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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134927
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】中空部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/04 20060101AFI20240927BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240927BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20240927BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240927BHJP
   C22C 38/36 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C22F1/04 A
C22C38/00 301Z
C21D8/10 A
C22C38/00 302Z
C22F1/00 612
C22F1/00 626
C22F1/00 602
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22C38/36
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692Z
C22F1/00 694B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045379
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】506253067
【氏名又は名称】有限会社リナシメタリ
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】中村 克昭
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA31
4K032AA36
4K032AA37
4K032BA03
4K032CA02
4K032CD00
4K032CD06
(57)【要約】
【課題】高強度化と共に高精度化をも実現可能なアルミニウムパイプの製造方法を提供する。
【解決手段】A6061から成る中空ビレット2を、530℃で押し出した後に、中空パイプ7に冷却エアを吹き付けて、中空パイプ7を収縮させ、冷却パンチ10に中空パイプ7を接触させることで急冷する。その後、180℃で12~18時間保持して空冷する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度域に加熱された金属体を押し出して中空部材を形成した後に、前記中空部材の中空部内に位置する冷却手段に前記金属体を接触させることで、前記所定の温度域から冷却する加工工程を備える
中空部材の製造方法。
【請求項2】
前記所定の温度域からの冷却は、
前記中空部材の中空部内に所定の間隙を介して前記冷却手段を位置せしめた状態から、前記金属体を収縮させ、前記冷却手段に前記金属体を接触させて行う
請求項1に記載の中空部材の製造方法。
【請求項3】
前記金属体に冷却エアを供給することで前記金属体を収縮させる
請求項2に記載の中空部材の製造方法。
【請求項4】
前記金属体は熱処理型アルミニウム合金から成り、
前記加工工程は、固溶化温度域に加熱された熱処理型アルミニウム合金の押し出しを行った後に、前記固溶化温度域から、固溶した元素が析出しない速度で冷却する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の中空部材の製造方法。
【請求項5】
前記加工工程の後に、時効処理を行う時効処理工程を備える
請求項4に記載の中空部材の製造方法。
【請求項6】
前記金属体は、7000系であり、
前記固溶化温度域は450℃~515℃である
請求項4に記載の中空部材の製造方法。
【請求項7】
前記金属体は、6000系であり、
前記固溶化温度域は500℃~590℃である
請求項4に記載の中空部材の製造方法。
【請求項8】
前記金属体は、2000系であり、
前記固溶化温度域は490℃~530℃である
請求項4に記載の中空部材の製造方法。
【請求項9】
前記金属体は鉄鋼材料から成り、
前記加工工程は、固溶化温度域に加熱された鉄鋼材料の押し出しを行った後に、前記固溶化温度域から冷却して焼入れを行う
