(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135022
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】多孔性ゲル及びその製造方法、並びに、ガス吸着システム及びガス分離システム
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20240927BHJP
B01D 53/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01D53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045510
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】古川 修平
(72)【発明者】
【氏名】王 早銘
【テーマコード(参考)】
4D012
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA03
4D012CG01
4G066AA53A
4G066AB07A
4G066AB12D
4G066AB13A
4G066AB18D
4G066AB21D
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066AC21D
4G066BA09
4G066BA28
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA35
4G066DA01
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】ゲルとしての物理的特性と、多孔性材料としてのゲスト吸着特性とを併せ持つ、新しいタイプの物理ゲルを提供する。
【解決手段】本発明に係る多孔性ゲルは、分子内に空孔を有する金属有機構造体と、上記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除溶媒と、を含んでいる。上記金属有機構造体は、上記空孔内に少なくとも1種類のゲスト分子を吸着できるように構成されている。上記金属有機構造体は、複数の粒子を形成しており、上記複数の粒子は、物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。この多孔性ゲルは、周囲条件下、少なくとも1つの角周波数ω
0において、貯蔵弾性率E’(ω
0)が損失弾性率E’’(ω
0)より大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に空孔を有する金属有機構造体と、
前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除溶媒と、
を含み、
前記金属有機構造体は、前記空孔内に少なくとも1種類のゲスト分子を吸着できるように構成されており、
前記金属有機構造体は、複数の粒子を形成しており、前記複数の粒子は、物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成しており、
周囲条件下、少なくとも1つの角周波数ω0において、貯蔵弾性率E’(ω0)が損失弾性率E’’(ω0)より大きい、多孔性ゲル。
【請求項2】
前記サイズ排除溶媒は、標準圧力における沸点が200℃以上である、請求項1に記載の多孔性ゲル。
【請求項3】
前記サイズ排除溶媒は、液体高分子、イオン性液体、及び、クラウンエーテルからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の多孔性ゲル。
【請求項4】
前記多孔性ゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO2吸着量は、0.5cm3/g以上である、請求項1又は2に記載の多孔性ゲル。
【請求項5】
前記多孔性ゲルの303K及び飽和蒸気圧での単位質量当たりのCO2吸着量は、前記サイズ排除溶媒の303K及び飽和蒸気圧での単位質量当たりのCO2吸着量の2倍以上である、請求項1又は2に記載の多孔性ゲル。
【請求項6】
前記多孔性ゲルに占める前記金属有機構造体の含有量は、1質量%乃至50質量%の範囲内にある、請求項1又は2に記載の多孔性ゲル。
【請求項7】
前記ネットワーク構造の少なくとも一部を破壊することによってゾルに変換できるように構成されている、請求項1又は2に記載の多孔性ゲル。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の多孔性ゲルを含んだガス吸着システム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の多孔性ゲルを含んだガス分離システム。
【請求項10】
分子内に空孔を有する金属有機構造体と第1の溶媒とを含んだ前駆体ゲルを形成する工程と、
前記前駆体ゲルにおいて前記第1の溶媒を第2の溶媒に交換する工程と、
を含み、
前記第1の溶媒は、前記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、
前記第2の溶媒は、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している、
多孔性ゲルの製造方法。
【請求項11】
前記空孔中に存在している気体又は液体分子を除去する活性化工程を更に含んでいる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の溶媒は、標準圧力における沸点が200℃以上である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の溶媒は、液体高分子、イオン性液体、及び、クラウンエーテルからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の溶媒を前記第2の溶媒に交換する工程は、前記第1の溶媒を第3の溶媒に交換する工程と、前記第3の溶媒を前記第2の溶媒に交換する工程と、を含んでいる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項15】
前記第3の溶媒は、前記第1の溶媒と比較して、前記第2の溶媒との混和性がより高い、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔性ゲル及びその製造方法に関する。また、本開示は、多孔性ゲルを含んだガス吸着システム及びガス分離システムにも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライト、活性炭、及び、金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks; MOF)などの多孔性材料が広く研究されている。特に、多孔性のMOFは、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)とも呼ばれ、ガス吸着及びガス分離などの分野での応用が期待されている。
【0003】
多孔性材料は、通常は、固体状態で使用される。しかしながら、固体材料は、流動性及び成形性等の観点で、応用範囲に制限がある。そこで、近年では、固体以外の形態を有する、ソフトマテリアルとしての多孔性材料に関する研究も進められている。
【0004】
例えば、非特許文献1並びに特許文献1及び2は、いわゆる多孔性液体(Porous Liquid)に関する技術を開示している。これらの開示は、有機カゴ分子(Organic Cage Molecule)又はMOFを液相で分散させることにより、永続的な多孔性(Permanent Porosity)を有する液体を提供することを目的としている。
【0005】
しかしながら、多孔性液体は、循環又はフロー系のシステムへの応用には適していると考えられるものの、成形性が求められる用途には、必ずしも適していない。
【0006】
ここで、一般に、ゲルは、液体及び固体の双方の利点を併せ持つ材料であり、フレキシブルな成形性に優れている。そこで、永続的な多孔性を示すゲルを作製するための研究も進められている。
【0007】
例えば、非特許文献2及び3には、MOF又は金属有機多面体(Metal-Organic Polyhedra; MOP)を含んだゲルが開示されている。これらの開示は、永続的な多孔性を示すゲルを提供することを目的としている。
【0008】
しかしながら、これらのゲルは、作製時に空孔中に捕らえられた溶媒分子又は気体分子を事前に除去するための活性化工程によって、必然的にエアロゲル(Aerogel)に変化してしまう。このようなエアロゲルにおいては、永続的な多孔性が得られるものの、ゲル特有の粘弾性は喪われてしまっている。即ち、これらのゲルにおいては、エアロゲルへの変換を行うことなしに、ゲスト吸着特性を発揮させることができない。
【0009】
このように、本発明者らは、従来の多孔性ゲルでは、多孔性材料としてのゲスト吸着特性(永続的な多孔性)と、ゲルとしての物理的特性とを両立させることは困難であることを見出した。即ち、本発明者らは、多孔性材料としてのゲスト吸着特性を得るためにはゲルとしての物理的特性が犠牲となり、ゲルとしての物理的特性を保持するためには多孔性材料としてのゲスト吸着特性が犠牲となるというトレードオフ関係が存在することを見出した。
【0010】
そこで、本発明者らは、非特許文献4乃至6に示す発表において、リンカーによって互いに架橋された(cross-linked)MOPを用いた多孔性ゲルを報告した。このゲルは、ゲル特有の粘弾性と永続的な多孔性とを併せ持っている。
【0011】
しかしながら、上記のMOPゲルにおいては、MOP同士がリンカーによる共有結合又は配位結合によって架橋されている必要がある。このような化学ゲルの形成は、不可逆反応であり、いったんゲルが形成されると、その再形成は困難である。また、一般に、MOPは、MOFと比較して、製造コストが著しく高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2018/206977号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2020/053589号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Giri, N., Del Popolo, M., Melaugh, G. et al. Liquids with permanent porosity. Nature 527, 216-220 (2015)
【非特許文献2】Carne-Sanchez, A., Craig, G.A., Larpent, P. et al. Self-assembly of metal-organic polyhedra into supramolecular polymers with intrinsic microporosity. Nat Commun 9, 2506 (2018)
【非特許文献3】Jigwei Hou, Adam F. Sapnik and Thomas D. Bennett, Metal-Organic framework gels and monoliths, Chem. Sci. 2020, 11, 310
【非特許文献4】Zaoming Wang et al. Liquid exchange method to fabricate permanently porous gels based on metal-organic polyhedra, JSCC Nagoya, 22nd September 2019
【非特許文献5】Zaoming Wang et al. Liquid exchange method to fabricate permanently porous gels based on metal-organic polyhedra, ICNM, 2nd October 2019
【非特許文献6】Zaoming Wang and Shuhei Furukawa, Synthesis of gels from metal organic polyhedra demonstrating permanent porosity, The 1st KU-UNIST Joint Symposium on Chemistry and Materials Science, 24th October 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、ゲルとしての物理的特性と、多孔性材料としてのゲスト吸着特性とを併せ持つ、新しいタイプの物理ゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
[1]分子内に空孔を有する金属有機構造体と、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除溶媒と、を含み、前記金属有機構造体は、前記空孔内に少なくとも1種類のゲスト分子を吸着できるように構成されており、前記金属有機構造体は、複数の粒子を形成しており、前記複数の粒子は、物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成しており、周囲条件下、少なくとも1つの角周波数ω0において、貯蔵弾性率E’(ω0)が損失弾性率E’’(ω0)より大きい、多孔性ゲル。
