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特開2024-134955汚染土壌の浄化方法、並びにそれに用いる浄化促進剤及びその製造方法
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  • 特開-汚染土壌の浄化方法、並びにそれに用いる浄化促進剤及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134955
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】汚染土壌の浄化方法、並びにそれに用いる浄化促進剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/10 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B09C1/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045424
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 究
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB06
4D004CA04
4D004CC15
4D004DA03
4D004DA06
(57)【要約】
【課題】有機塩素化合物により汚染された土壌浄化のためのさらなる手段を提供すること。
【解決手段】本発明では、有機塩素化合物により汚染された土壌に、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含む浄化促進剤を添加し、バイオレメディエーションによる浄化を行う。その際、その竹抽出物として、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理した後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体を用いることが好ましい。本発明の浄化促進剤を用いてバイオレメディエーションによる浄化を行うと、浄化の速度が著しく向上する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素化合物を含む汚染土壌のバイオレメディエーションによる浄化方法であって、
前記汚染土壌に、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含む浄化促進剤を添加し、前記バイオレメディエーションを実行することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
前記竹抽出物が、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理した後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体であることを特徴とする請求項1記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記蒸煮処理が、竹類の稈部分の破砕物に対して実行される、又は竹類の稈部分を破砕しながら実行されることにより、当該蒸煮処理の結果物が破砕された前記稈部分と水分の混合物である請求項2記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記有機塩素化合物が、トリクロロエチレン又はテトラクロロエチレンである請求項1~3のいずれか1項記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含むことを特徴とする、有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進するための汚染土壌の浄化促進剤。
【請求項6】
前記竹抽出物が、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理し後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体であることを特徴とする請求項5記載の汚染土壌の浄化促進剤。
【請求項7】
有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進するための浄化促進剤の製造方法であって、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理し後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体を汚染土壌の浄化促進剤とすることを特徴とする汚染土壌の浄化促進剤の製造方法。
