、弾性シート端面が十分に押圧され、端面の傾斜角度が大きくなる。このように、上面における平面状樹脂フィルムと、下面における平面状樹脂フィルムとを融着させる位置によって、樹脂フィルムを収縮させた後の弾性シート端面の傾斜角度を調整することができる。
【0114】
また、例えば、所定の第1方向と、この第1方向に直交する第2方向とで、収縮率が異なる樹脂フィルムを使用した場合においても、弾性シート12の第1端面12bの傾斜角度と第2端面12cの傾斜角度とを互いに異ならせることができる。
【0115】
さらに、本発明においては、
図4に示す熱伝達抑制シート23のように、弾性シート12における一対の第1端面12b
1、12b
2が、互いに異なる傾斜角度であってもよい。このような熱伝達抑制シート23は、例えば、積層体14を平面状樹脂フィルムで被覆し、加熱によって樹脂フィルムを収縮させる際の熱処理温度を調整することにより、製造することができる。具体的には、第1熱収縮工程として、樹脂フィルム全体を収縮させ、積層体14の表面に樹脂フィルムを密着させる。その後、第2熱収縮工程として、弾性シート端面のうち、より傾斜させたい端面を含む領域に対して、第1熱収縮工程よりも高温で熱処理し、さらに樹脂フィルムを収縮させる。これにより、弾性シート12における所望の端面のみ、樹脂フィルムで押圧され、傾斜させることができる。
【0116】
[組電池]
本発明の実施形態に係る組電池は、上記の[熱伝達抑制シート]に記載の熱伝達抑制シートを有する。すなわち、
図2に示すように、組電池100は、複数の電池セル20と、例えば上記の熱伝達抑制シート10と、を有し、各電池セル20が直列又は並列に接続されたものである。そして、熱伝達抑制シート10は、隣接する複数の電池セル20の間に介在されている。また、電池セル20及び熱伝達抑制シート10は、電池ケース30に収容されている。
【0117】
上記のような組電池100においては、電池セル20と熱伝達抑制シート10との組付け時に、電池セル20の変形しやすい領域に強い力が印加されることを抑制することができる。また、電池セル20の膨張時には、面圧が低い樹脂フィルム13の中央部で膨張分を吸収することができるため、電池セル20に不均一な押圧力が印加されることを防止することができる。したがって、組電池100内に組み込まれた電池セル20の寿命を向上させることができる。
【0118】
なお、図示は省略するが、上記[熱伝達抑制シート]に記載の熱伝達抑制シートは、複数の電池セル間のみでなく、例えば、電池セルと電池ケースとの間の狭隘な領域に配設することができる。このように、熱伝達抑制シートを電池セルと電池ケースとの間に配設した場合であっても、電池セルに不均一な押圧力が印加されることを抑制することができ、電池セルの寿命を向上させることができる。
【0119】
また、本発明に係る熱伝達抑制シートは、断熱材を有するため、優れた断熱性を有する。したがって、熱伝達抑制シートを適用した組電池100が、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用され、搭乗者の床下に配置された場合に、仮に電池セルが発火しても、搭乗者の安全を確保することができる。
さらにこの場合に、熱伝達抑制シート等を、電池セルと電池ケースとの間に配置すると、新たに防炎材等を作製する必要がなく、低コストで安全な組電池を構成することができる。
【符号の説明】
【0120】
10,22,23 熱伝達抑制シート
11 断熱材
11a 断熱材主面
12 弾性シート
12a 弾性シート主面
12b 第1端面
12c 第2端面
13 樹脂フィルム
14 積層体
20 電池セル
30 電池ケース
100 組電池