(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134978
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/282 20060101AFI20240927BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01S7/282 200
G01S7/02 212
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045450
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】322003857
【氏名又は名称】パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸上 高明
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB08
5J070AB09
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD05
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF03
5J070AH12
5J070AH35
5J070AK22
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】レーダ装置における物標の検知精度を向上する。
【解決手段】レーダ装置は、第1の給電線路に接続される第1の送信アンテナ、及び、第1の給電線路と異なる第2の給電線路に接続される第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、ドップラシフト量に対応する位相回転量が付与された送信信号を、複数の送信アンテナから送信する送信回路と、を具備し、第1の給電線路と第2の給電線路との線路長差による位相偏差は、π/2の奇数倍である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の給電線路に接続される第1の送信アンテナ、及び、前記第1の給電線路と異なる第2の給電線路に接続される第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、
ドップラシフト量に対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、
を具備し、
前記第1の給電線路と前記第2の給電線路との線路長差による位相偏差は、π/2の奇数倍である、
レーダ装置。
【請求項2】
前記線路長差は、前記送信信号の半波長、又は、前記半波長の奇数倍である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記複数の送信アンテナは、更に、第3の給電線路に接続される第3の送信アンテナを含み、
前記第1の給電線路と前記第2の給電線路との線路長差による位相偏差は、さらに、π/4の奇数倍を含み、
前記第1の給電線路と前記第3の給電線路との線路長差による位相偏差は、π/4の奇数倍である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信信号が物標に反射した反射波信号を受信する複数の受信アンテナと、
前記反射波信号から前記多重送信された信号を分離し、前記分離した信号に対して前記位相偏差を補正した後の方向推定結果に基づいて、前記分離した信号のそれぞれが前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナの何れに対応するかを判別する受信回路と、を更に具備する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記複数の受信アンテナは、第1の受信アンテナ及び第2の受信アンテナを含み、
前記第1の受信アンテナ及び前記第2の受信アンテナは、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナが配置される方向に直線上に配置される、
請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナから送信される信号が物標に反射した反射波信号の受信位相が同相となる方向において、前記第1の送信アンテナと前記第2の送信アンテナとの間の指向性利得が所定値以上異なる、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第1の送信アンテナと前記第2の送信アンテナとで主ビーム方向が異なる、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記送信信号の送信に設定される、前記ドップラシフト量の数及び前記ドップラシフト量の間隔の少なくとも一つは、前記送信信号が送信される送信周期毎に可変に設定される、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記複数の送信アンテナのうち、前記ドップラシフト量が割り当てられる送信アンテナの数は、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで異なる、
請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記奇数番目の送信周期と前記偶数番目の送信周期とに、同一の前記ドップラシフト量が少なくとも一つ設定される、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記複数の送信アンテナを用いて前記送信信号が送信され、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記複数の送信アンテナのうち1つの送信アンテナを用いて前記送信信号が送信される、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記ドップラシフト量の各間隔は、ドップラ周波数軸上において等間隔であり、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記ドップラシフト量の各間隔は、ドップラ周波数軸上において不等間隔である、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナのそれぞれに対して前記ドップラシフト量が1つ割り当てられ、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記第1の送信アンテナに対して前記ドップラシフト量が1つ割り当てられ、前記第2の送信アンテナに対して前記ドップラシフト量が複数割り当てられる、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項14】
奇数番目の送信周期及び偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記複数の送信アンテナに対して異なる前記ドップラシフト量が割り当てられ、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記複数の送信アンテナに対して同一の前記ドップラシフト量が割り当てられる、
請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項15】
複数の送信アンテナと、
ドップラシフト量に対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、
を具備し、
前記送信信号の送信に設定される前記ドップラシフト量の数、及び、前記多重送信に設定される前記ドップラシフト量の間隔の少なくとも一つは、前記送信信号が送信される送信周期毎に可変に設定される、
レーダ装置。
【請求項16】
前記ドップラシフト量の間隔は、等間隔である、
請求項15に記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記ドップラシフト量の間隔が等間隔である送信周期と、前記ドップラシフト量の間隔が不等間隔である送信周期とを含む、
請求項15に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分解能が得られるマイクロ波又はミリ波を含む波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置の検討が進められている。レーダ装置として、例えば、受信部に加え、送信部にも複数のアンテナ(アレーアンテナ)を備え、送受信アレーアンテナを用いた信号処理によりビーム走査を行う構成(MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダと呼ぶこともある)が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-119344号公報
【特許文献2】特開2019-052952号公報
【特許文献3】特開2020-204603号公報
【特許文献4】特開2020-148754号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Li, and P. Stoica, "MIMO Radar with Colocated Antennas", Signal Processing Magazine, IEEE Vol. 24, Issue: 5, pp. 106-114, 2007
【非特許文献2】J. Jung, S. Lim, S. -C. Kim and S. Lee, "Solving Doppler-Angle Ambiguity of BPSK-MIMO FMCW Radar System," in IEEE Access, vol. 9, pp. 120347-120357, 2021
【非特許文献3】M. Kronauge, H.Rohling,"Fast two-dimensional CFAR procedure", IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., 2013, 49, (3), pp. 1817-1823
【非特許文献4】Direction-of-arrival estimation using signal subspace modeling Cadzow, J.A.; Aerospace and Electronic Systems, IEEE Transactions on Volume: 28 , Issue: 1 Publication Year: 1992, Page(s): 64-79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーダ装置(例えば、MIMOレーダ)において物標(又はターゲット)を検知する方法について十分に検討されていない。
【0006】
本開示の非限定的な実施例は、物標の検知精度を向上するレーダ装置の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、第1の給電線路に接続される第1の送信アンテナ、及び、前記第1の給電線路と異なる第2の給電線路に接続される第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、ドップラシフト量に対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備し、前記第1の給電線路と前記第2の給電線路との線路長差による位相偏差は、π/2の奇数倍である。
【0008】
なお、これらの包括的または具体的な実施例は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施例によれば、レーダ装置における物標の検知精度を向上できる。
【0010】
本開示の一実施例における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】レーダ装置のアンテナ配置、及び、物標方向の例を示す図
【
図3】チャープ信号を用いた場合の送信信号の一例を示す図
【
図4】ドップラ多重信号の分離及び方向推定の動作例を示すフローチャート
【
図5】給電線路長間の位相差と送信アンテナ間の受信位相差が同位相となる物標方向との関係の例を示す図
【
図6】給電線路長間の位相差と視野角との関係の例を示す図
【
図7】送信アンテナ配置及び受信アンテナ配置の例を示す図
【
図8】給電線路長間の位相差と送信アンテナ間の受信位相差が同位相となる物標方向との関係の例を示す図
【
図9】送信アンテナの指向性パターンの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、MIMOレーダにおける多重送信方法について着目する。
【0013】
複数の送信アンテナから送信信号を同時に多重して送信する方法として、例えば、受信部においてドップラ周波数領域の複数の送信信号を分離できるように信号を送信する方法(以下、「ドップラ多重(DDM:Doppler Division Multiplexing)送信」または「DDM送信」と呼ぶ)がある(例えば、特許文献1を参照)。
【0014】
DDM送信において、送信部では、例えば、送信アンテナ毎に、送信される送信信号に対して異なるドップラシフト量(以下、DS量と呼ぶ)を与える位相回転が付与され、複数の送信アンテナから送信信号が同時に送信される。DDM送信において、複数の受信アンテナを用いて受信した信号(物標からの反射波)は、それぞれドップラ周波数領域においてフィルタリングすることにより、各送信アンテナから送信された送信信号が分離して受信される。
【0015】
DDM送信を用いるMIMOレーダでは、複数の送信アンテナから送信信号を同時に送信することにより、時分割多重送信と比較して、ドップラ周波数検出(例えば、相対速度検出)のためにフーリエ周波数解析を適用する際の受信位相変化を観測する時間間隔を短縮できる。その一方で、DDM送信を用いるMIMOレーダでは、ドップラ周波数軸上でフィルタリングすることにより各送信アンテナの送信信号を分離するため、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数帯域幅が制限される。
【0016】
このように、DDM送信を用いるMIMOレーダでは、各送信アンテナからの送信信号に対応する反射波信号は、それぞれ±1/(2Tr×Nt)のドップラ周波数範囲内に含まれることを想定して受信処理されるため、時分割多重送信を行う場合と同様のドップラ周波数範囲となる。ここで、Ntは送信アンテナ数であり、Trは送信信号の送信周期である。
【0017】
例えば,DDM送信においてドップラ周波数の検出範囲を拡大する方法として、特許文献2には、複数の送信アンテナに割り当てるドップラ間隔を不等間隔とするDDM送信方法が開示されている。これにより、検出可能なドップラ周波数範囲を拡大できる。ここで、特許文献2では、送信アンテナ数よりも多い多値数の多値位相器が用いられる。例えば、2送信アンテナの場合、3値以上の位相器が用いられる。例えば、送信周期毎にチャープ信号に対して、送信アンテナ毎に異なる位相回転(例えば、3値の位相回転量0,π/3,2/3π)の何れかが付与される。この場合、位相器による位相回転の間隔を狭める(例えば、位相多値数を増加させる)ことが求められ、位相器の位相回転の精度を高めるために、位相器の回路構成が複雑化し、レーダ装置のコストが上昇しやすくなる。
【0018】
例えば、非特許文献2には、物標方向に依存した仮想受信アンテナ間の位相変化の連続性を保つように、送信アンテナを判定する方法が開示されている。例えば、直線上に等間隔に配置される仮想アンテナ間の位相差は、物標方向に依存した傾きの直線によってフィッティングされる位相変化となる。このため、非特許文献2に開示された方法では、位相変化の合致性が高くなるように、送信アンテナが判定される。
【0019】
例えば、ドップラ周波数範囲±1/(2Tr)を、Nt個(一例として、Nt=2)に等分割する送信ドップラシフト(以下、「送信ドップラシフト(DS)量」とも呼ぶ)である0[Hz]及び-1/(2Tr)[Hz]を、Nt個の送信アンテナ(Nt=2の場合、Tx#1、Tx#2)に付与する場合について説明する。この場合、レーダ装置は、第m番目の送信周期の送信信号であるチャープ信号に、位相回転Φ1(m)=(m-1)ΔΦ1、Φ2(m)=(m-1)ΔΦ2(ここで、ΔΦ1=0、ΔΦ2=π)をそれぞれ乗算し、Tx#1、Tx#2から送信する。このような場合、或る距離における物標の反射波が検出されると、その距離に相当する距離Binにおけるドップラ周波数(fd)としては、-1/(2Tr)≦fd<-1/(2Tr)の範囲において、2つのドップラ周波数のピークが検出される。ここで、Trは送信周期であり、mは所定値以下の自然数を表す。例えば、想定する物標の反射波のドップラ周波数は、1/(2Tr)≦fd<-1/(2Tr)の範囲にある場合、ドップラ分割範囲±1/(4Tr)を超えるため、複数の送信アンテナ(例えば、Tx#1及びTx#2)が、検出される2つのドップラ周波数ピークの何れに相当するかを何らかの手段で検出することが期待される。
【0020】
非特許文献2に開示される方法は、上述したように、物標方向に依存した仮想受信アンテナ間の位相変化の連続性を保つように、送信アンテナを判定する方法である。例えば、2個の送信アンテナ及び4個の受信アンテナが配置され、等間隔dで直線状に8個の仮想受信アンテナが配置される場合について説明する。ここで、到来角θに対し、各仮想アンテナからの受信信号における受信位相は、仮想受信アンテナ#1(例えば、一方の端の仮想受信アンテナ)を基準として、第nva番目の仮想受信アンテナ#nvaにおける受信位相が(nva-1)×ωで与えられる関係となる。ここで、ω=2πd×sinθ/λである。ここで、λは、レーダ送信波の波長を示す。ここで、nva=1,…,8である。
【0021】
例えば、物標が存在する距離に相当する距離Binにおけるドップラ周波数軸-1/(2Tr)≦fd<-1/(2Tr)の範囲において2つのドップラ周波数ピーク(fd1,fd2)が検出される場合、(fd1,fd2)に対応する送信アンテナは、(Tx#1,Tx#2)及び(Tx#2,Tx#1)の2通りのケースがある。レーダ装置は、例えば、2通りのケースのうち、仮想受信アンテナ間の位相変化が物標方向に依存した傾きで直線的に変化するケースを選択する。
【0022】
