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特開2024-13506紅茶の製造方法及び茶葉の発酵促進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013506
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】紅茶の製造方法及び茶葉の発酵促進方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/06 20060101AFI20240125BHJP
   A23F 3/08 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
A23F3/06 T
A23F3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115633
(22)【出願日】2022-07-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開年月日 :令和4年7月11日 公開した場所 :今吉製茶有限会社(鹿児島県霧島市溝辺町麓3391)
(71)【出願人】
【識別番号】000104375
【氏名又は名称】カワサキ機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昭一
(72)【発明者】
【氏名】難波 勇
(72)【発明者】
【氏名】折尾 正志
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB08
4B027FP01
4B027FP55
4B027FP70
(57)【要約】
【課題】紅茶を製造するにあたり、茶葉の形状を保持するために茶葉の細胞の損傷を少なくした場合においても、十分な茶葉の発酵がなされるよう、茶葉の発酵を促進する方法を提供する。
【解決手段】紅茶の製造方法は、生の茶葉を萎凋させる萎凋工程と、萎凋工程後の茶葉の細胞を損傷させる茶葉損傷工程と、茶葉損傷工程後の茶葉を静置発酵させる静置発酵工程と、静置発酵工程後の茶葉を調温調湿された雰囲気下で加温することにより茶葉の発酵を促進させる調温調湿工程と、調温調湿工程後の茶葉を乾燥させる乾燥工程と、を有し、調温調湿工程における、調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃に制御された雰囲気である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の茶葉を萎凋させる萎凋工程と、
前記萎凋工程後の茶葉の細胞を損傷させる茶葉損傷工程と、
前記茶葉損傷工程後の茶葉を静置発酵させる静置発酵工程と、
前記静置発酵工程後の茶葉を調温調湿された雰囲気下で加温することにより茶葉の発酵を促進させる調温調湿工程と、
前記調温調湿工程後の茶葉を乾燥させる乾燥工程と、を有し、
前記調温調湿工程における、前記調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃に制御された雰囲気であることを特徴とする紅茶の製造方法。
【請求項2】
前記調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃となるように調整された、水蒸気と加熱空気の混合気体により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の紅茶の製造方法。
【請求項3】
前記萎凋工程では、生の茶葉の重量が15%~30%減少するまで萎凋を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の紅茶の製造方法。
【請求項4】
前記茶葉損傷工程における、前記茶葉の細胞の損傷が、茶葉の表面を打圧又は押圧することによるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の紅茶の製造方法。
【請求項5】
前記静置発酵工程における静置発酵時間は、30分~60分であり、
前記調温調湿工程における加温時間は、5分~20分であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紅茶の製造方法。
【請求項6】
静置発酵後の茶葉を調温調湿された雰囲気下で加温することにより茶葉の発酵を促進する調温調湿工程を有し、
前記調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃に制御された雰囲気であることを特徴とする茶葉の発酵促進方法。
【請求項7】
前記調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃となるように調整された、水蒸気と加熱空気の混合気体により形成されていることを特徴とする請求項6に記載の茶葉の発酵促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅茶の製造方法及び茶葉の発酵促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
碾茶(てんちゃ)とは抹茶の原料となる緑茶の一種であり、碾茶を茶臼等により微粉末状に加工することにより抹茶が得られる。碾茶を抹茶に加工する際に、碾茶中に茎や葉脈等の硬い部分が含まれていると、微粉末状になり難く、茶臼に引掛りが生じやすくなる等の問題が生じる。そのため、微粉末状に加工される茶葉から、茎や葉脈等の硬い部分を取り除いておく必要がある。そこで、荒茶から茎や葉脈等を除去しやすくするため、茶葉の形状を保持するべく、碾茶は揉捻工程を経ずに製造されている。