【請求項8】
前記蒸煮処理が、竹類の稈部分の破砕物に対して実行される、又は竹類の稈部分を破砕しながら実行されることにより、当該蒸煮処理の結果物が破砕された前記稈部分と水分の混合物である請求項7記載の浄化促進剤の製造方法。
【請求項9】
前記有機塩素化合物が、トリクロロエチレン又はテトラクロロエチレンである請求項7又は8記載の汚染土壌の浄化促進材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の浄化方法、並びにそれに用いる浄化促進剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
竹は、荒れ地や農作物に適さない土地であっても生育でき、繁茂しすぎて農作物や果樹への被害も発生するほど生育が早く、また、国内に多量に存在(推定で9300万トン)するが、工業的な利用方法が殆どない。このような背景のもと、バイオマスエネルギー資源として竹を利用することが考えられた時期もあったが、竹はエネルギー変換コストが高く、その変換効率も低い等の欠点を抱えるため実現に至っていないのが現状である。そうした欠点は、竹に含まれる一部のリグニン分解物が糖化やアルコール変換を阻害することや、糖化に用いる濃硫酸が設備コストや処理コストを高くすること等に基づくものである。
【0003】
このような背景のもと、本発明者らは竹類の有効活用の検討を進めてきており、これまでに、竹を破砕して調製した竹チップが重油で汚染された土壌の浄化を促進することを見出している(特許文献1を参照)。これは、竹チップが、油汚染土中の油分解菌を活性化させて油汚染土における油分の分解を促進させるためと考えられる。
【0004】
一方、土壌の汚染に関しては、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンのような有機塩素化合物によるものもよく知られている。トリクロロエチレンは、脱脂力が大きいことから各種工業における洗浄やドライクリーニング用途として用いられてきたが、発がん性を有するなど人体へのリスクが大きいことも知られている。トリクロロエチレンは、土壌への浸透性が大きく、これが土壌へ流出すると土壌汚染や地下水汚染を引き起こすとされ、これを浄化するには、例えば汚染土壌の掘削除去を行う等の作業が必要になり、大変な労力を要することになる。
【0005】
この点に関しても、本発明者は、竹チップがトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンのような有機塩素化合物に汚染された土壌の浄化に有効であることを見出している(特許文献2を参照)。この効果は、有機塩素化合物に汚染された土壌に竹チップを混合することで有機塩素化合物を分解する土壌中の菌の活性が向上し、バイオレメディエーションによる土壌の浄化が促進されてもたらされるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-57946号公報
【特許文献2】特開2023-35693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、有機塩素化合物により汚染された土壌浄化のためのさらなる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物に、有機塩素化合物による汚染土壌の浄化を促進する作用があることを見出した。本発明は、こうした知見によりなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、有機塩素化合物を含む汚染土壌のバイオレメディエーションによる浄化方法であって、上記汚染土壌に、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含む浄化促進剤を添加し、上記バイオレメディエーションを実行することを特徴とする汚染土壌の浄化方法である。
【0010】
(2)また本発明は、上記竹抽出物が、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理した後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体であることを特徴とする(1)項記載の汚染土壌の浄化方法である。
【0011】
(3)また本発明は、上記蒸煮処理が、竹類の稈部分の破砕物に対して実行される、又は竹類の稈部分を破砕しながら実行されることにより、当該蒸煮処理の結果物が、破砕された上記稈部分と水分の混合物である(2)項記載の汚染土壌の浄化方法である。
【0012】
(4)また本発明は、上記有機塩素化合物が、トリクロロエチレン又はテトラクロロエチレンである(1)項~(3)項のいずれか1項記載の汚染土壌の浄化方法である。
【0013】
