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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134923
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045375
(22)【出願日】2023-03-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】菅原 亮
(72)【発明者】
【氏名】麻田 裕矢
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ12
5H029HJ09
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能な電池等を提供する。
【解決手段】電池10は、正極層11と、正極層11に対向して配置される負極層12と、正極層11と負極層12との間に配置される固体電解質層20と、を備える。固体電解質層20は、正極層11に隣接する第一固体電解質層13と、負極層12に隣接する第二固体電解質層14と、を有する。第一固体電解質層13の空隙率は16%以上40%以下である。第二固体電解質層14の空隙率は7%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、
前記正極層に対向して配置される負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、前記正極層に隣接する第一固体電解質層と、前記負極層に隣接する第二固体電解質層と、を有し、
前記第一固体電解質層の空隙率は16%以上40%以下であり、
前記第二固体電解質層の空隙率は7%以下である、
電池。
【請求項2】
前記第一固体電解質層および前記第二固体電解質層は、固体電解質としてアルジロダイト型硫化物系固体電解質を含む、
請求項1に記載の電池。
【請求項3】
正極層と、前記正極層に対向して配置される負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層とを備える電池を製造する製造方法であって、
前記固体電解質層は、前記正極層に隣接する第一固体電解質層と、前記負極層に隣接する第二固体電解質層と、を有し、
前記製造方法は、
空隙率が16%以上40%以下である前記第一固体電解質層を形成することと、
空隙率が7%以下である前記第二固体電解質層を形成することと、を含む、
電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極層と、正極層と、負極層と正極層との間に挟まれた電解質とを有し、両電極層間にリチウムイオンを往復移動させることにより充電と放電とを可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には従来から、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし、有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電により電池内部で短絡が生じるおそれもあり、信頼性および安全性の更なる向上が求められている。
【0003】
このような状況下、有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池の開発が進められている。以下では、全固体リチウムイオン二次電池等の、電解質として固体電解質を用いた電池を、「全固体電池」と呼ぶ。全固体電池は、負極層、電解質層および正極層の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性および信頼性を大きく改善することができ、長寿命化も可能になるとされる。また固体電解質の難燃性が高いこと、冷却ユニットを必要としないことによりパックエネルギー密度が高くなること、および、ハイレート充電が可能であることなどの特性から、例えば、自動車用途への実用化が期待されている。
【0004】
全固体電池では、例えば、充電時に正極層を構成するリチウム金属複合酸化物等からリチウムイオンが放出され、このリチウムイオンは固体電解質を通って負極層へと到達して負極活物質に吸蔵される。この際、負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンの一部は電子を取り込み金属リチウムとして析出する現象が生じることがある。この金属リチウムの析出物が充放電の繰り返しによりデンドライト(樹枝状の結晶)に成長してしまうと、やがて正極層と接触し、内部短絡が生じて二次電池として機能しなくなる。
【0005】
このような問題に対処すべく、特許文献1には、固体電解質を高充填することで、デンドライトの成長を抑制するとともに固体電解質層内の抵抗を低減できることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2および3には、空隙率の異なる2層以上の固体電解質層を用いることが開示されている。特許文献2および3では、正極層に接する固体電解質層を低空隙率としてデンドライトの成長を抑制している。さらに、特許文献2および3では、負極層に接する、または、正極層および負極層のいずれにも接しない固体電解質層を高空隙率として、焼成時または充放電時に主に負極層の膨張収縮によって発生する内部応力が固体電解質層に加えられたとしても、固体電解質層にクラックが発生するのを防止している。その結果、特許文献2および3では、内部抵抗の増加を抑制して充放電サイクル特性を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-99958号公報
【特許文献2】国際公開第2013/175993号
【特許文献3】特開2020-107594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電池において、自動車用途等では、急速充電が可能なことが求められる。また、急速充電のように充電負荷が高い場合には、電池内部においてデンドライトが成長しやすく、電池に内部短絡が生じやすい。
【0009】
そこで、本開示は、内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能な電池等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る電池は、正極層と、前記正極層に対向して配置される負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、前記正極層に隣接する第一固体電解質層と、前記負極層に隣接する第二固体電解質層と、を有し、前記第一固体電解質層の空隙率は16%以上40%以下であり、前記第二固体電解質層の空隙率は7%以下である。
【0011】
