(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135026
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シート、金属ベース基板、および電子装置
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240927BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240927BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240927BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240927BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240927BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240927BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20240927BHJP
C08L 65/04 20060101ALI20240927BHJP
C08G 59/22 20060101ALI20240927BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20240927BHJP
C08G 59/46 20060101ALI20240927BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240927BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240927BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K3/36
C08K3/22
C08K3/28
C08K3/34
C08L71/00
C08L65/04
C08G59/22
C08G59/40
C08G59/46
H05K1/03 610H
H01L23/36 D
H01L23/36 C
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045517
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】樫野 智將
(72)【発明者】
【氏名】大葉 昭良
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
5F136
【Fターム(参考)】
4J002CD03Y
4J002CD04W
4J002CD05Z
4J002CD07W
4J002CE00X
4J002CH08Y
4J002DE076
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002EU117
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD14X
4J002FD14Y
4J002FD157
4J002FD160
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ05
4J036AA02
4J036AA05
4J036AA06
4J036AC01
4J036AC08
4J036AD07
4J036AD08
4J036CD10
4J036CD12
4J036DA01
4J036DA04
4J036DA05
4J036DA09
4J036DB02
4J036DB06
4J036DC32
4J036DC40
4J036FA05
4J036FA06
4J036FB12
4J036HA12
4J036JA05
4J036JA07
4J036JA08
5F136BB05
5F136BC07
5F136FA01
5F136FA52
5F136FA63
5F136FA82
5F136FA84
5F136FA86
(57)【要約】
【課題】その硬化物が高い熱伝導性を有する熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】式(EP1)で表されるエポキシ化合物、シアネートエステル樹脂、および熱伝導性フィラー、を含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
【化1】
式(EP1)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す、熱硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(EP1)で表されるエポキシ化合物、
シアネートエステル樹脂、および
熱伝導性フィラー、
を含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
【化1】
式(EP1)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す、
熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
フェノキシ樹脂をさらに含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
室温で液状のエポキシ樹脂をさらに含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
硬化促進剤をさらに含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化促進剤は、ノボラック型フェノール樹脂を含む、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラーは、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素および酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、顆粒状粒子、凝集粒子またはこれらの混合物である、請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の、25℃における貯蔵弾性率は、15GPa以上30GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、180℃以上である、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性シート。
【請求項12】
発熱部材と、
放熱部材と、
前記発熱部材と前記放熱部材との間に設けられた、請求項11に記載の熱伝導性シートと、を備える電子装置。
【請求項13】
金属基板と、
熱伝導性シートと、
金属層と、をこの順で備える金属ベース基板であって、
前記熱伝導性シートは、請求項10に記載の熱伝導性シートの硬化物からなる、金属ベース基板。
【請求項14】