[2]前記サイズ排除溶媒は、標準圧力における沸点が200℃以上である、[1]に記載の多孔性ゲル。
[3]前記サイズ排除溶媒は、液体高分子、イオン性液体、及び、クラウンエーテルからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]又は[2]に記載の多孔性ゲル。
[4]前記多孔性ゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO2吸着量は、0.5cm3/g以上である、[1]乃至[3]の何れかに記載の多孔性ゲル。
[5]前記多孔性ゲルの303K及び飽和蒸気圧での単位質量当たりのCO2吸着量は、前記サイズ排除溶媒の303K及び飽和蒸気圧での単位質量当たりのCO2吸着量の2倍以上である、[1]乃至[4]の何れかに記載の多孔性ゲル。
[6]前記多孔性ゲルに占める前記金属有機構造体の含有量は、1質量%乃至50質量%の範囲内にある、[1]乃至[5]の何れかに記載の多孔性ゲル。
[7]前記ネットワーク構造の少なくとも一部を破壊することによってゾルに変換できるように構成されている、[1]乃至[6]の何れかに記載の多孔性ゲル。
[8][1]乃至[7]の何れかに記載の多孔性ゲルを含んだガス吸着システム。
[9][1]乃至[7]の何れかに記載の多孔性ゲルを含んだガス分離システム。
[10]分子内に空孔を有する金属有機構造体と第1の溶媒とを含んだ前駆体ゲルを形成する工程と、前記前駆体ゲルにおいて前記第1の溶媒を第2の溶媒に交換する工程と、を含み、前記第1の溶媒は、前記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、前記第2の溶媒は、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している、多孔性ゲルの製造方法。
[11]前記空孔中に存在している気体又は液体分子を除去する活性化工程を更に含んでいる、[10]に記載の方法。
[12]前記第2の溶媒は、標準圧力における沸点が200℃以上である、[10]又は[11]に記載の方法。
[13]前記第2の溶媒は、液体高分子、イオン性液体、及び、クラウンエーテルからなる群より選択される少なくとも1つである、[10]乃至[12]の何れかに記載の方法。
[14]前記第1の溶媒を前記第2の溶媒に交換する工程は、前記第1の溶媒を第3の溶媒に交換する工程と、前記第3の溶媒を前記第2の溶媒に交換する工程と、を含んでいる、[10]乃至[13]の何れかに記載の方法。
[15]前記第3の溶媒は、前記第1の溶媒と比較して、前記第2の溶媒との混和性がより高い、[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ゲルとしての物理的特性と、多孔性材料としてのゲスト吸着特性とを併せ持つ、新しいタイプの物理ゲルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一態様に係る多孔性ゲルの製造方法を示す概念図である。
【
図2】
図2は、Al-BTC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。
【
図3】
図3は、実施例1に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図4】
図4は、実施例1に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図5】
図5は、実施例1に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)の可逆性に関する実験結果を示している。
【
図6】
図6は、Al-ADC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。
【
図7】
図7は、実施例2に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図8】
図8は、実施例2に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図9】
図9は、Fe-BTC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。
【
図10】
図10は、実施例3に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図11】
図11は、実施例3に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図12】
図12は、Ga-BTC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。
【
図13】
図13は、実施例4に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図14】
図14は、実施例4に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図15】
図15は、実施例5に係る多孔性ゲル(In-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図16】
図16は、実施例5に係る多孔性ゲル(In-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図17】
図17は、比較例1に係るサイズ排除溶媒(PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図18】
図18は、実施例6に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(Al-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
【
図19】
図19は、実施例6に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図20】
図20は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)、対応するエアロゲル(Al-ADC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
【
図21】
図21は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図22】
図22は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図23】
図23は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)の可逆性に関する実験結果を示している。
【
図24】
図24は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(Fe-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
【
図25】
図25は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している
【
図26】
図26は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図27】
図27は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)の可逆性に関する実験結果を示している。
【
図28】
図28は、実施例9に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(Ga-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
【
図29】
図29は、実施例9に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図30】
図30は、実施例10に係る多孔性ゲル(In-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(In-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
【
図31】
図31は、実施例10に係る多孔性ゲル(In-BTC/PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図32】
図32は、実施例10に係る多孔性ゲル(In-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図33】
図33は、比較例2に係るサイズ排除溶媒(PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図34】
図34は、実施例11に係る多孔性ゲル(Al-BTC/[BMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Al-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([BMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
【
図35】
図35は、実施例11に係る多孔性ゲル(Al-BTC/[BMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図36】
図36は、実施例11に係る多孔性ゲル(Al-BTC/[BMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図37】
図37は、実施例12に係る多孔性ゲル(Al-ADC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Al-ADC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
【
図38】
図38は、実施例12に係る多孔性ゲル(Al-ADC/[EMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図39】
図39は、実施例13に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Fe-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
【
図40】
図40は、実施例13に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/[EMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図41】
図41は、実施例13に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/[EMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図42】
図42は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Ga-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
【
図43】
図43は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【
図44】
図44は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図45】
図45は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])の可逆性に関する実験結果を示している。
【
図46】
図46は、実施例15に係る多孔性ゲル(In-BTC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(In-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
【
図47】
図47は、実施例15に係る多孔性ゲル(In-BTC/[EMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図48】
図48は、比較例3に係るサイズ排除溶媒([BMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一態様に係る多孔性ゲル及びその製造方法について説明する。また、併せて、上記の多孔性ゲルを含んだガス吸着システム及びガス分離システムについても説明する。なお、図面又は化学式を参照する場合、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号又は記号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