このような送信アンテナ判別を用いることにより、DDM送信信号の多重信号分離が可能となり、物標の反射波のドップラ周波数は、1/(2Tr)≦fd<-1/(2Tr)の範囲で検出可能となり、ドップラ検出範囲を拡大できる。また、このような送信アンテナの判定では、DDM送信信号の多重信号の分離と同時に物標の方向推定が行われる。
【0023】
非特許文献2に開示される方法は、既存(例えば、特許文献1)のDDM送信を用いる場合でも適用できる。例えば、非特許文献2に開示される方法は、2個の送信アンテナの場合に2値の位相器を用いるDDM送信に対しても適用できる。例えば、非特許文献2に開示される方法を用いることにより、位相器の多値数を増加させることなく、検出可能なドップラ周波数範囲を拡大できる。また、非特許文献2に開示される方法では、位相器の多値数の増加を抑制できるため、レーダのコスト上昇を抑える効果も有する。
【0024】
ところで、複数の送信アンテナからそれぞれ送信される信号(レーダ送信波)の反射波は、物標方向によっては、行路差がレーダ送信波の波長の整数倍となり得る。例えば、物標方向θが、(2πDt sinθ)/λ=±2nπとなる場合に、複数の送信アンテナからそれぞれ送信される信号に対応する反射波の受信位相は等しくなる。ここで、Dtは送信アンテナ間隔を示し、nは整数値を示し、λはレーダ送信波の波長を示す。
【0025】
このような場合に、非特許文献2に開示される技術を適用すると、複数の送信アンテナから送信される信号に対応する反射波の受信位相が同相関係となり、レーダ装置における送信アンテナ判定が困難になり得る。
【0026】
例えば、
図1に示すように、2個の送信アンテナ(Tx#1及びTx#2)が第1の方向(
図1では横方向)にDt=0.5波長間隔で配置され、3個の受信アンテナ(Rx#1、Rx#2及びRx#3)が第1の方向と一致する方向にそれぞれDr=1波長の間隔で配置される場合について説明する。例えば、
図1において、物標が正面方向θ=0°に存在する場合((2πDt sinθ)/λ=0となる場合)、異なる複数の送信アンテナから送信される信号に対応する反射波の受信位相は等しくなる、又は、同相となるため、レーダ装置は、送信アンテナ判定が困難となる。ここで、
図1に示すようにθ方向は、複数の送信アンテナを配置する方向に対し、垂直方向(ブロードサイド方向)となす角とする。例えば、複数の送信アンテナ配置方向に対して垂直方向をθ=0°とする。
【0027】
本開示の非限定的な実施例では、送信アンテナ判定の精度を向上する方法について説明する。
【0028】
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
【0029】
以下では、レーダ装置において、送信ブランチにおいて、複数の送信アンテナから同時に多重された異なる送信信号を送出し、受信ブランチにおいて、各送信信号を分離して受信処理を行う構成(例えば、MIMOレーダ構成)について説明する。
【0030】
また、以下では、一例として、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式(例えば、チャープパルス送信(fast chirp modulation)とも呼ぶ)の構成について説明する。ただし、変調方式は、周波数変調に限定されない。例えば、本開示の一実施例は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いたレーダ方式についても適用可能である。
【0031】
また、レーダ装置は、例えば、DDM送信を行う。更に、レーダ装置は、例えば、DDM送信においてドップラ多重数分の異なるDS量に対応する位相回転(例えば、位相シフト)を付与した信号(以下、「ドップラ多重(DDM)送信信号」、「DDM送信信号」と呼ぶ)を、複数の送信アンテナを用いて多重送信する。
【0032】
[レーダ装置の構成]
図2のレーダ装置10は、レーダ送信部(送信ブランチ)100と、レーダ受信部(受信ブランチ)200と、を有する。
【0033】
レーダ送信部100は、レーダ信号(レーダ送信信号)を生成し、複数の送信アンテナ(例えば、Nt個)によって構成される送信アンテナ部109(例えば、送信アレーアンテナ)を用いて、レーダ送信信号を規定された送信周期(以下、「レーダ送信周期」と呼ぶ)にて送信する。
【0034】
レーダ受信部200は、物標(ターゲット)により反射したレーダ送信信号である反射波信号を、複数の受信アンテナ202-1~202-Naを含む受信アンテナ部202(例えば、受信アレーアンテナ)を用いて受信する。レーダ受信部200は、各受信アンテナにおいて受信した反射波信号を信号処理し、例えば、物標の有無検出又は反射波信号の到来距離、ドップラ周波数(例えば、相対速度)、及び到来方向の推定を行い、推定結果に関する情報(例えば、測位情報)を出力する。
【0035】
なお、レーダ装置10は、例えば、車両といった移動体に搭載されてよく、レーダ受信部200の測位出力(推定結果に関する情報)は、例えば、衝突安全性を高める先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)又は自動運転システムといった制御装置ECU(Electronic Control Unit)(図示なし)に接続され、車両駆動制御又は警報発呼制御に利用されてもよい。
【0036】
また、レーダ装置10は、例えば、路側の電柱又は信号機といった比較的高所の構造物(図示なし)に取り付けられてよい。また、レーダ装置10は、例えば、通行する車両又は歩行者の安全性を高める支援システム又は不審者の侵入防止システム(図示なし)におけるセンサとして利用されてもよい。また、レーダ受信部200の測位出力は、例えば、安全性を高める支援システム又は不審者侵入防止システムにおける制御装置(図示なし)に接続され、警報発呼制御又は異常検出制御に利用されてもよい。なお、レーダ装置10の用途はこれらに限定されず、他の用途に利用されてもよい。
【0037】
また、物標はレーダ装置10が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石などを含む。
【0038】
[レーダ送信部100の構成]
レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101と、位相回転量設定部105と、位相回転部107と、送信アンテナ部109と、を有する。
【0039】
レーダ送信信号生成部101は、レーダ送信信号を生成する。レーダ送信信号生成部101は、例えば、送信信号生成制御部102、変調信号発生部103及びVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発信器)104を有する。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
【0040】
送信信号生成制御部102は、例えば、レーダ送信周期毎の送信信号発生タイミングを設定し、設定した送信信号発生タイミングに関する情報を、変調信号発生部103及び位相回転量設定部105(例えば、ドップラシフト設定部106)に出力する。ここで、レーダ送信周期(送信周期とも呼ぶ)をTrとする。
【0041】
変調信号発生部103は、送信信号生成制御部102から入力されるTr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、例えば、変調周波数をのこぎり歯形状の変調信号を周期的に発生させる。
【0042】
VCO104は、変調信号発生部103から入力される変調信号に基づいて、例えば、
図3に示すようなレーダ送信信号(レーダ送信波)として、周波数変調信号(以下、例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号と呼ぶ)を位相回転部107、及び、レーダ受信部200(後述するミキサ部204)へ出力する。なお、
図3において、縦軸は変調周波数(送信周波数)を表し、横軸は時間を表す。
【0043】
また、以下では、変調信号発生部103は、例えば、1回のレーダ測位につき、チャープ信号をTr毎にNc回送信するように、変調信号を発生させる。また、VCO104は、例えば、変調信号発生部103の動作に基づいて、チャープ信号をTr毎にNc回出力する。また、Nc回のTrのそれぞれをインデックスmで表す。ここで、m=1,~,Ncである。
【0044】
レーダ装置10は、複数回のレーダ測位を行うことにより、物標位置の時間変動を検出できる。
【0045】
位相回転量設定部105は、送信信号生成制御部102から入力されるTr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、位相回転部107におけるTr毎にレーダ送信信号に付与する位相回転量(例えば、DDM送信に対応する位相回転量)を設定する。位相回転量設定部105は、例えば、ドップラシフト(DS)設定部106を有する。
【0046】
DS設定部106は、例えば、Tr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、レーダ送信信号(例えば、チャープ信号)に対して付与するDS量に対応する位相回転量を設定し、設定した位相回転量に関する情報を位相回転部107に出力する。
【0047】
位相回転部107は、VCO104から入力されるチャープ信号に対して、DS設定部106から入力される位相回転量を付与し、位相回転後の信号を送信アンテナ部109に出力する。例えば、位相回転部107は、位相器及び位相変調器等を含む(図示せず)。位相回転部107の出力信号は、規定された送信電力に増幅され、各送信アンテナに接続される給電線路108を経て、各送信アンテナから空間に放射される。例えば、レーダ送信信号は、DS量に対応する位相回転量が付与されることにより、複数の送信アンテナから多重送信される。
【0048】
ここで、各送信アンテナ(例えば、Tx#1~Tx#Nt)に接続される給電線路108は、すべて等長の線路ではなくてもよい。例えば、少なくとも2つの給電線路108は、異なる線路長の線路でよい。
【0049】
以下では、Tx#1~#Ntに接続される給電線路108-1~108-Ntの給電線路長をL1~LNtと表記する。
【0050】
また、各給電線路108間の給電線路長差で生じるレーダ送信信号の位相差として、例えばTx#trefを基準にした場合のTx#1~#Ntの位相差をγ(1,tref)~γ(Nt,tref)と記載する(ラジアン単位で表記する)。例えば、Tx#1を基準とした場合(tref=1)となり、Tx#1~#Ntの位相差をγ(1,1)~γ(Nt,1)と表記できる。なお、γ(1,1)=0[rad]である。なお、γ(1,tref)~γ(Nt,tref)で表す位相差に、2πの整数倍が加わっても同値と見なせる。
【0051】
なお、レーダ送信信号がチャープ信号のような広い周波数帯域を有する場合、レーダ送信信号の中心周波数における位相差を代表値として用いてもよい。なお、給電線路長の設定についての例は後述する。
【0052】
次に、位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法の一例を説明する。
【0053】
DS設定部106は、DS量DOPndmを付与するための位相回転量φndmを設定する。ここで、ndm=1~NDMである。NDMは、異なるDS量の設定数であり、以下では、「ドップラ多重数(DDM数)」と呼ぶ。
【0054】
レーダ装置10では、DDM数NDMは、多重送信に用いる送信アンテナの数Ntと同数に設定してよい。なお、以下では、一例として、DDM数NDMが多重送信に用いる送信アンテナの数Ntと同数の場合(NDM=Nt)について説明するが、DDM数NDMは、これに限定されない。例えば、DDM数NDMは、Ntより小さい数に設定されてもよい。なお、DDM数NDMは2以上とする。
【0055】
DOP
1、DOP
2,~,DOP
N_DM(「N_DM」は「N
DM」とも表される)としては、例えば、等間隔のDS量が設定されてもよく、或いは、不等間隔のDS量が設定されてもよい。各DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DMは、例えば、0≦DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DM<1/Trを満たすように設定されてよい。あるいは、DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DMは、例えば、式(1)を満たすように設定されてもよい。
【数1】
【0056】
また、例えば、DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DM間において最小のDS間隔Δf
MinIntervalは次式(2)を満たしてよい。なお、DS間隔(又は、DDM間隔、ドップラ間隔とも記載)は、DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DMのうちの任意の2つのDS量の差分の絶対値で定義されてよい。
【数2】
【0057】
また、各DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DMを付与するための位相回転量φ
ndmは、例えば、次式(3)のように割り当てられてよい。
【数3】
【0058】
なお、間隔が等間隔でΔf
MinIntervalとなるDS量が設定される場合(以下、「等間隔DS量設定」と呼ぶ)、DOP
ndmを付与するための位相回転量φ
ndmは、例えば、次式(4)のように割り当てられる。
【数4】
【0059】
なお、最小DS間隔Δf
MinIntervalが狭いほど、DDM信号間の干渉が発生しやすくなり、ターゲット検出精度が低減(例えば、劣化)する可能性が高くなるため、式(2)の制約条件を満たす範囲において、DS量の間隔をより拡げることが好適になる。例えば、式(2)において等号が成り立つ場合(例えば、Δf
MinInterval=1/(T
r N
DM))は、DDM信号間のドップラ領域における間隔を最大限に拡げることができる(以下、「最大等間隔DS量設定」と呼ぶ)。この場合、DOP
1,DOP
2,~,DOP
N_DMは、0以上2π未満の位相回転範囲をN
DM個に等分割して、それぞれ異なる位相回転量が割り当てられる。例えば、DOP
ndmを付与するための位相回転量φ
ndmは、次式(5)のように割り当てられる。なお、以下では、角度はラジアン単位で示している。
【数5】
【0060】
なお、DOP1,DOP2,~,DOPN_DMを付与する位相回転量の割り当ては、このような割り当て方法に限定されない。例えば、位相回転量の割り当てテーブルを用いて、DOP1,DOP2,~,DOPN_DMに対して位相回転量φ1,φ2,~,φN_DM(ただし、「N_DM」はNDMに相当する)をランダム的に割り当ててもよい。
【0061】
また、等間隔DS量設定において、式(4)でΔf
MinInterval=1/(T
r(N
DM+N
int))に設定されることにより、次式(6)のような位相回転量の設定を用いてもよい。ここで、N
intは整数値をとる。なお、この場合、不等間隔のDS量が設定されることになり、送信アンテナ数Ntよりも多い多値数の多値位相器が用いられる。例えば、2送信アンテナ、N
int=1の場合、DOP
ndmを付与するための位相回転量φ
ndmは、3値の位相回転量0,π/3,2/3πのうち、何れか2つが用いられる。不等間隔のDS量設定は、等間隔DS量設定と比較して、位相器による位相回転の間隔を狭める(位相多値数を増加させる)。不等間隔のDS量設定は、位相器の位相回転の精度を高めることが求められ、位相器の回路構成が複雑化しやすい。
【数6】
【0062】
DS設定部106は、第m番目のTrにおいて、第ndm番目のDS量DOP
ndmを付与する位相回転量φ
ndmに対して、次式(7)に示す位相シフト(PS)量ψ
ndm(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、m=1~Nc、ndm=1~N
DMである。
【数7】
【0063】
以上、位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法について説明した。
【0064】
図2において、Nt個の位相回転部107からの出力(例えば、ドップラ多重信号(DDM信号)と呼ぶ)は、規定された送信電力に増幅後に、送信アンテナ部109のNt個の送信アンテナに接続される給電線路108を経て、各送信アンテナからそれぞれ空間に放射される。
【0065】
例えば、Nt=2の場合、位相回転部#1は、レーダ送信信号生成部101において毎に生成されたチャープ信号cp(t)に対して、第m番目の送信周期毎において位相回転量(m-1)×φ1を付与した信号cp(t)exp[j(m-1)×φ1]を出力する。また、位相回転部#1の出力は、Tx#1から出力される。ここでcp(t)は送信周期毎のチャープ信号を表す。同様に、位相回転部#2は、レーダ送信信号生成部101において送信周期毎に生成されたチャープ信号cp(t)に対して、第m番目の送信周期毎において位相回転量(m-1)×φ2を付与した信号cp(t)exp[j(m-1)×φ2]を出力する。位相回転部#2の出力は、Tx#2から出力される。ここで、jは虚数単位である。
【0066】
[レーダ受信部200の構成]
図2において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナRx#1~Rx#Naを含む受信アンテナ部202を備える。また、レーダ受信部200は、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR(Constant False Alarm Rate)部210と、ドップラ多重(DDM)分離/方向推定部211と、を有する。なお、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR部210と、DDM分離/方向推定部211と、をまとめて、受信回路と称してもよい。なお、受信回路は、送信信号が物標(ターゲット)で反射した反射波信号を用いてターゲットの方向推定を行う。
【0067】
受信アンテナ部202のRx#1~Rx#Naは、物標(ターゲット)で反射したレーダ送信信号である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0068】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0069】
Na個のRx#1~Rx#Naにおいて受信された各信号は、それぞれNa個の受信無線部203に出力される。また、Na個の受信無線部203からの出力信号は、それぞれNa個の信号処理部206に出力される。
