(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134926
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】黒色複合酸化物粒子
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240927BHJP
C09C 1/22 20060101ALI20240927BHJP
C09C 1/02 20060101ALI20240927BHJP
C09C 1/40 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C09C1/22
C09C1/02
C09C1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045378
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】羽生 真也
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【テーマコード(参考)】
4G002
4J037
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE01
4J037AA09
4J037AA14
4J037AA24
4J037DD02
4J037FF05
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、黒色度に優れ、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ない黒色複合酸化物粒子を提供する。
【解決手段】本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、金属成分としてFe、Mg、及びAlを含有し、Feの含有率をW1重量%、Mgの含有率をW2重量%、Alの含有率をW3重量%としたとき、42≦W1≦60、4≦W2≦11、及び4≦W3≦11を満たし、X線結晶構造解析におけるスピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅が0.100°以上0.190°以下であり、さらにClを5ppm以上100ppm以下含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分としてFe、Mg、及びAlを含有し、
Feの含有率をW1重量%、Mgの含有率をW2重量%、Alの含有率をW3重量%としたとき、下記式:
42≦W1≦60
4≦W2≦11
4≦W3≦11
を満たし、
X線結晶構造解析におけるスピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅が0.100°以上0.190°以下であり、
さらにClを5ppm以上100ppm以下含有する
黒色複合酸化物粒子。
【請求項2】
下記式:
0.07≦W2/W1≦0.26
0.07≦W3/W1≦0.26
0.4≦W3/W2≦2.3
を満たす
請求項1の黒色複合酸化物粒子。
【請求項3】
レーザー回折散乱法による体積累積50%粒子径D50が0.05μm以上0.7μm以下であり、体積累積90%粒子径D90が1.0μm以下であり、
前記体積累積50%粒子径D50とBET比表面積Sとが、下記式:
1.3935×D50-1.144≦S≦3.5303×D50-0.974
を満たす
請求項1の黒色複合酸化物粒子。
【請求項4】
JIS K5101-1991に準拠した色差計により黒色度及び色相を測定したとき、L値が20以下であり、a値が2.0以下であり、b値が2.0以下である
請求項1に記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項5】
負荷磁場79.6kA/mにおける飽和磁化Msが30Am2/kg以下である
請求項1に記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項6】
高温高湿下(30℃、相対湿度80%)における体積抵抗率RvH(Ωcm)の常用対数値が7.0以上である
請求項1に記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項7】
低温低湿下(10℃、相対湿度20%)における体積抵抗率RvL(Ωcm)の常用対数値と、高温高湿下(30℃、相対湿度80%)における体積抵抗率RvH(Ωcm)の常用対数値との比である体積抵抗率の環境変動比(log10RvL/log10RvH)が1.00以上1.25以下である
請求項1に記載の黒色複合酸化物粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に塗料用、印刷インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用、セラミック用の黒色顔料として好適な黒色複合酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、印刷インキ、トナー、ゴム・プラスチック、セラミックス等の用途に等に使用される黒色顔料は、黒色度、着色力、隠蔽力等の特性と安価であることが求められている。無機系の黒色顔料としては、カーボンブラックや、マグネタイトを代表とする酸化鉄系顔料、その他複合酸化物顔料等が広く使用されている。