【0003】
碾茶から得られた抹茶は、茶道で用いられるほか、グリーンティー(抹茶に砂糖等で甘味をつけた飲み物)や抹茶ラテといった飲料、菓子や料理の素材として広く親しまれている。そこで、新たな「抹茶」として、紅茶風味の抹茶が新たな飲料、菓子及び料理の素材として期待されている。紅茶風味の抹茶を得るためには、碾茶様の紅茶、すなわち、茶葉の形状が保持されている紅茶が求められる。
【0004】
ところが、紅茶は発酵茶であることから、製造にあたっては、茶葉の細胞を損傷させて発酵を促進させる工程を経る必要がある。図6に示す紅茶の従来製法では、揉捻工程、CTC又はローターバンによる処理工程を経ることにより、茶葉の細胞を十分に損傷させて発酵を促進させている。ここで、オーソドックス製法である揉捻工程では1時間以上もの長時間に亘って圧力をかけながら茶葉を揉み込みすることが行われており、CTC製法では茶葉を押しつぶし、引き裂き、ひねり丸めて茶葉を微細化することが行われている。揉捻工程やCTC工程によって発酵が促進された茶葉は、数時間の静置発酵により十分な発酵が行われ、紅茶らしい紅褐色と芳香を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来のオーソドックス製法やCTC製法で得られる紅茶は、揉捻工程、CTC又はローターバンによる処理工程を経て製造されるため、茶葉の形状は全く保持されていない。しかしながら、茶葉の形状を保持しようとして、例えば、圧力を弱めた短時間の揉捻処理を行うと、茶葉の細胞の損傷が充分でなくなるため、静置発酵の時間を延ばしても茶葉の発酵が進まず、紅茶を得ることができないという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、紅茶を製造するにあたり、茶葉の形状を保持するために茶葉の細胞の損傷を少なくした場合においても、十分な茶葉の発酵がなされるよう、茶葉の発酵を促進する方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的としては、従来のオーソドックス製法においても、茶葉の発酵には一定の時間がかかるところ、紅茶を製造する際の発酵時間を短縮すべく、茶葉の発酵を促進する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、図6に示す従来製法の乾燥工程において、高温の熱風を茶葉に供給した際に、茶葉の発酵がさらに進行して茶葉が紅橙色に変化すること、そして、高温の熱風によって乾燥が進むと茶葉の変化は止まり、紅茶としての品質が決定することに気付き、このことに着想を得て、茶葉の発酵を促進させる方法につき、鋭意検討を行った。その結果、茶葉の水分活性を高い状態に維持させながら、茶葉の酸化酵素の活性が高まる温度帯に茶葉を加温することで、茶葉の細胞の損傷が十分でない場合であっても、茶葉の発酵が促進されることを見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の紅茶の製造方法は、生の茶葉を萎凋させる萎凋工程と、萎凋工程後の茶葉の細胞を損傷させる茶葉損傷工程と、茶葉損傷工程後の茶葉を静置発酵させる静置発酵工程と、静置発酵工程後の茶葉を調温調湿された雰囲気下で加温することにより茶葉の発酵を促進させる調温調湿工程と、調温調湿工程後の茶葉を乾燥させる乾燥工程と、を有し、調温調湿工程における、調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃に制御された雰囲気である。この調温調湿工程により茶葉の酸化酵素の活性及び酸化反応を高めることができるため、茶葉中の発酵が促進され、短時間で紅茶としての発酵度を有する茶葉が得られる。それゆえ、細胞損傷の程度が少ないために静置発酵では発酵に時間を要したり、十分な発酵が困難な茶葉であっても、紅茶の品質を有する茶葉を製造することができる。
【0010】
また、本発明の紅茶の製造方法は、調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃となるように調整された、水蒸気と加熱空気の混合気体により形成されていることも好ましい。これにより、雰囲気の調温調湿が容易な材料及び調整方法が選択される。水蒸気と加熱空気の混合気体において、その雰囲気を所定の湿球温度とするための水蒸気と加熱空気の混合比率は、例えば、水の飽和水蒸気圧に係るSonntagの式等の公知の式により求められ得る。
【0011】
また、本発明の紅茶の製造方法は、萎凋工程において、生の茶葉の重量が15%~30%減少するまで萎凋を行うことをも好ましい。従来の萎凋工程よりも茶葉の水分量の減少を抑制し、茶葉の水分量を高めに保持しておくことにより、調温調湿工程における茶葉の発酵が促進され、十分な発酵度の紅茶を得ることができる。
【0012】
また、本発明の紅茶の製造方法は、茶葉損傷工程における、茶葉の細胞の損傷が、茶葉の表面を打圧又は押圧することによるものであることも好ましい。これにより、茶葉の細胞を損傷させる工程においても、茶葉の形状を保持することができるため、茶葉の形状が保持された紅茶、すなわち、碾茶様の紅茶を得ることができる。
【0013】
