(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135020
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】凝集性タンパク質の凝集状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240927BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240927BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240927BHJP
G01N 21/82 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/483 C
G01N21/64 F
G01N21/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045508
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】建部 厳
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 茂俊
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043CA03
2G043DA01
2G043DA08
2G043EA01
2G043FA03
2G043GA07
2G043GA08
2G043GA14
2G043GB07
2G043GB21
2G043KA02
2G045BB25
2G045DA36
2G045FB12
2G045GC15
(57)【要約】
【課題】溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価方法を提供すること。
【解決手段】溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する方法であって、凝集性タンパク質及び特定のキサンテン色素又はその塩を含む溶液における、前記キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、前記凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する方法であって、
凝集性タンパク質及び下記式(I):
【化1】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素又はその塩を含む溶液における、前記キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、前記凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、方法。
【請求項2】
凝集状態の評価が、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間と、前記キサンテン色素の吸光蛍光特性との関係に基づいて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)中、X1~X4はそれぞれ-H、-OH、-NO2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X1~X4の少なくとも2つは-Br又は-Iであり;
Y1~Y4はそれぞれ独立して-H又は-Clである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)中、X1~X4はそれぞれ独立して-Br又は-Iであり;
Y1~Y4はそれぞれ独立して-H又は-Clである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記吸光蛍光特性が、蛍光スペクトル、蛍光強度、最大蛍光波長、吸収スペクトル、吸光度及び最大吸収波長からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記吸光蛍光特性が、蛍光スペクトル、蛍光強度及び最大蛍光波長からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記吸光蛍光特性が蛍光スペクトル又は蛍光強度であり、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間に対して、最大蛍光強度、又は前記キサンテン色素及び前記凝集性タンパク質に応じて定めることができる所定の蛍光波長における蛍光強度が、減少した後に増大する関係に基づいて、前記凝集性タンパク質の凝集状態の評価が行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
下記式(I):
【化2】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素若しくはその塩、及び
前記キサンテン色素の吸光蛍光特性を基準として溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することが記載された説明書
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項9】
下記式(I):
【化3】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素又はその塩、並びに
抗酸化物質、pH調整剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つ
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に従って溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、前記凝集性タンパク質の凝集状態の変化又は前記凝集性タンパク質の凝集体の分解を誘導する薬物のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に従って溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、前記凝集性タンパク質の凝集状態の変化又は前記凝集性タンパク質の凝集体の分解を誘導する薬物の評価方法。
【請求項12】
下記式(I):
【化4】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素若しくはその塩及び凝集性タンパク質を含む、請求項10に記載の方法に使用するためのスクリーニングキット。
【請求項13】
下記式(I):
【化5】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素若しくはその塩及び凝集性タンパク質を含む、請求項11に記載の方法に使用するための評価キット。
【請求項14】
凝集性タンパク質の凝集体の単離方法であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法に従って評価した溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を指標として、前記溶液から凝集性タンパク質の凝集体を単離することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、凝集性タンパク質の凝集状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種のタンパク質は、水系溶媒中において互いに凝集し、凝集体を形成することが知られている。タンパク質の凝集状態には、凝集していないモノマーの状態に加え、凝集体としてダイマー、オリゴマー、プロトフィブリル及びフィブリル等の複数の状態が存在する。また、形成される凝集体の態様としては、アミロイド繊維及びアモルファス凝集等が知られている。
【0003】
タンパク質の凝集体は、疾患との関連が知られており、疾患の診断マーカー又は治療標的としての利用を志向した研究が盛んに行われている。疾患との関連が知られる代表的なタンパク質としては、アミロイドβ及びタウタンパク質が挙げられる。アルツハイマー型認知症の患者の脳神経組織においては、アミロイドβのフィブリル、及び細胞内アミロイドβの増加に伴って異常リン酸化されたタウタンパク質の凝集体が見られ、特にタウタンパク質の凝集体が神経細胞の損傷及び細胞死を惹起することによって、認知能力の低下が生ずると考えられている。脳神経組織におけるアミロイドβの凝集体の形成を防ぐことができれば、細胞内アミロイドβの増加も抑制することができ、ひいては認知能力の低下を抑制することができるという仮説は、「アミロイドβ仮説」と呼ばれ、アミロイドβ仮説に基づいて、アミロイドβの凝集体を標的としたアルツハイマー型認知症治療薬の開発が進められている。
【0004】
