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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135047
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/72 20060101AFI20240927BHJP
   B29D 30/30 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B29D30/72
B29D30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045543
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東浦 一樹
【テーマコード(参考)】
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
4F215AH20
4F215VA02
4F215VC02
4F215VC12
4F215VD03
4F215VD07
4F215VD09
4F215VD10
4F215VD11
4F215VD12
4F215VK02
4F215VK17
4F215VL11
4F501TA02
4F501TB02
4F501TB12
4F501TC03
4F501TC07
4F501TC09
4F501TC10
4F501TC11
4F501TC14
4F501TD03
4F501TD17
4F501TD32
4F501TE10
4F501TV21
4F501TV25
(57)【要約】
【課題】外観品質と操縦安定性との両立を達成できる、タイヤの製造方法の提供。
【解決手段】タイヤの製造方法は、生タイヤを成形する工程と、生タイヤを加圧及び加熱する工程とを含む。生タイヤのサイドウォール26は、外側エレメント42と内側エレメント44とで形成される。生タイヤの成形工程は、第一カバー100を成形する第一成形工程と、第二カバー102を成形する第二成形工程と、第二カバー102に第一カバー100を組み合わせるアッセンブリー工程とを含む。アッセンブリー工程において、第一カバー100の中央部分100cを膨張させて、第二カバー102に中央部分100cを接合することで、外側エレメント42の一部が生タイヤのトレッド24で覆われる。第一カバー100の外側部分100sを生タイヤのビード30で折り返して、内側エレメント44が外側エレメント42に接合される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、カーカスと、トレッドと、一対のサイドウォールとを備え、各前記ビードが、リング状のコアと前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備え、前記カーカスが一対の前記ビードの間を架け渡し、各前記ビードにおいて折り返されるカーカスプライを備え、前記トレッドが前記カーカスの径方向外側に位置し、各前記サイドウォールが前記カーカスの軸方向外側に位置する、タイヤを製造するための方法であって、
前記タイヤのための生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤを加圧及び加熱する工程と
を含み、
前記生タイヤにおける各前記サイドウォールが、外側エレメントと内側エレメントとを組み合わせることで形成され、
前記生タイヤの成形工程が、
第一カバーを成形する、第一成形工程と、
第二カバーを成形する、第二成形工程と、
前記第一カバーの形状を整えながら、前記第二カバーに前記第一カバーを組み合わせる、アッセンブリー工程と
を含み、
前記第一カバーが、前記カーカスプライを含む筒状のカーカス部材と、前記カーカス部材の径方向内側に位置する一対の前記内側エレメントと、前記カーカス部材の径方向外側に位置する一対の前記ビードと、前記カーカス部材の径方向外側において一対の前記ビードの間に位置する一対の前記外側エレメントとを備え、
前記第一カバーにおいて前記内側エレメントの一部が前記カーカス部材から突出し、
前記第二カバーが前記トレッドを備え、
前記アッセンブリー工程において、
前記第一カバーの中央部分を膨張させて、各前記ビードと前記第二カバーとに前記中央部分を接合することで、外側エレメントの一部が前記トレッドで覆われ、
前記第一カバーの外側部分を前記ビードで折り返して、前記内側エレメントの一部が、前記外側エレメントのうち前記トレッドから突出する部分に接合される、
タイヤの製造方法。
【請求項2】
前記カーカス部材の端から前記内側エレメントの外端までの距離が10mm以上20mm以下である、
請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記トレッドの端から前記外側エレメントの内端までの距離が15mm以上50mm以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記外側エレメントと前記内側エレメントとの境界の外端が、前記タイヤの外面に含まれ、
前記境界の中心点と前記外端とを結ぶ線分が、前記外端における前記タイヤの外面の接線に対してなす角度が40度以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記外側エレメントと前記内側エレメントとの境界の長さが25mm以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、生タイヤをモールド内で加圧及び加熱することで得られる。生タイヤは、成形装置において、トレッドやサイドウォール等の要素を組み合わせるとともにこれらを所定の形状に整えることで得られる。
高品質なタイヤを安定に製造するために、タイヤの製造方法について様々な検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【0003】
生タイヤの成形方法として、2ステージ製法が知られている。2ステージ製法では、生タイヤを得るために、第一カバーと第二カバーとが準備される。第一カバーは、例えば、インナーライナー、カーカスプライ、ビード、クリンチ及びサイドウォールを含む。第二カバーは、例えば、ベルト及びトレッドを含む。
【0004】
タイヤには、サイドウォールをトレッドに載せた構造(以下、SOT構造)を有するタイヤと、トレッドをサイドウォールに載せた構造(以下、TOS構造)を有するタイヤとがある。構造の違いは、生タイヤの組み立て方の違いによる。
【0005】
図12-14は、SOT構造の生タイヤの組み立て方(以下、SOT工法とも呼ばれる。)を説明する。
図12は、シェーピングフォーマSFにセットされた第一カバー2及び第二カバー4の一部を示す。シェーピングフォーマSFにおいて第一カバー2は、第二カバー4の内側に配置される。
【0006】
