IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図1
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図2
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図3
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図4
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図5
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図6
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図7
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図8
  • 特開-車椅子及び車椅子の制御方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134986
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車椅子及び車椅子の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20240927BHJP
   A61G 5/04 20130101ALI20240927BHJP
   A61G 7/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61G5/14
A61G5/04 707
A61G7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045461
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀田 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】津田 聡彦
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040EE05
4C040EE08
4C040JJ03
(57)【要約】
【課題】移乗の際に使用者を不安定な姿勢にさせないようにする。
【解決手段】車椅子1は、フレーム10と、使用者が着座する座面41を有してフレーム10に取り付けられるシート40と、フレーム10に取り付けられ、フレーム10に対する傾斜角と高さとを調整して、使用者を支持しながら当該使用者が起立した起立状態とシート40に着座した着座状態とを切り替える移乗動作を補助する移乗補助機構60と、移乗補助機構60の傾斜角度と高さとを調整しながら移乗動作における使用者の移動軌跡を制御するコントローラ71と、を備え、コントローラ71は、起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡を、着座状態から起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるように移乗補助機構60を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子であって、
フレームと、
使用者が着座する座面を有して前記フレームに取り付けられるシートと、
前記フレームに取り付けられ、前記フレームに対する傾斜角と高さとを調整して、前記使用者を支持しながら当該使用者が起立した起立状態と前記シートに着座した着座状態とを切り替える移乗動作を補助する移乗補助機構と、
前記移乗補助機構の傾斜角度と高さとを調整しながら前記移乗動作における前記使用者の移動軌跡を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記起立状態から前記着座状態に切り替える際の移動軌跡を、前記着座状態から前記起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも前記使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるように前記移乗補助機構を制御する、
車椅子。
【請求項2】
請求項1に記載の車椅子であって、
前記コントローラは、前記使用者を前記起立状態から前記着座状態に切り替える際の移動軌跡の全領域のうち前半において、前記着座状態から前記起立状態に切り替える際の移動軌跡に対して、前記使用者を前傾姿勢に保持した状態で前記着座状態に向けて移動させるように前記移乗補助機構を制御する、
車椅子。
【請求項3】
車椅子の制御方法であって、
前記車椅子は、
フレームと、
使用者が着座する座面を有して前記フレームに取り付けられるシートと、
前記フレームに取り付けられ、前記フレームに対する傾斜角と高さとを調整して、前記使用者を支持しながら当該使用者が起立した起立状態と前記シートに着座した着座状態とを切り替える移乗動作を補助する移乗補助機構と、
前記移乗補助機構の傾斜角度と高さとを調整しながら前記移乗動作における前記使用者の移動軌跡を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記起立状態から前記着座状態に切り替える際の移動軌跡を、前記着座状態から前記起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも前記使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるように前記移乗補助機構を制御する、