また、本発明の紅茶の製造方法は、静置発酵工程における静置発酵時間は、30分~60分であり、調温調湿工程における加温時間は、5分~20分であることも好ましい。これにより、茶葉の発酵時間として好適な時間が選択され、発酵に係る工程時間が短縮され、短時間で製造できる紅茶の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の茶葉の発酵促進方法は、静置発酵後の茶葉を調温調湿された雰囲気下で加温することにより茶葉の発酵を促進する調温調湿工程を有し、調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃に制御された雰囲気である。この調温調湿工程により茶葉の酸化酵素の活性及び酸化反応を高めることができるため、茶葉中の発酵が促進され、短時間で所望の発酵度を有する茶葉が得られる。
【0015】
また、本発明の茶葉の発酵促進方法は、調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃となるように調整された、水蒸気と加熱空気の混合気体により形成されていることも好ましい。これにより、雰囲気の調温調湿が容易な材料が選択される。水蒸気と加熱空気の混合気体において、その雰囲気を所定の湿球温度とするための水蒸気と加熱空気の混合比率は、例えば、飽和水蒸気圧に係るSonntagの式等により求められ得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する紅茶の製造方法及び茶葉の発酵促進方法を提供することができる。
(1)茶葉の発酵を促進することができ、紅茶としての発酵度を有する茶葉を短時間で得ることができる。
(2)細胞の損傷の程度が少ないために静置発酵では発酵に時間を要したり、十分な発酵が困難な茶葉であっても、紅茶の品質を有する茶葉を製造することができる。
(3)茶葉の形状が保持されている紅茶(碾茶様の紅茶)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一の実施形態に係る紅茶の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図2】第二の実施形態に係る紅茶の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図3】実施例1で製造された碾茶様紅茶の外観を示す写真である。
図4】Lh色空間における色相角度(h)と明度(L)の値を示すグラフであって、(a)実施例2で得られた紅茶の茶葉の色相角度(h)と明度(L)を示すグラフ、(b)実施例2で得られた紅茶の抽出液の色相角度(h)と明度(L)を示すグラフである。
図5】実施例2の調温調湿工程における加温温度(湿球温度)と茶葉の色の経時変化を示すグラフであって、(a)Lh色空間における色相角度(h)を示すグラフ、(b)Lh色空間における明度(L)を示すグラフ、及び(c)Lh色空間における彩度(C)を示すグラフである。
図6】従来の紅茶の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る紅茶の製造方法及び茶葉の発酵促進方法について詳細に説明する。
【0019】
まず、図1を参照し、本発明の第一の実施形態に係る紅茶の製造方法について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る紅茶Pの製造方法は、茶葉を準備する工程S0、この茶葉を萎凋させる萎凋工程S1、萎凋工程後の茶葉に傷を付けて茶葉の細胞を損傷させる茶葉損傷工程S2、茶葉損傷工程後の茶葉を静置して発酵させる静置発酵工程S3、静置発酵工程後の茶葉を所定の雰囲気下で加温して発酵を促進させる調温調湿工程S4及びこの調温調湿工程後の茶葉を乾燥させる乾燥工程S5から概構成されている。
【0020】
[茶葉の準備]
まず、図1に示す茶葉を準備する工程S0について説明する。本発明における茶葉とは、チャノキ(Camellia sinensis)の葉である。本工程S0では、チャノキから摘採した生の茶葉を準備する。茶葉の品種、摘採時期及び産地などは特に限定されないが、品種としては、紅茶向け品種のべにひかり、べにほまれ、べにふうき、べにふじ、べにかおり、ただにしき等の他、緑茶向け品種のやぶきた、ゆたかみどり等が好ましく用いられ得る。なお、茶葉は摘採前の一定期間に亘り日光を遮るための被覆処理が施されたものであってもよいが、被覆処理が施されていないものであってもよい。
【0021】
[萎凋工程]
次に、萎凋工程S1について説明する。本工程S1では、前工程S0で準備された生の茶葉を萎凋させて茶葉の水分量を減少させることが行われる。萎凋にあたっては、図6に示す従来の萎凋工程と同様の方法で行うことができ、室内萎凋(人工萎凋)、日干萎凋(自然萎凋)又は日光萎凋等のあらゆる萎凋方法を単一又は組み合わせて適用することができる。この萎凋工程S1中に茶葉内の酵素による微発酵が生じるため、独特な萎凋香が生じる。ここで、図6に示す従来の萎凋工程では茶葉の重量が30~50%程度減少するまで萎凋処理を行うところ、本発明においては、後述する調温調湿工程S4における茶葉の発酵促進を高める観点から、従来の萎凋工程よりも茶葉の水分量の減少を抑制し、茶葉の水分量を高めに保持しておくことが好ましい。具体的には、本工程S1では、茶葉の重量が10%~40%程度減少するまで茶葉を萎凋することが好ましく、茶葉の重量が15%~30%程度減少するまで茶葉を萎凋することがより好ましく、茶葉の重量が15%~25%程度減少するまで茶葉を萎凋することがさらに好ましい。これにより、茶葉に萎凋による独特な萎凋香が生じつつも、後述する調温調湿工程S4における茶葉の発酵が促進され、茶葉の発酵度が向上する。
【0022】
[茶葉損傷工程]
