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特開2024-134931接合状態判定方法、接合状態判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134931
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】接合状態判定方法、接合状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045390
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】宮下 一人
(57)【要約】
【課題】部品の接合状態を適切に判定することができる接合状態判定方法、接合状態判定装置を提供する。
【解決手段】実施形態によるアーク溶接された部品(3)の接合状態を判定する接合状態判定方法は、アーク溶接中に溶接電流を取得する工程(S1)と、アーク溶接中に溶接電圧を取得する工程(S2)と、溶接電流の推移が安定している電流安定期間(AS)における溶接電圧が、予め設定されている接合判定電圧範囲(RV)内である場合に部品が接合されている状態と判定する一方、溶接電圧が接合判定電圧範囲外である場合に部品が接合されていない状態と判定する工程(S6、S7、S12)と、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接された部品(3)の接合状態を判定する接合状態判定方法であって、
アーク溶接中に溶接電流を取得する工程(S1)と、
アーク溶接中に溶接電圧を取得する工程(S2)と、
前記溶接電流の推移が安定している電流安定期間(AS)における前記溶接電圧が、予め設定されている接合判定電圧範囲(RV)内である場合に前記部品が接合されている状態と判定する一方、前記溶接電圧が前記接合判定電圧範囲外である場合に前記部品が接合されていない状態と判定する工程(S6、S7、S12)と、
を含む接合状態判定方法。
【請求項2】
アーク溶接された部品(3)の接合状態を判定する接合状態判定装置(1)であって、
アーク溶接中に溶接電流を取得する電流取得部(24)と、
アーク溶接中に溶接電圧を取得する電圧取得部(25)と、
前記溶接電流の推移が安定している電流安定期間(AS)における前記溶接電圧が、予め設定されている接合判定電圧範囲(RA)内である場合に前記部品が接合されていると判定する一方、前記溶接電圧が前記接合判定電圧範囲外である場合に前記部品が接合されていないと判定する判定する判定部と、
を備える接合状態判定装置。
【請求項3】
前記電流安定期間において、前記溶接電圧が継続的に前記接合判定電圧範囲内で推移している時間を継続時間(ΔT)とすると、
前記判定部は、前記継続時間が予め設定されている判定時間(Tv)に達している場合に、前記部品が接合していると判定する請求項2に記載の接合状態判定装置。
【請求項4】
前記電流安定期間において、前記溶接電圧が継続的に前記接合判定電圧範囲内で推移している時間を継続時間(ΔT)とすると、
前記判定部は、予め設定されている最小判定時間(Tvmin)を超えた前記継続時間の合計として求まる総継続時間が、予め設定されている判定時間(Tv)に達している場合に、前記部品が接合していると判定する請求項2に記載の接合状態判定装置。
【請求項5】
前記部品は、所定の保持位置に保持された状態でアーク溶接されるものであり、
前記接合判定電圧範囲は、アーク溶接後に前記部品を離した際に前記部品が欠落する可能性がない、または、前記部品が欠落する可能性が低いと考えられる前記溶接電圧の範囲として設定されている請求項2に記載の接合状態判定装置。
【請求項6】
前記部品は、別部品(4)に対してアーク溶接されるものであり、
前記別部品は、搬送装置(41)によって搬送されるものであり、
前記接合判定電圧範囲は、アーク溶接後に前記別部品を搬送する際に前記部品が欠落する可能性がない、または、前記部品が欠落する可能性が低いと考えられる前記溶接電圧の範囲として設定されている請求項2に記載の接合状態判定装置。
【請求項7】
前記判定部による判定結果を報知する報知部(27)をさらに備える請求項2に記載の接合状態判定装置。
【請求項8】
前記接合判定電圧範囲は、前記部品の形状、材質あるいは重量の少なくとも1つに基づいて予め設定されており、