本発明の一態様に係る多孔性ゲルは、分子内に空孔を有する金属有機構造体(MOF)と、上記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除溶媒(Size-Excluded Solvent)と、を含んでいる。このMOFは、上記空孔内に少なくとも1種類のゲスト分子を吸着できるように構成されている。また、上記のMOFは、複数の粒子を形成しており、これらの複数の粒子は、物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。即ち、本態様に係る多孔性ゲルは、ゲル化剤(Gelator)としてのMOFと、膨潤剤(Swelling Agent)としてのサイズ排除溶媒と、を含んでいる。なお、このネットワーク構造は、典型的には、コロイドネットワーク構造である。また、ここで「粒子」とは、2つ以上の分子から構成される凝集体を意味しており、その形状に制限はない。上記複数の粒子の各々は、例えば、球のような0次元状であってもよく、ロッド又はファイバのような1次元状であってもよく、シートのような2次元状であってもよい。上記複数の粒子の各々は、典型的には、ナノ粒子である。更に、ここで「物理的な凝集力」とは、共有結合、配位結合、及びイオン結合などの明確な化学的な結合を介さない、非共有結合的な分子間相互作用を意味している。
【0020】
上記のMOFとしては、例えば、後述する前駆体ゲルを形成し得るものを使用することができる。即ち、上記のMOFとしては、複数のMOF粒子が物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成し得るものを使用することができる。このような前駆体ゲルは、例えば、MOF又はその原料と溶媒とを含む系において、ナノ粒子の形成及びその凝集の速度を制御することにより得られる(例えば、非特許文献3を参照)。なお、MOFは、結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。
【0021】
使用し得るMOFの種類に制限はない。金属イオンの種類及び配位数と、多座配位子の種類及びトポロジーとを適切に組み合わせることにより、所望の構造を有するMOFを製造することができる。MOFは、2種類以上の金属元素を含んでいてもよく、2種類以上の多座配位子を含んでいてもよい。MOFは、典型的には、金属イオン供与体と多座配位子とを反応させることによって合成される。
【0022】
金属イオン供与体を構成する金属元素としては、例えば、アルカリ金属(第1族)、アルカリ土類金属(第2族)、及び遷移金属(第3族~第12族)に属する任意の元素が挙げられる。金属元素は、典型的には、マグネシウム、カルシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、ガリウム、インジウム、及びクロムからなる群より選択される。金属イオン供与体は、複数の金属元素を含んでいてもよい。或いは、互いに異なった金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。
【0023】
金属イオン供与体としては、典型的には、金属塩が用いられる。金属イオン供与体は、有機塩であっても無機塩であってもよい。金属イオン供与体は、典型的には、水酸化塩、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び塩化物塩からなる群より選択される。互いに同一の金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。金属イオン供与体は、いわゆる二次構造単位(SBU: Secondary Building Unit)の形態であってもよい。このような二次構造単位としては、既知のMOFの合成に用いられる任意のものを選択することができる。
【0024】
多座配位子は、典型的には有機多座配位子であり、例えば、カルボン酸アニオン、アミン化合物、スルホン酸アニオン、リン酸アニオン、及び複素環化合物からなる群より選択される。カルボン酸アニオンとしては、例えば、ジカルボン酸又はトリカルボン酸アニオンが挙げられる。具体的には、例えば、クエン酸、リンゴ酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸、及びこれらの誘導体のアニオンが挙げられる。複素環化合物としては、例えば、ビピリジン、イミダゾール、アデニン、及びこれらの誘導体が挙げられる。複数の多座配位子を用いてもよい。
【0025】
前駆体ゲルを形成し得るMOFの例を以下の表1に挙げる。これらはあくまで例示であり、他のMOFの使用を妨げるものではない。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0026】
表1中に引用した文献のリストは以下の通りである。
A1:Bart Bueken et al. Gel-based morphological design of zirconium metal-organic frameworks. Chem. Sci., 2017, 8, 3939-3948
A2:Tian Tian et al. Mechanically and chemically robust ZIF-8 monoliths with high volumetric adsorption capacity. J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 2999-3005
A3:Abhijeet K. Chaudhari et al. Multifunctional Supramolecular Hybrid Materials Constructed from Hierarchical Self-Ordering of In Situ Generated Metal-Organic Framework (MOF) Nanoparticles. Advanced Materials, Volume 27, Issue 30, August 12, 2015, 4438-4446
A4:Li, L., Xiang, S., Cao, S. et al. A synthetic route to ultralight hierarchically micro/mesoporous Al(III)-carboxylate metal-organic aerogels. Nat Commun 4, 1774 (2013)
【0027】
上述した通り、本態様に係る多孔性ゲルを構成するMOFは、分子内に空孔を有しており、且つ、上記空孔内に少なくとも1種類のゲスト分子を吸着できるように構成されている。即ち、この多孔性ゲルは、永続的な多孔性を有しており、上記ゲスト分子に対する吸着材としても使用し得る。このゲスト分子は、気体分子であってもよく、液体分子であってもよい。
【0028】
ゲスト分子が気体分子である場合、その例としては、水素;酸素;窒素;一酸化炭素;二酸化炭素;亜酸化窒素、一酸化窒素、及びアンモニアなどの窒素化合物;硫化水素及び二酸化硫黄などの硫黄化合物;メタン、エタン、及びプロパン、及びアセチレンなどの脂肪族炭化水素;アルゴン及びキセノンなどの希ガス;並びに、塩素及び臭化水素などのハロゲン化合物が挙げられる。気体分子は、水蒸気を構成する水分子であってもよい。また、気体分子は、後述する液体分子が気化した蒸気であってもよい。
【0029】
ゲスト分子が液体分子である場合、その例としては、n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、及びジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、及び1,4-ジオキサンなどのエーテル;クロロホルム及びジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;酢酸エチルなどのエステル;アセトンなどのケトン;アセトニトリルなどのニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド;ギ酸及び酢酸などのカルボン酸;メタノール、エタノール、n―プロパノール、i-プロパノール、及びn―ブタノールなどのアルコール;並びに、水が挙げられる。なお、ゲスト分子は、これらの液体分子の蒸気としての気体分子であってもよい。
【0030】
本態様に係る多孔性ゲルは、例えば、二酸化炭素分子を吸着するように構成されている。本態様に係る多孔性ゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO2吸着量は、例えば0.5cm3/g以上であり、好ましくは0.8cm3/g以上であり、より好ましくは1.0cm3/g以上である。また、本態様に係る多孔性ゲルの303K及び飽和蒸気圧での単位質量当たりのCO2吸着量は、サイズ排除溶媒単独の場合のそれと比較して、例えば2.0倍以上であり、好ましくは2.5倍以上であり、より好ましくは3.0倍以上である。なお、ここで、上記のCO2吸着量は、サンプルを120℃で12時間に亘って活性化した後に、BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて測定した値を基準としている。
【0031】
上述した通り、本態様に係る多孔性ゲルを構成するMOFは、複数の粒子を形成しており、これらの複数の粒子は、物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。この多孔性ゲルは、典型的には、非共有結合的にコロイドネットワークを形成している物理ゲルであり、上記のネットワーク構造の内部には、後述するサイズ排除溶媒が包摂されている。
【0032】
上記の複数の粒子の各々は、典型的には、1nm乃至100nmの直径を有するナノサイズのコロイド粒子である。即ち、上記の多孔性ゲルは、典型的には、コロイドゲル(Colloid Gel)である。
【0033】
上記のコロイドゲルは、例えば、100nm乃至10cm又はそれ以上のサイズで作成することができる。上記のコロイドゲルのサイズが1μmより小さい場合、このゲルは、ナノゲル(Nanogel)又はナノ粒子ゲル(Gel Nanoparticle)である。
【0034】
上述した通り、本態様に係る多孔性ゲルを構成するサイズ排除溶媒は、MOFの空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している。このようなサイズ排除溶媒を用いることにより、多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔を利用したゲスト吸着特性と、ゲルとしての物理的特性とを、両立させることが可能となる。より具体的には、この多孔性ゲルは、上述した活性化工程を経た後においても、ゲルとしての粘弾性を維持することができる。
【0035】
サイズ排除溶媒は、高沸点であるか、及び/又は、低揮発性(又は不揮発性)であることが好ましい。サイズ排除溶媒は、例えば、標準圧力における沸点が200℃以上である。このような場合、多孔性ゲル中のサイズ排除溶媒が蒸発し難いため、より安定した多孔性ゲルが得られる。また、上記の活性化工程に対する安定性もより高くなる。
【0036】
サイズ排除溶媒としては、例えば、液体高分子、イオン性液体、及び、クラウンエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの溶媒を使用することができる。液体高分子としては、例えば、PEG(PEG-400;分子量:約400、1013hPaにおける沸点:200℃以上、20℃における蒸気圧:0.1hPa未満)、PDMS-OH(沸点:200℃以上、粘度:約65cst)、PDMS-PH、又は、類似の高分子を使用することができる。イオン性液体としては、例えば、[BMIM][BF4](発火点:約288℃、蒸気圧:0.000125hPa未満)、[EMIM][BF4](1013hPaにおける沸点:約350℃)、[Bpy][NTf2]、[N8,8,8,1][NTF2]、又は、類似のイオン性液体を使用することができる。クラウンエーテルとしては、例えば、15-クラウン-5(0.05Torrにおける沸点:約95℃、引火点:113℃)、又は、18-クラウン-6(融点:約40℃、0.2Torrにおける沸点:116℃)を使用することができる。サイズ排除溶媒は、これらのカテゴリ以外のものから選択されてもよい。サイズ排除溶媒の具体的な種類は、使用するMOFの空孔サイズ等に応じて、適宜選択することができる。
【0037】
本態様に係る多孔性ゲルは、周囲条件下、少なくとも1つの角周波数ω0において、貯蔵弾性率E’(ω0)が損失弾性率E’’(ω0)より大きい。即ち、この多孔性ゲルは、ゲル特有の粘弾性を有している。したがって、この多孔性ゲルにおいては、MOFの空孔を利用したゲスト吸着特性と、ゲルとしての物理的特性とが、両立している。
【0038】