請求項11に記載の金属ベース基板を備える、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、当該熱硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性シート、当該熱伝導性シートの硬化物を放熱部材として備える電子装置、当該熱伝導性シートの硬化物を備える金属ベース基板、および当該金属ベース基板を備える電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高集積化や電子機器の処理能力の急速な向上に伴い、処理能力の高い電子部品からは多くの熱が発生する。そのため電子部品から熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっている。このような放熱対策として、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板等の放熱部材には、金属、セラミックス、高分子組成物等の放熱材料からなる熱伝導性部材が適用されている。
【0003】
これらの放熱部材の中でも、エポキシ樹脂組成物から成形される熱伝導性エポキシ樹脂成形体は、電気絶縁性、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、接着性等に優れているため、注型品、積層板、封止材、熱伝導性シート、接着剤等として電気電子分野を中心に広く使用されている。
【0004】
熱伝導性エポキシ樹脂成形体を構成するエポキシ樹脂組成物は、樹脂、ゴム等の高分子マトリックス材料中に、熱伝導率の高い熱伝導性充填剤を配合したものが知られている。熱伝導性充填剤としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、金、銀、銅等の金属、炭素繊維、黒鉛等が用いられている。
【0005】
さらに高い熱伝導性が要求される場合には、エポキシ樹脂に特殊な熱伝導性充填剤を配合した熱伝導性エポキシ樹脂組成物や熱伝導性エポキシ樹脂成形体が提案されている(たとえば、特許文献1)。また、エポキシ樹脂自体の熱伝導率や耐熱性を向上させることも提案されている(たとえば、特許文献2)。特許文献2では、メソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂等を重合することにより、熱伝導性を向上させた絶縁組成物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-193504号公報
【特許文献2】特願2004-331811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献2に記載の樹脂組成物は、熱伝導性の点においてさらなる改善の余地を有することが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、特定のエポキシ樹脂を、シアネートエステル樹脂と組み合わせて用いることにより、その硬化物が高熱伝導性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下に示す熱硬化性樹脂組成物、熱伝導性シート、金属ベース基板、および電子装置が提供される。
[1]式(EP1)で表されるエポキシ化合物、
シアネートエステル樹脂、および
熱伝導性フィラー、
を含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
【化1】
式(EP1)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す、
熱硬化性樹脂組成物。
[2]フェノキシ樹脂をさらに含む、項目[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3]室温で液状のエポキシ樹脂をさらに含む、項目[1]または[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4]硬化促進剤をさらに含む、項目[1]乃至[3]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5]前記硬化促進剤は、ノボラック型フェノール樹脂を含む、項目[4]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6]前記熱伝導性フィラーは、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素および酸化マグネシウムから選択される少なくとも1つを含む、項目[1]乃至[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7]前記熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素を含む、項目[1]乃至[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8]前記窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、顆粒状粒子、凝集粒子またはこれらの混合物である、項目[7]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9]項目[1]乃至[8]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物の、25℃における貯蔵弾性率は、15GPa以上30GPa以下である、熱硬化性樹脂組成物。
[10]項目[1]乃至[9]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、180℃以上である、熱硬化性樹脂組成物。
[11]項目[1]乃至[10]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性シート。
[12]発熱部材と、
放熱部材と、
前記発熱部材と前記放熱部材との間に設けられた、項目[11]に記載の熱伝導性シートと、を備える電子装置。
[13]金属基板と、
熱伝導性シートと、
金属層と、をこの順で備える金属ベース基板であって、
前記熱伝導性シートは、項目[11]に記載の熱伝導性シートの硬化物からなる、金属ベース基板。
[14]項目[11]に記載の金属ベース基板を備える、電子装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い熱伝導性を有する熱伝導性シートを製造するために用いることができる熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る金属ベース基板の構造を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態に係る金属ベース基板を用いた電子装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0013】
[熱硬化性樹脂組成物]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、
式(EP1)で表されるエポキシ化合物、
シアネートエステル樹脂、および
熱伝導性フィラー、を含む。
【0014】
【化2】
式(EP1)において、R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。
