(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024135066
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240927BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240927BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20240927BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H9/64 Z
H03H9/72
H03H9/25 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045575
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】塚田 真由
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA14
5J097AA21
5J097DD10
5J097DD17
5J097DD30
5J097EE08
5J097EE09
5J097EE10
5J097FF04
5J097FF05
5J097GG03
5J097GG04
(57)【要約】
【課題】スプリアスを抑制することが可能な弾性波デバイスを提供すること。
【解決手段】弾性波デバイス100は、圧電体18と、圧電体18上に設けられ、複数の電極指22を備えた一対の櫛型電極21と、圧電体18上に一対の櫛型電極21に複数の電極指22の配列方向に並んで設けられた反射器25と、一対の櫛型電極21と反射器25の間の圧電体18上に、一対の櫛型電極21および反射器25との重なり幅が一対の櫛型電極21の複数の電極指22の平均ピッチPの1/8以下、かつ、一対の櫛型電極21および反射器25との間隔が平均ピッチPの1/8以下となって設けられた付加膜50とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体上に設けられ、複数の電極指を備えた一対の櫛型電極と、
前記圧電体上に前記一対の櫛型電極に前記複数の電極指の配列方向に並んで設けられた反射器と、
前記一対の櫛型電極と前記反射器の間の前記圧電体上に、前記一対の櫛型電極および前記反射器との重なり幅が前記一対の櫛型電極の前記複数の電極指の平均ピッチの1/8以下、かつ、前記一対の櫛型電極および前記反射器との間隔が前記平均ピッチの1/8以下となって設けられた付加膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記付加膜は、前記一対の櫛型電極の前記複数の電極指が交差する交差領域を前記一対の櫛型電極と前記反射器の間に延ばした領域のうちの半分以上の領域に設けられている、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記付加膜の厚さと前記付加膜の密度とを掛け合わせた値は、前記複数の電極指の厚さと前記複数の電極指のデューティ比と前記複数の電極指の密度とを掛け合わせた値の0.4倍以上1.6倍以下である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記付加膜は、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化シリコン、または酸化アルミニウムを主成分とする膜である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記一対の櫛型電極と前記反射器の間の領域を伝搬する横波の音速は、前記一対の櫛型電極が設けられた領域を伝搬する横波の音速の0.95倍以上1.05倍以下である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
第1の厚さの第1領域と前記第1の厚さより薄い第2の厚さの第2領域とを有する圧電体と、
前記第1領域における前記圧電体上に設けられ、複数の電極指を備えた一対の櫛型電極と、
前記第1領域における前記圧電体上に、前記一対の櫛型電極に前記複数の電極指の配列方向に並んで設けられ、前記一対の櫛型電極との間に前記圧電体の前記第2領域を有する反射器と、を備える弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電体の前記第1領域における厚さは、前記一対の櫛型電極の前記複数の電極指の平均ピッチの2倍以下である、請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
圧電体と、
前記圧電体上に設けられ、複数の電極指を備えた一対の櫛型電極と、
前記圧電体上に前記一対の櫛型電極に前記複数の電極指の配列方向に並んで設けられ、前記一対の櫛型電極との間の領域を伝搬する横波の音速が前記一対の櫛型電極が設けられた領域を伝搬する横波の音速の0.95倍以上1.05倍以下である反射器と、を備える弾性波デバイス。
【請求項9】