【0070】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF(low pass filter)205と、を有する。ミキサ部204は、受信した反射波信号と、レーダ送信信号生成部101から入力される、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。受信無線部203は、例えば、ミキサ部204の出力にLPF205を通過させる。これにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力される。例えば、送信信号(レーダ送信波)である送信チャープ信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信信号(レーダ反射波)である受信チャープ信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数として得られる。
【0071】
各アンテナ系統処理部201-z(ただし、z=1~Naの何れか)の信号処理部206は、AD変換部207と、ビート周波数解析部208と、ドップラ解析部209と、を有する。
【0072】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、AD変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0073】
ビート周波数解析部208は、Tr毎に、規定された時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータを周波数解析処理(例えば、FFT処理)する。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。
【0074】
ここで、第m番目のチャープパルス送信によって得られる第z番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答を「RFTz(fb,m)」で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,~,(Ndata/2)-1であり、z=1~Naであり、m=1~NCである。fbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(例えば、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0075】
また、ビート周波数インデックスf
bは、次式(8)を用いて距離情報R(f
b)に変換できる。そのため、以下では、ビート周波数インデックスf
bを「距離インデックスf
b」と呼ぶ。
【数8】
【0076】
ここで、Bwは、チャープ信号におけるレンジゲート内での周波数変調帯域幅を表し、C0は光速度を表す。また、式(8)において、C0/(2Bw)は、距離分解能を表す。
【0077】
ドップラ解析部209には、ビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb,m)がTr毎に入力される。このため、ドップラ解析部209は、Nc回の送信周期毎のデータ(例えば、ビート周波数解析部208から入力されるビート周波数応答RFTz(fb,m))を用いて、fb毎にドップラ解析を行う。
【0078】
例えば、Ncodeが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用できる。この場合、FFTサイズはNcであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(2Tr)である。また、ドップラ周波数インデックス(以下、DF Indexと表記する)fsのドップラ周波数間隔は1/(Nc×Tr)であり、DF Index fsの範囲はfs=-Nc/2,~,0,~,Nc/2-1である。
【0079】
以下では、一例として、Ncが2のべき乗値である場合について説明する。なお、Ncが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズ(FFTサイズ)としてFFT処理が可能である。
【0080】
例えば、第z番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z(f
b,f
s)は、次式(9)に示される。なお、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
【数9】
【0081】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0082】
[CFAR部210の動作例]
図2において、CFAR部210は、第1~第Na番目の信号処理部206それぞれのドップラ解析部209の出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、ピーク信号を与える距離インデックス(以下、f
b_cfと表記する)及びDF Index(以下、f
s_cfと表記する)を抽出する。CFAR部210は、例えば、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z(f
b,f
s)を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う(例えば、非特許文献3に開示された処理が適用されてよい。)。
【0083】
DOPndmを付与するための位相回転量φndmとして、例えば、式(5)を用いる場合、ドップラ解析部209の出力におけるドップラ周波数領域のDS量の間隔は等間隔となり、DF Indexの間隔でDS量の間隔ΔFDを表すと、ΔFD=Nc/NDMとなる。そのため、ドップラ解析部209の出力において、ドップラ周波数領域では、各DDM信号に対して、ΔFDの間隔でピークがそれぞれ検出される。
【0084】
したがって、CFAR部210は、ドップラ解析部209の各出力に対して、ΔFDの範囲で分割し、分割した各範囲に対して、次式(10)に示すように、DDMした各信号ピーク位置を電力加算(例えば、「ドップラ領域圧縮」と呼ぶ)した後に、CFAR処理(例えば、「ドップラ領域圧縮CFAR処理」と呼び、DC-CFARと記載する)を行ってよい。ここで、f
sc=-ΔFD/2,~,(ΔFD/2)-1である。例えば、ΔFD=Nc/N
DMの場合は、f
sc=-Nc/(2N
DM),~,(Nc/(2N
DM))-1である。なお、DC-CFARについては、例えば、特許文献3に記載されており、その詳細説明は省略する。
【数10】
【0085】
なお、式(10)において、DF Index fSC+(ndm-1)×ΔFDがNc/2以上の場合、ドップラ周波数が折り返されて出力されるため、CFAR部210は、(fSC+(ndm-1)×ΔFD)-NcのDF Indexを出力する。同様に、DF Index fSC+(ndm-1)×ΔFDが-Nc/2-1以下となる場合、CFAR部210は、ドップラ周波数が折り返されて出力されるため、(fSC+(ndm-1)×ΔFD)+NcのDF Indexを出力する。
【0086】
DC-CFARを用いたCFAR部210は、例えば、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となるfb_cf、fsc_cf、及び、NDM個のDDM信号のDF Index(fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)における受信電力情報PowerFT(fb_cf,fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)、及び、ドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)を、DDM分離/方向推定部211に出力する。ここで、ndm=1,~,NDMである。
【0087】
[ドップラ多重(DDM)分離/方向推定部211の動作例]
次に、
図2に示すDDM分離/方向推定部211の動作例について説明する。なお、以下では、CFAR部210において、DC-CFARを用いた場合のDDM分離/方向推定部211の処理の一例について説明する。
【0088】
DDM分離/方向推定部211は、NDM(=Nt)個のDDM信号に対するDDM分離処理及び方向推定処理を行う。
【0089】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、CFAR部210から入力されるfb_cf、fsc_cf、及び、NDM個のDDM信号のDF Indexにおける受信電力情報、及び、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力を用いて、Nt個のDDM送信された信号を分離し、方向推定処理とともに送信アンテナの判別(例えば、判定又は識別)を行う。
【0090】
また、DDM分離/方向推定部211は、例えば、送信アンテナの判別結果に基づいて、ドップラ周波数(例えば、ドップラ速度又は相対速度)及び、方向推定処理結果の出力を行う。
【0091】
図4は、DDM分離/方向推定部211における動作例を示すフローチャートである。
【0092】
<Step 1:DDM信号間の受信電力比較(DDM受信電力比較判定)>
DDM分離/方向推定部211は、CFAR部210から入力されるfb_cfにおけるNDM個のDF Index(fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)に対して、NDM個のDDM信号が含まれるか否かを判定する。
【0093】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、DF Index(fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)における受信電力(PowerFT(fb_cf,fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD))を比較し、各DF Index間の受信電力の差異が所定レベル以上異なるか否かを判定する(ここで、ndm=1~NDMの整数)。例えば、DDM分離/方向推定部211は、NDM個のDF Indexにおける受信電力の差分が閾値以下となるか否か、あるいは、NDM個のDF Indexにおける受信レベル比が閾値以下となるか否かを判定する(以下、「DDM受信電力比較判定」と呼ぶ)。
【0094】
DDM受信電力比較判定の判定条件を満たす場合、DDM分離/方向推定部211は、fb_cfにおけるドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)にはNDM個のDDM信号が含まれると判定し、後述するStep 2の処理を行う。
【0095】
その一方で、DDM受信電力比較判定の判定条件を満たさない場合、DDM分離/方向推定部211は、fb_cfにおけるドップラ解析部209の出力にはDDM信号は含まれず、雑音信号あるいは干渉信号と判定し、後述するStep2の処理を行わない。
【0096】
<Step 2:DDM分離処理(送信アンテナ判別)>
DDM分離/方向推定部211は、fb_cfにおけるドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)を用いて、NDM個のDDM信号が、Nt個の送信アンテナの何れの送信アンテナの受信信号であるかを判別(又は、判定、識別)する(以下、「送信アンテナ判別」と呼ぶ)。
【0097】
以下、送信アンテナ判別処理(以降、TxSelとも記載する)の例について説明する。
【0098】
なお、以下では、NDM個のDDM信号が含まれると判定された、fb_cfにおける第z番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fsc_cf+(ndm-1)×ΔFD)を、「VFTz(fb_cf,fddm(ndm))」と表記する。ここで、fddm(ndm)=fsc_cf+(ndm-1)×ΔFDである。
【0099】
TxSelは、fb_cfにおけるドップラ解析部209のNDM(=Nt)個の出力VFTz(fb_cf,fddm(ndm))(ここで、ndm=1~NDM)と、Tx#1,~,#Ntとを対応付ける処理である。
【0100】
ここで、送信時のNDM個のDDM信号のドップラ周波数軸上での順番は変化せず、巡回的に変化する。例えば、TxSelは、ドップラ解析部209のNDM(=Nt)個の出力とNt個の送信アンテナとの対応関係に関するNt通りの候補から、尤もらしい候補の一つを選択する処理である。
【0101】
例えば、NDM=Nt=3の場合、Nt個の送信アンテナ{Tx#1,Tx#2,Tx#3}のそれぞれに対し、fd1<fd2<fd3となるDDM信号が割り当てられる場合について説明する。この場合、ドップラ解析部209の出力の候補は、{VFTz(fb_cf,fddm(1)),VFTz(fb_cf,fddm(2)),VFTz(fb_cf,fddm(3))}、{VFTz(fb_cf,fddm(2)),VFTz(fb_cf,fddm(3)),VFTz(fb_cf,fddm(1))}、及び、{VFTz(fb_cf,fddm(3)),VFTz(fb_cf,fddm(1)),VFTz(fb_cf,fddm(2))}の3候補である。TxSelは、ドップラ解析部209の出力の3候補の中から1つの候補を選択する処理となる。
【0102】
以下では、ドップラ解析部209の出力のNt通りの候補のうち、ndm=1のドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fddm(1))をTx#1に対応する出力とする候補を「第1送信アンテナ候補」と表記する。同様に、ndm=2のドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fddm(2))をTx#1に対応する出力とする候補を「第2送信アンテナ候補」と表記する。以下、ndm=ndtのドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf,fddm(ndt))をTx#1に対応する出力とする候補を、「第ndt送信アンテナ候補」と表記する。ここで、ndt=1~Ntである。
【0103】
また、Tx#1~Tx#Ntに対応させた、第ndt送信アンテナ候補のドップラ解析部209の出力を要素とした、Nt次の列ベクトルを「第ndt送信アンテナ候補ベクトルDopTx(ndt,z)」として表記する。
【0104】
例えば、NDM=Nt=3であり、Nt個の送信アンテナ{Tx#1,Tx#2,Tx#3}のそれぞれに対し、fd1<fd2<fd3となるDDM信号が割り当てられる場合、第1~第3送信アンテナ候補ベクトルDopTx(1,z)、DopTx(2,z)、DopTx(3,z)のそれぞれは、以下のように表記される。ここで、上付き添え字Tはベクトル転置を表す。
DopTx(1,z)={VFTz(fb_cf,fddm(1))VFTz(fb_cf,fddm(2))VFTz(fb_cf,fddm(3))}T
DopTx(2,z)={VFTz(fb_cf,fddm(2))VFTz(fb_cf,fddm(3))VFTz(fb_cf,fddm(1))}T
DopTx(3,z)={VFTz(fb_cf,fddm(3))VFTz(fb_cf,fddm(1))VFTz(fb_cf,fddm(2))}T
【0105】
<Step 2-1:送信アンテナ間偏差補正>
DDM分離/方向推定部211は、DopTx(ndt,z)に対して、送信アンテナ間偏差補正(以下,TxCalと表記する)を行う。
【0106】
TxCalでは、DDM分離/方向推定部211は、例えば、Tx#1~Tx#Nt間の位相偏差を補正する補正係数Ct(ndt)を乗算する処理を行う。補正係数Ct(ndt)は、例えば、既知方向の物標を用いて算出でき、レーダ測距前に事前に求めた値を用いてよい。なお、本実施の形態では、異なる長さを含む給電線路長の給電線路108を用いることにより、所定の送信アンテナ間位相差(又は、位相偏差)が設定される。このため、補正係数Ct(ndt)は、例えば、Tx#1を基準とした位相偏差とした場合(tref=1)、次式(11)のように表記される。ここで、Tx#1に対する補正係数Ct(1)=1となる。
【数11】
【0107】
また、TxCal処理は、次式(12)のように表記される。ここで、diag(Ct)はNt次の対角行列であり、対角行列の要素は、{Ct(1)Ct(2)…Ct(Nt)}である。また、DopTxCal(ndt,z)は、第z番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力に基づく、TxCal後の第ndt番目の送信アンテナ候補ベクトル(以下、「第ndt番目の偏差補正後送信アンテナ候補ベクトル」)を表す。
【数12】
【0108】
例えば、NDM=2の場合、第1送信アンテナ候補ベクトルは、DopTx(1,z)=[VFTz(fb_cf,fddm(1))VFTz(fb_cf,fddm(2))]Tである。この場合、TxCalにより、DDM分離/方向推定部211は、DopTxCal(1,z)=[Ct(1)×VFTz(fb_cf,fddm(1))Ct(2)×VFTz(fb_cf,fddm(2))]Tを出力する。同様に、第2送信アンテナ候補ベクトルは、DopTx(2,z)=[VFTz(fb_cf,fddm(2)),VFTz(fb_cf,fddm(1))}Tである。この場合、TxCalにより、DDM分離/方向推定部211は、DopTxCal(2,z)={Ct(1)×VFTz(fb_cf,fddm(2))Ct(2)×VFTz(fb_cf,fddm(1))}Tを出力する。
【0109】
<Step2-2:送信アンテナ候補毎の方向推定処理>
DDM分離/方向推定部211は、第ndt番目の偏差補正後送信アンテナ候補ベクトルに基づいて、送信アンテナ候補毎に方向推定処理(以下、「第ndt候補DOA処理」と呼ぶ)を行う。
【0110】
第ndt候補DOA処理では、DDM分離/方向推定部211は、例えば、第ndt番目の偏差補正後送信アンテナ候補ベクトルを用いて、方向推定評価関数PH(θu,ndt)における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変して空間プロファイルを算出する。DDM分離/方向推定部211は、算出した空間プロファイルの最大ピーク方向θmax(ndt)、及び、最大ピーク電力値Pmax(ndt)を出力する。
【0111】