また、本開示の一態様に係る電池の製造方法は、正極層と、前記正極層に対向して配置される負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層とを備える電池を製造する製造方法であって、前記固体電解質層は、前記正極層に隣接する第一固体電解質層と、前記負極層に隣接する第二固体電解質層と、を有し、前記製造方法は、空隙率が16%以上40%以下である前記第一固体電解質層を形成することと、空隙率が7%以下である前記第二固体電解質層を形成することと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能な電池等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施の形態に係る電池の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、実施の形態に係る電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、実施の形態に係る正極側積層体の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、実施の形態に係る負極側積層体の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本開示の一態様を得るに至った経緯)
上述のように、電池において、自動車用途等では、急速充電が可能なことが求められるが、急速充電する場合には内部短絡が生じやすく、内部短絡の発生を抑制することが重要である。さらに、正極層、固体電解質層および負極層の各層間の界面抵抗が高い場合は、電池としての内部抵抗が高くなり、急速充電が困難となる。従って、金属リチウム等からなるデンドライトの成長を抑制して内部短絡の発生を抑制するとともに、正極層、固体電解質層および負極層の各層間の界面抵抗を低減させることは、急速充電を可能とし、電池を長寿命化する上で重要である。
【0015】
上記の特許文献1から3では、正極層と正極層に接する固体電解質層とがどちらも低空隙率であり、正極層および固体電解質層自体の内部抵抗は低いものの、正極層の表面および固体電解質層の表面はともに硬く、低空隙率とした後に正極層と固体電解質層を接合させると、接触が不十分となって界面抵抗は高くなり、電池としての内部抵抗が高くなるため、急速充電が困難となる。また、製造工程が煩雑になるものの、低空隙率とする前に正極層と固体電解質層とを接合させると、その後に正極層を低空隙率とする加工の際に相対的に硬い正極層が固体電解質層にクラックを生じさせる。特に、正極層と、固体電解質層および負極層との面積が互いに異なる場合は、正極層と、固体電解質層および負極層との接合時に面積の小さい層の端部を起点にクラックが拡大して、生産時の歩留まりが低くなる問題が生じる。
【0016】
そこで、本開示では、上記課題を鑑み、内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能な電池等を提供する。
【0017】
(本開示の概要)
以下に、本開示の概要として、本開示に係る電池および電池の製造方法の例について示す。
【0018】
本開示の第1態様に係る電池は、正極層と、前記正極層に対向して配置される負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、前記正極層に隣接する第一固体電解質層と、前記負極層に隣接する第二固体電解質層と、を有し、前記第一固体電解質層の空隙率は16%以上40%以下であり、前記第二固体電解質層の空隙率は7%以下である。
【0019】
これにより、空隙率の比較的高い第一固体電解質層と、第一固体電解質層に隣接する層との接触面積の増加による反応ムラおよび界面抵抗の低減によって、局所的な金属リチウムの析出および成長を抑制できる。また、空隙率が比較的低く緻密な第二固体電解質層が、デンドライトの成長を抑制できる。よって、電池における内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能となる。
【0020】
また、例えば、本開示の第2態様に係る電池は、第1態様に係る電池において、前記第一固体電解質層および前記第二固体電解質層は、固体電解質としてアルジロダイト型硫化物系固体電解質を含んでいてもよい。
【0021】
これにより、アルジロダイト型硫化物系固体電解質はイオン伝導性が高く、広い温度範囲で安定であるため、電池の充放電特性を高め、電池の使用温度領域を拡げることができる。また、アルジロダイト型硫化物系固体電解質は比較的硬いものの、上記のように第一固体電解質層の空隙率が比較的高いため、第一固体電解質層と第一固体電解質層に隣接する層との接触面積の増加による反応ムラおよび界面抵抗の低減によって、局所的な金属リチウムの析出および成長を抑制できる。
【0022】
本開示の第3態様に係る電池の製造方法は、正極層と、前記正極層に対向して配置される負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層とを備える電池を製造する製造方法であって、前記固体電解質層は、前記正極層に隣接する第一固体電解質層と、前記負極層に隣接する第二固体電解質層と、を有し、前記製造方法は、空隙率が16%以上40%以下である前記第一固体電解質層を形成することと、空隙率が7%以下である前記第二固体電解質層を形成することと、を含む。
【0023】
これにより、上述した内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能な電池を製造することができる。
【0024】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ならびに、工程などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0025】
また、本明細書において、平行、垂直などの要素間の関係性を示す用語、および、矩形などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲も含むことを意味する表現である。
【0026】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。従って、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0027】
また、本明細書において、断面図は、電池等の積層体の中心部を積層方向に沿って切断した場合の断面を示す図である。また、本明細書において、積層方向は、電池の各層の厚さ方向、および、電池の各層の主面に垂直な方向と一致する。
【0028】
また、本明細書において、「第一」、「第二」などの序数詞は、特に断りの無い限り、構成要素の数または順序を意味するものではなく、同種の構成要素の混同を避け、区別する目的で用いられている。