車椅子の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子及び車椅子の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、台車部と、搭乗した被介護者の上体を保持する上体保持部と、上体保持部を台車部に対して移動可能に支持する支持部と、を備え、支持部は、上体保持部を移動させる上体シリンダと、上体保持部の傾斜角度を変更する傾斜角度調整スライダと、を有する移乗支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-140435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の移乗支援装置では、被介護者は、移乗する際には、膝を伸ばして腰を浮かせ、上体が大きく前傾した姿勢になる。このとき、被介護者は、膝を支点として頭の位置が支点の鉛直線上から大きく前方に離れ、上体保持部の正面保持部に体重を預けている。そのため、被介護者は、大きく前傾した不安定な姿勢になるので、正面保持部によって支持された胸が圧迫されると共に、頭から前方に落下するような感覚になるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、移乗の際に使用者を不安定な姿勢にさせないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様では、車椅子は、フレームと、使用者が着座する座面を有して前記フレームに取り付けられるシートと、前記フレームに取り付けられ、前記フレームに対する傾斜角と高さとを調整して、前記使用者を支持しながら当該使用者が起立した起立状態と前記シートに着座した着座状態とを切り替える移乗動作を補助する移乗補助機構と、前記移乗補助機構の傾斜角度と高さとを調整しながら前記移乗動作における前記使用者の移動軌跡を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記起立状態から前記着座状態に切り替える際の移動軌跡を、前記着座状態から前記起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも前記使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるように前記移乗補助機構を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、移乗の際に使用者を不安定な姿勢にさせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車椅子の斜視図である。
図2図2は、図1における要部の分解図である。
図3図3は、車椅子の制御ブロック図である。
図4図4は、支柱が伸長してアームが上昇する動作を説明する側面図である。
図5図5は、支柱が基準位置から前傾及び後傾する動作を示す側面図である。
図6図6は、シートが回動する動作を示す側面図である。
図7図7は、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際の使用者の移動軌跡と移乗補助機構の動作とを説明する図である。
図8図8は、使用者を起立状態から着座状態に移行させる際の使用者の移動軌跡と移乗補助機構の動作とを説明する図である。
図9図9は、図8に示す使用者の移動軌跡と、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際と同じ移動軌跡で使用者を起立状態から着座状態に移行させた場合と、を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る車椅子1について説明する。
【0010】
まず、図1から図6を参照して、車椅子1の構成について説明する。以下では、車椅子1の長さ方向を「前後方向」と称し、車椅子1の幅方向を「左右方向」と称し、車椅子1の高さ方向を「上下方向」と称する。
【0011】
図1は、車椅子1の斜視図である。図2は、図1における要部の分解図である。図3は、車椅子1の制御ブロック図である。図4は、支柱63が伸長してアーム62が上昇する動作を説明する側面図である。図5は、支柱63が基準位置から前傾及び後傾する動作を示す側面図である。図6は、シート40が回動する動作を示す側面図である。
【0012】
車椅子1は、フレーム10と、複数の車輪20と、駆動機構30と、シート40と、シート移動機構50と、移乗補助機構60と、制御部70と、操作部80(図3参照)と、を備える。車椅子1は、使用者(図示省略)が自力で立ち上がれない場合であっても、介助者による介助を必要とせずに起立して乗り降りが可能なものである。
【0013】
図1及び図2に示すように、フレーム10は、車椅子1の本体を構成する。フレーム10は、略矩形のはしご状に形成される。フレーム10の4つの角部には、車輪20が各々設けられる。フレーム10は、車輪20によって支持される。フレーム10は、駆動機構30と、シート40と、シート移動機構50と、移乗補助機構60と、制御部70と、操作部80と、を支持する。
【0014】
車輪20は、フレーム10に回転自在に取り付けられてフレーム10を支持する。車輪20は、一対の駆動輪21と、一対の従動輪22と、を有する。
【0015】
