(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135040
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045532
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】猪嶋 理登
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀武
(72)【発明者】
【氏名】成沢 良輔
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AD25
4F072AD28
4F072AE03
4F072AG03
4F072AH22
4F072AH31
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】本発明は、良好な曲げ強度および曲げ弾性率を維持しつつ、優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂成形体は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤と硬化剤とを含む樹脂組成物に、強化繊維を含浸させ、硬化させた繊維強化樹脂成形体であり、前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂と前記エポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、前記エポキシ樹脂を30質量部以上80質量部以下、前記エポキシ希釈剤を20質量部以上70質量部以下含み、前記硬化剤として酸無水物を含み、粘度が1000mPa・s以下であり、かつ、ガラス転移温度Tgが110℃以下であり、前記エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含むか、および/または、前記酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤と硬化剤とを含む樹脂組成物に、強化繊維を含浸させ、硬化させた繊維強化樹脂成形体であり、
前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂と前記エポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、前記エポキシ樹脂を30質量部以上80質量部以下、前記エポキシ希釈剤を20質量部以上70質量部以下含み、前記硬化剤として酸無水物を含み、粘度が1000mPa・s以下であり、かつ、ガラス転移温度Tgが110℃以下であり、
前記エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含むか、および/または、前記酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む、繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂と前記エポキシ希釈剤の合計のエポキシ当量に対する前記酸無水物の水酸基当量の比が、0.8~1.1である、請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
曲げ弾性率が130GPa以上であり、かつ曲げ強度が1000MPa以上である、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
建築材料である、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に建築材料として用いられる繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂複合材は、軽量、高強度、かつ高剛性を有するため、スポーツ、レジャー用途から、車両や航空機、建築、土木等の産業用途まで、幅広い用途を有する。このような繊維強化樹脂複合材の成形体(以下「繊維強化樹脂成形体」ともいう。)は、金型を用いて成形される。例えば、このような繊維強化樹脂成形体の一例として、特許文献1には、難燃性を有するとともに、良好な成形性を有する繊維強化樹脂成形体が記載されている。
【0003】
一方、建築材料の分野では、建築物の壁または天井の下地には、アルミニウム製または鋼板製の下地材が用いられている。下地材を用いたビル等の天井下地構造では、例えば、上階の床スラブから吊りボルトが吊り下げられ、ハンガーを介して吊りボルトと野縁受けが取り付けられている。さらに、野縁受けの室内側(すなわち上階とは逆側となる下側)には、天井板を固定する野縁が固定されている。また、天井下地構造には、天井の剛性を上げるために、ブレース等も固定されている。このような、野縁受けと野縁またはこれらとブレースは、通常、ビスを用いて固定される。なお、建築分野では、優れた機能が付与された様々な天井構造が開発されている。例えば、特許文献2には、建物の上階の床から下階へ伝搬する床衝撃音を低減することができる天井構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-158205号公報
【特許文献2】特許第6504966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、高層ビル等の天井下地構造全体において、軽量化が求められている。具体的には、天井構造における、野縁受け、野縁、天井板、ブレース等の下地材の軽量化が求められている。
【0006】
上記事情から、比較的軽量である繊維強化樹脂成形体を、アルミニウム製の下地材に替えて、天井構造等の下地材として用いることを検討した。しかしながら、繊維強化樹脂製の下地材同士を、または繊維強化樹脂製の下地材とアルミニウム製の下地材とをビス打ちによって固定すると、下地材に亀裂やササクレが発生してしまう。このように、繊維強化樹脂製の下地材は、加工性に問題を有することが分かった。一方で、繊維強化樹脂製の下地材をアルミニウム製の下地材の代替材料として使用する場合には、良好な曲げ物性を有することも求められる。
【0007】