次に、茶葉損傷工程S2について説明する。本工程S2では、萎凋工程S1後の茶葉に対し、できるだけ茶葉の形状を保持可能な方法により、茶葉の細胞を損傷させることが行われる。具体的には、茶葉の表面をソフトに加圧できる装置を用いて、茶葉の細胞を損傷させることが好ましく、特に限定されないが、回転打圧装置(特開2021-114908号公報参照)による茶葉の打圧又はローラープレス(実開昭54-101000号公報参照)による茶葉の押圧が挙げられる。本工程S2で茶葉の細胞を損傷させることにより、茶葉に含まれている酸化酵素とポリフェノールが細胞から漏出するため、後工程S3,S4での発酵が進行する。
【0023】
上述した回転打圧装置(特開2021-114908号公報参照)は、通常は、緑茶製造時における蒸し工程後に使用される装置である。この回転打圧装置は、脆くなった茶葉を取り除くため、装置内で茶葉を掻き上げると共にソフトな打圧を加えて茶葉の脆くなった部分を細かく粉砕させている。本実施形態では、茶葉の形状を保持しつつ、茶葉の細胞を損傷させるためにこの回転打圧装置を使用することができる。この回転打圧装置は具体的には、茶葉を投入可能な投入口が形成されるとともに、投入口に投入された茶葉を収容する収容空間が形成された投入部と、収容空間に収容された茶葉を搬送可能なスクリュー状部材と、スクリュー状部材で搬送された茶葉を受け入れ可能な内部空間を有するとともに、軸周りに回転可能とされた胴部と、該胴部の内部空間に受け入れた茶葉を掻き上げて攪拌しつつ当該胴部の内周面に叩き付けて打圧する羽根状部材とを具備したものであり、投入された茶葉はスクリュー状部材(搬送手段)により胴部の内部空間に搬送され、胴部の内部空間に搬送された茶葉は羽根状部材(撹拌手段)により掻き上げられて撹拌されつつ、凹凸形状が形成されている胴部の内周面に叩き付けられて打圧される。これにより、萎凋工程S1後の茶葉の表面に、茶葉が掻き上げられて撹拌された際に茶葉どうしが擦れ合って生じた傷や、胴部の内周面に叩き付けられた際に接触した内周面の凹凸形状に対応した傷が形成されるため、茶葉の形状は保持されつつ、茶葉の細胞が損傷される。
【0024】
他方、上述したローラープレス(実開昭54-101000号公報参照)は、通常は、緑茶製造時における蒸熱工程前に茶葉の茎部のみを押圧して偏平形状にするために使用される装置である。このローラープレスは一対のローラーから構成され、一方のローラーを駆動ローラー、他方を従動ローラーとし、この従動ローラーの軸受を左右移動自在とすることにより、一対のローラー間隙が調節自在とされている。本実施形態では、茶葉の形状を保持しつつ、茶葉の細胞を損傷させるためにこのローラープレスを使用することができる。例えば、駆動ローラーの表面に凹凸形状のエンボスを施しておき、ローラー間隙を適宜調節することで、ローラープレスの間隙に茶葉を供給すると、茶葉がローラーの回転に引き込まれ、ローラーで押圧されながら茶葉が間隙を通過する。これにより、萎凋工程S1後の茶葉の表面に、ローラー表面の凹凸形状に対応した傷が形成されるため、茶葉の形状は保持されつつ、茶葉の細胞が損傷される。
【0025】
[静置発酵工程]
次に、静置発酵工程S3について説明する。本工程S3では、前工程S2で処理された茶葉を静置発酵させることが行われる。静置発酵は茶葉を冷涼で多湿な場所に静置することにより行われる。本工程S3により、茶葉に含まれているポリフェノールと酸化酵素とが反応して茶葉の発酵が進行する。具体的な静置発酵条件としては、例えば、茶葉損傷工程後の茶葉を室温23~28℃、湿度約90%の室内に静置させることが行われるが、これに限定されない。また、静置発酵時間としては、20分~2時間程度とすることが好ましく、30分~60分程度とすることがより好ましい。
【0026】
[調温調湿工程]
次に、調温調湿工程S4について説明する。本工程S4では、前の静置発酵工程S3で酸化酵素による発酵が一定程度進んだ茶葉に対し、茶葉を湿球温度50~70℃に制御された雰囲気下で加温することにより、さらなる発酵を促して茶葉の発酵度を高めることが行われる。上述したように、本実施形態に係る紅茶の製造方法では、紅茶として得られる茶葉の形状を保持するため、茶葉損傷工程S2では茶葉の表面を打圧又は押圧する程度での細胞損傷に留まっている。そのため、静置発酵工程S3での茶葉の発酵が進み難く、十分な発酵度に達する前に茶葉の色が緑のままで乾いてしまう、所謂“青枯れ状”になる等、発酵に問題があった。しかしながら、本発明者らは、茶葉を湿球温度50~70℃に制御された雰囲気下で加温することにより、細胞損傷が少ない茶葉であっても、十分な発酵が短時間で実現されることを見出した。より具体的に説明すると、湿球温度を50~70℃に高めた雰囲気を形成するに際し、その雰囲気内に供給される送風空気中の水蒸気の比率が高まり、乾燥空気が相対的に減少することで、茶葉の乾燥(青枯れ)が抑制され、茶葉中に含まれる酸化酵素の酵素活性の高い時間を確保できるため、茶葉の発酵が促進される。
【0027】
本工程S4に係るメカニズムについて詳細に説明すると、前工程である萎凋工程S1において、茶葉の水分量は高めに保持されており、さらに、静置発酵工程S3において、茶葉は冷涼で多湿な環境下で静置発酵されるため、茶葉の水分活性値は高く、茶葉中には十分な水分が存在している状態である。それゆえ、発明者らは、静置発酵工程S3後の茶葉の品温(表面温度)を湿球温度で近似できることに着目した。ここで、静置発酵工程S3後の茶葉を単に所定の温度の加熱空気で加温しようとすると、その加熱空気に含まれる水蒸気の量により湿球温度が変動するため、茶葉の品温(表面温度)も大きく変動することとなる。そこで、所定の湿球温度に制御された雰囲気下で茶葉を加温することにより、茶葉の品温(表面温度)を好適な温度に保つことができる。
【0028】
