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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134954
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】水電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/02 20060101AFI20240927BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240927BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B13/04 302
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B13/05
C25B9/23
C25B13/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045423
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健志
(72)【発明者】
【氏名】平方 聡樹
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021CA10
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
(57)【要約】
【課題】局所的な圧力に起因したアニオン交換膜の破損を抑制する。
【解決手段】水電解装置100は、相互に反対側の第1面F1と第2面F2とを含むアニオン交換膜11と、第1面F1に対向する第1流路部材41と、第1面F1と第1流路部材41と間の陽極部20と、第2面F2に対向する第2流路部材42と、第2面F2と第2流路部材42と間の陰極部30と、第1面F1と第1流路部材41との間において陽極部20を包囲する第1ガスケット51と、第1面F1と第1ガスケット51との間に位置する第1外周部611と第1ガスケット51の内周縁E1の内側に位置する第1内周部612とを含む第1保護膜61とを具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に反対側の第1面と第2面とを含むアニオン交換膜と、
前記第1面に対向する第1流路部材と、
前記第1面と前記第1流路部材と間の陽極部と、
前記第2面に対向する第2流路部材と、
前記第2面と前記第2流路部材と間の陰極部と、
前記第1面と前記第1流路部材との間において前記陽極部を包囲する第1ガスケットと、
前記第1面と前記第1ガスケットとの間に位置する第1外周部と前記第1ガスケットの内周縁の内側に位置する第1内周部とを含む第1保護膜と
を具備する水電解装置。
【請求項2】
前記第1保護膜は、前記第1ガスケットの内周縁に沿う枠状に形成される
請求項1の水電解装置。
【請求項3】
前記第1保護膜の機械的強度は、前記アニオン交換膜の機械的強度を上回る
請求項1の水電解装置。
【請求項4】
前記第1保護膜は、炭素系材料または金属酸化物材料により形成される
請求項1の水電解装置。
【請求項5】
前記第1保護膜は、グラフェン積層体である
請求項1の水電解装置。
【請求項6】
前記第1保護膜の膜厚は5μm以下である
請求項1の水電解装置。
【請求項7】
前記第2面と前記第2流路部材との間において前記陰極部を包囲する第2ガスケットと、
前記第2面と前記第2ガスケットとの間に位置する第2外周部と前記第2ガスケットの内周縁の内側に位置する第2内周部とを含む第2保護膜と
をさらに具備する請求項1の水電解装置。
【請求項8】
相互に反対側の第1面と第2面とを含むアニオン交換膜と、
前記第1面に対向する第1流路部材と、
前記第1面と前記第1流路部材と間の陽極部と、
前記第2面に対向する第2流路部材と、
前記第2面と前記第2流路部材と間の陰極部と、
前記第2面と前記第2流路部材との間において前記陰極部を包囲する第2ガスケットと、
前記第2面と前記第2ガスケットとの間に位置する第2外周部と前記第2ガスケットの内周縁の内側に位置する第2内周部とを含む第2保護膜と