タンパク質の凝集状態の環境依存性又は機能等を解明する上では、溶液中のタンパク質の凝集状態を評価する手法が有用である。溶液中のタンパク質の凝集状態の評価に関し、例えば特許文献1には、生体試料を、ビーズ群と、蛍光色素であるチオフラビンTと、アルファ-シヌクレイン又はその断片若しくは変異体とを含む反応試料と混合することを含む、生体試料中のアルファ-シヌクレイン凝集の存在を検出する方法であって、インキュベートする間の反応混合物の蛍光の有意な増大は、生体試料中のアルファ-シヌクレインの凝集体の存在を示す、方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶液中におけるタンパク質の凝集状態の評価は、古典的には溶液の濁度を指標として行われてきたものの、ダイナミックレンジが小さいため、溶液中のタンパク質の凝集状態の時間依存的な変化の一部しか捉えることができない場合がある。
【0007】
本開示は、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、凝集性タンパク質及びキサンテン色素を含む溶液において、キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価できることを見出し、本開示を完成させた。
【0009】
本開示は、以下の[1]~[17]に関する。
[1]溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する方法であって、
凝集性タンパク質及びキサンテン色素又はその塩を含む溶液における、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、上記凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、方法。
[2]溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する方法であって、
凝集性タンパク質及び下記式(I):
【化1】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素又はその塩を含む溶液における、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、上記凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、方法。
[3]凝集状態の評価が、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間と、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性との関係に基づいて行われる、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]上記式(I)中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも2つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H又は-Clである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]上記式(I)中、X
1~X
4はそれぞれ独立して-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H又は-Clである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[6]上記キサンテン色素又はその塩が、ローズベンガル、エオシンY又はエリトロシンBである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[7]上記吸光蛍光特性が、蛍光スペクトル、蛍光強度、最大蛍光波長、吸収スペクトル、吸光度及び最大吸収波長からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]上記吸光蛍光特性が、蛍光スペクトル、蛍光強度及び最大蛍光波長からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[9]上記吸光蛍光特性が、蛍光スペクトル、最大蛍光強度及び最大吸光度からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[10]上記吸光蛍光特性が蛍光スペクトル又は蛍光強度であり、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間に対して、最大蛍光強度、又は上記キサンテン色素及び上記凝集性タンパク質に応じて定めることができる所定の蛍光波長における蛍光強度が、減少した後に増大する関係に基づいて、上記凝集性タンパク質の凝集状態の評価が行われる、[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[11]下記式(I):
【化2】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素若しくはその塩、及び
上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を基準として溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することが記載された説明書
を含む、[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法に使用するためのキット。
[12]下記式(I):
【化3】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素又はその塩、並びに
抗酸化物質、pH調整剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つ
を含む、[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法に使用するためのキット。
[13][1]~[10]のいずれか一つに記載の方法に従って溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、上記凝集性タンパク質の凝集状態の変化又は上記凝集性タンパク質の凝集体の分解を誘導する薬物のスクリーニング方法。
[14][1]~[10]のいずれか一つに記載の方法に従って溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、上記凝集性タンパク質の凝集状態の変化又は上記凝集性タンパク質の凝集体の分解を誘導する薬物の評価方法。
[15]下記式(I):
【化4】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素若しくはその塩及び凝集性タンパク質を含む、[13]に記載の方法に使用するためのスクリーニングキット。
[16]下記式(I):
【化5】
(式中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり;
Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。)
で表されるキサンテン色素若しくはその塩及び凝集性タンパク質を含む、[14]に記載の方法に使用するための評価キット。
[17]凝集性タンパク質の凝集体の単離方法であって、[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法に従って評価した溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を指標として、上記溶液から凝集性タンパク質の凝集体を単離することを含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価できる。
【0011】
本開示の一実施形態によれば、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間に対して、吸光度及び/又は蛍光強度が、減少した後に増大する関係に基づいて、上記凝集性タンパク質の凝集状態を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】実施例1において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を示す図である。
【
図3】実施例1において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを示す図である。
【
図4】実施例1において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を示す図である。
【
図5】実施例2において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてインスリンの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを示す図である。