なお、この測定は、AR-G2レオメータ(TA Instruments社製)を用いて、以下のようにして行う。まず、サンプルを、約1mmの厚さで、スライドガラス上に載せる。このスライドガラスを上記の装置にセットし、線形領域内(初期ひずみは1.5%に固定)において、1%ひずみ振幅の圧縮モードで、周波数掃引による測定を行う。周波数掃引は、0.1rad/s乃至100rad/sの範囲で行う。そして、この範囲内で、E’(ω0)>E’’(ω0)となる周波数ω0が存在しているかどうかを調べる。
【0039】
上述した通り、本態様に係る多孔性ゲルは、MOF粒子同士の凝集力を利用した物理ゲルである。物理ゲルは、非共有結合的に形成される可逆ゲルであり、典型的には、外部刺激によって再び可溶化することができる。即ち、本態様に係る多孔性ゲルは、典型的には、上述したネットワーク構造の少なくとも一部を破壊することによって、ゾルに変換することができる。更に、このゾルは、典型的には、再びゲルに戻すことが可能である。このような可逆的なプロセスを利用すると、例えば、いったん成形された多孔性ゲルの形状を、ゾル化及び再ゲル化によって、異なった形状に自在に変換することができる。
【0040】
上記の外部刺激としては、例えば、MOFの濃度、溶媒の組成、及びpHなどの変化が挙げられる。上記の外部刺激として、超音波処理(sonication)などの混合及び分散促進プロセス、並びに、振盪器による撹拌処理などによる機械刺激を用いてもよい。ここで、上記の外部刺激には、加熱などの温度変化が含まれないことが好ましい。即ち、本態様に係る多孔性ゲルは、活性化工程で適用される程度の穏やかな加熱に対しては安定であることが好ましい。
【0041】
本態様に係る多孔性ゲルにおいて、ゲルに占めるMOFの含有量は、例えば1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上である。また、ゲルに占めるMOFの含有量は、例えば50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%である。これら上限及び下限の任意の組合せが可能である。この含有量が過度に小さいと、ゲスト分子の吸着量が不充分になることがある。この含有量が過度に大きいと、ゲルの形成が困難になるか、又は、ゲルの粘弾性が不充分になることがある。なお、本態様に係る多孔性ゲルは、2種類以上のMOFを含んでいてもよく、2種類以上のサイズ排除溶媒を含んでいてもよい。
【0042】
多孔性ゲルに占めるMOFの含有量は、以下のようにして求める。即ち、多孔性ゲル、対応するエアロゲル、及び、対応するサイズ排除溶媒の3つのサンプルを準備し、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis;TGA)測定を行う。この測定は、窒素雰囲気下、各サンプルを30℃から500℃まで、10℃/minの速さで加熱することによって行う。そして、各サンプルについて、500℃における残渣量(質量%)を測定する。
【0043】
ここで、各記号を、
R
PG:多孔性ゲルの残渣量
R
AG:エアロゲルの残渣量
R
SES:サイズ排除溶媒の残渣量
c
MOF:多孔性ゲルに占めるMOFの含有比
のように定義すると、多孔性ゲルはMOF及びサイズ排除溶媒を含み、エアロゲルはMOFのみを含んでいることから、以下の関係式が成立する。
【数1】
【0044】
したがって、c
MOF及びその百分率表記C
MOFは、以下の式によって求められる。このようにして、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOF(質量%)が求められる。
【数2】
【数3】
【0045】
上記の多孔性ゲルは、例えば、以下のようにして製造することができる。即ち、まず、分子内に空孔を有するMOFと第1の溶媒とを含んだ前駆体ゲルを形成する。次に、この前駆体ゲルにおいて、第1の溶媒を第2の溶媒に交換する。ここで、第1の溶媒は、上記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、第2の溶媒は、上記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している。即ち、第2の溶媒は、上述したサイズ排除溶媒と同一である。
【0046】
図1は、本発明の一態様に係る多孔性ゲルの製造方法を示す概念図である。
図1に示す例では、まず、金属イオン供与体と多座配位子とが反応して、複数のMOF粒子が形成される。次に、これら複数の粒子が物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成することにより、前駆体ゲルが形成される。その後、溶媒交換プロセスによって、本態様に係る多孔性ゲルが形成される。なお、上記の多孔性ゲルは、これ以外の方法によって製造してもよい。
【0047】
上記の前駆体ゲルとしては、例えば、先に説明した既知のMOFゲルを使用することができる。この前記体ゲルにおいては、複数のMOF粒子が物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成しており、そのネットワーク構造内に、第1の溶媒が包摂されている。また、この前駆体ゲルにおいては、MOFの空孔は、典型的には、第1の溶媒、又は、合成時に系中に存在していた気体分子によって占有されている。
【0048】
第1の溶媒としては、例えば、前駆体ゲルの調製に使用される溶媒を用いることができる。第1の溶媒の例としては、先にゲスト分子としての液体分子として例示したものが挙げられる。第1の溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド、アセトンなどのケトン、メタノール、エタノール、n―プロパノール、i-プロパノール、及びn―ブタノールなどのアルコール、又は、水が挙げられる。第1の溶媒として、複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0049】
第2の溶媒としては、例えば、先に説明したサイズ排除溶媒を用いることができる。第1の溶媒から第2の溶媒への溶媒交換は、例えば、浸漬法によって行われる。この溶媒交換によって、第1の溶媒の大部分は、第2の溶媒に置換される。なお、この状態において、MOFの空孔は、第1の溶媒、又は、合成時に系中に存在していた気体分子によって占有されていてもよい。但し、この空孔は、第2の溶媒によっては占有されない。第2の溶媒として、複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0050】
上記の製造方法は、溶媒交換工程の後に、上記空孔中に存在している気体又は液体分子を除去する活性化工程を更に含んでいてもよい。この活性化工程は、例えば、多孔性ゲルを、第1の溶媒の沸点より高く且つ第2の溶媒の沸点より低い温度で加熱することを含んでいる。これにより、MOFの空孔を非占有状態とし、多孔性ゲルを、ゲスト分子の吸着により適した状態、即ち永続的な多孔性を有する状態にすることができる。
【0051】
また、上記の溶媒交換工程は、段階的に行ってもよい。即ち、第1の溶媒を第2の溶媒に交換する工程は、第1の溶媒を第3の溶媒に交換する工程と、第3の溶媒を第2の溶媒に交換する工程と、を含んでいてもよい。この場合、第3の溶媒は、典型的には、上記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有している。第3の溶媒として、複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0052】
第3の溶媒は、第1の溶媒と比較して、第2の溶媒との混和性(共溶媒混和性)がより高いことが好ましい。この場合、第3の溶媒から第2の溶媒への溶媒交換は、第1の溶媒から第2の溶媒への溶媒交換と比較して、熱力学的及び/又は速度論的に生じ易い。なお、第1の溶媒と第3の溶媒との間での混和性の比較は、実験的に決定することができる。例えば、この比較は、同量の第2の溶媒に、第1及び第3の溶媒をそれぞれ滴下して、両者の混合度を目視で観察することによって行うことができる。
【0053】
このようにして得られる多孔性ゲルにおいては、MOF粒子が物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。即ち、この多孔性ゲルは、可逆的なゾルゲル転移が可能な物理ゲルである。それゆえ、上記の方法によって得られる多孔性ゲルにおいては、ゾル状態を経て、ゲルを再形成することができる。即ち、上記の製造方法は、得られた多孔性ゲルをゾルに変換する工程と、上記ゾルを再度ゲルに戻す工程と、を更に含んでいてもよい。このような可逆的なプロセスを利用すると、例えば、いったん成形された多孔性ゲルの形状を、ゾル化及び再ゲル化によって、異なった形状に自在に変換することができる。
【0054】
以上の通り、本態様に係る多孔性ゲルは、ゲルとしての物理的特性と、多孔性材料としてのゲスト吸着特性とを併せ持つ、新しいタイプの物理ゲルである。このようなゲルは、従来の化学ゲルと比較して、成形をフレキシブルに行うことができる点でも有利である。また、広く研究が進んでいるMOFを使用することにより、例えばMOPを使用する場合と比較して、低コストでの製造が可能である。また、MOFを更に機能化することにより、多孔性ゲルに新たな特性を付与することも可能である。
【0055】
本態様に係る多孔性ゲルは、MOFの空孔が利用可能であるため、優れたゲスト吸着特性を示し得る。そのため、このようなゲルは、ガス吸着又はガス分離等の分野での応用が可能である。例えば、既存の多孔性材料を用いたガス吸着システム及びガス分離システムにおいて、多孔性材料を多孔性ゲルに置換することにより、新たなガス吸着システム及びガス分離システムが提供される。或いは、ゲルの物理的特性を活かして、従来の固体又は液体の多孔性材料とは異なった配置を行うことにより、新たなタイプのガス吸着システム及びガス分離システムが提供され得る。
【実施例0056】
上記の多孔性ゲルについて、実施例を参照しながら更に説明する。
【0057】
以下の各例において、ヒドロキシ末端ポリ(ジメチルシロキサン)〔PDMS-OH〕、及び、ポリ(ジメチルシロキサン-co-メチルフェニルシロキサン)〔PDMS-Ph〕は、シグマアルドリッチ社から購入し、受け取ったままで使用した。1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([BMIM][BF4])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([EMIM][BF4])、ポリエチレングリコール400(PEG)、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(H3BTC)、及び、5-アミノイソフタル酸(H2ADC)は、東京化学工業(TCI)から購入した。Al(NO3)3・9H2O、Fe(NO3)3・9H2O、Ga(NO3)3・nH2O、In(NO3)3・nH2Oは、ナカライテスクから提供されたものを使用した。溶媒は、和光純薬から購入したが、HPLCグレードのものについては、フィッシャーケミカル社から購入した。
【0058】
(実施例1;Al-BTC/PDMS-OH)
MOFとしてAl-BTC〔MIL-100(Al)〕を含み、サイズ排除溶媒としてPDMS-OHを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。
【0059】
Al-BTC前駆体ゲルの合成
212mg(1mmol)の1,3,5-ベンゼントリカルボン酸と、375mg(1mmol)のAl(NO3)3・9H2Oとを、それぞれ、2.5mLのエタノールに溶解させた。次に、この2つの溶液を、撹拌しながら混合した。得られた溶液を密封したシリンジに移し、80℃で一晩加熱した。ゲル化後、次の洗浄手順のために、フレッシュなゲルをバイアルに移した。毎日フレッシュな溶媒に入れ替えて、エタノールで2回、アセトンで3回、ゲルを洗浄した。この段階において、得られたゲルは「前駆体ゲル」に相当し、エタノールは「第1の溶媒」に相当し、アセトンは「第3の溶媒」に相当している。
【0060】
Al-BTC前駆体ゲルの再形成
アセトンで洗浄する前のAl-BTC前駆体ゲルが「物理ゲル」であることを確かめるために、以下のような実験を行った。即ち、まず、得られたエタノール含有Al-BTC前駆体ゲルに、エタノールを添加し、振盪器による撹拌処理及び超音波発生装置による超音波処理を行った。その後、得られたサンプルを、封止下において80℃で加熱した。
【0061】
図2は、Al-BTC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1の工程によって、Al-BTC前駆体ゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第2の工程によって、ゾルは、体積が約2倍のゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Al-BTC前駆体ゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが分かった。
【0062】
溶媒交換によるAl-BTC/PDMS-OHゲルの合成