ここで、茶葉の品温に相当する「湿球温度」とは、一般的には気体と蒸気(通常は空気と水蒸気の混合した系)の物理的な特徴を示す温度のことであり、乾湿計の湿球が示す温度である。乾湿計により示される乾球温度t(℃)と湿球温度t´(℃)とから水蒸気圧eを算出する式として、大気圧をP、その湿球温度における飽和水蒸気圧をE(t´)とすると、以下のような式が知られている。
e=E(t´)-0.0008×P×(t-t´) ・・・・(1)
【0029】
また、空気中の水蒸気の質量、空気の質量、水蒸気圧、混合比には以下のような相関があることも知られている。ここで、「混合比」とは、重量絶対湿度とも呼ばれており、湿潤空気を含む空気塊において、乾燥空気に対して含まれる水蒸気の質量の比のことである。大気圧をP、水蒸気圧をeとするとき、混合比mは以下の式で表される。
m=0.622×e/(P-e) ・・・・(2)
【0030】
他方、飽和水蒸気圧を求めるための演算式として、以下のSonntagの式(E(hPa))が知られている。但し、T=273.15+T3、T3=乾球温度とする。
E(hPa)=(exp(-6096.9385T-1+21.2409642-2.711193×10-2×T+1.673952×10-5×T+2.433502×ln(T)))/100 ・・・・(3)
【0031】
ここで、上記式(1)の湿球温度における飽和水蒸気圧E(t´)の算出に関し、式(3)のSonntagの式を使用すれば、この式は乾球温度のみの関数であるから、上記式(1)式は水蒸気圧e、大気圧P、乾球温度t、湿球温度t´の相関式によって表すことができる。そして、上記式(2)は、混合比m、水蒸気圧e、大気圧Pの相関式で表されていることから、式(1)及び(2)より水蒸気圧eのパラメータを消去すれば、式(1)~(3)により、混合比m、大気圧P、乾球温度t(℃)、湿球温度t´(℃)の相関式が得られる。そのため、茶葉が存在する雰囲気の大気圧、乾球温度及び混合比を調整することで、その雰囲気を所定の湿球温度とすることができる。
【0032】
具体的な制御方法としては、例えば、前工程である静置発酵工程S3を経た茶葉を、ネット型乾燥機等に投入し、乾燥機室内の雰囲気を所定の湿球温度に制御することで茶葉を加温することができる。乾燥機には、所定温度(乾球温度)の加熱空気を発生する加熱空気発生手段、加熱空気の温度、湿度及び大気圧を検出する検出手段並びに加熱空気を乾燥機室内に送風する送風手段と、水蒸気を発生する水蒸気発生手段及び水蒸気を乾燥機室内に供給する供給手段とが備えられており、乾燥機室内に供給する加熱空気の温度、加熱空気の送風量及び水蒸気の供給量を適宜調整することにより、乾燥機室内の雰囲気を所定の湿球温度とすることができる。ここで、水蒸気を発生する水蒸気発生手段(ボイラ等)から供給される水蒸気の量と加熱空気の温度を一定に制御すれば、混合比における水蒸気部分が定数となり、混合すべき空気部分のみが変数となるため、結果的に乾燥機室内の雰囲気の湿球温度は混合すべき空気量のみの関数となる。したがって、送風手段による空気の送風量を制御手段で制御することにより、乾燥機室内の雰囲気を湿球温度50~70℃に制御することができる。或いは、加熱空気の温度と送風量を一定に制御すれば、混合比における空気部分が定数となり、混合すべき水蒸気部分のみが変数となるため、結果的に乾燥機室内の雰囲気の湿球温度は混合すべき水蒸気量のみの関数となる。この場合には、水蒸気を発生する水蒸気発生手段から供給される水蒸気の量を変化させることにより、乾燥機室内の雰囲気を湿球温度50~70℃に制御することができる。なお、後述する実施例においては、後者の方法にて湿球温度を制御している。
【0033】
さらに、検出手段で検出された加熱空気の温度及び湿度に基づいて、予め雰囲気の空気の乾燥空気量及び含有される水蒸気量を算出し、その算出された乾燥空気量及び含有される水蒸気量に基づいて混合比を求められるよう構成してもよい。具体的には、算出された水蒸気量を水蒸気の供給量に加算して混合比が求められるようにしてもよい。すなわち、空気は温度により体積が異なるとともに、雰囲気に係る空気の温湿状態から乾燥空気の体積と含有される水蒸気量を求めて制御に反映させることにより、乾燥機室内の雰囲気の湿球温度について、より正確な調整を図ることができる。
【0034】
なお、茶葉が存在する雰囲気の大気圧、乾球温度及び混合比を調整することで、その雰囲気を所定の湿球温度に制御するにあたり、式(1)~(3)を用いて各パラメータを算出することを説明したが、上述した式(1)~(3)に限定されず、Tetensの式、Wagnerの式、Goff-Gratchの式、sprungの式及びWexler-Hylandの式等の公知の式をそのまま、あるいは組み替えて算出することも可能である。
【0035】
本工程S4では、上述した手段等によって、湿球温度50~70℃となるように調整された雰囲気下で茶葉を加温することにより、茶葉の品温(表面温度)を発酵が促進される温度に維持することができる。それゆえ、細胞損傷が少ない茶葉であっても、十分な発酵が短時間で実現され、茶葉の発酵度を高めることが可能となる。調温調湿された雰囲気としては、茶葉中に含まれるポリフェノールオキシダーゼ等の酸化酵素等の酵素活性は、失活するとされる80℃以下に酵素活性のピークがあり温度依存性があるという特性から、発酵度が向上する湿球温度45~75℃が好ましく、湿球温度50~70℃がより好ましく、湿球温度55~65℃が特に好ましい。また、本工程S4における茶葉の調温調湿された雰囲気下での加温時間は、3分~30分が好ましく、5分~20分がより好ましく、5分~15分が特に好ましい。本工程S4により茶葉の発酵が促進され、茶葉は時間の経過と共に紅色に変化し、発酵度が向上した茶葉が得られる。