【
図6】実施例2において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてインスリンの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を示す図である。
【
図7】実施例2において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてインスリンの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを示す図である。
【
図8】実施例2において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標としてインスリンの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を示す図である。
【
図9】実施例3において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標として西洋わさびペルオキシダーゼの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを示す図である。
【
図10】実施例3において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標として西洋わさびペルオキシダーゼの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を示す図である。
【
図11】実施例3において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標として西洋わさびペルオキシダーゼの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを示す図である。
【
図12】実施例3において、ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標として西洋わさびペルオキシダーゼの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を示す図である。
【
図13】実施例4において、エオシンYの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを示す図である。
【
図14】実施例4において、エオシンYの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を示す図である。
【
図15】実施例4において、エオシンYの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを示す図である。
【
図16】実施例4において、エオシンYの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を示す図である。
【
図17】実施例5において、エリトロシンBの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを示す図である。
【
図18】実施例5において、エリトロシンBの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を示す図である。
【
図19】実施例5において、エリトロシンBの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを示す図である。
【
図20】実施例5において、エリトロシンBの吸光蛍光特性を指標としてリゾチームの凝集状態を評価した場合の、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本開示の実施形態について説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本開示の第一側面は、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する方法であって、凝集性タンパク質及びキサンテン色素若しくはその塩を含む溶液における、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、上記凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、方法である。
【0015】
本開示の第一側面に係る、評価の指標となる吸光蛍光特性を測定される溶液は、少なくとも凝集性タンパク質及びキサンテン色素を含む、水溶液である。すなわち、評価の指標となる吸光蛍光特性を測定される溶液における溶媒は、水系溶媒である。水系溶媒としては、水、並びに水及び有機溶媒の混合溶媒を挙げることができる。該有機溶媒は、水と混和する有機溶媒であればよく、例えばジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド及び1,4-ジオキサン等を挙げることができ、ジメチルスルホキシド又はエタノールが好ましい。また、水系溶媒における水の含有比率は、例えば50v/v%以上、70v/v%以上、90v/v%以上、95v/v%以上、98v/v%以上、99v/v%以上又は100v/v%であってよく、90v/v%以上であることが好ましく、95v/v%以上であることがより好ましい。
【0016】
本開示において、凝集性タンパク質とは、水系溶媒中で互いに凝集し、凝集体を形成するタンパク質を意味する。凝集状態の段階としては、凝集体を形成していないモノマーに加え、凝集体として例えばダイマー、オリゴマー、プロトフィブリル及びフィブリル等を挙げることができる。凝集性タンパク質は、凝集する前のモノマーの状態から、段階的にダイマー、オリゴマー等と凝集することによって、最終的にフィブリルを形成する。また、形成される凝集体の態様としては、例えばアミロイド繊維及びアモルファス凝集等を挙げることができる。本開示の一実施形態に係るタンパク質は、糖タンパク質を含むタンパク質であってもよく、糖タンパク質を除くタンパク質であってもよい。
【0017】
凝集性タンパク質には、生理的条件下において互いに凝集するタンパク質もあれば、変性又は化学構造の変化等が生じた特定の条件下において凝集するタンパク質も存在するが、本開示に係る凝集性タンパク質は、そのいずれであってもよい。
【0018】
生理的条件下において互いに凝集するタンパク質としては、例えばアミロイドβタンパク質(Aβ)を挙げることができる。アミロイドβタンパク質は、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein、APP)がβ-セレクターゼ及びγ-セレクターゼによって切断されることで生じるタンパク質である。アミロイドβタンパク質のフィブリルは、アルツハイマー型認知症患者の脳内に多く存在することが知られており、認知障害の治療対象の一つとして研究が進められている。例えば、アルツハイマー型認知症治療薬として2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)により承認されたレカネマブ(Lecanemab)は、抗アミロイドβプロトフィブリル抗体である。
【0019】
化学構造の変化が生じた場合に凝集するタンパク質としては、例えばタウタンパク質を挙げることができる。タウタンパク質(Tau-protein)は、主に神経細胞に存在する微小管結合性のタンパク質である。タウタンパク質は、生理的条件下では微小管に結合して存在する一方で、過剰にリン酸化されると微小管に対する結合性の低下、及び凝集性の向上が生じる。アルツハイマー型認知症患者の脳内においては、過剰リン酸化されたタウタンパク質が凝集体を形成(この現象は「神経原繊維変化」とも呼ばれる。)することが知られている。このタウタンパク質の凝集体は、認知障害の治療標的の候補の一つとして、研究が進められている。
【0020】
変性が生じた場合に凝集するタンパク質としては、例えばリゾチームを挙げることができる。リゾチーム(Lysozyme)は、ヒトの鼻汁及びニワトリの卵白等に含まれる加水分解酵素の一種である。リゾチームは、酸性条件における加熱等によって変性させると凝集性が高くなること、及びその凝集体としてアミロイドを形成することが知られている。そのため、変性させたリゾチームは、アミロイドβタンパク質の凝集体の形成機構の解析及びその細胞毒性の評価等のモデルとして、幅広く使用されている。
【0021】
本開示の一実施形態において、評価の指標となる吸光蛍光特性を測定される溶液に含まれる凝集性タンパク質の濃度は、例えば0.1~100mg/mL、1.0~75mg/mL、5.0~50mg/mL又は10~35mg/mLであってよい。
【0022】
本開示において、キサンテン色素とは、下記のいずれかの構造式で表される化合物を意味する。
【化6】