駆動輪21は、フレーム10の前側(前端部)に設けられる前輪である。駆動輪21は、フレーム10の前後方向に向かって転舵不能に設けられる小型の車輪である。一対の駆動輪21は、左右方向に間隔をあけて設けられる。駆動輪21は、後述する駆動部としての駆動用モータ31によって駆動されて回転する。
【0016】
従動輪22は、フレーム10における駆動輪21の後側(後端部)に設けられる後輪である。従動輪22は、フレーム10の前後方向に回転自在かつフレーム10の左右方向にスライド自在な全方向移動車輪である(図4参照)。一対の従動輪22は、左右方向に間隔をあけて設けられる。従動輪22は、フレーム10の移動に伴い前後方向に回転し左右方向にスライドする。
【0017】
このように、前輪を駆動輪21とし後輪を従動輪22とすることで、後輪の高さが抑えられ、後輪を例えばベッド2(図4参照)等の下方の空間に入り込ませることができる。また、従動輪22を全方向移動車輪とすることで、自在輪を用いた場合のように後輪が左右に振れることがないので、従動輪22を例えばトイレ(図示省略)等の狭い空間に入り込ませることができる。
【0018】
駆動機構30は、一対の駆動用アクチュエータとしての駆動用モータ31を有する。
【0019】
駆動用モータ31は、駆動輪21の車軸方向に回転軸が位置するように設けられる。駆動用モータ31は、一対の駆動輪21の間に一直線上に並べて設けられる。駆動用モータ31は、支持部材31aを介してフレーム10の前端部に支持される。駆動用モータ31は、モータの回転を減速して駆動輪21に伝達する減速機31bを有する。図3に示すように、駆動用モータ31は、後述するコントローラ71に電気的に接続され、コントローラ71から入力される電気信号に応じて回転する。
【0020】
図1及び図2に示すように、シート40は、座面41と、昇降用アクチュエータとしての直動アクチュエータ42と、を有する。シート40は、後述する従動スプロケット52に取り付けられ、従動スプロケット52と共に回動する。
【0021】
座面41は、使用者が着座するものである。座面41は、少なくとも使用者が着座する着座位置と、使用者がフレーム10の後方から出入り可能な退避位置と、に移動可能なようにフレーム10に取り付けられる(図6参照)。座面41は、着座位置と退避位置とに移動可能に設けられるので、座面41自体を分割する必要がなく、使用者が着座するための強度を確保することができる。
【0022】
直動アクチュエータ42は、座面41を昇降させるものである。直動アクチュエータ42が設けられることで、例えばベッド2(図4参照)の上方にシート40の座面41が位置するように、座面41の高さを調整可能である。図3に示すように、直動アクチュエータ42は、後述するコントローラ71に電気的に接続され、コントローラ71から入力される電気信号に応じて伸縮する。直動アクチュエータ42は、例えば、電動モータとボールねじ機構とが内蔵されて構成される。
【0023】
図1及び図2に示すように、シート移動機構50は、駆動スプロケット51と、従動スプロケット52と、伝達部材としてのチェーン53と、回動用アクチュエータとしての回動用モータ54と、を有する。
【0024】
駆動スプロケット51は、フレーム10の上部に水平に取り付けられる。駆動スプロケット51は、回動用モータ54の回転軸に取り付けられる。駆動スプロケット51は、回動用モータ54によって回転駆動される。
【0025】
従動スプロケット52は、シート40の下部に水平に取り付けられる。従動スプロケット52には、駆動スプロケット51の回転がチェーン53を介して伝達される。従動スプロケット52は、駆動スプロケット51よりも大経に形成される。これにより、回動用モータ54のトルクが増幅されて従動スプロケット52に伝達される。
【0026】
従動スプロケット52は、座面41よりも前方に離れて位置する。即ち、座面41は、従動スプロケット52よりも後方に離れて位置する。これにより、座面41は、従動スプロケット52が回動すると、従動スプロケット52の中心軸を回転軸とし、従動スプロケット52の中心軸からの距離を回転半径として、大きく側方に回動することができる。
【0027】
チェーン53は、駆動スプロケット51と従動スプロケット52との間に掛け回される。なお、チェーン53に代えて、ベルトや動力伝達軸等を用いて回動用モータ54の動力を伝達してもよい。
【0028】
図3に示すように、回動用モータ54は、後述するコントローラ71に電気的に接続され、コントローラ71から入力される電気信号に応じて回転する。図2に示すように、回動用モータ54は、シート40を回動させる。具体的には、回動用モータ54は、移乗補助機構60の後方の着座位置と、着座位置の左右方向の退避位置と、の間で座面41を回動させる。
【0029】
図1及び図2に示すように、移乗補助機構60は、フレーム10に取り付けられる。移乗補助機構60は、フレーム10に対する傾斜角と高さとを調整して、使用者を支持しながら当該使用者が起立した起立状態とシート40に着座した着座状態とを切り替える移乗動作を補助するものである。移乗補助機構60は、足置き部61と、アーム62と、一対の支柱63と、膝当て部64と、一対の傾動用アクチュエータとしての電動シリンダ65と、伸縮用アクチュエータとしての電動シリンダ66と、を有する。
【0030】
足置き部61は、使用者の足を支持する。足置き部61は、略半円状のプレートである。足置き部61は、使用者が乗れるように、使用者の足の大きさよりも大きく形成される。足置き部61は、支柱63が傾動すると、連動して一体に傾動する。
【0031】
アーム62は、使用者の腕を支持する。具体的には、アーム62は、使用者の脇を下から抱え上げるように支持する。アーム62は、U字状に形成されて、略中央が支柱63によって支持される。アーム62は、支柱63が傾動すると、連動して一体に傾動する。
