(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134991
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】基板洗浄方法および基板洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B08B 3/02 20060101AFI20240927BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B08B3/02 C
H01L21/304 645D
H01L21/304 645C
H01L21/304 643B
H01L21/304 651L
H01L21/304 651G
H01L21/304 645Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045469
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅規
【テーマコード(参考)】
3B201
5F157
【Fターム(参考)】
3B201AA01
3B201AB14
3B201BB21
3B201BB93
3B201BB98
3B201BC01
3B201CB15
5F157AA02
5F157AA29
5F157AB02
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5F157BG34
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5F157CF99
5F157DA15
5F157DB13
5F157DB14
5F157DB18
(57)【要約】
【課題】有機溶剤を使用することなく高い洗浄力により基板表面を洗浄する。
【解決手段】基板洗浄方法は、基板を準備する準備工程と、基板を洗浄する洗浄工程と、洗浄工程において洗浄された後の基板を乾燥する乾燥工程と、を含む。洗浄工程は、基板の表面に紫外線(VUV光)を照射する第1の洗浄工程と、紫外線を照射した後の基板の表面に超純水を散布する第2の洗浄工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を洗浄する基板洗浄方法であって、
前記基板を準備する準備工程と、
前記基板を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程において洗浄された後の前記基板を乾燥する乾燥工程と、を含み、
前記洗浄工程は、
前記基板の表面に紫外線を照射する第1の洗浄工程と、
前記紫外線を照射した後の前記基板の表面に超純水を散布する第2の洗浄工程と、を含むことを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
前記超純水を生成する生成工程をさらに含み、
前記第2の洗浄工程では、前記生成工程において生成された前記超純水を、直接、前記基板の表面に散布することを特徴とする請求項1に記載の基板洗浄方法。
【請求項3】
前記乾燥工程では、前記洗浄工程において洗浄された後の前記基板の表面に、大気圧プラズマを照射することを特徴とする請求項1に記載の基板洗浄方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、
前記洗浄工程において洗浄された後の前記基板の表面に、エアーナイフから噴出される圧縮空気を吹き付ける第1の乾燥工程と、
前記第1の乾燥工程の後に、前記基板の表面に大気圧プラズマを照射する第2の乾燥工程と、を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の基板洗浄方法。
【請求項5】
前記第2の洗浄工程では、オゾンが含有された前記超純水を散布することを特徴とする請求項1に記載の基板洗浄方法。
【請求項6】
前記第2の洗浄工程では、ナノバブルが含有された前記超純水を散布することを特徴とする請求項1に記載の基板洗浄方法。
【請求項7】
基板を洗浄する基板洗浄装置であって、
前記基板を洗浄する基板洗浄部と、
前記基板洗浄部において洗浄された後の前記基板を乾燥する基板乾燥部と、を備え、
前記基板洗浄部は、