(式中、Z
1~Z
7はそれぞれ独立に水素又は一価の置換基を表し、R
1~R
4はそれぞれ独立に水素又はアルキル基を意味する。)
【0023】
本開示におけるキサンテン色素としては、例えば、フルオレセイン、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン19、フェニルフルオロン、ローズベンガル(Acid Red 94)、エオシンY(テトラブロモフルオレセイン、Solvent Red 43)、Acid Red 87(エオシンY二ナトリウム塩)、エリトロシンB(Acid Red 51)、フロキシンB(Acid Red 92)、テトラブロモフルオレセインカリウム、2’,4’,5’,7’-テトラブロモ-3,4,5,6-テトラクロロフルオレセイン(Solvent Red 48)、テトラヨードフルオレセイン(ヨーデオシン)、エオシンB(Acid Red 91)、ジブロモフルオレセイン(Solvent Red 72)及びジヨードフルオレセイン(Solvent Red 73)等を挙げることができる。
【0024】
本開示の一実施形態において、キサンテン色素は、下記式(I):
【化7】
で表されてよい。一実施形態において、式(I)中、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも1つは-Br又は-Iであり、Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H、-F又は-Clである。好ましい一実施形態において、X
1~X
4はそれぞれ-H、-OH、-NO
2、-F、-Cl、-Br又は-Iであり、かつ、X
1~X
4の少なくとも2つ又は3つは-Br又は-Iであってよい。より好ましい一実施形態において、X
1~X
4はそれぞれ独立して-Br又は-Iであってよい。また、好ましい一実施形態において、Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H又は-Clであってよい。特定の一実施形態において、式(I)中、X
1~X
4はそれぞれ独立して-Br又は-Iであり、かつ、Y
1~Y
4はそれぞれ独立して-H又は-Clであってよい。これらの場合において、式中のX
1~X
4及びY
1~Y
4は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。
【0025】
本開示の一実施形態に係るキサンテン色素は、水系溶媒中において、種々の状態の平衡として存在する。すなわち、上記式(I)で表されるキサンテン色素は、溶液中における一状態として例えば以下に示す構造としても表記され得るが、これらは全て上記式(I)で表されるキサンテン色素を表す。
【化8】
【0026】
本開示の一実施形態に係る、評価の指標となる吸光蛍光特性を測定される溶液は、キサンテン色素のフリー体を含有していてもよく、キサンテン色素の塩を含有していてもよい。塩におけるカウンターカチオン及びカウンターアニオンは限定されず、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン及び水酸化物イオン等を挙げることができる。本開示の一実施形態に係るキサンテン色素が上記式(I)で表される場合において、好ましいカウンターカチオンとしては、例えばナトリウムイオンを挙げることができる。上記式(I)で表されるキサンテン色素のナトリウム塩は、例えば以下のいずれかの構造式で表され、これらは全て同一の化合物を表す。
【化9】
【0027】
本開示の好ましい一実施形態に係るキサンテン色素又はその塩としては、例えばローズベンガル(Acid Red 94)、エオシンY(テトラブロモフルオレセイン、Solvent Red 43)、Acid Red 87(エオシンY二ナトリウム塩)、エリトロシンB(Acid Red 51)、フロキシンB(Acid Red 92)、テトラブロモフルオレセインカリウム、2’,4’,5’,7’-テトラブロモ-3,4,5,6-テトラクロロフルオレセイン(Solvent Red 48)、テトラヨードフルオレセイン(ヨーデオシン)、エオシンB(Acid Red 91)、ジブロモフルオレセイン(Solvent Red 72)及びジヨードフルオレセイン(Solvent Red 73)等を挙げることができる。本開示の特定の一実施形態に係るキサンテン色素としては、例えばローズベンガル(Acid Red 94)、エオシンY(テトラブロモフルオレセイン、Solvent Red 43)、Acid Red 87(エオシンY二ナトリウム塩)、エリトロシンB(Acid Red 51)、フロキシンB(Acid Red 92)、テトラブロモフルオレセインカリウム、2’,4’,5’,7’-テトラブロモ-3,4,5,6-テトラクロロフルオレセイン(Solvent Red 48)、テトラヨードフルオレセイン(ヨーデオシン)等を挙げることができる。本開示の特定の一実施形態に係るキサンテン色素は、ローズベンガル、エオシンY又はエリトロシンBであってもよい。
【0028】
本開示の一実施形態において、溶液に含まれるキサンテン色素の濃度は、例えば0.01~100μM、0.1~50μM、0.2~25μM、0.3~10μM、0.4~6.0μM又は0.5~2.0μMであってよい。
【0029】
本開示の第一側面に係る、評価の指標となる吸光蛍光特性を測定される溶液は、さらにその他成分を含んでよい。その他成分としては、例えばpH調整剤、緩衝剤、抗酸化剤及び凝集促進剤等を挙げることができる。本開示の一実施形態に係る上記溶液は、その他成分を一種だけ含んでもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0030】
pH調整剤は、溶液のpHを酸性化又は塩基性化させることによって、溶液のpHを、凝集性タンパク質の凝集状態の維持及びキサンテン色素の蛍光検出に適した範囲に調整することができる。また、溶液のpHを、凝集性タンパク質の凝集を促進するpHに調整することもできる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸及び塩化アンモニウム等の酸、並びに水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、アンモニア及びメチルアミン等の塩基を挙げることができる。
【0031】
緩衝剤は、緩衝作用によって、溶液のpHを、凝集性タンパク質の凝集状態の維持及びキサンテン色素の蛍光検出に適した範囲に維持することができる。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、Tris緩衝剤、HEPES緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤等を挙げることができる。
【0032】
抗酸化剤は、キサンテン色素が励起光照射に伴って産生する一重項酸素(1O2)を不活化する、いわゆる活性酸素のスカベンジャーとして働き、溶液中のタンパク質及びキサンテン色素等の酸化を抑制する。抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、α-トコフェロール、カテキン、グルタチオン、アジ化ナトリウム(NaN3)及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等を挙げることができる。
【0033】
凝集促進剤は、タンパク質の凝集を促進する成分である。凝集促進剤としては、例えば、グアニジン、尿素及び部分構造としてグアニジノ基若しくはグレイド基を有する化合物等のタンパク質の変性を促進する物質等を挙げることができる。
【0034】
本開示の一実施形態において、その他成分の含有量の合計としては、上記溶液全体の質量を基準として、例えば、0.001~50質量%、0.01~20質量%、0.05~5.0質量%又は0.1~2.0質量%であってよい。
【0035】
本開示の第一側面に係る評価方法は、凝集性タンパク質及びキサンテン色素若しくはその塩を含む溶液における、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、上記凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む。凝集性タンパク質及びキサンテン色素若しくはその塩を含む溶液中において、キサンテン色素の吸光蛍光特性は、凝集性タンパク質の凝集状態に依存して変化する。よって、キサンテン色素の吸光蛍光特性を指標として、凝集性タンパク質の凝集状態を評価することができる。
【0036】