請求項1、6、または8に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムにおいて、通信に使用する周波数帯以外の不要な信号を除去するためにフィルタが用いられている。フィルタには、例えば櫛型電極と反射器を備えた弾性波デバイスが用いられている。弾性波デバイスの小型化のために、櫛型電極と反射器の間の領域に側面を有するように反射器を覆う第1誘電体膜を設け、第1誘電体膜の側面に接して櫛型電極を覆う第2誘電体膜を設ける構成が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
櫛型電極と反射器の間の領域からの弾性波の漏れに起因してスプリアスが発生することがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電体と、前記圧電体上に設けられ、複数の電極指を備えた一対の櫛型電極と、前記圧電体上に前記一対の櫛型電極に前記複数の電極指の配列方向に並んで設けられた反射器と、前記一対の櫛型電極と前記反射器の間の前記圧電体上に、前記一対の櫛型電極および前記反射器との重なり幅が前記一対の櫛型電極の前記複数の電極指の平均ピッチの1/8以下、かつ、前記一対の櫛型電極および前記反射器との間隔が前記平均ピッチの1/8以下となって設けられた付加膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記付加膜は、前記一対の櫛型電極の前記複数の電極指が交差する交差領域を前記一対の櫛型電極と前記反射器の間に延ばした領域のうちの半分以上の領域に設けられている構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記付加膜の厚さと前記付加膜の密度とを掛け合わせた値は、前記複数の電極指の厚さと前記複数の電極指のデューティ比と前記複数の電極指の密度とを掛け合わせた値の0.4倍以上1.6倍以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記付加膜は、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化シリコン、または酸化アルミニウムを主成分とする膜である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記一対の櫛型電極と前記反射器の間の領域を伝搬する横波の音速は、前記一対の櫛型電極が設けられた領域を伝搬する横波の音速の0.95倍以上1.05倍以下である構成とすることができる。
【0011】
本発明は、第1の厚さの第1領域と前記第1の厚さより薄い第2の厚さの第2領域とを有する圧電体と、前記第1領域における前記圧電体上に設けられ、複数の電極指を備えた一対の櫛型電極と、前記第1領域における前記圧電体上に、前記一対の櫛型電極に前記複数の電極指の配列方向に並んで設けられ、前記一対の櫛型電極との間に前記圧電体の前記第2領域を有する反射器と、を備える弾性波デバイスである。
【0012】
上記構成において、前記圧電体の前記第1領域における厚さは、前記一対の櫛型電極の前記複数の電極指の平均ピッチの2倍以下である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、圧電体と、前記圧電体上に設けられ、複数の電極指を備えた一対の櫛型電極と、前記圧電体上に前記一対の櫛型電極に前記複数の電極指の配列方向に並んで設けられ、前記一対の櫛型電極との間の領域を伝搬する横波の音速が前記一対の櫛型電極が設けられた領域を伝搬する横波の音速の0.95倍以上1.05倍以下である反射器と、を備える弾性波デバイスである。
【0014】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0015】
本発明は、上記に記載のフィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、比較例に係る弾性波デバイスの平面図、
図3(b)は、
図3(a)のA-A断面図である。
【
図4】
図4(a)は、比較例における横波の音速を示す図、
図4(b)は、実施例1における横波の音速を示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、付加膜の厚さと横波の音速の低下量との関係をシミュレーションした結果である。
【
図6】
図6(a)は、シミュレーションをしたモデルの平面図、
図6(b)は、断面図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)のシミュレーション結果である。
【
図8】
図8(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図8(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例1の変形例3に係る弾性波デバイスの平面図、
図9(b)は、実施例1の変形例4に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図10】
図10は、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図11】
図11は、実施例1における付加膜が金属膜である場合の断面図である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、横波の音速に対するアドミッタンスの実部Real(Y)のシミュレーション結果である。