を具備する水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解質膜を利用した水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばアニオン交換膜(AEM:Anion Exchange Membrane)等の電解質膜を利用した水電解により水素を製造する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、電解質膜とセパレータ部材との間にシール層が設置された水電解デバイスが開示されている。シール層は、触媒層を包囲する枠状に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7102599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電解質膜に局所的な圧力が作用する場合がある。例えば、特許文献1の技術において、シール層の内周縁と触媒層の外周縁との間の隙間において圧力が局所的に上昇する場合が想定される。以上のような局所的な圧力が作用する結果、電解質膜にピンホール等の破損が発生する可能性がある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜の破損を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る水電解装置は、相互に反対側の第1面と第2面とを含むアニオン交換膜と、前記第1面に対向する第1流路部材と、前記第1面と前記第1流路部材と間の陽極部と、前記第2面に対向する第2流路部材と、前記第2面と前記第2流路部材と間の陰極部と、前記第1面と前記第1流路部材との間において前記陽極部を包囲する第1ガスケットと、前記第1面と前記第1ガスケットとの間に位置する第1外周部と前記第1ガスケットの内周縁の内側に位置する第1内周部とを含む第1保護膜とを具備する。
【0006】
本開示の他の態様に係る水電解装置は、相互に反対側の第1面と第2面とを含むアニオン交換膜と、前記第1面に対向する第1流路部材と、前記第1面と前記第1流路部材と間の陽極部と、前記第2面に対向する第2流路部材と、前記第2面と前記第2流路部材と間の陰極部と、前記第2面と前記第2流路部材との間において前記陰極部を包囲する第2ガスケットと、前記第2面と前記第2ガスケットとの間に位置する第2外周部と前記第2ガスケットの内周縁の内側に位置する第2内周部とを含む第2保護膜とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る水電解装置の構成を例示する断面図である。
図2】水電解装置の各要素の位置関係を説明するための平面図である。
図3図1における領域α1の拡大図である。
図4図1における領域α2の拡大図である。
図5】第1保護膜の製造工程の説明図である。
図6】実施形態の効果を説明するための図表である。
図7】変形例に係る水電解装置の構成を例示する断面図である。
図8】変形例に係る水電解装置の構成を例示する断面図である。
図9】変形例に係る水電解装置について各要素の位置関係を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法および縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0009】
A:実施形態
図1は、本開示のひとつの形態における水電解装置100の断面図である。図2は、水電解装置100を構成する各要素の位置関係を表す平面図である。本形態の水電解装置100は、水電解により水素と酸素とを生成する。図1に例示される通り、水電解装置100は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)10と第1流路部材41と第2流路部材42と第1ガスケット51と第2ガスケット52と第1保護膜61と第2保護膜62とを具備する。
【0010】
第1流路部材41と第2流路部材42との間に膜電極接合体10が設置される。具体的には、第1流路部材41と第2流路部材42とが例えばネジまたはボルト等の締結具により相互に固定され、第1流路部材41と第2流路部材42との間に膜電極接合体10が挟持される。
【0011】
第1流路部材41と第2流路部材42とは、電源装置90に接続された電極として機能する。電源装置90は、膜電極接合体10との間で電子を授受する直流電源である。膜電極接合体10は、水電解により水素と酸素とを発生させる。本形態の膜電極接合体10は、アニオン交換膜11と陽極部20と陰極部30との積層で構成される。
【0012】
アニオン交換膜(AEM:Anion Exchange Membrane)11は、水酸化物イオン(OH)等の陰イオンが選択的に移動可能な電解質膜である。例えばPFOTFPh-TMA-C10等等の各種の高分子材料により、アニオン交換膜11が形成される。ただし、アニオン交換膜11の材料は任意であり、以上の例示には限定されない。例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリエチレンオキシド(PEO)等の高分子材料によりアニオン交換膜11が形成されてもよい。
