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特開2024-134979ポリアミド多孔膜、濾過膜モジュール、及び油水分離方法
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  • 特開-ポリアミド多孔膜、濾過膜モジュール、及び油水分離方法 図1
  • 特開-ポリアミド多孔膜、濾過膜モジュール、及び油水分離方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134979
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ポリアミド多孔膜、濾過膜モジュール、及び油水分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20240927BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/02
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045451
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122448
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】新谷 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴博
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006HA01
4D006HA02
4D006HA03
4D006HA41
4D006HA43
4D006HA61
4D006HA71
4D006HA82
4D006HA95
4D006JA01Z
4D006JA12A
4D006JA12B
4D006JA12C
4D006JA13C
4D006JA22C
4D006JA25C
4D006JA57Z
4D006JB05
4D006JB06
4D006JB08
4D006KE02Q
4D006KE06P
4D006KE06Q
4D006KE16Q
4D006LA06
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA31
4D006MA33
4D006MB01
4D006MB02
4D006MB06
4D006MB20
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC04
4D006MC05
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC30
4D006MC45
4D006MC47
4D006MC54
4D006MC55X
4D006MC61
4D006MC81
4D006NA05
4D006NA17
4D006NA18
4D006NA40
4D006NA64
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB14
4D006PB15
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】本発明は、水と油を含む混合液を油水分離するためのポリアミド多孔膜、及び当該ポリアミド多孔膜を用いた濾過膜モジュールを提供することを主な目的とする。さらに本発明は、前記濾過膜モジュールを用いた油水分離方法を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明のポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液の油水分離用のポリアミド多孔膜であって、前記ポリアミド多孔膜は、ポリアミド樹脂により形成されており、かつ20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油を含む混合液の油水分離用のポリアミド多孔膜であって、
前記ポリアミド多孔膜は、ポリアミド樹脂により形成されており、かつ
20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である、ポリアミド多孔膜。
【請求項2】
前記バブルポイント試験において、バーストバブルポイントが0.50~0.90MPaである、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項3】
前記油は、炭化水素油である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項4】
前記混合液は、エマルションである、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項5】
前記エマルションは、油中水型エマルションである、請求項4に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項6】
前記油中水型エマルション中の水滴は、平均水滴径が0.5~5μmである、請求項5に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項7】
油中水型エマルションの油水分離用であり、
イソパラフィン油を94重量%、水を1重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が1.2μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項8】
油中水型エマルションの油水分離用であり、
イソパラフィン油を85重量%、水を10重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が2.3μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項9】
油中水型エマルションの油水分離用であり、
パラフィン油を94重量%、水を1重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が1.3μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項10】
油中水型エマルションの油水分離用であり、
パラフィン油を85重量%、水を10重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が2.4μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項11】
前記ポリアミド多孔膜は、ポリアミド中空糸膜である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項12】
前記ポリアミド樹脂は、ポリアミド6である、請求項1に記載のポリアミド多孔膜。
【請求項13】
モジュールケースに、請求項1~12のいずれかに記載のポリアミド多孔膜が収容されてなる、濾過膜モジュール。
【請求項14】
請求項13に記載の濾過膜モジュールを用いて、水と油を含む混合液を油水分離する、油水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と油を含む混合液の油水分離用のポリアミド多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の切削、研磨などの機械加工で使用される油、及び各種の機械、装置から排出される油としては、例えば、切削油、洗浄用油、潤滑油、機械油、及びコンプレッサー油などが挙げられる。これら油は使用過程で水が混入することがあり、水を含むこれら油(以下、「含水油」ともいう。)は再利用するために水を除去することが必要である。
【0003】
また、原油、ビチューメン、及び天然ガスなどを採掘する際に発生する、油及び濁質を含んだ油水混合物(以下、「随伴水」ともいう。)は、環境保全等の観点から油及び濁質の含有量を一定値以下まで低減してから放流する、あるいは油田、ガス田、帯水層等に再圧入することが一般的である。特に、水不足の地域では、水攻法で用いる水を十分に確保できないことから、随伴水から油及び濁質を除去した処理水を圧入水として再利用するケースが増えている。
【0004】
含水油から水を除去する方法、及び随伴水から油を除去する方法としては、通常、加熱法、及び液滴を粗大化して比重差によって油水分離するコアレッサー等が用いられているが、加熱法は分離コストが高く、コアレッサーは装置が大型化するため広いスペースが必要になるというデメリットがある。そのため、低コスト、低エネルギー、かつ省スペースで高度に油水分離できる技術の開発が望まれている。
【0005】
一方、膜分離処理技術は、液相および気相において種々の分子量を有する化学種の分離に適用することができ、低コスト、低エネルギー、かつ省スペースで分離処理できることから、各種工業分野において分離工程に広く利用されている。
【0006】
膜分離処理技術に利用される分離膜としては、成型加工が比較的容易であり、安価な大量製造プロセスが確立しやすいこと、軽量で柔軟性があって取り扱い易いことから、高分子膜が主流となっており、特に、有機溶剤に対する耐性に優れるポリアミド分離膜が好ましく用いられている。
【0007】
例えば、特許文献1には、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜であって、架橋ポリアミドを含む半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層と、前記半透膜層及び前記支持層の間に介在する中間層とを備える複合中空糸膜が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、高い透水性能または高い透湿性能と高い選択率とを有する中空糸膜であって、70重量%以上のポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610からなる群より選択される少なくとも1種の脂肪族ポリアミドを含む中空糸膜が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、高い透水性および除去率を実現できる分離膜であって、特定の化学構造のポリアミドを含有する非対称半透膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2020/175205号公報
【特許文献2】特開2015-198999号公報
【特許文献3】特開2014-144438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらの従来のポリアミド分離膜は、一般的に、浄水分野で細菌やウィルスの除去、工業分野で蛋白質や酵素等の熱に弱い物質の分離又は濃縮、医療分野で人工透析、医薬品や医療用水製造時のウィルスや蛋白質の除去、超純水の製造、電着塗料の回収、製糸・パルプ工場の汚水処理、ビル排水の処理、果汁の清澄化、生酒の製造、チーズホエーの濃縮・脱塩、濃縮乳の製造、卵白の濃縮等に用いられており、分離膜の特性上、前記含水油や前記随伴水などの水と油を含む混合液の油水分離には用いられていなかった。