請求項1、請求項2または請求項3に記載の中空部材の製造方法。
【請求項10】
前記焼入れの後に、マルテンサイト組織中に固溶した元素の炭化物を析出させる焼き戻しを行う焼き戻し工程を備える
請求項9に記載の中空部材の製造方法。
【請求項11】
前記固溶化温度域は850℃~1200℃である
請求項9に記載の中空部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部材の製造方法に関する。詳しくは、高強度化と共に高精度化をも実現することが可能な中空部材の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金から成る中空部材(中空パイプなど)は、自動車フレーム、航空機及びドローンのフレーム、自転車のフレーム等に用いられている。また、鉄鋼材料から成る中空部材(中空パイプなど)は、自動車用のサイドインパクトビームやステアリング、自動車用のサスペンション関連等に用いられている。
【0003】
そして、自動車や航空機の構造部材の小型化、軽量化のために、これらの中空部材について、更なる高強度化が求められている。
【0004】
ところで、金属材料の結晶粒微細化処理により、強度等の特性が大幅に向上するために、多くの巨大ひずみを利用した結晶粒微細化プロセスが開発され、提案されている。
本発明の発明者も、金属組織を微細化することで、金属体の強度向上を実現する方法を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/028718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の加工方法による結晶粒微細化により、金属体の強度向上を実現することができるものの、中空部材への適用には、成形精度の点において、充分では無かった。
即ち、特許文献1に記載の加工方法を実現する装置(例えば、特許文献1の図9に示すSVSP装置)を、中空部材を形成する装置(押出成形等を行う所定の成形装置)の後行程部分に設けた場合には、中空部材に形成した低変形抵抗領域を剪断変形させる際に座屈が生じてしまうなど、成形精度の点において、充分とはいえなかった。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、高強度化と共に高精度化をも実現可能な中空部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の中空部材の製造方法は、所定の温度域に加熱された金属体を押し出して中空部材を形成した後に、前記中空部材の中空部内に位置する冷却手段に前記金属体を接触させることで、前記所定の温度域から冷却する加工工程を備える。
【0009】
ここで、冷却手段に金属体を接触させることによって、熱伝導により金属体から冷却手段に熱が伝わることとなり、金属体を急冷することができる。そして、金属体の急冷が実現することで、金属体の余熱により再結晶した組織(微細化組織)の粗大化を抑止でき、結晶粒の微細化が実現する。
【0010】
なお、結晶粒の微細化を実現するためには、金属体の余熱により再結晶した組織(微細化組織)が、金属体の更なる余熱により粗大化する前に、冷却手段に金属体を接触させて、金属体を冷却(急冷)する必要がある。
【0011】
また、中空部内に位置する冷却手段に金属体を接触させることによって、中空部材の内側面を冷却手段で拘束することもできる。そして、中空部材の内側面を拘束することにより、金属体が冷却(急冷)により過度に収縮することを抑止でき、成形精度の向上が実現する。
【0012】
即ち、冷却手段に金属体を接触させることによって、結晶粒の微細化による高強度化と、中空部材の内側面を拘束することによる高精度化が実現することになる。
【0013】
なお、ここでの「所定の温度域」とは、金属体を押し出して中空部材を形成することができる温度域で充分であるが、金属体が熱処理型合金の場合には、固溶化温度域まで加熱することで、元素の過飽和固溶が実現し、更なる高強度化が実現することになる。
【0014】
また、所定の温度域からの冷却は、中空部材の中空部内に所定の間隙を介して冷却手段を位置せしめた状態から、金属体を収縮させ、冷却手段に金属体を接触させて行うことが好ましい。この場合には、冷却手段の構造を単純化でき、装置全体の小型化、低廉化が実現する。
【0015】