【0013】
本形態のアニオン交換膜11は、第1面F1と第2面F2とを含む矩形状の薄膜である。第1面F1および第2面F2は、相互に反対側に位置する表面である。アニオン交換膜11の膜厚は例えば30μm程度である。なお、以下の説明においては、第1面F1または第2面F2に垂直な方向から水電解装置100の各要素を観察することを、以下では「平面視」と表記する。
【0014】
陽極部20は、第1面F1に積層される。図2に例示される通り、陽極部20は、平面視で矩形状に形成される。陽極部20においては、以下に例示する第1反応により酸素ガスが発生する。
4OH→O+2HO+4e
【0015】
図1に例示される通り、陽極部20は、陽極触媒層21と第1拡散層22との積層で構成される。第1面F1と第1拡散層22との間に陽極触媒層21が位置する。陽極触媒層21は、第1面F1に密着する薄膜であり、前述の第1反応を促進する。例えばイリジウム(Ir)、鉄(Fe)またはニッケル(Ni)等の金属材料により陽極触媒層21が形成される。以上に例示した金属材料の酸化物により陽極触媒層21が形成されてもよい。第1拡散層22は、第1反応により発生した酸素ガスを効率的に分離および排出するための要素である。例えばニッケル(Ni)フォームまたは炭素系材料の多孔質膜が第1拡散層22として利用される。
【0016】
陰極部30は、第2面F2に積層される。図2に例示される通り、陰極部30は、平面視で矩形状に形成される。陰極部30においては、以下に例示する第2反応により水素ガスが発生する。
4HO+4e→2H+4OH
【0017】
図1に例示される通り、陰極部30は、陰極触媒層31と第2拡散層32との積層で構成される。第2面F2と第2拡散層32との間に陰極触媒層31が位置する。陰極触媒層31は、第2面F2に密着する薄膜であり、前述の第2反応を促進する。例えば白金(Pt)またはパラジウム(Pd)等の金属材料を担持したカーボンにより陰極触媒層31が形成される。第2拡散層32は、第2反応により発生した水素ガスを効率的に分離および排出するための要素である。例えばニッケル(Ni)フォームまたは炭素系材料の多孔質膜が第2拡散層32として利用される。以上の説明から理解される通り、陽極触媒層21と陰極触媒層31との間にアニオン交換膜11が位置する。
【0018】
第1流路部材41は、金属等の導電材料により形成された板状の構造体(セパレータ)である。第1流路部材41は、陽極部20を挟んで第1面F1に対向する。すなわち、陽極部20は、第1面F1と第1流路部材41との間に位置する。
【0019】
第1流路部材41のうち第1面F1との対向面には第1流路411が形成される。第1流路411は、第1反応により陽極部20に発生した酸素ガスが流通する流路である。また、第1流路部材41には供給管43と第1排出管44とが設置される。供給管43は、水電解装置100に水を供給するための管路である。第1排出管44は、第1反応により発生した酸素ガスと水とを外部に排出するための管路である。
【0020】
第1ガスケット51は、アニオン交換膜11と第1流路部材41との間に陽極部20を密封するための矩形枠状のシール部材である。図1および図2に例示される通り、第1ガスケット51は、アニオン交換膜11の第1面F1と第1流路部材41との間において陽極部20を包囲する。第1ガスケット51のうちアニオン交換膜11との対向面は第1面F1に密着し、反対側の表面は第1流路部材41に密着する。第1ガスケット51は、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の各種の弾性材料により形成される。以上に例示した弾性材料の積層体により、第1ガスケット51が形成されてもよい。
【0021】
第1保護膜61は、第1面F1に形成された薄膜である。第1保護膜61は、第1ガスケット51の内周縁E1に沿う矩形枠状に形成される。第1保護膜61は、第1ガスケット51および陽極部20に平面視で重複する。
【0022】
図3は、図1における領域α1の拡大図である。図3に例示される通り、第1保護膜61は、第1外周部611と第1内周部612とを含む。第1外周部611は、第1保護膜61のうち外周縁を含む矩形枠状の部分である。第1内周部612は、第1保護膜61のうち内周縁を含む矩形枠状の部分である。すなわち、第1内周部612は第1外周部611の内側に位置する。
【0023】