【
図15】
図15は、実施例4に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0019】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)では、図の明瞭化のために、櫛型電極21、反射器25、および付加膜50にハッチングを付している(以下、同様な図においても同じ)。電極指22の配列方向をX方向、電極指22の長手方向をY方向、圧電体18の厚さ方向をZ方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向は、圧電体18の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、実施例1に係る弾性波デバイス100は、支持基板10上に絶縁膜12が設けられている。絶縁膜12上に温度補償膜14が設けられている。温度補償膜14上に接合層16を介して圧電体18が設けられている。圧電体18上にIDT(Interdigital Transducer)20および反射器25が設けられている。反射器25は、X方向(電極指22の配列方向)においてIDT20に並んで設けられている。IDT20および反射器25は、圧電体18上の金属膜26により形成される。
【0021】
IDT20は、一対の櫛型電極21を備える。櫛型電極21は、複数の電極指22と、複数のダミー電極指23と、複数の電極指22および複数のダミー電極指23が接続されたバスバー24と、を備える。一方の櫛型電極21の電極指22の先端と他方の櫛型電極21のダミー電極指23の先端とは対向している。なお、ダミー電極指23は備わらない場合でもよい。一対の櫛型電極21の電極指22が交差する領域が交差領域40である。交差領域40のY方向の長さが開口長である。一対の櫛型電極21は、交差領域40の少なくとも一部において電極指22がほぼ互い違いとなるように対向している。交差領域40において電極指22が励振する主モードの弾性波(弾性表面波)は、主にX方向に伝搬する。一方の櫛型電極21の電極指22のピッチがほぼ弾性表面波の波長λとなる。一方の櫛型電極21の電極指22のピッチは、一対の櫛型電極21の電極指22のピッチPのほぼ倍である。反射器25は、電極指22が励振した弾性表面波を反射する。これにより、弾性表面波は交差領域40内に閉じ込められる。
【0022】
IDT20と反射器25の間で圧電体18上に付加膜50が設けられている。付加膜50は、例えばIDT20と反射器25の間の領域全体を覆って設けられている。付加膜50のY方向に沿った2つの側面のうちの一方の側面51は、例えば一対の櫛型電極21の反射器25に最も近い側面27に接触し、他方の側面52は、例えば反射器25の一対の櫛型電極21に最も近い側面28に接触している。付加膜50のX方向に沿った2つの側面のうちの一方の側面53は、例えば一対の櫛型電極21のうちの一方の櫛型電極21のバスバー24の外側面29とほぼ同一面となり、他方の側面54は、例えば他方の櫛型電極21のバスバー24の外側面30とほぼ同一面となっている。
【0023】
支持基板10は、例えばサファイア基板、スピネル基板、シリコン基板、水晶基板、石英基板、またはアルミナ基板である。絶縁膜12は、圧電体18および温度補償膜14よりも伝搬する弾性波の音速が速い膜である。例えば、絶縁膜12を伝搬するバルク波の音速は、圧電体18および温度補償膜14を伝搬するバルク波の音速より速い。絶縁膜12は、例えば多結晶または非晶質の絶縁膜であり、例えば酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、または炭化シリコン膜である。絶縁膜12として材料の異なる複数の層が設けられていてもよい。
【0024】
温度補償膜14は、圧電体18の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば、圧電体18の弾性定数の温度係数は負であり、温度補償膜14の弾性定数の温度係数は正である。温度補償膜14は、例えば、酸素(O)およびシリコン(Si)以外の他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜、または、他の元素、例えばフッ素(F)、ボロン(B)、塩素(Cl)、窒素(N)、リン(P)、および硫黄(S)のうち少なくとも1種の元素が意図的に添加された酸化シリコン膜である。温度補償膜14を伝搬する弾性波の音速は圧電体18を伝搬する弾性波の音速より遅い。例えば、温度補償膜14を伝搬するバルク波の音速は圧電体18を伝搬するバルク波の音速より遅い。なお、弾性表面波の音速(位相速度)の大小は、バルク波の音速の大小と同じである。
【0025】
接合層16は、温度補償膜14と圧電体18を接合するための層である。例えば、接合層16は温度補償膜14よりも伝搬する弾性波の音速が速い層である。接合層16は、例えば多結晶または非晶質であり、例えば酸化アルミニウム層、シリコン層、窒化アルミニウム層、窒化シリコン層、または炭化シリコン層である。接合層16は、圧電体18および温度補償膜14に比べて十分に薄い。
【0026】