【0012】
特に、前記含水油や前記随伴水などの水と油を含む混合液が、エマルションである場合、従来のポリアミド分離膜では、前記エマルション中の水滴又は油滴を分離除去することは、分離膜の特性上、不可能であると考えられていた。
【0013】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、水と油を含む混合液の油水分離用のポリアミド多孔膜、及び当該ポリアミド多孔膜を用いた濾過膜モジュールを提供することを主な目的とする。さらに本発明は、前記濾過膜モジュールを用いた油水分離方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液を高度に油水分離できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.水と油を含む混合液の油水分離用のポリアミド多孔膜であって、
前記ポリアミド多孔膜は、ポリアミド樹脂により形成されており、かつ
20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である、ポリアミド多孔膜。
項2.前記バブルポイント試験において、バーストバブルポイントが0.50~0.90MPaである、項1に記載のポリアミド多孔膜。
項3.前記油は、炭化水素油である、項1又は2に記載のポリアミド多孔膜。
項4.前記混合液は、エマルションである、項1~3のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項5.前記エマルションは、油中水型エマルションである、項4に記載のポリアミド多孔膜。
項6.前記油中水型エマルション中の水滴は、平均水滴径が0.5~5μmである、項5に記載のポリアミド多孔膜。
項7.油中水型エマルションの油水分離用であり、
イソパラフィン油を94重量%、水を1重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が1.2μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、項1~6のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項8.油中水型エマルションの油水分離用であり、
イソパラフィン油を85重量%、水を10重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が2.3μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、項1~7のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項9.油中水型エマルションの油水分離用であり、
パラフィン油を94重量%、水を1重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が1.3μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、項1~8のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項10.油中水型エマルションの油水分離用であり、
パラフィン油を85重量%、水を10重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が2.4μmである油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が、80%以上である、項1~9のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項11.前記ポリアミド多孔膜は、ポリアミド中空糸膜である、項1~10のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項12.前記ポリアミド樹脂は、ポリアミド6である、項1~11のいずれかに記載のポリアミド多孔膜。
項13.モジュールケースに、項1~12のいずれかに記載のポリアミド多孔膜が収容されてなる、濾過膜モジュール。
項14.項13に記載の濾過膜モジュールを用いて、水と油を含む混合液を油水分離する、油水分離方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリアミド多孔膜は、20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、水と油を含む混合液を高度に油水分離できる。そのため、本発明のポリアミド多孔膜を用いれば、低コスト、低エネルギー、かつ省スペースにて、前記含水油及び前記随伴水を高度に油水分離できる。また、本発明のポリアミド多孔膜を用いれば、前記含水油及び前記随伴水が、エマルションであっても、さらには液滴が非常に小さいエマルションであっても高度に油水分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】バブルポイントを測定する際に使用する装置の模式図である。
図2】油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定する際に使用する装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ポリアミド多孔膜
本発明のポリアミド多孔膜は、ポリアミド樹脂により形成されたポリアミド多孔膜であって、20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であることを特徴とする。以下、本発明のポリアミド多孔膜について詳述する。
【0019】
[形成材料]
本発明のポリアミド多孔膜を形成するポリアミド樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリアミドのホモポリマー、ポリアミドの共重合体、又はこれらの混合物が挙げられる。ポリアミドのホモポリマーとしては、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T等が挙げられる。また、ポリアミドの共重合体としては、具体的には、ポリアミドとポリテトラメチレングリコール又はポリエチレングリコール等のポリエーテルとの共重合体等が挙げられる。また、ポリアミドの共重合体におけるポリアミド成分の比率については、特に制限されないが、例えば、ポリアミド成分が占める割合として、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上が挙げられる。ポリアミドの共重合体においてポリアミド成分の比率が上記範囲を充足することにより、優れた耐久性を備えさせることができる。ポリアミド樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0020】
これらのポリアミド樹脂の中でも、ポリアミド6は、本発明で規定するイニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるポリアミド多孔膜を製造しやすく、また、液体透過性を向上させやすいため、本発明のポリアミド多孔膜の形成樹脂として好ましく用いられる。
【0021】
ポリアミド樹脂は、架橋の有無は問わないが、製造コスト低減の観点から、架橋されていないポリアミド樹脂が好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂の相対粘度については、特に制限されないが、例えば、2.0~7.0、好ましくは3.0~6.0、より好ましくは2.0~4.0が挙げられる。このような相対粘度を備えることにより、ポリアミド多孔膜の製造時に、成形性や相分離の制御性が向上し、ポリアミド多孔膜に対して優れた形状安定性を備えさせることが可能になる。ここで、相対粘度とは、96%硫酸100mLに1gのポリアミド樹脂を溶解した溶液を用い、25℃でウベローデ粘度計によって測定した値を指す。
【0023】
本発明のポリアミド多孔膜は、前記ポリアミド樹脂の他に本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、フィラーが含まれていてもよい。フィラーを含むことにより、ポリアミド多孔膜の強度、伸度、弾性率を向上させることができる。特に、フィラーを含むことにより、濾過の際に高圧をかけても、ポリアミド多孔膜が変形し難くなるという効果も得られる。添加するフィラーの種類については、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等の繊維状フィラー;タルク、ハイドロタルサイト、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、シリカ、黒鉛等の非繊維フィラー等の無機材料が挙げられる。これらのフィラーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのフィラーの中でも、好ましくは、タルク、ハイドロタルサイト、シリカ、クレー、酸化チタン、より好ましくは、タルク、クレーが挙げられる。フィラーの含有量については、特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂100重量部当たり、フィラーが5~100重量部、好ましくは10~75重量部、より好ましくは25~50重量部が挙げられる。このような含有量でフィラーを含むことにより、ポリアミド多孔膜の強度、伸度、弾性率の向上を図ることができる。
【0024】
本発明のポリアミド多孔膜は、孔径制御や膜性能の向上等のために、必要に応じて、増粘剤、酸化防止剤、表面改質剤、滑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0025】
[形状]
本発明のポリアミド多孔膜の形状については、特に制限されず、中空糸膜、平膜等の任意の形状から選択することができるが、中空糸膜は、モジュールの単位体積当たりの濾過面積が多く、効率的に濾過処理を行うことが可能になるので、本発明において好適である。
【0026】
本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合、その外径については、備えさせる水又は油の透過性等に応じて適宜設定されるが、モジュールに充填した際の有効膜面積、膜強度、中空部を流れる流体の圧損、座屈圧との関係を鑑みた場合、多孔膜の外径として、400μm以上、好ましくは450~4000μm、より好ましくは500~3500μmが挙げられる。また、本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合、その内径については、特に制限されないが、例えば、100~3000μm、好ましくは200~2500μm、より好ましくは300~2000μm、更に好ましくは300~1500μmが挙げられる。本発明において多孔膜の外径及び内径は、5本の多孔膜について光学顕微鏡にて倍率200倍で観察し、各多孔膜の外径及び内径(ともに最大径となる箇所)を測定し、それぞれの平均値を算出することにより求められる値である。
【0027】