紫外線光源を有し、当該紫外線光源から放射される紫外線を前記基板の表面に照射する紫外線照射部と、
スプレーヘッドを有し、前記紫外線照射部において紫外線が照射された後の前記基板の表面に、前記スプレーヘッドから超純水を散布する超純水散布部と、を備えることを特徴とする基板洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板洗浄方法および基板洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガラスなどの基板の表面を洗浄する基板洗浄工程は、基板上に塗布液を塗布して成膜する成膜工程などの前工程として重要な工程である。
基板洗浄工程では、湿式洗浄(ウェット洗浄)や乾式洗浄(ドライ洗浄)が行われる。湿式洗浄では、洗浄液に基板を浸漬し、超音波洗浄機などにより基板を洗浄する。乾式洗浄では、紫外線オゾン洗浄などが行われる。
例えば特許文献1は、有機溶媒が含有された洗浄組成物に基板を浸漬して洗浄する基板洗浄方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の基板洗浄方法は、有機溶媒が含有された有機溶剤を大量に使用する方法であるため、昨今の環境保全に配慮した洗浄方法とはいえない。また、処理槽の大型化や排水処理の保守、メンテナンスなどの課題もある。
そこで、本発明は、有機溶剤を使用することなく高い洗浄力により基板表面を洗浄することができる基板洗浄方法および基板洗浄装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る基板洗浄方法の一態様は、基板を洗浄する基板洗浄方法であって、前記基板を準備する準備工程と、前記基板を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程において洗浄された後の前記基板を乾燥する乾燥工程と、を含み、前記洗浄工程は、前記基板の表面に紫外線を照射する第1の洗浄工程と、前記紫外線を照射した後の前記基板の表面に超純水を散布する第2の洗浄工程と、を含む。
【0006】
このように、紫外線照射により基板の表面を洗浄した後に、超純水による洗浄を行う。紫外線を照射して基板表面の有機物を分解除去(気化)させたり除去しやすくしたりしたうえで、超純水の高い溶解能力により基板表面の不純物を除去するので、有機溶剤を使用することなく、基板表面を適切に洗浄することができる。また、紫外線照射により基板表面の濡れ性(親水性)を向上させることができるので、超純水を基板表面全体に均一に塗布することができ、洗浄ムラを抑制することができる。また、基板表面の濡れ性が向上されることで、ピンニング現象を抑制し、乾燥痕(ウォーターマーク)の発生を抑制することができる。
【0007】
また、上記の基板洗浄方法は、前記超純水を生成する生成工程をさらに含み、前記第2の洗浄工程では、前記生成工程において生成された前記超純水を、直接、前記基板の表面に散布してよい。
この場合、生成された超純水をタンク等に溜めることなく直ちに洗浄工程で使用することができる。そのため、超純水の劣化を抑制し、高い洗浄効果を維持したまま使用することができる。
【0008】
さらに、上記の基板洗浄方法において、前記乾燥工程では、前記洗浄工程において洗浄された後の前記基板の表面に、大気圧プラズマを照射してよい。
この場合、洗浄工程で除去しきれなかった不純物や、洗浄工程後に再吸着した不純物などを適切に除去しつつ、基板表面を乾燥させることができる。したがって、乾燥痕(ウォーターマーク)の発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
また、上記の基板洗浄方法において、前記乾燥工程は、前記洗浄工程において洗浄された後の前記基板の表面に、エアーナイフから噴出される圧縮空気を吹き付ける第1の乾燥工程と、前記第1の乾燥工程の後に、前記基板の表面に大気圧プラズマを照射する第2の乾燥工程と、を含んでよい。
この場合、エアーナイフによって基板表面の水分を効率的に除去することができるので、乾燥に要する時間を短縮することができる。また、大気圧プラズマのみを利用した乾燥と比較して、コストを削減することができる。
【0010】