【0032】
支柱63は、アーム62をフレーム10に支持する。一対の支柱63は、左右方向に間隔をあけて平行に設けられる。支柱63は、フレーム10の上部に軸受け63aを介して前後方向に回動可能に支持される。支柱63は、伸縮してアーム62を昇降させる。足置き部61と支柱63とは、一体となってフレーム10の前後方向に傾動可能に設けられる。具体的には、支柱63は、フレーム10に対して略垂直な基準位置と、基準位置から前傾した前傾位置と、基準位置から後傾した後傾位置と、に移動可能である。
【0033】
膝当て部64は、支柱63に取り付けられる。膝当て部64は、支柱63の後部における高さ方向略中央に設けられる。膝当て部64は、アーム62が使用者の脇を下から抱え上げた状態で、使用者の膝を前方から支持する。膝当て部64は、使用者の膝が直接接触するので、例えば弾性を有するゴムや樹脂などのエラストマー等、クッション性の高い部材によって形成される。
【0034】
一対の電動シリンダ65は、フレーム10の上部と各々の支柱63の前部との間を連結する。図3に示すように、電動シリンダ65は、後述するコントローラ71に電気的に接続され、コントローラ71から入力される電気信号に応じて伸縮する。電動シリンダ65が収縮すると、支柱63はフレーム10に対して前傾する。電動シリンダ65が伸長すると、支柱63はフレーム10に対して後傾する。
【0035】
図1及び図2に示すように、電動シリンダ66は、フレーム10の上部とアーム62の下部との間を連結する。電動シリンダ66は、一対の支柱63の間に支柱63と平行になるように設けられる。図3に示すように、電動シリンダ66は、後述するコントローラ71に電気的に接続され、コントローラ71から入力される電気信号に応じて伸縮する。電動シリンダ66が伸長すると、支柱63が伸長して、フレーム10に対してアーム62が上昇する。電動シリンダ66が収縮すると、支柱63が収縮して、フレーム10に対してアーム62が下降する。
【0036】
以上のように、移乗補助機構60は、使用者の移乗動作を補助する際に、支柱63が前傾した状態で足置き部61が使用者の足を支持し、アーム62が使用者の腕を支持し、膝当て部64が使用者の膝を支持して、使用者の全身を支持する。
【0037】
この状態で、シート40を退避位置から着座位置に移動させることで、使用者は車椅子1に搭乗することができる。一方、この状態で、シート40を着座位置から退避位置に移動させることで、使用者は車椅子1から降りて後方のベッド2(図4参照)等に移動することができる。また、移乗補助機構60は、足置き部61が足を支持し、膝当て部64が膝を支持することで、使用者の脚の角度が一定のまま安定した姿勢で全身を支持することができる。移乗補助機構60の具体的な作用については、図4から図9を参照しながら、後で詳細に説明する。
【0038】
制御部70は、コントローラ71と、蓄電部72と、を有する。
【0039】
コントローラ71は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ71は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。コントローラ71は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0040】
コントローラ71は、移乗補助機構60の傾斜角度と高さとを調整しながら移乗動作における使用者の移動軌跡を制御する。コントローラ71は、後述する操作部80から入力される信号に基づき、駆動用モータ31、直動アクチュエータ42、回動用モータ54、電動シリンダ65、及び電動シリンダ66の動作を制御する。
【0041】
蓄電部72は、制御部70の筐体70a内に収容される。蓄電部72は、駆動用モータ31、直動アクチュエータ42、回動用モータ54、電動シリンダ65、電動シリンダ66、及びコントローラ71に電源を供給する。蓄電部72は、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池によって構成される。
【0042】
図3に示すように、操作部80は、第1操作部81と、第2操作部82と、を有する。
【0043】
第1操作部81は、使用者が車椅子1に乗車した状態で操作可能な位置に設けられる。第1操作部81は、駆動機構30の動きを操作するものである。第1操作部81は、例えば、使用者が移動したい方向にスティックを倒すと当該方向に車椅子1が移動するジョイスティックである。
【0044】
第2操作部82は、使用者が車椅子1に乗車した状態と、車椅子1から降りている状態と、の両方で操作可能な位置に設けられる。第2操作部82は、例えばケーブルを介してコントローラ71に接続される。第2操作部82は、シート移動機構50及び移乗補助機構60の動きを操作するものである。なお、第2操作部82は、介助者が居る場合には介助者によっても操作可能である。第2操作部82は、アーム上昇ボタン82aと、アーム下降ボタン82bと、支柱前傾ボタン82cと、支柱後傾ボタン82dと、シート回動ボタン82eと、シート逆回動ボタン82fと、シート上昇ボタン82gと、シート下降ボタン82hと、起立動作操作部としての起立動作開始ボタン82iと、着座動作開始部としての着座動作開始ボタン82jと、を有する。
【0045】
図4に示すように、コントローラ71は、アーム上昇ボタン82aが押下されると、電動シリンダ66を伸長させることで支柱63が伸長させ、アーム62を上昇させる。コントローラ71は、アーム下降ボタン82bが押下されると、電動シリンダ66を収縮させることで支柱63を収縮させ、アーム62を下降させる。