即ち、中空部材は冷却によって不可避的に収縮するために、収縮前(中空部の径が大きいとき)には接触せず、収縮後(中空部の径が小さいとき)には接触するような冷却手段を採用することによって、冷却手段の大きさを変化させる必要がなくなり、上述のとおり、冷却手段の構造の単純化が可能となる。
【0016】
また、金属体に冷却エアを供給することで金属体を収縮させる場合(冷却手段に金属体を接触させるために収縮させる場合)には、液体(水など)を供給する場合と比較すると、金属体の腐食を抑止することができる。
【0017】
また、金属体が熱処理型アルミニウム合金から成り、加工工程が、固溶化温度域に加熱された熱処理型アルミニウム合金の押し出しを行った後に、固溶化温度域から、固溶した元素が析出しない速度で冷却する場合には、元素の過飽和固溶による高強度化が実現する。
【0018】
即ち、加工工程において、固溶化温度域まで加熱することによって、元素をマトリクス中に溶け込ませることができ、元素の過飽和固溶が実現する。そして、固溶化温度域から、固溶した元素が析出しない速度(換言すると、固溶した元素が拡散できない速度)で冷却することによって、粗大化等の問題が生じることなく、高強度化が実現する。
【0019】
なお、冷却速度が遅い場合には、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招いてしまう。そのため、上述のように、固溶した元素が析出しない速度での冷却が必要である。
【0020】
同様に、マトリクス中に固溶した元素が中途半端に析出し、粗大化等の問題を生じて強度低下を招かないように、加工工程における冷却については、固溶した元素が析出する前に開始する必要がある。
【0021】
更に、固溶化温度域で押し出しを行い、ひずみを付与することによって、アルミニウム合金の原子間距離を広げることができ、固溶限界が上昇するために、より一層の過飽和固溶が可能となり、高強度化が実現することになる。
【0022】
なお、ここでの「固溶化温度域」とは、元素をマトリクス中に溶け込ませる(固溶させる)ことができる温度域を意味しており、対象となる熱処理型アルミニウム合金の材質に依存するが、7000系の場合は450℃~515℃であり、6000系の場合には500℃~590℃であり、2000系の場合には490℃~530℃である。
【0023】
また、加工工程の後に、時効処理を行う時効処理工程を備える場合には、マトリクス中に固溶した元素を微細析出させることができ、より一層の高強度化が実現すると共に、高靭性化が実現することになる。
【0024】
また、金属体が鉄鋼材料から成り、加工工程が、固溶化温度域に加熱された鉄鋼材料の押し出しを行った後に、固溶化温度域から冷却して焼入れを行う場合にも、元素の過飽和固溶による高強度化が実現する。
【0025】
即ち、加工工程において、固溶化温度域まで加熱することによって、元素をマトリクス中に溶け込ませることができ、元素の過飽和固溶が実現する。そして、固溶化温度域から冷却して焼入れを行うことによって(換言すると、オーステナイト温度域からの急冷によって)、マトリクスのオーステナイト組織がマルテンサイト変態し、高強度化が実現する。
【0026】
なお、ここでの「オーステナイト温度域」とは、金属体のマトリクスがオーステナイト組織である温度域を意味し、マトリクスがオーステナイト組織であれば、炭化物、窒化物、金属間化合物等を含んでいても良い。
【0027】
ここで、マルテンサイト変態は、拡散を伴わない変態であるために、焼入れ後にひずみ(押し出しを行うことで付与したひずみ)を残留することができる。こうしたひずみの場所が、焼き戻し時における炭化物の析出サイトとなり、析出サイトの多数化が実現する。
一例としては、20℃/秒程度以上の冷却速度で、Mf点以下まで急冷することが挙げられる。
【0028】
また、固溶化温度域で押し出しを行い、ひずみを付与することによって、(1)鉄鋼材料の原子間距離を広げることができ、固溶限界が上昇すると共に、(2)凝集している炭化物等を分断することで炭化物を分散でき、固溶の促進が実現するために、より一層の過飽和固溶が可能となり、高強度化が実現することになる。
【0029】
なお、ここでの「固溶化温度域」についても、上述のアルミニウム合金の場合と同様に、元素をマトリクス中に溶け込ませる(固溶させる)ことができる温度域を意味しており、対象となる鉄鋼材料の材質に依存するが、850℃~1200℃(工具鋼の場合には1000℃~1200℃)である。
【0030】