圧電体18は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)膜または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)膜であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム膜または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム膜である。
【0027】
金属膜26は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、レニウム(Re)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、またはタングステン(W)を主成分とする膜である。金属膜26と圧電体18の間にチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜等の密着膜が設けられていてもよい。電極指22およびダミー電極指23を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。この場合、付加膜50は絶縁膜上に設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜として機能してもよい。
【0028】
付加膜50は、例えば酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化シリコン(SiO2)、または酸化アルミニウム(Al2O3)を主成分とする膜である。ある膜がある元素を主成分とするには、ある膜に主成分以外の意図的な、または、意図しない不純物が含まれることを許容する。ある膜においてある元素が主成分である場合、ある元素の濃度は例えば50原子%以上であり、例えば80原子%以上である。酸化シリコン等のように、2つの元素を主成分とする場合では、シリコンの濃度と酸素の濃度の合計が例えば50原子%以上であり、例えば80原子%以上であり、シリコンの濃度および酸素の濃度は各々例えば10原子%以上である。
【0029】
電極指22が励振する弾性表面波は、圧電体18の表面から2.0λ以内を伝搬する。したがって、温度補償膜14が温度補償の機能を発揮するために、圧電体18の上面と温度補償膜14の下面との間隔Hは、電極指22の平均ピッチPの4.0倍(2.0λ)以下が好ましく、3.0倍(1.5λ)以下がより好ましい。圧電体18の厚さは、電極指22の平均ピッチPの2.0倍(λ)以下が好ましく、1.6倍(0.8λ)以下がより好ましい。圧電体18が薄すぎると弾性波が励振されなくなるため、圧電体18の厚さは、電極指22の平均ピッチPの0.2倍(0.1λ)以上が好ましい。電極指22の平均ピッチPは、IDT20のX方向の長さを電極指22の本数で除することで算出してもよい。
【0030】
[製造方法]
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、上面が平坦な支持基板10を準備する。支持基板10の上面の算術平均粗さRaは例えば1nm以下である。支持基板10上に例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法、または蒸着法などを用いて絶縁膜12を成膜する。絶縁膜12上に例えばCVD法、スパッタリング法、または蒸着法などを用いて温度補償膜14を成膜する。温度補償膜14上に接合層16を介して圧電体18を接合する。接合層16を介さずに温度補償膜14と圧電体18を直接接合してもよい。接合には例えば表面活性化法を用いる。ここでの圧電体18は、
図1(b)における圧電体18よりも厚い膜(基板)である。
【0031】
図2(b)に示すように、圧電体18の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により研磨して所望の厚さとする。その後、圧電体18上に、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、金属膜26からなるIDT20および反射器25を形成する。
【0032】
図2(c)に示すように、IDT20と反射器25の間に、例えばリフトオフ法を用いて付加膜50を形成する。これにより、実施例1に係る弾性波デバイスが得られる。
【0033】
[比較例]
図3(a)は、比較例に係る弾性波デバイスの平面図、
図3(b)は、
図3(a)のA-A断面図である。
図3(a)および
図3(b)に示すように、比較例に係る弾性波デバイス500では、IDT20と反射器25の間に付加膜が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0034】
図4(a)は、比較例における横波の音速を示す図、
図4(b)は、実施例1における横波の音速を示す図である。横波の音速は、電極指22が励振する弾性表面波の音速にほぼ等しい。
図4(a)に示すように、比較例では、IDT20と反射器25の間に付加膜が設けられていない。このため、IDT20と反射器25の間の領域60を伝搬する横波の音速は、櫛型電極21が設けられた領域62および反射器25が設けられた領域64を伝搬する横波の音速より速い。領域64と領域62は領域内に金属電極が存在することから、領域内に金属電極が存在せず領域内の音速が圧電体18の表面と同等となる領域60より音速が遅くなると考えられる。