前記判定部は、前記接合判定電圧範囲を、前記部品の形状、材質あるいは重量の少なくとも1つに応じて変更する請求項2に記載の接合状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アーク溶接された部品の接合状態を判定する接合状態判定方法、接合状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アーク溶接時の溶接電流や溶接電圧を測定することにより、アーク溶接の良否が判定されている。また、例えば特許文献1では、アーク溶接中にCCDカメラで計測したアーク形状と、溶接電流および溶接電圧に基づいて推定されるアーク形状とを比較することによりアーク溶接の良否を判定することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-1534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際に製品を製造する現場においては、品質管理はもちろん重要であるものの、製造工程を管理することも非常に重要になってくる。そして、部品をアーク溶接する工程を実施する場合には、従来のように溶接の良否を判定することに加えて、部品の接合状態が製造工程に影響を与えるか否かを判定することが重要になる。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品の接合状態を適切に判定することができる接合状態判定方法、接合状態判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
アーク溶接された部品(3)の接合状態を判定する接合状態判定方法は、アーク溶接中に溶接電流を取得する工程(S1)と、アーク溶接中に溶接電圧を取得する工程(S2)と、溶接電流の推移が安定している電流安定期間(AS)における溶接電圧が、予め設定されている接合判定電圧範囲(RV)内である場合に部品が接合されている状態と判定する一方、溶接電圧が接合判定電圧範囲外である場合に部品が接合されていない状態と判定する工程(S6、S7、S12)と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態による接合状態判定装置の電気的構成を模式的に示す図
図2】接合状態判定装置の製造ラインへの設置例を模式的に示す図
図3】接合状態を判定する処理の流れを示す図
図4】接合状態を判定する態様を説明する図その1
図5】接合状態を判定する態様を説明する図その2
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態の接合状態判定装置1は、アーク溶接装置2によりアーク溶接する際の部材間の接合状態を判定するものである。以下、アーク溶接される一方の部材を部品3と称し、その部品3が溶接される他方の部材を別部品4と称する。
【0009】
アーク溶接装置2は、溶接電源装置5に接続されている溶接トーチ6の溶接電極7と、例えばクランプ電極8が取り付けられた部材との間に所定長のギャップ(G)がある状態で電圧を印加してアーク溶接を行う。本実施形態ではTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を想定している。TIG溶接は、溶接トーチ6に設けられている溶接電極7として消耗しないタングステンを用いており、溶加材としての溶接棒をアークにより溶融することにより部材を溶接する手法である。
【0010】
溶接電源装置5は、制御回路10、溶接電源出力回路11、モニタ出力回路12などを備えており、端子台13に接続されている図示しない外部の装置から溶接開始信号が入力されると、溶接電源出力回路11から所定の溶接電圧を出力する。このとき、モニタ出力回路12からは、溶接電圧に対応したモニタ電圧が端子台13に出力される。モニタ電圧は、例えば接合状態判定装置1のような外部の装置で溶接電圧をモニタリングできるように、例えば5[V]から100[V]といった溶接電圧の範囲を、例えば0[V]から5[V]の範囲に変換して差動出力される信号である。なお、溶接電源装置5の構成は一例である。
【0011】
接合状態判定装置1は、制御部20、記憶部21、電流検出回路22、電圧検出回路23などを備えている。制御部20は、コンピュータによって構成されており、接合状態判定装置1の全体を制御する。また、制御部20は、電流取得部24、電圧取得部25、判定部26、報知部27を備えている。これら電流取得部24、電圧取得部25、判定部26および報知部27は、本実施形態では制御部20で実行されるソフトウェアで実現されている。