【0003】
これらの無機系の黒色顔料においては、一般的にナノレベル~サブミクロンの粒子径とすることが求められおり、特にカーボンブラックにおいては、安全性への懸念から様々な代替顔料が検討されている。
【0004】
特許文献1には、金属成分としてFe、Mg及びAlを含み、Feの量が30~55質量%であってFe3+/Fe2+の原子数比が0.8~10であり、Mgの量が1~10質量%であり、Alの量が1~10質量%である複合酸化物を含有する黒色複合酸化物粒子が提案されている。特許文献2には、MgxFeyO(Fe2O3)1+z(ただし、0.3<x<1、0<y<0.7、x+y=1、0<z<0.5)で表わされる組成物を含有し、かつ平均粒径が0.01~0.5μmであるMg含有黒色酸化鉄粒子が提案されている。特許文献3には、銅、マンガン、及びアルミニウムを含む主成分金属の複合酸化物であり、金属元素の合計に対する各金属の含有割合が、銅25~45モル%、マンガン25~70モル%、及びアルミニウム2~40モル%であり、クロム、コバルト、及びニッケルを実質的に含有しない複合酸化物黒色顔料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-238164号公報
【特許文献2】特開2003-286030号公報
【特許文献3】特開2015-98509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3に記載されているような無機酸化物顔料は、カーボンブラックに比べて黒色度や磁力による凝集性が課題となっている。一方、無機酸化物顔料は、カーボンブラックよりも高抵抗にしやすく、トナーに使用した際に、抵抗や帯電性を適切なレベルにコントロールしやすいという特徴があるものの、トナーの帯電性は、高温高湿下や低温低湿下における変動を小さくする必要がある。特に、ブラックトナーにおいては、着色剤として顔料添加量が多いことから、この帯電量環境変動への影響を小さくするため、体積抵抗率の環境変動を抑制することが求められている。
【0007】
従って、本発明の目的は、安全性が高く、黒色度に優れ、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ない黒色複合酸化物粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題に対して鋭意検討した結果、金属成分としてFe、Mg、及びAlを特定の含有率で含有し、かつ結晶性を表す半値幅が特定の範囲にあり、Clを特定の含有率で含有することで、安全性が高く、黒色度に優れ、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ない黒色複合酸化物粒子が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、金属成分としてFe、Mg、及びAlを含有し、
Feの含有率をW1重量%、Mgの含有率をW2重量%、Alの含有率をW3重量%としたとき、下記式:
42≦W1≦60
4≦W2≦11
4≦W3≦11
を満たし、
X線結晶構造解析におけるスピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅が0.100°以上0.220°以下であり、
さらにClを5ppm以上100ppm以下含有する黒色複合酸化物粒子を提供する。
【0010】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、下記式:
0.07≦W2/W1≦0.26
0.07≦W3/W1≦0.26
0.4≦W3/W2≦2.3
を満たすことが好ましい。
【0011】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、レーザー回折散乱法による体積累積50%粒子径D50が0.05μm以上0.7μm以下であり、体積累積90%粒子径D90が1.0μm以下であり、
前記体積累積50%粒子径D50とBET比表面積Sとが、下記式:
1.3935×D50-1.144≦S≦3.5303×D50-0.974
を満たすことが好ましい。
【0012】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、JIS K5101-1991に準拠した色差計により測定した黒色度L値が20以下であり、色相a値が2.0以下であり、色相b値が2.0以下であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、負荷磁場79.6kA/mにおける飽和磁化Msが30Am2/kg以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、高温高湿下(30℃、相対湿度80%)における体積抵抗率RvH(Ωcm)の常用対数値が7.0以上であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、低温低湿下(10℃、相対湿度20%)における体積抵抗率RvLの常用対数値と、高温高湿下(30℃、相対湿度80%)における体積抵抗率RvHの常用対数値との比である体積抵抗の環境変動比(log10RvL/log10RvH)が1.00以上1.25以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係わる黒色複合酸化物粒子は、安全性が高く、黒色度に優れ、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ない黒色複合酸化物粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、主成分となる金属成分としてFe、Mg、及びAlにより構成されている。