【0035】
一方、
図4(b)に示すように、実施例1では、IDT20と反射器25の間に付加膜50が設けられている。横波の音速は圧電体18上に設けられた膜の重さによって変化させることができる。ここで、付加膜50に酸化タンタル膜または酸化ニオブ膜を用いた場合において、付加膜50の厚さと横波の音速の低下量との関係をシミュレーションした結果を
図5(a)および
図5(b)に示す。
図5(a)および
図5(b)において、横軸は付加膜50(酸化タンタル膜または酸化ニオブ膜)の膜厚である。縦軸は領域60を伝搬する横波の音速を付加膜50が設けられていない場合を基準(0%)とした音速比(%)である。
図5(a)および
図5(b)に示すように、付加膜50が厚くなると、領域60を伝搬する横波の音速が遅くなる。したがって、実施例1において、IDT20と反射器25の間に付加膜50を設けることで、領域60を伝搬する横波の音速は低下し、領域60を伝搬する横波の音速を、領域62、64を伝搬する横波の音速とほぼ同じにすることができる。言い換えると、領域60を伝搬する横波の音速が領域62、64を伝搬する横波の音速とほぼ同じになるように、IDT20と反射器25の間に付加膜50を設けている。
【0036】
領域60を伝搬する横波の音速と領域62、64を伝搬する横波の音速がほぼ同じになるのは、領域60における膜の重さと領域62、64における膜の重さとがほぼ等しい場合である。領域60には付加膜50が設けられるため、領域60における膜の重さは、付加膜50の厚さをH1、密度をρ1とすると、(H1×ρ1)で規定することができる。一方、領域62、64における膜の重さは、電極指22のデューティ比の影響の受けるため、電極指22の厚さをH2、デューティ比をD、密度をρ2とすると、(H2×D×ρ2)で規定することができる。したがって、(H1×ρ1)=(H2×D×ρ2)の場合に、領域60を伝搬する横波の音速と領域62、64を伝搬する横波の音速とが同じになる。実施例1では、(H1×ρ1)の値が(H2×D×ρ2)の値の0.4倍以上1.6倍以下となり、領域60を伝搬する横波の音速と領域62、64を伝搬する横波の音速とがほぼ同じになるように、適切な材料かつ厚さの付加膜50を設ける。
【0037】
例えば、電極指22が厚さ150nmのアルミニウム膜、デューティ比が50%であり、付加膜50が酸化タンタル膜または酸化ニオブ膜である場合を想定する。アルミニウムの密度は2700kg/cm3で、酸化タンタルの密度は8100kg/cm3であることから、(H1×ρ1)=8100×H1となり、(H2×D×ρ2)=150×0.5×2700=202500となる。したがって、付加膜50が酸化タンタル膜である場合、厚さH1を10.0nm~40.0nmとすることで、領域60を伝搬する横波の音速は領域62、64を伝搬する横波の音速とほぼ同じになる。酸化ニオブの密度は4470kg/cm3であることから、(H1×ρ1)=4470×H1となる。したがって、付加膜50が酸化ニオブ膜である場合、厚さH1を18.1nm~72.5nmとすることで、領域60を伝搬する横波の音速は領域62、64を伝搬する横波の音速とほぼ同じになる。
【0038】
[シミュレーション]
IDT20と反射器25の間の領域60を伝搬する横波の音速を異ならせたモデル1、2、3に対してスプリアスを評価するシミュレーションを行った。
図6(a)は、シミュレーションをしたモデル1、2、3の平面図、
図6(b)は、断面図である。
図6(a)および
図6(b)を参照しつつ、シミュレーション条件を以下に示す。
【0039】
共通条件
弾性波の波長λ:2.2μm
支持基板10:サファイア基板
絶縁膜12:厚さが6000nmの酸化アルミニウム膜
温度補償膜14:厚さが440nmの酸化シリコン膜
圧電体18:厚さが660nmのタンタル酸リチウム膜
IDT20、反射器25:厚さが10nmのチタン膜と厚さが135nmのアルミニウム膜の積層膜
IDT20の対数:150対
反射器25の対数:20対
電極指22のデューティ比:50%
ダミー電極指23のY方向の長さ:1.5λ
開口長L:15λ
IDT20と反射器25の間の距離W:λ/4
【0040】
モデル1の条件
領域62と領域64での横波の音速:3750m/s
領域60での横波の音速:4200m/s
モデル2の条件
領域62と領域64での横波の音速:3750m/s
領域60での横波の音速:3570m/s
モデル3の条件
領域62と領域64での横波の音速:3750m/s
領域60での横波の音速:2940m/s
【0041】
図7(a)から
図7(c)は、モデル1、2、3の周波数に対するアドミッタンスの実部Real(Y)のシミュレーション結果である。
図7(a)から
図7(c)において、横軸は周波数[GHz]であり、縦軸はアドミッタンスの実部Real(Y)[S]である。
図7(a)から
図7(c)に示すように、モデル1、3ではスプリアス65が大きく観察された。一方、モデル2はモデル1、3に比べてスプリアス65が小さく抑えられた。モデル1、3では、上記シミュレーション条件のように、領域62、64での横波の音速と領域60での横波の音速との差が大きい。このため、領域62、64と領域60での音速の不連続に起因して縦モードスプリアスが発生したため、スプリアス65が大きくなったと考えられる。一方、モデル2では、上記シミュレーション条件のように、領域62、64での横波の音速と領域60での横波の音速との差が小さい。このため、縦モードスプリアスが抑制されたため、スプリアス65が小さくなったと考えられる。なお、モデル2、3はモデル1に対してQ値が向上している。