そこで、本発明は、良好な曲げ強度および曲げ弾性率を維持しつつ、優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0009】
本発明に係る繊維強化樹脂成形体は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤と硬化剤とを含む樹脂組成物に、強化繊維を含浸させ、硬化させた繊維強化樹脂成形体であり、
前記樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂と前記エポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、前記エポキシ樹脂を30質量部以上80質量部以下、前記エポキシ希釈剤を20質量部以上70質量部以下含み、前記硬化剤として酸無水物を含み、粘度が1000mPa・s以下であり、かつ、ガラス転移温度Tgが110℃以下であり、
前記エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含むか、および/または、前記酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む。
【0010】
上記繊維強化樹脂成形体において、前記エポキシ樹脂と前記エポキシ希釈剤の合計のエポキシ当量に対する前記酸無水物の水酸基当量の比が、0.8~1.1であることが好ましい。
【0011】
上記繊維強化樹脂成形体において、曲げ弾性率が130GPa以上であり、かつ曲げ強度が1000MPa以上であることがより好ましい。
【0012】
上記繊維強化樹脂成形体において、建築材料であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明は、良好な曲げ強度および曲げ弾性率を維持しつつ、優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、良好な曲げ強度および曲げ弾性率を維持しつつ、優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体について、鋭意検討を行った。その結果、本発明に到達した。具体的には、繊維強化樹脂成形体において、特に、樹脂組成物中にエポキシ樹脂とエポキシ希釈剤とが特定の割合の範囲内において含まれており、かつエポキシ希釈剤および硬化剤としての酸無水物のうちの少なくとも一方が各々特定の化合物を含むことによって、前述したような繊維強化樹脂成形体を提供することができる。
【0015】
以下、本発明の実施形態を、詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、ここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0016】
1.繊維強化樹脂成形体の構成要素
本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、樹脂組成物に強化繊維を含浸させ、硬化させることにより得られる。まず、本実施形態における繊維強化樹脂成形体の構成要素について説明する。
【0017】
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤と硬化剤とを含む。また、樹脂組成物は、他の添加剤を任意において含んでもよい。以下、樹脂組成物の各構成要素、樹脂組成物の調製方法および樹脂組成物の物性を詳細に説明する。
【0018】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、樹脂組成物の主剤となる樹脂である。エポキシ樹脂は、本実施形態の繊維強化樹脂成形体における曲げ特性および加工性の効果を損なわない限り、その種類は特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂のうちから選択される樹脂であることが好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂は、樹脂組成物中に、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下において含まれる。エポキシ樹脂が30質量部以上含まれると、最終的に、良好な曲げ強度を維持できる繊維強化樹脂成形体を得ることができる。エポキシ樹脂が80質量部以下含まれると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、強化繊維が含浸しにくくなることを防ぐことができる。その結果、亀裂やササクレが生じ難い優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0020】
エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、35質量部以上含まれることが好ましく、40質量部以上含まれることがより好ましい。また、エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、70質量部以下含まれることが好ましく、65質量部以下含まれることがより好ましい。
【0021】
(エポキシ希釈剤)
エポキシ希釈剤は、エポキシ樹脂を希釈し、樹脂組成物を適切な粘度とする。
【0022】
エポキシ希釈剤は、本実施形態の繊維強化樹脂成形体における曲げ特性および加工性の効果を損なわない限り、その種類は特に限定されず、当業者に公知の任意のエポキシ希釈剤を使用することができる。例えば、エポキシ希釈剤としては、グリシジルエステル系化合物、グリシジルエーテル系化合物等のグリシジル系化合物が挙げられる。グリシジルエステル系化合物、グリシジルエーテル系化合物等のグリシジル系化合物は、単官能であっても、2官能であっても、3官能以上の多官能であってもよい。
【0023】
なお、本明細書において、「グリシジル系化合物」とは、主鎖がC-C結合から構成されるグリシジル系化合物、主鎖がC-O結合から構成されるグリシジル系化合物、ならびに主鎖がC-C結合とC-O結合から構成されるグリシジル系化合物の全てのグリシジル系化合物を意図する。
【0024】