本発明のポリアミド多孔膜の厚みについては、ポリアミド多孔膜の形状、液体透過性等に応じて適宜設定されるが、例えば、50~600μm、好ましくは100~350μmが挙げられる。本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合、その厚みは、外径から内径を引いた値を2で除することにより算出される値である。
【0028】
[バブルポイント]
本発明のポリアミド多孔膜は、20℃において2-プロパノール中で空気圧を加えたバブルポイント試験において、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である。イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である本発明のポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液を高度に油水分離することができる。また、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である本発明のポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液がエマルションであっても、さらには平均液滴径が0.5~5μmである非常に小さい液滴を含むエマルションであっても、高度に油水分離することができる。本発明のポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液、特にエマルションをより高度に油水分離する観点から、イニシャルバブルポイントが、好ましくは0.50~0.80MPa、より好ましくは0.55~0.80MPa、更に好ましくは0.60~0.80MPa、より更に好ましくは0.70~0.80MPaである。
【0029】
また、本発明のポリアミド多孔膜は、前記バブルポイント試験において、水と油を含む混合液、特にエマルションをより高度に油水分離する観点、及び孔の目詰まりを抑制する観点から、バーストバブルポイントが、好ましくは0.50~0.90MPa、より好ましくは0.55~0.85MPa、更に好ましくは0.60~0.85MPa、より更に好ましくは0.70~0.85MPa以下、特に好ましくは0.70~0.80MPaである。
【0030】
前記イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントを有する本発明のポリアミド多孔膜は、後述するポリアミド多孔膜の製造方法によって製造することができる。
【0031】
本発明において、バブルポイント試験とは、最大孔径を求めるために一般的に用いられる測定法であり、測定が簡便で迅速に行えることから孔径を推定するために広く使われている。バブルポイント試験は、JIS規格K3832にその原理・方法が記載されている。
【0032】
本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合には、イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントは、図1の模式図に示される装置を用いて、以下の手順で測定される値である。先ず、イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントを測定するための中空糸膜ミニモジュール6を作製する。具体的には、中空糸膜10本を20cm長に切断し、これらを揃えて束ねてU字型に曲げて、中空糸膜の開口部の側の端部1cm程度を熱シールし、中空部を塞ぎ、中空糸膜束を準備する。次に、長さ5cmの空気配管用軟質ナイロンチューブ(外径8mm、内径6mm)を用意し、その片方の開口部をシリコン栓で塞いで栓をする。次に、当該ナイロンチューブのシリコン栓を付けた端部側を下にした状態にして、当該ナイロンチューブ内に、高さ4cm程度までポッティング剤(ポリウレタン樹脂)を導入する。その後、前記中空糸膜束を熱シールした方の端からナイロンチューブ内に挿入して、ポッティング剤の中に前記中空糸膜束の一部を浸漬させ、ポッティング剤が硬化するまで静置する。硬化後、中空糸膜束を熱シールした部位よりも上部で切断し、中空糸膜の中空部を開口させる。この時、ポッティング剤が中空部に侵入していないか、中空糸膜間にポッティング剤が満たされているかを目視で確認する。問題なく中空が維持されていることを確認した後に、イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントの測定に供する。次に、図1の模式図に示される装置を用いて、中空糸膜のイニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントを測定する。具体的には、ガラス容器7に2-プロパノールを導入し、そこに前記で作製した中空糸膜ミニモジュール6を浸漬し、数秒間減圧にして孔への液体充填を行う。その後、2-プロパノールに浸漬された中空糸膜ミニモジュール6を図1のようにセットし、中空糸膜内部に0.4MPa/分で空気を送り増圧していく。最初に中空糸膜から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをイニシャルバブルポイントとする。また、そのまま増圧を続け、中空糸膜のおよそ全体から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをバーストバブルポイントとする。
【0033】
また、本発明のポリアミド多孔膜が平膜である場合には、イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントは、以下の手順で測定される値である。直径40mm以上の円形に切り出した平膜を2-プロパノールに浸漬させ、数秒間減圧にして孔への液体充填を行う。次いで、平膜を取り出し、2-プロパノールで濡れた状態で直径40mmのOリング及びメッシュで平膜の両面を挟み、これらを樹脂製の治具で固定する。その後、治具片面に空圧配管を接続し、平膜及び治具が試験液に浸漬された状態で空圧配管を通じて平膜内部に0.4MPa/分で空気を送り増圧していく。最初に平膜から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをイニシャルバブルポイントとする。そのまま増圧を続け、平膜の全体から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをバーストバブルポイントとする。
【0034】
[水滴の除去率]
本発明のポリアミド多孔膜は、前記のとおり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、平均水滴径が0.5~5μm、さらには0.5~3μmである非常に小さい水滴を含む油中水型エマルションであっても高度に水滴を分離除去できるという特徴を有する。
【0035】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、イソパラフィン油を94重量%、水を1重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が1.2μmである水滴を含む油中水型エマルション(A)を濾過したときの水滴の除去率が、80%以上であり、さらには85%以上、90%以上、又は95%以上であり得る。前記イソパラフィン油としては、例えば、スタンダード社製のISOPAR Gが挙げられる。
【0036】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、イソパラフィン油を85重量%、水を10重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が2.3μmである水滴を含む油中水型エマルション(B)を濾過したときの水滴の除去率が、80%以上であり、さらには85%以上、又は90%以上であり得る。前記イソパラフィン油としては、前記で例示したものが挙げられる。
【0037】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、パラフィン油を94重量%、水を1重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が1.3μmである水滴を含む油中水型エマルション(C)を濾過したときの水滴の除去率が、80%以上であり、さらには85%以上、90%以上、又は95%以上であり得る。前記パラフィン油としては、例えば、スタンダード社製のNORPAR12が挙げられる。
【0038】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、パラフィン油を85重量%、水を10重量%、及びHLB値が7である界面活性剤を5重量%含有し、かつ平均水滴径が2.4μmである水滴を含む油中水型エマルション(D)を濾過したときの水滴の除去率が、80%以上であり、さらには85%以上、又は90%以上、であり得る。前記パラフィン油としては、前記で例示したものが挙げられる。
【0039】
前記油中水型エマルション(A)~(D)は、一般的な油中水型エマルションに比べて平均水滴径が非常に小さいものであり、従来のポリアミド多孔膜を用いた場合には、ほとんど水滴を分離除去することができないものである。しかし、本発明のポリアミド多孔膜は、前記のとおり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、このような平均水滴径が非常に小さい水滴を含む油中水型エマルションであっても高度に水滴を分離除去することができる。
【0040】
前記油中水型エマルション(A)~(D)において、液滴の最大径は特に制限されないが、例えば、0.1~200μm程度であり、1~100μm、1~50μm、1~20μm、1~10μm、1~5μm、2~5μm、3~5μm、又は4~5μmであってもよい。また、前記油中水型エマルション(A)~(D)において、液滴の最小径は特に制限されないが、例えば、0.01~10μm程度であり、0.05~5μm、0.1~3μm、0.1~2μm、0.1~1μm、又は0.1~0.5μmであってもよい。
【0041】
前記油中水型エマルション(A)~(D)は、イソパラフィン油又はパラフィン油、HLB値が7である界面活性剤、及び純水を混合した混合液を、30分間超音波処理して調製したものである。
【0042】
前記HLB値が7である界面活性剤は、HLB値が4.3である界面活性剤(E)とHLB値が15である界面活性剤(F)を使用し、下記式に基づいてHLB値を7に調整した2種類の界面活性剤の混合液である。
HLB= N1 HLB×W1+N2 HLB×W2
(NHLB:混合液のHLB値、N1 HLB:界面活性剤(E)のHLB値、W1:界面活性剤(E)の重量分率、N2 HLB:界面活性剤(F)のHLB値、W2:界面活性剤(F)の重量分率)
なお、前記HLB(親水親油バランス)値とは、界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求められる値である。次式において「界面活性剤中に含まれる親水基」としては、例えば、水酸基、及びエチレンオキシ基が挙げられる。
HLB値=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の式量の総和)/(界面活性剤の分子量)]
【0043】