具体的には、第1外周部611は、第1保護膜61のうち第1ガスケット51の内周縁E1よりも外側の部分である。したがって、第1外周部611は、第1面F1と第1ガスケット51との間に位置する。他方、第1内周部612は、第1保護膜61のうち第1ガスケット51の内周縁E1よりも内側の部分である。
【0024】
図3に例示される通り、第1ガスケット51の内周縁E1と陽極部20の外周縁との間には隙間G1が形成される。第1保護膜61の第1内周部612は、陽極部20と隙間G1とに平面視で重複する。具体的には、第1内周部612は、陽極触媒層21と第1面F1との間に位置する。以上の説明から理解される通り、第1保護膜61は、隙間G1を閉塞するように第1ガスケット51と陽極部20とにわたり形成される。
【0025】
図1の第2流路部材42は、第1流路部材41と同様に、金属等の導電材料により形成された板状の構造体(セパレータ)である。第2流路部材42は、陰極部30を挟んで第2面F2に対向する。すなわち、陰極部30は、第2面F2と第2流路部材42との間に位置する。
【0026】
第2流路部材42のうち第2面F2との対向面には第2流路421が形成される。第2流路421は、前述の第2反応により陰極部30に発生した水素ガスが流通する流路である。また、第2流路部材42には第2排出管45が設置される。第2排出管45は、第2反応により発生した水素ガスを外部に排出するための管路である。
【0027】
第2ガスケット52は、アニオン交換膜11と第2流路部材42との間に陰極部30を密封するための矩形枠状のシール部材である。図1および図2に例示される通り、第2ガスケット52は、アニオン交換膜11の第2面F2と第2流路部材42との間において陰極部30を包囲する。第2ガスケット52のうちアニオン交換膜11との対向面は第2面F2に密着し、反対側の表面は第2流路部材42に密着する。第2ガスケット52は、第1ガスケット51と同様の弾性材料により形成される。
【0028】
第2保護膜62は、第2面F2に形成された薄膜である。第2保護膜62は、第2ガスケット52の内周縁E2に沿う矩形枠状に形成される。第1保護膜61と第2保護膜62とは実質的に同じ形状に形成され、平面視で相互に重複する。第2保護膜62は、第2ガスケット52および陰極部30に平面視で重複する。
【0029】
図4は、図1における領域α2の拡大図である。図4に例示される通り、第2保護膜62は、第2外周部621と第2内周部622とを含む。第2外周部621は、第2保護膜62のうち外周縁を含む矩形枠状の部分である。第2内周部622は、第2保護膜62のうち内周縁を含む矩形枠状の部分である。すなわち、第2内周部622は第2外周部621の内側に位置する。
【0030】
具体的には、第2外周部621は、第2保護膜62のうち第2ガスケット52の内周縁E2よりも外側の部分である。したがって、第2外周部621は、第2面F2と第2ガスケット52との間に位置する。他方、第2内周部622は、第2保護膜62のうち第2ガスケット52の内周縁E2よりも内側の部分である。
【0031】
図4に例示される通り、第2ガスケット52の内周縁E2と陰極部30の外周縁との間には隙間G2が形成される。第2保護膜62の第2内周部622は、陰極部30と隙間G2とに平面視で重複する。具体的には、第2内周部622は、陰極触媒層31と第2面F2との間に位置する。以上の説明から理解される通り、第2保護膜62は、隙間G2を閉塞するように第2ガスケット52と陰極部30とにわたり形成される。
【0032】
以上に例示した構成において、第1保護膜61および第2保護膜62の機械的強度(例えば剛性または硬度)は、アニオン交換膜11の機械的強度を上回る。具体的には、第1保護膜61および第2保護膜62は、アニオン交換膜11と比較して外力の作用による変形または破損が発生し難い。なお、アニオン交換膜11は、吸水により膨潤することで機械的強度が低下する。第1保護膜61および第2保護膜62の機械的強度は、アニオン交換膜11の機械的強度の最大値(例えば初期的な状態における機械的強度)を上回る。
【0033】
第1保護膜61および第2保護膜62は、例えば炭素系材料または金属酸化物(例えばセラミックス)材料等の無機材料により形成される。第1保護膜61または第2保護膜62の形成に利用される炭素系材料としては、例えばグラフェン積層体が例示される。グラフェン積層体は導電材料である。すなわち、第1保護膜61および第2保護膜62は、導電材料により形成されてもよい。なお、第1保護膜61および第2保護膜62の形成に利用される導電材料はグラフェン積層体に限定されない。また、例えば樹脂材料等の有機材料により第1保護膜61および第2保護膜62が形成されてもよい。
【0034】