なお、方向推定評価関数値PH(θu,ndt)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献4に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0112】
例えば、ビームフォーマ法を用いる場合、方向推定評価関数値P
H(θ
u,ndt)は、次式(13)のように表される。なお、ビームフォーマ法の他にも、Capon、MUSICといった手法も同様に適用可能である。
【数13】
【0113】
式(13)において、AllDopTxcal(ndt)は、仮想受信アンテナの受信ベクトルを表し、次式(14)のように、列ベクトルDopTxCal(ndt,1)からDopTxCal(ndt,Na)の各列ベクトルの要素を、列方向に順番に並べたベクトルであり、要素数Nt×Naからなる列ベクトルを表す。
【数14】
【0114】
また、式(13)において、上付き添え字Hは列ベクトルに対するエルミート転置演算子を示し、上付き添え字Tは列ベクトルに対する転置演算子を示す。また、
【数15】
は、クロネッカー積を表す演算子である。
【0115】
また、式(13)において、a(θ
u)は、レーダ送信信号の方位方向θ
uの到来波に対する受信アンテナ(例えば、受信アレーアンテナ)の方向ベクトルを示す。a(θ
u)は、受信アンテナが等間隔Drで直線状に配置される場合、次式(15)のように、Naの要素を有する列ベクトルで表される。
【数16】
【0116】
式(15)において、λは、中心周波数fcの場合のレーダ送信信号(例えば、チャープ信号)の波長であり、λ=C0/fcである。
【0117】
なお、式(13)において、
【数17】
は、MIMOレーダにおける仮想受信アンテナの方向ベクトルを表し、要素数Nt×Naからなる列ベクトルである。以下では、MIMOレーダにおける仮想受信アンテナの方向ベクトルを、
【数18】
とも表記する。
【0118】
また、式(13)において、b(θ
u)は、レーダ送信信号の方位方向θ
uの到来波に対する送信アンテナ(例えば、送信アレーアンテナ)の方向ベクトルを示す。b(θ
u)は、送信アンテナが等間隔Dtで直線状に配置される場合、次式(16)のように、Ntの要素を有する列ベクトルで表される。
【数19】
【0119】
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内を所定の方位間隔β1で変化させたベクトルである。
【0120】
<Step2-3:送信アンテナ判別処理(TxSel)>
DDM分離/方向推定部211は、第1~Nt送信アンテナ候補毎の方向推定処理によって得られる最大ピーク方向θmax(ndt)、及び、最大ピーク電力値Pmax(ndt)に基づいて、TxSelを行う。ここで、ndt=1~Ntである。
【0121】
ここで、正しい送信アンテナ候補を用いた方向推定処理結果では、θmax(ndt)での仮想受信アレーの方向ベクトルVab(θu)との相関性が最も高くなる。また、TxSelでは、DDM分離/方向推定部211は、第1~Nt送信アンテナ候補毎の方向推定処理によって得られるPmax(ndt)が最も高くなる送信アンテナ候補を、送信アンテナとして判別する。
【0122】
以下では、ndt=1~Ntのうち、Pmax(ndt)が最も高くなる送信アンテナ候補を「送信アンテナ候補nmax」と表記する。また、送信アンテナ候補nmaxを除く他の送信アンテナ候補の中でPmax(ndt)が最も高くなる送信アンテナ候補を「次点送信アンテナ候補n2nd」と表記する。なお、Pmax(ndt)が等しい送信アンテナ候補が複数含まれる場合、それらのうちの一つを送信アンテナ候補nmaxとし、残りの送信アンテナ候補のうち一つを次点送信アンテナ候補n2ndと表記してもよい。
【0123】
また、DDM分離/方向推定部211は、TxSelの尤度(信頼度、確からしさ)を以下のように算出し、算出した尤度が所定の尤度値(閾値)以下の場合、TxSelの結果を棄却し、以降の測位出力を行わない処理を行ってもよい。これにより、レーダ装置10による誤検出又は誤警報の確率を低減する効果が得られる。
【0124】
以下の説明では、一例として、第1尤度及び第2尤度を用いる例について説明する。なお、DDM分離/方向推定部211は、第1尤度及び第2尤度のいずれか、あるいは、第1尤度及び第2尤度の両者を用いてもよい。第1尤度及び第2尤度の両者を用いる場合は、両者のAND条件、OR条件を用いてもよい。
【0125】
DDM分離/方向推定部211は、TxSelにおいて、送信アンテナ候補nmaxを判別した場合、TxSelの第1尤度として、例えば、次式(17)を用いてもよい。
【数20】
【0126】
式(17)では、送信アンテナ候補nmaxにおけるPmax(nmax)と、次点送信アンテナ候補n2ndにおけるPmax(n2nd)とを用いて第1尤度LH1(nmax,n2nd)が算出される。ここで、第1尤度LH1(nmax,n2nd)は、0≦LH1(nmax,n2nd)≦1の範囲で出力される。送信アンテナ候補nmaxにおけるPmax(nmax)が、次点送信アンテナ候補n2ndにおけるPmax(n2nd)よりも大きいほど、尤度LH1(nmax,n2nd)は1に近くなる。また、尤度LH1(nmax,n2nd)が1に近いほど、送信アンテナ判定の尤度(信頼性)が高いとみなすことができる。
【0127】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、第1尤度LH1(nmax,n2nd)と所定値(例えば、0.3~0.5程度)とを比較し、第1尤度LH1(nmax,n2nd)が所定値以下の場合、TxSelの結果を棄却し、以降の測位出力を行わない処理を行ってもよい。これにより、レーダ装置10における誤検出又は誤警報の確率を低減する効果が得られる。例えば、正しい送信アンテナ候補の場合と、誤った送信アンテナ候補の場合とで、両者に対応する信号が同位相又はほぼ同程度の位相で受信される場合、送信アンテナ候補nmaxにおけるPmax(nmax)と、次点送信アンテナ候補n2ndにおけるPmax(n2nd)は、同程度の値として算出される。このため、第1尤度LH1(nmax,n2nd)は、0又は0に近い値となるため、TxSelの尤度(信頼性)として、低い値が出力される。DDM分離/方向推定部211は、第1尤度LH1(nmax,n2nd)が所定値以下の場合、TxSelの結果を棄却し、以降の測位出力を行わないことにより、レーダ装置10における誤検出又は誤警報の確率を低減する効果が得られる。
【0128】
また、DDM分離/方向推定部211は、TxSelにおいて、送信アンテナ候補nmaxを判別した場合、TxSelの第2尤度LH2(nmax)として、例えば、次式(18)を用いてもよい。
【数21】
【0129】
例えば、式(13)を用いてPmax(ndt)が算出される場合、第2尤度LH2(nmax)は、0≦LH2(nmax)≦1の範囲で出力される。例えば、θmax(ndt)での仮想受信アレーの方向ベクトルVab(θu)との相関が高いほど、式(18)に示す第2尤度LH2(nmax)は1に近くなる。また、第2尤度LH2(nmax)が1に近いほど、送信アンテナ判定の尤度(信頼性)が高いとみなすことができる。
【0130】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、第2尤度LH(nmax)と所定値(例えば、0.6~0.9程度)とを比較し、第2尤度LH(nmax)が所定値以下の場合(所定の尤度値以下となる場合)、TxSelの結果を棄却し、以降の測位出力を行わない処理を行ってもよい。これにより、レーダ装置10における誤検出又は誤警報の確率を低減する効果が得られる。
【0131】
例えば、同じ距離ビンにおいて、複数の異なる方向に物標が存在する場合、複数の物標からの受信信号成分が混在する。例えば、複数物標からの受信信号成分が共に等しい受信レベルである場合、DDM分離/方向推定部211においてTxSelを正しく行えない確率が高くなる。このような場合、第2尤度LH2(nmax,n2nd)は、0.5程度以下の値となりやすく、TxSelの尤度(信頼性)は比較的低い値が出力される。また、例えば、物標からの受信信号に雑音成分が多く含まれるほど、TxSelを正しく行えない確率が高くなる。このような場合、第2尤度LH2(nmax,n2nd)は、0.5程度以下の値となりやすく、TxSelの尤度(信頼性)は比較的低い値が出力される。また、DDM分離/方向推定部211は、第2尤度LH(nmax)が所定値以下の場合、TxSelの結果を棄却し、以降の測位出力を行わないことにより、レーダ装置10の誤検出又は誤警報の確率を低減する効果が得られる。
【0132】
また、DDM分離/方向推定部211は、距離インデックス情報fb_cf及び第nmax送信アンテナ候補毎の方向推定処理によって得られるθmax(nmax)、及び、Pmax(nmax)を、測位結果として出力してよい。
【0133】
また、DDM分離/方向推定部211は、TxSelにおいて、送信アンテナとして判定した第nmax番目の送信アンテナ候補ベクトルDopTx(nmax,z)によって示される各Tx#1~Tx#Ntに対応するドップラ解析部209の出力を示すDF Indexと、レーダ送信部100におけるDS設定部106において設定された各Tx#1~Tx#Ntに対するDS量との差分に基づいて、物標のドップラ周波数を±1/(2Tr)の範囲で検出し、測位結果として出力してもよい。
【0134】
また、DDM分離/方向推定部211は、距離インデックス情報fb_cf(あるいは例えば、式(8)を用いた距離情報)を測位結果として出力してもよい。
【0135】
図4において、DDM分離/方向推定部211は、以上のStep 1~Step 2の動作を、CFAR部210において抽出された複数(例えば、全て)の物標の各々のf
b_cf及びDF Index(f
sc_cf+(ndm-1)×ΔFD)を用いて同様な動作を行う。
【0136】
以上、DDM分離処理(送信アンテナ判別)について説明した。
【0137】
このように、本実施の形態では、DDM分離/方向推定部211は、反射波信号から、多重送信された信号(DDM信号)を分離し、分離した信号に対して送信アンテナ間位相偏差を補正した後の方向推定結果に基づいて、分離した信号のそれぞれが送信アンテナの何れに対応するかを判別する。これにより、レーダ装置10は、正しい送信アンテナ候補と、誤った送信アンテナ候補とを正確に区別できるので、アンテナ判別の精度を向上できる。
【0138】
[給電線路108の設定例]
本実施の形態に係るレーダ装置10は、以下の何れかの給電線路108に関する条件(例えば、「給電線路条件」と呼ぶ)を満たす線路長の給電線路108、及び、送受信アンテナの配置に関する条件(例えば、「送受信アンテナ配置条件」)を適用してよい。これにより、レーダ装置10は、送信アンテナ判定の誤り、及び、物標のドップラ周波数検出の誤りを低減できる。また、送信アンテナ判定の誤り及び物標のドップラ周波数検出の誤りの低減により、レーダ装置10における検出性能を向上できる。
【0139】
以下、給電線路条件、及び、給電線路条件を満たすことにより得られる効果の例について説明する。
【0140】
<給電線路条件(1):送信アンテナが2個の場合>
レーダ装置10は、送信アンテナ部109内の2個の送信アンテナそれぞれに接続される給電線路108間の線路長差(例えば、給電線路差又は給電線路長差とも呼ぶ)がレーダ送信信号の半波長、又は、半波長の奇数倍(1.5波長、2.5波長など)となるような給電線路長の給電線路108を用いて給電する。例えば、2個の送信アンテナそれぞれに接続される給電線路108間の線路長差による位相偏差は、π/2の奇数倍となる。
【0141】
これにより、レーダ装置10では、送信アンテナ間の位相偏差がπ/2又は、π/2の奇数倍となる、異なる給電線路長の給電線路108を用いて給電される。
【0142】
<給電線路条件(2):配置方向が同一となる送信アンテナが少なくとも3個含まれる場合>
レーダ装置10は、送信アンテナ部109内の少なくとも3個の送信アンテナのうち、2個の送信アンテナから送信される信号の受信位相が同相となる物標方向に対して、2個の送信アンテナの何れかと残りの1個の送信アンテナとの間では受信位相が同相とならないような給電線路長の給電線路108を用いて給電する。
【0143】
なお、上述した送信アンテナ間の位相偏差の設定は±π/10程度の誤差が含まれてもよく、この場合でも、同様に比較的高い効果を達成しうるものである。
【0144】
レーダ装置10は、例えば、送信アンテナ間隔、及び、Tx#1~#Ntにそれぞれ接続される給電線路108の給電線路長L1~LNtをパラメータとして、レーダ視野角内において行路差が波長の整数倍となり、同相関係とならないようにパラメータを設定する。
【0145】
例えば、給電線路を等長配線とすることにより、送信アンテナ間の位相偏差を可能な限り小さくし、送信アンテナ間の位相偏差補正を不要あるいは微調整程度とする方法があるのに対して、本実施の形態では、給電線路108の線路長を送信アンテナ間で異ならせる。
【0146】
または、送信アンテナ間にて特定の位相差をつけた給電を行うことにより、特定の偏波の電波を送信する方法があるが、この場合、レーダ装置は、複数の送信アンテナから同一の送信信号を出力する。これに対して、本実施の形態では、レーダ装置10は、異なるドップラ周波数によってDDM送信するため、同一の送信信号を用いて送信しない。
【0147】
以下、給電線路条件(1)(送信アンテナが2個の場合)の例について説明する。
【0148】
[給電線路条件(1)の例]
例えば、第nt番目のTx#ntから送信され、方向θの物標による反射波を、Rx#1から#Naのうち、例えば、第na番目のRx#naによって受信した受信信号R
na,nt(θ)は、次式(19)のように表される。ここで、A
na,nt(θ)は実数の振幅応答を表し、ξ(nt)は、第nt番目のTx#ntに接続される給電線路108において生じるレーダ送信信号の位相回転量を表す。また、ρ
na,nt(θ)は、方向θの物標からの反射波の行路差に起因する受信位相を表す。ρ
na,nt(θ)には、給電線路差に起因する位相差は含まれない。
【数22】
【0149】
ここで、正しい送信アンテナ候補の場合、TxCal(例えば、
図4のStep 2-1)によって、送信アンテナ間の位相偏差を補正する補正係数Ct(ndt)を受信信号R
na,nt(θ)に乗算することにより、次式(20)のように給電線路長に起因する位相偏差は正しく補正される。なお、位相差γ(nt,1)=ξ(nt)-ξ(1)より、式(20)には、e
jξ(1)が送信アンテナに依らず共通項として残るが、レーダ装置10は、位相差を用いて方向推定処理するため、方向推定結果には影響せず、物標方向に依存した位相差ρ
na,nt(θ)に基づいて物標方向を正しく検出できる。
【数23】
【0150】
例えば、レーダ装置10は、第na番目の受信アンテナにおいて受信した、Tx#1からの信号に対応する受信信号に対する、Tx#2からの信号に対応する受信信号の位相差に基づいて、次式(21)のように、物標方向θを算出してよい。
【数24】
【0151】
ここで、D
tはTx#1とTx#2との送信アンテナ間隔を表す。また、
【数25】
は、複素数Xに対するラジアン単位の位相を出力する演算子を表す。例えば、複素数Xが、X=A×exp(j×θ)と表される場合(j:虚数単位、A:実数、θ:位相[rad])、
【数26】
である。
【0152】
その一方で、誤った送信アンテナ候補の場合、TxCal(例えば、
図4のStep2-1)によって給電線路長に起因する位相偏差は正しく補正されない。例えば、第na番目の受信アンテナにおいて受信した、Tx#1からの信号に対応する受信信号を、Tx#2の受信信号と誤って判別し(又は、見なし)、Tx#2からの信号に対応する受信信号を、Tx#1からの受信信号と誤って判別する場合、次式(22)及び式(23)のように、TxCal(例えば、
図4のStep2-1)により、給電線路長に起因する位相偏差は正しく補正されない。
【数27】
【数28】
【0153】
この場合、TxCal(例えば、
図4のStep 2-1)後の受信信号間の位相差は、次式(24)で表される。
【数29】
【0154】
なお、正しい送信アンテナ候補の場合と、誤った送信アンテナ候補の場合とで、両者が同位相の場合には、送信アンテナ判別が困難となる。例えば、次式(25)の関係を満たす場合、物標方向θ
cにおいて、正しい送信アンテナ候補の場合と、誤った送信アンテナ候補の場合とで同位相となり、送信アンテナ判別が困難となる。
【数30】
【0155】
ここで、m
aは、次式(26)を満たす整数値である。
【数31】
【0156】
図5は、上述した式に基づいて、Nt=2個、Tx#1の給電線路108に対するTx#2の給電線路108の給電線路長間の位相差(ξ
2-ξ
1)を横軸とし、Tx#1及びTx#2からの信号の受信位相が同位相となる物標方向θ
cを縦軸としてブロットした図である。
図5の(a)は、Dt=λ/2の場合の例を示し、
図5の(b)は、Dt=3λ/4の場合の例を示し、
図5の(c)は、Dt=λの場合の例を示す。なお、
図5の横軸に、2πの整数倍が加わっても同様な関係となる。
【0157】
図5に示すように、送信アンテナ間隔は、Dt=λ/2程度に狭い方が、Tx#1及びTx#2に対応する受信位相が同位相となる物標方向θ
cを含まない視野角範囲を拡げることができることが分かる。
【0158】
例えば、
図5の(a)に示すDt=λ/2の場合、ξ
2-ξ
1=0又はπでは、ρ
2(θ
c)-ρ
1(θ
c)=0,πとなる関係であり、例えば、物標の到来角がθ
c=0,±π/2[rad](=0,±90[°])で同位相となる。
【0159】
また、例えば、
図5の(a)に示すDt=λ/2の場合、ξ
2-ξ
1=π/2(横軸:0.5)では、ρ
2(θ
c)-ρ
1(θ
c)=±π/2となる関係であり、例えば、物標の到来角がθ
c=±π/6[rad](=±30[°])で同位相となる。よって、例えば、
図5の(a)に示すDt=λ/2の場合、レーダ視野角θ
FOVが-π/6<θ
FOV<π/6の場合、レーダ視野角内では、Tx#1及びTx#2に対応する受信位相は同相関係とならず、レーダ装置10は、送信アンテナ判別が可能となる。
【0160】
図6は、Nt=2個、Tx#1に接続される給電線路108と、Tx#2に接続される給電線路108との給電線路長差による位相差(ξ
2-ξ
1)を横軸とし、Tx#1及びTx#2からの信号の受信位相が同位相となる物標方向θ
cを含まずに、物標方向θ=0°を中心として正負の角度領域を共に最大限確保可能な視野角を縦軸としてプロットした図である。なお、
図6の横軸に、2πの整数倍が加わっても同様な関係となる。
【0161】