なお、それぞれの元素の酸化物としては、Feのみの場合には、黒色顔料として知られたマグネタイト(Fe3O4)が生成するが、そこにMgが存在すると、Feと反応して褐色糸のマグネシウムフェライト(MgFe2O4)等が生成し、またAlが存在すると、黒味のある酸化物であるヘルシナイト(FeAl2O4)等が生成することが知られている。しかしながら、Fe、Mg、及びAlの3種類の元素を使用した場合には、これらの元素はスピネル構造中に固溶して存在することから、黒味及び磁化の制御において、特定の比率に調整することが重要である。
【0018】
そこで、本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、金属成分としてFe、Mg、及びAlを含有し、かつ、Feの含有率をW1重量%、Mgの含有率をW2重量%、Alの含有率をW3重量%としたとき、下記式:
42≦W1≦60
4≦W2≦11
4≦W3≦11
を満たすことが重要である。
【0019】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子において、Feの含有率が42重量%未満であると、磁化は低いものの黒色度が低くなる傾向がある。また、Feの含有率が60質量%を超えると、黒色度は高いものの磁化が高くなる傾向がある。したがって、黒色度及び磁化の両立を図る観点から、42≦W1≦60を満たすことが重要である。W1は、45以上であることが好ましく、47以上であることがより好ましい。また、W1は、57以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子において、Mgの含有率が4重量%未満であると、黒色度は高いものの磁化が高くなる傾向がある。また、Mgの含有率が11質量%を超えると、磁化は低いものの黒色度が低くなる傾向がある。したがって、黒色度及び磁化の両立を図る観点から、4≦W2≦11を満たすことが重要である。W2は、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、W2は、10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子において、Alの含有率が4重量%未満であると、黒色度は高いものの磁化が高くなる傾向がある。また、Alの含有率が11質量%を超えると、磁化は低いものの黒色度が低くなる傾向がある。したがって、黒色度及び磁化の両立を図る観点から、4≦W3≦11を満たすことが重要である。W3は、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。また、W3は、10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子において、さらに、Feに対するMg及びAlの重量比、並びにMgに対するAlの重量比を調整することで、黒色度と磁化をよりバランスよく両立させることが好ましい。具体的には、下記式:
0.07≦W2/W1≦0.26
0.07≦W3/W1≦0.26
0.4≦W3/W2≦2.3
を満たすことが好ましい。この範囲であれば、黒色度と磁化をよりバランスよく両立させることができる。W2/W1は、0.10以上であることがより好ましく、また、0.20以下であることがより好ましい。W3/W1は、0.10以上であることがより好ましく、また、0.20以下であることがより好ましい。W3/W2は、0.6以上であることがより好ましく、また、2.0以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、Fe、Mg、及びAl以外に、さらにClを含有することが重要である。ただし、Clの含有率が5ppm未満であると、低温低湿下における体積抵抗率の環境変動が相対的に大きくなる傾向がある。また、Clの含有率が100ppmを超えると、高温高湿下における体積抵抗率の環境変動が相対的に大きくなる傾向がある。したがって、体積抵抗率の環境変動をより安定させる観点から、Clの含有率は、5ppm以上100ppm以下であることが重要である。Clの含有率は、10ppm以上であることが好ましく、20ppm以上であることがより好ましい。また、Clの含有率は、80ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、X線結晶構造解析におけるスピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅が0.100°以上0.190°以下であることが重要である。半値幅が0.100未満では、スピネル構造における格子欠損が少なく、単一なスピネル結晶構造に近いため、磁化が高く、低抵抗となる傾向がある。半値幅が0.190より大きい場合、黒味が低くなる傾向がある。半値幅は、0.120°以上0.170°以下であることがより好ましい。なお、スピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅は、湿式や乾式といった製造方法、金属成分の組成比、焼成温度、焼成雰囲気などによって適宜調整することができる。