また、焼入れの後に、マルテンサイト組織中に固溶した元素の炭化物を析出させる焼き戻しを行う焼き戻し工程を備える場合には、より一層の高強度化が実現すると共に、高靱性化が実現する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の中空部材の製造方法は、結晶粒の微細化による高強度化と共に、高精度化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明のアルミニウムパイプの製造方法を説明するための模式図である。
図2】加工工程を説明するための模式図(1)である。
図3】加工工程を説明するための模式図(2)である。
図4】結晶粒の状態を説明するための模式図(1)である。
図5】結晶粒の状態を説明するための模式図(2)である。
図6】従来のアルミニウムパイプの製造方法を説明するための模式図である。
図7】本発明の鉄パイプの製造方法を説明するための模式図である。
図8】結晶粒の状態を説明するための模式図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と称する)について説明を行う。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態
2.第2の実施の形態
3.変形例
【0034】
また、本実施の形態では、図2(a)で示す加工装置(中空部材の加工装置)を用いる場合を例に挙げて説明を行う。
【0035】
ここで示す加工装置は、コンテナ1内のビレット2に予め貫通孔を形成し、その貫通孔に棒状体のマンドレル3を通した状態で、ダイス4を用いて押し出し加工を行うものである。なお、図2(a)中符号5はステム、符号6はダミーブロックを示している。
【0036】
また、マンドレル3の押し出し方向前方には、熱容量の大きな金属材料から成る冷却パンチ10が配置されている。また、冷却パンチ10のうち、押し出し方向と平行な棒状体部分11は、マンドレル3よりも僅かに小さな径に形成されている。
【0037】
更に、冷却パンチの内部には、冷却水Wが供給されており、冷却水Wによって冷却パンチが冷やされている。なお、図2(b)、図3(a)、図3(b)、図5図8においては、符号Wを省略しているものの、図2(a)と同様に、冷却水Wが供給されている。
【0038】
<1.第1の実施の形態>
図1は、本発明の中空部材の製造方法の一例であるアルミニウムパイプの製造方法を説明するための模式図である。
【0039】
第1の実施の形態では、押し出し加工のときに使用する材料(ビレット)として、アルミニウム合金を用いる場合を例に挙げて説明を行う。具体的には、市販材であるA6061を用いており、重量%で、Si:0.40~0.8%、Fe:0.7%以下、Cu:0.15~0.40%、Mn:0.15%以下、Mg:0.8~1.2%、Cr:0.04~0.35%、Zn:0.25%以下、Ti:0.15%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物から成る。
【0040】
[加工工程]
第1の実施の形態に係るアルミニウムパイプの製造方法では、先ず、アルミニウム合金である中空ビレットを1時間かけて530℃まで加熱し、1時間保持する(図1中の符号S1参照)。
【0041】
ここで、第1の実施の形態では、530℃まで加熱する場合を例に挙げて説明を行っているが、固溶化温度域(A6061の場合には、500℃~590℃)まで加熱することで、元素をマトリクス中に溶け込ませることができれば充分であって、必ずしも530℃である必要は無い。
【0042】
同様に、加熱時間(1時間)や保持時間(1時間)についても、元素をマトリクス中に溶け込ませることができれば充分であって、必ずしも1時間である必要は無い。
【0043】
次に、図2(a)で示すように、コンテナ1内に530℃まで加熱されたビレット2を入れて、ステム5を介してダミーブロック6を押し込むことにより、図2(b)で示すように、ビレット2がダイス4の孔(ダイス孔)から押し出され、中空パイプ7を得ることができる(図1中の符号S2参照)。
【0044】
ここで、第1の実施の形態では、図2(a)で示す加工装置を用いて、「マンドレル押し出し」と呼ばれる方式での押し出し加工を行う場合を例に挙げて説明を行っているが、中空パイプ7を得ることができれば充分であって、その他の方式(例えば、「ポートホール押し出し」と呼ばれる方式)での押し出し加工であっても良い。
【0045】
なお、第1の実施の形態の押し出し加工においては、押し出し時のビレットの温度(530℃)が、ビレット(アルミニウム合金)の融点に近いこともあり、押し出しによる発熱を抑制するといった点を考慮して、押し出し速度は比較的低速で行う。また、第1の実施の形態の押し出しの加工度は90%以上である。