【0036】
また、本調温調湿工程S4における茶葉の加温にあたっては、上述したように乾燥機内で行うことのほか、熱風(加熱空気)及び水蒸気発生手段を備える装置であれば、茶葉の調温調湿を行うことができる。そのため、例えば、熱風及び水蒸気発生手段を備えた粗揉機・中揉み機・中揉機・葉打機等の装置内で茶葉を加温することができ、加温処理と合わせて撹拌や揉み込み、整形操作等を同時に行うことができる。一例として、後述する実施例2、3では、粗揉機内で調温調湿工程S4における茶葉の加温を行っている。
【0037】
[乾燥工程]
次に、乾燥工程S5について説明する。本工程S5では、前工程S4で処理された茶葉を乾燥させることが行われる。乾燥処理は80℃以上の高温の熱風を乾燥室内に供給して茶葉を乾燥させることにより行われ、図6に示す従来の乾燥工程と同様の方法で行うことができる。特に限定されないが、通常、乾燥処理は茶葉に含まれている水分が5%程度となるまで行われ、1時間程度の乾燥処理により、紅茶Pが得られる。このように、80℃以上の高温の熱風で茶葉を乾燥処理することにより、茶葉が乾燥すると共に茶葉に含まれる酸化酵素も失活するため、茶葉の変化は止まり、品質が決定した紅茶Pが得られる。
【0038】
[紅茶]
得られた紅茶Pは、長時間の揉捻工程を経ていないため、茶葉の形状が保持されており、碾茶様の紅茶として活用することができる。そのため、紅茶Pはそのまま用いることも、茶臼により微粉末状に加工して紅茶風味の抹茶とすることも容易である。なお、この紅茶Pを微粉末状に加工する際には、得られた紅茶Pから茎や葉脈等を除去しておくことが好ましく、本実施形態において得られた紅茶Pは茶葉の形状が保持されていることから、茎や葉脈等の除去処理を容易に行うことができる。
【0039】
なお、本実施形態に係る紅茶の製造方法においては、上述した工程以外にも、風力選別機による分離工程等といった、茶葉を処理するための種々の工程を設けることが可能である。
【0040】
次に、図2を参照し、本発明の第二の実施形態に係る紅茶の製造方法について説明する。図2に示すように、本実施形態に係る紅茶Pの製造方法は、茶葉を準備する工程S0、この茶葉を萎凋させる萎凋工程S1、萎凋工程後の茶葉に傷を付けて茶葉の細胞を損傷させる茶葉損傷工程S21、茶葉損傷工程後の茶葉を静置して発酵させる静置発酵工程S3、静置発酵工程後の茶葉を所定の雰囲気下で加温して発酵を促進させる調温調湿工程S4及びこの調温調湿工程後の茶葉を乾燥させる乾燥工程S5から概略構成されている。本実施形態は、第一の実施形態における「茶葉損傷工程S2」の処理方法のみが上述した第一の実施形態と異なっている。よって、上述した第一の実施形態と同じ構成に関する説明は省略し、異なる構成について以下説明する。
【0041】
[茶葉損傷工程(揉捻)]
本実施形態における茶葉損傷工程S21について説明する。本工程S21では、萎凋工程S1後の茶葉に対し、茶葉の細胞を損傷させることが行われる。本実施形態では、揉捻機による短時間の揉捻処理を行うことにより、茶葉の細胞を損傷させている。本工程S21で茶葉の細胞を損傷させることにより、茶葉に含まれている酸化酵素とポリフェノールが細胞から漏出するため、後工程S3,S4での発酵が進行する。例えば、図6に示すオーソドックス製法の揉捻工程では1時間以上の長時間に亘って圧力をかけて茶葉を揉捻しているところ、本実施形態に係る揉捻処理時間としては、後述する調温調湿工程S4において十分な発酵が短時間で実現する観点から、10~60分程度が好ましく、20~40分程度がより好ましい。このように、短時間の揉捻処理であっても、後工程である調温調湿工程S4での発酵が短時間で進行することから、紅茶製造にかかる時間が短縮され、効率の良い紅茶製造がなされる。
【0042】
茶葉を準備する工程S0、この茶葉を萎凋させる萎凋工程S1、茶葉損傷工程後の茶葉を静置して発酵させる静置発酵工程S3、静置発酵工程後の茶葉を所定の雰囲気下で加温して発酵を促進させる調温調湿工程S4及びこの調温調湿工程後の茶葉を乾燥させる乾燥工程S5についてのその他の説明は、上述した第一の実施形態での説明と各々同様であり、その作用効果も同様である。
【0043】
[茶葉の発酵促進方法]
本実施形態に係る茶葉の発酵促進方法は、静置発酵後の茶葉を調温調湿された雰囲気下で加温することにより茶葉の発酵を促進する調温調湿工程を有しており、この調温調湿された雰囲気は、湿球温度50~70℃に制御された雰囲気である。調温調湿工程に係る内容及びその作用効果については、上述した第一の実施形態に係る調温調湿工程の説明と同様である。この調温調湿工程により茶葉の発酵が促進されるため、短時間で発酵度が向上した茶葉が得られる。
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0045】
[実施例1]
1.碾茶様の紅茶の製造(1)
(試験区)