【0015】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上記成分を含むことにより、高い熱伝導性を有し、たとえば、電子装置の熱伝導性放熱シートとして好適に使用することができる。特に、式(EP1)で表されるエポキシ化合物は、室温で固形の化合物であり、その硬化物は、高い熱伝導性を有する。したがって、このようなエポキシ化合物を含む樹脂組成物は、流動性を有するとともに、その硬化物は高い熱伝導性を有し、熱伝導性シートの材料として好適に使用することができる。また本実施形態において、式(EP1)で表されるエポキシ化合物に対する硬化剤としてシアネートエステル樹脂が用いられる。シアネートエステル樹脂は上記エポキシ化合物と硬化反応する際に水酸基を発生しないため、得られる硬化物は、フェノール樹脂硬化剤やアミン系硬化剤等の他の硬化剤を用いて硬化させたエポキシ樹脂組成物の硬化物に比べて、優れた耐熱性を有する。
以下に、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる成分について説明する。
【0016】
(式(EP1)のエポキシ化合物)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられるエポキシ化合物は、式(EP1)で表される構造を有する化合物である。
【0017】
【0018】
式(EP1)において、R1~R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表す。
炭素数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等を挙げることができ、メチル基が好ましい。好ましいR1~R4としては、それぞれ独立して、水素原子及びメチル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子である。
【0019】
式(EP1)で表されるエポキシ化合物の好ましい例としては、式(EP1')で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【0021】
式(EP1')において、R1~R4は、上記式(EP1)におけるものと同義である。
【0022】
式(EP1)で表されるエポキシ化合物の具体例としては、例えば、
4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、
4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルベンゾエート、
4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエート、
4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-エチルベンゾエート、
4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-イソプロピルベンゾエート、および
4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンゾエート、が挙げられる。中でも、高い熱伝導性を有することから、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、および4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエートを用いることが好ましい。
【0023】
式(EP1)で表されるエポキシ化合物の配合量は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、シート形成工程において熱伝導性の低下等を引き起こす恐れが少ない。また、熱硬化性樹脂組成物中の配合割合の上限値についても、特に限定されないが、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度の低下が少ない。
【0024】
式(EP1)で表される第一のエポキシ化合物は、公知の方法により製造することができ、例えば、式(PH1)で表されるジヒドロキシ化合物と、式(EH1)で表されるエピハロヒドリンとを、アンモニウム塩および無機塩基の存在下で反応させる方法により製造することができる。
【0025】
【0026】
式(PH1)において、R1~R4は、上記式(EP1)におけるものと同義である。
【0027】
【0028】
式(EH1)において、X1は、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表す。
【0029】
上記反応に用いられるアンモニウム塩としては、例えば、4級アンモニウムハライド等を挙げることができ、好ましくは、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリブチルアンモニウムヨージド等が挙げられ、好ましくは、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
アンモニウム塩の使用量は、ジヒドロキシ化合物(PH1)1モルに対して、例えば、0.0001~1モルであり、好ましくは、0.001~0.5モルである。
【0030】
上記反応に用いられる無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩等を挙げることができる。
無機塩基としては、好ましくは、アルカリ金属水酸化物等が挙げられ、より好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
無機塩基の使用量は、ジヒドロキシ化合物(PH1)1モルに対して、例えば、0.1~20モルであり、好ましくは、0.5~10モルである。
無機塩基は、例えば、粒状などの固体として用いてもよいし、例えば、1~60重量%程度の濃度に調製した水溶液として用いてもよい。
【0031】
(シアネートエステル樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられるシアネートエステル樹脂は、上記式(EP1)で表されるエポキシ化合物の硬化剤としてはたらく。シアネートエステル樹脂は、水酸基を発生しない反応機構により上記エポキシ樹脂と反応する。よって、得られる硬化物は水酸基を含まないため、高い耐熱性を有する。
【0032】
用いられるシアネートエステル樹脂としては、ノボラック型シアネートエステル樹脂;ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネートエステル樹脂等のビスフェノール型シアネートエステル樹脂;ナフトールアラルキル型フェノール樹脂とハロゲン化シアンとの反応で得られるナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂;ジシクロペンタジエン型シアネートエステル樹脂;ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型シアネートエステル樹脂から選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、本発明の効果の観点から、ノボラック型シアネートエステル樹脂およびナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂のうちの少なくとも一方を含むことがより好ましく、ノボラック型シアネートエステル樹脂を含むことが特に好ましい。
【0033】
ノボラック型シアネートエステル樹脂としては、例えば、下記一般式(I)で示される樹脂を使用することができる。
