(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135023
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】多孔性膜及びその製造方法、並びに、ガス分離システム
(51)【国際特許分類】
B01D 71/06 20060101AFI20240927BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240927BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240927BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20240927BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D71/06
B01D53/22
B01D69/00
B01D71/02
B01D71/70
C08J9/28 CER
C08J9/28 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045511
(22)【出願日】2023-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイト(京都大学学術情報リポジトリ)への掲載 ▲1▼掲載日:2023年1月1日 ▲2▼アドレス:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/275248
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】古川 修平
(72)【発明者】
【氏名】王 早銘
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA21
4D006MA40
4D006MC02
4D006MC07X
4D006MC09X
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC45
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC63
4D006MC65
4D006NA04
4D006NA62
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB32
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PB70
4F074AA78
4F074AD10
4F074AD13
4F074CB47
4F074CC22X
4F074CC28Y
4F074CC29Y
4F074DA10
4F074DA43
(57)【要約】
【課題】優れたガス透過性と機械的強度とを併せ持つ新しいタイプの多孔性膜を提供する。
【解決手段】本発明に係る多孔性膜は、分子内に空孔を有する多孔性高分子と、上記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除ポリマーと、を含んでいる。上記多孔性高分子は、複数の粒子を形成しており、これら複数の粒子は、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に空孔を有する多孔性高分子と、
前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除ポリマーと、
を含み、
前記多孔性高分子は、複数の粒子を形成しており、前記複数の粒子は、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している、
多孔性膜。
【請求項2】
前記多孔性高分子は、金属有機構造体(MOF)、多孔性有機高分子(POP)、及び、リンカー分子によって互いに連結された金属有機多面体(MOP)からなる群より選択される少なくとも1つの多孔性高分子である、請求項1に記載の多孔性膜。
【請求項3】
前記サイズ排除ポリマーは、熱可塑性樹脂、固有微細孔性高分子(PIM)、及びシリコンからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーである、請求項1又は2に記載の多孔性膜。
【請求項4】
前記多孔性膜に占める前記多孔性高分子の含有量は、10質量%以上である、請求項1又は2に記載の多孔性膜。
【請求項5】
少なくとも1種類のガス分子に対する透過度が、前記サイズ排除ポリマーのみからなる膜における前記透過度の1.2倍以上である、請求項1又は2に記載の多孔性膜。
【請求項6】
1rad/sでの貯蔵弾性率が、前記サイズ排除ポリマーのみからなる膜における前記貯蔵弾性率の2倍以上である、請求項1又は2に記載の多孔性膜。
【請求項7】
前記多孔性高分子を含んだ前駆体ゲルを用いて調製される、請求項1又は2に記載の多孔性膜。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の多孔性膜を含んだガス分離システム。
【請求項9】
分子内に空孔を有する金属有機構造体(MOF)又は多孔性有機高分子(POP)を含んだ前駆体ゲルを形成する工程と、
前記前駆体ゲルに溶媒を加えて懸濁液を調製する工程と、
前記懸濁液とサイズ排除ポリマーとを混合する工程と、
前記溶媒を除去する工程と、
を含み、
前記溶媒は、前記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、
前記サイズ排除ポリマーは、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している、
多孔性膜の製造方法。
【請求項10】
分子内に空孔を有し且つリンカー分子によって互いに連結された金属有機多面体(MOP)と、溶媒と、サイズ排除ポリマーと、を含んだ前駆体ゲルを形成する工程と、
前記溶媒を除去する工程と、
を含み、
前記溶媒は、前記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、
前記サイズ排除ポリマーは、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している、
多孔性膜の製造方法。
【請求項11】
前記前駆体ゲルを形成する工程は、
前記金属有機多面体と前記溶媒と前記サイズ排除ポリマーとを含んだ第1の溶液を準備する工程と、
前記リンカー分子と前記溶媒と前記サイズ排除ポリマーとを含んだ第2の溶液を準備する工程と、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合する工程と、
を含んでいる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記サイズ排除ポリマーは、熱可塑性樹脂、固有微細孔性高分子(PIM)、及びシリコンからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーである、請求項9乃至11の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔性膜及びその製造方法に関する。また、本開示は、多孔性膜を含んだガス分離システムにも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライト、活性炭、及び、多孔性高分子などの多孔性材料が広く研究されている。多孔性高分子の例としては、金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks; MOF)、多孔性有機高分子(Porous Organic Polymer; POP)、及び、リンカー分子によって互いに連結された金属有機多面体(Metal-Organic Polyhedra; MOP)が挙げられる。これらの多孔性材料は、ガス吸着及びガス分離などの分野での応用が期待されている。
【0003】
多孔性材料の応用にあたっては、その形態を制御するための研究も重要である。特に、多孔性材料を膜として利用することができれば、その応用範囲は飛躍的に広がる。
【0004】
このような観点から、結晶性の多孔性材料をフィラーとし、有機ポリマーをマトリクスとする、混合マトリクス膜(Mixed Matrix Membranes; MMM)の研究が進められている(非特許文献1)。このような混合マトリクス膜は、フィラーの多孔性とマトリクスの成形性とを併せ持つハイブリット材料として期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dechnik, J.; Gascon, J.; Doonan, C. J.; Janiak, C.; Sumby, C. J., Mixed-Matrix Membranes. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56 (32), 9292-9310.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは、従来の混合マトリクス膜においては、多孔性材料の凝集によるドメイン発生によって、構造欠陥が生じ易いことを見出した。このようなドメインは、応力集中を受けやすく脆弱であり、膜の形態保持に悪影響を与え得る。特に、膜のガス選択性(即ち、特定のガスに対する透過性)を増大させるべく、膜中の多孔性材料の量を増加させると、この問題はより顕著になる。
【0007】
そこで、本発明は、優れたガス透過性と機械的強度とを併せ持つ新しいタイプの多孔性膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
[1]分子内に空孔を有する多孔性高分子と、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除ポリマーと、を含み、前記多孔性高分子は、複数の粒子を形成しており、前記複数の粒子は、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している、多孔性膜。
[2]前記多孔性高分子は、金属有機構造体(MOF)、多孔性有機高分子(POP)、及び、リンカー分子によって互いに連結された金属有機多面体(MOP)からなる群より選択される少なくとも1つの多孔性高分子である、[1]に記載の多孔性膜。
[3]前記サイズ排除ポリマーは、熱可塑性樹脂、固有微細孔性高分子(PIM)、及びシリコンからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーである、[1]又は[2]に記載の多孔性膜。
[4]前記多孔性膜に占める前記多孔性高分子の含有量は、10質量%以上である、[1]乃至[3]の何れかに記載の多孔性膜。
[5]少なくとも1種類のガス分子に対する透過度が、前記サイズ排除ポリマーのみからなる膜における前記透過度の1.2倍以上である、[1]乃至[4]の何れかに記載の多孔性膜。
[6]1rad/sでの貯蔵弾性率が、前記サイズ排除ポリマーのみからなる膜における前記貯蔵弾性率の2倍以上である、[1]乃至[5]の何れかに記載の多孔性膜。
[7]前記多孔性高分子を含んだ前駆体ゲルを用いて調製される、[1]乃至[6]の何れかに記載の多孔性膜。
[8][1]乃至[7]の何れかに記載の多孔性膜を含んだガス分離システム。
[9]分子内に空孔を有する金属有機構造体(MOF)又は多孔性有機高分子(POP)を含んだ前駆体ゲルを形成する工程と、前記前駆体ゲルに溶媒を加えて懸濁液を調製する工程と、前記懸濁液とサイズ排除ポリマーとを混合する工程と、前記溶媒を除去する工程と、
を含み、前記溶媒は、前記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、前記サイズ排除ポリマーは、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している、多孔性膜の製造方法。
[10]分子内に空孔を有し且つリンカー分子によって互いに連結された金属有機多面体(MOP)と、溶媒と、サイズ排除ポリマーと、を含んだ前駆体ゲルを形成する工程と、前記溶媒を除去する工程と、を含み、前記溶媒は、前記空孔を占有できる大きさの分子サイズを有しており、前記サイズ排除ポリマーは、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している、多孔性膜の製造方法。
[11]前記前駆体ゲルを形成する工程は、前記金属有機多面体と前記溶媒と前記サイズ排除ポリマーとを含んだ第1の溶液を準備する工程と、前記リンカー分子と前記溶媒と前記サイズ排除ポリマーとを含んだ第2の溶液を準備する工程と、前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合する工程と、を含んでいる、[10]に記載の方法。
[12]前記サイズ排除ポリマーは、熱可塑性樹脂、固有微細孔性高分子(PIM)、及びシリコンからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーである、[9]乃至[11]の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、優れたガス透過性と機械的強度とを併せ持つ新しいタイプの多孔性膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、多孔性膜におけるガス分子の透過度の測定方法を概略的に示している。
【
図2】
図2は、本発明の一態様に係る多孔性膜の製造方法を示す概念図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の態様に係る多孔性膜の製造方法を示す概念図である。
【
図4】
図4は、サイズ排除ポリマー中における前駆体ゲルの形成過程を示す動的光散乱測定の結果を示している。
【
図5】
図5は、比較例1、実施例3、及び、実施例5に係る膜の表面SEM画像を示している。
【
図6】
図6は、比較例1、実施例3、及び、実施例5に係る膜の断面SEM画像を示している。
【
図7】
図7は、比較例4及び比較例6に係るサンプルの表面SEM画像を示している。
【
図8】
図8は、比較例4及び比較例6に係るサンプルの断面SEM画像を示している。
【
図9】
図9は、実施例5及び比較例6のサンプルの光学顕微鏡画像を示している。
【
図10】
図10は、実施例5に係る多孔性膜から作成したエアロゲルのSEM画像を示している。