摘採した紅茶品種「べにふうき」の生茶葉を、萎凋機((萎凋コンテナ(2段式);カワサキ機工株式会社製品)に投入し、常温の空気を送風しながら、途中萎凋ムラを軽減するための生葉循環を行って約16時間萎凋し、原料である生茶葉の重量を約20%減少させた。続いて萎凋した茶葉を、回転打圧装置(スーパーグリーン;カワサキ機工株式会社製品)を用いて茶葉流量100kg/hで800rpmの条件にて処理し、装置胴部内に供給された茶葉を掻き上げて攪拌しつつ胴部の内周面に叩き付けて打圧することにより、茶葉の細胞に損傷を与えた。回転打圧装置にて処理された茶葉を約25℃、湿度約90%の環境下で約1時間静置し、静置発酵させた。続いて、静置発酵後の茶葉を乾燥機(ネット型乾燥機3BOX式;カワサキ機工株式会社製品)に入れ、乾燥機の1BOX内の雰囲気が湿球温度65℃になるように、乾燥機内に供給する水蒸気の流量(100kg/h)、加熱空気の温度(150℃)及び加熱空気の送風量(17m/分常温時)を調整し、調温調湿された雰囲気下で茶葉を5分間加温して発酵を促した。加温による発酵後、乾燥機の2,3BOX内にて、90℃の熱風で乾燥させた。乾燥後の茶葉をつるきり機及び風力選別機にかけて、茎と葉に分別した。分別された葉部分を乾燥機(自動乾燥機;カワサキ機工株式会社製品)に入れ、90℃の熱風を乾燥室内に供給することで、貯蔵に耐える水分5%程度にまでさらに乾燥させた。これにより、図3に示す茶葉の形状が保持されている紅茶、すなわち、碾茶様の紅茶を得た。
【0046】
(比較対照区)
他方、比較対照として、静置発酵後の茶葉を棚式乾燥機に入れ、調温調湿された雰囲気下での加温発酵はせずに、90℃の熱風で乾燥させて比較対照区の紅茶を得た。乾燥後の茶葉はつるきり機及び風力選別機にかけて、茎と葉に分別し、葉部分を回収して紅茶とした。
【0047】
試験区及び比較対照区で製造された紅茶3gに対して、100℃の湯を200mL加えて5分間抽出し、その抽出液を試飲して香味の評価を行った。また、抽出液の水色と及び茶殻の色について確認し、評価を行った。
【0048】
この結果、香味について、試験区の紅茶では紅茶らしい華やかな香りと味わいが感じられ、紅茶としての発酵度は十分であった。他方、比較対照区の紅茶は、試験区の紅茶と比べると香りが弱く、味も青臭みがあり、紅茶としては発酵が不十分で品質の劣るものであった。また、抽出液の水色及び茶殻の色については、試験区の紅茶は紅褐色であったが、比較対照区の紅茶は紅みが弱かった。
【0049】
[実施例2]
2.短時間の揉捻処理による紅茶の製造(1)
摘採した紅茶品種「べにひかり」の生茶葉を、萎凋機(生葉コンテナ100K型;カワサキ機工株式会社製品)に少量(30cm高さ)投入し、常温の空気を送風しながら、途中萎凋ムラを軽減するため、手作業による攪拌を行って約16時間萎凋し、原料である生茶葉の重量を約40%減少させた。続いて萎凋した茶葉を、揉捻機(15K型揉捻機;株式会社寺田製作所製品)を用いて30分間揉捻処理し、茶葉の細胞に損傷を与えた。揉捻処理された茶葉を約25℃、湿度約90%の環境下で約30分間静置し、静置発酵させた。続いて、静置発酵後の茶葉を粗揉機(15K型粗揉機:株式会社寺田製作所製品)に入れ、粗揉機内に供給する加熱空気の温度を120℃とした上で、粗揉機内の雰囲気が湿球温度40℃、50℃、60℃又は65℃になるように、加熱空気の送風量を一定とし、水蒸気の流量を調整して、粗揉機内の雰囲気の湿球温度の制御を行った。具体的には、120℃の加熱空気の送風量を10m/分(常温時)とし、湿球温度40℃については粗揉機内に供給する水蒸気の量を空気中の水蒸気だけの量の0.11kg/分となるように調整し、湿球温度50℃については粗揉機内に供給する水蒸気の量を空気中の水蒸気の量と合算して0.43kg/分となるように調整し、湿球温度60℃については粗揉機内に供給する水蒸気の量を空気中の水蒸気の量と合算して0.85kg/分となるように調整し、湿球温度65℃については粗揉機内に供給する水蒸気の量を空気中の水蒸気の量と合算して1.14kg/分となるように調整した。各々の湿球温度の雰囲気下で茶葉を15分間加温して発酵を促した。加温による発酵後の茶葉を棚式乾燥機に入れ、80℃の熱風を乾燥室内に供給し、水分5%程度に乾燥させて各試験区の紅茶を得た。
【0050】
茶葉を所定の湿球温度の雰囲気下で加温する調温調湿工程において、加温開始から5分後、10分後及び15分後の茶葉を画像処理装置で撮影し、Lh色空間における色相角度(h)と明度(L)、彩度(C)を求めた。また、得られた紅茶の茶葉そのものと、その茶葉から得られた抽出液の水色についても、同様に画像処理装置で撮影し、Lh色空間における色相角度(h)と明度(L)を求めた。なお、抽出液は、紅茶3gに対して、100℃の湯を200mL加えて5分間抽出したものを用いた。
【0051】
さらに、官能評価として、得られた紅茶3gに対して、100℃の湯を200mL加えて5分間抽出し、その抽出液を試飲して香味の評価を行った。
【0052】
h色空間における色相角度(h)と明度(L)の結果を図4に示す。図4(a)には、調温調湿工程において所定の湿球温度で加温された紅茶の茶葉の色相角度(h)と明度(L)が示され、図4(b)には、その紅茶抽出液の色相角度(h)と明度(L)が示されている。色相角度(h)はその値が小さくなるほど赤色に近づき、明度(L)はその値が小さくなるほど暗くなることを表す。これによれば、図4(a)、図4(b)いずれからも、調温調湿工程において茶葉を加温した雰囲気の湿球温度を50℃以上とした際に、得られた茶葉及び抽出液の赤みが増え、色味も暗く(濃く)なったことを示している。このことは、調温調湿工程における雰囲気の湿球温度を50℃以上とすることにより、茶葉が紅褐色に変化したことを示しており、茶葉の発酵が促進されたことを裏付けている。
【0053】