【0034】
【0035】
一般式(I)で示されるノボラック型シアネートエステル樹脂の平均繰り返し単位nは任意の整数である。平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。平均繰り返し単位nが上記下限値以上であると、ノボラック型シアネート樹脂の耐熱性が向上し、加熱時に低量体が脱離、揮発することをより一層抑制できる。また、平均繰り返し単位nは、特に限定されないが、10以下が好ましく、7以下がより好ましい。nが上記上限値以下であると、溶融粘度が高くなるのを抑制でき、樹脂シートの成形性を向上させることができる。
【0036】
シアネートエステル樹脂としては、下記一般式(II)で表わされるナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂もまた好適に用いられる。下記一般式(II)で表わされるナフトールアラルキル型シアネート樹脂は、例えば、α-ナフトールあるいはβ-ナフトール等のナフトール類とp-キシリレングリコール、α,α'-ジメトキシ-p-キシレン、1,4-ジ(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ベンゼン等との反応により得られるナフトールアラルキル型フェノール樹脂とハロゲン化シアンとを縮合させて得られるものである。一般式(II)の繰り返し単位nは10以下の整数であることが好ましい。繰り返し単位nが10以下であると、より均一な樹脂シートを得ることができる。また、合成時に分子内重合が起こりにくく、水洗時の分液性が向上し、収量の低下を防止できる傾向がある。
【0037】
【0038】
上記一般式(II)中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、nは1以上10以下の整数を示す。
【0039】
シアネートエステル樹脂は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば10質量%~70質量%、好ましくは15質量%~60質量%、より好ましくは20質量%~50質量%の量で使用される。これにより、得られる熱硬化性樹脂組成物は、十分な硬化性を担保することができ、さら高熱伝導性に優れた樹脂シートを得ることができる。
【0040】
(熱伝導性フィラー)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーを含む。熱伝導性フィラーを配合することにより、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、高熱伝導性を有し、よって放熱部材を作製するための材料として好適に使用することができる。熱伝導性フィラーは、たとえば、20W/m・K以上の熱伝導率を有する高熱伝導性無機粒子を含むことができる。高熱伝導性無機粒子としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、および酸化マグネシウムが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
熱伝導性フィラーとして、窒化ホウ素を用いる場合、窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含むことができる。鱗片状窒化ホウ素は顆粒状に造粒されていてもよい。鱗片状窒化ホウ素の凝集粒子を用いることによって、得られる熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性をより一層高めることができる。凝集粒子は、焼結粒子であっても、非焼結粒子であってもよい。
【0042】
熱伝導性フィラーの配合量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば、40質量%~90質量%であり、好ましくは、50質量%~80質量%である。熱伝導性フィラーを上記範囲内の量で用いることにより、得られる樹脂組成物の取扱い性を維持しつつ、その硬化物の熱伝導性を向上することができる。また熱伝導性フィラーは、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0043】
(シランカップリング剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、シランカップリング剤を含んでもよい。これにより、熱硬化性樹脂組成物中における熱伝導性フィラーの相溶性を向上させることができる。カップリング剤は、熱硬化性樹脂組成物に添加してもよいし、熱伝導性フィラー表面に処理して使用してもよい。
【0044】
シランカップリング剤の配合量は、上記熱伝導性フィラーの質量に対して、0.05質量%以上3質量%以下であり、好ましくは、0.1質量%以上2質量%以下である。
【0045】
(フェノキシ樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂を含んでもよい。特に、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物をシートの形態に成形する場合、シート形成性を得るためにフェノキシ樹脂を用いることが好ましい。
用いることができるフェノキシ樹脂としては、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0046】
フェノキシ樹脂を用いる場合、その含有量は、シート形成性の観点から、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば、2質量%以上40質量%以下であり、好ましくは、5質量%以上30質量%以下である。上記範囲内の量でフェノキシ樹脂を用いることにより、熱硬化性樹脂組成物は、良好な取扱い性を有するとともに、良好なシート形成を有する。
【0047】
(エポキシ樹脂)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含んでもよい。エポキシ樹脂を用いることにより、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化性を改善することができる。用いることができるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、F型、S型、AD型等のグリシジルエーテル、水素添加したビスフェノールA型のグリシジルエーテル、フェノールノボラック型のグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル、ビスフェノールA型のノボラック型のグリシジルエーテル、ナフタレン型のグリシジルエーテル、ビフェノール型のグリシジルエーテル、ジヒドロキシペンタジエン型のグリシジルエーテル、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型のグリシジルエーテルなどが挙げられ、少なくとも1種用いることができる。
エポキシ樹脂としては、本発明の効果の観点から、ナフタレン型のグリシジルエーテル、ビフェノール型のグリシジルエーテル、ジヒドロキシペンタジエン型のグリシジルエーテル、ハイドロキノン型のグリシジルエーテルから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0048】