上記のようにして得られたアセトン中の前駆体ゲルを、PDMS-OHに、毎日フレッシュなPDMS-OHに交換しながら、3日間にわたって浸漬させた。これにより、ゲル中のアセトンのほとんどがPDMS-OHに交換され、Al-BTC/PDMS-OHゲルが得られた。この段階において、得られたゲルは「多孔性ゲル」に相当し、Al-BTCは「MOF」に相当し、PDMS-OHは「サイズ排除溶媒」又は「第2の溶媒」に相当している。
【0063】
ゲスト吸着特性
得られたサンプルが「多孔性」を有していることを確かめるために、CO2吸着測定を行った。具体的には、303KにおけるゲルのCO2ガス吸着等温線を、BELSORP-max容量吸着装置(マイクロトラック・ベル株式会社)で記録した。なお、ガス吸着測定の前に、サンプルを120℃で12時間に亘って活性化した。
【0064】
図3は、実施例1に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。なお、
図3及び以下に示す吸着測定データにおいて、塗りつぶしたデータ点は昇圧時の吸着量を示しており、白抜きのデータ点は降圧時の吸着量を示している。
【0065】
図3に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.434cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPDMS-OH単体の場合の吸着量(0.328cm
3/g)の約4.37倍であった。この結果は、実施例1に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0066】
粘弾性
得られたサンプルが「ゲル」としての特性を有していることを確かめるために、粘弾性測定を行った。ゲルのレオロジー測定は、応力制御AR-G2レオメータ(TA Instruments社製)を使用して行った。まず、合成後のゲルサンプルを、清潔なガラススライド(厚さ約1mm)に慎重に移し替えた。次に、ゲルをスライドガラスと共にレオメータに入れ、レオロジー試験を行った。ゲルの測定は、線形領域内(初期ひずみは1.5%に固定)にある1%ひずみ振幅の圧縮モードで、周波数掃引によって行った。
【0067】
図4は、実施例1に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。なお、
図4及び以下に示す粘弾性測定データにおいて、塗りつぶしたデータ点は貯蔵弾性率E’を示しており、白抜きのデータ点は損失弾性率E’’を示している。
【0068】
図4に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例1に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0069】
なお、
図4に示すように、実施例1に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、40.77MPaであった。
【0070】
多孔性ゲルの再形成
以上のようにして得られた多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)が「物理ゲル」であることを確かめるために、以下のような実験を行った。即ち、まず、得られた多孔性ゲルの一部をエタノール溶媒中に入れて、振盪器による撹拌処理及び超音波発生装置による超音波処理を行った。次に、得られたサンプルを、シリンジ中に移動させた。その後、シリンジ中のサンプルを80℃に加熱し、エタノールを除去した。
【0071】
図5は、実施例1に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PDMS-OH)の可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1及び第2の工程によって、Al-BTC/PDMS-OHゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第3の工程によって、得られたゾルを、ゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Al-BTC/PDMS-OHゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが分かった。
【0072】
この結果は、実施例1に係る多孔性ゲルにおいて、ゾル化及び再ゲル化による可逆的な形態制御が可能であることを示唆している。なお、本例では、MOFの濃度及び溶媒の組成の変化並びに振盪器による撹拌処理及び超音波発生装置による超音波処理を代表的な外部刺激として用いたが、他の外部刺激を利用することも可能である。
【0073】
(実施例2;Al-ADC/PDMS-OH)
MOFとしてAl-ADC(CAU-10-NH2)を含み、サイズ排除溶媒としてPDMS-OHを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。
【0074】
Al-ADC前駆体ゲルの合成
217mg(1.2mmol)の5-アミノイソフタル酸と、450mg(1.2mmol)のAl(NO3)3・9H2Oとを、それぞれ、2mLのエタノールに溶解させた。次に、この2つの溶液を、撹拌しながら混合した。得られた溶液を密封したシリンジに移し、80℃で一晩加熱した。ゲル化後、次の洗浄手順のために、フレッシュなゲルをバイアルに移した。毎日フレッシュな溶媒に入れ替えて、エタノールで2回、アセトンで3回、ゲルを洗浄した。
【0075】
Al-ADC前駆体ゲルの再形成
アセトンで洗浄する前のAl-ADC前駆体ゲルが「物理ゲル」であることを確かめるために、実施例1において説明したのと同様の実験を行った。
【0076】
図6は、Al-ADC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1の工程によって、Al-ADC前駆体ゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第2の工程によって、ゾルは、体積が約2倍のゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Al-ADC前駆体ゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが分かった。
【0077】
溶媒交換によるAl-ADC/PDMS-OHゲルの合成
実施例1と同様の方法により、アセトンからPDMS-OHへの溶媒交換を行った。このようにして、Al-ADC/PDMS-OHゲルを得た。
【0078】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0079】
図7は、実施例2に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図7に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.433cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPDMS-OH単体の場合の吸着量(0.328cm
3/g)の約4.37倍であった。この結果は、実施例2に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0080】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0081】
図8は、実施例2に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図8に示す通り、このゲルにおいては、ω<3rad/sの領域において、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例2に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0082】
なお、
図8に示すように、実施例2に係る多孔性ゲルにおいては、角周波数によって、E’(ω)及びE’’(ω)の大小が逆転していた。即ち、このゲルは、チキソトロピー(thixotropy)を示すことが分かった。また、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、22.24kPaであった。
【0083】
(実施例3;Fe-BTC/PDMS-OH)
MOFとしてFe-BTC〔MIL-100(Fe)〕を含み、サイズ排除溶媒としてPDMS-OHを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。
【0084】
Fe-BTC前駆体ゲルの合成
212mg(1mmol)の1,3,5-ベンゼントリカルボン酸と、404mg(1mmol)のFe(NO3)3・9H2Oとを、それぞれ、5mLのエタノールに溶解させた。次に、この2つの溶液を、撹拌しながら混合した。得られた溶液を密封したシリンジに移し、室温で数分間放置した。ゲル化後、次の洗浄手順のために、フレッシュなゲルをバイアルに移した。毎日フレッシュな溶媒に入れ替えて、エタノールで2回、アセトンで3回、ゲルを洗浄した。
【0085】
Fe-BTC前駆体ゲルの再形成
アセトンで洗浄する前のFe-BTC前駆体ゲルが「物理ゲル」であることを確かめるために、第2の工程における加熱を封止下且つ80℃で行う代わりに非封止下且つ40℃で行ったことを除いては、実施例1において説明したのと同様にして、実験を行った。
【0086】
図9は、Fe-BTC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1の工程によって、Fe-BTC前駆体ゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第2の工程によって、ゾルをゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Fe-BTC前駆体ゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが分かった。
【0087】
溶媒交換によるFe-BTC/PDMS-OHゲルの合成
実施例1と同様の方法により、アセトンからPDMS-OHへの溶媒交換を行った。このようにして、Fe-BTC/PDMS-OHゲルを得た。
【0088】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0089】
図10は、実施例3に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図10に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.505cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPDMS-OH単体の場合の吸着量(0.328cm
3/g)の約4.59倍であった。この結果は、実施例3に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0090】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0091】
図11は、実施例3に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図11に示す通り、このゲルにおいては、ω<2rad/sの領域において、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例3に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0092】
なお、
図11に示すように、実施例3に係る多孔性ゲルにおいては、角周波数によって、E’(ω)及びE’’(ω)の大小が逆転していた。即ち、このゲルは、チキソトロピー(thixotropy)を示すことが分かった。また、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、57.48kPaであった。
【0093】
(実施例4;Ga-BTC/PDMS-OH)
MOFとしてGa-BTC〔MIL-68(Ga)〕を含み、サイズ排除溶媒としてPDMS-OHを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。
【0094】
Ga-BTC前駆体ゲルの合成
212mg(1mmol)の1,3,5-ベンゼントリカルボン酸と、256mg(1mmol)のGa(NO3)3・nH2Oとを、それぞれ、5mLのエタノールに溶解させた。次に、この2つの溶液を、撹拌しながら混合した。得られた溶液を密封したシリンジに移し、40℃で一晩加熱した。ゲル化後、次の洗浄手順のために、フレッシュなゲルをバイアルに移した。毎日フレッシュな溶媒に入れ替えて、エタノールで2回、アセトンで3回、ゲルを洗浄した。
【0095】
Ga-BTC前駆体ゲルの再形成