本開示の一実施形態において、吸光蛍光特性は、例えば、蛍光スペクトル、蛍光強度、最大蛍光波長、蛍光寿命、蛍光量子収率、吸収スペクトル、吸光度及び最大吸収波長からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよい。好ましい一実施形態において、吸光蛍光特性は、蛍光スペクトル、蛍光強度、最大蛍光波長、吸収スペクトル、吸光度及び最大吸収波長からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよい。より好ましい一実施形態において、吸光蛍光特性は、蛍光スペクトル、蛍光強度及び最大蛍光波長からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよい。特定の一実施形態において、吸光蛍光特性は、蛍光スペクトル、最大蛍光強度及び最大吸光度からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよい。他の特定の一実施形態において、吸光蛍光特性は、蛍光スペクトル及び蛍光強度からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよく、蛍光スペクトル又は蛍光強度であってもよい。
【0037】
本開示の一実施形態において、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間と、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性との関係に基づいて行われる。例えば、凝集性タンパク質が生理的条件下において互いに凝集するタンパク質である場合、凝集可能な状態に置かれてからの時間とは、凝集性タンパク質を生理的条件下で水系溶媒に添加してからの時間を意味する。また例えば、凝集性タンパク質が加熱変性を生じた場合に凝集するタンパク質である場合、凝集可能な状態に置かれてからの時間とは、凝集性タンパク質を含む溶液を加熱し始めてから、高温状態を維持している時間を意味する。また例えば、凝集性タンパク質が強攪拌又は超音波照射等の刺激を与えた場合に凝集を開始するタンパク質である場合、凝集可能な状態に置かれてからの時間とは、凝集性タンパク質を含む溶液に刺激を与えてからの時間を意味する。
【0038】
凝集状態の評価方法に関し、例えば、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間に依存して、最大吸収波長が長波長化かつ最大吸光度が増大する方向に、キサンテン色素の吸収スペクトルが推移する場合、上記溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、時間依存的に吸収スペクトルが推移する関係及び最大吸収波長が長波長化する関係に基づいて、行うことができる。また、上記溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、最大吸光度、又は吸光スペクトルから定めることができる所定の波長(例えば、タンパク質の凝集前と凝集後における最大吸収波長の相加平均の波長)における吸光度が、時間依存的に単調増加する関係に基づいて、行うこともできる。
【0039】
例えば、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間に依存して、最大吸収波長が長波長化する方向、かつ最大吸光度が一度減少した後に増大する方向に、キサンテン色素の吸収スペクトルが推移する場合、上記溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、時間依存的に吸収スペクトルが推移する関係及び最大吸収波長が長波長化する関係に基づいて、行うことができる。また、上記溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、最大吸光度、又は吸光スペクトルから定めることができる所定の波長(例えば、タンパク質の凝集前と凝集後における最大吸収波長の相加平均の波長)における吸光度が、時間依存的に減少した後に増加する関係に基づいて、行うこともできる。
【0040】
例えば、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間に依存して、最大蛍光波長が長波長化する方向、かつ最大蛍光強度が一度減少した後に増大する方向に、キサンテン色素の蛍光スペクトルが推移する場合、上記溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、時間依存的に蛍光スペクトルが推移する関係及び最大蛍光波長が長波長化する関係に基づいて、行うことができる。また、上記溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、最大蛍光強度、又は蛍光スペクトルから定めることができる所定の波長(例えば、タンパク質の凝集前と凝集後における最大蛍光波長の相加平均の波長)における蛍光強度が、時間依存的に減少した後に増加する関係に基づいて、行うこともできる。
【0041】
これらの場合において、上記所定の波長は、キサンテン色素及び凝集性タンパク質に応じて定めることができ、吸収スペクトル又は蛍光スペクトルの形状の時間依存的変化に基づいて、例えば吸光度又は蛍光度が時間依存的に単調増加する波長として定めてよく、吸光度又は蛍光度が時間依存的に減少した後に増加する波長として定めてもよい。吸光度又は蛍光度が時間依存的に減少した後に増加する波長としては、例えば、タンパク質の凝集前と凝集後における最大吸収波長又は最大蛍光波長の相加平均の波長近傍の波長(例えば、相加平均の波長から±5nmの範囲内の波長)であってよい。
【0042】
これらの場合において、吸光蛍光特性が時間依存的に単調増加又は単調減少する場合、凝集状態の評価は、時間に対する吸光蛍光特性の変曲点を指標として行ってよい。また、吸光蛍光特性が時間に応じて減少した後に増大する関係にある場合、凝集状態の評価は、例えば時間に対する吸光蛍光特性の極小点を指標として行ってよく、時間に対する吸光蛍光特性の極小点及び変曲点を指標として行ってもよい。このような評価によって、例えば凝集体を形成する前のモノマーの状態から、中間状態を経て最終的にフィブリルを形成するまでの2以上、3以上又は4以上の凝集の段階として凝集状態を評価することができる。
【0043】
本開示の一実施形態において、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、溶液中のタンパク質の凝集状態に応じたキサンテン色素の吸光蛍光特性についての既知の情報をリファレンスとして行ってもよい。この場合の吸光蛍光特性としては、例えば吸収スペクトル又は蛍光スペクトルであってよく、このとき、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、例えば、評価対象の溶液におけるスペクトルの形状が、リファレンスの特定の凝集状態におけるスペクトルの形状と一致することに基づいて行ってよい。また、この場合の吸光蛍光特性としては、例えば最大吸収波長又は最大蛍光波長であってよく、このとき、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、例えば、評価対象の溶液における最大吸収波長又は最大蛍光波長が、リファレンスの特定の凝集状態における最大吸収波長又は最大蛍光波長と一致することに基づいて行ってよい。また、この場合の吸光蛍光特性としては、例えば2以上の波長における吸光度又は蛍光強度であってよく、このとき、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態の評価は、例えば、評価対象の溶液における第1の波長及び第2の波長の吸光度又は蛍光強度の比率(レシオ)が、リファレンスの特定の凝集状態における第1の波長及び第2の波長の吸光度又は蛍光強度の比率(レシオ)と一致することに基づいて行ってよい。このような評価によって、例えば凝集体を形成する前のモノマーの状態から、中間状態を経て最終的にフィブリルを形成するまでの2以上、3以上又は4以上の凝集の段階として凝集状態を評価することができる。
【0044】
本開示の第一側面に係る方法は、一実施形態において、(I):凝集性タンパク質の水溶液を用意する工程(用意工程)、(II):用意工程で得られたタンパク質溶液をインキュベートし、凝集性タンパク質を凝集させる工程(凝集工程)、(III):凝集工程で得られた、タンパク質の凝集体を含む溶液にキサンテン色素又はその塩を添加する工程(色素添加工程)、(IV):色素添加工程で得られた溶液の吸光蛍光特性を測定する工程(測定工程)及び(V):測定工程において取得した吸光蛍光特性に基づいて、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する工程(評価工程)を含む。
【0045】
(I)用意工程においては、凝集性タンパク質の水溶液を用意する。(I)用意工程は、通常、水系溶媒に凝集性タンパク質を添加することによって行われる。一実施形態において、凝集性タンパク質が生理的条件下において互いに凝集するタンパク質である場合には、凝集性タンパク質が水系溶媒に溶解した時点で凝集が開始してしまう。この場合、(I)用意工程は、後述する(II)凝集工程の直前に行う、あるいは凝集が生じない条件として例えば氷冷下で行われることが好ましい。また、水系溶媒は、上述したその他成分を含んでいてもよい。