エポキシ樹脂は、好ましくはメソゲン骨格を含むエポキシ樹脂を含む。これにより、樹脂硬化物の熱伝導性(放熱性)を一層高めることができる。
メソゲン骨格を含むエポキシ樹脂は、硬化時に、そのメソゲン骨格により高次構造(液晶相または結晶相)が形成されると考えられる。そして、その高次構造を熱が伝わることで熱伝導性(放熱性)が一層高まると考えられる。硬化物中の高次構造の存在は、偏光顕微鏡による観察によって確認することができる。
【0049】
メソゲン骨格としては、分子間相互作用の働きにより、液晶性や結晶性を発現しやすくする骨格全般を挙げることができる。メソゲン骨格は、好ましくは共役構造を含む。メソゲン骨格として具体的には、ビフェニル骨格、フェニルベンゾエート骨格、アゾベンゼン骨格、スチルベン骨格、ナフタレン骨格、アントラセン骨格、カルコン骨格、フェナントレン骨格などが挙げられる。
【0050】
エポキシ樹脂は、特に好ましくは縮合多環芳香族炭化水素骨格を含み、とりわけ好ましくはナフタレン骨格を含む。
【0051】
ここで、例えば、ビフェニル骨格(-C6H4-C6H4-)は、高温下では、熱運動により左記構造の中心の炭素-炭素の単結合部分が「回転」し、液晶性が低下する可能性がある。フェニルベンゾエート骨格(-C6H4-COO-C6H4-)も、同様に、高温下ではエステル結合が回転する可能性がある。しかし、ナフタレン骨格のような縮合多環芳香族炭化水素骨格では、原理的にはそのような回転による液晶性の低下は無い。つまり、エポキシ樹脂が縮合多環芳香族炭化水素骨格を含むことで、得られる樹脂硬化物の高温環境下での放熱性を一層高めることができる。
【0052】
また、多環芳香族炭化水素骨格として特にナフタレン骨格を採用することで、前記メリットを得つつ、エポキシ樹脂が剛直になりすぎることを抑制することもできる。これは、ナフタレン骨格はメソゲン骨格としては比較的小さいためである。エポキシ樹脂が剛直になりすぎないことは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化時の応力が緩和されやすくなることによるクラック等の抑制、などの点で好ましい。
【0053】
エポキシ樹脂は、2官能以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。つまり、エポキシ樹脂1分子中には2以上のエポキシ基が含まれることが好ましい。エポキシ樹脂の官能基数は、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、本発明の効果の観点から、下記式で表される化合物から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0054】
【0055】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、例えば100~200g/eq、好ましくは105~190g/eq、より好ましくは110~180g/eqである。適度なエポキシ当量を有するエポキシ樹脂を用いることで、硬化性の制御、硬化物の物性の最適化などを図ることができる。
【0056】
一実施形態において、エポキシ樹脂は、室温(23℃)で液状または半固形状である他のエポキシ樹脂をさらに含むことが好ましい。具体的には、エポキシ樹脂の一部または全部は、23℃で液体状または半固形状であることが好ましい。
液状または半固形状エポキシ樹脂を用いることにより、所望の形状の硬化物を形成しやすくなる。
【0057】
一実施形態において、エポキシ樹脂は、室温で液状のエポキシ樹脂と、室温で半固形または固形のエポキシ樹脂とを組み合わせて含むことが好ましい。これにより、得られる熱硬化性樹脂組成物の成形性が改善される。
【0058】
エポキシ樹脂は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば5質量%~50質量%、好ましくは7質量%~45質量%、より好ましくは10質量%~40質量%である。これにより、十分な硬化性を担保することができ、高熱伝導性および絶縁性により優れた樹脂シートを得ることができる。
【0059】
(硬化促進剤)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでもよい。硬化促進剤の種類および配合量は、特に限定されず、反応速度や反応温度、保管性などの観点から、適切なものを選択することができる。
【0060】
用いることができる硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
前記イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられる。
【0062】
前記有機リン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン等が挙げられる。
前記3級アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等が挙げられる。
前記フェノール化合物としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノールA、ノニルフェノール、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、アリルフェノール等が挙げられる。
前記有機酸としては、例えば、酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0063】
中でも、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化性をより高めることができることから、ノボラック型フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
硬化促進剤の配合量は、熱伝導性フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、例えば、0.01質量%~10質量%であり、好ましくは、0.02質量%~7質量%であり、より好ましくは、0.05質量%~5質量%である。
【0065】
(その他の成分)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、酸化防止剤、レベリング剤が挙げられる。
【0066】
[熱硬化性樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、例えば、熱伝導性フィラー以外の上記の各成分を、溶剤中に溶解、混合、撹拌することにより樹脂ワニス(ワニス状の熱硬化性樹脂組成物)を調整することができる。この混合は、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いることができる。
【0067】
上記溶剤としては特に限定されないが、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール、およびN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0068】