【0046】
ここで、冷却パンチ10の棒状体部分11の径(外径)が、マンドレル3の径(外径)よりも僅かに小さく形成されているために、押し出された中空パイプ7は棒状体部分11には接していない。
【0047】
なお、図2(b)では、説明の便宜上、中空パイプ7と棒状体部分11の間隙を充分に確保しているが、中空パイプ7と棒状体部分11の間隙は接触しない最小間隔であることが好ましい。
【0048】
続いて、図3(a)で示すように、中空パイプ7の外周部から冷却エアKを吹き付けて、中空パイプ7を冷却して収縮させる。
【0049】
なお、中空パイプ7を収縮させることができるのであれば、必ずしも冷却エア(気体)である必要は無く、スプレー噴霧等による水冷であっても良い。しかしながら、中空パイプ7を腐食させないという観点を考慮すると、水冷よりも空冷(冷却エア)の方が好ましい。
【0050】
そして、冷却エアKの吹き付けにより中空パイプ7が収縮すると、図3(b)で示すように、中空パイプ7と棒状体部分11の間隙が無くなり、中空パイプ7と棒状体部分11が接触し、冷却水Wで水冷された冷却パンチ10によって中空パイプ7が強制的に冷却(急冷)されることになる(図1中の符号S3参照)。
【0051】
[時効処理工程]
第1の実施の形態に係るアルミニウムパイプの製造方法では、続いて、自然時効(常温時効)が生じる前に、中空パイプ7を180℃まで加熱し(図1中の符号S4参照)、12~18時間保持し(図1中の符号S5参照)、その後、室温まで空冷することで(図1中の符号S6参照)、マトリクス中に固溶した元素を微細析出させる。
【0052】
[効果]
本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法では、元素の過飽和固溶が実現し、アルミニウムパイプの高強度化が実現する。
即ち、530℃(固溶化温度域)まで加熱することで元素をマトリクス中に溶け込ませた後、冷却パンチで急冷(固溶した元素が析出しない速度で冷却)しており、アルミニウムパイプの機械特性の向上(高強度化)が実現する。
【0053】
また、本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法では、530℃(固溶化温度域)で押し出し加工を行っており、こうした押し出し加工(ひずみの付与)で固溶限界が上昇することも一因となって、高強度化が実現する。
【0054】
更に、本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法では、中空パイプ7と冷却パンチ10が接触することで冷却(急冷)しており、即ち、中空パイプ7の内側面を冷却パンチ10で拘束した状態で冷却(急冷)しており、アルミニウムパイプの高精度化が実現する。
【0055】
また、本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法では、中空パイプ7を冷却パンチ10で冷却(急冷)していることから、結晶粒が微細化でき、アルミニウムパイプの高強度化が実現する。
結晶粒の微細化について、中空パイプ7を空冷する場合(冷却パンチ10を用いない場合)と比較して、以下で説明を行う。
【0056】
先ず、押し出し加工においては、図4で示すように、結晶粒が押し潰され(図4中符号A参照)、また、押し出し加工により大きな塑性ひずみが付与されることで転位が導入される(図4中符号B参照)。なお、図4中符号Bで示す段階では、高い転位密度の組織であるものの、微細な結晶粒ではない。
その後、高い転位密度の組織は、素材の余熱により再結晶して微細な結晶粒の状態となる(図4中符号C参照)。
【0057】
(空冷した場合)
中空パイプ7を空冷した場合(一般的に行われているアルミニウムパイプの製造方法の場合)には、冷却速度が遅いために、再結晶組織(微細な結晶粒)は、素材の更なる余熱により粗大化して軟化してしまう(図4中符号D参照)。
【0058】
(急冷した場合)
これに対して、第1の実施の形態における冷却のように、中空パイプ7を急冷した場合には、冷却速度が速いために、素材の更なる余熱により粗大化することを抑制でき、再結晶組織(微細な結晶粒)を維持できることになる(図5参照)。
【0059】
また、本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法では、中空パイプ7を形成する加工工程の後に、固溶化処理を行う必要が無いために、熱処理(固溶化処理を目的とした熱処理)のための再加熱で結晶粒が粗大化することは無い。
【0060】