【
図11】
図11は、実施例1乃至5並びに比較例1及び4に係る膜サンプル(MOP/PU)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
【
図12】
図12は、実施例6乃至8及び比較例7乃至10に係る膜サンプル(MOP/PB)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
【
図13】
図13は、実施例9乃至11及び比較例11乃至14に係る膜サンプル(MOP/PES)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
【
図14】
図14は、実施例12に係る膜サンプル(MOP/AP)の引張モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図15】
図15は、比較例15に係る膜サンプル(AP)の引張モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
【
図16】
図16は、実施例13乃至16並びに比較例1及び16乃至18に係る膜サンプル(MOF/PU)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
【
図17】
図17は、実施例17乃至19並びに比較例7及び19乃至21に係る膜サンプル(MOF/PB)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
【
図18】
図18は、実施例20乃至22並びに比較例11及び22乃至24に係る膜サンプル(MOF/PES)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
【
図19】
図19は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2透過性の測定結果を示している。
【
図20】
図20は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のN
2透過性の測定結果を示している。
【
図21】
図21は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCH
4透過性の測定結果を示している。
【
図22】
図22は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のH
2透過性の測定結果を示している。
【
図23】
図23は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のO
2透過性の測定結果を示している。
【
図24】
図24は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2/N
2透過選択性の測定結果を示している。
【
図25】
図25は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2/H
2透過選択性の測定結果を示している。
【
図26】
図26は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2/CH
4透過選択性の測定結果を示している。
【
図27】
図27は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のH
2/N
2透過選択性の測定結果を示している。
【
図28】
図28は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のH
2/CH
4透過選択性の測定結果を示している。
【
図29】
図29は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のO
2/N
2透過選択性の測定結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様に係る多孔性膜及びその製造方法について説明する。また、併せて、上記の多孔性膜を含んだガス分離システムについても説明する。なお、図面又は化学式を参照する場合、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号又は記号を付し、重複する説明は省略する。また、以下において、本発明に係る新たなタイプの多孔性膜は、空孔ネットワーク膜(Pore-Networked Membranes; PNM)としても言及される。
【0012】
本発明の一態様に係る多孔性膜は、分子内に空孔を有する多孔性高分子と、前記空孔を占有できない大きさの分子サイズを有するサイズ排除ポリマーと、を含んでいる。そして、上記多孔性高分子は、複数の粒子を形成しており、これら複数の粒子は、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。なお、このネットワーク構造は、典型的には、コロイドネットワーク構造である。また、ここで「粒子」とは、2つ以上の分子から構成される凝集体を意味しており、その形状に制限はない。上記複数の粒子の各々は、例えば、球のような0次元状であってもよく、ロッド又はファイバのような1次元状であってもよく、シートのような2次元状であってもよい。上記複数の粒子の各々は、典型的には、ナノ粒子である。
【0013】
本態様に係る多孔性膜は、階層的なネットワーク構造を有している。第1に、多孔性高分子の分子構造自体を、多数の空孔が接続されたネットワークとしてみなすことができる。これが、多孔性膜における第1のネットワークを構成している。第2に、上述した通り、多孔性高分子の粒子は、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合して、より高次のネットワーク構造を形成している。これが、多孔性膜における第2のネットワークを構成している。第1のネットワークの存在により、多孔性膜のガス透過性が担保される。そして、第2のネットワークの存在により、多孔性膜の機械的強度が担保される。したがって、これらの階層的なネットワーク構造の存在により、高いガス透過性と機械的強度とを両立させることが可能となる。なお、上記の化学的な結合としては、例えば、配位結合、共有結合、又はイオン結合が挙げられる。
【0014】
多孔性高分子としては、分子内に空孔を有しており、上記のようなネットワーク構造を形成し得るものであれば、任意の材料を使用し得る。多孔性高分子は、例えば、金属有機構造体(MOF)、多孔性有機高分子(POP)、及び、リンカー分子によって互いに連結された金属有機多面体(MOP)からなる群より選択される少なくとも1つの多孔性高分子である。以下、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを、MOP超分子重合体ともいう。なお、多孔性高分子は、結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。
【0015】
上記のMOFとしては、例えば、後述する前駆体ゲルを形成し得るものを使用することができる。即ち、上記のMOFとしては、複数のMOF粒子が化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成し得るものを使用することができる。このような前駆体ゲルは、例えば、MOF又はその原料と溶媒とを含む系において、ナノ粒子の形成及びその凝集の速度を制御することにより得られる。既知のMOFゲルについては、例えば、以下の文献にまとめられている。
文献:Jigwei Hou, Adam F. Sapnik and Thomas D. Bennett, Metal-Organic framework gels and monoliths, Chem. Sci. 2020, 11, 310
【0016】
使用し得るMOFの種類に制限はない。金属イオンの種類及び配位数と、多座配位子の種類及びトポロジーとを適切に組み合わせることにより、所望の構造を有するMOFを製造することができる。MOFは、2種類以上の金属元素を含んでいてもよく、2種類以上の多座配位子を含んでいてもよい。MOFは、典型的には、金属イオン供与体と多座配位子とを反応させることによって合成される。
【0017】
金属イオン供与体を構成する金属元素としては、例えば、アルカリ金属(第1族)、アルカリ土類金属(第2族)、及び遷移金属(第3族~第12族)に属する任意の元素が挙げられる。金属元素は、典型的には、マグネシウム、カルシウム、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、ガリウム、インジウム、及びクロムからなる群より選択される。金属イオン供与体は、複数の金属元素を含んでいてもよい。或いは、互いに異なった金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。
【0018】
金属イオン供与体としては、典型的には、金属塩が用いられる。金属イオン供与体は、有機塩であっても無機塩であってもよい。金属イオン供与体は、典型的には、水酸化塩、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び塩化物塩からなる群より選択される。互いに同一の金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。金属イオン供与体は、いわゆる二次構造単位(SBU: Secondary Building Unit)の形態であってもよい。このような二次構造単位としては、既知のMOFの合成に用いられる任意のものを選択することができる。
【0019】
多座配位子は、典型的には有機多座配位子であり、例えば、カルボン酸アニオン、アミン化合物、スルホン酸アニオン、リン酸アニオン、及び複素環化合物からなる群より選択される。カルボン酸アニオンとしては、例えば、ジカルボン酸又はトリカルボン酸アニオンが挙げられる。具体的には、例えば、クエン酸、リンゴ酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸、及びこれらの誘導体のアニオンが挙げられる。複素環化合物としては、例えば、ビピリジン、イミダゾール、アデニン、及びこれらの誘導体が挙げられる。複数の多座配位子を用いてもよい。
【0020】
前駆体ゲルを形成し得るMOFの例を以下の表1に挙げる。これらはあくまで例示であり、他のMOFの使用を妨げるものではない。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0021】
表1中に引用した文献のリストは以下の通りである。
A1:Bart Bueken et al. Gel-based morphological design of zirconium metal-organic frameworks. Chem. Sci., 2017, 8, 3939-3948
A2:Tian Tian et al. Mechanically and chemically robust ZIF-8 monoliths with high volumetric adsorption capacity. J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 2999-3005
A3:Abhijeet K. Chaudhari et al. Multifunctional Supramolecular Hybrid Materials Constructed from Hierarchical Self-Ordering of In Situ Generated Metal-Organic Framework (MOF) Nanoparticles. Advanced Materials, Volume 27, Issue 30, August 12, 2015, 4438-4446
A4:Li, L., Xiang, S., Cao, S. et al. A synthetic route to ultralight hierarchically micro/mesoporous Al(III)-carboxylate metal-organic aerogels. Nat Commun 4, 1774 (2013)
【0022】
上記のPOPとしては、例えば、後述する前駆体ゲルを形成し得るものを使用することができる。即ち、上記のPOPとしては、複数のPOP粒子が化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成し得るものを使用することができる。このような前駆体ゲルは、例えば、POP又はその原料と溶媒とを含む系において、ナノ粒子の形成及びその凝集の速度を制御することにより得られる。POPは、例えば、共有結合性有機構造体(COF)である。
【0023】
使用し得るPOPの種類に制限はない。対称性の高い有機分子の種類及び/又は組合せを適切に選択することにより、所望の構造を有するPOPを製造することができる。POPは、1種類の有機分子の重縮合によって得られるものであってもよく、2種類以上の有機分子の重縮合によって得られるものであってもよい。
【0024】
POPの結合部位は、例えば、ボロキシン型(ボロン酸の脱水縮合反応によって得られるボロキシン環)、ボロン酸エステル型(ボロン酸とジオールとの縮合反応によって得られるボロン酸エステル)、アミド型(アミンと酸ハロゲン化物との脱水縮合反応によって得られるアミド)、イミン型(アミンとアルデヒド又はケトンとの脱水縮合反応によって得られるアミド)、及び、トリアジン型(ニトリルの三量化反応によって得られる1,3,5-トリアジン)などの任意の構造であり得る。
【0025】
前駆体ゲルを形成し得るPOPの例を以下の表2に挙げる。これらはあくまで例示であり、他のPOPの使用を妨げるものではない。
【表2-1】
【表2-2】
【0026】
表2中に引用した文献のリストは以下の通りである。
B1:Y. Su, Z. Wang, A. Legrand, T. Aoyama, N. Ma, W. Wang, K. Otake, K. Urayama, S. Horike, S. Kitagawa, S. Furukawa, and C. Gu, J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 15, 6861-6870.