図6では、一例として、Dt=λ/2、Dt=3λ/4、及び、Dt=λの場合のプロットを示す。
図6に示すように、Tx#1及びTx#2のそれぞれに接続される給電線路108間の位相差がπ/2の場合、物標方向θ=0°を中心として正負の角度領域が共に最大限確保可能な視野角が最大となる。なお、給電線路108間の位相差は0.4~0.6π程度であっても比較的広い視野角が確保できる。
【0162】
また、
図6に示すように、Tx#1及びTx#2のそれぞれに接続される給電線路108間の位相差がπ/2の場合、Dt=λ/2の場合に確保可能な視野角は±30°範囲であり、Dt=3λ/4の場合に確保可能な視野角は±19.5°範囲であり、Dt=λの場合に確保可能な視野角は±14.5°範囲である。このように、は、Dt=λ/2程度に狭い方が、Tx#1及びTx#2からの信号の受信位相が同位相となる物標方向θ
cを含まない視野角範囲を拡げることができる。
【0163】
以上、給電線路条件(1)の例について説明した。
【0164】
[受信アンテナの配置条件]
本実施の形態において、Na個の受信アンテナのうち、少なくとも2個の受信アンテナは、送信アンテナが配置される方向(以下、送信アンテナ配置方向と呼ぶ)に直線上に配置される。
【0165】
例えば、
図7の(a)に示すように、Nt=2個の送信アンテナに対して、Na=3個の受信アンテナは、送信アンテナ配置方向(
図7では横方向)に、例えば、間隔Dr=2Dtで配置されてよい。
図7の(a)に示す配置により、送信アンテナ配置方向において、送信アンテナの配置位置に加え、送信アンテナの位置と異なる位置に仮想受信アンテナが配置される。よって、レーダ装置10は、複数の送信アンテナに対する受信位相を、送信アンテナ配置方向において異なる位置の複数の受信アンテナを用いて検出でき、送信アンテナ候補毎の方向推定処理(
図4のStep2-2)を用いたTxSelが可能となる。
【0166】
なお、本実施の形態において、少なくとも2個の受信アンテナは、送信アンテナ配置方向に対して斜め方向に配置されてもよい。例えば、
図7の(b)に示すように、2個の送信アンテナに対して、3個の受信アンテナは、送信アンテナ配置方向(
図7では横方向)に対して90°(例えば、送信アンテナ配置方向に対して直交する方向)よりも小さい角度の斜め方向に配置され、送信アンテナ配置方向に間隔Dr=2Dtで配置されてもよい。
図7の(b)に示す配置により、送信アンテナ配置方向において、送信アンテナの配置位置に加え、送信アンテナの位置と異なる位置に仮想受信アンテナが配置される。よって、レーダ装置10は、複数の送信アンテナに対する受信位相を、送信アンテナ配置方向において異なる位置の複数の受信アンテナを用いて検出でき、送信アンテナ候補毎の方向推定処理(
図4のStep2-2)を用いた送信アンテナ判別処理(TxSel)が可能となる。
【0167】
また、本実施の形態では、
図7の(c)に示すように、全ての受信アンテナが、送信アンテナ配置方向(
図7では横方向)に対して直交する方向(
図7では縦方向)に配置されると、仮想受信アンテナ配置では、送信アンテナ配置方向には送信アンテナと同数の仮想受信アンテナが配置され、レーダ装置10は、物標方向が正しいか検出することが困難となり得る。例えば、受信アンテナは、
図7の(a)又は
図7の(b)のように、送信アンテナ配置方向と直交する方向と異なる配置方向に配置されてよい。受信アンテナは、送信アンテナ配置方向(例えば、
図7の(a)の例)、又は、送信アンテナ配置に対して直交する方向と異なる斜め方向(例えば、
図7の(b)の例)に配置されてよい。これにより、上述した本実施の形態の効果を得ることができる。
【0168】
次に、給電線路条件(2)(送信アンテナが3個以上の場合)の例について説明する。
【0169】
[給電線路条件(2)の例]
例えば、複数のTx#1~#Ntのうち、或る送信アンテナ2個から送信された信号に対応する受信信号が同相となる物標方向において、当該2個の送信アンテナの何れかから送信された信号に対応する受信信号と残りの送信アンテナから送信された信号に対応する受信信号とが同相とならないような、給電線路長を用いる。
【0170】
例えば、Nt=3の場合(Tx#1、Tx#2及びTx#3)について説明する。
【0171】
Tx#1及びTx#2の素子間隔Dt
(2,1)に対して同相となる物標方向θ
c2,1は、式(25)より、次式(27)で表される。
【数32】
【0172】
同様に、Tx#1及びTx#3の素子間隔Dt
(3,1)に対して同相となる物標方向θ
c3,1は、式(25)より、次式(28)で表される。
【数33】
【0173】
式(27)のsinθc2,1と式(28)のsinθc2,1とが一致しないように、位相差γ(2,1)=(ξ2-ξ1)、γ(3,1)=(ξ3-ξ1)が設定されてよい。これにより、複数のTx#1~#3のうち、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向において、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号は同相とならない、給電線路長が設定可能となる。
【0174】
なお、受信信号レベルが低い場合(例えば、受信SNR(Signal to Noise Ratio)が低い場合)、ノイズなどの影響を受けやすくなるため、sinθc2,1とsinθc3,1とは、可能な限り異なる値に設定されることが好適である。これにより、送信アンテナ判定が誤る確率を低減できる。
【0175】
<例1>
例えば、Nt=3(例えば、Tx#1、Tx#2及びTx#3)の場合、Tx#1とTx#2の素子間隔Dt
(2,1)=λ/2に対して同相となる物標方向θ
c2,1は、式(25)より、次式(29)で表される。
【数34】
【0176】
また、例えば、Tx#1とTx#3の素子間隔Dt
(3,1)=λに対して同相となる物標方向θ
c3,1は、式(25)より、次式(30)で表される。
【数35】
【0177】
例えば、Tx#1及びTx#2の給電線路108の給電線路長は、γ(2,1)=π/2の位相差を有する給電線路長とし、Tx#1及びTx#3の給電線路108の給電線路長は、γ(3,1)=π/2の位相差を有する給電線路長とする。この場合、式(29)及び式(30)は、以下の式(31)及び式(32)で表される。
【数36】
【数37】
【0178】
このようにして設定される給電線路108の給電線路長は、例えば、Tx#1~#3のうち、Tx#1及びTx#2の2個の送信アンテナから送信される信号の受信信号が同相となる物標方向(例えば、θc2,1)に対して、Tx#1及び残りのTx#3から送信される信号の受信信号は、当該物標方向(例えば、θc2,1)では同相とならない給電線路長となる。
【0179】
また、例えば、物標方向θ
c2,1及びθ
c3,1は、最大限離れる関係である。例えば、
図8の(a)に示すように、γ(2,1)=γ(3,1)=π/2において、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となるsinθ
c2,1と、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号が同相となるsinθ
c3,1とは、±1/4の差分がある。また、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号が同相となるsinθ
c3,1は、式(28)より1/2間隔であり、sinθ
c2,1は、上記同相となるsinθ
c3,1の中間値になる。このように、物標方向θ
c2,1及びθ
c3,1は、最大限離れた関係となる。なお、
図8の横軸に、2πの整数倍が加わっても同様な関係となる。なお、γ(2,1)=γ(3,1)=π/2±π/10程度であっても同程度の性能が確保できる。
【0180】
上記についてまとめると、以下の関係となる。
【0181】
例えば、少なくとも3個の送信アンテナ(Tx#1~Tx#3を含む)が同一直線上に配置され、Tx#1とTx#2との間隔Dt(2,1)であり、Tx#1とTx#3との間隔が、Dt(2,1)の整数倍(at×Dt(2,1))であり、at=2となる関係の送信アンテナ間隔が含まれる場合について説明する。この場合、Tx#1及びTx#2の給電線路108の給電線路長は、γ(2,1)=π/2となる位相差を有する給電線路長でよい。また、Tx#1及びTx#3の給電線路108の給電線路長は、γ(3,1)=π/2となる位相差を有する給電線路長でよい。
【0182】
なお、at=2に限らず、at=4,6,8と偶数倍の関係でも同様の関係が成り立つ。
【0183】
この場合、上述した関係は、次式(33)及び式(34)によって表される。
【数38】
【数39】
【0184】
これにより、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向θc2,1に対して、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号は、当該物標方向θc2,1では同相とならず、レーダ装置10では、送信アンテナ判定が可能となる。
【0185】
また、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向θc2,1と、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向θc3,1とは、最大限離れる関係となる。これにより、例えば、受信信号レベルが低い場合(例えば、受信SNRが低い場合)でも、ノイズなどの影響を受けにくく、送信アンテナ判定を誤る確率を低減できる。
【0186】
以上より、送信アンテナ数3以上の場合に、各送信アンテナに接続される給電線路108の給電線路長を上記のような値に設定することで、各送信アンテナから送信される信号の受信信号は、±90°範囲の物標方向で同相とならない。これにより、レーダ装置10は、送信アンテナ判別を、広角な視野角範囲で可能となる。
【0187】
<例2>
例えば、Nt=3(例えば、Tx#1、Tx#2及びTx#3)の場合、Tx#1及びTx#2の素子間隔Dt
(2,1)=λ/2に対して同相となる物標方向θ
c2,1は、式(25)より、次式(35)で表される。
【数40】
【0188】
また、例えば、Tx#1及びTx#3の素子間隔Dt
(3,1)=3λ/2に対して同相となる物標方向θ
c3,1は、式(25)より次式(36)で表される。
【数41】
【0189】
例えば、Tx#1及びTx#2の給電線路108は、γ(2,1)=π/4(又は3/4π)の位相差を有する給電線路長とし、Tx#1及びTx#3の給電線路108の給電線路長は、γ(3,1)=π/4(又は3/4π)の位相差を有する給電線路長とする。この場合、式(35)及び式(36)は、以下の式(37)及び式(38)で表される。
【数42】
【数43】
【0190】
このようにして設定される給電線路108の給電線路長は、例えば、複数のTx#1~#3のうち、Tx#1及びTx#2の2個の送信アンテナから送信される信号の受信信号が同相となる物標方向(例えば、θc2,1)に対して、Tx#1及び残りのTx#3から送信される信号の受信信号は、当該物標方向(例えば、θc2,1)では同相とならない給電線路長となる。
【0191】
また、例えば、物標方向θ
c2,1及びθ
c3,1は、最大限離れる関係である。例えば、
図8の(b)に示すように、γ(2,1)=γ(3,1)=π/4又は3/4πにおいて、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となるsinθ
c2,1と、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号が同相となるsinθ
c3,1とは、±1/6の差分がある。また、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号が同相となるsinθ
c3,1は、式(28)より1/3間隔であり、sinθ
c2,1は、上記同相となるsinθ
c3,1の中間値になる。このように、物標方向θ
c2,1及びθ
c3,1は、最大限離れた関係となる。なお、
図8の横軸に、2πの整数倍が加わっても同様な関係となる。なお、γ(2,1)=γ(3,1)=π/4(又は3/4π)±π/10程度であっても同程度の性能が確保できる。
【0192】
上記についてまとめると、以下の関係となる。
【0193】
例えば、少なくとも3個の送信アンテナ(例えば、Tx#1~Tx#3を含む)が同一直線上に配置され、Tx#1とTx#2との間隔Dt(2,1)であり、Tx#1とTx#3との間隔が、Dt(2,1)の整数倍(at×Dt(2,1))であり、at=3となる関係の送信アンテナ間隔が含まれる場合について説明する。この場合、Tx#1及びTx#2の給電線路108の給電線路長は、γ(2,1)=π/4(又は3/4π)となる位相差を有する給電線路長でよい。また、Tx#1及びTx#3の給電線路108の給電線路長は、γ(3,1)=π/4(又は3/4π)となる位相差を有する給電線路長でよい。
【0194】
この場合、上述した関係は、次式(39)及び式(40)によって表される。
【数44】
【数45】
【0195】
これにより、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向θc2,1に対して、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号は、当該物標方向θc2,1では同相とならず、レーダ装置10では、送信アンテナ判定が可能となる。
【0196】
また、Tx#1及びTx#2から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向θc2,1と、Tx#1及びTx#3から送信される信号の受信信号が同相となる物標方向θc3,1とは、最大限離れる関係となる。これにより、例えば、受信信号レベルが低い場合(例えば、受信SNRが低い場合)でも、ノイズなどの影響を受けにくく、送信アンテナ判定を誤る確率を低減できる。
【0197】
以上より、送信アンテナ数3以上の場合に、各送信アンテナに接続される給電線路108の給電線路長を上記のような値に設定することで、各送信アンテナから送信される信号の受信信号は、±90°範囲の物標方向で同相とならない。これにより、レーダ装置10は、送信アンテナ判別を、広角な視野角範囲で可能となる。
【0198】
以上、給電線路108の設定例について説明した。
【0199】
以上のように本実施の形態では、レーダ装置10では、少なくとも2個の送信アンテナ(例えば、第1の送信アンテナ及び第2の送信アンテナ)のそれぞれに接続される給電線路108間の線路長差による位相偏差がπ/2の奇数倍となるように、給電線路108の線路長が設定される。あるいは、レーダ装置10では、少なくとも3個の送信アンテナ(例えば、第1から第3の送信アンテナ)のそれぞれに接続される給電線路108間の線路長差による位相偏差がπ/4の奇数倍となるように、給電線路108の線路長が設定される。このように、各送信アンテナに接続される給電線路108の給電線路長を異ならせることにより、送信アンテナ間に位相差が生じるため、物標方向θが、(2πDt sinθ)/λ=±2nπとなる場合でも、複数の送信アンテナからそれぞれ送信される信号に対応する反射波の受信位相を異ならせることができる。これにより、レーダ装置10は、DDM分離/方向推定部211において送信アンテナ判別が可能となる。ここで、Dtは送信アンテナ間隔を示し、nは整数値を示し、λは、レーダ送信波の波長を示す。
【0200】
よって、本実施の形態によれば、DDM送信を用いたMIMOレーダの検出性能を向上できる。
【0201】
また、本実施の形態では、送信アンテナに接続される給電線路108の給電線路長の設定により、送信アンテナ間の位相偏差を調整するので、レーダ装置10では、位相偏差の調整のために他のパラメータ(例えば、DDM送信に関するパラメータ)の設定を変更しなくてもよい。
【0202】
なお、本実施の形態では、2個の送信アンテナそれぞれに接続される給電線路108間の線路長差による位相偏差がπ/2の奇数倍となるように、給電線路108の線路長が設定されるが、例えば、線路長差が長いほど、給電損失が大きくなり得るため、給電線路108間の線路長差による位相偏差は、π/2に設定されることが好適である。
【0203】
また、本実施の形態では、少なくとも2つの送信アンテナへの給電線路108として、異なる長さの給電線路を用いて、送信アンテナ間で異なる位相偏差が生じるように設定した。しかし、送信アンテナ間の位相偏差を異ならせる方法はこれに限定されず、例えば、位相回転部107において、位相回転部107内の経路長を異ならせてもよく、この場合にも同様の効果が得られる。この場合、位相回転部107の出力端において、送信アンテナ間で異なる位相偏差が加わる。
【0204】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るレーダ装置10は、実施の形態1と同様の構成でよい。
【0205】
実施の形態1では、例えば、2個の送信アンテナの場合に、レーダ装置10において物標反射波が同相で受信される物標方向θcは、式(25)に示されるように、給電線路長(例えば、給電線路長間の位相差ξ2-ξ1)、及び、送信アンテナの間隔Dtに依存する。給電線路長及び送信アンテナ間隔は物理的に固定的に設定されるパラメータであり、レーダ装置10において物標方向θcは既知方向である。
【0206】
本実施の形態では、例えば、物標反射波が同相で受信される物標方向θcにおいて指向性利得が所定値以上異なる送信アンテナを用いる。例えば、送信アンテナ部109に含まれる第1の送信アンテナ及び第2の送信アンテナから送信されるレーダ送信信号が物標に反射した反射波信号の受信位相が同相となる方向において、第1の送信アンテナと第2の送信アンテナとの間の指向性利得が所定値以上異なる。これにより、送信アンテナ判別が可能となる視野角を、実施の形態1と比較して拡大できる効果が得られる。
【0207】
一例として、送信アンテナ数Nt=2であり、送信アンテナ間隔Dt=λ/2の場合に付いて説明する。
【0208】
例えば、送信アンテナ間の位相偏差がπ/2程度となる異なる給電線路長の給電線路108を用いる場合、レーダ装置10では、実施の形態1で説明したように物標方向θc=±30°方向において、2個の送信アンテナから送信される信号に対する物標反射波が同相で受信される。このように、Dt及び送信アンテナ間の位相偏差(又は、給電線路108の給電線路長)が設定される場合の2個の送信アンテナから送信される信号に対する物標反射波が同相で受信され物標方向θcは既知である。
【0209】