ここで、本実施形態の繊維強化樹脂成形体では、エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含むか、および/または、後述する酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む。エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含む場合、硬化物に靭性を効果的に付与させることができる。そのため、亀裂やササクレが生じ難い優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を得ることができる。また、エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含む場合、エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物からなることが好ましい。さらに、2官能のグリシジル系化合物の主鎖の炭素原子と酸素原子の総数は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、18以上であることがさらに好ましい。
【0025】
さらに、エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含む場合、エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含むことが好ましく、グリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子数が7以上の2官能のグリシジル系化合物からなることがより好ましい。この場合、2官能のグリシジル系化合物の主鎖の炭素原子数は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、18以上であることがさらに好ましい。
【0026】
グリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物としては、特に限定されないが、イソエイコサン二酸ビス(2,3-エポキシプロピル)、イソドコサジエン二酸ビス(2,3-エポキシプロピル)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0027】
グリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、二塩基酸グリシジルエステル「SB-20G」(岡村製油株式会社製)、二塩基酸グリシジルエステル「IPU-22G」(岡村製油株式会社製)、デナコール「EX-832」(ナガセケムテックス株式会社製)、デナコール「EX-931」(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
エポキシ希釈剤は、樹脂組成物中に、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、20質量部以上70質量部以下において含まれる。エポキシ希釈剤が20質量部以上含まれると、強化繊維が含浸しにくくなることを防ぐことができる。その結果、亀裂やササクレが生じ難い優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を得ることができる。エポキシ希釈剤が70質量部以下含まれると、最終的に、良好な曲げ強度を維持している繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0029】
エポキシ希釈剤は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、30質量部以上含まれることが好ましく、35質量部以上含まれることがより好ましい。また、エポキシ希釈剤は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、65質量部以下含まれることが好ましく、60質量部以下含まれることがより好ましい。
【0030】
なお、エポキシ希釈剤は、2種以上含まれていてもよい。例えば、エポキシ希釈剤は、グリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物と1種以上の他のエポキシ希釈剤とを含んでも構わない。
【0031】
(硬化剤)
硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させ、最終的に得られる繊維強化樹脂成形体に好適な成形性および曲げ特性を付与する。本実施形態の樹脂組成物は、硬化剤として酸無水物を含む。
【0032】
酸無水物の種類は、本実施形態の繊維強化樹脂成形体における曲げ特性および加工性の効果を損なわない限り、特に限定されない。例えば、酸無水物としては、無水フタル酸化合物、無水マレイン酸化合物、ナジック酸無水物等が挙げられる。これらのうち、酸無水物は、粘度の観点から、無水フタル酸化合物であることが好ましい。また、酸無水物として無水フタル酸化合物が含まれると、最終的に製造される繊維強化樹脂成形体に良好な成形性を付与し易い。無水フタル酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、等が挙げられる。これらのうち、無水フタル酸化合物は、樹脂組成物の低粘度を実現し易いとの観点から、液体状の低粘度のメチルテトラヒドロ無水フタル酸であることが好ましい。
【0033】
酸無水物として無水フタル酸化合物等の上記の種類の酸無水物が含まれる場合、酸無水物の含有量は、後述するエポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比を満たすように配合することが好ましい。酸無水物が当量比を満たすように配合されると、最終的に製造される繊維強化樹脂成形体の硬化不良、クラック等の表面の欠陥の発生を抑制し易くすることができる。
【0034】