第一カバー2は、一対のサイド部材6、カーカス部材8及び一対のビード10を備える。サイド部材6、カーカス部材8及びビード10は円環状である。サイド部材6に含まれる代表的な要素はクリンチ及びサイドウォールである。カーカス部材8に含まれる代表的な要素はインナーライナー及びカーカスプライである。
第一ドラム(図示されず)において、サイド部材6を形成した後、カーカス部材8が形成される。カーカス部材8にビード10を組み合わせ、第一カバー2が得られる。
【0007】
図12に示されるように、サイド部材6の一部はカーカス部材8から突出する。この突出部分はサイドウォールで構成される。
ビード10は、カーカス部材8の端から所定距離内側に離した位置に配置される。第一カバー2のうちビード10の外側に位置する部分は、外側部分2sとも呼ばれる。第一カバー2のうち一対のビード10の間に位置する部分は中央部分2cとも呼ばれる。
【0008】
第二カバー4は、第二ドラム(図示されず)において、シート状のベルトプライを巻いてベルトを形成した後、このベルト上にトレッドを形成することで得られる。
【0009】
第一カバー2及び第二カバー4が形成されると、シェーピングフォーマSFにおいてこれらが組み合わされる。
図12において二点鎖線で示されるように、第一カバー2の中央部分2cの内側に空気が充填され、中央部分2cが膨らまされる。そして図13に示されるように、中央部分2cを膨張させて、中央部分2cがビード10と第二カバー4とに接合される。そして、例えば、ブラダーBを膨張させる等して、二点鎖線で示されるように、第一カバー2の外側部分2sがビード10で折り返される。図14に示されるように、外側部分2sがビード10と中央部分2cとに接合される。カーカス部材8から突出するサイド部材6の一部が第二カバー4のトレッドの端に載せられる。これにより、SOT構造の生タイヤ12sが得られる。
【0010】
図15-19は、TOS構造の生タイヤの組み立て方(以下、TOS工法とも呼ばれる。)を説明する。
TOS工法では、筒状のカーカス部材8が第一ドラムFDに形成される。図15に示されるように、ビード10がカーカス部材8に組み合わされる。
ビード10は、カーカス部材8の端から所定距離内側に離した位置に配置される。カーカス部材8のうちビード10の外側に位置する部分は、外側部分8sとも呼ばれる。カーカス部材8のうち一対のビード10の間に位置する部分は中央部分8cとも呼ばれる。
【0011】
図16に示されるように、カーカス部材8の外側部分8sが、図示されない折り返し手段によって、ビード10で折り返される。ビード10のエイペックス14が内側に倒される。外側部分8sがビード10に接合され、ビード10が中央部分8cに接合される。
図17に示されるように、外側部分8s上にサイド部材6が形成される。これにより、第一カバー2tが得られる。
【0012】
TOS工法においても前述のSOT工法と同様にして、第二カバー4は得られる。この第二カバー4に第一カバー2tが組み合わされる。図18に示されるように、シェーピングフォーマSFにおいて第一カバー2tは、第二カバー4の内側に配置される。二点鎖線で示されるように、第一カバー2tの内側に空気が充填され、第一カバー2tが膨らまされる。そして図19に示されるように、第一カバー2tを膨張させて、第一カバー2tが第二カバー4に接合される。第二カバー4の一部がサイド部材6の端に載せられる。これにより、サイドウォールにトレッドを載せた生タイヤ12tが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2018-12218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述したように、カーカス部材8はカーカスプライを含む。カーカスプライは、多数の並列したカーカスコードを含む。筒状のカーカス部材8においてカーカスコードは軸方向にのびる。SOT工法及びTOS工法のいずれにおいても、カーカス部材8の外側部分8sはビード10で折り返される。
【0015】
TOS工法では、図18に示されるように、外側部分8sをビード10で折り返した後、カーカス部材8全体が膨らまされる。カーカス部材8全体を膨らませる際、倒されたエイペックス14とともに外側部分8sが起こされる。引き伸ばされていた外側部分8sが起こされるので、外側部分8sのカーカスコードに緩みが生じることが懸念される。この緩みは、タイヤの操縦安定性に影響する。
SOT工法では、図13に示されるように、中央部分8cを膨らませた後に外側部分8sが折り返される。SOT工法では、TOS工法のようなカーカスコードの緩みは生じにくい。
【0016】
SOT工法及びTOS工法のいずれにおいても、カーカス部材8の中央部分8cは膨らまされる。このとき、タイヤのバットレスに相当する部分は、周方向に引き伸ばされるように変形する。この変形は、カーカスコードの間隔に影響する。
【0017】
TOS工法では、図17に示されるように、外側部分8sをビード10で折り返した後に、サイド部材6が形成される。サイド部材6は、バットレス相当部分からビード10の部分までを覆う。サイド部材6の形成後、図18に示されるように、カーカス部材8全体が膨らまされる。このとき、サイド部材6がバットレス相当部分を拘束する。TOS工法では、バットレス相当部分においてカーカスコードの間隔は拡がりにくい。
これに対してSOT工法では、図13に示されるように、カーカス部材8の外側部分8sをビード10で折り返す前に、中央部分8cが膨らまされる。バットレス相当部分が拘束されることなく、中央部分8cは膨らまされる。SOT工法では、バットレス相当部分においてカーカスコードの間隔が拡がりやすく、タイヤの外観品質に影響するようなバルジやデントが、タイヤのバットレスに生じることが懸念される。
【0018】
SOT工法及びTOS工法には一長一短があり、操縦安定性と外観品質との両立を図るには限界がある。バットレスでのカーカスコードの目開きと、カーカスの折り返し部でのカーカスコードの緩みとを抑制できる、新たな工法の確立が求められている。