前述の通り、アニオン交換膜11は吸水により膨潤する。第1保護膜61および第2保護膜62の吸水率はアニオン交換膜11の吸水率を下回る。例えば、第1保護膜61および第2保護膜62は、吸水による膨潤(すなわち体積増加)が実質的に発生しない。すなわち、吸水により第1保護膜61および第2保護膜62に発生する寸法または形状の変化は、吸水によりアニオン交換膜11に発生する寸法または形状の変化よりも小さい。
【0035】
第1保護膜61および第2保護膜62の膜厚は、アニオン交換膜11の膜厚を下回る。例えば、第1保護膜61および第2保護膜62の膜厚は、5μm以下の膜厚に形成される。より具体的には、第1保護膜61および第2保護膜62は、例えば10nm以上かつ1μm以下の膜厚に形成され、さらに好適には100nm以上の膜厚に形成される。第1保護膜61および第2保護膜62の線幅は、例えば1mm以上かつ10mm以下であり、より好適には2mm以上かつ5mm以下である。
【0036】
ところで、アニオン交換膜11と第1流路部材41との間には局所的に高圧が発生する場合がある。例えば、第1ガスケット51と陽極部20との間の隙間G1には、供給管43から供給される水により高圧が発生する場合がある。したがって、第1保護膜61が形成されない形態(以下「対比例」という)では、隙間G1内の高圧がアニオン交換膜11に直接的に作用することで、第1面F1にピンホール等の破損が発生する可能性がある。アニオン交換膜11は、吸水により膨潤して機械的強度が低下する傾向がある。すなわち、アニオン交換膜11においては、カチオン交換膜等の他の電解質膜と比較して、隙間G1内の高圧の作用により第1面F1の破損が特に発生し易いという事情がある。
【0037】
以上の事情を考慮して、本形態においては、第1面F1と第1ガスケット51との間に位置する第1外周部611と、第1ガスケット51の内周縁E1の内側に位置する第1内周部612とを含む第1保護膜61が設置される。以上の構成によれば、第1ガスケット51と陽極部20との隙間G1に局所的な圧力が発生した場合でも、アニオン交換膜11の第1面F1は第1保護膜61により保護される。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜11の破損(例えばピンホールの形成)を抑制できる。
【0038】
同様に、第2ガスケット52と陰極部30との間の隙間G2にも高圧が発生する場合がある。本形態においては、第2面F2と第2ガスケット52との間に位置する第2外周部621と、第2ガスケット52の内周縁E2の内側に位置する第2内周部622とを含む第2保護膜62が設置される。以上の構成によれば、第2ガスケット52と陰極部30との隙間G2に局所的な圧力が発生した場合でも、アニオン交換膜11の第2面F2は第2保護膜62により保護される。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜11の破損(例えばピンホールの形成)を抑制できる。
【0039】
本形態においては特に、第1保護膜61および第2保護膜62の機械的強度がアニオン交換膜11の機械的強度を上回る。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜11の破損を有効に抑制できる。また、第1保護膜61および第2保護膜62がグラフェン積層体により形成された形態によれば、第1保護膜61および第2保護膜62について機械的強度を充分に確保できる。
【0040】
なお、第1保護膜61および第2保護膜62が絶縁材料により形成された形態では、膜電極接合体10との間で電子が授受される範囲が第1保護膜61または第2保護膜62の内周縁の内側の領域に制限される。すなわち、前述の第1反応または第2反応が発生する範囲が第1保護膜61および第2保護膜62により制限される。本形態においては、第1保護膜61および第2保護膜62がグラフェン積層体等の導電材料により形成される。したがって、アニオン交換膜11のうち水電解に利用できる領域が第1保護膜61または第2保護膜62により制約されることを抑制できる。ただし、第1保護膜61および第2保護膜62は絶縁材料により形成されてもよい。
【0041】
また、第1保護膜61の膜厚が充分に大きい形態では、第1保護膜61の膜厚を反映した段差が第1ガスケット51に形成され、結果的に第1ガスケット51による密封性能が低下する可能性がある。本形態においては、第1保護膜61が5μm以下の膜厚に形成されるから、第1ガスケット51の密封性能の低下を抑制できる。第2保護膜62についても同様に5μm以下の膜厚に形成されるから、第2ガスケット52の密封性能の低下を抑制できる。
【0042】