アセトンで洗浄する前のGa-BTC前駆体ゲルが「物理ゲル」であることを確かめるために、実施例1において説明したのと同様の実験を行った。
【0096】
図12は、Ga-BTC前駆体ゲルの可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1の工程によって、Ga-BTC前駆体ゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第2の工程によって、ゾルは、体積が約2倍のゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Ga-BTC前駆体ゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが分かった。
【0097】
溶媒交換によるGa-BTC/PDMS-OHゲルの合成
実施例1と同様の方法により、アセトンからPDMS-OHへの溶媒交換を行った。このようにして、Ga-BTC/PDMS-OHゲルを得た。
【0098】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0099】
図13は、実施例4に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図13に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.400cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPDMS-OH単体の場合の吸着量(0.328cm
3/g)の約4.27倍であった。この結果は、実施例4に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0100】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0101】
図14は、実施例4に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図14に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例4に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0102】
なお、
図14に示すように、実施例4に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数に対して単調増加していた。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、34.43kPaであった。
【0103】
(実施例5;In-BTC/PDMS-OH)
MOFとしてIn-BTC〔MIL-68(In)〕を含み、サイズ排除溶媒としてPDMS-OHを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。
【0104】
In-BTC前駆体ゲルの合成
212mg(1mmol)の1,3,5-ベンゼントリカルボン酸と、301mg(1mmol)のIn(NO3)3・nH2Oとを、それぞれ、5mLのエタノールに溶解させた。次に、この2つの溶液を、撹拌しながら混合した。得られた溶液を密封したシリンジに移し、40℃で一晩加熱した。ゲル化後、次の洗浄手順のために、フレッシュなゲルをバイアルに移した。毎日フレッシュな溶媒に入れ替えて、エタノールで2回、アセトンで3回、ゲルを洗浄した。
【0105】
溶媒交換によるIn-BTC/PDMS-OHゲルの合成
実施例1と同様の方法により、アセトンからPDMS-OHへの溶媒交換を行った。このようにして、In-BTC/PDMS-OHゲルを得た。
【0106】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0107】
図15は、実施例5に係る多孔性ゲル(In-BTC/PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図15に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.721cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPDMS-OH単体の場合の吸着量(0.328cm
3/g)の約5.25倍であった。この結果は、実施例5に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0108】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0109】
図16は、実施例5に係る多孔性ゲル(In-BTC/PDMS-OH)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図16に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例5に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0110】
なお、
図16に示すように、実施例5に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、18.84kPaであった。
【0111】
(比較例1;PDMS-OH)
比較例として、PDMS-OH自体について、ゲスト吸着特性を評価した。具体的には、実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0112】
図17は、比較例1に係るサイズ排除溶媒(PDMS-OH)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図17に示す通り、この液体の303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、0.328cm
3/gであった。
【0113】
なお、このPDMS-OHは液体であり、粘弾性測定を行うことはできなかった。PDMS-OHの粘度は、約65cstであった。
【0114】
(実施例6;Al-BTC/PEG)
MOFとしてAl-BTCを含み、サイズ排除溶媒としてPEGを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例1と同様にして、Al-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりにPEGを使用したことを除いては、実施例1と同様にして、溶媒交換によるAl-BTC/PEGゲルの合成を行った。
【0115】
MOF含有量の測定
Al-BTC/PEGゲル中のAl-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。具体的には、Rigaku Thermo plus EVO2を用いて、窒素雰囲気下、室温から500℃までの温度範囲で、10℃/minの加熱速度で測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Al-BTC+PEG)、エアロゲル(Al-BTC)、及び、サイズ排除溶媒(PEG)の各々について行った。
【0116】
なお、エアロゲルは、上記のようにして得られたアセトン中の前駆体ゲルに、超臨界CO2乾燥プロセスを適用することによって作製した。この乾燥プロセスは、14MPa及び50℃の超臨界CO2を使用して、SCLEAD-2BDオートクレーブ(KISCO)によって実施された。
【0117】
図18は、実施例6に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(Al-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
図18に示すように、R
PG=1.68質量%、R
AG=65.33質量%、R
SES=0質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、2.6質量%と計算された。
【0118】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0119】
図19は、実施例6に係る多孔性ゲル(Al-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図19に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例6に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0120】
なお、
図19に示すように、実施例6に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、1.56kPaであった。
【0121】
(実施例7;Al-ADC/PEG)
MOFとしてAl-ADCを含み、サイズ排除溶媒としてPEGを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例2と同様にして、Al-ADC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりにPEGを使用したことを除いては、実施例2と同様にして、溶媒交換によるAl-ADC/PEGゲルの合成を行った。
【0122】
MOF含有量の測定
Al-ADC/PEGゲル中のAl-ADCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Al-ADC+PEG)、エアロゲル(Al-ADC)、及び、サイズ排除溶媒(PEG)の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例6と同様にして作製した。
【0123】
図20は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)、対応するエアロゲル(Al-ADC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
図20に示すように、R
PG=6.68質量%、R
AG=76.04質量%、R
SES=0質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、11.0質量%と計算された。
【0124】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0125】
図21は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図21に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.301cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPEG単体の場合の吸着量(0.312cm
3/g)の約4.17倍であった。この結果は、実施例7に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0126】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0127】
図22は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図22に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例7に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0128】
なお、
図22に示すように、実施例7に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、45.17kPaであった。
【0129】
多孔性ゲルの再形成
以上のようにして得られた多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)が「物理ゲル」であることを確かめるために、実施例1において説明したのと同様の実験を行った。
【0130】
図23は、実施例7に係る多孔性ゲル(Al-ADC/PEG)の可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1及び第2の工程によって、Al-ADC/PEGゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第3の工程によって、得られたゾルを、ゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Al-ADC/PEGゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが確かめられた。
【0131】
(実施例8;Fe-BTC/PEG)