さらに、上記の基板洗浄方法において、前記第2の洗浄工程では、オゾンが含有された前記超純水を散布してもよいし、ナノバブルが含有された前記超純水を散布してもよい。
この場合、さらに洗浄効率を上げることができる。
【0011】
また、本発明に係る基板洗浄装置の一態様は、基板を洗浄する基板洗浄装置であって、前記基板を洗浄する基板洗浄部と、前記基板洗浄部において洗浄された後の前記基板を乾燥する基板乾燥部と、を備え、前記基板洗浄部は、紫外線光源を有し、当該紫外線光源から放射される紫外線を前記基板の表面に照射する紫外線照射部と、スプレーヘッドを有し、前記紫外線照射部において紫外線が照射された後の前記基板の表面に、前記スプレーヘッドから超純水を散布する超純水散布部と、を備える。
【0012】
このように、紫外線照射により基板の表面を洗浄した後に、超純水による洗浄を行う。紫外線を照射して基板表面の有機物を分解除去(気化)させたり除去しやすくしたりしたうえで、超純水の高い溶解能力により基板表面の不純物を除去するので、有機溶剤を使用することなく、基板表面を適切に洗浄することができる。また、紫外線照射により基板表面の濡れ性(親水性)を向上させることができるので、超純水を基板表面全体に均一に塗布することができ、洗浄ムラを抑制することができる。また、基板表面の濡れ性が向上されることで、ピンニング現象を抑制し、乾燥痕(ウォーターマーク)の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、有機溶剤を使用することなく高い洗浄力により基板表面を洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態における基板洗浄方法の一例である。
【
図2】本実施形態における基板洗浄装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、例えばガラスなどの基板の表面を洗浄する基板洗浄方法および基板洗浄装置について説明する。
本実施形態において、上記基板は、例えばペロブスカイト結晶を用いたペロブスカイト太陽電池の基材となるガラス基板とすることができる。ペロブスカイト太陽電池は、印刷技術により基板上に溶液(溶媒と溶質との混合液)を順次塗布して複数の層を積層させることで製造される。本実施形態では、溶液を塗布して薄膜を成膜する成膜工程の前に基板の表面を洗浄する基板洗浄方法および基板洗浄装置について説明する。
【0016】
まず、従来の基板洗浄方法について説明する。
図5は、従来の基板洗浄方法の一例を示す図である。
この
図5に示すように、従来の基板洗浄方法は、基板を準備する準備工程と、基板を洗浄する洗浄工程と、基板を乾燥する乾燥工程と、を含む。
まず、準備工程では、ステップS20において、洗浄対象となる基板(ワーク)を準備する。
【0017】
次に、洗浄工程を行う。まずステップS21では、純水で基板表面の汚れを除去する純水洗浄が行われる。このステップS21では、基板表面に付着したチリなどの比較的大きな汚れが除去される。
次にステップS22では、基板表面の油脂を除去するために、中性洗剤による洗浄が行われる。このステップS22において油脂を浮かせ、次のステップS23において、有機溶剤(アセトン)にて中性洗剤と油脂とが除去される。
【0018】
その後、ステップS24では、IPA(イソプロピルアルコール)などの高揮発性の有機溶剤にて、ステップS23において使用した有機溶剤(アセトン)や基板に残った有機物などの表面付着物が除去される。このステップS24において使用する有機溶剤は、後述するステップS25において純水によるリンスを行うため、水と親和性が高いアルコール系溶剤を使用することが好ましい。
そして、洗浄工程における最終工程として、ステップS25では、上記で使用した有機溶剤を純水にて洗い流すリンス工程が行われる。
【0019】
洗浄工程の後は、基板上の水分を除去するために乾燥工程を行う。まずステップS26では、ドライガス(エアー、窒素など)のエアーナイフにより基板上の水分が吹き飛ばされる。次にステップS27では、基板上に残った吸着水を除去するために、ヒータや高周波による加熱が行われ、基板表面が完全に乾燥される。