B2:J. A. Martin-Illan, D. Rodriguez-San-Miguel, O. Castillo, G. Beobide, J. Perez-Carvajal, I. Imaz, D. Maspoch, F. Zamora, Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 13969.
B3:Z. Liu, K. Zhang, G. Huang, B. Xu, Y.-l. Hong, X. Wu, Y. Nishiyama, S. Horike, G. Zhang, S. Kitagawa, Angew. Chem. Int. Ed. 2022, 61, e202110695.
B4:Dongyang Zhu, Yifan Zhu, Qianqian Yan, Morgan Barnes, Fangxin Liu, Pingfeng Yu, Chia-Ping Tseng, Nicholas Tjahjono, Po-Chun Huang, Muhammad M. Rahman, Eilaf Egap, Pulickel M. Ajayan, and Rafael Verduzco, Chem. Mater. 2021, 33, 11, 4216-4224
【0027】
上記のMOPとしては、例えば、リンカー分子によって互いに連結することにより後述する前駆体ゲルを形成し得るものを使用することができる。即ち、上記の「リンカー分子によって互いに連結されたMOP」(即ち、MOPの超分子重合体)としては、例えば、これらの複数の粒子が、配位結合等の化学的な結合によって互いに結合してネットワーク構造を形成し得るものを使用することができる。このような前駆体ゲルは、例えば、MOP又はその原料とリンカー分子と溶媒とを含む系において、ナノ粒子の形成及びその凝集の速度を制御することにより得られる。
【0028】
使用し得るMOPの種類に制限はない。金属イオンの種類及び配位数と、多座配位子の種類及びトポロジーとを適切に組み合わせることにより、所望の構造を有するMOPを製造することができる。MOPは、2種類以上の金属元素を含んでいてもよく、2種類以上の多座配位子を含んでいてもよい。MOPは、典型的には、金属イオン供与体と多座配位子とを反応させることによって合成される。なお、MOPは、金属有機ケージ(Metal-Organic Cages; MOC)又は金属錯体ケージ(Coordination Cages)であってもよい。
【0029】
金属イオン供与体を構成する金属元素としては、例えば、アルカリ金属(第1族)、アルカリ土類金属(第2族)、及び遷移金属(第3族~第12族)に属する任意の元素が挙げられる。金属元素は、典型的には、ロジウム、ルテニウム、ジルコニウム、バナジウム、パラジウム、鉄、マグネシウム、白金、ガリウム、ニッケル、モリブデン、クロム、及び銅からなる群より選択される。金属イオン供与体は、複数の金属元素を含んでいてもよい。或いは、互いに異なった金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。
【0030】
金属イオン供与体としては、典型的には、金属塩が用いられる。金属イオン供与体は、有機塩であっても無機塩であってもよい。金属イオン供与体は、典型的には、水酸化塩、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び塩化物塩からなる群より選択される。互いに同一の金属元素を含んだ複数の金属イオン供与体を併用してもよい。
【0031】
多座配位子は、典型的には有機多座配位子であり、例えば、カルボン酸アニオン、アミン化合物、スルホン酸アニオン、リン酸アニオン、及び複素環化合物からなる群より選択される。カルボン酸アニオンとしては、例えば、ジカルボン酸又はトリカルボン酸アニオンが挙げられる。具体的には、例えば、クエン酸、リンゴ酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸、及びこれらの誘導体のアニオンが挙げられる。複素環化合物としては、例えば、ビピリジン、イミダゾール、アデニン、及びこれらの誘導体が挙げられる。多座配位子は、PEGなどのポリマー又はオリゴマー分子をベースとした配位子であってもよい。複数の多座配位子を用いてもよい。
【0032】
MOP同士を結合するためのリンカー分子としては、典型的には、二座配位子が使用される。このようなリンカー分子としては、例えば、ビスイミダゾール及びビスピリジン、などの二座の連結基を使用することができる。
【0033】
前駆体ゲルを形成し得るMOPの例を以下の表3に挙げる。これらはあくまで例示であり、他のMOPの使用を妨げるものではない。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0034】
表3中に引用した文献のリストは以下の通りである。
C1:Carne-Sanchez, A., Craig, G.A., Larpent, P. et al. Self-assembly of metal-organic polyhedra into supramolecular polymers with intrinsic microporosity. Nat Commun 9, 2506 (2018).
C2:A. Carne-Sanchez, G. A. Craig, P. Larpent, V. Guillerm, K. Urayama, D. Maspoch, S. Furukawa, Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 6347.
C3:Z. Wang, G. A. Craig, A. Legrand, F. Haase, S. Minami, K. Urayama, S. Furukawa, Chem. Asian J. 2021, 16, 1092.
C4:Zhukhovitskiy, A., Zhong, M., Keeler, E. et al. Highly branched and loop-rich gels via formation of metal-organic cages linked by polymers. Nature Chem 8, 33-41 (2016).
C5:Gu, Y., Alt, E.A., Wang, H. et al. Photoswitching topology in polymer networks with metal-organic cages as crosslinks. Nature 560, 65-69 (2018).
C6:Jonathan A. Foster, Richard M. Parker, Ana M. Belenguer, Norifumi Kishi, Sam Sutton, Chris Abell, and Jonathan R. Nitschke, Journal of the American Chemical Society 2015 137 (30), 9722-9729
C7:Li Shao, Bin Hua, Xiangquan Hu, David Stalla, Steven P. Kelley, and Jerry L. Atwood, Journal of the American Chemical Society 2020 142 (16), 7270-7275
C8:Chenjie Lu, Mingming Zhang, Danting Tang, Xuzhou Yan, ZeYuan Zhang, Zhixuan Zhou, Bo Song, Heng Wang, Xiaopeng Li, Shouchun Yin, Hajar Sepehrpour, and Peter J. Stang, Journal of the American Chemical Society 2018 140 (24), 7674-7680
C9:Sudhakar Ganta and Dillip K. Chand, Inorganic Chemistry 2018 57 (7), 3634-3645
C10:Sutar, P., Suresh, V.M., Jayaramulu, K. et al. Binder driven self-assembly of metal-organic cubes towards functional hydrogels. Nat Commun 9, 3587 (2018).
C11:Wei, S.-C., Pan, M., Fan, Y.-Z., Liu, H., Zhang, J. and Su, C.-Y. (2015), Creating Coordination-Based Cavities in a Multiresponsive Supramolecular Gel. Chem. Eur. J., 21: 7418-7427.
C12:Wei Zheng, Li-Jun Chen, Guang Yang, Bin Sun, Xu Wang, Bo Jiang, Guang-Qiang Yin, Li Zhang, Xiaopeng Li, Minghua Liu, Guosong Chen, and Hai-Bo Yang, Journal of the American Chemical Society 2016 138 (14), 4927-4937
C13:J. Uchida, M. Yoshio, S. Sato, H. Yokoyama, M. Fujita, T. Kato, Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 14085.