ここで、本実施形態の繊維強化樹脂成形体では、前述した通り、エポキシ希釈剤がグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物を含むか、および/または、酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む。酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む場合、亀裂やササクレが生じ難い優れた加工性を有する繊維強化樹脂成形体を得ることができる。また、酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含む場合、硬化剤として含まれる酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物からなることが好ましい。さらに、ポリ酸ポリ無水物の主鎖の炭素原子数は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、18以上であることがさらに好ましい。
【0035】
主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物としては、特に限定されないが、エイコサン二酸、テトラドカン二酸等が挙げられる。また、主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、分岐状長鎖二塩基酸のポリ酸ポリ無水物「IPU-22AH」(岡村製油株式会社製)、「SB-20AH」(岡村製油株式会社製)、「SB-12AL」(岡村製油株式会社製)等が挙げられる。
【0036】
酸無水物として前述した無水フタル酸化合物等の酸無水物ではなく主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物が含まれる場合も、当該ポリ酸ポリ無水物の含有量は、後述するエポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比を満たすように配合することが好ましい。ポリ酸ポリ無水物が当量比を満たすように配合されると、最終的に製造される繊維強化樹脂成形体の硬化不良、クラック等の表面の欠陥の発生を抑制し易くすることができる。
【0037】
なお、酸無水物は、2種以上含まれていてもよい。例えば、酸無水物は、主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物と1種以上の他の酸無水物とを含んでも構わない。この場合、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対する酸無水物の含有量も、後述するエポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比を満たすように調整することが好ましい。
【0038】
本実施形態の繊維強化樹脂成形体では、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤の合計のエポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比が0.8~1.1であることが好ましい。酸無水物の水酸基当量の比を0.8以上にすることによって、繊維強化樹脂成形体の硬化が不十分となったり、樹脂組成物の粘度が過度に向上することを避けることができる。また、酸無水物の水酸基当量の比を1.1以下にすることによって、最終的に製造される繊維強化樹脂成形体にクラック等の欠陥が生じたりすることを避けることができる。
【0039】
本明細書において、「酸無水物の水酸基当量」とは、酸無水物が主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物と1種以上の他の酸無水物との両方を含む場合、または2種以上の酸無水物が含まれる場合、合計の水酸基当量を意味する。
【0040】
エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤の合計のエポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比は、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることがさらに好ましい。また、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤の合計のエポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比は、1.05以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。
【0041】
なお、本実施形態における樹脂組成物は、酸無水物以外の硬化剤を含んでいてもよい。酸無水物以外の硬化剤としては、例えば、芳香族ポリアミン、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0042】
(他の添加剤)
本実施形態に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂、エポキシ希釈剤および硬化剤に加えて、硬化促進剤、離型剤、充填剤、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の他の添加剤を含んでもよい。
【0043】
これらの添加剤のうち、樹脂組成物は、硬化促進剤を含むことが好ましい。樹脂組成物中に硬化促進剤が含まれると、後述する引抜成形に適した硬化時間、例えば2分程度の硬化時間を達成することができる。
【0044】
硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール誘導体、3級アミン、リン化合物、ルイス酸等が挙げられる。これらのうち、粘度安定性の観点から、硬化促進剤はイミダゾール誘導体であることが好ましい。イミダゾール誘導体としては、例えば、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。また、硬化促進剤は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、キュアゾール(登録商標)「2E4MZ-CN」(四国化成工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)「2E4MZ」(四国化成工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)「2P4MZ」(四国化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