また、図5(a)~(c)には、調温調湿工程において、所定の湿球温度で加温された茶葉の色相角度(h)と明度(L)、彩度(C)が時系列(加温開始から5分後、10分後及び15分後)のデータとして示されている。図5(a)の色相角度(h)のデータによれば、加温処理に係る時間の経過と共に茶葉が赤く変色し、調温調湿工程において茶葉を加温した雰囲気の湿球温度を60℃以上とすることにより、茶葉の赤みがさらに増えることが明らかとなった。また、図5(b)の明度(L)及び図5(c)の彩度(C)のデータによれば、調温調湿工程において茶葉を加温した雰囲気の湿球温度が40℃であると、茶葉の乾燥が進んで色味が濃く(暗く)なる傾向が示された。他方、同データにおいて、茶葉を加温した雰囲気の湿球温度を50℃以上とすることにより茶葉の乾燥が抑制され、湿球温度が高い試験区の茶葉ほど、調温調湿時間が5~10分間で大きな色調の変化が観察された。これらのことは、湿球温度を50℃以上、さらには60℃以上とすることにより、茶葉の酸化酵素の酵素活性が高い状態が続き、高度に茶葉の発酵が促進されたことを示している。
【0054】
また、官能評価の結果としては、湿球温度40℃で加温処理して得られた紅茶は香りが弱く、味も青臭みを有しており、紅茶らしい香味は感じられなかったのに対し、湿球温度50℃以上で加温処理して得られた紅茶は紅茶らしい華やかな香りと味わいが感じられ、紅茶としての発酵度は十分であった。特に、湿球温度60℃以上で加温処理して得られた紅茶は、重厚な味わいも備えており、深みのある美味な紅茶であった。
【0055】
[実施例3]
3.短時間の揉捻処理による紅茶の製造(2)
摘採した緑茶品種「やぶきた」の生茶葉を、萎凋機(生葉コンテナ100K型;カワサキ機工株式会社製品)に少量(30cm高さ)投入し、常温の空気を送風しながら、途中萎凋ムラを軽減するため手作業による攪拌を行って約16時間萎凋し、原料である生茶葉の重量を約40%減少させた。続いて萎凋した茶葉を、揉捻機(15K型揉捻機;株式会社寺田製作所製品)を用いて30分間揉捻処理し、茶葉の細胞に損傷を与えた。揉捻処理された茶葉を約25℃、湿度約90%の環境下で約30分間静置し、静置発酵させた。続いて、静置発酵後の茶葉を粗揉機(15K型粗揉機:株式会社寺田製作所製品)に入れ、粗揉機内に供給する加熱空気の温度を110℃とした上で、粗揉機内の雰囲気が湿球温度40℃、50℃、60℃又は65℃になるように、加熱空気の送風量を一定とし、水蒸気の流量を調整して、粗揉機内の雰囲気の湿球温度の制御を行った。各々の湿球温度の雰囲気下で茶葉を15分間加温して発酵を促した。加温による発酵後の茶葉を棚式乾燥機に入れ、80℃の熱風を乾燥室内に供給し、水分5%程度に乾燥させて紅茶を得た。
【0056】
(比較対照区)
他方、比較対照として、30分間揉捻処理された茶葉を約25℃、湿度約90%の環境下で約90分間静置して発酵させた。この静置発酵後の茶葉を棚式乾燥機に入れ、調温調湿された雰囲気下での加温発酵はせずに、熱風で乾燥させて比較対照区の紅茶を得た。
【0057】
試験区及び比較対照区で製造された紅茶3gに対して、100℃の湯を200mL加えて5分間抽出し、その抽出液を試飲して香味の評価を行った。また、抽出液の水色と及び茶殻の色について確認し、評価を行った。
【0058】
この結果、従来発酵しにくいとされていた緑茶品種の「やぶきた」を用いた場合においても、試験区のうちの湿球温度50℃以上で加温処理して得られた紅茶は紅茶らしい華やかな香りと味わいが感じられ、紅茶としての発酵度は十分であった。他方、試験区のうちの湿球温度40℃で加温処理して得られた紅茶は香りが弱く、味も青臭みが残っていた。また、比較対照区の紅茶(調温調湿工程なし)は、静置発酵時間を90分間と長時間に設定したが、得られた紅茶は発酵の程度が不十分であり、青臭みが残っていた。また、抽出液の水色及び茶殻の色については、湿球温度50℃以上で加温処理して得られた紅茶は紅褐色であったが、比較対照区の紅茶及び湿球温度40℃の紅茶は紅みが弱く、褐色の程度も薄かった。
【0059】
[実施例4]
4.碾茶様の紅茶の製造(2)
(試験区)
摘採した紅茶品種「べにふうき」の二番茶の生茶葉を、萎凋機((萎凋コンテナ(2段式);カワサキ機工株式会社製品)に投入し、常温の空気を送風しながら萎凋し、原料である生茶葉の重量を約30%減少させた。続いて萎凋した茶葉を、回転打圧装置(スーパーグリーン;カワサキ機工株式会社製品)を用いて茶葉流量200kg/hで1200rpm、0.5度の条件にて処理し、装置胴部内に供給された茶葉を掻き上げて攪拌しつつ胴部の内周面に叩き付けて打圧することにより、茶葉の細胞に損傷を与えた。回転打圧装置にて処理された茶葉を約25℃、湿度約90%の環境下で約1時間静置し、静置発酵させた。続いて、静置発酵後の茶葉を乾燥機(ネット型乾燥機3BOX式;カワサキ機工株式会社製品)に入れ、乾燥機の1BOX内の雰囲気が湿球温度39.5℃、62℃又は66℃になるように、加熱空気の温度を140℃とした上で送風量を一定とし、水蒸気の流量を調整して、1BOX内の雰囲気の湿球温度の制御を行った。各々の湿球温度の雰囲気下で茶葉を15分間加温して発酵を促した。加温による発酵後、乾燥機の2,3BOX内にて130℃、110℃の熱風で乾燥させ、茶葉の形状が保持されている碾茶様の紅茶を得た。
【0060】
得られた紅茶3gに対して、100℃の湯を200mL加えて5分間抽出し、その抽出液を試飲して香味の評価を行った。この結果、湿球温度39.5℃で加温処理して得られた紅茶は青臭みが残っていたが、湿球温度62℃及び66℃で加温処理して得られた紅茶は、紅茶らしい味わいが感じられ、十分に発酵されていた。
【0061】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、碾茶様の紅茶といった新たな付加価値を備えた紅茶を提供すると共に、従来製法等においても茶葉の発酵を促進して製造時間を短縮できる方法を提供するものであり、食品分野の産業において幅広く役立つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6