C14:Yu Qin, Lin-Lin Chen, Wei Pu, Peng Liu, Shi-Xi Liu, Yuan Li, Xiao-Lan Liu, Zhi-Xiang Lu, Li-Yan Zheng, and Qiu-E Cao, Chem. Commun., 2019,55, 2206-2209
C15:Ru-Jin Li, Cristian Pezzato, Cesare Berton, and Kay Severin, Chem. Sci., 2021,12, 4981-4984
【0035】
上述した通り、本態様に係る多孔性膜を構成する多孔性高分子は、分子内に空孔を有している。この空孔の存在により、本態様に係る多孔性膜は、典型的には、少なくとも1種類のガス分子を透過させることができるように構成されている。なお、ここで、「ガス分子を透過させることができる」とは、当該ガス分子に対する透過度が、サイズ排除ポリマーのみを用いて作製した膜における透過度より高いことを意味している。ガス分子に対する透過度の測定方法については、以下で別途説明する。
【0036】
多孔性膜を透過し得るガス分子の例としては、水素;酸素;窒素;一酸化炭素;二酸化炭素;亜酸化窒素、一酸化窒素、及びアンモニアなどの窒素化合物;硫化水素及び二酸化硫黄などの硫黄化合物;メタン、エタン、及びプロパン、及びアセチレンなどの脂肪族炭化水素;アルゴン及びキセノンなどの希ガス;並びに、塩素及び臭化水素などのハロゲン化合物が挙げられる。
【0037】
多孔性膜を透過し得るガス分子は、室温では液体である分子の蒸気であってもよい。そのような液体分子の例としては、n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、及びジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、及び1,4-ジオキサンなどのエーテル;クロロホルム及びジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;酢酸エチルなどのエステル;アセトンなどのケトン;アセトニトリルなどのニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド;ギ酸及び酢酸などのカルボン酸;メタノール、エタノール、n―プロパノール、i-プロパノール、及びn―ブタノールなどのアルコール;並びに、水が挙げられる。
【0038】
上述した通り、本態様に係る多孔性膜を構成する多孔性高分子は、複数の粒子を形成しており、これらの複数の粒子は、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。即ち、この多孔性膜は、共有結合的にコロイドネットワークを形成する化学ゲル、又は、非共有結合的にコロイドネットワークを形成する物理ゲルのような高次構造を有している。このネットワーク構造の隙間には、後述するサイズ排除ポリマーが包摂されている。なお、ここで「共有結合的に」とは、例えば、共有結合、配位結合、又はイオン結合によるネットワーク形成を意味している。また、ここで「非共有結合的に」とは、例えば、分子間相互作用によるネットワーク形成を意味している。
【0039】
上記の複数の粒子の各々は、典型的にはナノ粒子であり、例えば、1nm乃至100nmの直径を有するナノ粒子である。即ち、上記の多孔性膜は、典型的には、ナノ粒子膜である。
【0040】
上述した通り、本態様に係る多孔性膜を構成するサイズ排除ポリマーは、多孔性高分子の空孔を占有できない大きさの分子サイズを有している。そのため、サイズ排除ポリマーは、フィラーとしての多孔性高分子の空孔を占有してしまうことなく、多孔性膜のマトリクスとして有効に機能させることができる。
【0041】
サイズ排除ポリマーとしては、例えば、熱可塑性樹脂、固有微細孔性高分子(PIM)及びシリコンからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーを使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタン(PU)、Pebax(登録商標)などのポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエーテルスルホン(PES)、Matrimid(登録商標)及び6―FDA-DAMなどのポリイミド、PVDFなどのフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリ乳酸などの生分解性プラスティック、又は、類似の熱可塑性樹脂を使用することができる。固有微細孔性高分子(PIM)としては、例えば、AO-PIM-1(アミドキシム官能化固有微細孔性高分子)又は類似のPIMを使用することができる。サイズ排除ポリマーとしてPIMを使用すると、多孔性高分子の空孔とPIMの空孔との双方を利用可能な多孔性膜を提供し得る。シリコンとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)又は類似のシリコンを使用することができる。
【0042】
本態様に係る多孔性膜において、膜に占める多孔性高分子の含有量は、例えば5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上である。また、膜に占める多孔性高分子の含有量は、例えば80質量%以下であり、好ましくは70質量%以下である。これら上限及び下限の任意の組合せが可能である。この含有量が過度に小さいと、多孔性膜のガス透過性が不充分になることがある。この含有量が過度に大きいと、膜の形成が困難になることがある。なお、本態様に係る多孔性膜は、2種類以上の多孔性高分子を含んでいてもよく、2種類以上のサイズ排除ポリマーを含んでいてもよい。また、サイズ排除ポリマーとしてPIMを用いる場合、その含有量は、多孔性高分子の含有量には含めないものとする。更に、多孔性高分子として、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合、上記の多孔性高分子の含有量は、原料として使用されるMOPの含有量として計算するものとする。
【0043】
上述した通り、本態様に係る多孔性膜は、少なくとも1種類のガス分子を透過させることができるように構成されていることが好ましい。即ち、本態様に係る多孔性膜は、少なくとも1種類のガス分子に対する透過度が、対応するサイズ排除ポリマーのみを用いて作製した膜(以下、ポリマー膜ともいう)における透過度より高いことが好ましい。多孔性膜によるガス分子の透過度は、ポリマー膜による当該ガス分子の透過度の1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましく、1.8倍以上であることが特に好ましい。ガス透過度の評価の基準としては、例えば、二酸化炭素(CO2)の透過度を用いることができる。
【0044】
なお、ここで、膜によるガス分子の透過度は、以下のようにして測定する。即ち、この透過度は、室温において、定容量可変圧力法を用いて測定する。全ての膜について、個別にガス回収テストを行って、各サンプルの拡散係数及び溶解係数を時間遅れ(θ)法で計算する。各サンプルについて、3つの膜をテストし、それらの平均値として、透過係数を求める。
【0045】
図1は、多孔性膜におけるガス分子の透過度の測定方法を概略的に示している。
図1に示すように、この測定方法では、透過ガスセルとして、ガス及び真空ラインを備えた有効面積2cm
3のステンレス鋼ホルダ(Millipore XX 4502500)を使用する。そして、圧力及び温度の変化を、絶対圧力センサ(Keller PAA33X)によって記録する。その後、
図1中に示す計算式によって、ガス透過度を求める。
【0046】
図1中に示す計算式において、P
iは、ガスiに対する透過度であり、j
iは、ガスiのフラックスであり、lは、膜の厚みであり、Δpは、膜の供給側と透過側との間の圧力差である。また、同式において、Vは、透過体積であり、Aは、膜の有効面積であり、Tは、測定温度であり、dp/dtは、定常状態におけるガス透過時の圧力差率である。このようにして、透過度P
iを求める。なお、ガスの選択性は、上記の透過度の比として求めることができる。例えば、第1のガス(i)に対する第2のガス(j)の選択性は、P
j/P
iを計算することによって評価することができる。
【0047】
本態様に係る多孔性膜は、少なくとも1組のガス分子の組合せについて、高い選択性を有していることが好ましい。即ち、本態様に係る多孔性膜は、少なくとも1組のガス分子の組合せに対する選択性が、対応するポリマー膜における選択性より高いことが好ましい。多孔性膜による選択性は、対応するポリマー膜による選択性の1.1倍以上であることがより好ましく、1.2倍以上であることが更に好ましい。ガス選択性の評価の基準としては、例えば、窒素に対する二酸化炭素の選択性(CO2/N2)を用いることができる。
【0048】
上述した通り、本態様に係る多孔性膜は、優れた機械的強度を示すことができる。この機械的強度は、例えば、引張モードでの粘弾性測定において、1rad/sでの貯蔵弾性率を測定することによって評価することができる。なお、この評価は、応力制御AR-G2レオメータ(TA Instruments社製)を使用して行うものとする。また、膜の動的機械分析(DMA)測定は、線形領域(初期ひずみは0.3%に固定)の十分内側にある0.5%ひずみ振幅の引張モードでの周波数掃引によって行うものとする。
【0049】
本態様に係る多孔性膜の貯蔵弾性率は、対応するポリマー膜の貯蔵弾性率より高いことが好ましい。本態様に係る多孔性膜の貯蔵弾性率は、対応するポリマー膜の貯蔵弾性率の2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。また、本態様に係る多孔性膜の貯蔵弾性率は、典型的には、対応する混合マトリクス膜の貯蔵弾性率と比較してもより高い。
【0050】
このような機械的強度の増大は、本態様に係る多孔性膜におけるネットワーク構造の存在に起因していると考えられる。即ち、本態様に係る多孔性膜においては、多孔性高分子の粒子同士が、化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。この場合、多孔性高分子を膜中に比較的均質に分布させることができるため、多孔性材料の凝集によるドメイン発生が生じ難い。したがって、本態様に係る多孔性膜においては、ドメインへの応力集中が生じ難く、機械的強度の低下が生じ難い。
【0051】
なお、多孔性膜におけるネットワーク構造の存在は、例えば、SEM測定及び/又は光学顕微鏡測定による観察によって確かめることができる。これらの測定は、多孔性膜からサイズ排除ポリマーを除去したサンプルをエアロゲル化した後に行うこともできる。このような形態観察の具体例については、後述する実施例において説明する。