【0025】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子において、粒度分布を調整することが好ましい。具体的には、体積累積50%粒子径D50が、0.05μm以上0.7μm以下であることが好ましく、0.10μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。D50を0.05μm以上とすることで、所望の黒色度が得られやすくなる。また、D50を0.7μm以下とすることで、数μmの粒径を有するトナーに対して分散させやすくなり、所望のトナーの色調・特性が得られやすくなる。また、体積累積90%粒子径D90が、1.0μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。D90を1.0μm以下とすることで、数μmの粒径を有するトナーに対して分散させやすくなり、所望のトナーの色調・特性が得られやすくなる。D90の下限に関しては、例えば、0.3μm以上とすることができる。なお、上記D50及びD90を算出する粒度分布は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0026】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、体積累積50%粒子径D50とBET比表面積Sとが、下記式:
1.3935×D50-1.144≦S≦3.5303×D50-0.974
を満たすことが好ましい。通常、粒子は粒度分布を持ち、かつ表面凹凸を完全になくすことはできないことから、上記の下限値よりBET比表面積を小さくすることは、技術的に難しい。上記の上限値以下のBET比表面積とすることで、粒径に対して空孔が多すぎず、湿度などの変化を受けにくくなる。また、親水化や疎水化のために表面処理などをして使用した場合、強度が十分なため、粒子が壊れにくく、非処理部分が露出しにくいため、特性が安定しやすい。
【0027】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、JIS K5101-1991に準拠した色差計により黒色度及び色相を測定したとき、L値が20以下であり、a値が2.0以下であり、b値が2.0以下であることが好ましい。これらのL値、a値、及びb値が上記の条件を満たすことで、黒色度が高くなり、また色相も赤味や黄味が弱くなることから、黒色顔料として好適なものとなる。L値は、19以下であることがより好ましく、17以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、非磁性トナー用途をはじめとする磁性が要求されない分野で利用される場合を考慮し、負荷磁場79.6kA/mにおける飽和磁化が30Am2/kg以下であることが好ましく、25Am2/kg以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子では、トナーへ添加した際の帯電性を維持し、特に高温高湿下(30℃、相対湿度80%)における帯電低下を抑制する観点から、高温高湿下(30℃、相対湿度80%)の体積抵抗率RvH(Ωcm)の常用対数値が7.0以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましい。また、低温低湿下(10℃、相対湿度20%)における体積抵抗率RvL(Ωcm)の常用対数値と、高温高湿下(30℃、相対湿度80%)における体積抵抗率RvH(Ωcm)の常用対数値との比である体積抵抗率の環境変動比(log10RvL/log10RvH)が1.00以上1.25以下であることが好ましく、1.20以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、通常、乾式法で製造される。例えば、原料を所定量計量し、粉砕・混合して得られたスラリーを造粒した後、不活性雰囲気下又は弱酸化性雰囲気下1000℃以上1300℃以下で焼成することで、製造することができる。