当該樹脂ワニスに、熱伝導性フィラーを添加し、三本ロール等を用いて混練することにより、Bステージ状態の熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。混練時に添加することにより、熱硬化性樹脂中に無機フィラーをより均一に分散させることが可能であるが、これに限定されない。熱伝導性フィラーは、混練時に添加してもよいが、樹脂ワニスの混合時に添加してもよい。混練後に冷却固化し、混練物を、顆粒状、タブレット状、またはシート状に加工してもよい。
【0069】
[熱硬化性樹脂組成物の物性]
上記成分を用いて、上述の製造方法により得られる本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、その硬化物の25℃における貯蔵弾性率が、10GPa以上50GPa以下であり、好ましくは、15GPa以上30GPa以下である。
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、160℃以上であり、好ましくは180℃以上である。
【0070】
[樹脂シート]
本実施形態の樹脂シートは、前記熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる。樹脂シートの具体的な形態は、キャリア基材と、キャリア基材上に設けられた、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備えるものである。
【0071】
上記樹脂シートは、たとえばワニス状の熱硬化性樹脂組成物をキャリア基材上に塗布して得られた塗布膜(樹脂層)に対して、溶剤除去処理を行うことにより得ることができる。上記樹脂シート中の溶剤含有率が、熱硬化性樹脂組成物全体に対して10質量%以下とすることができる。たとえば80℃~200℃、1分間~30分間の条件で溶剤除去処理を行うことができる。
【0072】
また、本実施形態において、上記キャリア基材としては、例えば、高分子フィルムや金属箔などを用いることができる。当該高分子フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、シリコーンシート等の離型紙、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有した熱可塑性樹脂シート等が挙げられる。当該金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅および/または銅系合金、アルミおよび/またはアルミ系合金、鉄および/または鉄系合金、銀および/または銀系合金、金および金系合金、亜鉛および亜鉛系合金、ニッケルおよびニッケル系合金、錫および錫系合金などが挙げられる。
【0073】
本実施形態の樹脂基板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備えるものである。この樹脂基板は、LED、パワーモジュールなどの電子部品を搭載するためのプリント基板の材料として用いることができる。
【0074】
[電子装置]
樹脂シートの硬化物は、発熱体と、放熱体との間に介在する熱伝導性シートとして使用される。
【0075】
発熱体としては、半導体素子、LED素子、半導体素子やLED素子等が搭載された基板、Central Processing Unit(CPU)、パワー半導体、リチウムイオン電池、燃料電池等を挙げることができる。
放熱体としては、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、放熱(冷却)フィン等を挙げることができる。
放熱絶縁部材は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物で一部が構成されていればよく、具体的には、当該熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる放熱シート、当該放熱シートと基板とが積層された積層体(例えば、
図1の金属ベース基板100)等を挙げることができる。前記基板は、放熱性の金属基板であれば特に限定されないが、例えば、銅基板、銅合金基板、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板であり、銅基板またはアルミニウム基板が好ましく、銅基板がより好ましい。銅基板またはアルミニウム基板を用いることで、放熱絶縁部材の放熱性を良好なものとすることができる。
前記放熱絶縁部材は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物で一部が構成されており、その熱伝導率は、好ましくは12W/m・K以上、さらに好ましくは15W/m・K以上である。
放熱絶縁部材および放熱体は、発熱体の片面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。また、前記発熱体と前記放熱絶縁部材との間、または前記放熱絶縁部材と前記放熱体との間には、放熱性に影響を与えない範囲で、各種基材や層が設けられていてもよい。
【0076】
本実施形態において、前記発熱体と、前記放熱絶縁部材と、前記放熱体とは、前述のものから適宜組み合わせて、積層構造体を得ることができる。当該積層構造体は、放熱絶縁性が要求される各種用途に用いることができ、半導体装置、スマートフォン、LED電球・ライト、パワーモジュール、リチウムイオン電池、燃料電池、無線基地局、無停電電源装置等の各種用途に用いることができる。
以下、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
【0077】
[金属ベース基板]
本実施形態の金属ベース基板(放熱樹脂部材)100について
図1に基づいて説明する。
図1は、金属ベース基板100の構成の一例を示す概略断面図である。
【0078】
上記金属ベース基板100は、
図1に示すように、金属基板101と、金属基板101上に設けられた絶縁層102と、絶縁層102上に設けられた金属層103と、を備えることができる。この絶縁層102は、上記の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、熱硬化性樹脂組成物の硬化物および積層板からなる群から選択される一種で構成することが可能である。これらの樹脂層、積層板のそれぞれは、金属層103の回路加工の前では、Bステージ状態の熱硬化性樹脂組成物(樹脂シート)で構成されていてもよく、回路加工の後では、それを硬化処理されてなる硬化体であってもよい。
【0079】
金属層103は絶縁層102上に設けられ、回路加工されるものである。この金属層103を構成する金属としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、錫等から選択される一種または二種以上が挙げられる。これらの中でも、金属層103は、好ましくは銅層またはアルミニウム層であり、特に好ましくは銅層である。銅またはアルミニウムを用いることで、金属層103の回路加工性を良好なものとすることができる。金属層103は、板状で入手できる金属箔を用いてもよいし、ロール状で入手できる金属箔を用いてもよい。
【0080】
金属層103の厚みの下限値は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.035mm以上であれば、高電流を要する用途に適用できる。
また、金属層103の厚みの上限値は、例えば、10.0mm以下であり、好ましくは5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0081】