【0019】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、外観品質と操縦安定性との両立を達成できる、タイヤの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係るタイヤの製造方法は、一対のビードと、カーカスと、トレッドと、一対のサイドウォールとを備え、各前記ビードが、リング状のコアと前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備え、前記カーカスが一対の前記ビードの間を架け渡し、各前記ビードにおいて折り返されるカーカスプライを備え、前記トレッドが前記カーカスの径方向外側に位置し、各前記サイドウォールが前記カーカスの軸方向外側に位置する、タイヤを製造するための方法である。この製造方法は、前記タイヤのための生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを加圧及び加熱する工程とを含む。前記生タイヤにおける各前記サイドウォールが、外側エレメントと内側エレメントとを組み合わせることで形成される。前記生タイヤの成形工程は、第一カバーを成形する、第一成形工程と、第二カバーを成形する、第二成形工程と、前記第一カバーの形状を整えながら、前記第二カバーに前記第一カバーを組み合わせる、アッセンブリー工程とを含む。前記第一カバーは、前記カーカスプライを含む筒状のカーカス部材と、前記カーカス部材の径方向内側に位置する一対の前記内側エレメントと、前記カーカス部材の径方向外側に位置する一対の前記ビードと、前記カーカス部材の径方向外側において一対の前記ビードの間に位置する一対の前記外側エレメントとを備える。前記第一カバーにおいて前記内側エレメントの一部が前記カーカス部材から突出する。前記第二カバーは前記トレッドを備える。前記アッセンブリー工程において、前記第一カバーの中央部分を膨張させて、各前記ビードと前記第二カバーとに前記中央部分を接合することで、外側エレメントの一部が前記トレッドで覆われる。前記第一カバーの外側部分を前記ビードで折り返して、前記内側エレメントの一部が、前記外側エレメントのうち前記トレッドから突出する部分に接合される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外観品質と操縦安定性との両立を達成できる、タイヤの製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの一例を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法で使用する加硫装置の一部を概念的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法で使用する成形装置の一部を概念的に示す平面図である。
図4】第一カバーの構成を概念的に示す断面図である。
図5】第一成形工程を概念的に示す断面図である。
図6】第一成形工程を概念的に示す断面図である。
図7】第二カバーの構成を概念的に示す断面図である。
図8】アッセンブリー工程を概念的に示す断面図である。
図9】アッセンブリー工程を概念的に示す断面図である。
図10】アッセンブリー工程を概念的に示す断面図である。
図11図1に示されたタイヤの一部を示す断面図である。
図12】SOT工法を概念的に示す断面図である。
図13】SOT工法を概念的に示す断面図である。
図14】SOT工法を概念的に示す断面図である。
図15】TOS工法を概念的に示す断面図である。
図16】TOS工法を概念的に示す断面図である。
図17】TOS工法を概念的に示す断面図である。
図18】TOS工法を概念的に示す断面図である。
図19】TOS工法を概念的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0024】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0025】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離が、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するように、タイヤはセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0026】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0027】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0028】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0029】
本発明において、ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる、未架橋状態の基材ゴムを含む組成物である。架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られる、ゴム組成物の架橋物である。架橋ゴムは基材ゴムの架橋物を含む。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0030】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される、トレッド、サイドウォール等の各要素の仕様に応じて、適宜決められる。本発明においては、特に言及がない限り、タイヤにおいて一般的に使用されるゴム組成物が用いられる。
【0031】
本発明において生タイヤとは、未架橋状態のタイヤである。生タイヤはローカバーとも呼ばれる。モールド内で生タイヤを加熱及び加圧することでタイヤが得られる。タイヤは生タイヤの架橋成形物である。
【0032】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。
トレッド部の中央部分はクラウン部分とも呼ばれる。トレッド部の端の部分はショルダー部分とも称される。トレッド部とサイドウォール部との境界部分はバットレスとも呼ばれる。
【0033】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤの製造方法は、一対のビードと、カーカスと、トレッドと、一対のサイドウォールとを備え、各前記ビードが、リング状のコアと前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備え、前記カーカスが一対の前記ビードの間を架け渡し、各前記ビードにおいて折り返されるカーカスプライを備え、前記トレッドが前記カーカスの径方向外側に位置し、各前記サイドウォールが前記カーカスの軸方向外側に位置する、タイヤを製造するための方法であって、前記タイヤのための生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを加圧及び加熱する工程とを含み、前記生タイヤにおける各前記サイドウォールが、外側エレメントと内側エレメントとを組み合わせることで形成され、前記生タイヤの成形工程が、第一カバーを成形する、第一成形工程と、第二カバーを成形する、第二成形工程と、前記第一カバーの形状を整えながら、前記第二カバーに前記第一カバーを組み合わせる、アッセンブリー工程とを含み、前記第一カバーが、前記カーカスプライを含む筒状のカーカス部材と、前記カーカス部材の径方向内側に位置する一対の前記内側エレメントと、前記カーカス部材の径方向外側に位置する一対の前記ビードと、前記カーカス部材の径方向外側において一対の前記ビードの間に位置する一対の前記外側エレメントとを備え、前記第一カバーにおいて前記内側エレメントの一部が前記カーカス部材から突出し、前記第二カバーが前記トレッドを備え、前記アッセンブリー工程において、前記第一カバーの中央部分を膨張させて、各前記ビードと前記第二カバーとに前記中央部分を接合することで、外側エレメントの一部が前記トレッドで覆われ、前記第一カバーの外側部分を前記ビードで折り返して、前記内側エレメントの一部が、前記外側エレメントのうち前記トレッドから突出する部分に接合される。