【0046】
図5に示すように、コントローラ71は、支柱前傾ボタン82cが押下されると、電動シリンダ65を収縮させることで足置き部61及び支柱63を前傾させる。コントローラ71は、支柱後傾ボタン82dが押下されると、電動シリンダ65を伸長させることで足置き部61及び支柱63を後傾させる。
【0047】
図6に示すように、コントローラ71は、シート回動ボタン82eが押下されると、駆動スプロケット51及びチェーン53を介して回動用モータ54に従動スプロケット52を回動させ、左右のいずれか一方に座面41を回動させる。コントローラ71は、シート逆回動ボタン82fが押下されると、駆動スプロケット51及びチェーン53を介して回動用モータ54に従動スプロケット52を回動させ、左右のいずれか他方に座面41を回動させる。
【0048】
コントローラ71は、シート上昇ボタン82gが押下されると、直動アクチュエータ42を伸長させることで座面41を上昇させる。コントローラ71は、シート下降ボタン82hが押下されると、直動アクチュエータ42を収縮させることで座面41を下降させる。
【0049】
コントローラ71は、起立動作開始ボタン82iが押下されると、使用者を移乗させる移乗動作のうち、使用者を着座状態から起立状態に移行させるための一連の起立動作を実行する。コントローラ71は、着座動作開始ボタン82jが押下されると、使用者を移乗させる移乗動作のうち、使用者を起立状態から着座状態に移行させるための一連の着座動作を実行する。
【0050】
以下、図7から図9を参照して、車椅子1を用いて使用者が起立した起立状態とシート40に着座した着座状態とを切り替える移乗動作について説明する。コントローラ71は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで、移乗補助機構60による移乗動作を実行する。
【0051】
図7は、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際の使用者の移動軌跡と移乗補助機構60の動作とを説明する図である。図8は、使用者を起立状態から着座状態に移行させる際の使用者の移動軌跡と移乗補助機構60の動作とを説明する図である。図9は、図8に示す使用者の移動軌跡と、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際と同じ移動軌跡で使用者を起立状態から着座状態に移行させた場合と、を比較する図である。
【0052】
図7から図9では、使用者の移動軌跡を、足部91と、下腿部92と、大腿部93と、上体94と、からなる線図によって示す。また、図9では、使用者の足部91の接地点を支点SPとし、支点SPを通り鉛直方向に延びる仮想的な直線を垂直線VLとし、使用者の重心位置(丹田の位置)を重心CGとして示す。
【0053】
まず、図7を参照して、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際の使用者の移動軌跡と移乗補助機構60の動作とについて説明する。コントローラ71は、使用者が着座状態であるときに、使用者若しくは介助者によって起立動作開始ボタン82iが押下されると、移乗補助機構60に起立動作を補助する動作を実行させる。
【0054】
着座状態では、移乗補助機構60は、支柱63が後傾位置にあり、アーム62が下降している状態である。このとき、使用者は、シート40に着座している。使用者の足部91は、接地しており、大腿部93は、略水平な状態である。
【0055】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ66を伸長させ、アーム62を少しだけ上昇させると、第1段階に移行する。このとき、アーム62の上昇量は、使用者の腰をシート40から浮かせることができる程度である。これにより、使用者は、アーム62の上昇に伴い、脇を下から抱え上げられるようにして、腰がシート40から離間し、足部91のつま先だけが接地して踵が浮いた状態になる。
【0056】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ65を収縮させ、支柱63を基準位置まで前傾させると、第2段階に移行する。これにより、使用者は、支柱63の前傾に伴い、上体94が前傾し、腰がシート40から更に浮いた状態になる。
【0057】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ65を更に収縮させて支柱63を前傾位置まで前傾させると共に、電動シリンダ66を更に伸長させてアーム62を上昇させると、第3段階に移行する。これにより、使用者は、脇を下から斜め前方に抱え上げられるようにして、上体94が前傾したまま腰がシート40から大きく離間し、大腿部93の角度が垂直に近い状態になる。
【0058】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ65を伸長させて支柱63を基準位置まで後傾させると共に、電動シリンダ66を更に伸長させてアーム62を上昇させると、起立状態に移行する。これにより、使用者は、脇を下から斜め後方に抱え上げられるようにして、前傾していた上体94が起こされ、起立した状態になる。
【0059】
このように、移乗補助機構60による補助によって、使用者は、着座状態から起立状態に移行することができる。なお、このときの使用者の移動軌跡は、介助者が使用者を抱きかかえて起立させる動作と同じ移動軌跡である。