【0052】
上記のようなネットワーク構造を有する多孔性膜は、例えば、多孔性高分子を含んだ前駆体ゲルを用いて調製される。この場合、多孔性高分子を含んだゲルに存在していたネットワーク構造を多孔性膜においても保持させることにより、階層的なネットワーク構造を有する多孔性膜が得られる。
【0053】
このように、多孔性膜は、例えば、多孔性高分子を含んだゲルを前駆体とすることによって製造することができる。以下では、多孔性高分子としてMOF又はPOPを用いる場合と、多孔性高分子としてリンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合との各々について、特に好適な製造方法を説明する。上記の多孔性膜は、これら以外の方法によって製造してもよい。
【0054】
まず、多孔性高分子としてMOF又はPOPを用いる場合に特に好適な製造方法について説明する。この製造方法では、初めに、MOF又はPOPを含んだ前駆体ゲルを形成する。次に、この前駆体ゲルに溶媒を加えて、MOF又はPOPの懸濁液(suspension)を調製する。次いで、この懸濁液とサイズ排除ポリマーとを混合する。その後、溶媒を除去することにより、多孔性膜を得る。
【0055】
図2は、本発明の一態様に係る多孔性膜の製造方法を示す概念図である。
図2に示す例では、まず、MOF/POPの原料(図示せず)が反応して、複数のMOF又はPOP粒子が形成される。次に、これら複数の粒子が化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成することにより、前駆体ゲルが形成される。その後、懸濁液の調製(図示せず)、サイズ排除ポリマーの添加、及び、溶媒の除去によって、本態様に係る多孔性膜が形成される。
【0056】
上記の前駆体ゲルとしては、例えば、先に説明した既知のMOF又はPOPゲルを使用することができる。この前駆体ゲルにおいては、複数のMOF又はPOP粒子が化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成しており、そのネットワーク構造内に、合成溶媒が包摂されている。また、この前駆体ゲルにおいては、MOF又はPOPの空孔は、典型的には、合成溶媒、又は、合成時に系中に存在していた気体分子によって占有されている。
【0057】
合成溶媒としては、例えば、前駆体ゲルの調製に使用される溶媒を用いることができる。合成溶媒の例としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド、アセトンなどのケトン、メタノール、エタノール、n―プロパノール、i-プロパノール、及びn―ブタノールなどのアルコール、又は、水が挙げられる。合成溶媒として、複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0058】
前駆体ゲルからの懸濁液の調製に使用される分散溶媒は、上記の合成溶媒と同一のものであってもよく、上記の合成溶媒とは異なったものであってもよい。後者の場合、分散溶媒の沸点は、合成溶媒の沸点より低いことが好ましい。分散溶媒は、沸点の他、サイズ排除ポリマーとの混和性等の観点から、適宜選択することができる。分散溶媒として、複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0059】
懸濁液に添加されるサイズ排除ポリマーは、例えば、溶液の形態である。この場合、サイズ排除ポリマーを溶解又は分散させるための溶媒としては、典型的には、上記の合成溶媒又は分散溶媒と同一のものが使用される。サイズ排除ポリマー溶液を構成する溶媒として、複数の溶媒の混合物を使用してもよい。
【0060】
以上のようにして得られた混合溶液又は懸濁液からの溶媒の除去は、例えば、加熱によって行われる。具体的には、まず、得られた混合溶液又は懸濁液を、基板又は皿などの上に塗布する。次に、これを加熱して、溶媒を除去する。その後、必要に応じて、基板又は皿などから膜を剥離する。これにより、多孔性高分子としてのMOF又はPOPと、サイズ排除ポリマーと、を含んだ多孔性膜が得られる。なお、この溶媒除去工程は、多孔性高分子の空孔中に存在している気体又は液体分子を除去する活性化工程を兼ねていてもよい。これにより、多孔性高分子の空孔を非占有状態とし、多孔性膜を、ガス分子の透過により適した状態にすることができる。
【0061】
次に、多孔性高分子として、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合に特に好適な製造方法について説明する。この製造方法では、初めに、リンカー分子によって互いに連結されたMOPと、溶媒と、サイズ排除ポリマーと、を含んだ前駆体ゲルを形成する。その後、溶媒を除去することにより、多孔性膜を得る。なお、前駆体ゲルの形成と、溶媒の除去による膜の形成とは、典型的には、ワンポットプロセス(One Pot Process)によって行われる。但し、上記の前駆体ゲルは、典型的には、溶媒が完全に除去される前に形成される。この点については、後述する実施例において更に説明するように、例えば、動的光散乱(Dynamic Light Scattering;DLS)法による分析によって確認することができる。
【0062】
図3は、本発明の他の態様に係る多孔性膜の製造方法を示す概念図である。
図3に示す例では、MOPとリンカー分子との反応によって、MOP超分子重合体の複数の粒子が形成される。また、それと同時に、溶媒及びサイズ排除ポリマーの存在下、これら複数の粒子が配位結合によって互いに結合してネットワーク構造を形成することにより、前駆体ゲルが形成される。その後、溶媒の除去によって、本態様に係る多孔性膜が形成される。
【0063】
上記の前駆体ゲルとしては、例えば、先に説明した既知のMOPゲルにサイズ排除ポリマーが添加されたものを使用することができる。この前駆体ゲルの形成工程は、例えば、MOPと溶媒とサイズ排除ポリマーとを含んだ第1の溶液を準備する工程と、リンカー分子と溶媒とサイズ排除ポリマーとを含んだ第2の溶液を準備する工程と、第1の溶液と第2の溶液とを混合する工程と、を含んでいてもよい。なお、この場合、第1及び第2の溶液を構成する溶媒は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。これらの溶媒の例としては、先に合成溶媒の例として説明したものが挙げられる。
【0064】
前駆体ゲルからの溶媒の除去は、例えば、先に混合溶液又は懸濁液からの溶媒の除去として説明したのと同様にして行うことができる。なお、この場合、上記の混合溶液又は懸濁液が完全にゲル化する前の状態において、基板又は皿などの上に塗布する処理を行ってもよい。この場合、成膜工程の制御がより容易になる。
【0065】
このようにして得られる多孔性膜においては、多孔性高分子の粒子が化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成している。このようなネットワーク構造の存在により、そのような高次構造を備えていない従来の混合マトリクス膜(MMM)等と比較して、高い機械的強度を達成することができる。また、多孔性高分子の空孔が保持されていることにより、このようにして得られる多孔性膜は、優れたガス透過性及び/又はガス選択性を示すことができる。
【0066】
以上の通り、本態様に係る多孔性膜は、優れたガス透過性と機械的強度とを併せ持つ新しいタイプの多孔性膜である。そのため、このような膜は、ガス分離等の分野での応用が可能である。例えば、既存のガス分離システムにおいて、ガス分離膜として本態様に係る多孔性膜を使用することにより、新たなガス分離システムを提供することが可能となる。
【実施例0067】
上記の多孔性膜について、実施例を参照しながら更に説明する。
【0068】
以下の各例において、酢酸ロジウム、1-ドデシル-1H-イミダゾール〔diz〕、及び、1,4-ビス(イミダゾール-1-イルメチル)ベンゼン〔bix〕は、上記の文献C2にしたがって合成した。Pebax2533は、アルケマ社からペレット状のものを購入した。ポリエーテルスルホン〔PES〕は、グッドフェロー社から購入し、ポリ(テトラメチレングリコール)〔PTMG;Mw=2000〕は、シグマアルドリッチ社から購入し、使用前に80℃で1晩真空乾燥処理を行って、残存している水分を除去した。オクタンジオール鎖延長剤、及び、触媒としてのジブチルスズジラウレート〔DBTDL〕は、シグマアルドリッチ社から購入し、4Åの分子ふるいで乾燥して使用した。イソホロンジイソシアネート〔IPDI〕、ZrCl4、ZrOCl2・8H2Oは、和光純薬から購入し、受け取ったままで使用した。1,3,5-ベンゼントリカルボン酸及びヒドロキシルアミンは、シグマアルドリッチ社から購入した。5,5’,6,6’-テトラヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビシンダン〔TTSBI〕、2-アミノテレフタル酸、1,4-ジシアノテトラフルオロベンゼン〔DCTB〕、及びAl(NO3)3・9H2Oは、ナカライテスクから提供されたものを使用した。溶媒は、和光純薬から購入したが、HPLCグレードのものについては、フィッシャーケミカル社から購入した。
【0069】
1.原材料の合成
以下で説明する膜調製に使用される原材料を、以下のようにして合成した。
【0070】
(1)HRhMOP(diz)12
表3-1に示すHRhMOPを、文献C2にしたがって合成した。200mgのHRhMOPを40mLのDCM(ジクロロメタン)に分散させた後、132.5mgのdiz(18モル当量)を加えた。5分間の超音波処理後、溶液を遠心分離して沈殿を除去した。上部の紫色溶液を集め、真空中で蒸発させた。得られた紫色の固体HRhMOP(diz)12をEtOHで二度洗浄し、残ったdizを除去した。このようにして、HRhMOP(diz)12を得た。
【0071】
(2)ポリウレタン(PU)
PUは、2段階バルク重合法で合成した。まず、PTMGを75°Cの窒素雰囲気下で過剰のIPDI(PTMG:IPDI=1:3モル比)と反応させ、続いて0.1mLのDBTDLを添加してマクロジイソシアネートプレポリマーを得た。2時間後、NCO:OH比の等モル調整のために正確な量のオクタンジオール鎖延長剤を加えた。合成したポリウレタンを洗浄し、メタノール:水(50:50wt%)で沈殿させ、未反応のモノマー又は低分子量ポリマーを除去した。サンプルは使用前に真空下で70℃において乾燥させた。PTMG:IPDI:鎖延長剤のモル比は、1:3:2であった。
【0072】
(3)アミドキシム官能化固有微細孔性高分子(AO-PIM-1)