本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合には、前記水滴の除去率は、内圧式濾過によって測定される値であり、圧力1barで油中水型エマルションをクロスフローモジュール内に通液させ、中空糸膜を透過した透過液を得て、透過液中の水の含有率と油中水型エマルション中の水の含有率を用いて、下記式により算出する。
水滴の除去率(%)=100-(透過液中の水の含有率/油中水型エマルション中の水の含有率)×100
【0044】
本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合には、前記水滴の除去率は、具体的には、以下の手順で測定される値である。まず、中空糸膜20本を30cm長に切断し、これらを揃えて束ねたものを準備する。次に、外径12.7mm、内径9.5mm、長さ53mmのポリブチレンテレフタレート(PBT)チューブを準備し、当該チューブの一方の端部開口に、さらに内径12mm、長さ約50mmのシリコーンチューブを15mm程度挿入して連結させ、シリコーンチューブのPBTチューブに挿入した側と反対側に長さ20mm程度のゴム栓を挿入し、当該一方の端部開口の栓をする。次に、当該連結チューブの、ゴム栓をした方とは反対側の開口部から2液混合型のエポキシ樹脂を注入しチューブ内側空間を当該エポキシ樹脂で充填する。その後、前記準備した中空糸膜を束ねたものの片端を、中空部にエポキシ樹脂が浸入しないように熱シールして目止めし、前記エポキシ樹脂で充填されたチューブ内に、当該端部先端がゴム栓に触れるまで挿入し、そのままの状態でエポキシ樹脂を硬化させる。次いで、硬化したエポキシ樹脂部分のゴム栓側の領域をチューブごと切断して中空部を開口する。もう一方の片端についても同様の操作を行い、中空糸膜の両端部の中空部が開口したクロスフローモジュールを作製する。
次に、作製したクロスフローモジュール10を図2に示す内圧式分離処理ラインに接続し、送液循環ポンプ11によって連続してクロスフローモジュール10に前記油中水型エマルションを通液させる。モジュールにおいて、一次側圧力計14の圧力と二次側圧力計15の圧力をレギュレーター12により調節し、一次側圧力計14の圧力と二次側圧力計15の圧力との算術平均値が1barとなるようにする。モジュール内を通過する前記油中水型エマルションのうち、中空糸膜を透過したものは、前記油中水型エマルションから分離された透過液として回収し、残りは再び分離処理ラインに循環させる。循環開始2時間後から4時間後までにクロスフローモジュールから流出した透過液を受け皿16により回収する。得られた透過液中の水の含有率は、カールフィッシャー水分計を用いて測定して得られたサンプル(透過液)中の水分量とサンプル量から算出する。前記油中水型エマルション中の水の含有率も、カールフィッシャー水分計を用いて前記と同様の方法で算出する。そして、以下の式から前記水滴の除去率を算出する。
水滴の除去率(%)=100-(透過液中の水の含有率/油中水型エマルション中の水の含有率)×100
【0045】
本発明のポリアミド多孔膜が平膜である場合には、前記水滴の除去率は、デッドエンド式濾過によって測定される値であり、以下の手順で測定される値である。高圧ポンプを接続した平膜クロスフロー試験機(例えば、GEウォーターテクノロジーズ社製のSepa-CF平膜試験セル)を用い、平膜形状のポリアミド多孔膜を所定の大きさにカットしてセルに固定し、25℃の調製した前記油中水型エマルションを流して所定の圧力で透過した透過液を回収する。得られた透過液中の水の含有率及び前記油中水型エマルション中の水の含有率を前記と同様の方法で算出し、前記式から前記水滴の除去率を算出する。
【0046】
[透過流量]
本発明のポリアミド多孔膜は、前記のとおり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、前記水滴の除去率が高いという特徴を有するが、その上、油透過性に優れ、かつ濾過操作中に油透過性が低下し難いという特徴も有する。
【0047】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(A)を濾過したとき、濾過開始5分後の透過流量が、例えば、200L/(m2・bar・h)以上であり、さらには250L/(m2・bar・h)以上、又は300L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始5分後の透過流量の上限値は、通常、350L/(m2・bar・h)程度である。
【0048】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(A)を濾過したとき、濾過開始60分後の透過流量が、例えば、200L/(m2・bar・h)以上であり、さらには230L/(m2・bar・h)以上、又は250L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始60分後の透過流量の上限値は、通常、300L/(m2・bar・h)程度である。
【0049】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(A)の濾過操作中における透過性に関して、下記式にて算出される、濾過開始5分後の透過流量に対する濾過開始60分後の透過流量の保持率が、例えば、85%以上であり、さらには90%以上であり得る。
保持率(%)=100-[(濾過開始5分後の透過流量-濾過開始60分後の透過流量)/濾過開始5分後の透過流量]×100
【0050】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(B)を濾過したとき、濾過開始5分後の透過流量が、例えば、200L/(m2・bar・h)以上であり、さらには250L/(m2・bar・h)以上、又は300L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始5分後の透過流量の上限値は、通常、350L/(m2・bar・h)程度である。
【0051】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(B)を濾過したとき、濾過開始60分後の透過流量が、例えば、170L/(m2・bar・h)以上であり、さらには180L/(m2・bar・h)以上、又は190L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始60分後の透過流量の上限値は、通常、250L/(m2・bar・h)程度である。
【0052】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(B)の濾過操作中における透過性に関して、前記式にて算出される濾過開始5分後の透過流量に対する濾過開始60分後の透過流量の保持率が、例えば、55%以上であり、さらには65%以上、又は80%以上であり得る。
【0053】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(C)を濾過したとき、濾過開始5分後の透過流量が、例えば、200L/(m2・bar・h)以上であり、さらには250L/(m2・bar・h)以上、又は300L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始5分後の透過流量の上限値は、通常、350L/(m2・bar・h)程度である。
【0054】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(C)を濾過したとき、濾過開始60分後の透過流量が、例えば、190L/(m2・bar・h)以上であり、さらには200L/(m2・bar・h)以上、又は240L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始60分後の透過流量の上限値は、通常、300L/(m2・bar・h)程度である。
【0055】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(C)の濾過操作中における透過性に関して、前記式にて算出される濾過開始5分後の透過流量に対する濾過開始60分後の透過流量の保持率が、例えば、70%以上であり、さらには75%以上、又は80%以上であり得る。
【0056】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(D)を濾過したとき、濾過開始5分後の透過流量が、例えば、200L/(m2・bar・h)以上であり、さらには250L/(m2・bar・h)以上、又は280L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始5分後の透過流量の上限値は、通常、300L/(m2・bar・h)程度である。
【0057】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(D)を濾過したとき、濾過開始60分後の透過流量が、例えば、180L/(m2・bar・h)以上であり、さらには190L/(m2・bar・h)以上、又は200L/(m2・bar・h)以上であり得る。なお、濾過開始60分後の透過流量の上限値は、通常、250L/(m2・bar・h)程度である。
【0058】
本発明のポリアミド多孔膜の一実施態様として、本発明のポリアミド多孔膜は、前記油中水型エマルション(D)の濾過操作中における透過性に関して、前記式にて算出される濾過開始5分後の透過流量に対する濾過開始60分後の透過流量の保持率が、例えば、70%以上であり、さらには75%以上、又は80%以上であり得る。
【0059】
本発明のポリアミド多孔膜が中空糸膜である場合には、前記透過流量は、内圧式濾過によって測定される値であり、前記水滴の除去率の測定手順と同様の測定手順で測定される値である。なお、濾過開始5分後の透過流量は、循環開始後5~6分までにクロスフローモジュールから流出した透過液を回収し、得られた透過液の重量を測定し、以下の式から透過流量(L/(m2・bar・h))を算出する。また、濾過開始60分後の透過流量は、循環開始後60~61分までにクロスフローモジュールから流出した透過液を回収し、得られた透過液の重量を測定し、以下の式から透過流量(L/(m2・bar・h))を算出する。
透過流量=透過液の重量(g)/[中空糸膜の内径(m)×3.14×中空糸膜の有効 濾過長さ(m)×中空糸膜の本数(本)×(圧力(bar)×時間(h)× 透過液比重(g/L)]

中空糸膜の有効濾過長さ:クロスフローモジュールにおいて中空糸膜の外表面のうちエポキシ樹脂に被覆されていない部分の長さである。
透過液比重は、JIS Z 8804:2012(液体の密度及び比重の測定方法)の「比重瓶による密度及び比重の測定方法」に基づいて測定する。
【0060】
本発明のポリアミド多孔膜が平膜である場合には、前記透過流量は、デッドエンド式濾過によって測定される値であり、前記水滴の除去率の測定手順と同様の測定手順で測定される値である。なお、濾過開始5分後の透過流量は、濾過開始後5~6分までに透過した透過液を回収し容量(L)測定し、下記算出式に従って透過流量(L/(m2・bar・h))を算出する。また、濾過開始60分後の透過流量は、濾過開始後60~61分までに透過した透過液を回収し容量(L)を測定し、下記算出式に従って透過流量(L/(m2・bar・h))を算出する。