本実施の形態では、例えば、2個のTx#1及びTx#2として、±30°方向の送信アンテナの指向性利得が所定値(例えば2dB~6dB程度)以上異なる送信アンテナを用いる。
【0210】
例えば、
図9は、2個のTx#1及びTx#2の指向性パターンの例を示す。
図9に示す2個の送信アンテナそれぞれの指向性ビーム幅は100°であり、Tx#1の主ビーム方向は-15°方向であり、Tx#2の主ビーム方向は15°方向である。このように、Tx#1とTx#2とで主ビーム方向が異なる。主ビーム方向をずらした指向性パターンを有する複数の送信アンテナを用いることにより、
図9に示すように、30°方向又は-30°方向の指向性利得は、送信アンテナ間で2dB程度異なる。
【0211】
レーダ装置10は、このような異なる指向性パターンを有する複数の送信アンテナを用いることにより、Tx#1及びTx#2から送信される信号に対する物標反射波が同相で受信され物標方向θc=±30°でも、指向性利得(又は、受信電力)に基づいて送信アンテナ判別が可能となる。よって、レーダ装置10は、視野角を±30°よりも拡大した送信アンテナ判別が可能となる。
【0212】
以下では、レーダ装置10が異なる指向性パターンの複数の送信アンテナを用いる場合に、実施の形態1に係る動作と異なる動作について説明し、実施の形態1に係る動作と同様の動作については説明を省略する。例えば、本実施の形態において、レーダ装置10のレーダ送信部100の動作例は実施の形態1と同様であるため、その動作の説明を省略する。本実施の形態において、レーダ装置10のレーダ受信部200において、DDM分離/方向推定部211の動作が実施の形態1の動作と異なる。
【0213】
以下、DDM分離/方向推定部211の動作例(例えば、実施の形態1と異なる動作)について説明する。
【0214】
例えば、本実施の形態に係るDDM分離/方向推定部211の動作のうち、
図4のStep2(DDM分離処理(送信アンテナ判別))のStep 2-3(TxSel)の動作が実施の形態1と異なる。
【0215】
DDM分離/方向推定部211は、例えば、実施の形態1において説明したStep 2-3のTxSelを行った後、送信アンテナ候補のθmax(nmax)が、2個の送信アンテナの場合に物標反射波が同相で受信される物標方向θcと等しい場合、あるいは、|θmax(nmax)-θc|が所定値(例えばδθ)以下である場合、以下の処理を含むTxSelを行う。
【0216】
例えば、2個の送信アンテナの場合、NDM=2である。DDM分離/方向推定部211は、例えば、送信アンテナ候補ベクトルの要素であるVFTz(fb_cf,fddm(1))及びVFTz(fb_cf,fddm(2))の受信電力値を比較する。なお、受信電力値には、Rx#1~#Naの何れかによる受信電力が使用されてもよく、複数の受信アンテナの受信電力値を加算した結果が使用されてもよい。
【0217】
また、2個のTx#1及びTx#2のθ
c方向の送信アンテナの指向性利得を「TxGain
#1(θ
c)」及び「TxGain
#2(θ
c)」とする。例えば、物標方向θ
cにおける各送信アンテナの指向性利得(TxGain
#1(θ
c)及びTxGain
#2(θ
c))は異なる。例えば、
図9の例では、θ
c=-30°の場合、TxGain
#1(-30°)>TxGain
#2(-30°)であり、θ
c=30°の場合、TxGain
#1(30°)<TxGain
#2(30°)である。
【0218】
このような送信アンテナの指向性条件を利用して、DDM分離/方向推定部211は、以下のような送信アンテナ判別を行う。
【0219】
<送信アンテナの指向性条件を用いた送信アンテナ判別(TxSel)>
例えば、DDM分離/方向推定部211は、送信アンテナ候補のθmax(nmax)が|θmax(nmax)-θc|≦δθの条件を満たし、|VFTz(fb_cf,fddm(1))|2>|VFTz(fb_cf,fddm(2))|2である場合、以下の(1)及び(2)のようにTxSelを行う。
【0220】
(1)TxGain#1(θc)<TxGain#2(θc)の場合、DDM分離/方向推定部211は、VFTz(fb_cf,fddm(1))がTx#2に対応する受信信号の出力であり、VFTz(fb_cf,fddm(2))がTx#1に対応する受信信号の出力であると判定する。
【0221】
(2)TxGain#1(θc)>TxGain#2(θc)の場合、DDM分離/方向推定部211は、VFTz(fb_cf,fddm(1))がTx#1に対応する受信信号の出力であり、VFTz(fb_cf,fddm(2))がTx#2に対応する受信信号の出力であると判定する。
【0222】
また、例えば、DDM分離/方向推定部211は、送信アンテナ候補のθmax(nmax)が|θmax(nmax)-θc|≦δθの条件を満たし、|VFTz(fb_cf,fddm(1))|2<|VFTz(fb_cf,fddm(2))|2である場合、以下の(1)及び(2)のようにTxSelを行う。
【0223】
(1)TxGain#1(θc)<TxGain#2(θc)の場合、DDM分離/方向推定部211は、VFTz(fb_cf,fddm(1))がTx#1に対応する受信信号の出力であり、VFTz(fb_cf,fddm(2))がTx#2に対応する受信信号の出力であると判定する。
【0224】
(2)TxGain#1(θc)>TxGain#2(θc)の場合、DDM分離/方向推定部211は、VFTz(fb_cf,fddm(1))がTx#2に対応する受信信号の出力であり、VFTz(fb_cf,fddm(2))がTx#1に対応する受信信号の出力であると判定する。
【0225】
ここで、θcは、Tx#1及びTx#2からの物標反射波が同相で受信される物標方向を表す。
【0226】
なお、上記の|VFT
z(f
b_cf,fddm(1))|
2、及び、|VFT
z(f
b_cf,fddm(2))|
2の代わりに、次式(41)に示す、複数の受信アンテナによる受信電力和を用いてもよい。
【数46】
【0227】
例えば、
図9に示すような送信アンテナの指向性パターンを用いる場合、θ
c=30°の場合、TxGain
#1(30°)<TxGain
#2(30°)であるため、送信アンテナ候補のθ
max(nmax)が、|θ
max(nmax)-30°|≦δ
θの条件を満たし、|VFT
z(f
b_cf,fddm(1))|
2>|VFT
z(f
b_cf,fddm(2))|
2の場合、DDM分離/方向推定部211は、VFT
z(f
b_cf,fddm(1))がTx#2に対応し、VFT
z(f
b_cf,fddm(2))がTx#1に対応すると判定する。
【0228】
また、例えば、
図9に示すような送信アンテナの指向性パターンを用いる場合、θ
c=-30°の場合、TxGain
#1(-30°)>TxGain
#2(-30°)であるため、送信アンテナ候補のθ
max(nmax)が、|θ
max(nmax)-(-30°)|≦δ
θの条件を満たし、|VFT
z(f
b_cf,fddm(1))|
2>|VFT
z(f
b_cf,fddm(2))|
2である場合、DDM分離/方向推定部211は、VFT
z(f
b_cf,fddm(1))がTx#1に対応し、VFT
z(f
b_cf,fddm(2))がTx#2に対応すると判定する。
【0229】
なお、上記の送信アンテナの指向性条件を用いたTxSelは、尤度情報を併用して行われてもよい。
【0230】
また、本実施の形態によれば、送信アンテナの指向性条件を用いたTxSelを加えることにより、送信アンテナ判別可能な視野角を、実施の形態1と比較してさらに拡大できる効果が得られる。
【0231】
上記のような受信処理により、本実施の形態では、レーダ装置10は、所定視野角内で、複数送信アンテナから送信される信号の物標反射波が同相で受信される物標方向における送信アンテナの指向性利得が所定値以上異なる送信アンテナを用いる。これにより、送信アンテナ判別可能な視野角をさらに、拡大できる効果が得られる。
【0232】
(実施の形態3)
上述した実施の形態1のDDM分離/方向推定部211によるTxSelは、以下のようなケースでは送信アンテナの判別誤りが生じことがあり得る。このような場合、DDM送信信号の受信分離を誤るため、ドップラ周波数の推定又は方向推定結果に誤りが生じ、レーダの検出性能が劣化することがあり得る。
【0233】
<ケース1>
同一距離インデックス(以下、距離Binとも呼ぶ)において、DDM間隔に等しい間隔の2つ物標反射波が到来する場合、
図4のStep2-2の送信アンテナ候補毎の方向推定処理時に、2物標からの反射波間の振幅及び位相の少なくとも一方の関係によって最大ピーク電力値が変動するため、TxSelに誤りが発生し、方向推定又はドップラ周波数検出も誤ることがあり得る。
【0234】
<ケース2>
同一距離Bin及び同一DF Index(以下、ドップラBinとも呼ぶ)において、異なる到来角の2物標が含まれる場合、
図4のStep2-2の送信アンテナ候補毎の方向推定処理時に、2物標からの反射波間の振幅及び位相の少なくとも一方の関係によって最大ピーク電力値が変動するため、TxSelに誤りが発生し、方向推定又はドップラ周波数検出も誤ることがあり得る。
【0235】
本実施の形態では、上記のようなケースでも、レーダ装置10が、DDM信号の分離を正しく行うための送信信号の送出方法について説明する。
【0236】
なお、本実施の形態に係るレーダ装置は、
図2に示すレーダ装置10と基本構成が共通するので、
図2を援用して説明する。例えば、本実施の形態では、
図2に示すレーダ装置10において、DS設定部106、ドップラ解析部209、CFAR部210及びDDM分離/方向推定部211の動作が実施の形態1と異なる。
【0237】
本実施の形態では、例えば、レーダ装置10は、レーダ送信信号の送信に設定される、DS量の数(例えば、DDM数)及びDS量の間隔の少なくとも一つを、レーダ送信信号が送信される送信周期毎に可変に設定する。例えば、レーダ装置10は、送信周期毎に、DDM数を可変に設定し、DS量の各間隔を可変に設定し、送信アンテナに対するDDMの割り当てを変える。
【0238】
例えば、DDMにおいて、複数のターゲット(物標)のドップラピークの受信レベルがほぼ等しく、ドップラピークの間隔がDS量の間隔に一致する場合、DDM分離/方向推定部211においてTxSelが正しく検出することが困難になる可能性がある(上述したケース1)。
【0239】
本実施の形態では、レーダ装置10の測位出力において、複数のターゲットをより確実に分離するために、送信周期毎に、1)DDM数を可変にし、DS量の各間隔が可変に設定される場合、及び、2)DDM数は可変せず、DS量の各間隔が可変に設定される場合について説明する。本実施の形態によれば、1つのターゲットに対して、複数の送信アンテナに対応するドップラピークの間隔が送信周期毎に異なるので、レーダ装置10は、複数のターゲットを1回のレーダ観測で分離しやすくなり、ケース1の対策となる。
【0240】
以下、本実施の形態に係る位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法として、DS設定部106において付与されるDS量の設定方法の一例について説明する。
【0241】
DS設定部106は、DS量DOPndmを付与するための位相回転量φndmを設定してよい。ここで、ndm=1~NDMである。NDMは、異なるDS量の設定数(DDM数)であり、本実施の形態では、レーダ装置10の測位出力において、複数のターゲットをより確実に分離するために、送信周期毎に、DDM数を可変する場合、送信アンテナ数の一部を用いて送信する送信周期を含む。そのため、送信周期によっては、DDM数NDMは、1以上、かつ、Ntより小さい数に設定されてもよい。
【0242】
また、DS設定部106は、Tr毎にDS量DOPndmを可変に設定してよい。例えば、2送信周期(2Tr)毎に、DDM数NDMを可変に設定する場合、奇数番目のTr毎のDDM数NDMを「NDM
odd」とし、偶数番目のTr毎のDDM数NDMを「NDM
even」としてそれぞれ設定する。
【0243】
ここで、Nt≧NDM
odd≧1、Nt≧NDM
even≧1である。なお、NDM
odd≠NDM
evenとしてもよく、NDM
odd=NDM
evenとしてもよい。DDM数NDM
oddあるいはNDM
evenは、送信周期によっては、Ntより小さい数に設定されてよい。このような場合、レーダ装置10は、送信アンテナの一部を用いてレーダ送信信号を送信する。
【0244】
なお、以下では、Tx#1~Tx#NDM
oddあるいはTx#1~Tx#NDM
evenを用いてレーダ送信信号を送信する場合について説明するが、これに限定されず、送信アンテナの番号と、DDM数NDMの割り当てるDDMインデックスとの割り当てテーブルを用いることにより、DDMインデックスに対し、任意の送信アンテナを用いた割り当てが可能である。
【0245】
また、DS設定部106は、奇数番目のTr毎のDS量DOPndm
odd、及び、偶数番目のTr毎のDS量DOPndm
evenをそれぞれ設定する。
【0246】
また、DS量の可変設定の周期は、2送信周期に限定されず、例えば、3送信周期で、DS量を可変する設定でもよい。この場合、DS設定部106は、3送信周期毎に用いる3通りのDS量を設定する。
【0247】
以下、DS設定部106の設定例について説明する。
【0248】
[設定例1]
設定例1では、2送信周期(2Tr)毎に、DDM数を可変にし、DS量の各間隔が可変に設定される場合について説明する。
【0249】
例えば、送信アンテナ部109に含まれる複数の送信アンテナのうち、DS量が割り当てられる送信アンテナの数(又は、DDM数)は、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで異なってよい。この際、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで同一のDS量が少なくとも一つ設定されてもよい。
【0250】
例えば、式(5)に示す最大等間隔DS量設定を用いる場合、DS設定部106は、第ndm番目のDS量について、次式(42)に従って、奇数番目のTr毎にDS量DOP
ndm
oddに対応する位相回転量φ
ndm
oddを付与し(ここで、ndm=1~N
DM
odd)、式(43)に従って、偶数番目のTr毎にDS量DOP
ndm
evenに対応する位相回転量φ
ndm
evenを付与する(ここで、ndm=1~N
DM
even)。
【数47】
【数48】
【0251】
ここで、NDM
odd及びNDM
evenは1以上の正数であり、互いに異なる値に設定される。このため、奇数番目のTr毎のDS量DOPndm
oddと、偶数番目のTr毎のDS量DOPndm
evenとは異なる値に設定される。これにより、DS量の各間隔がTr毎に可変に設定される。
【0252】
なお、位相回転量φnは、式(5)に示す値に限定されず、DS量DOPndm
odd及びDS量DOPndm
evenの間隔が異なるような位相回転量であればよい。例えば、DS量がオフセットされて設定されてもよい。また、DS量のインデックスの割り当てを可変してもよい。また、式(6)に示す不等間隔のDS量を用いてもよい。
【0253】
DS設定部106は、第m番目のTrにおいて、mが奇数の場合、DS量DOP
ndm
oddを付与する位相回転量φ
ndm
oddを用いて、次式(44)に示すPS量ψ
ndm
odd(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、m=1~Nc、ndm=1~N
DM
oddである。
【数49】
【0254】
また、DS設定部106は、第m番目のTrにおいて、mが偶数の場合、DS量DOP
ndm
evenを付与する位相回転量φ
ndm
evenを用いて、次式(45)に示すPS量ψ
ndm
even(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、m=1~Nc、ndm=1~N
DM
evenである。
【数50】
【0255】
以下、設定例1のDS設定の例を示す。
【0256】
図10に示す例において、奇数送信周期(以下、奇Trと表記)では、Tx#1~Tx#4に対して、DDM数N
DM
odd=4が設定され、式(5)に示す最大等間隔DS量設定が適用される。その一方で、偶数送信周期(以下、偶Trと表記)では、Tx#1~Tx#3に対して、DDM数N
DM
even=3が設定され、最大等間隔DS量設定が適用される。これにより、
図10では、奇Trでは、4個の送信アンテナから、偶Trでは、3個の送信アンテナからレーダ送信信号が、各々DDM送信される。
【0257】
図11に示す例において、奇Trでは、Tx#1~Tx#2に対して、DDM数N
DM
odd=2が設定され、最大等間隔DS量設定が適用される。その一方で、偶Trでは、Tx#1に対してDDM数N
DM
even=1が設定され、DS量ゼロが設定される。これにより、
図11では、奇Trでは、複数(例えば、2個)の送信アンテナを用いてレーダ送信信号が送信され、偶Trでは、1個の送信アンテナを用いてレーダ送信信号が送信される。
【0258】
図12に示す例において、奇Trでは、Tx#1~Tx#4に対して、DDM数N
DM
odd=4が設定され、最大等間隔DS量設定が適用される。その一方で、偶Trでは、Tx#1~Tx#3に対して、DDM数N
DM
even=3が設定され、式(6)に示す不等間隔DS量設定(ただし、N
int=1)が適用される。これにより、
図12では、奇Trでは、4個の送信アンテナからレーダ送信信号がDDM送信され、偶Trでは、3個の送信アンテナからレーダ送信信号がDDM送信される。また、
図12では、奇Tr及び偶Trの両方においてTx1、Tx#2及びTx#3に割り当てられるDS量は同一である。
【0259】
[設定例2]
設定例2では、2送信周期(2Tr)毎に、DDM数は一定であり、DS量の各間隔が可変に設定される場合について説明する。
【0260】
例えば、奇数番目のTr毎において、式(5)に示す最大等間隔DS量設定を用いる場合、DS設定部106は、第ndm番目のDS量について、式(42)に従って、奇数番目のTr毎にDS量DOPndm
oddに対応する位相回転量φndm
oddを付与する(ここで、ndm=1~NDM)。
【0261】
そして、DS設定部106は、第m番目のTrにおいて、mが奇数の場合、DS量DOPndm
oddを付与する位相回転量φndm
oddを用いて、式(44)に示すPS量ψndm
odd(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、NDM
odd=NDM
even=NDMであり、m=1~Nc、ndm=1~NDMである。