【0029】
(実施の形態)
[1.構成]
まず、本実施の一形態に係る電池の構成について説明する。
【0030】
[1-1.電池]
はじめに、本実施の一形態に係る電池の概要について説明する。
【0031】
図1は、本実施の一形態に係る電池の一例を示す概略断面図である。
【0032】
図1に示すように、電池10は、正極活物質を含む正極層11と、正極層11に対向して配置され、負極活物質を含む負極層12と、正極層11と負極層12との間に配置される固体電解質層20と、正極層11の集電を行う正極集電体層15と、負極層12の集電を行う負極集電体層16と、を備える。固体電解質層20は、固体電解質層20における正極層11側に配置され、正極層11に隣接する第一固体電解質層13と、固体電解質層20における負極層12側に配置され、負極層12に隣接する第二固体電解質層14と、を有する。なお、正極層11と正極集電体層15とを併せて正極と呼ぶことがあり、負極層12と負極集電体層16とを併せて負極と呼ぶことがある。
【0033】
電池10は、例えば、正極層11、負極層12および固体電解質層20の全てが固体からなる全固体電池である。電池10は、正極層11、負極層12および固体電解質層20を有するものであれば特に限定されるものではない。電池10の形状は、例えば、コイン型、パウチ型、円筒型または角型等である。なお、正極層11、負極層12、固体電解質層20、正極集電体層15および負極集電体層16は、互いに平面形状および面積が同じであってもよく、これらのうちの少なくとも1つの層は他の層と平面形状および面積が異なっていてもよい。
【0034】
本実施の一形態に係る電池10は種々の用途に適用することができる。電池10の適用態様には特に制限はないが、例えば、電池10を電子機器に搭載する場合、電子機器としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。電池10のその他の民生用の用途として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、電池10は、宇宙用として用いることができる。また、電池10と太陽電池と組み合わせることもできる。
【0035】
以下、電池10の各構成について説明する。
【0036】
[1-2.固体電解質層]
まず、固体電解質層20について説明する。固体電解質層20は、第一固体電解質層13と、第二固体電解質層14と、を含む少なくとも2層が積層されている層である。
【0037】
第一固体電解質層13は、正極層11に隣接する固体電解質層である。第一固体電解質層13は、第二固体電解質層14と正極層11との間に配置される。第一固体電解質層13は、第二固体電解質層14と正極層11とのそれぞれと接していてもよい。
【0038】
第二固体電解質層14は、負極層12に隣接する固体電解質層である。第二固体電解質層14は、第一固体電解質層13と負極層12との間に配置される。第二固体電解質層14は、第一固体電解質層13と負極層12とのそれぞれと接していてもよい。
【0039】
第一固体電解質層13および第二固体電解質層14は、主成分として固体電解質を含む。固体電解質としては、例えば、LiS-P(Li11)、Li10GeP12、LiPSClおよびLiPSIなどの硫化物系固体電解質、ならびに、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO、LiLaZr12およびLi1.5Al0.5Ge1.5(POなどの酸化物系固体電解質などの無機固体電解質が挙げられる。第一固体電解質層13および第二固体電解質層14には、これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、イオン伝導性の観点からは、第一固体電解質層13および第二固体電解質層14は硫化物系固体電解質を含んでいてもよい。
【0040】
また、第一固体電解質層13および第二固体電解質層14は、固体電解質として、アルジロダイト(Argyrodite)型硫化物系固体電解質を含んでいてもよい。アルジロダイト型硫化物系固体電解質は、硫化物系固体電解質の一種であり、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質である。アルジロダイト型硫化物系固体電解質は、リチウムイオン伝導度が高く、広い温度範囲で安定であるため、アルジロダイト型硫化物系固体電解質を用いることで、電池10の充放電特性を向上させ、かつ、電池10の使用温度領域を拡げることができる。
【0041】
また、第一固体電解質層13および第二固体電解質層14のうちの少なくとも一方は構成材料として結着材を含んでいてもよい。第一固体電解質層13および第二固体電解質層14が結着材を含むことにより、第一固体電解質層13および第二固体電解質層14の強度が向上する。結着材としては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系結着材、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系結着材およびカルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系結着材などの有機系バインダが挙げられる。第一固体電解質層13および第二固体電解質層14のうちの少なくとも一方は、固体電解質および結着材以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。第一固体電解質層13および第二固体電解質層14における各構成材料の含有量および種類は適宜設定され、限定されない。また、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14とで、各構成材料の含有量および種類は、例えば、双方が同じであってもよく、各構成材料の含有量および種類の少なくとも一方が異なっていてもよく、各構成材料の含有量および種類の双方が異なっていてもよい。
【0042】
また、第一固体電解質層13および第二固体電解質層14の厚さは、適宜設定され、限定されない。第一固体電解質層13および第二固体電解質層14の厚さは、例えば、0.01μm以上1mm以下であり、0.1μm以上100μm以下であってもよく、1μm以上25μm以下であってもよい。第一固体電解質層13と第二固体電解質層14とで、厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
第一固体電解質層13の厚さに対する第二固体電解質層14の厚さの比率は、例えば、1/100以上100/1以下であり、1/50以上50/1以下であってもよく、1/30以上30/1以下であってもよく、1/10以上10/1以下であってもよい。
【0044】