金属基板101は、金属ベース基板100に蓄積された熱を放熱する役割を有する。金属基板101は、放熱性の金属基板であれば特に限定されないが、例えば、銅基板、銅合金基板、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板であり、銅基板またはアルミニウム基板が好ましく、銅基板がより好ましい。銅基板またはアルミニウム基板を用いることで、金属基板101の放熱性を良好なものとすることができる。
金属基板101の厚さは、本発明の目的が損なわれない限り、適宜設定できる。
【0082】
金属基板101の厚さの上限値は、例えば、20.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下である。この数値以下の金属ベース基板100の外形加工や切り出し加工等における加工性を向上させることができる。
【0083】
また、金属基板101の厚さの下限値は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.6mm以上である。この数値以上の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100全体としての放熱性を向上させることができる。
【0084】
本実施形態において、金属ベース基板100は、各種の基板用途に用いることが可能であるが、熱伝導性及び耐熱性に優れることから、LEDやパワーモジュールを用いるプリント基板として用いることが可能である。
【0085】
金属ベース基板100は、パターンにエッチング等することによって回路加工された金属層103を有することができる。この金属ベース基板100において、最外層に不図示のソルダーレジストを形成し、露光・現像により電子部品が実装できるよう接続用電極部が露出されていてもよい。
【0086】
[半導体装置]
実施形態の金属ベース基板(放熱絶縁部材)100は、放熱絶縁性が要求される各種用途に用いることができ、例えば半導体装置等の電子装置に用いることができる。
図2は、金属ベース基板100を用いた半導体装置の一例を示す概略断面図である。
金属ベース基板100の金属層103上に接着層202(ダイアタッチ材)を介して半導体素子201が搭載されている。半導体素子201は、ボンディングワイヤ203を介して金属ベース基板100に形成された接続用電極部に接続されており、金属ベース基板100に実装されている。
そして、半導体素子201は、金属ベース基板100上に封止樹脂層205により一括封止されている。
【0087】
金属ベース基板100の金属基板101側には、熱伝導層206(サーマル・インターフェース材(TIM))を介してヒートシンク207が設けられている。ヒートシンク207は熱伝導性に優れた材料から構成されており、アルミニウム、鉄、銅などの金属が挙げられる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
[実施例1~5、比較例1~3]
<熱硬化性樹脂組成物(ワニス状)の製造>
表1に記載の配合割合に従い、各樹脂成分と、熱伝導性フィラーと、溶媒を撹拌してワニス状のフィラー入り熱硬化性樹脂組成物2を得た。また樹脂成分の熱伝導性の測定のため、熱伝導性フィラー以外の成分を撹拌混合して、フィラーなし熱硬化性樹脂組成物1を得た。
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。なお、表1中の各成分の量の単位は質量部である。
【0091】
(エポキシ化合物)
・エポキシ化合物:以下の方法で調製した式(1-1)で表されるエポキシ化合物
(ジヒドロキシ化合物(2-1)の調製)
【0092】
【0093】
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4-ヒドロキシ安息香酸11.0g(79.6mmol)、4-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール19.9g(式(6')で表される化合物、104mmol)、p-トルエンスルホン酸1.51g(7.96mmol)及びクロロベンゼン220gを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を還流下で16時間攪拌した後、室温まで冷却した。尚、反応の進行に伴って生成した水はディーンスターク装置によって反応容器から除去された。その後、析出した固体を濾過し、粗生成物を得た。次いで、冷却装置を取り付けた反応容器内にて、粗生成物、クロロホルム700mL、エタノール100mLを混合し、55℃で1時間攪拌した。続いて、室温まで冷却し、さらに5℃で終夜冷却した。その後、析出した固体を濾過し、クロロホルム45mLで洗浄した後、50℃で4時間減圧乾燥させて、式(2-1)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(2-1)と記すことがある)を含む薄灰色結晶11.67gを得た。
該結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、96.7%であり、該結晶中のジヒドロキシ化合物(2-1)の含有量を96.7重量%と仮定すると、4-ヒドロキシ安息香酸を基準とするジヒドロキシ化合物(2-1)の収率は、45%であった。
【0094】
得られたジヒドロキシ化合物(2-1)のスペクトルデータは以下のとおりであった。
1H-NMR(δ:ppm,DMSO-d6) 10.30(s,1H),9.13(s,1H),7.82(d,2H),7.05(d,2H),6.85(d,2H),6.68(d,2H),4.87(m,1H),1.28-2.62(c,9H)
【0095】
(エポキシ化合物(1-1)の製造)
【0096】
【0097】
冷却装置を取り付けた反応容器内にて、上記で得られたジヒドロキシ化合物(2-1)11.0g(34.1mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド1.70g(5.28mmol)、エピクロロヒドリン130g(1410mmol)、及び2-メチル-2-プロパノール85.9g(1210mmol)を室温で混合し、さらに、70℃で22時間攪拌した後、18℃まで冷却した。次に、15重量%の水酸化ナトリウム水溶液を28.2g(106mmol)徐々に加えて、18℃で2時間攪拌した後、0℃まで冷却した。
次に、イオン交換水275mLを加え、室温で、クロロホルム825mLを加えた後、混合し、クロロホルム層と水層とを得た。クロロホルム層は、さらにイオン交換水で3回洗浄し、水洗したクロロホルム層に含まれる不溶分を濾過して除去し、得られた濾液を濃縮して粗生成物を得た。
冷却装置を取り付けた反応容器内にて、得られた粗生成物、トルエン143mLおよび2-プロパノール220mLを混合し、得られた混合物を70℃で3時間攪拌した。攪拌後の混合物を室温まで冷却し、さらに5℃で終夜保持した。その後、析出した固体を濾過により取り出した。取り出した固体を2-プロパノールで洗浄した後、乾燥し、式(1-1)で表されるジエポキシ化合物(1-1)(以下、ジエポキシ化合物(1-1)と記すことがある)を含む白色結晶12.51gを得た。
該結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、93.7%であり、該結晶中のジエポキシ化合物(1-1)の含有量を93.7重量%と仮定すると、ジヒドロキシ化合物(2-1)を基準とするジエポキシ化合物(1-1)の収率は、81%であった。