なお、一般的に行われているアルミニウムパイプの製造方法では、中空パイプ7を形成した後に、熱処理(固溶化処理を目的とした熱処理)のための再加熱を行っており、こうした熱処理で結晶粒が粗大化し、靭性が低下してしまう。また、熱処理(固溶化処理を目的とした熱処理)を要するために、必然的にコストアップが強いられることになる。
【0061】
[特性比較]
本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法で得られた中空パイプ7の特性を確認するために、第1の実施の形態で使用したビレットを用いて、一般的に行われているアルミニウムパイプの製造方法で中空パイプを製造した。
【0062】
具体的には、アルミニウム合金である中空ビレットを1時間かけて450℃まで加熱し、1時間保持した(図6中の符号S1参照)。
次に、第1の実施の形態と同様に、コンテナ内に450℃まで加熱されたビレットを入れて、ステムを介してダミーブロックを押し込むことにより、ビレットをダイス孔から押し出して、中空パイプを得た(図6中の符号S2参照)。押し出した中空パイプは、空冷した(図6中の符号S3参照)。
【0063】
続いて、中空パイプを570℃まで加熱し(図6中の符号S4参照)、マトリクス中に元素を固溶した後に(図6中の符号S5参照)、急冷した(図6中の符号S6参照)。
その後、第1の実施の形態の時効処理工程と同様に、中空パイプを180℃まで加熱し(図6中の符号S7参照)、12~18時間保持し(図6中の符号S8参照)、その後、室温まで空冷した(図6中の符号S9参照)。
【0064】
表1は、「本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法で得られた中空パイプ(発明技術)」と「一般的に行われているアルミニウムパイプの製造方法で得られた中空パイプ(既存技術)」の強度、靭性、精度を示している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示す通り、「本発明を適用したアルミニウムパイプの製造方法で得られた中空パイプ(発明技術)」は、強度、靭性、精度のいずれの項目についても、「一般的に行われているアルミニウムパイプの製造方法で得られた中空パイプ(既存技術)」よりも良好な結果である。
【0067】
<2.第2の実施の形態>
図7は、本発明の中空部材の製造方法の他の一例である鉄パイプの製造方法を説明するための模式図である。
【0068】
第2の実施の形態では、押し出し加工のときに使用する材料(ビレット)として、工具鋼を用いる場合を例に挙げて説明を行う。具体的には、熱間工具鋼を用いており、重量%で、C:0.35~2.20%、Si:0.15~0.90%、Mn:0.30~1.20%、Cr:2.0~5.50%、W:1.20~1.60%、Mo:0.2~1.60%、V:0.1~2.20%を含有し、残部がFe及び不可避不純物から成る。
【0069】
[加工工程]
第2の実施の形態に係る鉄パイプの製造方法では、先ず、工具鋼である中空ビレットを1時間かけて1070℃まで加熱し、1時間保持する(図7中の符号S1参照)。
【0070】
ここで、第2の実施の形態では、1070℃まで加熱する場合を例に挙げて説明を行っているが、固溶化温度域(工具鋼の場合には、1000℃~1200℃)まで加熱することで、元素をマトリクス中に溶け込ませることができれば充分であって、必ずしも1070℃である必要は無い。
【0071】
同様に、加熱時間(1時間)や保持時間(1時間)についても、元素をマトリクス中に溶け込ませることができれば充分であって、必ずしも1時間である必要は無い。
【0072】
次に、図2(a)で示すように、コンテナ1内に1070℃まで加熱されたビレット2を入れて、ステム5を介してダミーブロック6を押し込むことにより、図2(b)で示すように、ビレット2がダイス4の孔(ダイス孔)から押し出され、中空パイプ7を得ることができる(図7中の符号S2参照)。
【0073】
なお、「マンドレル押し出し」と呼ばれる方式に限らず、その他の方式での押し出し加工であっても良い点は、上記した第1の実施の形態と同様である。
【0074】
ここで、冷却パンチ10の棒状体部分11の径(外径)が、マンドレル3の径(外径)よりも僅かに小さく形成されているために、上記した第1の実施の形態と同様に、押し出された中空パイプ7は棒状体部分11には接していない。
【0075】
続いて、図3(a)で示すように、中空パイプ7の外周部から冷却エアKを吹き付けて、中空パイプ7を冷却して収縮させる。
【0076】