【0034】
タイヤの製造方法をこのように整えることにより、従来工法としてのTOS工法のようにビードが倒されることなく、外側部分がビードで折り返される。外側部分に含まれるカーカスコードに緩みは生じにくい。この外側部分は、TOS工法で得られる生タイヤに構成される外側部分に比べて、ビード部の剛性付与に効果的に貢献できる。この製造方法により得られるタイヤの操縦安定性は、従来のTOS工法で製造されたタイヤのそれに比べて格段に向上する。
カーカス部材の中央部分を膨らませる際、第二サイド部材がタイヤのバットレスに相当する部分を拘束する。この製造方法では、バットレス相当部分が拘束されることなく、カーカス部材の中央部分が膨らまされる、従来工法としてのSOT工法に比べて、バットレス相当部分においてカーカスコードの間隔は拡がりにくい。この製造方法により得られるタイヤには、外観品質に影響するようなバルジやデントが発生しにくい。このタイヤの外観品質は、従来のSOT工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上する。
この製造方法により得られるタイヤの操縦安定性は、従来のTOS工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上し、このタイヤの外観品質は、従来のSOT工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上する。この製造方法は、操縦安定性と外観品質との両立を図ることができる。
【0035】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のタイヤの製造方法において、前記カーカス部材の端から前記内側エレメントの外端までの距離が10mm以上20mm以下である。
このようにタイヤの製造方法を整えることにより、カーカス部材の端を起点とする損傷の発生が抑制される。このタイヤは、良好な操縦安定性を長期にわたって安定に発揮できる。このタイヤはさらに、適度なボリュームを有する要素として外側エレメントを構成できる。第二サイド部材は、カーカス部材の中央部分を膨らませる際、バットレス相当部分を十分に拘束できる。バルジやデントが発生しにくいタイヤが得られる。
【0036】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のタイヤの製造方法において、前記トレッドの端から前記外側エレメントの内端までの距離が15mm以上50mm以下である。
このようにタイヤの製造方法を整えることにより、このタイヤは、適度なボリュームを有する要素として外側エレメントを構成できる。第二サイド部材は、カーカス部材の中央部分を膨らませる際、バットレス相当部分を十分に拘束できる。バルジやデントが発生しにくいタイヤが得られる。カーカス部材の端を起点とする損傷の発生が抑制されるので、このタイヤは、良好な操縦安定性を長期にわたって安定に発揮できる。
【0037】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載のタイヤの製造方法において、前記外側エレメントと前記内側エレメントとの境界の外端が、前記タイヤの外面に含まれ、前記境界の中心点と前記外端とを結ぶ線分が、前記外端における前記タイヤの外面の接線に対してなす角度が40度以下である。
このようにタイヤの製造方法を整えることにより、このタイヤは、外側エレメントと内側エレメントとの境界部分を適正な厚さで構成できる。この境界部分が操縦安定性、転がり抵抗、耐久性等の性能に影響を与えることが抑制される。
【0038】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成4]のいずれかに記載のタイヤの製造方法において、前記外側エレメントと前記内側エレメントとの境界の長さが25mm以下である。このようにタイヤの製造方法を整えることにより、このタイヤは、外側エレメントと内側エレメントとの境界部分を適正な厚さで構成できる。この境界部分が操縦安定性、転がり抵抗、耐久性等の性能に影響を与えることが抑制される。
【0039】
[本発明の実施形態の詳細]
[タイヤ]
本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法で得られるタイヤが説明される。
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法で得られるタイヤ22の一例を示す。このタイヤ22は、乗用車用空気入りタイヤである。
図1は、タイヤ22の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ22の断面(以下、子午線断面)の一部を示す。図1において、左右方向はタイヤ22の軸方向であり、上下方向はタイヤ22の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ22の周方向である。径方向にのびる一点鎖線CLは、タイヤ22の赤道面を表す。タイヤ22の内部構造は赤道面に対して対称である。
【0040】
図1においてタイヤ22はリムR(正規リム)に組まれている。図1において軸方向に延びる実線BBLは、ビードベースラインである。ビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0041】
タイヤ22は、トレッド24、一対のサイドウォール26、一対のクリンチ28、一対のビード30、カーカス32、ベルト34及びインナーライナー36を備える。
【0042】
トレッド24はカーカス32の径方向外側に位置する。トレッド24はトレッド面38において路面と接地する。トレッド24には溝40が刻まれる。トレッド24は架橋ゴムからなる。
【0043】
図1において符号PCで示される位置は赤道である。赤道PCはトレッド面38と赤道面との交点である。このタイヤ22のように赤道面上に溝40が位置する場合、溝40がないと仮定して得られる仮想トレッド面に基づいて赤道PCが特定される。
正規状態のタイヤ22において得られる、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離がこのタイヤ22の断面高さ(JATMA等参照)である。図1において両矢印Hで示される長さが断面高さである。
【0044】
それぞれのサイドウォール26はトレッド24の端に連なる。サイドウォール26はトレッド24の径方向内側に位置する。サイドウォール26はカーカス32の軸方向外側に位置する。サイドウォール26は架橋ゴムからなる。