【0098】
得られたジエポキシ化合物(1-1)のスペクトルデータは以下のとおりであった。
1H-NMR(δ:ppm,CDCl3) 8.01(d,2H),7.14(d,2H),6.95(d,2H),6.87(d,2H),4.99(m,1H),4.31(dd,1H),4.20(dd,1H),3.88-4.08(c,2H),3.30-3.45(c,2H),2.84-3.00(c,2H),2.70-2.80(c,2H),2.53(m,1H),2.10-2.32(c,2H),1.85-2.09(c,2H),1.50-1.80(c,4H)
【0099】
(シアネートエステル樹脂)
・シアネートエステル樹脂1:シアネートエステル樹脂(Lonza社製、Primaset「PT-30」)
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON 830S、常温25℃で液状(軟化点25℃以下))
・エポキシ樹脂2:2官能ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製、HP-4032D、常温25℃で液状(軟化点25℃以下))
・エポキシ樹脂3:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(日本化薬社製、XD-1000、室温で固形)
・エポキシ樹脂4:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、YX-4000K、室温で固形)
(フェノキシ樹脂)
・フェノキシ樹脂1:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル社製、YP-55)
・フェノキシ樹脂2:ビフェニル型フェノキシ樹脂(住友ベークライト社製)
(フェノキシ樹脂2の製造)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、YX-4000K)70.1質量部、ビスフェノール化合物(上野製薬社製、HQPOB)23.5質量部、トリフェニルホスフィン(TPP)0.06質量部、および溶剤(メチルエチルケトン)6.3質量部を反応器に投入した。得られた混合物を、150℃の温度で、溶剤を除去しながら反応させた。GPCで目的の分子量となることを確認し、反応を停止させた。以上により、分子量4500のフェノキシ樹脂2を得た。
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、PR-55617)
・硬化促進剤2:2-メチルイミダゾール(四国化成社製)
(熱伝導性フィラー)
・熱伝導性粒子1:凝集窒化ホウ素(水島合金鉄社製、HP40)
【0100】
<Bステージの熱伝導性シートの柔軟性評価>
フィラー入りの熱硬化性樹脂組成物2を厚み50umの離形PETフィルム状に塗工し、120℃のオーブン中で乾燥させて得られたPETフィルム付き熱硬化性樹脂組成物をB-ステージシートとし、シートのハンドリング性を下記の基準に従って評価し、結果を表1に示す。
A:PETフィルムを外側に90度曲げた時に割れを生じない。
B:PETフィルムを外側に120~90度曲げた時に割れ等生じる。
C:PETフィルムを外側に120度曲げた時に割れ等生じる。
なお、PETフィルムを折り曲げたときに割れが生じないほど、またPETフィルムに割れが生じる折り曲げ角度の値が小さいほど、柔軟性が高く、よってハンドリング性が良好であることを示す。
【0101】
<熱硬化性樹脂組成物の樹脂成形体の物性測定>
フィラーなし熱硬化性樹脂組成物1またはフィラー入り熱硬化性樹脂組成物2のそれぞれについて、硬化物(樹脂成形体を作製し、以下の物性について測定した。結果を表1に示す。
【0102】
(熱伝導率)
・樹脂成形体(フィラーなし)の作製
得られた熱伝導性フィラーを含有しない熱硬化性樹脂組成物1(フィラーなし熱硬化性樹脂組成物)を、離型剤を塗布した金型にセットし、コンプレッション成形を180℃、30min行い、10mm□×厚み1mmの樹脂成形物を得た。その後、オーブンにて180℃、180minの硬化を行い、樹脂成形体1(熱伝導率測定用サンプル)を得た。
・樹脂成形体(フィラー入り)の作製
得られた熱伝導性フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物2(フィラー入り熱硬化性樹脂組成物)を用い、0.018mmの銅箔で挟みセットし、コンプレッション成形を10MPaで180℃、90minを行い、樹脂成形体2(熱伝導率測定用サンプル2)を得た。得られた成形体から10mm□の熱拡散率測定用サンプルを切り出し、熱拡散率測定に用いた。
【0103】
・樹脂成形体の密度(比重)
密度(比重)測定は、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は、上記の樹脂成形体から、縦2cm×横2cmに切り出したものを用いた。密度(比重)(ρ)の単位をg/cm3とする。
【0104】
・樹脂成形体の比熱
得られた上記の樹脂成形体について、DSC法により比熱(Cp)を測定した。
【0105】
・樹脂成形体1の熱伝導率の測定
得られた樹脂成形体1から、厚み方向測定用として、10mm□に加工したものを試験片とした。次に、NETZSCH社製のXeフラッシュアナライザーLFA467 HyperFlashを用いて、Xeフラッシュ法により板状の試験片の厚み方向の熱拡散係数(α)の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。
樹脂成形体について、得られた熱拡散係数(α)、比熱(Cp)、密度(Sp)の測定値から、下記式に基づいて熱伝導率を算出した。結果を表1に示す。
熱伝導率[W/m・K]=α[m2/s]×Cp[J/kg・K]×ρ[g/cm3]
表1中、樹脂成形体の熱伝導率を「熱伝導率」とした。
結果を表1に示す。
熱伝導率[W/m・K]=α[m2/s]×Cp[J/kg・K]×ρ[g/cm3]
表1中、樹脂成形体の熱伝導率を「熱伝導率」とした。
得られた樹脂成形体2から、厚み測定用として10mm□に加工した両面銅箔付き試験片をNETZSCH社製のXeフラッシュアナライザーLFA467 HyperFlashを用いて、Xeフラッシュ法により板状の試験片の厚み方向の熱拡散係数(α)の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。得られた熱拡散率値から樹脂層のみの値を算出し、樹脂成形体2の熱拡散率測定値とした。熱伝導率値への換算方法は樹脂成形体1と同様の方法で行なった。
【0106】
(ガラス転移温度)
得られた成形体の銅箔を除去した後、8mm幅の短冊状に試験片を切り出した。試験片に関し、動的粘弾特性装置(セイコーインスツル社製、DMS6100)を用いて、測定温度範囲0℃~400℃、昇温速度5℃/分の条件下で粘弾特性分析をおこない、ガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度の単位は℃である。樹脂成形体のTgが大きいことは、樹脂成形体が熱に対してより安定であり、耐熱性が高いことを意味する。
【0107】
【0108】
表1に示す結果より、式(EP1)で表されるエポキシ化合物を含む実施例の熱硬化性樹脂組成物は、これを含まない比較例の熱硬化性樹脂組成物に比べ、高い熱伝導性を有していた。