そしれ、冷却エアKの吹き付けにより中空パイプ7が収縮すると、図3(b)で示すように、中空パイプ7と棒状体部分11の間隙が無くなり、中空パイプ7と棒状体部分11が接触し、冷却水Wで水冷された冷却パンチ10によって中空パイプ7が強制的にMf点以下まで冷却(急冷)されることになり(図7中の符号S3参照)、その後、室温まで空冷する(図7中の符号S4参照)。
こうした焼き入れによって、マルテンサイト組織を形成することができる。
【0077】
[焼き戻し工程]
第2の実施の形態に係る鉄パイプの製造方法では、続いて、中空パイプ7を550℃まで加熱し(図7中の符号S5参照)、室温まで空冷することで(図7中符号S6参照)、マルテンサイト組織中に固溶した元素の炭化物を析出させる。
【0078】
[効果]
本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、元素の過飽和固溶が実現し、鉄パイプの高強度化が実現する。
即ち、1070℃(固溶化温度域)まで加熱することで元素をマトリクス中に溶け込ませた後、冷却パンチで急冷することにより、マトリクスのオーステナイト相がマルテンサイト変態することになるが、マルテンサイト変態は無拡散変態であり、過飽和固溶した元素が再析出・凝集することがないため、過飽和固溶の効果を維持したまま、更には、押し出し加工で付与されたひずみが残留した状態のまま、マルテンサイト組織を得ることができる。そのため、鉄パイプの機械特性の向上(高強度化)が実現する。
【0079】
また、本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、1070℃(固溶化温度域)で押し出し加工を行っており、こうした押し出し加工(ひずみの付与)により、固溶限界の上昇と固溶の分散が相俟って、元素が充分に分散した状態での過飽和固溶が可能であることも一因となって、高強度化が実現する。
【0080】
更に、本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、焼き戻しを行うことで、マトリクス中に微細分散した元素による析出物を得ることができ、高い靭性を実現することができる。
【0081】
また、本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、中空パイプ7と冷却パンチ10が接触することで冷却(急冷)しており、即ち、中空パイプ7の内側面を冷却パンチ10で拘束した状態で冷却(急冷)しており、鉄パイプの高精度化が実現する。
【0082】
また、本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、中空パイプ7を冷却パンチで冷却(急冷)していることから、鉄パイプの高強度化が実現する。
即ち、本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、冷却速度が速いために、素材の更なる余熱により再結晶組織(微細な結晶粒)が粗大化すること(図4参照)を抑制でき、再結晶組織(微細な結晶粒)を維持できることに加え(図8中符号C参照)、マルテンサイト組織を得ることができるため(図8中符号D参照)、鉄パイプの高強度化が実現する。
【0083】
また、本発明を適用した鉄パイプの製造方法では、中空パイプ7を形成する加工工程の後に、熱処理(焼き入れを目的とした熱処理)のための再加熱で結晶粒が粗大化することは無い。
【0084】
なお、一般的に行われている鉄パイプの製造方法では、中空パイプ7を形成した後に、熱処理(焼き入れを目的とした熱処理)のための再加熱を行っており、こうした熱処理で結晶粒が粗大化し、靭性が低下してしまう。また、熱処理(焼き入れを目的とした熱処理)を要するために、必然的にコストアップが強いられることになる。
【0085】
<3.変形例>
上記した第1の実施の形態、第2の実施の形態は、いずれも熱処理型合金を用いる場合を例に挙げて説明を行っているが、本発明の金属体は熱処理型合金に限定される必要は無く、非熱処理型合金(例えば、5000系のアルミニウム合金)であっても良い。
そして、非熱処理型合金の場合には、元素の過飽和固溶による高強度化はできないものの、結晶粒の微細化(図5参照)による高強度化は実現できる。
【符号の説明】
【0086】
1 コンテナ
2 ビレット
3 マンドレル
4 ダイス
5 ステム
6 ダミーブロック
7 中空パイプ
10 冷却パンチ
11 棒状体部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8