透過流量=平膜を透過した透過液の容量(L)/[平膜の面積(m2)×{(圧力(b ar)}×時間(h)]
【0061】
[用途]
本発明のポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液を油水分離するために用いられるものである。従来のポリアミド多孔膜は、水と油を含む混合液を油水分離することができないが、本発明のポリアミド多孔膜は、前記のとおり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、水と油を含む混合液を高度に油水分離することができる。
【0062】
前記混合液は、少なくとも水と油を含むものであれば特に制限されず、水と油以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、金属の切削、研磨などの機械加工で使用される油、及び各種の機械、装置から排出される油、例えば、切削油、洗浄用油、潤滑油、機械油、及びコンプレッサー油などに含まれる各種添加剤(例えば、界面活性剤など);原油、ビチューメン、及び天然ガスなどを採掘する際に発生する随伴水に含まれる濁質(例えば、鉱物及び金属塩など)などが挙げられる。
【0063】
前記混合液中の油は特に制限されず、例えば、金属の切削、研磨などの機械加工で使用される油、及び各種の機械、装置から排出される油、具体的には、切削油、洗浄用油、潤滑油、機械油、及びコンプレッサー油など、前記随伴水に含まれる油、食用油などが挙げられるが、好ましくは炭化水素油であり、好ましくは炭素数が15~35程度の(液状)炭化水素油である。前記炭化水素油としては、例えば、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、及び芳香族系炭化水素などが挙げられる。前記炭化水素油は、合成油であってもよく、石油由来、植物由来、又は動物由来のものであってもよい。これらの炭化水素油は、1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0064】
前記混合液が、主に油を含有する場合、油の含有量は、例えば、70~99重量%程度であり、好ましくは80~99重量%、より好ましくは85~95重量%であり、水の含有量は、油とその他の成分を除いた残部となる量である。
【0065】
前記混合液が、主に水を含有する場合、水の含有量は、例えば、70~99重量%程度であり、好ましくは80~99重量%、より好ましくは85~95重量%であり、油の含有量は、水とその他の成分を除いた残部となる量である。
【0066】
前記混合液は、エマルションであってもよい。本発明のポリアミド多孔膜は、前記のとおり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、前記混合液がエマルションであっても、エマルションから水滴又は油滴を高度に分離除去することができ、また、エマルションを短時間で油水分離処理することができる。
【0067】
前記エマルションは、少なくとも水、油、及び界面活性剤を含むものであり、油中水型(W/O型)エマルションであってもよく、水中油型(O/W型)エマルションであってもよいが、好ましくは油中水型エマルションである。
【0068】
前記油中水型エマルションとしては、例えば、金属の切削、研磨などの機械加工で使用される油に、金属を洗浄するための界面活性剤を含む洗浄水が混入してエマルション化したものなどが挙げられ、具体的には、自動車部品工場、機械部品製造工場、及び建築金物製造工場などで排出されるエマルション化した含水油などが挙げられる。
【0069】
前記エマルション中の液滴の平均液滴径は特に制限されないが、例えば、0.05~100μm程度であり、好ましくは0.5~50μm、より好ましくは0.5~30μm、更に好ましくは0.5~10μm、より更に好ましくは0.5~5μmである。また、前記エマルション中の液滴の最大径は特に制限されないが、例えば、0.1~200μm程度であり、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μm、更に好ましくは1~20μm、より更に好ましくは1~10μmである。また、前記エマルション中の液滴の最小径は特に制限されないが、例えば、0.01~10μm程度であり、好ましくは0.05~5μm、より好ましくは0.1~1μm、更に好ましくは0.1~0.5μmである。本発明のポリアミド多孔膜は、前記のとおり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、エマルション中の液滴の平均液滴径が極めて小さい場合でも、当該エマルションから液滴を高度に分離除去することができる。
【0070】
本発明において、エマルション中の液滴の平均液滴径、最小径、及び最大径は、粒子径測定装置を用いて粒度分布を測定し、測定により得られた粒度分布チャートから求められる値である。具体的には、以下の手順で測定される値である。
まず、エマルション中の水と油を蒸留により分離して、分離した油の屈折率を屈折計で測定する。水の屈折率は、1.33とする。
そして、粒子径測定装置を用いて、油中水型エマルションの場合、分離した油を用いてバックグラウンドを測定し、水中油型エマルションの場合、水を用いてバックグラウンドを測定する。次いで、測定に用いる油中水型エマルション又は水中油型エマルションでセル内を洗浄する。そして、分離した油の屈折率及び水の屈折率を測定装置に入力し、また、液滴の形状は非球形粒子と設定して測定装置に入力し、セル内の温度を25℃に調整する。測定時間は120秒とし、測定によって粒度分布チャートを得る。得られた粒度分布チャートにおいて、液滴径の粒度分布範囲が変化しなくなるまで(粒度分布上の最小径と最大径の値が変化しなくなるまで)、前記操作を30分間隔で繰り返す。液滴径の粒度分布範囲が変化しなった時の粒度分布チャートにおける平均液滴径(メジアン径D50)、最小径、及び最大径を、エマルション中に存在する液滴の平均液滴径、最小径、及び最大径とする。
【0071】
本発明のポリアミド多孔膜は、後述する濾過膜モジュールに組み込んで使用することが好ましい。
【0072】
また、本発明のポリアミド多孔膜は、単独で自立膜として提供されてもよく、また、精密ろ過膜及び限外ろ過膜等の支持体上に積層された形状であってもよい。かかる支持体の素材としては、有機溶剤に耐性があることが好ましく、具体的には、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン等の高分子素材;焼結金属、セラミック等の無機素材等が挙げられる。
【0073】
2.ポリアミド多孔膜の製造方法
本発明のポリアミド多孔膜の製造方法については、特に制限されないが、好適な一例として下記第1工程及び第2工程を含む製造方法が挙げられる。下記第1工程及び第2工程を含む製造方法は、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上である本発明のポリアミド多孔膜を製造しやすいため好ましく採用される。
第1工程:スルホラン及びジメチルスルホンを含み、スルホランに対するジメチルスルホンの重量比(ジメチルスルホン/スルホラン)が0.8~3.0である有機溶媒に、100℃以上の温度でポリアミド樹脂を溶解させた製膜原液を調製する。
第2工程:前記製膜原液を所定形状にて100℃以下の凝固浴中に押し出すことにより、ポリアミド樹脂を膜状に凝固させる。
【0074】
以下、前記第1工程及び第2工程について工程毎に詳述する。
【0075】
[第1工程]
第1工程では、スルホラン及びジメチルスルホンを含み、スルホランに対するジメチルスルホンの重量比(ジメチルスルホン/スルホラン)が0.8~3.0である有機溶媒に、100℃以上の温度でポリアミド樹脂を溶解させた製膜原液を調製する。スルホランに対するジメチルスルホンの重量比(ジメチルスルホン/スルホラン)は、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるポリアミド多孔膜を製造し易くする観点から、好ましくは1.5~3.0、より好ましくは2.0~3.0、更に好ましくは2.2~2.8である。
【0076】
また、第1工程で調製する製膜原液には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、スルホラン及びジメチルスルホン以外の有機溶媒が含まれていてもよい。
【0077】
製膜原液中のポリアミド樹脂の濃度としては、特に制限されないが、例えば、15~40重量%であり、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるポリアミド多孔膜を製造し易くする観点から、好ましくは25~35重量%、より好ましくは25~30重量%、更に好ましくは27~30重量%である。
【0078】
また、第1工程において、ポリアミド樹脂を前記有機溶媒に溶解するに当たり、溶媒の温度を100℃以上にしておくことが必要である。具体的には、調製される製膜原液の相分離温度の10~50℃高い温度、好ましくは20~40℃高い温度で溶解させることが望ましい。製膜原液の相分離温度とは、ポリアミド樹脂と前記有機溶媒を十分に高い温度で混合したものを徐々に冷却し、液-液相分離又は結晶析出による固-液相分離が起こる温度を指す。相分離温度は、ホットステージを備えた顕微鏡等を使用することにより測定することができる。
【0079】
第1工程において、ポリアミド樹脂を前記有機溶媒に溶解させる際の温度条件は、使用するポリアミド樹脂の種類や有機溶媒の種類に応じて、前述する指標に従って100℃以上の温度域で適宜設定すればよいが、好ましくは120~250℃、より好ましくは140~220℃、更に好ましくは160~200℃が挙げられる。
【0080】
また、製膜原液には、ポリアミド多孔膜の孔径制御や性能向上等のために、必要に応じて、フィラー、増粘剤、界面活性剤、結晶核剤、滑剤等の添加剤を添加してもよい。
【0081】
第1工程で調製された製膜原液は、その温度のまま(即ち、100℃以上の状態)で第2工程に供される。
【0082】
[第2工程]
第2工程では、前記第1工程で調製した製膜原液を所定形状にて100℃以下の凝固浴中に押し出すことにより、ポリアミド樹脂を膜状に凝固させる。
【0083】
凝固液としては、従来公知の凝固液が使用できる。凝固液として、例えば、製膜原液で使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液、又は、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液を使用することができる。
【0084】