硬化促進剤は、樹脂組成物中に、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下において含まれることが好ましい。硬化促進剤を0.5質量部以上含むことによって、上述した硬化促進剤の作用を効果的に発揮させることができる。硬化促進剤を5質量部以下含むことによって、短時間での樹脂組成物の粘度上昇を抑制することができる。
【0046】
硬化促進剤は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、1質量部以上含まれることがより好ましく、1.5質量部以上含まれることがさらに好ましい。また、硬化促進剤は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、4質量部以下含まれることがより好ましく、3質量部以下含まれることがさらに好ましい。
【0047】
さらに、これらの添加剤のうち、樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸アミン系離型剤、脂肪酸エステル系離型剤等の当業者に公知の任意の離型剤が挙げられる。これらの離型剤は、2種以上含んでもよい。また、離型剤は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、MoldWiz(登録商標)「INT-1888LE」(アクセルプラスチックスリサーチラボラトリーズ製)、MoldWiz(登録商標)「INT-1846N2」(アクセルプラスチックスリサーチラボラトリーズ製)、MoldWiz(登録商標)「INT-1324B」(アクセルプラスチックスリサーチラボラトリーズ製)等が挙げられる。
【0048】
離型剤は、樹脂組成物中に、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下において含まれることが好ましい。離型剤を0.1質量部以上含むことによって、繊維強化樹脂成形体を金型から容易に引き抜くことができる。離型剤を15質量部以下含むことによって、繊維強化樹脂成形体の耐熱性や強度の低下を抑制することができる。
【0049】
離型剤は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、1質量部以上含まれることがより好ましく、3質量部以上含まれることがさらに好ましい。また、離型剤は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤との合計に対して、12質量部以下含まれることがより好ましく、10質量部以下含まれることがさらに好ましい。
【0050】
(樹脂組成物の調製方法)
樹脂組成物の調製方法では、まず、上述したエポキシ樹脂、エポキシ希釈剤、硬化剤および任意にて含まれる他の添加剤を、上述した所定の質量割合となるように秤量する。次いで、秤量した各成分を、当業者に公知の任意の機器を用いて混練することによって、樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
(樹脂組成物の物性)
樹脂組成物の粘度は、1000mPa・s以下である。樹脂組成物の粘度が1000mPa・s以下であると、強化繊維と樹脂組成物とを良好に含浸させることができ、硬化後、良好に成形された繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0052】
樹脂組成物の粘度は、900mPa・s以下であることが好ましく、800mPa・s以下であることがより好ましく、700mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、樹脂組成物の粘度の下限は、最終的に繊維強化樹脂成形体を得ることができれば特に限定されないが、例えば、100mPa・s以上であればよい。
【0053】
本明細書において、「樹脂組成物の粘度」とは、樹脂組成物の初期粘度を意味する。具体的には、後の実施例で詳細に述べるように、「樹脂組成物の粘度」とは、樹脂組成物の調製直後において測定される25℃での粘度を意味する。
【0054】
樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、110℃以下である。樹脂組成物のガラス転移温度Tgが110℃以下あると、架橋密度が低くなることで靭性が発現し、ドリルビスをねじ込んだ際に亀裂やササクレを防ぐため好ましい。なお、本明細書において、「ガラス転移温度Tg」とは、後の実施例で詳細に述べるように、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される温度を意味する。
【0055】
樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。また、樹脂組成物のガラス転移温度Tgの下限は、特に限定されないが、例えば50℃以上であればよい。
【0056】
<強化繊維>
強化繊維は、繊維強化樹脂成形体の強度を向上するために用いられる。具体的には、強化繊維は、前述した樹脂組成物に含浸され、硬化後、樹脂組成物と強化繊維とが一体化する。
【0057】
強化繊維の種類は、繊維強化樹脂成形体を構成する強化繊維として当業者に公知の任意の繊維であれば、特に限定されない。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、バサルト繊維等が挙げられる。これらの強化繊維は、1種または2種以上の組み合わせで用いてもよい。これらのうち、比強度および比弾性の観点から、強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および窒化珪素繊維のうちの1つ以上を含むことが好ましい。さらに、繊維強化樹脂成形体の強度および耐食性等をより向上させることができるため、強化繊維は炭素繊維であることがより好ましい。炭素繊維としては、PAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維、ピッチ系の炭素繊維等を用いることができる。これらのうち、強度が特に高いとの観点から、炭素繊維は、PAN系の炭素繊維を用いることが特に好ましい。なお、強化繊維として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維は金属による表面処理が施されていてもよい。