【0045】
このタイヤ22のサイドウォール26は、外側エレメント42と内側エレメント44とで構成される。外側エレメント42はトレッド24側に位置し、サイドウォール26の外端26sを含む。内側エレメント44はビード30側に位置し、サイドウォール26の内端26uを含む。
【0046】
図1に示されるように、外側エレメント42の一部はトレッド24で覆われる。サイドウォール26の外端26sに対応する、外側エレメント42の外端42sは、ベルト34の端の軸方向内側に位置する。外側エレメント42の外端42sは、ベルト34とカーカス32との間に位置する。外側エレメント42の内端42uは、内側エレメント44で覆われる。外側エレメント42の内端42uは、外側エレメント42と内側エレメント44との境界の内端でもある。内側エレメント44の外端44sは、外側エレメント42と内側エレメント44との境界の外端でもある。内側エレメント44の外端44sは、タイヤ22の外面に含まれる。
【0047】
このタイヤ22の外側エレメント42と内側エレメント44とは、同じ架橋ゴムで構成される。外側エレメント42と内側エレメント44とが異なる架橋ゴムで構成されてもよい。外側エレメント42と内側エレメント44とを構成する架橋ゴムは、タイヤ22の仕様が考慮され、適宜決められる。
【0048】
図1に示されるように、トレッド24はサイドウォール26に載せられる。このタイヤ22はTOS構造を有するタイヤである。
【0049】
それぞれのクリンチ28はサイドウォール26の径方向内側に位置する。クリンチ28はリムRと接触する。クリンチ28は架橋ゴムからなる。クリンチ28の外端は内側エレメント44の内端44uの径方向外側に位置する。クリンチ28の外端は内側エレメント44で覆われる。
【0050】
それぞれのビード30はクリンチ28の軸方向内側に位置する。ビード30はサイドウォール26の径方向内側に位置する。ビード30は、コア46と、エイペックス48とを備える。
【0051】
コア46は周方向にのびる。コア46はリング状である。図示されないが、コア46は周方向に巻き回されたスチール製のワイヤを含む。エイペックス48はコア46の径方向外側に位置する。エイペックス48はコア46から径方向外向きにのびる。エイペックス48は外向きに先細りである。エイペックス48は硬質な架橋ゴムからなる。
【0052】
図1において符号PAで示される位置は、エイペックス48の径方向外端(以下、先端とも呼ばれる。)である。符号PMで示される位置は、エイペックス48の、コア46との接触面の、軸方向幅の中心である。符号hで示される長さは、幅中心PMからエイペックス48の先端PAまでの距離である。本発明においては、距離hがエイペックス48の高さである。
このタイヤ22のエイペックス48の高さhは、良好な操縦安定性が得られる観点から、25mm以上であるのが好ましい。エイペックス48の高さhの好ましい上限は、乗り心地への影響が考慮され、適宜決められる。
【0053】
このタイヤ22は、ビード部の剛性付与に貢献できる補強層を、ビード30の周りにさらに設けることができる。この場合、25mm以下の高さhを有する小型エイペックスが、エイペックス48として用いられてもよい。
【0054】
カーカス32は、トレッド24、一対のサイドウォール26、及び一対のクリンチ28の内側に位置する。カーカス32は一対のビード30の間、すなわち、一対のビード30の、第一ビード30と第二ビード30(図示されず)との間を架け渡す。
カーカス32の構成に特に制限はない。カーカス32の構成はタイヤ22の仕様が考慮され適宜決められる。
【0055】
カーカス32は少なくとも1枚のカーカスプライ50を備える。このタイヤ22のカーカス32は2枚のカーカスプライ50で構成される。2枚のカーカスプライ50はそれぞれ、それぞれのビード30で折り返される。
【0056】
2枚のカーカスプライ50のうち、トレッド24の内側において径方向内側に位置するカーカスプライ50が第一カーカスプライ52である。トレッド24の内側において第一カーカスプライ52の径方向外側に位置するカーカスプライ50が第二カーカスプライ54である。
【0057】
第一カーカスプライ52は、第一プライ本体52aと、一対の第一折り返し部52bとを含む。第一プライ本体52aは、第一ビード30と第二ビード30との間を架け渡す。それぞれの第一折り返し部52bは、第一プライ本体52aに連なりそれぞれのビード30で軸方向内側から外側に向かって折り返される。
【0058】
第二カーカスプライ54は、第二プライ本体54aと、一対の第二折り返し部54bとを含む。第二プライ本体54aは、第一ビード30と第二ビード30との間を架け渡す。それぞれの第二折り返し部54bは、第二プライ本体54aに連なりそれぞれのビード30で軸方向内側から外側に向かって折り返される。
【0059】
このタイヤ22では、第一折り返し部52bの端は第二折り返し部54bの端の径方向外側に位置する。第一折り返し部52bは第二折り返し部54bの端を覆う。第一折り返し部52bの端は、外側エレメント42の内端42uの径方向内側に位置する。第一折り返し部52bの端は、後述するカーカス部材の端である。
【0060】
図示されないが、各カーカスプライ50は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードは赤道面と交差する。このタイヤ22のカーカス32はラジアル構造を有する。カーカスコードは、第一のビード30と第二のビード30との間を架け渡す。
このタイヤ22では、有機繊維からなるコードがカーカスコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。スチールコードがカーカスコードとして用いられてもよい。
【0061】
ベルト34は径方向においてトレッド24とカーカス32との間に位置する。このタイヤ22のベルト34はカーカス32に積層される。
【0062】
ベルト34は、径方向に並ぶ複数のベルトプライ56を備える。このタイヤ22のベルト34は2枚のベルトプライ56を備える。2枚のベルトプライ56のうち径方向内側に位置するベルトプライ56が第一ベルトプライ58であり、第一ベルトプライ58の径方向外側に位置するベルトプライ56が第二ベルトプライ60である。第一ベルトプライ58の端は第二ベルトプライ60の端の軸方向外側に位置する。子午線断面において、第一ベルトプライ58の幅は第二ベルトプライ60の幅よりも広い。
【0063】
図示されないが、各ベルトプライ56は並列した多数のベルトコードを含む。これらのベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。このタイヤ22のベルトコードにはスチールコードが用いられる。
【0064】
インナーライナー36は、カーカス32の内側に位置する。インナーライナー36はタイヤ22の内面を構成する。インナーライナー36は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー36は、タイヤ22の内圧を保持する。