最後に、ステップS28において、基板の表面改質を行う。この表面改質処理は、例えば後段の成膜工程において基板に溶剤を塗布する場合に、接触角を下げて塗れ性を向上する目的で行われる。表面改質処理は、VUV(真空紫外線)やオゾンアッシング(大気圧プラズマ装置)にて実施することができる。
【0020】
以下、具体的な装置構造を示し、動作概要を説明する。
図6は、従来の基板洗浄装置200の一例を示す図である。
基板洗浄装置200は、純水洗浄部210と、中性洗剤洗浄部220と、第1溶液部230と、第2溶液部240と、純水リンス部250と、第1乾燥部260と、第2乾燥部270と、改質部280と、を備える。この基板洗浄装置200においては、ロール・ツー・ロール方式で基板(ワーク)Wが各エリア(処理部)に順次搬送され、基板Wが処理される。処理部210~280において実施される処理が、
図5に示すステップS21~28の処理にそれぞれ対応している。
【0021】
第1溶液部230および第2溶液部240は、揮発性有機溶剤(アセトン、アルコールなど)を使用して洗浄するため、溶剤が装置外部へ漏れないように、処理部全体を囲んだ構造となっている。また、第1溶液部230および第2溶液部240は、気化した溶剤を排気するための排気機構と、基板洗浄に使用した後の溶剤を回収する回収機構と、回収した溶剤をフィルタに通して不純物を除去し回収再生する回収再生機構と、を備える。排気機構は、吸着処理や燃焼処理などによって有機溶剤を処理して排気する機構とすることができる。
【0022】
純水リンス部250は、主に基板Wに付着した有機溶剤を洗い流す。前段の第2溶液部240において使用される有機溶剤は、IPAなどの水と親和性が高い有機溶剤であるため、純水リンス部250では、純水に有機溶剤を溶解させて洗い流すことができる。
純水リンス部250は、純水を放出するスプレーノズルと、基板洗浄に使用した後の純水を回収する回収機構と、排水機構と、を備える。純水リンス部250では、例えば公営水道の水からイオン交換樹脂を通して製造された電気伝導率1μS/cm(比抵抗1MΩ・cm)程度の純水をスプレーノズルから放出し、基板Wを洗浄する。基板Wを洗浄した後の水は、回収機構によって回収され、排水機構により排水される。回収機構によって回収された水には有機溶剤が溶けているので、そのまま排水することはできない。そのため、排水機構において、排水処理として、モレキュラシーブなどの吸着材を利用して有機溶剤を除去する方法や、沸点の違いを利用して分離回収する方法がとられる。
【0023】
第1乾燥部260は、高速ガスを基板Wへ吹き付けるエアーナイフによって、基板Wに付着している水分を除去する。
第2乾燥部270は、第1乾燥部260におけるエアーナイフでは除去しきれないような、基板Wに付着した付着水を加熱除去する。なお、高周波除去(2.4GHz)にて水分子を直接振動させて揮発させる方法を採用してもよい。
改質部280は、例えば後段の成膜工程において基板Wへ溶液を均一塗布するために、基板Wの表面改質を行い、基板表面における溶液の接触角を小さくする(塗れ性を向上させる)。この改質部280では、例えば真空紫外光(VUV光)やオゾンアッシングを利用して、基板表面の親水性を向上させる。
【0024】
このように、従来の基板洗浄方法は、有機溶剤を大量に使用する方法であり、昨今の環境保全に配慮した洗浄方法とはいえない。また、処理槽の大型化や排水処理の保守、メンテナンスなどの課題もある。さらに、従来の基板洗浄方法は、洗浄工程数が多く、洗浄に長時間要する。
また、従来の基板洗浄方法では、洗浄後の基板表面にウォーターマークが発生しうる。ウォーターマークとは、液滴中に溶解していた物質や僅かに残存していた微粒子が凝集したものであり、乾燥時に生じる液滴内の対流と、液滴コンタクトラインのピンニングが要因となって発生しうる輪のような形状の乾燥痕である。
ウォーターマークを低減するには、液滴中に含まれる微粒子数を低減させることや、基板表面の濡れ性(親水性)を向上させてピンニング効果を低くすることが考えられる。
【0025】
そこで、本実施形態では、まず基板表面にVUV光を照射するVUV洗浄を行い、その後、基板表面に超純水を散布して洗浄する。このように、有機溶剤を使用しない洗浄方法とすることで、環境保全に寄与することができる。また、装置の小型化および保守メンテナンスの簡易化を図ることができる。さらに、VUV光と超純水とを使用した洗浄方法により、液滴中に含まれる不純物を適切に除去することができるとともに、基板表面の濡れ性を向上させることができるので、ウォーターマークの発生を適切に抑制することができる。