【0058】
本実施形態における繊維強化樹脂成形体では、繊維強化樹脂成形体の全体に対する強化繊維の体積含有率Vfは、70%以下であることが好ましい。強化繊維の体積含有率Vfが70%以下であると、繊維強化樹脂成形体中の樹脂比率が過度に低くなり過ぎることによる亀裂の発生等を避けることできる。強化繊維の体積含有率Vfは、68%以下であることがより好ましく、65%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
強化繊維の体積含有率Vfの下限値は、繊維強化樹脂成形体が十分な強度を有する限り特に限定されないが、45%程度であればよい。強化繊維の体積含有率Vfが45%以上であると、繊維強化樹脂成形体は強化繊維によって十分に補強されるため、繊維強化樹脂成形体の曲げ強度等の強度の過度な低下を避けることができる。強化繊維の体積含有率Vfは、48%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
【0060】
本明細書において、「強化繊維の体積含有率Vf」は、燃焼法によって測定される値とする。
【0061】
2.繊維強化樹脂成形体の製造方法
本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、前述した強化繊維を含浸させた樹脂組成物を、65℃~300℃の金型温度で1分間~10分間硬化させることにより、製造することができる。
【0062】
樹脂組成物に強化繊維を含浸させる方法は、特に限定されず、当業者に公知の任意の方法を採用することができる。例えば、樹脂組成物を収容した容器に強化繊維の束を浸漬させてもよいし、または強化繊維の束に樹脂組成物を塗布してもよい。
【0063】
硬化の際に使用する金型は、特に限定されない。例えば、樹脂組成物を流し込み、強化繊維の束を通過させることが可能な貫通孔を有するダイ、強化繊維および樹脂繊維を流し込むことができる射出成形型等の金型を使用することができる。
【0064】
より具体的には、本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、引抜成形法、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空含侵)成形法等を適用して製造することができる。
【0065】
引抜成形法では、まず、基材である強化繊維を樹脂組成物に含浸させた混合物を金型の内部に引き入れるか、または強化繊維を樹脂組成物に金型内で含浸させる。次いで、金型内または金型から出す場所において、樹脂組成物を加熱および硬化させ、得られた硬化物を金型から引き出す。本実施形態における繊維強化樹脂成形体の製造において、引抜成形法を適用する場合、金型温度は100℃~250℃とすることが好ましい。金型温度が100℃以上であると、樹脂組成物を成形可能な時間で速硬化することができる。金型温度が250℃以下であると、樹脂の熱分解による物性の低下を避けることができる。また、当該温度範囲において引抜成形法を適用することによって、1分間~10分間程度において、硬化を完了させることができる。
【0066】
VaRTM成形法は、プラスチックフィルムが取り付けられた成形型を用いる成形方法である。VaRTM成形法では、まず、積層した強化繊維を成形型とプラスチックフィルムとの間に封入して、その間の空気を真空ポンプで排出する。次いで、この空気を排出した空間に、負圧を利用して樹脂組成物を注入して、強化繊維を樹脂組成物に含浸させる。その後、強化繊維および樹脂組成物を、成形型とプラスチックフィルムとによって挟んで、所望の形状に硬化させる。本実施形態における繊維強化樹脂成形体の製造において、VaRTM成形法に適用する場合、成形型温度(金型温度)は65℃~300℃とすることが好ましい。また、強化繊維を樹脂組成物に含浸させてから1分間~15分間程度において、硬化を完了させることができる。
【0067】
3.繊維強化樹脂成形体の物性
本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、曲げ弾性率が130GPa以上であることが好ましい。本明細書において、「(繊維強化樹脂成形体の)曲げ弾性率が130GPa以上」とは、後の実施例で詳細に述べるように、JIS K 7074-1988に準じて3点曲げ試験を実施して測定された曲げ弾性率が130GPa以上であることを意味する。
【0068】
さらに、本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、曲げ強度が1000MPa以上であることが好ましい。本明細書において、「(繊維強化樹脂成形体の)曲げ強度が1000MPa以上」とは、後の実施例で詳細に述べるように、JIS K 7074-1988に準じて3点曲げ試験を実施して測定された曲げ強度が1000MPa以上であることを意味する。
【0069】
このように、本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤とが特定の割合の範囲内に調整されており、かつエポキシ希釈剤および酸無水物のうちの少なくとも一方が各々特定の化合物を含むため、良好な曲げ強度および曲げ弾性率を維持しつつ、優れた加工性を有する。そのため、繊維強化樹脂成形体同士もしくは繊維強化樹脂成形体と他の材料とをビス打ちによって固定した場合、または、繊維強化樹脂成形体に穴開け加工を施した場合であっても、亀裂やササクレが発生し難い。従って、本実施形態における繊維強化樹脂成形体は、アルミニウム製の下地材等と同様に、野縁受け、野縁、天井板、ブレース等の建築材料として、実際の建築現場において好適に利用することができる。
【実施例0070】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0071】