ここで、第一固体電解質層13は、第二固体電解質層14に比べて高い空隙率を有している。また、第一固体電解質層13は、正極層11に比べて高い空隙率を有していてもよい。これにより、第一固体電解質層13に隣接する正極層11および第二固体電解質層14が低空隙率となっている状態でも、第一固体電解質層13とこれらの層を接触または接合させた場合、第一固体電解質層13の空隙率が高いため、第一固体電解質層13の表面が塑性変形して第一固体電解質層13と正極層11および第二固体電解質層14それぞれとの接触が良好となる。そのため、第一固体電解質層13と正極層11および第二固体電解質層14それぞれとの界面抵抗は低くなり、良好なリチウムイオン伝導パスが形成される結果、局所的な金属リチウムの析出および成長が抑制されるものと考えられる。各層の空隙率は、層の見かけ体積に対する層中で空隙が占める体積の割合である。層の面積および厚さから見かけ体積を算出し、層の質量と層の構成材料の真密度とから層の構成材料が占める体積を算出し、見かけ体積と構成材料が占める体積との差を空隙が占める体積として、空隙が占める体積を見かけ体積で除することで空隙率を算出する。
【0045】
また、さらに電池10の各層を接合させる際に、正極層11が高空隙率となっている状態で正極層11と第一固体電解質層13とを接触または接合させると、その後に正極層11を低空隙率とする加工の際に、相対的に硬い正極層11が第一固体電解質層13にクラックを生じさせる。特に、正極層11と第二固体電解質層14および負極層12との面積および形状が異なる場合は、面積の小さい層の端部を起点にクラックが拡大して、製造工程が煩雑になり、生産時の歩留まりが低くなる。このような課題に対しても、第一固体電解質層13の空隙率が高いことで、第一固体電解質層13が比較的柔らかく、クラックの発生が抑制されるため、生産時の歩留まり低下を抑制できる。
【0046】
また、負極層12に隣接する第二固体電解質層14の空隙率を低くすることで、負極層12に含まれる負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンの一部が電子を取り込み、金属リチウムとして析出しても、緻密な第二固体電解質層14によってデンドライトの成長を抑制できる。
【0047】
このように、固体電解質層20は、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14とからなる役割の異なる2層を含む。これにより、高空隙率の第一固体電解質層13と第一固体電解質層13に隣接する正極層11および第二固体電解質層14それぞれとの接触面積の増加によって反応ムラおよび界面抵抗が低減し、局所的な金属リチウムの析出および成長を抑制できる。また、緻密な第二固体電解質層14は、デンドライトの成長を抑制できる。よって、電池10における内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能となる。
【0048】
第一固体電解質層13の空隙率は、16%以上40%以下である。第一固体電解質層13の空隙率が16%未満の場合は、第一固体電解質層13の塑性変形の余地が小さく、他の層との接触が不十分となって正極層11および第二固体電解質層14との界面抵抗は高くなる。そのため、リチウムイオン伝導パスが阻害される結果、局所的な金属リチウムの析出および成長が発生するものと考えられる。また、第一固体電解質層13の空隙率が40%を超える場合は、空隙が多すぎて固体電解質の脱落が起こる等、製造上の面で問題が多くなるとともに、第一固体電解質層13内部のイオン伝導性が低下し、電池10の特性が低下する。
【0049】
また、第二固体電解質層14の空隙率は、7%以下である。第二固体電解質層14の空隙率が7%を超えると、負極層12に含まれる負極活物質に吸蔵されたリチウムイオンの一部が電子を取り込み金属リチウムとして析出した場合に、第二固体電解質層14の空隙でデンドライトが成長しやすくなり、内部短絡の発生が抑制できず、急速充電が困難となる。
【0050】
また、アルジロダイト型硫化物系固体電解質が第一固体電解質層13と第二固体電解質層14に含まれる場合、アルジロダイト型硫化物系固体電解質はイオン伝導性が高く、かつ、硬いため、界面抵抗の上昇、ならびに、局所的な金属リチウムの析出および成長が生じやすい傾向となるが、第一固体電解質層13および第二固体電解質層14が上記の空隙率を有することで電池10における内部短絡の発生の抑制および急速充電が可能となる。
【0051】
[1-3.正極層]
次に、正極層11について説明する。正極層11は、正極集電体層15と固体電解質層20との間に配置される。正極層11は、主成分として、正極活物質および固体電解質を含む。
【0052】
正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、Ni、Co、Mnの3元系リチウム金属複合酸化物、Ni、Co、Alの3元系リチウム金属複合酸化物およびLiFePOなどが挙げられる。正極層11には、これらの2種以上が用いられてもよい。
【0053】
固体電解質としては、例えば、上記の[1-2.固体電解質層]で例示した固体電解質を用いることができる。
【0054】
固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる場合には、正極活物質の反応を抑制するため、正極活物質表面にLiNbOによるコーティングを行ってもよい。
【0055】
また、正極層11は、構成材料として結着材を含んでいてもよい。正極層11が結着材を含むことにより、正極層11の強度が向上する。結着材としては、例えば、上記の[1-2.固体電解質層]で例示した結着材を用いることができる。
【0056】
また、正極層11は、構成材料として導電材を含んでいてもよい。正極層11が導電材を含むことにより、正極層11の電子伝導度が向上する。導電材としては、例えば、カーボンナノファイバー、アセチレンブラックおよびケッチェンブラック(登録商標)等の炭素材料ならびにニッケル、アルミニウムおよびステンレス等の金属材料などが挙げられる。
【0057】
また、正極層11は、構成材料として正極活物質、固体電解質、結着材および導電材以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0058】
正極層11における各構成材料の含有量および正極層11の形状は特に限定されない。正極層11の厚さは、例えば、0.1μm以上30mm以下であり、1μm以上1mm以下であってもよく、2μm以上250μm以下であってもよい。
【0059】
正極層11における正極活物質の含有量は、例えば、50質量%以上99質量%以下であり、70質量%以上98質量%以下であってもよく、90質量%以上97質量%以下であってもよい。
【0060】
また、エネルギー密度および充放電特性を向上させる観点から、正極層11の空隙率は、例えば、12%以下であり、9%以下であってもよい。
【0061】
[1-4.負極層]