【0262】
その一方で、DS設定部106は、偶数番目のTr毎にDS量DOPndm
evenに対応する位相回転量φndm
evenを、例えば、以下の設定例2-1、設定例2-2又は設定例2-3に従って付与する(ここで、ndm=1~NDM)。
【0263】
<設定例2―1>
例えば、偶数番目のTr毎において、式(6)に示す不等間隔DS量設定を用いる場合、DS設定部106は、第ndm番目のDS量について、次式(46)に従って、偶数番目のTr毎にDS量DOP
ndm
evenに対応する位相回転量φ
ndm
evenを付与する(ここで、ndm=1~N
DM)。ここで、N
intは整数値である。
【数51】
【0264】
また、DS設定部106は、第m番目のTrにおいて、mが偶数の場合、DS量DOPndm
evenを付与する位相回転量φndm
evenを用いて、式(45)に示すPS量ψndm
even(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、m=1~Nc、ndm=1~NDMである。
【0265】
【0266】
図13に示す例において、奇Trでは、Tx#1~Tx#3に対して、DDM数N
DM
odd=3が設定され、式(5)に示す最大等間隔DS量設定が適用される。その一方で、偶Trでは、Tx#1~Tx#3に対して、DDM数N
DM
even=3が設定され、式(6)に示す不等間隔DS量設定(ただし、N
int=1)が適用される。
【0267】
このように、
図13では、奇Trでは、DS量の各間隔は、ドップラ周波数軸上において等間隔であり、偶Trでは、DS量の各間隔は、ドップラ周波数軸上において不等間隔である。
【0268】
<設定例2―2>
設定例2-2では、Nt=2の設定例について説明する。
【0269】
DS設定部106は、第1のDS量について、例えば、第1のTx#1に対して、偶数番目のTr毎において、式(5)に示す等間隔DS量設定を用いる場合、次式(47)に従って、偶数番目のTr毎にDS量DOP
1
evenに対応する位相回転量φ
1
evenを付与する。ここで、ndm
fixはndm=1~N
DMのうちの、何れか一つが選択され、固定的に用いられてもよい。
【数52】
【0270】
また、DS設定部106は、第1のDS量について、例えば、第m番目のTrにおいて、mが偶数の場合、DS量DOP1
evenを付与する位相回転量φ1
evenを用いて、式(45)に示すPS量ψ1
even(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、m=1~Ncである。
【0271】
DS設定部106は、第2のDS量について、例えば、第2のTx#2に対して、以下のような位相回転を付与して2個のDDM信号を発生させる。
【0272】
例えば、DS設定部106は、第2のDS量について、第2番目のTx#2に対して、2個のDS量DOP2-1及びDOP2-2を付与するために、チャープ信号のTr毎に位相回転Φ2
even(m)=phseq[mod(floor((m-1)/2),4)+1]を付与して出力する。
【0273】
ここで、phseq[ps]は、phseq=[0,0,π,π]のps番目の要素を表す。例えば、phseq[1]=phseq[2]=0、phseq[3]=phase[4]=πである。また、mod(x,y)はxをyで割った場合の剰余を表す剰余演算関数である。なお、Tx#2に対して、2個のDDM信号を発生させることから、DS量DOP2-1とDS量DOP2-2とで電力は2分される。
【0274】
なお、2個のDDM信号を発生させる例は、上述した例に限定されず、例えば、phseq=[0,π/2,0,π/2],[0,-π/2,0,-π/2],[π,-π/2,π,-π/2]、又は、[π,π/2,π,π/2]を用いても2個のDDM信号を発生させることができる。また、例えば、一方の送信アンテナに対して2個のDDM信号を発生させる場合、他方の送信アンテナは、これらのDDM信号と一致しないDDM信号を用いて送信してよい。
【0275】
【0276】
図14に示す例において、奇Trでは、Tx#1及びTx#2に対して、DDM数N
DM
odd=2が設定され、式(5)に示す最大等間隔DS量設定が適用される。その一方で、偶Trでは、Tx#1及びTx#2に対して、DDM数N
DM
even=2が設定され、Tx#1に対してDS量ゼロが設定され、Tx#2に対して、phseq=[0,0,π,π]を用いた位相回転が設定される。
【0277】
このように、
図14では、奇Trでは、Tx#1及びTx#2のそれぞれに対してDS量が1つ割り当てられ、偶Trでは、Tx#1に対してDS量が1つ割り当てられ、Tx#2に対してDS量が複数割り当てられる。
【0278】
<設定例2―3>
設定例2-3では、偶数番目のTr毎において、全ての送信アンテナに対するDS量を同一に設定する場合について説明する。
【0279】
例えば、式(5)に示す等間隔DS量設定を用いる場合、DS設定部106は、第ndm番目のDS量について、次式(48)に従って、偶数番目のTr毎にDS量DOP
ndm
evenに対応する位相回転量φ
ndm
evenを付与する。ここで、ndm
fixはndm=1~N
DMのうちの何れか一つが選択され、固定的に用いられてもよい。
【数53】
【0280】
また、DS設定部106は、第m番目のTrにおいて、mが偶数の場合、DS量DOPndm
evenを付与する位相回転量φndm
evenを用いて、式(45)に示すPS量ψndm
even(m)を設定して、位相回転部107に出力する。ここで、m=1~Nc、ndm=1~NDMである。
【0281】
【0282】
図15において、奇Trでは、Tx#1~Tx#2に対して、DDM数N
DM
odd=2が設定され、式(5)に示す最大等間隔DS量設定が適用される。その一方で、偶Trでは、Tx#1~Tx#2に対して、DDM数N
DM
even=2が設定され、Tx#1及びTx#2に対して、DS量ゼロが設定される。
【0283】
このように、
図15では、奇Trでは、複数の送信アンテナに対して異なるDS量が割り当てられ、偶Trでは、複数の送信アンテナに対して同一のDS量が割り当てられる。
【0284】
以上、DS設定部106の設定例について説明した。
【0285】
なお、DS設定部106がレーダ送信信号(例えば、チャープ信号)に対して位相回転量を付与する際に、位相回転誤差が含まれる場合、ドップラ周波数領域にスプリアスが発生し得る。ここで、例えば、スプリアスレベルがドップラピークレベルと比較して-20dB程度以下であれば、レーダ装置10におけるレーダ検出性能に顕著な劣化影響を与えない。そのため、位相回転時の位相回転誤差として、スプリアスレベルがドップラピークと比較して-20dB程度以下の範囲内(例えば、5°~10°程度の範囲)の位相回転誤差が含まれてもよい。なお、他の実施の形態(又はバリエーション)においても同様に、スプリアスレベルがドップラピークと比較して-20dB程度以下の範囲内(例えば、5°~10°程度の範囲)の位相回転誤差を含んでもよい。
【0286】
[レーダ受信部200の動作例]
次に、本実施の形態におけるレーダ受信処理について、主に実施の形態1と異なる動作について説明する。
【0287】
[ドップラ解析部209の動作例]
図2において、ドップラ解析部209は、ビート周波数解析部208から出力される、N
C回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答を用いて、距離インデックスf
b毎にドップラ解析を行う。
【0288】
本実施の形態では、レーダ送信信号(例えば、チャープ信号)に対して、例えば、2送信周期(2Tr)毎にDDM数を可変あるいは一定とし、DS量の各間隔が可変に設定される。この場合、奇数番目のTrと偶数番目のTrとで異なるDS量設定の位相回転φndmが付与される。そのため、ドップラ解析部209は、例えば、奇数番目のTr毎のビート周波数応答を用いて、fb毎にドップラ解析を行う。同様に、ドップラ解析部209は、例えば、偶数番目のTr毎のビート周波数応答を用いて、fb毎にドップラ解析を行う。
【0289】
例えば、ドップラ解析部209は、奇数番目又は偶数番目のTr毎(例えば、2Tr毎)に得られるデータに基づいてFFT処理を行う。この場合、FFTサイズはNc/2である。このため、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(4Tr)である。また、DF Index fsのドップラ周波数間隔は1/(Nc×Tr)であり、DF Index fsの範囲はfs=-Nc/4,~,0,~,Ncc/4-1である。
【0290】
例えば、第z番目の信号処理部206における、奇数番目のTr毎のビート周波数応答に対するドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)、及び、偶数番目のTr毎のビート周波数応答に対するドップラ解析部209の出力VFT
z
even(f
b,f
s)は、次式(49)によって表される。なお、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
【数54】
【0291】
[CFAR部210の動作例]
図2において、CFAR部210は、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209からの出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、ピーク信号を与えるf
b_cf及びDF Index f
s_cfを抽出する。
【0292】
CFAR部210は、例えば、奇数番目のTr毎のビート周波数応答に対するドップラ解析部209の出力VFTz
odd(fb,fs)に対してCFAR処理を行うことにより、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となるfb_cf
odd、DF Index fs_cf
odd、及び、受信電力情報PowerFTodd(fb_cf
odd,fs_cf
odd)をDDM分離/方向推定部211に出力する。
【0293】
また、CFAR部210は、例えば、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFTz
odd(fb,fs)を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。
【0294】
DOPndm
oddを付与するための位相回転量φndmとして、例えば、式(5)を用いる場合、ドップラ解析部209の出力におけるドップラ周波数領域のDS量の間隔は等間隔となり、DF Indexの間隔でDS量の間隔ΔFDを表すと、ΔFDodd=Nc/(2NDM
odd)となる。そのため、ドップラ解析部209の出力において、ドップラ周波数領域では、各DDM信号に対して、ΔFDoddの間隔でピークがそれぞれ検出される。
【0295】
したがって、CFAR部210は、ドップラ解析部209の各出力VFT
z
odd(f
b,f
s)に対して、DS量の間隔ΔFD
oddの範囲で分割し、分割した各範囲に対して、次式(50)に示すように、DDMした各信号ピーク位置を電力加算した後に、DC-CFARを行ってよい。ここで、f
sc=-ΔFD
odd/2,~,(ΔFD
odd/2)-1である。
【数55】
【0296】
DC-CFARを用いたCFAR部210は、例えば、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となるfb_cf
odd、fsc_cf
odd、及び、NDM
odd個のDDM信号のDF Index(fsc_cf
odd+(ndm-1)×ΔFDodd)における受信電力情報PowerFT(fb_cf
odd,fsc_cf
odd+(ndm-1)×ΔFDodd)、及び、ドップラ解析部209の出力VFTz(fb_cf
odd,fsc_cf
odd+(ndm-1)×ΔFDodd)を、DDM分離/方向推定部211に出力する。ここで、ndm=1,~,NDM
oddである。
【0297】
同様に、CFAR部210は、例えば、偶数番目のTr毎のビート周波数応答に対するドップラ解析部209の出力VFTz
even(fb,fs)に対してCFAR処理を行うことにより、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となるfb_cf
even、DF Index fs_cf
even、及び、受信電力情報PowerFTeven(fb_cf
even,fs_cf
even)をDDM分離/方向推定部211に出力する。
【0298】
また、DC-CFARを用いたCFAR部210は、上記奇数番目の送信周期における説明の「odd」を「even」と読み替えた同様な処理を行う。
【0299】
[DDM分離/方向推定部211の動作例]
次に、
図2に示すDDM分離/方向推定部211の動作例について説明する。
【0300】
なお、以下では、CFAR部210において、DC-CFARを用いた場合の、DDM分離/方向推定部211の処理の一例について説明する。
【0301】
<DS設定部106において設定例1を用いる場合>
DS設定部106において設定例1を用いる場合、例えば、2送信周期(2Tr)毎に、DDM数が可変に設定され、DS量の各間隔が可変に設定される。この場合、奇数番目のTr毎のDS量と、偶数番目のTr毎のDS量とが異なる設定の位相回転φndmが付与される。
【0302】
よって、設定例1は、上述したケース1の対策となり得る。例えば、偶数番目の送信周期及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、DDM間隔に等しい間隔の2つ物標反射波が到来する場合でも、レーダ装置10は、偶数番目及び奇数番目の他方の送信周期において、DDM間隔と異なる間隔の2つの物標反射波を検出し得る。
【0303】
DDM分離/方向推定部211は、例えば、実施の形態1と同様の動作により、DDM信号に対するDDM分離処理及び方向推定処理を行う。
【0304】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、CFAR部210から入力されるfb_cf
odd、fsc_cf
odd、及び、NDM
odd個のDDM信号のDF Indexにおける受信電力情報及び、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFTz
odd(fb,fs)を用いて、NDM
odd個のDDM送信された信号を分離し、方向推定処理とともにTxSelを行う。また、DDM分離/方向推定部211は、TxSelの結果に基づいて、ドップラ周波数(例えば、ドップラ速度又は相対速度)及び、方向推定処理結果の出力を行う。
【0305】
同様に、DDM分離/方向推定部211は、上記における説明の「odd」を「even」と読み替えた同様な処理を行う。
【0306】
なお、ドップラ解析部209は、奇数番目又は偶数番目のTr毎(例えば、2Tr毎)に得られるデータに基づいてFFT処理を行うため、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しないドップラ周波数は±1/(4Tr)の範囲となる。
【0307】
ここで、例えば、DDM分離/方向推定部211は、奇数番目及び偶数番目のTrのそれぞれに同一の送信アンテナが含まれることを利用して折り返しが含まれるか否かを判定可能である。例えば、
図10に示す設定例では、Tx#1~Tx#3は、奇Tr及び偶Trの両方に含まれる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1~Tx#3のDF Indexにおける第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)とVFT
z
even(f
b,f
s)との間の位相を比較することにより、折り返しの有無を検出できる。これにより、物標のドップラ周波数は±1/(2Tr)の範囲で検出可能である。
【0308】
また、例えば、
図11に示す設定例では、偶Trにおいて、Tx#1にDDM数1が設定される。このため、DDM分離/方向推定部211は、偶Trにおいて検出される信号をTx#1に対応する信号であると特定できるので、TxSelを誤ることなく判定できる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1のDF Index情報を用いることにより、偶TrにおけるTxSelを誤ることなく判定できる。例えば、上述したケース2の場合でも、偶Trにおける送信アンテナ判定結果を用いることで、TxSelを誤ることなく判定できる効果が得られるので、ケース2の対策となり得る。
【0309】
また、
図11に示す設定例では、Tx#1は、奇Tr及び偶Trの両方に含まれる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1のDF Indexにおける第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)とVFT
z
even(f
b,f
s)との間の位相を比較することにより、折り返しの有無を検出できる。これにより、物標のドップラ周波数は±1/(2Tr)の範囲で検出可能である。
【0310】
また、例えば、
図12に示す設定例では、偶Trにおいて、Tx#1~Tx#3は、DDM数3に設定され、不等間隔DDMされる。例えば、不等間隔DDMを用いるDDM信号の分離受信は、既存の技術を用いて分離可能である(例えば、特許文献4を参照)。DDM分離/方向推定部211は、例えば、既存の技術を用いた分離結果に基づいて、TxSelを行ってもよい。また、DDM分離/方向推定部211は、例えば、このTxSel結果を、別の送信周期(例えば、
図12では奇Tr)のTxSel結果に用いてもよい。この場合、上述したケース2の場合でも、偶Trにおける送信アンテナ判定結果を用いることで、TxSelの誤りを低減する効果が得られ、ケース2の対策となり得る。
【0311】
また、例えば、
図12に示す設定例では、Tx#1~Tx#3は、奇Tr及び偶Trの両方に含まれる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1~Tx#3のDF Indexにおける第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)とVFT
z
even(f
b,f
s)との間の位相を比較することにより、折り返しの有無を検出できる。これにより、物標のドップラ周波数は±1/(2Tr)の範囲で検出可能である。