本実施例では、樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂、エポキシ希釈剤および硬化剤の種類ならびにそれらの配合量を変えて、様々な樹脂組成物を調製した。その後、各種繊維強化樹脂成形体の試験片を作製した。さらに、樹脂組成物の物性(初期粘度およびガラス転移温度Tg)を測定し、繊維強化樹脂成形体の試験片を用いて曲げ試験ならびに加工性試験(ビス打ち試験および穴開け加工試験)を行った。また、本発明によって解決される課題には関連はないが、参考試験として試験片を観察することによって、繊維強化樹脂成形体の成形性も評価した。
【0072】
本実施例では、樹脂組成物のガラス転移温度Tgは、示唆走査熱量計(DSC)にて測定した。樹脂組成物の初期粘度としては、樹脂組成物の調製直後の25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定した。炭素繊維の体積含有率(%)は、燃焼法によって測定した。
【0073】
まず、各実施例および比較例の繊維強化樹脂成形体の試験片の作製の際に用いた材料および試験片の作製方法を以下詳細に説明する。
【0074】
<繊維強化樹脂成形体の試験片の材料および試験片の作製方法>
(材料)
繊維強化樹脂成形体の試験片の作製の際に用い、後の表1および表2に示す各材料は以下の通りである。
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:「EPICLON830」(登録商標)、DIC株式会社製(エポキシ当量:171)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:「EPICLON850」(登録商標)、DIC株式会社製(エポキシ当量:189)
・エポキシ希釈剤1:炭素原子数18の二塩基酸グリシジルエステル(詳細にはイソエイコサン二酸ビス(2,3-エポキシプロピル))、「SB-20G」、岡村製油株式会社製(エポキシ当量:285)
・エポキシ希釈剤2:炭素原子数20の二塩基酸グリシジルエステル(詳細にはイソドコサジエン二酸ビス(2,3-エポキシプロピル))、「IPU-22G」、岡村製油株式会社製(エポキシ当量:290)
・エポキシ希釈剤3:炭素原子数6の1,6ヘキサンジオールグリシジルエーテル、デナコール「EX-212」、ナガセケムテックス株式会社製(エポキシ当量:151)
・硬化剤1:メチルテトラヒドロ無水フタル酸、「HN-2200」、株式会社レゾナック製(水酸基当量:168)
・硬化剤2:エステル基間に炭素原子数20を有する分岐状長鎖二塩基酸のポリ酸ポリ無水物、「IPU-22AH」、岡村製油株式会社製(水酸基当量:290)
・硬化促進剤:1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、キュアゾール(登録商標)「2E4MZ-CN」、四国化成工業株式会社製
・離型剤:脂肪族アミン系離型剤、MoldWiz(登録商標)「INT-1888LE」、アクセルプラスチックスリサーチラボラトリーズ製
・炭素繊維:トレカ(登録商標)「T700S-24K」(繊維径7μm、繊度:1650tex)、東レ株式会社製
・ビニルエステル樹脂:「リポキシR-806」、昭和電工株式会社製
【0075】
(実施例1)
実施例1では、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とエポキシ希釈剤1と硬化剤1と硬化促進剤と離型剤とを、後の表1に示す比率で配合し、樹脂組成物を調製した。なお、得られた樹脂組成物の初期粘度およびガラス転移温度Tgを測定した。測定結果は後の表1に併せて示す。
【0076】
強化繊維としては、炭素繊維を用いた。上記のように調製した樹脂組成物に強化繊維を含浸させ、樹脂組成物および強化繊維を金型に充填し、所定時間保持した。樹脂組成物を硬化させた後、引き抜いて繊維強化樹脂成形体を得た(引抜成形法)。金型の温度は180℃とし、金型内での保持時間は2分とした。得られた矩形状の繊維強化樹脂成形体を切断し、後の各試験に用いるための繊維強化樹脂成形体の試験片(例えば、100mm(長さ)×15mm(幅)×2mm(厚さ)のサイズの試験片等)を作製した。
【0077】
作製した繊維強化樹脂成形体の試験片における強化繊維(炭素繊維)の体積含有率Vfは、65%であった。なお、強化繊維の体積含有率Vfは、全ての実施例および比較例において、65%となるよう樹脂組成物に含浸させる強化繊維の量を調整した。
【0078】
(実施例2~実施例7)
実施例2~実施例7でも、後の表1に示す比率でそれぞれの材料を配合し、樹脂組成物を調製した。その後、実施例1と同様に、樹脂組成物の初期粘度およびガラス転移温度Tgを測定した。測定結果は後の表1に併せて示す。さらに、実施例1と同様の方法で、強化繊維を含浸させた樹脂組成物を硬化させ、最終的に実施例1と同じサイズの繊維強化樹脂成形体の試験片を得た。
【0079】
(比較例1~比較例5)
比較例1~比較例5でも、後の表2に示す比率でそれぞれの材料を配合し、樹脂組成物を調製した。その後、実施例1と同様に、樹脂組成物の初期粘度およびガラス転移温度Tgを測定した。測定結果は後の表2に併せて示す。さらに、実施例1と同様の方法で、強化繊維を含浸させた樹脂組成物を硬化させ、最終的に実施例1と同じサイズの繊維強化樹脂成形体の試験片を得た。
【0080】
(対比参考例)
対比参考例として、100質量部のビニルエステル樹脂(「リポキシR-806」、昭和電工株式会社製)と、1質量部の別の硬化剤(「トリゴノックス 121-50E」)と、1質量部のさらに別の硬化剤(「トリゴノックス 129-75」)と、0.5質量部の別の離型剤(MoldWiz(登録商標)「INT-PUL24」、アクセルプラスチックスリサーチラボラトリーズ製)とを、後の表2に示す比率で配合したビニルエステル樹脂組成物を調製した。なお、ビニルエステル樹脂を用いた繊維強化樹脂成形体は、一般的に、エポキシ樹脂と同様に、天井構造等の下地材等の建築材料として用いられることが多い。そのため、曲げ試験および加工性試験性の評価の際の参照とした。実施例1と同様に、樹脂組成物の初期粘度およびガラス転移温度Tgを測定した。測定結果は後の表2に併せて示す。さらに、実施例1と同様の方法で、強化繊維を含浸させた樹脂組成物を硬化させ、最終的に実施例1と同じサイズの各種繊維強化樹脂成形体の試験片を得た。