次に、負極層12について説明する。負極層12は、負極集電体層16と固体電解質層20との間に配置される。負極層12は、主成分として、負極活物質および固体電解質を含む。
【0062】
負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、チタン酸リチウム、酸化チタン、シリコンおよび酸化シリコンなどが挙げられる。負極層12には、これらの2種以上が用いられてもよい。
【0063】
固体電解質としては、例えば、上記の[1-2.固体電解質層]で例示した固体電解質を用いることができる。
【0064】
また、負極層12は、構成材料として結着材を含んでいてもよい。負極層12が結着材を含むことにより、負極層12の強度が向上する。結着材としては、例えば、上記の[1-2.固体電解質層]で例示した結着材を用いることができる。
【0065】
また、負極層12は、構成材料として負極活物質、固体電解質および結着材以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0066】
負極層12における各構成材料の含有量および負極層12の形状は特に限定されない。負極層12の厚さは、例えば、0.1μm以上30mm以下であり、1μm以上1mm以下であってもよく、2μm以上250μm以下であってもよい。
【0067】
負極層12における負極活物質の含有量は、例えば、50質量%以上99質量%以下であり、70質量%以上98質量%以下であってもよく、90質量%以上97質量%以下であってもよい。
【0068】
[1-5.集電体層]
次に、正極集電体層15および負極集電体層16について説明する。正極集電体層15の一方の主面には正極層11が積層される。正極集電体層15と正極層11とは接している。負極集電体層16の一方の主面には負極層12が積層される。負極集電体層16と負極層12とは接している。
【0069】
正極集電体層15および負極集電体層16を構成する材料は、固体電解質との接触および作動電位内の充放電により反応しないこと、ならびに、電気抵抗率が低いことが好ましい。正極集電体層15および負極集電体層16は、例えば、金属箔で構成される。正極集電体層15および負極集電体層16に用いる材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系(2相))、ニッケルおよび銅などが挙げられる。正極集電体層15および負極集電体層16は、これらの2種以上を含んでいてもよい。
【0070】
また、正極層11および負極層12が固体電解質として硫化物系固体電解質を含む場合、採用する集電体層の材料によっては、集電体層と硫化物系固体電解質とが反応して、電池10の内部抵抗が増加する可能性がある。このような場合においては、正極集電体層15および負極集電体層16の材料として、硫化物系固体電解質との反応性が低い材料を用いることが好ましい。例えば、負極集電体層16の材料として、ステンレスまたはニッケルなどを用いてもよい。また、例えば、正極集電体層15の材料として、アルミニウムを用いてもよい。
【0071】
[1-6.その他の構成]
電池10は、上記で説明した各層以外のその他の構成をさらに備えていてもよい。その他の構成としては、電池に用いられる通常の構成を特に制限されることなく適用することができる。
【0072】
電池10は、例えば、正極集電体層15に接続される正極端子および負極集電体層16に接続される負極端子を備えていてもよい。正極端子および負極端子を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケルなどが挙げられる。正極端子および負極端子は、これらの2種以上を含んでいてもよい。また、正極端子および負極端子には、後述する外装体と接する箇所に、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いたシーラントフィルムを配置してもよい。これにより、熱圧着による封止を強固にすることができる。
【0073】
また、電池10は、例えば、電池10の各層を一括して覆う外装体を備えていてもよい。外装体には、例えば、金属樹脂複合フィルムなどが用いられる。電池10中の固体電解質が、大気雰囲気に含まれる水分と反応して劣化することを抑制するため、外装体は、例えば、ガスバリア性を有する。また、外装体は、例えば、真空封止により形成される。真空封止によって、各層の界面抵抗を低減することができる。
【0074】
[2.電池の製造方法]
続いて、上述した実施の形態に係る電池10の製造方法について説明する。
【0075】
図2は、本実施の形態に係る電池10の製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下で説明する製造方法は一例であり、本実施の形態に係る電池10の製造方法は、以下の例に限らない。
【0076】
電池10の製造方法では、図2に示すように、まず、正極層11を形成する(ステップS10)。例えば、正極集電体層15を構成する金属箔を準備し、正極集電体層15の表面上に、正極層11の構成材料を含むスラリー等の組成物を塗布し、乾燥することにより正極層11が形成される。塗布の方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター等、または、印刷層を形成するためにスクリーン印刷等の連続的な製造方法を用いることができる。また、正極層11の構成材料の塗布において、ロール トゥ ロール法を用いてもよい。
【0077】
また、高充填化のため、形成した正極層11に対して加圧してもよい。このような加圧の方法は、特に限定されないが、正極層11の加圧は、例えば、ロール トゥ ロール法を用いて加圧をする方法等のように、上記の塗布の後に連続して行う方法、または、平板プレス、ロールプレス、等方圧プレス(ISP)等の通常の方法により行うことができる。また、加圧においては、加温してもよい。加圧における加圧力、加圧温度および加圧時間などの各種の加圧条件も特に限定されないが、この加圧条件により、正極層11の空隙率を調整することができる。例えば、加圧力を大きくする、加圧温度を高くする、加圧時間を長くする、等によって空隙率は小さくなる。なお、加圧は、正極層11単独に対して行われてもよく、他の層が正極層11に積層された後に複数の層に対して一括で行われてもよい。
【0078】
次に、第一固体電解質層13を形成する(ステップS20)。例えば、金属箔または樹脂フィルム等の基材を準備し、基材の表面上に第一固体電解質層13の構成材料を含むスラリー等の組成物を塗布し、乾燥することにより第一固体電解質層13が形成される。塗布の方法には、上記の正極層11の形成における塗布と同様の方法を用いることができる。
【0079】