【0065】
[タイヤの製造方法]
前述のタイヤ22を製造する場合を例にして、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法が説明される。
タイヤの製造方法は、タイヤ22を製造するための方法であり、タイヤ22のための生タイヤ22rを成形する工程と、生タイヤ22rを加圧及び加熱する工程とを含む。
本発明においては、生タイヤ22rを加圧及び加熱する工程は加硫工程とも呼ばれる。生タイヤ22rを加圧及び加熱することは加硫成形とも呼ばれる。
【0066】
前述したように、生タイヤは未加硫状態のタイヤである。生タイヤ22rは、タイヤ22の要素に対応する要素を有する。生タイヤ22rの要素は未加硫状態にあり、タイヤ22における要素の特性と異なる特性を有する。しかし、説明の便宜のために、生タイヤ22rの要素名には、タイヤ22の要素名が用いられる。例えば、タイヤ22のトレッド24に対応する生タイヤ22rの要素もトレッド24と呼ばれる。
【0067】
この製造方法は、加硫工程において加硫装置を用いる。
図2は、加硫工程で用いられる加硫装置72の一部を示す。加硫装置72はモールド74とブラダー76とを備える。
【0068】
モールド74は、その内面にキャビティ面78を備える。キャビティ面78は、生タイヤ22rの外面に当接し、タイヤ22の外面を形づける。
【0069】
図2に示されたモールド74は、割モールドである。モールド74は、構成部材として、トレッドリング80と、一対のサイドプレート82と、一対のビードリング84とを備える。これら構成部材を組み合わせることにより、前述のキャビティ面78が構成される。図2のモールド74は、これら構成部材を組み合わせた状態、言い換えれば、閉じられた状態にある。
【0070】
トレッドリング80はタイヤ22のトレッド部を形成する。トレッドリング80は複数のセグメント86を有する。複数のセグメント86は周方向に並ぶ。トレッドリング80は複数のセグメント86を組み合わせて構成される。
それぞれのサイドプレート82はタイヤ22のサイドウォール部を形成する。
それぞれのビードリング84はタイヤ22のビード部を形成する。
【0071】
ブラダー76はモールド74の内側に位置する。ブラダー76は架橋ゴムからなる。ブラダー76の内部には、スチーム等の加熱媒体が充填される。これにより、ブラダー76は膨張する。図2に示されたブラダー76は、加熱媒体が充填され膨張した状態にある。ブラダー76は、生タイヤ22rの内面に当接し、タイヤ22の内面を形づける。なお、このタイヤ22の製造では、ブラダー76に代えて金属製の剛性中子(図示されず)が用いられてもよい。剛性中子はトロイダル状の外面を備える。この外面は、空気が充填され内圧が正規内圧の5%に保持された状態にあるタイヤ22の内面形状に近似される。
【0072】
この製造方法では、所定の温度に設定されたモールド74に生タイヤ22rは投入される。投入後、モールド74は閉じられる。加熱媒体の充填により膨張したブラダー76が、キャビティ面78に生タイヤ22rを内側から押し付ける。生タイヤ22rは、モールド74内で所定時間、加硫成形される。これにより、生タイヤ22rのゴム組成物が架橋し、タイヤ22が得られる。詳述しないが、この製造方法の加硫工程は、従来の加硫工程と実質的に同じである。加硫工程に関する詳細な説明は省略される。
【0073】
この製造方法は、タイヤ22のための生タイヤを成形する工程(以下、成形工程)において成形装置を用いる。
図3は、成形工程で用いられる成形装置92の一部を示す。成形装置92は、第一ドラム94と、第二ドラム96と、シェーピングフォーマ98とを備える。成形装置92は、従来の成形装置と実質的に同じである。成形装置92に関する詳細な説明は省略される。
【0074】
この製造方法の成形工程は生タイヤ22rを成形するが、生タイヤ22rの成形のために、第一カバー100と第二カバー102とが準備される。第一カバー100と第二カバー102とを組み合わせて、生タイヤ22rが得られる。
成形工程は、第一カバー100を成形する第一成形工程と、第二カバー102を成形する第二成形工程と、第一カバー100と第二カバー102とを組み合わせるアッセンブリー工程とを含む。
【0075】
[第一成形工程]
第一成形工程は、第一ドラム94において第一カバー100を成形する工程である。
図4は、第一カバー100の構成を概念的に示す断面図である。第一カバー100は、カーカス部材104と、一対の第一サイド部材106と、一対のビード30と、一対の第二サイド部材108とを備える。
カーカス部材104は、カーカス32とインナーライナー36とを備える。
第一サイド部材106は、サイドウォール26の一部をなす内側エレメント44と、クリンチ28とを備える。
第二サイド部材108は、サイドウォール26の残部(すなわち、サイドウォール26の内側エレメント44以外の部分)をなす、外側エレメント42を備える。第二サイド部材108は外側エレメント42からなる。
第一カバー100のうち、ビード30の外側に位置する部分は外側部分100sとも呼ばれる。第一カバー100のうち、一対のビード30の間に位置する部分は中央部分100cとも呼ばれる。
【0076】
図5-6は、第一カバー100の成形の流れを概念的に示す。
図5の(A)に示されるように、一対の第一サイド部材106がそれぞれ第一ドラム94上に形成される。内側エレメント44とクリンチ28とが一体となったシート状の成形物を第一ドラム94に巻き付けて、第一サイド部材106が形成されてもよい。クリンチ28のための帯状ストリップを準備し、これをらせん状に巻き付けてクリンチ28を形成し、内側エレメント44のための帯状ストリップを準備し、これをらせん状に巻き付けて内側エレメント44を形成することで、第一サイド部材106が形成されてもよい。
【0077】
図5の(B)に示されるように、シート状に加工されたインナーライナー36が第一ドラム94に巻き付けられる。図5の(C)に示されるように、カーカスプライ50がさらに巻き付けられる。このタイヤ22のカーカス32は2枚のカーカスプライ50からなる。2枚のカーカスプライ50が巻き付けられ、カーカス32が形成される。これにより、2枚のカーカスプライ50とインナーライナー36とを含む筒状のカーカス部材104が第一ドラム94上に形成される。
【0078】
図5の(D)に示されるように、筒状のカーカス部材104には、ビード30が組み合わされる。一対のビード30のそれぞれが、カーカス部材104の軸方向外側からこのカーカス部材104に嵌め込まれる。ビード30がカーカス部材104の所定位置にセットされる。
【0079】