【0026】
以下、本実施形態における基板洗浄方法について具体的に説明する。
図1は、本実施形態における基板洗浄方法の一例を示す図である。
この
図1に示すように、本実施形態における基板洗浄方法は、従来同様、基板を準備する準備工程と、基板を洗浄する洗浄工程と、基板を乾燥する乾燥工程と、を含む。
まず、準備工程では、ステップS10において、洗浄対象となる基板(ワーク)を準備する。
【0027】
次に、洗浄工程を行う。まずステップS11では、基板に紫外線が照射される。ここで、上記紫外線は、波長200nm以下の真空紫外光(VUV光)である。このステップS11では、VUV照射により基板の表面に付着している油脂や不純物(以下、「コンタミ」という。)を分解除去する(もしくは除去しやすくする)とともに、基板表面の濡れ性を向上させる。
【0028】
次にステップS12では、基板表面が超純水により洗浄される。ここでいう超純水とは、電気伝導率0.1μS/cm以下(比抵抗10MΩ・cm以上)の水である。このステップS12では、ステップS11におけるVUV照射により除去しやすくされたコンタミを、超純水によって吸着し溶解する。
【0029】
このように、本実施形態における洗浄工程では、超純水を散布する前に紫外線処理を行う。仮に、紫外線処理をせずに超純水を基板上へ散布すると、超純水が基板表面で弾かれて基板全面に塗布できず、洗浄ムラが発生し得る。
本実施形態では、ステップS11におけるVUV光による紫外線処理によって基板表面の濡れ性を向上させた後に、ステップS12において超純水を散布するので、基板表面に散布された超純水は、基板全面に一様に塗布される。したがって、洗浄ムラの発生を適切に抑制することができる。また、基板表面における超純水の接触角を小さくすることができるので、ピンニング効果を抑制し、ウォーターマークの発生を抑制することができる。
【0030】
洗浄工程の後は、基板上の水分を除去するために乾燥工程を行う。ステップS13では、ドライガス(エアー、窒素など)のエアーナイフにより基板上の水分が吹き飛ばされる。
ステップS14では、基板に大気圧プラズマが照射される。大気圧プラズマを基板に照射することで、大気圧プラズマ中で発生した酸素ラジカルが基板表面に存在する有機物と反応し、当該有機物が除去される。また、大気圧プラズマを基板に照射することで、基板表面に付着している水分のクラスタを単分子化し、これにより当該水分の揮発を誘発し、基板表面を乾燥させることができる。
なお、
図1に示す例では、乾燥工程において、ステップS13のエアーナイフによる乾燥処理の後に、ステップS14の大気圧プラズマによる乾燥処理を行っているが、いずれか一方の乾燥処理のみを行ってもよい。
【0031】
最後に、ステップS15において、基板の表面改質を行う。この表面改質処理は、例えば後段の成膜工程において基板に溶剤を塗布する場合に、接触角を下げて塗れ性を向上する目的で行われる。表面改質処理は、VUV(真空紫外線)やオゾンアッシング(大気圧プラズマ装置)にて実施することができる。
【0032】
図2は、本実施形態における基板洗浄装置100の一例を示す図である。
基板洗浄装置100は、紫外線照射部110と、超純水散布部120と、基板乾燥部130と、改質部140と、を備える。ここで、紫外線照射部110および超純水散布部120が、基板洗浄部を構成している。
この基板洗浄装置100においては、ロール・ツー・ロール方式で基板(ワーク)Wが搬送機構150により各エリア(処理部)に順次搬送され、基板Wが処理される。処理部110~140において実施される処理が、
図1に示すステップS11、S12、S14、S15の処理にそれぞれ対応している。ここでは、
図1に示すステップS13のエアーナイフによる乾燥処理を行う乾燥部は省略している。
【0033】
紫外線照射部110は、紫外線光源(VUV光源)111を備え、搬送機構150により搬送された基板Wに対して真空紫外光(VUV光)を照射する。ここで、VUV光源111は、例えば中心波長172nmのVUV光を出射するキセノンエキシマランプとすることができる。