図5は、第1保護膜61を形成する工程の説明図である。なお、第2保護膜62をアニオン交換膜11の第2面F2に形成する工程は、第1保護膜61を第1面F1に形成する工程と同様である。したがって、第2保護膜62の形成について詳細な説明は省略する。
【0043】
まず、工程P1において、アニオン交換膜11の第1面F1に第1保護膜61が形成される。なお、アニオン交換膜11の耐熱温度は比較的に低温(例えば80℃~90℃)である。そこで、低温での成膜が可能な湿式成膜が、工程P1における第1保護膜61の形成に利用される。湿式成膜は、液状の材料を塗布および硬化する成膜処理である。湿式成膜によれば、アニオン交換膜11の第1面F1にダメージを付与せずに第1保護膜61を形成できる。
【0044】
具体的には、第1保護膜61の材料であるグラフェンを水またはN,N-ジメチルホルムアミド (DMF:N,N-dimethylformamide)等の溶媒に分散した溶液材料が、第1保護膜61の形成に利用される。溶液材料におけるグラフェンの濃度は、例えば1mg/ml程度である。
【0045】
湿式成膜としては、例えばスプレー法、インクジェット法またはスクリーン印刷法等の印刷技術が例示される。溶液材料の塗布後に、例えば60℃程度の真空状態において1時間程度にわたり溶媒を蒸発させることで、第1保護膜61が形成される。
【0046】
工程P1の実施後の工程P2において、第1保護膜61の表面に対する窒化処理が実行される。窒化処理により表面に窒素が付着することで、第1保護膜61の機械的強度が増加する。窒化処理は、例えばヒドラジン(N)等の有機化合物のガス雰囲気中に第1保護膜61を暴露し、電解質膜(アニオン交換膜11)の分解温度よりも低い温度の環境下で所定の時間にわたり第1保護膜61を反応させる処理である。
【0047】
図6は、本形態の効果を説明するための図表である。図6の実施例1および実施例2が前述の実施形態に相当する。実施例1は、膜厚1μmおよび線幅3mmで第1保護膜61および第2保護膜62を形成した形態である。実施例1は窒化処理(工程P2)が実施されていない形態であり、実施例2は、実施例1と同様の寸法の第1保護膜61および第2保護膜62に対して窒化処理が実施された形態である。対比例は、前述の通り、第1保護膜61および第2保護膜62が形成されない形態である。図6においては、0.2A/cmの低電流の供給により1000時間以上にわたり水電解装置100を継続的に動作させた。
【0048】
図6から理解される通り、対比例においてはアニオン交換膜11(AEM)が破損し、水素ガスの製造が停止した。対比例とは対照的に、第1保護膜61および第2保護膜62が設置された実施例1および実施例2においては、アニオン交換膜11に破損が発生していない。以上の結果から、実施例1および実施例2によれば、水電解装置100の信頼性を長期間にわたり高い水準に維持できることが確認できる。
【0049】
B:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0050】
(1)前述の形態においては、第1保護膜61の第1外周部611が第1ガスケット51の内周側の一部に重複する形態を例示したが、図7に例示される通り、第1保護膜61は、第1ガスケット51の全幅にわたり形成されてもよい。すなわち、第1保護膜61の第1外周部611は、第1ガスケット51の内周縁E1から外周縁まで連続してもよい。同様に、第2保護膜62は、第2ガスケット52の全幅にわたり形成されてもよい。
【0051】
(2)前述の形態においては、第1保護膜61の第1内周部612がアニオン交換膜11の第1面F1と陽極触媒層21との間に位置する形態を例示した。すなわち、本形態においては、第1保護膜61の形成後に陽極触媒層21が形成される。図8に例示される通り、第1保護膜61の第1内周部612が陽極触媒層21と第1拡散層22との間に介在してもよい。すなわち、第1保護膜61は、陽極触媒層21の形成後(第1拡散層22の形成前)に形成されてもよい。同様に、第2保護膜62の第2内周部622が陰極触媒層31と第2拡散層32との間に介在してもよい。すなわち、第2保護膜62は、陰極触媒層31の形成後(第2拡散層32の形成前)に形成されてもよい。
【0052】
(3)前述の形態においては、第1保護膜61の膜厚が全体にわたり一定である形態を例示したが、第1保護膜61の膜厚は部位に応じて相違してもよい。例えば、第1ガスケット51と陽極部20との隙間G1のうち供給管43の近傍においては圧力が高い傾向がある。したがって、第1保護膜61のうち供給管43の近傍に位置する第1部位の膜厚が、第1部位よりも供給管43から遠い第2部位の膜厚を上回る形態も想定される。第2保護膜62についても同様に、膜厚は部位に応じて相違してもよい。
【0053】