AO-PIM-1(以下、APともいう)は、2段階のプロトコルで合成した。まず、フラスコに3.0g(15mmol)のDCTB、5.1g(15mmol)のTTSBI、6.2g(45mmol)のK2CO3、及び、25mLのDMAc(N,N-ジメチルアセトアミド)を充填した。混合物を、Ar雰囲気下、155℃で6分間激しく撹拌した。次に、モノマー塩の溶解性を維持するために、トルエン20mLと水0.2mLを撹拌しながら順次加えた。メタノール/クロロホルム混合物から沈殿させた後、真空下120℃で12時間乾燥させると、明るい黄色の粉末(PIM-1)が回収された。その後、得られたPIM-1を40mLのTHFにN2下65℃で溶解させ、ヒドロキシルアミン6.0mLを滴下して69℃で20時間還流した。エタノールを添加して重合体を沈殿させた後、ろ過してエタノールで十分に洗浄した。その後、生成物を110℃で3時間乾燥し、AO-PIM-1としてオフホワイトの粉末を得た。
【0073】
2.膜の調製
実施例及び比較例に係る膜を、以下のようにして調製した。
【0074】
(実施例1~5)
多孔性高分子として、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOPとしてHRhMOP(diz)12、リンカー分子としてbix、サイズ排除ポリマーとしてPUを含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法(solution casting method)によって調製した。なお、HRhMOP(diz)12の空孔サイズは、0.65nmである。
【0075】
まず、上記のようにして得られたHRhMOP(diz)12を室温で真空乾燥した後、PUのDMF溶液(3wt%)に溶解させた。このようにして、HRhMOP(diz)12のPU/DMF溶液を得た。
【0076】
次に、bix(MOPに対して12モル当量)を、PUのDMF溶液(3wt%)に溶解させた。このようにして、bixのPU/DMF溶液を得た。
【0077】
その後、HRhMOP(diz)12のPU/DMF溶液を、bixのPU/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明紫色溶液をテフロン(登録商標)ペトリ皿に移し、80℃で一晩加熱した。加熱によってDMF溶媒を蒸発させた後、得られた膜をペトリ皿から除去し、真空下、80℃で一晩乾燥させた。このようにして、多孔性膜を得た。
【0078】
なお、以上のプロセスにおいて、HRhMOP(diz)12とbixとPUとの質量比を適宜調整することにより、膜に占める多孔性高分子の含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
実施例1:1質量%(PNM-1)
実施例2:5質量%(PNM-5)
実施例3:10質量%(PNM-10)
実施例4:20質量%(PNM-20)
実施例5:30質量%(PNM-30)
の5種類の多孔性膜を調製した。
【0079】
(比較例1)
純粋なPU/DMF溶液を用いて、フィラーを含まないPU膜を作製した。
【0080】
(比較例2~4)
フィラーとしてHRhMOP(diz)12を含み、マトリクスとしてPUを含んだ混合マトリクス(MMM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0081】
具体的には、まず、HRhMOP(diz)12のPU/DMF溶液を、bixを含まないPU/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明ピンク色溶液を用いて、実施例1~5と同様にして、製膜を行った。
【0082】
以上のプロセスにおいて、HRhMOP(diz)12とPUとの質量比を適宜調整することにより、膜に占めるフィラーの含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
比較例2:1質量%(MMM-1)
比較例3:5質量%(MMM-5)
比較例4:10質量%(MMM-10)
の3種類の膜を調製した。なお、本例において、含有量が20質量%以上のMMMは、極めて脆弱であり、膜としての成形ができなかった。より具体的には、このようなMMMについては、ペトリ皿から膜を非破壊的に剥離することができなかった。なお、以下では、膜に占めるフィラーの含有量が20質量%である非膜サンプルについても、必要に応じて、評価に用いた。なお、以下の通り、これらの非膜サンプルについても、便宜的に、MMM-20又はMMM-30との記法を用いることがある。
比較例5:20質量%(MMM-20)
比較例6:30質量%(MMM-30)
【0083】
(実施例6~8)
多孔性高分子として、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOPとしてHRhMOP(diz)12、リンカー分子としてbix、サイズ排除ポリマーとしてPebax2533(PB)を含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0084】
まず、上記のようにして得られたHRhMOP(diz)12を室温で真空乾燥した後、PBのDMF溶液(3wt%)に40℃で溶解させた。このようにして、HRhMOP(diz)12のPB/DMF溶液を得た。
【0085】
次に、bix(MOPに対して12モル当量)を、PBのDMF溶液(3wt%)に40℃で溶解させた。このようにして、bixのPB/DMF溶液を得た。
【0086】
その後、HRhMOP(diz)12のPB/DMF溶液を、bixのPB/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明紫色溶液をテフロン(登録商標)ペトリ皿に移し、80℃で一晩加熱した。加熱によってDMF溶媒を蒸発させた後、得られた膜をペトリ皿から除去し、真空下、80℃で一晩乾燥させた。このようにして、多孔性膜を得た。
【0087】
なお、以上のプロセスにおいて、HRhMOP(diz)12とbixとPBとの質量比を適宜調整することにより、膜に占める多孔性高分子の含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
実施例6:11.4質量%
実施例7:22.8質量%
実施例8:34.2質量%
の3種類の多孔性膜を調製した。
【0088】
(比較例7)
純粋なPB/DMF溶液を用いて、フィラーを含まないPB膜を作製した。
【0089】
(比較例8~10)
フィラーとしてHRhMOP(diz)12を含み、マトリクスとしてPBを含んだ混合マトリクス(MMM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0090】
具体的には、まず、HRhMOP(diz)12のPB/DMF溶液を、bixを含まないPB/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明ピンク色溶液を用いて、実施例6~8と同様にして、製膜を行った。
【0091】
以上のプロセスにおいて、HRhMOP(diz)12とPBとの質量比を適宜調整することにより、膜に占めるフィラーの含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
比較例8:11.4質量%
比較例9:22.8質量%
比較例10:34.2質量%
の3種類の膜を調製した。
【0092】
(実施例9~11)
多孔性高分子として、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOPとしてHRhMOP(diz)12、リンカー分子としてbix、サイズ排除ポリマーとしてPESを含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0093】
まず、上記のようにして得られたHRhMOP(diz)12を室温で真空乾燥した後、PESのDMF溶液(3wt%)に溶解させた。このようにして、HRhMOP(diz)12のPES/DMF溶液を得た。
【0094】
次に、bix(MOPに対して12モル当量)を、PESのDMF溶液(3wt%)に溶解させた。このようにして、bixのPES/DMF溶液を得た。
【0095】
その後、HRhMOP(diz)12のPES/DMF溶液を、bixのPES/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明紫色溶液をガラスペトリ皿に移し、80℃で一晩加熱した。加熱によってDMF溶媒を蒸発させた後、得られた膜をペトリ皿から除去し、真空下、80℃で一晩乾燥させた。このようにして、多孔性膜を得た。
【0096】
なお、以上のプロセスにおいて、HRhMOP(diz)12とbixとPESとの質量比を適宜調整することにより、膜に占める多孔性高分子の含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
実施例9:5質量%
実施例10:10質量%
実施例11:20質量%
の3種類の多孔性膜を調製した。
【0097】
(比較例11)
純粋なPES/DMF溶液を用いて、フィラーを含まないPES膜を作製した。
【0098】
(比較例12~14)
フィラーとしてHRhMOP(diz)12を含み、マトリクスとしてPESを含んだ混合マトリクス(MMM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0099】
具体的には、まず、HRhMOP(diz)12のPES/DMF溶液を、bixを含まないPES/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明ピンク色溶液を用いて、実施例9~11と同様にして、製膜を行った。
【0100】
以上のプロセスにおいて、HRhMOP(diz)12とPESとの質量比を適宜調整することにより、膜に占めるフィラーの含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
比較例12:5質量%
比較例13:10質量%
比較例14:20質量%
の3種類の膜を調製した。
【0101】
(実施例12)
多孔性高分子として、リンカー分子によって互いに連結されたMOPを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOPとしてHRhMOP(diz)12、リンカー分子としてbix、サイズ排除ポリマーとしてAPを含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0102】
まず、上記のようにして得られたHRhMOP(diz)12を室温で真空乾燥した後、APのDMF溶液(3wt%)に溶解させた。このようにして、HRhMOP(diz)12のAP/DMF溶液を得た。
【0103】
次に、bix(MOPに対して12モル当量)を、APのDMF溶液(3wt%)に溶解させた。このようにして、bixのAP/DMF溶液を得た。