酸素を含む雰囲気ガス中にVUV光を照射することで、活性種(O3や原子状酸素など)を生成させることができる。基板WにVUV光を照射することで、基板W上の有機汚染物質において、VUV光による結合の切断や、活性種による酸化が生じる。これにより、有機汚染物質は単純な分子(CO2、H2O、O2など)に分解され、基板W表面から気化し、除去(洗浄)される。
また、基板WにVUV光を照射することで、基板Wの表面改質を行い、濡れ性を向上させることができる。
【0034】
図3は、紫外線照射部110の構成例を示す図である。この
図3に示すように、紫外線照射部110は、VUV光源111と、筐体112と、ガス供給口(ガス供給マニホールド)113と、排気口114と、を備える。
VUV光源111から放射されるVUV光は、雰囲気中の酸素に吸収されやすいため、大気雰囲気下では基板表面まで届きにくい。そのため、筐体112内部は、酸素濃度を低減させた環境となるように制御される。具体的には、後段の基板乾燥部130で使用した窒素ガスを、循環ポンプ(P)や不図示のフィルタ等を使用して、酸素濃度が数%になるように外部希釈ガスと混合し、混合されたガス(混合ガス)をガス供給口113から筐体112内へ流入させる。
【0035】
VUV光により有機汚染物質の結合を効果的に切断するためには、基板W表面にVUV光を直接照射する必要がある。そのため、基板WとVUV光源111との間の酸素ガス濃度を適切に下げることが重要となる。
そこで、
図3に示すように、VUV光源111の上方にガス供給口113を設け、ガス供給口113から基板W表面に向けて混合ガスを供給する。これにより、基板WとVUV光源111との間の酸素濃度を適切に低減させるようにする。このとき、基板WとVUV光源111との間の酸素濃度を一定に制御することで、安定した処理を可能とすることができる。
【0036】
基板WとVUV光源111との間に微量に存在する酸素により発生したオゾンと供給ガス(混合ガス)とは、排気口114によって吸引され、排気される。筐体112内部ではオゾンが生成されるため、ガス供給口113からのガス吸気量よりも排気口114からの排気量の方が大きくなるように排気機構を調整し、筐体112内部が若干の陰圧となるように調整することが好ましい。具体的には、筐体112内部は、常に-数10[Torr]程度の陰圧になるように、排気機構を調整することが好ましい。
また、排気口114からはオゾンが排気されるため、排気口114には、活性炭や触媒など使用してオゾン分解するオゾン分解機構が設置される。
【0037】
図2に戻って、超純水散布部120は、超純水生成器121と、スプレーヘッド122と、を備える。超純水散布部120は、紫外線照射部110によりVUV洗浄された基板Wを搬送機構150により搬入し、超純水生成器121により生成された超純水を、スプレーヘッド122により基板W表面へ散布する。
超純水生成器121は、活性炭フィルタ、逆浸透膜、イオン交換層、UV処理層、フィルタ層などを備え、超純水を生成する。超純水は、タンク等に溜めておくと特性が刻々と変化し、性能が劣化するため、超純水散布部120は、超純水生成器121により生成された超純水を、タンク等に溜めることなく、直接、基板Wに散布する。これにより、高い洗浄効果を維持したまま超純水を使用することができる。
【0038】
基板W表面は、紫外線照射部110におけるVUV照射によって濡れ性が向上されているため、基板W表面に散布された超純水は、基板W表面の全体に均一に塗布され、超純水薄膜(数μ程度)を形成し、基板W上に存在する不純物を溶解する。このように、基板W表面に均一に超純水薄膜を形成することができるので、過剰な超純水を必要とすることなく基板W全体の表面洗浄が可能である。
【0039】
図2に示すスプレーヘッド122は、例えば、超純水の圧力を上げて噴射させる構成とすることができる。この場合、ノズル先端に、例えば0.3μm程度の孔が形成されたフィルタを配置し、この孔を透過させることで、超純水を細かい粒状にして噴射して散布するようにしてもよい。
また、スプレーヘッド122は、
図4に示すように、窒素ガスAをノズル122aから噴射し、その際のエジェクター効果により超純水Bを吸い上げ、散布する構成であってもよい。エジェクターを利用した構成とすることで、非常に速い速度で窒素ガスAと超純水Bとの混合ガス(A+B)を基板W表面に散布することができる。そのため、基板W表面に付着したコンタミなどを除去し易くなり、洗浄効率を向上させることができる。