次に、ステップS20で形成した第一固体電解質層13をステップS10で形成した正極層11上に積層することで正極側積層体を形成する(ステップS30)。図3は、本実施の形態に係る正極側積層体の一例を示す概略断面図である。図3に示すように、正極側積層体30は、正極集電体層15、正極層11および第一固体電解質層13がこの順で厚さ方向に沿って積層された構造を有する。例えば、第一固体電解質層13を正極層11上に加圧によって転写することで正極側積層体30が形成される。転写する際の加圧の方法には、上記の正極層11の形成における加圧と同様の方法を用いることができる。この加圧における加圧条件により、第一固体電解質層13の空隙率を調整することができる。例えば、加圧力を大きくする、加圧温度を高くする、加圧時間を長くする、等によって空隙率は小さくなる。なお、塗布における条件を変更することでも第一固体電解質層13の空隙率は調整され得る。また、第一固体電解質層13の転写前に、第一固体電解質層13を加圧することによって空隙率を調整してもよい。このように、電池10の製造方法では、第一固体電解質層13の空隙率を調整することによって、空隙率が16%以上40%以下である第一固体電解質層13を形成する。
【0080】
なお、第一固体電解質層13は、正極層11上に直接形成されてもよい。この場合は、ステップS20とステップS30とが同時に行われることになる。例えば、正極層11上に第一固体電解質層13の構成材料を含むスラリー等の組成物を塗布して第一固体電解質層13を形成し、必要に応じて第一固体電解質層13を加圧して第一固体電解質層13の空隙率を調整する。このように、正極層11上に直接第一固体電解質層13を形成することでも、正極側積層体30を形成することが可能である。
【0081】
次に、負極層12を形成する(ステップS40)。例えば、負極集電体層16を構成する金属箔を準備し、負極集電体層16の表面上に、負極層12の構成材料を含むスラリー等の組成物を塗布し、乾燥することにより負極層12が形成される。塗布の方法には、上記の正極層11の形成における塗布と同様の方法を用いることができる。
【0082】
また、高充填化のため、形成した負極層12に対して加圧してもよい。この加圧の方法には、上記の正極層11の形成における加圧と同様の方法を用いることができる。また、正極層11と同様に、この加圧における加圧条件により、負極層12の空隙率を調整することができる。なお、加圧は、負極層12単独に対して行われてもよく、他の層が負極層12に積層された後に複数の層に対して一括で行われてもよい。
【0083】
次に、第二固体電解質層14を形成する(ステップS50)。例えば、金属箔または樹脂フィルム等の基材を準備し、基材の表面上に第二固体電解質層14の構成材料を含むスラリー等の組成物を塗布し、乾燥することにより第二固体電解質層14が形成される。塗布の方法には、上記の正極層11の形成における塗布と同様の方法を用いることができる。
【0084】
次に、ステップS40で形成した第二固体電解質層14をステップS40で形成した負極層12上に積層することで負極側積層体を形成する(ステップS60)。図4は、本実施の形態に係る負極側積層体の一例を示す概略断面図である。図4に示すように、負極側積層体40は、負極集電体層16、負極層12および第二固体電解質層14がこの順で厚さ方向に沿って積層された構造を有する。例えば、第二固体電解質層14を負極層12上に加圧によって転写することで負極側積層体40が形成される。転写する際の加圧の方法には、上記の正極層11の形成における加圧と同様の方法を用いることができる。この加圧における加圧条件により、第一固体電解質層13と同様に、第二固体電解質層14の空隙率を調整することができる。なお、塗布における条件を変更することでも第二固体電解質層14の空隙率は調整され得る。また、第二固体電解質層14の転写前に、第二固体電解質層14を加圧することによって空隙率を調整してもよい。このように、電池10の製造方法では、第二固体電解質層14の空隙率を調整することによって、空隙率が7%以下である第二固体電解質層14を形成する。
【0085】
なお、第二固体電解質層14は、負極層12上に直接形成されてもよい。この場合は、ステップS50とステップS60とが同時に行われることになる。例えば、負極層12上に第二固体電解質層14の構成材料を含むスラリー等の組成物を塗布して第二固体電解質層14を形成し、必要に応じて第二固体電解質層14を加圧して第二固体電解質層14の空隙率を調整する。このように、負極層12上に直接第二固体電解質層14を形成することでも、負極側積層体40を形成することが可能である。
【0086】
次に、正極側積層体30と負極側積層体40とを、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14とが対面するようにして積層する(ステップS70)。これにより、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14とが接触して、正極層11と負極層12との間に固体電解質層20が形成され、電池10が得られる。また、正極側積層体30と負極側積層体40との積層の際、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14とを接合するために、必要に応じて加圧が行われてもよい。この加圧の方法には、上記の正極層11の形成における加圧と同様の方法を用いることができる。
【0087】
また、得られた電池10の正極集電体層15および負極集電体層16のそれぞれに対して端子が形成されてもよい。なお、端子は、電池10の製造途中の段階で形成されてもよい。
【0088】
また、必要に応じて、電池10に外装体が形成されてもよい。例えば、得られた電池10を金属樹脂複合フィルムで真空封止する。
【0089】
また、電池10を拘束部材により拘束することで、電池10に対して厚さ方向に拘束圧が付与されていてもよい。また、この拘束部材による拘束圧の付与を、上記の各層の加圧の代わりの工程としてもよい。拘束部材の種類は特に限定されるものではなく、金属板で電池10を挟み込む部材等の一般的な拘束部材を用いることができる。
【0090】
なお、図2で示した製造ステップの順序は一例であり、電池10を製造できれば、各ステップは入れ替えられてもよく、2以上のステップが並行して行われてもよい。例えば、ステップS10からステップS30までとステップS40からステップS60までとは、並行して行われてもよく、ステップS40からステップS60までの少なくとも一部がステップS10からステップS30までより先に行われてもよい。また、例えば、ステップS30の前に、ステップS40およびステップS50が行われてもよい。
【0091】
また、上記の製造方法では、正極側積層体30と負極側積層体40とを積層することで電池10を形成したが、正極側積層体30および負極側積層体40以外の構成の積層体を形成して積層することで電池10を形成してもよい。例えば、正極集電体層15と正極層11との積層体と、負極集電体層16と負極層12と固体電解質層20との積層体とを形成し、これらを積層することで電池10を形成してもよい。また、3つ以上の積層体を形成した後に、この3つ以上の積層体を積層することで電池10を形成してもよい。また、正極集電体層15側または負極集電体層16側から電池10の各層を順次積層することで電池10を形成してもよい。