図6に示されるように、カーカス部材104の径方向外側において、一対のビード30の間に一対の第二サイド部材108が形成される。前述したように、第二サイド部材108は外側エレメント42からなる。シート状に加工した外側エレメント42をカーカス部材104上で巻き付けて、第二サイド部材108が形成されてもよい。外側エレメント42のための帯状ストリップを準備し、これをらせん状に巻き付けて外側エレメント42、すなわち第二サイド部材108が形成されてもよい。
【0080】
このように、第一成形工程では、カーカスプライ50を含む筒状のカーカス部材104と、カーカス部材104の径方向内側に位置する一対の内側エレメント44と、カーカス部材104の径方向外側に位置する一対のビード30と、カーカス部材104の径方向外側において一対のビード30の間に位置する一対の外側エレメント42とを備える、筒状の第一カバー100が成形される。
【0081】
[第二成形工程]
第二成形工程は、第二ドラム96において第二カバー102を成形する工程である。
図7は、第二カバー102の構成を概念的に示す断面図である。第二カバー102は、ベルト34とトレッド24とを備える。
前述したようにベルト34は2枚のベルトプライ56からなる。第二成形工程では、2枚のベルトプライ56を第二ドラム96に巻き付け、ベルト34が形成される。このベルト34上にシート状に加工したトレッド24が巻き付けられる。トレッド24のための帯状ストリップを準備し、これをらせん状に巻き付けてトレッド24が形成されてもよい。
このように、第二成形工程では、ベルト34及びトレッド24を備える、筒状の第二カバー102が成形される。
【0082】
[アッセンブリー工程]
アッセンブリー工程は、シェーピングフォーマ98において第一カバー100と第二カバー102とを組み合わせる工程である。第一カバー100と第二カバー102とを組み合わせることで、生タイヤ22rが得られる。
【0083】
第一成形工程で得た第一カバー100はシェーピングフォーマ98にセットされる。第二成形工程で得た第二カバー102は、図示されない搬送手段によってシェーピングフォーマ98に搬送される。図8に示されるように、第二カバー102は、第一カバー100の外側に配置される。
【0084】
シェーピングフォーマ98において、第一カバー100及び第二カバー102が所定の位置にセットされると、第一カバー100の中央部分100cの内側に空気が充填される。図9に示されるように、左右のビード30間距離を縮めながら、中央部分100cが膨らまされる。中央部分100cが、ビード30と第二カバー102とに押し当てられ、これらに接合される。これにより、外側エレメント42の一部がトレッド24に覆われる。
ブラダーBを膨張させる等して、図10に示されるように、第一カバー100の外側部分100sがビード30で折り返される。外側部分100sがビード30と中央部分100cとに接合される。
前述したように、タイヤ22のサイドウォール26は外側エレメント42と内側エレメント44とで構成される。
図4に示されるように、第一カバー100において、内側エレメント44の一部がカーカス部材104から突出する。図10に示されるように、ビード30と中央部分100cとに外側部分100sを接合することで、カーカス部材104から突出する内側エレメント42の一部が、外側エレメント42のうちトレッド24から突出する部分に接合される。これにより、生タイヤ22rにおけるサイドウォール26が形成される。この製造方法では、生タイヤ22rにおけるサイドウォール26は、外側エレメント42と内側エレメント44とを組み合わせることで形成される。
このように、アッセンブリー工程では、第一カバー100の形状を整えながら、第二カバー102に第一カバー100が組み合わされる。
【0085】
この製造方法では、図9-10に示されるように、ビード30を立てた状態で、第一カバー100の中央部分100cを膨らませた後、外側部分100sがビード30で折り返される。言い換えれば、ビード30を立てた状態で、カーカス部材104の中央部分104cを膨らませた後、カーカス部材104の外側部分104sがビード30で折り返される。従来工法としてのTOS工法のようにビード30が倒されることなく、外側部分104sがビード30で折り返される。外側部分104sに含まれるカーカスコードに、緩みは生じにくい。この外側部分104sは、TOS工法で得られる生タイヤ12tに構成される外側部分8sに比べて、ビード部の剛性付与に効果的に貢献できる。この製造方法により得られるタイヤ22の操縦安定性は、TOS工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上する。
【0086】
この製造方法では、図4に示されるように、カーカス部材104の径方向外側において、一対のビード30の間に一対の第二サイド部材108が形成される。
前述したように、第二サイド部材108は外側エレメント42である。図1に示されるように、外側エレメント42は、ベルト34の端と、カーカス部材104の端に対応する第一折り返し部52bの端との間のゾーンに配置される。
カーカス部材104の中央部分104cを膨らませる際、第二サイド部材108、すなわち外側エレメント42がタイヤ22のバットレスに相当する部分を拘束する。この製造方法では、バットレス相当部分が拘束されることなく、カーカス部材の中央部分が膨らまされる、従来工法としてのSOT工法に比べて、バットレス相当部分においてカーカスコードの間隔は拡がりにくい。この製造方法により得られるタイヤ22には、外観品質に影響するようなバルジやデントは発生しにくい。このタイヤ22の外観品質は、SOT工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上する。
【0087】
この製造方法により得られるタイヤ22の操縦安定性は、TOS工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上し、このタイヤ22の外観品質は、SOT工法で得られるタイヤのそれに比べて格段に向上する。この製造方法は、操縦安定性と外観品質との両立を図ることができる。
【0088】
図11は、図1に示されたタイヤ22の断面の一部を示す。
図11において両矢印aは、第一折り返し部52bの端、すなわちカーカス部材104の端から内側エレメント44の外端44sまでの距離を表す。両矢印bは、トレッド24の端から外側エレメント42の内端42uまでの距離を表す。両矢印Lは、内側エレメント44の外端44sから外側エレメント42の内端42uまでの距離を表す。本発明においては、この距離Lが外側エレメント42と内側エレメント44との境界の長さである。
【0089】
カーカス部材104の端から内側エレメント44の外端44sまでの距離aは、10mm以上20mm以下であるのが好ましい。
距離aが10mm以上に設定されることにより、カーカス部材104の端、すなわち、第一折り返し部52bの端と外側エレメント42との干渉が抑制される。第一折り返し部52bの端を起点とする損傷の発生が抑制される。このタイヤ22は、良好な操縦安定性を長期にわたって安定に発揮できる。この観点から、距離aは12mm以上であるのがより好ましい。