【0042】
このシミュレーション結果から、領域60を伝搬する横波の音速と領域62、64を伝搬する横波の音速との差を小さくすることで、スプリアスを抑制できることが分かる。したがって、
図4(a)のように、比較例では、領域60を伝搬する横波の音速と領域62、64を伝搬する横波の音速との差が大きいことから、大きなスプリアスが発生する。一方、
図4(b)のように、実施例1では、IDT20と反射器25の間に付加膜50を設けることで、領域60を伝搬する横波の音速と領域62、64を伝搬する横波の音速との差を小さくしているため、スプリアスが抑制される。
【0043】
モデル2では、領域60での横波の音速は領域62、64での横波の音速の0.952倍である。したがって、実施例1では、スプリアス65を抑制するために、領域60を伝搬する横波の音速は領域62、64を伝搬する横波の音速の0.95倍以上1.05倍以下としている。モデル1の領域60での横波の音速4200m/sは付加膜50が設けられていない場合を想定していることを踏まえると、(H1×ρ1)の値を(H2×D×ρ2)の値の0.4倍以上1.6倍以下とすることで、スプリアス65を抑制できる。
【0044】
[実施例1の変形例]
図8(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図8(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの平面図である。
図9(a)は、実施例1の変形例3に係る弾性波デバイスの平面図、
図9(b)は、実施例1の変形例4に係る弾性波デバイスの平面図である。
図8(a)から
図9(b)では、弾性波デバイスの一部を図示している。
【0045】
図8(a)に示すように、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイス110では、付加膜50は櫛型電極21に重なって設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。櫛型電極21は最適な特性が得られるように設計されているため、櫛型電極21に付加膜50が重なると横波の音速が変化してスプリアスが発生する恐れがある。したがって、スプリアスを抑制する観点からは、実施例1のように、付加膜50は櫛型電極21に重ならないことが好ましいが、実施例1の変形例1のように、付加膜50が櫛型電極21に重なる場合では重なり幅W1はλ/16以下となるようにする。
【0046】
図8(b)に示すように、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイス120では、付加膜50は反射器25に重なって設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。反射器25についても最適な特性が得られるように設計されているため、反射器25に付加膜50が重なると横波の音速が変化してスプリアスが発生する恐れがある。したがって、スプリアスを抑制する観点からは、実施例1のように、付加膜50は反射器25に重ならないことが好ましいが、実施例1の変形例2のように、付加膜50が反射器25に重なる場合では重なり幅W2はλ/16以下となるようにする。
【0047】
図9(a)に示すように、実施例1の変形例3に係る弾性波デバイス130では、付加膜50は櫛型電極21から離れて設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。櫛型電極21と反射器25の間の領域において付加膜50が設けられていない領域があると、この領域での横波の音速が速くなりスプリアスが発生する恐れがある。したがって、実施例1のように、付加膜50は櫛型電極21から離れていないことが好ましいが、実施例1の変形例3のように、付加膜50が櫛型電極21から離れている場合では間隔W3はλ/16以下となるようにする。
【0048】
図9(b)に示すように、実施例1の変形例4に係る弾性波デバイス140では、付加膜50は反射器25から離れて設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。上述のように、櫛型電極21と反射器25の間の領域において付加膜50が設けられていない領域では横波の音速が速くなりスプリアスが発生する恐れがある。したがって、実施例1のように、付加膜50は反射器25から離れていないことが好ましいが、実施例1の変形例4のように、付加膜50が反射器25から離れている場合では間隔W4はλ/16以下となるようにする。
【0049】
図10は、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイスの平面図である。
図10では、弾性波デバイスの一部を図示している。