製膜原液で使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液としては、具体的には、25℃以下の温度にて前記製膜原液に使用した有機溶媒と相溶し、且つ沸点以下の温度にてポリアミド樹脂を溶解させる溶媒、を含む凝固液が挙げられる。より具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、スルホラン、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、及びこれらの20重量%以上を含む水溶液が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、及びポリエチレングリコール200よりなる群から選択される少なくとも1種、並びにこれらを25~75重量%の割合で含む水溶液;更に好ましくは、グリセリン、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及びプロピレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種、並びにこれらの少なくとも1種を40~80重量%(好ましくは40~60重量%)の割合で含む水溶液が挙げられる。
【0085】
製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液としては、50℃以下の温度にて前記製膜原液で使用した有機溶媒と相溶するが、沸点以下又は200℃以下の温度にてポリアミド樹脂を溶解させない溶媒が挙げられる。より具体的には、水、水含有量が80重量%以上の水溶液等の水性溶媒;1-プロパノール、2-プロパノール、イソブタノール等の1価低級アルコール類;平均分子量300以上のポリエチレングリコール、平均分子量400以上のポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリアセチン、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールアセテート類等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、平均分子量300~1000のポリエチレングリコール、平均分子量400~1000のポリプロピレングリコール、トリアセチン、トリエチレングリコールモノメチルエーテル;より好ましくは平均分子量300~700のポリエチレングリコール;更に好ましくは平均分子量400~600のポリエチレングリコールが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明において、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの平均分子量は、JIS K 1557-6:2009「プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール 試験方法-第6部:近赤外(NIR)分光法による水酸基価の求め方」に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出された数平均分子量である。
【0086】
凝固液として、製膜原液で使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液を使用した場合は、得られるポリアミド多孔膜の当該溶媒と接触した面側表面の細孔径を比較的小さくすることができる。一方、凝固液として、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液を使用した場合は、得られるポリアミド多孔膜の当該溶媒と接触した面側表面の細孔径を比較的大きくすることができる。
【0087】
また、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液には、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液が混合されていてもよい。当該混合する場合、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液の含有量としては、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下が挙げられる。
【0088】
ポリアミド多孔膜として中空糸膜を形成する場合であれば、第2工程は、二重管構造の中空糸製造用二重管状ノズルを用い、外側の環状ノズルから前記製膜原液を吐出すると共に内側のノズルから内部用凝固液を吐出し、凝固浴中に浸漬すればよい。この際、内部用凝固液及び凝固浴として、前述した、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液、又は製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液を用いることができる。内部用凝固液及び凝固浴として、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液のみ、又は、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液のみ、を使用してもよい。また、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液、及び製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液の内、一方を内部用凝固液として用い、他方を凝固浴として用いてもよい。特に、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液、及び製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液の内、一方を内部用凝固液として用い、他方を凝固浴として用いることが好ましい。とりわけ、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液(好ましくは、グリセリン、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及びプロピレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種、並びにこれらの少なくとも1種を40~80重量%(好ましくは40~60重量%)の割合で含む水溶液である。)を凝固浴として用い、製膜原液に使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液(好ましくは、平均分子量200~1000(好ましくは200~600)のポリエチレングリコール、平均分子量400~1000のポリプロピレングリコール、トリアセチン、及びトリエチレングリコールモノメチルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種、並びにこれらの少なくとも1種を60~80重量%とグリセリン、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及びプロピレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を20~40重量%の割合で含む混合液である。)を内部用凝固液として用いると、内表面に比較的細孔径が小さい細孔を備え、外表面に比較的細孔径が大きい細孔を備える中空糸膜が得られる。また、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるポリアミド中空糸膜、及びイニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であり、かつバーストバブルポイントが0.50~0.90MPaであるポリアミド中空糸膜を製造し易くなる。
【0089】
なお、中空糸膜を形成する際に使用される内部用凝固液は、二重環状ノズルを経由することから、沸点が二重環状ノズルの温度以下となる水を含有しないことが好ましい。
【0090】
中空糸製造用二重管状ノズルとしては、溶融紡糸において芯鞘型の複合繊維を作製する際に用いられるような二重管状構造を有する口金を用いることができる。中空糸製造用二重管状ノズルの外側の環状ノズルの径、内側のノズルの径については、中空糸膜の内径と外径に応じて適宜設定すればよい。
【0091】
また、中空糸製造用二重管状ノズルの外側の環状ノズルから前記製膜原液を吐出させる際の流量については、そのスリット幅にもよるため特に制限されないが、例えば、2~30g/分、好ましくは3~20g/分、更に好ましくは5~15g/分が挙げられる。また、内部用凝固液の流量については、中空糸製造用二重管状ノズルの内側ノズルの径、使用する内部液の種類、製膜原液の流量等を勘案して適宜設定されるが、製膜原液の流量に対して、0.1~2倍、好ましくは0.2~1倍、更に好ましくは0.4~0.7倍が挙げられる。
【0092】
また、ポリアミド多孔膜として平膜を形成する場合であれば、第2工程は、前述した製膜原液で使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が低い凝固液、及び、同じく前述した製膜原液で使用した有機溶媒と相溶性を有し且つポリアミド樹脂とは親和性が高い凝固液の内、一方を凝固浴と使用して、当該凝固浴中に前記製膜原液を所定形状にて押し出して浸漬させればよい。
【0093】
第2工程において、凝固浴の温度は、100℃以下であればよいが、好ましくは-20~100℃、より好ましくは0~60℃、更に好ましくは2~20℃、特に好ましくは2~10℃が挙げられる。凝固浴の好適な温度は、製膜原液に使用した有機溶媒、凝固液組成等に応じて変動し得るが、一般により低い温度にすることで熱誘起相分離が優先して進み、より高い温度にすることで非溶媒相分離が優先して進む傾向がみられる。即ち、内腔側表面に比較的細孔径が小さい細孔を備える中空糸膜を製造する場合であれば、内腔側表面の細孔径を大きくするためには凝固浴を低い温度に設定することが好ましく、内腔側表面の細孔径をより緻密なものとし、内部構造を粗大にするには凝固浴を高い温度に設定することが好ましい。
【0094】
また、ポリアミド多孔膜として中空糸膜を形成する場合であれば、内部用凝固液の温度は、二重管状ノズルの設定温度程度であればよく、例えば120~250℃、好ましくは160~230℃、より好ましくは180~220℃が挙げられる。
【0095】
斯して第2工程を実施することにより、製膜原液が凝固浴中で凝固し、本発明のポリアミド多孔膜が形成される。
【0096】
第2工程の後、ポリアミド多孔膜中で相分離している凝固液を抽出除去する工程を含むことができる。ポリアミド多孔膜中で相分離している凝固液を抽出除去するには、前記第2工程で形成されたポリアミド多孔膜を抽出溶媒に浸漬したり、前記第2工程で形成されたポリアミド多孔膜に対して抽出溶媒でシャワリングしたりすればよい。抽出除去に使用される抽出溶媒としては、安価で沸点が低く抽出後に沸点の差などで容易に分離できるものが好ましく、例えば、水、グリセリン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサン、石油エーテル、トルエン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン;より好ましくは水、メタノール、イソプロパノールが挙げられる。また、フタル酸エステル、脂肪酸等の水に不溶の有機溶媒を抽出する際は、イソプロピルアルコール、石油エーテル等を好適に用いることができる。ポリアミド多孔膜を抽出溶媒に浸漬することにより、凝固液の抽出除去を行う場合、抽出溶媒にポリアミド多孔膜を浸漬する時間については、特に制限されないが、例えば0.2時間~2ヶ月間、好ましくは0.5時間~1ヶ月間、更に好ましくは2時間~10日間が挙げられる。ポリアミド多孔膜に残留する凝固液を効果的に抽出除去するために、抽出溶媒を入れ替えたり、攪拌したりしてもよい。