【0031】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子を湿式法で製造することもできる。ただし、乾式法に比べてスピネル結晶を生成するための結晶核が多く存在するが、低温での反応となるため結晶が成長しにくく、また結晶性が低いためスピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅が大きくなる傾向がある。そのため、黒味が不十分となりやすく、経時変化もしやすくなる。また、結晶が成長しにくいため、粒子内の空隙が多く存在し、粒子径に対するBET比表面積が大きくなりやすい。そのため、湿度などの変化を受けやすくなったり、経時変化の原因となる。湿式法で粒子を製造後に焼成する方法もあるが、結晶核が多く存在するため、スピネル化反応の制御が難しく、高磁化となりすぎたり、焼結が進みすぎることで、非常に硬度が増し、小粒径化しにくくなる。さらに、湿式法により製造された粒子は、結晶粒が均一なため、磁界を加えられた場合に、容易に磁気モーメントが揃いやすいため、高磁化になりやすい傾向がある。
【0032】
Feの原料としては、Fe2O3を用いることが好ましい。Mgの原料としては、Mg(OH)2、MgO、及びMgCO3から選択される1種又は2種以上の化合物を用いることが好ましい。Alの原料としては、Al2O3を用いることが好ましい。Clの原料としては、塩化マグネシウムや塩化ナトリウム等の塩素源を用いることもできるが、Fe、Mg、及びAlに比べて微量であるため、上記の各原料(特にFe2O3)に含まれる微量成分であるClによりClの含有率を調整することが好ましい。なお、Fe2O3は、硫酸鉄又は硫酸鉄を原料として製造されたFe2O3はClが殆ど含まれておらず、所望のCl含有率に調整することが難しいことから、塩化鉄を原料として製造されたFe2O3を用いることが好ましい。その他、Clの含有率は、焼成温度、焼成時間によっても調整することが可能である。
【0033】
これらの原料を所望の元素組成になるように適量秤量した後、ボールミル又は振動ミル等で0.5時間以上(好ましくは1時間以上20時間以下)粉砕・混合し、それらの粉砕混合物に水を加えてビーズミル等を用いて微粉砕し、スラリーを得ることができる。メディアとして使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。原料を均一に分散させる観点から、1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズをメディアとして使用することが好ましい。また、原料を均一に分散させる上で、粉砕物の体積平均粒径(体積累積50%粒子径D50)が2.5μm以下になるように粉砕することが好ましく、2.0μm以下になるように粉砕することがより好ましい。
【0034】
次いで、得られたスラリーに、必要に応じて分散剤、バインダー等を添加し、粘度を2ポイズ以上4ポイズ以下に調整することが好ましい。バインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)を用いることができる。そして、上記範囲に粘度が調整されたスラリーを、スプレードライヤーを用いて噴霧し、乾燥させることで造粒物を得ることができる。
【0035】
得られた造粒物を、不活性雰囲気下又は弱酸化性雰囲気下で、1000以上1300℃以下の温度で2時間以上6時間以下保持することで、焼成することが好ましい。Clの含有率は、焼成温度及び焼成時間によっても制御することができる。ここで、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下とは、酸素濃度が0.0体積%以上0.1体積%(1000ppm)以下であることをいう。焼成温度を1000℃以上とすることで、スピネル化反応が生じやすいため、黒色度が高くなる。焼成温度を1300℃以下とすることで、黒色度が高いまま、スピネル化の結晶粒成長が進みすぎることもなく、硬度が低くなり、粉砕などによって粒径を小さくすることが容易になる。黒色度及び硬度の観点から、焼成温度は、1100℃以上1250℃以下であることが好ましい。
【0036】
得られた焼成物は、ピンミル、ハンマーミル、ビーズミル、ジェットミルなどの乾式粉砕機又は湿式ビーズミルなどを使用して、所望の粒径まで粉砕することができる。湿式粉砕を行った場合には、乾燥させて粒子を得る。その際、乾燥凝集を防ぐため、界面活性剤などの凝集防止剤を使用することもできる。そして、必要に応じて風力分級機などを使用して分級し、所望の粒度分布を有する粒子を得ることができる。
【0037】
以上のような本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、安全性が高く、黒色度に優れ、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ないものとなる。安全性が高く、黒色度に優れていることから、塗料用、印刷インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用、セラミック用の黒色顔料として好適である。また、本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ないことから、特に、安全性が低いカーボンブラックや環境負荷物質含有酸化物顔料を代替する非磁性トナー用黒色顔料に好適である。本発明に係る黒色複合酸化物粒子を用いたトナーは、自然環境や人体に与える影響を低減でき、かつ高画質な印刷物を得ることができる。
【実施例0038】
<実施例1>