【0046】
(II)凝集工程においては、(I)用意工程で得られたタンパク質溶液をインキュベートし、凝集性タンパク質を凝集させる。一実施形態において、凝集性タンパク質が生理的条件下において互いに凝集するタンパク質である場合には、(II)凝集工程におけるインキュベート条件は、生理的条件、すなわち、例えば室温又は20℃以上40℃未満の環境下において、穏やかに攪拌する条件であってよい。また、一実施形態において、凝集性タンパク質が加熱変性によって互いに凝集するタンパク質である場合には、(II)凝集工程におけるインキュベート条件は、例えば40℃以上90℃以下又は50℃以上80℃以下の環境において、穏やかに攪拌する条件であってよい。
【0047】
(III)色素添加工程においては、(II)凝集工程で得られたタンパク質の凝集体を含む溶液にキサンテン色素又はその塩を添加する。キサンテン色素又はその塩の添加としては、例えばキサンテン色素又はその塩の粉末を添加してよく、キサンテン色素又はその塩を水溶液やジメチルスルホキシド又はエタノール等の有機溶媒に溶解した溶液として添加してもよい。また、(III)色素添加工程におけるキサンテン色素又はその塩は、(II)凝集工程で得られたタンパク質の凝集体を含む溶液に対してそのまま添加してもよく、(II)凝集工程で得られたタンパク質の凝集体を含む溶液を希釈した溶液に対して添加してもよい。(II)凝集工程で得られたタンパク質の凝集体を含む溶液を希釈した溶液に対してキサンテン色素又はその塩を添加する場合、希釈後の溶液における凝集性タンパク質の濃度としては、モノマー基準で例えば0.1~100μM、0.5~60μM、1.0~30μM又は2.0~20μMであってよい。また、希釈における希釈液としては、上述した水系溶媒を用いてもよい。
【0048】
(IV)測定工程においては、(III)色素添加工程で得られた凝集性タンパク質及びキサンテン色素若しくはその塩を含む溶液における、上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を測定する工程である。(IV)測定工程は、一度だけ行われてもよく、時間間隔をあけて複数回(例えば、10秒~20分間隔で、2~1000回)行われてもよい。(IV)測定工程を複数回行う場合とは、(IV)測定工程と(II)凝集工程を交互に繰り返し行う場合を意味し、(IV)測定工程を行う間隔とは、それぞれの(IV)測定工程の間に行われる(II)凝集工程のインキュベート時間を意味する。吸光蛍光特性の測定は、当業者が通常行う方法によって行うことができ、例えば吸光度計、蛍光光度計、マイクロウェルプレートリーダー及び蛍光寿命測定装置等を用いて測定することができる。また、蛍光強度測定及び蛍光寿命測定における励起波長は、キサンテン色素の種類に合わせて当業者が通常行う方法によって定めることができ、例えば、最大蛍光強度、又は蛍光スペクトルから定めることができる所定の波長における蛍光強度が、時間依存的に減少した後に増加するように定めてもよい。
【0049】
(V)評価工程においては、(IV)測定工程で得た吸光蛍光特性に基づいて、溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価する。凝集状態の評価は、すでに説明したとおり、例えば、凝集性タンパク質が溶液中で凝集可能な状態に置かれてからの時間とキサンテン色素の吸光蛍光特性との関係に基づいて行う方法、及び、溶液中のタンパク質の凝集状態に応じたキサンテン色素の吸光蛍光特性についての既知の情報をリファレンスとして行う方法等によって行うことができる。
【0050】
以上で説明した例では、(I)用意工程の次に(II)凝集工程を行ったが、凝集性タンパク質が加熱以外の特定の条件下で凝集するタンパク質である場合には、(I)用意工程の後かつ(II)凝集工程の前に、さらに(VI):用意工程で得られたタンパク質を含む溶液に対して凝集を開始する刺激を与える工程(凝集開始工程)を含んでもよい。凝集開始工程における刺激は、凝集性タンパク質に応じて定めることができ、例えばボルテックスミキサー等による強攪拌、超音波照射、pHの酸性化若しくは塩基性化、及び凝集促進剤の添加等であってよい。また、一実施形態において、(VI)凝集開始工程は、(I)用意工程と同時に行われてもよい。この場合、(I)用意工程において用いる水系溶媒のpHを予め酸性化又は塩基性化させておく、あるいは(I)用意工程において用いる水系溶媒に予め凝集促進剤を添加しておくことによって、(VI)凝集開始工程が(I)用意工程と同時に行われ、凝集性タンパク質が水系溶媒に対する添加の直後から凝集を開始する。
【0051】
また、以上で説明した例では、(III)色素添加工程を(II)凝集工程の後かつ(IV)測定工程の前に行ったが、(III)色素添加工程は、(IV)測定工程の前の任意のタイミング、すなわち例えば(I)用意工程の前、(I)用意工程と同時、(I)用意工程の後かつ(II)凝集工程の前、又は(II)凝集工程と同時に行ってもよい。
【0052】
また、以上で説明した例では、キサンテン色素の吸光蛍光特性の時間依存的な変化を、(II)凝集工程と(IV)測定工程を交互に行う方法によって取得したが、キサンテン色素の吸光蛍光特性の時間依存的な変化は、(II)凝集工程における所定のインキュベート時間経過後の溶液から(IV)測定工程に用いるための溶液(測定用溶液)を複数回抽出し、抽出された各測定用溶液におけるインキュベート時間と、その測定用溶液における吸光蛍光特性との関係から取得してもよい。すなわち、一実施形態における評価方法は、(VII):凝集工程の所定のインキュベート時間において、凝集性タンパク質を含む溶液の一部を測定用溶液として抽出する工程(測定用溶液抽出工程)を複数回含んでよい。一実施形態に係る評価方法が(VII)測定用溶液抽出工程を含む場合、(III)色素添加工程及び(IV)測定工程等の(VII)測定用溶液抽出工程の後に行われる工程は、(II)凝集工程における溶液ではなく、測定用溶液を用いて行う。例えば、100分間の(II)凝集工程において、10分間隔で(VII)測定用溶液抽出工程を11回行い、得られた11個の測定用溶液に対して(III)色素添加工程及び(IV)測定工程を行うと、(II)凝集工程におけるインキュベート時間が0、10、20、30、40、50、60、70、80、90及び100分に相当する吸光蛍光特性を取得することができる。一実施形態に係る評価方法が、(VII)測定用溶液抽出工程を含むことによって、キサンテン色素の吸光蛍光特性の時間依存的な変化を取得する場合、測定用溶液内で凝集状態の更なる変化を生じさせないために、(III)色素添加工程及び(IV)測定工程が(VII)測定用溶液抽出工程の直後に行われるか、更なる凝集生じない条件(例えば、氷冷条件、凍結条件、酸性条件又は塩基性条件)下で測定用溶液が保存されることが好ましい。
【0053】
また、以上で説明した例では、タンパク質の凝集体を含む溶液を(I)用意工程及び(II)凝集工程において調製したが、タンパク質の凝集体を含む溶液の調製方法は、これに限定されない。すなわち、(I)用意工程及び(II)凝集工程において調製した溶液に代わって、例えば対象から取得したタンパク質の凝集体を含む溶液、又は対象から取得したタンパク質を含む溶液を用いて(II)凝集工程を行った溶液等を用いてもよい。このようなタンパク質の凝集体を含む溶液又はタンパク質を含む溶液としては、例えば、ヒト、マウス又はラット等の動物から採取した血漿、血清、髄液及びリンパ液並びにそれらの希釈液等を挙げることができる。
【0054】
本開示の第二側面は、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法におけるキサンテン色素又はその塩を含むキットである。本開示の第二側面の一実施形態に係るキットは、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法におけるキサンテン色素若しくはその塩、及び上記キサンテン色素の吸光蛍光特性を基準として溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することが記載された説明書を含んでよい。本開示の第二側面の他の一実施形態に係るキットは、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法におけるキサンテン色素若しくはその塩、並びに抗酸化物質、pH調整剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0055】
本開示の第二側面に係るキットは、本開示の第一側面に係る方法によって、例えば凝集性タンパク質の各凝集状態における機能及び性質、あるいは溶液条件に応じた凝集性タンパク質の凝集性の評価等を解明するための研究試薬として用いることができる。
【0056】