【0097】
更に、上記凝固液の抽出除去の後、抽出溶媒を乾燥除去する工程を含むことができる。抽出溶媒を乾燥除去は、自然乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等の公知の乾燥処理により行うことができる。
【0098】
3.濾過膜モジュール
本発明のポリアミド多孔膜は、被処理液流入口や透過液流出口等を備えたモジュールケースに収容され、濾過膜モジュールとして使用される。
【0099】
本発明のポリアミド多孔膜が中空糸形状である場合には、中空糸膜モジュールとして使用される。
【0100】
具体的には、中空糸膜モジュールは、本発明の中空糸状ポリアミド多孔膜を束にし、モジュールケースに収容して、中空糸状ポリアミド多孔膜の端部の一方又は双方をポッティング剤により封止して固着させた構造であればよい。中空糸膜モジュールには、被処理液の流入口又は濾液の流出口として、中空糸状ポリアミド多孔膜の外壁面側を通る流路と連結した開口部と、中空糸状ポリアミド多孔膜の中空部分と連結した開口部が設けられていればよい。
【0101】
中空糸膜モジュールの形状は、特に制限されず、デッドエンド型モジュールであっても、クロスフロー型モジュールであってもよい。具体的には、中空糸膜束をU字型に折り曲げて充填し、中空糸状ポリアミド多孔膜束の端部を封止後カットして開口させたデッドエンド型モジュール;中空糸状ポリアミド多孔膜束の一端の中空開口部を熱シール等により閉じたものを真っ直ぐに充填し、開口している方の中空糸状ポリアミド多孔膜束の端部を封止後カットして開口させたデッドエンド型モジュール;中空糸状ポリアミド多孔膜束を真っ直ぐに充填し、中空糸状ポリアミド多孔膜束の両端部を封止し片端部のみをカットして開口部を露出させたデッドエンド型モジュール;中空糸状ポリアミド多孔膜束を真っ直ぐに充填し、中空糸状ポリアミド多孔膜束の両端部を封止し、中空糸状ポリアミド多孔膜束の両端の封止部をカットし、フィルターケースの側面に2箇所の流路を作ったクロスフロー型モジュール等が挙げられる。
【0102】
モジュールケースに挿入する中空糸状ポリアミド多孔膜の充填率は、特に制限されないが、例えば、モジュールケース内部の体積に対する中空部分の体積を入れた中空糸状ポリアミド多孔膜の体積が15~75体積%、好ましくは25~65体積%、更に好ましくは35~55体積%が挙げられる。このような充填率を満たすことによって、十分な濾過面積を確保しつつ、中空糸状ポリアミド多孔膜のモジュールケースへの充填作業を容易にし、中空糸状ポリアミド多孔膜の間をポッティング剤が流れ易くすることができる。
【0103】
中空糸膜モジュールの製造に使用されるポッティング剤については、特に制限されないが、中空糸膜モジュールを有機溶媒の処理に使用する場合には、有機溶媒耐性を備えていることが望ましく、このようなポッティング剤の例として、ポリアミド、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレア樹脂等が挙げられる。これらのポッティング剤の中でも、硬化した時の収縮や膨潤が小さく、硬度が硬過ぎないものが好ましく、好適な例として、ポリアミド、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンが挙げられる。これらのポッティング剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0104】
中空糸膜モジュールに使用するモジュールケースの材質については、特に制限されず、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、更に好ましくはポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0105】
また、本発明のポリアミド多孔膜が、平膜形状である場合には、プレートアンドフレーム型、スタック型等のシート型モジュール、スパイラル型モジュール、回転平膜型モジュール、プリーツ型モジュール等として使用される。
【0106】
4.油水分離方法
本発明の油水分離方法は、前記濾過膜モジュールを用いて、水と油を含む混合液を油水分離することを特徴とする。本発明の油水分離方法によれば、水と油を含む混合液を高度に油水分離することができる。また、本発明の油水分離方法によれば、前記混合液が、エマルション、特に、平均液滴径が0.5~5μm、さらには0.5~3μmである非常に小さい液滴を含むエマルションであっても、当該液滴を高度に分離除去することができる。また、本発明の油水分離方法によれば、前記[水滴の除去率]の欄でも記載したように、例えば、平均水滴径が0.5~3μmである水滴を含む油中水型エマルションを濾過したとき、前記水滴を、80%以上、85%以上、90%以上、さらには95%以上の除去率で除去することができる。さらに、本発明の油水分離方法によれば、前記[透過流量]の欄でも記載したように、例えば、平均水滴径が0.5~3μmである水滴を含む油中水型エマルションを濾過したとき、200L/(m2・bar・h)以上、250L/(m2・bar・h)以上、さらには300L/(m2・bar・h)以上の透過流量にて、また、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、さらには90%以上の透過流量の保持率にて分離処理することができる。
【0107】
本発明の油水分離方法は、前記濾過膜モジュールを用いる以外は、濾過膜モジュールを用いた公知の分離方法を採用することができ、例えば、タンク、送液循環ポンプ、送液ライン、各種圧力計、及び各種バルブ等を備えた濾過装置に、前記濾過膜モジュールを1個又は複数個を組み込み、前記濾過膜モジュールに水と油を含む混合液を通液し、前記濾過膜モジュール内を通過する前記混合液のうち、ポリアミド多孔膜を透過したものを、前記混合液から油水分離された透過液として回収し、残りは再び送液ラインに循環させる方法が挙げられる。分離操作における圧力、通液速度、及び前記混合液の温度等は、通液する前記混合液及び濾過膜モジュールの種類等に応じて適宜調整すればよい。
【0108】
本発明の油水分離方法によれば、平均液滴径が0.5~5μm、さらには0.5~3μmである液滴を含むエマルションから水滴又は油滴を高度に分離除去することができるため、含水油又は随伴水が、液滴が非常に小さいエマルションであっても高度に油水分離することができる。
【実施例0109】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0110】
1.測定方法
[中空糸膜の外径及び内径]
5本の中空糸膜について光学顕微鏡にて倍率200倍で観察し、各中空糸膜の外径及び内径(ともに最大径となる箇所)を測定し、各平均値を求めた。
【0111】
[中空糸膜のイニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイント]
先ず、イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントを測定するための多孔膜ミニモジュールを作製した。具体的には、中空糸膜10本を20cm長に切断し、これらを揃えて束ねてU字型に曲げて、中空糸膜の開口部の側の端部1cm程度を熱シールし、中空部を塞ぎ、中空糸膜束を準備した。次に、長さ5cmの空気配管用軟質ナイロンチューブ(外径8mm、内径6mm)を用意し、その片方の開口部をシリコン栓で塞いで栓をした。次に、当該ナイロンチューブのシリコン栓を付けた端部側を下にした状態にして、当該ナイロンチューブ内に、高さ4cm程度までポッティング剤(ポリウレタン樹脂)を導入した。その後、前記中空糸膜束を熱シールした方の端からナイロンチューブ内に挿入して、ポッティング剤の中に前記中空糸膜束の一部を浸漬させ、ポッティング剤が硬化するまで静置した。硬化後、中空糸膜束を熱シールした部位よりも上部で切断し、中空糸膜の中空部を開口させた。この時、ポッティング剤が中空部に侵入していないか、中空糸膜間にポッティング剤が満たされているかを目視で確認した。問題なく中空が維持されていることを確認した後に、イニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントの測定に供した。
【0112】
次に、図1の模式図に示される装置を用いて、中空糸膜のイニシャルバブルポイント及びバーストバブルポイントを測定した。バブルポイントの測定では、中空糸膜の孔内に液体を充填する必要がある。そのため、ガラス容器7に試験で用いる2-プロパノール(20℃での表面張力21mN/m)を入れ、そこに前記で作製した多孔膜ミニモジュール6を浸漬し、数秒間減圧にして孔への液体充填を行った。次に、試験液に浸漬された多孔膜ミニモジュール6を図1のようにセットし、中空糸膜内部に0.4MPa/分で空気を送り、増圧した。最初に中空糸膜から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをイニシャルバブルポイントとした。そのまま増圧を続け、中空糸膜のおよそ全体から気泡が発生した時の圧力を確認し、これをバーストバブルポイントとした。
【0113】
[測定に用いる油中水型エマルションの調製]
測定に用いる各油中水型エマルションは以下の方法で調製した。
まず、界面活性剤として、シグマアルドリッチ製のSpan80[HLB値:4.3(カタログ値)]、及びTween80[HLB値:15(カタログ値)]の2種を使用し、下記式に基づいて当該2種類の界面活性剤を用いて調液し、HLB値が7である界面活性剤(2種の混合液)を得た。
HLB= N1 HLB×W1+N2 HLB×W2
(NHLB:混合液のHLB値、N1 HLB:Span80のHLB値、W1:Span80の重量分率、N2 HLB:Tween80のHLB値、W2:Tween80の重量分率)
そして、表1に記載の配合割合で、イソパラフィン油である炭化水素系油A(スタンダード社製、ISOPAR G)又はパラフィン油である炭化水素系油B(スタンダード社製、NORPAR12)、調製したHLB値が7である界面活性剤、及び純水を混合して混合液を得て、得られた混合液を30分間超音波処理して、4種の油中水型エマルションを調製した。
【0114】
[油中水型エマルション中の水滴の平均水滴径、最小径、及び最大径]
粒子径測定装置(日機装社製、Nanotrac WaveII UZ152)を使用して、
調製した4種の油中水型エマルション中の水滴の平均水滴径、最小径、及び最大径を測定した。まず、使用した炭化水素系油A又はBを用いてバックグラウンドを測定した。次いで、調製した各油中水型エマルションでセル内を洗浄した。屈折計(アントンパールジャパン社製、多波長型屈折計)を用いて、測定温度20℃、測定波長589nm(D線:屈折率範囲1.3000~1.7100)の条件で、炭化水素系油A及びBの屈折率を測定したところ、いずれも1.48であった。また、水の屈折率は、1.33とした。そして、水の屈折率、並びに炭化水素系油A及びBの屈折率を測定装置に入力し、また、水滴の形状は非球形粒子と設定して測定装置に入力し、セル内の温度を25℃に調整した。測定時間は120秒とし、測定によって粒度分布チャートを得た。前記操作を30分後に再度実施し、水滴径の粒度分布範囲が変化していない(粒度分布上の最小径と最大径の値が変化していない)ことを確認した。得られた粒度分布チャートにおける平均水滴径(メジアン径D50)、最小径、及び最大径を、油中水型エマルション中の水滴の平均水滴径、最小径、及び最大径とした。測定結果を表1に示す。