【0092】
また、上記の製造方法は、塗布によって負極層12を負極集電体層16上に形成する工程を含んでいるが、電池10のうちの負極層12が形成されていない積層体を形成し、その後の充電により負極活物質としてのリチウム金属を負極集電体層16上に析出させて形成することで負極層12が形成されてもよい。また、負極層12は、リチウム金属の粉末を堆積もしくは成形してなる層、または、リチウム箔もしくはリチウム蒸着膜等のリチウム金属層であってもよい。
【0093】
また、形成した電池10を構成単位セルとしてさらに積層して、複数の構成単位セルを並列または直列に接続した積層電池を形成することもできる。本実施の形態に係る電池は、このような複数の構成単位セルが積層された積層電池であってもよい。積層電池の場合、外装体および拘束部材は、例えば、複数の構成単位セルを一括で封止および拘束してもよい。
【0094】
(実施例)
次に、実施例にて本開示に係る電池を評価した結果について説明する。本開示は実施例に限定されるものではない。具体的には、実施例および比較例における電池を作製し、作製した電池を評価した。
【0095】
[評価方法]
まず、各実施例および比較例における電池の評価方法について説明する。電池の評価としては、電池の特性評価および空隙率評価を行った。
【0096】
<電池の特性評価>
電池の特性評価としては、まず、各実施例および比較例における電池について、電池の両面を拘束部材で挟んで加圧した状態で、25℃、3.00Vから4.35Vの電圧範囲で、0.1Cの電流でCCCV(Constant Current Constant Voltage)充放電を行った。なお、1Cは1時間で電池の全容量を充電する電流である。すなわち、0.1Cは10時間で全容量を充電する電流値であり、下記の6Cは10分で全容量を充電する電流値である。
【0097】
その後、60℃、3.00Vから4.35Vの電圧範囲で、6Cの電流でCC(Constant Current)充電を行い、0.1Cの電流でCCCV放電して充放電容量を測定し、放電容量/充電容量×100(%)を6Cの電流で充電したときのクーロン効率(6Cクーロン効率)とした。6Cの電流での充電は、10分で電池の全容量を充電する急速充電である。この6Cクーロン効率が99%以上の場合は、内部短絡の兆候が見られず、かつ、急速充電が可能であるとして「〇」と評価し、6Cクーロン効率が99%未満の場合は、内部短絡の兆候が見られているとして「×」と評価した。
【0098】
<空隙率評価>
電池の各層の空隙率評価としては、まず、実施例および比較例における電池について、断面SEM(Scanning Electron Microscope)画像を取得し、取得した断面SEMから各層の厚さを測定した。そして、測定した層の厚さ、層の面積、使用した層の構成材料の真密度、使用した層の構成材料の質量および使用した層の構成材料の含有量から、上記した方法で空隙率を計算した。
【0099】
[電池の作製]
以下の方法で実施例および比較例における電池を作製した。
【0100】
<実施例1>
まず、正極集電体層としてアルミニウム箔、正極活物質としてLiNbOによりコートしたNi、Co、Mnの3元系リチウム金属複合酸化物(真密度:4.75g/cm)、固体電解質としてアルジロダイト型硫化物系固体電解質(真密度:1.89g/cm)、導電材としてカーボンナノファイバー(真密度:2.1g/cm)および結着材として有機系バインダ(真密度:0.93g/cm)を準備した。次に、準備した正極活物質、固体電解質、導電材および結着材を混合した正極活物質スラリーを正極集電体層上に塗工して、正極層を形成し、正極層の空隙率が9%となるように調整した加圧条件で正極層を加圧した。
【0101】
次に、負極集電体層としてステンレス箔、負極活物質として黒鉛(真密度:2.3g/cm)、固体電解質として上記と同じアルジロダイト型硫化物系固体電解質および結着材として上記と同じ有機系バインダを準備した。次に、準備した負極活物質、固体電解質および結着材を混合した負極活物質スラリーを負極集電体層上に塗工および加圧して、負極層を形成した。
【0102】
次に、固体電解質として上記と同じアルジロダイト型硫化物系固体電解質および結着材として上記と同じ有機系バインダを混合した固体電解質スラリーをステンレス箔上に塗工して、2層からなる固体電解質層を構成する第一固体電解質層および第二固体電解質層をそれぞれ個別に形成した。
【0103】
次に、形成した正極層上に、第一固体電解質層の空隙率が18%となるように調整した加圧条件で第一固体電解質層を加圧して転写し、正極層に第一固体電解質層を積層した。これにより、正極側積層体が形成された。この時、正極層の空隙率に変化はなかった。第一固体電解質層の塗工に用いたステンレス箔は、転写時に剥離して除去した。
【0104】
また、形成した負極層上に、第二固体電解質層の空隙率が4%となるように調整した加圧条件で第二固体電解質層を加圧して転写し、負極層に第二固体電解質層を積層した。これにより、負極側積層体が形成された。第二固体電解質層の塗工に用いたステンレス箔は、転写時に剥離して除去した。
【0105】
次に、端子を正極集電体層および負極集電体層に接続した。さらに、正極側積層体と負極側積層体とを、第一固体電解質層と第二固体電解質層とが対面するように積層し、外装体として金属樹脂複合フィルムを用いて真空封止した。最後に、外装体で封止後の電池をSUS鋼板製の拘束部材を用いて両面から挟むことにより拘束し、実施例1における電池を得た。正極側積層体と負極側積層体との積層、真空封止および拘束部材による拘束では、各層の空隙率は変化しないように実施した。なお、電池の特性評価後においても各層の空隙率は変化しなかった。
【0106】
<実施例2>
正極層上への第一固体電解質層の積層において、第一固体電解質層の空隙率が26%となるように調整した加圧条件で第一固体電解質層を加圧して転写したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0107】
<実施例3>
正極層上への第一固体電解質層の積層において、第一固体電解質層の空隙率が35%となるように調整した加圧条件で第一固体電解質層を加圧して転写したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例3における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0108】
<比較例1>
正極層上への第一固体電解質層の積層において、第一固体電解質層の空隙率が14%となるように調整した加圧条件で第一固体電解質層を加圧して転写したこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例1における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0109】