MOFとしてFe-BTCを含み、サイズ排除溶媒としてPEGを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例3と同様にして、Fe-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりにPEGを使用したことを除いては、実施例3と同様にして、溶媒交換によるFe-BTC/PEGゲルの合成を行った。
【0132】
MOF含有量の測定
Fe-BTC/PEGゲル中のFe-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Fe-BTC+PEG)、エアロゲル(Fe-BTC)、及び、サイズ排除溶媒(PEG)の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例6と同様にして作製した。
【0133】
図24は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(Fe-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
図24に示すように、R
PG=6.50質量%、R
AG=42.14質量%、R
SES=0質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、15.2質量%と計算された。
【0134】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0135】
図25は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図25に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.193cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPEG単体の場合の吸着量(0.312cm
3/g)の約3.82倍であった。この結果は、実施例8に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0136】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0137】
図26は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図26に示す通り、このゲルにおいては、ω<約10rad/s及びω>約60rad/sの領域において、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例8に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0138】
なお、
図26に示すように、実施例8に係る多孔性ゲルにおいては、角周波数によって、E’(ω)及びE’’(ω)の大小が逆転していた。即ち、このゲルは、チキソトロピー(thixotropy)を示すことが分かった。また、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、15.69kPaであった。
【0139】
多孔性ゲルの再形成
以上のようにして得られた多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)が「物理ゲル」であることを確かめるために、実施例1において説明したのと同様の実験を行った。
【0140】
図27は、実施例8に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/PEG)の可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1及び第2の工程によって、Fe-BTC/PEGゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第3の工程によって、得られたゾルを、ゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Fe-BTC/PEGゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが確かめられた。
【0141】
(実施例9;Ga-BTC/PEG)
MOFとしてGa-BTCを含み、サイズ排除溶媒としてPEGを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例4と同様にして、Ga-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりにPEGを使用したことを除いては、実施例4と同様にして、溶媒交換によるGa-BTC/PEGゲルの合成を行った。
【0142】
MOF含有量の測定
Ga-BTC/PEGゲル中のGa-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Ga-BTC+PEG)、エアロゲル(Ga-BTC)、及び、サイズ排除溶媒(PEG)の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例6と同様にして作製した。
【0143】
図28は、実施例9に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(Ga-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
図28に示すように、R
PG=2.39質量%、R
AG=45.57質量%、R
SES=0質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、5.3質量%と計算された。
【0144】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0145】
図29は、実施例9に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図29に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例9に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0146】
なお、
図29に示すように、実施例9に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、21.52kPaであった。
【0147】
(実施例10;In-BTC/PEG)
MOFとしてIn-BTCを含み、サイズ排除溶媒としてPEGを含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例5と同様にして、In-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりにPEGを使用したことを除いては、実施例5と同様にして、溶媒交換によるIn-BTC/PEGゲルの合成を行った。
【0148】
MOF含有量の測定
In-BTC/PEGゲル中のIn-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(In-BTC+PEG)、エアロゲル(In-BTC)、及び、サイズ排除溶媒(PEG)の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例6と同様にして作製した。
【0149】
図30は、実施例10に係る多孔性ゲル(In-BTC/PEG)、対応するエアロゲル(In-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒(PEG)のTGAプロファイルを示している。
図30に示すように、R
PG=2.40質量%、R
AG=45.50質量%、R
SES=0質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、5.3質量%と計算された。
【0150】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0151】
図31は、実施例10に係る多孔性ゲル(In-BTC/PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図31に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.116cm
3/gであった。この吸着量は、後述するPEG単体の場合の吸着量(0.312cm
3/g)の約3.58倍であった。この結果は、実施例10に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0152】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0153】
図32は、実施例10に係る多孔性ゲル(In-BTC/PEG)の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図32に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例10に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0154】
なお、
図32に示すように、実施例10に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、17.66kPaであった。
【0155】
(比較例2;PEG)
比較例として、PEG自体について、ゲスト吸着特性を評価した。具体的には、実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0156】
図33は、比較例2に係るサイズ排除溶媒(PEG)の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図33に示す通り、この液体の303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、0.312cm
3/gであった。
【0157】
なお、このPEGは液体であり、粘弾性測定を行うことはできなかった。PEGの粘度は、約7.3cstであった。
【0158】
(実施例11;Al-BTC/[BMIM][BF
4
])
MOFとしてAl-BTCを含み、サイズ排除溶媒として[BMIM][BF4]を含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例1と同様にして、Al-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりに[BMIM][BF4]を使用したことを除いては、実施例1と同様にして、溶媒交換によるAl-BTC/[BMIM][BF4]ゲルの合成を行った。
【0159】
MOF含有量の測定
Al-BTC/[BMIM][BF4]ゲル中のAl-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Al-BTC+[BMIM][BF4])、エアロゲル(Al-BTC)、及び、サイズ排除溶媒([BMIM][BF4])の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例6と同様にして作製した。
【0160】
図34は、実施例11に係る多孔性ゲル(Al-BTC/[BMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Al-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([BMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
図34に示すように、R
PG=13.70質量%、R
AG=65.33質量%、R
SES=11.54質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、4.0質量%と計算された。
【0161】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0162】
図35は、実施例11に係る多孔性ゲル(Al-BTC/[BMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図35に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、0.822cm
3/gであった。この吸着量は、後述する[BMIM][BF
4]単体の場合の吸着量(0.316cm
3/g)の約2.60倍であった。この結果は、実施例11に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0163】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0164】