図10に示すように、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイス150では、付加膜50は、交差領域40を櫛型電極21と反射器25の間に延ばした領域66の一部に設けられている。付加膜50は、例えば領域66の半分以上に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。スプリアスを抑制する観点から、付加膜50は領域66の全体に設けられる場合が好ましいが、領域66の半分以上に設けられていればよい。
【0050】
以上説明したように、実施例1およびその変形例によれば、櫛型電極21と反射器25の間の圧電体18上に付加膜50が設けられている。付加膜50は、櫛型電極21および反射器25とのX方向における重なり幅W1、W2が電極指22の平均ピッチPの1/8以下(λ/16以下)であり、かつ、櫛型電極21および反射器25とのX方向における間隔W3、W4が電極指22の平均ピッチPの1/8以下(λ/16以下)となっている。このような付加膜50が設けられることで、櫛型電極21および反射器25への付加膜50による影響を抑えつつ、
図4(b)のように、櫛型電極21と反射器25の間の領域60を伝搬する横波の音速を、櫛型電極21が設けられた領域62および反射器25が設けられた領域64を伝搬する横波の音速に近づけることができる。よって、縦モードスプリアスを抑制することができる。スプリアスを抑制する観点から、重なり幅W1、W2および間隔W3、W4は平均ピッチPの1/16以下(λ/32)以下が好ましく、ゼロである場合がより好ましい。ゼロには、製造誤差程度が許容される。
【0051】
また、実施例1およびその変形例では、付加膜50は、交差領域40を櫛型電極21と反射器25との間に延ばした領域66のうちの半分以上の領域に設けられている。これにより、領域66の半分以上の領域を伝搬する横波の音速を、領域62、64を伝搬する横波の音速に近づけることができるため、縦モードスプリアスを抑制することができる。スプリアスを抑制する観点から、付加膜50は領域66の2/3以上の領域に設けられる場合が好ましく、3/4以上の領域に設けられる場合が好ましく、全領域に設けられる場合が更に好ましい。
【0052】
また、実施例1およびその変形例では、付加膜50の厚さH1と付加膜50の密度ρ1を掛け合わせた値(H1×ρ1)は、電極指22の厚さH2と電極指22のデューティ比Dと電極指22の密度ρ2を掛け合わせた値(H2×D×ρ2)の0.4倍以上1.6倍以下である。これにより、縦モードスプリアスを抑制することができる。スプリアスを抑制する観点から、(H1×ρ1)の値は(H2×D×ρ2)の値の0.5倍以上1.5倍以下が好ましく、0.6倍以上1.4倍以下がより好ましく、0.7倍以上1.3倍以下が更に好ましい。
【0053】
また、実施例1およびその変形例では、櫛型電極21と反射器25の間の領域60を伝搬する横波の音速は、櫛型電極21が設けられた領域62を伝搬する横波の音速および反射器25が設けられた領域64を伝搬する横波の音速の0.95倍以上1.05倍以下である。これにより、縦モードスプリアスを抑制することができる。スプリアスを抑制する観点から、領域60を伝搬する横波の音速は領域62、64を伝搬する横波の音速の0.97倍以上1.03倍以下が好ましく、0.98倍以上1.02倍以下がより好ましい。
【0054】
また、実施例1およびその変形例では、付加膜50は、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化シリコン、または酸化アルミニウムを主成分とする膜である。このような付加膜50を用いることで、櫛型電極21と反射器25の間の領域60を伝搬する横波の音速を、櫛型電極21が設けられた領域62および反射器25が設けられた領域64を伝搬する横波の音速に容易に近づけることができる。なお、付加膜50は金属膜からなる場合でもよい。
図11は、実施例1における付加膜が金属膜である場合の断面図である。
図11に示すように、例えばチタン膜等の金属膜からなる付加膜50aが設けられる場合、付加膜50aと櫛型電極21および反射器25との間に絶縁膜35が設けられる。
【0055】
なお、実施例1およびその変形例では、圧電体18として、支持基板10上に設けられた圧電層の場合を例に示したが、この場合に限られるわけではない。圧電体は、支持基板10が用いられずに、圧電基板である場合でもよい。
したがって、実施例2において、櫛型電極21と反射器25の間の圧電体18が薄くなっていることで、櫛型電極21と反射器25の間の領域を伝搬する横波の音速が遅くなる。よって、櫛型電極21と反射器25の間の領域を伝搬する横波の音速を櫛型電極21が設けられた領域を伝搬する横波の音速および反射器が設けられた領域を伝搬する横波の音速に近づけることができる。
実施例2によれば、櫛型電極21と反射器25は圧電体18の厚膜領域19(第1領域)に設けられ、櫛型電極21と反射器25の間の圧電体18は厚膜領域19より薄い薄膜領域17(第2領域)となっている。これにより、櫛型電極21と反射器25の間の領域を伝搬する横波の音速を、櫛型電極21が設けられた領域および反射器25が設けられた領域を伝搬する横波の音速に近づけることができる。よって、縦モードスプリアスを抑制することができる。
また、実施例2において、圧電体18の厚膜領域19の厚さは、電極指22の平均ピッチPの2倍以下(λ以下)であることが好ましい。これにより、圧電体18に薄膜領域17を形成することで横波の音速が低下しやすくなる。