【0012】
電流取得部24は、例えばクランプ電極8が接続されるケーブル8aに設けた電流センサ9からの出力信号を電流検出回路22で変換することにより溶接電流を取得する。電圧取得部25は、モニタ電圧を電流検出回路22で変換することにより溶接電圧を取得する。取得された溶接電流および溶接電圧は、時系列で記憶部21に記憶される。
【0013】
判定部26は、詳細は後述するが、取得した溶接電流および溶接電圧に基づいて、部品3の接合状態を判定する。この判定部26は、アーク溶接された部品3が欠落する可能性がない、あるいは、欠落する可能性が低いと考えられる状態を接合されている状態と判定し、アーク溶接された部品3が欠落する可能性がある、あるいは、欠落する可能性が高いと考えられる状態を接合されていない状態と判定する。以下、部品3が接合されている状態を単に接合とも称し、部品3が接合されていない状態を未接合とも称する。
【0014】
報知部27は、判定部26による接合または未接合の判定結果を報知する。報知部27は、例えばディスプレイなどの表示装置30への表示、警告ランプ31の点灯、ブザー32の鳴動、製造ライン40を管理する管理装置33への信号出力などにより判定結果を報知する。本実施形態の場合、報知部27は、製造ライン40を停止する必要がある状況、つまりは、部品3が未接合である状態を少なくとも報知する。なお、ここに示した報知態様は一例であり、必ずしも全てを備えている必要は無く、また、他の報知態様を採用することもできる。
【0015】
このような接合状態判定装置1は、例えば図2に示す製造ライン40に設置される。この製造ライン40では、黒矢印にて示すように別部品4が搬送装置41によって所定の溶接位置(P)まで搬送されてくる。別部品4が溶接位置に搬送されてくると、保持装置としての保持ロボット42は、例えば部品箱43から部品3を取り出し、その部品3を別部品4に溶接するための保持位置に保持する。部品3が保持位置に保持されると、溶接ロボット44は、溶接トーチ6を所定の位置に移動させながら部品3を別部品4にアーク溶接する。アーク溶接が完了すると、部品3が溶接された状態の別部品4は、溶接位置(P)から後工程に搬送される。ただし、図2に示した製造ライン40の構成は一例であり、これに限定されない。
【0016】
次に上記した構成の作用および効果について説明する。
前述のように、実際の製造現場では、品質管理はもちろん重要であるものの、製造工程を管理することも非常に重要になってくる。そして、部品3をアーク溶接する場合には、アーク溶接された部品3の接合状態を判定することが、製造工程に影響を与えるか否かを判定する上で重要になる。
【0017】
例えば図2に示した製造ライン40の場合、部品3が保持位置に保持された状態で別部品4に対してアーク溶接され、その後、別部品4は搬送装置41によって後工程に搬送されている。この場合、部品3の接合が不十分で部品3が欠落してしまうと、後工程での作業ができなくなるなど、製造工程に影響を与える可能性がある。また、アーク溶接後に保持ロボット42が部品3を離した際や、搬送装置41で搬送したりする際に部品3が欠落してしまうと、搬送装置41に挟まったり搬送装置41が損傷したりする可能性がある。つまり、部品の欠落は、製造ライン40を大幅に停止させてしまうなどの意図しない不具合を招くおそれがあり、その場合には製造工程に大きな影響を与えることになる。
【0018】
そのため、部品3の接合が不十分である場合には、つまりは、部品3が欠落する可能性がある場合には、例えば保持している部品3を離さないようにしたり、アーク溶接後に搬送しないようにしたりするなど、部品3の欠落に対する対処を行うことが望ましい。
【0019】
しかし、部品3が欠落する可能性は、必ずしもアーク溶接の品質の良否の判定結果と一致しないことがある。例えば、品質的に良と判定された場合には、部品3の接合も十分であると考えられることから、部品3が欠落する可能性は無い、または、非常に低いと判定できる。つまり、品質的に良と判定された場合には、製造工程に影響を与える可能性は低いと考えられる。
【0020】
これに対して、品質的に不良と判定された場合には、部品3の接合が不十分であれば、アーク溶接後に部品3を離すと欠落してしまうような状況が想定される。また、接合の程度によっては、搬送時に振動が加わることで部品3が欠落してしまう状況も想定される。また、品質的には不良と判定された場合であっても、部品3の接合は十分であり、部品3が欠落する可能性は無い、または、部品3が欠落する可能性は低いという状況も想定される。つまり、従来の溶接の良否の判定では、品質の判定はできるものの、部品の欠落を想定したものではなく、製造工程に影響を与える部品の接合状態を的確に反映したものではなかった。