(5)本発明は、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含むことを特徴とする、有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進するための汚染土壌の浄化促進剤でもある。
【0014】
(6)また本発明は、上記竹抽出物が、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理し後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体であることを特徴とする(5)項記載の汚染土壌の浄化促進剤である。
【0015】
(7)本発明は、有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進するための浄化促進剤の製造方法であって、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理した後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体を汚染土壌の浄化促進剤とすることを特徴とする汚染土壌の浄化促進剤の製造方法でもある。
【0016】
(8)また本発明は、上記蒸煮処理が、竹類の稈部分の破砕物に対して実行される、又は竹類の稈部分を破砕しながら実行されることにより、当該蒸煮処理の結果物が破砕された上記稈部分と水分の混合物である請求項7記載の浄化促進剤の製造方法である。
【0017】
(9)また本発明は、上記有機塩素化合物が、トリクロロエチレン又はテトラクロロエチレンである(7)項又は(8)項記載の汚染土壌の浄化促進剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機塩素化合物により汚染された土壌浄化のためのさらなる手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例におけるTCE、DCE及びVCの時間経過に伴う土壌中濃度の変化を表すプロットである。
図2図2は、比較例におけるTCE、DCE及びVCの時間経過に伴う土壌中濃度の変化を表すプロットである。
図3図3は、参考例におけるTCE、DCE及びVCの時間経過に伴う土壌中濃度の変化を表すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の汚染土壌の浄化方法の一実施態様、本発明の汚染土壌の浄化促進剤の一実施形態、及び本発明の浄化促進剤の製造方法の一実施態様のそれぞれについて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
<汚染土壌の浄化方法>
本発明の汚染土壌の浄化方法は、有機塩素化合物を含む汚染土壌のバイオレメディエーションによる浄化方法であって、上記汚染土壌に、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含む浄化促進剤を添加し、上記バイオレメディエーションを実行することを特徴とする。以下、本発明の浄化方法について説明する。
【0022】
本発明の浄化方法において、浄化対象とされるのは土壌に含まれる有機塩素化合物である。有機塩素化合物は、炭素-塩素結合をもつ化合物であり、より好ましくは、炭化水素の1又は複数の水素原子が塩素原子に置換された塩素化炭化水素が挙げられる。これらの中でも、炭素数2以下の塩素化炭化水素が好ましく挙げられ、炭素数2の塩素化炭化水素がさらに好ましく挙げられる。特に好ましい態様として、本発明における有機塩素化合物として、塩化ビニル、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等を挙げることができる。
【0023】
本発明において汚染土壌の浄化に用いる手法は、バイオレメディエーションと呼ばれるものである。バイオレメディエーションとは、微生物の分解能力を利用して汚染物質を分解し、無害化する方法である。これは、汚染物質が含まれた土壌中の水分、栄養、通気等を制御することにより、該土壌中に生息する微生物の活性を向上させ、汚染物質の分解を促進するというものである。これと類似の技術として、汚染現場の汚染原因となっている化学物質に対して分解能力を有する微生物を汚染現場に移植し、汚染物質を分解し、無害化するバイオオーギュメンテーションという手法もある。両者は、もともと土壌中に存在する微生物を用いるか、又は必要な微生物を土壌中へ移植して用いるかという点で異なり、互いに別の名称で呼ばれているが、本発明では、微生物の作用により汚染土壌を浄化する手法全般をバイオレメディエーションと呼ぶ。
【0024】
本発明において、汚染土壌をどこで浄化するかについては特に限定されない。汚染された場所から土壌を移動させずにその場所で浄化を行ってもよいし、汚染された土壌を掘削等の手段で取り出してからこれを別の場所へ移動させて浄化を行ってもよい。