【0104】
その後、HRhMOP(diz)12のAP/DMF溶液を、bixのAP/DMF溶液に、激しく撹拌しながら添加した。得られた透明紫色溶液をガラスペトリ皿に移し、80℃で一晩加熱した。加熱によってDMF溶媒を蒸発させた後、得られた膜をペトリ皿から除去し、真空下、80℃で一晩乾燥させた。このようにして、多孔性膜を得た。
【0105】
なお、得られた膜に占める多孔性高分子の含有量は、以下のように調整した。
実施例12:5質量%
【0106】
(比較例15)
純粋なAP/DMF溶液を用いて、フィラーを含まないAP膜を作製した。
【0107】
(実施例13~16)
多孔性高分子として、MOFを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOFとしてUiO66-NH2を含み、サイズ排除ポリマーとしてPUを含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。なお、UiO66-NH2の空孔サイズは、1.2nmである。
【0108】
まず、MOFを含んだ前駆体ゲルを、以下のようにして準備した。即ち、20mLのDMFに、0.88g(4.8mmol)の2-アミノテレフタル酸と、1.07g(3.3mmol)のZrOCl2・8H2Oを溶解した後、0.5mLの37wt%HCl及び0.67mLの氷酢酸を加えた。5分間超音波処理した後、得られた溶液をオーブンに入れ、100°Cで2時間加熱して、ゲル状態のMOF(UiO66-NH2)を得た。
【0109】
次に、MOFを含んだ懸濁液を、以下のようにして準備した。即ち、まず、得られたMOFゲルをDMFで3回、エタノールで3回洗浄した。各洗浄段階で新鮮な溶媒を加え、全混合体積が合成したままのゲルの2倍に膨張するようにした。バーテックミキサ及びソニケータを使用して、ゲルを新鮮な溶媒で均質化し、MOFの懸濁液を得た。その後、膨張した懸濁液を、DMF洗浄プロセスでは120℃、エタノール洗浄プロセスでは60℃で、一晩加熱した。その後、得られたMOFのエタノール懸濁液を遠心分離し、上澄液をデカンティングした。膜合成のために、最後の洗浄段階に続いて、MOF濃度を制御するために新鮮な溶媒を添加することによって、UiO66-NH2懸濁液の体積を再び調整した。このようにして、MOF(UiO66-NH2)のエタノール懸濁液を得た。
【0110】
その後、MOF(UiO66-NH2)の懸濁液を、PUのエタノール溶液(6wt%)に一定の体積比で添加し、バーテックミキサ及びソニケータを使用して均質化した。得られた溶液をテフロン(登録商標)ペトリ皿に移し、60℃で一晩加熱した。加熱によってエタノール溶媒を蒸発させた後、得られた膜をペトリ皿から除去し、真空下、80℃で一晩乾燥させた。このようにして、多孔性膜を得た。
【0111】
なお、以上のプロセスにおいて、UiO66-NH2とPUとの質量比を適宜調整することにより、膜に占める多孔性高分子の含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
実施例13:16.5質量%
実施例14:33質量%
実施例15:49.5質量%
実施例16:66質量%
の4種類の多孔性膜を調製した。
【0112】
(比較例16~18)
フィラーとしてUiO66-NH2のナノ粒子を含み、マトリクスとしてPUを含んだ混合マトリクス(MMM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。
【0113】
まず、MOFのナノ粒子を、以下のようにして準備した。即ち、50mLのDMFと3.3mLのHClとの混合液に、447.1g(2.47mmol)の2-アミノテレフタル酸と417.1g(1.79mmol)のZrCl4とを溶解させた。混合のために超音波処理した後、得られた溶液をオーブンに入れ、120℃で24時間加熱してMOFを得た。得られたMOFナノ粒子をDMFで3回、エタノールで3回洗浄した。バーテックミキサ及びソニケータを使用して、MOFナノ粒子を新鮮な溶媒で均質化し、MOFの懸濁液を得た。その後、遠心分離によって懸濁液からナノ粒子を分離し、上清溶液をデカンティングした。膜合成のために、最終的な洗浄工程に続いて、MOF濃度を制御するために新鮮な溶媒を添加することによって、MOF懸濁液の体積を再び調整した。このようにして、MOF(UiO66-NH2)粒子のエタノール懸濁液を得た。
【0114】
その後、MOF(UiO66-NH2)粒子の懸濁液を、PUのエタノール溶液(6wt%)に一定の体積比で添加し、バーテックミキサ及びソニケータを使用して均質化した。得られた溶液をテフロン(登録商標)ペトリ皿に移し、60℃で一晩加熱した。加熱によってエタノール溶媒を蒸発させた後、得られた膜をペトリ皿から除去し、真空下、80℃で一晩乾燥させた。このようにして、MMMを作製した。
【0115】
以上のプロセスにおいて、UiO66-NH2とPUとの質量比を適宜調整することにより、膜に占めるフィラーの含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
比較例16:16.5質量%
比較例17:33質量%
比較例18:49.5質量%
の3種類の膜を調製した。なお、本例において、含有量が66質量%以上のMMMは、極めて脆弱であり、膜としての成形ができなかった。より具体的には、このようなMMMについては、ペトリ皿から膜を非破壊的に剥離することができなかった。
【0116】
(実施例17~19)
多孔性高分子として、MOFを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOFとしてUiO66-NH2を含み、サイズ排除ポリマーとしてPBを含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。具体的には、PUの代わりにPBを用いたことを除いては、実施例13~16と同様にして、多孔性膜を調製した。
【0117】
なお、以上のプロセスにおいて、UiO66-NH2とPBとの質量比を適宜調整することにより、膜に占める多孔性高分子の含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
実施例17:16.5質量%
実施例18:33質量%
実施例19:49.5質量%
の3種類の多孔性膜を調製した。
【0118】
(比較例19~21)
フィラーとしてUiO66-NH2のナノ粒子を含み、マトリクスとしてPBを含んだ混合マトリクス(MMM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。具体的には、PUの代わりにPBを用いたことを除いては、比較例16~18と同様にして、多孔性膜を調製した。
【0119】
以上のプロセスにおいて、UiO66-NH2とPBとの質量比を適宜調整することにより、膜に占めるフィラーの含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
比較例19:16.5質量%
比較例20:33質量%
比較例21:49.5質量%
の3種類の膜を調製した。
【0120】
(実施例20~22)
多孔性高分子として、MOFを用いる場合の例について検討を行った。具体的には、MOFとしてUiO66-NH2を含み、サイズ排除ポリマーとしてPESを含んだ多孔性膜(PNM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。具体的には、PUの代わりにPESを用いたことを除いては、実施例13~16と同様にして、多孔性膜を調製した。
【0121】
なお、以上のプロセスにおいて、UiO66-NH2とPESとの質量比を適宜調整することにより、膜に占める多孔性高分子の含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
実施例20:16.5質量%
実施例21:33質量%
実施例22:49.5質量%
の3種類の多孔性膜を調製した。
【0122】
(比較例22~24)
フィラーとしてUiO66-NH2のナノ粒子を含み、マトリクスとしてPESを含んだ混合マトリクス(MMM)を、以下のように、溶液キャスト法によって調製した。具体的には、PUの代わりにPESを用いたことを除いては、比較例16~18と同様にして、多孔性膜を調製した。
【0123】
以上のプロセスにおいて、UiO66-NH2とPESとの質量比を適宜調整することにより、膜に占めるフィラーの含有量が異なる複数のサンプルを作製した。具体的には、
比較例22:16.5質量%
比較例23:33質量%
比較例24:49.5質量%
の3種類の膜を調製した。
【0124】
動的光散乱(DLS)法によるゲル化プロセスの評価
上記のMOPを用いた多孔性膜における溶液キャスト法を用いた膜形成において、溶媒が完全に除去される前に前駆体ゲルが形成されていることを確かめるために、以下のDLS測定を行った。
【0125】
この試験は、MOPとしてHRhMOP(diz)12、リンカー分子としてbix、サイズ排除ポリマーとしてPBを含んだ系について行った。具体的には、この試験は、MOP及びリンカー分子のPB存在下及び非存在下における密封溶液を、溶媒を蒸発させずにDMF溶液中で加熱することによって行われる。DLSは、時間平均散乱光強度<I>Tの加熱時間に応じた変化を示す。ゲル化点は、<I>Tの値が変動し始める時間として求められる。
【0126】
図4は、サイズ排除ポリマー中における前駆体ゲルの形成過程を示す動的光散乱測定の結果を示している。
図4には、PBの存在/非存在下、80℃及び0.35mM(PBに対して11wt%のMOP)の条件において、MOPのDMF溶液の時間分解DLS実験を行った結果を示している。
図4の下部に示すデータから分かるように、PBが存在する系では、約10分でゲル化が起こっていた。これに対し、上記の実施例6~8に示されているように、膜形成時における溶媒の蒸発には、典型的には、約1晩を要する。これらの観察結果から、MOPを用いた多孔性膜における溶液キャスト法を用いた膜形成においては、溶媒が完全に除去される前に、前駆体ゲルが形成されていることが確かめられた。
【0127】
ネットワーク構造の形成
上記の多孔性膜において、多孔性高分子の粒子が化学的な結合又は物理的な凝集力によって互いに結合してネットワーク構造を形成していることを確かめるために、以下のような評価を行った。
【0128】
まず、比較例1(PUのみ)、実施例3(PNM-10)、及び、実施例5(PNM-30)の各サンプルについて、表面SEM測定を行った。この測定は、FESEM(Hitachi S-4800)を用いて行った。
【0129】
図5は、比較例1、実施例3、及び、実施例5に係る膜の表面SEM画像を示している。