【0021】
そこで、接合状態判定装置1は、実際の製造現場における上記した課題に鑑みて、従来の品質管理を目的とした判定基準とは異なる判定基準を新たに採用することにより、部品3の接合状態を適切に判定することを可能にしている。具体的には、接合状態判定装置1は、図3に示す接合状態判定処理を実行する。なお、図3に示す各処理は電流取得部24、電圧取得部25、判定部26あるいは報知部27によって実行されるものであるが、説明の簡略化のために以下では接合状態判定装置1を主体にして説明する。
【0022】
ここで、図3に示す処理の流れを理解し易くするために、まず、図4および図5を参照しながら各用語について説明する。接合判定処理における電流安定期間(AS)とは、図4にグラフG1Aとして示すように、アーク溶接時の溶接電流が、予め設定されている上限電流値(RA-H)と下限電流値(RA-L)とによって定まる電流判定範囲(RA)内で推移している期間を意味している。
【0023】
また、継続時間(ΔT)とは、図4にグラフG1Vとして示すように、電流安定期間における溶接電圧が、予め設定されている上限電圧値(RV-H)と下限電圧値(RV-L)とによって定まる接合判定電圧範囲(RV)内で継続的に推移している時間を意味している。なお、図4および図5では、区別するために、継続時間(ΔT1)、継続時間(ΔT2)、継続時間(ΔT3)、継続時間(ΔT4)と示している。
【0024】
本実施形態の場合、接合判定電圧範囲は、アーク溶接後に別部品4を搬送する際に部品3が欠落する可能性がない、または、部品3が欠落する可能性が低いと考えられる溶接電圧の範囲として設定されている。また、接合判定電圧範囲は、部品3の形状、材質あるいは重量の少なくとも1つに基づいて予め設定されており、判定部26は、接合判定電圧範囲を、部品3の形状、材質あるいは重量の少なくとも1つに応じて変更する構成となっている。
【0025】
この接合判定電圧範囲は、事前試験によって予め設定されている。例えば図4に示すグラフG2Vは、アークが発生していない状態における溶接電圧を示し、グラフG2Aは、その状態での溶接電流を示している。このグラフG2Aから分かるように、溶接電流は、アークが発生していない状態であってもグラフG1Aにて示すアークが発生している状態の溶接電流と概ね一致したものとなる。一方、グラフG2Vにて示す溶接電圧は、アークが発生していない場合には、グラフG1Vにて示すアークが発生している状態の溶接電圧から大きくずれている。つまり、溶接電圧を取得すれば、アークの発生の有無を判定することができる。
【0026】
そして、例えばギャップ長を変更するなどによって溶接電圧を変化させた状態で事前試験を繰り返すことにより、部品3が安定して接合した状態になる溶接電圧の範囲と、部品3が安定して接合したと状態になる時間とを求めることができる。そして、その範囲が接合判定電圧範囲として設定され、その時間が判定時間(Tv)として設定されている。また、本実施形態では、保持装置が部品3を離した際に欠落する可能性が低い溶接状態となる範囲であって、且つ、搬送時に部品3が欠落する可能性が低い溶接状態となる範囲を設定している。つまり、本実施形態の接合判定電圧範囲は、アーク溶接される部品3の欠落の有無を判定できる範囲として設定されている。
【0027】
このため、電流安定期間における溶接電圧が、接合判定電圧範囲内で、判定時間を超えて継続的に推移している状態であれば、アーク溶接された部品3の欠落が無い、または、部品3の欠落する可能性は低い状態であること、つまりは、部品3が接合していると判定することができるようになる。
【0028】
また、総継続時間とは、例えば図5に示すように1回の溶接サイクル中に複数の継続時間が計測された場合における各継続時間の合計を意味している。また、本実施形態では、予め設定されている最小判定時間(Tvmin)を超える継続時間の合計を総継続時間としている。この最小判定時間は、事前試験により、接合箇所が溶融していると判断できる時間として予め求められ、記憶部21などに記憶している。
【0029】
次に、接合判定処理の具体的な内容について説明する。接合状態判定装置1は、処理を開始すると、溶接電流を取得し(S1)、溶接電圧を取得する(S2)。このとき、接合状態判定装置1は、同時期に取得した溶接電流と溶接電圧とを、取得時刻に対応付けて記憶部21に記憶する。なお、ステップS1とステップS2は順不同である。