図36は、実施例11に係る多孔性ゲル(Al-BTC/[BMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図36に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例11に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0165】
なお、
図36に示すように、実施例11に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、43.40kPaであった。
【0166】
(実施例12;Al-ADC/[EMIM][BF
4
])
MOFとしてAl-ADCを含み、サイズ排除溶媒として[EMIM][BF4]を含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例1と同様にして、Al-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりに[EMIM][BF4]を使用したことを除いては、実施例2と同様にして、溶媒交換によるAl-ADC/[EMIM][BF4]ゲルの合成を行った。
【0167】
MOF含有量の測定
Al-ADC/[EMIM][BF4]ゲル中のAl-ADCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Al-ADC+[EMIM][BF4])、エアロゲル(Al-ADC)、及び、サイズ排除溶媒([EMIM][BF4])の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例7と同様にして作製した。
【0168】
図37は、実施例12に係る多孔性ゲル(Al-ADC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Al-ADC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
図37に示すように、R
PG=19.05質量%、R
AG=76.04質量%、R
SES=17.01質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、4.7質量%と計算された。
【0169】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0170】
図38は、実施例12に係る多孔性ゲル(Al-ADC/[EMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図38に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.155cm
3/gであった。この結果は、実施例11に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0171】
(実施例13;Fe-BTC/[EMIM][BF
4
])
MOFとしてFe-BTCを含み、サイズ排除溶媒として[EMIM][BF4]を含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例3と同様にして、Fe-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりに[EMIM][BF4]を使用したことを除いては、実施例3と同様にして、溶媒交換によるFe-BTC/[EMIM][BF4]ゲルの合成を行った。
【0172】
MOF含有量の測定
Fe-BTC/[EMIM][BF4]ゲル中のFe-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Fe-BTC+[EMIM][BF4])、エアロゲル(Fe-BTC)、及び、サイズ排除溶媒([EMIM][BF4])の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例8と同様にして作製した。
【0173】
図39は、実施例13に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Fe-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
図39に示すように、R
PG=18.80質量%、R
AG=42.14質量%、R
SES=17.01質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、7.1質量%と計算された。
【0174】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0175】
図40は、実施例13に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/[EMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図40に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.378cm
3/gであった。この結果は、実施例13に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0176】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0177】
図41は、実施例13に係る多孔性ゲル(Fe-BTC/[EMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図41に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例13に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0178】
なお、
図41に示すように、実施例13に係る多孔性ゲルにおいては、特にE’’(ω)の角周波数に対する依存性が高かった。また、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、25.77kPaであった。
【0179】
(実施例14;Ga-BTC/[EMIM][BF
4
])
MOFとしてGa-BTCを含み、サイズ排除溶媒として[EMIM][BF4]を含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例4と同様にして、Ga-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりに[EMIM][BF4]を使用したことを除いては、実施例4と同様にして、溶媒交換によるGa-BTC/[EMIM][BF4]ゲルの合成を行った。
【0180】
MOF含有量の測定
Ga-BTC/[EMIM][BF4]ゲル中のGa-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(Ga-BTC+[EMIM][BF4])、エアロゲル(Ga-BTC)、及び、サイズ排除溶媒([EMIM][BF4])の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例9と同様にして作製した。
【0181】
図42は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(Ga-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
図42に示すように、R
PG=18.76質量%、R
AG=45.57質量%、R
SES=17.01質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、6.1質量%と計算された。
【0182】
ゲスト吸着特性
実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0183】
図43は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図43に示す通り、このゲルの303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、1.383cm
3/gであった。この結果は、実施例14に係る多孔性ゲルにおいて、MOFの空孔が存在していることを示している。
【0184】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0185】
図44は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図44に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例14に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0186】
なお、
図44に示すように、実施例14に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、39.03kPaであった。
【0187】
多孔性ゲルの再形成
以上のようにして得られた多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF4])が「物理ゲル」であることを確かめるために、エタノールの代わりにアセトンを用いたことを除いては、実施例1において説明したのと同様にして、実験を行った。
【0188】
図45は、実施例14に係る多孔性ゲル(Ga-BTC/[EMIM][BF
4])の可逆性に関する実験結果を示している。図示されているように、上記の第1及び第2の工程によって、Ga-BTC/[EMIM][BF
4]ゲルを、ゾル状態に戻すことができた。その後、上記の第3の工程によって、得られたゾルを、ゲルとして再形成することができた。以上の結果から、Ga-BTC/[EMIM][BF
4]ゲルは、ネットワーク構造の破壊及び再形成によって、ゲル→ゾル→ゲルの可逆的な相転移を示すことが確かめられた。
【0189】
(実施例15;In-BTC/[EMIM][BF
4
])
MOFとしてIn-BTCを含み、サイズ排除溶媒として[EMIM][BF4]を含んだ多孔性ゲルを、以下のようにして合成した。即ち、まず、実施例5と同様にして、In-BTC前駆体ゲルを合成した。その後、PDMS-OHの代わりに[EMIM][BF4]を使用したことを除いては、実施例5と同様にして、溶媒交換によるIn-BTC/[EMIM][BF4]ゲルの合成を行った。
【0190】
MOF含有量の測定
In-BTC/[EMIM][BF4]ゲル中のIn-BTCの含有量を決定するために、TGA測定を行った。この測定は、多孔性ゲル(In-BTC+[EMIM][BF4])、エアロゲル(In-BTC)、及び、サイズ排除溶媒([EMIM][BF4])の各々について行った。なお、エアロゲルは、実施例10と同様にして作製した。
【0191】
図46は、実施例15に係る多孔性ゲル(In-BTC/[EMIM][BF
4])、対応するエアロゲル(In-BTC)、及び、対応するサイズ排除溶媒([EMIM][BF
4])のTGAプロファイルを示している。
図46に示すように、R
PG=23.63質量%、R
AG=45.50質量%、R
SES=17.01質量%であった。したがって、多孔性ゲルに占めるMOFの含有量C
MOFは、23.2質量%と計算された。
【0192】
粘弾性
実施例1と同様にして、粘弾性測定を行った。
【0193】
図47は、実施例15に係る多孔性ゲル(In-BTC/[EMIM][BF
4])の圧縮モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図47に示す通り、このゲルにおいては、測定した全ての角周波数ωにおいて、E’(ω)>E’’(ω)が成立していた。この結果は、実施例15に係る多孔性ゲルが、ゲルとしての物理的特性を有していることを示している。
【0194】
なお、
図47に示すように、実施例15に係る多孔性ゲルにおいては、E’(ω)及びE’’(ω)共に、角周波数による変化は大きくなかった。また、E’(ω)は、E’’(ω)と比較して、約1オーダー大きかった。特に、1rad/sにおける貯蔵弾性率E’(1)は、19.86kPaであった。
【0195】
(比較例3;[BMIM][BF
4
])
比較例として、[BMIM][BF4]自体について、ゲスト吸着特性を評価した。具体的には、実施例1と同様にして、CO2吸着測定を行った。
【0196】
図48は、比較例3に係るサイズ排除溶媒([BMIM][BF
4])の303KにおけるCO
2ガス吸着等温線を示している。
図48に示す通り、この液体の303K及び飽和蒸気圧でのCO
2吸着量は、0.316cm
3/gであった。
【0197】
なお、この[BMIM][BF4]は液体であり、粘弾性測定を行うことはできなかった。[BMIM][BF4]の粘度は、約43mPa・sであった。
【0198】
【0199】
表2に示すように、多種多様なMOF及びサイズ排除溶媒の組合せについて、多孔性材料としてのゲスト吸着特性とゲルとしての粘弾性とを併せ持つ多孔性ゲルが得られた。また、これらの多孔性ゲルの多くについて、可逆的なゲルの再形成が可能であることも確かめられた。