【0040】
なお、超純水散布部120は、洗浄効果をさらに高めるために、強酸性のオゾンを数ppm溶解した超純水を洗浄液として基板Wに散布してもよい。この場合、超純水が吸着した基板W上の有機物を、超純水に含有されたオゾンによって分解することができる。
また、超純水散布部120は、ナノバブルを含有した超純水を洗浄液として基板Wに散布してもよい。ナノバブルには、電気的作用により汚れを吸着したり、衝撃圧力作用(ナノバブル崩壊に伴う衝撃)により汚れを剥がしたりする効果がある。そのため、超純水にナノバブルを含有させることで、高い洗浄効果を得ることができる。なお、ナノバブル中のガスは、窒素、エアー(大気)、オゾンなど、任意のガスであってよい。
例えば、
図4に示すスプレーヘッド122の場合、窒素ガスAにオゾンガスを混ぜることで、オゾン洗浄が可能となる。また、この場合、超純水Bの中にオゾンガスのナノバルブができるため、ナノバルブ洗浄も可能となる。
【0041】
また、超純水を散布するためのスプレーヘッド122の数は、基板Wのサイズによって適宜設定することができる。
また、超純水散布部120は、例えば、基板Wを表面振動させる超音波加振器をさらに備えてよい。超音波加振器により基板Wの表面を振動させることで、基板W表面に付着した不純物を効果的に除去することができる。なお、洗浄対象の基板Wに応じて、超音波加振器の作動または非作動を制御してもよい。
さらに、基板W表面に含まれる、有機物、無機物、微粒子、微生物などにより、基板W表面に塗布された超純水の電気伝導率が変化するため、当該電気伝導率を測定することで汚れの可視化も可能である。この場合、基板W表面の汚れ具合に応じて、超純水の散布量を制御してもよい。
【0042】
基板乾燥部130は、超純水散布部120により超純水が薄膜塗布され洗浄された基板Wを搬送機構150により搬入し、大気圧プラズマ発生器131により発生されたプラズマ状態のガス(例えば窒素など)を、大気圧プラズマヘッド132により基板W表面へ照射する。
なお、特に図示しないが、基板乾燥部130は、大気圧プラズマ発生器131へガスを供給するガス供給部や、大気圧プラズマ発生器131の電気を制御する電気制御部、排ガスを処理する排気機構などを備えることができる。
【0043】
基板乾燥部130は、大気圧プラズマヘッド132から高速放出されるガスにより、基板W表面の水分を飛ばすとともに、基板W表面に付着している水分のクラスタを単分子化し、水分の揮発を誘発する。
さらに、基板乾燥部130は、超純水散布部120により洗浄された後に周辺ガス(CO2など)等によって基板W表面の超純水に再吸着した有機物を、大気圧プラズマにより分解除去し、清浄度を向上させることもできる。
【0044】
なお、基板乾燥部130は、エアーナイフを備え、超純水散布部120により洗浄され大気圧プラズマを照射する前の基板Wの表面に、エアーナイフから噴出される圧縮空気を吹き付けるように構成してもよい。
この場合、エアーナイフによって基板W表面の水分の大部分を効率的に除去することができ、乾燥に要する時間を短縮することができる。また、大気圧プラズマのみを利用した乾燥と比較して、コストを削減することができる。
【0045】
改質部140は、例えば後段の成膜工程において基板Wへ溶液を均一塗布するために、基板Wの表面改質を行い、基板表面における溶液の接触角を小さくする(塗れ性を向上させる)。この改質部140では、例えば真空紫外光(VUV光)やオゾンアッシングを利用して、基板表面の親水性を向上させる。改質部140は、例えば
図2に示す紫外線照射部110と同様に、VUV光源や筐体、ガス供給口(ガス供給マニホールド)、排気口などを備えることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態における基板洗浄装置100は、基板洗浄部(紫外線照射部110、超純水散布部120)と、基板乾燥部130と、を備える。紫外線照射部110は、VUV光源111を有し、VUV光源111から放射されるVUV光を基板の表面に照射することで基板表面を洗浄する。また、超純水散布部120は、スプレーヘッド122を有し、紫外線照射部110においてVUV光が照射された後の基板の表面に、スプレーヘッド122から超純水を散布する。