【0030】
続いて、接合状態判定装置1は、電流安定期間であるかを判定する(S3)。接合状態判定装置1は、図4の場合であれば、1回の溶接サイクルが開始され、時刻(t1)に溶接電流が電流判定範囲に達し、その後、複数回に渡って取得した溶接電流が継続的に電流判定範囲で推移していることが確認された時刻(t2)から、溶接電流が電流判定範囲から外れた時刻(t5)までの期間を、電流安定期間として特定する。なお、1回の溶接サイクル中に複数の電流安定期間が存在することもある。なお、溶接電流の変動率を確認したり、時刻(t2)以降の複数回のサンプリングで電流判定範囲にあるかを確認したりすることにより、電流判定範囲の開始時刻を特定してもよい。
【0031】
例えば溶接サイクルが開始された直後の場合、接合状態判定装置1は、電流安定期間でないことから(S3:NO)、継続時間を計測中であるかを判定する(S10)。接合状態判定装置1は、溶接サイクルが開始された直後ではまだ継続時間の計測は始まっておらず(S10:NO)、継続期間が判定時間を超えてもいないことから(S6:NO)、部品3が未接合であると判定する(S12)。つまり、接合状態判定装置1は、現時点では部品3が接合されていないと判定する。
【0032】
続いて、接合状態判定装置1は、溶接サイクルが完了していなければ(S8:NO)、ステップS1に移行して、溶接電流の取得、溶接電圧の取得、電流安定期間であるかの判定などの処理を繰り返す。そして、接合状態判定装置1は、図4に示す時刻(t2)において電流安定期間になったと判定すると(S3:YES)、溶接電圧が接合判定電圧範囲内であるかを判定する(S4)。このとき、接合状態判定装置1は、接合判定電圧範囲を、部品3の形状、材質あるいは重量の少なくとも1つに応じて適切な範囲を設定している。
【0033】
接合状態判定装置1は、例えば時刻(t3)に取得した溶接電圧(V1)が接合判定電圧範囲内である場合には(S4:YES)、継続時間(ΔT1)を計測する(S5)。なお、溶接電圧の取得を開始する時刻(t3)は、電流安定期間になった時刻(t2)と同じにすることもできるが、本実施形態では、継続時間(ΔT1)をより正確に測定するために、時刻(t2)以降の溶接電圧の変動率の確認や、時刻(t2)以降の複数回のサンプリングで接合判定電圧範囲内であることの確認を行っているため、時刻(t3)から継続時間(ΔT1)の計測を開始している。
【0034】
続いて、接合状態判定装置1は、電流安定期間が継続しており(S3:YES)、溶接電圧が継続して接合判定電圧範囲内である場合には(S4:YES)、継続時間(ΔT1)を計測し(S5)。この場合、接合状態判定装置1は、継続時間(ΔT1)の計測を継続することになる。
【0035】
そして、接合状態判定装置1は、時刻(t3)から判定時間が経過した時点以降の時刻(t4)で取得した溶接電圧(Vn)までが、継続して接合判定電圧範囲内であった場合には、継続時間(ΔT1)が判定時間を超えたことから(S6:YES)、接合と判定する(S7)。つまり、接合状態判定装置1は、アーク溶接された部品3が欠落しない状態、または、欠落する可能性が低い状態であると判定する。
【0036】
これに対して、接合状態判定装置1は、例えば図4にグラフG2Aにて示す溶接電流が電流安定範囲内であっても(S3:YES)、グラフG2Vにて示す溶接電圧が継続して接合判定電圧範囲から外れている場合には(S4:NO)、継続時間の計測が開始されておらず(S10:NO)、継続時間が判定時間を超えていないことから(S6:NO)、未接合と判定する(S12)。つまり、接合状態判定装置1は、部品3が十分に接合されておらず、アーク溶接後に部品3が欠落する可能性がある状態であると判定する。
【0037】
また、接合状態判定装置1は、例えば図5にグラフG3Aにて示す溶接電流が電流安定範囲内となっており、グラフG3Vにて示すように時刻(t11)において溶接電圧(V2)が接合判定電圧範囲内となった場合には継続時間(ΔT2)の計測を開始する。そして、接合状態判定装置1は、時刻(t15)において取得した溶接電圧(V2n)が接合判定電圧範囲外となった場合には、継続時間(ΔT2)を計測中であることから(S10:YES)、その計測を終了するとともに(S11)、接合判定電圧範囲内となっている直前の溶接電圧(V2n-1)を取得した時刻(t14)までを継続時間(ΔT2)として確定させる。
【0038】