本開示の第三側面は、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法に従って溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、上記凝集性タンパク質の凝集状態の変化又は上記凝集性タンパク質の凝集体の分解を誘導する薬物のスクリーニング方法である。
【0057】
本開示の第四側面は、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法に従って溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を評価することを含む、上記凝集性タンパク質の凝集状態の変化又は上記凝集性タンパク質の凝集体の分解を誘導する薬物の評価方法である。
【0058】
本開示の第三側面及び第四側面に係る、凝集性タンパク質の凝集状態の変化を誘導する薬物のスクリーニング又は評価方法は、例えば、本開示の第一側面における(I)用意工程で用いる水系溶媒に、さらにスクリーニング対象の薬物又は評価対象の薬物を含有させる方法によって行うことができる。
【0059】
本開示の第三側面及び第四側面に係る、凝集性タンパク質の凝集状態の分解を誘導する薬物のスクリーニング又は評価方法は、例えば、本開示の第一側面における(II)凝集工程で得られた溶液にスクリーニング対象の薬物又は評価対象の薬物を添加し、所定の時間インキュベートした後に(IV)測定工程を行うことによって行うことができる。
【0060】
本開示の第三側面及び第四側面における薬物としては、例えばアルツハイマー型認知症、パーキンソン病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病及びアミロイドーシス等のタンパク質の凝集体によって引き起こされる疾患の治療薬及びその候補物質を挙げることができる。
【0061】
本開示の第五側面は、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法におけるキサンテン色素若しくはその塩、及び凝集性タンパク質を含む、本開示の第三側面に係るスクリーニング方法に使用するためのスクリーニングキットである。
【0062】
本開示の第六側面は、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法におけるキサンテン色素若しくはその塩、及び凝集性タンパク質を含む、本開示の第四側面に係る薬物評価方法に使用するための評価キットである。
【0063】
本開示の第五側面及び第六側面における、薬物と凝集性タンパク質の組み合わせとしては、例えば、アルツハイマー型認知症の治療薬若しくはその候補物質とリゾチームの組み合わせ、アルツハイマー型認知症の治療薬若しくはその候補物質とアミロイドβの組み合わせ、パーキンソン病の治療薬若しくはその候補物質とαシヌクレインの組み合わせ、プリオン病の治療薬若しくはその候補物質とプリオンタンパク質の組み合わせ、筋萎縮性側索硬化症の治療薬若しくはその候補物質とSOD1(Superoxide Dismutase 1)の組み合わせ、筋萎縮性側索硬化症の治療薬若しくはその候補物質とTDP-43(TAR DNA-binding protein of 43kDa)の組み合わせ、及びハンチントン病の治療薬若しくはその候補物質とポリグルタミンの組み合わせ等を挙げることができる。
【0064】
本開示の一実施形態において、本開示の第三側面及び第四側面に係る方法並びに本開示の第五側面及び第六側面に係るキットは、例えば、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病及びアミロイドーシス等のタンパク質の凝集体によって引き起こされる疾患の治療薬をスクリーニング又は評価するために用いることができる。
【0065】
本開示の第七側面は、凝集性タンパク質の凝集体の単離方法であって、本開示の第一側面に係る凝集状態の評価方法に従って評価した溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態を指標として、上記溶液から凝集性タンパク質の凝集体を単離することを含む、方法である。本開示の第七側面に係る単離方法におけるタンパク質凝集体の単離は、例えば、(V)評価工程の後に、評価結果に基づいて、(IV)測定工程において用いた溶液、(II)凝集工程で得られた溶液又は(VII)測定用溶液抽出工程で得られた溶液から、タンパク質の凝集体を超遠心分離法、Amicon(登録商標)等のフィルターを用いた遠心分離法、カラムクロマトグラフィー法及び凍結乾燥法等によって単離する工程(単離工程)を含むことによって、行うことができる。例えば、(II)凝集工程における特定のインキュベート時間において行った(VII)測定用溶液抽出工程で得られた測定用溶液を用いて行った(V)評価工程において、該測定用溶液中の凝集性タンパク質の凝集状態が所望の状態であると評価された場合、該インキュベート時間において(II)凝集工程を終了し、単離工程を行うことによって、所望の凝集状態を有する凝集体を得ることができる。このようなインキュベート時間の決定は、例えば同様の条件で行った別の実験をリファレンスとして事前に決定してもよく、(II)凝集工程と並行して、(VII)測定用溶液抽出、(III)色素添加工程、(IV)測定工程及び(V)評価工程を繰り返し行うことで、リアルタイムに決定してもよい。
【実施例0066】
以下に実施例を用いて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実施例1:ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標とした、リゾチームの凝集状態の評価>
リゾチーム(富士フイルム和光純薬社製)40mgを、塩酸25mM及び塩化ナトリウム100mMの水溶液2mLに添加し、静置することで溶解させた。得られたリゾチーム溶液を、60℃の条件下、200rpmで加熱攪拌し、リゾチームを熱変性させることで、リゾチームの凝集反応を開始させた。加熱攪拌を開始してから0、10、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80及び90分後に、リゾチーム溶液を100μLずつ抽出して氷冷した。氷冷されたリゾチーム溶液、及びローズベンガル(富士フイルム和光純薬社製)を、終濃度がそれぞれ7μM及び1μMとなるように蒸留水に添加した。得られた溶液を分光計測用セルに入れ、吸光蛍光特性の測定を行った。蛍光測定における励起波長は530nmとした。
【0068】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを
図1に示す。また、
図1において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を
図2に示す。
図1及び
図2によれば、熱変性時間に応じて、ローズベンガルの吸収スペクトルの形状、最大吸収波長及び最大吸光度が変化した。特に、吸光スペクトルから定めることができる所定の波長として560nm付近における吸光度、及び最大吸光度は、熱変性時間に対して、減少した後に、40~50分付近を極小点として増大する変化が観察された。以上の結果から、熱変性時間に依存したリゾチームの凝集状態の変化を、ローズベンガルの吸光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0069】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを
図3に示す。また、
図3において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を
図4に示す。
図3及び
図4によれば、熱変性時間に応じて、ローズベンガルの蛍光スペクトルの形状、最大蛍光波長及び最大蛍光強度が変化した。特に、蛍光スペクトルから定めることができる所定の蛍光波長として570nm付近における蛍光強度、及び最大蛍光強度は、熱変性時間に対して、減少した後に、40~50分付近を極小点として増大する変化が観察された。以上の結果から、熱変性時間に依存したリゾチームの凝集状態の変化を、ローズベンガルの蛍光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0070】
<実施例2:ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標とした、インスリンの凝集状態の評価>
インスリン(富士フイルム和光純薬社製)40mgを、塩酸25mM及び塩化ナトリウム100mMの水溶液2mLに添加し、静置することで溶解させた。得られたインスリン溶液を、55℃の条件下、200rpmで加熱攪拌し、インスリンを熱変性させることで、インスリンの凝集反応を開始させた。加熱攪拌を開始してから0、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80及び90分後に、インスリン溶液を100μLずつ抽出して氷冷した。氷冷されたインスリン溶液、及びローズベンガル(富士フイルム和光純薬社製)を、終濃度がそれぞれ17μM及び1μMとなるように蒸留水に添加した。得られた溶液を分光計測用セルに入れ、吸光蛍光特性の測定を行った。蛍光測定における励起波長は530nmとした。