【0312】
<DS設定部106において設定例2―1を用いる場合>
DS設定部106において設定例2-1を用いる場合、例えば、DDM数を固定し、2送信周期(2Tr)毎にDS量の各間隔が可変に設定される。この場合、奇数番目のTr毎のDS量と、偶数番目のTr毎のDS量とが異なる設定の位相回転φndmが付与される。
【0313】
よって、設定例2-1は、上述したケース1の対策となり得る。例えば、偶数番目の送信周期及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、DDM間隔に等しい間隔の2つ物標反射波が到来する場合でも、レーダ装置10は、偶数番目及び奇数番目の他方の送信周期において、DDM間隔と異なる間隔の2つの物標反射波を検出し得る。
【0314】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、DS設定部106において設定例1を用いる場合と同様な動作により、DDM信号に対するDDM分離処理及び方向推定処理を行う。
【0315】
なお、ドップラ解析部209は、奇数番目又は偶数番目のTr毎(例えば、2Tr毎)に得られるデータに基づいてFFT処理を行うため、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しないドップラ周波数は±1/(4Tr)の範囲となる。
【0316】
ここで、例えば、DDM分離/方向推定部211は、奇数番目及び偶数番目のTrのそれぞれに同一の送信アンテナが含まれることを利用して折り返しが含まれるか否かを判定可能である。例えば、
図13に示す設定例では、Tx#1~Tx#3は、奇Tr及び偶Trの両方に含まれる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1~Tx#3のDF Indexにおける第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)とVFT
z
even(f
b,f
s)との間の位相を比較することにより、折り返しの有無を検出できる。これにより、物標のドップラ周波数は±1/(2Tr)の範囲で検出可能である。
【0317】
また、設定例2-1では、或る送信周期において、不等間隔DDMを用いる。例えば、
図13に示す設定例では、Tx#1~Tx#3は、偶TrにおいてDDM数3を用いて不等間隔DDMを用いる。例えば、不等間隔DDMを用いるDDM信号の分離受信は、既存の技術を用いて分離可能である(例えば、特許文献4)。DDM分離/方向推定部211は、例えば、既存の技術を用いた分離結果に基づいて、TxSelを行ってもよい。また、DDM分離/方向推定部211は、例えば、このTxSel結果を、別の送信周期(例えば、
図13では奇Tr)のTxSel結果に用いてもよい。この場合、上述したケース2の場合でも、偶Trにおける送信アンテナ判定結果を用いることで、TxSelの誤りを低減する効果が得られ、ケース2の対策となり得る。
【0318】
<DS設定部106において設定例2―2を用いる場合>
DS設定部106において設定例2―2を用いる場合、例えば、DDM数を固定し、2送信周期(2Tr)毎にDS量の各間隔が可変に設定される。この場合、奇数番目のTr毎のDS量と、偶数番目のTr毎のDS量とが異なる設定の位相回転φndmが付与される。よって、設定例2-2は、上述したケース2の対策となり得る。
【0319】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、DS設定部106において設定例1を用いる場合と同様な動作により、DDM信号に対するDDM分離処理及び方向推定処理を行う。
【0320】
なお、ドップラ解析部209は、奇数番目又は偶数番目のTr毎(例えば、2Tr毎)に得られるデータに基づいてFFT処理を行うため、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しないドップラ周波数は±1/(4Tr)の範囲となる。
【0321】
ここで、例えば、DDM分離/方向推定部211は、奇数番目及び偶数番目のTrのそれぞれに同一の送信アンテナが含まれることを利用して折り返しが含まれるか否かを判定可能である。例えば、
図14に示す設定例では、Tx#1は、奇Tr及び偶Trの両方に含まれる。DDM分離/方向推定部211は、例えば、Tx#1のドDF Indexにおける第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)とVFT
z
even(f
b,f
s)との間の位相を比較することにより、折り返しの有無を検出できる。これにより、物標のドップラ周波数は±1/(2Tr)の範囲で検出可能である。
【0322】
また、設定例2-2では、或る送信周期において、不等間隔DDMを用いる。例えば、
図14に示す設定例では、Tx#1及びTx#2は、偶TrにおいてDDM数3を用いて不等間隔DDMを用いる。例えば、不等間隔DDMを用いるDDM信号の分離受信は、既存の技術を用いて分離可能である(例えば、特許文献4)。DDM分離/方向推定部211は、例えば、既存の技術を用いた分離結果に基づいて、TxSelを行ってもよい。また、DDM分離/方向推定部211は、例えば、このTxSel結果を、別の送信周期(例えば、
図14では奇Tr)のTxSel結果に用いてもよい。この場合、上述したケース2の場合でも、偶Trにおける送信アンテナ判定結果を用いることで、TxSelの誤りを低減する効果が得られ、ケース2の対策となり得る。
【0323】
また、設定例2-2は、上述したケース1の対策となりうる。例えば、偶数番目の送信周期及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、DDM間隔に等しい間隔の2つ物標反射波が到来する場合でも、レーダ装置10は、偶数番目及び奇数番目の他方の送信周期において、DDM間隔と異なる間隔の2つの物標反射波を検出し得る。
【0324】
<DS設定部106において設定例2―3を用いる場合>
DS設定部106において設定例2―3を用いる場合、例えば、DDM数を固定し、2送信周期(2Tr)毎にDS量の各間隔が可変に設定される。この場合、奇数番目のTr毎のDS量と、偶数番目のTr毎のDS量とが異なる設定の位相回転φndmが付与される。
【0325】
よって、設定例2-3は、上述したケース1の対策となりうる。例えば、偶数番目の送信周期及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、DDM間隔に等しい間隔の2つ物標反射波が到来する場合でも、レーダ装置10は、偶数番目及び奇数番目の他方の送信周期において、2つの物標反射波を検出し得る。
【0326】
例えば、DDM分離/方向推定部211は、DS設定部106において設定例1を用いる場合と同様な動作により、DDM信号に対するDDM分離処理及び方向推定処理を行う。
【0327】
また、例えば、
図15に示す設定例では、偶Trにおいて、Tx#1及びTx#2はDDM数1を用いる。このため、DDM分離/方向推定部211は、TxSelを誤ることなく判定できる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1及びTx#2のDF Index情報を用いることにより、偶TrにおけるTxSelを誤ることなく判定できる。例えば、上述したケース2の場合でも、偶Trにおける送信アンテナ判定結果を用いることで、TxSelを誤ることなく判定できる効果が得られ、ケース2の対策となり得る。
【0328】
また、例えば、
図17に示す設定例では、Tx#1は、奇Tr及び偶Trの両者に含まれる。また、奇Trでは、Tx#1とTx#2とは異なるDDM信号を用いる。例えば、DDM分離/方向推定部211は、Tx#1及びTx#2のDF Indexにおける第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部209の出力VFT
z
odd(f
b,f
s)とVFT
z
even(f
b,f
s)との間の位相を比較することにより、折り返しの有無を検出できる。これにより、物標のドップラ周波数は±1/(2Tr)の範囲で検出可能である。
【0329】
以上、本実施の形態におけるレーダ受信処理について説明した。
【0330】
なお、本実施の形態では、一例として、送信周期毎に異なるドップラ多重数、送信周期毎に異なるドップラシフト量を設定する場合について説明したが、これに限定されない。レーダ装置10の測位出力において、複数のターゲットをより確実に分離するために、レーダ観測毎にドップラシフト量が可変に設定されてもよい。
【0331】
また、本実施の形態では、レーダ装置10は、実施の形態1又は実施の形態2の動作を行う場合について説明したが、これに限定されない。レーダ装置10は、例えば、実施の形態1及び実施の形態2の動作(又は、給電線路108の設定)を行わずに、本実施の形態に係る動作を行ってもよい。
【0332】
以上、本開示の各実施の形態について説明した。
【0333】
[他の実施の形態]
なお、本開示の一実施例に係るレーダ装置において、レーダ送信部及びレーダ受信部は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、本開示の一実施例に係るレーダ受信部において、ドップラ多重分離/方向推定部211と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
【0334】
また、上述した実施の形態では、レーダ装置10の視野角として、物標方向θ=0°を中心とした角度領域が設定される例について説明したが、レーダ装置10の視野角は、物標方向θ=0°を中心とした角度領域に限定されない。
【0335】
また、本開示の一実施例において用いた、送信アンテナ数Nt、受信アンテナ数Na、送信アンテナ間隔Dt、Dr、ドップラ多重数NDM、ドップラシフト量、ドップラシフト間隔、位相回転に関する値といったパラメータの数値は一例であり、それらの値に限定されない。また、例えば、レーダ装置が具備している送信アンテナの一部を、送信アンテナ数Ntとして用いてよく、レーダ装置が具備している受信アンテナの一部を、受信アンテナ数Naとして用いてよい。
【0336】
また、本開示の一実施例に係るレーダ装置は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置の各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0337】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0338】
また、上述した実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0339】
上記各実施形態では、本開示はハードウェアを用いて構成する例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0340】
また、上記各実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。集積回路は、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックを制御し、入力端子と出力端子を備えてもよい。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0341】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサを用いて実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続又は設定を再構成可能なリコンフィギュラブル プロセッサ(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0342】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックを集積化してもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0343】
<本開示のまとめ>
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、第1の給電線路に接続される第1の送信アンテナ、及び、前記第1の給電線路と異なる第2の給電線路に接続される第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、ドップラシフト量に対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備し、前記第1の給電線路と前記第2の給電線路との線路長差による位相偏差は、π/2の奇数倍である。
【0344】
本開示の一実施例において、前記線路長差は、前記送信信号の半波長、又は、前記半波長の奇数倍である。
【0345】
本開示の一実施例において、前記複数の送信アンテナは、更に、第3の給電線路に接続される第3の送信アンテナを含み、前記第1の給電線路と前記第2の給電線路との線路長差による位相偏差は、さらに、π/4の奇数倍を含み、前記第1の給電線路と前記第3の給電線路との線路長差による位相偏差は、π/4の奇数倍である。
【0346】
本開示の一実施例において、前記送信信号が物標に反射した反射波信号を受信する複数の受信アンテナと、前記反射波信号から前記多重送信された信号を分離し、前記分離した信号に対して前記位相偏差を補正した後の方向推定結果に基づいて、前記分離した信号のそれぞれが前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナの何れに対応するかを判別する受信回路と、を更に具備する。
【0347】
本開示の一実施例において、前記複数の受信アンテナは、第1の受信アンテナ及び第2の受信アンテナを含み、前記第1の受信アンテナ及び前記第2の受信アンテナは、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナが配置される方向に直線上に配置される。
【0348】
本開示の一実施例において、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナから送信される信号が物標に反射した反射波信号の受信位相が同相となる方向において、前記第1の送信アンテナと前記第2の送信アンテナとの間の指向性利得が所定値以上異なる。
【0349】
本開示の一実施例において、前記第1の送信アンテナと前記第2の送信アンテナとで主ビーム方向が異なる。
【0350】
本開示の一実施例において、前記送信信号の送信に設定される、前記ドップラシフト量の数及び前記ドップラシフト量の間隔の少なくとも一つは、前記送信信号が送信される送信周期毎に可変に設定される。
【0351】
本開示の一実施例において、前記複数の送信アンテナのうち、前記ドップラシフト量が割り当てられる送信アンテナの数は、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで異なる。
【0352】
本開示の一実施例において、前記奇数番目の送信周期と前記偶数番目の送信周期とに、同一の前記ドップラシフト量が少なくとも一つ設定される。
【0353】
本開示の一実施例において、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記複数の送信アンテナを用いて前記送信信号が送信され、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記複数の送信アンテナのうち1つの送信アンテナを用いて前記送信信号が送信される。
【0354】
本開示の一実施例において、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記ドップラシフト量の各間隔は、ドップラ周波数軸上において等間隔であり、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記ドップラシフト量の各間隔は、ドップラ周波数軸上において不等間隔である。
【0355】
本開示の一実施例において、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナのそれぞれに対して前記ドップラシフト量が1つ割り当てられ、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記第1の送信アンテナに対して前記ドップラシフト量が1つ割り当てられ、前記第2の送信アンテナに対して前記ドップラシフト量が複数割り当てられる。
【0356】
本開示の一実施例において、奇数番目の送信周期及び偶数番目の送信周期の何れか一方の送信周期では、前記複数の送信アンテナに対して異なる前記ドップラシフト量が割り当てられ、前記奇数番目の送信周期及び前記偶数番目の送信周期の他方の送信周期では、前記複数の送信アンテナに対して同一の前記ドップラシフト量が割り当てられる。
【0357】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、複数の送信アンテナと、ドップラシフト量に対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備し、前記送信信号の送信に設定される前記ドップラシフト量の数、及び、前記多重送信に設定される前記ドップラシフト量の間隔の少なくとも一つは、前記送信信号が送信される送信周期毎に可変に設定される。
【0358】
本開示の一実施例において、前記ドップラシフト量の間隔は、等間隔である。
【0359】
本開示の一実施例において、前記ドップラシフト量の間隔が等間隔である送信周期と、前記ドップラシフト量の間隔が不等間隔である送信周期とを含む。
【産業上の利用可能性】
【0360】
本開示は、広角範囲を検知するレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0361】
10 レーダ装置
100 レーダ送信部
101 レーダ送信信号生成部
102 送信信号生成制御部
103 変調信号発生部
104 VCO
105 位相回転量設定部
106 ドップラシフト設定部
107 位相回転部
108 給電線路
109 送信アンテナ部
200 レーダ受信部
201 アンテナ系統処理部
202 受信アンテナ部
203 受信無線部
204 ミキサ部
205 LPF
206 信号処理部
207 AD変換部
208 ビート周波数解析部
209 ドップラ解析部
210 CFAR部
211 ドップラ多重分離/方向推定部