そして、接合状態判定装置1は、継続時間(ΔT2)が判定時間を超えていれば(S6:YES)、接合と判定する一方(S7)、図5のように継続時間(ΔT2)が判定時間を超えていない場合には(S6:NO)、未接合と判定する(S12)。
また、例えば時刻(t16)で取得した溶接電圧(V31)が再び接合判定電圧範囲内となり、その後、時刻(t18)で取得した溶接電圧(V3n)まで継続して接合判定電圧範囲内となっていたとする。この場合、接合状態判定装置1は、継続時間(ΔT3)を確定するとともに、その継続時間(ΔT3)と上記した継続時間(ΔT2)との合計が判定時間に達していれば、接合と判定する構成とすることができる。勿論、接合状態判定装置1は、時刻(t16)から判定時間が経過した時点以降に取得した溶接電圧(V3n+α)までまで継続して接合判定電圧範囲内となっている場合には、その継続時間(ΔT4)が判定時間に達していれば接合と判定することになる。
【0039】
つまり、接合状態判定装置1は、1回の溶接サイクル中に判定時間を超える継続時間を少なくとも1回確認できた場合、または、1回の溶接サイクル中における継続時間の合計が判定時間を超えた場合に、部品3が接合されていると判定する。この場合、ステップS6において、いずれかの継続時間が判定時間を超えたか否か、および、継続時間の合計である総継続時間が判定時間を超えたか否か、を判定すればよい。
【0040】
このように、接合状態の判定は、溶接サイクルが完了する前に行われている。そして、接合状態判定装置1は、接合または未接合の判定後、溶接サイクルが完了すると(S8:YES)、判定結果を報知する(S9)。このとき、未接合と判定した場合には、そのまま工程を進めると設備の損傷等を招くおそれがあることから、表示装置30への警告表示やブザー32の鳴動あるいは管理装置33に対して停止すべき旨を通知する信号出力などを行うことになる。例えば、接合状態判定装置1は、搬送装置41を制御する管理装置33に対して停止すべき旨を示す信号を出力したり、保持ロボット42のコントローラに対して部品3を離さないように指示する信号を出力したりすることができる。なお、接合と判定した場合には報知せず、未接合の場合にのみ報知する構成とすることもできる。
【0041】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
アーク溶接された部品3の接合状態を判定する接合状態判定方法は、アーク溶接中に溶接電流を取得する工程と、アーク溶接中に溶接電圧を取得する工程と、溶接電流の推移が安定している電流安定期間における溶接電圧が、予め設定されている接合判定電圧範囲内である場合に部品3が接合されている状態と判定する一方、溶接電圧が接合判定電圧範囲外である場合に部品3が接合されていない状態と判定する工程と、を含む。
【0042】
これにより、従来の品質的な溶接の良否では必ずしも判定できなかった部品3の接合状態、つまりは、部品3が欠落する可能性を適切に判定することができ、製造工程に影響を与えてしまうおそれを低減することができる。さらに、接合状態の判定は溶接サイクルが完了する前に行われることから、部品3の欠落が設備や後工程に影響を与える前に対処を行うことが可能になる。
【0043】
また、アーク溶接された部品3の接合状態を判定する接合状態判定装置1は、アーク溶接中に溶接電流を取得する電流取得部24と、アーク溶接中に溶接電圧を取得する電圧取得部25と、溶接電流の推移が安定している電流安定期間における溶接電圧が、予め設定されている接合判定電圧範囲内である場合に部品3が接合されていると判定する一方、溶接電圧が接合判定電圧範囲外である場合に部品3が接合されていないと判定する判定する判定部26と、を備える。
【0044】
このような接合状態判定装置1によっても、部品3が欠落する可能性を適切に判定することができ、製造工程に影響を与えてしまうおそれを低減することができるとともに、接合状態の判定は溶接サイクルが完了する前に行われることから、部品3の欠落が設備や後工程に影響を与える前に対処を行うことが可能になるなど、上記した接合状態判定方法と同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、電流安定期間において、溶接電圧が継続的に接合判定電圧範囲内で推移している時間を継続時間とすると、判定部26は、継続時間が予め設定されている判定時間に達している場合に、部品3が接合していると判定する。これにより、ノイズ等の影響を抑制した状態で接合状態を判定することができ、判定の精度を向上させることができる。