Fe2O3(塩化鉄系原料、Cl含有率:1500ppm)を16.09kgと、Mg(OH)2を4.64kgと、Al2O3を4.15kgとを秤量し、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて6時間(D50が約5μmになるまで)粉砕した。その後、水を加えて、さらに湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。このスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をマイクロトラックにて測定した結果、D50は約2μmであった。得られたスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(10%溶液)を固形分に対して0.4重量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒を行った。
【0039】
その後、トンネル式電気炉にて、焼成温度1200℃、酸素濃度0.0容量%にて、3時間保持した。このとき、昇温速度は200℃/時とし、冷却速度は150℃/時とした。得られた焼成物をハンマーミル(前川工業所製)、ピンミル(槇野産業製)、ダイナミックミル(日本コークス工業製)で段階的に粉砕し、超微粉分級機CNI(日本ニューマチック工業製)にて目的の粒径の粒子を分級することで、黒色複合酸化物粒子を得た。
【0040】
<実施例2>
実施例1で原料として用いたFe2O3の代わりに、Fe2O3(塩化鉄系原料、Cl含有率:900ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により黒色複合酸化物粒子を得た。
【0041】
<実施例3>
実施例1で原料として用いたFe2O3の代わりに、Fe2O3(塩化鉄系原料、Cl含有率:2900ppm)に変更し、かつ焼成温度を1150℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により黒色複合酸化物粒子を得た。
【0042】
<実施例4~8>
実施例1で原料として用いたFe2O3、Mg(OH)2、及びAl2O3の配合比を適宜変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、黒色複合酸化物粒子を得た。
【0043】
<比較例1>
実施例1で原料として用いたFe2O3の代わりに、Fe2O3(塩化鉄系原料、Cl含有率:3600ppm)に変更し、かつ焼成温度を1150℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により黒色複合酸化物粒子を得た。
【0044】
<比較例2>
実施例1で原料として用いたFe2O3の代わりに、Fe2O3(塩化鉄系原料、Cl含有率:900ppm)に変更し、かつ焼成温度を1300℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により黒色複合酸化物粒子を得た。
<比較例3~9>
実施例1で原料として用いたFe2O3、Mg(OH)2、及びAl2O3の配合比を適宜変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、黒色複合酸化物粒子を得た。なお、比較例9においては、焼成時の酸素濃度を0.5容量%とした。
【0045】
<比較例10>
湿式法により黒色複合酸化物粒子を得た。具体的には、0.15mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液5Lに12.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHが11となるように調整し、かつ液温を80℃に昇温させてその温度に維持した。一方、硫酸第一鉄0.75mol/L、硫酸第二鉄0.10mol/L、硫酸マグネシウム0.5mol/L、硫酸アルミニウム0.25mol/Lを含む混合硫酸塩水溶液2Lを用意し、上記の炭酸ナトリウムを含むアルカリ性水溶液中に、混合攪拌しながら、30分間で投入した。
【0046】
投入終了後に、混合攪拌を4時間継続した。この投入及び混合攪拌の継続の間、反応液の当初の温度とpHを維持するように調整した。このようにして得られた黒色複合酸化物粒子を含むスラリーを自然に冷却させた後、希硫酸を用いてpH6に中和し、その後、常法の洗浄、脱水、乾燥を経て、最終的な黒色複合酸化物粒子を得た。
【0047】
実施例1~8及び比較例1~10で得られた黒色複合酸化物粒子について、以下の点を評価した。結果を表1(実施例1~8)及び表2(比較例1~10)に示す。
【0048】
<黒色複合酸化物粒子中の金属成分の含有率>
黒色複合酸化物粒子中の金属成分の含有率は、化学分析(ICP)により求めた。具体的には、まず、黒色複合酸化物粒子0.2gを秤量し、これに純水60mlと1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えたものを加熱して、黒色複合酸化物粒子を完全溶解させた水溶液を準備した。得られた水溶液をICP分析装置(ICPS-1000IV、島津製作所製)にセットし、金属成分であるFe、Mg、Alの含有率を測定した。
【0049】
<原料又は黒色複合酸化物粒子中のCl含有率>
原料又は黒色複合酸化物粒子中におけるCl含有率は、燃焼法イオンクロマトグラフィーを以下の条件で行うことで測定した。