【0071】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを
図5に示す。また、
図5において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を
図6に示す。
図5及び
図6によれば、熱変性時間に応じて、ローズベンガルの吸収スペクトルの形状、最大吸収波長及び最大吸光度が変化した。特に、吸光スペクトルから定めることができる所定の波長として560nm付近における吸光度、及び最大吸光度は、熱変性時間に対して、減少した後に、30分付近を極小点として増大する変化が観察された。以上の結果から、熱変性時間に依存したインスリンの凝集状態の変化を、ローズベンガルの吸光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0072】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを
図7に示す。また、
図7において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を
図8に示す。
図7及び
図8によれば、熱変性時間に応じて、ローズベンガルの蛍光スペクトルの形状、最大蛍光波長及び最大蛍光強度が変化した。特に、蛍光スペクトルから定めることができる所定の蛍光波長として570nm付近における蛍光強度、及び最大蛍光強度は、熱変性時間に対して、減少した後に、30分付近を極小点として増大する変化が観察された。以上の結果から、熱変性時間に依存したインスリンの凝集状態の変化を、ローズベンガルの蛍光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0073】
<実施例3:ローズベンガルの吸光蛍光特性を指標とした、西洋わさびペルオキシダーゼの凝集状態の評価>
西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP、富士フイルム和光純薬社製)40mgを、pH7.4のリン酸緩衝食塩水2mLに添加し、静置することで溶解させた。得られたHRP溶液を、70℃の条件下、200rpmで加熱攪拌し、HRPを熱変性させることで、HRPの凝集反応を開始させた。加熱攪拌を開始してから0、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80及び90分後に、HRP溶液を100μLずつ抽出して氷冷した。氷冷されたHRP溶液、及びローズベンガル(富士フイルム和光純薬社製)を、終濃度がそれぞれ5μM及び1μMとなるように蒸留水に添加した。得られた溶液を分光計測用セルに入れ、吸光蛍光特性の測定を行った。蛍光測定における励起波長は530nmとした。
【0074】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを
図9に示す。また、
図9において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を
図10に示す。
図9において、HRPはローズベンガルの吸収とオーバーラップする吸収帯を有しているため、リファレンスとして取得したローズベンガルを加えていないHRPの吸収を差し引いて表示した。
図9及び
図10によれば、熱変性時間に応じて、ローズベンガルの吸収スペクトルの形状、最大吸収波長及び最大吸光度が変化した。特に、最大吸光度は、熱変性時間に対して、減少した後に、20分付近を極小点として増大する変化が観察された。以上の結果から、熱変性時間に依存したHRPの凝集状態の変化を、ローズベンガルの吸光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0075】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを
図11に示す。また、
図11において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を
図12に示す。
図11及び
図12によれば、熱変性時間に応じて、ローズベンガルの蛍光スペクトルの形状、最大蛍光波長及び最大蛍光強度が変化した。特に、蛍光スペクトルから定めることができる所定の蛍光波長として570nm付近における蛍光強度、及び最大蛍光強度は、熱変性時間に対して、減少した後に、20分付近を極小点として増大する変化が観察された。以上の結果から、熱変性時間に依存したHRPの凝集状態の変化を、ローズベンガルの蛍光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0076】
<実施例4:エオシンYの吸光蛍光特性を指標とした、リゾチームの凝集状態の評価>
キサンテン色素としてローズベンガルの代わりにエオシンY(富士フイルム和光純薬社製)を使用し、蛍光測定における励起波長を500nmとした点を除いては、実施例1と同様の方法によってサンプル調製及び吸光蛍光測定を行った。
【0077】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを
図13に示す。また、
図13において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を
図14に示す。
図13及び
図14によれば、熱変性時間に応じて、エオシンYの吸収スペクトルの形状、最大吸収波長及び最大吸光度が変化した。特に、吸光スペクトルから定めることができる所定の波長として530nm付近における吸光度、及び最大吸光度は、熱変性時間に対して、減少した後に、40~50分付近を極小点として増大する変化が観察された。この時間依存的変化は、ローズベンガルを用いた
図1の結果と一致した。以上の結果から、熱変性時間に依存したリゾチームの凝集状態の変化を、エオシンYの吸光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0078】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを
図15に示す。また、
図15において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を
図16に示す。
図15及び
図16によれば、熱変性時間に応じて、エオシンYの蛍光スペクトルの形状、最大蛍光波長及び最大蛍光強度が変化した。特に、蛍光スペクトルから定めることができる所定の蛍光波長として550nm付近における蛍光強度、及び最大蛍光強度は、熱変性時間に対して、減少した後に、40~50分付近を極小点として増大する変化が観察された。この時間依存的変化は、ローズベンガルを用いた
図1の結果と一致した。以上の結果から、熱変性時間に依存したリゾチームの凝集状態の変化を、エオシンYの蛍光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0079】
<実施例5:エリトロシンBの吸光蛍光特性を指標とした、リゾチームの凝集状態の評価>
キサンテン色素としてローズベンガルの代わりにエリトロシンB(富士フイルム和光純薬社製)を使用し、蛍光測定における励起波長を510nmとした点を除いては、実施例1と同様の方法によってサンプル調製及び吸光蛍光測定を行った。
【0080】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における吸収スペクトルを
図17に示す。また、
図17において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大吸収波長又は最大吸光度としてプロットした結果を
図18に示す。
図17及び
図18によれば、熱変性時間に応じて、エリトロシンBの吸収スペクトルの形状、最大吸収波長及び最大吸光度が変化した。以上の結果から、熱変性時間に依存したリゾチームの凝集状態の変化を、エリトロシンBの吸光特性を指標として評価可能であることが示された。
【0081】
種々の加熱攪拌時間(熱変性時間)における蛍光スペクトルを
図19に示す。また、
図19において、横軸を熱変性時間とし、縦軸を最大蛍光波長又は最大蛍光強度としてプロットした結果を
図20に示す。
図19及び
図20によれば、熱変性時間に応じて、エリトロシンBの蛍光スペクトルの形状、最大蛍光波長及び最大蛍光強度が変化した。特に、蛍光スペクトルから定めることができる所定の蛍光波長として560nm付近における蛍光強度、及び最大蛍光強度は、熱変性時間に対して、減少した後に、40~50分付近を極小点として増大する変化が観察された。この時間依存的変化は、ローズベンガルを用いた
図1の結果と一致した。以上の結果から、熱変性時間に依存したリゾチームの凝集状態の変化を、エリトロシンBの蛍光特性を指標として評価可能であることが示された。