【0025】
本発明におけるバイオレメディエーションでは、主としてデハロコッコイデス(Dehalococcoides)属細菌(以下、デハロ菌と呼ぶ。)と呼ばれる微生物が浄化に関与する。浄化対象とする土壌においてデハロ菌が乏しい場合には、その土壌へデハロ菌を補充してから浄化を行えばよい。
【0026】
本発明の浄化方法は、上記のように、有機塩素化合物で汚染された土壌をバイオレメディエーションにより浄化するものだが、その際に、処理対象となる土壌中に竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含む浄化促進剤を添加することを特徴とする。この種の浄化促進剤は、土壌中のデハロ菌を活性化させ、土壌中の有機塩素化合物の分解を促進させる。竹抽出物は、竹類の稈部分を主とした破砕物から水で抽出された成分であり、他に竹類の枝、葉、根等の破砕物を含む場合もある。竹の破砕物を調製するに際しては、竹類の稈部分を輪切りにしてからチップ状に破砕し、それをそのまま、又はさらに繊維状となるまで破砕することを好ましく挙げられる。
【0027】
竹の破砕物の原料となる竹類としては、イネ目イネ科タケ亜科に属する木質の稈(かん)を有するものが挙げられる。この点で、木質の稈をもたない笹は、本発明での使用に適さない。竹類は、稈、枝、葉、地下茎、根を持ち、これらのうち稈は、水を通さない硬い節で複数に仕切られて地面から空中に向かって自立して伸びる木質の部分であり、木本でいうところの幹に相当する部分である。なお、竹類は、一般には木本でなく草の仲間と考えられており、そのような観点からは稈を茎として扱うのが正しく、稈が木質であるとすることが適切でない可能性もあるが、稈は木本の幹と同様の硬さを持ち竹の自立を実現する点で木本の幹と共通する部分も多いので、本発明では稈を「木質」であるとして扱う。竹類としては、マダケ、モウソウチク、ハチク、ホテイチク、キッコウチク、ホウライチク、ナリヒラダケ等が挙げられ、これらの中でもマダケ、モウソウチク等が好ましく挙げられる。
【0028】
より好ましい態様として、上記竹抽出液が、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理した後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理(以下、酵素処理とも呼ぶ。)に付して得た液体であることを挙げることができる。このとき用いられる竹類の稈部分は、上記のような破砕物であることが好ましい。また、90℃以上180℃以下で蒸煮処理を行うに際しては、稈部分の破砕物を蒸圧処理する態様や、稈部分の破砕物を熱水処理する態様や、水分の存在下で稈部分を加熱しながら破砕処理(以下、「加熱破砕処理」とも呼ぶ。)する態様等を挙げることができる。これら3つの態様のうち、前二者が竹類の稈部分の破砕物に対して蒸煮処理を行うものとなり、残りの一者が竹類の稈部分を破砕しながら蒸煮処理を行うものとなる。なお、これらは例示であり、水分の存在下で竹類の稈部分を90℃以上180℃以下の温度で処理するものであればどのような方法で蒸煮処理を行ってもよい。以下、例示したそれぞれの態様について説明する。
【0029】
[蒸圧処理]
蒸圧処理は、内部を高圧力にすることのできる容器内で、大気圧における水の沸点である100℃以上、かつ180℃以下の温度で熱処理を行うものである。このような容器としては、オートクレーブが好ましく挙げられる。なお、熱処理の温度としては、120℃~130℃程度がより好ましく挙げられる。また、加える圧力としては0.12~1MPa程度を好ましく挙げられる。熱処理の時間としては、1分以上が好ましく挙げられ、特に上限はないが、一応の上限として30分~60分程度が挙げられる。
【0030】
この処理を行うに際して、竹類の稈部分は、既に述べたように破砕された状態で用いられる。破砕された稈部分は、質量比で3~10倍量の水と混合され、混合物とされる。この混合物が上記のような蒸圧処理に付される。
【0031】
この熱処理を経ることにより、上記混合物に含まれる稈部分は、繊維が解れた状態となる。これにより、後述の酵素処理工程における酵素処理の進行が促進される。蒸圧処理を受けた混合物、すなわち稈部分の破砕物と水との混合物は、酵素処理に付される。
【0032】
[熱水処理]
熱水処理は、開放容器内にて、90℃以上であって水の沸点以下の熱水で竹類の稈部分を熱処理するものである。熱処理の時間としては、1分以上が好ましく挙げられ、特に上限はないが、一応の上限として30分~60分程度が挙げられる。
【0033】
この処理を行うに際して、竹類の稈部分は、既に述べたように破砕された状態で用いられる。破砕された稈部分は、質量比で3~10倍量の水と混合され、混合物とされる。この混合物が上記のような熱水処理に付される。