【0060】
なお、使用者は、起立状態では立位に近い姿勢であり、移乗補助機構60に体重を預けている状態である。そのため、使用者の体重は、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持されている。
【0061】
次に、図8を参照して、使用者を起立状態から着座状態に移行させる際の使用者の移動軌跡と移乗補助機構60の動作とについて説明する。コントローラ71は、使用者が起立状態であるときに、使用者若しくは介助者によって着座動作開始ボタン82jが押下されると、移乗補助機構60に着座動作を補助する動作を実行させる。
【0062】
起立状態では、移乗補助機構60は、支柱63が基準位置にあり、アーム62が上昇している状態である。このとき、使用者は、腰がシート40から大きく離間し、起立した状態である。使用者は、起立状態では立位に近い姿勢であり、移乗補助機構60に体重を預けている状態であるので、使用者の体重は、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持されている。
【0063】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ65を収縮させて支柱63を前傾位置まで前傾させると共に、電動シリンダ66を収縮させてアーム62を下降させると、第1状態に移行する。これにより、使用者は、脇を下から抱え上げられたまま斜め前方に向かって下降し、大腿部93の角度が垂直に近づき、起立したまま上体94が前傾した状態になる。
【0064】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ66を更に収縮させてアーム62を下降させると、第2段階に移行する。これにより、使用者は、脇を下から抱え上げられたまま上体94が下降するので、上体94が更に前傾し、腰がシート40に向かってやや近づいた状態になる。
【0065】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ65を伸長させ、支柱63を基準位置まで後傾させると、第3段階に移行する。これにより、使用者は、支柱63の後傾に伴い、脇を下から抱え上げられて上体94が前傾したまま、腰がシート40に更に近づいた状態になる。
【0066】
続いて、コントローラ71が、電動シリンダ65を更に伸長させると、着座状態に移行する。このとき、使用者は、脇を下から抱え上げられたまま上体94が起こされて、シート40に着座した状態になる。使用者の足部91は、接地しており、大腿部93は、略水平な状態になる。
【0067】
このように、移乗補助機構60による補助によって、使用者は、起立状態から着座状態に移行することができる。なお、このときの使用者の移動軌跡は、介助者が使用者を抱きかかえて着座させる動作と同じ移動軌跡である。
【0068】
図7に示すように、使用者を着座状態から起立状態に切り替える際には、支柱63を前傾させると共にアーム62を上昇させている。これにより、移乗補助機構60は、使用者を脇から抱え上げるように斜め前方に向かって上昇させて、使用者を起立させている。これに対して、図8に示すように、使用者を起立状態から着座状態に切り替える際には、支柱63が前傾状態のままアーム62を下降させた後に、支柱63を前傾位置から後傾位置まで後傾させている。これにより、移乗補助機構60は、使用者の上体94が下降した状態にしてから後傾させて、使用者をシート40に着座させている。このように、使用者の起立動作と着座動作とでは、使用者の移動軌跡が相違している。
【0069】
即ち、コントローラ71は、起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡を、着座状態から起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるように移乗補助機構60を制御する。特に、コントローラ71は、使用者を起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡の全領域のうち前半において、着座状態から起立状態に切り替える際の移動軌跡に対して、使用者を前傾姿勢に保持した状態で着座状態に向けて移動させるように移乗補助機構60を制御する。
【0070】
これにより、介助者が使用者を抱きかかえて起立させる際の自然な動作と、介助者が使用者を抱きかかえて着座させる際の自然な動作と、を実現することができる。
【0071】
次に、図9を参照して、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際と同じ移動軌跡で起立状態から着座状態に移行させた場合と本実施形態とを比較しながら、本実施形態の作用について説明する。図9の上段は、使用者を着座状態から起立状態に移行させる際と同じ移動軌跡で起立状態から着座状態に移行させた場合を比較例として示すものである。
【0072】
比較例において、着座開始段階では、使用者の重心CGは、垂直線VLよりも前方に位置している。即ち、使用者は、移乗補助機構60に体重を預けている状態であり、使用者の体重は、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持されている。
【0073】
第1中間段階では、使用者の重心CGは、垂直線VLよりも後方に位置している。そのため、使用者は、後傾した状態になり、使用者の体重は、脇、及び足部91のつま先のみによって保持される。
【0074】