<比較例2>
正極側積層体の形成において、正極層上に第一固体電解質層を塗工して形成することで正極側積層体を形成したこと(つまり第一固体電解質層を加圧しなかったこと)以外は実施例1と同様の方法で、比較例2における電池を作製した。拘束後の第一固体電解質層の空隙率は41%となった。なお、電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0110】
<比較例3>
正極層上への第一固体電解質層の積層において、第一固体電解質層の空隙率が4%となるように調整した加圧条件で第一固体電解質層を加圧して転写したこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例3における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0111】
<比較例4>
正極層上への第一固体電解質層の積層において、第一固体電解質層の空隙率が3%となるように調整した加圧条件で第一固体電解質層を加圧して転写したこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例4における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0112】
<比較例5>
負極層上への第二固体電解質層の積層において、第二固体電解質層の空隙率が8%となるように調整した加圧条件で第二固体電解質層を加圧して転写したこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例5における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0113】
<比較例6>
正極層上に第一固体電解質層を積層していない正極側積層体を形成し、固体電解質層を負極層上に積層された第二固体電解質層の1層のみとして、正極層と第二固体電解質層とが対面するように正極側積層体と負極側積層体とを積層した以外は実施例1と同様の方法で、比較例6における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0114】
<比較例7>
負極層上への第二固体電解質層の積層において、第二固体電解質層の空隙率が3%となるように調整した加圧条件で第二固体電解質層を加圧して転写したこと以外は比較例6と同様の方法で、比較例7における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0115】
<比較例8>
負極層上への第二固体電解質層の積層において、第二固体電解質層の空隙率が12%となるように調整した加圧条件で第二固体電解質層を加圧して転写したこと以外は比較例6と同様の方法で、比較例8における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0116】
<比較例9>
負極層上への第二固体電解質層の積層において、第二固体電解質層の空隙率が27%となるように調整した加圧条件で第二固体電解質層を加圧して転写したこと以外は比較例6と同様の方法で、比較例9における電池を作製した。なお、拘束後および電池の特性評価後の各層の空隙率は変化しなかった。
【0117】
[電池の評価結果]
実施例1から3および比較例1から9における電池の特性評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示す通り、実施例1から3における電池のように、固体電解質層が第一固体電解質層と第二固体電解質層とを有し、正極層に隣接する第一固体電解質層の空隙率が16%以上40%以下であり、かつ負極層に隣接する第二固体電解質層の空隙率が7%以下であると、6Cクーロン効率が99%以上であり、急速充電が可能で特性の高い電池を実現できている。
【0120】
一方、第一固体電解質層の空隙率が16%未満の比較例1、3、4、第一固体電解質層の空隙率が40%を超える比較例2、第二固体電解質層の空隙率が7%を超える比較例5、および、固体電解質層が1層のみの比較例6から9における電池は、6Cクーロン効率が99%未満であり、急速充電した場合に内部短絡の兆候を示し、実施例1から3における電池より特性が劣る電池となった。特に、比較例3、4における電池のように、正極層に隣接する第一固体電解質層の空隙率を7%以下として、固体電解質を高充填化した電池、および、比較例6、7における電池のように1層のみの固体電解質層の空隙率を7%以下として、固体電解質を高充填化した電池も特性が低かった。
【0121】
以上のように、固体電解質層が第一固体電解質層と第二固体電解質層とを有し、正極層に隣接する第一固体電解質層の空隙率が16%以上40%以下であり、かつ負極層に隣接する第二固体電解質層の空隙率が7%以下となる条件で電池を作製することで、急速充電が可能で特性の高い電池を実現できることが明らかとなった。
【0122】
(その他の実施の形態)
以上、本開示に係る電池について、実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態および実施例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態または実施例に施したもの、ならびに、実施の形態および実施例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【0123】
例えば、上記実施の形態では、電池10において伝導するイオンがリチウムイオンである例を説明したが、これに限らない。電池10において伝導するイオンは、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンまたは銅イオンなどのリチウムイオン以外のイオンであってもよい。
【0124】
また、例えば、上記実施の形態では、固体電解質層20は、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14との2層で構成されたが、これに限らない。固体電解質層20は、3層以上で構成されていてもよい。例えば、固体電解質層20は、第一固体電解質層13と第二固体電解質層14との間に別の固体電解質層を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示に係る電池は、電子機器、電気器具装置および電気車両などの様々な用途の電池として、利用されうる。
【符号の説明】
【0126】
10 電池
11 正極層
12 負極層
13 第一固体電解質層
14 第二固体電解質層
15 正極集電体層
16 負極集電体層
20 固体電解質層
30 正極側積層体
40 負極側積層体
図1
図2
図3
図4