【0081】
(参考実施例1および参考実施例2)
参考実施例として、エポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比を他の実施例および比較例と比べて変動させた樹脂組成物を調製した。具体的には、後の表2に示す比率でそれぞれの材料を配合し、樹脂組成物を調製した。その後、実施例1と同様に、樹脂組成物の初期粘度およびガラス転移温度Tgを測定した。測定結果は後の表2に併せて示す。さらに、実施例1と同様の方法で、強化繊維を含浸させた樹脂組成物を硬化させ、最終的に実施例1と同じサイズの繊維強化樹脂成形体の試験片を得た。
【0082】
以下の表1および表2に、上記各実施例および比較例等の樹脂組成物の配合比率および物性、ならびに繊維強化樹脂成形体の物性を、まとめて示す。
【0083】
【0084】
【0085】
なお、上記表2において、「60下向き矢印」とは、ガラス転移温度Tgが低すぎたため、DSCにおけるピークが観察できず、ガラス転移温度Tgの数値を正確に算出できなかったことを意図する。具体的には、ガラス転移温度Tgが、測定した例の中で最も低い数値である実施例1の60℃よりも低い数値であると判断されたことを意味する。
【0086】
次に、繊維強化樹脂成形体の試験片を用いた曲げ試験方法、加工性試験方法(ビス打ち試験方法および穴開け加工試験方法)、ならびに参考評価としての成形性の評価方法を、以下詳細に説明する。
【0087】
<曲げ試験方法>
上記の各実施例および比較例で作製した100mm(長さ)×15mm(幅)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂成形体の試験片を用い、JIS K 7074-1988に準じて3点曲げ試験を実施し、繊維強化樹脂成形体の曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。対比参考例の曲げ強度および曲げ弾性率と比べて、数値に著しく差が無い限り、当該繊維強化樹脂成形体において、良好な曲げ強度および曲げ弾性率が維持されていると評価した。
【0088】
<加工性試験方法>
(ビス打ち試験方法)
ビス打ち試験は、次の方法によって行った。上記の各実施例および比較例で作製した500mm(長さ)×30mm(幅)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂成形体の試験片にドリルビスをねじ込んだ。その後、試験片のビスの先端が突出している付近を観察した。試験片に亀裂またはササクレが生じていない場合を「〇」(加工性に優れる)と判定し、試験片に亀裂またはササクレが生じている場合を「×」(加工性が悪い)と判定した。
【0089】
(穴開け加工試験方法)
穴開け加工試験は、次の方法によって行った。上記の各実施例および比較例で作製した500mm(長さ)×30mm(幅)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂成形体の試験片に、ドリルを用いて直径3mmの穴を開けた。その後、試験片の開口付近を観察した。試験片に亀裂またはササクレが生じていない場合を「〇」(加工性に優れる)と判定し、試験片に亀裂またはササクレが生じている場合を「×」(加工性が悪い)と判定した。
【0090】
<成形性の評価方法>
参考評価としての繊維強化樹脂成形体(またはその試験片)の成形性は次の方法によって評価した。上記の各実施例および比較例で作製した繊維強化樹脂成形体(またはその試験片)を目視により観察し、硬化不良、クラック等による表面不良の欠陥の発生の有無を確認した。欠陥が確認されない場合、繊維強化樹脂成形体(またはその試験片)の成形性は「良好」と評価し、欠陥が確認される場合、繊維強化樹脂成形体(またはその試験片)の成形性は「良好でない」と評価した。
【0091】
以下の表3および表4に、上記各実施例および比較例の繊維強化樹脂成形体の曲げ試験、加工性試験(ビス打ち試験および穴開け加工試験)ならびに参考評価としての成形性の評価の結果をまとめて示す。
【0092】
【0093】
【0094】
<考察>
上記表3に示すように、実施例1~実施例7の繊維強化樹脂成形体は、いずれも良好な曲げ弾性率および曲げ強度を維持しつつ、優れた加工性を有していた。さらに、参考評価としての成形性も良好であった。
【0095】
一方、上記表4に示すように、比較例1および比較例2では、繊維強化樹脂成形体の加工性が悪かった。これは、比較例1および比較例2では、樹脂組成物中にエポキシ希釈剤が含まれておらず、かつ硬化剤としても主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含んでいないためと想定される。
【0096】
比較例3では、繊維強化樹脂成形体の加工性が悪かった。これは、比較例3では、樹脂組成物中におけるエポキシ希釈剤1、すなわち炭素原子数18の二塩基酸グリシジルエステルの配合量が過度に少なかったためと想定される。
【0097】
比較例4では、繊維強化樹脂成形体の曲げ強度が顕著に悪かった。これは、比較例4では、樹脂組成物中のエポキシ希釈剤1、すなわち炭素原子数18の二塩基酸グリシジルエステルの配合量が過度に多かったためと想定される。
【0098】
比較例5では、繊維強化樹脂成形体の加工性が悪かった。これは、比較例5では、樹脂組成物中にエポキシ希釈剤としてグリシジル基間の主鎖を構成する炭素原子と酸素原子の総数が7以上の2官能のグリシジル系化合物に該当しないエポキシ希釈剤3しか含まれておらず、かつ硬化剤としても主鎖の炭素原子数が7以上のポリ酸ポリ無水物を含んでいないためと想定される。
【0099】
参考実施例1では、参考評価としての成形性が良好でなく、硬化不良が生じていた。これは、参考実施例1では、エポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比が0.8未満となっているためと想定される。
【0100】
参考実施例2では、参考評価としての成形性が良好でなく、表面不良が生じていた。これは、参考実施例2では、エポキシ当量に対する酸無水物の水酸基当量の比が1.1超となっているためと想定される。