第2中間段階では、使用者の重心CGは、垂直線VLから更に後方に離間した位置にある。そのため、使用者は、自力で起立状態を保持できなくなり、膝が曲がって崩れる恐怖や、落ちるような恐怖を感じるおそれがある。
【0075】
本実施形態においては、着座開始段階では同様に、使用者の重心CGは、垂直線VLよりも前方に位置している。即ち、使用者は、移乗補助機構60に体重を預けている状態であり、使用者の体重は、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持されている。
【0076】
第1中間段階では、使用者の重心CGは、垂直線VLよりも前方に位置している。そのため、使用者は、後傾した状態にはならず、使用者の体重は、着座開始状態と同様に、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持されている。
【0077】
第2中間段階では、使用者の重心CGは、垂直線VLと略一致する位置にある。そのため、使用者は、後傾した状態にはならず、使用者の体重は、第1中間段階と同様に、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持されている。
【0078】
このように、本実施形態によれば、使用者の重心CGは、第1中間位置及び第2中間位置においても、垂直線VLよりも後方には位置しない。そのため、比較例よりも、使用者が自力で起立状態を保持できる状態を長く維持することができる。したがって、移乗の際に使用者を不安定な姿勢にさせないようにすることができる。また、使用者の体重を、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持することができる状態を長く維持しながら、使用者が自然な立ち上がり動作に近い形で移乗できるので、使用者の身体機能維持のための訓練にもなる。
【0079】
このとき、使用者を支持する支点としての膝の位置に対して、使用者の頭の位置(上体94の先端の位置)が垂直線VLから大きく離れないようにすることができる。そのため、垂直線VLに対する上体94の傾斜角度(状態傾斜角度α)が小さくなるので、胸への圧迫感を軽減できると共に、頭から前方に落下するような感覚になることを防止できる。
【0080】
また、第2中間位置から着座状態に更に近くなると、重心CGは垂直線VLよりも後方に位置することにはなるが、シート40の近くまで充分に重心CGの高さを下降させた状態で後傾する動作をするので、使用者が落ちるような恐怖を感じることを軽減させることができる。
【0081】
以上の本実施形態の構成及び作用効果について、まとめて説明する。
【0082】
(1)(3)車椅子1は、フレーム10と、使用者が着座する座面41を有してフレーム10に取り付けられるシート40と、フレーム10に取り付けられ、フレーム10に対する傾斜角と高さとを調整して、使用者を支持しながら当該使用者が起立した起立状態とシート40に着座した着座状態とを切り替える移乗動作を補助する移乗補助機構60と、移乗補助機構60の傾斜角度と高さとを調整しながら移乗動作における使用者の移動軌跡を制御するコントローラ71と、を備え、コントローラ71は、起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡を、着座状態から起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるように移乗補助機構60を制御する。
【0083】
この構成によれば、起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡を、着座状態から起立状態に切り替える際の移動軌跡よりも使用者を前傾姿勢に保持した状態で移動させるので、使用者の体重を、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持することができる状態を長く維持することができる。したがって、移乗の際に使用者を不安定な姿勢にさせないようにすることができる。また、使用者の体重を、脇、胸、膝、及び足部91の裏で分散して保持することができる状態を長く維持しながら、使用者が自然な立ち上がり動作に近い形で移乗できるので、使用者の身体機能維持のための訓練にもなる。
【0084】
また、使用者を支持する支点としての膝の位置に対して、使用者の頭の位置が垂直線VLから大きく離れないようにすることができる。そのため、垂直線VLに対する上体94の傾斜角度(状態傾斜角度α)が小さくなるので、胸への圧迫感を軽減できると共に、頭から前方に落下するような感覚になることを防止できる。
【0085】
(2)好ましくは、コントローラ71は、使用者を起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡の全領域のうち前半において、着座状態から起立状態に切り替える際の移動軌跡に対して、使用者を前傾姿勢に保持した状態で着座状態に向けて移動させるように移乗補助機構60を制御する。
【0086】
この構成によれば、特に、使用者を起立状態から着座状態に切り替える際の移動軌跡の全領域のうち前半において、使用者を前傾姿勢に保持した状態で着座状態に向けて移動させるので、使用者が自力で起立状態を保持できる状態を長く維持することができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0088】
1 車椅子
10 フレーム
40 シート
41 座面
60 移乗補助機構
62 アーム
63 支柱
71 コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9