距離aが20mm以下に設定されることにより、このタイヤ22は、適度なボリュームを有する要素として外側エレメント42を構成できる。カーカス部材104の中央部分104cを膨らませる際、第二サイド部材108が、タイヤ22のバットレスに相当する部分を十分に拘束できる。バルジやデントが発生しにくいタイヤ22が得られる。この観点から、距離aは18mm以下であるのがより好ましい。
【0090】
トレッド24の端から外側エレメント42の内端42uまでの距離bは15mm以上50mm以下であるのが好ましい。
距離bが15mm以上に設定されることにより、このタイヤ22は、適度なボリュームを有する要素として外側エレメント42を構成できる。カーカス部材104の中央部分104cを膨らませる際、第二サイド部材108が、タイヤ22のバットレスに相当する部分を十分に拘束できる。バルジやデントが発生しにくいタイヤ22が得られる。この観点から、距離bは20mm以上であるのがより好ましい。
距離bが50mm以下に設定されることにより、カーカス部材104の端、すなわち、第一折り返し部52bの端と外側エレメント42との干渉が抑制される。第一折り返し部52bの端を起点とする損傷の発生が抑制される。このタイヤ2は、良好な操縦安定性を長期にわたって安定に発揮できる。この観点から、距離bは40mm以下であるのがより好ましい。
【0091】
外側エレメント42と内側エレメント44との境界の長さLは25mm以下であるのが好ましい。
長さLが25mm以下に設定されることにより、このタイヤ22は、外側エレメント42と内側エレメント44との境界部分を適正な厚さで構成できる。この境界部分が操縦安定性、転がり抵抗、耐久性等の性能に影響を与えることが抑制される。この観点から、長さLは23mm以下であるのがより好ましく、20mm以下であるのがさらに好ましい。境界部分が必要な厚さを確保できる観点から、この長さLは10mm以上であるのが好ましい。
【0092】
図11において符号PMで示される位置は、外側エレメント42と内側エレメント44との境界の中心点である。符号LMで示される直線は、中心点PMと境界の外端44sと通る。符号LSで示される直線は、境界の外端44sにおけるタイヤ22の外面の接線である。符号θで示される角度は、直線LMと直線LSとがなす角度である。本発明においては、この角度θが、境界の中心点PMと外端44sとを結ぶ線分が、外端44sにおけるタイヤ22の外面の接線LSに対してなす角度である。
【0093】
境界の中心点PMと外端44sとを結ぶ線分が、外端44sにおけるタイヤ22の外面の接線LSに対してなす角度θは40度以下であるのが好ましい。
角度θが40度以下に設定されることにより、このタイヤ22は、外側エレメント42と内側エレメント44との境界部分を適正な厚さで構成できる。この境界部分が操縦安定性、転がり抵抗、耐久性等の性能に影響を与えることが抑制される。この観点から、角度θは35度以下であるのがより好ましく、30度以下であるのがさらに好ましい。境界部分が必要な厚さを確保できる観点から、角度θは5度以上であるのが好ましい。
【0094】
以上説明したように、本発明によれば、外観品質と操縦安定性との両立を達成できる、タイヤの製造方法が得られる。本発明は、102mm以上の断面高さHを有するタイヤにおいて顕著な効果を奏する。
【実施例0095】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用タイヤ(タイヤサイズ=225/75R16)を得た。
実施例1では、図4に示された構成の第一カバーが準備された。図8-10に示される流れで、アッセンブリー工程が実施された。このことが、下記の表1の「工法」の欄に「TSS」として表されている。
実施例1で得たタイヤにおいて、距離a、距離b、断面高さH、角度θ、長さL及び高さhは、下記の表1に示される通りであった。
【0097】
[比較例1]
実施例1で製造したタイヤと同サイズのタイヤを、従来のTOS工法で製造した。比較例1のタイヤの構成は、サイドウォールを一つの部材で構成した他は実施例1で得たタイヤの構成と同じである。
【0098】
[比較例2]
実施例1で製造したタイヤと同サイズのタイヤを、従来のSOT工法で製造した。比較例2のタイヤの構成は、サイドウォールを一つの部材で構成したこと、そしてサイドウォールをトレッドに載せたことを除いて、実施例1で得たタイヤの構成と同じである。
【0099】
[実施例2-5]
タイヤにおける距離a、距離b、角度θ及び長さLが下記の表1に示される通りになるように、生タイヤの構成を変更した他は、実施例1と同様にしてタイヤを製造した。
【0100】
[操縦安定性]
試作タイヤを正規リムに組み、空気を充填して内圧を正規内圧に調整した。このタイヤを、試験車両の全輪に装着した。ドライバーに、この試験車両を路面が乾燥したテストコースで運転させて、操縦安定性を評価させた。その結果が指数で下記表1に示されている。数値が大きいほど、操縦安定性に優れる。
【0101】
[外観品質]
試作タイヤを正規リムに組み、空気を充填して内圧を正規内圧に調整した。調整後、タイヤの外観を目視で観察し、目立ち具合の観点から、バルジやデントの発生状況に関する官能評価を行った。その結果が指数で下記表1に示されている。数値が大きいほど、バルジやデントの発生が抑制され、外観品質に優れる。
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示されるように、実施例では、外観品質と操縦安定性との両立を達成できることが確認されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明された、外観品質と操縦安定性との両立を達成できる製造方法は、種々のタイヤの製造にも適用されうる。
【符号の説明】
【0105】
22・・・タイヤ
22r・・・生タイヤ
24・・・トレッド
26・・・サイドウォール
28・・・クリンチ
30・・・ビード
32・・・カーカス
34・・・ベルト
36・・・インナーライナー
42・・・外側エレメント
44・・・内側エレメント
46・・・コア
48・・・エイペックス
50、52、54・・・カーカスプライ
56、58、60・・・ベルトプライ
72・・・加硫装置
74・・・モールド
76・・・ブラダー
92・・・成形装置
94・・・第一ドラム
96・・・第二ドラム
98・・・シェーピングフォーマ
100・・・第一カバー
102・・・第二カバー
104・・・カーカス部材
106・・・第一サイド部材
108・・・第二サイド部材
100s・・・第一カバー100の外側部分
100c・・・第一カバー100の中央部分
104c・・・カーカス部材104の中央部分
104s・・・カーカス部材104の外側部分
図1
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