【0034】
この熱処理を経ることにより、上記混合物に含まれる稈部分は、繊維が解れた状態となる。これにより、後述の酵素処理工程における酵素処理の進行が促進される。熱水処理を受けた混合物は、すなわち稈部分の破砕物と水との混合物は、酵素処理に付される。
【0035】
[加熱破砕処理]
加熱破砕処理は、水分の存在下で、チップ状の稈部分(以下、竹チップとも呼ぶ。)を充填した状態にて外力を加えることで、竹チップ同士を互いに擦り合わせてこれらを破砕させるとともに、このときに生じる摩擦熱にて蒸煮を行うものである。このように、加熱破砕処理は、破砕と蒸煮を目的とするものなので、これら混合物の温度が90℃以上となるのに必要な摩擦熱を生じる程度の強度で外力を加える。
【0036】
加熱破砕処理を行うに際して、竹チップには水が添加される。このときに添加される水の量は任意だが、竹チップ同士が擦れ合う摩擦熱により加熱を行うとの観点からは、多量の水を添加するのは好ましくない。しかしながら、加熱破砕処理を行った後の酵素処理では、稈部分の質量に対して3~10倍質量程度の水が必要になるので、加熱破砕処理を行うに際しては、竹チップを湿らせる程度の水を添加するに留め、加熱破砕処理が完了した状態の竹チップに、稈部分の質量に対して3~10倍質量程度の水を加えて混合物とするのが良い。
【0037】
加熱破砕処理は、竹チップが繊維状に破砕されるまで行うことが好ましい。この破砕物に、上記のように水を加えることで、繊維状の破砕物と水との混合物とされる。この混合物は、酵素処理に付される。
【0038】
[酵素処理]
酵素処理は、上記蒸煮処理を経た稈部分と水との混合物を細胞壁崩壊酵素にて処理するものである。
【0039】
この酵素処理を経ることにより、セルロースやヘミセルロースといった細胞壁を構成する成分が分解され、上記稈部分に含まれる成分が混合物中に溶出する。このとき用いられる酵素が細胞壁崩壊酵素である。
【0040】
細胞壁崩壊酵素は、セルロースやヘミセルロースを分解することのできる酵素であり、各種のものが市販されている。そのような市販品の一例としては、株式会社ヤクルト本社製の「セルラーゼ オノズカ」、盛進製薬株式会社製の「ペクトリアーゼ Y-23」、三光純薬株式会社製の「メイセラーゼ」等を挙げることができる。
【0041】
細胞壁崩壊酵素による処理の具体的な方法としては、上記蒸煮処理を経た混合物に細胞壁崩壊酵素を加え撹拌又は震盪することが挙げられる。この処理における温度等の条件は、用いる細胞壁崩壊酵素の特性に応じて適宜設定すればよいが、一例として40℃~60℃にて数時間反応させることを挙げられる。また、細胞壁崩壊酵素の使用量の一例としては、破砕物の質量に対して0.1質量%程度を挙げることができるが、特に限定されない。
【0042】
細胞壁崩壊酵素による処理を経た混合物は、液体である上清部分と、固体である稈部分の破砕物(あるいは稈部分の残渣)とが含まれる。これらを固液分離して得られた液体が、竹抽出物であり、本発明の浄化方法で用いる浄化促進剤となる。この浄化促進剤を用いて、上記のようにバイオレメディエーションによる土壌の浄化を行う。
【0043】
バイオレメディエーションにおける分解対象として例えばトリクロロエチレンが選択される場合、土壌中に存在するデハロ菌により、トリクロロエチレンから、cis-1,2-ジクロロエチレン及び塩化ビニルを経てエチレンまで分解される。このように、デハロ菌の働きによりトリクロロエチレンから塩素原子が一つずつ取り除かれる過程を経ることになるが、トリクロロエチレンから塩化ビニルまでは主として嫌気性細菌の働きにより分解が進み、塩化ビニル以降については好気性細菌の働きにより分解が進むとされる。そのため、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンで汚染された土壌を浄化するに際しては、前半は嫌気環境で処理を行い、後半は土壌を撹拌するなどして好気的な環境で処理を行うのが良い。
【0044】
土壌中への浄化促進剤(すなわち竹抽出物である上記の液体)の混合量としては、例えば、乾燥質量が1%となる竹抽出物であれば、処理対象となる土壌に対して0.1~10質量%程度混合させることが好ましく挙げられ、0.1~5質量%程度混合させることがより好ましく挙げられ、0.5~3質量%程度混合させることがさらに好ましく挙げられる。
【0045】
<汚染土壌の浄化促進剤>
【0046】
上記汚染土壌の浄化促進剤の製造方法も本発明の一つである。本発明の汚染土壌の浄化促進剤の製造方法は、有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進するための浄化促進材の製造方法であって、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物を含むことを特徴とする。
【0047】