【0047】
このように、VUV光を照射して基板表面の有機物を分解除去(気化)させたり除去しやすくしたりしたうえで、超純水の高い溶解能力により基板表面の不純物を除去するので、有機溶剤を使用することなく、乾燥痕(ウォーターマーク)の発生要因となりうる不純物を適切に除去することができる。
有機溶剤を使用しないため、排気機構や排水機構などを簡素化することができるとともに、各機構の保守やメンテナンスなども簡易化することができる。また、有機溶剤を使用しないため、基板表面から有機溶剤を除去するための複雑な工程が不要となり、その分の処理時間を削減することができる。
【0048】
また、VUV照射により基板表面の濡れ性を向上させることができるので、超純水を基板表面全体に均一に塗布することができ、洗浄ムラを抑制することができる。このとき、超純水の洗浄力(溶解力)を積極的に利用して、適切に基板表面を洗浄することができる。なお、超純水散布部120において、オゾンが含有された超純水や、ナノバブルが含有された超純水を使用すれば、さらに洗浄効率を上げることも可能である。
ここで、超純水にオゾンを含有させるか否かは、基板の材料や、基板表面の汚れの種類(油脂を含むか否か)などに応じて決定してよい。例えば、基板表面に油脂が付着している場合には、当該油脂を分解する必要があるため、オゾンを含有させることが好ましい。
【0049】
さらに、基板表面の濡れ性を向上させてから超純水を散布するので、少ない水量で基板表面全体を洗浄することができる。そのため、超純水の使用量を削減することが可能である。したがって、処理槽の大型化を抑制することができるなど、装置の小型化を実現することができる。また、超純水の使用量を削減することで、乾燥時間を短縮することもできる。
【0050】
さらに、基板乾燥部130は、基板洗浄部において洗浄された後の基板Wの表面に、大気圧プラズマを照射して、基板Wを乾燥させることができる。
そのため、洗浄工程で除去しきれなかった不純物や、洗浄工程後に再吸着した不純物などを適切に除去しつつ、基板表面を乾燥させることができる。したがって、乾燥痕(ウォーターマーク)の発生を効果的に抑制することができる。
【0051】
このように、本実施形態では、有機溶剤を使用することなく高い洗浄力により基板表面を洗浄することができる。また、本実施形態では、タクトタイムの短縮や装置の小型化、保守メンテナンスの簡素化なども実現可能である。
【0052】
なお、上記実施形態では、洗浄対象の基板がガラス基板である場合について説明したが、上記に限定されるものではなく、洗浄対象の基板は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂基板(樹脂フィルム)であってよい。ただし、洗浄対象が樹脂である場合、例えば超純水散布部120では、超純水にオゾンを含有させるのではなく、ナノバブルを含有させるようにすることが好ましい。これにより、オゾンによる基板劣化を抑制することができる。
また、上記実施形態では、洗浄対象の基板がペロブスカイト太陽電池の基板(基材)である場合について説明したが、上記に限定されるものではなく、その他の用途の基板を洗浄対象とすることもできる。
【0053】
なお、上記において特定の実施形態が説明されているが、当該実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定する意図はない。本明細書に記載された装置及び方法は上記した以外の形態において具現化することができる。また、本発明の範囲から離れることなく、上記した実施形態に対して適宜、省略、置換及び変更をなすこともできる。かかる省略、置換及び変更をなした形態は、請求の範囲に記載されたもの及びこれらの均等物の範疇に含まれ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0054】
100…基板洗浄装置、110…紫外線照射部、111…VUV光源、112…ガス供給部、113…排気口、120…超純水散布部、121…超純水生成器、122…スプレーヘッド、130…基板乾燥部、131…大気圧プラズマ発生器、140…改質部、150…搬送機構