【0115】
[油中水型エマルション中の水滴の除去率]
中空糸膜20本を30cm長に切断し、これらを揃えて束ねたものを準備した。次に、外径12.7mm、内径9.5mm、長さ53mmのポリブチレンテレフタレート(PBT)チューブを準備し、当該チューブの一方の端部開口に、さらに内径12mm、長さ約50mmのシリコーンチューブを15mm程度挿入して連結させ、シリコーンチューブのPBTチューブに挿入した側と反対側に長さ20mm程度のゴム栓を挿入し、当該一方の端部開口の栓をした。次に、当該連結チューブの、ゴム栓をした方とは反対側の開口部から2液混合型のエポキシ樹脂を注入しチューブ内側空間を当該エポキシ樹脂で充填した。その後、前記準備した中空糸膜を束ねたものの片端を、中空部にエポキシ樹脂が浸入しないように熱シールして目止めし、前記エポキシ樹脂で充填されたチューブ内に、当該端部先端がゴム栓に触れるまで挿入し、そのままの状態でエポキシ樹脂を硬化させた。次いで、硬化したエポキシ樹脂部分のゴム栓側の領域をチューブごと切断して中空部を開口した。もう一方の片端についても同様の操作を行い、中空糸膜の両端部の中空部が開口したクロスフローモジュールを作製した。
次に、作製したクロスフローモジュール10を図2に示す内圧式分離処理ラインに接続し、送液循環ポンプ11によって連続してクロスフローモジュール10に調製した前記油中水型エマルションを透過させた。モジュールにおいて、一次側圧力計14の圧力と二次側圧力計15の圧力をレギュレーター12により調節し、一次側圧力計14の圧力と二次側圧力計15の圧力との算術平均値が1barとなるようにした。モジュール内を透過する前記油中水型エマルションのうち、中空糸膜を透過したものは、前記油中水型エマルションから分離された透過液として回収し、残りは再び分離処理ラインに循環させた。循環開始2時間後から4時間後までにクロスフローモジュールから流出した透過液を受け皿16により回収した。得られた透過液中の水の含有率は、ハイブリッドカールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、MKH-700)を用いて測定して得られたサンプル(透過液)中の水分量とサンプル量から算出した。具体的には、測定の前に試料投入口を10秒間開放し、ブランク測定を行い、その後、マイクロピペットにサンプルを適量採取して重量を秤量し、天秤の表示をゼロに設定した。次いで、マイクロピペット中のサンプルを試料投入口から滴定セルに投入し、再度マイクロピペットの重量を秤量した後に、天秤に表示された重量(絶対値)をサンプル量とした。測定して得られたサンプル中の水分量とサンプル量から、透過液中の水の含有率を算出した。前記油中水型エマルション中の水の含有率についても同様の方法で算出した。そして、以下の式から油中水型エマルション中の水滴の除去率を算出した。
油中水型エマルション中の水滴の除去率(%)=100-(透過液中の水の含有率/油中水型エマルション中の水の含有率)×100
【0116】
[透過流量]
前記油中水型エマルションの透過流量は、前記水滴の除去率の測定手順と同様の測定手順で測定した。濾過開始5分後の透過流量は、循環開始後5~6分までにクロスフローモジュールから流出した透過液を受け皿16により回収し、得られた透過液の重量を測定し、以下の式から透過流量(L/(m2・bar・h))を算出した。濾過開始60分後の透過流量は、循環開始後60~61分までにクロスフローモジュールから流出した透過液を受け皿16により回収し、得られた透過液の重量を測定し、以下の式から透過流量(L/(m2・bar・h))を算出した。
透過流量=透過液の重量(g)/[中空糸膜の内径(m)×3.14×中空糸膜の有効 濾過長さ(m)×20(本)×{(圧力(bar)×透過液比重(g/ L)}×時間(h)]

中空糸膜の有効濾過長さ:クロスフローモジュールにおいて中空糸膜の外表面のうちエ ポキシ樹脂に被覆されていない部分の長さである。
透過液比重は、JIS Z 8804:2012(液体の密度及び比重の測定方法)の「比重瓶による密度及び比重の測定方法」に基づいて測定した。
【0117】
2.試験例
[実施例1、4、7、10]
ポリアミド6のチップ(ユニチカ株式会社製A1030BRT、相対粘度3.53)290g、ジメチルスルホン(東京化成株式会社製)492g、及びスルホラン(東京化成株式会社製)218g(DMS/SFL(重量比)=2.3)を180℃で1.5時間攪拌し溶解させ、撹拌速度を下げて1時間脱泡し製膜原液を調製した。製膜原液を定量ポンプを介して、200℃に保温した紡糸口金に送液し、内部用凝固液として、ポリエチレングリコール400(PEG400)とグリセリンの混合液(重量比でPEG400が60重量部、グリセリンが40重量部)を流した。押出された製膜原液を5℃の60重量%プロピレングリコール(PG)水溶液からなる凝固浴に投入して冷却固化させてポリアミド多孔膜を形成した。巻き取ったポリアミド多孔膜を水に24時間浸漬して溶媒抽出(洗浄)を行った後に、延伸させることなく熱風乾燥機(庫内温度130℃)内を通過させることによって乾燥させ、ポリアミド中空糸膜を得た。得られたポリアミド中空糸膜の外径は502μm、内径は274μmであった。得られたポリアミド中空糸膜を用いて、イニシャルバブルポイント、バーストバブルポイント、油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0118】
[実施例2、5、8、11]
製膜原液の調製において、ポリアミド6のチップ(ユニチカ株式会社製A1030BRT、相対粘度3.53)275g、ジメチルスルホン(東京化成株式会社製)532g、及びスルホラン(東京化成株式会社製)193g(DMS/SFL(重量比)=2.8)を180℃で1.5時間攪拌し溶解させ、撹拌速度を下げて1時間脱泡し製膜原液を調製した以外は、実施例1と同様に行い、ポリアミド中空糸膜を得た。得られたポリアミド中空糸膜の外径は532μm、内径は286μmであった。得られたポリアミド中空糸膜を用いて、イニシャルバブルポイント、バーストバブルポイント、油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0119】
[実施例3、6、9、12]
製膜原液の調製において、ポリアミド6のチップ(ユニチカ株式会社製A1030BRT、相対粘度3.53)275g、ジメチルスルホン(東京化成株式会社製)532g、及びスルホラン(東京化成株式会社製)193g(DMS/SFL(重量比)=2.8)を180℃で1.5時間攪拌し溶解させ、撹拌速度を下げて1時間脱泡し製膜原液を調製した。製膜原液を定量ポンプを介して、200℃に保温した紡糸口金に送液し、内部用凝固液として、ポリエチレングリコール200(PEG200)とグリセリンの混合液(重量比でPEG200が75重量部、グリセリンが25重量部)を流した。押出された製膜原液を5℃の60重量%プロピレングリコール(PG)水溶液からなる凝固浴に投入して冷却固化させてポリアミド多孔膜を形成した。巻き取ったポリアミド多孔膜を水に24時間浸漬して溶媒抽出(洗浄)を行った後に、延伸させることなく熱風乾燥機(庫内温度130℃)内を通過させることによって乾燥させ、ポリアミド中空糸膜を得た。得られたポリアミド中空糸膜の外径は529μm、内径は287μmであった。得られたポリアミド中空糸膜を用いて、イニシャルバブルポイント、バーストバブルポイント、油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0120】
[比較例1、2]
製膜原液の調製において、ポリアミド6のチップ(ユニチカ株式会社製A1030BRT、相対粘度3.53)230g、ジメチルスルホン(東京化成株式会社製)565g、及びスルホラン(東京化成株式会社製)205g(DMS/SFL(重量比)=2.8)を180℃で1.5時間攪拌し溶解させ、撹拌速度を下げて1時間脱泡し製膜原液を調製した以外は、実施例3と同様に行い、ポリアミド中空糸膜を得た。得られたポリアミド中空糸膜の外径は530μm、内径は282μmであった。得られたポリアミド中空糸膜を用いて、イニシャルバブルポイント、バーストバブルポイント、油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0121】
[比較例3]
外径1069μm、内径666μmであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜を用いて、イニシャルバブルポイント、バーストバブルポイント、油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0122】
[比較例4]
外径1990μm、内径988μmであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)中空糸膜を用いて、イニシャルバブルポイント、バーストバブルポイント、油中水型エマルション中の水滴の除去率、及び透過流量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示す結果から、実施例1~12のポリアミド中空糸膜は、イニシャルバブルポイントが0.45MPa以上であるため、平均水滴径が1.2~2.4μmである水滴を含む油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が80%以上であり、水滴が非常に小さい油中水型エマルションであっても高度に油水分離できることがわかる。また、実施例1~12から、ポリアミド中空糸膜のバーストバブルポイントが高いほど水滴の除去率が高くなることがわかる。一方、比較例1及び2のポリアミド中空糸膜は、イニシャルバブルポイントが0.37MPaであるため、平均水滴径が1.2又は1.3μmである水滴を含む油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が30%程度であり、水滴が非常に小さい油中水型エマルションについては高度に油水分離できないことがわかる。また、比較例3のポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜は、イニシャルバブルポイントが0.03MPaであり、比較例4のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)中空糸膜は、イニシャルバブルポイントが0.07MPaであるため、平均水滴径が1.2μmである水滴を含む油中水型エマルションを濾過したときの水滴の除去率が非常に低く、水滴が非常に小さい油中水型エマルションについては油水分離できないことがわかる。
【符号の説明】
【0125】
1 空気流入口
2 レギュレーター
3 増圧タンク
4 スピードコントローラ
5 圧力センサ
6 中空糸膜ミニモジュール
7 ガラス容器
8 2-プロパノール溶液
9 デジタル圧力表示機
10 クロスフローモジュール
11 送液ポンプ
12 レギュレーター
13 流動液タンク
14 一次側圧力計
15 二次側圧力計
16 受け皿
図1
図2