-燃焼装置:三菱化学アナリテック製 AQF-2100H
-試料量:50mg
-燃焼温度:1100℃
-燃焼時間:10分
-Ar流量:400ml/min
-O2流量:200ml/min
-加湿Air流量:100ml/min
-吸収液:過酸化水素を1%含む溶離液
-分析装置:東ソー製 IC-2010
-カラム:TSKgel SuperIC-Anion HS
(4.6mmI.D.×1cm+4.6mmI.D.×10cm)
-溶離液:NaHCO3(3.8mmol/L)+Na2CO3(3.0mmol/L)
-流速:1.5mL/min
-カラム温度:40℃
-注入量:30μL
-測定モード:サプレッサ方式
-検出器:CM検出器
-標準試料:関東化学製 陰イオン混合標準液
【0050】
<スピネル構造を表す(311)面に基づく回折ピークの半値幅>
粉末X線回折法により、スピネル相のメインピークである(311)面に基づく回折ピークの半値幅(°、2θ)を測定した。測定条件を以下に示す。
-X線回折装置:パナリティカル製 X’pertMPD(高速検出器含む)
-線源:Co-Kα
-管電圧:45kV
-管電流:40mA
-走査モード:General batch
-発散スリット(°):1/2
-受光スリット(mm):5.5
-測定間隔:0.010°/秒
-計数時間(秒):10.16/ステップ
-スキャン範囲(2θ):15~90°
【0051】
<粒度分布>
黒色複合酸化物粒子の粒度分布は、レーザー回折散乱法により測定した。まず、黒色複合酸化物粒子10g及び水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(UH-150型、エスエムテー製)を用いて黒色複合酸化物粒子を分散させた。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間の分散を行った。その後、ピーカー表面にできた泡を取り除き、得られたスラリーをレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-7500nano、島津製作所製)に導入して測定を行った。この測定により、体積粒度分布における50%径(体積累積50%粒子径D50)、90%径(体積累積90%粒子径D90)を求めた。測定条件は、ポンプスピード7、内蔵超音波照射時間30、屈折率1.70-050iとした。
【0052】
<BET比表面積>
黒色複合酸化物粒子のBET比表面積は、比表面積測定装置(Macsorb HM model-1208、マウンテック製)を用いて測定した。まず、黒色複合酸化物粒子約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気して真空度が-0.1MPa以下であることを確認した。その後、黒色複合酸化物粒子を200℃で2時間加熱することにより、黒色複合酸化物粒子の表面に付着している水分を除去した。水分を除去した黒色複合酸化物粒子を測定装置専用の標準サンプルセルに約0.5~4g入れ、精密天秤で正確に秤量した。次いで、秤量した黒色複合酸化物粒子を測定装置の測定ポートにセットして測定を行った。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度20℃、相対湿度55%とした。
【0053】
<飽和磁化>
黒色複合酸化物粒子を内径5mm、高さ2mmのセルに充填し、振動試料型磁気測定装置(VSM-C7-10A、東英工業製)にセットして、負荷磁場79.6kA/mにおける黒色複合酸化物粒子の飽和磁化を測定した。
【0054】
<体積抵抗率>
まず、断面積が4cm2のフッ素樹脂製のシリンダーに、高さ4mmとなるように黒色複合酸化物粒子を充填した。その後、両端に電極を取り付け、さらにその上から1kgの分銅を乗せて電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定は、ケースレ一製2182A型ナノボルトメーターにて、測定電圧1000Vを印加し60秒後の抵抗を測定し、体積抵抗率を算出した。なお、測定環境は、常温常湿(温度20℃、相対湿度55%)、高温高湿(温度30℃、相対湿度80%)、及び低温低湿(温度10℃、相対湿度20%)とし、それぞれの体積抵抗率(常温常湿:RvN、高温高湿:RvH、低温低湿:RvL)の常用対数値を求めた。また、これらの値を用いて、環境変動比(log10RvL/log10RvH)を算出した。
【0055】
<黒色度及び色相>
黒色複合酸化物粒子の黒色度及び色相の測定は、JIS K5101-1991に準拠して行った。具体的には、まず、黒色複合酸化物粒子2.0gにヒマシ油1.4ccを加え、フーバー式マーラーで練り込んだ。この練り込んだサンプル2.0gにラッカー7.5gを加え、さらに練り込んだ後、ミラーコート紙上に4milのアプリケーターを用いて塗布し、乾燥した。その後、色差計(カラーアナライザーTC-1800型、東京電色製)にて、黒色度(L値)及び色相(a値、b値)を測定した。
【0056】
【0057】
【0058】
以上の結果より、実施例1~8で得られた黒色複合酸化物粒子は、安全性が高く、黒色度に優れ、磁化が低く、環境による体積抵抗率の変動が少ないことが分かる。