(4)前述の形態においては、第1保護膜61が矩形枠状に形成された形態を例示したが、第1保護膜61の平面形状は以上の例示に限定されない。具体的には、第1保護膜61が枠状である構成は必須ではない。
【0054】
例えば、第1ガスケット51と陽極部20との隙間G1は、陽極部20の四隅に特に形成され易いという傾向がある。すなわち、陽極部20の四隅以外の箇所においては、第1ガスケット51と陽極部20とが相互に密着して隙間G1は形成されない場合がある。以上の事情を考慮すると、図9に例示される通り、第1ガスケット51および陽極部20における四隅の部分に第1保護膜61が形成されてもよい。第2保護膜62についても同様に、平面形状は矩形枠状に限定されない。例えば、図9の例示の通り、第2ガスケット52および陰極部30における四隅の部分に第2保護膜62が形成されてもよい。
【0055】
ただし、第1保護膜61が枠状に形成された図1の形態によれば、例えば第1ガスケット51の内周縁E1の一部のみに第1保護膜61が形成される図9の形態と比較して、第1ガスケット51の全周にわたりアニオン交換膜11の破損を抑制できるという効果がある。同様に、第2保護膜62が枠状に形成された図1の形態によれば、例えば第2ガスケット52の内周縁E2の一部のみに第2保護膜62が形成される図9の形態と比較して、第2ガスケット52の全周にわたりアニオン交換膜11の破損を抑制できるという効果がある。
【0056】
(5)前述の形態においては、第1ガスケット51が矩形枠状である形態を例示したが、第1ガスケット51の平面形状は任意であり、以上の例示には限定されない。例えば、第1ガスケット51は、陽極部20を包囲する円環状に形成されてもよい。第1ガスケット51が円環状に形成された形態において、第1保護膜61は、第1ガスケット51の内周縁E1に沿う円環状に形成される。第2ガスケット52についても同様であり、平面形状は矩形枠状に限定されない。例えば、第2ガスケット52は、陰極部30を包囲する円環状に形成されてもよい。第2ガスケット52が円環状に形成された形態において、第2保護膜62は、第2ガスケット52の内周縁E2に沿う円環状に形成される。
【0057】
なお、第1ガスケット51と第1保護膜61とが同様の形状である必要はない。例えば、第1ガスケット51が矩形枠状である形態において、第1保護膜61の外周縁が第1ガスケット51の内周縁E1を包囲する矩形状であり、第1保護膜61の内周縁が第1ガスケット51の内周縁E1の内側の円形状である形態も想定される。第2ガスケット52および第2保護膜62の関係についても同様である。例えば、第2ガスケット52が矩形枠状である形態において、第2保護膜62の外周縁が第2ガスケット52の内周縁E2を包囲する矩形状であり、第2保護膜62の内周縁が第2ガスケット52の内周縁E2の内側の円形状である形態も想定される。
【0058】
(6)前述の形態においては、第1保護膜61および第2保護膜62の双方を具備する水電解装置100を例示したが、第1保護膜61および第2保護膜62の一方は省略されてもよい。また、前述の形態においては、第1保護膜61と第2保護膜62との間で形状および寸法が共通する形態を例示したが、第1保護膜61と第2保護膜62との間で形状および寸法が相違してもよい。
【0059】
(7)前述の各形態においては、第1保護膜61および第2保護膜62の表面に窒化処理を実施することで機械的強度を増加させる形態を例示したが、第1保護膜61および第2保護膜62について実施される表面処理は窒化処理に限定されない。例えば、第1保護膜61および第2保護膜62に対してフッ化処理が実施されてもよい。フッ化処理により表面にフッ素が付着することで、第1保護膜61および第2保護膜62の機械的強度が増加する。
【0060】
(8)本願における「第n」(nは自然数)という記載は、各要素を表記上において区別するための形式的かつ便宜的な標識(ラベル)としてのみ使用され、如何なる実質的な意味も持たない。したがって、「第n」という表記を根拠として、各要素の位置または製造の順番等が限定的に解釈される余地はない。
【0061】
C:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0062】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る水電解装置は、相互に反対側の第1面と第2面とを含むアニオン交換膜と、前記第1面に対向する第1流路部材と、前記第1面と前記第1流路部材と間の陽極部と、前記第2面に対向する第2流路部材と、前記第2面と前記第2流路部材と間の陰極部と、前記第1面と前記第1流路部材との間において前記陽極部を包囲する第1ガスケットと、前記第1面と前記第1ガスケットとの間に位置する第1外周部と前記第1ガスケットの内周縁の内側に位置する第1内周部とを含む第1保護膜とを具備する。以上の態様においては、第1面と第1ガスケットとの間に位置する第1外周部と前記第1ガスケットの内周縁の内側に位置する第1内周部とを含む第1保護膜が設置される。すなわち、第1ガスケットと陽極部との隙間に局所的な圧力が発生した場合でも、アニオン交換膜の第1面は第1保護膜により保護される。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜の破損(例えばピンホールの形成)を抑制できる。
【0063】
態様1の具体例(態様2)において、前記第1保護膜は、前記第1ガスケットの内周縁に沿う枠状に形成される。以上の態様においては、第1保護膜が枠状に形成される。したがって、例えば第1ガスケットの内周縁の一部のみに第1保護膜が形成される形態と比較して、第1ガスケットの全周にわたりアニオン交換膜の破損を抑制できる。
【0064】
態様1または態様2の具体例(態様3)において、前記第1保護膜の機械的強度は、前記アニオン交換膜の機械的強度を上回る。以上の態様においては、第1保護膜の機械的強度がアニオン交換膜を上回る。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜の破損を有効に抑制できる。
【0065】
態様1から態様3の何れかの具体例(態様4)において、前記第1保護膜は、炭素系材料または金属酸化物材料により形成される。態様1から態様4の何れかの具体例(態様5)において、前記第1保護膜は、グラフェン積層体である。以上の態様によれば、第1保護膜について機械的強度を確保できる。また、グラフェン積層体は導電材料であるから、アニオン交換膜のうち水電解に利用できる領域が第1保護膜により制約されることを抑制できる。
【0066】
態様1から態様5の何れかの具体例(態様6)において、前記第1保護膜の膜厚は5μm以下である。第1保護膜の膜厚が過度に大きい形態では、第1保護膜の膜厚を反映した段差が第1ガスケットに顕著に形成され、結果的に第1ガスケットによる密封性能が低下する可能性がある。第1保護膜の膜厚が5μm以下に低減された形態によれば、第1ガスケットの密封性能の低下を抑制できる。
【0067】
態様1から態様6の何れかの具体例(態様7)において、前記第2面と前記第2流路部材との間において前記陰極部を包囲する第2ガスケットと、前記第2面と前記第2ガスケットとの間に位置する第2外周部と前記第2ガスケットの内周縁の内側に位置する第2内周部とを含む第2保護膜とをさらに具備する。以上の態様においては、第2ガスケットと陰極部との隙間に局所的な圧力が発生した場合でも、アニオン交換膜の第2面は第2保護膜により保護される。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜の破損(例えばピンホールの形成)を抑制できる。
【0068】
本開示のひとつの態様(態様8)に係る水電解装置は、相互に反対側の第1面と第2面とを含むアニオン交換膜と、前記第1面に対向する第1流路部材と、前記第1面と前記第1流路部材と間の陽極部と、前記第2面に対向する第2流路部材と、前記第2面と前記第2流路部材と間の陰極部と、前記第2面と前記第2流路部材との間において前記陰極部を包囲する第2ガスケットと、前記第2面と前記第2ガスケットとの間に位置する第2外周部と前記第2ガスケットの内周縁の内側に位置する第2内周部とを含む第2保護膜とを具備する。以上の態様においては、第2面と第2ガスケットとの間に位置する第2外周部と前記第2ガスケットの内周縁の内側に位置する第2内周部とを含む第2保護膜が設置される。すなわち、第2ガスケットと陰極部との隙間に局所的な圧力が発生した場合でも、アニオン交換膜の第2面は第2保護膜により保護される。したがって、局所的な圧力に起因したアニオン交換膜の破損(例えばピンホールの形成)を抑制できる。
【符号の説明】
【0069】
100…水電解装置、10…膜電極接合体、11…アニオン交換膜、F1…第1面、F2…第2面、20…陽極部、21…陽極触媒層、22…第1拡散層、30…陰極部、31…陰極触媒層、32…第2拡散層、41…第1流路部材、42…第2流路部材、43…供給管、44…第1排出管、45…第2排出管、51…第1ガスケット、E1…内周縁、52…第2ガスケット、E2…内周縁、61…第1保護膜、611…第1外周部、612…第1内周部、62…第2保護膜、621…第2外周部、622…第2内周部、90…電源装置、G1,G2…隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9