【0046】
また、電流安定期間において、溶接電圧が継続的に接合判定電圧範囲内で推移している時間を継続時間とすると、判定部26は、予め設定されている最小判定時間を超えた継続時間の合計として求まる総継続時間が、予め設定されている判定時間に達している場合に、部品3が接合していると判定する。これにより、例えば、アーク溶接中の不具合や異形状の部品3を溶接する際に溶接電圧が大きく変動したり、小さい溶接範囲を複数溶接したりする場合であっても、接合状態を適切に判定することができる。
【0047】
また、部品3は、所定の保持位置に保持装置に保持された状態でアーク溶接されるものであり、接合判定電圧範囲は、アーク溶接後に保持装置が部品3を離した際に部品3が欠落する可能性がない、または、部品3が欠落する可能性が低いと考えられる溶接電圧の範囲として設定されている。これにより、アーク溶接後に部品3を離してよいかを判定することができ、部品3を離した際に欠落して設備や製造工程に影響を与えるおそれを事前に回避することができる。
【0048】
また、部品3は、別部品4に対してアーク溶接されるものであり、別部品4は、搬送装置41によって搬送されるものであり、接合判定電圧範囲は、アーク溶接後に別部品4を搬送する際に部品3が欠落する可能性がない、または、部品3が欠落する可能性が低いと考えられる溶接電圧の範囲として設定されている。これにより、アーク溶接後に別部品4を搬送してもよいかどうかを判定することができ、搬送時に部品3が落して設備や製造工程に影響を与えるおそれを事前に回避することができる。
【0049】
また、接合状態判定装置1は、判定部26による判定結果を報知する報知部27をさらに備える。これにより、例えば製造ライン40の作業者や管理者に部品3が欠落するおそれを画面や音によって提示したり、搬送装置41を制御する管理装置33に対して停止信号等を出力したり、保持ロボット42のコントローラに対して部品3を離さないように指示したりすることが可能となり、部品3が落して設備や製造工程に影響を与えるおそれを事前に回避することができる。
【0050】
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0051】
実施形態では1回の溶接サイクル中に判定時間を超える継続時間を確認できた場合に接合と判定する構成を例示したが、判定時間を超える継続時間を複数確認できた場合に接合と判定する構成とすることができる。
【0052】
実施形態では、接合と判定しても接合判定処理を継続する構成を例示したが、接合と判定できた時点で処理を終了する構成とすることができる。ただし、接合と判定されなかった場合には、溶接サイクルの完了まで、あるいは、溶接サイクルの完了予定時刻までの残り時間が判定時間未満となる時点まで継続されることになる。また、例えばアーク溶接後に作業者が製品を搬送するような場合には、アーク溶接の完了後に多少の時間的余裕があると考えられるため、溶接サイクルの完了後に接合または未接合を判定する構成とすることもできる。なお、溶接サイクルの完了予定時刻は、溶接ロボット44のコントローラや上位の管理装置33などから取得することができる。
【0053】
実施形態では、保持装置が部品3を離した際に欠落する可能性が低い溶接状態となる接合判定電圧範囲であって、且つ、搬送時に部品3が欠落する可能性が低い溶接状態となる接合判定電圧範囲を設定したが、両者を異なる範囲として設定することができる。つまり、接合判定電圧範囲は、実際の作業内容に応じて適宜設定あるいは選択すればよい。
【0054】
実施形態では別部品4を搬送装置41により搬送する例を示したが、作業者が別部品4を搬送する場合には、溶接位置まで搬入し、アーク溶接後に搬出する製造工程に接合状態判定装置1を適用することができる。この場合、接合判定電圧範囲として、アーク溶接後に保持ロボット42が部品3を離した際に部品3が欠落する可能性がない、または、部品3が欠落する可能性が低いと考えられる溶接電圧の範囲を設定すればよい。
【0055】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【符号の説明】
【0056】
図面中、1は接合状態判定装置、3は部品、4は別部品、24は電流取得部、25は電圧取得部、26は判定部、27は報知部、41は搬送装置、42は保持ロボット(保持装置)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5