既に説明したように、竹類の稈部分から抽出した竹抽出物は、有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進する作用を有し、浄化促進剤として有用性を備える。そして、その作用は竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理し後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得られる抽出物とすることで一段と高くなる。
【0048】
<汚染土壌の浄化促進剤の製造方法>
上記汚染土壌の浄化促進剤の製造方法も本発明の一つである。本発明の汚染土壌の浄化促進剤は、有機塩素化合物で汚染された土壌のバイオレメディエーションによる浄化を促進するために用いられ、その製造方法は、竹類の稈部分と水との混合物を90℃以上180℃以下で蒸煮処理した後、これらを細胞壁崩壊酵素による処理に付して得た液体を汚染土壌の浄化促進剤とすることを特徴とする。これについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0049】
そして、この蒸煮処理が、竹類の稈部分の破砕物に対して実行される、又は竹類の稈部分を破砕しながら実行されることにより、当該蒸煮処理の結果物が、破砕された稈部分と水分の混合物となることが好ましい。これらの処理を行うことで、稈部分に含まれていた繊維が解れ、細胞壁崩壊酵素による処理をより促進することができるので好ましい。特に後者の処理によれば、水分を含んだ繊維の状態まで解すことができるので特に好ましい。これについても既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。なお、こうした「水分を含んだ繊維の状態」にあるものも、上記の「稈部分と水分の混合物」に該当することは言うまでも無い。
【0050】
この浄化促進材を用いた土壌の浄化において、分解対象となる有機塩素化合物としてはトリクロロエチレン又はテトラクロロエチレンが好ましく挙げられる。これらのことについても既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【実施例0051】
モウソウチクを長径2.0~3.4mm程度に粉砕したチップ96.8gに、蒸留水300mLを加えて121℃、1.2気圧で15分間オートクレーブ処理した。ここに、植物細胞壁崩壊酵素(ヤクルト本社株式会社製、セルラーゼ「オノズカ」)を50mg加え、50℃で2時間振盪した。酵素反応を行った混合物を遠心分離し(3000rpm、10分間)、回収した上清を竹抽出物として用いた。この竹抽出物の乾燥質量は1%だったので、得られた竹抽出物は1質量%の竹由来成分を含むことになる。
【0052】
トリクロロエチレンを3ppm含む土壌(以下、汚染土とも呼ぶ。)を調製し、試験に用いた。汚染土30gに上記で得た竹抽出物(すなわち、本発明の浄化促進剤)を0.3g添加したものを実施例とし、竹抽出物を加えない汚染土そのものを比較例とした。また、上記特許文献2記載の発明にて汚染土壌の浄化促進材とされる減圧下マイクロ波処理竹チップを用意し、汚染土30gにこれを0.3g添加したものを参考例とした。それぞれのサンプルに水100mLを加えた上で嫌気状態としてバイオレメディエーション処理したときの、トリクロロエチレン(TCE)濃度、TCEの分解物であるcis-1,2-ジクロロエチレン(DCE)濃度、及びDCEの分解物である塩化ビニル(VC)のそれぞれの時間経過に伴う濃度変化を追跡した。その結果を図1図3にそれぞれ示す。図1は、実施例におけるTCE、DCE及びVCの時間経過に伴う土壌中濃度の変化を表すプロットであり、図2は、比較例におけるTCE、DCE及びVCの時間経過に伴う土壌中濃度の変化を表すプロットであり、図3は、参考例におけるTCE、DCE及びVCの時間経過に伴う土壌中濃度の変化を表すプロットである。
【0053】
図1(実施例)と図2(比較例)とを対比すると、実施例では15日以内にTCEが消失したのに対して、比較例では25日以上経過して初めてTCEが減少を始める結果となった。また、TCEの分解物であるDCEやVCについては、実施例では45日以内に完全に消失したのに対して、比較例では殆ど分解が進んでいないことがわかる。
【0054】
さらに、図1(実施例)と図3(参考例)とを対比すると、実施例ではTCEの消失が参考例よりも5日程度早く、また、TCEの分解物であるDCEやVCについては、実施例では45日以内に完全に消失したのに対して、参考例では45日経過しても依然として高い濃度で残留していることがわかる。
【0055】
以上の結果から、本発明の浄化促進剤によれば、TCEやDCEやVCといった有機塩素化合物が速やかに分解され、その分解速度は、特許文献2記載の浄化促進材よりも優れていることが理解できる。
図1
図2
図3