図5において、(a)~(c)は、比較例1のサンプルであり、(d)~(f)は、実施例3のサンプルであり、(h)~(j)は、実施例5のサンプルである。
【0130】
図5に示すように、実施例3及び5に係る多孔性膜は、比較例1に係る膜と同様に、均質な表面を有していた。また、実施例3及び5に係る多孔性膜では、多孔性高分子の凝集によるドメイン発生は見られなかった。また、実施例3及び5に係る多孔性膜では、膜表面の内部におけるコロイドネットワーク構造の形成が示唆された。
【0131】
この点を更に調べるため、同サンプルについて、断面SEM測定を行った。この測定は、JEOL Model JSM-7001F4システムを用いて行った。
【0132】
図6は、比較例1、実施例3、及び、実施例5に係る膜の断面SEM画像を示している。
図6において、(a)~(c)は、比較例1のサンプルであり、(d)~(f)は、実施例3のサンプルであり、(h)~(j)は、実施例5のサンプルである。
【0133】
図6に示すように、実施例3及び5に係る多孔性膜では、コロイドネットワーク構造の存在が観察された。特に、実施例5に係る多孔性膜では、コロイド粒子の存在が明確に観察された。
【0134】
次に、比較例4(MMM-10)、及び、比較例6(MMM-30)に係るサンプルについても、同様の測定を行った。
【0135】
図7は、比較例4及び比較例6に係るサンプルの表面SEM画像を示している。
図7において、(a)~(c)は、比較例4のサンプルであり、(d)~(f)は、比較例6のサンプルである。
【0136】
図8は、比較例4及び比較例6に係るサンプルの断面SEM画像を示している。
図8において、(a)~(c)は、比較例4のサンプルであり、(d)~(f)は、比較例6のサンプルである。
【0137】
図7及び
図8に示すように、これらのサンプルにおいては、明確な相分離が生じており、球状の非ネットワーク型の凝集体(aggregates)が多数観察された。また、このような凝集体の存在は、サンプル中におけるMOPの量の増大に伴って、より顕著になっていた。
【0138】
更なる比較のため、光学顕微鏡による観察も行った。
【0139】
図9は、実施例5及び比較例6のサンプルの光学顕微鏡画像を示している。
図9において、(a)は実施例5に係る多孔性膜であり、(b)は比較例6に係るサンプルである。
【0140】
図9に示すように、実施例5に係る多孔性膜では、相分離が見られず、コロイドネットワーク構造を含んだ階層的なハイブリットシステムが形成されていた。これに対し、比較例6に係るサンプルでは、離散的な凝集体の存在により、ドメインの発生が見られた。
【0141】
加えて、上記の多孔性膜におけるコロイドネットワーク構造の存在を確認するため、多孔性膜からエアロゲルを作製し、そのSEM観察を行った。具体的には、まず、実施例5に係る多孔性膜をDMFで洗浄して、PUを除去した。次に、DMFからアセトンへの溶媒交換を行った。その後、超臨界CO2乾燥プロセスを適用することによって、対応するエアロゲル作製した。なお、この乾燥プロセスは、14MPa及び50℃の超臨界CO2を使用して、SCLEAD-2BDオートクレーブ(KISCO)によって実施された。
【0142】
図10は、実施例5に係る多孔性膜から作成したエアロゲルのSEM画像を示している。
図10において、(a)は、エアロゲルの作製プロセスを概略的に示しており、(b)及び(c)は、得られたエアロゲルのSEM画像を示している。
【0143】
図10に示すように、このようにして得られたエアロゲルでは、特徴的なコロイドネットワーク構造が確認された。この観察結果は、多孔性膜においても、同様のコロイドネットワーク構造が形成されていたことを強く示唆している。
【0144】
機械的強度の評価
以上のようにして得られた実施例及び比較例に係る膜について、機械的強度を、以下のようにして評価した。即ち、膜サンプルのレオロジー測定を、応力制御AR-G2レオメータ(TA Instruments社製)を使用して行った。膜の動的機械分析(DMA)測定は、線形領域(初期ひずみは0.3%に固定)の十分内側にある0.5%ひずみ振幅の引張モードでの周波数掃引によって行った。なお、以下における貯蔵弾性率は、特に他の言及がない限り、1rad/sでの測定値を意味している。
【0145】
図11は、実施例1乃至5並びに比較例1及び4に係る膜サンプル(MOP/PU)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
図11に示す通り、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。
【0146】
図12は、実施例6乃至8及び比較例7乃至10に係る膜サンプル(MOP/PB)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
図12に示す通り、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。
【0147】
図13は、実施例9乃至11及び比較例11乃至14に係る膜サンプル(MOP/PES)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
図13に示す通り、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。
【0148】
図14は、実施例12に係る膜サンプル(MOP/AP)の引張モードにおける粘弾性測定の結果を示している。
図15は、比較例15に係る膜サンプル(AP)の引張モードにおける粘弾性測定の結果を示している。なお、
図14及び
図15に示す粘弾性測定データにおいて、塗りつぶしたデータ点は貯蔵弾性率E’を示しており、白抜きのデータ点は損失弾性率E’’を示している。
【0149】
図14及び
図15に示すように、実施例12に係る多孔性膜は、比較例15に係るポリマー膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。
【0150】
図16は、実施例13乃至16並びに比較例1及び16乃至18に係る膜サンプル(MOF/PU)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
図16に示す通り、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。
【0151】
図17は、実施例17乃至19並びに比較例7及び19乃至21に係る膜サンプル(MOF/PB)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
図17に示す通り、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。
【0152】
図18は、実施例20乃至22並びに比較例11及び22乃至24に係る膜サンプル(MOF/PES)の貯蔵弾性率の測定結果を示している。
図18に示す通り、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜と比較して、優れた機械的強度を有していることが分かった。また、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係る混合マトリクス膜と比較して、同等又はそれ以上の機械的強度を有していることが分かった。
【0153】
ガス透過性及びガス選択性
以上のようにして得られた実施例及び比較例に係る膜について、ガス透過性及びガス選択性を評価した。この評価は、先に
図1を参照しながら説明した方法によって行った。なお、測定は、2bar/25℃の条件で行った。
【0154】
図19は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2透過性の測定結果を示している。
図20は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のN
2透過性の測定結果を示している。
図21は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCH
4透過性の測定結果を示している。
図22は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のH
2透過性の測定結果を示している。
図23は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のO
2透過性の測定結果を示している。これらの結果から分かるように、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れたガス透過性を有していることが分かった。
【0155】
図24は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2/N
2透過選択性の測定結果を示している。
図25は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2/H
2透過選択性の測定結果を示している。
図26は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のCO
2/CH
4透過選択性の測定結果を示している。
図27は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のH
2/N
2透過選択性の測定結果を示している。
図28は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のH
2/CH
4透過選択性の測定結果を示している。
図29は、実施例1乃至5並びに比較例1乃至4に係る膜サンプル(MOP/PU)のO
2/N
2透過選択性の測定結果を示している。これらの結果から分かるように、実施例に係る多孔性膜は、比較例に係るポリマー膜又は混合マトリクス膜と比較して、優れたガス選択性を有していることが分かった。
【0156】
表4は、実施例12に係る膜サンプル(MOP/AP)及び比較例15に係る膜サンプル(AP)のガス透過性及びガス選択性の測定結果を示している。表4に示す通り、実施例12に係る多孔性膜は、比較例15に係るポリマー膜と比較して、CO2及びN2の透過性が高く、CH4の透過性が低かった。即ち、実施例12に係る多孔性膜は、比較例15に係るポリマー膜と比較して、優れたCO2/CH4選択性を示すことが分かった。
【0157】
【0158】
以上の通り、本発明に係る多孔性膜においては、ネットワーク構造の存在により、優れたガス透過性と機械的強度とを両立させることができることが分かった。それゆえ、本発明に係る多孔性膜は、機械的強度に優れたガス透過膜又はガス分離膜として使用することができる。また、この多孔性膜を、ガス分離システムの一部として使用することもできる。